説明

医用画像処理装置

【課題】画素値に絶対的な尺度を定義することができない医用画像の表示に係る操作者の負担を軽減する。
【解決手段】医用画像処理装置4は、被検体に対する断面位置が画像毎に特定済である基本断面画像群と、被検体に対する断面位置が画像毎に未特定である断面画像群とを比較し、基本断面画像に一致した断面画像の断面位置を当該基本断面画像の断面位置と同一と特定する断面特定部4eを備える。これにより、医用画像の表示に係る操作者の負担を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、医用画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医用画像診断装置では、通常、画像収集後の後処理として、医用画像を記憶した記憶装置や画像サーバ、保存メディア(記憶媒体)などから画像を選択して表示し、その画像に対して目的に応じた臨床応用解析機能を実行するという一連の作業が存在する。このとき、表示される画像には、X線CT装置(X線コンピュータ断層撮像装置)やMRI装置(磁気共鳴画像診断装置)などの各種の医用画像診断装置により撮像された画像が混在することが多く、同一医用画像診断装置であっても部位が異なる画像が混在することがある。
【0003】
前述のX線CT装置により撮像された画像(断面画像)においては、画素毎にCT値が定められ、画像を構成する画素値にCT値が定義されている。このCT値(HU:ハンスフィールドユニット)は、物質のX線吸収係数を基準物質(例えば、水)からの相対値として表し、X線吸収係数に比例した値である。例えば、基準となる水のCT値が0(ゼロ)、骨のCT値が1000、空気のCT値が−1000に設定される。
【0004】
この画像を液晶ディスプレイなどの表示装置に表示する場合には、画素値であるCT値を例えばモノクロ256階調の濃淡値(輝度値)に階調変換する表示パラメータを設定する必要がある。例えば、操作者は、前述のCT値(−1000〜1000)のうちどの範囲を濃淡表示するかをWL(ウインドレベル)及びWW(ウインド幅)で決定し、その範囲のCT値を階調変換する。実際には、表示したい部位に応じてWL及びWWを経験的に設定する。この設定後、同一部位の画像であれば、CT値である画素値に対応する濃淡値(輝度値)は同じになる。このように画素値に絶対的な尺度であるCT値を定義することができる医用画像では、同一部位の画像を同じ条件で表示するため、比較的容易に表示パラメータを設定することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−61601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画素値に絶対的な尺度であるCT値を定義することができない医用画像では、同一部位の画像であっても撮像方法や撮像パラメータによって画素値が異なってしまう。このため、操作者は、同一部位の画像を同じ条件で表示するために試行錯誤して適切な表示パラメータを設定することになる。また、表示パラメータがプリセットされていた場合でも、その表示パラメータは参考程度にしかならず、操作者はプリセットの表示パラメータを最適な表示パラメータに経験で変更する必要がある。このようなことから、画素値に絶対的な尺度を定義することができない医用画像を表示する際には、その表示に係る操作者の負担は大きくなっている。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、画素値に絶対的な尺度を定義することができない医用画像の表示に係る操作者の負担を軽減することができる医用画像処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る医用画像処理装置は、被検体に対する断面位置が画像毎に特定済である基本断面画像群と、被検体に対する断面位置が画像毎に未特定である断面画像群とを比較し、基本断面画像に一致した断面画像の断面位置を当該基本断面画像の断面位置と同一と特定する断面特定部を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る医用画像処理システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す医用画像処理システムが備える医用画像処理装置が行う画像処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図2に示す画像処理における断面位置特定処理及び表示パラメータ算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】画像の領域照合を説明するための説明図である。
【図5】画像の回転及び並進の補正を説明するための説明図である。
【図6】マスク画像を用いた領域照合を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の一形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る医用画像処理システム1は、テンプレートを保管するテンプレートデータベース2と、被検体の画像データを保管する画像データベース3と、画像データを処理する医用画像処理装置4と、画像データに基づいて医用画像を表示する表示装置5とを備えている。
【0012】
テンプレートデータベース2は、テンプレートとして、被検体に対する断面位置が画像毎に特定済である基本断面画像群を含む基本断面画像情報を蓄積して管理する。基本断面画像群は、断面画像の断面位置が被検体のどの部位のどこの位置であるかが特定されたものであり、テンプレートとして用いられる。基本断面画像情報は、必要に応じて、撮影情報(例えば撮影年月日や装置種別)などを含む付帯情報を有している。なお、テンプレートデータベース2としては、例えば、磁気ディスク装置や半導体ディスク装置を用いることが可能である。
【0013】
画像データベース3は、被検体の画像データとして、被検体に対する断面位置が画像毎に未特定である断面画像群を含む未特定断面画像情報を蓄積して管理する。断面画像群は、画素値に絶対的な尺度を定義することができないMRI装置などの医用画像診断装置により撮像されたスライス画像群である。未特定断面画像情報は、患者IDや患者名、撮影情報(例えば撮影年月日や装置種別)などを含む付帯情報も有している。なお、画像データベース3としては、例えば、磁気ディスク装置や半導体ディスク装置などを用いることが可能である。
【0014】
医用画像処理装置4は、画像データベース3から所望の画像データを選択する画像選択部4aと、選択した画像データを読み出す画像読出部4bと、読み出した画像データを記憶する画像メモリ4cと、臨床応用解析機能を提供する臨床応用解析部4dと、記憶した画像データの断面位置を特定する断面特定部4eと、被検体の部位毎の表示パラメータや検査メニューなどの各種情報を記憶する記憶部4fと、表示パラメータや検査メニューなどを設定する設定部4gと、表示用の画像を生成する画像生成部4hとを備えている。これらの各部はハードウエアやソフトウエアあるいはそれらの両方により構成されている。
【0015】
画像選択部4aは、マウスやキーボードなどの入力部(図示せず)に対する操作者の入力操作に応じて、画像データベース3から所望の患者の画像データである断面画像群を選択し、その選択結果を画像読出部4bに送信する。
【0016】
画像読出部4bは、画像選択部4aから送信された選択結果から、画像選択部4aにより選択された画像データである断面画像群を画像データベース3から読み出し、画像メモリ4cに配置する。
【0017】
画像メモリ4cは、画像読出部4bによる配置に応じて、画像読出部4bにより読み出された断面画像群を記憶して保持する。この画像メモリ4cとしては、例えば、RAMや磁気ディスク装置、半導体ディスク装置などを用いることが可能である。
【0018】
臨床応用解析部4dは、各種の臨床応用解析機能を提供可能であり、その臨床応用解析機能の一例として、二次元の画像データから三次元の解析用画像データを作成し、その解析用画像データを画像メモリ4cなどに保存する。
【0019】
断面特定部4eは、テンプレートデータベース2に蓄積された基本断面画像群と、画像メモリ4cに配置された断面画像群とを比較し、基本断面画像と断面画像とが一致した場合、基本断面画像に一致した断面画像の断面位置をその一致した基本断面画像の断面位置と同一と特定する。したがって、断面画像の断面位置は、その断面画像に一致した基本断面画像の断面位置と同じになる。
【0020】
記憶部4fは、被検体の部位毎の表示パラメータや検査メニューなどの各種情報を記憶する。表示パラメータは画像表示に関して画素値を適切な濃淡値(輝度値)に変換するパラメータであり、検査メニューは部位毎の検査項目(例えば、各種の臨床応用解析機能の項目)を示すメニューである。なお、記憶部4fとしては、例えば、ROMや磁気ディスク装置、半導体ディスク装置などを用いることが可能である。
【0021】
設定部4gは、断面特定部4eにより特定された断面画像の断面位置に応じて、その断面画像に対する表示パラメータを設定する。例えば、設定部4gは、同一部位の画像を同じ条件で表示するため、前述の断面画像の断面位置、すなわち部位に応じて表示パラメータを自動的に設定する(詳しくは、後述する)。この自動設定が不十分である場合には、記憶部4fにより記憶された部位毎の表示パラメータから、断面特定部4eにより特定された断面画像の断面位置に応じて、その断面画像に対する表示パラメータを選択して設定する。一方、最適な表示パラメータが記憶部4fに存在しない場合には、断面特定部4eにより特定された断面画像の断面位置に応じて、記憶部4fにより記憶された部位毎の表示パラメータから、その断面画像に対して候補となる表示パラメータを複数個選択して設定する。
【0022】
また、前述の設定部4gは、断面特定部4eにより特定された断面画像の断面位置に応じて、その断面画像に関する検査メニュー(例えば、各種の臨床応用解析機能の項目)を設定する。例えば、設定部4gは、記憶部4fにより記憶された部位毎の検査メニューから、断面特定部4eにより特定された断面画像の断面位置に応じて、その断面画像に関する検査メニューを選択して設定する。さらに、設定部4gは、基本断面画像に一致した断面画像の部位名としてその基本断面画像の部位名を設定する。この部位名は基本断面画像の付帯情報に含まれており、その付帯情報から読み出されて用いられる。
【0023】
画像生成部4hは、設定部4gにより設定された表示パラメータに基づいて、画像メモリ4c内の断面画像群から表示対象の断面画像を生成し、表示装置5に供給する。さらに、画像生成部4hは、候補となる表示パラメータや検査メニュー、さらに、断面画像に対応する部位名などを含む画像を必要に応じて生成し、表示装置5に供給する。
【0024】
表示装置5は、画像生成部4hにより生成された画像やその他の画像など、各種画像を表示する表示装置である。この表示装置5としては、例えば、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイなどを用いることが可能である。
【0025】
次に、前述の医用画像処理装置4が行う画像処理について詳しく説明する。臨床検査技師や医師などの操作者が入力部を入力操作して所望の画像データを指定すると、以下の処理が実行される。
【0026】
図2に示すように、まず、画像選択部4aにより画像データ(断面画像群)が選択される(ステップS1)。次いで、画像読出部4bにより画像データが画像メモリ4cに配置される(ステップS2)。その後、断面特定部4e及び設定部4gにより断面位置の特定及び表示パラメータの算出が行われ(ステップS3)、画像生成部4hにより画像(通常、二次元画像)が生成され(ステップS4)、その画像が表示装置5により表示される(ステップS5)。
【0027】
なお、臨床応用解析機能の一例である三次元画像の表示が、入力部に対する操作者の入力操作により指示されていた場合には、ステップS4において、画像メモリ4cにある断面画像群と設定済の表示パラメータを用いて、三次元の解析用画像データが生成され、ステップS5において、三次元画像が表示装置5により表示される。
【0028】
ここで、前述のステップS3の処理の流れについて詳しく説明する。
【0029】
図3に示すように、まず、画像位置補正が行われ(ステップS11)、次いで、領域分割が行われ(ステップS12)、基本断面画像と断面画像との画像間の領域照合が行われ(ステップS13)、最後に、表示パラメータが算出される(ステップS14)。これらの処理が断面特定部4e及び設定部4gにより実行される。
【0030】
ステップS11では、前述の処理の基本が画像間の領域照合であるため、画像メモリ4c内の照合対象の断面画像群を照合元であるテンプレートデータベース2内の基本断面画像群と同じ断面状態にする補正(例えば、画像の拡大、縮小及び反転など)が行われる。この拡大及び縮小の補正では、拡大再構成や縮小再構成、部分収集などを行い、反転の補正では、視点移動(VFF、VFH)を行う。例えば、拡大及び縮小の補正においては、ピクセルスペーシング(ピクセル実長)をもとに、テンプレートの基本断面画像に照合対象の断面画像を合わせるように拡大あるいは縮小を行う。また、反転の補正においては、基本断面画像の向き(画像面の法線ベクトル)の情報を用いて、こちらもテンプレートの基本断面画像に合わせて照合対象の断面画像を鏡像反転する。これらのテンプレートの各種情報は基本断面画像の付帯情報に含まれており、その付帯情報から読み出されて用いられる。
【0031】
ステップS12では、領域分割の方法として様々な方法を用いることが可能であり、その一例として、分割統合法を基本とした方法を用いる。この分割統合法は、二つのステップからなり、最初のステップでは、断面画像を複数の区画(例えば2×2)に分割しながら、区画の分布が単一の母集団(組成)から生成されているか否かを検査(検定)し、区画の分布が単一の母集団から生成されている場合、分割を停止し、区画の分布が単一の母集団から生成されていない場合、分割を継続し、ある区画単位になったら処理を停止する。次のステップでは、分割された区画で隣り合った区画が同一の母集団から構成されているのであれば、これらの区画を統合する。この処理を繰り返し、分割された区画を統合していく。
【0032】
なお、MRI装置のような医用画像診断装置では、同じ部位を同じ撮像方法で撮像しても画素値がばらつくことがあり、統計的な手法は取り難い。そこで、断面画像内の観察したい領域は、ある面積を持ち、他と区別できるようなハイコントラストになっているという推測から次のような近似的な解法を用いる。この解法では、まず、断面画像をある区画(例えば16×16)に分割し、これらの区画にある最大画素値を求め、その区画全体をその最大画素値で埋める。次に、分割統合法により分割を行う。分割では、連続一様分布に従うとして検定を行い、連続一様分布に従うならば分割を停止し、従わないならば分割を継続し、ある単位以下、例えば10×10以下で処理を停止する。その後、得られた領域をk平均法によりクラスタリングする。このような領域分割の処理がテンプレートの基本断面画像群及び照合対象の断面画像群に対して行われる。
【0033】
ステップS13では、テンプレートの基本断面画像のクラスタと照合対象の断面画像のクラスタとの間の総当たり検査で面積比を用いて領域照合を行う。手順としては、図4に示すように、まず、テンプレートデータベース2内の基本断面画像群(例えば、全身の断面画像群)の基本断面画像Ti(i=1〜n1:n1は自然数)から、あるクラスタ番号の画像Tia(a=1〜m1:m1は自然数、ただし、図4中では一例としてm1=4)を生成する。次に、画像メモリ4c内の照合対象の断面画像群(例えば、心臓や頭などの部位の断面画像群)の断面画像Aj(j=1〜n2:n2は自然数)から、あるクラスタ番号の画像Ajb(b=1〜m2:m2は自然数、ただし、図4中では一例としてm2=4)を生成する。
【0034】
その後、各画像Tia及び各画像Ajbに関して、ビット演算あるいは引き算を行い、合致面積を割り出す。面積比が規定値を超えた場合には、テンプレートの基本断面画像Tiと照合対象の断面画像Ajを同一とみなして終了する。このとき、テンプレートの基本断面画像Tiと照合対象の断面画像Ajとの適合率も算出する。なお、規定値は変更可能である。全ての基本断面画像Ti及び照合対象の断面画像Ajの比較を行い、その比較が終了すると、適合率が最大である基本断面画像Tiの断面位置を照合対象の断面画像Ajの断面位置と特定する。これにより、照合対象の断面画像Ajの断面位置は、その断面画像Ajに一致した基本断面画像Tiの断面位置と同じになる。この基本断面画像Tiの断面位置は被検体のどの部位のどこの位置であるかが特定されているため、照合対象の断面画像Ajの断面位置も被検体のどの部位のどこの位置であるかが特定されることになる。
【0035】
ステップS14では、前述の断面画像Ajの断面位置に応じて、ハイコントラストである部分を観察した部分と考え、最適な表示パラメータを算出する。例えば、輝度の場合では、前述で求めた照合対象の断面画像Ajの断面位置及び高画素値の領域などの情報を用いて、高画素値(高信号値)で且つ領域が大きい部分の画素値を輝度中心にし、高画素値の領域内の最小値及び最大値を輝度幅にする輝度変換処理を行い、輝度変換用の表示パラメータを設定する。なお、ステップS14の段階においては、照合対象の断面画像Ajの断面位置及び高画素値の領域が特定されている。
【0036】
また、三次元の画像表示を行う場合には、断面画像Ajの断面位置から高コントラスト領域がどの部位(例えば、血管あるいは臓器)かを判断することが可能であるので、そこから最適な三次元の表示パラメータを算出することができる。例えば、三次元の画像表示では、高画素値に位置する部位(例えば、臓器や血管)から適切なカラーテーブルを選択し、その輝度を中心にした線形の透明度カーブを求めて三次元の表示パラメータに設定する。
【0037】
ここで、前述の領域照合を行う前において、照合対象の断面画像Ajが撮影時などにすでに回転あるいは並進していることがある。領域分割時にある面積で区画化を行っているため、小さな回転や並進にはあまり影響を受けることがない。したがって、最初、前述のように拡大や縮小、反転補正のみの領域照合の処理を行い、テンプレートの全ての基本断面画像Tiで照合に失敗した場合、回転や並進の影響が大きいと判断し、回転及び並進の補正を行う。この補正では、クラスタを面積別に整列し、クラスタ間の重心距離が等しい二組を選択し、移動量及び回転量を算出する。
【0038】
例えば、図5に示すように、まず、テンプレートの基本断面画像Tiでは、線分(P1,P2)、(Q1,Q2)を求め、照合対象の断面画像Ajでは、線分(R1,R2)、(S1,S2)を求める。これらの線分は、最初の拡大や縮小、反転の補正のみを行う領域照合の処理で求められている。
【0039】
次に、四辺形を構成し、テンプレートの基本断面画像Tiでは、新たに線分(P1,Q1)、(P2,Q2)を求め(図5中の点線参照)、照合対象の断面画像Ajでは、線分(R1,S1)、(R2,S2)を求める(図5中の点線参照)。その線分(P1,Q1)の距離と(R1,S1)の距離とを比較し、さらに、その線分(P2,Q2)の距離と(R2,S2)の距離とを比較する。回転及び並進では点間の情報は失われないので、点間の距離を比較することで、照合対象の断面画像Ajがテンプレートの基本断面画像Tiと同じかどうかを確認することができる。もし同一でない場合には、別の基本断面画像Tiで処理を行う。
【0040】
その後、面積が対応するクラスタの一組(図5中では、P1とR1)を選び出し、それらのP1とR1の位置関係から平行移動量dx、dyを算出する。照合対象の断面画像Ajの線分(R1,R2)と、その線分に対応するテンプレートの基本断面画像Tiの線分(P1,P2)をベクトル表記とし、その侠角(回転角)θを内積より求める。このようにして移動量及び回転量が算出され、その移動量及び回転量に基づいて、照合対象の断面画像Ajの回転及び並進の補正が行われる。これにより、拡大や縮小、反転補正に、回転及び並進補正が加わるので、正確な領域照合を行うことができる。
【0041】
また、前述の領域照合を行う前には、拡大撮像(収集)や拡大再構成、縮小再構成などにより照合対象の断面画像Ajとテンプレートの基本断面画像Tiとの間に欠損が生じている場合がある。このため、照合精度の向上を目的として、その欠損部分を拡大撮像や拡大/縮小再構成の情報から照合対象外(評価対象外)とするマスク画像を生成して照合対象から外す。
【0042】
例えば、図6に示すように、照合対象の断面画像Ajに欠損領域R1が存在している場合には、その欠損領域R1に対応するマスク画像B1を生成する。このマスク画像B1は欠損領域R1と同形状及び同面積であり、その欠損領域R1を覆う画像である。領域照合を行う際には、マスク画像B1がテンプレートの基本断面画像Tiに重ねられ、その状態のテンプレートの基本断面画像Tiと照合対象の断面画像Ajとの領域照合が行われる。これにより、欠損領域R1が照合対象から外されるので、正確な領域照合を行うことができる。
【0043】
また、前述の領域分割を二次元から三次元へ展開することで、三次元テンプレートを得ることが可能であり、その三次元テンプレートをテンプレートデータベース2に保管することもできる。さらに、三次元テンプレートを用いて照合対象の断面画像Ajの断面方向(断面画像群が並ぶ方向)に沿って多断面再構成を行うことによって、その断面方向の二次元テンプレート(基本断面画像群)を得ることができる。例えば、照合対象の断面画像群が全てテンプレート(二次元)の基本断面画像群と一致しなかった場合には、その照合対象の断面画像群とテンプレートの基本断面画像群との断面方向が異なると判断し、三次元テンプレートから照合対象の断面画像群の断面方向に合わせて二次元テンプレートの基本断面画像群を再構成する。これにより、照合対象の断面画像群と断面方向が一致した二次元テンプレートの基本断面画像群を用いて領域照合を行うことができる。なお、断面方向は照合対象の断面画像の法線ベクトルにより求められる。
【0044】
また、断面画像Ajの断面位置に応じて、その断面位置から部位名(臓器名も含む)を自動的に表示することが可能である。この部位名の表示は、映りが悪い画像での臓器位置の把握や教育などに利用することができる。さらに、断面画像Ajの断面位置から必要な検査メニューを提示することも可能である。例えば、断面画像Ajの断面位置と高輝度情報から観察すべき部位(臓器も含む)を特定し、断面画像Ajに係る部位に必要な臨床応用機能を選別して検査メニュー(各種の臨床応用解析機能の項目)として提示することが可能であり、部位に関係した検査メニューのみを列挙することができる。具体的には、断面画像Ajの断面位置が頭部であれば、脳に関係した検査メニューを選択し、その断面位置が胸部であれば、胸部に関係した心臓や肺などの検査メニューを選択し、さらに、その断面位置が腹部であれば、腹部に関係した肝臓や腎臓などの検査メニューを選択して表示する。
【0045】
また、断面画像Ajの断面位置を特定することが可能であるため、二つの画像群の位置合わせを行うことができる。例えば、異なる二つの画像群の断面位置を求め、同一位置を自動的に算出して同じ位置の断面画像を並べて表示することが可能である。これにより、操作の省力化を実現することができる。通常、異なる二つの画像群を比較表示する場合には、違うモダリティや同じモダリティでも位置情報が異なることが多く、同じ位置の断面画像を並べて表示するための作業は困難であり、さらに、操作者の作業が増えることになる。
【0046】
また、断面画像Ajの断面位置とコントラスト情報から部位(臓器や血管も含む)が抽出されているかどうかを検査し、適切な三次元可視化パラメータ(透明度やカラーテーブル)を算出することができる。例えば、断面位置とコントラスト情報(例えば高輝度情報)から観察すべき血管などの部位を特定し、三次元作成用のカラーテーブルや透明度を選択し、表示パラメータを設定することが可能である。これにより、操作の省力化を実現することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、被検体に対する断面位置が画像毎に特定済である基本断面画像群と、被検体に対する断面位置が画像毎に未特定である断面画像群とを比較し、基本断面画像Tiに一致した断面画像Ajの断面位置をその基本断面画像Tiの断面位置と同一と特定する断面特定部4eを設けることによって、その断面画像Ajの断面位置が自動的に特定されることになる。これにより、画素値に絶対的な尺度を定義することができない医用画像を表示する場合でも、操作者は医用画像の断面位置から表示パラメータを設定することが容易となるので、自身で試行錯誤して表示パラメータを設定する場合に比べ、医用画像の表示に係る操作者の負担を軽減することができる。
【0048】
特に、特定した断面画像Ajの断面位置に応じて、その断面画像Ajに対する表示パラメータを設定する設定部4gを設けることによって、表示対象の断面画像Ajの断面位置、すなわち部位に対応した表示パラメータを自動的に設定することが可能となるので、操作者の負担をさらに軽減することができる。
【0049】
また、被検体の部位毎の表示パラメータを記憶する記憶部4fと、その部位毎の表示パラメータから、特定した断面画像Ajの断面位置に応じて、その断面画像Ajに対する表示パラメータを選択して設定する設定部4gとを設けることによって、前述の自動設定が不十分である場合などでも、部位に対応した表示パラメータを自動的に設定することが可能となるので、操作者の負担をより確実に軽減することができる。
【0050】
なお、最適な表示パラメータが記憶部4fに無い場合には、設定部4gによりその部位毎の表示パラメータから、断面画像Ajの断面位置に応じてその断面画像Ajに対して候補となる表示パラメータを選択して設定し、画像生成部4hにより候補となる表示パラメータを含む画像を生成することによって、候補となる表示パラメータを表示装置5により表示することが可能となる。これにより、操作者は表示パラメータを選択して設定することができ、その結果、操作者の負担をより確実に軽減することができる。
【0051】
また、被検体の部位毎の検査メニューを記憶する記憶部4fと、その部位毎の検査メニューから、特定した断面画像Ajの断面位置に応じて、その断面画像Ajに関する検査メニューを選択して設定する設定部4gと、設定した検査メニューとその検査メニューに対応する断面画像Ajとを含む画像を生成する画像生成部4hとを設けることによって、断面画像Ajと共にその断面画像Ajに関する検査メニューが表示されることになる。これにより、検査メニューの選択が容易となるので、操作者の負担をさらに軽減することができる。
【0052】
また、基本断面画像Tiに一致した断面画像Ajの部位名にその基本断面画像Tiの部位名を設定する設定部4gと、設定した部位名とその部位名に対応する断面画像Ajとを含む画像を生成する画像生成部4hとを設けることによって、断面画像Ajと共にその断面画像Ajの部位名が表示されることになる。これにより、断面画像Ajに係る部位の特定が容易となるので、操作者の負担をさらに軽減することができる。
【0053】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
4 医用画像処理装置
4e 断面特定部
4f 記憶部
4g 設定部
4h 画像生成部
Aj 断面画像
Ti 基本断面画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対する断面位置が画像毎に特定済である基本断面画像群と、被検体に対する断面位置が画像毎に未特定である断面画像群とを比較し、前記基本断面画像に一致した前記断面画像の断面位置を当該基本断面画像の断面位置と同一と特定する断面特定部を備えることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
前記断面特定部により特定された前記断面画像の断面位置に応じて、当該断面画像に対する表示パラメータを設定する設定部を備えることを特徴とする請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記被検体の部位毎の表示パラメータを記憶する記憶部と、
前記記憶部により記憶された前記部位毎の表示パラメータから、前記断面特定部により特定された前記断面画像の断面位置に応じて、当該断面画像に対する前記表示パラメータを選択して設定する設定部と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記被検体の部位毎の検査メニューを記憶する記憶部と、
前記記憶部により記憶された前記部位毎の検査メニューから、前記断面特定部により特定された前記断面画像の断面位置に応じて、当該断面画像に関する前記検査メニューを選択して設定する設定部と、
前記設定部により設定された前記検査メニューと当該検査メニューに対応する前記断面画像とを含む画像を生成する画像生成部と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記基本断面画像に一致した前記断面画像の部位名に当該基本断面画像の部位名を設定する設定部と、
前記設定部により設定された部位名と当該部位名に対応する前記断面画像とを含む画像を生成する画像生成部と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記断面特定部は、複数の前記断面画像群に対して前記断面位置の特定を実行し、それら断面画像群の位置合わせを行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記断面特定部は、前記基本断面画像群から別の基本断面画像群を生成することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一に記載の医用画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−81713(P2013−81713A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225208(P2011−225208)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】