説明

医療デバイスの生体適合性の向上

本発明は、熱分解炭素とNO発生剤との両方を含む医療デバイス、このデバイスを作製する方法、およびこのデバイスを使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、ここに引用することにより本明細書の一部となすものとする2009年2月9日に出願された米国仮特許出願第61/207,263号の出願日の利益を主張する。
【0002】
本発明は、熱分解炭素とNO発生剤との両方を備える医療デバイス、このデバイスを作製する方法、およびこのデバイスを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
種々の医療デバイスが、患者の体内において使用されるように設計されている。このような多くのデバイスは、外科的に埋め込まれ、体内に長期間にわたり留まる。当然ながら、これらデバイスに使用される材料の生体適合性は重要な問題である。医療デバイスの生体適合性、特に血液適合性を改善するために設計された組成物やその方法の例を記載する多数の文献がある。これら文献には、デバイスが抗血栓剤を含有するようにデバイスの表面を改質することによって血栓の形成を低減させる試みが記載されている。さらに、例えば、米国特許第7632309号明細書に記載されているように、超平滑熱分解炭素を備える医療デバイスが当業者に知られており、これは、典型的には、無機材料またはセラミックスから作製されたデバイスよりも生体適合性を示すものである。
【0004】
医療デバイス、特に心血管プロテーゼは、一般に、重要な臨床的利益を提供する一方、これらのデバイス、例えば、熱分解炭素から構成されるこれらのデバイスを受容する患者は、典型的には、長期の抗凝固治療を受けなければならない。そのような抗凝固治療は、患者に不便性を招き、患者の生活の質に悪影響を及ぼし得る。このことは特に、凝固モニタリングが、診療所または病院の多くで利用可能な標準的なケアでない開発途上国の患者に当てはまる。治療薬のコストも問題になり得る。さらに、抗凝固薬の全身投与は、出血のリスクが高い患者において出血性合併症、例えば、頭蓋内出血をもたらし得る。したがって、医療デバイスの外科的埋め込み後の後の血栓形成のリスクを低下させる代替的手段が望まれる。
【0005】
外科的埋め込み後にインビボで一酸化窒素(NO)のレベルを増加させる手段を取り込む医療デバイスが既に知られている。これらのデバイスは、デバイスの凝固抵抗性の増加により機能すると考えられている。例えば、米国特許第7128904号明細書、米国特許出願公開第2007/0014829号明細書、米国特許出願公開第2009/0287072号明細書、Yang et al.,Langmuir 2008,24,10265−10272;および Hwang and Meyerhoff,Biomaterials 2008,29,2443−2452を参照のこと。NOは、全ての血管を裏打ちする内皮細胞(EC)層により生成される天然に存在する種であり、健常血管内壁の天然凝固抵抗性に大いに寄与する。EC層上および/または(一部の場合)血中で、天然に存在する銅および/またはセレン含有膜タンパク質が触媒として機能して内因性NO前駆体(すなわち、ニトロソチオール種(RSNO))を強力な抗血小板作用物質NOに変換させる。ニトロソチオールは、血液および他の生理液中に存在すると報告されていて、それらの液中で生物学的反応を介して体により再生され、これによりニトロソチオールの生理学的基底レベルが維持される。
【0006】
米国特許出願公開第2009/0287072号明細書には、医療デバイス用の生体適合性の凝固抵抗性コーティングが記載されており、特に、NO発生剤としてカルコゲン化合物を使用することが記載されている。しかしながら、現在も、外科的埋め込み型医療デバイスの生体適合性、特に血液適合性の向上を達成するための更なる手段への要求がまだなお存在している。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、第1の態様において、熱分解炭素またはグラファイトとNO発生剤との両方を含む医療デバイスに関する。デバイス自体は、熱分解炭素またはグラファイトから作製されていてよい。これらの例において、NO発生剤は、デバイスの製作の間に直接添加することができ、またはデバイスが形成された後にデバイスの少なくとも一部の上に堆積、プレーティングもしくは被覆することができる。
【0008】
別の態様において、デバイスは、それ自体を熱分解炭素から又は熱分解炭素で作製するものではない。支持体を、例えば、グラファイト、金属またはセラミックを用いて作製してもよい。その場合、生体適合性コーティングを、医療デバイスの1つまたは複数の表面に堆積、被覆、またはその他の方法により形成することができる。この場合、デバイスにおいて、生体適合性コーティングを形成した部分が、支持体として作用する。生体適合性コーティングに、熱分解炭素およびNO発生剤が含まれる。
【0009】
一態様において、本発明のデバイスは、熱分解炭素で作製された又は被覆されたデバイスと比べて、改善された生体適合性を示す。さらに、本発明のデバイスは、非毒性のままであり、かつ有利な持続性および他の所望の物理学的特性を保持する。他の態様において、本発明は、改善された生体適合性を有し、他の利点、例えば、有用な活性薬剤の局所または全身送達を提供する医療デバイスを提供する。
【0010】
特定の実施形態では、生体適合性コーティングは、熱分解炭素とNO発生剤との両方を組み合わせて含む少なくとも1つの層を備える。この層は、均質混合物または不均質混合物であってよい。NO発生剤は、熱分解炭素と同時に堆積させて生体適合性層を形成させることができる。あるいは、NO発生剤は、熱分解炭素から作製されたデバイスの熱分解炭素層または熱分解炭素表面上に添加し、または堆積させて生体適合性コーティングを形成させることができる。
【0011】
別の実施形態において、生体適合性コーティングは、1つ又は複数のポリマーをさらに含む。生体適合性コーティングは、例えば、熱分解炭素を含む少なくとも1つの層、ならびに少なくとも1種のポリマーおよびNO発生剤を含む第1のポリマー層を含むことができる。このポリマー、および実際に本明細書において使用される任意のポリマーは、永久的であってよく、または生体侵食性(bioerodible)(本明細書において吸収性、または生分解性と交換可能に使用される)であってよく、荷電でも非荷電でもよく、ポリマーでもコポリマーでもよく、ホモポリマーでもブレンド/混合物でもよい。
【0012】
別の実施形態において、本発明の医療デバイスは、第2のポリマー層をさらに含む生体適合性コーティングを備える。第2のポリマー層は、ポリマーおよびNO発生剤を含む。第1および第2のポリマー層に使用されるポリマーは、組成、構成、厚さおよび位置が同一でも異なってもよい。さらに、各層中に使用されるNO発生剤のタイプおよび量は、同一でも異なってもよい。特定の一実施形態において、第1および第2のポリマーは、逆に荷電している。逆に荷電している追加の層を、図1(B)に図示されている通り使用することができる。
【0013】
特定の実施形態において、熱分解炭素中のNO発生剤は、銅または酸化銅である。特定の実施形態において、医療デバイスは、心臓弁プロテーゼ、折りたたみ型心臓弁、弁形成リング、心臓弁ステント、心臓弁リーフレット、血管ステント、機械的心臓部品、ペースメーカー部品、電気リード、または整形外科部品、例えば、人工関節、ねじまたはプレートであり、NO発生剤は、銅または酸化銅である。
【0014】
さらなる実施形態において、本発明の医療デバイスの生体適合性コーティングは、熱分解炭素およびNO発生剤を含み、デバイスの強度、性能、可撓性、寿命、摩耗、および生体適合性を改善する1つ又は複数の追加の材料をさらに含む。これらの追加の材料は、限定されるものではないが、ポリマー、医薬または他の生物学的に活性を示す材料(例えば、抗菌剤、抗真菌剤、抗拒絶剤、抗炎症剤、鎮痛薬、疼痛治療薬、キナーゼ)、pH調節物質、金属、メタロイドまたは半金属炭化物を含むことができる。これらの材料は、添加剤に応じて、熱分解炭素コーティング層または1つ又は複数のポリマー層の一部であってよい。特定の実施形態において、炭化物は炭化ケイ素である。
【0015】
別の態様において、本発明は、熱分解炭素および少なくとも1種のNO発生剤を含む生体適合性コーティングを支持体の表面の少なくとも一部上に適用することを含む、医療デバイスを製造する方法に関する。一部の実施形態において、生体適合性コーティングは、電気化学堆積法、超臨界流体堆積法、化学気相堆積法(CVD)、物理堆積法、化学還元法、キャスト法、浸漬法、積層法、流動床中でのスプレーコート法、又はこれらの組合せにより形成する。さらなる実施形態において、イオンビーム支援堆積法またはスパッタリング法を使用する。
【0016】
別の態様において、本発明は、生体適合性コーティングを支持体上に提供して医療デバイスを形成させることを含む、医療デバイスの生体適合性を増加させる方法に関する。生体適合性コーティングは、熱分解炭素および少なくとも1種のNO発生剤を含む。特定の実施形態において、医療デバイスの生体適合性の増加は、医療デバイスの血液適合性の増加を含む。別の実施形態において、本発明は、支持体ならびに熱分解炭素およびNO発生剤を含む生体適合性コーティングを含む医療デバイスを哺乳動物患者に埋め込むことによる治療が必要とされる哺乳動物患者を治療する方法を含む。
【0017】
別の態様において、本発明は、熱分解炭素および少なくとも1種のNO発生剤を含む生体適合性組成物に関する。
【0018】
さらに別の態様において、本発明は、医療デバイスの外科的埋め込みが必要とされる患者において、医療デバイスの外科的埋め込みに伴う血栓形成の発生率を低減させるための、本発明の医療デバイスの使用に関する。
【0019】
本発明によるNO発生剤および熱分解炭素の取り込みは、ある種の例においては、医療デバイスの生体適合性の増加に寄与することが本明細書において企図される。任意の特定の動作の理論に拘束されるものではないが、生体適合性のこの増加は、患者における外科的埋め込み後の一定期間にわたる医療デバイスの血液適合性の増加により引き起こされ得る。生体適合性の増加は、インビボでのNOの増加、および得られるNOにより媒介される血餅もしくは血栓形成の低減に起因するもの、ならびに/または医療デバイスの内皮化の促進によると考えられている。本発明の医療デバイスの使用は、患者における医療デバイスの埋め込みに伴う血栓症のリスク増加の初期の期間、およびこの最初の期間を超える時間にわたり、NOの天然の抗凝固機能を介して拮抗作用し得る。さらに、本発明のデバイスは、内皮細胞のリクルートを介助し、したがって内皮化を促進するように機能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】医療デバイスの熱分解炭素表面の中に又は上にNO発生剤を導入することができる種々の手法であって、限定を意図するものではない例を示す図である。NO=一酸化窒素。RSNO=内因性NO前駆体ニトロソチオール種。特に、図1中の構造(A)は、熱分解炭素および少なくとも1種のNO発生剤の化学蒸着により達成することができるような医療デバイス上の層中の熱分解炭素および少なくとも1種のNO発生剤(点として示す)を含む生体適合性コーティングを示す。図1の構造(B)は、生体適合性コーティングがNO発生剤を含む第1および第2のポリマー層をさらに含み、第1および第2のポリマーが逆に荷電している(内部に正電荷と負電荷のいずれかを有する円として示す)本発明の医療デバイスを示す。構造(C)は、生体適合性コーティングが熱分解炭素を含む少なくとも1種の層、および少なくとも1種の生分解性ポリマーと少なくとも1種のNO発生剤(点として示す)との両方を含む第1のポリマー層を含む本発明の医療デバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書の最後に添付する特許請求の範囲によって、本発明を具体的に特定し且つ明確にその権利を主張するものの、以下の記載によって、より良好に本発明を理解できると考える。
【0022】
本明細書において使用される全てのパーセントおよび比は、本明細書に特に記載のない限り、全組成物の重量基準であるが、例えば、本発明の生体適合性コーティング中に存在するNO発生剤の量は、生体適合性コーティングが形成される支持体の全表面積のパーセントとして定量することができる。あるいは、NO発生剤の量は、原子パーセントとして測定することができる。行われる全ての計測は、特に指定のない限り、25℃および常圧におけるものである。全ての温度は、特に記載のない限り、摂氏度におけるものである。本発明は、本発明のコンポーネントを含む(オープンエンド)又は本発明のコンポーネントから本質的になるものであり、本明細書に記載する他の成分もしくは要素を含むことができる。このように、「含む(comprising)」は、規定する構成要素またはそれと構造もしくは機能において等価の物に加えて、規定しない他の1つ又は複数の構成要素がプラスされることを意味する。「有する(having)」も「含有する(including)」も、文脈上において特に示唆しない限り、オープンエンドと解釈すべきである。
【0023】
本明細書において規定する範囲は、全て終点を含むものである。2つの値を「間」で表わす範囲も同様である。「約」、「一般に」、「実質的に」などの表現は、所定の用語または値を絶対的なものとはしないが、従来技術により読み取られないように改変するものと解釈されるべきである。そのような用語は、それらの用語が当業者により理解されるように改変する状況および用語により定義される。このことは、どんなに少なくとも、値を計測するために使用される所与の技術について予期される実験的誤差、技術的誤差および装置誤差の程度を含む。特に記載のない限り、本明細書において使用される単数形(a 及び an)は複数形を含む。例えば、「NO発生剤」は、少なくとも1つのNO発生剤を意味しているし、複数のNO発生剤、すなわち1種より多いNO発生剤も意味している。
【0024】
本明細書において使用される用語「医療デバイス」は、患者における挿入または埋め込みに好適であり、熱分解炭素とNO発生剤との両方を含む任意のデバイスを指すことを意味する。これらのデバイスは、導入される手順後数時間ほどの短時間であってよく、かつ数年ほどの長時間であってよい長期間にわたり患者(ヒトまたは動物)に残されるものと意図されることが最も多い。医療デバイスは、限定されるものではないが、プロテーゼ、例えば、ペースメーカー、ペースメーカー部品、電気リード、例えば、ぺーシングリード、除細動器、機械的心臓、機械的心臓部品、心室補助デバイス、例えば、左心室補助デバイス、解剖学的再建プロテーゼ、例えば、乳房インプラント、心臓弁プロテーゼ、例えば、折りたたみ型または非折りたたみ型心臓弁、心臓弁ステント、心臓弁リーフレット、心膜パッチ、手術用パッチ、冠動脈ステント、血管グラフト、血管および構造ステント、血管または心血管シャント、生物学的導管、プレジェット、縫合糸、弁形成リング、ステント、ステープル、有弁グラフト、創傷治癒用皮膚グラフト、整形外科部品、例えば、整形外科脊椎インプラント、整形外科ピン、ねじまたはプレート、人工関節、子宮内デバイス(IUD)、尿管ステント、顎顔面再建プレーティング、歯科インプラント、眼内レンズ、クリップ、胸骨ワイヤ、およびそれらの組合せを含む。追加のデバイスは、限定されるものではないが、カニューレ、排液チューブ、例えば、胸腔チューブ、または生体適合性の増加が望まれる任意の他の医療デバイスを含む。
【0025】
本明細書において使用される本発明の医療デバイスの「支持体」は、ネイティブデバイスを指す。ネイティブデバイスは、NO発生剤が添加される前の熱分解炭素含有デバイスまたは生体適合性コーティングが適用される前の熱分解炭素から作製されていないデバイスである。
【0026】
本明細書において企図される本発明の医療デバイスと支持体との両方は、慣用の方法に従って、そのような医療プロテーゼについて好適性が証明されている材料から製造することができる。例えば、支持体として使用される好適な材料は、所望の機械的特性、例えば、弾性または剛性、強度、疲労抵抗性、摩耗抵抗性および破壊靱性を、過剰な重量または嵩を導入することなく有する。これらの材料は、例えば、医療デバイスの特定の機能に必要な不可欠な構造強度および可撓性を提供する金属、複合材料および/または合金を含む。好適な支持体は、例えば、熱分解炭素、熱分解炭素/炭化物複合材料、金属、炭素質固体およびセラミックスを含む。これらの材料は、製造の間と製造後のいずれかで1つ又は複数の化合物により、例えば、ポリマー、タンパク質、金属、メタロイド、または他の化合物により、所望により使用前に被覆することができる。本発明の医療デバイスを製造するために使用することができる好適な不活性金属は、例えば、チタン、コバルト、ステンレス鋼、ニッケル、鉄合金、コバルト合金、例えば、ELGILOY、コバルト−クロム−ニッケル−モリブデン−鉄合金、およびMP35N、ニッケル−コバルト−クロム−モリブデン合金、およびNITINOL、ニッケル−チタン合金を含む。例えば、ここに引用することで本明細書の一部をなすものとする米国特許第7632309号明細書および米国特許第7604663号明細書を参照のこと。
【0027】
本発明の生体適合性コーティングは、熱分解炭素およびNO発生剤を含む。本明細書において使用される用語「生体適合性」は、非毒性を示し、かつ医療デバイスについてのISO規格、例えば、ISO−10993,「Biological Evaluation of Medical Devices」、特に、血液との相互作用についての試験の選択に関するPart IVに適合する材料を指す。
【0028】
生体適合性コーティングは、強度、性能、可撓性、寿命、摩耗、および生体適合性を改善する1つ又は複数の追加の材料をさらに含むことができる。追加の材料の選択は、多数の要因、例えば、その機能およびその意図される位置に依存する。例えば、医薬剤は、層が形成される温度に起因して熱分解炭素層の一部として含まれる可能性は低い。しかしながら、医薬剤は、生体適合性コーティングの一部を形成するポリマー層の一部であってよい。追加の材料は、限定されるものではないが、ポリマー、医薬または他の生物学的に活性を示す材料(例えば、抗菌剤、抗真菌剤、抗拒絶剤、抗炎症剤、鎮痛薬、疼痛治療薬、キナーゼ)、pH調節物質、金属または半金属炭化物を含むことができる。特定の実施形態において、半金属炭化物は炭化ケイ素であり、熱分解炭素の機械的特性を向上させるために添加される。
【0029】
本明細書において使用される熱分解炭素は、グラファイトと類似しているが、そのグラフェンシート間にいくらかの共有結合を有する材料を指す。熱分解炭素は、炭化水素をその分解温度付近に加熱し、グラファイトを結晶化させることにより生成させることができる。熱分解炭素は、広範な微細構造および変動する残留水素含有率で存在し得る。本明細書において使用される熱分解炭素は、熱分解炭素を単独で、または、例えば、コーティングの生体適合性ならびに機械的および構造的能力を改善するために他の物質と組み合わせて含む。例えば、米国特許第7632309号明細書は、熱分解炭素を金属またはメタロイドと組み合わせた使用を記載している。「メタロイド」は、「半金属」としても知られていて、金属の特性と非金属の特性の間の特性を有する元素を指す。メタロイドの例は、例えば、ケイ素およびセレンなどの元素を含む。
【0030】
一般に、本発明による医療デバイスの製造において、熱分解炭素は、典型的には、約1000℃から約2500℃の温度範囲における炭化水素ガスの熱分解により支持体上に堆積される。炭化水素源としてプロパンを用いる場合、典型的な温度範囲は、約1100℃から約1800℃である。温度範囲は、使用される前駆体により変動させることができる。少なくとも一部の炭化物は、好都合には、比較可能な熱分解により堆積させることができる。したがって、適切な前駆体化合物のブレンドの熱分解反応器中への導入は、熱分解炭素、炭化物化合物またはそれらの化合物の生成をもたらすことができる。
【0031】
熱分解炭素の前駆体および金属/半金属炭化物が反応蒸気中でブレンドされる場合、「合金」または熱分解炭素および炭化物材料の混合物が形成され、2種の材料が、各材料の粗粒または微結晶が他の材料のドメインまたは相に隣接するドメインまたは相を形成するという意味で混合される。堆積法は、限定されるものではないが、化学蒸着、プラズマ支援化学蒸着および流動床化学蒸着を含む。特に、化学蒸着を流動反応器中で実施することができる。液相化学蒸着も可能である。液相蒸着は、一般に、雑誌Carbon 34(10):1299−1300(1996)中のLackeyによる「Liquid fluidized bed coating process」に記載されている。流動床化学蒸着は、典型的な方法である。温度および/または他の反応器の可変要素、例えば、蒸気流速は、特定の時点において堆積される組成物に応じて複合材料の堆積の間に変動させることができる。
【0032】
好適な熱分解炭素前駆体は、例えば、炭化水素ガス、例えば、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン、およびそれらの組合せを含む。好適な炭化ケイ素熱分解前駆体は、例えば、メチルシランおよびメチルトリクロロシランを含む。金属炭化物前駆体は、金属が対応する金属炭化物について所望の金属である金属ハロゲン、例えば、金属塩化物を含むことができる。炭化水素ガスまたは不活性ガス、例えば、アルゴン、窒素、ヘリウム、またはそれらの組合せを、液体炭化物前駆体に通してバブリングし、前駆体化合物の蒸気の所望量の送達を補助するキャリアガスとして機能することができる。窒素含有化合物は、多量の金属/メタロイド窒化物の堆積のために含めることができる。
【0033】
熱分解反応に対する一手法において、反応物質蒸気は、反応炉中に向けられる。支持体は、反応炉中で取り付けられる。炉は、一般に、任意の妥当な加熱手法、例えば、誘導加熱、放射加熱または抵抗加熱を使用して約1000℃から約2500℃の壁温度に保持される。一般に、炭化物の堆積には、熱分解炭素の堆積よりも高い温度が使用される。特定の好ましい温度は、特定の前駆体、流速および反応器設計に依存する。一部の堆積手法の場合、支持体を回転させて均等なコーティングを得ることができる。同様に、支持体は、可動性であり、コーティングプロセス全体の過程にわたり反応物流に対する支持体の方向に応じて支持体上の異なる位置におけるコーティング厚の所望のバリエーションを提供することができる。
【0034】
一般に使用される手法において、熱分解反応/化学蒸着が流動床反応器中で実施される。特に、支持体は、反応物質およびキャリアガスの流れにより流動化される粒子、例えば、ジルコニアビーズの床内に配置される。熱分解炭素は、炭化水素ガスを反応物質として使用して流動床反応器内に堆積させることができる。流動床反応器は、好ましくは、1つには、特定の反応物質ガスに基づき選択される温度に設定され、典型的には、約1000℃から約2500℃であり、さらに典型的には、約1100℃から約1800℃の温度である。あるいは、反応は、液相化学蒸着反応器中で実施することができる。この液相プロセスにおいて、試薬は、不活性ガスの流れにより流動化される液体である。液体流動床堆積プロセスは、Lackey et al.,「Liquid Fluidized Bed Coating Process,」Carbon 34(10):1299−1300(1996)にさらに記載されている。
【0035】
本発明の医療デバイスおよび生体適合性コーティングは、NO発生剤も含む。本明細書において使用される「NO発生剤」(本明細書において交換可能に「触媒」または「NO触媒」とも称される)は、本発明による医療デバイスを外科的に埋め込まれた患者においてNOの形成を安全に引き起こすことができる任意の化合物を指す。そのような化合物は、無機でも有機でもよい。有機化合物は、銅、セレンまたは別の所望の金属を含む。そのような化合物は、有機金属化合物として、より慣用的に知られている。熱分解炭素層の形成の間、これらの有機金属化合物を反応器または流動床に添加することができる。加熱が伴うため、有機材料は、一般に、コーティングの一部として分布されるべき微細粒子で金属を残して燃焼する。コーティング作出前のこれらの金属種の粒子サイズを正確に記載することは困難である。これらの金属種がコーティングの一部になってからの平均粒子サイズを提供することも困難である。しかしながら、SEMまたは同様の画像化技術から、粒子サイズは、約0.1nmから最大約1ミクロンの範囲であると予期される。実際、粒子サイズは、この範囲のより小さい側である傾向にあると予期される。本発明において有用な有機金属材料の例は、酢酸銅である。酢酸銅は、例えば、酢酸銅(II)または酢酸銅(I)を含む。有用な銅ベース種は、例えば、ナフテン酸銅(II)、メチルサリチル酸銅(I)、2−エチルヘキサン酸銅(II)、3,5−ジイソプロピルサリチル酸銅(II)、銅(II)アセチルアセトナート、シクロヘキサン酪酸銅(II)、D−グルコン酸銅(II)、およびギ酸銅(II)も含むことができる。
【0036】
無機材料は、一般に、金属自体または金属ベース種、例えば、酸化物である。銅および酸化銅(II)が例である。
【0037】
カルコゲン化合物は、公知のNO発生剤である。本明細書において交換可能に使用される「カルコゲン化合物」または「カルコゲン」は、周期表の6A列内の原子を含む化合物および部分を指す。6A族またはカルコゲン化合物は、第16族化合物とも称される。6A族原子は、酸素、硫黄、セレン、テルル、およびポロニウムを含む。NO発生剤の全てに共通することは、天然に存在するNO源であるニトロソチオールの、インビボで抗凝固因子として作用することができる生理学的レベルのNOへの変換を引き起こす能力である。このようなインビボでのNOの発生は、内皮細胞のリクルートを介助して医療デバイスの表面の内皮化を促進することもできる。
【0038】
本明細書において企図される熱分解炭素およびNO発生剤を含む(1つ又は複数の)生体適合性層およびコーティングは、当業者に知られた方法により形成させることができる。一実施形態において、熱分解炭素を含む支持体の表面は、その表面の一部にわたり被覆され、またはその表面の一部の中に取り込まれたNO発生剤を有することができる。さらに別の実施形態において、熱分解炭素をNO発生剤と組み合わせて支持体に適用することができる。この適用は、例えば、化学蒸着(「CVD」)および/もしくは物理堆積、または化学蒸着の変法、例えば、限定されるものではないが、プラズマ増強もしくはプラズマ支援化学蒸着により達成することができる。
【0039】
例えば、NO発生剤、例えば、CuもしくはSeまたはそれらの酸化物は、熱分解炭素を既に含み、または熱分解炭素により被覆された支持体に添加することができる。これらのNO発生剤は、熱分解炭素とともに支持体上に被覆することもできる。図1(A)は、生体適合性層を作出するための熱分解炭素およびNO発生剤の堆積を説明する。着目すべきこの図のいくつかの態様が存在する。第1に、NO発生剤を表す円または点は、層にわたり完全に分布しているのではなく、図示の通り一方の表面近傍に凝集している。この凝集は、熱分解炭素の層による支持体の第1のコーティングおよびその後の最初の被覆物の頂部にわたる追加の被覆物の配置により起こり得る。この第2の被覆物は、熱分解炭素とNO発生剤との両方を含む。あるいは、特定の一実施形態において、この凝集は、有機金属化合物と熱分解炭素前駆体との両方を使用する化学蒸着プロセスにより達成することができる。NO発生剤と熱分解炭素との相対比率は、例えば、各材料の供給速度または量により変動させ、制御することができる。図1(A)に図示される構造は、熱分解炭素前駆体のみ、例えば、プロパンのみを反応チャンバ中に供給する最初のCVDプロセスから得ることができる。この後、NO発生剤をさらに導入して生体適合性層を作出することができる。
【0040】
あるいは、NO発生剤は、物理的に添加することができる。例えば、比較的大きい粒子の酸化ジルコニウム(ZrO)を比較的より小さい粒子の銅とともに使用して熱分解炭素の蒸着層に衝突させる。この衝突は、炭素層が堆積している間および/またはその後に起こり得る。銅粒子は、熱分解炭素コーティングが堆積している間に反応チャンバに添加し、適用することもできる。この適用は、物理蒸着の別の形態である。これらの物理蒸着法のいずれにおいても、NO発生剤粒子のサイズは、有機金属材料を使用するCVDから得られるものよりも大きく、かつ均等に分散しない傾向がある。走査型電子顕微鏡(SEM)または他の同様の画像化技術を使用して半定量的に測定される平均粒子サイズは、約1.0nmから約100ミクロンの範囲の粒子サイズをもたらす。粒子サイズ範囲および平均は、堆積前にこれらの粒子についてより正確に測定することができるが、生体適合性コーティング中の粒子サイズまたは分布は変動し得る。
【0041】
NO発生剤粒子の量は、多数の要因に依存し得る。デバイスのタイプ、NO発生剤が適用される様式、およびNO発生剤に使用される材料が全ての要因である。生体適合性の意義ある改善を提供するのには、十分なNO発生剤粒子が必要である。しかしながら、NO発生剤含有量が多すぎると、毒性の問題が生じ得、または熱分解炭素の物理学的特性が悪化し得る。熱分解炭素の表面下方に位置するNO発生剤粒子は、たとえあるとしても、デバイスの生体適合性の増加において制限される役割を担い得る。したがって、NO発生剤は、生体適合性コーティングの全表面積に対して0%超、典型的には少なくとも約0.05%で含まれるべきであり、かつ全表面積の約5%以下で含まれるべきである(例えば、X線光子分光法(XPS)により計測)。別の実施形態において、NO発生剤は、約3%以下で含まれ、さらに別の実施形態において、NO発生剤は、約0.05%から約3%で含まれる。例えば、デバイスがより大きければ、約4mmのサーベイ面積(survey area)を使用することができる。より小さいデバイスには、かなり小さい面積を使用することができる。サーベイ面積は、デバイス、技術およびデバイスのサイズにより変動する。
【0042】
生体適合性コーティングは、厚さが約0.01から約2000ミクロンの範囲に及んでよい。一部の実施形態において、厚さは、約0.05から約500ミクロン、さらに別の実施形態においては約0.1から約100ミクロンの範囲に及ぶ。この厚さは、被覆された医療デバイス上の任意の単一点において計測される。むろん、生体適合性に最も重要なNO発生剤材料は表面に位置しているので、上方部分のみが生体適合性コーティングである、すなわち、熱分解炭素とNO発生剤との両方を含有する、最大約2ミリメートルの全厚を有するコーティングを作出することができる。例えば、人工心臓弁、特にオリフィス部分を、熱分解炭素の900ミクロン厚の層により被覆し、この後に熱分解炭素およびNO発生剤の100ミクロン厚の層により被覆して約1ミリメートルの全コーティング厚をもたらすことができる。心臓弁のリーフレット部分は典型的にはより薄いので(約1ミリメートル)、この部分上のコーティングは、例えば、約100ミクロンであってよい。
【0043】
生体適合性コーティングが、熱分解炭素をNO発生剤と組み合わせて含む少なくとも1種の層を含む医療デバイスに加え、NO発生剤、例えば、銅および/またはセレンベースのNO発生剤などを熱分解炭素層の頂部上に導入することができることも本明細書において企図される。この導入は、いくつかの手法、例えば、NO発生剤をポリマーと混合させ、熱分解炭素の表面にわたり1つ又は複数の層を形成させることにおいて行うことができる。一実施形態において、この導入は、レイヤーバイレイヤー(LBL)技術を使用することにより達成することができる(Yang et al.,Langmuir 2008,24,10265−10272)。上記実施形態とは異なり、この手法は、熱分解炭素コーティングプロセスが医療デバイス上で完了した後、例えば、リーフレットまたはオリフィス支持体上での、例えばCVDを介する熱分解炭素の堆積後に実施される。企図される生体適合性コーティングは、医療デバイスの表面全体またはその一部だけを被覆するために、例えば、デバイスの表面上の規定の位置、またはデバイスの特定の部品に、例えば、機械的心臓弁のオリフィスもしくはリーフレットに適用される別個のパッチとして適用することができる。触媒活性は、この様式においてインビボで特定の部位に位置させることができる。同様に、生体適合性コーティングは、金属またはグラファイトデバイスのある部分上に配置し、かつ他の部分には配置しないことができる。例えば、生体適合性コーティングは、それ自体は折りたたまれない折りたたみ型ステントの領域上に配置することができる。
【0044】
したがって、本明細書において想定される通り、本発明の医療デバイスは、熱分解炭素を含む少なくとも1つの層と、少なくとも1つのポリマーおよび少なくとも1つのNO発生剤を含む第1の層と、一部の実施形態においてはNO発生剤を含む(1つ又は複数の)第2または後続のポリマー層とを備える生体適合性コーティングを備えることができる。図1(B)に説明される特定の一実施形態において、第1および第2のポリマーは、逆に荷電している。
【0045】
本発明の「LBLコーティング」を有する医療デバイスは、例えば、正に荷電している種と負に荷電しているポリマー種との間の静電相互作用を利用して目的の種の複数の層を荷電表面上に堆積させることにより作出することができる。例えば、CVD後熱分解炭素弁部品上に強固なLBLを形成するための第1の工程として、炭素材料を化学的または物理的に処理して表面荷電を導入すべきである。この導入は、例えば、熱分解炭素を、当業者に知られた種々の化学溶液中に浸けて異なる表面官能基を生じさせること、または熱分解炭素表面をプラズマにより物理的に処理し、この後に、pH調整を介して正もしくは負に荷電している表面を導入することにより達成することができる。例えば、炭素表面を濃縮水酸化ナトリウム溶液により処理することにより、ヒドロキシル(−OH)基をケイ素合金化熱分解炭素の最外表面上にSi−OHおよび/またはC−OH官能基を介して導入することができる。洗浄工程後、官能化表面を塩基性溶液中でさらに緩衝化して金属対イオンにより負に荷電している表面を生じさせることができる。
【0046】
この後、正に荷電している層(例えば、水溶性の正に荷電しているポリマー、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)またはポリリシン−溶液A中)を、第1のポリマー層として静電相互作用を介して表面上に施与することができる。このことは、支持体をポリマー水溶液中に迅速に浸漬し、次いで洗浄工程を行うことにより達成することができる。次いで、支持体を負に荷電しているポリマー溶液、例えば、ヘパリン、アルギネートまたはポリ(4−スチレンスルホン酸)(PSS)(溶液B)中に浸漬することができる。サイクル(溶液A−洗浄−溶液B)を、所望数の層または厚さが達成されるまで繰り返すことができる。正に荷電しているポリマーと負に荷電しているポリマーは両方とも、NO発生剤を担持する水溶性の合成または天然ポリマー種であってよい。例えば、NO発生剤は、静電相互作用または共有結合によりLBL構造中に取り込まれているCuおよび/またはSeベース複合体であってよい。当業者により理解されている通り、LBL被覆熱分解炭素から生じるNO流動(すなわち、NOの増加)は、ポリマー内のNO発生剤の種および濃度、層の数、ポリマー特性などにより制御することができる。さらに、LBLコーティングの厚さは堆積される層を交互させるサイクルの数に依存することも本明細書において理解される。
【0047】
別の実施形態において、本発明の医療デバイスは、熱分解炭素を含む少なくとも1種の層、ならびに少なくとも1種のポリマーおよびNO発生剤を含む第1の層を含み、使用されるポリマーが生分解性である、生体適合性コーティングを含むことができる。この実施形態は、図1(C)に図示される。したがって、例えば、1つ又は複数の生分解性ポリマーコーティングまたは層を、医療デバイス、例えば、心臓弁部品のCVD熱分解炭素コーティングプロセス後に医療デバイスに適用することができる。NO発生剤(例えば、Cuおよび/またはSeベース複合体)は、この生分解性ポリマーコーティング中に取り込まれる。
【0048】
本明細書において理解される通り、生分解性ポリマーが本発明の医療デバイスの生体適合性コーティング中で使用される場合、短期または制限されるNOの供給がインビボで生じ得る。それというのも、ポリマーが完全に分解されたら、表面からのNO発生が停止するからである。しかしながら、インビボでのNO発生の短期増加でさえ有益である。それというのも、インプラント表面からのそのようなNO発生は、有利には、初期の埋め込み後期間の間の凝固リスクを低減するからである。さらに、このようなNO発生は、内皮化の治癒促進(prohealing)プロセスを促進することができる(表面特性および/または形態がECを引きつけるように適切に改質されている場合)。医療デバイスの内皮化が完了すると、デバイス、例えば、人工弁は、凝固を妨げる内皮細胞の回復した天然機能に頼ることができることが本明細書において理解される。したがって、生物模倣NO発生からの追加の補助についての必要性は最小であり、または理想的には必要でない。
【0049】
上記の通り、「生分解性ポリマー」は、NO発生剤を含むことができ、かつインビボで侵食または吸収され得るポリマーである。当業者により理解される通り、本発明の方法において使用される生分解性ポリマーの選択は、種々の要因に依存し得る。例えば、ポリマーの選択は、治癒促進プロセスの間の医療デバイス(例えば、弁)の表面上での初期内皮化の完了に要求される時間に依存する。種々のポリマーの既知の分解期間は、広く変動し得、例えば、数ヵ月から数年の範囲に及び得る。さらに、ポリマーの疎水性および取り込まれるNO発生剤との適合性ならびに/または他の内皮化因子(およびその他の因子の量)は、性能に影響を及ぼし得ると考えられる。
【0050】
医療デバイスおよび生体適合性コーティング中で使用されるポリマーは、当業者に知られている。これらのポリマーは、例えば、合成ポリマーおよび精製生物学的ポリマーから製作することができる生体適合性ポリマー材料を含む。これらの合成ポリマー材料は、繊維および/または糸に形成させ、次いでメッシュに製織または製編してマトリックスまたは同様の構造を形成させることができる。あるいは、合成ポリマー材料は、適切な形態に成形し、押出し、浸漬被覆し、または注型することができる。
【0051】
医療デバイス中に使用される適切な合成ポリマーは、例えば、ポリアミド(例えば、ナイロン)、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリレート、ビニルポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンおよびポリビニルクロリド)、ポリカルボネート、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、セルロースアセテート、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアセテート、ポリスルホン、ポリアセタール、ニトロセルロースおよび同様のコポリマーを含む。
【0052】
他の好適なポリマーは、生分解性(本明細書において「吸収性」、「侵食性」または「生体侵食性」とも称される)ポリマー、例えば、デキストラン、ヒドロエチルデンプン、ゼラチンの誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]、ポリグリコール、ポリエステル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(エステルアミド)、およびポリ無水物を含む。生分解性ポリエステルは、例えば、ポリ(ヒドロキシ酸)およびそのコポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ジメチルグリコール酸)、およびポリ(ヒドロキシブチレート)を含む。生分解性ポリマーは、本発明における使用、例えば、熱分解炭素を含む少なくとも1種の層、ならびに少なくとも1種の生分解性ポリマーおよびNO発生剤を含む第1の層を含む生体適合性コーティングを含む医療デバイスにおける使用に企図される。本発明により使用される典型的な生分解性ポリマーは、例えば、D,L−ポリ乳酸、L−ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、および乳酸−グリコール酸コポリマー(PLGA)等のL−乳酸やD−乳酸、グリコール酸の各コポリマーを含む。むろん、これらのポリマーは全て非限定的な例である。本発明の実施形態の目的を達成することができる任意の他のポリマー材料(例えば、コポリマー、ホモポリマーおよびポリマー混合物)が企図される。
【0053】
当業者は、生体適合性コーティング中に使用されるポリマーが種々の特性を含むことができるが、本明細書に企図される通り、全てが本発明の医療デバイスの生体適合性コーティング中で、インビボでの医療デバイスの良好な動作に要求される機械的または構造的特徴に悪影響を与えることなく機能しなければならないことを理解する。例えば、熱分解炭素をNO発生剤と組み合わせて含む少なくとも1種の層を含む生体適合性コーティングを含む医療デバイスは、典型的には、熱分解炭素の機能に悪影響を与えず、そうでなければ医療デバイスの機械的または構造的特性を妨害しない非吸収性生体適合性ポリマーであるポリマーをさらに含むことができる。
【0054】
同様に、ポリマーは、本明細書に記載の通り、NO発生剤を含む第1および第2の層として、特に、熱分解炭素の層に適用されているNO発生剤を含む逆に荷電しているポリマーの層配列で使用することができる。これらの目的に特に好適な荷電しているポリマーは、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)またはポリリシン、ヘパリン、アルギネートまたはポリ(4−スチレンスルホン酸)(PSS)を含む。
【0055】
本明細書において考察される通り、熱分解炭素は、金属、メタロイドまたは他の材料と組み合わせて支持体材料上に堆積させることができる。本明細書において企図される通り、ある種のNO発生剤は、上記米国特許第7632309号明細書に記載の通り、CVDの間にケイ素を医療デバイスの熱分解炭素コーティング中にドープさせて炭化ケイ素(SiC)を形成させる様式と同様の様式において熱分解炭素とともに堆積させることができる。約5から12%、典型的には約10%のケイ素をこのプロセスの間にドープすることができるが、添加すべき材料、例えば、ガス状ケイ素または有機金属NO発生剤などの量は、所望レベルの炭化物またはNO発生剤を生体適合性層中に提供するために変動されることが本明細書において理解される。
【0056】
例えば、熱分解炭素により被覆されたデバイスの製造における熱分解工程の間、少量の銅または有機銅複合体粒子、例えば、酢酸銅(例えば、ミクロンからナノスケール)を反応器中に反応ガス流により導入することができる。一実施形態において、反応ガス流は、プロパン(C)、メチルトリクロロシラン(CHClSi)、およびヘリウムを含むことができる。本明細書において企図される通り、ガス流は、被覆すべき部品(例えば、リーフレットまたはオリフィス)が懸濁される顆粒材料の床を流動化(すなわち、支持し、かつ撹拌)する。炉により加熱される流動床は、ガスおよび粒子混合物を、それらが床を通過するときに順次加熱する。ガスは、十分に高温である場合、分解して固体生成物(例えば、炭素、銅および炭化ケイ素)を形成し、これらの生成物は、小銅粒子が表面上に同時堆積され、またはケイ素合金化熱分解炭素コーティング中に埋設されるリーフレットまたはオリフィス支持体上にコーティングとして堆積する。
【0057】
ケイ素合金化熱分解炭素中に存在するSiCは、炭素マトリックス中で溶解せず、結晶性炭化ケイ素と同様に、銅粒子も離散相粒子として存在する(SiC細粒のサイズは、典型的には、約1−1000nmで変動し、典型的には約8nmである)。
【0058】
上記の炭化ケイ素の同時堆積に加え、熱分解炭素および/またはNO発生剤との「合金化」に好適な他の炭化物は、例えば、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化バナジウム、炭化モリブデン、炭化アルミニウム、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化ハフニウム(HfC)およびそれらの混合物を含む。本明細書において企図される通り、熱分解炭素−炭化物「合金」は、金属/半金属炭化物および熱分解炭素が離散したドメインまたは相で残留する混合物として堆積される。一般に、支持体上に堆積している材料は、約50体積%超の熱分解炭素、好ましくは、少なくとも約75体積%の熱分解炭素、より好ましくは、少なくとも約80体積%の熱分解炭素、さらにより好ましくは、少なくとも約90体積%の熱分解炭素を含むことができる。
【0059】
上記技術に加え、炭化物粒子は、NO発生剤の堆積のための運搬体として機能し得ることも本明細書において企図される。例えば、酸化ジルコニウム粒子を銅有機複合体溶液(例えば、5%の酢酸銅水溶液)中に浸漬させ、乾燥させて(例えば、100℃において一晩)酸化ジルコニウム粒子上で均等に被覆されている有機銅複合体の薄層を生成させることができる。有機銅複合体は、反応ガス流と一緒に反応チャンバに導入された後、チャンバ中で高温において蒸発および分解される。酸化ジルコニウム粒子から離れて得られた銅または酸化銅の小粒子は、ケイ素−熱分解炭素「合金」と一緒に均一に支持体上(例えば、心臓弁のリーフレットまたはオリフィス支持体上)に堆積すると予期される。当業者により理解される通り、銅負荷は、酸化ジルコニウム粒子上のコーティング厚を制御することにより制御することができる。
【0060】
したがって、本明細書において詳細に記載される通り、本発明は、熱分解炭素およびNO発生剤を介して医療デバイスの生体適合性、例えば、血液適合性を向上させる生物模倣手法を用いる。いかなる特定の作用機序に限定されることなく、NO発生剤を含む熱分解炭素ベースの医療デバイスが患者の血流と接触した場合、該デバイスは、血液/熱分解炭素界面において低レベルのNOを局所的に生じさせて血小板接着を妨げ、これにより凝固を妨げると考えられる。インビボで生じ得るNOのレベルは、当業者に知られた種々の手法において微調整し、インビボで内皮細胞により生成されるNOのレベルを模倣するNOのレベルを生じさせることができる。本明細書において理解される通り、そのようなNOレベルは、非毒性を示し、かつ患者における本発明の医療デバイスの外科的埋め込み後の患者における抗凝固薬の使用の必要性を低減させるように設計される。
【0061】
本明細書において本発明を特定の実施形態を参照して記載したが、これらの実施形態は、本発明の原理および適用の説明にすぎないことを理解されるべきである。したがって、説明的実施形態に対して数多くの改変をなすことができること、ならびに他の変更を添付の特許請求の範囲に定義の本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく工夫することができることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、熱分解炭素およびNO発生剤を含む生体適合性コーティングとを備えた医療デバイスであって、前記生体適合性コーティングが前記支持体の表面の少なくとも一部と接触している医療デバイス。
【請求項2】
前記生体適合性コーティングが少なくとも1つの層を備え、この層に前記熱分解炭素が前記NO発生剤と組み合わさって含まれる請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記生体適合性コーティングがポリマーをさらに含む請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記生体適合性コーティングが、前記熱分解炭素を含む少なくとも1種の層と、少なくとも1種のポリマーおよび前記NO発生剤を含む第1の層とを含む請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記ポリマーが生分解性である請求項4に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記生分解性ポリマーが、乳酸−グリコール酸コポリマー、ポリグリコール酸、ポリ乳酸およびポリカプロラクトンからなる群から選択される請求項5に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記生体適合性コーティングがNO発生剤を含む第2のポリマー層をさらに含み、前記第1のポリマーと第2のポリマーが逆の荷電をしている請求項4に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記支持体が、グラファイト、金属およびセラミックからなる群から選択される請求項1から7のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記生体適合性コーティングの全表面積に対する前記NO発生剤の量が、前記全表面積の約5%以下の量で含有する請求項1から8のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記生体適合性コーティングが、約0.01から約2000ミクロン、好ましくは約0.05から約500ミクロン、より好ましくは約0.1から約100ミクロンである請求項1から8のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項11】
前記NO発生剤が、カルコゲン、銅、またはそれらの酸化物からなる群から選択される請求項1から10のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項12】
前記NO発生剤が、銅または酸化銅である請求項11に記載の医療デバイス。
【請求項13】
前記カルコゲンがセレンである請求項11に記載の医療デバイス。
【請求項14】
前記医療デバイスが、心臓弁プロテーゼ、弁形性リング、心臓弁ステント、心臓弁リーフレット、血管ステント、尿管ステント、機械的心臓部品、ペースメーカー部品、電気リード、左心室補助デバイス、および整形外科部品からなる群から選択される請求項1から13のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項15】
前記心臓弁プロテーゼが、非折りたたみ型心臓弁プロテーゼである請求項14に記載の医療デバイス。
【請求項16】
前記生体適合性コーティングが、金属または半金属炭化物をさらに含む請求項1から15のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項17】
前記半金属炭化物が炭化ケイ素である請求項16に記載の医療デバイス。
【請求項18】
前記生体適合性コーティングが複数の種類のNO発生剤を含む請求項1から17のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項19】
医療デバイスを製造する方法であって、熱分解炭素と少なくとも1種のNO発生剤とを含む生体適合性コーティングを、前記医療デバイスの支持体の表面の少なくとも一部の上に形成するステップを含み、前記生体適合性コーティングを、電気化学堆積法、超臨界流体堆積法、化学気相堆積法、物理堆積法、化学還元法、キャスト法、浸漬法、積層法、流動床でのスプレーコート法、又はそれらの組合せにより形成する方法。
【請求項20】
前記化学気相堆積法がイオンビーム支援堆積法を含む請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記NO発生剤が有機金属化合物から誘導される請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記有機金属化合物が酢酸銅である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記生体適合性コーティングを、約0.01から約2000ミクロン、または約0.05から約500ミクロン、または約0.1から約100ミクロンの厚さに形成する請求項19に記載の方法。
【請求項24】
医療デバイスの生体適合性を向上させる方法であって、生体適合性コーティングを前記医療デバイスの上に提供するステップを含み、前記生体適合性コーティングが、熱分解炭素および少なくとも1種のNO発生剤を含む方法。
【請求項25】
前記医療デバイスの前記生体適合性を向上させることが、前記医療デバイスの血液適合性を向上させることを含む請求項24に記載の方法。
【請求項26】
熱分解炭素と、炭化ケイ素と、少なくとも1種のNO発生剤とを含む生体適合性組成物。
【請求項27】
医療デバイスの外科的埋め込みが必要とされる患者において、前記医療デバイスの外科的埋め込みに伴う血栓形成の発生率を低減させるための請求項1から18のいずれか一項に記載の医療デバイスの使用。

【図1】
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【公表番号】特表2012−517284(P2012−517284A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549166(P2011−549166)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/000358
【国際公開番号】WO2010/090767
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(500232466)セント ジュード メディカル インコーポレイテッド (23)
【Fターム(参考)】