説明

医療器具用接着剤組成物、および内視鏡装置

【課題】滅菌処理を繰り返し行っても優れた滅菌耐性を有し、接着強度や外観を良好に維持できる医療器具用接着剤組成物、および滅菌処理を繰り返し行っても、接着剤組成物の外観が良好で、かつ接着剤組成物によって接合された部材同士が剥がれにくい内視鏡装置の提供。
【解決手段】ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる1種以上のエポキシ樹脂からなる主剤と、メタキシリレンジアミンおよび/またはその誘導体を含む硬化剤と、アクリルゴムと、充填材とを含有する医療器具用接着剤組成物であって、前記充填材がアルミナであることを特徴とする医療器具用接着剤組成物、および該医療器具用接着剤組成物を用いて組み立てられたことを特徴とする内視鏡装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具用接着剤組成物、および内視鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡装置などの医療器具は、一般に複数の部材が接着剤を用いて組み立てられて構成されている。
ところで、医療器具は、通常、使用に際してオートクレーブを用いた高温高圧蒸気下での滅菌処理や、過酢酸、ガス(例えば過酸化水素系ガス、酸化エチレンガス等)などの薬品を用いた滅菌処理が施される。
【0003】
しかし、医療器具をオートクレーブや薬品を用いて滅菌処理すると、飽和水蒸気や薬品によって接着剤が劣化し、接着剤によって接合されていた部材同士が剥がれることがあった。
そこで、滅菌処理しても接着部付近での劣化が生じにくい内視鏡として、例えば特許文献1には、接着剤に規定の充填材を入れて滅菌耐性を向上する手法が開示されている。
また、滅菌処理してもレンズと枠体との接合部の気密性および耐久性に優れた内視鏡として、例えば特許文献2には、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂とフィラーとを含む接着剤により、枠体とレンズとを接合したレンズ接合体を備えた内視鏡が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−358006号公報
【特許文献2】特開2005−234239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の内視鏡に用いた接着剤は、複数回の滅菌処理に対して十分な耐性を有しておらず、滅菌処理を繰り返し行うと接着剤によって接合されていた部材同士が剥がれることがあった。また、滅菌処理を行うと接着剤が変色したり、接着剤に亀裂が生じたり、接着剤が溶解したりして、内視鏡外表面の接着層の外観を損なうことがあった。
また、特許文献2に記載の内視鏡は、滅菌処理に対する接着剤の耐性が必ずしも十分ではなかった。そのため、接着剤の接着強度が低下しやすく、接着剤によって接合されていた部材同士が剥がれることがあった。また、滅菌処理を行うと接着剤が変色したり、接着剤に亀裂が生じたり、接着剤が溶解したりして、内視鏡外表面の接着層の外観を損なうことがあった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、滅菌処理を繰り返し行っても優れた滅菌耐性を有し、接着強度や外観を良好に維持できる医療器具用接着剤組成物、および滅菌処理を繰り返し行っても、接着剤組成物の外観が良好で、かつ接着剤組成物によって接合された部材同士が剥がれにくい内視鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の医療器具用接着剤組成物は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる1種以上のエポキシ樹脂からなる主剤と、メタキシリレンジアミンおよび/またはその誘導体を含む硬化剤と、アクリルゴムと、充填材とを含有する医療器具用接着剤組成物であって、前記充填材がアルミナであることを特徴とする。
ここで、前記充填材は、アスペクト比が2〜99である板状アルミナを少なくとも含むことが好ましい。
また、前記充填材は、平均粒子径が1〜100μmである球状アルミナと、平均粒子径が1〜500nmである不定形状アルミナとをさらに含むことが好ましい。
さらに、前記充填材は、アスペクト比が2〜99である板状アルミナ、平均粒子径が1〜100μmである球状アルミナ、平均粒子径が1〜500nmである不定形状アルミナよりなる群から選ばれる1種以上のアルミナを含み、かつ、前記主剤と硬化剤とアクリルゴムの合計100質量部に対し、前記充填材が前記板状アルミナを含む場合、該板状アルミナの含有量が10〜150質量部であり、前記充填材が前記球状アルミナを含む場合、該球状アルミナの含有量が10〜150質量部であり、前記充填材が前記不定形状アルミナを含む場合、該不定形状アルミナの含有量が1〜20質量部である(ただし、充填材が板状アルミナと球状アルミナと不定形状アルミナの全てを含む場合、これらの含有量の合計が10〜150質量部である。)ことが好ましい。
また、本発明の内視鏡装置は、前記医療器具用接着剤組成物を用いて組み立てられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の医療器具用接着剤組成物は、滅菌処理を繰り返し行っても優れた滅菌耐性を有し、接着強度や外観を良好に維持できる。
また、本発明の内視鏡装置は、滅菌処理を繰り返し行っても、接着剤組成物の外観が良好で、かつ接着剤組成物によって接合された部材同士が剥がれにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の医療器具用接着剤組成物が硬化した硬化物の一例を模式的に示す模式図である。
【図2】本発明の医療器具用接着剤組成物を用いて組み立てられた内視鏡装置の概略構成の一例を示す斜視図である。
【図3】図2に示す内視鏡装置の先端部の正面図である。
【図4】図3のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[医療器具用接着剤組成物]
本発明の医療器具用接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」という。)は、主剤と、硬化剤と、アクリルゴムと、充填材とを含有する2液型の接着剤組成物であり、加熱により化学反応が進行して硬化が促進される。
【0011】
<主剤>
主剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる1種以上のエポキシ樹脂からなる。滅菌処理を繰り返し行ったときの滅菌耐性が向上し、さらには適切な粘度や高い接着強度が得られるという点で、主剤はビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂の3種類のエポキシ樹脂からなることが好ましい。
【0012】
<硬化剤>
硬化剤は、メタキシリレンジアミンおよび/またはその誘導体を含む。特に、主剤との反応速度が高められる点で、硬化剤はメタキシリレンジアミンおよびその誘導体を含むことが好ましい。
メタキシリレンジアミンの誘導体としては、例えばアルキレンオキサイド付加物、グリシジルエステル付加物、グリシジルエーテル付加物、マンニッヒ付加物、アクリロニトリル付加物、エピクロルヒドリン付加物、およびキシリレンジアミン三量体などが挙げられる。
なお、本発明においてメタキシリレンジアミンおよびその誘導体を「アミン系硬化剤」という場合がある。
【0013】
メタキシリレンジアミンの含有量は、硬化剤の全質量を100質量%としたときに、1〜90質量%であることが好ましく、3〜70質量%であることがより好ましい。メタキシリレンジアミンの含有量が上記範囲内であれば、適切な反応速度が得られるとともに、空気中の炭酸ガスとの反応抑制や接着強度の向上等の効果も得られる。
一方、メタキシリレンジアミンの誘導体の含有量は、硬化剤の全質量を100質量%としたときに、10〜95質量%であることが好ましく、30〜90質量%であることがより好ましい。キシリレンジアミンの誘導体の含有量が上記範囲内であれば、適切な反応速度が得られるとともに、空気中の炭酸ガスとの反応抑制や接着強度の向上等の効果も得られる。
【0014】
硬化剤は、アミン系硬化剤以外のその他の化合物を含んでいてもよい。その他の化合物としては、例えばポリアミド樹脂、イミダゾール類、酸無水物類などが挙げられる。
【0015】
主剤と硬化剤との配合比は、主剤であるエポキシ樹脂のエポキシ基と、エポキシ基と反応する硬化剤の官能基とが当量で反応するように設定することが好ましい。
ここで、エポキシ樹脂の主剤においては、1官能当たりの分子量をエポキシ当量といい、アミン系硬化剤のアミン当量は活性水素当量とも呼称される。エポキシ当量とアミン当量とから理論配合比を算出して適正配合比の指針として、さらに、接着強度等から主剤と硬化剤の最適配合比を設定する。
これらを考慮すると、主剤と硬化剤との配合比(質量比)は、10:1〜10:9が好ましく、10:1〜10:7がより好ましい。主剤と硬化剤との配合比が上記範囲内であれば、酸化劣化、加水分解、熱による軟化劣化、硬化劣化、脆性破壊および接着強度の低下を抑制できる。
【0016】
<アクリルゴム>
アクリルゴムは、滅菌処理、特に高温高圧蒸気下での滅菌処理に耐えうる耐湿熱性を接着剤組成物に付与し、接着強度を良好に維持する役割を果たす。
アクリルゴムは、好ましくは平均粒径300nm以下の微粉末の形態で主剤を構成するエポキシ樹脂中に分散されていることが好ましい。かかる理由は以下の通りである。
ビスフェノール型やフェノールノボラック型のエポキシ樹脂とアクリルゴムを含む接着剤は、硬化反応のために加熱するとエポキシ樹脂中にアクリルゴムが島状に分布した海島構造を形成し、高温高湿滅菌耐性等の接着剤特性を発現しやすくなる。一般的に海島構造の形成は、エポキシ樹脂とアクリルゴムの混合条件や硬化条件に依存しやすいとされているが、アクリルゴムがエポキシ樹脂に分散されていれば、混合条件や硬化条件に殆ど依存することなく海島構造を容易に形成できるので、接着作業や硬化条件などの自由度を高めることができる。
【0017】
アクリルゴムの含有量は、主剤とアクリルゴムとの含有量の合計を100質量%としたときに、1〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。アクリルゴムの含有量が上記範囲内であれば、接着せん断強度および接着剥離強度に優れた接着剤組成物が得られる。加えて、架橋密度が高まり、接着剤組成物の硬化物の耐湿熱性および耐薬品性が向上する。よって、高温高圧蒸気下での滅菌処理や薬品を用いた滅菌処理しても十分な接着強度を発現できる接着剤組成物が得られやすくなる。
【0018】
<充填材>
本発明の接着剤組成物は、充填材としてアルミナを含有する。アルミナは薬品を用いた滅菌処理に耐えうる耐薬品性を接着剤組成物に付与し、接着強度や外観を良好に維持する役割を果たす。
アルミナとしては、板状アルミナ、球状アルミナ、不定形状アルミナなどが好適である。これらの中でも、耐薬品性が向上する点で板状アルミナを少なくとも用いることが好ましく、板状アルミナと球状アルミナと不定形状アルミナとを併用することが特に好ましい。
充填材が少なくとも板状アルミナを含むことが好ましく、さらに球状アルミナと不定形状アルミナを含むことが特に好ましい理由は以下のように考えられる。
【0019】
充填材が板状アルミナを含む場合、接着剤組成物が硬化すると、図1に示すように主剤とアクリルゴムと硬化剤との硬化反応により形成された樹脂部11中に、充填材である板状アルミナ12が分散した硬化物(接着剤層)10が得られる。従って、硬化物10が過酢酸などの薬品に曝されたとしても、この板状アルミナ12によって樹脂部11の内部へ薬品が浸透するのを効果的に食い止め、薬品を用いた滅菌処理に耐えうる耐薬品性が向上し、接着強度や外観を良好に維持できると考えられる。
また、充填材が板状アルミナに加えて球状アルミナと不定形状アルミナをさらに含めば、図1に示すように板状アルミナ12と板状アルミナ12との隙間を球状アルミナ13や不定形状アルミナ14が埋める。これにより、充填材の充填密度が高まるため、樹脂部11の内部へ薬品が浸透するのをより効果的に食い止めることができると考えられる。
なお、図1では、図示の便宜上、不定形状アルミナ14を円(球形)で表している。
【0020】
本発明において「板状」とは、アルミナの最長径と厚さとのアスペクト比(最長径/厚さ)が2〜99であることを意味する。板状アルミナのアスペクト比は、滅菌耐性が向上し、滅菌処理を繰り返し行っても外観をより良好に維持できる点で、5〜50であることが好ましい。
また、板状アルミナの平均粒子径は0.05〜20μmであることが好ましく、滅菌耐性が向上し、滅菌処理を繰り返し行っても外観をより良好に維持できる点で、0.1〜10μmであることがより好ましく、0.4〜4μmであることが特に好ましい。
なお、板状アルミナの平均粒子径は、X投透過式粒度分布測定装置で測定した値である。
【0021】
また、「球状アルミナ」は、電子顕微鏡により観察したときの形状が球状であるものをいう。
球状アルミナの平均粒子径は1〜100μmであり、接着剤組成物を塗布する際の作業性や滅菌耐性が向上し、滅菌処理を繰り返し行っても外観をより良好に維持できる点で、2〜50μmであることが好ましい。
なお、球状アルミナの平均粒子径は、レーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置で測定される、体積平均粒子径のメジアン径の50%平均値のことである。
【0022】
また、「不定形状アルミナ」は、電子顕微鏡により観察したときの形状が球状、針状、板状、楕円形状、角形状など様々な形態であり、特定の形状に限定することができないものをいう。
不定形状アルミナの平均粒子径は1〜500nmであり、作業性や滅菌耐性が向上し、滅菌処理を繰り返し行っても外観をより良好に維持できる点で、10〜100nmであることが好ましい。
なお、不定形状アルミナの平均粒子径は、X投透過式粒度分布測定装置で測定した値である。
【0023】
充填材の含有量は、主剤と硬化剤とアクリルゴムの含有量の合計を100質量部としたときに、以下の通りである。
充填材が板状アルミナを含む場合、該板状アルミナの含有量は、10〜150質量部であることが好ましく、10〜80質量部であることがより好ましい。板状アルミナの含有量が上記範囲内であれば耐薬品性が向上し、接着強度や外観を良好に維持できる。特に、80質量部以下であれば、作業性を良好に維持できる。
充填材が球状アルミナを含む場合、該球状アルミナの含有量は、10〜150質量部であることが好ましく、10〜80質量部であることがより好ましく、30〜60質量部であることが特に好ましい。球状アルミナの含有量が上記範囲内であれば耐薬品性が向上し、接着強度や外観を良好に維持できる。特に、80質量部以下であれば、作業性を良好に維持できる。
充填材が不定形状アルミナを含む場合、該不定形状アルミナの含有量は、1〜20質量部であることが好ましく、1〜8質量部であることがより好ましく、2〜6質量部であることが特に好ましい。不定形状アルミナの含有量が上記範囲内であれば耐薬品性が向上し、接着強度や外観を良好に維持できる。特に、80質量部以下であれば、作業性を良好に維持できる。
ただし、充填材が板状アルミナと球状アルミナと不定形状アルミナを含む場合、これらの含有量の合計は、10〜150質量部であることが好ましく、20〜80質量部であることがより好ましい。含有量の合計が上記範囲内であれば耐薬品性が向上し、接着強度や外観を良好に維持できる。特に、80質量部以下であれば、作業性を良好に維持できる。
【0024】
<その他の成分>
本発明の接着剤組成物は、上述した主剤、硬化剤、アクリルゴム、および充填材以外にも、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて触媒、接着性付与剤、溶剤、可塑剤、抗酸化剤、重合抑制剤、界面活性剤、防カビ剤、着色剤など、通常の接着剤に用いられる添加剤を含有してもよい。
【0025】
<作用効果>
以上説明した本発明の接着剤組成物は、主剤と硬化剤に加え、アクリルゴムおよび充填材としてアルミナを含有するので、滅菌処理を繰り返し行っても優れた滅菌耐性を有する。よって、例えば137℃、約23300hPaの飽和水蒸気下、過酢酸水環境下、過酸化水素系ガス等のガス環境下などであっても接着強度や外観を良好に維持できる。
従って、本発明の接着剤組成物は、滅菌処理が施される医療器具の組み立て(すなわち、医療器具を構成する各部材の接合)に用いられる接着剤として好適である。
なお、滅菌処理としては、高温高圧蒸気下での滅菌処理(オートクレーブ滅菌)や、薬品を用いた滅菌処理などが挙げられる。また、薬品を用いた滅菌処理としては、過酢酸等の薬品に浸漬させる浸漬滅菌、ガスを用いたガス滅菌(例えば過酸化水素系ガスを用いた低温プラズマ滅菌、酸化エチレンガスを用いた滅菌、過酢酸系ガスを用いた滅菌等)などが挙げられる。
【0026】
<使用方法>
本発明の接着剤組成物を用いた、例えば内視鏡装置の各部材同士の接着は、次のようにして行われる。
すなわち、まず主剤を含むA液と硬化剤を含むB液を所定の割合で混合し、ここに所定の量のアクリルゴムおよび充填材と、必要に応じて添加剤とを加える。次いで、得られた混合物を適用されるべき所定の内視鏡装置の部材の表面に、刷毛等により塗布し、両者を接合し固定する。その後、所定の温度で所定時間加熱することにより、内視鏡装置の各部材同士は強固に接着される。
同様の手法により、内視鏡装置の撮像装置の封止、可撓性外皮チューブの端部の外面仕上げおよび固定を行うことができる。さらに、観察用レンズまたは照明用レンズの周囲に、接着剤層を盛り上げて形成することも、同様の手法により行うことができる。
なお、アクリルゴム、充填材、および添加剤は、予め主剤に添加しておいてもよい。
また、アクリルゴムがビスフェノール型やフェノールノボラック型のエポキシ樹脂中に分散されたものを用いてもよい。
【0027】
加熱温度は、接着剤組成物に含有される主剤および硬化剤の種類や配合比などによって異なるが、60℃〜135℃が好ましい。また、加熱時間は、0.5時間〜3時間程度が好ましい。
加熱温度が60℃未満では、硬化反応の進行が遅く、硬化に時間がかかりすぎ、135℃を超えると、耐熱性の低い内視鏡装置部材が熱劣化を生ずる傾向がある。
【0028】
本発明の接着剤組成物を用いて接合される部材は、上述したものに限定されない。例えば本発明の接着剤組成物を用いて、内視鏡装置の挿入部内に挿通される各種チューブの口元部分を挿入部の先端や操作部に固定することができる。また、挿入部の先端硬質部に配置されたレンズ群などをレンズ枠や先端硬質部へ固定することも可能である。さらには、挿入部に挿通されたファイバーバンドルをレンズ枠や先端硬質部に固定したり、先端硬質部に組み込まれたCCDなどを保護・固定したりすることもができる。
また、内視鏡装置の挿入部の可撓性外皮チューブの端部を外側から糸で緊縛してその内側の部材に固定した後、その糸に上記の接着剤組成物を塗布してもよい。このように接着剤組成物を塗布した場合、外面仕上げによる挿入性の確保と糸のほつれ防止とを同時に実現可能である。
【0029】
[内視鏡装置]
以下、図2〜4を参照して、本発明の接着剤組成物を用いて組み立てられた内視鏡装置の一実施形態について説明する。
図2は本発明の内視鏡装置の概略構成の一例を示す斜視図であり、図3は図2に示す内視鏡装置の先端部の正面図であり、図4は図3のA−A線に沿う断面図である。
なお、図4において図3と同じ構成要素には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図2に示すように、本実施形態の内視鏡装置1の概略構成は、被検者の体内に挿入する細長の挿入部2と、挿入部2に接続された操作部7と、操作部7と電気的な接続をとるとともに、照明光を供給するユニバーサルコード8とからなる。
挿入部2の先端側には、先端から照明光を照射し体内からの反射光を受光する先端部3、先端部3で受光した光を伝送する光ファイバーを収納するとともに湾曲動作可能とされた湾曲部4および可撓管5が設けられている。
このような内視鏡装置1において、本発明の接着剤組成物を用いて接合されるべき部材は、内視鏡装置1の構成部材であれば特に制限はない。以下、本実施形態における使用態様について、例を挙げて説明する。
【0031】
本発明の接着剤組成物は、例えば内視鏡装置1の先端部3におけるレンズ枠の周囲に配置することができる。
図3は、内視鏡装置1の先端部3の正面図である。絶縁部材41には鉗子チャンネル42が設けられ、該鉗子チャンネル42の末端部には鉗子口金43が配置されている。2つの照明レンズ46の間には、対物レンズ枠47内に設けられた対物レンズ45が配置され、照明レンズ46と対物レンズ枠47との間の空間には本発明の接着剤組成物が充填されており、接着剤組成物の硬化物49によって隔壁48が形成されている。これによって、照明レンズ46からの直接光が対物レンズ45に入射するのを防止するとともに、照明レンズ46および対物レンズ枠47が硬化物49により固定される。
【0032】
また、内視鏡装置1の先端部3には、図4に示すように、照明光を供給するライトガイドファイバー21と、撮像ユニット22を保持する円柱ブロック状の先端硬質部23が設けられ、先端硬質部23の側面に先端カバー24が嵌合されている。本実施形態では、先端硬質部23と先端カバー24との嵌合部に本発明の接着剤組成物を充填してなる接着剤層25が設けられ、それぞれを接着している。
また、先端カバー24の基端側には、湾曲部4の外周を覆う筒状の湾曲ゴム31が外挿され、この湾曲ゴム31の外挿部分に、湾曲ゴム31の上から糸を巻き付けて緊縛して糸巻き部34を形成することで、湾曲ゴム31が先端カバー24に固定されている。そして、この糸巻き部34の外周には、本発明の接着剤組成物を塗布してなる接着剤層36が形成され、外面仕上げによる挿入性の確保と糸のほつれ防止とを同時に実現している。すなわち、この接着剤層36は、糸巻き部34を先端カバー24、湾曲ゴム31の側面に沿って被覆し、挿入部2の挿入時に、先端部3および湾曲部4が生体と滑らかに当接、摺動できるようにしている。
【0033】
この他、内視鏡装置1では、本発明の接着剤組成物を用いて、内視鏡装置1の挿入部2内に挿通される各種チューブの口元部分を挿入部2の先端や操作部7に固定すること、挿入部2の先端硬質部23に配置されたレンズ群22aなどをレンズ枠や先端硬質部23へ固定することができる。また、挿入部2に挿通されたファイバーバンドルをレンズ枠や先端硬質部23に固定してもよい。さらには、先端部3に組み込まれた撮像ユニット22のCCDなどを保護、固定、封止することなどができる。
【0034】
また、図2には図示していないが、湾曲部4と可撓管5との連結部の外周も、先端部3と湾曲部4との連結部の外周と同様の構成である。具体的には、湾曲部4と可撓管5との連結部には、糸巻き部(図示略)が形成され、この糸巻き部の外周に本発明の接着剤組成物が塗布される。こうした接着剤組成物を硬化させてなる接着剤層(図示略)によって、外面仕上げによる挿入性の確保と糸のほつれ防止とを同時に実現している。
さらに、内視鏡装置の撮像素子の封止、あるいは内視鏡装置の観察用レンズまたは照明用レンズの周囲に接着剤組成物を盛り上げてレンズ外周の角部を滑らかにすることができる。
【0035】
以上説明した本発明の内視鏡装置は、上述した本発明の接着剤組成物を用いて内視鏡装置の部材同士の接合、内視鏡装置の挿入部の可撓性外皮チューブ端部に対する外面仕上げと糸の固定、内視鏡装置の撮像素子の封止、あるいは内視鏡装置の観察用レンズまたは照明用レンズの周囲に接着剤組成物を盛り上げてレンズ外周の角部を滑らかにすることなどを行っている。よって、滅菌処理を繰り返し行っても、接着剤組成物の外観が良好であり、かつ接合部分等において良好な接着強度が維持されるので、接着剤組成物によって接合された部材同士が剥がれにくい。
また、本発明の内視鏡装置は、特許文献1に記載のように被接着部に接着剤を供給した後で該接着剤の表面に耐薬品性を有する粉末を付与して、接着剤層の表面付近に粉末拡散層を形成させる必要がないので、作業工程を短縮でき、手間を省ける。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
<組成物の調製>
(組成物A)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂30質量部と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂40質量部と、フェノールノボラック型エポキシ樹脂30質量部とを混合して主剤を調製した。該主剤に、アクリルゴム20質量部と、硬化剤としてメタキシリレンジアミン誘導体40質量部とを混合し、組成物Aを調製した。
【0038】
(組成物B〜D)
配合組成が表1になるように変更した以外は、組成物Aと同様にして組成物B〜Dを調製した。
なお、組成物Dでは、主剤に、アクリルゴムと硬化剤に加えて、シリカを混合した。
【0039】
【表1】

【0040】
[実施例1]
<接着剤組成物の調製>
組成物Aを100質量部と、充填材として板状アルミナ(平均粒子径:0.6μm、アスペクト比:10)を10質量部とを混合し、接着剤組成物を調製した。
得られた接着剤組成物の配合組成を表2に示す。
また、得られた接着剤組成物について以下の測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0041】
<評価>
(1)初期の接着強度の測定
得られた接着剤組成物を用いて、ステンレス(SUS)製の平板と、ポリサルホン樹脂(PSF)からなるエンジニアリングプラスチック平板(エンプラ板)とを、80℃、2時間で硬化することにより接着し、試験片とした。
得られた試験片について接着強度試験を行い、接着強度を測定した。なお、接着強度試験は、JIS K6850[接着剤の引張り剪断接着強さ試験方法]に準拠して行なった。
【0042】
(2)滅菌処理後の接着強度の測定
評価(1)と同様にして試験片を作製した。
得られた試験片を、過酸化水素系ガスを用いた低温プラズマ滅菌装置でガス滅菌処理した。ガス滅菌処理後の試験片を大気中に取り出した後、再び過酸化水素系ガスを用いた低温プラズマ滅菌装置でガス滅菌処理した。この操作を合計で100回繰り返した後の試験片について、評価(1)と同様にして接着強度試験を行い、接着強度を測定した。
【0043】
(3)外観評価
SUS製の平板上に接着剤組成物を塗布し、これを80℃、2時間で硬化させて、平板上に接着剤層(膜厚100μm)が形成された外観評価用試験片1を作製した。
別途、エンプラ板上に接着剤組成物を塗布し、これを80℃、2時間で硬化させて、エンプラ板上に接着剤層(膜厚100μm)が形成された外観評価用試験片2を作製した。
得られた外観評価用試験片1、2をそれぞれ評価(2)と同様にしてガス滅菌処理を100回繰り返し行った。ガス滅菌処理後の外観評価用試験片1、2の接着剤層を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
◎:外観評価用試験片1、2とも、接着剤層が変化していない。
○:外観評価用試験片1、2の少なくとも一方の接着剤層が変色したが、剥離はしていない。
△:外観評価用試験片1、2の少なくとも一方の接着剤層が僅かに剥離した。
×:外観評価用試験片1、2の少なくとも一方の接着剤層に、剥離、亀裂、または溶解が認められた。
【0044】
(4)作業性の評価
SUS製の平板上に接着剤組成物を塗布する際の作業性を以下の評価基準にて評価した。
○:容易に塗布できる。
△:やや塗布しにくいが、使用上の問題はない。
×:塗布しにくい。
【0045】
[実施例2〜32]
アルミナの種類および配合を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして接着剤組成物を調製し、測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0046】
[比較例1〜4]
表2に示す種類の組成物を接着剤組成物として用いた以外は、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表3から明らかなように、各実施例の接着剤組成物は、滅菌処理を繰り返し行っても、滅菌処理に耐えうる滅菌耐性を有し、接着強度や接着剤層の外観を良好に維持できた。
特に、充填材として板状アルミナと球状アルミナと不定形状アルミナを用いた実施例32の場合は、滅菌処理後の接着強度が高かった。
なお、板状アルミナの含有量が5質量部である実施例2、板状アルミナの平均粒子径が0.05μmである実施例7、板状アルミナの平均粒子径が20μmである実施例9、板状アルミナのアスペクト比が70である実施例11、板状アルミナのアスペクト比が2である実施例13、球状アルミナの含有量が5質量部である実施例17、球状アルミナの平均粒子径が60μmである実施例22、不定形状アルミナの含有量が0.5質量部である実施例24、不定形状アルミナの平均粒子径が5nmである実施例28、不定形状アルミナの平均粒子径が150nmである実施例31の場合、滅菌処理後の接着剤層の外観が他の実施例に比べて劣っていた。
また、板状アルミナの含有量が100質量部である実施例5、球状アルミナの含有量が100質量部である実施例16、球状アルミナの平均粒子径が1μmである実施例19、不定形状アルミナの含有量が10質量部である実施例27、不定形状アルミナの平均粒子径が5nmである実施例28の場合、作業性が他の実施例に比べて劣っていた。
【0050】
一方、アルミナを含有しない比較例1〜4の接着剤組成物は、滅菌耐性に劣り、接着強度が各実施例に比べて概ね劣るものであった。また、滅菌処理後の接着剤層の外観が各実施例に著しく劣っていた。
【符号の説明】
【0051】
1:内視鏡装置、2:挿入部、3:先端部、4:湾曲部、5:可撓管、7:操作部、8:ユニバーサルコード、10:硬化物、11樹脂部、12:板状アルミナ、13:球状アルミナ、14:不定形状アルミナ、21:ライトガイドファイバー、22:撮像ユニット、22a:レンズ群、23:先端硬質部、24:先端カバー、25:接着剤層、31:湾曲ゴム、34:糸巻き部、36:接着剤層、41:絶縁部材、42:鉗子チャンネル、43:鉗子口金、45:対物レンズ、46:照明レンズ、47:対物レンズ枠、48:隔壁、49:硬化物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる1種以上のエポキシ樹脂からなる主剤と、メタキシリレンジアミンおよび/またはその誘導体を含む硬化剤と、アクリルゴムと、充填材とを含有する医療器具用接着剤組成物であって、
前記充填材がアルミナであることを特徴とする医療器具用接着剤組成物。
【請求項2】
前記充填材は、アスペクト比が2〜99である板状アルミナを少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の医療器具用接着剤組成物。
【請求項3】
前記充填材は、平均粒子径が1〜100μmである球状アルミナと、平均粒子径が1〜500nmである不定形状アルミナとをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の医療器具用接着剤組成物。
【請求項4】
前記充填材は、アスペクト比が2〜99である板状アルミナ、平均粒子径が1〜100μmである球状アルミナ、平均粒子径が1〜500nmである不定形状アルミナよりなる群から選ばれる1種以上のアルミナを含み、かつ、前記主剤と硬化剤とアクリルゴムの合計100質量部に対し、
前記充填材が前記板状アルミナを含む場合、該板状アルミナの含有量が10〜150質量部であり、
前記充填材が前記球状アルミナを含む場合、該球状アルミナの含有量が10〜150質量部であり、
前記充填材が前記不定形状アルミナを含む場合、該不定形状アルミナの含有量が1〜20質量部である(ただし、充填材が板状アルミナと球状アルミナと不定形状アルミナの全てを含む場合、これらの含有量の合計が10〜150質量部である。)ことを特徴とする請求項1に記載の医療器具用接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の医療器具用接着剤組成物を用いて組み立てられたことを特徴とする内視鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−78513(P2013−78513A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220837(P2011−220837)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】