説明

医療従事者用シューズ

【課題】動きやすく、疲れにくいうえ、脱ぎ履きしやすい医療従事者用シューズであって、特に、安全性が高く、次亜塩素酸ナトリウム水溶液で消毒しても、漂白作用による色落ちや黄ばみなどが発生しない医療従事者用シューズを提供する。
【解決手段】構成部材が、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められていない合成樹脂または合成繊維からなることを特徴とする。このとき、前記構成部材の甲被全体が、合成皮革からなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動きやすく、疲れにくいうえ、脱ぎ履きしやすい医療従事者用シューズに関し、特に、安全性が高く、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等で消毒しても、漂白作用による色落ちや黄ばみなどが発生しない上記シューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療従事者(医師、看護師、薬剤師、歯科衛生士、作業・理学療法士など)用の履物としては、サンダルやスリッパなどの履きやすく、脱ぎやすい形状のものが多く使用されている。
昨今のSARSや新型インフルエンザなど飛沫感染する疾患の流行に伴い、これら医療従事者の履物についても、院内感染防止のため、温水での洗浄や殺菌管理(消毒)が重要視されつつある。上記のようなサンダル形状のものは、紐付き靴などに比べると構造が単純ゆえ、洗浄や消毒が容易である。
【0003】
院内感染予防の研究をしている団体(ICHG研究会)が推奨している消毒方法によれば、金属腐食性があったり、有機物の存在下や高pH下では活性(殺菌力)が低下したりするものの、抗菌スペクトルが広く、安価で、下水に直接流しても環境汚染を起こさないことから、次亜塩素酸ナトリウムが消毒剤の第一選択剤として挙げられている(非特許文献1参照)。
ところが、この次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に、医療従事者用としてこれまで流通していた履物を消毒のために漬け置きすると、色物では色落ちが激しかったり、白物では黄ばみが生じてしまう問題や、ナースサンダルなどでは止め金具が腐食してしまう問題があった。
【0004】
一方、前述のサンダルやスリッパは、爪先部やかかと部が露出していて、安全性が低いばかりか、アウトソールが薄かったり、防滑性や屈曲性も乏しいものが多く、また、足へのフィット感が得られにくく、重労働・長時間労働に適していない、疲れやすいなど、通常の靴の形状(以下、これを「シューズ」ともいう)よりも機能性において劣る面が多々あった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ICHG研究会著「標準予防策実践マニュアル−これからはじめる感染予防対策」株式会社南江堂 2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような現状を考慮し、動きやすく、疲れにくいうえ、脱ぎ・履きが容易で、嘔吐や血液、針などが直接触れる虞がなく、しかも汎用の洗濯機等による、温水(40℃以下〜常温(一般には20℃程度))での洗浄にも、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による消毒にも十分耐え得る医療従事者用シューズを提案することを課題とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねたところ、
まず、顔料によって染められた素材は次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて漂白されないことに着目し、
次に、サンダルやスリッパのような形状ではなく、足の甲全体が被覆された一般のシューズ形状とし、その構成部材の全てを、白色以外の有色染料で染められていない素材で、しかも耐温水性かつ耐次亜塩素酸ナトリウム水溶液性を有する素材にて形成することで、汎用の洗濯機等での数〜数百回の洗浄や次亜塩素酸ナトリウム水溶液の消毒による色落ち、黄ばみ、変形、擦過傷などが発生しない医療従事者用シューズが得られるとの知見を得た。
なお、本明細書において、有色染料とは、水溶性の着色剤(例えば、植物由来の天然染料、合成染料など)の内、白色以外のものを示し、顔料とは、非水溶性の着色剤(例えば、無機顔料、合成顔料など)をさし、特に色を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような知見の下でなし得たものであり、以下を要旨とする。
(1)構成部材が、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められていない合成樹脂または合成繊維からなることを特徴とする医療従事者用シューズ。
(2)前記構成部材の甲被が、合成皮革からなることを特徴とする前記(1)に記載の医療従事者用シューズ。
(3)さらに、サイドファスナーを有し、該サイドファスナーが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められていない素材からなることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の医療従事者用シューズ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療従事者用シューズによれば、次のような効果を奏することができる。
(i)数〜数百回に及ぶ、従来用いられている全自動洗濯機などによる温水かつ重荷重での洗浄や次亜塩素酸ナトリウム水溶液による消毒とに対し、色落ち、黄ばみはもとより、擦過傷、アウトソールや履き口などの変形、甲被とアウトソールとの脱離などが発生しない。
(ii)足の甲全体が被覆されたシューズ形状であるため、従来のスリッパやサンダル形状のような、爪先部、かかと部などの露出部から針が刺さる、嘔吐・血液に接触する等という問題が解消される。
さらに、防水機能や針刺し防止機能を備えた甲被とすることで、より一層安全性を高めることができる。
(iii)例えば、防滑性や屈曲性、厚みのあるアウトソールとすることで、滑りにくく、動きやすく、また疲れにくい、重労働・長時間労働に適したものにできる。
(iv)靴紐やバンド等の甲緊締部材を設けることで、フィット性や作業性が向上する。
さらに、サイドファスナーを設けることで、脱ぎ履きの煩雑さを解消することができる。
(v)これらから、昨今の感染症の拡大が危惧される医療機関をはじめとし、介護施設や保育施設、食品加工工場、食堂・病院などの厨房などにおいても、実用性の高いシューズと言える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の医療従事者用シューズの一実施態様の概略斜視図である。
【図2】本発明の医療従事者用シューズの他の実施態様の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1,2は、本発明に係る医療従事者用シューズの実施態様例を示す概略斜視図である。
本発明の医療従事者用シューズ10,20は、図1および図2に示すように、甲被1、中敷(非図示)、アウトソール5などで構成され、さらに、甲被1が、履き口4、縫い糸7、靴紐6、砂除3、サイドファスナー2などを有してもよい。図1〜2において共通あるいは同一の部分は同じ符号で示している。
【0012】
本発明の医療従事者用シューズ10,20は、その全ての構成部材が、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められていない合成樹脂または合成繊維からなることが重要である。また、このような合成樹脂と合成繊維からなる部材を組み合わせて使用してもよい。
したがって、以下、各構成部材について順に説明するが、いずれも、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められていない合成樹脂または合成繊維からなることが大前提であり、白色以外の有色染料で染められた素材、及び、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形が起こりやすい素材は一切使用しないものである。なお、変色の度合いとしては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に素材を浸す前と後の色差において、JIS L−0805(汚染用グレースケール)やJIS L−0804(変退色用グレースケール)の規定に順じて測定した評価が2級以上のものが、本願発明の構成部材として好適である。
【0013】
甲被(アッパー)1は、合成皮革、あるいは、ポリエステルからなる織布または編布などを、後述の縫い糸7にて、フィット性の高いデザインに縫製し形成される。
特に、安全性(嘔吐・血液が滲みこまない機能、注射針などが誤ってシューズ上に落下した場合の針刺し防止機能など)を考慮すると、防水性や優れた触感を有するので、甲被全体に合成皮革を用いることが好ましい。
【0014】
この合成皮革としては、合成樹脂からなる表皮層と繊維基材層からなり、必要に応じて中間に発泡層を有する積層体であって、従来から知られている乾式法と湿式法などで製造されるものである。
繊維基材としては、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による変色などが少ない、合成繊維が好ましく、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等の単独あるいはこれらの混紡繊維よりなる編布、織布、不織布などを挙げることができるが、中でも、ポリエステル系繊維が好ましい。この繊維基材は、シューズの内面(すなわち甲被の裏面側)を構成する場合もあり、清潔感を出すため、顔料にて白あるいはその他の色に着色しておいてもよい。
表皮層としては、従来合成皮革として用いられている、ポリウレタン系樹脂や塩化ビニル系樹脂などが使用できる。特に、ポリウレタン系樹脂については、加水分解しにくいと言われているエーテル系ポリオールと、黄変化しにくいと言われている芳香族系ポリイソシアネートとを使用したものを用いることが好ましい。
【0015】
甲被1の厚みは1.0〜2.0mm程度とすることが適している。このような厚みを有することにより、動きやすさ(軽量性)、耐久性、および針刺し防止機能などを同時に満足する医療従事者用シューズが得られる。
【0016】
履き口(衿)4は、脱ぎ履きの容易性を高めたり、足首を優しくサポートするために、一定の柔軟性が必要なので、上記したような甲被1上に、クッション芯材、裏布とを順に積層させた履き口部材を取り付けて構成することが好ましい。
クッション芯材は、各種合成繊維不織布、ポリウレタンフォーム或いはポリオレフィンフォームなどのクッション材を単独、あるいは積層させて使用することができる。
特に、ポリオレフィンフォームは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による変色が生じにくいため好ましく、例えば、ポリエチレン、EVA、これらの混合物およびこれらにゴムを混合したものなどからなるフォームが挙げられるが、柔軟性や耐久性に優れる、EVAからなるフォームがより好適である。
また、ポリウレタンフォームをクッション芯材、又は下記で示すようなクッション材など別の構成部材に用いる場合、ポリウレタンフォームの種類によっては、次亜塩素酸ナトリウム水溶液によって変色するものもあるので、使用を最小限にとどめることが好ましいが、使用する場合は、外部から変色が見えないように、ポリオレフィンフォームなどを積層してカバーできるような対応を行ってもよい。
裏布は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による変色が生じないポリエステル系繊維の織布または編布が好ましい。
【0017】
縫い糸7は、甲被1の縫製や、甲被1と履き口4との縫着、甲被1と中敷との縫着などに用いる。
縫い糸7としては、ポリエステル、ナイロンなどからなる糸が挙げられる。
【0018】
中敷(非図示)は、クッション性や足の固定機能を得るために、表布と、クッション材との2層構造とすることが好ましい。中敷は、甲被1に接着または縫着しても、しなくてもよい。
表布は、ポリエステル系繊維の織布または編布が好ましく、上記履き口4の裏布と同じ素材としてもよい。
クッション材は、上記クッション芯材と同じ素材としてもよく、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による変色が生じにくいポリエチレン、EVA、これらの混合物およびこれらにゴムを混合したフォームなどが挙げられるが、EVAからなるフォームが好適である。
このような中敷の使用が、シューズ全体の軽量化につながり、履用者の足の疲労を軽減できる。
【0019】
アウトソール5は、一般的に用いられる靴底の成形方法で成形されるものであり、例えば、接着・縫着された甲被と中底に溶着して一体に射出成形する方法や、中底とアウトソール5間に接着剤を塗布して接着する方法などがある。
アウトソール5の樹脂としては、防滑性や屈曲性、万が一ガラスやプラスチックの破片を踏んでも安全性が保てる程度の機械的強度なども考慮すると、ゴム、塩化ビニル系樹脂、サーモプラスチックラバー系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂などの熱可塑性樹脂、あるいはこれらにゴムを混合したもの等を使用することができるが、病院などの床材で異音が発生しにくく、耐候性に優れるうえ、次亜塩素酸ナトリウム水溶液で変色しない塩化ビニル系樹脂が好適である。
【0020】
上記アウトソールは、例えば、塩化ビニル系樹脂からなる場合、JIS K−6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方)に準拠した硬さが80度未満、JIS K−6251(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方)に準拠した引っ張り強度が3MPa以上、伸びが300%以上などの特性を有するものが好ましい。このようなアウトソールでは、きわめて快適な履き心地(屈曲性、軽量性など)が実現され得、ガラスやプラスチックの破片を踏んでしまった際のケガの可能性が顕著に低減されるうえ、数〜数百回繰り返される洗浄および殺菌に耐え、甲被の離脱が発生しにくい。
また、アウトソール5には、滑りにくい意匠、異音が発生しにくい意匠を施こしてもよく、動きやすさや疲れにくさ等を考慮し、ヒール差は5〜15mm程度とすればよい。
【0021】
このような甲被1とアウトソール5とを組み合わせることで、数〜数百回の、従来用いられている全自動洗濯機などによる温水かつ重荷重での洗浄や次亜塩素酸ナトリウム水溶液による消毒とを行っても、色落ち、黄ばみはもとより、擦過傷、アウトソールや履き口などの変形、甲被とアウトソールとの脱離などが発生しない医療従事者用シューズが得られる。
本明細書案において、擦過傷とは、肉眼では判断できない小さな傷をさす。
【0022】
本発明の医療従事者用シューズは、さらに、靴紐6や砂除(舌片)3、或いは図示しないが、靴紐以外の甲緊締部材を有してもよい。
靴紐6は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められていない素材であれば、特に限定されないが、ポリエステル系繊維が好ましい。具体的には、メッシュ状のポリエステル織布または編布にて、ポリエステル不織布をくるむ構造を採ると、しっかり締め付けることができ、しかも作業中にほどけにくい。靴紐6の長さや太さは特に限定されない。
【0023】
砂除3は、基本的には、前述した甲被材と同様でよいが、医療従事者の作業に伴う甲への負荷を考慮して、クッション性の高い構成としたものが好ましく、例えば、上記の甲被材の内側に、ポリオレフィンフォーム、裏布とした3層構造のものとすることもできる。前述の甲被材を最外層(シューズの外面)とすることで、この砂除3からも、嘔吐・血液が滲みこむことなく、万が一、注射針などが甲被の被覆されていない靴紐の部分等を貫通してしまった場合でも、針が刺さることを防ぐことができる。
ポリオレフィンフォームとしては、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による変色が生じにくいポリエチレン、EVA、これらの混合物およびこれらにゴムを混合したフォームなどが挙げられるが、EVAからなるフォームが好適である。
裏布は、砂除3において、シューズの内面(足の甲に接触する側)を形成する。この裏布としては、ポリエステル系繊維の織布または編布が好ましく、中敷の表布同様、前述の履き口4の裏布と同じ素材としてもよい。
【0024】
また、靴紐以外の他の甲緊締部材として、例えば、一端部は甲被に固定され、他端部は面ファスナーが設けられ、面ファスナーによって甲への締付け度合いを調整するバンドなどを用いることもできる。
この場合でも、バンドや面ファスナーを構成する素材としては、上記で示したように、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められておらず、繰り返しの洗浄や消毒で損傷しにくい素材であれば、特に限定されない。
【0025】
このような医療従事者用シューズは、作業上、靴の履脱も多く、靴紐等の緊締部材を緩める等の煩雑な手間を省くために、さらに、図2に示す態様例のように、サイドファスナー2を有してもよい。
サイドファスナー2は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められておらず、繰り返しの洗浄や消毒で損傷しない素材であれば、特に限定されないが、ポリエステルが好ましく、例えば、血液や嘔吐が固着し難く、また洗浄の際に付着物も落ちやすいので、スライダーの引手などに凹凸が少ない形状とすることもできる。
【0026】
このように、本発明の医療従事者用シューズでは、その全ての構成部材が、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められていない合成樹脂または合成繊維からなるので、次亜塩素酸ナトリウム水溶液で消毒しても、漂白作用による色落ちや黄ばみなどが発生しないうえ、繰り返しの洗浄・消毒にも耐えることができる。
上記合成樹脂または合成繊維には、非水溶性の顔料はもとより、次亜塩素酸ナトリウム水溶液や温水などで消毒や洗浄してもシューズ側に悪影響を与えないものであれれば、抗菌剤、消臭剤、帯電防止剤、防汚剤、防カビ剤などを必要に応じて添加しておくこともできる。
【0027】
本発明の医療従事者用シューズでは、甲被やサイドファスナー、砂除、履き口、アウトソール、靴紐、縫い糸などの構成部材に、血液や体液による汚染防止として、撥水加工を施すこともできる。
撥水加工としては、フッ素樹脂、シリコーン系樹脂またはワックス系樹脂を、スプレー法または浸漬法などにより、それら構成部材に付着させればよい。
【実施例】
【0028】
〔耐次亜塩素酸ナトリウム水溶液性の評価〕
商品名キッチンハイター(花王株式会社:濃度6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液)を水で希釈し、0.2%と0.5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を調製した。
各濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、表1に示す素材1〜7を、それぞれ1時間浸け置きした後、水にてすすぎ、自然乾燥させた。なお、素材1〜5は、白色の染料や顔料で着色されたものであり、素材6,7は着色剤を使用していないものを使用した。
自然乾燥後の各素材について、変色の有無を目視にて観察し、その結果を表1に示す。
表1中、変色が認められない場合を「○」、変色が認められた場合を「×」で示した。
【0029】
【表1】

【0030】
次に、図2で示す本願発明の医療従事者用シューズAと、病院など衛生管理が必要な場所で使用されている従来のスリッポンタイプのシューズB、スポーツタイプのシューズC、一般用除のシューズ(甲被が布製で紐が付いているタイプ)Dの4種類のシューズを、上記の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、それぞれ1時間浸け置きした後、水にてすすぎ、自然乾燥させた。
【0031】
ちなみに、シューズAを構成する部材のすべては、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、白色以外の有色染料にて染められていない合成樹脂及び合成繊維から選定してなるものであり、甲被には、表1で示す素材1を用いた。
シューズBは、甲被に素材3が用いられているものであった。
シューズCは、甲被に素材2が用いられているものであった。
シューズDは、甲被に素材5が用いられているものであった。
自然乾燥後の各シューズの構成部材について、変色(色物は色落ち、白物は黄ばみ)の有無を目視にて観察した。
【0032】
0.2%次亜塩素酸ナトリウム水溶液、0.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液共に;
シューズAでは、変色は認められなかった。
シューズBは、上記素材3の評価同様、綿織布からなる繊維基材に変色が見られ、それ以外にも、綿織布からなる中底に、変色が見られた。
シューズCは、砂除のクッション材のポリウレタンフォームに変色が見られた。
シューズDは、甲被に変色が見られた。
【0033】
このように、シューズB、C、Dでは、その構成部材の全てが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色を起こさず、白色以外の有色染料にて染められていない合成樹脂または合成繊維から選定してなるものではないため、部分的な変色が見られた。
また、そのような変色が甲被や中底など目立つ部分にあるので、清潔感が損なわれてしまい、医療従事者用シューズとしては劣るものであった。
【0034】
〔耐温水洗濯性の評価〕
上記シューズA〜Dのシューズについて、全自動洗濯機にて温水洗浄(40℃)を行い、自然乾燥させた。
この作業を10回繰り返した各シューズについて、変色(色物は色落ち)、変形(収縮含む)を目視にて観察した。
【0035】
シューズA〜Cは、温水洗浄による変色や変形はなく、耐洗濯性のあるシューズであった。シューズDは、変色は見られなかったが、履き口の変形が見られた。
【0036】
以上のことから、本願発明のシューズAは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の消毒にも耐えることができ、かつ温水洗浄も可能であり、医療従事者用シューズとして、優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の医療従事者用シューズは、構成部材の全てが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められていない合成樹脂または合成繊維からなり、微温湯による丸洗いをしても、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による消毒をしても、色落ち、黄ばみ、変形、擦過傷などが発生しないものである。
したがって、医療従事者はもとより、介護施設や食品加工工場、食堂・病院などの厨房などにおいて働く人たちにとっても、実用性の高いシューズと言える。
【符号の説明】
【0038】
1 甲被
2 サイドファスナー
3 砂除
4 履き口
5 アウトソール
6 靴紐
7 縫い糸
10,20 医療従事者用シューズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成部材が、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められていない合成樹脂または合成繊維からなることを特徴とする医療従事者用シューズ。
【請求項2】
前記構成部材の甲被全体が、合成皮革からなることを特徴とする請求項1記載の医療従事者用シューズ。
【請求項3】
さらに、サイドファスナーを有し、該サイドファスナーが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にて変色および変形を起こさず、かつ白色以外の有色染料にて染められていない素材からなることを特徴とする請求項1または2に記載の医療従事者用シューズ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−92494(P2011−92494A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250212(P2009−250212)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】