説明

医療材料又は衛生材料用のゲル組成物、その成形体及びそれを用いた貼付材もしくは貼付製剤

【課題】相当量の薬物等化学物質や有機液状成分を保持することができ、成形上も制限が少なく、さらに皮膚に貼付した場合に脱落しにくく、皮膚に対しより良好な貼付感があり、皮膚から剥離した際に糊残りが低減され、且つ皮膚への追従性が良好である医療材料又は衛生材料用の組成物を提供する。
【解決手段】架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムと、ゲル調製用組成物の全重量に対し34.6〜64.6重量%の有機液状成分とを含有させてゲル調製用組成物とし、さらに該組成物を架橋反応させてゲル組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療材料又は衛生材料用として適するゲル組成物、及びその成形体、並びにこれらを用いて成る、医療材料及び衛生材料用の貼付材並びに貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療材料又は衛生材料用として、シート材等として成形されたハイドロゲル組成物、アクリル系ゲル組成物などの各種ゲル組成物が用いられている。これらゲル組成物は、粘着性及び柔軟性を有するため、皮膚への接着性及び皮膚変形に対する追従性を有する。
【0003】
しかし、上記のゲル組成物のうち、水分を含むハイドロゲル組成物は乾燥に弱く、経時的に水分が失われて硬化する傾向があり、安定性に乏しい。また、硬化したゲル組成物は、皮膚への密着性及び皮膚変形に対する追従性の点で不十分である。
【0004】
一方、水を含まないゲル組成物として、アクリル系粘着剤を架橋させることにより、有機液状成分を保持させて成るアクリル系ゲル組成物が、特開平3−220120号公報(特許文献1)に開示されている。
【0005】
しかしながら、上記アクリル系ゲル組成物は、ある程度以上の厚みを有するシート材に成形することが困難であるため、薬物をはじめとする化学物質や、有機液状成分などを保持又は吸収する能力は限定され、前記物質等を多量に保持させることは困難であった。さらにまた、上記組成物は、厚みの大きい成形体に成形することがやや困難であることから、これらを皮膚に接着させた場合、外部からの衝撃等に対してそれらを吸収して皮膚を保護する能力の点で改良の余地がある。
【0006】
その他には、合成ゴム系ポリマーを架橋させて成るゲル組成物が挙げられ、特開平10−151185号公報(特許文献2)には、官能基を有するゴムを含むゴム成分100重量部に対し、該ゴム成分と相溶性のある液状油20〜80重量部を含有させ、架橋させて成るゲル組成物が開示されている。
【0007】
しかし上記特許文献2においては、ゲル調製用組成物の全重量に対して34.6重量%以上の液状油を、官能基を有するゴムを含むゴム成分とともに含有させて成るゲル組成物は開示されていない。実際、上記特許文献2に記載された比較例2に係る皮膚貼付用粘着テープにおいては、約34重量%の有機液状油成分を含有するゲル調製用組成物を用いているが、その皮膚接着性については「低い」と、また糊残りについては「目立つ」ないし「激しい」と評価されており、満足な効果を付与するものではない。
【特許文献1】特開平3−220120号公報
【特許文献2】特開平10−151185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、相当量の薬物等化学物質や有機液状成分を保持することができ、成形上も制限が少なく、さらに皮膚に貼付した場合に脱落しにくく、皮膚に対しより良好な貼付感があり、皮膚から剥離した際に糊残りが低減され、且つ皮膚への追従性が良好である医療材料又は衛生材料用の組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムと、ゲル調製用組成物の全重量に対し34.6〜64.6重量%の有機液状成分を含有して成るゲル調製用組成物を架橋反応させて得たゲル組成物において、ある程度の厚みを有する形状に成形することが可能であり、薬物等の化学物質及び有機液状成分を単位面積あたり多量に含有することができ、しかも皮膚への接着性等も改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムと、ゲル調製用組成物の全重量に対し34.6〜64.6重量%の有機液状成分とを含有させてゲル調製用組成物とし、さらに該組成物を架橋反応させて成ることを特徴とする、医療材料用又は衛生材料用のゲル組成物を提供するものである。
【0011】
さらに本発明は、上記ゲル組成物を成形して成ることを特徴とする成形体、及び当該成形体を支持体の少なくとも一方の面に備えて成る貼付材もしくは貼付製剤を提供するものである。
【0012】
つまり本発明は、
(1)架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムと、ゲル調製用組成物の全量に対し34.6〜64.6重量%の有機液状成分を含有して成るゲル調製用組成物を、架橋反応させて成るゲル組成物、
(2)架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムが、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状イソプレンゴムであることを特徴とする、上記(1)のゲル組成物、
(3)架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムが、ゲル調製用組成物の全重量に対し17.4〜32.2重量%含有されていることを特徴とする、上記(1)又は(2)のゲル組成物、
(4)有機液状成分が、油脂類、炭化水素類、脂肪酸エステル類及び高級脂肪酸類より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかのゲル組成物、
(5)脂肪酸エステル類が、脂肪酸モノアルキルエステル類であることを特徴とする、上記(4)のゲル組成物、
(6)脂肪酸モノアルキルエステル類が、ミリスチン酸イソプロピル及びパルミチン酸イソプロピルから選択される1種又は2種であることを特徴とする、上記(5)のゲル組成物、
(7)ゲル調製用組成物に、該組成物の全重量に対し17.3〜32.2重量%の粘着付与剤がさらに含有されていることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかのゲル組成物、
(8)上記(1)〜(7)のいずれかのゲル組成物を成形して成る、成形体、
(9)上記(8)の成形体を、支持体の少なくとも一方の面に形成して成る、貼付材、
(10)上記(8)に記載の成形体に薬物を含有させ、支持体の少なくとも一方の面に形成して成る、貼付製剤、
に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、相当量の薬物等化学物質や有機液状成分を保持することができ、成形上も制限が少なく、さらに皮膚に貼付した場合に脱落しにくく、皮膚に対しより良好な貼付感があり、皮膚から剥離した際に糊残りが低減され、且つ皮膚への追従性が良好である医療材料又は衛生材料用の組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係るゲル組成物は、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムと、ゲル調製用組成物の全重量に対し34.6〜64.6重量%の有機液状成分を含有させてゲル調製用組成物を調製し、次いで該組成物を架橋反応させて成ることを特徴とする。
【0015】
本発明において、上記架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムは、これを含むゲル調製用組成物が架橋された際に網目構造を形成し、ゲル組成物に柔軟性と保形性を付与する。かかる液状ゴムとしては、分子内に架橋反応可能な官能基を有するものであれば特に限定されず、前記官能基を含有する液状イソプレンゴム、前記官能基を含有する液状ブタジエンゴム、前記官能基を含有する液状イソブチレンゴムなどが挙げられ、これらより1種又は2種以上を選択して用いることができる。かかる液状ゴムは、高分子量であっても液状であり、ゲル組成物に多量の有機液状成分を容易に含有させることができる。ゲル組成物に容易に柔軟性を付与できるという点で、前記官能基を含有する液状イソプレンゴムが好ましく用いられる。なお、本明細書において「液状」とは、25℃で流動性を有することを意味する。
【0016】
本発明に用いる架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムの重量平均分子量は、ゴム成分が液状である限り特に限定されないが、好ましくは1,000〜60,000、より好ましくは10,000〜40,000、さらに好ましくは20,000〜30,000である。重量平均分子量が1,000未満であると、ゲル組成物に有機液状成分を多量に含有させることが困難となったり、ゲル組成物の柔軟性が低下する可能性がある。一方、重量平均分子量が60,000を越えると、ゴムが液状でなくなるおそれがあるばかりか、ゲル組成物の均一性が保たれにくくなり、ゲル組成物の他の成分に対する前記液状ゴムの相溶性を確保するのが困難となる恐れがある。
【0017】
ここで、「重量平均分子量」とは、下記の条件によりゲルろ過クロマトグラフィーにより測定される値を意味する。
(分析条件)
ゲルろ過クロマトグラフィー装置:HLC8120(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgelGMH−H(S)(東ソー株式会社製)
標準:ポリスチレン
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.5ml/分
測定温度:40℃
検出手段:示差屈折計
【0018】
本発明に係るゲル組成物を調製するためのゲル調製用組成物において、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムの配合量は特に限定されないが、ゲル調製用組成物の全重量に対し、好ましくは17.4〜32.2重量%、より好ましくは22.4〜32.2重量%である。前記液状ゴムの配合量が17.4重量%を下回ると、十分な接着性が得られない場合がある。一方、前記液状ゴムの配合量が32.2重量%を超えると、糊残りが生じたり、柔軟性が低下する場合がある。
【0019】
上記液状ゴムの分子内における架橋反応可能な官能基の数は特に限定されないが、3個以上の前記官能基を分子内に有することにより、前記液状ゴムが効率的に網目構造を形成し、本発明の効果が十分に発揮される。従ってかかる観点より、前記液状ゴムの分子内における架橋反応可能な官能基の数は、通常3個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは8個以上、さらに好ましくは10個以上である。
【0020】
本発明においては、上記液状ゴムは分子内に3個以上の架橋反応可能な官能基を有することにより、ブランチ剤などを液状ゴムの主鎖に導入する必要もなく、三次元的な網目構造を形成することができるため、ゲル組成物中に多量の有機液状成分を含有させることが可能となる。
【0021】
一方、前記分子内官能基の数が多すぎると、必要な架橋剤の量が多くなることから、分子内の架橋反応可能な官能基の数は20個以下であることが好ましい。さらに好ましくは15個以下、より好ましくは12個以下である。これは、分子内の官能基数が多すぎると、残存活性基が多くなり、薬物などゲル組成物に包含させた成分に影響を及ぼす可能性があり、またゲル組成物の柔軟性が低下し、皮膚変形に対する追従性が悪くなる可能性があるからである。
【0022】
液状ゴム分子内の架橋反応可能な官能基の数は、次のようにして測定される。すなわち、試料中の液状ゴムの架橋反応可能な官能基の総数を求め、これを液状ゴムの数平均分子量で除して、液状ゴム一分子あたりの架橋反応可能な官能基の数を求める。かかる官能基がカルボキシル基である場合には、水酸化カリウムを用いた一般的な酸価測定法により試料中のカルボキシル基数を求める。ここで液状ゴムの数平均分子量は、上述した重量平均分子量と同じ条件で求められる値を意味する。
【0023】
上記液状ゴムにおける架橋反応可能な官能基としては特に限定されないが、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、クロルスルホン基、エステル基、エポキシ基、イソシアネート基、メチロール基、スルホン基、メルカプト基などが挙げられる。これらより選択した1種、又は2種以上が組み合わされて用いられる。なお、後述する架橋剤としてのエポキシ系化合物との架橋形成の観点からすれば、カルボキシル基及びヒドロキシル基が好ましい。
【0024】
本発明に係るゲル組成物は架橋されて成る。架橋処理は、特に限定されないが、たとえば、紫外線照射や電子線照射などの放射線照射による物理的架橋処理、各種架橋剤を用いた化学的架橋処理によって達成される。
【0025】
ゲル組成物中に包含される薬物等の成分に悪影響を与えないためには、ゲル調製用組成物に架橋剤を添加することにより、該組成物を架橋させることが好ましい。そのような架橋剤としては、アミン系化合物、エポキシ系化合物、三官能性イソシアネートなどのイソシアネート系化合物、有機過酸化物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物(多官能性外部架橋剤や、ジアクリレート、ジメタクリレートなどの多官能性内部架橋用モノマー)などが挙げられ、これらより選択した1種、又は2種以上を組み合わせて用いる。前記架橋剤の中では、エポキシ系化合物を用いることが好ましい。これは、液状ゴム分子内のカルボキシル基と反応したエポキシ基がヒドロキシル基を発生し、これが別のカルボキシル基と反応し得るため、網目構造の形成において有利であるからである。
【0026】
上記架橋剤の配合量としては、ゲル組成物として十分な架橋構造が形成される限り特に限定されないが、ゲル調製用組成物中における架橋剤の官能基の総数(A)の、液状ゴム分子内の官能基の総数(B)に対する割合((A/B)×100)[%]が50%以上となる量が好ましく、80%以上となる量がより好ましい。なお、架橋剤の配合量の上限値は特に限定されないが、ゲル組成物中に包含される薬物等の成分に悪影響を与えないためには、前記割合が300%以下となる量が好ましく、さらに200%以下となる量がより好ましい。
【0027】
本発明に係るゲル組成物が架橋されているか否かについては、ゲル組成物の試料をトルエンに常温で6日間浸漬し、不溶分の有無を目視で観察することにより、判定される。不溶分の存在が確認されれば、ゲル組成物は架橋されているといえる。
【0028】
本発明に係るゲル組成物は有機液状成分を含有するが、かかる有機液状成分は、上記液状ゴムの架橋により形成される網目構造と組み合わされてゲル組成物の柔軟性を増強し、ゲル組成物中に薬物などの化学物質が包含される場合には、それらを溶解又は分散させる役割を果たす。本発明において用い得る有機液状成分としては、ゲル組成物中の上記液状ゴムと相溶性を有するものであることを要するが、常温で液状であって、非揮発性のものが好ましい。本発明においては、オリーブ油、ヒマシ油、ラノリン等の油脂類、スクアラン、流動パラフィンのような炭化水素類、脂肪酸アルキルエステルなどの脂肪酸エステル類、オレイン酸、カプリル酸のような高級脂肪酸類等が好ましいものとして挙げられ、これらより1種を選択して用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
特に、後述する貼付製剤のように本発明に係るゲル組成物が薬物を含む場合、薬物の経皮吸収を促進する効果の観点から、脂肪酸エステル類を用いることが好ましい。かかる脂肪酸エステル類としては、フタル酸ジオクチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチルなどの脂肪酸ジアルキルエステル類、脂肪酸モノアルキルエステル類などが挙げられる。良好な薬物の経皮吸収促進効果の観点からは、脂肪酸モノアルキルエステル類が好ましい。
【0030】
脂肪酸モノアルキルエステル類については、これを構成する脂肪酸の炭素数が必要以上に多かったり、又は少なかったりした場合、上記液状ゴムとの相溶性が悪くなったり、製剤調製時の加熱工程で揮散したりするおそれがある。
【0031】
従って本発明においては、炭素数が12〜16、より好ましくは12〜14の飽和又は不飽和高級脂肪酸と、炭素数が1〜4の飽和又は不飽和低級1価アルコールからなる脂肪酸モノアルキルエステル類が好ましくは採用される。なお、保存安定性の観点からは、飽和高級脂肪酸及び飽和低級1価アルコールより成るものが、酸化分解等を生じるおそれがないため、好ましく用いられる。前記高級脂肪酸としては、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)が挙げられ、特にミリスチン酸およびパルミチン酸が好ましい。また前記低級1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールが挙げられ、これらは直鎖アルコールに限定されず分岐アルコールであってもよく、特にイソプロピルアルコールが好ましい。それゆえ、本発明において使用し得る最も好ましい脂肪酸モノアルキルエステルとしては、ミリスチン酸イソプロピル及びパルミチン酸イソプロピルが挙げられる。
【0032】
上述した有機液状成分は、ゲル調製用組成物の全量に対し、34.6〜64.6重量%の範囲で含有させる。有機液状成分の含有量が該組成物の全量に対して34.6重量%未満では、架橋反応後に得られるゲルが硬くなりすぎて皮膚接着性及び皮膚への追従性が低下するおそれがあり、また薬物等他の配合成分のゲル組成物中における拡散移動性や吸収性が低下するおそれがある。一方、有機液状成分の含有量がゲル調製用組成物の全量に対し64.6重量%を超えるとゲルを形成することができず、所定の形状に成形することができないおそれがある。
【0033】
本発明に係るゲル組成物は、上述のように、ゲル調製用組成物における有機液状成分の含有量が、上記液状ゴムの含有量よりも多いため、該組成物が架橋されることで形成された液状ゴムの網目構造中に、有機液状成分が単純に抱き込まれた構造をとっているのかもしれないが、むしろ、あたかも有機液状成分中に液状ゴム成分が抱き込まれるかのような構造をとっているものと推測される。その結果、本発明に係るゲル組成物は、これを所定の形状に成形した成形体として皮膚に装着した場合、皮膚の変形に容易に追従し、密着することができる最適な柔軟性を発揮するものと推測される。
【0034】
本発明においては、ゲル調製用組成物中の上記液状ゴムの含有量に対する有機液状成分の含有量の比(有機液状成分の含有量/液状ゴムの含有量)は、特に限定されないが、1.1〜3.8とするのが好ましく、さらに1.6〜3.8とするのがより好ましい。前記比が1.1未満である場合には、得られるゲル組成物の接着性が強すぎて皮膚刺激性が出現するおそれがあり、逆に3.8を超えると、十分な貼付性が得られないことがある。
【0035】
本発明に係るゲル組成物の調製に際し、ゲル調製用組成物には、さらに通常の粘着付与剤を含有させることができる。かかる粘着付与剤としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂などの天然物及びその誘導体、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、たとえば脂環族系飽和炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂などの合成樹脂等が挙げられる。これら粘着付与剤は、ゲル調製用組成物の全量に対して、17.3〜32.2重量%の範囲で含有させることが好ましい。また、ゲル調製用組成物中の上記液状ゴムの含有量に対する前記粘着付与剤の含有量の比(粘着付与剤の含有量/液状ゴムの含有量)は、特に限定されないが、0.7〜2.0とするのが好ましい。前記比が0.7未満である場合は得られるゲルが硬くなり、皮膚への接着性及び皮膚への追従性が悪くなる場合があり、逆に2.0を超えると、皮膚への糊残りを生じる場合がある。
【0036】
本発明に係るゲル組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、任意の他の成分、たとえば、アスコルビン酸などの酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、着色剤、軟化剤などを含有させることができる。
【0037】
なお、本発明に係るゲル組成物は、上記液状ゴムと有機液状成分とを必要により溶媒存在下で混合し、そこに架橋剤を添加してゲル調製用組成物として所定形状の型に流し込み、次いで適当な温度下にて溶媒を揮散させて、液状ゴムの架橋を形成させ、必要により熟成させること等により製造することができる。
【0038】
また、本発明に係るゲル組成物は、所定の形状を有する成形体に成形することが可能である。かかる成形体の形状としては、シート状体、板状体、ブロック状体などが挙げられるが、医療用材料または衛生材料の用途に適するという観点から、シート状体、すなわちシート材とするのが好ましい。
【0039】
上記成形体は、一定の厚み、例えば0.5mm以上、1mm以上、2mm以上又は3mm以上で10mm以下の厚みを有するシート材に成形することが可能であり、このようなシート材は従来の貼付剤における粘着剤層よりも厚みがあって、多量の有機液状成分や、薬物などの化学物質を含有させることが可能である点で有利である。また所望により、別途粘着剤を添加して、成形体自体の粘着性を補強することも可能である。さらに所望により、使用時まで成形体の表面を保護するため、該表面上に公知の剥離ライナーを積層してもよい。
【0040】
本発明に係る成形体は、具体的には、マトリクス型の貼付製剤におけるマトリクス、リザーバー型の貼付製剤におけるパッド状のリザーバーなどに用い得る。また衛生材料用として、所定の形状、たとえばシート状の成形体(シート材)を、絆創膏におけるガーゼの代替品、ゲルパッチの基材、創傷被覆ドレッシングにおける不織布代替品などに用いることができる。
【0041】
さらに本発明においては、医療用材料又は衛生用材料として、たとえば、本発明に係る成形体を支持体の少なくとも一方の面に形成し、貼付材とすることができる。かかる貼付材は、皮膚の病変部位や創傷部位を保護するなどの用途に用いられる。本発明において用いる支持体としては、特に限定されないが、成形体中に含まれる成分を実質的に透過し難いもの、すなわち成形体中に含まれる成分が支持体中を透過し、支持体背面から消失するおそれの少ないものが好ましい。
【0042】
また、上記貼付材において、支持体上に形成された成形体に薬物を含有させて貼付製剤とすることもできる。ここで用い得る薬物としては、ヒトなどの哺乳動物に経皮投与し得る薬物が好ましい。かかる薬物として、具体的には、全身性麻酔薬、催眠・鎮静薬、抗癲癇薬、解熱鎮痛消炎薬、鎮暈薬、精神神経用薬、局所麻酔薬、骨格筋弛緩薬、自律神経用薬、鎮痙薬、抗パーキンソン薬、抗ヒスタミン薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、動脈硬化用薬、循環器用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、ホルモン薬、化膿性疾患用外用薬、鎮痛・鎮痒・収斂・消炎用薬、寄生性皮膚疾患用薬、止血用薬、痛風治療用薬、糖尿病用薬、抗悪性腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、麻薬、禁煙補助薬などが挙げられる。ゲル組成物中における前記薬物の含有量としては、当該薬物が経皮吸収された場合に薬効を発揮し得る有効量であって、本発明に係るゲル組成物の物性を損なわない範囲内であれば特に限定されないが、好ましくは、0.1重量%〜60重量%である。
【実施例】
【0043】
さらに本発明について、実施例により詳細に説明する。
【0044】
表1に示す組成のゲル調製用組成物を用いて、実施例1〜実施例3のゲル組成物の成形体と、比較例1及び比較例2のゲル組成物の成形体を調製した。なお表1には、分子内に架橋反応可能な官能基を有する液状ゴムの含有量に対する有機液状成分の含有量の比(有機液状成分/液状ゴム)、有機液状成分の含有量に対する粘着付与剤の含有量の比(粘着付与剤/有機液状成分)、及び前記液状ゴムの含有量に対する粘着付与剤の含有量の比(粘着付与剤/液状ゴム)をともに示した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1において、「液状ゴム」は分子内に架橋反応可能な官能基を有する液状ゴムを示し、10個の官能基を分子内に有する10官能性カルボキシル化液状ポリイソプレン(重量平均分子量25,000)を用いた。「有機液状成分」としてはミリスチン酸イソプロピルを用い、「架橋剤」としては4官能性エポキシ基含有化合物(数平均分子量366)を用い、ゲル調製用組成物中における架橋剤の官能基の総数(A)の、液状ゴム分子内の官能基の総数(B)に対する割合((A/B)×100)[%]が100%となるように配合した。また、「粘着付与剤」としては、脂環族系飽和炭化水素樹脂(軟化点100℃)を用いた。前記各成分を混合、撹拌して容器に流し込み、120℃で3時間加熱して架橋反応させた後、80℃で72時間熟成させて、各実施例及び各比較例のゲル組成物の成形体を得た。なお、実施例及び比較例の目視検査において、それぞれの粘着剤層は、25℃雰囲気下で試験片を90°傾けても形状は崩れず、すべてにおいてゲルが形成されていると判断された。
【0047】
実施例及び比較例の各ゲル組成物の成形体について、接着性、糊残り及び柔軟性を評価した。各評価項目について、評価方法及び評価基準を以下に示す。
【0048】
(1)接着性
評価方法:実施例及び比較例の各試料を23℃、相対湿度65%の恒温室内に1時間以上静置して安定化させた。試料を金型により、直径50mm×厚さ10mmの円柱状に成型し、試験片とした。この恒温室内で、水平な台の上に試験片を置き、上部からプローブをその上面に押し付けた。直径12mmの円形で、底面の形状が平滑な重さ10gのプローブを使用した。押し付けたプローブを10秒間静止させた後、上方へプローブを引き剥がし、最大応力をAutograph AG−IS(島津製作所製)で測定した。
【0049】
評価基準:最大応力が100未満であれば×(皮膚への貼付自体が困難),100以上300未満であれば△(皮膚に貼付できるが、脱落しやすい)、300以上450未満であれば○(皮膚に貼付できて脱落しにくく、皮膚に貼付していることを感じにくい)、450以上800未満であれば◎(皮膚に貼付できて脱落しにくく、皮膚においてはっきりとした貼付感がある)、800以上であれば○(皮膚に貼付できて脱落しにくいが、接着感が強く、やや皮膚刺激がある)とした。
【0050】
(2)糊残り
評価方法:実施例及び比較例の各試料を金型により、直径50mm×厚さ10mmの円柱状に成型し、試験片とした。試験片の底面部を皮膚面に30分間貼付し、剥離した後の皮膚の状態を下記評価基準に従って評価した。
【0051】
評価基準:皮膚から剥離した際に糊残りがない場合を○、糊残りのある場合を×とした。
【0052】
(3)柔軟性
評価方法:実施例及び比較例の各試料を金型により、直径50mm×厚さ10mmの円柱状に成型し、試験片とした。試験片の底面部を皮膚の屈曲する部分又は動きのある部分に貼付して、皮膚への追従性を下記評価基準に従って評価した。
【0053】
評価基準:皮膚への追従性が非常に良好である場合を◎、皮膚への追従性が良好である場合を○、貼付部位に衝撃を与えることにより、皮膚への追従性が認められずに皮膚から脱落する場合を×とした。
【0054】
上記についての評価結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2より明らかなように、分子内に架橋反応可能な官能基を有する液状ゴムを、ゲル調製用組成物の全量に対して29.7重量%及び24.8重量%含有するゲル調製用組成物から得た実施例1及び実施例2では、接着性、糊残り及び柔軟性のそれぞれについて良好な評価を得ていた。また、有機液状成分をやや多く含有する実施例3では、接着性についての評価はやや低下したものの、皮膚から脱落しないためには十分な接着性を有していた。有機液状成分含有量の多い実施例2及び実施例3においては、実施例1に比べてソフトな貼付感を示していた。
【0057】
これに対して、ゲル調製用組成物における、分子内に架橋反応可能な官能基を有する液状ゴムと粘着付与剤との含有量の比が実施例1と同じ1:1であるが、有機液状成分がゲル調製用組成物全量に対して69.7重量%含まれるゲル調製用組成物から得た比較例1では、接着性が不十分で、皮膚から脱落しやすいものであった。ゲル調製用組成物における有機液状成分の含有量が29.5重量%と、本発明における該成分の含有量の範囲を下回るゲル調製用組成物から得た比較例2では、接着性が強すぎて皮膚刺激が認められていた。
【0058】
以上の結果から、本発明の実施例に係るゲル組成物の成形体は、比較例のゲル組成物の成形体と比べて、適度な接着性及び柔軟性をバランスよく有しており、皮膚から剥離する際の糊残りも少ない、貼付材として適するものであることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムと、ゲル調製用組成物の全重量に対し34.6〜64.6重量%の有機液状成分とを含有して成るゲル調製用組成物を、架橋反応させて成るゲル組成物。
【請求項2】
架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムが、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状イソプレンゴムであることを特徴とする、請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項3】
架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴムが、ゲル調製用組成物の全重量に対し17.4〜32.2重量%含有されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のゲル組成物。
【請求項4】
有機液状成分が、油脂類,炭化水素類,脂肪酸エステル類及び高級脂肪酸類より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項5】
脂肪酸エステル類が、脂肪酸モノアルキルエステル類であることを特徴とする、請求項4に記載のゲル組成物。
【請求項6】
脂肪酸モノアルキルエステル類が、ミリスチン酸イソプロピル及びパルミチン酸イソプロピルから選択される1種又は2種であることを特徴とする、請求項5に記載のゲル組成物。
【請求項7】
ゲル調製用組成物に、該組成物の全重量に対し17.3〜32.2重量%の粘着付与剤がさらに含有されていることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載のゲル組成物を成形して成る、成形体。
【請求項9】
請求項8に記載の成形体を、支持体の少なくとも一方の面に形成して成る、貼付材。
【請求項10】
請求項8に記載の成形体に薬物を含有させ、支持体の少なくとも一方の面に形成して成る、貼付製剤。

【公開番号】特開2009−286707(P2009−286707A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138733(P2008−138733)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】