説明

医療の意思決定支援システムにおける生理学的モデルの統合

ある患者における生体系のモデルを生成するとき、該系におけるパラメータ及び変数を表す微分方程式が互いにリンクされ、1以上のサブモデル(1つのサブモデルがそれぞれの生体系を表す)が形成され、これらのサブシステムは、互いにリンクされて患者モデルが形成される。仮定に基づく臨床の状態に関するシミュレーションがモデル上で実行され、変数について解かれ、解は、その患者の治療又は診断の決定を容易にするため、医師による検討のための意思決定支援データとして出力される。さらに、モデル予測は、利用可能なときに実際の測定値に比較され、モデルは、比較の関数としてリファイン又は最適化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床の患者のモデルシステム、及び他の臨床のシミュレーション装置又は技術における特定の有用性を見出すものである。しかし、記載される技術は、他のタイプのモデリングシステム及び/又は他のシミュレーションシステム又は技術における用途を見出す場合がある。
【背景技術】
【0002】
臨床的利用の生理学的モデリングの従来のシステム及び方法は、幾つかの問題点を有している。たとえば、生理学者、技術者、及び他の科学者は、1つの生理学的システムを数学的に記述する生理学的モデルを開発している。しかし、2以上の生理学的システムの相互作用を記述することは、(適用性の観点で)理解しにくいことが分かっている。他の公知のモデルは、利用可能な患者データに基づいており、したがって統計的又は確率的なアプローチである。典型的に、異なる生理学的モデルを記述する数学的モデルは、医療領域で使用される医療システムにおける最終的な実現に関することなしに、開発され且つ検証される。
【0003】
心臓により噴出されるボリュームは、左心室から外への血流に等しいことがある。また、この量は、「心拍出量」(CO: Cardiac Output)と呼ばれ、血行動態の状態の評価における重要な測度である。1870年ほど早期に、Adolph Fickがこの量を測定する方法を明らかにし、その後の方法は、その後ずっと試みられている。係る方法は、直接Fick、間接Fick(又はCO2再呼吸)、熱希釈法、リチウム希釈、パルス圧力波形分析、食道のドップラ超音波検査、経食道心エコー検査、胸郭の電気生体インピーダンス、パーシャルCO2再呼吸、アセチレン再呼吸、アセチレンの開路ねじり上げを含む。COを推定する上述された全ての方法は、患者に対して侵襲的である。これらは、典型的に不活性ガスである流体の吸入又は注入から、人体の異なる位置で不愉快なプローブを配置することに変化する。
【0004】
3つの主要な問題は、これらの方法を採用するときに一般的に遭遇する。たとえば、CO予測の精度は、意図されない臓器及び組織による拡散性及び反応性のロスの観点で、流体の吸入における可能性のある固有の不正確さのために苦しむ。さらに、バルク体の動きは、プローブの位置に悪影響を及ぼす可能性がある。さらに、たとえばSwan-Ganzカテーテルの場合、プローブと人体との相互作用による臨床的合併症(感染等)は、望まれない影響を生じる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、上述された課題を克服するのを容易にするシステム及び方法の当該技術分野における未だ対処されていない必要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1態様によれば、コンピュータ読み取り可能な媒体は、人間の心肺機能をエミュレートするプログラムを含んでおり、このプログラムは、患者の心肺システムの一般的なモデルを提供する手段、及び人間の心肺のパラメータを測定する手段とを有しており、前記モデルは、肺循環、体循環、4つの心室、自律神経系、代謝作用、ガス交換、肺メカニズム、及び反射神経を含む。このプログラムは、人間の現在の健康状態を反映する関連する心肺変数を表示し、心肺システムの機能をシミュレートする命令を更に含む。
【0007】
別の態様によれば、人間の心肺機能をエミュレートするコンピュータ読み取り可能な媒体に実施されるプログラムは、人間の心肺システムの一般的なモデルを提供する手段、人間の心肺変数を測定する手段、及び、一般的なモデルの心肺の変数が人間の心肺の変数を反映するように、そのモデルの心肺のパラメータを繰り返し変更する手段を有する。
【0008】
別の態様によれば、臨床の患者のモデリングシステムは、生体学的パラメータと生体学的システムに関する変数との間の関係を記述する複数の異なる式による、患者における生体学的システムの少なくとも1つのサブモデルを含む、ある患者の予め生成された生体学的モデルと、患者データを受信し、患者データを生体学的モデルに挿入し、患者を診断又は治療したときにユーザによる検討のための意思決定支援データを出力するモデルジェネレータとを有する。システムは、ユーザが患者を仮定の状況に置くのを考慮する仮定の状況にモデルを適合させるための1以上のパラメータをユーザが入力するユーザインタフェースを更に含む。
【0009】
更に別の態様は、仮定に基づく臨床のシナリオを評価する方法に関し、患者の集団から収集された生理学的データからモデルを生成するステップ、患者に関連されるパラメータ及び変数を記述する微分方程式としてモデルにおいて生体学的データを表現するステップ、患者が置かれるべき仮定の状況についてモデルを適合させるためにモデルにおけるパラメータを調節するステップ、モデル上でシミュレーションを実行して、意思決定支援データを生成してモデルにおける変数を解くステップを含む。
【0010】
1つの利点は、モデルの表現及び/又は1を超える生体学的システムへのモデルのリンクにある。
別の利点は、幾つかの変数が意思決定支援データとして出力のために解かれることにある。
別の利点は、臨床に関連するデータの解を出力することにある。
別の利点は、測定又は更には計ることが難しい(計算)値を予測することに関する。
更に別の利点は、臨床の関連する生体学的変数の値を予測することに関する。
本発明の更なる利点は、以下の詳細な説明を読んで理解することで当業者により理解される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明は、様々なコンポーネント及びコンポーネントのアレンジメントの形態、及び様々なステップ及びステップのアレンジメントの形態をとる場合がある。図面は、様々な態様を例示することのみを目的とし、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図1】医療の意思決定プロセスにおいて支援する臨床のセッティングにおいて、何らかの状況を仮定したシナリオを実行するため、患者の生理機能に基づいた数学的モデルを生成及び利用するシステムを例示する図であり、このモデルは、病気の診断及び治療の計画の支援を提供する。
【図2】図1のシステムで採用される場合があるような、生体モデルの定義及び応用を例示する図である。
【図3】モデルの作成及び使用に関する3つの段階を例示する図である。
【図4】図3で生じるようなモデルを調節する概念図である。
【図5】異なるシナリオについて医師によるモデルの実行、及び異なる心臓血管の状態、薬物及び/又は運動効果の下での患者のシミュレーションを記述する概念を示す図である。
【図6】患者における心拍出量を予測する非侵襲性の方法を例示する図である。
【図7】Mathworksによる、Simulinkを使用して生成される心肺モデルを例示する図である。
【図8】入力として患者の変数を受ける血液量減少性ショックのシミュレーションの例を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、医療の意思決定プロセスにおいて支援するための臨床のセッティングにおいて、何らかの状況を仮定したシナリオを実行するため、患者の生理機能に基づいた数学的モデルを生成及び利用するシステム10を例示する図であり、このモデルは、病気の診断及び治療の計画の支援を提供する。本システムは、プロセッサ18を有するモデルジェネレータ12を含み、このプロセッサは、データベース(図示せず)等に記憶される予め生成されたモデル16を構築及び/又はリファインするためにコンピュータ読み取り可能な媒体(図示せず)に記憶される命令、プログラム、及び/又はルーチンを実行する。すなわち、モデル16は、患者の集合から収集された生体データから構築又は予め生成され、新たな又は更新された患者データを予め生成されたモデル16に入力することでリファインされ、リファインされたモデル16a(図2)が形成される。モデルジェネレータ12は、患者データ14を受信し、それを実行される仮定のテストのために1以上の予め生成された患者モデル16に挿入する。患者データ14は、患者データを収集するバイタルサインモニタ(図示せず)又は他の装置により収集される。1実施の形態によれば、モデルは、肺循環、体循環、4心室、自律神経系、代謝作用、ガス交換、肺メカニズム、及び/又は反射神経を表すサブモデルを含む。ユーザインタフェース20は、患者の現在の健康状態を反映する関連する心肺の変数(その例は以下に提供される)を表示する。ユーザインタフェース20は、特定の仮定の状況にモデル16を適合させるため、モデル16のパラメータをユーザが入力するのを可能にする。1実施の形態では、ユーザは、ユーザインタフェースを介して(Mathworksによる)Simulink又は別の適切なシステムモデリングソフトウェアアプリケーションを使用して予め生成されたモデル16を構築又は調節する。テストランの完了に応じて、モデルジェネレータは、ユーザによる検討のために意思決定支援データ22を出力し、次いで、ユーザは、たとえば患者の治療又は診断に関連する意思決定をなすときに意思決定支援データを利用する。このように、ユーザ(たとえば、医師又は他の臨床医)は、臨床応用向けの生体モデルを使用して異なる刺激に対する患者の応答のシミュレーションを実行する場合がある。
【0013】
制御システムの理論、及びシステム理論、システム同定、及び信号処理のような関連分野は、一般化された、数値的に安定な、且つ簡潔なやり方で多入力多出力結合システムを表すことができる強力な数学ツールを表す。この構築は、多入力及び出力を有する固有に連結されたマルチ生体システムを記述することに適用することができる。生体モデルは、実際の関連のある生理学を記述するので、従って、それらは決定論的であって、統計的又は確率的な方法によりもたらされる偶然性のファクタを引き起こさない。この決定的なコンポーネントは、収集された患者データ(統計的)又は知識及び近似(推定又は確率的)アプローチに大部分が依存する、医療診断システムで使用されることがある従来の数学的モデルに見られないエレメントを追加する。モデル16に記載される生理学は、問題となる病気に特化しており、従ってその臨床応用を容易にする。診断されている特定の患者に適合された生体モデルから、医師に最終的な臨床の意思決定の支援として役立つ患者の決定的な生理的な情報を提供することで、患者の治療及び診断に関する意思決定は、著しく改善される。
【0014】
1実施の形態では、ユーザインタフェース20は、生理学的信号と、時間を通したそれらの振る舞い又は指定された時間を通して平均される振る舞いとに関連するデータを含む、(たとえば、コンピュータモニタ又は他のユーザインタフェースで)1以上の幾つかのスクリーンを出力するモデル16を含む。出力モデル及び/又は信号の振る舞いの情報は、医師が疑いのある病気(たとえば癌性増殖又は腫瘍等)に関連すると考える典型的な変数;侵襲的な治療(たとえば肺循環等)によって定量化することができない測定不可能な(内部)変数;PV(圧力−体積)ループのような医師が見たいと望むエミュレーションのための特定の応答曲線;特定の病気の診断又は治療の診断の支援の結果の解釈;健康状態、外部からの点滴、対応する結果のスクリーンを変更するためのノブ又は他の制御手段(たとえば、タッチスクリーン、ボタン、バーチャルボタン、又はマウス、スタイラス、カーソル及び矢印キーを使用してユーザが選択するもの、或いは他の入力装置等)、を含む。
【0015】
例によれば、医師は、ある患者についてストレス試験を指示することを検討する場合があるが、患者の状態がストレス試験に耐えるに十分に強いかが不確かである。このシナリオにおいて、生理学的モデル16は、現在の状態、病気の履歴、ライフスタイル、年齢、性、肥満度指数(BMI)等のような関連する健康情報を入力することで、問題となっている患者に調整される。たとえば、患者の健康情報の一部として入力される血栓症の状態は、リファインされた生理学に基づくモデル16aにおける全身抵抗及びコンプライアンスにおける変化として反映される。すなわち、モデル16のパラメータ48は、たとえば患者に特化した健康情報(たとえば状態、病気、BMI等)により調節され、これによりモデル16のパラメータ48は、効果的に更新されるか、又は患者に特化した新たな健康の情報を反映する。たとえば、患者に特化したBMIを入力することで、組織のコンプライアンス、血管のインピーダンス、代謝体の破壊率、又はモデル16の他のパラメータ48は、特定の患者のBMIを反映するために調節される。すなわち、幾つかのパラメータは、動的に共依存しており、これにより、比較的高いBMIを持つ患者は、たとえば比較的低いBMIをもつ患者とは異なる代謝体の破壊率、異なるレベルの血管のインピーダンス等を有することが推定される場合がある。したがって、先の例では、BMI情報のエントリは、BMIに動的にリンクされる他のパラメータへの対応する調節を引き起こす。この意味では、パラメータの調節は、明示的(たとえばダイレクトエントリ、又は、医師又はオペレータによるパラメータ情報の調節)、又は暗黙的(たとえば第一のパラメータのエントリ又は調節は、第一のパラメータにリンクされる他のパラメータに対する調節を生じさせる)である。リファインされた生理学的モデル16aは、心拍数、動脈圧、心拍出量等のような重要な兆候を連続的な時間信号、又は医師により望まれるような時間を通して平均される信号として出力するためにシミュレートされる。結果として得られる意思決定支援データは、患者がストレステストを受けたかのように、医師にシナリオを提供する。これにより、患者が係る検査に耐えられるか否かに関する意思決定を支援するに十分な情報を医師に結果的に提供される。
【0016】
本実施の形態で与えられる多くの例は心臓血管系に関連しているが、様々な特徴は、理解されるように、呼吸器系、体温調節、内分泌、泌尿器のような他の生理学的システムについて拡張することができる。
【0017】
図2は、図1のシステム10で採用されるような生理学的モデル16の定義及び応用の例を示す。上側のセクション40は、生理学的モデル16は、微分方程式により数学的に表されるシステムエンジニアリング42及び人間の生理機能に関する情報44とを含むことを示す。微分方程式は、静的状態のみではなく、システムの動的な振る舞いを表す。中段46は、係る微分方程式(たとえば生理学的モデル16を表している)がパラメータ48と変数50との生み合わせであることを示す。たとえば、パラメータ48は、限定することなしに、組織のコンプライアンス、血管のインピーダンス、代謝体の破壊率、等を含む。変数50は、限定することなしに、肺静脈血圧、心拍出量、血液の酸素圧等を含む。下段52は、リファインされた生理学に基づくモデル16aは、医療の診療経験(薬剤54)と共に、臨床の意思決定において医師を支援するCDSS(Clinical Decision Support System)等のような臨床のセッティングにおける使用を可能にする。したがって、生理学に基づくモデル16aは、ある患者をシミュレートする異なるシナリオを実行することができ、したがって、医師は、最適な治療の計画を決定することができる。さらに、モデルにおける詳細のレベルは、用途に依存して、分子からマクロスケールに変化することができる。
【0018】
図3は、モデル16の作成及び使用の3つの段階を例示する。ステップ70で、(たとえば、心臓血管系、内分泌系、肺システム、消化器系等といった)患者システムに関連する生理の特性を表す生理学的モデル16がはじめに作成又は構築される。モデル16は、体循環の特定の位置について、血圧のような状態変数を乗じる係数としてもパラメータを有する微分方程式のセットにより表される。(動的な次数及び遅延を含む項の数といった)モデルの構造を研究及び選択することで、数学的モデルは、大きな患者の集合からの患者データによりはじめに検証され、使用されるパラメータは、患者の集合の平均を反映する。ステップ72で、モデル16は、既に上述されたように患者に特定の健康情報を考慮することでモデル16が採用される特定の患者に調節される。ステップ74で、リファインされたモデル16aは、患者について採用され、モデルからのフィードバックは、たとえばモデル生成の次の繰り返しにおいて採用される。たとえば、モデル出力は、将来のモデルを改善するのを容易にするため、患者の集合のデータに追加される。
【0019】
図4は、図3のステップ72で行われるような、モデル16を調節する概念図である。新たな患者90が医師に与えられるとき、肥満度指数等のような、その患者に関する(たとえば健康診断といった)関連のパラメータ情報が取得される。パラメータ48は、この取得された患者情報に基づいて調節又は更新される。すなわち、パラメータ情報は、(図4において“parms”と呼ばれる)モデル16の既存のパラメータ48の新たなアップデートにおいて効果的に反映され、数学的モデルは、新たな患者に調節又は調整される。1例では、(新たなBMIデータ又はアップデートされたBMIデータ)BMIデータのエントリは、モデル16におけるBMI値に更新させ、BMIにより典型的に影響されるか又はBMIに独立である他の共に関連するパラメータ値(たとえば血管インピーダンス)の調整を行わせる。係る調節は、リファインされたモデル16aを生成するため、モデル16を予め生成するのに採用される集合的な患者データの関数として定義される、予め定義されたルックアップテーブルに従って行われる。これは、既存のモデル16における斜めの矢印により示される。さらに、患者の重要な値が採用される場合、これらの値は、モデルを更に評価するために使用される。微分器92は、重要な値、及び他のモニタされた又は既知の生理学的な変数、及びモデルにより予測されるこれら同じ変数の値のような、実際の患者の生理的な変数間の差を決定又は識別する。この差は、検証メトリックの誤り基準としての役割を果たす。
【0020】
図5は、異なるシナリオについて医師による調節又はリファインされたモデル16aの実行、心臓血管の状態、薬物及び/又は運動効果の下での患者に係る異なる臨床のシナリオのシミュレーションを表す概念図である。リファインされたモデル16aは、患者の心臓血管の状態を表すために使用される連続的又は周期的な時間信号を出力する。医師は、その後、この情報を使用して、特定の薬又は治療テストを指示するか否かに関する臨床の意思決定を支援する。医師は、たとえば新たな患者90から既存のモデル16、医師100への論理的なフローといった、患者の異なる臨床のシナリオをシミュレートする。医師は、可変の微分及びモデル検証の論理ステップに典型的に関与しない。さらに、図3における74から70へのフィードバックリンクを追加することができ、これにより、(たとえば重要な兆候といった)結果は、患者の集合において異なるクラスについて生理学モデルのデータベースを作成するため、評価をする人(医師又はその他)からのユーザ入力に加えて、(集合のサイズが1だけ増加しているので)集合に基づいたモデル16を更に調節するために使用することができる。このように、生理学的なモデルは、意思により望まれる生理学的な情報を与えるが、従来のシステムを使用して容易に測定可能ではない。係る情報の例は、限定されるものではないが、内臓の部分に関する圧力、肺の循環、心拍出量、駆出率等を含む。
【0021】
図6は、患者90の心拍出量(CO)を予測する非侵襲的な方法を例示する。本方法は、血圧、呼吸数、心拍数等のような観測可能なものから既に利用可能な情報、及び患者システムの生体学的モデル16を含む2つの情報源に依存する。1実施の形態では、モデル16により表される患者システムは、心臓血管系である。医師には、時間につれてCOのランニング信号又はその平均値が、図1のユーザインタフェース20のようなスクリーンに供給される。心臓血管系を表す数学モデル16は、前の図で表されたように、正常な生理学的データで作成及び評価される。モデルは、変数とそれらの時間微分とを乗じるパラメータを有する幾つかの常微分方程式(ODE)のシステムである。COは、これらの式を解くことから得られる変数である。これらの式におけるパラメータは、血管インピーダンス、血管コンプライアンス、心筋のエラスタンス等のような心臓血管系の物理特性を表す。
【0022】
図6は、非侵襲性の生理的な変数予測を実行するために行われるべき3つのステップを表す。第一ステップは、患者が入力(IV、薬剤、ストレス等)及び出力(血圧、心拍数、呼吸数等)、生理学的なモデル16を有することを例示しており、このモデルは、現在の患者について適切である患者の集合のクラスに関して有効にされると想定される。たとえば、患者は、以下の属性を有する。高齢者、男性、喫煙者。第二のステップは、観察される時間信号がシステム同定アルゴリズムに供給されるフェーズを表し、これにより、モデル16の既存のパラメータ48に対するアップデートが計算され、次いで、モデルが現在の患者に調節され、結果としてモデル16aが得られる。ステップ3は、新たな現在のリファインされたモデル16aの実現段階を表し、このモデル16aは、CO(t)を測定するために困難、高価、侵襲性(又は更には不可能である)生理学的な変数(又は時間信号)を予測するために使用される。本方法は、集中治療装置、緊急治療室、オフィス、家庭等で適用することもできる。
【0023】
非侵襲的に予測された生理学的な変数は、測定された変数が提示されたときと同時に、スクリーンに時間信号として報告される。1実施の形態では、変数予測のアルゴリズムは、コンピュータ読み取り可能な媒体に記憶され、図1のプロセッサ18のようなプロセッサにより実行される。予測された変数の出力の提示は、心拍出量、心室PVダイアグラム、肺動脈楔入圧(PAWP)等を含む。PAWP予測について、アルゴリズムは、(たとえばブロッケージサイトの直後に)肺の圧力を計算するため、カテーテル(たとえばSwan-Ganz)をはじめにエミュレートし、肺動脈をブロックする。CO及びPV情報のような他の変数も同様に得ることができる。
【0024】
図7は、MathworksによるSimulinkを使用して生成される心肺のモデル150を例示する図である。このモデルは、ガス交換モデル152、心臓血管系モデル154等のような相互接続される様々なモデルコンポーネントを表す幾つかのサブモデルを含む。それぞれのサブモデルは、1以上の入力と1以上の出力を含み、多入力多出力(MIMO)系のモデルが得られる。さらに、変数の入力と出力は、簡略化のために「タグ」156により表される。オペレータ(たとえばシステム設計者又は医師)は、何らかの状況を仮定したシナリオをシミュレートするか、又はCO等を予測するため、モデル生成ソフトウェアを使用してパラメータをデジタル的に調節することができる。
【0025】
1実施の形態では、それぞれのサブモデルは、分離され、個々に調節され、次いで再び結合される。このように、システムのオーダは、調節のために低減され、これにより更に迅速な調節が可能となる。別の実施の形態では、より大きなシステムモデルは、調節されたサブモデルの再結合の後に調節される。
【0026】
図8は、患者の変数172を入力として受信する血液量減少性ショックのシミュレーションモデル170の例を示す。この例では、患者の変数は、全体の血液の量(Vt)である。値Vtは、血液の喪失を表すゲイン/増幅器174の正の端子と同時に減算器176とに入力される。この場合、増幅器は、Vtの10%がそれぞれのパスの間に失われることを示す値0.1を有する(たとえば、それぞれのパルスはソースVtからである)。増幅器の出力は、減算器の負の端子に供給され、全体の量Vtからの血液の損失がシミュレートされる。減算器からの出力は、血液量減少性ショックスイッチ178の第一の端子に供給され、量Vtは、スイッチの第二の端子に供給される。低減された量Vt1180は、スイッチから出力され、モデルの第二の繰り返しにおける全体の開始の量として使用される。心臓性及び閉塞性のような他のショックシナリオを同様にシミュレートすることができる。
【0027】
本発明は、幾つかの実施の形態を参照して記載された。先の詳細な説明を読んで理解することに応じて変更及び変形が行われる場合がある。特許請求の範囲又はその等価な概念の精神又は範囲に含まれる範囲において、全ての係る変更及び変形を含むものとして、本発明は解釈されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の心肺機能をエミュレートするプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
前記人間の心肺系の汎用モデルを提供する手段と、前記汎用モデルは、肺循環、体循環、4つの心室、自律神経系、代謝作用、肺のメカニズム及び反射作用を含み、
前記人間の心肺の変数を測定する手段と、
前記人間の現在の健康状態を反映する関連する心肺の変数を表示する手段と、
前記心肺系の機能をシミュレートする手段と、
を有するコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項2】
前記プログラムは、前記心肺変数の期待される値を決定するために解かれる複数の相互に関連する微分方程式として前記モデルを表す手段を更に有する、
請求項1記載のコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項3】
前記プログラムは、前記期待される値を前記心肺変数の測定された値に比較して、それらの間の差を決定する手段を更に有する、
請求項2記載のコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項4】
前記プログラムは、前記期待される値と前記心肺変数の測定される値との間の差の関数として前記モデルをリファインする手段を更に有する、
請求項3記載のコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項5】
人間の心肺機能をエミュレートするコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されるプログラムであって、
前記人間の心肺系の汎用モデルを提供する手段と、
前記人間の心肺の変数を測定する手段と、
前記汎用モデルの心肺変数が前記人間の心肺の変数を反映するため、前記モデルの心肺のパラメータを反復的に変化させる手段と、
を有するプログラム。
【請求項6】
当該プログラムは、前記心肺パラメータ及び変数を含む複数の相互に関連する微分方程式として前記汎用モデルを表す手段と、仮説に基づく臨床のシミュレーションの間に前記変数を解く手段と、
を更に含む請求項5記載のコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項7】
生理系に関する生理学的なパラメータ及び変数の間の関係を記述する複数の微分方程式により、ある患者における生理系の少なくとも1つのサブモデルを有する、前記患者の予め生成された生理学的モデルと、
患者データを受け、前記患者データを前記生理学的モデルに挿入して、前記患者を診断又は治療するときにユーザによる検討のために意思決定支援データを出力するモデルジェネレータと、
ユーザがある患者を仮定に基づく状態にすることを検討する前記仮定に基づく状態に前記モデルを適合させるため、ユーザが1以上のパラメータを入力するユーザインタフェースと、
を有する臨床の患者のモデリングシステム。
【請求項8】
少なくとも1つの変数について前記微分方程式を解き、前記意思決定支援データの一部として結果を出力するアルゴリズムを実行するプロセッサを更に有し、
前記プロセッサは、少なくとも1つの解かれた変数とその期待される値とを比較し、それらの間の差を判定して前記モデルを検証する検証基準を生成する、
請求項7記載のシステム。
【請求項9】
前記生理学的モデルは、前記微分方程式により表される、患者の集合からの既知の生理学的データを含む、
請求項7記載のシステム。
【請求項10】
前記パラメータは、組織のコンプライアンス、血管のインピーダンス、又は代謝体の破壊率の少なくとも1つを含む、
請求項7記載のシステム。
【請求項11】
前記変数は、心肺出量、血液の酸素圧、又は肺静脈の血圧の少なくとも1つを含む、
請求項7記載のシステム。
【請求項12】
前記モデルジェネレータは、前記ユーザインタフェースを介して入力されたパラメータ情報に応答して前記モデルをリファインする、
請求項7記載のシステム。
【請求項13】
複数の相互に関連のある、相互作用するモデルを更に有する、
請求項7記載のシステム。
【請求項14】
前記意思決定支援データは、前記モデルを更新して、将来の仮定に基づくモデルのシミュレーションのために前記患者の集合における患者を含むように、前記モデルにフィードバックされる、
請求項7記載のシステム。
【請求項15】
前記少なくとも1つのサブモデルは、肺系統、心臓血管系、新陳代謝系、腎臓系、内分泌系、生殖器系、又は肝臓系の少なくとも1つのモデルである、
請求項7記載のシステム。
【請求項16】
患者の集合から得られる生理学的データからモデルを生成するステップと、
前記患者に関連されるパラメータ及び変数を記述する微分方程式として前記モデルにおける前記生理学的データを表すステップと、
前記モデルにおけるパラメータを調節して、仮定に基づく状況に前記患者が置かれる前記仮定に基づく状況について前記モデルを調節するステップと、
前記モデルでシミュレーションを実行し、前記意思決定支援データを生成して、前記モデルにおける変数を解くステップと、
を含む請求項7記載のシステムにおける患者モデルの分析を実行する方法。
【請求項17】
仮定に基づく臨床のシナリオを評価する方法であって、
患者の集合から収集された生理学的データからモデルを生成するステップと、
ある患者に関連されるパラメータ及び変数を記述する微分方程式として前記モデルにおける生理学的データを表すステップと、
前記モデルにおけるパラメータを調節して、患者を仮定に基づく状況にすべき前記仮定に基づく状況について前記モデルを適合するステップと、
前記モデルでシミュレーションを実行し、意思決定支援データを生成して前記モデルにおける変数について解くステップと、
を含む方法。
【請求項18】
少なくとも1つの解かれた変数をその期待される値と比較し、それらの間の差を決定して、前記モデルを検証する検証基準を生成するステップを更に含む、
請求項17記載の方法。
【請求項19】
複数の相互に関連する、相互に作用するモデルを更に含む、
請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記生理学的モデルは、微分方程式により表される、患者の集合からの既知の生理学的データを含む、
請求項17記載の方法。
【請求項21】
前記パラメータは、組織のコンプライアンス、血管のインピーダンス、及び代謝物の破壊率の少なくとも1つを含む、
請求項17記載の方法。
【請求項22】
前記変数は、心肺出量、血液の酸素圧、及び肺静脈の血圧の少なくとも1つを含む、
請求項17記載の方法。
【請求項23】
ユーザインタフェースを介して入力されるパラメータ情報に応答して前記モデルをリファインしてリファインされたモデルを生成するステップと、
前記モデルを更新及びリファインし、将来の仮定に基づくモデルのシミュレーションについて患者の集合に患者を含ませるため、前記意思決定支援データを前記モデルにフィードバックするステップと、
を更に含む請求項17記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つのサブモデルは、肺系統、心臓血管系、胃腸系、肝臓系、内分泌系、生殖器系、ガス交換系、又は肝臓系の少なくとも1つのモデルである、
請求項17記載の方法。
【請求項25】
請求項17記載の方法を実行するコンピュータ実行可能な命令を実行するためにプログラムされるプロセッサ又はコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−506030(P2011−506030A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538973(P2010−538973)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【国際出願番号】PCT/IB2008/055183
【国際公開番号】WO2009/081304
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】