説明

医用装置、治療装置、光プローブの評価方法及び校正方法

【課題】低パワーで光を照射する場合でも正確に校正することができること。
【解決手段】光プローブ200の校正を行う場合に、演算部107は、自然放出光の発光領域(Iop<Ith)の場合には、y=ax+bx+cの演算式を使って、レーザ光の発光領域(Iop≧Ith)の場合には、y=dx+eの演算式を使って、校正部103の出力とモニタ部106の出力との相関関係を示す近似式を求める。ここで、半導体レーザ111に注入する電流をIop、半導体レーザ111における閾値電流、yは校正部103の出力(現行値:P)、xはモニタ部106の出力(モニタ値:Vmoni)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、例えば光線力学療法を用いた治療や薬剤濃度のモニタに用いられる医用装置、治療装置、光プローブの評価方法及び校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医用レーザ装置としては、1960年代に基礎検討が始められたのに続き、1970年代にはCOレーザ、ND:YAGレーザ、Arイオンレーザ、ルビーレーザなどのレーザ治療器が開発され、普及した。次世代機には、小型化可能で維持・管理が容易な半導体レーザを光源とする装置が開発されている。レーザ技術の発展と薬剤研究の進展によって、レーザ光に反応する蛍光薬剤を特定の細胞に集積させた後にレーザ光を当てて細胞内部から破壊する治療(光線力学療法:PDT(Photo Dynamic Therapy))が近年注目されている。PDTは主に肺癌や脳腫瘍の分野で発展し、浜松ホトニクス製エキシマダイレーザやパナソニック製PDT用レーザ装置などのレーザ装置が広く普及している。
【0003】
レーザ治療器において治療の中に光出力がどれだけ照射されているかを正確に把握できることは、無駄な照射エネルギーを患部に与えるリスクや、照射エネルギーの不足による治療効果が得られないといったリスクを避けられることができる。PDTにおいては、過度な蛍光薬剤の投与というリスクも避けられることができ、より安全で正確な治療を提供するには、重要な技術の一つとなっている。
【0004】
一方、PDT用レーザ治療器において光が照射される部分(光プローブ)は生体と触れるため、施術ごとに交換するのが通例である。光プローブは光ファイバを内在させて光を伝送している場合が大部分であり、その伝送率はプローブの個体差によって大きく変動してしまう。
【0005】
このため、特許文献1には、光プローブに個体情報を入力しておき接続時に個体情報に基づき光パワーを校正する技術が記載されている。特許文献2には、製品個体識別を用いて光パワーを校正する技術が開示されている。しかし、これらの技術では、光プローブの情報は使用直前のものではなく、滅菌や輸送、取付工程による特性の変化を含むことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−350933号公報
【特許文献2】特開2003−10232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PDTでは、治療効果のない低パワー(数mW以下)で光を照射して、血中の薬剤濃度をリアルタイムでセンシングする必要が生ずる。
本発明者らは、このような治療効果のない低パワーの範囲において使用直前に校正を行ってみたが、正確に校正できなかった。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、低パワーで光を照射する場合でも正確に校正することができる医用装置、治療装置、光プローブの評価方法及び校正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本技術に係る医用装置は、光プローブに導出される、少なくとも自然放出光からなる光を発光することが可能な光源部と、前記光源部から出射された光の強度を検出する第1の検出部と、前記光プローブに対する校正のために、前記第1の検出部により検出された光の強度から非線形関数に近似する演算を行う演算部とを具備する。
【0010】
本技術では、光プローブに導出される光の強度から非線形関数に近似する演算を行い、この演算結果をもとに光プローブに対し校正しているので、低パワーで光を照射する場合でも正確に校正することができる。
【0011】
本技術に係る医用装置は、前記光源部が半導体レーザを備え、前記演算部が前記半導体レーザが前記レーザ光からなる光を発光している場合には、前記光プローブに対する校正のために、前記第1の検出部により検出された光の強度から線形関数に近似する演算を行えばよい。
【0012】
本技術では、半導体レーザはレーザ光ばかりでなく、低パワー発光時には自然放出光も発光することとなるが、自然放出光からレーザ光までの広パワー帯域において正確に校正することができる。
【0013】
本技術に係る医用装置は、前記演算部は、前記半導体レーザのレーザ発振閾値電流に基づき、前記半導体レーザが前記自然放出光からなる光を発光するか、前記半導体レーザが前記レーザ光からなる光を発光するかを判断すればよい。
本技術では、半導体レーザがレーザ光か自然光かを発光していることを正確に判断することができ、広パワー帯域において正確に校正することができる。る
【0014】
本技術に係る医用装置は、前記光プローブが着脱可能であり、前記装着された光プローブに前記光源部が発光した光を導出する導出部と、記導出部に装着された光プローブから出射される光の出力を検出する第2の検出部をさらに具備し、前記演算部は、前記第1の検出部により検出された光の強度と前記第2の検出部により検出された光の出力との相関を、前記非線形関数に近似する演算により求めるようにしてもよい。
【0015】
本技術に係る医用装置は、前記演算部は、前記光プローブから出射されている光の出力を、前記求められた相関に基づき前記第1の検出部により検出された光の強度から算出すればよい。
【0016】
本技術に係る医用装置は、前記演算部により算出された、前記光プローブから出射されている光の出力を表示する表示部と、前記光源部が発光する光の出力を調整する操作が可能な操作部とをさらに具備すればよい。これにより、リアルタイムに正確な施術を行うことが可能となる。
【0017】
本技術の別の観点に係る治療装置は、半導体レーザと、前記光プローブの一端が着脱可能で、前記一端に前記半導体レーザからの光を導出する導出部と、前記光プローブの校正時に、前記光プローブの他端が挿入され、前記他端からの光の出力を検出する校正部と、前記半導体レーザからの光の強度と前記校正部で検出された光の出力との相関を、前記半導体レーザのレーザ光の発光時には前記非線形関数に近似する演算により求め、前記半導体レーザの自然放出光の発光時には前記線形関数に近似する演算により求める演算部とを具備する。
【0018】
本技術の別の観点に係る光プローブの評価方法は、光プローブの一端に光を導入し、前記光プローブの他端から光を導出し、光プローブごとの、導入した光の強さと導出された光の出力との相関を、非線形関数に近似する演算により求める。
【0019】
ここで、前記光プローブに導入される光がレーザ光の場合には、導入した光の強さと導出された光の出力との相関を、線形関数に近似する演算により求めればよい。
【0020】
本技術のさらに別の観点に係る校正方法は、光プローブの一端に半導体レーザからの光を導出し、前記光プローブの他端からの光の出力を検出し、前記半導体レーザからの光の強度と前記検出された光の出力との相関を、前記半導体レーザのレーザ光の発光時には前記非線形関数に近似する演算により求め、前記半導体レーザの自然放出光の発光時には前記線形関数に近似する演算により求める。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本技術によれば、低パワーで光を照射する場合でも正確に校正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本技術に係る一実施形態の心房細動に対するPDT用レーザ治療装置の外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示したPDT用レーザ治療装置の構成を示すブロック図である。
【図3】自然放出光の発光領域である低パワー域においてはニ次関数を、レーザ光の発光領域である高パワー領域においては一次関数をそれぞれ用いて校正を行った場合の校正精度の一例を示すグラフである。
【図4】半導体レーザに注入される電流に対する校正部の出力との関係を示すグラフである。
【図5】半導体レーザに注入される電流とモニタ部の出力との関係を示すグラフである。
【図6】校正部の出力とモニタ部の出力との相関関係を示すグラフである。
【図7】半導体レーザの自然放出光の発光領域において校正部の出力とモニタ部の出力との関係を二次関数(非線形)を用いて近似した例を示すグラフである。
【図8】半導体レーザのレーザ光の発光領域において校正部の出力とモニタ部の出力との関係を一次関数(線形)を用いて近似した例を示すグラフである。
【図9】モニタ部によりモニタされる光の強度と光プローブから出射される光の出力との関係が常に線形と考えて校正を行った場合の校正精度を示すグラフである。
【図10】光プローブの一例を示す斜視図である。
【図11】図10に示す光プローブよりアプリケータを取り外した状態を示す斜視図である。
【図12】図10及び図11に示した光プローブが滅菌、梱包された状態を示す斜視図である。
【図13】本技術に係る一実施形態の校正作業の詳細を示すフロー図である。
【図14】光プローブの一端である光入射部を導出部に装着した状態のPDT用レーザ治療装置の外観を示す斜視図である。
【図15】本技術に係る一実施形態のPDT用レーザ治療装置を使っての施術のフロー図である。
【図16】光プローブからアプリケータ202を外した状態のPDT用レーザ治療装置の外観を示す斜視図である。
【図17】本技術に係る他の実施形態のPDT用レーザ治療装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本技術に係る実施形態を図面を参照しながら説明する。
[PDT用レーザ治療装置の構成]
【0024】
図1は、本技術に係る一実施形態の心房細動に対するPDT用レーザ治療装置の外観を示す斜視図であり、このPDT用レーザ治療装置を用いて光プローブの校正をしている状態を示す。図2は、PDT用レーザ治療装置100の構成を示すブロック図である。
【0025】
図1及び図2に示すように、医用装置としてのPDT用レーザ治療装置100は、導出部101と、第2の検出部としての校正部102と、表示部103と、ロック解除ボタン104とを具備する。PDT用レーザ治療装置100は、さらに、光源部105と、第1の検出部としてのモニタ部106と、演算部107と、操作部108とを具備する。このPDT用レーザ治療装置100は、レーザ光からなる光ばかりでなく、低出力の自然放出光からなる光も出力する。レーザ光からなる光は主として治療に用いられ、自然放出光からなる光は主として薬剤濃度をモニタするときに用いられる。
【0026】
光源部105は、例えばAlGaInP系高出力半導体レーザ111を備える。半導体レーザとしては、これに限定されず、例えばGaN系の半導体レーザなどを用いることができる。光源部105から出射された光は、モニタ部106及び導出部101を介して光プローブ200へと伝送される。
【0027】
導出部101は、光プローブ200の光入射部201が着脱可能であり、装着された光プローブ200に光源部105から出射された光を導出する。
【0028】
モニタ部106は、導出部101に装着された光プローブ200に導かれる光、つまり光源部105から出力され、導出部101へと導かれる光の強度を検出する。モニタ部106は、例えば、ハーフミラー112と、モニタ用フォトダイオード(PD)113とを備える。ハーフミラー112は、光源部105から出力され、導出部101へと導かれる光の光路に配置され、その光の一部を取り出す。取り出された光は、モニタ用フォトダイオード113に導かれる。モニタ用フォトダイオード113は、ハーフミラー112により取り出された一部の光に基づき導出部101から光プローブ200に導かれる光の強度を検出する。この実施形態では、光を取り出すためにハーフミラー112を用いているが、これに代わりビームスプリッター、サンプラーなどの他の光学素子を用いても勿論構わない。
【0029】
術中での光出力のモニタ値は、モニタ用フォトダイオード113により検出された光の強度に基づき得ている。つまり、モニタ用フォトダイオード113により検出された光の強度を術中に光プローブ200の先端から出射される光の出力とみなし、モニタ用フォトダイオード113により検出された光の強度を術中のモニタ値としている。しかし、モニタ用フォトダイオード113により検出された光の強度と光プローブ200の先端から出射される光の出力との相関性は光プローブ200の個体差から必ずしも一定ではしない。そこで、PDT用レーザ治療装置100では、光プローブ200が装着されるたびに校正(キャリブレーション)を行っている。
【0030】
光プローブ200は光ファイバを内在させて光を伝送している場合が大部分であり、その伝送率はプローブの個体差によって大きく変動する。つまり、光プローブ200を通過してその先端から出射される光の出力は、光プローブ200の個体差によって変動する。このような個体差は、無駄な照射エネルギーを患部に与えるリスクや照射エネルギーの不足による治療効果が得られないといったリスク、PDTにおいては過度な蛍光薬剤の投与というリスクの原因となる。校正部102は、光プローブ200の個体差を校正するため、光プローブ200の使用の直前にアプリケータ202の先端部が挿入される部位である。校正部102は、校正部102に設けられたロック機構(図示せず)が先端部の溝などに係合した状態で、光プローブ200からの光の出力を計測する。なお、ロック解除ボタン104を押すことにより、出力計測部101からアプリケータ202の先端部を離脱することができる。
【0031】
校正部102は、光プローブ200から出射される光の出力を測定するため、積分球やレンズなど集光素子114で集光させフォトダイオード115で受光し、現行値を得る。光プローブ200は施術ごとに交換されるため、交換するたびに校正作業が行われることになる。
演算部107は、光プローブに対する校正のために、モニタ部106により検出された光の強度を後述する関数を使って演算する。
【0032】
表示部103は、校正された、光プローブ200から出射されている光の出力をリアルタイムに表示する。操作者は、表示部103に表示された値を見ながら操作部108を操作して施術を行う。
操作部108の操作によって半導体レーザ111に注入される電流が調整され、半導体レーザ111から出射される光の出力が所望値に可変される。
【0033】
上記の校正は、図1に示したように、導出部101に装着された光プローブ200を校正部102に挿入し、光源部105から光を出射させ、モニタ部106により検出された光の強度と校正部103で検出される光の出力との相関性を取得するものである。
【0034】
より具体的には、半導体レーザ111に注入される電流を例えば徐々に上げていき、複数のポイントで、モニタ部106により検出された光の強度と校正部103で検出される光の出力との関係を取得する、その結果から相関性を取得する。実際の治療などでは、モニタ部106から光の強度をモニタし、取得した相関性から光プローブ200から出射されている光の出力を推定している。
【0035】
半導体レーザ111は、一般的に、半導体レーザ111に注入される電流とモニタ部106により検出されるレーザ光の強度とは線形の関係にある。従って、モニタ部106によりモニタされる光の強度と光プローブ200から出射される光の出力との関係は線形の関係にあると思われていた。
【0036】
一方、このPDT用レーザ治療装置100では、治療効果のない低パワー(数mW以下)で光を照射して、血中の薬剤濃度をリアルタイムでセンシングする必要が生ずる。本発明者らの知見によれば、モニタ部106によりモニタされる光の強度と光プローブ200から出射される光の出力との関係が線形と考えて校正を行うと、校正精度が非常に悪いということを見出した。
【0037】
図3はモニタ部106によりモニタされる光の強度と光プローブ200から出射される光の出力との関係が常に線形と考えて校正を行った場合の校正精度を示している。この結果から分かるように0.1W程度以下の低パワー域において、校正精度が非常に悪く、これでは例えば血中の薬剤濃度を正確に評価できないこととなる。
【0038】
図4は半導体レーザ111に注入される電流Iopに対する校正部103の出力(現行値:P)との関係を示している。図5は半導体レーザ111に注入される電流Iopとモニタ部106の出力(モニタ値:Vmoni)との関係を示している。図6はこのときの校正部103の出力(現行値:P)とモニタ部106の出力(モニタ値:Vmoni)との相関関係を示している。
【0039】
図6から明らかなように、校正部103の出力(現行値:P)とモニタ部106の出力(モニタ値:Vmoni)との関係は、低パワー域において線形にはならない。
【0040】
これは、半導体レーザ111は、低パワー域においてはレーザ発振をせずに、自然放出光を出射することが原因であるということが、本発明者らが見出した知見である。より具体的には、本発明者らは以下の原因があると考えた。
(1)自然放出光とレーザ光での放射角の違いによる光プローブ200を構成する光ファイバへの結合効率の変化がある。
【0041】
(2)本発明者らは自然放出光ではレーザ光と比較して発振波長が広くなるため光プローブ200まで伝送される間に使用した光源部105の波長特性の影響を受ける。
【0042】
(3)モニタ部106におけるハーフミラー112の反射率がレーザ光よりも広帯域の波長特性を有していることから、自然放出光の方がハーフミラー112で反射される光が強くなってしまう。
【0043】
(4)自然放出光の放射角はレーザ光の放射角に比し当然広角であることから、モニタ部106におけるフォトダイオード113の位置に照射される範囲が自然放出光の方が広くなり、実際にはフォトダイオード113の部分以外にも光が照射されることになる。
【0044】
そこで、このPDT用レーザ治療装置100では、演算部107が低パワー域(自然放出光の発光領域)とその以上のパワー域(レーザ光の発光領域)とで異なる演算を行って広いパワー域で校正精度を上げている。
【0045】
ここで、半導体レーザ111に注入する電流をIopとする。また、半導体レーザ111の自然放出光の発光領域とレーザ光の発光領域との境界における、半導体レーザ111への電流を閾値電流Ithとする。
演算部107は、自然放出光の発光領域(Iop<Ith)の場合には、
y=ax+bx+c (式1)
の二次関数を使って校正部103の出力とモニタ部106の出力との相関関係を示す近似式を求める。
ここで、yは校正部103の出力(現行値:P)、xはモニタ部106の出力(モニタ値:Vmoni)とする。
演算部107は、レーザ光の発光領域(Iop≧Ith)の場合には、
y=dx+e (式2)
の一次関数を使って校正部103の出力とモニタ部106の出力との相関関係を示す近似式数を求める。
なお、上記近似式は例えば最小自乗法などを使って求める。
【0046】
半導体レーザ111のレーザ光の発光領域では一次関数(線形)の演算式(式2)を用いて校正部103の出力とモニタ部106の出力との相関関係を算出している。演算部107は、半導体レーザ111の自然放出光の発光領域においては二次関数(非線形)の演算式(式1)を用いて校正部103の出力とモニタ部106の出力との相関関係を算出している。
【0047】
図7は半導体レーザ111の自然放出光の発光領域において校正部103の出力(P)とモニタ部106の出力(Vmoni)との関係を二次関数(非線形)を用いて近似した例を示している。図8は半導体レーザ111のレーザ光の発光領域において校正部103の出力(P)とモニタ部106の出力(Vmoni)との関係を一次関数(線形)を用いて近似した例を示している。
【0048】
図7及び図8において、関数を示す線近傍に表示された点は校正時に実際に測定したポイントを示している。
【0049】
以上のように、自然放出光の発光領域である低パワー域においてはニ次関数を、レーザ光の発光領域である高パワー領域においては一次関数をそれぞれ用いて校正を行った場合の校正精度の一例を図9に示す。
【0050】
図9から、図3における校正精度に比し、一般に装置の性能として求められる校正精度20%を満たしている範囲は、65mW〜1Wから500μW〜1Wと低パワー域において約2桁改善されたことが分かる。
【0051】
従って、このPDT用レーザ治療装置100では、治療だけでなく、例えば薬剤濃度をモニタするときでも光プローブ200から出射される光の出力を正確に把握することができる。また、別の観点からすると、校正時に少ないサンプル数で演算できるため、短時間で正確な校正が可能となる。
[光プローブの一例]
図10及び図11は光プローブの一例を示す斜視図である。
図10に示すように、光プローブ200には、アプリケータ202が被覆されている。
【0052】
光プローブ200は血管等の体腔内に挿入され、その先端の光出射部からレーザ光などが出射される。光プローブ200では、体腔内に挿入される前に、光プローブ200の光出射部から出射される光の出力が校正部102によって計測される。
【0053】
この例では、光の出力の計測は、光プローブ200にアプリケータ202が装着された状態で行われる。計測した後に、図11に示すように、光プローブ200からアプリケータ202が引き抜く。この状態で、光プローブ200を用いて施術が行われる。光プローブ200は、体腔内に挿入される領域がアプリケータ202によって覆われている。従って、光パワーメータの不潔な領域に接近又は接触するなどによって、光プローブ200が汚染されることはなく、光プローブ200の清潔性を保持することができる。
【0054】
光プローブ200の全長は例えば3mであり、アプリケータ202の全長は例えば1.1m〜1.2m程度である。施術時には、光プローブ200は例えば1m程度、体内に挿入される。
【0055】
光プローブ200は、レーザ光や自然放出光を導光するものであり、一端に導出部101に接続される光入射部201と、他端にレーザ光を出射する光出射部204とを有する。光入射部201にはFC型やSMA型等の光コネクタ(図示せず)が設けられ、導出部101に接続される。光出射部204は、施術時において体腔内に挿入される。
【0056】
アプリケータ202は、光プローブ200の光出射部204からのレーザ光を例えば開閉可能な窓部を介して外部に出射可能に光プローブ200を被覆し、光プローブ200から離脱可能となっている。
【0057】
なお、光プローブ200は、図12に示すように、梱包材205とともにEOG(エチレンオキサイドガス)あるいは放射線滅菌処理がされ、光プローブ梱包体206となり、光プローブ梱包体206の状態で医療機関に提供される。使用時には、梱包材205が開封され光プローブ200が取り出される。
[校正作業]
次に、このように構成されたPDT用レーザ治療装置100における校正作業を説明する。
図13は校正作業の詳細を示すフロー図である。
光プローブ200は、例えば径の異なる複数種類が用意されている。操作者は施術に応じてそれに適した光プローブ200を選択する(ステップ131)。
【0058】
次に、操作者は、図14に示すように、清潔領域確保のためにアプリケータ202が装着された状態で、光プローブ200の一端である光入射部201を導出部101に装着する(ステップ132)。
【0059】
次に、操作者は、図1に示したように、アプリケータ202が装着された状態で、光プローブ200の他端である光出射部204を校正部102に挿入する(ステップ133)。
【0060】
次に、光源部105における半導体レーザ111に電流(Iop)を注入する(ステップ134)。その後、段階的に、この電流(Iop)を上げていく。段階的に下げていくようにしても勿論構わない。或いは、他の設定方法であっても構わない。
【0061】
校正部102では、半導体レーザ111に注入された電流(Iop)に対する光プローブ200からの光の出力(P)を測定する(ステップ135)。その結果は、例えば図4に示したようになる。
【0062】
これと同様に、モニタ部106でも、半導体レーザ111に注入された電流(Iop)に対する光プローブ200への光の強度(Vmoni)を測定する(ステップ136)。その結果は、例えば図5に示したようになる。
【0063】
演算部107では、半導体レーザ111に注入された電流(Iop)を共通項として測定された光プローブ200からの光の出力(P)と光プローブ200への光の強度(Vmoni)の相関関係を示す近似式を算出する(ステップ137)。
【0064】
演算部107では、その近似式を算出する際に、半導体レーザ111に注入された電流(Iop)が閾値電流Ith以下の場合には非線形関数である二次関数を用いて近似式を算出する。半導体レーザ111に注入された電流(Iop)が閾値電流Ithを超える場合には線形関数である一次関数を用いて近似式を算出する。
図7の例でいうと、近似式として、
y=−13373x+1316.5x+0.7079
が算出されている。
図8の例でいうと、近似式として、
y=772.37x‐62.756
が算出されている。
以上で校正作業は終了する。
演算部107では、このように算出された2つの近似式が現在接続されている光プローブ200に対する校正のための式として記憶される。
[PDT用レーザ治療装置を使った施術]
校正作業が終了した後、施術が実施される。
図15はこのように構成されたPDT用レーザ治療装置100を使っての施術のフロー図である。
図16に示すように、操作者は、光プローブ200からアプリケータ202を外し、光プローブを患者に挿入する(ステップ151)。
次に、操作者は、操作部108を操作することで、光プローブ200から出射される光の出力を設定する(ステップ152)。
ここで、校正時に演算部107で算出された演算式を使ってその光の出力(P)に適したモニタ値(Vmoni)が算出される(ステップ153)。
【0065】
演算部107は、術中はモニタ値(Vmoni)が算出された値となるように、半導体レーザ111に注入された電流(Iop)を制御して半導体レーザ111より光を出力させる(ステップ154)。
【0066】
従って、このPDT用レーザ治療装置100では、治療だけでなく、例えば薬剤濃度をモニタするときにも、光プローブ200から所望とする光の出力を安定して得ることができる。
[他の実施形態]
【0067】
図17は他の実施形態に係るPDT用レーザ治療装置の構成を示すブロック図である。なお、同図に示す実施形態において上記の実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0068】
図17に示すように、このPDT用レーザ治療装置300は、モニタ部307の構成が上記実施形態と異なる。このモニタ部307は、光源部305に設けられた半導体レーザ308の光出力側とは反対側から一部出力される光の強度を検出するモニタ用フォトダイオード309を有する。
【0069】
モニタ用フォトダイオード309により検出された光の強度は、モニタ値(Vmoni)として演算部107に送られる。演算部107は、上記の実施形態と同様にこのモニタ値(Vmoni)を校正や治療などに用いる。
【0070】
このように構成されたPDT用レーザ治療装置300は、モニタ部307がハーフミラーを不要とすることになるから部品点数を削減できる。また、ハーフミラーなどの光学部品では、モニタ用フォトダイオードに導く光の光学特性が自然放出光とレーザ光とで異なることとなり、校正精度を悪くする一因となっていた。しかし、このPDT用レーザ治療装置300では、このような光学部品をなくしているので、校正精度が向上することになる。
[その他]
本技術は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更を加えた形態で実施することが可能であり、その範囲も本技術に含まれるものである。
【0071】
例えば、上記の実施形態においては、心房細動に対するPDT用レーザ治療装置に本技術を適用したものであったが、心臓などに対するレーザ治療装置にも本技術を適用である。
【0072】
また、上記の実施形態においては、光源部が有する、光を発光する光学素子として半導体レーザを挙げて説明したが、半導体レーザ以外の他の光学素子を用いても勿論構わない。例えば、半導体レーザに代えて発光ダイオード(LED)を用いてもよい。発光ダイオードを光源部に有する本技術に係る医用装置は、例えば治療装置としてではなく薬剤濃度をモニタする検査装置として用いることができる。
本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)光プローブに導出される、少なくとも自然放出光からなる光を発光することが可能な光源部と、
前記光源部から出射された光の強度を検出する第1の検出部と、
前記光プローブに対する校正のために、前記第1の検出部により検出された光の強度から非線形関数に近似する演算を行う演算部と
を具備する医用装置。
(2)前記(1)に記載の医用装置であって、
前記光源部は、半導体レーザを備え、
【0073】
前記演算部は、前記半導体レーザが前記レーザ光からなる光を発光している場合には、前記光プローブに対する校正のために、前記第1の検出部により検出された光の強度から線形関数に近似する演算を行う
医用装置。
(3)前記(1)又は(2)に記載の医用装置であって、
【0074】
前記演算部は、前記半導体レーザのレーザ発振閾値電流に基づき、前記半導体レーザが前記自然放出光からなる光を発光するか、前記半導体レーザが前記レーザ光からなる光を発光するかを判断する
医用装置。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の医用装置であって、
前記光プローブが着脱可能であり、前記装着された光プローブに前記光源部が発光した光を導出する導出部と、
前記導出部に装着された光プローブから出射される光の出力を検出する第2の検出部をさらに具備し、
【0075】
前記演算部は、前記第1の検出部により検出された光の強度と前記第2の検出部により検出された光の出力との相関を、前記非線形関数に近似する演算により求める
医用装置。
(5)前記(4)に記載の医用装置であって、
前記演算部は、前記光プローブから出射されている光の出力を、前記求められた相関に基づき前記第1の検出部により検出された光の強度から算出する
医用装置。
(6)前記(5)に記載の医用装置であって、
前記演算部により算出された、前記光プローブから出射されている光の出力を表示する表示部と、
前記光源部が発光する光の出力を調整する操作が可能な操作部と
をさらに具備する医用装置。
(7)半導体レーザと、
前記光プローブの一端が着脱可能で、前記一端に前記半導体レーザからの光を導出する導出部と、
前記光プローブの校正時に、前記光プローブの他端が挿入され、前記他端からの光の出力を検出する校正部と、
【0076】
前記半導体レーザからの光の強度と前記校正部で検出された光の出力との相関を、前記半導体レーザのレーザ光の発光時には前記非線形関数に近似する演算により求め、前記半導体レーザの自然放出光の発光時には前記線形関数に近似する演算により求める演算部と
を具備する治療装置。
(8)光プローブの一端に光を導入し、
前記光プローブの他端から光を導出し、
光プローブごとの、導入した光の強さと導出された光の出力との相関を、非線形関数に近似する演算により求める
光プローブの評価方法。
(9)前記(8)の方法であって、
前記光プローブに導入される光がレーザ光の場合には、導入した光の強さと導出された光の出力との相関を、線形関数に近似する演算により求める
光プローブの評価方法。
(10)光プローブの一端に半導体レーザからの光を導出し、
前記光プローブの他端からの光の出力を検出し、
【0077】
前記半導体レーザからの光の強度と前記検出された光の出力との相関を、前記半導体レーザのレーザ光の発光時には前記非線形関数に近似する演算により求め、前記半導体レーザの自然放出光の発光時には前記線形関数に近似する演算により求める
校正方法。
【符号の説明】
【0078】
100 PDT用レーザ治療装置
101 導出部
102 校正部
103 表示部
105 光源部
106 モニタ部
107 演算部
108 操作部
111 半導体レーザ
112 ハーフミラー
113 モニタ用フォトダイオード(PD)
114 集光素子
115 フォトダイオード
200 光プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光プローブに導出される、少なくとも自然放出光からなる光を発光することが可能な光源部と、
前記光源部から出射された光の強度を検出する第1の検出部と、
前記光プローブに対する校正のために、前記第1の検出部により検出された光の強度から非線形関数に近似する演算を行う演算部と
を具備する医用装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医用装置であって、
前記光源部は、半導体レーザを備え、
前記演算部は、前記半導体レーザが前記レーザ光からなる光を発光している場合には、前記光プローブに対する校正のために、前記第1の検出部により検出された光の強度から線形関数に近似する演算を行う
医用装置。
【請求項3】
請求項2に記載の医用装置であって、
前記演算部は、前記半導体レーザのレーザ発振閾値電流に基づき、前記半導体レーザが前記自然放出光からなる光を発光するか、前記半導体レーザが前記レーザ光からなる光を発光するかを判断する
医用装置。
【請求項4】
請求項1に記載の医用装置であって、
前記光プローブが着脱可能であり、前記装着された光プローブに前記光源部が発光した光を導出する導出部と、
前記導出部に装着された光プローブから出射される光の出力を検出する第2の検出部をさらに具備し、
前記演算部は、前記第1の検出部により検出された光の強度と前記第2の検出部により検出された光の出力との相関を、前記非線形関数に近似する演算により求める
医用装置。
【請求項5】
請求項4に記載の医用装置であって、
前記演算部は、前記光プローブから出射されている光の出力を、前記求められた相関に基づき前記第1の検出部により検出された光の強度から算出する
医用装置。
【請求項6】
請求項5に記載の医用装置であって、
前記演算部により算出された、前記光プローブから出射されている光の出力を表示する表示部と、
前記光源部が発光する光の出力を調整する操作が可能な操作部と
をさらに具備する医用装置。
【請求項7】
半導体レーザと、
前記光プローブの一端が着脱可能で、前記一端に前記半導体レーザからの光を導出する導出部と、
前記光プローブの校正時に、前記光プローブの他端が挿入され、前記他端からの光の出力を検出する校正部と、
前記半導体レーザからの光の強度と前記校正部で検出された光の出力との相関を、前記半導体レーザのレーザ光の発光時には前記非線形関数に近似する演算により求め、前記半導体レーザの自然放出光の発光時には前記線形関数に近似する演算により求める演算部と
を具備する治療装置。
【請求項8】
光プローブの一端に光を導入し、
前記光プローブの他端から光を導出し、
光プローブごとの、導入した光の強さと導出された光の出力との相関を、非線形関数に近似する演算により求める
光プローブの評価方法。
【請求項9】
請求項8の方法であって、
前記光プローブに導入される光がレーザ光の場合には、導入した光の強さと導出された光の出力との相関を、線形関数に近似する演算により求める
光プローブの評価方法。
【請求項10】
光プローブの一端に半導体レーザからの光を導出し、
前記光プローブの他端からの光の出力を検出し、
前記半導体レーザからの光の強度と前記検出された光の出力との相関を、前記半導体レーザのレーザ光の発光時には前記非線形関数に近似する演算により求め、前記半導体レーザの自然放出光の発光時には前記線形関数に近似する演算により求める
校正方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2013−85737(P2013−85737A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229444(P2011−229444)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】