説明

医用画像処理装置及びプログラム

【課題】胸部の医用画像において精度良く肺野欠損の有無を判定できるようにする。
【解決手段】撮影用コンソール5の制御部51は、FPD9から送信された胸部正面の医用画像において、照射野内で当該照射野の境界に接する部分領域の所定の特徴量(第1の特徴量)と、肺野外の高濃度領域の有無を表す所定の特徴量(第2の特徴量)とを算出し、所定のアルゴリズムによる第1の特徴量と第2の特徴量に関する学習結果に基づいて、送信された医用画像における肺野領域の欠損の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、診断対象の部位を被写体として放射線撮影を行い、撮影により得られたデジタル医用画像(静止画像)に基づいて診断を行う画像診断が行われている。
【0003】
放射線撮影においては、撮影前に診断対象の部位が画像範囲に収まるかを直接確認することは困難であり、撮影対象の姿勢や体格によっては、診断対象の部位が画像から欠損することがある。
【0004】
そこで、診断対象の部位が医用画像に収まっているかを画像解析により判定する各種技術が提案されている。例えば、特許文献1には、胸部正面を撮影した医用画像から肺野の形状を抽出し、抽出された肺野領域の面積の画像全体の面積に占める割合に基づいて、当該医用画像が診断対象を診断するのに適正な画像であるか否かを判定し、その判定結果を出力する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4717585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、胸部正面の医用画像においては、胃泡や腸管ガスなどが存在することがある。これらは医用画像において肺野領域と同等の高濃度領域として現れることがあり、画像解析によりポジショニングの良否(肺野欠損の有無)を判定する際に誤判定を引き起こす可能性があった。
【0007】
本発明の課題は、胸部の医用画像において精度良く肺野欠損の有無を判定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の医用画像処理装置は、
人体の胸部を被写体として放射線撮影することにより得られた放射線画像において、照射野内で当該照射野の境界に接する部分領域の所定の特徴量を算出する第1の特徴量算出手段と、
前記放射線画像から肺野外の高濃度領域の有無を表す所定の特徴量を算出する第2の特徴量算出手段と、
所定の学習アルゴリズムによる肺野領域の欠損が存在するか否かが既知の複数の放射線画像における前記第1の特徴量算出手段及び前記第2の特徴量算出手段により算出される特徴量に関する学習結果に基づいて、前記放射線画像における肺野領域の欠損の有無を判定する判定手段と、
を備える。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記学習アルゴリズムは、アダブースト、又は、サポートベクタマシンである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、
前記肺野外の高濃度領域は、胃泡や腸管ガスの存在する領域である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、
前記第2の特徴量算出手段は、前記放射線画像における肺野下部から画像下端までの垂直プロファイルを作成し、作成されたプロファイルの変化量を前記肺野外の高濃度領域の有無を表す所定の特徴量として算出する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、
前記第2の特徴量算出手段は、予め記憶手段に記憶されている肺野外に高濃度領域のないテンプレート画像と前記放射線画像における肺野下部の画像との近似度に基づいて、前記放射線画像における肺野外の高濃度領域の有無を表す所定の特徴量を算出する。
【0013】
請求項6に記載の発明は、
コンピュータを、
人体の胸部を被写体として放射線撮影することにより得られた放射線画像において、照射野内で当該照射野の境界に接する部分領域の所定の特徴量を算出する第1の特徴量算出手段、
前記放射線画像から肺野外の高濃度領域の有無を表す所定の特徴量を算出する第2の特徴量算出手段、
所定の学習アルゴリズムによる肺野領域の欠損が存在するか否かが既知の複数の放射線画像における前記第1の特徴量算出手段及び前記第2の特徴量算出手段により算出される特徴量に関する学習結果に基づいて、前記放射線画像における肺野領域の欠損の有無を判定する判定手段、
として機能させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、胸部の医用画像において精度良く肺野欠損の有無を判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る医用画像撮影システムの全体構成を示す図である。
【図2】撮影用コンソールの機能的構成を示すブロック図である。
【図3】撮影用コンソールの制御部により実行される撮影制御処理を示すフローチャートである。
【図4】図3のステップS8において撮影用コンソールの制御部により実行されるポジショニング判定処理を示すフローチャートである。
【図5A】照射野の境界線に接する部分領域を説明するための図である。
【図5B】特徴量が算出される小領域を説明するための図である。
【図6A】腸管ガスや胃泡などの高濃度領域が横隔膜下に存在する医用画像と、その信号値の垂直プロファイルと、この垂直プロファイルの横隔膜下部分に微分フィルタ処理をかけた結果と、を示す図である。
【図6B】腸管ガスや胃泡などの高濃度領域が横隔膜下に存在しない医用画像と、その信号値の垂直プロファイルと、この垂直プロファイルの横隔膜下部分に微分フィルタ処理をかけた結果を示す図である。
【図7】横隔膜下の認識処理を模式的に示す図である。
【図8】素抜け部分の認識のために作成するヒストグラムの一例を示す図である。
【図9A】横隔膜下の肺野外領域に胃泡や腸管ガスなどによる高濃度領域が存在しない比較対象画像とテンプレート画像との比較を示す図である。
【図9B】横隔膜下の肺野外領域に胃泡や腸管ガスなどによる高濃度領域が存在する比較対象画像とテンプレート画像との比較を示す図である。
【図10】ポジショニング判定に用いる各特徴量を軸とした空間に、予め肺野の欠損があるか否かが既知の複数の画像(サンプル画像)から算出された特徴量をプロットしたグラフである。
【図11】下端判定器の作成過程を模式的に示す図である。
【図12】ポジショニング警告画面の一例を示す図である。
【図13】撮影用コンソールの制御部により実行されるトリミング処理を示すフローチャートである。
【図14】トリミング画面の一例を示す図である。
【図15】設定されたトリミングサイズでは肺野領域が欠損することをユーザに通知するための警告が表示されたトリミング画面の一例を示す図である。
【図16】図15に示すトリミング領域から自動調整を行った後のトリミング画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る医用画像撮影システムの実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、本発明は以下の図示例のものに限定されるものではない。
【0017】
(医用画像撮影システムの構成)
まず、本実施の形態における医用画像撮影システム100の構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る医用画像撮影システム100の全体構成例を示す図である。医用画像撮影システム100は、人体の診断対象部位を被写体として放射線を照射し、被写体の静止画像を撮影するシステムである。図1では、医用画像撮影システム100が撮影室Rm内に構築されている場合が示されている。
【0018】
撮影室Rmには、例えば、立位撮影用のブッキー装置1と、臥位撮影用のブッキー装置2と、放射線源3と、撮影用コンソール5と、操作卓6と、アクセスポイントAPと、が備えられている。撮影室Rmには前室Raと撮影実施室Rbが設けられ、前室Raに撮影用コンソール5及び操作卓6が備えられることで、撮影技師等の操作者の被曝を防止するようになっている。
【0019】
以下、撮影室Rm内の各装置について説明する。
ブッキー装置1は、立位での撮影時にFPD(Flat Panel Detector)9を保持して撮影を行うための装置である。ブッキー装置1は、FPD9を保持するための保持部12aと、保持部12aに装着されたFPD9のコネクターを接続するためのコネクター12bとを有する。コネクター12bは、保持部12aに装着されたFPD9との間でデータ送受信を行ったり、FPD9に電力を供給したりする。また、ブッキー装置1は、アクセスポイントAPを介して撮影用コンソール5等の外部機器と通信ケーブルを介してデータ送受信を行うためのインターフェースや、保持部12aを垂直方向又は水平方向に移動させるためのフットスイッチ等を備える。
【0020】
ブッキー装置2は、臥位での撮影時にFPD9を保持して撮影を行うための装置である。ブッキー装置2は、FPD9を保持するための保持部22aと、保持部22aに装着されたFPD9のコネクターを接続するためのコネクター22bとを有する。コネクター22bは、保持部22aに装着されたFPD9との間でデータ送受信を行ったり、FPD9に電力を供給したりする。また、ブッキー装置2は、アクセスポイントAPを介して撮影用コンソール5等の外部機器と通信ケーブルを介してデータ送受信を行うためのインターフェースや、被写体を載置するための被写体台26を備える。
【0021】
放射線源3は、例えば、撮影室Rmの天井から吊り下げられており、撮影時には撮影用コンソール5からの指示に基づいて起動され、図示しない駆動機構によりにより所定の位置、向きに調整されるようになっている。そして、放射線の照射方向を変えることで、立位用のブッキー装置1又は臥位用のブッキー装置2に装着されたFPD9に対して放射線(X線)を照射することができるようになっている。また、放射線源3は、操作卓6からの放射線照射指示に従って放射線を1回照射し、静止画像の撮影を行う。
【0022】
撮影用コンソール5は、放射線源3やFPD9を制御することにより撮影を制御するとともに、撮影により生成された医用画像に画像処理を施してプレビュー表示するための装置である。撮影用コンソール5は、LAN(Local Area Network)を介してHIS/RIS(Hospital Information System/ Radiology Information System)7、診断用コンソール8、サーバー装置10等に接続されており、HIS/RIS7から送信された撮影オーダー情報に基づいて、放射線源3及びFPD9を起動させる等の制御をして撮影を行わせる。
【0023】
図2に、撮影用コンソール5の要部構成例を示す。図2に示すように、撮影用コンソール5は、制御部51、記憶部52、入力部53、表示部54、通信I/F55、ネットワーク通信部56等を備えて構成されており、各部はバス57により接続されている。
【0024】
制御部51は、CPU、RAM等により構成される。制御部51のCPUは、記憶部52に記憶されているシステムプログラムや処理プログラム等の各種プログラムを読み出してRAMに展開し、展開されたプログラムに従って各種処理を実行する。
例えば、制御部51は、所定時間毎にネットワーク通信部56を介してHIS/RIS7に問い合わせを行い、新たにHIS/RIS7で登録された撮影オーダー情報を取得する。
また、例えば、制御部51は、後述する撮影制御処理を実行し、HIS/RIS7から取得した撮影オーダー情報に基づいて、撮影用コンソール5は放射線源3及びFPD9を制御して撮影を行わせる。
【0025】
記憶部52は、例えばHDD(Hard Disk Drive)や半導体の不揮発性メモリー等で構成されている。
記憶部52には、各種のプログラム及びデータが記憶されている。
例えば、記憶部52には、上述の撮影制御処理を実行するための各種のプログラムが記憶されているほか、医用画像の画像データを部位毎の診断に適した画質に調整するための画像処理パラメーター(階調処理に用いる階調曲線を定義したルックアップテーブル、周波数処理の強調度等)等が記憶されている。
【0026】
また、記憶部52には、撮影部位に対応付けて撮影条件(放射線照射条件及び画像読取条件)が記憶されている。放射線照射条件は、例えば、X線管電流の値、X線管電圧の値、フィルタ種、SID(Source to Image−receptor Distance)等である。
また、記憶部52には、FPD9の特性情報が記憶されている。ここで、特性情報とは、FPD9の検出素子やシンチレータパネルの特性等である。
また、記憶部52には、所定時間毎にHIS/RIS7から送信される撮影オーダー情報が記憶される。
【0027】
入力部53は、文字入力キー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードで押下操作されたキーの押下信号とマウスによる操作信号とを、入力信号として制御部51に出力する。
【0028】
表示部54は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)等のモニターを備えて構成されており、制御部51から入力される表示信号の指示に従って、各種画面を表示する。
なお、表示部54の画面上に、透明電極を格子状に配置した感圧式(抵抗膜圧式)のタッチパネル(図示せず)を形成し、表示部54と入力部53とが一体に構成されるタッチスクリーンとしてもよい。この場合、タッチパネルは、手指やタッチペン等で押下された力点のXY座標を電圧値で検出し、検出された位置信号が操作信号として制御部51に出力されるように構成される。なお、表示部54は、一般的なPC(Personal Computer)
に用いられるモニターよりも高精細のものであってもよい。
【0029】
通信I/F55は、ブッキー装置1、ブッキー装置2、放射線源3、FPD9とアクセスポイントAPを介して接続し、無線、または有線によりデータ送受信を行うためのインターフェースである。本実施の形態において、通信I/F55はアクセスポイントAPを介して必要に応じてFPD9に対してポーリング信号を送信する。
【0030】
ネットワーク通信部56は、ネットワークインターフェース等により構成され、スイッチングハブを介して通信ネットワークNに接続された外部機器との間でデータの送受信を行う。
【0031】
操作卓6は、撮影室内の放射線源に接続され、放射線照射指示を入力するための入力装置である。
【0032】
HIS/RIS7は、問診結果等に基づくオペレータによる登録操作に応じて撮影オーダー情報を生成する。撮影オーダー情報は、例えば被写体となる患者の氏名、性別、年齢、身長、体重等の患者情報や、撮影部位、撮影方向、体位(立位、臥位)、撮影方法等の撮影予約に関する情報等を含んでいる。なお、撮影オーダー情報はここに例示したものに限定されず、これ以外の情報を含んでいてもよいし、上記に例示した情報のうちの一部でもよい。
【0033】
診断用コンソール8は、サーバー装置10から医用画像を取得し、取得した画像を表示して医師が読影診断するためのコンピュータ装置である。
【0034】
FPD9は、制御部、検出部、記憶部、コネクター、バッテリー、無線通信部等を備えて構成される放射線検出器である。
FPD9の検出部は、例えば、ガラス基板等を有しており、基板上の所定位置に、放射線源3から照射されて少なくとも被写体を透過した放射線をその強度に応じて検出し、検出した放射線を電気信号に変換して蓄積する複数の検出素子が二次元状に配列されている。検出素子は、フォトダイオード等の半導体イメージセンサーにより構成される。各検出素子は、例えばTFT(Thin Film Transistor)等のスイッチング部に接続され、スイッチング部により電気信号の蓄積及び読み出しが制御される。
【0035】
FPD9の制御部は、撮影用コンソールから入力された画像読取条件に基づいて検出部のスイッチング部を制御して、各放射線検出素子(以下、検出素子)に蓄積された電気信号の読み取りをスイッチングしていき、検出部に蓄積された電気信号を読み取ることにより、画像データ(静止画像)を生成する。そして、制御部は、生成した画像データをコネクター及びブッキー装置1又は2を介して撮影用コンソール5に出力する。なお、生成された静止画像を構成する各画素は、検出部の各検出素子のそれぞれから出力された信号値(ここでは、濃度値と呼称する)を示す。
FPD9のコネクターは、ブッキー装置1、2側のコネクターと接続し、ブッキー装置1又は2とのデータ送受信を行う。また、FPD9のコネクターは、ブッキー装置1又は2のコネクターから供給される電力を各機能部へ供給する。なお、バッテリーを充電する構成としても良い。
また、FPD9は、ブッキーに装填されない単体使用時には、バッテリー駆動及び無線通信する構成であり、ブッキー装置1又は2に装填時には、コネクター接続により、バッテリー/無線方式から、有線/電力供給方式に切り替えることができる。従い、複数の患者を連続的に静止画撮影する場合に於いても、バッテリー切れを気にする必要がなくなる。
【0036】
サーバー装置10は、撮影用コンソール5から送信された医用画像の画像データや読影レポートを撮影オーダー情報に対応付けて記憶するデータベースを備える。また、サーバー装置10は、診断用コンソール8からの要求に応じてデータベースから医用画像を読み出して診断用コンソール8に送信する。
【0037】
(撮影動作)
次に、医用画像撮影システム100における撮影動作について説明する。
図3に、撮影用コンソール5において実行される撮影制御処理の流れを示す。図3の撮影制御処理は、人体の胸部を被写体とする胸部正面の医用画像を撮影する際に実行される処理であり、撮影用コンソール5の制御部51と記憶部52に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0038】
まず、撮影技師等の操作者は、ブッキー装置1又はブッキー装置2にFPD9をセットする。次いで、撮影用コンソール5の入力部53を操作して撮影オーダー情報の一覧を表示する撮影オーダーリスト画面を表示部54に表示させる。そして、入力部53を操作することにより撮影オーダーリスト画面から撮影対象の撮影オーダー情報(ここでは、撮影部位が胸部、体位が正面である撮影オーダー情報)と撮影に使用するブッキーIDを指定する。
【0039】
撮影用コンソール5においては、入力部53により撮影対象の撮影オーダー情報及びブッキーIDが指定されると(ステップS1)、放射線源3及びFPD9が起動され、使用されるブッキー装置に応じて放射線源3の向き及び位置が調整される。撮影技師により被写体に応じてFPD9やブッキー装置の位置等が調整されると、それに応じて放射線源3の向き及び位置が調整される(ステップS2)。また、記憶部52から撮影する部位に応じた放射線照射条件及び画像読取条件が読み出され、放射線源3に放射線照射条件が設定されるとともに、ブッキー装置を介してFPD9に画像読取条件が設定される(ステップS3)。撮影準備が整った時点で、技師は操作卓6を操作して放射線照射指示を入力する。
【0040】
操作卓6からの放射線照射指示が入力されると(ステップS4;YES)、撮影に使用される放射線源3及びFPD9が制御され、被写体の撮影が行われる(ステップS5)。具体的には、ステップS3で設定された条件で被写体の静止画像である医用画像及びオフセット補正用の1または数枚のダーク画像が撮影される。撮影により生成された医用画像及びダーク画像の画像データは、FPD9からブッキー装置を介して撮影用コンソール5に入力され、記憶部52に記憶される。
【0041】
次いで、撮影により得られた医用画像に対して補正処理や画像処理が行われ(ステップS6)、処理はステップS7に移行する。ステップS6においては、記憶部52に記憶されたFPD9の特性情報に基づいて、上述のダーク画像を用いたオフセット補正処理、ゲイン補正処理、欠陥画素補正処理、ラグ(残像)補正処理等の補正処理が必要に応じて行われる。また、画像処理としては、撮影部位に応じた階調処理、周波数強調処理や粒状抑制処理等が行われる。画像処理済みの医用画像は記憶部52に記憶される。
なお、FPD9が複数存在する場合には、各FPD9の識別IDに対応付けて特性情報を記憶部52に記憶しておき、使用されているブッキー装置を介してFPD9から識別IDを取得し、取得した識別IDに対応する特性情報に基づいて補正処理や画像処理を行うようにすればよい。
【0042】
次いで、補正処理及び画像処理済みの医用画像が表示された画像確認画面が表示部54に表示されるとともに(ステップS7)、ポジショニング判定処理が実行される(ステップS8)。画像確認画面は、補正処理及び画像処理済みの医用画像が表示された画面であり、特に図示しないが、ここでは、図12に示すポジショニング警告画面541における肺野の欠損のある部分を示す枠541a、警告があることを示すマーク541bが表示されていない画面である。その他の画面レイアウトや表示されるボタンは、ポジショニング警告画面541と同様である。
【0043】
以下、図3のステップS8において実行されるポジショニング判定処理の一例について詳細に説明する。
【0044】
図4に、撮影用コンソール5において実行されるポジショニング判定処理の流れを示す。図4に示すポジショニング判定処理は、撮影用コンソール5の制御部51と記憶部52に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0045】
先ず、撮影により得られた医用画像内の照射野の範囲を認識する処理が行われる(ステップS201)。この処理では、撮影時にマスキングにより放射線源3からFPD9の撮像面まで放射線が到達しなかった部分を検出して、処理対象の医用画像からこの検出された部分を除外した残りの部分を照射野として設定する。この照射野の設定処理は、例えば、画像の輪郭から内側に連続して画素の信号値がほぼ最小(即ち、放射線量が最小)の領域を検出して除外するなどの方法で行うことができる。
【0046】
次いで、特定された照射野が複数の小領域に分割され、これらの分割された複数の小領域のうち、照射野の境界(照射野と照射野外との境界)から所定の範囲にある部分領域に含まれる各小領域の信号値から予め指定された特徴量を算出する処理が行われる(ステップS202:第1の特徴量算出手段)。ステップS202の処理では、具体的には、図5Aに示すように、例えば、照射野が10×10のマトリックス状に配置された小領域に分割される。そして、照射野の上下の境界線からそれぞれ2行、および、左右の境界線からそれぞれ2列の4つの部分領域(図5Aの上端領域R1、下端領域R2、左端領域R3、右端領域R4)において、各部分領域内に含まれる各小領域の信号値から特徴量を算出する。具体的には、図5Aの下端領域R2には、図5Bに示す1〜20の小領域が含まれるので、20の特徴量を算出する。算出結果は、各小領域の位置と特徴量を示すデータ配列として保持される。上端領域R1、左端領域R3、右端領域R4についても同様である。この第1の特徴量算出手段により算出される特徴量をここではデータ配列特徴量と呼ぶ。
【0047】
ここで、境界線に接する部分領域を一行または一列のみではなく複数の行または列に分割してデータを取得することにより、複雑な画像パターンの場合にも正確に画像判定を行うことができる。
【0048】
ステップS202の処理で抽出される特徴量は、例えば、各小領域内の各画素が有する信号値のうちの最大値(即ち、測定された放射線強度が最大のもの)である。また、他の特徴量としては、各小領域内での信号値の一次微分量の最大値、また、特に、一次微分量のうち照射野の境界線に平行な成分の各小領域内における最大値、および、この一次微分量の最大値をとる座標値を利用することができる。或いは、更に、特徴量として、輝度値のパワースペクトルを用いることができる。特に、照射野の境界線に平行な方向のパワースペクトル密度や、極大値を取る周波数(波長)の値が利用可能である。
【0049】
次いで、肺野外の高濃度領域の有無を表す特徴量が算出される(ステップS203:第2の特徴量算出手段)。
ここで、肺野外である横隔膜下に腸管ガスや胃泡などが存在しない画像では、横隔膜下の肺野外領域の画素の信号値は肺野内の信号値に比べて低い(図6B参照)。しかし、横隔膜下に腸管ガスや胃泡などが存在する画像では、横隔膜下に、肺野と同等の高濃度領域、即ち、横隔膜下の被写体領域において腸管ガスや胃泡などが存在しない他の領域より信号値の大きい領域(信号値が予め定められた基準値を超える領域)が存在する(図6A参照)。この領域が、肺野外の高濃度領域である。
【0050】
肺野外の高濃度領域の有無を表す特徴量は、例えば、(1)プロファイル形状の違いを用いた手法、(2)パターンマッチングを用いた手法等により算出することができる。なお、以下の肺野外の高濃度領域の有無を表す特徴量の算出においては、認識された照射野の範囲を処理対象の画像領域とする。
【0051】
(1)プロファイル形状の違いを用いた特徴量の算出方法
まず、プロファイル形状の違いを用いた特徴量の算出手法について説明する。
図6Aは、腸管ガスや胃泡などの高濃度領域(図6AにおいてHで示す)が横隔膜下に存在する医用画像と、その信号値の垂直プロファイルと、この垂直プロファイルの横隔膜下部分に微分フィルタ処理をかけた結果と、を模式的に示したものである。図6Bは、腸管ガスや胃泡などの高濃度領域が横隔膜下に存在しない医用画像と、その信号値の垂直プロファイルと、この垂直プロファイルの横隔膜下部分に微分フィルタ処理をかけた結果を模式的に示したものである。
図6Aに示すように、腸管ガスや胃泡などの高濃度領域が横隔膜下に存在すると、横隔膜下から画像下端までの画像の垂直プロファイルの形状が、高濃度領域で増加し、その後減少する。一方、腸管ガスや胃泡などの高濃度領域が横隔膜下に存在しない場合、図6Bに示すように横隔膜下から画像下端までの画像の垂直プロファイルの形状は単調減少する。
そこで、上記の垂直プロファイル形状の違いを利用して肺野外の高濃度領域の有無を表す特徴量を算出する。
【0052】
(1−1)まず、処理対象の医用画像の横隔膜下から画像下端までの範囲の垂直プロファイルを作成する。
ここでは、画像上端から2/3の位置から画像下端までの範囲を横隔膜下から画像下端までの範囲とし、その範囲の垂直プロファイルを作成する。垂直プロファイルは、左肺野の横隔膜下については、画像中心から画像右端までの範囲で各行(ライン)の信号値を加算して平均値を算出することにより作成する。右肺野の横隔膜下については、画像中心から画像左端までの範囲で各行(ライン)の信号値を加算して平均値を算出することにより作成する。
(1−2)次いで、作成された垂直プロファイルに微分フィルタをかけ、各行における増加する変化量(正の値)を加算した値を肺野外の高濃度領域の有無を表す特徴量とする。
【0053】
(2)パターンマッチングを用いた特徴量の算出手法
次に、パターンマッチングを用いた特徴量の算出手法について説明する。
なお、パターンマッチングを用いた特徴量を算出するため、予め、高濃度領域が存在しない胸部正面画像から入力部53により横隔膜下部分の領域を選択して抽出することで、横隔膜下の標準的なテンプレートを作成し、記憶部52に記憶しておく。
【0054】
(2−1)まず、処理対象の医用画像から横隔膜下を認識する処理を行う。図7に、横隔膜下の認識処理を模式的に示す。
具体的には、まず、画像中央から画像下端までの範囲の垂直プロファイルを作成する。垂直プロファイルは、画像幅全域で、各行の信号値を加算して平均値を算出することにより作成することができる。
次いで、作成した垂直プロファイルの最大値と最小値の差分の予め定められた割合となる値を閾値TH1として算出する。
次いで、医用画像の垂直方向1/2にある行から順次垂直プロファイルの値と閾値TH1の比較を行い、垂直プロファイルの値が閾値TH1以下となった行の位置を横隔膜下として認識する。
【0055】
(2−2)次いで、医用画像の素抜け部分を認識する。素抜けとは、人体が入っていない、直接X線がFPD9に到達した部分である。まず、医用画像の全領域を任意サイズの画素ブロックに分割し、各画素ブロックの分散を算出する。次いで、全画素ブロックの分散のヒストグラムを作成し、分散値が低いほうから予め定められた割合となる値を閾値TH2とし(図8参照)、閾値TH2以下の分散の画素ブロックを素抜け部と認識する。
【0056】
(2−3)次いで、認識された素抜け部に基づいて、人体の幅を算出する。具体的には、上記(2−1)で認識された横隔膜下から画像下端までの領域の各行について、画像中央から左右の画像端に向かって上記素抜け認識処理で「素抜け部」と判定されたブロックの探索を行い、左右それぞれについて、最初に素抜け部と判定された画素ブロックとの境界をスキンラインとする。そして、各行におけるスキンライン間の距離の平均を人体の幅として算出する。
【0057】
(2−4)次いで、上記算出された人体幅と認識された横隔膜下からなる画像(比較対象画像と呼ぶ)のサイズに合わせてテンプレート画像を拡大又は縮小する。縮小の場合は、両者の画像サイズの差異に応じてテンプレート画像に単純間引きを行う。拡大の場合は、両者の画像サイズの差異に応じてテンプレート画像を線形補間する。
【0058】
(2−5)次いで、下記の[数1]を用いてテンプレート画像と比較対象画像の近似度を算出する。
【数1】


図9Aに示すように、比較対象画像P1において横隔膜下の肺野外領域に胃泡や腸管ガスなどによる高濃度領域が存在しない場合、比較対象画像P1とテンプレート画像P0は近似した画像となる。即ち、近似度は高くなる。一方、図9Bに示すように、比較対象画像P2において横隔膜下の肺野外領域に胃泡や腸管ガスなどによる高濃度領域(図9BにおいてHで示す)が存在する場合、比較対象画像P2とテンプレート画像P0は高濃度領域分だけ近似しない画像となる。即ち、近似度は低くなる。
【0059】
(2−6)次いで、算出した近似度を予め定められた閾値と比較し、比較結果に基づいて、横隔膜下の肺野外領域における高濃度領域の有無を判定する。例えば、算出した近似度が予め定められた閾値より低い場合、横隔膜下の肺野外領域に高濃度領域があると判定する。算出した近似度が予め定められた閾値以上の場合、横隔膜下の肺野外領域に高濃度領域が無いと判定する。
【0060】
(2−7)上記算出した近似度又は高濃度領域の有無の情報を肺野外の高濃度領域の有無を表す特徴量とする。
なお、肺野外の高濃度領域の有無を表す特徴量としては、例えば、相互相関値、ユークリッド距離等、その他の指標を用いることとしてもよい。
【0061】
特徴量の算出が行われると、算出された特徴量を利用して、上下左右の照射野外との境界線ごとにポジショニング判定が行われる(ステップS204)。ステップS204におけるポジショニング判定は、判定器51aを用いて各境界線により肺野が欠損していないか否かを判定するものである。図5Aの例では、上端領域R1、下端領域R2、左端領域R3、および、右端領域R4から図4のステップS202(第1の特徴量算出手段)で算出された特徴量が取得され、これらのデータが制御部51の判定器51aに入力される。また、下端領域R2の特徴量としては、更に、図4のステップS203(第2の特徴量算出手段)で算出された肺野外の高濃度領域の有無を表す特徴量のデータが判定器51aに入力される。そして、判定器51aにおいて、入力された特徴量に基づいて、肺野が各境界線からはみ出して欠損している部分があるかどうかの判定が行われる。
【0062】
このポジショニング判定に用いられる判定器51aは、所定の学習アルゴリズムを用いて予め学習させたものであり、学習結果に基づいて、肺野が各境界線からはみ出して欠損している部分があるかどうかの判定を行うものである。
【0063】
ここで、学習アルゴリズムによる学習と判定の一般的概念について説明する。ここでは、説明を簡単にするため、2つの特徴量を用いて判定を行う場合を例にとり説明する。
図10は、ポジショニング判定に用いる各特徴量を軸とした空間に、予め肺野の欠損があるか否かが既知の複数の画像(サンプル画像)から算出された特徴量をプロットしたグラフである。学習アルゴリズムでは、図10に示すように、複数のサンプル画像から算出された特徴量の分布から、どのような境界線を描けば肺野の欠損のない画像と肺野の欠損のある画像を区別できるかを学習し、特徴量が境界線のどちら側に位置するかによって欠損のない画像であるか欠損のある画像であるかを判定する判定器を作成するものである。そして、作成された判定器に判定対象の画像から算出された特徴量を入力することで、判定器において肺野の欠損のある画像かない画像かを判定する。
【0064】
判定器51aの学習に用いる学習アルゴリズムとしては、特に限られないが、例えば、アダブースト(AdaBoost)が利用される。
【0065】
ここで、学習による判定器51aの作成及びステップS204における判定について、アダブーストを用いた場合を例にとり説明する。
ステップS204においては、上下左右の照射野外との境界線ごとにポジショニング判定が行われる。そこで、判定器51aは、上端判定器、下端判定器、左端判定器、右端判定器の4種類の判定器により構成される。
【0066】
(3−1)判定器51aの作成においては、まず、肺野が欠損している画像と肺野が欠損していない画像をサンプル画像として複数用意する。
(3−2)次いで、全サンプル画像から特徴量(上述の第1の特徴量算出手段と第2の特徴量算出手段により算出される特徴量)を算出する。第1の特徴量算出手段においては、ステップS202で説明したように、例えば、図5Aに示す上端領域R1、下端領域R2、左端領域R3、右端領域R4内の4つの部分領域のそれぞれに含まれる各小領域の信号値の特徴量(例えば、最大信号値)を算出する。第2の特徴量算出手段においては、肺野下部の境界領域においてステップS203で説明した手法により肺野外の高濃度領域の有無を示す特徴量を算出する。
【0067】
次いで、上端領域R1、下端領域R2、左端領域R3、右端領域R4のそれぞれについて、上記算出された特徴量を用いて下記の(3−3)〜(3−6)を実行することにより、上端判定器、下端判定器、左端判定器、右端判定器を作成する。なお、本実施の形態においては、上端領域R1、左端領域R3、右端領域R4については、データ配列特徴量を使用し、下端領域R2についてはデータ配列特徴量及び肺野外の高濃度領域の有無を示す特徴量を使用することとするが、上端領域R1、左端領域R3、右端領域R4についても肺野外の高濃度領域の有無を示す特徴量を算出し、データ配列特徴量及び肺野外の高濃度領域の有無を示す特徴量を使用することとしてもよい。
図11(a)〜(d)は、下端判定器の作成過程を模式的に示す図である。図11(a)〜(d)は、高濃度領域の有無を示す特徴量(図11では高濃度領域の特徴量と略記する)を縦軸に、データ配列特徴量のうち判定に最も寄与する特徴量を横軸として作成した2次元特徴量分布である。ここでは、説明をわかりやすくするために、高濃度領域の有無を示す特徴量と、データ配列特徴量のうち判定に最も寄与する特徴量とを用いて2次元で表現して説明するが、実際はデータ配列特徴量が20あるので、高濃度領域の有無を示す特徴量を含めて21個の軸をもつ21次元の特徴量空間となる。以下の説明では、図11(a)〜(d)に示す下端判定器の作成過程を模式的に示す図を参照しながら説明するが、上端判定器、左端判定器、右端判定器についても特徴量が異なるだけで同様の作成過程となる。
【0068】
(3−3)まず、Decision Stampを用いて複数の弱識別器を作成する。弱識別器は、ある特徴量が予め設定した閾値を超えるか否かで肺野の欠損の有無を判定する識別器であり、各特徴量毎に、閾値を変えたものを複数作成する。
例えば、図11(a)に示すように、データ配列特徴量に対して閾値がD1、D2、D3の3つの弱識別器を作成し、高濃度領域の有無を示す特徴量に対して閾値がd1、d2、d3の3つの弱識別器を作成する。
【0069】
(3−4)次いで、肺野の欠損の有無の判定に最も寄与する弱識別器を選択する。例えば、図11(b)に示すように、弱識別器D2は、円Aで囲まれた3つの画像を除く14の画像について正しく判定できており、正しく判定できた画像の割合(画像数)が最も多い(寄与度が高い)。そこで、弱識別器D2を最も寄与する弱識別器として選択する。
(3−5)次いで、判定に失敗した画像の特徴量に重みをつけて、肺野の欠損の有無の判定に最も寄与する弱識別器を選択する。失敗した画像に重み付けることで、先の弱識別器D2で判定に失敗した画像を精度良く判定できる弱識別器を選択することができる。例えば、図11(c)に示すように、図11(b)において判定を失敗した画像(円Aで囲まれた点に対応する画像)の重み付けを重くし、それ以外の重み付けを軽くすると、弱識別器d2の寄与度が最も高くなる。その結果、弱識別器d2が選択される。
(3−6)上記(3−5)を失敗画像がなくなるまで繰り返し、各過程で選択された弱識別器を組み合せて判定器を作成する。図11(d)においては、弱識別器D2と弱識別器d2を組み合わせて判定器を作成する。ただし、各弱識別器の寄与度は異なるため、各弱識別器の正答率(正しく判定できた画像の全体画像に占める割合)等に基づいて弱識別器に重み付けを行う。
【0070】
ステップS204においては、上記学習により作成された各判定器(上、下、左、右の4つの判定器)からなる判定器51aを用いて、撮影された医用画像の上、下、左、右の各肺野端に肺野の欠損があるか否かを判定する。具体的には、ステップS202において上端領域R1、左端領域R3、右端領域R4のそれぞれから算出された特徴量を、上端判定器、左端判定器、右端判定器のそれぞれに入力すると、判定器51aは、上・左・右の照射野外との境界における肺野の欠損の有無を判定する。また、ステップS202において肺野の下部領域から算出された特徴量及びステップS203において算出された特徴量を下端判定器に入力すると、画像下端部の照射野外との境界における肺野の欠損の有無を判定する。
【0071】
なお、その他の学習アルゴリズムとしては、例えば、サポートベクタマシンやニューラルネットワークを用いたもの、或いは、K-最近傍識別器が利用可能である。また、判別分析のような統計的手法を適用してもよい(参考文献:C.M. Bishop, “Pattern Recognition and Machine Learning”, Springer-Verlag, New Ed版(2006))。
サポートベクタマシンは、複数の特徴量(ここでは第1の特徴量算出手段及び第2の特徴量算出手段で算出される特徴量)の組み合わせ(特徴ベクトル)により示されるデータ点を高次元空間に写像し、写像された高次元空間において、肺野領域の欠損がある画像と欠損がない画像とに最も明確に、即ち、最大のマージンを有するように線形分離する分離面を求める統計的アルゴリズムである。
【0072】
本実施の形態においては、照射野境界に接する領域の信号値の特徴量に加え、肺野と信号値が類似している胃泡や腸管ガス等の肺野外の高濃度領域の有無を示す特徴量を判定器51aに入力し、これらの特徴量に基づいて肺野の欠損の有無を判定するので、肺野外の高濃度領域の存在による誤判定を防止することができ、肺野欠損の有無の判定を精度良く行うことが可能となる。
【0073】
図4に戻り、ポジショニング判定の結果、撮影された医用画像に肺野の欠損がある画像である(ポジショニング不良である)と判定されると(ステップS205;YES)、表示部54にポジショニング警告画面541が表示される(ステップS206)。
図12に、ポジショニング警告画面541の一例を示す。図12に示すように、ポジショニング警告画面541においては、撮影された医用画像上に、肺野の欠損のある部分を示す枠541aが重畳表示されているとともに、警告があることを示すマーク541bが表示されている。また、ポジショニング警告画面541には、出力ボタンB1と、再撮影ボタンB2と、が表示されている。出力ボタンB1は、表示されている医用画像を診断用の医用画像としてサーバー装置10に出力し保存することを指示するためのボタンである。再撮影ボタンB2は、表示されている医用画像を破棄して再撮影を行うことを指示するためのボタンである。
ポジショニング判定処理後、処理は図3のステップS9に移行する。
【0074】
ステップS9において、入力部53により再撮影ボタンB2が押下されると(ステップS9;YES)、記憶部32に記憶されている画像処理済みの医用画像が削除され(ステップS10)、処理はステップS2に戻る。一方、入力部53により再撮影ボタンが押下されず(ステップS9;NO)、出力ボタンB1が押下されると(ステップS11;YES)、ネットワーク通信部56により画像処理済みの医用画像の画像データがステップS1において指定された撮影オーダー情報と対応付けてサーバー装置10に送信され(ステップS12)、撮影制御処理は終了する。サーバー装置10においては、受信された医用画像の画像データが撮影オーダー情報と対応付けてデータベースに保存される。
【0075】
なお、撮影用コンソール5においては、医用画像をサーバー装置10に送信する前に、トリミング処理を行って、医用画像の画像データ量を小さくしてから送信するようにしてもよい。図13に、トリミング処理の一例を示す。トリミング処理は、入力部52によりトリミングの実行が指示された際に、制御部51と記憶部52に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0076】
まず、表示部54にトリミング画面542が表示され、当該画面からの入力部53の操作に基づいて、トリミングサイズ(トリミングにより切り出される画像領域のサイズ)の設定が行われる(ステップS301)。
図14に、図13のステップS301において表示されるトリミング画面542の一例を示す。図14に示すように、トリミング画面542には、画像表示領域542aと、トリミングサイズ設定領域542bと、が設けられている。画像表示領域542aは、医用画像を表示するための領域である。トリミングサイズ設定領域542bは、トリミングサイズを設定するためのボタン群が表示された領域である。トリミングサイズ設定領域542aには、例えば、トリミングサイズを表示された医用画像全体に設定するための全体ボタンB1、トリミングサイズをカセッテサイズに設定するためのカセッテサイズボタンB2〜B7等が表示されている。
トリミングサイズの設定は、ユーザが画面表示領域542aから入力部53のマウス等によりトリミングにより切り出す画像領域の枠(トリミング枠)を指定することとしてもよいし、トリミングサイズ設定領域542bから所望のトリミングサイズのボタンを押下することとしてもよい。
【0077】
トリミングサイズが設定されると、設定されたトリミングサイズに基づいて、トリミングによって切り出される画像領域の候補領域であるトリミング候補領域が設定される(ステップS302)。
【0078】
次いで、設定されたトリミング候補領域を切り出すようにトリミングした場合に肺野の欠損が生じるか否かを判定する処理が行われる(ステップS303)。ステップS303における判定の手法は、特に限定されない。例えば、上述したポジショニング判定処理と同様の手法により行うことができる。また、例えば、処理速度を重視する場合は、照射野の境界付近の所定の範囲である部分領域に含まれる各小領域の信号値から算出した特徴量に基づいて(即ち、肺野外の高濃度領域の有無を表す特徴量は省略して)肺野の欠損の判定を行うこととしてもよい。
【0079】
ステップS303の判定において、肺野の欠損があると判定されると(ステップS304;YES)、表示部54に、設定されたトリミングサイズでは肺野領域が欠損することをユーザに通知するための警告が表示される(ステップS305)。図15に、ステップS305において警告が表示されたトリミング画面542の一例を示す。図15に示すように、肺野に欠損があると判定された場合、トリミング画面542には、医用画像に肺野の欠損部分を示す枠542dが表示される。また、肺野が欠損しないようにトリミングする領域を自動調整することを指示するための自動調整ボタン542cが表示される。
【0080】
次いで、トリミング画面542において、入力部53による自動調整ボタンの押下に応じて、トリミング自動調整処理が実行され(ステップS306)、処理はステップS307に移行する。
トリミング自動調整処理においては、欠損があると判定された方向に、所定距離だけトリミング候補領域の端部をずらした(又は拡大した)新たなトリミング候補領域で肺野欠損の有無の判定を行う。この判定において、新たなトリミング候補領域に肺野の欠損があると判定されなければ、新たなトリミング候補領域をトリミングによって切り出す画像領域として決定する。新たなトリミング候補領域に肺野の欠損があると判定された場合は、所定距離だけトリミング候補領域の端部をずらした(又は拡大した)新たなトリミング候補領域を設定し、肺野欠損の有無の判定を行う。判定により肺野の欠損がないと判定されるまで、トリミング候補領域の移動(拡大)及び肺野欠損の判定が繰り返し実行される。
なお、ユーザが入力部52により手動でトリミングサイズの調整を行っても良い。この場合においても新たなトリミングサイズに応じた新たなトリミング候補領域において肺野の欠損があるか否かを判定し、欠損が存在する場合は、再度警告が表示される。
【0081】
一方、ステップS303の判定において、肺野の欠損がないと判定されると(ステップS304;NO)、処理はステップS307に移行する。
【0082】
ステップS307においては、肺野欠損がないと判定されたトリミング候補領域を示すトリミング枠542eがトリミング画面542に表示されている医用画像上に表示される。図16に、トリミング枠542e及び決定ボタン542fが表示されたトリミング画面542の一例を示す。
【0083】
トリミング画面542において、入力部53により新たにトリミングサイズが設定され、トリミングサイズの変更が指示されると(ステップS308;YES)、処理はステップS302に戻る。トリミングサイズの変更が指示されず、入力部53により決定ボタンが押下されると(ステップS308;NO、ステップS309;YES)、トリミング枠542eで示される画像領域が医用画像から切り出され(ステップS310)、トリミング処理は終了する。
【0084】
トリミング処理された医用画像の画像データは撮影オーダー情報と対応付けてネットワーク通信部56によりサーバー装置10に送信される。サーバー装置10においては、撮影用コンソール5から送信された医用画像が撮影オーダー情報と対応付けてデータベースに保存される。このトリミング処理によりサーバー装置10に転送する画像データ量を小さくすることができるので、画像データの転送時間の短縮を図ることができる。また、サーバー装置10に保存する画像の画像データ量も低減することができる。なお、上記トリミング処理は、サーバー装置10において行うこととしてもよい。これにより、サーバー装置10において保存する画像1枚当たりの画像データ量を低減することができ、より多くの画像をデータベースに保存することが可能となる。
【0085】
以上説明したように、医用画像撮影システム100によれば、撮影用コンソール5の制御部51は、FPD9から送信された胸部正面の医用画像において、照射野内で当該照射野の境界に接する部分領域の所定の特徴量(第1の特徴量)と、肺野外の高濃度領域の有無を表す所定の特徴量(第2の特徴量)とを算出し、所定のアルゴリズムによる第1の特徴量と第2の特徴量に関する学習結果に基づいて、送信された医用画像における肺野領域の欠損の有無を判定する。
【0086】
従って、肺野内の領域と同程度の濃度を有する胃泡や腸管ガスによる高濃度領域が肺野外に存在した場合であっても、医用画像における肺野欠損の有無の判定を精度良く行うことが可能となり、誤判定を防止することができる。
【0087】
なお、上記実施の形態は本発明の好適な一例であり、これに限定されない。
例えば、上記実施の形態においては、FPD9により得られた医用画像を確認のために表示部54に表示したり、ポジショニング判定処理を行ったりすることとして説明したが、FPD9により医用画像に間引き処理を行い、間引きされた医用画像を確認のために表示部54に表示したり、ポジショニング処理を行ったりすることとしてもよい。このようにすれば、FPD9からのデータ転送時間や画像処理時間、体動判定時間等を減少させることができる。
【0088】
また、上記実施の形態においては、FPDを用いて医用画像を生成する医用画像撮影システムを例にとり説明したが、医用画像を生成する手段としてはこれに限定されず、例えば、CRを用いることとしてもよい。
【0089】
また、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピュータ読み取り可能な媒体としてHDDや半導体の不揮発性メモリー等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピュータ読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【0090】
その他、医用画像撮影システムを構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0091】
100 医用画像撮影システム
1 ブッキー装置
2 ブッキー装置
3 放射線源
5 撮影用コンソール
51 制御部
52 記憶部
53 入力部
54 表示部
55 通信I/F
56 ネットワーク通信部
57 バス
6 操作卓
7 HIS/RIS
8 診断用コンソール
9 FPD
10 サーバー装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の胸部を被写体として放射線撮影することにより得られた放射線画像において、照射野内で当該照射野の境界に接する部分領域の所定の特徴量を算出する第1の特徴量算出手段と、
前記放射線画像から肺野外の高濃度領域の有無を表す所定の特徴量を算出する第2の特徴量算出手段と、
所定の学習アルゴリズムによる肺野領域の欠損が存在するか否かが既知の複数の放射線画像における前記第1の特徴量算出手段及び前記第2の特徴量算出手段により算出される特徴量に関する学習結果に基づいて、前記放射線画像における肺野領域の欠損の有無を判定する判定手段と、
を備える医用画像処理装置。
【請求項2】
前記学習アルゴリズムは、アダブースト、又は、サポートベクタマシンである請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記肺野外の高濃度領域は、胃泡や腸管ガスの存在する領域である請求項1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記第2の特徴量算出手段は、前記放射線画像における肺野下部から画像下端までの垂直プロファイルを作成し、作成されたプロファイルの変化量を前記肺野外の高濃度領域の有無を表す所定の特徴量として算出する請求項1〜3の何れか一項に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記第2の特徴量算出手段は、予め記憶手段に記憶されている肺野外に高濃度領域のないテンプレート画像と前記放射線画像における肺野下部の画像との近似度に基づいて、前記放射線画像における肺野外の高濃度領域の有無を表す所定の特徴量を算出する請求項1〜3の何れか一項に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
コンピュータを、
人体の胸部を被写体として放射線撮影することにより得られた放射線画像において、照射野内で当該照射野の境界に接する部分領域の所定の特徴量を算出する第1の特徴量算出手段、
前記放射線画像から肺野外の高濃度領域の有無を表す所定の特徴量を算出する第2の特徴量算出手段、
所定の学習アルゴリズムによる肺野領域の欠損が存在するか否かが既知の複数の放射線画像における前記第1の特徴量算出手段及び前記第2の特徴量算出手段により算出される特徴量に関する学習結果に基づいて、前記放射線画像における肺野領域の欠損の有無を判定する判定手段、
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−102848(P2013−102848A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247349(P2011−247349)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】