説明

医療用ガイドワイヤ

【課題】先端部が形態順応性に優れ、先端部に引き続く基端部がトルク伝達性に優れ、先端部と基端部とを接合する接合部を含む接合部付近の外径変化が小さい医療用ガイドワイヤを提供すること。
【解決手段】基端側部材12は先端側端面12aに向かって先細となるようにテーパ状に加工された部分を有し、基端側部材12の先端側端面12aには先端側部材11を挿入可能な長孔13を基端側部材12の軸線方向に設け、長孔13内に基端側端面11aを含む先端側部材11の一部を挿入し、基端側部材12の先端側端面12aとの間にロウ材14の浸入可能な隙間15を介在させて基端側部材12の先端側端面12aの外径と略同じ外径のコイル状線材16を先端側部材11の一部の外周を覆うように取り付け、隙間15から浸入したロウ材14により先端側部材11と基端側部材12とが接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療や検査を必要とする血管、消化管、気管、その他体腔(以下「要治療管」という)内に導入される細い管状のカテーテルを案内するのに用いられる医療用ガイドワイヤ(以下「ガイドワイヤ」ともいう)に関し、特に、先端部と基端部とを性能の異なる金属線材で構成した医療用ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
治療や検査を必要とする人体の要治療管内にカテーテルを導入する際には、カテーテルの導入に先だって医療用ガイドワイヤを所要部位まで導入している。医療用ガイドワイヤとして重要な性能は、手元操作によって要治療管内にスムーズに挿入できて、カテーテルを目的部位に正確に案内導入できることである。このため、医療用ガイドワイヤには、その先端部が複雑に蛇行する要治療管内に対応し、且つ要治療管の内壁を傷つけることなく挿入し得る形態順応性を備えるとともに、先端部に続く基端部が手元での微妙な操作量でも先端部に正確にトルクを伝達するトルク伝達性を備えていることが要求される。
【0003】
医療用ガイドワイヤの構造は用途に応じて各種のものがあるが、例えば、図4に示すように、所定長さの芯材30の周囲を合成樹脂31で被覆したものが知られている。芯材30には、ガイドワイヤとしての挿入部分に柔軟性を付与するため、先端部32は先端に向かって次第に断面積が減少する先細状に形成されている。
【0004】
上記芯材には、ステンレス鋼線またはピアノ線が従来から用いられている。しかし、この種の芯材を用いたガイドワイヤは、先端部分を先細形状にしても柔軟性に欠け、複雑に蛇行する分岐血管等に対しては適用し難いという問題があった。
【0005】
そこで、芯材として、超弾性合金であるNi−Ti系合金などを用いたガイドワイヤが提案されている。超弾性合金からなる芯材は、柔軟でかなりの範囲までの変形(約8%の歪み)に対しても復元性を有するため、手元操作中、折れ曲がりが生じ難く、且つ曲がりぐせがつきにくいなどの利点を有しているが、芯材が超弾性の単一材料からなるため、全体として形態順応性を充分に備えているが、伝達可能トルク及びねじり剛性がステンレス鋼線またはピアノ線に比較して劣るため、基端部のトルク伝達性に難点がある。
【0006】
このように、ガイドワイヤとして必要とされる形態順応性とトルク伝達性を一種類の材料で満たすことは困難である。そこで、図5に示すように、特許文献1には、ガイドワイヤの先端側部材と基端側部材を異なる材料で構成し、形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材とトルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを接合して1本のガイドワイヤとすることが提案されている。
【0007】
図5に示す従来のガイドワイヤ1は、材料の異なる第1ワイヤ2(先端側部材)と第2ワイヤ3(基端側部材)とからなり、第1ワイヤ2の細径部4に形成された第一切欠部5と第2ワイヤ3の細径部6に形成された第2切欠部7とが互いに重なり合った状態に配置され、この重なり合った部分の外周を覆うように管状接続部材8が設けられ、第1ワイヤ2の細径部4および第2ワイヤ3の細径部6の外周面と管状接続部材8の内周面との間の隙間にはロウ材9が充填されて第1ワイヤ2と第2ワイヤ3が接合されている。
【特許文献1】特開2004−16359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5に示すガイドワイヤのように、先端側(挿入側)と基端側(操作側)を異なる部材で構成し、形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを接合して1本のガイドワイヤとすると、形態順応性とトルク伝達性を備えたガイドワイヤを得ることは可能である。しかし、このようにガイドワイヤを2種類の部材で接合した構成とする場合、図5に示すガイドワイヤ1では、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3が、接合部の外周に配置した管状接続部材8の内周面と第1ワイヤ2および第2ワイヤ3の各外周面との間の隙間に充填されたロウ材9で接合される構成であるため、この接合部の外径がその前後のワイヤ径よりも太くなるため、要治療管の内壁を傷つけることなくスムーズに挿入することが困難になる。
【0009】
また、近年の医療技術の急速な進歩に伴って、複雑な分岐血管に対しても適用できるようにするため、医療用ガイドワイヤには、先端部の形態順応性と基端部のトルク伝達性を、より一層向上することが求められている。そして、ガイドワイヤ先端部は、より一層細い血管内に挿入できるようにすることが要望されており、細径血管内にスムーズに挿入できるようにするためには先端部と基端部との接合部の外径変化を一層滑らかにすることが必要で、その接合部の長手方向位置が最先端部に近づけば近づくほど、接合部の外径変化が小さいことが好ましい。
【0010】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、先端部が形態順応性に優れ、先端部に引き続く基端部がトルク伝達性に優れ、先端部と基端部とを接合する接合部を含む接合部付近の外径変化が小さい医療用ガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の医療用ガイドワイヤは、形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを有し、先端側部材の基端側端面と基端側部材の先端側端面とに介在させた接合材料により両部材を接合してなる医療用ガイドワイヤにおいて、基端側部材は先端側端面に向かって先細となるようにテーパ状に加工された部分を有し、基端側部材の先端側端面には先端側部材を挿入可能な長孔を基端側部材の軸線方向に設け、上記長孔内に基端側端面を含む先端側部材の一部を挿入し、基端側部材の先端側端面との間にロウ材の浸入可能な隙間を介在させて基端側部材の先端側端面の外径と略同じ外径の接続部材を先端側部材の一部の外周を覆うように取り付け、上記隙間から浸入したロウ材により先端側部材と基端側部材とが接合されていることを特徴としている。
【0012】
このように、基端側部材は先端側端面に向かって先細となるようにテーパ状に加工された部分を有し、基端側部材の先端側端面の軸線方向に設けた長孔には基端側端面を含む先端側部材の一部を挿入し、基端側部材の先端側端面の外径と略同じ外径の接続部材により先端側部材の一部の外周を覆うようにしたので、先端部と基端部とを接合する接合部を含む接合部付近の外径変化が小さいので、細い血管内に挿入するに際しても接合部が障害となりにくく、スムーズに挿入することが可能になる。
【0013】
さらに、接続部材が基端側部材に引き続く先端側部材の一部の外周を覆っているので、手元での微妙な操作を正確に先端部に伝達することが可能になる。すなわち、先端側部材は形態順応性の良好な金属線材から形成されているので、基端側部材に比べてやや剛性が低い。そのため、基端側部材の操作に対応して先端側部材を要治療管内にスムーズに挿入できないことがある。しかし、接続部材は基端側部材に引き続く先端側部材の一部の外周を覆っているので、基端側部材から先端側部材に至る剛性の変化が滑らかになり、基端部での手元操作を正確に先端部に伝達し、柔軟で形態順応性に優れた先端部を随意に要治療管内に挿入することが可能になる。
【0014】
長孔内面および長孔内に挿入される先端側部材外周には、ロウ材の浸入前に予めNiメッキが施されていることが好ましい。ロウ材による接合面の密着強度を向上することができるからである。
【0015】
また、接合材料としてロウ材に代えて接着剤により先端側部材と基端側部材を接合することもできる。すなわち、形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを有し、先端側部材の基端側端面と基端側部材の先端側端面とに介在させた接合材料により両部材を接合してなる医療用ガイドワイヤにおいて、基端側部材は先端側端面に向かって先細となるようにテーパ状に加工された部分を有し、基端側部材の先端側端面には先端側部材を挿入可能な長孔を基端側部材の軸線方向に設け、基端側端面を含む先端側部材の一部の外周に接着剤を塗布してその先端側部材を上記長孔内に挿入し、基端側部材の先端側端面に対面する位置を起点として基端側部材の先端側端面の外径と略同じ外径の接続部材を先端側部材の一部の外周を覆うように取り付け、上記接着剤により先端側部材と基端側部材とが接合されていることが好ましい。
【0016】
上記と同様に、先端部と基端部とを接合する接合部を含む接合部付近の外径変化が小さいので、細い血管内に挿入するに際しても接合部が障害となりにくく、スムーズに挿入することが可能になり、また、接続部材は基端側部材に引き続く先端側部材の一部の外周を覆っているので、基端側部材から先端側部材に至る剛性の変化が滑らかになり、基端部での手元操作を正確に先端部に伝達し、柔軟で形態順応性に優れた先端部を随意に要治療管内に挿入することが可能になるからである。
【0017】
さらに、先端側部材は最先端部に向かって先細となるようにテーパ状に加工されていることが好ましい。細い血管内への挿入が一層スムーズにできるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の医療用ガイドワイヤは上記のように構成されているので、次の効果を奏する。
(1)請求項1および3記載の発明によれば、先端部と基端部とを接合する接合部を含む接合部付近の外径変化が小さいので、細い血管内に挿入するに際しても接合部が障害となりにくく、スムーズに挿入することが可能になるとともに、接続部材は基端側部材に引き続く先端側部材の一部の外周を覆っているので、基端側部材から先端側部材に至る剛性の変化が滑らかになり、基端部での手元操作を正確に先端部に伝達し、柔軟で形態順応性に優れた先端部を随意に要治療管内に挿入することが可能になる。
(2)請求項2記載の発明によれば、ロウ材による接合面の密着強度を向上することができる。
(3)請求項4記載の発明によれば、柔軟で形態順応性に優れた先端部をよりスムーズに要治療管内に挿入することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0020】
形態順応性の良好な金属線材としては、限定されるものではないが、例えば、Ni−Ti系合金、Cu−Al−Ni系合金、Cu−Zn−Al系合金などを挙げることができる。
【0021】
トルク伝達性に優れた金属線材としては、限定されるものではないが、例えば、ステンレス鋼、ピアノ線などを用いることができる。中でも、高珪素ステンレス鋼を好ましく用いることができる。この高珪素ステンレス鋼の組成を重量%で表した場合、C=0.08%以下、Si=3.0〜5.0%、Mn=3.0%以下、Ni=4.0〜12.0%、Cr=12.0〜24.0%、Mo=0.9〜2.0%、Cu=0.5〜2.0%で、残部が鉄および不可避的不純物からなるものを用いることができる。この高珪素ステンレス鋼は、引張り強さや衝撃値が高く、強靱性に富んだ材料であり、優れたトル伝達性が要求される基端部の材料として好ましい。この高珪素ステンレス鋼は析出硬化系のステンレス鋼であり、高強靱性を珪素の働きに依存するものであって、充分な強靭性を付与するには3%以上の珪素を含有する必要があるが、炭素の含有は不必要であるばかりでなく含有量が高くなって0.08%を超えると靭性が低下する。また、珪素が5%を超えても靭性が低下する傾向を示すので避けるべきである。モリブデンはフェライト生成元素であり、銅およびマンガンはオーステナイト生成元素であることが知られており、上記範囲内でモリブデンと銅とマンガンを含有することにより、オーステナイトとフェライトの2相組織が得られ、耐食性が向上する。
【0022】
接続部材としては、ステンレス鋼、TiまたはTi系合金、アルミニウムもしくはアルミニウム系合金、マグネシウムもしくはマグネシウム系合金、Ni−Ti系合金、Cu系合金、またはNi系合金は、いずれもロウ材との接着性が良好で適度の弾性および引張り強度を備えているので、接続部材を構成する材料として好ましく用いることができる。また、接続部材の形状としては、例えば、パイプ、パイプに多数の孔をあけたもの、メッシュ状パイプ(線材をパイプ状に編んだもの)、コイル状線材(線材をコイル状に巻いたもの)などを用いることができる。
【0023】
先端側部材と基端側部材を接合するロウ材としては、接合対象材料に濡れやすく、接合作業に適した溶融温度範囲を持ち、接合界面の隙間に毛細管力により浸入し、継手として必要な機械的、電気的、化学的性質を有することが好ましい。限定されるものではないが、硬ロウ材としては、アルミニウム合金ロウ、リン銅ロウ、銀ロウ、金ロウなどがあり、軟ロウ材としては、亜鉛、鉛などの単体金属、Sn−Pb系合金、Cd−Zn系合金、Pb−Ag系合金、Sn−Ag系合金などを挙げることができる。中でもステンレス鋼やNiとの相溶性に優れた銀ロウが好ましい。銀ロウは流動性が高いので、毛細管現象により僅かな隙間に瞬時に流れ込むことが可能であるという点で、本発明のロウ材として好ましく用いることができる。さらに、医療用途であるということを考慮すると、カドミウムを含まず且つ低融点のものが好ましい。融点が低ければ、加熱時間も短くて済むので、加熱による接合部近傍の金属線材の特性変化をより小さく抑えることができるからである。
【0024】
鉛を含まない軟ロウ材は融点が非常に低く(約200〜280℃)、溶融接合に際しての接合部近傍の金属線材の特性変化をより小さく抑えることができるという点では好ましい。ところが、ガイドワイヤの全体が合成樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))で被覆されることがある。このPTFE被膜の被覆は約250〜300℃の温度で行われるため、この被覆時の温度で溶融するような融点の低いロウ材は好ましくない。そこで、少なくとも、PTFE被膜被覆時の加熱温度よりも高い融点を有するロウ材が好ましい。
【0025】
ロウ接に際しては、接合対象材料と溶融ロウが濡れやすくなるように、接合界面に存在する酸化物のような物質を溶解、除去し、さらに酸化の防止のためにフラックスを使用することが好ましい。ロウ接のための熱源としては、例えば、高周波誘導加熱、抵抗加熱、超音波などを挙げることができるが、極く短時間の加熱によりロウ材を溶融して接合部の隙間に充填することができるという点で、高周波誘導加熱が好ましい。高周波誘導加熱によれば、ピンポイントに電磁波エネルギーを集中させて局部的な加熱ができるので、極く短時間でロウ材を溶融させて接合部の隙間に充填させることができる。その結果、ロウ材充填時の加熱によって接合部近傍の金属線材の特性が変化するのを抑えることができるという効果がある。
【0026】
先端側部材の直径は、限定されるものではないが、0.1〜0.34mm程度とし、最先端部に向けて先細となるようなテーパ形状とすることは、先端部の剛性変化を滑らかにして先端部の柔軟性を高める上で好ましい。なお、医療用ガイドワイヤの直径は規格により0.34mmと定められている。
【0027】
限定されるものではないが、ガイドワイヤの全長(先端側部材と基端側部材の合計長さ)は1500〜1800mm程度とし、先端側部材の長さは50〜500mm程度とすることが、ガイドワイヤの操作性を高める上で好ましい。
【0028】
基端側部材の先端側端面の軸線方向に設ける長孔の直径は、限定されるものではないが、挿入される先端側部材の直径よりも僅かに大きくし、具体的には0.08〜0.30mm程度とし、長孔に挿入する先端側部材の長さは、1〜10mm程度が好ましく、この先端側部材の長さよりも僅かに大きくなる程度に長孔の長さを設定するのが好ましい。ロウ材の浸入する隙間を確保するためである。
【0029】
先端側部材と基端側部材を接合する接着剤としては、フェノール樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、クロロプレン系、ニトリルゴム系の接着剤を挙げることができる。これらの中でも、エポキシ樹脂系接着剤とニトリルゴム系接着剤を好ましく用いることができる。ニトリルゴムは、各種ゴムの中で極性が最も大きく、この特性は接着剤としての大きな特徴となり、金属などの極性材料に対する接着力が高い。しかし反面、強力な溶剤を使っているので、塗装面を侵しやすく、プラスチックなどは膨れやひび割れを起こすことがある。エポキシ樹脂系接着剤は揮発性の溶剤を含まないから、硬化後もほとんど収縮せず、接着層の膜厚が大きくても亀裂が入らず、接着力が低下しないという特徴があるので、より好ましい。
【実施例1】
【0030】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない限り、適宜修正や変更が可能である。
【0031】
図1(a)は、所定長さ(1600mm)の本発明の医療用ガイドワイヤ10の断面を含む側面図であり、上記したように、ガイドワイヤ10の長さは用途に応じて1500〜1800mmの範囲で選択される。
【0032】
図1(a)において、ガイドワイヤ10は形態順応性の良好なNi−Ti系合金(Niが51%で残部がTi)の金属線材から形成された先端側部材11と、トルク伝達性に優れた高珪素ステンレス鋼の金属線材から形成された基端側部材12とを有している。この実施例1において、後記する長孔13内に挿入される部分を除く先端側部材11の長さは150mmである。先端側部材11の基端側端面11aの直径は0.19mm、最先端部11bの直径は0.18mmであり、先端側部材11は最先端部11bに向かって先細となるようにテーパ状に加工されている。さらに、最先端部11bは曲面状に形成されており、要治療管内に挿入された場合に、最先端部11bにより要治療管の内壁が傷つかないように配慮されている。
【0033】
基端側部材12の先端側端面12aの直径は0.30mmであり、この先端側端面12aに向かって直径が0.34mmである外周上の位置12bから先細となるようにテーパ状に加工されている(外周上の位置12bから右方の基端側部材12の直径は0.34mmである)。この実施例1におけるテーパ状加工部の長さMは150mmであるが、Mは30〜300mmの範囲で選択することが好ましい。テーパ状加工部の長さMが30mmより短くなると、基端側部材12から先端側部材11に至る剛性変化の滑らかさに欠け、テーパ状加工部の長さMが300mmより長くなると、基端側部材12から先端側部材11に至る剛性変化の滑らかさはそれほど向上しないが、テーパ状に加工するための加工コストの大きな上昇を招いてしまうからである。
【0034】
高珪素ステンレス鋼の基端側部材12は、次に説明するようなプロセスを経て製造された。すなわち、重量%で、C=0.02%、Si=3.5%、Mn=2.0%、Ni=6.0%、Cr=16.0%、Mo=1.0%、Cu=1.5%で、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成の直径6.0mmの線材を直径0.34mmに縮径し、この直径0.34mmの高珪素ステンレス鋼製の線材に機械加工により真直加工を施した後、0〜600℃の温度下で10分間保持するという熱処理を行うことにより基端側部材12を得た。そして、センタレス研削により、基端側部材12の先端部にテーパ加工を施した。
【0035】
なお、図1(a)に示すガイドワイヤ10の全体を合成樹脂で被覆することができ、先端側部材11のみを合成樹脂で被覆することもできる。その合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン、シリコンゴム、ポリテトラフルオロエチレンなどを用いることができる。
【0036】
図1(b)に拡大して示すように、基端側部材12の先端側端面12aには、基端側端面11aを含む先端側部材11の一部を挿入可能が長孔13が基端側部材12の軸線方向に設けられている。この実施例1における長孔13の直径dは0.20mmであり、長さLは2.00mmである。長さLは直径dの10倍程度が、ガイドワイヤの操作性を損なわず、しかも、先端側部材11と基端側部材12との良好な接合を確保する上で好ましい。この長孔13は、本実施例では放電加工により形成したが、ドリル加工により長孔13を形成することもできる。
【0037】
基端側部材12の先端側端面12aとの間にロウ材(銀ロウ)14が浸入可能な隙間15を介在させて基端側部材12の先端側端面12aの外径(0.30mm)と同じ外径(0.30mm)の接続部材(コイル状線材)16が先端側部材11の一部の外周を覆うように取り付けられている。なお、ロウ材14は、隙間15を覆うようにリング状に配置されている。図1(c)に拡大して示すように、隙間15から浸入したロウ材14が基端側部材12と長孔13内に挿入された先端側部材11との間の隙間に流入して先端側部材11と基端側部材12がロウ接され、一部のロウ材14はコイル状線材16と先端側部材11との隙間にも流入してコイル状線材16は先端側部材11とロウ接される(図1(c)の灰色の着色部がロウ接部分を示す)。しかし、コイル状線材16と先端側部材11とのロウ接部分の長さは先端側部材11と基端側部材12とのロウ接部分の長さに比べて充分に短くなるように接合部が加熱されるので、コイル状線材16の可撓性が損なわれることはない。ロウ材14による接合密着強度を向上するために、長孔13の内面および長孔13内に挿入される先端側部材11の外周には、ロウ材14の浸入前に予めNiメッキが施されている。コイル状線材16は、SUS304製の厚さtが0.05mmで、幅wが0.15mmである矩形断面(図1(d)参照)の平バネであり、全長Nは15mmである。
【0038】
この実施例1におけるコイル状線材16の長さNは15mmであるが、Nは5〜30mmの範囲で選択することが好ましい。コイル状線材16の長さNが5mmより短くなると、基端側部材12から先端側部材11に至る剛性変化の滑らかさに欠けるので、基端部での手元操作を正確に先端部に伝達することがやや難しくなる。一方、コイル状線材16の長さNが50mmより長くなると、剛性の小さい先端側部材の長さが不足して先端部での微妙な動作をすることがやや難しくなる。
【0039】
また、コイル状線材16の厚さtは0.01〜0.10mmとし、幅wは0.07〜0.30mmの矩形断面とすることが好ましい。適度の剛性を有することで、柔軟性と操作性を兼備することができるからである。
【0040】
隙間15の寸法は、ロウ材が浸入可能な間隙であればよく、例えば、3〜10μmが好ましい。3〜10μmであれば、隙間に毛細管現象でロウ材14が浸入しやすいからである。隙間15の寸法が3μmより小さくなると、ロウ材14が浸入しにくくなるという不都合がある。一方、隙間15の寸法が10μmより大きくなると、ロウ材の量が過大となってロウ材溶融のための加熱時間が長くなるので、ロウ接部近傍の先端側部材11と基端側部材12の金属特性が変化するという不都合があるからである。この実施例における隙間15の最小寸法は6μm、最大寸法は10μmである。
【0041】
この実施例のガイドワイヤ10は以下に説明するようにして製造した。まず、先端側部材11と基端側部材12をそれぞれ所定材料で所定寸法に形成し、図1(a)に示すように、基端側端面11aを含む先端側部材11を長孔13内に挿入し、隙間15の寸法が上記範囲内に収まるようにコイル状線材16を先端側部材11の一部の外周を覆うように取り付け、コイル状線材16と基端側部材12の先端側端面12aとの間にロウ材(銀ロウ)14を置いた状態で高周波誘導加熱装置(図示せず)によりコイル状線材16を加熱した。符号17は高周波誘導加熱装置のコイルを示す。
【0042】
この加熱により、図1(c)に示すように、ロウ材14が溶融して、長孔13内に挿入された先端側部材11と基端側部材12との隙間に流入して先端側部材11と基端側部材12がロウ接され、一部のロウ材14はコイル状線材16と先端側部材11との隙間にも流入してコイル状線材16は先端側部材11とロウ接され、かくして、先端側部材11と基端側部材12が接合された。先端側部材11と基端側部材12とのロウ接部分の長さ(約2mm)に比べてコイル状線材16と先端側部材11とのロウ接部分の長さ(約0.4mm)は充分に短いので、コイル状線材16の可撓性が損なわれることはない。また、高周波誘導加熱装置による加熱であるため、ロウ材14は溶融した瞬間に瞬時にして隙間15を経て接合部に充填された。
【0043】
加熱温度は、ロウ材14の溶融温度に応じて設定することができ、一般的には、550〜900℃であるが、ロウ材14を構成する銀ロウの融点ならびにロウ接時のロウ接部近傍の先端側部材11と基端側部材12が受ける熱による金属特性の変化を考慮すると、650〜700℃が好ましい。加熱温度をこのように設定し、高周波誘導加熱装置により接合部を局部的に加熱して熱源を集中し、接合部をピンポイントで加熱することで、ロウ接部近傍の金属線材への熱影響を最小限に抑えることができる。
【0044】
また、要治療管内への挿入時の障害となる恐れがある突起部における外径変化を極力小さくするために、図1(c)に示すように、最先端部に近いコイル状線材16の端部材料にテーパ加工(幅方向に厚みが小さくなるように加工すること)18を施すことは好ましい。
【実施例2】
【0045】
ロウ材の代わりに、接着剤により先端側部材11と基端側部材12を接合することもできる。すなわち、図1(a)において、ロウ材14を除いて、基端側端面11aを含む先端側部材11の一部の外周に上記接着剤を塗布してその接着剤を塗布した先端側部材11を長孔13内に挿入し、基端側部材12の先端側端面12aに対面する位置を起点として(実質的に端面12aとの間に隙間がないようにして)、基端側部材12の先端側端面12aの外径と略同じ外径の接続部材(コイル状線材16)を先端側部材11の一部の外周を覆うように取り付け、接着剤により先端側部材11と基端側部材12とを接合することもできる。なお、基端側部材12の先端側端面12aに対面する位置にある一部のコイル状線材16(コイル状線材16の全長の10〜20%程度の部分)については、柔軟性を低下させずに操作性を確保するという点から先端側部材11と上記接着剤により接合することが好ましい。「略同じ外径」とは、基端側部材12またはコイル状線材16に特別な物理的加工あるいは化学的加工を施すことにより、厳密に両部材が等しい外径になるような特別の処理を施さなかったという意味であり、「実質的に同じ外径であるということ」と同義である。
【実施例3】
【0046】
次に、接合強度、トルク伝達性および曲げ性を従来のガイドワイヤと比較するために、比較例として図5に示す構造に類似する医療用ガイドワイヤを製造した。すなわち、第1ワイヤ2(実施例1の先端側部材11に相当)を実施例1と同じ材料(Ni−Ti系合金)で直径0.24mm、長さ150mmとし、第2ワイヤ3(実施例1の基端側部材12に相当)を実施例1と同じ材料(高珪素ステンレス鋼)で直径0.24mm、長さ1450mmとし、管状接続部材8(実施例1のコイル状線材16に相当)を実施例1と同じ材料(SUS304)で外径を0.34mm、厚みを0.05mm、長さを15mmとし、ロウ材9充填用の隙間を隙間15の最大寸法と最小寸法の平均値である8μmに設定し、ロウ材(銀ロウ)を加熱して上記隙間に充填したものを製造した。
(1)接合強度
図1(a)に示す形状の本発明の医療用ガイドワイヤ10と比較例の医療用ガイドワイヤについて、引張試験機による引張試験を行って各供試材の破断荷重を測定することにより、接合強度を比較した。その結果を以下の表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に明らかなように、本発明の医療用ガイドワイヤの接合強度は比較例のものに比べて極めて高く、本発明の医療用ガイドワイヤは強力に接合されることが分かる。
(2)トルク伝達性
図2はガイドワイヤのトルク伝達性を評価するための試験装置の概略斜視図である。図2に示す装置を用いて、図1(a)に示す形状の本発明の医療用ガイドワイヤと比較例の医療用ガイドワイヤについて、基端部19にアーム20を取り付け、このアーム20を矢印方向に10度づつゆっくりと180度回転させ、先端部21に生じるトルクを先端部21に取り付けたアーム22を介して電子天秤23により測定した。以下の表2には、上記方法により測定したトルクを比較例のガイドワイヤのものを100とするトルク伝達性指数により示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に明らかなように、本発明の医療用ガイドワイヤのトルク伝達性指数は比較例のものに比べて高く、本発明の医療用ガイドワイヤは優れたトルク伝達性を有していることが分かる。
(3)曲げ性
実際のガイドワイヤとしての操作性を知るために、以下に説明するような方法で曲げ性を調査した。すなわち、図3(a)に示すように、図1(a)に示す本発明の医療用ガイドワイヤを曲げると、基端側部材24から先端側部材25に至る剛性の変化が滑らかであるから、接合部26を対称中心として、ほぼ真円に近い形状に曲げることができた。
【0051】
しかし、比較例の医療用ガイドワイヤは、基端側部材と先端側部材の剛性が大きく異なるため、図3(b)に示すように、比較例の医療用ガイドワイヤを曲げると、接合部27が突出し、しかも接合部27を境として、剛性の小さい先端側部材に相当する第1ワイヤ2の曲率半径が小さく、剛性の大きい基端側部材に相当する第2ワイヤ3の曲率半径が大きいという、いびつな形状になった。
【0052】
このように、本発明の医療用ガイドワイヤは基端側部材から先端側部材に至る剛性の変化が滑らかであり、基端側部材での操作を先端側部材にほぼ正確に伝達することが可能である。その結果、先端部を随意に要治療管内に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1(a)は本発明の医療用ガイドワイヤの一実施例の断面を含む側面図、図1(b)は図1(a)の基端側部材の先端側端面を含む部分を拡大して示す断面図、図1(c)は図1(a)の接合部付近を拡大した図、図1(d)はコイル状線材の断面図である。
【図2】ガイドワイヤのトルク伝達性を評価するための試験装置の概略斜視図である。
【図3】図3(a)(b)はガイドワイヤの曲げ性を比較する図である。
【図4】従来の医療用ガイドワイヤの断面図である。
【図5】従来の別の医療用ガイドワイヤの接合部の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 医療用ガイドワイヤ
11 先端側部材
11a 基端側端面
11b 最先端部
12 基端側部材
12a 先端側端面
14 ロウ材
15 隙間
16 接続部材(コイル状線材)
17 高周波誘導加熱装置のコイル
18 テーパ加工
19 基端部
20 アーム
21 先端部
22 アーム
23 電子天秤
24 基端側部材
25 先端側部材
26 接合部
27 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを有し、先端側部材の基端側端面と基端側部材の先端側端面との間に介在させた接合材料により両部材を接合してなる医療用ガイドワイヤにおいて、基端側部材は先端側端面に向かって先細となるようにテーパ状に加工された部分を有し、基端側部材の先端側端面には先端側部材を挿入可能な長孔を基端側部材の軸線方向に設け、上記長孔内に基端側端面を含む先端側部材の一部を挿入し、基端側部材の先端側端面との間にロウ材の浸入可能な隙間を介在させて基端側部材の先端側端面の外径と略同じ外径の接続部材を先端側部材の一部の外周を覆うように取り付け、上記隙間から浸入したロウ材により先端側部材と基端側部材とが接合されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
長孔内面および長孔内に挿入される先端側部材外周には、ロウ材の浸入前に予めNiメッキが施されていることを特徴とする請求項1記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
形態順応性の良好な金属線材から形成された先端側部材と、トルク伝達性に優れた金属線材から形成された基端側部材とを有し、先端側部材の基端側端面と基端側部材の先端側端面との間に介在させた接合材料により両部材を接合してなる医療用ガイドワイヤにおいて、基端側部材は先端側端面に向かって先細となるようにテーパ状に加工された部分を有し、基端側部材の先端側端面には先端側部材を挿入可能な長孔を基端側部材の軸線方向に設け、基端側端面を含む先端側部材の一部の外周に接着剤を塗布してその先端側部材を上記長孔内に挿入し、基端側部材の先端側端面に対面する位置を起点として基端側部材の先端側端面の外径と略同じ外径の接続部材を先端側部材の一部の外周を覆うように取り付け、上記接着剤により先端側部材と基端側部材とが接合されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
先端側部材は、最先端部に向かって先細となるようにテーパ状に加工されていることを特徴とする請求項1または3記載の医療用ガイドワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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