医用複合単結晶圧電振動子、医用超音波プローブ、医用複合単結晶圧電振動子製造方法および医用超音波プローブ製造方法
【課題】アレイダイシング後のチャンネル間の静電容量、結合係数、感度、比帯域などの性能を向上することができる複合単結晶圧電振動子を提供する。
【解決手段】複数の単結晶圧電振動素子は、第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列される。電極は、単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられる。医用複合単結晶圧電振動子は、前記超音波放射面側における前記単結晶振動素子の結晶方位が{100}であり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1方向に垂直な第1面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第1面の結晶方位と異なり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第2方向に垂直な第2面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第2面の結晶方位と異なる。
【解決手段】複数の単結晶圧電振動素子は、第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列される。電極は、単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられる。医用複合単結晶圧電振動子は、前記超音波放射面側における前記単結晶振動素子の結晶方位が{100}であり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1方向に垂直な第1面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第1面の結晶方位と異なり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第2方向に垂直な第2面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第2面の結晶方位と異なる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、圧電振動子及び医療用アレイ式超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の超音波診断装置や超音波画像検査装置は、対象物に対し超音波信号を送信し、その対象物内からの反射信号(エコー信号)を受信して対象物内を画像化するものである。この医療用の超音波診断装置や超音波画像検査装置においては、超音波信号送受信機能を有する電子操作式のアレイ式超音波プローブが主に用いられている。
【0003】
一般的な超音波プローブは、バッキング材料と、バッキング材料上に接合され、圧電体の両面に電極が形成された圧電素子と、圧電素子上に接合された音響整合層とを有する。圧電素子および音響整合層には、アレイ加工により複数のチャンネルが形成される。音響整合層上には音響レンズが形成される。各チャンネルのアレイ圧電素子の電極は、制御信号基板(フレキシブル印刷配線板(FPC))を通して、さらにケーブルを介して診断装置に接続される。
【0004】
このような超音波プローブにおいて、分極された圧電振動子は超音波の送受信を行う能動部品である。超音波プローブには、広帯域で高感度のプローブを実現するために、その誘電率が大きいこと、圧電定数d33が大きいこと、誘電損失DFが小さいこと、および音響インピーダンス(Acoustic Impedance:以下AIと呼ぶ)が低いことが要求される。更に個々のチャンネル間の静電容量や感度ばらつきが小さいことが、シグナル/ノイズ(S/N)比を向上させるために要望されている。
【0005】
超音波プローブとしては、感度が高いことと、周波数帯域幅即ち比帯域(BW)が大きいこととが要求される。ここで感度は送信、受信感度がある。送信、受信感度は、圧電定数d33の重要な定数である電気機械結合係数と誘電率とで、決定される。一方、比帯域は次の方法で求められる。圧電体A及びBの周波数特性において、次式に従って、比帯域BW(%)は求められる。
BW(%)=100×(fH−fL)/fC ・・・(1)
ここで、周波数fL及びfH(fL<fH)は、音圧がピーク値から6dB、及び20dB減衰する周波数であり、周波数fCは、次式(2)によって表されるように、周波数fLと周波数fHとによる求まる中心周波数である。
fC=(fL+fH)/2 ・・・(2)
比帯域(BW)を拡大させるには前述の圧電定数d33のみならず、AIが低いことが重要である。医用用途に用いられる圧電振動子では、超音波の送受信は、厚み方向に伸縮する厚み振動を利用する。また、プローブの駆動中心周波数が2−10MHzの範囲であるために、圧電振動子には、0.1−0.5mmの厚みを有する圧電材料が一般的には用いられる。
【0006】
圧電材料としては、ジルコンチタン酸鉛Pb(Zr、Ti)O3(以下:PZTと呼ぶ)系圧電セラミクスが1970年代から用いられてきた。PZT系セラミクスにおいて、抗電界Ecは6kV/cm以上と大きいが、圧電定数d33は1000pC/N以下と低いために、高感度の超音波プローブを製造出来ない欠点があった。この欠点を改善するために、1995年ごろから鉛複合ペロブスカイト構造を持つ高性能の圧電単結晶が研究、実用化されてきている。
【0007】
鉛複合ペロブスカイト構造を持つ高性能の圧電単結晶は、少なくとも5から60mol%のチタン酸鉛(PbTiO3)と、60から95mol%のPb(B1,Nb)O3(B1はマグネシウム、亜鉛、インジウム、スカンジウムなどの少なくとも一つ)とから構成されたリラクサ系鉛複合ペロブスカイト化合物である。なお、鉛複合ペロブスカイト構造を持つ高性能の圧電単結晶は、リラクサ系鉛複合ペロブスカイト化合物に加えてビスマススカンジウム酸鉛(BiScO3)を含んでいてもよい。代表的な圧電材料としてマグネシウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(以下PMN−PTと呼ぶ)と、亜鉛ニオブ酸鉛−チタン酸鉛Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(以下PZN−PTと呼ぶ)と、インジウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(以下PIN−PTと呼ぶ)と、PIN−PMN−PT3成分型圧電材料とが知られている。
【0008】
鉛複合ペロブスカイト構造を持つ高性能の圧電単結晶は、上記材料にジルコン酸鉛PbZrO3を20mol%以下で含ませてもよい。なお、図28に示すように、矩形板振動子の6面の全ての面における結晶方位が{100}である圧電材料が、振動子として用いられている。これらの圧電材料は、その厚みが0.1−0.5mmとなるまで研磨される。銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、パラジウム(Pd)などを有する電極が、研磨された圧電材料の上下面に、焼付け方法、スパッタや蒸着方法、湿式メッキ方法などの方法で形成される。
【0009】
電極が形成された圧電材料に、室温から200℃の温度範囲で、1−100分程度に亘って、2kV/cmから30kV/cmの直流電界を印加する分極処理が実行される。これにより、超音波振動子が完成する。これらの圧電材料では、圧電材料の組成により相転移温度Trtとキュリー温度Tcとが異なる。超音波プローブには、抗電界Ecが2−10kV/cmであり、圧電定数d33が1000−3500pC/Nであり、室温において1kHzで測定した時の誘電率が1000−10000である圧電材料が用いられる。また、さらに低いAIを得るためにPZTセラミクスや圧電単結晶を樹脂と複合させた複合圧電材料も知られている。
【0010】
しかしながら、これまで知られている圧電単結晶材料を用いて、従来の方法で医用複合振動子を製造した場合には次のような問題点がある。
(1)単結晶振動子内部での特性差が大きい。特に35mm以上の大型の振動子を用いて超音波プローブを製造した際、複数のチャンネルに関して静電容量、感度、帯域のばらつきが10%以上となる。
(2)複数の超音波プローブを製造した際、複数のプローブに関して感度および帯域のばらつきが10%以上となる。
(3)超音波プローブの製造過程におけるアレイダンシングにより、誘電率および圧電定数d33が低下する。これにより、誘電率および結合係数が設計値に到達せず、結果として感度が低下する。
(4)脆い単結晶材料に対する分極処理において、単結晶材料に反りなどが発生することがある。これにより、単結晶材料に割れが生じることがある。更に単結晶材料から作製された振動子を整合層などと張り合わせる際の加圧で、振動子に割れが生じることがある。これにより、特に長さが35mm以上の振動子、又は厚みが0.3mm以下の振動子を用いる超音波プローブにおいて、製造歩留りが低い。
(5)特に従来のダイスアンドフィル(Dice & Fill)方法では、数か所の不良棒状振動子が生じるだけで、超音波プローブにおける振動子全体が不良となる。従って、腹部コンベックスプローブ用振動子のような大型形状(70mm×12mm×0.3mm(縦×横×厚み)以上)の単結晶振動子を安定的に製造することが難しい。また、複合振動子における単結晶の割合が90%以上の充填率を持つ複合振動子が作製出来ないために、小型素子の電気容量が低下することにより、プローブの感度が低下する。
(6)個々の棒状振動子の横振動モ−ドが同一方向で生じるために不要振動(スプリアス)が発生しやすく比帯域が減少する。
【0011】
特に(1)の問題は長さが35−50mm程度の高周波リニアプローブ用振動子や長さが75mm程度の腹部コンベックスプローブ用振動子を、直径80mm以上の単結晶板から切り出して製造する場合は、図22乃至図24に示すように、単結晶ウエハにおける面内での周辺部と中心部とで、誘電率および結合係数が異なる。このために50−300チャンネルから構成される医用超音波プローブにおいては、チャンネル間やプローブ間の感度のばらつきが大きくなることが、量産において大きな問題となっている。これは結晶育成時に直径80mmを越えるような大型るつぼ周辺と中央部とでは温度が均一ではないために、PbO、Nb2O5、MgOと異なる分配係数を有するTiO2の量が、周辺部と中心部とで異なるために生じる本質的な問題である。この本質的な問題は、解決が望まれている。
【0012】
図25は、単結晶圧電振動子を従来のDice&Fill法で作製する場合の振動子の加工途中の一例を示す図である。図26および図27は、従来のDice&Fill法で作製された振動素子間のスペースに樹脂を充填して作製した複合振動子の上面を示す上面図である。この作製方法ではすべての複合振動子のX、Y、Z面と、複数の単結晶圧電振動子各々におけるx、y、z面とが同一であることがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭62-122499号公報
【特許文献2】特許第3420866号公報
【特許文献3】特開2001−276067号公報
【特許文献4】特開2009−82385号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Jian Tian, Pengdi Han, and David A. PayneMeasurements Along the Growth Direction of PMN-PT Crystals: Dielectric, Piezoelectric,and Elastic Properties, IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, vol. 54, no. 9, (2007) 1895.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
目的は、アレイダイシング後のチャンネル間の静電容量、結合係数、感度、比帯域などの性能および一様性を向上することができる医用複合単結晶圧電振動子、超音波プローブ及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本実施形態に係る医用複合単結晶圧電振動子は、複数の単結晶圧電振動素子と、電極とを具備する。複数の単結晶圧電振動素子は、第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列される。電極は、前記単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、前記第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられる。医用複合単結晶圧電振動子は、前記超音波放射面側における前記単結晶振動素子の結晶方位が{100}であり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1方向に垂直な第1面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第1面の結晶方位と異なり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第2方向に垂直な第2面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第2面の結晶方位と異なること、を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施形態に係る複合単結晶圧電振動子を製造する手順の流れを示すフローチャートである。
【図2】図2は、本実施形態に係る板状振動素子の一例を示す図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る棒状振動素子の一例を示す図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る板状振動素子を配列させた板状振動素子アレイの一例を示す図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る棒状振動素子を配列させた棒状振動素子アレイの一例を示す図である。
【図6】図6は、本実施形態に係る単結晶圧電振動素子に設けられる複合電極の一例を示す図である。
【図7】図7は、本実施形態に係る作製された医用複合単結晶圧電振動子の斜視図である。
【図8】図8は、本実施形態に係り、長手方向に70mmの長さを有するコンベックスプローブ用の複合圧電単結晶振動子の上面の概略を示す概略図である。
【図9】図9は、本実施形態に係り、長手方向に70mmの長さを有するコンベックスプローブ用の複合圧電単結晶振動子の上面の概略を示す概略図である。
【図10】図10は、本実施形態に係り、長手方向に70mmの長さを有するコンベックスプローブ用の複合圧電単結晶振動子の上面の概略を示す概略図である。
【図11】図11は、本実施形態に係り、長手方向に70mmの長さを有するコンベックスプローブ用の複合圧電単結晶振動子の上面の概略を示す概略図である。
【図12】図12は、本実施形態に係り、複数の単結晶圧電振動素子を磁力により固定する一例を示す図である。
【図13】図13は、本実施形態に係り、複数の単結晶圧電振動素子を磁力により固定する一例を示す図である。
【図14】図14は、本実施形態に係り、超音波プローブの構造の一例を示す図である。
【図15】図15は、本実施形態に係る医用超音波プローブを製造する手順の流れを示すフローチャートである。
【図16】図16は、本実施形態に係る複合単結晶圧電振動子を拡大した1チャンネルに含まれる単結晶圧電振動子の上面を、複合単結晶圧電振動子の上面とともに示す上面図である。
【図17】図17は、本実施形態に係る複合単結晶圧電振動子を拡大した1チャンネルに含まれる単結晶圧電振動子の上面を、複合単結晶圧電振動子の上面とともに示す上面図である。
【図18】図18は、本実施形態に係る複合単結晶圧電振動子を拡大した1チャンネルに含まれる単結晶圧電振動子の上面を、複合単結晶圧電振動子の上面とともに示す上面図である。
【図19】図19は、本実施形態に係るチャンネル毎の静電容量の値を、従来のチャンネル毎の静電容量の値とともに示す図である。
【図20】図20は、本実施形態に係るチャンネル毎の感度を、従来のチャンネル毎の感度とともに示す図である。
【図21】図21は、本実施形態に係り、感度測定の概略を示す概略図である。
【図22】図22は、従来に係り、直径80mm単結晶ウエハの{100}面を、切り出される医用超音波振動子(25mm)とともに示す図である。
【図23】図23は、従来に係り、直径80mm単結晶ウエハの{100}面を、切り出される医用超音波振動子(75mm)とともに示す図である。
【図24】図24は、従来に係り、直径80mm単結晶ウエハの{100}面を、切り出される医用超音波振動子(45mm)とともに示す図である。
【図25】図25は、従来に係り、単結晶圧電振動子を従来のDice&Fill法で作製する場合の振動子の加工途中の一例を示す図である。
【図26】図26は、従来のDice&Fill法で作製された振動素子間のスペースに樹脂を充填して作製した複合振動子の上面を示す上面図である。
【図27】図27は、従来のDice&Fill法で作製された振動素子間のスペースに樹脂を充填して作製した複合振動子の上面を示す上面図である。
【図28】図28は、従来に係る複合圧電振動子を構成する振動素子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る複合圧電単結晶振動子及びアレイ式超音波プローブを説明する。
本実施形態に係る複合単結晶圧電振動子は、以下の方法で作製される。
図1は、複合単結晶圧電振動子を製造する手順の流れを示すフローチャートである。まず、マグネシウムニオブ酸鉛Pb(Mg1/3Nb2/3)O3(略号PMN)、亜鉛ニオブ酸鉛Pb(Zn1/3Nb2/3)O3(略号PZN)、またはインジウムニオブ酸鉛Pb(In1/2Nb1/2)O3(略号PIN)と、チタン酸鉛PbTiO3(略号PT)との混晶における相境界近傍の結晶(以下圧電単結晶と呼ぶ)がブリッジマン法などにより作製される(ステップSa1)。これらは、例えば、71PMN−29PT、93PZN−7PT、63PIN−37PTおよび上記チタン酸鉛の混合物である24PIN−44PMN−32PTなどである。
【0019】
ここで、図28に示すように、矩形板振動子の6面の全ての面における結晶方位が{100}である圧電材料が、振動子として用いられている。ここで、{100}は、[100]、[010]、[001]が等価であることを表す。
【0020】
結晶方位が{100}となる面(以下{100}面と呼ぶ)で圧電単結晶をワイヤーソーなどで切断することにより、単結晶ウエハが作製される(ステップSa2)。作製された単結晶ウエハは、0.1乃至0.6mmの厚みと、0.5cm2乃至100cm2の面積とを有する。なお、単結晶ウエハの形状は任意である。単結晶ウエハは、ダイサーを用いて、長さおよび幅が0.1乃至5mmとなるように切断加工される。この切断加工により、0.01乃至25mm2の面積と、0.1乃至0.6mmの厚みとを有する複数の単結晶圧電振動素子が作製される(ステップSa3)。なお、{100}面が超音波放射面(以下、Z面と呼ぶ)であれば、ダイサーによる切断加工(ダイシング)において、Z面と異なる他の面の結晶方位は、{100}から10乃至170°ずれていた方が望ましい。他の面とは、例えばZ面に直交する2面である。以下これら2面をX面、Y面と呼ぶ。すなわち、ダイシングされた複数の単結晶圧電振動素子の{100}における結晶方位のパターンは、10乃至170°の範囲で異なる。
【0021】
典型的な単結晶圧電振動素子の形状は、長さ、幅、厚みがそれぞれ0.15mm、0.15mm、0.5mmまたは、2mm、2mm、0.5mmとなる形状である。なお、長さ、幅、厚みがそれぞれ0.15mm、0.15mm、0.5mmとなる形状を有する単結晶圧電振動素子を棒状振動素子と呼び、長さ、幅、厚みがそれぞれ2mm、2mm、0.5mmとなる形状を有する単結晶圧電振動素子を板状振動素子と呼ぶ。図2は、板状振動素子の一例を示す図である。図3は、棒状振動素子の一例を示す図である。図2および図3におけるx面は、上記X面に平行な面である。図2および図3におけるy面は、上記Y面に平行な面である。図2および図3におけるz面は、上記Z面に平行な面である。
【0022】
ダイサーにて切断後の単結晶圧電振動素子(棒状振動素子および板状振動素子)に対して、超音波洗浄を行い、乾燥される。乾燥後、単結晶圧電振動素子は、酸化アルミニウムのるつぼ(以下アルミナるつぼと呼ぶ)に投入される。アルミナるつぼに、200乃至700℃の熱が、数時間にわたって加えられる。これにより、単結晶圧電振動素子に熱処理が実行される。この熱処理により、加工歪が取り去られる。
【0023】
熱処理された単結晶圧電振動素子は、{100}面がZ面と一致するように、樹脂などで予め形成された丸孔や角孔の中に投入することで、配列される(ステップSa4)。樹脂などで予め形成された丸孔や角孔とは、例えば、篩である。この篩に、熱処理された単結晶圧電振動素子を投入し振動を加えることで、{100}面がZ面に一致するように、熱処理された単結晶圧電振動素子を配列させることが出来る。この配列においてZ面は{100}面であればよいため、複数の単結晶圧電振動素子各々において、x面の結晶方位は非一様となる。
【0024】
具体的には、例えば、1つのチャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおけるx面の結晶方位は、同じチャンネルに含まれる他の単結晶圧電振動素子のxの結晶方位と異なる。同様に、1つのチャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおけるy面の結晶方位は、同じチャンネルに含まれる他の単結晶圧電振動素子のy面の結晶方位と異なる。なお、x面とX面、y面とY面は、それぞれ非平行であってもよい。図4は、複数の板状振動素子を配列させた板状振動素子アレイの一例を示す図である。図5は、複数の棒状振動素子を配列させた棒状振動素子アレイの一例を示す図である。
【0025】
複数の単結晶圧電振動素子の配列後に、粘性を低下させたエポキシ、シリコーン(Silicone)、シアノアクリレート、ポリウレタン樹脂等など(以下、樹脂と呼ぶ)は、単結晶圧電振動素子の間に充填され、真空脱泡される。その後、樹脂は、室温から100℃の間で1乃至24時間かけて硬化される(ステップSa5)。
【0026】
十分に樹脂を硬化させた後、複数の単結晶圧電振動素子と樹脂とを複合させた複合単結晶圧電振動素子(以下、複合振動素子と呼ぶ)を樹脂型から取り出す。取り出された複合振動素子の上下(超音波放射面と背面)面は、平面研磨機またはダイサーブレードを用いて研磨される(ステップSa6)。この研磨は、複合振動素子の厚みが所定の厚みTとなるまで実行される。所定の厚みTは、使用される超音波の周波数に依存する。所定の厚みTは、例えば、0.1乃至0.4mmである。
【0027】
研磨後、MnOx、ZnO、TiOx、SRO(ストロンチウムルテニウムオキサイド)、ITO(酸化インジウムスズ)などの半導体下地電極が、研磨された両面に、スパッタ法やメッキ方法及び溶液方法でコートされる。半導体電極に続けて、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)などの下部電極が、スパッタ法やメッキ方法及び溶液方法で設けられる。下地電極に続けて、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)などの上部電極が、スパッタ法やメッキ方法及び溶液方法で設けられる(ステップSa7)。以下、半導体下地電極と下部電極がヘテロ構造に形成されたものを複合電極と呼ぶ。
【0028】
図6は、単結晶圧電振動素子に設けられる複合電極の一例を示す図である。例えば、半導体下地電極の酸化マンガンは、5乃至30nmの厚みであって、多孔質となる。多孔質とは、例えば、単位体積当たりの隙間の割合を示す空隙率が20乃至80%となることを示す。例えば下部電極は、10乃至50nmの厚みであって、一部は酸化マンガンの多孔質部の空隙を埋める形で緻密質となる。緻密質とは、例えばパラジウム、ニッケル、クロム、チタン金属の空隙率が0乃至5%となることを示す。例えば上部電極は、100乃至400nmの厚みであって、緻密質となる。緻密質とは、例えば、金、白金、銀の空隙率が0乃至5%となることを示す。なお、電極は、3層に限定されず、単層または2層構造としてもよい。以下、電極が取り付けられた複合振動素子を複合振動子と呼ぶ。電極が取り付けられた後、複合振動子の外形を矩形版や円盤に加工して医用複合単結晶圧電振動子を作製する。図7は、作製された医用複合単結晶圧電振動子1の斜視図である。図8は、本実施形態に係り、コンベックスプローブ用の医用複合単結晶圧電振動子の上面の概略を示す上面図である。
【0029】
図8の(a)は、長手方向に70mmの長さL、12mmの幅Wを有する本医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面を示している。図8の(a)における本医用複合単結晶圧電振動子1は、複数の棒状振動素子と、樹脂とから構成されている。図8の(b)は、図8(a)における医用複合単結晶圧電振動子1の一部を拡大した図を示している。図8の(b)における棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子55とにおける超音波放射面の結晶方位はそれぞれ{100}である。棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子55との間には、樹脂7が充填されている。棒状振動素子50と棒状振動素子52とにおける結晶方位のパターンの差異は、45°である。棒状振動素子50と棒状振動素子55とにおいて、超音波放射面における結晶方位のパターンの差異は、30°または60°である。棒状振動素子52と棒状振動素子55とにおいて、超音波放射面における結晶方位のパターンの差異は、15°または75°である。超音波放射面における結晶方位のパターンの差異は、棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子55とにおけるx面3、y面5において結晶方位がそれぞれ異なることを示している。
【0030】
図9の(a)は、長手方向に70mmの長さL、12mmの幅Wを有する医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面を示している。図9の(a)における医用複合単結晶圧電振動子1は、複数の板状振動素子と、樹脂とから構成されている。図9の(b)は、図9(a)における医用複合単結晶圧電振動子1の一部を拡大した図を示している。図9の(b)における板状振動素子51と板状振動素子53とにおける超音波放射面の結晶方位はそれぞれ{100}である。板状振動素子51と板状振動素子53との間には、樹脂7が充填されている。板状振動素子51と板状振動素子53とにおける結晶方位のパターンの差異は、45°である。超音波放射面における結晶方位のパターンの差異は、板状振動素子51と板状振動素子53とにおけるx面3、y面5において結晶方位がそれぞれ異なることを示している。
【0031】
図10の(a)は、長手方向に70mmの長さL、12mmの幅Wを有する医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面を示している。図10の(b)は、板状振動素子の配列が図9の(b)における板状振動素子の配列と異なることを示している。
【0032】
図11の(a)は、長手方向に70mmの長さL、12mmの幅Wを有する医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面を示している。図11の(b)は、板状振動素子の配列が図9の(b)および図10の(b)における板状振動素子の配列と異なることを示している。
【0033】
医用複合単結晶圧電振動子を作製する他の方法(変形例)について説明する。まず、前述の72PMN−28PT、93PZN−7PT、63PIN−37PT、およびこれらの混合物である24PIN−44PMN−32PTなどの相境界近傍の結晶(以下圧電単結晶と呼ぶ)が作製される。
【0034】
結晶方位が{100}となる面(以下{100}面と呼ぶ)で圧電単結晶を切断することにより、単結晶ウエハが作製される。作製された単結晶ウエハは、0.1乃至0.6mmの厚みTを有する。
【0035】
この単結晶ウエハにおける切断面の少なくとも片面に、磁性層膜が、メッキまたはスパッタ法で設けられる。磁性層膜の厚みtは、単結晶の厚みTの0.004乃至0.03倍の厚みである。すなわち、磁性層膜の厚みtは、単結晶の厚みTの0.4%乃至3%である。具体的には、磁性層膜の厚みtは、例えば0.5μm乃至18μmである。更に好ましくは磁性層膜の厚みtは、1μm乃至5μmである。磁性層膜が設けられた単結晶ウエハは、ダイサーを用いて、0.1乃至5mmの長さおよび幅を有する複数の単結晶圧電振動素子に切断加工される。磁性層の材料は、例えばニッケルである。磁性層膜の作製に関する処理は、図1のフローチャートにおいて、ステップSa2とステップSa3との間に設けられる。
【0036】
典型的な単結晶圧電振動素子の形状は、長さ、幅、厚みがそれぞれ0.15mm、0.15mm、0.5mm(棒状振動素子)または、2mm、2mm、0.5mm(板状振動素子)となる形状である。ダイサーにて切断後の単結晶圧電振動素子(棒状振動素子および板状振動素子)に対して、200℃乃至400℃での熱処理が実行されてもよい。
【0037】
複数の単結晶圧電振動素子は、磁石に張り付けられたフィルムの所定の位置に、Z面が{100}面となるように、磁力を用いて配列させる。磁力を用いて単結晶圧電振動素子を配列させる処理は、図1のフローチャートにおけるステップSa4に対応する。この配列においてZ面は{100}面であればよいため、複数の単結晶圧電振動素子各々において、X面の結晶方位は非一様となる。具体的には、例えば、1つのチャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおけるX面の結晶方位は、同じチャンネルに含まれる他の単結晶圧電振動素子のX面の結晶方位と異なる。同様に、1つのチャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおけるY面の結晶方位は、同じチャンネルに含まれる他の単結晶圧電振動素子のY面の結晶方位と異なる。
【0038】
図12の(a)は、単結晶圧電振動素子40の厚みTと、磁性層膜(ニッケル層)の厚みtとを模式的に示した図である。図12の(b)は、櫛型の磁石17と、櫛型形の凹部に充填された樹脂15と、磁石に張り付けられたフィルム13と、フィルム上に配列された複数の単結晶圧電振動素子40とを示す図である。磁石を櫛形に成形し、非磁性体の樹脂を櫛型の凹部に充填することで、櫛または樹脂の間隔に従って、磁力により複数の単結晶圧電振動素子40を配列させることが可能となる。また、櫛の間隔は、任意に設定可能である。
【0039】
図13は、磁石16を用いて最密に配列させた複数の単結晶圧電振動素子40の一例を示す図である。所定の間隔のスペーサ23を使用することで、スペーサ間に複数の単結晶圧電振動素子を配列することが出来る。なお、スペーサ23の間隔は、任意に設定可能である。
【0040】
この配列の後、複数の単結晶圧電振動素子の間に低粘性の樹脂を真空で注入する。注入させた樹脂の硬化により、複数の単結晶圧電振動素子と樹脂とが複合化される。樹脂の硬化後、複合振動素子から上記フィルムが取り外される。フィルムが取り外された複合振動素子に対して、研磨加工および電極の取り付けが実行されることにより、医用複合単結晶圧電振動子が完成する。フィルムを除去する処理は、図1のフローチャートにおけるステップSa6の厚み研磨の処理により、実行されてもよい。
【0041】
なお、医用複合単結晶圧電振動子の体積に対する棒状及び板状振動素子の体積の割合は、配列される複数の単結晶圧電振動素子の間の間隔を調整することで20乃至99.9%程度まで自由に変化させることが出来る。これにより、音響インピーダンス(AI)を変化させることが可能である。
【0042】
室温から180℃程度までの温度範囲で、2kV/cmから20kV/cmまでの範囲における直流電界が、研磨加工された複合単結晶圧電振動子に、1乃至30分印加される。直流電界の印加により、複合単結晶圧電振動子は分極され、医用複合単結晶圧電振動子が完成される。
【0043】
分極処理した24時間後に、医用複合単結晶圧電振動子における静電容量と誘電損失と圧電特性とを測定して、評価を行う。圧電特性、誘電特性は25℃においてLCRメータで1kHz、1vrmsで行う。圧電歪定数d33はd33メータを用いて測定する。電気機械結合係数はインピ−ダンスアナライザを用いて求める。
【0044】
分極と特性の測定、評価に関する処理は、図1のフローチャートにおけるステップSa7の後に実行される。
【0045】
今回の測定に用いた医用複合単結晶振動子の形状は、長さ、幅、厚みがそれぞれ10mm、10mm、0.3mmと10mm、0.15mm、0.3mmとである。前者で容量、誘電損失、誘電率、結合係数ktを求め、後者では容量、誘電損失、誘電率、短冊状振動子の結合係数k33’を求めた。
【0046】
続いて、超音波プローブの作製方法について説明する。
まず、超音波プローブの構成について、図14を参照して説明する。
図14に示すように、医用超音波プローブ201は、バッキング材100と、信号用FPC(Flexible Printed Circuit)102と、医用複合単結晶圧電振動子1と、第1の音響整合層106と、第2の音響整合層108と、アース用FPC110と、音響レンズ112とを有する。
【0047】
バッキング材100は、ゴム製であって、低い音響インピーンダンス(AI=2乃至6MRayls)を有する材料や硬度の高い金属が用いられる。信号用FPC102は、バッキング材100の超音波放射面側に設けられる。信号用FPC102の超音波放射面側には、金属配線が配置される。医用複合単結晶圧電振動子1は、超音波放射面側と背面側とに図示していない電極層を有する。なお、電極層における医用複合単結晶圧電振動子1側には、下地電極が設けられていてもよい。第1の音響整合層106は、医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面側に設けられる。第1の音響整合層106は、超音波放射面側と背面側とに図示していない電極を有する。第2の音響整合層108は、医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面側に設けられる。第2の音響整合層108は、超音波放射面側と背面側とに図示していない電極を有する。アース用FPC110は、背面側にアース用電極を有する。音響レンズ112は、アース用FPCの超音波放射面側に設けられる。
【0048】
なお、医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面側には、2層のみならず、3層または4層の音響整合層が配置されてもよい。複数の音響整合層が医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面側に設けられている場合、音響整合層各々の音響インピーダンスは、医用複合単結晶圧電振動子1から音響レンズ112に向けて段階的に小さくなる。音響整合層が例えば1層の場合、医用複合単結晶圧電振動素子の直上の1番目の音響整合層(第1の音響整合層)は、25℃にて4−7MRaylsの音響インピーダンスを有する。音響整合層が2層の場合、医用複合単結晶圧電振動子1の直上の第1の音響整合層106は、25℃にて5−10MRayls、2番目の音響整合層(第2の音響整合層108)は、2−4MRaylsの音響インピーダンスを有する材料を用いることが好ましい。
【0049】
音響整合層が1層の場合、第1の音響整合層106は、例えば導電材料のカーボン、有機物であるエポキシ樹脂に酸化物粒子を添加することで音響インピーダンスを調整した材料から作られることが好ましい。
【0050】
音響整合層が2層の場合、第1の音響整合層106は例えばカーボン、酸化物含有エポキシ樹脂の材料から作られ、第2の音響整合層108は例えばエポキシシリコーンやポリエチレン系樹脂材料から作られることが好ましい。なお、絶縁性のエポキシ材料を音響整合層に用いる場合には、必要に応じてメッキなどにより音響整合層の表面に導電性が付与されても良い。
【0051】
音響整合層が3層の場合、第1の音響整合層106は例えばガラス材料から作られ、第2の音響整合層108は例えばカーボン、エポキシに酸化物を充填した材料から作られ、第3の音響整合層はポリエチレン系樹脂材料、シリコーン系樹脂から作られることが好ましい。なお、絶縁性の材料を音響整合層に用いる場合には、必要に応じてスパッタやメッキなどにより音響整合層の表面に導電性が付与されても良い。
【0052】
続いて、医用超音波プローブの作製方法について説明する。
図15は、図14で説明した医用超音波プローブ201の製造方法の流れを示すフローチャートである。上記複合単結晶圧電振動子の製造方法で説明した方法で、複合単結晶圧電振動子が作製される(ステップSb1乃至ステップSb7)。複合単結晶圧電振動子の背面側に信号取り出し用FPCとバッキング材とが接着される(ステップSb8)。複合単結晶圧電振動子の超音波放射面側に複数の音響整合層が接着される(ステップSb9)。複合単結晶圧電振動子の超音波放射面側からバッキング材まで、ダイシングブレードにより、所定の間隔でダンシングが実行される(ステップSb10)。このダイシングにより、複合単結晶圧電振動子および複数の音響整合層は、複数に分割される。この分割により、複数のチャンネルが形成される。分割により生じた隙間の一部に絶縁性の樹脂が充填される場合もある。充填された樹脂の硬化後、分割された音響整合層の前に、音響レンズが接着される(ステップSb11)。
【0053】
図16は、棒状振動子を用いて製造された医用超音波プローブ201において、1チャンネルに含まれる複数の棒状振動素子の超音波放射面(a)と医用超音波プローブ201の側面(X面またはY面)(b)との一例を示す図である。図16の(a)において、1チャンネルに含まれる複数の棒状振動素子の数は12である。図16の(a)における棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子55とにおける超音波放射面の結晶方位はそれぞれ{100}である。棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子54との間には、樹脂7が充填されている。図16の(a)は、棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子54とにおける結晶方位のパターンの差異を示している。また、単結晶圧電振動素子は、フィルムに設けられた丸穴60に投入されることにより、配列される。
【0054】
図17は、板状振動素子を用いて製造された医用超音波プローブ201において、1チャンネルに含まれる複数の板状振動素子の超音波放射面(a)と医用超音波プローブ201の側面(X面またはY面)(b)との一例を示す図である。図17の(a)において、1チャンネルに含まれる複数の板状振動素子の数は6である。図17の(a)における板状振動素子51と板状振動素子53とにおける超音波放射面の結晶方位はそれぞれ{100}である。板状振動素子51と板状振動素子53との間には、樹脂7が充填されている。図17の(a)は、板状振動素子51と板状振動素子53とにおける結晶方位のパターンの差異を示している。
【0055】
図18は、棒状振動子を用いて製造された医用超音波プローブ201において、1チャンネルに含まれる複数の棒状振動素子の超音波放射面(a)と医用超音波プローブ201の側面(X面またはY面)(b)との一例を示す図である。図18の(a)において、1チャンネルに含まれる複数の棒状振動素子の数は12である。図18の(a)における複数の棒状振動素子における超音波放射面の結晶方位はそれぞれ{100}である。複数の棒状振動素子の間には、樹脂7が充填されている。図18の(a)における1チャンネルに含まれる複数の棒状振動素子において、x面とX面、y面とY面はそれぞれ非平行である。また、単結晶圧電振動素子は、フィルムに設けられた丸穴60に投入されることにより、配列される。
【0056】
上記製造方法で製造された医用超音波プローブ201を用いた超音波の送信について説明する。被検体に医用超音波プローブ201が当接される。次いで、単結晶圧電振動素子の超音波放射面における電極と、単結晶圧電振動素子の超音波放射面における電極との間に所定の電圧が印加される。所定の電圧の印加により、単結晶圧電振動素子は共振し、超音波を発生する。発生された超音波は、第1の音響整合層106と第2の音響整合層108と音響レンズ112とを介して、被検体に送信される。
【0057】
上記製造方法で製造された医用超音波プローブ201を用いた超音波の受信について説明する。被検体内で発生した超音波は、音響レンズ112と第1の音響整合層106と第2の音響整合層108とを介して、医用複合単結晶圧電振動子1を振動させる。医用複合単結晶圧電振動子1は、超音波による振動を電気信号に変換する。電気信号は、チャンネル毎に、被検体の深さに応じて遅延加算される。遅延加算された信号は、包絡線検波及び対数変換され、画像として表示される。また、第1の音響整合層106と第2の音響整合層108との音響インピーダンスを、医用複合単結晶圧電振動子1の音響インピーダンス(20〜30MRayls)と被検体の音響インピーダンス(1.5MRayls)との間で、徐々に被検体の音響インピーダンスに近付くように設定することよって、超音波の送受信効率を向上させることが可能になる。
【0058】
なお、チャンネルを構成する音響整合層は2層に限らず、3層または4層にしてもよい。この場合、音響整合層は、アース側FPC上に形成されてもよい。
【0059】
以下、本医用複合単結晶圧電振動子について、より具体的に説明する。
【0060】
(実施例1)
実施例1は、単結晶圧電振動子として亜鉛ニオブ酸鉛―チタン酸鉛を用いた場合である。具体的には、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3における0.93Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−0.07PbTiO3(93PZT−7PT)の単結晶が、酸化鉛(PbO)のフラックスを用いた溶液ブリッジマン法により作製される。
【0061】
次いで、この単結晶を{100}面で切断することにより、0.5mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、10mmの幅及び長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、100枚準備される。この{100}板の代表的な特性は、分極後の誘電率が5000、相転移温度Trtが110℃、キュリー温度Tcが165℃、圧電定数d33が2200pC/Nである。
【0062】
100枚の{100}板各々は、ダイサーを用いて、長さおよび幅が2.5mmとなるように切断される。この切断により、複数の単結晶圧電振動素子が作製される。複数の単結晶圧電振動素子各々のz面における結晶方位は、{100}である。この切断は、作製された単結晶圧電振動素子のx面、y面の結晶方位が{100}ではなく、z面における結晶方位パターンの差異が、10°乃至170°の任意の範囲となるように実行される。
【0063】
複数の単結晶圧電振動素子は、超音波洗浄の後で、乾燥し更に400℃で1時間の熱処理が実行される。その後、予め角穴または丸穴を開けたフィルムが、ポリ四フッ化エチレン製の容器内に配置される。この容器に熱処理された複数の単結晶圧電振動素子を投入することにより、熱処理された複数の単結晶圧電振動素子は配列される。単結晶圧電振動素子間のスペースは、例えば、50μmである。このスペースに、エポキシ樹脂が注入される。その後、真空脱泡が5分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で20時間経過後、100℃で6時間の熱処理が実行され、完全に硬化される。
【0064】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にエポキシ樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体の厚みが0.3mmとなるように、平面研削盤を用いて複合体の超音波放射面と背面と(以下両面と呼ぶ)が研磨される。その後、クロムが、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金が、両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0065】
クロムおよび金が設けられた複合体は、幅が12mm、長さが75mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で7kV/cmの直流電界が10分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の単結晶圧電振動素子は分極される。複合体の体積に対する複数の単結晶振動素子の体積の割合(以下充填率と呼ぶ)は98%である。分極後の複合体の誘電率は4800を示した。また、幅を0.14mmにアレイ及びサブダイシングした後の短冊状の複合体の結合係数k33’は85乃至88%であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±3.5%以内であった。
【0066】
比較として、直径50mm径の同一材料の単結晶ウエハから切り出した2枚の{100}板(幅12mm、長さ35mm)を接合した単結晶圧電振動子を作製した。この単結晶圧電振動子の結合係数k33’は85乃至88%で、誘電率は4920であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±18%であった。
【0067】
比較として、誘電率が5500の高誘電率PZT系セラミクス材料を用いて幅12mm、長さ75mmの圧電振動子を作製した。この圧電振動子を0.14mmにアレイ及びサブダイシングした後の短冊振動子の結合係数k33’は66乃至70%で、誘電率は4800であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±4%以内であった。
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子は、単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べて、誘電率はほぼ同等、結合係数は数%大きく、更にチャンネル毎の静電容量のばらつきは通常のPZTセラミクス並みに小さいことは明らかである。
【0068】
(実施例2)
実施例2は、単結晶圧電振動子として、マグネシウムニオブ酸鉛―チタン酸鉛を用いた場合である。具体的には、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3における0.71Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−0.29PbTiO3(71PMN−29PT)の単結晶が、ブリッジマン法により作製される。
【0069】
次いで、この単結晶を{100}面で切断することにより、0.5mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、10mmの幅および長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、100枚準備される。この{100}板の代表的な特性は、分極後の誘電率が8000、相転移温度Trtが95℃、キュリー温度Tcが140℃、圧電定数d33が2500pC/N、抗電界が2.5kV/cmである。
【0070】
100枚の{100}板各々は、ダイサーを用いて、長さ及び幅が2.5mmとなるように、切断される。なお、ダイサーによる{100}板の切断に関する角度は、結晶方位{100}のパターンが異なる任意の角度であってもよい。この切断により、複数の単結晶圧電振動素子が作製される。複数の単結晶圧電振動素子各々のz面における結晶方位は、{100}である。
【0071】
上記切断後に続いて、400℃で0.2時間の熱処理が実行される。その後、予め2.53mmの幅を有するスリットを設けた0.1mmの厚みのガラスエポキシ基板(以下、ガラエポと呼ぶ)が、ポリ四フッ化エチレン製の容器内に配置される。この容器に熱処理された複数の単結晶圧電振動素子を投入することにより、熱処理された複数の単結晶圧電振動素子は、このスリット内に1次元的に配列される。
【0072】
幅2.53mmのスリットに幅2.5mmの単結晶圧電振動素子を配列させるため、スリットの幅と単結晶圧電振動素子とのスペースは、30μmとなる。このスペースに、エポキシ樹脂が注入される。その後、真空脱泡が15分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で20時間経過後、100℃で6時間の熱処理が実行され、完全に硬化される。
【0073】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にエポキシ樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体の厚みが0.3mmとなるように、平面研削盤を用いて複合体の超音波放射面と背面と(以下両面と呼ぶ)が研磨される。これにより、ガラエポが複合体から除去される。その後、クロムが、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金が、両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0074】
クロムおよび金が設けられた複合体は、幅が12mm、長さが75mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で5kV/cmの直流電界が10分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の単結晶圧電振動素子は分極される。単結晶振動素子の充填率は98%である。分極後の複合体の誘電率は7600を示した。また、幅を0.14mmにアレイ及びサブダイシングした後の短冊状の複合体の結合係数k33’は89乃至92%であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±4%以内であった。
【0075】
比較として、直径80mm径の同一材料の単結晶ウエハから切り出すことにより、{100}板(幅12mm、長さ35mm)の単結晶圧電振動子を作製した。この単結晶圧電振動子の結合係数k33’は87乃至90%で、誘電率は7000であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±17%であった。さらに、この工程により、振動子の割れが55%で発生し、歩留まりは45%であった。
【0076】
比較として、誘電率が5500の高誘電率PZT系セラミクス材料を用いて幅12mm、長さ75mm、厚さ0.45mmの圧電振動子を作製した。この圧電振動子の幅を0.14mmにアレイ及びサブダイシングした後の短冊状の複合体の場合の結合係数k33’は66乃至70%で、誘電率は4800であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±4%以内であった。さらに、この工程により、振動子の割れが10%で発生し、歩留まりは90%であった。
【0077】
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子における静電容量(誘電率)と結合係数とは、単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べてほぼ同等、更に複合単結晶圧電振動子におけるチャンネル毎の静電容量のばらつきは、通常のPZTセラミクス並みに小さいことは明らかである。
【0078】
加えて、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子の背面側に、信号用FPCと所定の厚みのバッキング材料とを接着し、超音波放射面側に複数の音響整合層とアース用FPCと音響レンズとを張り付けることにより、医用超音波プローブ201(以下、複合単結晶超音波プローブと呼ぶ)が作製される。上記単結晶圧電振動子の背面側に、信号用FPCと所定の厚みのバッキング材料とを接着し、超音波放射面側に複数の音響整合層とアース用FPCと音響レンズとを張り付けることにより、超音波プローブ(以下、単結晶超音波プローブと呼ぶ)が作製される。上記高誘電率PZT系セラミクス材料による圧電振動子の背面側に、信号用FPCと所定の厚みのバッキング材料とを接着し、超音波放射面側に複数の音響整合層とアース用FPCと音響レンズとを張り付けることにより、超音波プローブ(以下、PZTセラミクス超音波プローブと呼ぶ)が作製される。この3種の超音波プローブ各々に対して、静電容量と感度との測定が実行される。
【0079】
図19は、本実施形態に係る複合単結晶超音波プローブと、従来の単結晶超音波プローブと、従来のPZTセラミクス超音波プローブとにおける各チャンネルに対する静電容量のばらつきを示す図である。作製された超音波プローブ各々の静電容量は、インピーダンスアナライザ(4192A、Yokogawa Hewlett Packard)により測定される。静電容量は、共振周波数よりも十分に低い1kHz、1vrmsで測定される。測定された静電容量は、FPCの端部からの測定となるため、測定値にはFPCの静電容量も含む。
【0080】
図20は、本実施形態に係る複合単結晶超音波プローブと、従来の単結晶超音波プローブと、従来のPZTセラミクス超音波プローブとにおける各チャンネルに対する感度のばらつきを示す図である。図21は、医用超音波プローブ201における各チャンネルの感度測定の方法を示す概略図である。水槽200の水面近くに医用超音波プローブ201の先端が設置される。医用超音波プローブ201から引き出された信号用FPC102にパルサー・レシーバ203(5800、Panametrics)が接続される。パルサー・レシーバ203は、医用超音波プローブ201における各チャンネルを駆動させるための駆動信号を、各チャンネルに供給する。パルサー・レシーバ203には、オシロスコープ205が接続される。
【0081】
医用超音波プローブ201は、パルサー・レシーバ203から供給された駆動信号により、超音波を発生する。また、医用超音波プローブ201は、パルサー・レシーバ203を介して、水面から深さ6cmの位置に配置されたアクリル板207から反射された反射波を受信する。オシロスコープ205は、超音波の送受信により発生された送受信波形を計測する。3種類の超音波プローブにおける各チャンネルに対して、送受信波形の計測を実行することで、チャンネル間の感度分布が評価される。感度は、送受信波形の最大値と最小値の差(Vpp)で表すこととした。
【0082】
上記静電容量と感度との測定において、本実施形態の医用複合単結晶圧電振動子を有する医用超音波プローブ201における192チャンネルに亘る静電容量と感度とのばらつきは、PZTセラミクス超音波プローブ並みに小さく、かつ感度は単結晶圧電振動子からなる超音波プローブと同等であることが示される。また、接着、アレイダイシングなどのプローブ組み立て工程において、本実施形態の複合単結晶圧電振動子に割れなどは発生せず、歩留まりは100%であった。一方、通常の方法で製造した同一形状の単結晶振動子ではプローブの組み立て時に20%以上の振動子に割れが生じ、製造歩留まりは80%以下であった。
【0083】
(実施例3)
実施例3は、単結晶圧電振動子として、マグネシウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛―ジルコン酸鉛を用いた場合である。具体的には、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3−PbZrO3における0.5Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−0.34PbTiO3−0.16PbZrO3(PMNZT50/34/16)の単結晶が、固体溶解結晶育成方法(Solid State Crystal Growth)により作製される。
【0084】
次いで、この単結晶を{100}面で切断することにより、0.5mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、10mmの幅及び長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、100枚準備される。複数の単結晶ウエハ各々における切断方向は、{100}面(Z面)に対して直角であることを除いて、任意である。この{100}板の代表的な特性は、分極後の誘電率が6000、相転移温度Trtが100℃、キュリー温度Tcが175℃である。100枚の{100}板各々の片面に、無電界メッキ法により、パラジウムストライクが実行される。パラジウムストライクが実行された片面に、無電界メッキ法により、金属ニッケルが付けられる。金属ニッケルの厚みtは、例えば、3μmである。なお、金属ニッケルの厚みtは、単結晶ウエハの厚みTに対する金属ニッケルの厚みtの割合が0.6%となるように、単結晶ウエハの厚みに応じて、適宜調整される。以下、付けられた金属ニッケルをNi層と呼ぶ。
【0085】
金属ニッケルが設けられた100枚の{100}板各々は、ダイサーを用いて、長さ及び幅が2.5mmとなるように切断される。この切断により複数の平板振動素子が作製される。
【0086】
複数の平板振動素子に対して、続いて、300℃で1時間の熱処理が実行される。熱処理された複数の平板振動子は、5mmの厚み、50mmの幅、100mmの長さを有するNdFeB系の磁石に、100μmの厚みを有するポリエチレンフィルムを介して30μmの間隔で配列される。具体的には、上記NdFeB系磁石の50×100mmの面に対して、2.5mmの間隔で、30μmの幅と200μmの深さとを有する溝が作製される。溝が作製された面に100μmの厚みを有するポリエチレンフィルムが張り付けられる。Ni層を有する複数の板状振動素子が、溝が作製された磁石により、ポリエチレンフィルムを介して、30μmの間隔で固定される。
【0087】
固定された複数の板状振動素子は、ポリ四フッ化エチレン製の容器に配置される。30μmの間隔に、エポキシ樹脂が注入される。その後、真空脱泡が5分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で20時間さらに、60℃で12時間の熱処理が実行され、完全に硬化される。
【0088】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にエポキシ樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体におけるNi層は、平面研削盤を用いて研磨されることにより、複合体から取り除かれる。この研磨により、複合体の厚みは0.3mmとなる。その後、クロムが、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金が、両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0089】
クロムおよび金が設けられた複合体は、幅が12mm、長さが75mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で5kV/cmの直流電界が10分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の単結晶圧電振動素子は分極される。単結晶振動素子の充填率は98%である。分極後の複合体の誘電率は5600を示した。また、幅を0.14mmにアレイダイシングした後の短冊状の複合体の結合係数k33’は89乃至92%であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±3%以内であった。
【0090】
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子における静電容量(誘電率)と結合係数とは、単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べてほぼ同等、更に複合単結晶圧電振動子におけるチャンネル毎の静電容量のばらつきは、通常のPZTセラミクス並みに小さいことは明らかである。
【0091】
(実施例4)
実施例4は、単結晶圧電振動子として、インジウムニオブ酸鉛−マグネシウムニオブ酸鉛―チタン酸鉛を用いた場合である。具体的には、Pb(In1/2Nb1/2)O3―Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3における0.24Pb(In1/2Nb1/2)O3―0.44Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―0.32PbTiO3に(24PIN−44PMN−32PT)の単結晶が、ブリッジマン法により作製される。
【0092】
次いで、この単結晶を{100}面で切断することにより、0.5mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、10mmの幅及び長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、100枚準備される。複数の単結晶ウエハ各々における切断方向は、{100}面(Z面)に対して直角であることを除いて、任意である。すなわち、複数の{100}板のうち少なくとも一つにおけるZ面と異なる他の面の結晶方位は、{100}から10°乃至170°の範囲で異なっている。
【0093】
この{100}板の代表的な特性は、室温25℃において、分極後の誘電率が9000、相転移温度Trtが100℃、キュリー温度Tcが180℃、抗電界Ecが6kV/cm、圧電定数d33が3500pC/Nである。100枚の{100}板各々の両面に、無電界メッキ法により、パラジウムストライクが実行される。パラジウムストライクが実行された両面に、無電界メッキ法により、金属ニッケルが付けられる。金属ニッケルの厚みtは、単結晶ウエハの厚みTに対する金属ニッケルの厚みtの割合(以下厚み割合t/Tと呼ぶ)が0.2%、0.4%、0.6%、1%、2%、4%となるように、それぞれ1.0μm、2.0μm、3μm、5μm、10μm、20μmである。以下、付けられた金属ニッケルをNi層と呼ぶ。
【0094】
金属ニッケルが設けられた100枚の{100}板各々は、ダイサーを用いたアレイダイシングにより、長さ及び幅が0.15mmとなるように切断される。ダイサーを用いた{100}板の切断は、片面のNi層を剥離させる。この切断により複数の棒状振動素子が作製される。
【0095】
複数の棒状振動素子に対して、続いて、300℃で1時間の熱処理が実行される。熱処理された複数の棒状振動素子は、5mmの厚み、50mmの幅、100mmの長さを有するNdFeB系の磁石に、50μmの厚みを有するポリエチレンフィルムを介して配列される。しかしながら、厚み割合t/Tが0.2%(金属ニッケルの厚み:1μm)において、磁力による棒状振動素子の固定はできずに、ポリエチレン上の任意の位置に配列および固定させることは困難であった。また、厚み割合t/Tが4%では、アレイダイシングにより、複数の棒状状振動子のうち50%以上の棒状振動素子に関して、剥離されたNi層の反対面のNi層の剥がれが生じた。このため、フィルムを介した磁力を用いて、棒状振動素子を任意の位置に固定させるためには、厚み割合t/Tが0.5乃至3%の範囲が必要であることが判明した。加えて、厚み割合t/Tが4%に達すると、Ni層の剥がれや基板のそりが生じて満足な複合単結晶圧電振動子が作製できないことが判明した。
【0096】
厚み割合t/Tが0.5%(金属ニッケルの厚み:2.5μm)のニッケル層を有する複数の棒状振動素子間の間隔を20μmにした3−1複合単結晶圧電振動子が作製される。具体的には、上記磁石に対して、0.17mmの間隔で、60μmの幅を有する溝が作製される。溝が作製された面に50μmの厚みを有するポリエチレンフィルムが張り付けられる。Ni層を有する複数の棒状振動素子が、溝が作製された磁石により、ポリエチレンフィルムを介して、60μmの間隔で固定される。
【0097】
固定された複数の棒状振動素子は、ポリ四フッ化エチレン製の容器に配置される。60μmの間隔に、シリコーン樹脂が注入される。その後、真空脱泡が5分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で20時間かけて硬化される。
【0098】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にシリコーン樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体におけるNi層は、平面研削盤を用いて研磨されることにより、複合体から取り除かれる。この研磨により、複合体の厚みは0.3mmとなる。その後、酸化マンガンが、両面に5nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金属(例えばTi)が、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。上記金属は、パラジウム、ニッケル、クロム、チタンのうちいずれか一つの金属である。最後に、金が両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0099】
酸化マンガン、チタンおよび金が設けられた複合体は、幅が12mm、長さが75mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で8kV/cmの直流電界が10分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の棒状振動素子は分極される。棒状振動素子の充填率は78%である。分極後の複合体の誘電率は7000を示した。また、0.3mmの幅でアレイダイシングした後の短冊状の複合体の結合係数k33’は90乃至93%であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±4%以内であった。また、複合体から上記幅が12mm、長さが75mmに切断された複合単結晶圧電振動子(厚み0.3mm)は10枚作製されたが、この複合単結晶圧電振動子の作製工程において、割れは発生せず、歩留まりは100%であった。
【0100】
比較として、直径80mm径の同一材料の単結晶ウエハから切り出すことにより、{100}板(幅12mm、長さ35mm)の複数の単結晶圧電振動子を作製した。この単結晶圧電振動子に対する研磨、電極付け、分極において、30%の単結晶圧電振動子に割れが生じた。また、0.14mmの幅でアレイダイシングした後の短冊状の単結晶圧電振動子の結合係数k33’は87乃至92%で、誘電率は7800であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±19%であった。
【0101】
比較として、誘電率が5500の高誘電率PZT系セラミクス材料を用いて幅12mm、長さ75mmの圧電振動子を作製した。この圧電振動子に対する研磨、電極付け、分極において、10%の圧電振動子に割れが生じた。また、0.14mmの幅でアレイダイシングした後の短冊状の圧電振動子の結合係数k33’は66乃至70%で、誘電率は4800であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±4%であった。
【0102】
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子における誘電率は、単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べてほぼ同等、更に複合単結晶圧電振動子におけるチャンネル毎の静電容量のばらつきは、通常のPZTセラミクス並みに小さく、さらに割れが少ないことは明らかである。
【0103】
(実施例5)
実施例5は、単結晶圧電振動子として、マグネシウムニオブ酸鉛―チタン酸鉛を用い、複合単結晶圧電振動子の1チャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動子における少なくとも一つのキュリー温度が、他のキュリー温度と異なる場合である。具体的には、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3における74PMN−26PT、73PMN−27PT、72PMN−28PT、71PMN−29PT、70PMN−30PT、69PMN−31PT、68PMN−32PTの単結晶各々が、ブリッジマン法により作製される。
【0104】
次いで、この単結晶各々を{100}面で切断することにより、0.5mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、11mmの幅および長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、単結晶各々に対して、10枚ずつ準備される。単結晶各々に対応する{100}板のキュリー温度は、それぞれ約125℃、130℃、135℃、140℃、145℃、150℃、155℃である。
【0105】
70枚の{100}板各々は、ダイサーを用いて、長さ及び幅が1.5mmとなるように、切断される。なお、ダイサーによる{100}板の切断に関する角度は、結晶方位{100}のパターンが異なる任意の角度であってもよい。この切断により、複数の単結晶圧電振動素子が作製される。複数の単結晶圧電振動素子各々のz面における結晶方位は、{100}である。
【0106】
複数の単結晶圧電振動素子は混合されて、その後、600℃で1時間の熱処理が実行される。続いて、予め角穴または丸穴を開けたフィルムが、ポリ四フッ化エチレン製の容器内に配置される。この容器に熱処理された複数の単結晶圧電振動素子を投入することにより、熱処理された複数の単結晶圧電振動素子は配列される。単結晶圧電振動素子間のスペースは、例えば、50μmである。このスペースに、エポキシ樹脂が注入される。その後、真空脱泡が5分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で20時間経過後、100℃で6時間の熱処理が実行され、完全に硬化される。
【0107】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にエポキシ樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体の厚みが0.3mmとなるように、平面研削盤を用いて複合体の超音波放射面と背面と(以下両面と呼ぶ)が研磨される。その後、クロムが、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金が、両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0108】
クロムおよび金が設けられた複合体は、幅が12mm、長さが75mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で5kV/cmの直流電界が10分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の単結晶圧電振動素子は分極される。作製された複合体に関する単結晶振動素子の充填率は98%である。分極後の複合体の誘電率は5300を示した。また、幅を0.15mmにアレイ及びサブダイシングした後の短冊状の複合体の誘電率は5200であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±4%以内であった。
【0109】
比較として、キュリー温度Tcの異なる長さ及び幅が12mmの{100}板を6枚張り合わせて、長さが72mm、幅が12mmの貼り合わせ振動子が作製された。貼り合わせ振動子を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±34%であった。
【0110】
比較として、誘電率が6000の高誘電率PZT系セラミクス材料を用いて、長さ75mm、幅12mmの圧電振動子を作製した。
【0111】
この圧電振動子を0.3mmの幅でアレイ及びサブダイシングした場合の短冊振動子の誘電率は5600であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量分布は±4%であった。
【0112】
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子における誘電率は、単一の単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べてほぼ同等、更に複合単結晶圧電振動子におけるチャンネル毎の静電容量のばらつきは、通常のPZTセラミクス並みに小さいことは明らかである。このように、異なるキュリー温度Tcを有する複数の単結晶圧電振動子を混合、配列させることで、1チャンネル内に複数のキュリー温度Tcと、チャンネル間で静電容量の均一性とを有し、長さが70mm以上の大型の医用複合単結晶圧電振動子を作製することが出来る。さらに、単結晶ウエハに対する振動子への利用可能部分が増えるため、低コスト化も実現できる。
【0113】
(実施例6)
実施例6は、単結晶圧電振動子としてインジウムニオブ酸鉛−マグネシウムニオブ酸鉛―チタン酸鉛を用いて、高周波リニア振動子を作製した場合である。具体的には、まず、Pb(In1/2Nb1/2)O3―Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3における0.32Pb(In1/2Nb1/2)O3―0.36Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―0.32PbTiO3に(32PIN−36PMN−32PT)の単結晶が、ブリッジマン法により作製される。
【0114】
次いで、この単結晶を{100}面で切断することにより、0.3mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、10mmの幅及び長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、50枚準備される。この{100}板における代表的な特性は、実施例4における特性と同一である。この50枚の{100}板各々の両面に、無電界メッキ法により、パラジウムストライクが実行される。パラジウムストライクが実行された両面に、無電界メッキ法により、金属ニッケルが付けられる。金属ニッケルの厚みtは、単結晶ウエハの厚みTに対する金属ニッケルの厚みtの割合(以下厚み割合t/Tと呼ぶ)が0.75%となるように、2.5μmである。以下、付けられた金属ニッケルをNi層と呼ぶ。
【0115】
金属ニッケルが設けられた50枚の{100}板各々は、ダイサーを用いたアレイダイシングにより、長さ及び幅が2mmとなるように切断される。複数の単結晶ウエハ各々における切断方向は、{100}面(Z面)に対して直角であることを除いて、任意である。すなわち、複数の{100}板のうち少なくとも一つにおけるZ面と異なる他の面の結晶方位は、{100}から10°乃至170°の範囲で異なっている。この切断により複数の板状振動素子が作製される。
【0116】
複数の板状振動素子に対して、続いて、300℃で0.5時間の熱処理が実行される。その後、熱処理された複数の板状振動素子は分極される。分極された複数の板状振動素子に関する静電容量とインピーダンスとが測定される。この測定により、各々の平均値から±10%以内の板状振動素子が選別される。
【0117】
選別された複数の板状振動素子は、5mmの厚み、60mmの幅、60mmの長さを有するNdFeB系またはSmCoFe系の磁石に、50μmの厚みを有するポリ四フッ化エチレンのフィルムを介して、磁力により、5μmの間隔で配列される。具体的には、上記NdFeB系磁石の60×60mmの面に対して、2.005mmの間隔で、0.3mmの幅と0.5mmの深さとを有する溝が作製される。溝が作製された面に50μmの厚みを有するポリ四フッ化エチレンのフィルムが張り付けられる。例えば、図12のように、Ni層を有する複数の板状振動素子が、溝が作製された磁石により、ポリ四フッ化エチレンのフィルムを介して、5μmの間隔で固定される。
【0118】
固定された複数の板状振動素子は、ポリ四フッ化エチレン製の容器に配置される。固定された複数の板状振動素子の周囲に、直径が55mmで厚みが0.5mmのポリ四フッ化エチレン製のリングが、外枠として配置される。エポキシ樹脂が、外枠内部に、注入される。その後、真空脱泡が15分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で1時間さらに、80℃で6時間の熱処理が実行され、完全に硬化される。
【0119】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にエポキシ樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体におけるNi層は、平面研削盤を用いて研磨されることにより、複合体から取り除かれる。この研磨により、複合体の厚みは0.1mmとなる。その後、チタンが、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金が、両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0120】
チタンおよび金が設けられた複合体は、幅が8mm、長さが45mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で5−10kV/cmの直流電界が0.5kv/mmステップで段階的に各5分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の単結晶圧電振動素子は分極される。複合体に対する単結晶振動素子の充填率は99.75%である。分極後の複合体の誘電率は7000を示した。また、幅を0.05mmにアレイダイシングした後の短冊状の複合体の結合係数k33’は86乃至90%であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±4%以内であった。また、上記製造方法で複合体を10枚作製したが、全工程において割れは発生せず、歩留まりは100%であった。
【0121】
比較として、直径60mm径の同一材料の単結晶ウエハから切り出すことにより、{100}板(幅8mm、長さ45mm、厚み0.1mm)の複数の単結晶圧電振動子を作製した。この単結晶圧電振動子に対する研磨、電極付け、分極及び測定中において、約50%の単結晶圧電振動子に割れが生じた。さらに、単結晶圧電振動子を短冊状に切断した後における短冊状の単結晶圧電振動子の結合係数k33’は86乃至90%で、誘電率は6800であり、100チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±15%であった。
【0122】
比較として、誘電率が5500の高誘電率PZT系セラミクス材料を用いて幅8mm、長さ45mm、厚み0.13mmの圧電振動子を作製した。続けて、また、0.14mmの幅でアレイダイシングした後における短冊状の圧電振動子の結合係数k33’は63乃至68%で、誘電率は4400であり、100チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±4%であった。また、製造歩留まりは80%であった。
【0123】
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子における誘電率は、単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べてほぼ同等、更に複合単結晶圧電振動子におけるチャンネル毎の静電容量のばらつきは、通常のPZTセラミクス並みに小さい。加えて、0.1mmの厚みを有する薄い複合単結晶圧電振動子を本実施形態の製造方法で作製しても、製造歩留まりが高いことは明らかである。
【0124】
(実施例7)
実施例7は、単結晶圧電振動子としてインジウムニオブ酸鉛−マグネシウムニオブ酸鉛―チタン酸鉛(Pb(In1/2Nb1/2)O3―Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3における0.24Pb(In1/2Nb1/2)O3―0.44Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―0.32PbTiO3に(24PIN−44PMN−32PT))の単結晶を用いて、医用超音波プローブ201を作製した場合である。具体的には、まず、実施例4に示した製造方法で複合単結晶圧電振動子(幅12mm、長さ75mm、厚み0.3mm)が作製される。
【0125】
作製された複合単結晶圧電振動子の{100}面に、第1の音響整合として、0.4mmの厚みであって、15MRaylsの音響インピーダンスを有するガラス板が接着される。第1の音響用整合層の前面に、第2の音響用整合層として、0.2mmの厚みがであって、5.8MRaylsの音響インピーダンスを有するカーボンが接着される。電極取出しとして、アース用FPCが、カーボンの前面に接着される。アース用FPCの前面に、第3の音響用整合層として、0.18mmの厚みがであって、2.1MRaylsの音響インピーダンスを有する軟質エポキシ樹脂が接着される。電極取出しとして、信号用FPCが複合単結晶圧電振動子の背面に接着される。
【0126】
複合単結晶圧電振動子に複数の音響整合層とFPCとを接着した接着体は、50μmの厚みのダイサーブレードを用いて、接着体の長さ75mmに対して0.14mmの幅でサブダイスされる。サブダイスされた0.14mm×12mmを有する複数の領域において、2つの領域で1チャンネルが構成される。すなわち、上記サブダイスにより192チャンネルを有するコンベックス型超音波プローブが作製される。上記サブダイス後、複合単結晶圧電振動子に含まれる複数の単結晶圧電振動子各々に、240V(0.8kV/mm)の直流電圧が、1分間印加される。上記直流電圧の印加により、複数の単結晶圧電振動子各々は分極される。作製された医用超音波プローブ201における各チャンネルの特徴が通常の方法で測定される。以下の表1は、実施例7で作製された医用超音波プローブ201において、測定された各チャンネルの特徴を示す表である。なお、表1には、比較として、参考例1が示されている。参考例1は、24PIN−44PMN−32PTにより作製された複合化されていない超音波プローブに対して測定された各チャンネルの特徴を示している。
【表1】
【0127】
上記表1から明らかなように、実施例4に関する複合単結晶圧電振動子を用いて作製したコンベックス型超音波プローブ(実施例7)は、同一材料の単結晶(PIN−PMN−PT)に関する1枚の{100}板から作製した3成分系振動子を用いたプローブ(参考例1)に比べて、チャンネル間の帯域のばらつき、感度ばらつきが小さい。更に本実施例の複合単結晶圧電振動子を用いてプローブを作製する場合、複合単結晶圧電振動子の長さが70mm以上と大きくても、更に厚みが0.15mm以下と薄くても、プローブの製造プロセス中に割れが生じないために、高い製造歩留まりで医用超音波プローブ201を作製することが出来る。
【0128】
なお、本実施例おける医用複合単結晶圧電振動子に含まれる単結晶圧電振動素子の結晶方位{100}を超音波放射面側に配置したのは、従来に比べて高い誘電率と結合係数とを得るためである。また、チャンネル各々について、単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける第1方向に垂直な第1面(x面)の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における第1面(x面)の結晶方位と異なり、単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける第2方向に垂直な第2面(y面)の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における第2面(y面)の結晶方位と異なること、すなわち、z面における結晶方位パターンの差異が、10°乃至170°の任意の範囲で異なるようにしたのは、この角度範囲において、単結晶圧電振動子の横振動(スプリアス)を効果的に抑制するためと、チャンネル毎の誘電率(静電容量)や結合係数のばらつきを低減させるためである。上記角度範囲以外では、スプリアス効果的に抑制することは困難であり、チャンネル毎の誘電率(静電容量)や結合係数のばらつきは大きくなる。
【0129】
また、1チャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子が少なくとも3個以上としたのは、チャンネル毎の静電容量のばらつきを低下させ、スプリアスを抑制し、振動子の割れを低減させるためである。1チャンネルに含まれる単結晶圧電振動素子が3個以下では、チャンネル毎の静電容量のばらつきを低減させることと、スプリアスを抑制することと、振動子の割れを低減させることとに対する効果は薄れる。さらに好ましくは、1チャンネルに含まれる単結晶圧電振動素子の数は、4乃至10個である。
【0130】
本実施例に係り、複数の棒状振動子または板状振動子の分極方向に垂直なz面が同一平面内に位置するように配列された医用複合単結晶圧電振動子において、医用複合単結晶圧電振動子の最長辺の長さを35乃至80mmに限定した理由は、以下の通りである。まず、最長辺の長さが35mm以下の振動子を持つ超音波プローブの場合、例えば、図22に示すように、単結晶圧電振動子内の特性ばらつきは比較的に小さいために、チャンネル間や振動子間の特性ばらつきは大きな問題にならないためである。また、最長辺の長さが80mmを超える単結晶圧電振動子は、超音波プローブの製造工程において、変形(反り)が生じること、およびこの変形により割れが生じやすいためである。
【0131】
本実施例に係り、1チャンネルを構成する第2方向の長さ(例えば図7の幅W)を4乃至15mmに限定した理由は、4mm以下の長さでは、本方法を用いても均一な特性を有する複合単結晶圧電振動子を作製することが困難であり、15mm以上では、超音波プローブの製造工程において、変形(反り)が生じること、およびこの変形により割れが生じやすいためである。
【0132】
本実施例に係り、複合単結晶圧電振動子の厚みを0.05乃至0.5mmに限定した理由は、以下のとおりである。被検体体表面から最も深い部分(例えば胎児、心臓など)に送信される超音波の中心周波数は2MHzであり、被検体体表面から最も浅い部分(例えば眼球、皮膚など)に送信される超音波の中心周波数は20MHzであるので、これらの周波数に対応した振動子の厚みの幅が、0.05乃至0.5mmである。
【0133】
本実施例に係り、アレイダイシングされる幅が0.05乃至0.4mmに限定した理由は、以下のとおりである。スプリアスを抑えるためのアレイダイシングの幅は、概ね上記振動子の厚みの70%であるため、0.035乃至0.35mmである。0.035mmでアレイダイシングを実行すると超音波プローブの歩留まりが悪いため、アレイダイシングされる幅の下限は、歩留まりを向上させるために0.05mmとなる。また、スプリアスを低減させるために、アレイダイシングされる幅の上限は、0.4mmとなる。
【0134】
本実施例に係り、1チャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子にそれぞれ対応する複数のキュリー温度Tcに関して、キュリー温度Tcの最大値と最小値との温度差を5乃至30℃に限定する理由は、以下のとおりである。温度差が5℃以下の場合、大型形状の単結晶圧電振動子の特性に関する均一性が改善される効果が乏しくなる。また、温度差が30℃以上の場合、上記特性の均一性の改善、更に高い誘電率、感度を得ることが困難となる。キュリー温度Tcの最大値と最小値との温度差を5乃至30℃(以下、温度差範囲と呼ぶ)に限定することにより、1チャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子に関する特性のばらつきは、±10%以下にすることが出来る。従って、本製造方法で製造された医用複合単結晶圧電振動子において、1チャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子に関するチャンネル番号に対するキュリー温度の関係を示す曲線は、上記温度差範囲において、複数の変曲点を有する。
【0135】
本実施例に係る単結晶圧電振動素子の圧電材料として、40乃至75mol%のマグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、0乃至35mol%のインジウムニオブ酸鉛(PIN)及び25乃至60mol%のチタン酸鉛(PT)を含むことに限定した理由は、上記以外の範囲では高い誘電率や結合係数が得られないためである。また、これらの材料に20mol%以下のジルコン酸鉛、または1mol%以下の少量の鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)などの酸化物が、上記圧電材料に添加されてもよい。これらの単結晶は、ブリッジマン法以外に、引き上げ法、固相反応法、フラックス法で作製されてもよい。
【0136】
本実施例に係る電極において、半導体性酸化マンガンの厚みを5nm乃至30nmで空隙率は、20乃至80%(多孔質)に限定する理由は、以下のとおりである。まず、酸化マンガンの厚みが5nmより薄いと、誘電率を増加させる効果はほとんど見られない。また、酸化マンガンの厚みが30nmを超えると、誘電率は低下する。従って、酸化マンガンの厚みは、5nm乃至30nmである必要がある。なお、上記範囲の厚みを有する酸化マンガンの空隙率は、20乃至80%(多孔質)とする理由は20%以下の空隙率では誘電率を向上させる効果が充分でなく、80%を超えると誘電率が低下するためである。また酸化マンガンと同様に金属と比較して抵抗率が大きな酸化物電極であるZnO、TiOx、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、SRO(ストロンチウムルテニウムオキサイド)、ITO(酸化インジウムスズ)などを用いても同様な効果が得られるためにこれらも本発明の範囲である。
【0137】
多孔質の酸化マンガンに次いで、パラジウム、ニッケル、クロム、チタンのうちいずれか一つの金属を10乃至50nmの厚みで下地電極として設け、下地電極に続けて100乃至400nmの厚みで金を積層させることで、医用複合単結晶圧電振動子の誘電率および圧電定数を向上させることが出来る。加えて、チャンネル感度も向上され、チャンネル感度のばらつきも均一化できる。
【0138】
本実施形態の医用複合単結晶圧電振動子を作製する方法において、作製された単結晶圧電振動素子の中で一つのチャンネルを構成する複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける第1面(x面)、第2面(y面)の結晶方位が、上記一つのチャンネルに含まれる他の単結晶圧電振動素子における第1面(x面)、第2面(y面)の結晶方位とそれぞれ異なるように、結晶方位{100}面を超音波放射面側に配置させて単結晶圧電振動素子を配列することにより、効率的に、均一な特性を有する大型の複合単結晶圧電振動子を作製することができる。なお、本実施形態の医用複合単結晶圧電振動子を作製する方法は、複数の単結晶圧電振動素子を作製後、作製された複数の単結晶圧電振動素子に対して熱処理、混合、検査選別する工程をさらに具備していてもよい。
【0139】
本実施形態の医用複合単結晶圧電振動子を作製する方法において、複数の棒状振動素子または複数の板状振動素子を配列させる場合、上記素子の厚みTに対して0.4乃至3%の磁性層厚みtを上記素子に設け、磁性層が設けられた複数の棒状振動素子または複数の板状振動素子を、磁力を用いて任意の位置に配列させることに関して、t/Tを0.4乃至3%に限定する理由は、以下のとおりである。t/Tが0.4%以下の磁性層では磁力で素子を配列、固定させることが困難となり、更に3%以上の厚みではダイサーで切断時に磁性層が剥がれが生じやすく、さらに基板の反りが出るためである。なお、更に好ましい磁性層の厚みは片面で1乃至5μmである。
【0140】
以上に述べた構成および方法によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、長さLが35乃至50mm程度、幅Wが5乃至10mm程度で厚みTが0.05乃至0.15mmの高周波リニアプローブ用振動子や、長さLが75mm程度で幅Wが10乃至15mm程度で厚みTが0.2乃至0.4mmの腹部コンベックスプローブ用振動子のような大型の複合単結晶圧電振動子を製造する際に、チャンネル間、及び振動子間におけるプローブ感度のバラツキと、アレイダイシング後における振動子の特性の劣化とを低減させることができる。また、これらの方法で作製された複合単結晶圧電振動子を用いて医療用アレイ式超音波プローブを作製することにより、超音波プローブにおけるチャンネルの感度と比帯域の特性ばらつきとを低減させることが出来る。更に、超音波プローブに含まれる短冊振動子の幅振動によるスプリアスを効果的に低下させることが出来る。これにより、プローブ感度を向上させることが出来る。加えて、本実施形態における他の効果として、単結晶インゴットのより多くの場所から単結晶ウエハを多量に効率良く作製できるとともに、超音波プローブの組み立て時において、振動素子の破壊が生じにくいために、製造歩留まりの良い超音波プローブを作製することが出来る。
【0141】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0142】
1…医用複合単結晶圧電振動子、3…x面、5…y面、7…樹脂、40…単結晶圧電振動素子、50…棒状振動素子、51…板状振動素子、52…棒状振動素子、53…板状振動子、55…棒状振動素子、13…フィルム、15…樹脂、16…磁石、17…櫛形磁石、23…スペーサ、100…バッキング材、102…信号用FPC、106…第1の音響整合層、108…第2の音響整合層、110…アース用FPC、112…音響レンズ、60…丸穴、200…水槽、201…医用超音波プローブ、203…パルサー・レシーバ、205…オシロスコープ、207…アクリル板
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、圧電振動子及び医療用アレイ式超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の超音波診断装置や超音波画像検査装置は、対象物に対し超音波信号を送信し、その対象物内からの反射信号(エコー信号)を受信して対象物内を画像化するものである。この医療用の超音波診断装置や超音波画像検査装置においては、超音波信号送受信機能を有する電子操作式のアレイ式超音波プローブが主に用いられている。
【0003】
一般的な超音波プローブは、バッキング材料と、バッキング材料上に接合され、圧電体の両面に電極が形成された圧電素子と、圧電素子上に接合された音響整合層とを有する。圧電素子および音響整合層には、アレイ加工により複数のチャンネルが形成される。音響整合層上には音響レンズが形成される。各チャンネルのアレイ圧電素子の電極は、制御信号基板(フレキシブル印刷配線板(FPC))を通して、さらにケーブルを介して診断装置に接続される。
【0004】
このような超音波プローブにおいて、分極された圧電振動子は超音波の送受信を行う能動部品である。超音波プローブには、広帯域で高感度のプローブを実現するために、その誘電率が大きいこと、圧電定数d33が大きいこと、誘電損失DFが小さいこと、および音響インピーダンス(Acoustic Impedance:以下AIと呼ぶ)が低いことが要求される。更に個々のチャンネル間の静電容量や感度ばらつきが小さいことが、シグナル/ノイズ(S/N)比を向上させるために要望されている。
【0005】
超音波プローブとしては、感度が高いことと、周波数帯域幅即ち比帯域(BW)が大きいこととが要求される。ここで感度は送信、受信感度がある。送信、受信感度は、圧電定数d33の重要な定数である電気機械結合係数と誘電率とで、決定される。一方、比帯域は次の方法で求められる。圧電体A及びBの周波数特性において、次式に従って、比帯域BW(%)は求められる。
BW(%)=100×(fH−fL)/fC ・・・(1)
ここで、周波数fL及びfH(fL<fH)は、音圧がピーク値から6dB、及び20dB減衰する周波数であり、周波数fCは、次式(2)によって表されるように、周波数fLと周波数fHとによる求まる中心周波数である。
fC=(fL+fH)/2 ・・・(2)
比帯域(BW)を拡大させるには前述の圧電定数d33のみならず、AIが低いことが重要である。医用用途に用いられる圧電振動子では、超音波の送受信は、厚み方向に伸縮する厚み振動を利用する。また、プローブの駆動中心周波数が2−10MHzの範囲であるために、圧電振動子には、0.1−0.5mmの厚みを有する圧電材料が一般的には用いられる。
【0006】
圧電材料としては、ジルコンチタン酸鉛Pb(Zr、Ti)O3(以下:PZTと呼ぶ)系圧電セラミクスが1970年代から用いられてきた。PZT系セラミクスにおいて、抗電界Ecは6kV/cm以上と大きいが、圧電定数d33は1000pC/N以下と低いために、高感度の超音波プローブを製造出来ない欠点があった。この欠点を改善するために、1995年ごろから鉛複合ペロブスカイト構造を持つ高性能の圧電単結晶が研究、実用化されてきている。
【0007】
鉛複合ペロブスカイト構造を持つ高性能の圧電単結晶は、少なくとも5から60mol%のチタン酸鉛(PbTiO3)と、60から95mol%のPb(B1,Nb)O3(B1はマグネシウム、亜鉛、インジウム、スカンジウムなどの少なくとも一つ)とから構成されたリラクサ系鉛複合ペロブスカイト化合物である。なお、鉛複合ペロブスカイト構造を持つ高性能の圧電単結晶は、リラクサ系鉛複合ペロブスカイト化合物に加えてビスマススカンジウム酸鉛(BiScO3)を含んでいてもよい。代表的な圧電材料としてマグネシウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(以下PMN−PTと呼ぶ)と、亜鉛ニオブ酸鉛−チタン酸鉛Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(以下PZN−PTと呼ぶ)と、インジウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(以下PIN−PTと呼ぶ)と、PIN−PMN−PT3成分型圧電材料とが知られている。
【0008】
鉛複合ペロブスカイト構造を持つ高性能の圧電単結晶は、上記材料にジルコン酸鉛PbZrO3を20mol%以下で含ませてもよい。なお、図28に示すように、矩形板振動子の6面の全ての面における結晶方位が{100}である圧電材料が、振動子として用いられている。これらの圧電材料は、その厚みが0.1−0.5mmとなるまで研磨される。銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、パラジウム(Pd)などを有する電極が、研磨された圧電材料の上下面に、焼付け方法、スパッタや蒸着方法、湿式メッキ方法などの方法で形成される。
【0009】
電極が形成された圧電材料に、室温から200℃の温度範囲で、1−100分程度に亘って、2kV/cmから30kV/cmの直流電界を印加する分極処理が実行される。これにより、超音波振動子が完成する。これらの圧電材料では、圧電材料の組成により相転移温度Trtとキュリー温度Tcとが異なる。超音波プローブには、抗電界Ecが2−10kV/cmであり、圧電定数d33が1000−3500pC/Nであり、室温において1kHzで測定した時の誘電率が1000−10000である圧電材料が用いられる。また、さらに低いAIを得るためにPZTセラミクスや圧電単結晶を樹脂と複合させた複合圧電材料も知られている。
【0010】
しかしながら、これまで知られている圧電単結晶材料を用いて、従来の方法で医用複合振動子を製造した場合には次のような問題点がある。
(1)単結晶振動子内部での特性差が大きい。特に35mm以上の大型の振動子を用いて超音波プローブを製造した際、複数のチャンネルに関して静電容量、感度、帯域のばらつきが10%以上となる。
(2)複数の超音波プローブを製造した際、複数のプローブに関して感度および帯域のばらつきが10%以上となる。
(3)超音波プローブの製造過程におけるアレイダンシングにより、誘電率および圧電定数d33が低下する。これにより、誘電率および結合係数が設計値に到達せず、結果として感度が低下する。
(4)脆い単結晶材料に対する分極処理において、単結晶材料に反りなどが発生することがある。これにより、単結晶材料に割れが生じることがある。更に単結晶材料から作製された振動子を整合層などと張り合わせる際の加圧で、振動子に割れが生じることがある。これにより、特に長さが35mm以上の振動子、又は厚みが0.3mm以下の振動子を用いる超音波プローブにおいて、製造歩留りが低い。
(5)特に従来のダイスアンドフィル(Dice & Fill)方法では、数か所の不良棒状振動子が生じるだけで、超音波プローブにおける振動子全体が不良となる。従って、腹部コンベックスプローブ用振動子のような大型形状(70mm×12mm×0.3mm(縦×横×厚み)以上)の単結晶振動子を安定的に製造することが難しい。また、複合振動子における単結晶の割合が90%以上の充填率を持つ複合振動子が作製出来ないために、小型素子の電気容量が低下することにより、プローブの感度が低下する。
(6)個々の棒状振動子の横振動モ−ドが同一方向で生じるために不要振動(スプリアス)が発生しやすく比帯域が減少する。
【0011】
特に(1)の問題は長さが35−50mm程度の高周波リニアプローブ用振動子や長さが75mm程度の腹部コンベックスプローブ用振動子を、直径80mm以上の単結晶板から切り出して製造する場合は、図22乃至図24に示すように、単結晶ウエハにおける面内での周辺部と中心部とで、誘電率および結合係数が異なる。このために50−300チャンネルから構成される医用超音波プローブにおいては、チャンネル間やプローブ間の感度のばらつきが大きくなることが、量産において大きな問題となっている。これは結晶育成時に直径80mmを越えるような大型るつぼ周辺と中央部とでは温度が均一ではないために、PbO、Nb2O5、MgOと異なる分配係数を有するTiO2の量が、周辺部と中心部とで異なるために生じる本質的な問題である。この本質的な問題は、解決が望まれている。
【0012】
図25は、単結晶圧電振動子を従来のDice&Fill法で作製する場合の振動子の加工途中の一例を示す図である。図26および図27は、従来のDice&Fill法で作製された振動素子間のスペースに樹脂を充填して作製した複合振動子の上面を示す上面図である。この作製方法ではすべての複合振動子のX、Y、Z面と、複数の単結晶圧電振動子各々におけるx、y、z面とが同一であることがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭62-122499号公報
【特許文献2】特許第3420866号公報
【特許文献3】特開2001−276067号公報
【特許文献4】特開2009−82385号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Jian Tian, Pengdi Han, and David A. PayneMeasurements Along the Growth Direction of PMN-PT Crystals: Dielectric, Piezoelectric,and Elastic Properties, IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, vol. 54, no. 9, (2007) 1895.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
目的は、アレイダイシング後のチャンネル間の静電容量、結合係数、感度、比帯域などの性能および一様性を向上することができる医用複合単結晶圧電振動子、超音波プローブ及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本実施形態に係る医用複合単結晶圧電振動子は、複数の単結晶圧電振動素子と、電極とを具備する。複数の単結晶圧電振動素子は、第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列される。電極は、前記単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、前記第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられる。医用複合単結晶圧電振動子は、前記超音波放射面側における前記単結晶振動素子の結晶方位が{100}であり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1方向に垂直な第1面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第1面の結晶方位と異なり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第2方向に垂直な第2面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第2面の結晶方位と異なること、を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施形態に係る複合単結晶圧電振動子を製造する手順の流れを示すフローチャートである。
【図2】図2は、本実施形態に係る板状振動素子の一例を示す図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る棒状振動素子の一例を示す図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る板状振動素子を配列させた板状振動素子アレイの一例を示す図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る棒状振動素子を配列させた棒状振動素子アレイの一例を示す図である。
【図6】図6は、本実施形態に係る単結晶圧電振動素子に設けられる複合電極の一例を示す図である。
【図7】図7は、本実施形態に係る作製された医用複合単結晶圧電振動子の斜視図である。
【図8】図8は、本実施形態に係り、長手方向に70mmの長さを有するコンベックスプローブ用の複合圧電単結晶振動子の上面の概略を示す概略図である。
【図9】図9は、本実施形態に係り、長手方向に70mmの長さを有するコンベックスプローブ用の複合圧電単結晶振動子の上面の概略を示す概略図である。
【図10】図10は、本実施形態に係り、長手方向に70mmの長さを有するコンベックスプローブ用の複合圧電単結晶振動子の上面の概略を示す概略図である。
【図11】図11は、本実施形態に係り、長手方向に70mmの長さを有するコンベックスプローブ用の複合圧電単結晶振動子の上面の概略を示す概略図である。
【図12】図12は、本実施形態に係り、複数の単結晶圧電振動素子を磁力により固定する一例を示す図である。
【図13】図13は、本実施形態に係り、複数の単結晶圧電振動素子を磁力により固定する一例を示す図である。
【図14】図14は、本実施形態に係り、超音波プローブの構造の一例を示す図である。
【図15】図15は、本実施形態に係る医用超音波プローブを製造する手順の流れを示すフローチャートである。
【図16】図16は、本実施形態に係る複合単結晶圧電振動子を拡大した1チャンネルに含まれる単結晶圧電振動子の上面を、複合単結晶圧電振動子の上面とともに示す上面図である。
【図17】図17は、本実施形態に係る複合単結晶圧電振動子を拡大した1チャンネルに含まれる単結晶圧電振動子の上面を、複合単結晶圧電振動子の上面とともに示す上面図である。
【図18】図18は、本実施形態に係る複合単結晶圧電振動子を拡大した1チャンネルに含まれる単結晶圧電振動子の上面を、複合単結晶圧電振動子の上面とともに示す上面図である。
【図19】図19は、本実施形態に係るチャンネル毎の静電容量の値を、従来のチャンネル毎の静電容量の値とともに示す図である。
【図20】図20は、本実施形態に係るチャンネル毎の感度を、従来のチャンネル毎の感度とともに示す図である。
【図21】図21は、本実施形態に係り、感度測定の概略を示す概略図である。
【図22】図22は、従来に係り、直径80mm単結晶ウエハの{100}面を、切り出される医用超音波振動子(25mm)とともに示す図である。
【図23】図23は、従来に係り、直径80mm単結晶ウエハの{100}面を、切り出される医用超音波振動子(75mm)とともに示す図である。
【図24】図24は、従来に係り、直径80mm単結晶ウエハの{100}面を、切り出される医用超音波振動子(45mm)とともに示す図である。
【図25】図25は、従来に係り、単結晶圧電振動子を従来のDice&Fill法で作製する場合の振動子の加工途中の一例を示す図である。
【図26】図26は、従来のDice&Fill法で作製された振動素子間のスペースに樹脂を充填して作製した複合振動子の上面を示す上面図である。
【図27】図27は、従来のDice&Fill法で作製された振動素子間のスペースに樹脂を充填して作製した複合振動子の上面を示す上面図である。
【図28】図28は、従来に係る複合圧電振動子を構成する振動素子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る複合圧電単結晶振動子及びアレイ式超音波プローブを説明する。
本実施形態に係る複合単結晶圧電振動子は、以下の方法で作製される。
図1は、複合単結晶圧電振動子を製造する手順の流れを示すフローチャートである。まず、マグネシウムニオブ酸鉛Pb(Mg1/3Nb2/3)O3(略号PMN)、亜鉛ニオブ酸鉛Pb(Zn1/3Nb2/3)O3(略号PZN)、またはインジウムニオブ酸鉛Pb(In1/2Nb1/2)O3(略号PIN)と、チタン酸鉛PbTiO3(略号PT)との混晶における相境界近傍の結晶(以下圧電単結晶と呼ぶ)がブリッジマン法などにより作製される(ステップSa1)。これらは、例えば、71PMN−29PT、93PZN−7PT、63PIN−37PTおよび上記チタン酸鉛の混合物である24PIN−44PMN−32PTなどである。
【0019】
ここで、図28に示すように、矩形板振動子の6面の全ての面における結晶方位が{100}である圧電材料が、振動子として用いられている。ここで、{100}は、[100]、[010]、[001]が等価であることを表す。
【0020】
結晶方位が{100}となる面(以下{100}面と呼ぶ)で圧電単結晶をワイヤーソーなどで切断することにより、単結晶ウエハが作製される(ステップSa2)。作製された単結晶ウエハは、0.1乃至0.6mmの厚みと、0.5cm2乃至100cm2の面積とを有する。なお、単結晶ウエハの形状は任意である。単結晶ウエハは、ダイサーを用いて、長さおよび幅が0.1乃至5mmとなるように切断加工される。この切断加工により、0.01乃至25mm2の面積と、0.1乃至0.6mmの厚みとを有する複数の単結晶圧電振動素子が作製される(ステップSa3)。なお、{100}面が超音波放射面(以下、Z面と呼ぶ)であれば、ダイサーによる切断加工(ダイシング)において、Z面と異なる他の面の結晶方位は、{100}から10乃至170°ずれていた方が望ましい。他の面とは、例えばZ面に直交する2面である。以下これら2面をX面、Y面と呼ぶ。すなわち、ダイシングされた複数の単結晶圧電振動素子の{100}における結晶方位のパターンは、10乃至170°の範囲で異なる。
【0021】
典型的な単結晶圧電振動素子の形状は、長さ、幅、厚みがそれぞれ0.15mm、0.15mm、0.5mmまたは、2mm、2mm、0.5mmとなる形状である。なお、長さ、幅、厚みがそれぞれ0.15mm、0.15mm、0.5mmとなる形状を有する単結晶圧電振動素子を棒状振動素子と呼び、長さ、幅、厚みがそれぞれ2mm、2mm、0.5mmとなる形状を有する単結晶圧電振動素子を板状振動素子と呼ぶ。図2は、板状振動素子の一例を示す図である。図3は、棒状振動素子の一例を示す図である。図2および図3におけるx面は、上記X面に平行な面である。図2および図3におけるy面は、上記Y面に平行な面である。図2および図3におけるz面は、上記Z面に平行な面である。
【0022】
ダイサーにて切断後の単結晶圧電振動素子(棒状振動素子および板状振動素子)に対して、超音波洗浄を行い、乾燥される。乾燥後、単結晶圧電振動素子は、酸化アルミニウムのるつぼ(以下アルミナるつぼと呼ぶ)に投入される。アルミナるつぼに、200乃至700℃の熱が、数時間にわたって加えられる。これにより、単結晶圧電振動素子に熱処理が実行される。この熱処理により、加工歪が取り去られる。
【0023】
熱処理された単結晶圧電振動素子は、{100}面がZ面と一致するように、樹脂などで予め形成された丸孔や角孔の中に投入することで、配列される(ステップSa4)。樹脂などで予め形成された丸孔や角孔とは、例えば、篩である。この篩に、熱処理された単結晶圧電振動素子を投入し振動を加えることで、{100}面がZ面に一致するように、熱処理された単結晶圧電振動素子を配列させることが出来る。この配列においてZ面は{100}面であればよいため、複数の単結晶圧電振動素子各々において、x面の結晶方位は非一様となる。
【0024】
具体的には、例えば、1つのチャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおけるx面の結晶方位は、同じチャンネルに含まれる他の単結晶圧電振動素子のxの結晶方位と異なる。同様に、1つのチャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおけるy面の結晶方位は、同じチャンネルに含まれる他の単結晶圧電振動素子のy面の結晶方位と異なる。なお、x面とX面、y面とY面は、それぞれ非平行であってもよい。図4は、複数の板状振動素子を配列させた板状振動素子アレイの一例を示す図である。図5は、複数の棒状振動素子を配列させた棒状振動素子アレイの一例を示す図である。
【0025】
複数の単結晶圧電振動素子の配列後に、粘性を低下させたエポキシ、シリコーン(Silicone)、シアノアクリレート、ポリウレタン樹脂等など(以下、樹脂と呼ぶ)は、単結晶圧電振動素子の間に充填され、真空脱泡される。その後、樹脂は、室温から100℃の間で1乃至24時間かけて硬化される(ステップSa5)。
【0026】
十分に樹脂を硬化させた後、複数の単結晶圧電振動素子と樹脂とを複合させた複合単結晶圧電振動素子(以下、複合振動素子と呼ぶ)を樹脂型から取り出す。取り出された複合振動素子の上下(超音波放射面と背面)面は、平面研磨機またはダイサーブレードを用いて研磨される(ステップSa6)。この研磨は、複合振動素子の厚みが所定の厚みTとなるまで実行される。所定の厚みTは、使用される超音波の周波数に依存する。所定の厚みTは、例えば、0.1乃至0.4mmである。
【0027】
研磨後、MnOx、ZnO、TiOx、SRO(ストロンチウムルテニウムオキサイド)、ITO(酸化インジウムスズ)などの半導体下地電極が、研磨された両面に、スパッタ法やメッキ方法及び溶液方法でコートされる。半導体電極に続けて、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)などの下部電極が、スパッタ法やメッキ方法及び溶液方法で設けられる。下地電極に続けて、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)などの上部電極が、スパッタ法やメッキ方法及び溶液方法で設けられる(ステップSa7)。以下、半導体下地電極と下部電極がヘテロ構造に形成されたものを複合電極と呼ぶ。
【0028】
図6は、単結晶圧電振動素子に設けられる複合電極の一例を示す図である。例えば、半導体下地電極の酸化マンガンは、5乃至30nmの厚みであって、多孔質となる。多孔質とは、例えば、単位体積当たりの隙間の割合を示す空隙率が20乃至80%となることを示す。例えば下部電極は、10乃至50nmの厚みであって、一部は酸化マンガンの多孔質部の空隙を埋める形で緻密質となる。緻密質とは、例えばパラジウム、ニッケル、クロム、チタン金属の空隙率が0乃至5%となることを示す。例えば上部電極は、100乃至400nmの厚みであって、緻密質となる。緻密質とは、例えば、金、白金、銀の空隙率が0乃至5%となることを示す。なお、電極は、3層に限定されず、単層または2層構造としてもよい。以下、電極が取り付けられた複合振動素子を複合振動子と呼ぶ。電極が取り付けられた後、複合振動子の外形を矩形版や円盤に加工して医用複合単結晶圧電振動子を作製する。図7は、作製された医用複合単結晶圧電振動子1の斜視図である。図8は、本実施形態に係り、コンベックスプローブ用の医用複合単結晶圧電振動子の上面の概略を示す上面図である。
【0029】
図8の(a)は、長手方向に70mmの長さL、12mmの幅Wを有する本医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面を示している。図8の(a)における本医用複合単結晶圧電振動子1は、複数の棒状振動素子と、樹脂とから構成されている。図8の(b)は、図8(a)における医用複合単結晶圧電振動子1の一部を拡大した図を示している。図8の(b)における棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子55とにおける超音波放射面の結晶方位はそれぞれ{100}である。棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子55との間には、樹脂7が充填されている。棒状振動素子50と棒状振動素子52とにおける結晶方位のパターンの差異は、45°である。棒状振動素子50と棒状振動素子55とにおいて、超音波放射面における結晶方位のパターンの差異は、30°または60°である。棒状振動素子52と棒状振動素子55とにおいて、超音波放射面における結晶方位のパターンの差異は、15°または75°である。超音波放射面における結晶方位のパターンの差異は、棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子55とにおけるx面3、y面5において結晶方位がそれぞれ異なることを示している。
【0030】
図9の(a)は、長手方向に70mmの長さL、12mmの幅Wを有する医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面を示している。図9の(a)における医用複合単結晶圧電振動子1は、複数の板状振動素子と、樹脂とから構成されている。図9の(b)は、図9(a)における医用複合単結晶圧電振動子1の一部を拡大した図を示している。図9の(b)における板状振動素子51と板状振動素子53とにおける超音波放射面の結晶方位はそれぞれ{100}である。板状振動素子51と板状振動素子53との間には、樹脂7が充填されている。板状振動素子51と板状振動素子53とにおける結晶方位のパターンの差異は、45°である。超音波放射面における結晶方位のパターンの差異は、板状振動素子51と板状振動素子53とにおけるx面3、y面5において結晶方位がそれぞれ異なることを示している。
【0031】
図10の(a)は、長手方向に70mmの長さL、12mmの幅Wを有する医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面を示している。図10の(b)は、板状振動素子の配列が図9の(b)における板状振動素子の配列と異なることを示している。
【0032】
図11の(a)は、長手方向に70mmの長さL、12mmの幅Wを有する医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面を示している。図11の(b)は、板状振動素子の配列が図9の(b)および図10の(b)における板状振動素子の配列と異なることを示している。
【0033】
医用複合単結晶圧電振動子を作製する他の方法(変形例)について説明する。まず、前述の72PMN−28PT、93PZN−7PT、63PIN−37PT、およびこれらの混合物である24PIN−44PMN−32PTなどの相境界近傍の結晶(以下圧電単結晶と呼ぶ)が作製される。
【0034】
結晶方位が{100}となる面(以下{100}面と呼ぶ)で圧電単結晶を切断することにより、単結晶ウエハが作製される。作製された単結晶ウエハは、0.1乃至0.6mmの厚みTを有する。
【0035】
この単結晶ウエハにおける切断面の少なくとも片面に、磁性層膜が、メッキまたはスパッタ法で設けられる。磁性層膜の厚みtは、単結晶の厚みTの0.004乃至0.03倍の厚みである。すなわち、磁性層膜の厚みtは、単結晶の厚みTの0.4%乃至3%である。具体的には、磁性層膜の厚みtは、例えば0.5μm乃至18μmである。更に好ましくは磁性層膜の厚みtは、1μm乃至5μmである。磁性層膜が設けられた単結晶ウエハは、ダイサーを用いて、0.1乃至5mmの長さおよび幅を有する複数の単結晶圧電振動素子に切断加工される。磁性層の材料は、例えばニッケルである。磁性層膜の作製に関する処理は、図1のフローチャートにおいて、ステップSa2とステップSa3との間に設けられる。
【0036】
典型的な単結晶圧電振動素子の形状は、長さ、幅、厚みがそれぞれ0.15mm、0.15mm、0.5mm(棒状振動素子)または、2mm、2mm、0.5mm(板状振動素子)となる形状である。ダイサーにて切断後の単結晶圧電振動素子(棒状振動素子および板状振動素子)に対して、200℃乃至400℃での熱処理が実行されてもよい。
【0037】
複数の単結晶圧電振動素子は、磁石に張り付けられたフィルムの所定の位置に、Z面が{100}面となるように、磁力を用いて配列させる。磁力を用いて単結晶圧電振動素子を配列させる処理は、図1のフローチャートにおけるステップSa4に対応する。この配列においてZ面は{100}面であればよいため、複数の単結晶圧電振動素子各々において、X面の結晶方位は非一様となる。具体的には、例えば、1つのチャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおけるX面の結晶方位は、同じチャンネルに含まれる他の単結晶圧電振動素子のX面の結晶方位と異なる。同様に、1つのチャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおけるY面の結晶方位は、同じチャンネルに含まれる他の単結晶圧電振動素子のY面の結晶方位と異なる。
【0038】
図12の(a)は、単結晶圧電振動素子40の厚みTと、磁性層膜(ニッケル層)の厚みtとを模式的に示した図である。図12の(b)は、櫛型の磁石17と、櫛型形の凹部に充填された樹脂15と、磁石に張り付けられたフィルム13と、フィルム上に配列された複数の単結晶圧電振動素子40とを示す図である。磁石を櫛形に成形し、非磁性体の樹脂を櫛型の凹部に充填することで、櫛または樹脂の間隔に従って、磁力により複数の単結晶圧電振動素子40を配列させることが可能となる。また、櫛の間隔は、任意に設定可能である。
【0039】
図13は、磁石16を用いて最密に配列させた複数の単結晶圧電振動素子40の一例を示す図である。所定の間隔のスペーサ23を使用することで、スペーサ間に複数の単結晶圧電振動素子を配列することが出来る。なお、スペーサ23の間隔は、任意に設定可能である。
【0040】
この配列の後、複数の単結晶圧電振動素子の間に低粘性の樹脂を真空で注入する。注入させた樹脂の硬化により、複数の単結晶圧電振動素子と樹脂とが複合化される。樹脂の硬化後、複合振動素子から上記フィルムが取り外される。フィルムが取り外された複合振動素子に対して、研磨加工および電極の取り付けが実行されることにより、医用複合単結晶圧電振動子が完成する。フィルムを除去する処理は、図1のフローチャートにおけるステップSa6の厚み研磨の処理により、実行されてもよい。
【0041】
なお、医用複合単結晶圧電振動子の体積に対する棒状及び板状振動素子の体積の割合は、配列される複数の単結晶圧電振動素子の間の間隔を調整することで20乃至99.9%程度まで自由に変化させることが出来る。これにより、音響インピーダンス(AI)を変化させることが可能である。
【0042】
室温から180℃程度までの温度範囲で、2kV/cmから20kV/cmまでの範囲における直流電界が、研磨加工された複合単結晶圧電振動子に、1乃至30分印加される。直流電界の印加により、複合単結晶圧電振動子は分極され、医用複合単結晶圧電振動子が完成される。
【0043】
分極処理した24時間後に、医用複合単結晶圧電振動子における静電容量と誘電損失と圧電特性とを測定して、評価を行う。圧電特性、誘電特性は25℃においてLCRメータで1kHz、1vrmsで行う。圧電歪定数d33はd33メータを用いて測定する。電気機械結合係数はインピ−ダンスアナライザを用いて求める。
【0044】
分極と特性の測定、評価に関する処理は、図1のフローチャートにおけるステップSa7の後に実行される。
【0045】
今回の測定に用いた医用複合単結晶振動子の形状は、長さ、幅、厚みがそれぞれ10mm、10mm、0.3mmと10mm、0.15mm、0.3mmとである。前者で容量、誘電損失、誘電率、結合係数ktを求め、後者では容量、誘電損失、誘電率、短冊状振動子の結合係数k33’を求めた。
【0046】
続いて、超音波プローブの作製方法について説明する。
まず、超音波プローブの構成について、図14を参照して説明する。
図14に示すように、医用超音波プローブ201は、バッキング材100と、信号用FPC(Flexible Printed Circuit)102と、医用複合単結晶圧電振動子1と、第1の音響整合層106と、第2の音響整合層108と、アース用FPC110と、音響レンズ112とを有する。
【0047】
バッキング材100は、ゴム製であって、低い音響インピーンダンス(AI=2乃至6MRayls)を有する材料や硬度の高い金属が用いられる。信号用FPC102は、バッキング材100の超音波放射面側に設けられる。信号用FPC102の超音波放射面側には、金属配線が配置される。医用複合単結晶圧電振動子1は、超音波放射面側と背面側とに図示していない電極層を有する。なお、電極層における医用複合単結晶圧電振動子1側には、下地電極が設けられていてもよい。第1の音響整合層106は、医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面側に設けられる。第1の音響整合層106は、超音波放射面側と背面側とに図示していない電極を有する。第2の音響整合層108は、医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面側に設けられる。第2の音響整合層108は、超音波放射面側と背面側とに図示していない電極を有する。アース用FPC110は、背面側にアース用電極を有する。音響レンズ112は、アース用FPCの超音波放射面側に設けられる。
【0048】
なお、医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面側には、2層のみならず、3層または4層の音響整合層が配置されてもよい。複数の音響整合層が医用複合単結晶圧電振動子1の超音波放射面側に設けられている場合、音響整合層各々の音響インピーダンスは、医用複合単結晶圧電振動子1から音響レンズ112に向けて段階的に小さくなる。音響整合層が例えば1層の場合、医用複合単結晶圧電振動素子の直上の1番目の音響整合層(第1の音響整合層)は、25℃にて4−7MRaylsの音響インピーダンスを有する。音響整合層が2層の場合、医用複合単結晶圧電振動子1の直上の第1の音響整合層106は、25℃にて5−10MRayls、2番目の音響整合層(第2の音響整合層108)は、2−4MRaylsの音響インピーダンスを有する材料を用いることが好ましい。
【0049】
音響整合層が1層の場合、第1の音響整合層106は、例えば導電材料のカーボン、有機物であるエポキシ樹脂に酸化物粒子を添加することで音響インピーダンスを調整した材料から作られることが好ましい。
【0050】
音響整合層が2層の場合、第1の音響整合層106は例えばカーボン、酸化物含有エポキシ樹脂の材料から作られ、第2の音響整合層108は例えばエポキシシリコーンやポリエチレン系樹脂材料から作られることが好ましい。なお、絶縁性のエポキシ材料を音響整合層に用いる場合には、必要に応じてメッキなどにより音響整合層の表面に導電性が付与されても良い。
【0051】
音響整合層が3層の場合、第1の音響整合層106は例えばガラス材料から作られ、第2の音響整合層108は例えばカーボン、エポキシに酸化物を充填した材料から作られ、第3の音響整合層はポリエチレン系樹脂材料、シリコーン系樹脂から作られることが好ましい。なお、絶縁性の材料を音響整合層に用いる場合には、必要に応じてスパッタやメッキなどにより音響整合層の表面に導電性が付与されても良い。
【0052】
続いて、医用超音波プローブの作製方法について説明する。
図15は、図14で説明した医用超音波プローブ201の製造方法の流れを示すフローチャートである。上記複合単結晶圧電振動子の製造方法で説明した方法で、複合単結晶圧電振動子が作製される(ステップSb1乃至ステップSb7)。複合単結晶圧電振動子の背面側に信号取り出し用FPCとバッキング材とが接着される(ステップSb8)。複合単結晶圧電振動子の超音波放射面側に複数の音響整合層が接着される(ステップSb9)。複合単結晶圧電振動子の超音波放射面側からバッキング材まで、ダイシングブレードにより、所定の間隔でダンシングが実行される(ステップSb10)。このダイシングにより、複合単結晶圧電振動子および複数の音響整合層は、複数に分割される。この分割により、複数のチャンネルが形成される。分割により生じた隙間の一部に絶縁性の樹脂が充填される場合もある。充填された樹脂の硬化後、分割された音響整合層の前に、音響レンズが接着される(ステップSb11)。
【0053】
図16は、棒状振動子を用いて製造された医用超音波プローブ201において、1チャンネルに含まれる複数の棒状振動素子の超音波放射面(a)と医用超音波プローブ201の側面(X面またはY面)(b)との一例を示す図である。図16の(a)において、1チャンネルに含まれる複数の棒状振動素子の数は12である。図16の(a)における棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子55とにおける超音波放射面の結晶方位はそれぞれ{100}である。棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子54との間には、樹脂7が充填されている。図16の(a)は、棒状振動素子50と棒状振動素子52と棒状振動素子54とにおける結晶方位のパターンの差異を示している。また、単結晶圧電振動素子は、フィルムに設けられた丸穴60に投入されることにより、配列される。
【0054】
図17は、板状振動素子を用いて製造された医用超音波プローブ201において、1チャンネルに含まれる複数の板状振動素子の超音波放射面(a)と医用超音波プローブ201の側面(X面またはY面)(b)との一例を示す図である。図17の(a)において、1チャンネルに含まれる複数の板状振動素子の数は6である。図17の(a)における板状振動素子51と板状振動素子53とにおける超音波放射面の結晶方位はそれぞれ{100}である。板状振動素子51と板状振動素子53との間には、樹脂7が充填されている。図17の(a)は、板状振動素子51と板状振動素子53とにおける結晶方位のパターンの差異を示している。
【0055】
図18は、棒状振動子を用いて製造された医用超音波プローブ201において、1チャンネルに含まれる複数の棒状振動素子の超音波放射面(a)と医用超音波プローブ201の側面(X面またはY面)(b)との一例を示す図である。図18の(a)において、1チャンネルに含まれる複数の棒状振動素子の数は12である。図18の(a)における複数の棒状振動素子における超音波放射面の結晶方位はそれぞれ{100}である。複数の棒状振動素子の間には、樹脂7が充填されている。図18の(a)における1チャンネルに含まれる複数の棒状振動素子において、x面とX面、y面とY面はそれぞれ非平行である。また、単結晶圧電振動素子は、フィルムに設けられた丸穴60に投入されることにより、配列される。
【0056】
上記製造方法で製造された医用超音波プローブ201を用いた超音波の送信について説明する。被検体に医用超音波プローブ201が当接される。次いで、単結晶圧電振動素子の超音波放射面における電極と、単結晶圧電振動素子の超音波放射面における電極との間に所定の電圧が印加される。所定の電圧の印加により、単結晶圧電振動素子は共振し、超音波を発生する。発生された超音波は、第1の音響整合層106と第2の音響整合層108と音響レンズ112とを介して、被検体に送信される。
【0057】
上記製造方法で製造された医用超音波プローブ201を用いた超音波の受信について説明する。被検体内で発生した超音波は、音響レンズ112と第1の音響整合層106と第2の音響整合層108とを介して、医用複合単結晶圧電振動子1を振動させる。医用複合単結晶圧電振動子1は、超音波による振動を電気信号に変換する。電気信号は、チャンネル毎に、被検体の深さに応じて遅延加算される。遅延加算された信号は、包絡線検波及び対数変換され、画像として表示される。また、第1の音響整合層106と第2の音響整合層108との音響インピーダンスを、医用複合単結晶圧電振動子1の音響インピーダンス(20〜30MRayls)と被検体の音響インピーダンス(1.5MRayls)との間で、徐々に被検体の音響インピーダンスに近付くように設定することよって、超音波の送受信効率を向上させることが可能になる。
【0058】
なお、チャンネルを構成する音響整合層は2層に限らず、3層または4層にしてもよい。この場合、音響整合層は、アース側FPC上に形成されてもよい。
【0059】
以下、本医用複合単結晶圧電振動子について、より具体的に説明する。
【0060】
(実施例1)
実施例1は、単結晶圧電振動子として亜鉛ニオブ酸鉛―チタン酸鉛を用いた場合である。具体的には、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3における0.93Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−0.07PbTiO3(93PZT−7PT)の単結晶が、酸化鉛(PbO)のフラックスを用いた溶液ブリッジマン法により作製される。
【0061】
次いで、この単結晶を{100}面で切断することにより、0.5mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、10mmの幅及び長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、100枚準備される。この{100}板の代表的な特性は、分極後の誘電率が5000、相転移温度Trtが110℃、キュリー温度Tcが165℃、圧電定数d33が2200pC/Nである。
【0062】
100枚の{100}板各々は、ダイサーを用いて、長さおよび幅が2.5mmとなるように切断される。この切断により、複数の単結晶圧電振動素子が作製される。複数の単結晶圧電振動素子各々のz面における結晶方位は、{100}である。この切断は、作製された単結晶圧電振動素子のx面、y面の結晶方位が{100}ではなく、z面における結晶方位パターンの差異が、10°乃至170°の任意の範囲となるように実行される。
【0063】
複数の単結晶圧電振動素子は、超音波洗浄の後で、乾燥し更に400℃で1時間の熱処理が実行される。その後、予め角穴または丸穴を開けたフィルムが、ポリ四フッ化エチレン製の容器内に配置される。この容器に熱処理された複数の単結晶圧電振動素子を投入することにより、熱処理された複数の単結晶圧電振動素子は配列される。単結晶圧電振動素子間のスペースは、例えば、50μmである。このスペースに、エポキシ樹脂が注入される。その後、真空脱泡が5分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で20時間経過後、100℃で6時間の熱処理が実行され、完全に硬化される。
【0064】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にエポキシ樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体の厚みが0.3mmとなるように、平面研削盤を用いて複合体の超音波放射面と背面と(以下両面と呼ぶ)が研磨される。その後、クロムが、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金が、両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0065】
クロムおよび金が設けられた複合体は、幅が12mm、長さが75mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で7kV/cmの直流電界が10分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の単結晶圧電振動素子は分極される。複合体の体積に対する複数の単結晶振動素子の体積の割合(以下充填率と呼ぶ)は98%である。分極後の複合体の誘電率は4800を示した。また、幅を0.14mmにアレイ及びサブダイシングした後の短冊状の複合体の結合係数k33’は85乃至88%であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±3.5%以内であった。
【0066】
比較として、直径50mm径の同一材料の単結晶ウエハから切り出した2枚の{100}板(幅12mm、長さ35mm)を接合した単結晶圧電振動子を作製した。この単結晶圧電振動子の結合係数k33’は85乃至88%で、誘電率は4920であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±18%であった。
【0067】
比較として、誘電率が5500の高誘電率PZT系セラミクス材料を用いて幅12mm、長さ75mmの圧電振動子を作製した。この圧電振動子を0.14mmにアレイ及びサブダイシングした後の短冊振動子の結合係数k33’は66乃至70%で、誘電率は4800であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±4%以内であった。
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子は、単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べて、誘電率はほぼ同等、結合係数は数%大きく、更にチャンネル毎の静電容量のばらつきは通常のPZTセラミクス並みに小さいことは明らかである。
【0068】
(実施例2)
実施例2は、単結晶圧電振動子として、マグネシウムニオブ酸鉛―チタン酸鉛を用いた場合である。具体的には、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3における0.71Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−0.29PbTiO3(71PMN−29PT)の単結晶が、ブリッジマン法により作製される。
【0069】
次いで、この単結晶を{100}面で切断することにより、0.5mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、10mmの幅および長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、100枚準備される。この{100}板の代表的な特性は、分極後の誘電率が8000、相転移温度Trtが95℃、キュリー温度Tcが140℃、圧電定数d33が2500pC/N、抗電界が2.5kV/cmである。
【0070】
100枚の{100}板各々は、ダイサーを用いて、長さ及び幅が2.5mmとなるように、切断される。なお、ダイサーによる{100}板の切断に関する角度は、結晶方位{100}のパターンが異なる任意の角度であってもよい。この切断により、複数の単結晶圧電振動素子が作製される。複数の単結晶圧電振動素子各々のz面における結晶方位は、{100}である。
【0071】
上記切断後に続いて、400℃で0.2時間の熱処理が実行される。その後、予め2.53mmの幅を有するスリットを設けた0.1mmの厚みのガラスエポキシ基板(以下、ガラエポと呼ぶ)が、ポリ四フッ化エチレン製の容器内に配置される。この容器に熱処理された複数の単結晶圧電振動素子を投入することにより、熱処理された複数の単結晶圧電振動素子は、このスリット内に1次元的に配列される。
【0072】
幅2.53mmのスリットに幅2.5mmの単結晶圧電振動素子を配列させるため、スリットの幅と単結晶圧電振動素子とのスペースは、30μmとなる。このスペースに、エポキシ樹脂が注入される。その後、真空脱泡が15分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で20時間経過後、100℃で6時間の熱処理が実行され、完全に硬化される。
【0073】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にエポキシ樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体の厚みが0.3mmとなるように、平面研削盤を用いて複合体の超音波放射面と背面と(以下両面と呼ぶ)が研磨される。これにより、ガラエポが複合体から除去される。その後、クロムが、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金が、両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0074】
クロムおよび金が設けられた複合体は、幅が12mm、長さが75mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で5kV/cmの直流電界が10分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の単結晶圧電振動素子は分極される。単結晶振動素子の充填率は98%である。分極後の複合体の誘電率は7600を示した。また、幅を0.14mmにアレイ及びサブダイシングした後の短冊状の複合体の結合係数k33’は89乃至92%であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±4%以内であった。
【0075】
比較として、直径80mm径の同一材料の単結晶ウエハから切り出すことにより、{100}板(幅12mm、長さ35mm)の単結晶圧電振動子を作製した。この単結晶圧電振動子の結合係数k33’は87乃至90%で、誘電率は7000であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±17%であった。さらに、この工程により、振動子の割れが55%で発生し、歩留まりは45%であった。
【0076】
比較として、誘電率が5500の高誘電率PZT系セラミクス材料を用いて幅12mm、長さ75mm、厚さ0.45mmの圧電振動子を作製した。この圧電振動子の幅を0.14mmにアレイ及びサブダイシングした後の短冊状の複合体の場合の結合係数k33’は66乃至70%で、誘電率は4800であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±4%以内であった。さらに、この工程により、振動子の割れが10%で発生し、歩留まりは90%であった。
【0077】
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子における静電容量(誘電率)と結合係数とは、単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べてほぼ同等、更に複合単結晶圧電振動子におけるチャンネル毎の静電容量のばらつきは、通常のPZTセラミクス並みに小さいことは明らかである。
【0078】
加えて、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子の背面側に、信号用FPCと所定の厚みのバッキング材料とを接着し、超音波放射面側に複数の音響整合層とアース用FPCと音響レンズとを張り付けることにより、医用超音波プローブ201(以下、複合単結晶超音波プローブと呼ぶ)が作製される。上記単結晶圧電振動子の背面側に、信号用FPCと所定の厚みのバッキング材料とを接着し、超音波放射面側に複数の音響整合層とアース用FPCと音響レンズとを張り付けることにより、超音波プローブ(以下、単結晶超音波プローブと呼ぶ)が作製される。上記高誘電率PZT系セラミクス材料による圧電振動子の背面側に、信号用FPCと所定の厚みのバッキング材料とを接着し、超音波放射面側に複数の音響整合層とアース用FPCと音響レンズとを張り付けることにより、超音波プローブ(以下、PZTセラミクス超音波プローブと呼ぶ)が作製される。この3種の超音波プローブ各々に対して、静電容量と感度との測定が実行される。
【0079】
図19は、本実施形態に係る複合単結晶超音波プローブと、従来の単結晶超音波プローブと、従来のPZTセラミクス超音波プローブとにおける各チャンネルに対する静電容量のばらつきを示す図である。作製された超音波プローブ各々の静電容量は、インピーダンスアナライザ(4192A、Yokogawa Hewlett Packard)により測定される。静電容量は、共振周波数よりも十分に低い1kHz、1vrmsで測定される。測定された静電容量は、FPCの端部からの測定となるため、測定値にはFPCの静電容量も含む。
【0080】
図20は、本実施形態に係る複合単結晶超音波プローブと、従来の単結晶超音波プローブと、従来のPZTセラミクス超音波プローブとにおける各チャンネルに対する感度のばらつきを示す図である。図21は、医用超音波プローブ201における各チャンネルの感度測定の方法を示す概略図である。水槽200の水面近くに医用超音波プローブ201の先端が設置される。医用超音波プローブ201から引き出された信号用FPC102にパルサー・レシーバ203(5800、Panametrics)が接続される。パルサー・レシーバ203は、医用超音波プローブ201における各チャンネルを駆動させるための駆動信号を、各チャンネルに供給する。パルサー・レシーバ203には、オシロスコープ205が接続される。
【0081】
医用超音波プローブ201は、パルサー・レシーバ203から供給された駆動信号により、超音波を発生する。また、医用超音波プローブ201は、パルサー・レシーバ203を介して、水面から深さ6cmの位置に配置されたアクリル板207から反射された反射波を受信する。オシロスコープ205は、超音波の送受信により発生された送受信波形を計測する。3種類の超音波プローブにおける各チャンネルに対して、送受信波形の計測を実行することで、チャンネル間の感度分布が評価される。感度は、送受信波形の最大値と最小値の差(Vpp)で表すこととした。
【0082】
上記静電容量と感度との測定において、本実施形態の医用複合単結晶圧電振動子を有する医用超音波プローブ201における192チャンネルに亘る静電容量と感度とのばらつきは、PZTセラミクス超音波プローブ並みに小さく、かつ感度は単結晶圧電振動子からなる超音波プローブと同等であることが示される。また、接着、アレイダイシングなどのプローブ組み立て工程において、本実施形態の複合単結晶圧電振動子に割れなどは発生せず、歩留まりは100%であった。一方、通常の方法で製造した同一形状の単結晶振動子ではプローブの組み立て時に20%以上の振動子に割れが生じ、製造歩留まりは80%以下であった。
【0083】
(実施例3)
実施例3は、単結晶圧電振動子として、マグネシウムニオブ酸鉛−チタン酸鉛―ジルコン酸鉛を用いた場合である。具体的には、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3−PbZrO3における0.5Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−0.34PbTiO3−0.16PbZrO3(PMNZT50/34/16)の単結晶が、固体溶解結晶育成方法(Solid State Crystal Growth)により作製される。
【0084】
次いで、この単結晶を{100}面で切断することにより、0.5mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、10mmの幅及び長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、100枚準備される。複数の単結晶ウエハ各々における切断方向は、{100}面(Z面)に対して直角であることを除いて、任意である。この{100}板の代表的な特性は、分極後の誘電率が6000、相転移温度Trtが100℃、キュリー温度Tcが175℃である。100枚の{100}板各々の片面に、無電界メッキ法により、パラジウムストライクが実行される。パラジウムストライクが実行された片面に、無電界メッキ法により、金属ニッケルが付けられる。金属ニッケルの厚みtは、例えば、3μmである。なお、金属ニッケルの厚みtは、単結晶ウエハの厚みTに対する金属ニッケルの厚みtの割合が0.6%となるように、単結晶ウエハの厚みに応じて、適宜調整される。以下、付けられた金属ニッケルをNi層と呼ぶ。
【0085】
金属ニッケルが設けられた100枚の{100}板各々は、ダイサーを用いて、長さ及び幅が2.5mmとなるように切断される。この切断により複数の平板振動素子が作製される。
【0086】
複数の平板振動素子に対して、続いて、300℃で1時間の熱処理が実行される。熱処理された複数の平板振動子は、5mmの厚み、50mmの幅、100mmの長さを有するNdFeB系の磁石に、100μmの厚みを有するポリエチレンフィルムを介して30μmの間隔で配列される。具体的には、上記NdFeB系磁石の50×100mmの面に対して、2.5mmの間隔で、30μmの幅と200μmの深さとを有する溝が作製される。溝が作製された面に100μmの厚みを有するポリエチレンフィルムが張り付けられる。Ni層を有する複数の板状振動素子が、溝が作製された磁石により、ポリエチレンフィルムを介して、30μmの間隔で固定される。
【0087】
固定された複数の板状振動素子は、ポリ四フッ化エチレン製の容器に配置される。30μmの間隔に、エポキシ樹脂が注入される。その後、真空脱泡が5分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で20時間さらに、60℃で12時間の熱処理が実行され、完全に硬化される。
【0088】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にエポキシ樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体におけるNi層は、平面研削盤を用いて研磨されることにより、複合体から取り除かれる。この研磨により、複合体の厚みは0.3mmとなる。その後、クロムが、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金が、両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0089】
クロムおよび金が設けられた複合体は、幅が12mm、長さが75mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で5kV/cmの直流電界が10分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の単結晶圧電振動素子は分極される。単結晶振動素子の充填率は98%である。分極後の複合体の誘電率は5600を示した。また、幅を0.14mmにアレイダイシングした後の短冊状の複合体の結合係数k33’は89乃至92%であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±3%以内であった。
【0090】
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子における静電容量(誘電率)と結合係数とは、単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べてほぼ同等、更に複合単結晶圧電振動子におけるチャンネル毎の静電容量のばらつきは、通常のPZTセラミクス並みに小さいことは明らかである。
【0091】
(実施例4)
実施例4は、単結晶圧電振動子として、インジウムニオブ酸鉛−マグネシウムニオブ酸鉛―チタン酸鉛を用いた場合である。具体的には、Pb(In1/2Nb1/2)O3―Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3における0.24Pb(In1/2Nb1/2)O3―0.44Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―0.32PbTiO3に(24PIN−44PMN−32PT)の単結晶が、ブリッジマン法により作製される。
【0092】
次いで、この単結晶を{100}面で切断することにより、0.5mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、10mmの幅及び長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、100枚準備される。複数の単結晶ウエハ各々における切断方向は、{100}面(Z面)に対して直角であることを除いて、任意である。すなわち、複数の{100}板のうち少なくとも一つにおけるZ面と異なる他の面の結晶方位は、{100}から10°乃至170°の範囲で異なっている。
【0093】
この{100}板の代表的な特性は、室温25℃において、分極後の誘電率が9000、相転移温度Trtが100℃、キュリー温度Tcが180℃、抗電界Ecが6kV/cm、圧電定数d33が3500pC/Nである。100枚の{100}板各々の両面に、無電界メッキ法により、パラジウムストライクが実行される。パラジウムストライクが実行された両面に、無電界メッキ法により、金属ニッケルが付けられる。金属ニッケルの厚みtは、単結晶ウエハの厚みTに対する金属ニッケルの厚みtの割合(以下厚み割合t/Tと呼ぶ)が0.2%、0.4%、0.6%、1%、2%、4%となるように、それぞれ1.0μm、2.0μm、3μm、5μm、10μm、20μmである。以下、付けられた金属ニッケルをNi層と呼ぶ。
【0094】
金属ニッケルが設けられた100枚の{100}板各々は、ダイサーを用いたアレイダイシングにより、長さ及び幅が0.15mmとなるように切断される。ダイサーを用いた{100}板の切断は、片面のNi層を剥離させる。この切断により複数の棒状振動素子が作製される。
【0095】
複数の棒状振動素子に対して、続いて、300℃で1時間の熱処理が実行される。熱処理された複数の棒状振動素子は、5mmの厚み、50mmの幅、100mmの長さを有するNdFeB系の磁石に、50μmの厚みを有するポリエチレンフィルムを介して配列される。しかしながら、厚み割合t/Tが0.2%(金属ニッケルの厚み:1μm)において、磁力による棒状振動素子の固定はできずに、ポリエチレン上の任意の位置に配列および固定させることは困難であった。また、厚み割合t/Tが4%では、アレイダイシングにより、複数の棒状状振動子のうち50%以上の棒状振動素子に関して、剥離されたNi層の反対面のNi層の剥がれが生じた。このため、フィルムを介した磁力を用いて、棒状振動素子を任意の位置に固定させるためには、厚み割合t/Tが0.5乃至3%の範囲が必要であることが判明した。加えて、厚み割合t/Tが4%に達すると、Ni層の剥がれや基板のそりが生じて満足な複合単結晶圧電振動子が作製できないことが判明した。
【0096】
厚み割合t/Tが0.5%(金属ニッケルの厚み:2.5μm)のニッケル層を有する複数の棒状振動素子間の間隔を20μmにした3−1複合単結晶圧電振動子が作製される。具体的には、上記磁石に対して、0.17mmの間隔で、60μmの幅を有する溝が作製される。溝が作製された面に50μmの厚みを有するポリエチレンフィルムが張り付けられる。Ni層を有する複数の棒状振動素子が、溝が作製された磁石により、ポリエチレンフィルムを介して、60μmの間隔で固定される。
【0097】
固定された複数の棒状振動素子は、ポリ四フッ化エチレン製の容器に配置される。60μmの間隔に、シリコーン樹脂が注入される。その後、真空脱泡が5分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で20時間かけて硬化される。
【0098】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にシリコーン樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体におけるNi層は、平面研削盤を用いて研磨されることにより、複合体から取り除かれる。この研磨により、複合体の厚みは0.3mmとなる。その後、酸化マンガンが、両面に5nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金属(例えばTi)が、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。上記金属は、パラジウム、ニッケル、クロム、チタンのうちいずれか一つの金属である。最後に、金が両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0099】
酸化マンガン、チタンおよび金が設けられた複合体は、幅が12mm、長さが75mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で8kV/cmの直流電界が10分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の棒状振動素子は分極される。棒状振動素子の充填率は78%である。分極後の複合体の誘電率は7000を示した。また、0.3mmの幅でアレイダイシングした後の短冊状の複合体の結合係数k33’は90乃至93%であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±4%以内であった。また、複合体から上記幅が12mm、長さが75mmに切断された複合単結晶圧電振動子(厚み0.3mm)は10枚作製されたが、この複合単結晶圧電振動子の作製工程において、割れは発生せず、歩留まりは100%であった。
【0100】
比較として、直径80mm径の同一材料の単結晶ウエハから切り出すことにより、{100}板(幅12mm、長さ35mm)の複数の単結晶圧電振動子を作製した。この単結晶圧電振動子に対する研磨、電極付け、分極において、30%の単結晶圧電振動子に割れが生じた。また、0.14mmの幅でアレイダイシングした後の短冊状の単結晶圧電振動子の結合係数k33’は87乃至92%で、誘電率は7800であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±19%であった。
【0101】
比較として、誘電率が5500の高誘電率PZT系セラミクス材料を用いて幅12mm、長さ75mmの圧電振動子を作製した。この圧電振動子に対する研磨、電極付け、分極において、10%の圧電振動子に割れが生じた。また、0.14mmの幅でアレイダイシングした後の短冊状の圧電振動子の結合係数k33’は66乃至70%で、誘電率は4800であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±4%であった。
【0102】
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子における誘電率は、単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べてほぼ同等、更に複合単結晶圧電振動子におけるチャンネル毎の静電容量のばらつきは、通常のPZTセラミクス並みに小さく、さらに割れが少ないことは明らかである。
【0103】
(実施例5)
実施例5は、単結晶圧電振動子として、マグネシウムニオブ酸鉛―チタン酸鉛を用い、複合単結晶圧電振動子の1チャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動子における少なくとも一つのキュリー温度が、他のキュリー温度と異なる場合である。具体的には、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3における74PMN−26PT、73PMN−27PT、72PMN−28PT、71PMN−29PT、70PMN−30PT、69PMN−31PT、68PMN−32PTの単結晶各々が、ブリッジマン法により作製される。
【0104】
次いで、この単結晶各々を{100}面で切断することにより、0.5mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、11mmの幅および長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、単結晶各々に対して、10枚ずつ準備される。単結晶各々に対応する{100}板のキュリー温度は、それぞれ約125℃、130℃、135℃、140℃、145℃、150℃、155℃である。
【0105】
70枚の{100}板各々は、ダイサーを用いて、長さ及び幅が1.5mmとなるように、切断される。なお、ダイサーによる{100}板の切断に関する角度は、結晶方位{100}のパターンが異なる任意の角度であってもよい。この切断により、複数の単結晶圧電振動素子が作製される。複数の単結晶圧電振動素子各々のz面における結晶方位は、{100}である。
【0106】
複数の単結晶圧電振動素子は混合されて、その後、600℃で1時間の熱処理が実行される。続いて、予め角穴または丸穴を開けたフィルムが、ポリ四フッ化エチレン製の容器内に配置される。この容器に熱処理された複数の単結晶圧電振動素子を投入することにより、熱処理された複数の単結晶圧電振動素子は配列される。単結晶圧電振動素子間のスペースは、例えば、50μmである。このスペースに、エポキシ樹脂が注入される。その後、真空脱泡が5分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で20時間経過後、100℃で6時間の熱処理が実行され、完全に硬化される。
【0107】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にエポキシ樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体の厚みが0.3mmとなるように、平面研削盤を用いて複合体の超音波放射面と背面と(以下両面と呼ぶ)が研磨される。その後、クロムが、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金が、両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0108】
クロムおよび金が設けられた複合体は、幅が12mm、長さが75mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で5kV/cmの直流電界が10分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の単結晶圧電振動素子は分極される。作製された複合体に関する単結晶振動素子の充填率は98%である。分極後の複合体の誘電率は5300を示した。また、幅を0.15mmにアレイ及びサブダイシングした後の短冊状の複合体の誘電率は5200であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±4%以内であった。
【0109】
比較として、キュリー温度Tcの異なる長さ及び幅が12mmの{100}板を6枚張り合わせて、長さが72mm、幅が12mmの貼り合わせ振動子が作製された。貼り合わせ振動子を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±34%であった。
【0110】
比較として、誘電率が6000の高誘電率PZT系セラミクス材料を用いて、長さ75mm、幅12mmの圧電振動子を作製した。
【0111】
この圧電振動子を0.3mmの幅でアレイ及びサブダイシングした場合の短冊振動子の誘電率は5600であり、192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量分布は±4%であった。
【0112】
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子における誘電率は、単一の単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べてほぼ同等、更に複合単結晶圧電振動子におけるチャンネル毎の静電容量のばらつきは、通常のPZTセラミクス並みに小さいことは明らかである。このように、異なるキュリー温度Tcを有する複数の単結晶圧電振動子を混合、配列させることで、1チャンネル内に複数のキュリー温度Tcと、チャンネル間で静電容量の均一性とを有し、長さが70mm以上の大型の医用複合単結晶圧電振動子を作製することが出来る。さらに、単結晶ウエハに対する振動子への利用可能部分が増えるため、低コスト化も実現できる。
【0113】
(実施例6)
実施例6は、単結晶圧電振動子としてインジウムニオブ酸鉛−マグネシウムニオブ酸鉛―チタン酸鉛を用いて、高周波リニア振動子を作製した場合である。具体的には、まず、Pb(In1/2Nb1/2)O3―Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3における0.32Pb(In1/2Nb1/2)O3―0.36Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―0.32PbTiO3に(32PIN−36PMN−32PT)の単結晶が、ブリッジマン法により作製される。
【0114】
次いで、この単結晶を{100}面で切断することにより、0.3mmの厚みTを有する複数の単結晶ウエハが作製される。複数の単結晶ウエハ各々を切断することにより、10mmの幅及び長さを有する板(以下{100}板と呼ぶ)が、50枚準備される。この{100}板における代表的な特性は、実施例4における特性と同一である。この50枚の{100}板各々の両面に、無電界メッキ法により、パラジウムストライクが実行される。パラジウムストライクが実行された両面に、無電界メッキ法により、金属ニッケルが付けられる。金属ニッケルの厚みtは、単結晶ウエハの厚みTに対する金属ニッケルの厚みtの割合(以下厚み割合t/Tと呼ぶ)が0.75%となるように、2.5μmである。以下、付けられた金属ニッケルをNi層と呼ぶ。
【0115】
金属ニッケルが設けられた50枚の{100}板各々は、ダイサーを用いたアレイダイシングにより、長さ及び幅が2mmとなるように切断される。複数の単結晶ウエハ各々における切断方向は、{100}面(Z面)に対して直角であることを除いて、任意である。すなわち、複数の{100}板のうち少なくとも一つにおけるZ面と異なる他の面の結晶方位は、{100}から10°乃至170°の範囲で異なっている。この切断により複数の板状振動素子が作製される。
【0116】
複数の板状振動素子に対して、続いて、300℃で0.5時間の熱処理が実行される。その後、熱処理された複数の板状振動素子は分極される。分極された複数の板状振動素子に関する静電容量とインピーダンスとが測定される。この測定により、各々の平均値から±10%以内の板状振動素子が選別される。
【0117】
選別された複数の板状振動素子は、5mmの厚み、60mmの幅、60mmの長さを有するNdFeB系またはSmCoFe系の磁石に、50μmの厚みを有するポリ四フッ化エチレンのフィルムを介して、磁力により、5μmの間隔で配列される。具体的には、上記NdFeB系磁石の60×60mmの面に対して、2.005mmの間隔で、0.3mmの幅と0.5mmの深さとを有する溝が作製される。溝が作製された面に50μmの厚みを有するポリ四フッ化エチレンのフィルムが張り付けられる。例えば、図12のように、Ni層を有する複数の板状振動素子が、溝が作製された磁石により、ポリ四フッ化エチレンのフィルムを介して、5μmの間隔で固定される。
【0118】
固定された複数の板状振動素子は、ポリ四フッ化エチレン製の容器に配置される。固定された複数の板状振動素子の周囲に、直径が55mmで厚みが0.5mmのポリ四フッ化エチレン製のリングが、外枠として配置される。エポキシ樹脂が、外枠内部に、注入される。その後、真空脱泡が15分間実行される。次いで、スペースに注入された液は、室温で1時間さらに、80℃で6時間の熱処理が実行され、完全に硬化される。
【0119】
上記処理を複数の単結晶圧電素子各々に対して実行し、単結晶圧電振動素子間の溝を完全にエポキシ樹脂で埋めることにより、単結晶と樹脂との複合体を作製する。作製された複合体におけるNi層は、平面研削盤を用いて研磨されることにより、複合体から取り除かれる。この研磨により、複合体の厚みは0.1mmとなる。その後、チタンが、両面に30nmの厚さでスパッタにより設けられる。次いで、金が、両面に300nmの厚さでスパッタにより設けられる。
【0120】
チタンおよび金が設けられた複合体は、幅が8mm、長さが45mmとなるよう切断される。切断された複合体に、室温で5−10kV/cmの直流電界が0.5kv/mmステップで段階的に各5分間印加される。この直流電界の印加により、複合体に含まれる複数の単結晶圧電振動素子は分極される。複合体に対する単結晶振動素子の充填率は99.75%である。分極後の複合体の誘電率は7000を示した。また、幅を0.05mmにアレイダイシングした後の短冊状の複合体の結合係数k33’は86乃至90%であった。また、複合体を192チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量のばらつきは±4%以内であった。また、上記製造方法で複合体を10枚作製したが、全工程において割れは発生せず、歩留まりは100%であった。
【0121】
比較として、直径60mm径の同一材料の単結晶ウエハから切り出すことにより、{100}板(幅8mm、長さ45mm、厚み0.1mm)の複数の単結晶圧電振動子を作製した。この単結晶圧電振動子に対する研磨、電極付け、分極及び測定中において、約50%の単結晶圧電振動子に割れが生じた。さらに、単結晶圧電振動子を短冊状に切断した後における短冊状の単結晶圧電振動子の結合係数k33’は86乃至90%で、誘電率は6800であり、100チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±15%であった。
【0122】
比較として、誘電率が5500の高誘電率PZT系セラミクス材料を用いて幅8mm、長さ45mm、厚み0.13mmの圧電振動子を作製した。続けて、また、0.14mmの幅でアレイダイシングした後における短冊状の圧電振動子の結合係数k33’は63乃至68%で、誘電率は4400であり、100チャンネルに分割した後での各チャンネルによる静電容量の分布は±4%であった。また、製造歩留まりは80%であった。
【0123】
以上のことから、本実施形態の方法で作製した複合単結晶圧電振動子における誘電率は、単結晶ウエハから切り出して作製した単結晶圧電振動子と比べてほぼ同等、更に複合単結晶圧電振動子におけるチャンネル毎の静電容量のばらつきは、通常のPZTセラミクス並みに小さい。加えて、0.1mmの厚みを有する薄い複合単結晶圧電振動子を本実施形態の製造方法で作製しても、製造歩留まりが高いことは明らかである。
【0124】
(実施例7)
実施例7は、単結晶圧電振動子としてインジウムニオブ酸鉛−マグネシウムニオブ酸鉛―チタン酸鉛(Pb(In1/2Nb1/2)O3―Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3における0.24Pb(In1/2Nb1/2)O3―0.44Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―0.32PbTiO3に(24PIN−44PMN−32PT))の単結晶を用いて、医用超音波プローブ201を作製した場合である。具体的には、まず、実施例4に示した製造方法で複合単結晶圧電振動子(幅12mm、長さ75mm、厚み0.3mm)が作製される。
【0125】
作製された複合単結晶圧電振動子の{100}面に、第1の音響整合として、0.4mmの厚みであって、15MRaylsの音響インピーダンスを有するガラス板が接着される。第1の音響用整合層の前面に、第2の音響用整合層として、0.2mmの厚みがであって、5.8MRaylsの音響インピーダンスを有するカーボンが接着される。電極取出しとして、アース用FPCが、カーボンの前面に接着される。アース用FPCの前面に、第3の音響用整合層として、0.18mmの厚みがであって、2.1MRaylsの音響インピーダンスを有する軟質エポキシ樹脂が接着される。電極取出しとして、信号用FPCが複合単結晶圧電振動子の背面に接着される。
【0126】
複合単結晶圧電振動子に複数の音響整合層とFPCとを接着した接着体は、50μmの厚みのダイサーブレードを用いて、接着体の長さ75mmに対して0.14mmの幅でサブダイスされる。サブダイスされた0.14mm×12mmを有する複数の領域において、2つの領域で1チャンネルが構成される。すなわち、上記サブダイスにより192チャンネルを有するコンベックス型超音波プローブが作製される。上記サブダイス後、複合単結晶圧電振動子に含まれる複数の単結晶圧電振動子各々に、240V(0.8kV/mm)の直流電圧が、1分間印加される。上記直流電圧の印加により、複数の単結晶圧電振動子各々は分極される。作製された医用超音波プローブ201における各チャンネルの特徴が通常の方法で測定される。以下の表1は、実施例7で作製された医用超音波プローブ201において、測定された各チャンネルの特徴を示す表である。なお、表1には、比較として、参考例1が示されている。参考例1は、24PIN−44PMN−32PTにより作製された複合化されていない超音波プローブに対して測定された各チャンネルの特徴を示している。
【表1】
【0127】
上記表1から明らかなように、実施例4に関する複合単結晶圧電振動子を用いて作製したコンベックス型超音波プローブ(実施例7)は、同一材料の単結晶(PIN−PMN−PT)に関する1枚の{100}板から作製した3成分系振動子を用いたプローブ(参考例1)に比べて、チャンネル間の帯域のばらつき、感度ばらつきが小さい。更に本実施例の複合単結晶圧電振動子を用いてプローブを作製する場合、複合単結晶圧電振動子の長さが70mm以上と大きくても、更に厚みが0.15mm以下と薄くても、プローブの製造プロセス中に割れが生じないために、高い製造歩留まりで医用超音波プローブ201を作製することが出来る。
【0128】
なお、本実施例おける医用複合単結晶圧電振動子に含まれる単結晶圧電振動素子の結晶方位{100}を超音波放射面側に配置したのは、従来に比べて高い誘電率と結合係数とを得るためである。また、チャンネル各々について、単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける第1方向に垂直な第1面(x面)の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における第1面(x面)の結晶方位と異なり、単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける第2方向に垂直な第2面(y面)の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における第2面(y面)の結晶方位と異なること、すなわち、z面における結晶方位パターンの差異が、10°乃至170°の任意の範囲で異なるようにしたのは、この角度範囲において、単結晶圧電振動子の横振動(スプリアス)を効果的に抑制するためと、チャンネル毎の誘電率(静電容量)や結合係数のばらつきを低減させるためである。上記角度範囲以外では、スプリアス効果的に抑制することは困難であり、チャンネル毎の誘電率(静電容量)や結合係数のばらつきは大きくなる。
【0129】
また、1チャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子が少なくとも3個以上としたのは、チャンネル毎の静電容量のばらつきを低下させ、スプリアスを抑制し、振動子の割れを低減させるためである。1チャンネルに含まれる単結晶圧電振動素子が3個以下では、チャンネル毎の静電容量のばらつきを低減させることと、スプリアスを抑制することと、振動子の割れを低減させることとに対する効果は薄れる。さらに好ましくは、1チャンネルに含まれる単結晶圧電振動素子の数は、4乃至10個である。
【0130】
本実施例に係り、複数の棒状振動子または板状振動子の分極方向に垂直なz面が同一平面内に位置するように配列された医用複合単結晶圧電振動子において、医用複合単結晶圧電振動子の最長辺の長さを35乃至80mmに限定した理由は、以下の通りである。まず、最長辺の長さが35mm以下の振動子を持つ超音波プローブの場合、例えば、図22に示すように、単結晶圧電振動子内の特性ばらつきは比較的に小さいために、チャンネル間や振動子間の特性ばらつきは大きな問題にならないためである。また、最長辺の長さが80mmを超える単結晶圧電振動子は、超音波プローブの製造工程において、変形(反り)が生じること、およびこの変形により割れが生じやすいためである。
【0131】
本実施例に係り、1チャンネルを構成する第2方向の長さ(例えば図7の幅W)を4乃至15mmに限定した理由は、4mm以下の長さでは、本方法を用いても均一な特性を有する複合単結晶圧電振動子を作製することが困難であり、15mm以上では、超音波プローブの製造工程において、変形(反り)が生じること、およびこの変形により割れが生じやすいためである。
【0132】
本実施例に係り、複合単結晶圧電振動子の厚みを0.05乃至0.5mmに限定した理由は、以下のとおりである。被検体体表面から最も深い部分(例えば胎児、心臓など)に送信される超音波の中心周波数は2MHzであり、被検体体表面から最も浅い部分(例えば眼球、皮膚など)に送信される超音波の中心周波数は20MHzであるので、これらの周波数に対応した振動子の厚みの幅が、0.05乃至0.5mmである。
【0133】
本実施例に係り、アレイダイシングされる幅が0.05乃至0.4mmに限定した理由は、以下のとおりである。スプリアスを抑えるためのアレイダイシングの幅は、概ね上記振動子の厚みの70%であるため、0.035乃至0.35mmである。0.035mmでアレイダイシングを実行すると超音波プローブの歩留まりが悪いため、アレイダイシングされる幅の下限は、歩留まりを向上させるために0.05mmとなる。また、スプリアスを低減させるために、アレイダイシングされる幅の上限は、0.4mmとなる。
【0134】
本実施例に係り、1チャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子にそれぞれ対応する複数のキュリー温度Tcに関して、キュリー温度Tcの最大値と最小値との温度差を5乃至30℃に限定する理由は、以下のとおりである。温度差が5℃以下の場合、大型形状の単結晶圧電振動子の特性に関する均一性が改善される効果が乏しくなる。また、温度差が30℃以上の場合、上記特性の均一性の改善、更に高い誘電率、感度を得ることが困難となる。キュリー温度Tcの最大値と最小値との温度差を5乃至30℃(以下、温度差範囲と呼ぶ)に限定することにより、1チャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子に関する特性のばらつきは、±10%以下にすることが出来る。従って、本製造方法で製造された医用複合単結晶圧電振動子において、1チャンネルに含まれる複数の単結晶圧電振動素子に関するチャンネル番号に対するキュリー温度の関係を示す曲線は、上記温度差範囲において、複数の変曲点を有する。
【0135】
本実施例に係る単結晶圧電振動素子の圧電材料として、40乃至75mol%のマグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、0乃至35mol%のインジウムニオブ酸鉛(PIN)及び25乃至60mol%のチタン酸鉛(PT)を含むことに限定した理由は、上記以外の範囲では高い誘電率や結合係数が得られないためである。また、これらの材料に20mol%以下のジルコン酸鉛、または1mol%以下の少量の鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)などの酸化物が、上記圧電材料に添加されてもよい。これらの単結晶は、ブリッジマン法以外に、引き上げ法、固相反応法、フラックス法で作製されてもよい。
【0136】
本実施例に係る電極において、半導体性酸化マンガンの厚みを5nm乃至30nmで空隙率は、20乃至80%(多孔質)に限定する理由は、以下のとおりである。まず、酸化マンガンの厚みが5nmより薄いと、誘電率を増加させる効果はほとんど見られない。また、酸化マンガンの厚みが30nmを超えると、誘電率は低下する。従って、酸化マンガンの厚みは、5nm乃至30nmである必要がある。なお、上記範囲の厚みを有する酸化マンガンの空隙率は、20乃至80%(多孔質)とする理由は20%以下の空隙率では誘電率を向上させる効果が充分でなく、80%を超えると誘電率が低下するためである。また酸化マンガンと同様に金属と比較して抵抗率が大きな酸化物電極であるZnO、TiOx、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、SRO(ストロンチウムルテニウムオキサイド)、ITO(酸化インジウムスズ)などを用いても同様な効果が得られるためにこれらも本発明の範囲である。
【0137】
多孔質の酸化マンガンに次いで、パラジウム、ニッケル、クロム、チタンのうちいずれか一つの金属を10乃至50nmの厚みで下地電極として設け、下地電極に続けて100乃至400nmの厚みで金を積層させることで、医用複合単結晶圧電振動子の誘電率および圧電定数を向上させることが出来る。加えて、チャンネル感度も向上され、チャンネル感度のばらつきも均一化できる。
【0138】
本実施形態の医用複合単結晶圧電振動子を作製する方法において、作製された単結晶圧電振動素子の中で一つのチャンネルを構成する複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける第1面(x面)、第2面(y面)の結晶方位が、上記一つのチャンネルに含まれる他の単結晶圧電振動素子における第1面(x面)、第2面(y面)の結晶方位とそれぞれ異なるように、結晶方位{100}面を超音波放射面側に配置させて単結晶圧電振動素子を配列することにより、効率的に、均一な特性を有する大型の複合単結晶圧電振動子を作製することができる。なお、本実施形態の医用複合単結晶圧電振動子を作製する方法は、複数の単結晶圧電振動素子を作製後、作製された複数の単結晶圧電振動素子に対して熱処理、混合、検査選別する工程をさらに具備していてもよい。
【0139】
本実施形態の医用複合単結晶圧電振動子を作製する方法において、複数の棒状振動素子または複数の板状振動素子を配列させる場合、上記素子の厚みTに対して0.4乃至3%の磁性層厚みtを上記素子に設け、磁性層が設けられた複数の棒状振動素子または複数の板状振動素子を、磁力を用いて任意の位置に配列させることに関して、t/Tを0.4乃至3%に限定する理由は、以下のとおりである。t/Tが0.4%以下の磁性層では磁力で素子を配列、固定させることが困難となり、更に3%以上の厚みではダイサーで切断時に磁性層が剥がれが生じやすく、さらに基板の反りが出るためである。なお、更に好ましい磁性層の厚みは片面で1乃至5μmである。
【0140】
以上に述べた構成および方法によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、長さLが35乃至50mm程度、幅Wが5乃至10mm程度で厚みTが0.05乃至0.15mmの高周波リニアプローブ用振動子や、長さLが75mm程度で幅Wが10乃至15mm程度で厚みTが0.2乃至0.4mmの腹部コンベックスプローブ用振動子のような大型の複合単結晶圧電振動子を製造する際に、チャンネル間、及び振動子間におけるプローブ感度のバラツキと、アレイダイシング後における振動子の特性の劣化とを低減させることができる。また、これらの方法で作製された複合単結晶圧電振動子を用いて医療用アレイ式超音波プローブを作製することにより、超音波プローブにおけるチャンネルの感度と比帯域の特性ばらつきとを低減させることが出来る。更に、超音波プローブに含まれる短冊振動子の幅振動によるスプリアスを効果的に低下させることが出来る。これにより、プローブ感度を向上させることが出来る。加えて、本実施形態における他の効果として、単結晶インゴットのより多くの場所から単結晶ウエハを多量に効率良く作製できるとともに、超音波プローブの組み立て時において、振動素子の破壊が生じにくいために、製造歩留まりの良い超音波プローブを作製することが出来る。
【0141】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0142】
1…医用複合単結晶圧電振動子、3…x面、5…y面、7…樹脂、40…単結晶圧電振動素子、50…棒状振動素子、51…板状振動素子、52…棒状振動素子、53…板状振動子、55…棒状振動素子、13…フィルム、15…樹脂、16…磁石、17…櫛形磁石、23…スペーサ、100…バッキング材、102…信号用FPC、106…第1の音響整合層、108…第2の音響整合層、110…アース用FPC、112…音響レンズ、60…丸穴、200…水槽、201…医用超音波プローブ、203…パルサー・レシーバ、205…オシロスコープ、207…アクリル板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列された複数の単結晶圧電振動素子と、
前記単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、前記第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられた電極と、
を有する医用複合単結晶圧電振動子であって、
前記超音波放射面側における前記単結晶振動素子の結晶方位は{100}であり、
前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1方向に垂直な第1面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第1面の結晶方位と異なり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第2方向に垂直な第2面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第2面の結晶方位と異なること、
を特徴とする医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項2】
前記第1面の結晶方位に関する差異は10°乃至170°であり、
前記第2面の結晶方位に関する差異は10°乃至170°であること、
を特徴とする請求項1に記載の医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項3】
第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列された5個以上の単結晶圧電振動素子と、
前記単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、前記第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられた電極と、
を有する医用複合単結晶圧電振動子であって、
前記医用複合単結晶圧電振動子に関する前記第1または前記第2方向の幅は、4mm乃至15mmであり、
前記複数の単結晶圧電振動素子がそれぞれ有する複数のキュリー温度に関して、前記キュリー温度の最大値と最小値との温度差が5乃至30℃であって、
前記5個以上の単結晶振動素子を配列した方向に沿った前記複数の単結晶圧電振動素子に対するキュリー温度の関係を示す曲線は、複数の変曲点を有すること、
を特徴とする医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項4】
前記医用複合単結晶圧電振動子の体積に対する前記単結晶圧電振動素子が占める体積の割合は、95%以上100%未満であること、
を特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項5】
前記医用複合単結晶圧電振動子は、前記第1方向の長さが35mm乃至80mmであり、前記第2方向の長さが4mm乃至15mmであり、前記第1及び第2方向に直交する第3方向における長さが0.05mm乃至0.5mmであって、
前記複数のチャンネル各々の間隔は、前記第1、第2方向に沿って0.05mm乃至0.4mmの長さを有すること、
を特徴とする請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項に記載の医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項6】
前記単結晶圧電振動素子は、40mol%乃至75mol%のマグネシウムニオブ酸鉛と、0mol%乃至40mol%のインジウムニオブ酸鉛と、25mol%乃至60mol%のチタン酸鉛とを含むリラクサ系単結晶を有すること、
を特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載の医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項7】
前記電極は、前記第1及び第2方向に直交する第3方向に沿って、かつ、前記単結晶圧電振動素子から離れる方向に沿って、5nm乃至30nmの厚みを有する空隙率が20乃至80%の多孔質の酸化マンガンと、10nm乃至50nmの厚みを有する緻密質のパラジウム、ニッケル、クロム、チタンのうちいずれか一つの金属と、100nm乃至400nmの厚みを有する緻密質の金との順で積層された複合電極であること、
を特徴とする請求項1乃至請求項6のうちいずれか一項に記載の医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項8】
複数の単結晶圧電振動素子の材料となる圧電単結晶を作製し、
前記圧電単結晶の結晶方位が{100}となる面で前記圧電単結晶を切断することにより、結晶方位{100}面を有する単結晶ウエハを作製し、
前記結晶方位{100}面に直交する第1面と前記第1面および前記結晶方位{100}面に直交する第2面とに沿って前記単結晶ウエハを切断することにより、前記単結晶圧電振動素子を作製し、
前記作製された複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1、第2面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第1、第2面の結晶方位とそれぞれ異なるように、前記結晶方位{100}面を超音波放射面側に配置させて前記単結晶圧電振動素子を配列し、
前記配列された前記単結晶圧電振動素子の間に所定の樹脂を充填することにより、前記単結晶圧電振動素子と前記樹脂とを複合化し、
前記単結晶圧電振動素子の超音波放射面側と前記単結晶圧電振動素子の背面側とに電極を設けること、
を特徴とする医用複合単結晶振動子製造方法。
【請求項9】
複数の単結晶圧電振動素子の材料となる圧電単結晶を作製し、
前記圧電単結晶の結晶方位が{100}となる面で前記圧電単結晶を切断することにより、結晶方位{100}面を有する単結晶ウエハを作製し、
前記結晶方位{100}面に直交する第1面と前記第1面および前記結晶方位{100}面に直交する第2面とに沿って前記単結晶ウエハを切断することにより、前記単結晶圧電振動素子を作製し、
前記作製された単結晶圧電振動素子の中から異なるキュリー温度を有する単結晶圧電振動素子を選択し、前記結晶方位{100}面を超音波放射面側に配置させて前記単結晶圧電振動素子を配列し、
前記配列された前記単結晶圧電振動素子の間に所定の樹脂を充填することにより、前記単結晶圧電振動素子と前記樹脂とを複合化し、
前記単結晶圧電振動素子の超音波放射面側と前記単結晶圧電振動素子の背面側とに電極を設けること、
を特徴とする医用複合単結晶振動子製造方法。
【請求項10】
前記作製された単結晶ウエハの前記結晶方位{100}面に、前記結晶方位{100}面と前記背面との間の長さの0.4%乃至3%の厚みを有する磁性層を設けることをさらに具備し、
前記単結晶圧電振動素子を配列することは、
前記磁性層を引き付ける磁力を有する磁石を用いて、前記単結晶圧電振動素子を配列すること、
を特徴とする請求項9に記載の医用複合単結晶振動子製造方法。
【請求項11】
第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列された複数の単結晶圧電振動素子と、
前記単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、前記第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられた電極と、
を有する超音波プローブであって、
前記超音波放射面側における前記単結晶振動素子の結晶方位は{100}であり、
前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1方向に垂直な第1面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第1面の結晶方位と異なり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第2方向に垂直な第2面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第2面の結晶方位と異なること、
を特徴とする医用超音波プローブ。
【請求項12】
複数の単結晶圧電振動素子の材料となる圧電単結晶を作製し、
前記圧電単結晶の結晶方位が{100}となる面で前記圧電単結晶を切断することにより、結晶方位{100}面を有する単結晶ウエハを作製し、
前記結晶方位{100}面に直交する第1面と前記第1面および前記結晶方位{100}面に直交する第2面とに沿って前記単結晶ウエハを切断することにより、前記単結晶圧電振動素子を作製し、
前記作製された複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1、第2面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第1、第2面の結晶方位とそれぞれ異なるように、前記結晶方位{100}面を超音波放射面側に配置させて前記単結晶圧電振動素子を配列し、
前記配列された前記単結晶圧電振動素子の間に所定の樹脂を充填することにより、前記単結晶圧電振動素子と前記樹脂とを複合化し、
前記複合化された単結晶圧電振動素子の超音波放射面側と背面側とに電極を設け、
前記超音波放射面側の電極の前面に音響整合層を設け、
前記背面側の電極の背面にバッキング材を設けること、
を特徴とする医用超音波プローブ製造方法。
【請求項13】
第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列された複数の単結晶圧電振動素子と、
前記単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、前記第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられた電極と、
を有する医用複合単結晶圧電振動子であって、
前記単結晶圧電振動素子は、40mol%乃至75mol%のマグネシウムニオブ酸鉛と、0mol%乃至40mol%のインジウムニオブ酸鉛と、25mol%乃至60mol%のチタン酸鉛とを含むリラクサ系単結晶を有し、
前記超音波放射面側における前記単結晶振動素子の結晶方位は{100}であり、
前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1方向に垂直な第1面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第1面の結晶方位と異なり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第2方向に垂直な第2面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第2面の結晶方位と異なること、
を特徴とする医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項1】
第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列された複数の単結晶圧電振動素子と、
前記単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、前記第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられた電極と、
を有する医用複合単結晶圧電振動子であって、
前記超音波放射面側における前記単結晶振動素子の結晶方位は{100}であり、
前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1方向に垂直な第1面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第1面の結晶方位と異なり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第2方向に垂直な第2面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第2面の結晶方位と異なること、
を特徴とする医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項2】
前記第1面の結晶方位に関する差異は10°乃至170°であり、
前記第2面の結晶方位に関する差異は10°乃至170°であること、
を特徴とする請求項1に記載の医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項3】
第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列された5個以上の単結晶圧電振動素子と、
前記単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、前記第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられた電極と、
を有する医用複合単結晶圧電振動子であって、
前記医用複合単結晶圧電振動子に関する前記第1または前記第2方向の幅は、4mm乃至15mmであり、
前記複数の単結晶圧電振動素子がそれぞれ有する複数のキュリー温度に関して、前記キュリー温度の最大値と最小値との温度差が5乃至30℃であって、
前記5個以上の単結晶振動素子を配列した方向に沿った前記複数の単結晶圧電振動素子に対するキュリー温度の関係を示す曲線は、複数の変曲点を有すること、
を特徴とする医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項4】
前記医用複合単結晶圧電振動子の体積に対する前記単結晶圧電振動素子が占める体積の割合は、95%以上100%未満であること、
を特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項5】
前記医用複合単結晶圧電振動子は、前記第1方向の長さが35mm乃至80mmであり、前記第2方向の長さが4mm乃至15mmであり、前記第1及び第2方向に直交する第3方向における長さが0.05mm乃至0.5mmであって、
前記複数のチャンネル各々の間隔は、前記第1、第2方向に沿って0.05mm乃至0.4mmの長さを有すること、
を特徴とする請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項に記載の医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項6】
前記単結晶圧電振動素子は、40mol%乃至75mol%のマグネシウムニオブ酸鉛と、0mol%乃至40mol%のインジウムニオブ酸鉛と、25mol%乃至60mol%のチタン酸鉛とを含むリラクサ系単結晶を有すること、
を特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載の医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項7】
前記電極は、前記第1及び第2方向に直交する第3方向に沿って、かつ、前記単結晶圧電振動素子から離れる方向に沿って、5nm乃至30nmの厚みを有する空隙率が20乃至80%の多孔質の酸化マンガンと、10nm乃至50nmの厚みを有する緻密質のパラジウム、ニッケル、クロム、チタンのうちいずれか一つの金属と、100nm乃至400nmの厚みを有する緻密質の金との順で積層された複合電極であること、
を特徴とする請求項1乃至請求項6のうちいずれか一項に記載の医用複合単結晶圧電振動子。
【請求項8】
複数の単結晶圧電振動素子の材料となる圧電単結晶を作製し、
前記圧電単結晶の結晶方位が{100}となる面で前記圧電単結晶を切断することにより、結晶方位{100}面を有する単結晶ウエハを作製し、
前記結晶方位{100}面に直交する第1面と前記第1面および前記結晶方位{100}面に直交する第2面とに沿って前記単結晶ウエハを切断することにより、前記単結晶圧電振動素子を作製し、
前記作製された複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1、第2面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第1、第2面の結晶方位とそれぞれ異なるように、前記結晶方位{100}面を超音波放射面側に配置させて前記単結晶圧電振動素子を配列し、
前記配列された前記単結晶圧電振動素子の間に所定の樹脂を充填することにより、前記単結晶圧電振動素子と前記樹脂とを複合化し、
前記単結晶圧電振動素子の超音波放射面側と前記単結晶圧電振動素子の背面側とに電極を設けること、
を特徴とする医用複合単結晶振動子製造方法。
【請求項9】
複数の単結晶圧電振動素子の材料となる圧電単結晶を作製し、
前記圧電単結晶の結晶方位が{100}となる面で前記圧電単結晶を切断することにより、結晶方位{100}面を有する単結晶ウエハを作製し、
前記結晶方位{100}面に直交する第1面と前記第1面および前記結晶方位{100}面に直交する第2面とに沿って前記単結晶ウエハを切断することにより、前記単結晶圧電振動素子を作製し、
前記作製された単結晶圧電振動素子の中から異なるキュリー温度を有する単結晶圧電振動素子を選択し、前記結晶方位{100}面を超音波放射面側に配置させて前記単結晶圧電振動素子を配列し、
前記配列された前記単結晶圧電振動素子の間に所定の樹脂を充填することにより、前記単結晶圧電振動素子と前記樹脂とを複合化し、
前記単結晶圧電振動素子の超音波放射面側と前記単結晶圧電振動素子の背面側とに電極を設けること、
を特徴とする医用複合単結晶振動子製造方法。
【請求項10】
前記作製された単結晶ウエハの前記結晶方位{100}面に、前記結晶方位{100}面と前記背面との間の長さの0.4%乃至3%の厚みを有する磁性層を設けることをさらに具備し、
前記単結晶圧電振動素子を配列することは、
前記磁性層を引き付ける磁力を有する磁石を用いて、前記単結晶圧電振動素子を配列すること、
を特徴とする請求項9に記載の医用複合単結晶振動子製造方法。
【請求項11】
第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列された複数の単結晶圧電振動素子と、
前記単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、前記第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられた電極と、
を有する超音波プローブであって、
前記超音波放射面側における前記単結晶振動素子の結晶方位は{100}であり、
前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1方向に垂直な第1面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第1面の結晶方位と異なり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第2方向に垂直な第2面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第2面の結晶方位と異なること、
を特徴とする医用超音波プローブ。
【請求項12】
複数の単結晶圧電振動素子の材料となる圧電単結晶を作製し、
前記圧電単結晶の結晶方位が{100}となる面で前記圧電単結晶を切断することにより、結晶方位{100}面を有する単結晶ウエハを作製し、
前記結晶方位{100}面に直交する第1面と前記第1面および前記結晶方位{100}面に直交する第2面とに沿って前記単結晶ウエハを切断することにより、前記単結晶圧電振動素子を作製し、
前記作製された複数の単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1、第2面の結晶方位が、他の単結晶圧電振動素子における前記第1、第2面の結晶方位とそれぞれ異なるように、前記結晶方位{100}面を超音波放射面側に配置させて前記単結晶圧電振動素子を配列し、
前記配列された前記単結晶圧電振動素子の間に所定の樹脂を充填することにより、前記単結晶圧電振動素子と前記樹脂とを複合化し、
前記複合化された単結晶圧電振動素子の超音波放射面側と背面側とに電極を設け、
前記超音波放射面側の電極の前面に音響整合層を設け、
前記背面側の電極の背面にバッキング材を設けること、
を特徴とする医用超音波プローブ製造方法。
【請求項13】
第1方向と前記第1方向に直交する第2方向とのうち少なくとも一つに沿って配列された複数の単結晶圧電振動素子と、
前記単結晶圧電振動素子における複数の面のうち、前記第1、第2方向にそれぞれ平行な超音波放射面側と背面側とに設けられた電極と、
を有する医用複合単結晶圧電振動子であって、
前記単結晶圧電振動素子は、40mol%乃至75mol%のマグネシウムニオブ酸鉛と、0mol%乃至40mol%のインジウムニオブ酸鉛と、25mol%乃至60mol%のチタン酸鉛とを含むリラクサ系単結晶を有し、
前記超音波放射面側における前記単結晶振動素子の結晶方位は{100}であり、
前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第1方向に垂直な第1面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第1面の結晶方位と異なり、前記単結晶圧電振動素子のうち少なくとも一つにおける前記第2方向に垂直な第2面の結晶方位は、他の単結晶圧電振動素子における前記第2面の結晶方位と異なること、
を特徴とする医用複合単結晶圧電振動子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2013−26682(P2013−26682A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157090(P2011−157090)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]