説明

医療用カバードステント及びその製造方法

【課題】ステントは血管内等に挿入する医療用具であるため、ポリマーのコーティング等に用いられる溶媒の残留量に関しては厳格な値が設定されている。
また、ポリマー中に残存した有機溶媒を除去するためには、ステントをポリマーのガラス転移温度に加熱する必要があるが、ポリマー層に存在する薬剤の分布が加熱時間により変化してしまい、薬剤溶出挙動の精密な制御が困難であったり、溶出挙動の再現性の点で問題があった。
【解決手段】生体内留置用ステントであって、熱可塑性ポリマー融液を静電噴霧する事で形成される微細繊維で外周側表面が被覆され医療用カバードステント。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、残留溶媒を含まないポリマーからなる微細繊維で表面が覆われた医療用カバードステント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントとは、血管、気管、胆管などの生体内の管腔が狭窄や閉塞した場合、当該狭窄部を拡張し必要な管腔領域を確保するため当該部位に留置する環状の医療用具である。ステントは、管径が小さくなるよう収縮させて体内に挿入し、狭窄部等で拡張させて管径を大きくし、当該管腔を拡張・保持するのに使用される。例えば、近年、狭窄した血管の再建を目的として、経皮的冠動脈血管形成術(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)(以下、PTCAと称する)により、PTCAバルーンカテーテルによる拡張、及び金属製ステントの留置による治療が行われている。当該ステントは、カテーテルに装着したバルーンに造影剤を送って膨張・拡張して形成された血管内に留置することにより、再狭窄を防止・抑制させることを企図しているものである。
さらにステントの留置に伴う平滑筋細胞の移動および増殖による新生血管内膜過形成、および動脈壁の障害による血栓症の発症抑制のため、金属製ステントの表面を治療用薬剤を保持したポリマー被膜で覆うことにより、これらの副作用を阻止または抑制する試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ステントの外表面をカバーするための方法としては、特許文献1、特許文献2に開示されるような電界紡糸法(静電噴霧法:electrospinning)が有用であり、有機溶媒に溶解したポリマー等を静電紡糸することで、数十nm〜数十μmという広い範囲で被覆層の厚さを調整しながら、微細繊維層をステント外表面に設けることが可能である。
【特許文献1】特表2004−532665号公報
【特許文献2】特開2009−11469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ステントは血管内等に挿入する医療用具であるため、ポリマーのコーティング等に用いられる溶媒の残留量に関しては厳格な値が設定されている。
通常は乾燥工程によって溶媒を取り除くことになるが、一般に長時間にわたる乾燥時間が必要であり、被覆層作製にかかる時間やエネルギーコストの面において問題である。また、ポリマー中に残存した有機溶媒を除去するためには、ステントをポリマーのガラス転移温度に加熱する必要があるが、ポリマー層に存在する薬剤の分布が加熱時間により変化してしまい、薬剤溶出挙動の精密な制御が困難であったり、溶出挙動の再現性の点で問題があった。ところが、特許文献1及び2には、静電紡糸時の有機溶媒使用抑制ための工夫は開示されていない。
【0005】
本発明は、残存有機溶媒が存在しないポリマーからなる微細繊維で表面を覆われた医療用カバードステント及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱可塑性ポリマー固体もしくは熱可塑性ポリマーの融液にレーザービームを照射して加熱することによりこれらを充分に低粘度化し、ついでこの融液に高電圧を印加する事で極細繊維を形成、この極細繊維をステント表面に積層させる事で溶媒を含まないカバードステントを作製可能であることを見出し、更に検討した結果本発明に到達したのである。すなわち
【0007】
(1)本発明は、生体内留置用ステントであって、熱可塑性ポリマー融液を静電噴霧する事で形成される微細繊維で、その外周側表面が被覆されてなることを特徴とする医療用カバードステントである。
【0008】
(2)本発明は、前記微細繊維が溶媒を含まないことを特徴とする(1)の医療用カバードステントである。
【0009】
(3)本発明は、前記微細繊維が薬剤を含むことを特徴とする(1)又は(2)の医療用カバードステントである。
【0010】
(4)本発明は、前記熱可塑性ポリマーがポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレイト吉草酸、ポリメチレンカーボネート、およびポリオルソエステルからなる群から選択される少なくとも1つ、もしくは、これらの共重合体、混合物、または複合物である(1)及至(3)のいずれかの医療用カバードステントである。
【0011】
(5)本発明は、生体内留置用ステントの外周側表面に熱可塑性ポリマーの微細繊維から成る被覆層を有する医療用カバードステントの製造方法であって,熱可塑性ポリマー固体もしくは熱可塑性ポリマーの融液にレーザービームを照射して加熱することによりこれらを充分に低粘度化し、ついでこの融液に高電圧を印加して微細繊維を形成し、この極細繊維をステント表面に積層させる医療用カバードステントの製造方法である。
【0012】
(6)本発明は、前記熱可塑性ポリマーから微細繊維を製造する際、熱可塑性ポリマーに溶媒を含ませないことを特徴とする医療用カバードステントの製造方法である。
【0013】
(7)本発明は、前記微細繊維の製造に際して、原料ポリマーの固体もしくは融液にあらかじめ薬剤を溶融混錬しておくことを特徴とする(5)又は(6)の医療用カバードステントの製造方法である。
【0014】
(8)本発明は、前記熱可塑性ポリマーがポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレイト吉草酸、ポリメチレンカーボネートおよびポリオルソエステルからなる群から選択される少なくとも1つ、もしくは、これらの共重合体、混合物、または複合物である(5)及至(7)の医療用カバードステントの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の医療用カバードステントは、熱可塑性ポリマーにあらかじめ薬剤を溶融混錬させておくことで、溶媒除去のための乾燥工程による繊維内での薬物分布の変化のおそれなく薬物溶出ステントを作製できる。
また溶媒を使用しないため、溶媒回収コストが不要なだけではなく、資源の節約、溶媒の飛散がない等の環境維持の面からも好ましい。
さらに、本発明の微細繊維製造方法によれば、連続的に微細繊維を製造でき、さらにはその微細繊維で連続的に不織布を製造できる。そのため、高い生産性の製造方法であり、安価にカバードステントを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の医療用カバードステント及びその製造方法の一実施例を図面にて説明する。図1は本発明の医療用カバードステントの断面図であり、ステント8の外周側表面に熱可塑性ポリマーの微細繊維からなる被覆層13が形成されている。ステント8は、略管状体に形成され、かつ、管状体の内部より半径方向に伸縮可能な公知の形状が採用される。ステント形状の一例は、例えば特許第3654627号や特許第3663192号などに記載されている。
【0017】
ステントの素材である金属としては、高弾性であるものが好ましく、例えば、ステンレス鋼、タンタル、ニッケル−チタン合金(ニチノールを含む)コバルト合金(コバルト−クロム−ニッケル合金を含む)、およびマグネシウム合金等が挙げられる。
【0018】
微細繊維を形成する熱可塑性ポリマーは、目的に応じて選択される。ステントを生体内に留置した際にポリマー微細繊維層が経時的に分解・消失することを期待する場合は、生分解性ポリマーを用いることも可能であるが、生体内でポリマーが安定で、ポリマー微細繊維層の分解・劣化が生じないことが要求される用途では、生体安定性が高くかつ生体適合性を有するポリマー(以下、「生体安定性ポリマー」という)を選択することが望ましい。かかるポリマーとしては、例えば、フルオロシリコーン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン、(メタ)アクリレート系重合体、ポリ(エチレン−ビニルアルコール)共重合体、2−メタクリロイルオキシデシルホスホリルコリンの単独又は共重合体、(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)−スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0019】
本発明では必要に応じてポリマー微細繊維層に薬剤溶出性を付与することができる。薬剤溶出性を付与する場合は、生分解性又は親水性ポリマーの微細繊維層を形成し、該微細繊維層中に薬剤を内蔵させる。生分解性ポリマーの具体例としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレイト吉草酸、ポリメチレンカーボネート、およびポリオルソエステルからなる群から選択される少なくとも1つ、もしくは、これらの共重合体、混合物、または複合物などが挙げられる。一方、親水性ポリマーの具体例としては、ポリエチレンオキシド、スルホン化ポリエチレンオキシド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどである。
【0020】
また、溶出させる薬剤としては、内膜肥厚を抑制する薬剤、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症剤、抗炎症剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイドおよびカロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬などが使用される。そして、上記の薬剤等の2種以上の混合物を使用してもよい。
【0021】
抗癌剤としては、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキサート等が好ましい。免疫抑制剤としては、例えば、シロリムス、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス、ミゾリビン等が好ましい。抗生物質としては、例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラマー等が好ましい。抗リウマチ剤としては、例えば、メトトレキサート、チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリット等が好ましい。抗血栓薬としては、例えば、ヘパリン、アスピリン、アルガトロバン等の抗トロンビン製剤、チクロピジン、ヒルジン等が好ましい。
【0022】
還元酵素阻害剤としては、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、ニスバスタチン、イタバスタチン、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン等が好ましい。ACE阻害剤としては、例えば、キナプリル、ペリンドプリルエルブミン、トランドラプリル、シラザプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノプリル、カプトプリル等が好ましい。カルシウム拮抗剤としては、例えば、ニフェジピン、ニルバジピン、ジルチアゼム、ベニジピン、ニソルジピン等が好ましい。抗高脂血症剤としては、例えば、プロブコールが好ましい。
【0023】
抗アレルギー剤としては、例えば、トラニラストが好ましい。レチノイドとしては、例えば、オールトランスレチノイン酸フラボノイドおよびカロチノイドとしては、例えば、カテキン類、特にエピガロカテキンガレート、アントシアニン、プロアントシアニジン、リコピン、β−カロチン等が好ましい。チロシンキナーゼ阻害剤としては、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン等が好ましい。抗炎症剤としては、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドが好ましい。これらの中でも、特に抗トロンビン製剤のアルガトロバンが好ましい。
【0024】
上記の薬剤を熱可塑性ポリマーに含有させる方法は混練機を用いた溶融混練法が望ましいが、溶媒を除去できるのであれば、薬剤とポリマーを溶液状態で混合し、溶媒を除去する溶液混合法を用いても構わない。熱可塑性ポリマーと薬剤の溶融混練は、その薬剤の融点以上で行うことが好ましい。この理由は、薬剤の融点以上で混練を行うことで、熱可塑性ポリマー中に薬剤を均一に混練できるからであり、薬剤の融点以下で混練を行うと、薬剤が塊状に分散した形になり、安定徐放が困難になるためである。
【0025】
生体内留置用ステントの外周側表面に熱可塑性ポリマーの微細繊維から成る被覆層を形成する方法は、特開2007−262644に記載の方法を改良して行うことが望ましい。例えば、熱可塑性ポリマーにレーザービームを照射して低粘度化し、この熱可塑性ポリマーとターゲットに固定化されたステントの間に高電圧を印加し、該高電圧の電場の引力により該熱可塑性ポリマーを該ステントに曳いて細化することで熱可塑性ポリマーの微細繊維から成る被覆層を形成することができる。
【0026】
次に、本発明の医療用カバードステントを作製する方法を図面にて説明する。
図2は本発明の医療用カバードステントを作成する装置の一例を示す概略図であり、原料として繊維状の熱可塑性ポリマーを使用する例である。図2に示すとおり、原料繊維1が、レーザービーム10を照射されて溶融し、高電圧の電場引力で曳かれ、微細繊維9となってターゲットであるステント8に到達して捕捉される。
【0027】
図3は図2の装置のステント8装着部を示す概略図であり、ステント8は支柱12に固定され、モーター(図せず)によって回転させることで、ステント8の外周面に繊維状の熱可塑性ポリマーを均一に被覆する。
【0028】
リール7に巻かれた原料繊維1は、偏向ローラ2により進行方向を決められ、夫々モータ(図示せず)に駆動されるニップロール5aと5bおよびニップロール3aと3bに銜えられて引かれ、オリフィス(ニードル)4を通ってから出る。原料繊維1の直径は、通常目的とする微細繊維9の直径0.01〜5μmの10〜1000倍程度の太さである10〜1000μmである。
【0029】
オリフィス4の出口では、赤外線源である炭酸ガスレーザー6が目標を定めて原料繊維1にレーザービーム10を照射する。レーザービーム10の照射時間は0.1ミリ秒以上1秒以下であり、この照射により原料ポリマーの温度を原料ポリマーの融点もしくはガラス転移温度のどちらか高い方の温度よりも充分高い温度まで加熱する。これにより原料繊維1は軟化溶融する。一方、オリフィス4とステント8との間には、電源11から直流高電圧が印加されている。溶融している原料繊維1は、その電場引力に曳かれて細化し、目的とする直径の微細繊維9となり、そしてステント8の上に捕捉された繊維集合体となる。
【0030】
レーザーの照射による温度上昇は、通常、該熱可塑性ポリマーの結晶融解温度もしくは軟化温度よりも50〜500K高い温度までとすることが好ましく、該熱可塑性ポリマーの軟化溶融温度よりも100〜300K高い温度がより好ましい。この程度の温度にすることにより、熱可塑性ポリマーの十分な低粘度化が得られ、電場の引力により引き伸ばし細化できる。これより低い温度では、該熱可塑性ポリマーを電場によって引き伸ばすことができるほどには充分に低粘度化することができず、この方法によって微細繊維をえることができない。またこの温度よりも高い場合には、繊維が電場によって引き伸ばされて冷却固化する以前に熱分解が進んでしまうため、良好な微細繊維が製造できない。
【0031】
従って、良好な微細繊維を作成するためには、適度の温度まで昇温することが必要になる。このためには、レーザー照射後に該熱可塑性ポリマーが到達する最高温度を実測して制御するのが好ましいが、実際には瞬間的に昇温して電場により引き伸ばされ、冷却・固化するため、直接高精度に測定・制御することは一般に難しい。ただし、電場を加えない状態でなら最高温度を実測できることも多いため、この場合は実測することが好ましい。一方で、試料の分解が進む場合や試料のサイズが小さい場合には、直接測定では温度精度が確保できない。この場合には、計算によって求めた温度精度の方が高いので、こちらを採用する方が合理的である。
【0032】
レーザー照射後に該熱可塑性ポリマーが到達する最高温度は、レーザー照射前の該熱可塑性ポリマーの温度、レーザー光源の出力、レーザービームの照射効率、照射時間、およびレーザービームが照射される該熱可塑性ポリマーの体積、および該熱可塑性ポリマーの密度と比熱より、特開2007−262644に記載の次式によって推定できる。
最高温度=照射前温度+レーザー出力×照射効率×照射時間/(比熱×密度×体積)
【0033】
ここで照射効率とは、レーザー光の照射エネルギーのうち繊維原料となる該熱可塑性ポリマーに吸収されるエネルギーの割合を表す0から1の範囲の数値であり、照射される熱可塑性ポリマーの形態やレーザービームの形状、および照射のための光学系等によって決まる。サイズや性質が既知の試料に弱めのレーザービームを照射し、最高温度を実測することにより照射効率を算出し、製造時の温度推定に用いる。
【0034】
微細繊維作製のための電圧は、1〜40kVであり、かつ該高電圧の平均電場が0.05〜1.0V/mであることが好ましい。電場がこれ以上の場合には電極間でスパークが生じ易くなるため電場が安定しない。一方電場がこれ以下の場合には、充分低粘度化した該熱可塑性ポリマーを電場によって効率的に引き伸ばすことができない。
本方法で作製される熱可塑性ポリマーからなる微細繊維の直径は、10nm以上5μm以下であることが好ましい。
【0035】
以下、実施例により本発明を説明する。ここで試料の最高温度は、レーザー照射前の試料温度、レーザー光源の出力およびレーザービーム内の出力分布、試料の断面積および走行速度、照射時間、および試料高分子の密度と比熱より算出した推定値である。推定には、レーザー照射による繊維温度上昇が、レーザー出力と照射時間に比例し、繊維の走行速度には反比例することを利用した。
具体的には、まず実施例の実験条件からレーザー出力と照射時間、もしくは繊維の走行速度を変えることによって繊維が溶融しないようにする。そしてこの状態で赤外温度計によって繊維の最高温度を実測する。得られた温度と、実験条件、すなわちレーザー出力、照射時間、および繊維走行速度の比より、実施例における最高温度を推定した。
【実施例1】
【0036】
直径150μmの繊維状ポリ乳酸(L体:97%、D体:3%、重量平均分子量 27万、融点179℃)を一定速度で送り出しながら、レーザー光照射により加熱し、印加電圧によって引き伸ばしてステントの外周側表面にポリ乳酸の微細繊維から成る被覆層を作製した。照射したレーザービームは、扁平筒状であり、繊維の走行方向に対し、平行方向の幅が0.9mm、垂直方向の幅が7.3mmである。また、その他の条件は、走行速度6.67×10−4m/sec、オリフィス−ステント間距離90mm、印加電圧20kV、電場222.2kV/m、レーザー出力4W、試料の最高温度220℃であり、ステントの外周側表面には、直径約2μmのポリ乳酸微細繊維層が均一に作製されていた。
【実施例2】
【0037】
実施例1と同じポリ乳酸に抗トロンビン剤であるアルガトロバンを1wt%となるように混合し、小型混練機を用いて表1に示す条件で溶融混練紡糸を行い、直径約210μmのアルガトロバン含有繊維状ポリ乳酸を得た。
【表1】

このアルガトロバン含有繊維状ポリ乳酸を一定速度で送り出しながら、実施例1と同一条件で、レーザー光照射により加熱し、印加電圧によって引き伸ばしてステントの外周側表面にポリ乳酸の微細繊維からなる被覆層を形成した。アルガトロバン含有ポリ乳酸微細繊維の直径は約1.5μmであり、ステント外周囲に均一に被覆されていた。
【0038】
(比較例1)
次に、比較例として、上記と同じPLA樹脂をジクロロメタンに溶解することで10wt%の溶液を作製し、この溶液を用いた静電噴霧法により微細繊維層をステント上に作製した。静電噴霧は、PLA溶液をステンレス製ノズルに投入し、ノズルの下端部からステントまでの距離を10cmとし、20kVの直流電圧を印加することで行い、ステント外周にポリ乳酸の微細繊維から成る被覆層が作製された。その後、ポリ乳酸中の残存溶媒量を測定したところ、約1%のジクロロメタンが残存していた。
【0039】
以上のように、本発明の有機溶媒が存在しない微細繊維で均一に被された医療用カバードステントは、残存溶媒による影響がなく、極めて安全なステントである。また、血栓症の発症抑制の治療用薬剤を微細繊維に含ませると薬剤溶出制御が容易で、溶出挙動の再現性に優れた医療用カバードステントが提供できる。
さらに、本発明の微細繊維製造方法によれば、連続的に微細繊維を製造できるため、生産が高く、安価な医療用カバードステントを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】医療用カバードステントの断面図
【図2】極細繊維製造装置の概略図
【図3】ステント装着部を示す概略図
【符号の説明】
【0041】
1:原料繊維
2:偏向ローラ
3a、3b:ニップロール
4:オリフィス
5a、5b:ニップロール
6:炭酸ガスレーザー
7:リール
8:ステント
9:極細繊維
10:レーザービーム
11:電源
12:支柱
13:被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内留置用ステントであって、熱可塑性ポリマー融液を静電噴霧する事で形成される微細繊維で、その外周側表面が被覆されてなることを特徴とする医療用カバードステント。
【請求項2】
前記微細繊維が溶媒を含まないことを特徴とする請求項1に記載の医療用カバードステント。
【請求項3】
前記微細繊維が薬剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用カバードステント。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリマーがポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレイト吉草酸、ポリメチレンカーボネート、およびポリオルソエステルからなる群から選択される少なくとも1つ、もしくは、これらの共重合体、混合物、または複合物である請求項1及至3のいずれか1項に記載の医療用カバードステント
【請求項5】
生体内留置用ステントの外周側表面に熱可塑性ポリマーの微細繊維から成る被覆層を有する医療用カバードステントの製造方法であって,熱可塑性ポリマー固体もしくは熱可塑性ポリマーの融液にレーザービームを照射して加熱することによりこれらを充分に低粘度化し、ついでこの融液に高電圧を印加して微細繊維を形成し、この極細繊維をステント表面に積層させる医療用カバードステントの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリマーから微細繊維を製造する際、熱可塑性ポリマーに溶媒を含ませないことを特徴とする請求項5に記載の医療用カバードステントの製造方法。
【請求項7】
前記微細繊維の製造に際して、原料ポリマーの固体もしくは融液にあらかじめ薬剤を溶融混錬しておくことを特徴とする請求項5又は6に記載の医療用カバードステントの製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリマーがポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレイト吉草酸、ポリメチレンカーボネートおよびポリオルソエステルからなる群から選択される少なくとも1つ、もしくは、これらの共重合体、混合物、または複合物である請求項5及至7に記載の医療用カバードステントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235071(P2011−235071A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122069(P2010−122069)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(504184721)株式会社日本ステントテクノロジー (28)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】