説明

医療器具用洗浄剤組成物

【課題】洗浄力に優れ、酵素の保存安定性に優れた酵素含有の医療器具用洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】有機アルカリ化合物(A)を1〜30質量%、ヒドロキシ基を分子中に4〜10個有する化合物(B)を1〜50質量%、酵素(C)、及び水を1〜30質量%含有し、25℃のpHが10.5〜13である医療器具用洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具用洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療器具用洗浄剤としては、中性酵素洗浄剤または、非酵素系アルカリ洗浄剤が用いられている。医療器具に付着する汚れで落とし難い汚れとして、凝固した血液汚れが挙げられる。この汚れを落とすためには、液性をアルカリ性として、酵素を併用すると優れた洗浄力が得られるが、プロテアーゼ等の酵素はアルカリ性にすると酵素活性が失活しやすくなるために、中性で保存する必要があり、アルカリ性で酵素を使用する際には、使用時に酵素含有溶液とアルカリ剤とは、通常、使用直前に混合される。アルカリ性洗浄液中でも安定に酵素を配合できれば、希釈するだけで、容易にアルカリ性酵素洗浄液を調製することができる。アルカリ性洗浄剤に酵素を配合する方法として、アルカノールアミンとホウ酸の緩衝系を用い、ポリオールを安定化剤に用いた液体洗浄剤組成物が知られている(特許文献1)。また、酵素溶液の保存安定性を高める方法として、プロテアーゼの酵素活性を阻害するために、多量のプロピレングリコールやグリセリンとホウ酸を組合せる方法や、ソルビトール等の非還元性の糖アルコールとホウ酸を組み合わせる方法が提案されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−45599号公報
【特許文献2】特開平8−224288号公報
【特許文献3】特開平11−116991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、使用時に希釈された場合、pHが洗浄に好適なアルカリ剤よりも範囲より低くなってしまい、洗浄に有効なアルカリ量での洗浄を行うことができない。さらに、この技術では、プロピレングリコールとホウ酸の酵素活性阻害により、プロテアーゼを用いた場合の自己消化を防いでいるため、特許文献1の実施例で示されている40℃程度の比較的低温での保存安定性は良好であるが、より高温(例えば50℃)になるとプロテアーゼの自己消化でなく、酵素の高次構造が変化して、酵素が変性してしまい、わずか数日の保管でも酵素か急速に失活してしまう。夏期や熱帯地域における製品輸送時や保管時の温度条件を想定すると、40℃の保存安定性だけでは十分ではなく、より高温での保存安定性が良好であることが必要である。
【0005】
また、特許文献2、3の技術は、中性付近での酵素の安定化を計る技術であり、高アルカリで高温の条件では、速やかに酵素は失活してしまう。
【0006】
このように、洗浄に十分な有効量のアルカリを含み、例えば50℃程度の保存でも安定な酵素含有洗浄剤組成物はこれまで見出されていなかった。
【0007】
本発明の課題は、タンパク質汚れなどの洗浄力に優れ、高アルカリ、高温での保存においても、酵素の保存安定性に優れた酵素含有の医療器具用洗浄剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、有機アルカリ化合物(A)〔以下、(A)成分という〕を1〜30質量%、ヒドロキシ基を分子中に4〜10個有する化合物(B)〔以下、(B)成分という〕を1〜50質量%、酵素(C)〔以下、(C)成分という〕、及び水を1〜30質量%含有し、25℃のpHが10.5〜13である医療器具用洗浄剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タンパク質汚れなどの洗浄力に優れ、高アルカリ、高温での保存においても、酵素の保存安定性に優れた酵素含有の医療器具用洗浄剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<(A)成分>
アルカリ剤としては、有機アルカリ化合物を使用する。水酸化カリウムや、炭酸ナトリウムのような無機アルカリ化合物を使用すると、酵素安定性を著しく阻害する。有機アルカリ化合物としては、アルカノールアミンや、アルキルアミン、モノアルキルジアルカノールアミン等があるが、酵素安定性の点で、アルカノールアミンが最も好ましい。アルカノールアミンとしては、一般式 N(R1)(R2)(R3) で表されるものが挙げられる。R1はOH基を1〜3含む炭素数1〜8の炭化水素基であり、R2、R3は、それぞれ、独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルカノール基である。R1は、炭素数2〜4のアルカノール基が好ましく、R2、R3としては、水素原子が好ましい。前記一般式のアルカノールアミンとしてはモノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルプロパノールアミン、N−ジメチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、トリスヒドロキシアミノメタン等が挙げられ中でも、洗浄力の点からモノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシアミノメタンが好ましく、モノエタノールアミンが最も好ましい。
【0011】
<(B)成分>
ヒドロキシ基を分子中に4〜10個有する化合物としては、ヘキシトール類(ソルビトール、アリトール、ダルシトール、ガラクチトール、グルシトール、マンニトール、アリトリトール、イジトール)、ペンチトール類(キシリトール、アラビニトール、リビトール)、テトリトール類(エリスリトール、スレイトール)、ペンタエリスリトール、トレハロース、マルチトール、スクラロース、イノシトール、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、シクロヘキサンテトラオール等が挙げられる。酵素安定性の点から分子中にヒドロキシ基を5〜8個有する化合物が好ましい。また窒素原子を含まない化合物が好ましい(B)成分は、糖類が好ましく、更に、糖アルコールであることが好ましい。さらに好ましくは、ヘキシトール類又はペンチトール類である。また、(B)成分は、アルデヒド基を分子中に含まず還元性のないものの方が、経時における有機アルカリ化合物のメイラード反応による着色を防ぐという点から好ましい。水や水溶性溶剤に対する溶解度が高いものの方が、洗浄剤組成物に多量に配合することができる。これらの観点より、特に好ましくは、ソルビトール、キシリトールである。また、(B)成分の炭素数は12以下であることが、洗浄剤の配合安定性の点で好ましい。また、炭素数は4以上が好ましい。(B)成分のヒドロキシ基を分子中に4〜10個有する化合物は、非常に水との親和性が高い物質であり、水の代わりに酵素近傍に存在することで酵素の高温安定性が向上する。
【0012】
<(C)成分>
酵素としては、プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ等が挙げられ、プロテアーゼ、更にアルカリプロテアーゼが好ましい。
【0013】
アルカリプロテアーゼは、好ましくは中性からアルカリ側に至適pHが存在するものであれば如何なる酵素でもよく、またそれらの組合せも可能である。アルカリプロテアーゼはBacillus SPに由来するズブチリシンプロテアーゼが好ましく、中でも、Bacillus Halodurans、Bacillus clausiiに由来するズブチリシンプロテアーゼが好ましい。市販されているアルカリプロテアーゼとしては、例えば、特開2007−61101号公報に記載されたアルカリプロテアーゼ、ノボザイムズジャパン社から入手できるアルカラーゼ、サビナーゼ、エバラーゼ、エスペラーゼ、カンナーゼ、オボザイム、ジェネンコア・インターナショナル社から入手できるプラフェクト、プロペラーゼなどがある。
【0014】
(C)成分としてアルカリプロテアーゼを用いる場合、本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、アルカリプロテアーゼを0.1〜50質量%、更に0.5〜30質量%より更に1〜20質量%が含有することが好ましい。また、アルカリプロテアーゼの含有量(タンパク質分解活性)は、固着タンパク質除去効果及びコストの観点から、本発明の医療器具用洗浄剤組成物1kgあたり、10〜20000PUが好ましく、50〜10000PUがより好ましく、100〜5000PUがさらに好ましい。
【0015】
なお、タンパク質分解活性(PU/g)は次の方法により測定される。
1w/v%の濃度でカゼイン(ハマーステイン:メルク社)を含む50mmol/Lホウ酸緩衝液(pH10.5)1mLを30℃で5分間保温した後、0.1gの酵素溶液と混合し、30℃で15分間反応を行う。反応停止液(0.11mol/Lトリクロロ酢酸−0.22mol/L酢酸ナトリウム−0.33mol/L酢酸)2mLを加え、室温で10分間放置する。次に酸変性タンパク質をろ過(No.2ろ紙;ワットマン社製)し、ろ液0.5mLにアルカリ性銅溶液[1w/v%酒石酸カリウム・ナトリウム水溶液:1w/v%硫酸銅水溶液:炭酸ナトリウムの0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液溶解物(炭酸ナトリウム濃度2w/v%)=1:1:100(V/V)]2.5mLを添加し30℃、10分間保温する。さらに、希釈フェノール試薬[フェノール試薬(関東化学社製)をイオン交換水で2倍に希釈したもの]0.25mLを加え、30℃で30分間保温後、このサンプルの660nmにおける吸光度を測定する。また、上記の酵素反応系に反応停止液を混合した後、酵素溶液を加えたものをブランクとして同様に吸光度を測定する。次にサンプルとブランクとの吸光度差により、遊離してきた酸可能性タンパク質分解物の量(チロシン換算された量)が得られ、これを反応時間(本条件の場合:15分)及び酵素溶液量(本条件の場合:0.1g)で除して、タンパク質分解活性値を求める。なお、1PUは、上記の反応条件において1分間に1mmolのチロシンに相当する酸可溶性タンパク質分解物を遊離する酵素量である。
【0016】
<その他の成分>
本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、洗浄性を高める観点、さらに界面活性剤(D)〔以下、(D)成分という〕を含有することが好ましい。
【0017】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられ、酵素安定性の点で、非イオン界面活性剤が好ましい。
【0018】
非イオン界面活性剤としてはポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリアルキレングリコール、アルキルアミンオキシド、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ポリオキシエチレンエステル、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸、ポリオキシアルキレンソルビタンエステル、脂肪酸サッカライドエステル、アルキルポリサッカライド、アルキルグリセリルエーテル、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。タンパク質汚れの除去効果の観点から、下記(1)〜(4)からなる群から選ばれる1種以上の非イオン界面活性剤が好ましい。
【0019】
(1)下記一般式(1−1)で表されるポリオキシアルキレンエーテル
RO−(AO)s−H (1−1)
(Rは炭素数6〜24の炭化水素基、Aは炭素数2〜4のアルカンジイル基を示す。sはアルカンジイルオキシ基の平均付加モル数を示し、1〜40の数である。)
(2)下記一般式(2−1)〜(2−2)で表されるポリアルキレングリコール
HO−(EO)o−(PO)p−(EO)q−H (2−1)
HO−(PO)p−(EO)q−(PO)r−H (2−2)
(EOはエタンジイルオキシ基、POはプロパンジイルオキシ基を示し、o、p、q、rは平均付加モル数を表し、それぞれ独立して3〜100の数である。)
(3)炭素数6〜16の炭化水素基を有するアルキルアミンオキサイド
(4)炭素数6〜12の炭化水素基を有するアルキルグリセリルエーテル
【0020】
(1)のポリオキシアルキレンエーテルにおいて、一般式(1−1)のR基は直鎖又は分岐鎖の炭化水素であり、飽和又は不飽和の炭化水素であり、洗浄性、泡特性の観点から、直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、直鎖又は分岐鎖のアルキル基がより好ましい。R基の炭素数は6〜24であり、6〜18が好ましく、8〜14がより好ましく、8〜10が更に好ましい。Aは炭素数2〜4のアルカンジイル基であり、洗浄性、泡特性の観点から、炭素数2又は3が好ましい。sはアルカンジイルオキシ基の平均付加モル数を示し、1〜40の数であり、2〜30が好ましく、5〜20がより好ましい。また、複数のアルカンジイル基が含まれる場合には、付加形態は、ブロック付加であってもランダム付加であっても両方が混在していてもよい。
【0021】
(1)の好適なポリオキシアルキレンエーテルとして、下記一般式(1−1−1)で表されるポリオキシアルキレンエーテルが挙げられる。
RO−[(EO)l/(PO)m]−H (1−1−1)
(Rは炭素数6〜18の炭化水素基であり、EOはエタンジイルオキシ基、POはプロパンジイルオキシ基を示し、l、mはEO及びPOの平均付加モル数を表し、l、mは独立して1〜20の数である。“/”はEOとPOがランダムでもブロックでもよいことを示す記号である。また、EOとPOの付加順序は問わない。)
【0022】
一般式(1−1−1)で表されるポリオキシアルキレンエーテルのR基は、直鎖でも分岐鎖でもよいが、アルキル基又はアルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。R基の炭素数は6〜18であり、6〜14が好ましく、更に7〜10がより好ましい。R基は特に分岐鎖を有する炭素鎖が8〜10のアルキル基が好ましい。また、l、mは独立して1〜20の数であり、2〜15の数が好ましく、3〜10の数がより好ましい。またlとmの比は、3/1〜1/3が好ましく、2/1〜1/2がより好ましい。EO及びPOの付加形態は、ランダム付加であってもブロック付加であっても良い。
【0023】
更に、特に好適な(1)のポリオキシアルキレンエーテルとして、下記一般式(1−1−2)、(1−1−3)で表されるポリオキシアルキレンエーテルが挙げられる。
RO−(EO)la−(PO)m−(EO)lb−H (1−1−2)
(Rは炭素数6〜18の炭化水素基であり、EOはエタンジイルオキシ基、POはプロパンジイルオキシ基を示し、la、lb、mはEO及びPOの平均付加モル数を表し、la、lb、mは独立して1〜20の数であり、且つ、la+lbは2〜20である。EO及びPOの付加形態は、EO−PO−EOの順にブロック付加である。)
RO−[(EO)l/(PO)m]−H (1−1−3)
(Rは、分岐鎖を有する炭素数7〜10のアルキル基、EOはエタンジイルオキシ基、POはプロパンジイルオキシ基を示し、l、mはEO及びPOの平均付加モル数を表し、l、mは独立して3〜10の数である。“/”はEOとPOがランダムでもブロックでもよいことを示す記号である。また、EOとPOの付加順序は問わない。)
【0024】
一般式(1−1−2)で表されるポリオキシアルキレンエーテルのR基は、直鎖又は分岐鎖である、アルキル基又はアルケニル基が好ましく、分岐鎖のアルキル基がより好ましい。R基の炭素数は6〜18であり、6〜14が好ましく、更に7〜10がより好ましい。また、la、lb、mは独立して1〜20の数であり、2〜15の数が好ましく、3〜10の数がより好ましく、且つ、la+lbは、2〜20であり、2〜15がより好ましい。また(la+lb)とmの比は、3/1〜1/3が好ましく、2/1〜1/2がより好ましい。
【0025】
また、一般式(1−1−3)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、例えば、プルラファックという商品名でBASF社から入手可能である。
【0026】
(2)の一般式(2−1)、(2−2)で表されるポリアルキレングリコールにおいて、EOはエタンジイルオキシ基、POはプロパンジイルオキシ基を示し、o、p、q、rは平均付加モル数であり、それぞれ独立して3〜100の数であり、5〜30の数がより好ましい。また(o+q)/pの比又はq/(p+r)の比は、3/1〜1/3が好ましく、2/1〜1/2がより好ましい。一般式(2−1)、(2−2)で表されるポリアルキレングリコールは、例えば、プルロニック、プルロニックRという商品名でBASF社から入手可能である。
【0027】
(3)のアミンオキシドは、少なくとも1つの炭素数6〜16の炭化水素基を有しており、炭素数6〜14が好ましく、炭素数8〜12がより好ましい。炭化水素基はアルキル基又はアルケニル基であり、好ましくは直鎖又は分岐鎖アルキル基、より好ましくは直鎖アルキル基を有するアミンオキサイドが好ましい。また、炭素数6〜16の炭化水素基以外の置換基は炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0028】
(4)のグリセリルエーテルは、炭素数6〜12の炭化水素基を有するものであり、炭化水素基は好ましくは炭素数6〜10、より好ましくは炭素数8〜10である。炭化水素基は、アルキル基又はアルケニル基であり、好ましくは直鎖又は分岐鎖アルキル基、より好ましくは直鎖アルキル基である。
【0029】
一般に、医療器具洗浄機、特に内視鏡洗浄機に関しては、洗浄時の水温に温度管理がされていないものが多い。常温で洗浄した場合には、特に泡が問題にならない場合でも、水温が低くなると、泡が消えにくくなる。
【0030】
一方、洗浄力を高めるために、洗浄機の中では常に高圧で噴出された水が循環しており、非常に泡立ちやすくなっている。泡がたつと、泡により超音波や水流の物理力が緩和され、医療器具表面に伝わりにくくなり洗浄力が低下する。それだけではなく、医療器具の洗浄機に備えられている洗浄水の供給や排出を感知するための水位センサーの誤感知を起こし、洗浄が停止してしまう。また、RO水や、イオン交換水など極端に硬度が低い水を使用したときにも同様の問題が見られる。そのため5℃の低硬度の水を使用した場合でも泡立ちが抑制されていることが好ましい。
【0031】
このような観点から非イオン界面活性剤としては、(1)〜(4)の非イオン界面活性剤の中では、タンパク質汚れの除去効果の観点から、(1)〜(3)からなる群から選ばれる1種以上の非イオン界面活性剤が好ましく、(1)〜(3)を適宜併用して用いてもよい。また、(1)から選ばれる1種以上の非イオン界面活性剤がより好ましい。なかでも、(1)の非イオン界面活性剤のうち、一般式(1−1)中のRが炭素数6〜14の炭化水素基である非イオン界面活性剤が好ましく、炭素数7〜10がより好ましく、より更に炭素数7〜10で分岐鎖を有するものが好ましく、特に炭素数が8〜9で分岐鎖を有するものが好ましい。
【0032】
本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、配合安定性と酵素安定性の観点から、さらに水溶性溶剤(E)〔以下、(E)成分という〕を含有することが好ましい。水溶性溶剤の添加により、洗浄剤組成物中の水分量減少することにより、酵素の加水分解が抑制され、酵素の保存安定性を高めることができる。
【0033】
水溶性溶剤としては、炭素数1〜10の水溶性溶剤が挙げられる。具体的には、エタノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4の低級アルコール、メチルセロソルブなどを用いることができるが、酵素安定性を高めるために好ましくは、ヒドロキシ基を分子中に2個有する化合物、更に好ましくは炭素数3〜6で、ヒドロキシ基を分子中に2個有する化合物である。ヒドロキシ基を分子中に2個有する化合物としては、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、ジブチレングリコール、2,4−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、グリセリンモノペンチルエーテル、プロピレングリコール等が挙げられる。より好ましくは、炭素が4〜6で分子中にヒドロキシル基を2つ有する化合物であり、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。特に好ましくは、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオールである。これらは、(B)成分、(D)成分の中間の親疎水バランスを有するため、高温保存したときの(B)成分、(D)成分の分離を防ぎ配合安定性を高めることができる。
【0034】
本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、必要に応じて、金属封鎖剤、着色剤、防錆剤、酸化防止剤、等の成分を含有することができる。
【0035】
<医療器具用洗浄剤組成物の組成等>
本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、(A)成分を1〜30質量%、好ましくは3〜25質量%、より好ましくは5〜20質量%含有する。また、本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、(B)成分を1〜50質量%、好ましくは4〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%含有する。また、本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、(C)成分を好ましくは0.5〜30質量%、さらに好ましくは1〜20質量%含有する。また、(D)成分を含有する場合、その含有量は、本発明の医療器具用洗浄剤組成物中、0.5〜30質量%、更に1〜20質量%、より更に3〜10質量%が好ましい。また、(E)成分を含有する場合、その含有量は、本発明の医療器具用洗浄剤組成物中、5〜80質量%、更に10〜60質量%、より更に20〜50質量%が好ましい。
【0036】
(E)成分を添加することにより、水分量が低い場合においても、より多くの(B)成分を添加できるようになり、より安定性が良好になる。(E)成分を含有する場合、酵素安定性をより高めるために(B)/(E)の質量比は1/1〜1/20、更に1/1〜1/10、より更に1/2〜1/5が好ましい。
【0037】
また、本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、水を1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%、より好ましくは3〜15質量%含有する。本発明では、水の比率が低いことが重要である。水は、(B)成分を溶解させ、医療器具用洗浄剤組成物を均一に保つために必要であるが、水の量が多すぎると、酵素の高次構造の安定性が低下する。また、プロテアーゼであれば、自己消化が促進される。そのため、本発明の医療器具用洗浄剤組成物における水の含有量は前記範囲が好ましい。また、(B)成分の量が多いほど、酵素安定性が高くなるが、一方で均一に保つために水が必要であるため、(B)成分と水との比率が重要である。このような条件を満たすためには、(B)/水の質量比が1/2〜10/1、更に2/3〜5/1、より更に1/1〜3/1であることが好ましい。
【0038】
本発明の医療器具用洗浄剤組成物の形態は、自動洗浄機における供給のしやすさや、溶け残りを防ぐという観点から、液体組成物(分散粒子を含んでいてもよい)であることが好ましい。
【0039】
本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、25℃のpHが10.5〜13、好ましくは11〜12.5、より好ましくは11〜12である。原液のpHは酵素安定性に非常に重要であり、前記範囲であれば、洗浄に必要なアルカリ性を有し、且つ酵素安定性も良好となる。
【0040】
本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、そのまま使用してもよいが、通常、該洗浄剤組成物を水で希釈して調製した処理液を洗浄に用いる。希釈倍率は限定されないが、通常50倍〜1000倍程度に希釈することが想定される。洗浄力には、洗浄時のpHも重要であり、本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、水による200倍希釈物のpHが25℃で9.5以上であることが望ましい。また、医療器具の腐食防止の観点から、200倍希釈物のpHの上限値は11以下が好ましい。
【0041】
本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、無機電解質の含有量が少ない方が好ましい。酵素含有洗浄剤組成物の安定化剤として、ホウ酸やホウ砂、塩化カルシウム等がよく使用されているが、本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、水の含有量が少ないため、このような物質は、溶解しにくい。ホウ酸のようにアルカリに溶解するものであっても、組成物中の含有量が多くなると、塩濃度が高くなる影響で、酵素の安定性を低下させてしまう。市販の酵素溶液には、酵素安定剤としてこれらの物質があらかじめ添加されていることが多いため、キャリーオーバー成分としてある程度、混入することは避けられないが、酵素の安定化の観点から、無機電解質成分はなるべく含まない方が好ましい。そのため、本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、(A)成分以外の無機電解質の含有量が1質量%以下、更に0.3質量%以下であることが好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0042】
本発明の対象となる医療器具としては、剪刀、鉗子、鑷子などの鋼製器具類、カテーテル、チューブ、バイトブロックなどの樹脂製器具、硬性もしくは軟性内視鏡等が挙げられる。本発明の医療器具用洗浄剤組成物は、内視鏡用が好ましい。また、これら医療器具の自動洗浄機用であってもよく、内視鏡の自動洗浄機用であることがより好ましい。本発明の医療器具用洗浄剤組成物あるいは該組成物を水で希釈した処理液を、医療器具と接触させて洗浄が行われる。洗浄用の組成物ないし処理液の接触は、これら医療器具の汚れ、例えば血液等に由来するタンパク質汚れが付着した部位と接触するように行われ、塗布、浸漬、噴霧などの方法により前記部位に適用することができる。洗浄用の組成物ないし処理液の温度は酵素の至適条件及びタンパク質汚れの洗浄性の観点から、5〜60℃、更に15〜50℃が好ましい。また、pHは9.5〜11.5、更に10〜11が好ましい。また、接触時間は30秒〜30分、更に1分〜15分が好ましい。
【実施例】
【0043】
表1〜3の医療器具用洗浄剤組成物を調製し、以下の方法で酵素の保存安定性と保存後の洗浄力を評価した。結果を表1〜3に示す。なお、pHは、堀場製作所製 pHメータ F−21を用いて測定した。
【0044】
<酵素の保存安定性>
予め酵素活性を測定した医療器具用洗浄剤組成物を、50℃で1週間保存し再度、酵素活性を測定した。保存前の酵素活性と比較し、初期と比較し残存活性を%で表した。酵素活性の測定方法は本文記載の「タンパク質分解活性」の測定法とした(ただし、「酵素溶液」は「医療器具用洗浄剤組成物」と読み替える。)
【0045】
<洗浄力>
血液に由来するタンパク質汚れに対する洗浄効果を、以下の方法で評価した。
【0046】
〔I〕目視判定法及びタンパク質染色法
ヘパリン処理羊血液0.5mLに硫酸プロタミン溶液を7.5μL添加後、直ぐに攪拌した。これを10μL/cm2の割合で、ポリカーボネート板に均一に塗布し、室温で2時間乾燥してテストピースとした。
【0047】
テストピースをオリンパスメディカルシステムズ(株)製内視鏡洗浄消毒器OER-2内に固定し、洗浄時間を10分に設定し洗浄を行った。洗浄終了後、洗浄機を停止し、テストピースを取り出し、別に用意した水槽中のイオン交換水を用いて穏やかにすすいだ。乾燥後、目視で血液の残留があるかを判定した後、目視で残留が認められないものに関しては、Coomassie Protein Assay Reagent(タンパク質定量キット添付の試薬、Thermo Scientific社製)に3分間浸漬後(CBB染色)、イオン交換水で充分濯いだ後の染色状態で下記の判定基準に従い判定した。5回試験を行い、その平均値を表1に示した。
【0048】
判定基準
5:目視でも、CBB染色後でも汚れの残留がほとんどみられない。
4:目視では残留が認められないが、CBB染色では、一部にタンパク質の残留が認められる。
3:目視では残留が認められないが、CBB染色では、全面にタンパク質の残留が認められる
2:目視でも僅かに残留が見られる
1:目視で多くの血液の残留が認められる。
評価点4以上であれば、再使用にあたっては問題ないレベルであり、良好に洗浄できたものと判断する。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
*1 エバラーゼ、ノボザイム社製、アルカリプロテアーゼ、酵素活性12PU/g
*2 ソフタノールEP7085、日本触媒(株)製、一般式(1−1−1)中のRが炭素数12〜14の分岐鎖アルキル基、lが7、mが7.5、EOとPOがEO、POの順でブロック配列した非イオン界面活性剤
*3 均一溶解しないため、評価せず
*4 酵素を配合していないため、評価せず

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機アルカリ化合物(A)を1〜30質量%、ヒドロキシ基を分子中に4〜10個有する化合物(B)を1〜50質量%、酵素(C)、及び水を1〜30質量%含有し、25℃のpHが10.5〜13である医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項2】
さらに界面活性剤(D)を含有する、請求項1記載の医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項3】
界面活性剤(D)が非イオン界面活性剤である、請求項2記載の医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項4】
さらに水溶性溶剤(E)を含有する、請求項1〜3の何れか1項記載の医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項5】
(B)/(E)の質量比が1/1〜1/20である、請求項4記載の医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項6】
水溶性溶剤(E)が、ヒドロキシ基を分子中に2個有する化合物である、請求項4又は5記載の医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項7】
(B)/水の質量比が1/2〜10/1である、請求項1〜6の何れか1項記載の医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項8】
無機電解質の含有量が1質量%以下である、請求項1〜7の何れか1項記載の医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項9】
有機アルカリ化合物(A)がアルカノールアミンである、請求項1〜8の何れか1項記載の医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項10】
ヒドロキシ基を分子中に4〜10個有する化合物(B)が糖類である、請求項1〜9の何れか1項記載の医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項11】
酵素(C)がアルカリプロテアーゼである、請求項1〜10の何れか1項記載の医療器具用洗浄剤組成物。
【請求項12】
内視鏡用である、請求項1〜11の何れか1項記載の医療器具用洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2012−140484(P2012−140484A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292237(P2010−292237)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】