説明

医療用ガイドワイヤと、その製造方法、及び医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテル又はバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体

【課題】金属素線を用いた芯線から成る医療用ガイドワイヤは、手元側から先端側への回転伝達性と、芯線先端部の狭窄病変内における曲がり癖の付き難さが要求され、これを解消する為、芯線の引張破断強度特性と直線性等を向上させた医療用ガイドワイヤに関する技術を開示するものである。
【解決手段】芯線の金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、総減面率が90%から99.5%の強加工の伸線加工を行い、強加工伸線の前記金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する温度域にて低温加熱処理を行い、又低温加熱処理下で捻回加工等を行うことにより、高強度の引張破断強度と高度の直線性・回転伝達性を備え、耐繰り返し曲げ疲労特性を向上させた芯線を用いて成る医療用ガイドワイヤを提供することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステンレス鋼線から成る芯線の金属素線に強加工の伸線加工を行い、又は伸線加工後に一定の温度範囲の低温加熱処理を加えることにより芯線の金属素線の機械的強度特性と直線性等を向上させた医療用ガイドワイヤとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内へ挿入する医療用ガイドワイヤは細線、極細線である為、機械的強度特性を考慮して人体への安全確保を満たさなければならず、この為種々の提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、高珪素ステンレス鋼(Si:3.0%から5%)を用いて所定の加工度と低温熱処理条件等が記載され、芯材のトルク伝達性向上を目的としている。
しかし、この文献は高珪素ステンレス鋼を用いることに対して、本発明は高珪素ステンレス鋼を用いなくても従来のオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304等)を用いて、芯線の引張破断強度を向上させ、かつ直線性等を向上させた医療用ガイドワイヤを得ることを目的とし、本発明とは技術思想が相違する。
【0004】
特許文献2には、2800MPa以上の高強度を備えた芯材から成る医療用ガイドワイヤが示され、前記特許文献1と同様に芯材のトルク伝達性の向上を目的としている。
しかし、この芯材は前記同様、高珪素ステンレス鋼から成り、本発明を用いた鋼材(ステンレス鋼SUS304、SUS316等)とは異なり、かつ本発明の芯線の金属素線の引張破断強度を向上させ、かつ直線性等を向上させる技術思想とは相違する。
【0005】
特許文献3には、金属素線に引張荷重を付与しながら一次捻回加工と二次捻回加工に差を設け、前記捻回加工と同時に電気抵抗加熱により回転操作性の向上を目的としている。 しかしこの製造方法は、金属細線の表面上に滑り線(リューダース線)が発生する近傍までの過捻回加工を意味し、これに対して本発明は、過捻回加工を意味するのではない。 又、引張荷重と捻回数との相関関係における直線性等に関しては何ら解明されていなく、さらに又、金属細線の伸線の総減面率と低温加熱処理による引張破断強度との相関性については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−342696号公報
【特許文献2】特開2004−194768号公報
【特許文献3】特許第4141336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の医療用ガイドワイヤにおいて、芯線の金属素線にステンレス鋼線を用いて強加工の伸線加工と低温加熱処理を繰り返して強加工した金属素線と、この強加工した金属素線の熱影響による機械的強度特性向上効果に着目して、強加工の金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する温度域で鋼種に適した低温加熱処理を伸線後に加えることにより、芯線の金属素線の引張破断強度を向上させる技術思想に関しては、存在していない。
そしてさらに、高強度の引張破断強度を有する金属素線を用いて金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する温度域で鋼種に適した低温加熱処理下での所定条件での捻回加工、又所定条件下での捻回加工後の低温加熱処理により、直線性等を向上させた医療用ガイドワイヤとその製造方法の技術思想に関しては、何ら存在していない。
【0008】
この発明の目的は、芯線に金属素線を用いて、前記金属素線はオーステナイト系ステンレス鋼線の強加工の伸線加工により、又伸線加工と低温加熱処理を累積して、強加工伸線の金属素線の熱的特性を利用して鋼種に適した温度域での低温加熱処理を伸線後に加えることにより、前記金属素線の引張破断強度を向上させ、さらに金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する温度域で鋼種に適した低温熱処理下での所定条件下での捻回加工、又は所定条件下での捻回加工後の低温熱処理により、直線性等向上させる技術を開示することにより、耐繰り返し曲げ疲労特性が高く、術者が安全に操作できる医療用ガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体とを接合部材を用いて部分的に接合した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線は金属素線から成り、
前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線と伸線後の低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線を設けて、
前記最終伸線までの総減面率を90%から99.5%とし、
前記低温加熱処理が、180℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃とし、
前記最終伸線までの前記低温加熱処理による前記金属素線の引張破断強度の増加率の合計が8%以上とし、
前記最終伸線した後に、前記金属素線の温度が180℃から495℃で、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で低温加熱処理を行い、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤである。 この構成により、強加工の伸線加工したオーステナイト系ステンレス鋼線の低温加熱処理による引張破断強度向上効果に着目して、引張破断強度が急傾斜増大する温度域で強加工の伸線加工後に低温加熱処理を加えることにより、引張破断強度を向上させた金属素線を得て、さらに最終伸線後の前記金属素線から成る芯線に、引張破断強度が急傾斜増大する温度域で鋼種に適した低温加熱処理を加えることにより、高強度の引張破断強度と高度の直線性・回転伝達性の双方を備え、そして先端側の曲がり癖がなく、かつ耐繰り返し曲げ疲労特性を向上させて、術者が安全に操作できる医療用ガイドワイヤの提供ができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記最終伸線までの前記金属素線の低温加熱処理が、300℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃とし、
前記最終伸線までの前記低温加熱処理による前記金属素線の引張破断強度の増加率の合計が10%以上とし、
前記最終伸線した後に、前記金属素線の温度が300℃から495℃で、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃で低温加熱処理を行い、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.150X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤである。 この構成により、強加工の伸線加工したオーステナイト系ステンレス鋼線である金属素線の低温加熱処理による引張破断強度向上効果に着目して、引張破断強度がより急傾斜増大する温度域での低温加熱処理を施すことにより、より高強度の引張破断強度を有する金属素線を得て、前記金属素線を芯線に用いることにより、より高強度の引張破断強度と高度の直線性・回転伝達性の双方を備え、そして先端側の曲がり癖がなく、かつ耐繰り返し曲げ疲労特性をより向上させて、術者が安全に操作できる医療用ガイドワイヤの提供ができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記金属素線の最終伸線までの総減面率を94%から99.5%とし、
前記最終伸線までの前記金属素線の低温加熱処理が、300℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃とし、
前記最終伸線した後に、前記金属素線の温度が300℃から495℃で、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃で低温加熱処理を行い、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.200X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤである。 この構成により、強加工の伸線加工したオーステナイト系ステンレス鋼線である金属素線の低温加熱処理による引張破断強度向上効果に着目して、引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理を施すことにより、さらに高強度の引張破断強度特性を有する金属素線を得て、芯線に前記金属素線を用いることにより、高強度の引張破断強度と高度の直線性・回転伝達性の双方を備え、そして先端側の曲がり癖がなく、かつ耐繰り返し曲げ疲労特性をより向上させて、術者が安全に操作できる医療用ガイドワイヤの提供ができる。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記金属素線の最終伸線までの総減面率を97%から99.5%とし、
前記最終伸線までの前記金属素線の低温加熱処理が、300℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃とし、
前記最終伸線した後に、前記金属素線の温度が300℃から495℃で、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃で低温加熱処理を行い、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.300X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤである。 この構成により、より強加工の伸線加工したオーステナイト系ステンレス鋼線である金属素線の低温加熱処理による引張破断強度向上効果に着目して、引張破断強度がより急傾斜増大する温度域での低温加熱処理を施すことにより、さらに高強度の引張破断強度特性を有する金属素線を得て、芯線に前記金属素線を用いることにより、高強度の引張破断強度と高度の直線性・回転伝達性の双方を備え、そして先端側の曲がり癖がなく、かつ耐繰り返し曲げ疲労特性をより向上させて、さらに細径化を可能とし、術者が安全に操作できる医療用ガイドワイヤの提供ができる。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記最終伸線後に、前記金属素線に低温加熱処理下で捻回加工を行い、又は前記捻回加工後に前記低温加熱処理を行い、
前記低温加熱処理は、前記金属素線の温度が180℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃とし、
前記捻回加工は、前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから275回/mの捻回加工を行い、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤである。 この構成により、引張破断強度が急傾斜増大する温度域での鋼種に適した低温加熱処理下での捻回加工、又は捻回加工後の前記低温加熱処理により、総減面率の高い強加工の芯線の捻回加工による断線を防いで、芯線の表層部と内層部の硬度分布の不均質を少なくして均質化させ、引張破断強度が高く、かつ直線性・回転伝達性等が向上した芯線を用いて成る医療用ガイドワイヤを提供することができる。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記最終伸線後に、前記捻回加工における前記低温加熱処理は、前記金属素線の温度が300℃から495℃、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃の電気抵抗加熱とし、
前記捻回加工は、前記金属素線の一端に負荷加重を加えた状態で他端を捻回し、
前記金属素線の捻回加工前の引張破断力P(kgf)に対する負荷加重W(kgw)の割合を負荷加重比X(%)とし、前記負荷加重比X(%)はW÷P×100の関係とした場合に、捻回数N(回/m)は、
−0.8X+124≦N≦−1.8X+284の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤである。 この構成により、低温加熱処理下での捻回加工、又は捻回加工後の低温加熱処理における、捻回加工の負荷加重と捻回数との相関関係を明確にして、高度の直線性・回転伝達性と、高度の引張破断強度特性の双方を備えた金属素線を用いた芯線から成る医療用ガイドワイヤを提供することができる。
【0015】
請求項7記載の発明は、可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体とを接合部材を用いて部分的に接合した医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記芯線は金属素線から成り、
前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と伸線工程後の低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を90%から99.5%とし、
前記低温加熱処理工程が、180℃から495℃で10分から180分とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で10分から180分とし、
前記最終伸線工程までの前記低温加熱処理工程による前記金属素線の引張破断強度の増加率の合計が8%以上とし、
その後、前記最終伸線後の前記金属素線に、前記金属素線の温度が180℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で30秒から180分の低温加熱処理工程下で、
前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから275回/mの捻回加工工程とする、前記低温加熱処理下での前記捻回加工工程とし、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
この構成により、引張破断強度が急傾斜増大する温度域での鋼種に適した低温熱処理下で、最終伸線後の芯線に所定条件下での捻回加工を行うことにより、総減面率の高い強加工した芯線の捻回加工工程での断線を防いで、芯線の表層部と内層部の硬度分布の不均質を極めて少なくして均質化させ、引張破断強度が高く、かつ直線性・回転伝達性が向上した芯線から成る医療用ガイドワイヤを製造することができる。
【0016】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記最終伸線工程後の前記金属素線に、前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから275回/mの捻回加工工程とし、
その後、前記金属素線の温度が180℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で30秒から180分の低温加熱処理工程とする、前記捻回加工工程後の前記低温加熱処理工程とし、前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
この構成により、特に捻回加工後の低温加熱処理工程とすることにより、熱間状態で捻回加工を行うよりも冷間状態で捻回加工を行うことのほうが結晶粒の微細化をより促進させ、その後引張破断強度が急傾斜増大する温度域で鋼種に適した低温加熱処理工程とすることにより、より高い直線性・回転伝達性と、より高い引張破断強度の芯線から成る医療用ガイドワイヤを製造することができる。
【0017】
請求項9記載の発明は、請求項7〜8のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記最終伸線工程後の前記金属素線に、前記低温加熱処理工程下での前記捻回加工工程、又は前記捻回加工工程後の前記低温加熱処理工程における、前記低温加熱処理工程が、 前記金属素線の温度が300℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃で30秒から180分の電気抵抗加熱とし、
前記捻回加工工程が、前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから200回/mの捻回加工工程とし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
この構成により、低温加熱処理工程が芯線の引張破断強度がより急傾斜増大する温度域で鋼種に適した低温加熱処理条件とし、かつ捻回加工工程が芯線の表層部と内層部の硬度分布の不均質を極めて少なくして均質化させる捻回加工条件とすることにより、芯線の直線性・回転伝達性が極めて高く、先端側の曲がり癖がなく、かつ耐繰り返し曲げ疲労特性をさらに向上させた芯線から成る医療用ガイドワイヤを製造することができる。
【0018】
請求項10記載の発明は、請求項7〜9のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記最終伸線工程後の前記金属素線に、前記低温加熱処理工程下での前記捻回加工工程、又は前記捻回加工工程後の前記低温加熱処理工程における、前記捻回加工工程が、
前記金属素線の一端に負荷加重を加えた状態で他端を捻回し、
前記金属素線の捻回加工前の引張破断力P(kgf)に対する負荷加重W(kgw)の割合を負荷加重比X(%)とし、前記負荷加重比X(%)はW÷P×100の関係とした場合に、捻回数N(回/m)は、
−0.8X+124≦N≦−1.8X+284の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
この構成により、低温熱処理下での捻回加工工程、又は捻回加工工程後の低温加熱処理工程における、前記捻回加工工程の負荷加重と捻回数との相関関係を明確にして、高度の直線性・回転伝達性と高度の引張破断強度特性の双方備えた芯線を用いて成る医療用ガイドワイヤを製造することができる。
【0019】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、 前記捻回加工工程が、前記金属素線の一端に負荷加重を加えた状態で他端を捻回し、
前記金属素線の捻回加工前の引張破断力P(kgf)に対する負荷加重W(kgw)の割合を負荷加重比X(%)とし、前記負荷加重比X(%)はW÷P×100の関係とした場合に、捻回数N(回/m)は、
−0.8X+124≦N≦−2.8X+264の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
この構成により、低温熱処理下での捻回加工工程、又は捻回加工工程後の低温加熱処理工程における、前記捻回加工工程の負荷加重と捻回数との相関関係をより明確にして、より高度の直線性・回転伝達性と、より高度の引張破断強度特性の双方備えた芯線を用いて成る医療用ガイドワイヤを製造することができる。
【0020】
請求項12記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤと、マイクロカテーテルと、ガイディングカテーテルとの組立体において、前記医療用ガイドワイヤの外径が、0.228mmから0.457mm(0.009インチから0.018インチ)で、前記医療用ガイドワイヤを、内径が0.28mmから0.90mmで、太線と細線を複数本巻回成形、又は撚合構成して病変内挿入時に外部からの圧迫・押圧作用により外周部の少なくとも先端側から300mm以内で太線と細線の巻回による凸凹状を形成する螺旋状管体から成るマイクロカテーテル内へ挿入し、かつ内径が1.91mmから2.67mmの前記ガイディングカテーテル内へ、前記医療用ガイドワイヤと前記マイクロカテーテルが挿入されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体である。
この構成により、高強度の引張破断強度特性と高度の直線性・回転伝達性の双方を備えた金属素線を用いた芯線から成る医療用ガイドワイヤを得て、この医療用ガイドワイヤと、閉塞病変部の穿孔機能、及び前記医療用ガイドワイヤの前進反力を支える機能の高いマイクロカテーテルと、それぞれの前進しようとする反力を支える機能をもつガイディングカテーテルとの組立体とすることにより、閉塞病変部治療に大きく寄与することができる。
【0021】
請求項13記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤと、バルーンカテーテルと、ガイディングカテーテルとの組立体において、前記医療用ガイドワイヤの外径が、0.228mmから0.457mm(0.009インチから0.018インチ)で、前記医療用ガイドワイヤを、内径が0.28mmから0.90mmの前記バルーンカテーテル内へ挿入して一組とし、内径が1.91mmから2.67mmの前記ガイディングカテーテル内へ、前記医療用ガイドワイヤと前記バルーンカテーテルを一組とする二組を挿入してキッシング手技を容易とすることを特徴とする医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体である。
この構成により、高強度の引張破断強度特性と高度の直線性・回転伝達性の双方を備えた金属素線を用いた芯線から成る医療用ガイドワイヤを得て、細径化を可能とし、かつ押し進んで行く前進力の高い医療用ガイドワイヤと、拡径機能の高いバルーンカテーテルとを一組として二組を挿入して、それぞれ二組の前進しようとする反力を支える機能をもつガイディングカテーテルとの組立体とすることにより、特に分岐病変部における病変部治療に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】医療用ガイドワイヤのコイルスプリング体組付図、及び芯線の正面図と要部拡大図である。
【図2】総減面率と引張破断強度特性図である。
【図3】温度と引張破断強度特性図である。
【図4】金属素線の総減面率と引張破断強度の関係式特性図である。
【図5】医療用ガイドワイヤ実施例2である。
【図6】医療用ガイドワイヤ実施例3である。
【図7】医療用ガイドワイヤ実施例4である。
【図8】捻回数と引張破断強度の特性図である。
【図9】捻回数と曲げ残留角度の特性図である。
【図10】電気抵抗加熱による捻回加工製造方法である。
【図11】捻回数と負荷加重比の特性図である。
【図12】下肢血管病変部治療の状態図である。
【図13】医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の最良の実施形態を図に示すとともに説明する。
【実施例】
【0024】
図1は、本発明の実施例1の医療用ガイドワイヤ(以下ガイドワイヤという)1Aを示し、芯線2の芯線先端部21には、同軸的に外嵌めされたコイルスプリング体(以下コイル体)3を有し、コイル体3の先端側には金、白金、タングステン等の放射線不透過材コイル31と、後端側にはステンレス鋼線の線直径d0 が0.050mmから0.095mmの金属素線を巻回成形した放射線透過材コイル32から成り、そして芯線2の芯線先端部21には、中間接合部である中間前側接合部41と中間後側接合部42、及び後端接合部43により、芯線2と放射線不透過材コイル31、又は放射線透過材コイル32とが接合部材4を用いてそれぞれ部分的に接合され、又芯線2の先端端部に先丸形状の円柱状の先導栓5が接合部材4により部分的に接合され、芯線2と線直径が0.050mmから0.095mmの金属線を巻回成形した放射線不透過材コイル31とを接合している。
尚、中間前側接合部41は、放射線不透過材コイル31の片端と放射線透過材コイル32の片端とが当接し、又はねじ込まれて異種金属どうしが一体化接合され、かつ芯線先端部21と接合部材4を用いて部分的に接合している。
【0025】
そして放射線透過材コイル32は、コイル線の金属素線の線直径d が0.050mmから0.095mmで、コイル体3の外径D1 、D2 が概ね0.228mmから0.457mmで、長手方向の長さは30mmから300mmのオーステナイト系ステンレス鋼線から成っている。又、芯線2の芯線先端部21の先端から長手方向の約300mmは、概ね0.060mmから0.200mmの細径の線で、残りの芯線手元部22は、長手方向に約1200mmから約2700mmで、外径D7 が0.228mmから0.457mmから成る太径の線から成っている。芯線先端部21の細径部分は、先端側へ徐変縮径し、その断面形状は円形断面、又は矩形断面(図示(ニ))いずれの形状であってもよい。又、芯線2及びコイル体3の外周部にふっ素樹脂、又はウレタン樹脂等の樹脂被膜6が形成され、その外周部には、湿潤時に潤滑特性を示すポリビニルピロリドン等の親水性被膜7が形成され、コイル体3は外周を直接接触する前記樹脂被膜6と、前記親水性被膜7との二層構造により密閉状に包被されている。尚、図示(ハ)は、中間後側接合部42のA- A断面図を示す。
【0026】
そして芯線2は、金属素線から成り、前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、総減面率が90%から99.5%の伸線加工を行い、引張破断強度が250kgf/mm2 以上450kgf/mm2 以下であることを特徴とする。 尚、ここいう総減面率とは、固溶化処理した線材を用いて線材(例えば1050℃の熱処理により引張破断強度が60kgf/mm2 から80kgf/mm2 の性質をもつ線材)の伸線前の線径と、複数のダイスを用いた伸線工程を経て最終伸線の仕上がりの線径との間の断面積差を減少率で表したものをいい、後述する表1〜3内において、複数のダイスを用いて伸線しても一伸線工程を経た場合を減面率とし、全伸線工程(表内では一次伸線、又は一次伸線から二次伸線まで等の伸線工程)を経た減面率を総減面率として説明上区分する。又、引張破断強度とは、線材に引張力を加えて破断した時の値を線材の断面積で除した値のことをいい、引張破断力とは、線材に引張力を加えて破断した時の値のことをいう。又、ここでいう「低温加熱処理」は、引張破断強度の低下、及び硬度を低下させて鋼線を軟化させる焼きなまし、又は低温焼きなまし、並びに変態点以上(例Ac3 約730℃以上)で加熱する焼きならしとは異なり、引張破断強度が増大して機械的性質を向上させる熱処理、と位置づけて「低温加熱処理」と呼称し区別する。
【0027】
そして前記金属素線を「固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線の伸線加工」としたのは、加工性のよいオーステナイト組織を得る為であり、オーステナイト系ステンレス鋼線は変態点を利用した熱処理による結晶粒の微細化ができず、冷間加工によってのみ結晶粒の微細化が可能で、伸線加工により顕著な加工硬化性を示して引張強度を向上させることができるからである。又オーステナイト系ステンレス鋼線を用いる理由は、マルテンサイト系ステンレス鋼線では熱処理による焼入硬化性を示して熱影響を受け易く、析出硬化系ステンレス鋼線(SUS630等)では靭性が不足してコイル成形加工時に断線が発生し易く、又フェライト系ステンレス鋼線では温度脆性(シグマ脆性)の問題があるからである。
【0028】
そして芯線2とコイル体3とを、はんだ付け、又はろう付けとして接合部材4を用いて接合する中間前側接合部41では、線直径0.050mmから0.095mmの放射線不透過材コイル31と、金属線の線直径d0 が0.050mmから0.095mmの放射線透過材コイル32との端部が当接し、又はねじ込まれて、この当接部又はねじ込み部と線直径が0.060mmから0.150mmの芯線2との接合で、又中間後側接合部42では、前記同様の金属線の線直径の放射線透過材コイル32と、金属素線の線直径が0.100mmから0.200mm程度の芯線2との接合で、前記中間前側接合部41と前記中間後側接合部42の芯線2との接合形状は幅L1 、L2 が約0.3mmから1.5mm程度で、外径D3 、D4 が0.232mmから0.480mm程度のいずれもドーナツ状の略円筒形状であり、又後端接合部43は、前記同様の金属線の線直径d0 の放射線透過コイル材32と、金属素線の線直径0.200mmから0.345mm程度の芯線2との接合で、その接合形状は、幅L3 が約0.3mmから3mm程度で外径D5 が0.232mm程度から0.480mm程度の円筒状、又は手元側が先細りの略円錐形状である。
【0029】
又、先導栓5は、接合部材4を用いて前記同様の金属線の線直径の放射線不透過材コイル31と、金属素線の線直径が0.060mmから0.100mm程度の円形断面形状、又は矩形断面形状23(図示(ニ))の芯線2との接合で、その接合形状は、幅L4 が0.2mmから1.5mm程度で外径D が0.232mmから0.480mm程度の先端側が先丸形状の略円柱状の先導栓5を示し、この形状は先丸形状でなくとも円筒、半球状、先端側へ円錐形状のいずれでもよい。尚、ここでいう接合部材4を用いて部分的に接合するとは、前記実施例1で接合部材4を用いて接合する中間接合部(符号41、42)、後端接合部43、及び先導栓5のコイル体3と芯線2との接合形態のことをいう。
従って、中間接合部(符号41、42)が無く、先導栓5と後端接合部43のみであってもよい。尚、コイル体3は、後述する放射線不透過材の金属線と、放射線透過材の金属線との異種金属のそれぞれの端部を溶接接合した後、伸線加工を行った線材をコイル状に巻回成形したコイル体構造としてもよい。
【0030】
次に、表1〜2は、本発明の芯線2に用いる金属素線を示し、又表3は比較例を示す。
【0031】
表1、2は、本発明の芯線2に用いる金属素線を示し、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線の引張破断強度が70kgf/mm2 の線材(母線)の線直径1.080mmを用いて減面率が87.6%として線直径が0.380mmの一次伸線加工を行い、その後420℃、75分で一次低温加熱処理を行い、その後減面率を19.9%として二次伸線加工を行い、総減面率が90%で線直径が0.340mmで引張破断強度を252kgf/mm2 とした金属素線1a、又同様に線材(母線)の線直径1.390mmを用いて、一次伸線、一次低温加熱処理、二次伸線を行い、総減面率が94.0%として線直径が0.340mmで引張破断強度を267kgf/mm2 とした金属素線1c、又同様に線材(母線)の線直径1.320mmを用いて、一次伸線、一次低温加熱処理、二次伸線を行い、総減面率が97.0%として線直径が0.228mm(0.009インチ)で引張破断強度を296kgf/mm2 とした金属素線1eである。
【0032】
そして、金属素線1b、1d、1fはそれぞれ金属素線1a 、1c、1e の最終伸線後に二次低温加熱処理を加えて引張破断強度を向上させて257kgf/mm2 から321kgf/mm2 としたものである。又金属素線1gは、再溶解材を用いた金属素線の実施例を示し、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線の引張破断強度が70kgf/mm2 の線材(母線)の線直径が3.230mmを用いて総減面率を99.5%として、金属素線の線直径が0.228mmで引張破断強度を400kgf/mm2 としたものであり、金属素線1hは、前記金属素線1gの最終伸線後(三次伸線後)に、三次低温加熱処理を加えて引張破断強度を424kgf/mm2 としたものである。
そして、表3は、総減面率が80.8%の場合の一次伸線のものを比較例1とし、比較例1に対して一次低温熱処理したもの比較例2として加えた。尚、前記金属素線1a〜1dは、SUS304材を用い、又金属素線1e〜1hは、Moを2重量%から3重量%を含むSUS316材を用い、そのうち金属素線1g、1hは後述する再溶解材のSUS316材を用いた。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
表1〜3によれば、総減面率が90%、94.0%の実施例1b、1 dは、金属素線1a、1cの最終伸線後(二次伸線後)に温度範囲が180℃から495℃で二次低温加熱処理(本実施例では420℃、75分)を加えることにより、引張破断強度の増加率は、それぞれ14.1.%、17.5%となり総減面率80. 8%の比較例2に対して約4.4倍から約5.5倍向上する。
そして総減面率が97.0%の金属素線1fは、金属素線1e の一次伸線後に前記同様の一次低温加熱処理を行い、その後最終伸線(二次伸線)を行ったものに前記同様の二次低温加熱処理を加えることにより、引張破断強度の増加率の合計は、21.7%となり前記総減面率が80.8%の比較例2に対して約6.8倍向上する。
そして、又総減面率が99.5%の金属素線1hの引張破断強度は424kgf/mm2 となって実施例の中で最も高い値を示し、総減面率99.5%で引張破断強度は400kgf/mm2 以上を確保することができ、そして引張破断強度の増加率の合計は38.1%となり、比較例2に対して約11.9倍向上している。
【0037】
そして補足すれば、表1、2によれば金属素線1a〜1fの最終伸線(二次伸線)までの低温加熱処理(一次低温加熱処理)の引張破断強度の増加率は12.1%から13.3%となり8%以上であり、又金属素線1g〜1hの最終伸線(三次伸線)までの低温加熱処理(一次、二次低温加熱処理)の引張破断強度の増加率の合計は、32.1%となって8%を大きく超えて10%以上である。
【0038】
そして図2は、前記表1〜3の最終伸線後に低温加熱処理を加えた各実施例(金属素線1b、1d、1f、1h)及び比較例2の総減面率(%)と引張破断強度(kgf/mm2 )との関係を示した図で、総減面率が90%近傍を境にして引張破断強度がより増大する変曲点が存在し、さらに総減面率94%近傍と97%近傍では急激に増大する変曲ポイントとなっている。
つまり、総減面率90%の金属素線1bの低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計は、14.1%で、同様に総減面率94%の金属素線1dは17.5%となって、総減面率90%の金属素線1bよりも3.4%増大し、同様に総減面率97%の金属素線1fは、21.7%となって総減面率94%の金属素線1dよりも4.2%増大し、総減面率99.5%の金属素線1hに至っては、総減面率97%の金属素線1fよりも16.4%増大している。
以上のことから明らかに、芯線2に用いる金属素線の伸線の総減面率が90%から99.5%において引張破断強度は急激に増大し、そして前記金属素線を伸線加工後の所定条件で低温加熱処理を加えることにより、前記金属素線の引張破断強度はさらに増大する。 そして本発明の金属素線の各実施例における最終伸線までの低温加熱処理の引張破断強度の増加率の合計は、少なくとも8%を超えて10%以上であることを示し、その結果引張破断強度は250kgf/mm2 を超え、252kgf/mm2 から424kgf/mm2 の金属素線から成る芯線2を得ることができる。
【0039】
そして又、芯線2に用いる金属素線の伸線加工における総減面率は、90%から99.5%が望ましく、より好ましくは94%以上99.5%で、さらに好ましくは97%以上99.5%以下で、総減面率の上限は99%以下がより好ましい。
そして、総減面率が90%以上としたのは、総減面率が80%(ばね第3版丸善株式会社63頁、図2.82参照)を超えて、90%以上を境にして、さらに引張破断強度が増大する変曲ポイントを見出したからである。(図2)
そして又、より好ましくは94%以上で、さらに好ましくは97%以上99.5%以下とした理由は、総減面率が94%、97%に至っては、前記したように引張破断強度がより飛躍的に増大する変曲ポイントを見出したからであり、そして総減面率が99.5%以下としたのは、これを超える伸線加工の強い加工度では、金属組織内に空隙が生じはじめて脆化が著しく、金属素線の断線が発生し易くなるからである。
そしてさらに又、最も好ましい態様として総減面率の上限を99%としたのは、特に芯線2の芯線先端部21は、押圧加工により矩形断面形状とする場合が多く(図1図示(ニ))、かかる場合に前記高強度の引張破断強度を有する金属素線は、押圧加工時に伸びが不足している為、芯線先端部21の外側外周部の表面に割れが発生し易く、所定寸法の押圧加工が困難となるからである。
【0040】
そして補足すれば、芯線先端部21は、芯線2の先端部の外周に研削加工を行って先端側へ徐変縮径させ、又最先端部に押圧加工を行い、矩形断面形状(図1、符号(ニ))とする為、研削加工、又は押圧加工により局部的に集中応力、残留歪が発生している。
芯線先端部21の押圧加工は、前記金属素線の最終低温加熱処理を行った後に押圧加工をしてもよいが、最終伸線後(前記金属素線1a〜1fでは二次伸線、金属素線1g、1hでは三次伸線)に押圧加工を行い、その後所定条件での低温加熱処理を施すことが望ましい。
この理由は、最終伸線後に低温加熱処理を行い、その後高強度の引張破断強度を有する金属素線に押圧加工を行うよりも、高強度の金属素線の伸び不足による芯線先端部21の外表面の傷、割れの発生がなく、そして押圧加工後に低温加熱処理を施すことのほうが押圧加工による局部的に発生した集中応力を除去して均質化させ、残留歪を除去して耐繰り返し疲労特性の高い芯線2を得ることができるからである。
【0041】
そしてさらに補足すれば、芯線先端部21と放射線透過材コイル32との双方を接合部材4を用いて部分的に接合して、後述する接合部材4の溶融熱を利用することにより、組付け後であっても各金属素線の引張破断強度を向上させ、かつ芯線先端部21全体にわたって局部的に発生した集中応力、残留歪を同時に除去して、耐繰り返し曲げ疲労特性の高い芯線2から成るガイドワイヤ1Aを得ることができる。
【0042】
そして表1〜2によれば、金属素線1a〜1hにみられるように伸線工程と伸線工程後に所定条件の低温加熱処理工程を設けて、前記伸線工程と前記低温熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、前記最終伸線工程までの総減面率が90.0%から99.5%のときには、前記最終伸線までの前記低温加熱処理による前記金属素線の引張破断強度の増加率の合計は12.1%から32.1%となって8%を大きく超え、又同様に総減面率が94.0%から99.5%のときには12.1%から32.1%となり、前記同様に総減面率が97.0%から99.5%のときには13.3%から32.1%となって10%以上であることを示している。
又、金属素線の線直径が0.228mmの金属素線1hは、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線でMoを2重量%から3重量%含むSUS316材の、後述する再溶解材で、引張破断強度が70kgf/mm2 の線材(母線)の線直径3.230mmを用いて、一次伸線後180℃から525℃で10分から180分の熱処理炉を用いた炉内での雰囲気加熱による一次低温加熱処理(本実施例では450℃で30分)を行い、その後二次伸線を行い、さらに前記一次低温加熱処理と同条件で二次低温加熱処理を行い、その後三次伸線(本実施例では最終伸線)を行い、総減面率を99.5%として引張破断強度を400kgf/mm2 とし、さらに前記一次、二次低温加熱処理と同条件で三次低温加熱処理を行った金属素線1hは、引張破断強度が424kgf/mm2 となり、前記各実施例の中で最も高い値を示す。従って、総減面率が99.5%で引張破断強度は400kgf/mm2 を確保することができる。
そしてこのように伸線と低温加熱処理を1セットとして、このセット回数を増やすことにより、又後述する製造方法を用いることにより金属素線の引張破断強度を450kgf/mm2 に向上させることができる。
【0043】
そして芯線2に用いる金属素線の引張破断強度の上限は450kgf/mm2 以下が好ましく、より好ましくは400kgf/mm2 以下である。
この理由は、伸線の総減面率の上限を設けたことと同様に、前記上限を超えると高強度の引張破断強度を有する金属素線は伸びが不足している為、芯線2の芯線先端部21の断面形状を矩形断面(図1、図示(ニ))とする際の押圧加工により、割れが発生し易くなり、所定寸法の押圧加工が困難となるからである。
【0044】
そして、金属素線の製造段階で前記各実施例に用いる金属素線の引張破断強度を向上させる為には、前述のように伸線の総減面率(%)を90%以上とし、伸線工程後に引張破断強度が急傾斜増大する温度域で低温加熱処理工程を設け、又より金属素線の引張破断強度を向上させる為には、伸線工程と低温加熱処理工程を1セットとして5セット以上繰り返してもよいが生産性等の観点から少なくと1セット以上3セット以下が望ましい。
【0045】
次に、強加工の伸線加工したオーステナイト系ステンレス鋼線の鋼種差を含む低温加熱処理下での引張破断強度特性について、以下に述べる。
【0046】
図3は、一般に金属素線の母線にオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて総減面率が90%以上の最終伸線加工後の金属素線を熱影響下(各温度30分)での引張破断強度特性を示した図で、SUS304材のときは図示イを、SUS316材のときは図示ロを示す。これによるとSUS304材は180℃の熱影響により引張破断強度が上昇し始めて急傾斜し、概ね450℃近傍で最高の引張破断強度特性を示し、495℃まで引張破断強度特性向上効果が顕著にみられ、そして520℃を超えると常温(20℃)よりも引張破断強度が低下する。又、Moを含むSUS316材は、低温側でSUS304材と同様な傾向を示すが高温側では概ね480℃近傍で最高の引張破断強度特性を示し、525℃まで引張破断強度特性向上効果が顕著にみられ、そして540℃を超えると常温(20℃)よりも引張破断強度が低下する。
この引張破断強度特性が急激に低下する理由は、前述のように、この固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線は、前記520℃、540℃を超える温度から800℃に加熱されると、カーボンの析出、クロムの移動の為のエネルギーを必要とし、鋭敏化現象を生じて、特にカーボンが0.08%以下の通常のSUS304のオーステナイト系ステンレス鋼線では、700℃4分から5分程度で、この鋭敏化現象が現れ、引張破断強度が極端に低下するからである。
【0047】
このような引張破断強度特性を有する為、SUS304材の金属素線の低温加熱処理の温度範囲は、引張破断強度が急傾斜増大する温度域である180℃から495℃が望ましく、又Moを含む例えばSUS316材(Moが2重量%〜3重量%)の金属素線の低温加熱処理の温度範囲は180℃から525℃が望ましい。尚、前記金属素線の伸線加工における前記低温加熱処理のより望ましい温度範囲は、300℃から495℃であり、又Moを含むオーステナイト系ステンレス鋼線の金属素線のときには、300℃から525℃である。この理由は、より高い引張破断強度の金属素線が得られる温度範囲であるからである。(図3)
このように本発明は、強加工の伸線加工して総減面率の高いオーステナイト系ステンレス鋼線の温度による引張破断強度特性に着目して、かつ鋼種差に適した温度範囲に着目して芯線2の金属素線に低温加熱処理を加えることにより、引張破断強度特性を飛躍的に向上させた芯線2から成る医療用ガイドワイヤの新たな技術思想を提供するものである。
【0048】
そして、本各実施例に用いる金属素線のオーステナイト系ステンレス鋼線の化学成分は、重量%でC:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、Ni:6%〜16%、Cr:16%〜20%、P:0.045%以下、S:0.030%以下、Mo:3%以下、残部が鉄及び不可避的不純物から成る。このように高珪素ステンレス鋼(Si:3.0%〜5.0%)、又析出硬化系ステンレス鋼線(SUS630等)を用いなくても前記工法を用いることにより、高強度のオーステナイト系ステンレス鋼線の金属素線を得ることができる。尚、Cは引張破断強度向上の為には、0.005%以上が望ましく、粒界腐食抑制の観点から0.15%以下が望ましい。
【0049】
本発明の芯線2に用いる金属素線は、線直径D7 が0.228mmから0.457mmのオーステナイト系ステンレス鋼線で、特に金属素線の引張破断強度が270kgf/mm2 以上で、総減面率が94%以上の伸線加工を容易とし、かつ低温加熱処理による引張破断強度の増加率をより高めて0.300mm以下の細線化を可能として安定生産する為には、再溶解材を用いたSUS304材、又はSUS316材が望ましい。
この理由は、ステンレス鋼線の伸線時の断線原因は、表面疵もさることながら酸化物系介在物であることが最も多く、細線化するほどこの傾向が著しい。
そしてその化学成分は、介在物生成元素であるAl,Ti,Ca,Oの成分は低く、又硫化物の作用で伸線低下を引き起こすSも低く抑える。具体的なオーステナイト系ステンレス鋼線の化学成分は、重量%で、C:0.08%以下、Si:0.10%以下、Mn:2%以下、P:0.045%以下、S:0.010%以下、Ni:8%〜12%、Cr:16%〜20%、Mo:3%以下、Al:0.0020%以下、Ti:0.10%以下、Ca:0.005%以下、O:0.0020%以下、で残部がFeと不可避的不純物から成る。
そして再溶解材の製造方法としては、ステンレス鋼の溶製後のインゴットにフラックスを用いたエレクトロスラグ再溶解の製造方法等である。トリプル溶解材を用いても前記同様の効果が得られる。
【0050】
そして図2、図3を用いて述べたように、強加工の伸線加工(総減面率が90%以上)したオーステナイト系ステンレス鋼線は、低温加熱処理により引張破断強度が向上する特性を有する為、引張破断強度を向上させる為には、例えばSUS304材のときの低温加熱処理の温度範囲は、引張破断強度が急傾斜増大する温度域である180℃から495℃が望ましく、又Moを含む例えばSUS316材(Moが2重量%〜3重量%)の低温加熱処理の温度範囲は、180℃から525℃が望ましい。
【0051】
そして表1〜3において、伸線と伸線後の低温加熱処理を少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線を設けて、最終伸線までの総減面率を90%から99.5%とし、最終伸線後に前記金属素線から成る芯線に低温加熱処理を行う各実施例の金属素線1b、1d、1f、1h、及び比較例について、以下説明する。
【0052】
表1〜3の芯線に用いる各実施例の総減面率を90%以上とした金属素線1b、1d、1f、1hは、総減面率をX(%)とすると、金属素線の引張破断強度Y(kgf/mm2 )との関係式は、下記(1)となる。
関係式:450≧Y≧2.000X+70 ・・・(1)
前記関係式(1)において、例えば金属素線1bの総減面率Xは90%であることから、引張破断強度Yは250kgf/mm2 以上450kgf/mm2 以下となり、前記金属素線1bの引張破断強度は257kgf/mm2 で前記関係式(1)を満たし、同様に前記他の実施例も前記関係式(1)を満たしている。又金属素線1b、1d、1f、1hの最終伸線(二次伸線、又は三次伸線)までの低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計は12.1%から32.1%となり、いずれも8%以上である。
しかし比較例2は前記関係式(1)を満たしていなく、かつ最終伸線までの低温熱処理の引張破断強度の増加率の合計は3.2%で8%を大きく下回っている。
【0053】
そして補足すれば、前記金属素線を用いて芯線2と放射線透過材コイル32とを接合部材4を用いて部分的に接合した後に、前記放射線透過材コイル32体内の先端部を押圧加工等を行った芯線先端部21に180℃から495℃で低温加熱処理を行い、又は前記芯線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で低温加熱処理を行うことにより、芯線先端部21の引張破断強度を向上させて、さらに研削加工、及び押圧加工した芯線先端部21の局部的に発生した集中応力、及び残留歪を除去して耐繰り返し曲げ疲労特性の高いガイドワイヤを得ることができる。
このことは、例えば前記金属素線1aと1b、又1cと1d等とを比較すれば明白である。尚、放射線透過材コイル32体内の芯線先端部21を低温加熱処理する方法は、引張破断強度が急傾斜増大する温度域と合致する前記鋼種に適した温度範囲での熱処理炉を用いた低温加熱処理、又不活性ガス中での光輝熱処理を用いる低温加熱処理、高周波電流加熱による低温加熱処理、そしてさらに、後述する接合部材4の溶融熱の利用による低温加熱処理等である。
【0054】
次に、表1〜3、及び図3より金属素線の引張破断強度がより急傾斜増大する温度域(300℃から495℃、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには300℃から525℃)で低温加熱処理を行い、総減面率を90%以上とした金属素線1d、1f、1hは、総減面率をX(%)とすると、金属素線の引張破断強度Y(kgf/ mm )との関係式は、下記(2)となる。
関係式:450≧Y≧2.150X+70 ・・・(2)
前記関係式(2)において、例えば金属素線1dの一次、二次低温加熱処理は300℃から525℃の温度域(実施例は420℃、75分)であり、又総減面率Xは94%であることから、引張破断強度Yは272.1kgf/mm2 以上450kgf/mm2 以下となり、前記金属素線1dの引張破断強度は280kgf/mm2 で前記関係式(2)を満たし、同様に前記他の実施例も前記関係式(2)を満たしている。又金属素線1d、1f、1hの最終伸線(二次伸線、又は三次伸線)までの低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計は12.6%から32.1%となり、いずれも10%以上である。
しかし比較例2は前記関係式(2)を満たしていなく、かつ最終伸線までの低温熱処理の引張破断強度の増加率の合計は3.2%で10%を大きく下回っている。
【0055】
次に、表1〜3の金属素線のうち総減面率を94.0%から99.5%とした金属素線1d、1f、1hは、総減面率をX(%)とすると、金属素線の引張破断強度Y(kgf/mm2 )との関係式は、下記(3)となる。
関係式:450≧Y≧2.200X+70 ・・・(3)
前記関係式(3)において、例えば金属素線1dの総減面率Xは94.0%であることから、引張破断強度Yは276.8kgf/mm2 以上450kgf/mm2 以下となり、前記金属素線1dの引張破断強度は280kgf/mm2 で前記関係式(3)を満たし、同様に前記他の実施例も前記関係式(3)を満たしている。又金属素線1d、1f、1hの最終伸線(二次伸線、又は三次伸線)までの低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計は12.6%から32.1%となり、いずれも10%以上である。
しかし比較例2については、前記同様関係式(3)を満たしていない。
【0056】
次に、表2〜3の金属素線のうち総減面率を97.0%から99.5%とした金属素線1f、1hは、総減面率をX(%)とすると、金属素線の引張破断強度Y(kgf/mm2 )との関係式は、下記(4)となる。
関係式:450≧Y≧2.300X+70 ・・・(4)
前記関係式(4)において、例えば金属素線1fの総減面率Xは97.0%であることから、引張破断強度Yは293.1kgf/mm2 以上450kgf/mm2 以下となり、前記金属素線1fの引張破断強度は321kgf/mm2 で前記関係式(4)を満たし、同様に前記他の実施例も前記関係式(4)を満たしている。又金属素線1f、1hの最終伸線(二次伸線、又は三次伸線)までの低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計は13.3%から32.1%となり、いずれも10%以上である。
しかし比較例2については、前記同様関係式(3)を満たしていない。
【0057】
そして補足すれば、芯線2と放射線透過材コイル32とを接合部材4を用いて部分的に接合した後に、前記放射線透過材コイル32体内の芯線先端部21を低温加熱処理する方法は、前記金属素線の関係式(1)で説明したのと同様である。
【0058】
次に、金属素線の引張破断強度Y(kgf/mm2 )と総減面率X(%)との関係を図4に示す。尚、図中符号イは関係式(1)を、符号ロは関係式(2)を、符号ハは関係式(3)を、符号ニは関係式(4)を、又符号ホは比較例1を、符号へは比較例2をそれぞれ示す。
【0059】
次に最終伸線加工後の所定の総減面率を有する金属素線から成る芯線2に「低温加熱処理下での捻回加工」、又は「捻回加工後の低温加熱処理」を行ったときの芯線2の引張破断強度と曲げ残留角度に関して、「低温加熱処理は電気抵抗加熱を用いた低温加熱処理下での捻回加工」の実施例について、以下説明する。
【0060】
図8は、前記実施例の金属素線1cを用いて、芯線2(金属素線1c)の温度が180℃から495℃で30秒から180分(本実施例では450℃で3分)の電気抵抗加熱を用いた低温加熱処理下で捻回回数を変化させたときの引張破断強度を試料数各50個のバラツキを含め上下限の範囲を示したものであり、又図9は、前記図8と同様に前記金属素線1cを用いて、芯線2(金属素線1c)の温度条件が前記同様の電気抵抗加熱を用いた低温加熱処理下で捻回回数を変化させたときの曲げ試験後の曲げ残留角度を試料数各50個のバラツキを含め上下限の範囲を示したものである。尚、ここでいう曲げ試験後での曲げ残留角度とは、芯線2を外径15mmの丸棒に180度曲げ、500gの負荷を20秒間保持した後、負荷を解除して芯線2の長軸方向に対する残留角度、つまり塑性変形した傾斜角度のことをいう。
【0061】
図8、9によれば、引張破断強度は捻回数が100回/mから275回/mの間ではその変動幅は比較的小さく、この範囲を逸脱すると変動幅が大きくなり、つまり安定した品質を得ることはできなくなる。又、曲げ残留角度は、捻回数が100回/mから275回/mの間で小さく、この範囲を逸脱すると変動幅が大きくなる。この理由は、100回/mを下回ると捻回数が不足して芯線2の長軸方向に不均質な部分が残留していて、又275回/m〜325回/mを超えると逆に、芯線の長軸方向に概ね45度の傾きを成す滑り線(リューダース線)が発生する過捻回状態となって局部的に過捻回による不均質部分が散在発生する、と考えられるからである。従って、本発明の捻回は前記滑り線が発生するような過捻回を意味するものではない。
そして100回/mから200回/mの間で曲げ残留角度は最も小さくなって安定し、より好ましくは、120回/mから180回/mであり、さらに好ましくはこの捻回数の10%から30%、そして最も好ましくは、15%から25%%逆捻回させることが望ましい。具体的には、例えば120回/m一方向へ捻回後、逆方向へ12回/mから36回/m、最も好ましくは18回/mから30回/m逆方向へ捻回加工を行なう。これが望ましい理由は、一方向へ強加工捻回後の逆捻回により強加工捻回の捻り方向の応力を、逆捻回させて一時的に開放することにより低温加熱処理効果を高め、より直線性・回転伝達性の高い芯線2を得ることができる、と考えられるからである。
【0062】
そして図10は、前記金属素線を用いた芯線2に捻回加工と電気抵抗加熱を行なう装置図である。芯線2が巻かれたボビン13から送りローラー14Aを介して保温ケース16内へ芯線2を通過させて、芯線2を回転チャック9と芯線2の長軸方向へ移動可能な固定チャック10で固定し、電流発生器8より通電可能状態にしてウエイト12を負荷した状態で移動可能な固定チャック10で芯線2を固定したまま回転チャック9にて芯線2を所定量一方向、又は逆方向へ捻回させる。具体的には、芯線2の外径が0.340mmでチャック間9、10の固定スパン間(図示L)が4000mmのとき、ウエイト12を芯線2に負荷した状態で400回から800回一方向へ捻回加工を行なう。より好ましくは、逆方向へ前記捻回数の10%から30%、つまり40回から240回逆方向へ捻回を加える。
そしてその電気抵抗加熱による低温加熱処理下で捻回加工を行なった後、芯線2を回転チャック9と固定チャック10からの固定を開放して、そして送りローラー14A、14Bにて芯線2を図示左側へ送り出し、切断刃15にて切断し、以後これを繰り返して連続的に直線性・回転伝達性の優れた芯線2を得ることができる。尚、芯線2に通電させて捻回数の増大に伴って徐変昇温させて電気抵抗加熱を行なってもよい。
【0063】
つまりこの工程は、ボビン13に巻かれた芯線2を送りローラー14A、14Bを介して電気抵抗加熱による保温ケース16内へ送り出す(図示左側)工程と、送り出した後芯線2を回転チャック9と固定チャック10で固定する工程と、ウエイト12を連結させた固定チャック10のストッパー17を解除して固定チャック10を長軸方向へ移動可能状態として芯線2に負荷荷重(ウエイト12)を加える工程と、一定温度に保つ保温ケース16内の芯線2に電流発生器8により電流を加えて通電する工程と、通電状態のままで回転チャック9により所定方向へ所定量の捻回加工する工程と、又は所定量の捻回加工中に徐変昇温させ芯線2に電流発生器8により電流を加えて通電する工程と、固定チャック10の芯線2の固定を解除することによるウエイト12側への移動( 図示右側) を阻止する為、捻回加工後にストッパー17を作動させた後に、回転チャック9と固定チャック10の芯線2の固定を解除する工程と、送りローラー14A,14Bで芯線2を送り出す(図示左側)工程と、芯線2を所定量送り出した後、切断刃15にて芯線2の片端を切断する工程から成り、捻回して電気抵抗加熱による低温加熱処理した芯線2を連続して生産できる工程である。又、芯線2を予め、所定長に切断後各チャックで固定して、電気抵抗加熱による低温加熱処理下で前記同様の捻回加工を行なってもよい。
【0064】
そして、電気抵抗加熱による低温加熱処理の温度は、芯線2の温度が300℃から495℃で、加熱時間は30秒から180分(本実施例では450℃、3分)とし、又は前記芯線がオーステナイト系ステンレス鋼線のときには300℃から525℃で、加熱時間は30秒から180分(本実施例では450℃、3分)である。又ウエイト12は、最終伸線工程後の捻回加工前における前記金属素線を用いた芯線2の引張破断力の5%から30%が好ましく、より好ましくは8%から27%で、さらに好ましくは10%から24%である。
具体的には、金属素線1fのとき、線直径が0.228mmで最終伸線工程(二次伸線)後の捻回加工前の引張破断強度が296kgf/mm2 であることから前記金属素線1fを用いた芯線2の引張破断力は12.08kgf(π×0.228×296÷4)となり、このときウエイト12は2.42kgf(20%のとき)が好ましい。
そしてこの5%から30%の範囲を逸脱すると、ウエイト12が軽いときにはうねりが発生したり、又重いときには捻回中に断線が発生したりして直線性の優れた芯線2を得ることができず、又生産性を高めることはできない。つまり、芯線2の捻回加工前の引張破断強度による引張破断力に応じてウエイト12の重さを変化させることが重要である。
以上述べたように、電気抵抗加熱と捻回加工条件は、電気抵抗加熱による低温熱処理条件として、380℃〜495℃で30秒から180分、そして捻回数は100回/mから275回/mで、好ましくは100回/mから200回/mで、より好ましくは120回/mから180回/mであり、さらに好ましくは、逆方向へ前記捻回数の10%から30%、そしてウエイト12は捻回加工前の芯線2の引張破断力の5%から30%が好ましい。
【0065】
そして捻回数と負荷荷重(ウエイト)との関係において高度の直線性・回転伝達性を備えた最適条件を見出した。図11は、横軸に芯線の捻回前の引張破断力P(kgf)に対する負荷荷重W(kgw)の割合を負荷荷重比X(%)とし、負荷荷重比X(%)はW÷P×100の関係を示し、又縦軸に捻回数N(回/m)を示し、図示符号イとハで囲まれる範囲が高度の直線性を得る条件であり、さらに図示符号ロとハで囲まれる範囲が、より好ましい条件である。
そして捻回数が上限範囲の傾き線(図示符号イ)を数式で表すと、負荷加重比が5%で捻回数は275回/mであり、又負荷荷重比が30%で捻回数は230回/mであることから、この傾き線(図示符号イ)は、下記関係式(5)で表すことができる。同様に下限範囲の傾き線(図示符号ハ)を数式で表すと、負荷加重比が5%で捻回数は120回/mであり、又負荷荷重比が30%で捻回数は100回/mであることから、この傾き線(図示符号イ)は、下記関係式(6)でそれぞれ表すことができる。
関係式:N=−1.8X+284 ・・・(5)
関係式:N=−0.8X+124 ・・・(6)
そしてこの上下限範囲の二つの関係式(5)(6)から高度の直線性・回転伝達性を備えた芯線を得る為の捻回数N(回/m)は、下記関係式(7)を満たすことが必要となる。
関係式:−0.8X+124≦N≦−1.8X+284 ・・・(7)
N:捻回数(回/m)
X:負荷荷重比(%)
【0066】
そして又、図示符号ロは、負荷加重比5%で捻回数は250回/mであり、又負荷荷重比が30%で捻回数は180回/mであることから、この傾き線(図示符号ロ)は、下記関係式(8)で表すことができ、又下限範囲の傾き線(図示符号ハ)は前記関係式(8)で表すことができる。
関係式:N=−2.8X+264 ・・・(8)
そしてこの好ましい上下限の範囲は、図示符号ロとハで囲まれた範囲であることから、好ましい高度の直線性を備えた芯線を得る為の捻回数は、下記関係式(9)を満たすことが必要となる。
関係式:−0.8X+124≦N≦−2.8X+264 ・・・(9)
【0067】
そして、捻回数N(回/m)が前記関係式(7)を満たす範囲内であれば、一定の角度を設けて高い方から低い方へ芯線を転がしたとき、芯線の両端部の回転が同期して蛇行、うねり回転を発生することはなく、又前記芯線が転がる毎に両端部の回転に速度差が生じて徐徐に傾斜が増大して、最も低い位置へ転がった到達時に両端部のいずれか一方が早く到達することはなく、概ね同時に到達して高度の直線性を備えた芯線を得ることができる。又、さらに好ましいのは前記関係式(9)を満たす範囲である。
そして、これらの全ての条件を満たすことにより医療用ガイドワイヤとして要求される高強度の引張破断強度特性、残留角度の少ない高度の直線性、先端側への高度の回転伝達性等の品質を満足させることができる。
尚補足すれば、特許文献3には過捻回加工による捻回加工が記載されているが、本発明は過捻回加工を意味するのではなく、又特許文献3には前記捻回数と負荷荷重比との相関関係については、何ら解析されていない。
【0068】
そして、前記実施例では低温加熱処理として電気抵抗加熱を用いた「低温加熱処理下での捻回加工」を説明したが、電気抵抗加熱以外の低温加熱処理としては、加熱ヒーターを内蔵した熱処理炉を用いた低温加熱処理、又不活性ガス中での光輝熱処理の低温加熱処理、又高周波電流加熱による低温加熱処理等いずれを用いてもよい。
又ここでいう「低温加熱処理下での捻回加工」は、「芯線を所定温度に昇温させた状態での捻回加工」、又「常温で捻回を開始させた後、捻回させながら芯線を所定温度に昇温させる徐変昇温による捻回加工等」いずれの場合も含まれる。
そして前記「芯線を所定温度に昇温させた状態での捻回加工」は、加工度のより高い芯線(総減面率が94%から99.5%)での捻回時の断線を抑制する効果が高く、又「前記「常温で捻回を開始させた後、捻回させながら芯線を所定温度に昇温させる徐変昇温による捻回加工」は冷間状態での捻回加工による芯線の結晶粒の微細化を促進させ、引張破断強度が高く、かつ捻回数の増大に伴って局部的に増大する残留応力を徐変昇温により徐変除去し、さらに芯線の表層部と内層部の硬度分布の不均質性を一定範囲で均質化させて、高度の直線性を有する芯線を得ることができる。
【0069】
そして又「芯線の捻回加工後に低温加熱処理」を施してもよく、前記「芯線の捻回加工後の低温加熱処理」は、捻回時の芯線の断線を防ぐ効果は乏しいが、より引張破断強度の高い芯線を得る点で望ましい。
この理由は、常温で、つまり冷間状態で捻回加工を行うことにより、熱間状態での捻回加工よりも結晶粒の微細化をより促進させて、その後の低温加熱処理による結晶粒の成長を抑止して、局部的に発生した残留応力を除去することにより、より引張破断強度の高い芯線を得ることができるからである。
従って、「前記低温加熱処理下での捻回加工」は、芯線の総減面率が高い場合(総減面率が94%以上99.5%以下)が望ましく、又「前記捻回加工後の低温加熱処理」は、芯線の総減面率が比較的低い場合(総減面率が90%以上97%以下)が望ましい。いずれを選択するかは、ガイドワイヤに要求される優先特性(引張破断強度、直線性・回転伝達性等)により決定する。
【0070】
次に、図5は他の実施例2のガイドワイヤ1 Bを示し、芯線2は前記実施例1Aで述べた金属素線1a〜1hの金属素線を用い、前記実施例1と異なるところは、コイル体3の先端から所定位置(図示D寸法、例えば50mm)より手元側に接合部材4を用いた前記実施例1と同様の中間接合部411、412、413、・・・420が例えば10mmの等間隔(図示符号C)で10個配置(例えば長さ90mm)した構造体である。
この構成により、芯線2が高強度の引張破断強度を有する金属素線から成り、病変部にて屈曲変形させたときに先端側の曲がり癖がなく、かつ耐繰り返し曲げ疲労特性を向上させたガイドワイヤ1Bを得ることができる。
そして又、この構造体では、放射線不透過材から成る接合部材4(後述する表4、符号A―1等)を用いて放射線透過材コイル32の複数箇所の所定間隔の中間接合部(符号411、412、413、・・・)の配置とすることにより、狭窄病変長の計測が可能となる測長メジャーとしての機能を併せもつことができる。尚、前記中間接合部411、412、413、・・・の各間隔は、等間隔、等差級数、等比級数の規則的な所定間隔を有する形態であればいずれであっても測長メジャーとして機能する。
【0071】
そして補足すれば、前記接合部を複数個所の配置とすることにより、後述する接合部材4の接合時の溶融熱を利用して芯線先端部21、及び放射線透過材コイル32のコイル線の長尺位置にわたって芯線先端部21とコイル体3全体に低温加熱処理を行うのと同様な効果を得ることができ、その結果、長尺位置にわたって芯線先端部21の引張破断強度特性を高めることができ、そして芯線先端部21の耐繰り返し曲げ疲労特性を向上させることができる。
そしてこの方法により、全体加熱する熱処理炉を用いなくても、部分的に、かつ任意な所望位置で、芯線2の各金属素線の引張破断強度特性を向上させて、特に曲げ応力が過大に加わり易い接合部の芯線2の耐繰り返し曲げ疲労特性を同時に向上させたガイドワイヤを得ることができる。
【0072】
次に、図6は他の実施例3のガイドワイヤ1Cを示し、芯線2の金属素線は、前記実施例1Aで述べた金属素線1a〜1hの金属素線を用い、かつ芯線2の手元側外周部に所定長(例えば約900mmから約2400mm)の前記放射線透過材コイル32のコイル線と同一材料を用いて複数本の細線を撚り合わせたコイル体321の形態にして、その芯線2の先端部約300mm長は前記図1実施例1と同様の構造体である。
そして、図7は他の実施例4のガイドワイヤ1Dを示し、芯線2の先端部に短小の放射線不透過材コイル31、又は放射線透過材コイル322を単数、又は複数所定間隔にて接合部材4を用いて放射線不透過材コイル31、又は放射線透過材コイル322の端部を芯線2と接合し、その外周部には樹脂被膜6を形成し、芯線2が前記樹脂被膜6と直接接触している構造体を示す。尚、芯線2の金属素線は、前記金属素線1a〜1hと同様の製造工程を経た同一材料を用いる。
【0073】
このような構造体においても、前記実施例1のガイドワイヤ1Aで述べた金属素線1a〜1hを芯線2に用いることにより引張破断強度が高く、高度の直線性・回転伝達性を備え、かつ耐繰り返し曲げ疲労特性が高いガイドワイヤ1C、1Dを得ることができる。
【0074】
次に、高強度の引張破断強度と高度の直線性・回転伝達性を備えた金属素線を用いた芯線2から成るガイドワイヤの製造方法について、以下説明する。
【0075】
可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体とを接合部材を用いて部分的に接合した医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記芯線は金属素線から成り、
前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と伸線工程後の低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を90%から99.5%とし、
前記低温加熱処理工程が、180℃から495℃で10分から180分とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で10分から180分とし、
前記最終伸線工程までの前記低温加熱処理工程による前記金属素線の引張破断強度の増加率の合計が8%以上とし、
その後、前記最終伸線後の前記金属素線に、前記金属素線の温度が180℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で30秒から180分の低温加熱処理工程下で、
前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから275回/mの捻回加工工程とする、前記低温加熱処理下での前記捻回加工工程とし、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
【0076】
ここで、前記金属素線の伸線工程における前記低温加熱処理工程で、温度と時間を前記条件としたのは、前記温度範囲が前述の図3において、強加工の伸線加工での金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する鋼種に適した温度範囲であり、又加熱時間が10分を下回れば引張破断強度向上効果が乏しく、180分を超えれば、さらに向上する効果は期待できず、経済性、生産性の観点からである。
そして又、伸線工程と低温加熱処理工程を1セットとして5セット以上設けてもよいが、経済性、生産性等の観点から3セット以下が望ましいことは、前記同様である。
又、前記最終伸線工程後の前記金属素線から成る前記芯線の低温加熱処理工程で180℃から495℃で30秒から180分とし、又は前記芯線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で30秒から180分としたのは、前記金属素線の伸線工程における前記低温加熱処理工程と同様の理由である。
この構成により、引張破断強度が急傾斜増大する温度域での鋼種に適した低温熱処理下で、最終伸線後の芯線に所定条件下での捻回加工を行うことにより、総減面率の高い強加工した芯線の捻回加工工程での断線を防いで、芯線の表層部と内層部の硬度分布の不均質を極めて少なくして均質化させ、引張破断強度が高く、かつ直線性・回転伝達性が向上した芯線から成る医療用ガイドワイヤを製造することができる。
【0077】
そして、前記記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記最終伸線工程後の前記金属素線に、前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから275回/mの捻回加工工程とし、
その後、前記金属素線の温度が180℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で30秒から180分の低温加熱処理工程とする、前記捻回加工工程後の前記低温加熱処理工程とし、前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
ここで芯線の低温加熱処理工程で金属素線の温度が180℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で30秒から180分としたのは、前記温度範囲が前述の図3において、強加工の伸線加工での芯線の引張破断強度が急傾斜増大する鋼種に適した温度範囲であり、加熱時間が30秒を下回れば捻回加工による直線性効果は乏しく、180分を超えれば、さらに直線性・回転伝達性を向上させる効果は期待できず、経済性、生産性の観点からである。
この構成により、特に捻回加工後の低温加熱処理工程とすることにより、熱間状態で捻回加工を行うよりも冷間状態で捻回加工を行うことのほうが金属素線の結晶粒の微細化をより促進させ、その後引張破断強度が急傾斜増大する温度域で鋼種に適した低温加熱処理工程とすることにより、より高い直線性・回転伝達性と、より高い引張破断強度の芯線から成る医療用ガイドワイヤを製造することができる。
【0078】
そして又、前記記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記最終伸線工程後の前記金属素線に、前記低温加熱処理工程下での前記捻回加工工程、又は前記捻回加工工程後の前記低温加熱処理工程における、前記低温加熱処理工程が、 前記金属素線の温度が300℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃で30秒から180分の電気抵抗加熱とし、
前記捻回加工工程が、前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから200回/mの捻回加工工程とし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
ここで、金属素線の低温加熱処理工程で、前記金属素線の温度範囲としたのは、前述の図3において、強加工の伸線加工での金属素線の引張破断強度が、より急傾斜増大する鋼種に適した温度範囲であり、又電気抵抗加熱としたのは、芯線の表層部と内層部の硬度分布の不均質性があっても内層部まで均一加熱することにより捻回加工を容易とする為であり、そして前記捻回条件としたのは、前述の図8、9において、より残留角度が少ない直線性・回転伝達性の高い芯線を得ることができるからである。
この構成により、低温加熱処理工程が芯線の引張破断強度がより急傾斜増大する温度域で鋼種に適した低温加熱処理条件とし、かつ捻回加工工程が芯線の表層部と内層部の硬度分布の不均質を極めて少なくして均質化させる捻回加工条件とすることにより、芯線の直線性・回転伝達性が極めて高く、先端側の曲がり癖がなく、かつ耐繰り返し曲げ疲労特性をさらに向上させた芯線から成る医療用ガイドワイヤを製造することができる。
【0079】
そしてさらに又、前記記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記最終伸線工程後の前記金属素線に、前記低温加熱処理工程下での前記捻回加工工程、又は前記捻回加工工程後の前記低温加熱処理工程における、前記捻回加工工程が、
前記金属素線の一端に負荷加重を加えた状態で他端を捻回し、
前記金属素線の捻回加工前の引張破断力P(kgf)に対する負荷加重W(kgw)の割合を負荷加重比X(%)とし、前記負荷加重比X(%)はW÷P×100の関係とした場合に、捻回数N(回/m)は、
−0.8X+124≦N≦−1.8X+284の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
さらにより好ましい前記記載の医療用ガイドワイヤの製造方法は、
前記捻回加工工程が、前記金属素線の一端に負荷加重を加えた状態で他端を捻回し、
前記金属素線の捻回加工前の引張破断力P(kgf)に対する負荷加重W(kgw)の割合を負荷加重比X(%)とし、前記負荷加重比X(%)はW÷P×100の関係とした場合に、捻回数N(回/m)は、
−0.8X+124≦N≦−2.8X+264の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
この構成により、「低温熱処理下での捻回加工工程」又は「捻回加工工程後の低温加熱処理工程」における、前記捻回加工工程の負荷加重と捻回数との相関関係を明確にして、高度の直線性・回転伝達性と高度の引張破断強度特性を備えた芯線を用いて成る医療用ガイドワイヤを製造することができる。
【0080】
次に、前記実施例1〜5のガイドワイヤ1(符号1A〜1D)を用いて狭窄病変部における好適治療用具の組立体例を以下説明する。
【0081】
図12は、下肢血管狭窄病変部治療におけるガイドワイヤ1の狭窄病変部への進行状態図を示し、例えば前脛骨動脈90Bの閉塞病変部90Cへガイドワイヤ1を素早く到達させる為には、比較的屈曲蛇行の少ない概ねストレート状の浅大腿動脈90A部分はガイドワイヤ1の先端部はU字状に折れ曲がった状態(図示(ロ)符号U)であっても、折れ曲がった状態のまま分岐部90Dまで推し進め、その後一度手元側へ引いて先端部をストレート状(符号S1)にした後、閉塞病変部90Cへガイドワイヤ1を導いている。(符号S2)
【0082】
かかる場合において、本発明のガイドワイヤ1の芯線2の金属素線は、強加工して引張破断強度を高め、かつ高度の直線性・回転伝達性を備えている為、分岐部90Dにおいて曲がり癖をつけることなくストレート状の復元力を高めることができる特段の作用効果がある。尚、下肢血管病変部治療におけるガイドワイヤ1のコイル体3の外径(D1 、D2 )、及び先導栓5の外径(D6 )は概ね、0.457mm(0.018インチ)であり、又ガイドワイヤ1との組立体としては、前記ガイドワイヤ1を貫挿させて、前記ガイドワイヤを前進しようとする反力を強く支える構造体としての外周部に凸凹状を有する中空状の多条線から成るコイル体構造のマイクロカテーテル100を用いる。
そして又、前記ガイドワイヤ1と前記マイクロカテーテル100との双方を貫挿させて、双方の反力を同時に支える構造体としての内径が1.91mmから2.67mmのガイディングカテーテル110を用い、前記ガイドワイヤ1と前記マイクロカテーテル100と前記ガイディングカテーテル110との組立体が好適な治療用具の組立体例である。
【0083】
そして引張破断強度を向上させ、かつ高度の直線性・回転伝達性を備えた金属素線を用いた芯線2から成る本発明のガイドワイヤ1を用いることにより、心臓血管治療用のガイドワイヤの細径化を図ることができる。例えば、ガイドワイヤ1のコイル体3の外径が0.355mmから0.228mm(0.014インチから0.009インチ)へ、細径化できる。
そしてガイドワイヤ1をマイクロカテーテル100内へ挿入し、かつ、ガイディングカテーテル110内へ前記ガイドワイワイヤ1と前記マイクロカテーテル100とを挿入する。かかる場合において、ガイドワイヤ1の細径化に追従してガイディングカテーテル110は7F〜8Fから6F(内径2.3mm〜2.7mmから内径1.91mm〜2.00mm)となり、この中に挿入するマイクロカテーテル100(内径0.28mmから内径0.90mm)とともに細径化することができる。
そして又、下肢血管治療用ガイドワイヤについては、心臓血管径に対して概ね2倍から5倍以上と血管径が太く、かつ狭窄病変長は3倍以上と長く、この為強く押し進んでいく前進力が要求され、その外径(D1 、D2 、D6 、D7 )は概ね0.457mm(0.018インチ)で、かつ強く押し進んでいく前進力を得る為には、この前進力を支える反力が必要である。
【0084】
そしてこの強く押し進んでいく前進力を支える反力を受けるマイクロカテーテル100としては、多層樹脂管(内層PTFE,外層ポリアミド等)構造、又前記多層樹脂管体内に金属線の編組を介在させた構造の他、特に先端部が金属、又は合成樹脂製の略円錐形状の先端チップ100Bが固着されて、複数の金属線の丸線を多条コイル体に成形した螺旋条管体からなり、病変内の穿孔を可能とした金属性先端チップ、又は屈曲蛇行病変部への高い侵入性を有する先細円錐形状の樹脂製先端チップを備えた前記螺旋条管体から成る可とう性中空管体が望ましい。
【0085】
そしてさらに、心臓血管治療の手技対応においては、血管径が小さく、かつ屈曲蛇行が激しく、又下肢血管治療の手技対応においては、血管径は太いが狭窄、又は完全閉塞病変長が心臓血管に比べて3倍以上と長く、この閉塞部をガイドワイヤ1とともに穿孔していく為には、外周部が丸線の凸凹状を形成する金属線の丸線を用いた多条コイル体の螺旋条管体が望ましく、さらに望ましいのは、図13に示すように、多条線のうち、例えば線直径が0.11mmから0.18mmの太線100Cが1〜2本と、線直径が0.06mmから0.10mmの細線100Dが2〜8本を巻回成形、又は撚合構成し、若しくは太線1本に対して細線を2本から4本を一組として二組以上設けて各金属線を隣接接触させて巻回成形、又は撚合構成して中空状で外周部が凸凹状の螺旋条管体100Aの構造である。
【0086】
前記螺旋条管体100Aを用いる理由は、血管壁と多条線の外周部の凸凹部が接触して滑り移動を防いで、推し進めようとするガイドワイヤ1の反力を支える力が高いからであり、又、病変内での穿孔能力を併せもち、かつ、太線のほうが早く血管壁と接触し、その状態で一回転させると太線の撚りピッチのみで移動し、一回転での進行距離は長くなり、その結果ガイドワイヤ1を含む組立体としての進退操作が早くなるからである。尚、外周部の先端部、又は全体に前記凸凹状を形成する構造、又は狭窄部血管内挿入時に血管壁等の外部からの圧迫・押圧作用により外周部の少なくとも一部(先端から300mm以内)に前記凸凹状を形成する構造であれば、外周部に薄膜の樹脂チューブ体100E、又内側に同様の樹脂チューブ体100Fを設けた構造の可とう性中空管体であってもよい。
【0087】
そして又、血管分岐部の双方の血管内に狭窄部が形成され、この狭窄部を拡張する為の血管分岐病変部の手技におけるバルーンカテーテル等との組立体において、血管分岐病変部のそれぞれの病変部の手前でバルーンカテーテルのバルーン部を拡張させて血管壁へ当接させ、前進しようとするガイドワイヤ1の反力を支えることによりガイドワイヤ1の前方への推進力を発揮させ、ガイドワイヤ1とバルーンカテーテル(図示せず)とを一組として二組前記ガイディングカテーテル110内へ挿入してキッシング手技を容易に行なうことができる。尚、ここでいうキッシング手技とは、ガイドワイヤとバルーンカテーテルとを一組として二組ガイディングカテーテル110内へ挿入して血管の分岐病変部における二本のバルーンカテーテルのバルーン部を同時拡張させ、分岐している二箇所の狭窄病変部の血管内径を同時拡張させる手技のことをいう。
かかる場合の組立体としては、ガイドワイヤ1の外径が0.228mmから0.457mmでガイドワイヤ1を内径が0.28mmから0.90mmのバルーンカテーテル内へ挿入して一組とし、内径が1.91mmから2.67mmのガイディングカテーテル内へ、前記ガイドワイヤと前記バルーンカテーテルとを一組とする二組を挿入してキッシング手技を容易とすることを特徴とする組立体である。
【0088】
そして次に、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を伸線加工して低温熱処理を加えたときの引張強度特性が図3に示す特性を有することから、低温熱処理効果を高める別に方法について、以下補足説明する。
【0089】
図3に示すように、低温加熱処理温度が180℃から525℃で金属素線の引張破断強度の向上効果が得られることから、芯線2と放射線透過材コイル32から成るコイル体3とを部分的に接合する接合部材41、42、43又は先導栓5を形成する接合部材4に、前記金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する温度範囲と合致する温度範囲(180℃から525℃)の溶融温度を持つ共晶合金を用いることによっても芯線の金属素線の引張破断強度を向上させることができる。
具体的には、接合部材41、42は前記所定寸法の略円筒形状であり、又後端接合部材43は、前記所定寸法の前記放射線透過コイル材32と芯線2との接合で、その接合形状は、円筒状、又は手元側が先細りの略円錐形状である。(図1)尚、ここでいう接合部材4を用いて部分的に接合するとは、前記実施例で各接合部材41〜43の芯線2と放射線透過材コイル32との接合形態、及び先導栓5の芯線とコイル体3との接合形態のことをいう。
【0090】
そして放射線透過材コイル32、及び芯線2の前記金属素線と直接接合する接合部材4は、溶融温度が前記金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する温度範囲と合致する温度範囲(180℃から525℃)が望ましく、この温度範囲で溶融する共晶合金を用いることにより、接合部の前記金属素線の引張破断強度を向上させながら、かつ強固接合することができる。
そして接合部材4は、溶融温度が180℃から495℃の共晶合金、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには180℃から525℃の共晶合金を用いる。ここでいう共晶合金とは、合金の成分比を変更することにより得られる最低融点(溶融温度)を有する特殊な合金のことをいい、具体的には、金又は銀を含む合金材で金錫系合金材として金80重量%、残部が錫で溶融温度が280℃、又銀錫系合金として銀3.5重量%、残部が錫で溶融温度が221℃、そして、金88重量%、残部がゲルマニウムで溶融温度が356℃、又銀と錫とインジウムから成り、溶融温度が450℃から472℃の共晶合金であり、その代表例を表4に示す。
【0091】
【表4】

【0092】
ここで接合部材4として金を用いる理由は、放射線透視下における視認性向上、及び耐食性、展延性向上の為であり、銀を用いる理由は、融点調整等の為であり、錫を用いる理由は、融点を低下させてコイル体3、及び芯線2との濡れ性を向上させる為であり、又インジウム、銅を用いる理由も濡れ性向上の為であり、そしてゲルマニウムを用いる理由は、金属間化合物の結晶粒粗大化を抑止して、接合強度の低下防止を図る為である。
【0093】
そして接合部材4の溶融温度が180℃から495℃、又は180℃から525℃とした理由は、180℃を下回ると強加工伸線して加工硬化させた芯線2の金属素線の引張破断強度を接合部材4の溶融熱を利用して向上させる効果は低く、そして495℃を超えると前記金属素線のオーステナイト系ステンレス鋼線の特質から、又は525℃を超えるとMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線の特質から、前記各オーステナイト系ステンレス鋼線を520℃、又は540℃を超える800℃に加熱すると鋭敏化現象を生じて、前述のように極端に引張破断強度特性等を低下させることとなり、この現象を防ぎ、芯線2の機械的強度特性を最大限に発揮させる為である。
そして、接合部材4の溶融熱により各接合部の前記金属素線の引張破断強度は増大し、この引張破断強度増大に伴い引張応力は増大し、その結果接合部での芯線2の耐繰り返し曲げ疲労特性は向上する。
【0094】
そして、例えば、図5に示すように先導栓5の先端から50mm(図示D寸法)に位置する中間接合部材411と中間接合部材412、413との各間隔を10mm(図示C寸法)として前記同様の中間接合部材を10個配置して中間接合部材間の全長を90mmとすることにより、部分的に接合する接合部材を用いても芯線2の長尺位置(図示90mm)にわたって低温加熱処理を施すことができ、芯線2の引張破断強度を高めることができる。
この方法によれば、全体加熱する雰囲気加熱による熱処理炉を用いなくても、部分的に一定の狭い範囲であっても必要部位の芯線2の引張破断強度を向上させることができる。 そしてさらに、この構造体では、等間隔の中間接合部材411、412、413の配置とすることにより、狭窄病変長の計測が可能となる効果を併せもつことができる。尚、中間接合部材の位置、及びその範囲を前記寸法としたのは、この範囲であれば、一般的に冠状動脈に多く見られる狭窄病変位置に該当するからである。
そして補足すれば、先導栓5に共晶合金である接合部材4を用いることにより、先導栓5と芯線2との接合部での金属素線の引張破断強度を向上させることができ、その結果狭窄病変内で前記接合部での耐屈曲疲労特性を向上させることができる。尚、補足すれば、この接合工程は芯線先端部21の機械的加工の研削工程後に、又は研削工程後に押圧加工した後に、芯線先端部21の外周部にコイル体3を装着し、その後接合部材4を用いて接合部材41〜43、411、412、413の接合、及び先導栓5を接合する。その後コイル体3の外周部に樹脂被膜6を施す工程となる。
【0095】
そしてガイドワイヤは手技前に生理食塩水に浸漬、又は手技後の生理食塩水を用いて洗浄する為、例えば接合部材4が銀系共晶合金を用いた場合には、浸漬約1時間以内で硫化銀等の形成、又は塩化銀を形成して銀化合物の感光性により、黒色化が始まり、時間の経過とともに黒色化がさらに進んで腐食が増大して接合強度が低下する。この為、腐食進行による接合強度の低下防止、及び黒色化の防止の為には、金系共晶合金の接合部材4を用いることが望ましい。
そして前記金系共晶合金の接合部材4を用いて放射線透過材コイル32と、放射線不透過材コイル31とを部分的に接合する際、放射線不透過材コイル31の金属線が金、又は金成分を含む材料、並びに金めっきした材料であれば、前記接合部材4との濡れ性が向上し、より望ましい接合形態である。
【0096】
そして次に、接合部材4を併せ用いた医療用ガイドワイヤの具体例について、以下説明する。
可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体とを接合部材を用いて部分的に接合した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線は金属素線から成り、
前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線と伸線後の低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線を設けて、
前記最終伸線までの総減面率を90%から99.5%とし、
前記低温加熱処理が、180℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃とし、
前記最終伸線までの前記低温加熱処理による前記金属素線の引張破断強度の増加率の合計が8%以上とし、
前記最終伸線した後に、前記芯線と前記コイルスプリング体とを前記接合部材を用いた部分的な接合が、前記接合部材の溶融熱を利用した低温加熱処理とし、
前記接合部材は、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成り、又は前記芯線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金から成り、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤである。
【0097】
そして又、接合部材4を併せ用いた医療用ガイドワイヤの製造方法として、
可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体とを接合部材を用いて部分的に接合した医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記芯線は金属素線から成り、
前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と伸線工程後の低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を90%から99.5%とし、
前記低温加熱処理工程が、180℃から495℃で10分から180分とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で10分から180分とし、
前記最終伸線工程までの前記低温加熱処理工程による前記金属素線の引張破断強度の増加率の合計が8%以上とし、
その後、前記最終伸線後の前記金属素線に、前記金属素線の温度が180℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で30秒から180分の低温加熱処理工程下で、
前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから275回/mの捻回加工工程とする前記低温加熱処理下での前記捻回加工工程とし、
その後、前記芯線と前記コイルスプリング体とを前記接合部材を用いて部分的に接合する工程が、前記接合部材の溶融熱を利用した低温加熱処理工程とし、
前記接合部材は、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成り、又は前記芯線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金から成り、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法である。
この構成により、特に芯線先端部21の押圧加工による局部的に発生している残留応力の除去、及びコイルスプリング体のコイル成形加工による局部的に発生している残留応力を除去し、かつ接合部での芯線先端部21の引張破断強度向上に伴う耐繰り返し曲げ疲労特性を向上させることができる医療用ガイドワイヤ、及びその製造方法である。
【0098】
(発明の効果)
以上説明のとおり、本発明の医療用ガイドワイヤは、強加工の伸線加工と低温加熱処理とを組み合わせて、強加工の伸線加工した金属素線の温度と引張破断強度特性との相関性に着目して、引張破断強度が急傾斜増大する温度域での鋼種に適した低温加熱処理を行うことにより、高強度の引張破断強度を有する金属素線を得ることができる。
そしてさらに、最終伸線した後の芯線に、芯線の温度が芯線の引張破断強度が急傾斜増大する温度域で鋼種に適した「低温加熱処理下での捻回加工」、又は「捻回加工後の低温加熱処理」を行うことにより、芯線の引張破断強度が高く、かつ直線性・回転伝達性の高い芯線を用いて成る医療用ガイドワイヤにより、狭窄病変部へ導入する際の屈曲変形後のストレート状への復元力を高め、かつ耐繰り返し曲げ疲労特性を向上させた新たな技術思想から成る医療用ガイドワイヤ等を提供するものである。以上の諸効果がある。
【符号の説明】
【0099】
1 ガイドワイヤ(医療用ガイドワイヤ)
2 芯線
21 芯線先端部
3 コイルスプリング体(コイル体)
31 放射線不透過材コイル
32 放射線透過材コイル
33 内側コイルスプリング体
4 接合部材
41 中間前側接合部
42 中間後側接合部
43 後端接合部
5 先導栓
6 樹脂被膜
7 親水性被膜
100 マイクロカテーテル
110 ガイディングカテーテル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体とを接合部材を用いて部分的に接合した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記芯線は金属素線から成り、
前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線と伸線後の低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線を設けて、
前記最終伸線までの総減面率を90%から99.5%とし、
前記低温加熱処理が、180℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃とし、
前記最終伸線までの前記低温加熱処理による前記金属素線の引張破断強度の増加率の合計が8%以上とし、
前記最終伸線した後に、前記金属素線の温度が180℃から495℃で、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で低温加熱処理を行い、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記最終伸線までの前記金属素線の低温加熱処理が、300℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃とし、
前記最終伸線までの前記低温加熱処理による前記金属素線の引張破断強度の増加率の合計が10%以上とし、
前記最終伸線した後に、前記金属素線の温度が300℃から495℃で、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃で低温加熱処理を行い、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.150X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項1記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記金属素線の最終伸線までの総減面率を94%から99.5%とし、
前記最終伸線までの前記金属素線の低温加熱処理が、300℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃とし、
前記最終伸線した後に、前記金属素線の温度が300℃から495℃で、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃で低温加熱処理を行い、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.200X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
請求項1記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記金属素線の最終伸線までの総減面率を97%から99.5%とし、
前記最終伸線までの前記金属素線の低温加熱処理が、300℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃とし、
前記最終伸線した後に、前記金属素線の温度が300℃から495℃で、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃で低温加熱処理を行い、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.300X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記最終伸線後に、前記金属素線に低温加熱処理下で捻回加工を行い、又は前記捻回加工後に前記低温加熱処理を行い、
前記低温加熱処理は、前記金属素線の温度が180℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃とし、
前記捻回加工は、前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから275回/mの捻回加工を行い、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
請求項5記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記最終伸線後に、前記捻回加工における低温加熱処理は、前記金属素線の温度が300℃から495℃、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃の電気抵抗加熱とし、
前記捻回加工は、前記金属素線の一端に負荷加重を加えた状態で他端を捻回し、
前記金属素線の捻回加工前の引張破断力P(kgf)に対する負荷加重W(kgw)の割合を負荷加重比X(%)とし、前記負荷加重比X(%)はW÷P×100の関係とした場合に、捻回数N(回/m)は、
−0.8X+124≦N≦−1.8X+284の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項7】
可とう性細長体から成る芯線と、前記芯線の先端部に前記芯線を貫挿したコイルスプリング体を装着し、前記芯線と前記コイルスプリング体とを接合部材を用いて部分的に接合した医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記芯線は金属素線から成り、
前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と伸線工程後の低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を90%から99.5%とし、
前記低温加熱処理工程が、180℃から495℃で10分から180分とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で10分から180分とし、
前記最終伸線工程までの前記低温加熱処理工程による前記金属素線の引張破断強度の増加率の合計が8%以上とし、
その後、前記最終伸線後の前記金属素線に、前記金属素線の温度が180℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で30秒から180分の低温加熱処理工程下で、
前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから275回/mの捻回加工工程とする、前記低温加熱処理下での前記捻回加工工程とし、
前記金属素線の引張破断強度をY(kgf/mm2 )とし、総減面率をX(%)とした場合に、
450≧Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記最終伸線工程後の前記金属素線に、前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから275回/mの捻回加工工程とし、
その後、前記金属素線の温度が180℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃で30秒から180分の低温加熱処理工程とする、前記捻回加工工程後の前記低温加熱処理工程とし、前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項9】
請求項7〜8のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記最終伸線工程後の前記金属素線に、前記低温加熱処理工程下での前記捻回加工工程、又は前記捻回加工工程後の前記低温加熱処理工程における、前記低温加熱処理工程が、 前記金属素線の温度が300℃から495℃で30秒から180分、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃で30秒から180分の電気抵抗加熱とし、
前記捻回加工工程が、前記金属素線の一端に捻回加工前の前記金属素線の引張破断力の5%から30%の負荷加重を加えた状態で、他端を100回/mから200回/mの捻回加工工程とし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記最終伸線工程後の前記金属素線に、前記低温加熱処理工程下での前記捻回加工工程、又は前記捻回加工工程後の前記低温加熱処理工程における、前記捻回加工工程が、
前記金属素線の一端に負荷加重を加えた状態で他端を捻回し、
前記金属素線の捻回加工前の引張破断力P(kgf)に対する負荷加重W(kgw)の割を負荷加重比X(%)とし、前記負荷加重比X(%)はW÷P×100の関係とした場合に、捻回数N(回/m)は、
−0.8X+124≦N≦−1.8X+284の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項11】
請求項10の記載の医療用ガイドワイヤの製造方法において、
前記捻回加工工程が、前記金属素線の一端に負荷加重を加えた状態で他端を捻回し、
前記金属素線の捻回加工前の引張破断力P(kgf)に対する負荷加重W(kgw)の割合を負荷加重比X(%)とし、前記負荷加重比X(%)はW÷P×100の関係とした場合に、捻回数N(回/m)は、
−0.8X+124≦N≦−2.8X+264の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた前記芯線から成ることを特徴とする医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤと、マイクロカテーテルと、ガイディングカテーテルとの組立体において、
前記医療用ガイドワイヤの外径が、0.228mmから0.457mm(0.009インチから0.018インチ)で、
前記医療用ガイドワイヤを、内径が0.28mmから0.90mmで、太線と細線を複数本巻回成形、又は撚合構成して病変内挿入時に外部からの圧迫・押圧作用により外周部の少なくとも先端側から300mm以内で太線と細線の巻回による凸凹状を形成する螺旋状管体から成るマイクロカテーテル内へ挿入し、かつ
内径が1.91mmから2.67mmの前記ガイディングカテーテル内へ、前記医療用ガイドワイヤと前記マイクロカテーテルが挿入されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか一つに記載の医療用ガイドワイヤと、バルーンカテーテルと、ガイディングカテーテルとの組立体において、
前記医療用ガイドワイヤの外径が、0.228mmから0.457mm(0.009インチから0.018インチ)で、前記医療用ガイドワイヤを、
内径が0.28mmから0.90mmの前記バルーンカテーテル内へ挿入して一組とし、内径が1.91mmから2.67mmの前記ガイディングカテーテル内へ、前記医療用ガイドワイヤと前記バルーンカテーテルを一組とする二組を挿入してキッシング手技を容易とすることを特徴とする医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−75532(P2012−75532A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221675(P2010−221675)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(309023704)株式会社パテントストラ (16)
【Fターム(参考)】