説明

医用画像装置

【課題】医用画像装置により計測される弾性情報に基づいて、診断部位の良悪性を評価する特有の診断評価値を求め、非侵襲で診断対象の診断を適切に行う。
【解決手段】時系列的に撮像される被検体の診断部位の断層像情報に基づいて弾性像情報を演算する弾性情報演算部32と、弾性像情報に基づいて、診断部位に設定される第1の部位の弾性値と第2の部位の弾性値の比である硬度比を求める硬度比演算部64と、硬度比演算部で求めた硬度比に対応する診断評価値を、予め設定された硬度比と診断評価値との相関関係に基づいて算出する診断評価値算出部65と、弾性像情報に基づいて作成される弾性像と、診断評価値算出部で求めた診断評価値を表示する画像表示部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像装置に係り、被検体の診断部位の弾性情報に基づいて、診断部位の良悪性を客観的に評価するのに好適な医用画像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医用画像装置である超音波画像装置や磁気共鳴画像装置などにおいては、時系列的に撮像される被検体の診断部位の断層像情報に基づいて、生体組織の硬さ、あるいは軟らかさを表す弾性像情報を求め、弾性情報に基づいて診断部位の組織の良悪性を診断することが広く知られている。例えば、特許文献1によれば、超音波画像装置を用いて、被検体の診断部位に加える圧力によって変位する組織の変位を計測時間が異なる2つの断層像情報に基づいて求め、求めた変位分布に基づいて診断部位の組織の弾性を表す弾性像を生成して表示することが開示されている。ここで、診断部位に圧力を加える方法には、種々の方法が提案されている。例えば、超音波探触子を手動又は機械的に被検体に押し付けて診断部位に圧力を加える方法が一般的であるが、被検体に機械的な衝撃を加えたり、被検体の呼吸や脈拍などの体動を利用したり、超音波の音圧で圧力を加えたりする方法が広く知られている。
【0003】
また、弾性情報(弾性値)としては、組織の変位量、歪み、弾性率及びこれらに相関する物理量が知られているが、これらの弾性値は相対的な物理量が含まれている。したがって、求めた弾性値の大小によって組織の良悪性を客観的に評価し難い。そこで、特許文献2には、弾性像情報に複数の関心領域を設定し、関心領域間の弾性値の比を算出して指標値化することが提案されている。これにより、例えば、組織に加えられる圧力に関係なく、客観的ないし絶対的に評価できる弾性情報を求めることができる。なお、弾性情報は、超音波画像装置に限らず、磁気共鳴画像装置(MRI装置)によっても、特許文献3や非特許文献2に記載されているように得ることができる。
【0004】
一方、非特許文献1には、弾性情報の比を活用した新たな診断手法の研究成果が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5―317313号公報
【特許文献2】特許第3991282
【特許文献3】特開2008−142368号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Koizumi. et.al,”Liver Fibrosis in Patients with Chronic Hepatitis C:Noninvasive Diagnosis by Means of Real-time Tissue Elastography-Establishmentof the Method for Measurement” Radiology: Volume 258: Number 2-February 2011
【非特許文献2】菅幹生 「生体組織の定量的粘弾性率分布測定法」、生体医工学Vol. 46. 181-182 (2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2あるいは非特許文献1に記載された技術は、相対的な弾性値を絶対的な評価を行う値に変換する手法を提案している点では有用な技術である。しかし、弾性像の異なる部位の弾性値を相関処理して、弾性値を規格化もしくは指標値化して絶対的な評価を可能にすることに止まるものである。
【0008】
ところで、肝硬変などの診断において、肝が硬くなる肝線維化とともに門脈圧が上昇することが知られている。しかし、血液検査や画像検査から得られる肝硬度と門脈圧との相関は弱く、肝硬度の測定値から門脈圧を精度よく推測するには限界があった。
【0009】
また、肝線維化が進行して肝硬変に近づくに従い、脾機能亢進症が進行することが知られている。しかし、従来は、脾硬度を非侵襲的に、かつ客観的ないし絶対的に評価する手法がないため、脾機能亢進症と脾硬度との関係は明らかにされていない。また、例えば、肝静脈圧の傾きを検査するHVPG(Hepatic Venous Pressure Gradient)法は、肝硬変の進行度、予後の推測、合併症の予測に極めて有用であることが広く認知されている。しかし、HVPG法は、血管造影により肝静脈への選択的カテーテルを挿入する必要があり、侵襲的であることから、非侵襲で肝硬変の進行度を検査する手法の実現が要請されている。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、医用画像装置により非侵襲で計測される弾性情報に基づいて、診断部位の良悪性を評価する特有の診断評価値(例えば、肝における門脈圧など)を求め、非侵襲で診断対象の診断を適切に行うことができる技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の医用画像装置は、時系列的に撮像される被検体の診断部位の断層像情報に基づいて弾性像情報を演算する弾性情報演算部と、前記弾性像情報に基づいて、前記診断部位に設定される第1の部位の弾性値と第2の部位の弾性値の比である硬度比を求める硬度比演算部と、前記硬度比演算部で求めた前記硬度比に対応する診断評価値を、予め設定された前記硬度比と前記診断評価値との相関関係に基づいて算出する診断評価値算出部と、前記弾性像情報に基づいて作成される弾性像と、前記診断評価値算出部で求めた前記診断評価値を表示する画像表示部を備えてなることを特徴とする。
【0012】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、つぎのことを知見して、本発明を構成するに至った。すなわち、門脈圧と脾硬度とに何らかの関係があることについての報告はあるが、脾硬度を非侵襲的にかつ客観的に評価する方法がない。そこで、多数の検体について、医用画像装置により実時間で得られる弾性像情報に基づいて、脾実質の弾性値と脾門部静脈の弾性値との比を脾硬度比として求める一方、それらの各検体について門脈圧を侵襲的に実測して解析した。その結果、脾硬度比と門脈圧とに強い相関、例えば1次関数で表せる相関があることを知見した。特に、非侵襲で得られる弾性情報に基づいて求まる脾硬度比には、年齢及び男性や女性の違いによる個体差があるが、脾硬度比と門脈圧との相関関係によれば、個体差にかかわらず門脈圧を精度良く求めることができることが判明した。
【0013】
これらの知見から、診断部位の良悪性を評価する診断評価値と、その診断対象に係る2つの部位の硬度比との間に、強い相関を示す特定の部位があることが判明した。そこで、本発明は、多数の個体について、診断部位の診断評価値を侵襲的な検査等により予め求めるとともに、特定の2つの部位の硬度比を弾性像情報に基づいて求めて、特定の2つの部位の硬度比と診断評価値との相関関係を解析する。そして、その相関関係に強い相関があれば、その相関関数を近似して求めて予め設定しておくことにより、弾性像情報に基づいて特定の2つの部位の硬度比を求めれば、設定した相関関数に基づいて診断部位の良悪性を評価する診断評価値を客観的に精度よく推定できるから、診断対象の診断を適切ないし的確に行うことが可能になる。
【0014】
すなわち、本発明は、診断部位に係る硬度比と診断評価値との相関関係を予め設定しておき、その硬度比に対応する第1の部位と第2の部位を診断部位に設定する。そして、弾性像情報に基づいて第1の部位と第2の部位の弾性値の比である硬度比を求め、予め設定されている硬度比と診断評価値との相関関数に基づいて診断評価値を求めて画像表示部に表示する。これにより、診断対象について適切な診断を行うことができる。
【0015】
例えば、弾性像情報から求まる脾硬度比=(脾実質/脾門部静脈)と、肝硬変の診断評価値である門脈圧との相関関数は1次関数になり、多数の異なる個体について強く成立する知見を得た。そこで、脾硬度比と門脈圧との相関関数をSEPスコアと称し、このSEPスコア(Splenic Elasticity for Portal hypertension Score)に基づいて、弾性像情報から得た脾硬度比に対応する門脈圧を求めることにより、非侵襲で診断対象の診断を適切に行うことができる。つまり、第1の部位を脾臓の実質に設定し、第2の部位を脾臓の門部静脈に設定して、脾実質と脾門部静脈との比である脾硬度比を求め、予め設定されている脾硬度比と肝臓の門脈圧の相関関数(SEPスコア)に基づいて、弾性像情報から求めた脾硬度比に対応する肝臓の門脈圧を精度よく推定することができる。これにより、肝硬変の診断、病態の予後、合併症の予測にきわめて有効な診断法を実現できる。
【0016】
また、本発明は、脾実質と脾門部静脈に代えて、第1の部位は肝臓の実質に設定し、第2の部位は肝臓の肝静脈に設定することができる。この場合の診断評価値は肝臓の門脈圧で変わらないが、硬度比は肝硬度比である。
【0017】
また、本発明は、弾性像情報に基づいて脾硬度比と肝硬度比の双方を求め、それらと門脈圧との相関関数に基づいて2つの門脈圧を算出して、検査者に提供することができる。これによれば、検査者は、両者を勘案して診断対象について一層適切な診断を行うことができる。
【0018】
本発明によれば、血管造影装置やカテーテルなどの侵襲設備を必要としないから、特に、設備費用が比較的廉価な超音波画像装置で診断評価値を計測することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、医用画像装置により非侵襲で計測される弾性情報に基づいて、診断部位の良悪性を評価する特有の診断評価値(例えば、肝における門脈圧など)を求め、非侵襲で診断対象の診断を適切に行うことができる医用画像装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した一実施形態の超音波画像装置の全体ブロック構成図である。
【図2】図1実施形態の特徴部である診断評価値演算部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】表示画像の一例を示す図である。
【図4】SEPスコアの一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を適用してなる一実施形態の超音波画像装置について、図1用いて説明する。同図に示すように、超音波画像装置1は、被検体10に当接させて用いる超音波探触子12と、超音波探触子12を介して被検体10に時間間隔をおいて超音波を繰り返し送信する送信部14と、被検体10から発生する時系列の反射エコー信号を受信する受信部16と、送信部14と受信部16を制御する送受信制御部17と、受信部16で受信された反射エコーを整相加算する整相加算部18とが備えられている。整相加算部18から出力されるRF信号フレームデータに基づいて、被検体の濃淡断層像例えば白黒断層像を構成する断層像構成部20と、断層像構成部20の出力信号を画像表示器26の表示に合うように変換する白黒スキャンコンバータ22とが備えられている。
【0022】
また、整相加算部18から出力されるRF信号フレームデータを記憶し、少なくとも2枚のフレームデータを選択するRFフレームデータ選択部28と、被検体10の生体組織の変位を計測する変位計測部30と、変位計測部30で計測された変位情報から歪み又は弾性率の弾性情報(弾性値)を求める弾性情報演算部32と、弾性情報演算部32で演算した弾性値に基づいてカラー弾性像を構成する弾性像構成部34と、弾性像構成部34の出力信号を画像表示器26の表示に合うように変換するカラースキャンコンバータ36とが備えられている。そして、白黒断層像とカラー弾性像を並列に表示させたり、重ね合わせて合成画像を生成する表示画像制御部24と、表示画像制御部24から出力される画像を表示する画像表示器26とが備えられている。
【0023】
また、弾性情報演算部32の出力情報から弾性像のエラーを評価するエラー表価部40と、エラー評価部40と弾性像構成部34とカラースキャンコンバータ36とを制御する制御部37と、制御部37に指示を与える入力手段であるパネル部38とが備えられている。
【0024】
次に、超音波画像装置1の各部の構成について詳細に説明する。超音波探触子12は、複数の振動子を配設して形成されており、被検体10に振動子を介して超音波を送受信する機能を有している。送信部14は、超音波探触子12を駆動して超音波を発生させるための送波パルスを生成するとともに、送信される超音波の収束点をある深さに設定する機能を有している。また、受信部16は、超音波探触子12で受信した反射エコー信号について所定のゲインで増幅してRF信号すなわち受波信号を生成するものである。整相加算部18は、受信部16で増幅されたRF信号を入力して位相制御し、一点又は複数の収束点に対し超音波ビームを形成してRF信号フレームデータを生成するものである。
【0025】
断層像構成部20は、整相加算部18からのRF信号フレームデータを入力してゲイン補正、ログ圧縮、検波、輪郭強調、フィルタ処理等の信号処理を行い、断層像データを得るものである。また、白黒スキャンコンバータ22は、断層像構成部20からの断層像データをデジタル信号に変換するA/D変換器と、変換された複数の断層像データを時系列に記憶するフレームメモリと、制御コントローラを含んで構成されている。この白黒スキャンコンバータ22は、フレームメモリに格納された被検体内の断層フレームデータを1画像として取得し、取得された断像フレームデータをテレビ同期などディスプレイの仕様に合わせて読み出すものである。
【0026】
RFフレームデータ選択部28は、整相加算部18からの複数のRF信号フレームデータを格納し、格納されたRF信号フレームデータ群から1組すなわち2つのRF信号フレームデータを選択する。例えば、整相加算部18から時系列すなわち画像のフレームレートに基づいて生成されるRF信号フレームデータをRFフレームデータ選択部28に順次記憶し、記憶されたRF信号フレームデータ(N)を第1のデータとして選択すると同時に、時間的に過去に記憶されたRF信号フレームデータ群(N−1、N−2、N−3…N―M)の中から1つのRF信号フレームデータ(X)を選択する。なお、ここでN、M、XはRF信号フレームデータに付されたインデックス番号であり、自然数とする。
【0027】
変位計測部30は、選択された1組のデータすなわちRF信号フレームデータ(N)及びRF信号フレームデータ(X)から1次元あるいは2次元相関処理を行って、断層像の各点に対応する生体組織における変位や移動ベクトルすなわち変位の方向と大きさに関する1次元又は2次元変位分布を求める。ここで、移動ベクトルの検出にはブロックマッチング法を用いる。ブロックマッチング法とは、画像を例えばN×N画素からなるブロックに分け、関心領域内のブロックに着目し、着目しているブロックに最も近似しているブロックを前のフレームから探し、これを参照して予測符号化すなわち差分により標本値を決定する処理である。
【0028】
弾性情報演算部32は、変位計測部30から出力される計測値、例えば移動ベクトルと、圧力計測部46から出力される圧力値とから断層像上の各点に対応する生体組織の歪みや弾性率を演算し、その歪みや弾性率に基づいて弾性像信号すなわち弾性フレームデータを生成するものである。なお、圧力計測部46から出力される圧力値は歪み算出には不要であるから、弾性値を歪みに限る場合は、省略できる。
【0029】
歪みは、生体組織の移動量例えば変位を空間微分することによって算出される。また、弾性率のデータは、圧力の変化を歪みの変化で除することによって計算される。例えば、変位計測部30により計測された変位をL(X)、圧力計測部46により計測された圧力をP(X)とすると、歪みΔS(X)は、L(X)を空間微分することによって算出することができるから、ΔS(X)=ΔL(X)/ΔXという式を用いて求められる。また、弾性率データのヤング率Ym(X)は、Ym=(ΔP(X))/ΔS(X)という式によって算出される。このヤング率Ymから断層像の各点に相当する生体組織の弾性率が求められるので、2次元の弾性像データを連続的に得ることができる。なお、ヤング率とは、物体に加えられた単純引張り応力と、引張りに平行に生じる歪みに対する比である。
【0030】
弾性像構成部34は、フレームメモリと画像処理部とを含んで構成されており、弾性情報演算部32から時系列に出力される弾性フレームデータをフレームメモリに確保し、確保されたフレームデータに対し画像処理を行うものである。カラースキャンコンバータ36は、弾性像構成部34からの弾性フレームデータに色相情報を付与する機能を有したものである。つまり、弾性フレームデータに基づいて光の3原色すなわち赤(R)、緑(G)、青(B)に変換するものである。例えば、歪みが大きい弾性データを赤色コードに変換すると同時に、歪みが小さい弾性データを青色コードに変換する。なお、カラースキャンコンバータ36には、RGBの三原色ではなく、画素の輝度と色相信号で構成するYUVなどの方式も使用可能である。さらに、独立したスキャンコンバータではなく、画像情報にタイムコードなどの識別符号を付けて大規模メモリーに記入し、表示画像を再構成する方式でもよい。これは白黒画像に於いても同様である。また、カラー変調した画像情報を本来の断層情報と組み合わせて記憶する方式も可能である。また、この大容量メモリーは、動画像メモリーとして複数画像を記録することも可能であり、フレーム画像の他、受波ビームのみのデータでもよい。当然であるが、受波ビームのデータは画像化処理済のデータでもRF信号をAD変換しただけのデータでもよい。後者の場合は、画像化処理機能を後置するが、要は複数のフレーム画像の情報が対応して引用できる構成になっていることが必要である。
【0031】
表示画像制御部24は、フレームメモリと、画像処理部と、画像選択部とを備えて構成されている。ここで、フレームメモリは、白黒スキャンコンバータ22からの断層像データとカラースキャンコンバータ36からの弾性像データとを格納するものである。また、画像処理部は、フレームメモリに確保された断層像データと弾性像データとを合成割合を変更して合成するものである。合成画像の各画素の輝度情報及び色相情報は、白黒断層像とカラー弾性像の各情報を合成割合で加算したものとなる。さらに、画像選択部は、フレームメモリ内の断層像データと弾性像データ及び画像処理部の合成画像データのうちから画像表示器26に表示する画像を選択するものである。なお、フレームメモリとは概念的な記述であり、完全に画像展開したフレーム画像のほか音線データのみでもよい。また、データの種類は画像化処理済のデータでも、RF信号をAD変換しただけのデータでもよい。また、さらに受波ビーム信号のアドレス類やタイムコードなどの引数だけでもよい。この場合は一旦これらの情報を介在して画像データを読み出して再構築する。
【0032】
診断評価値演算部57の詳細構成について、図2を参照して説明する。同図において、弾性情報記憶部60には、弾性情報演算部32からの弾性情報フレームデータが順次記録される。なお、前述したように、記憶される弾性情報フレームデータは、弾性画像そのもののデータに限らず、弾性情報フレームデータを構成する弾性情報を有するデータであればよい。なお、複数フレームに対応した弾性情報フレームデータを時系列的に記憶し、データ収集後に動画像再生するシネメモリ機能を持たせてもよい。本実施形態では、弾性情報記憶部60は、リアルタイム撮像時においては全体の処理速度に対応して順次フレーム画像に対応した弾性情報を次の前処理部61に出力する。画像表示部26のフレームレートに対応して、間引き処理を行うことも可能である。なお、間引きは時間的、空間的に実施可能であり、平均化処理によりデータ数は減少するが統計的には精度低下しない方法もある。フリーズ後は、基本的には全データを用いて処理を行い統計精度の向上をはかることも、再生速度に応じて間引きもしくは時間的空間的に平均化処理を行う事も可能である。このような処理が行われてもタイムコードなどの時相情報を削除することはしない。時間的な平均化を行った場合はリアルタイム、及びシネメモリ動画再生ともに、その処理済データの時相を最適にする。例えば5ms毎にデータを収集し再生時に30ms間のデータを平均化した場合は、平均値としてこの間の中間のフレーム相当する時相を付与する。
【0033】
前処理部61は、弾性情報がフレーム単位で順次処理されるようにする機能を有する。前処理部61は、弾性情報が1フレーム分揃っていない場合は無効データとして排除する。また、弾性情報としての妥当性を、例えばフレームの平均弾性値と画素単位の弾性値との差が設定値よりも大きいか否かを評価して、正常な数値範囲のデータのみを使用する処理を行う。また、各画素の弾性値が設定範囲から外れるような特異点については、周囲のデータとの置換や補間処理などを行って除去する。これらの処理において収集した情報が何らかの原因で無効である場合や妥当なデータに置換した場合は、警告表示や警告音出力等を行うことも可能である。この場合、診断評価値演算制御部69が、警告を受信して表示処理部68に警告表示を指示する。
【0034】
前処理が行われた弾性画像フレームデータは、順次、第1ROI抽出部62と第2ROI抽出部63に入力される。第1ROIと第2ROIは、硬度比を求めるための2つの部位を特定する関心領域であり、インターフェース(I/F)部70と診断評価値演算制御部69を介して、図1のパネル部38と制御部37から入力設定される。すなわち、図3に示すように、脾臓周りの弾性像と断層像が画像表示器26の表示画面に表示されている。図3の例では、パネル部38からの指令に基づいて、血管内部に脾門部静脈の位置にROI1が設定され、脾実質の組織の位置にROI2が設定されている。ROIの形状は、テンプレートなどにより演算に必要な大きさの領域をカバーするように予め設定されているが、インターフェース部70からの指令により位置を指定するとともに、大きさを調整できるようになっている。また、断層像形状を処理して特徴を抽出し、第1ROIと第2ROIを記憶して、テンプレートを作成しておくことにより、ROIの設定操作を容易にすることができる。ROIの調整はパネル部38に設置されたトラックボールやジョイスティック、キーボード入力などで用手的に可変入力、もしくは過去の例を引用することで行う。
【0035】
第1ROI抽出部62は、診断評価値演算制御部69の指令を受けて、弾性像フレームデータから、脾実質に設定されている第1ROIに含まれる各画素の弾性値を抽出して、その平均値を第1ROIの弾性値として出力する。また、第2ROI抽出部63も同様に、脾門部静脈に設定されている第2ROIに含まれる各画素の弾性値を抽出して、その平均値を第2ROIの弾性値として出力する。
【0036】
このようにして求められた第1ROIと第2ROIの弾性値は、比演算部64に出力され、ここにおいて次式(1)により脾硬度比が求められる。
脾硬度比=(第1ROIの弾性値)/(第2ROIの弾性値)
=(脾実質の弾性値)/(脾門部静脈の弾性値) (1)
求められた脾硬度比は、診断評価値算出部65に出力される。診断評価値算出部65には、予め設定された2つの特定部位の硬度比と、診断部位の良悪性を評価する診断評価値との相関を表す関数が数式又はデータテーブルの形で記憶されている。本実施形態の場合は、図4に示すように、脾硬度比と門脈圧との相関を直線近似した1次式のSEPスコアが記憶されている。そして、診断評価値算出部65は、図4に示すSEPスコアに基づいて、比演算部64から出力される脾硬度比に対応する門脈圧[mmHg]を肝硬変の診断評価値として算出する。
【0037】
診断評価値算出部65で算出された診断評価値の門脈圧は、記憶部67に記憶された後、表示処理部68を介して弾性像構成部34に出力され、例えば、弾性像と断層像の合成画像に加えて、門脈圧が数値表示される。
【0038】
このように、本実施形態によれば、SEPスコアに基づいて、弾性像情報から得た脾硬度比に対応する門脈圧を精度よく推定することができるから、非侵襲で診断対象の診断を適切に行うことができる。その結果、肝硬変の診断、病態の予後、合併症の予測にきわめて有効な診断法を実現できる。
【0039】
本実施形態において、図2の前処理部61は、第1ROI抽出部及び第2ROI抽出部の後に置くことができる。これにより、前処理を狭いROIについてのみ行えばよいから、処理を高速化することができる。なお、診断評価値演算制御部69は診断評価値演算部57のうち60から68を制御する。これらの制御は60−68から送られてくる信号に基づいて実行される診断評価値演算制御部69は インターフェイス部70を介在して超音波画像装置1により制御を受け、また状態を示す情報を送り相互に制御しあう。
【0040】
また、本実施形態においてSEPスコアを直線で近似した例を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、2次曲線又は3次曲線で近似することができる。さらに、近似直線又は曲線に一定の幅αを設け、診断評価値に±αの値を付して出力表示するようにしてもよい。また、検査者が経験則を干渉項として付加することもできる。また、SEPスコアは、臨床データの増大に合わせて更新することが好ましい。
【0041】
図1の実施形態において、説明しなかったが、被検体10の生体信号を計測する生体信号計測部47を設け、生体信号計測部47から出力される心電波形に基づいて心時相を抽出し、診断評価値演算部57の弾性情報記憶部60に心時相を併せて記録することができる。これにより、脾臓と門脈を同一の超音波断層像で観察し、弾性像情報のデータ収集を行う場合、用手的圧迫に代えて心臓の拍動による加圧を利用することができる。すなわち、シネメモリに弾性像の動画像を記録する場合には、心電図もしくは心電のR波からの経過時間をフレームデータに付与して記録する。タイムマークなどの記録に於いてもR波の位置を別途記録し、心時相を判別できるようにする。この場合、前処理部61は、時経列の弾性動画像から診断に適した時相の弾性動画像のみを抽出することができる。また、候補となる同一心時相の絶対時間が異なる複数の画像を並列表示して検査者が選択可能にすることができる。さらに、各画像の前後の心時相に対応した画像も併せて表示することにより、脾硬度比を演算する対象の弾性像データを選択して、正確を期することができる。
【0042】
図1の実施形態においては、リアルタイム処理を例に示したが、本発明はリアルタイム処理に限られるものではなく、シネメモリなどに弾性像データを格納し、パーソナルコンピュータもしくはワークステーションなどの情報処理装置により、オフライン処理することができる。
【0043】
また、上記実施形態では、2つのROIの弾性値の比を1つ求めて、SEPスコアに基づいて門脈圧を求める例を示したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、肝硬度比 =(肝実質の弾性値)/(肝静脈の弾性値)と、肝硬変の診断評価値である門脈圧との相関データを予め侵襲的に取得しておき、その相関データに基づいて、弾性像情報から求めた肝硬度比に対応する門脈圧を求めるようにすることができる。但し、この場合は、肝硬度比と門脈圧との相関データにばらつきがあることから、SEPスコアに基づいて求めた門脈圧をバックチェックするものとして行うのが好ましい。しかし、将来、肝硬度比と門脈圧との相関データを補正するなどの手法が開発されれば、SEPスコアに代えて門脈圧の評価を行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
1 超音波画像装置
10 被検体
12 超音波探触子
14 送信部
16 受信部
17 送受信制御部
18 整相加算部
20 断層像構成部
22 白黒スキャンコンバータ
24 表示画像制御部
26 画像表示器
28 RF信号フレームデータ選択部
30 変位計測部
32 弾性情報演算部
34 弾性像構成部
36 カラースキャンコンバータ
37 制御部
38 パネル部
47 生体信号計測部
57 診断評価値演算部
60 弾性情報記憶部
61 前処理部
62 第1ROI抽出部
63 第2ROI抽出部
64 比演算部
65 診断評価値算出部
67 記憶部
68 表示処理部
69 診断評価値演算制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列的に撮像される被検体の診断部位の断層像情報に基づいて弾性像情報を演算する弾性情報演算部と、
前記弾性像情報に基づいて、前記診断部位に設定される第1の部位の弾性値と第2の部位の弾性値の比である硬度比を求める硬度比演算部と、
前記硬度比演算部で求めた前記硬度比に対応する診断評価値を、予め設定された前記硬度比と前記診断評価値との相関関係に基づいて算出する診断評価値算出部と、
前記弾性像情報に基づいて作成される弾性像と、前記診断評価値算出部で求めた前記診断評価値を表示する画像表示部を備えてなる医用画像装置。
【請求項2】
前記第1の部位は脾臓の実質に設定され、前記第2の部位は脾臓の門部静脈に設定され、
前記硬度比は脾硬度比であり、前記診断評価値は肝臓の門脈圧であることを特徴とする請求項1に記載の医用画像装置。
【請求項3】
前記第1の部位は肝臓の実質に設定され、前記第2の部位は肝臓の肝静脈に設定され、
前記硬度比は肝硬度比であり、前記診断評価値は肝臓の門脈圧であることを特徴とする請求項1に記載の医用画像装置。
【請求項4】
時系列的に撮像される被検体の診断部位の断層像情報に基づいて弾性像情報を演算する弾性情報演算部と、
前記弾性像情報に基づいて、前記診断部位に設定される脾臓の実質の弾性値と脾臓の門部静脈の弾性値との比である脾硬度比、及び肝臓の実質の弾性値と肝臓の肝静脈の弾性値との比である肝硬度比を求める硬度比演算部と、
前記硬度比演算部で求めた前記脾硬度比に対応する第1の診断評価値及び前記肝硬度比に対応する第2の診断評価値を、それぞれ予め設定された前記脾硬度比と前記第1の診断評価値及び前記肝硬度比と前記第2の診断評価値との相関関係に基づいて算出する診断評価値算出部と、
前記弾性像情報に基づいて作成される弾性像と、前記診断評価値算出部で求めた前記第1の診断評価値と前記第2の診断評価値を表示する画像表示部を備えてなる医用画像装置。
【請求項5】
前記被検体の診断部位の断層像情報は、超音波画像装置により撮像されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の医用画像装置。
【請求項6】
前記被検体の診断部位の断層像情報は、磁気共鳴画像装置により撮像されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の医用画像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−136(P2013−136A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130701(P2011−130701)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】