説明

医療用キャップ及びその製造方法

【課題】 弾性栓体と、当該弾性栓体を内部で保持する支持体とを有する医療用キャップであって、針刺し時の液漏れがなく、また針抜けに対する保持力や復元力に優れるなど、密封性の確保に優れた医療用キャップ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、弾性栓体と、前記弾性栓体を内部で保持する支持体とを有する医療用キャップであって、前記支持体は、前記弾性栓体を取り囲んで収容する内部壁と、前記内部壁を取り囲む外部壁とを備え、前記内部壁と外部壁の間隙には、環状壁を備えた内栓が、当該環状壁を圧入させることにより設けられており、前記弾性栓体には、前記環状壁の圧入により、前記内部壁から圧力が加えられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液容器、採血管、バイアル瓶等の薬剤容器等に用いる医療用キャップ及びその製造方法に関する。特に、医療用に於いて針刺し可能な弾性栓体を備えた医療用キャップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野に用いられる薬液ボトルや点滴用の輸液ボトル等の薬剤容器には、針でその薬液を取り出せるようにするため、そのキャップとして、ゴム栓や、外枠体の内側に弾性栓体(例えば、ゴムやエラストマー樹脂等)を設けたものが用いられている。後者のキャップに於いては、外枠体を薬剤容器の口部に溶着等することにより取り付けられる。そして、使用時には弾性栓体に、取り出し用チューブを備えた注射針を突き刺し、薬剤容器を上側にし、キャップを下側に配置することにより、当該取り出し用チューブを介して容器内の輸液を取り出す。また、この様な医療用キャップには、薬液や輸液の漏洩防止や空気に触れることによる変質を防止するため、密閉性が求められる。
【0003】
前記医療用キャップとしては、例えば、弾性栓体の接液面と外枠体の底面保持部の上部とが融着しており、かつ前記弾性栓体の側面部と前記外枠体の側周部の内壁とは非融着状態で接触している構造のものが提案されている(下記特許文献1参照)。当該特許文献1によれば、ゴム特性が改善され、再シール性の向上も図れることが開示されている。
【0004】
しかし、従来の医療用キャップであると、弾性栓体と外枠体との密着が十分でない場合がある。この様な医療用キャップに於いては、針刺しの際に弾性栓体と外枠体の位置がずれて両者の間に空隙が生じたり、そのために2本目の針を刺すことや、再度針刺しを行うことが困難になるという問題がある。
【0005】
前記の問題を解決するため、下記特許文献2には、弾性栓体の接液面が、円中心方向へ向かって凸の傾斜を有した医療用キャップが開示されている。当該医療用キャップであると、外枠体から弾性栓体の水平方向成分に圧力が加わった状態であるため、再シール性の向上及び針抜けの防止が可能になる。
【0006】
また、下記特許文献3には、熱可塑性エラストマー成形品の外縁を抱囲するように、硬質プラスチックを、溶融射出して圧接させる複合材料成形品の製造方法が開示されている。当該製造方法によれば、熱可塑性エラストマー成形品は硬質プラスチックから圧縮応力を受けた状態で内嵌され、これにより、気密性及び液密性の向上が図れると記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2及び3に開示されている医療用キャップであっても、液漏れや針抜けの発生防止が不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−118185号公報
【特許文献2】特開平8−317961号公報
【特許文献3】特開2000−167865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、弾性栓体と、当該弾性栓体を内部で保持する支持体とを有する医療用キャップであって、針刺し時の液漏れがなく、また針抜けに対する保持力や復元力に優れるなど、密封性の確保に優れた医療用キャップ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、医療用キャップ及びその製造方法について検討した。その結果、下記構成を採用することにより、前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明に係る医療用キャップは、前記の課題を解決するために、弾性栓体と、前記弾性栓体を内部で保持する支持体とを有する医療用キャップであって、前記支持体は、前記弾性栓体を取り囲んで収容する内部壁と、前記内部壁を取り囲む外部壁とを備え、前記内部壁と外部壁の間隙には、環状壁を備えた内栓が、当該環状壁を圧入させることにより設けられており、前記弾性栓体には、前記環状壁の圧入により、前記内部壁から圧力が加えられていることを特徴とする。
【0012】
前記の構成によれば、前記内栓の環状壁が、支持体に於ける外部壁と内部壁の間隙に圧入されているので、内部壁により取り囲まれて収容されている弾性栓体に対し、その周縁部から圧力が加えられている。これにより、弾性栓体と内部壁の密着性が向上し、例えば、針刺しを行った際に、液漏れが発生するのを防止することができる。また、針抜けに対する保持力及び復元力にも優れ、更に針抜き後の再シール性も向上させることができる。また、前記の構成では、内栓の環状壁は弾性栓体に接触することなく圧入されたものであるので、圧入時の摩擦により当該弾性栓体に対し変形が加えられることもない。その結果、弾性栓体の位置ズレを防止することができる。尚、前記「圧入」とは、外部壁と内部壁の間隙に内栓の環状壁を強制的に挿入し、外部壁及び内部壁に圧力を加えながら環状壁を嵌め込むことを意味する。
【0013】
前記の構成に於いて、前記支持体に於ける内部壁には、少なくとも1つの切り欠き部が設けられていることが好ましい。当該構成であると、支持体の内部壁と外部壁の間隙に内栓の環状壁を圧入させることにより、内部壁をその直径が縮小する方向に変形させることができる。これにより、前記環状壁の圧入による圧力を、内部壁を介して弾性栓体に対しより効果的に伝達させることが可能になり、内部壁と弾性栓体との密着性を一層向上させることができる。
【0014】
前記の構成に於いて、前記支持体の内部壁の底部には、前記弾性栓体を載置するための載置部が設けられていることが好ましい。当該構成であると、弾性栓体は載置部により支持されているため、前記内栓に於ける環状壁を、支持体に於ける内部壁と外部壁の間隙に圧入するに際して、弾性栓体が支持体の外部に押し出されるのを防止することができる。
【0015】
本発明に係る医療用キャップの製造方法は、前記の課題を解決するために、弾性栓体と、前記弾性栓体を内部で保持する支持体とを有する医療用キャップの製造方法であって、前記弾性栓体を取り囲んで収容するための内部壁と、前記内部壁を取り囲む外部壁とを備えた前記支持体を作製する工程と、前記支持体に於ける内部壁と外部壁の間隙に圧入させることが可能な環状壁を備えた内栓を作製する工程と、前記支持体に於ける内部壁の内側に前記弾性栓体を収容する工程と、前記支持体に於ける内部壁と外部壁の間隙に、前記内栓に於ける環状壁を圧入させる工程とを有することを特徴とする。
【0016】
前記の方法に於いては、弾性栓体を取り囲んで収容するための内部壁と、その内部壁を取り囲む外部壁とを備えた支持体を作製する一方、環状壁を備えた内栓も作製する。続いて、弾性栓体を内部壁の内部に収容させるが、本発明に於いては、その後、支持体の外部壁と内部壁の間隙に内栓の環状壁を強制的に挿入(圧入)する。この圧入により、内栓の環状壁は支持体の外部壁及び内部壁に圧力を加えるので、例えば、内部壁に対してはその直径が縮小する方向に変形させることができる。その結果、内部壁の内部に収容されている弾性栓体に対して、当該内部壁を介して圧力を加えることができる。このとき、内栓の環状壁は弾性栓体に接触することはないので、圧入時の摩擦により当該弾性栓体に対し変形が加えられることがない。その結果、弾性栓体の位置ズレを防止し、製造効率の向上が図れる。また、前記方法により作製された医療用キャップは、弾性栓体と内部壁の密着性に優れるので、針刺しを行った際にも、液漏れの発生を防止することができる。更に、針抜けに対する保持力及び復元力にも優れ、更に針抜き後の再シール性も向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の医療用キャップは、弾性栓体と、これを内部で保持する支持体とを有するものであり、前記支持体は、前記弾性栓体を取り囲んで収容する内部壁と、前記内部壁を取り囲む外部壁とを備え、更に、環状壁を備えた内栓が、前記内部壁と外部壁の間隙に当該環状壁を圧入させて設けられた構成を備えている。これにより、弾性栓体には内部壁から圧力が加えられるため、弾性栓体と内部壁の密着性が向上し、例えば、弾性栓体に針刺しを行う際にも、液漏れが発生するのを防止することができる。また、針抜けに対する保持力及び復元力に優れ、更に針抜き後の再シール性も向上させることができる。
【0018】
また、内栓の環状壁の圧入は、内部壁と外部壁の間隙に行うので、弾性栓体に接触させることもない。そのため、弾性栓体に対し不要な摩擦や抵抗を与えることがないので、これらに起因した弾性栓体の変形や、当該弾性栓体の位置ズレの防止が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の一形態に係る医療用キャップを説明するための断面模式図であって、同図(a)は支持体を表し、同図(b)は前記支持体の内部に弾性栓体を収容した状態を表し、同図(c)は前記支持体に内栓を圧入した状態を表す。
【図2】本発明の他の医療用キャップを説明するための断面模式図であって、内栓が隔膜部を備えた医療用キャップを表す。
【図3】本発明の他の医療用キャップを説明するための断面模式図である。
【図4】本発明の他の医療用キャップを説明するための断面模式図である。
【図5】本発明の他の医療用キャップを説明するための断面模式図である。
【図6】本発明の他の医療用キャップを説明するための断面模式図であって、支持体が隔膜部を備えた医療用キャップを表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(医療用キャップ)
本発明の実施の形態について、図1を参照しながら以下に説明する。但し、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にするために拡大又は縮小等して図示した部分がある。図1は、本実施の形態に係る医療用キャップを説明するための断面模式図であって、同図(a)は支持体を表し、同図(b)は前記支持体の内部に弾性栓体を収容した状態を表し、同図(c)は前記支持体に内栓を圧入した状態を表す。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態に係る医療用キャップ10は、支持体1、弾性栓体2及び内栓3を少なくとも備える。
前記支持体1は、弾性栓体2を内部で保持することが可能であり、具体的には、当該弾性栓体2を取り囲んで収容する内部壁12と、内部壁12を取り囲む外部壁11とを少なくとも一体的に備えている。
【0022】
前記内部壁12には、図1(a)に示すように、切り欠き部14が設けられていることが好ましい。これにより、内部壁12をその直径が縮小する方向に変形させることが容易になる。切り欠き部14は内部壁12に少なくとも一箇所設けられていれば足りるが、複数の切り欠き部14を設ける場合には、対角線上に対となる様に配置するのが好ましい。これにより、内部壁12の変形を等方向に均一に行うことが可能なり、弾性栓体2に加える圧力に偏りが生じるのを防止することができる。但し、本発明は、切り欠き部14を設けない環状の内部壁であってもよい。この場合、内部壁12の厚さは外部壁11と比較して薄いものが好ましい。これにより、内部壁をその直径が縮小する方向に変形させることが容易になる。切り欠き部14を設ける場合の内部壁12の厚さは、具体的には0.1mm〜2.5mmの範囲内が好ましく、0.2mm〜1mmの範囲内がより好ましい。また、切り欠き部14を設けない場合の内部壁12の厚さは、0.1mm〜2mmの範囲内が好ましく、0.2mm〜0.8mmの範囲内がより好ましい。
【0023】
また、切り欠き部14の切り欠きの深さは特に限定されず、図1(a)に示すように、内部壁12の底部に達するものでもよい。また、内部壁12の厚さに適宜対応させて任意の深さに変更してもよい。更に、切り欠き部14の切り欠き形状は、図1(a)に於いては長方形状であるが、内部壁12をその直径が縮小する方向に変形させることが可能な形状であれば特に限定されるものではない。
【0024】
内部壁12の高さは特に限定されないが、図1(b)に示すように弾性栓体2をその内部に収容したときに、当該弾性栓体2の高さと同じか、あるいは高い方が好ましい。これにより、内部壁12は弾性栓体2の側周面23を全て覆う様にして収容し、かつ、効果的に弾性栓体2に圧力を加えることできる。前記内部壁12の高さは、具体的には2.5mm〜14mmの範囲内が好ましく、3mm〜11mmの範囲内がより好ましい。
【0025】
また、内部壁12の形状は特に限定されるものではない。例えば、図1(a)に示すように、内部壁12の断面形状が頂部に向かうに従い先細りとなる形状であってもよい。これにより、外部壁11との間隙を、頂部では広くすると共に、底部に向かうに従い狭くすることができる。その結果、内栓3の環状壁31の圧入を容易にすると共に、当該間隙への嵌め込みを確実にすることができる。その一方、内部壁12の底部の厚さを頂部と同等又は薄くしてもよい。これにより、内部壁12の底部に於いても弾性栓体2に加える圧力を大きくすることができる。尚、内部壁12の厚さは、前述の数値範囲内で適宜設定するものとする。
【0026】
また、内部壁12の底部には、弾性栓体2を載置可能にする載置部13が設けられている。また、載置部13は、内部壁12から中心方向に環状に張り出す様にして設けられている。これにより、弾性栓体2の針刺面22の周縁部を支持することができる。その結果、外部壁11と内部壁12の間隙に内栓3の環状壁31が圧入される際には、弾性栓体2が支持体1から外部に押し出されるのを防止することができる。更に、載置部13には、弾性栓体2との嵌合を可能にする環状の突条部15が設けられていてもよい。これにより、弾性栓体2の位置ズレや脱落を一層防止することができる。尚、本実施の形態に於いては、載置部13が環状の場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、所定の間隔で複数の載置部を設けた態様であってもよい。この場合、隣接する載置部の離間距離は、内栓3の環状壁を圧入する際に、支持体1から押し出されない程度に、弾性栓体2を支持できる態様であれば、特に限定されない。
【0027】
前記外部壁11の頂部には、圧入後の内栓3を、その状態に維持するための係止部16が設けられていてもよい。これにより、内栓3が支持体1の外部に押し出されるのを防止することできる。また、図1(a)では、係止部16として、外部壁11の頂部に於いて環状のものが支持体1の内部に向かう方向に張り出した形状のものを図示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、係止部16は、外部壁11の頂部に於いて、内部に向かう方向に張り出した一つ以上の凸状のものが所定の間隔で配置されたものでもよい。
【0028】
更に、外部壁11の頂部には、図1(a)に示すように、輸液容器や採血管、バイアル瓶等の薬剤容器の口部との溶着等による接合を容易にするため、外部壁11の外側に張り出したフランジ部17を設けてもよい。
【0029】
前記外部壁11の高さは、前記内部壁12よりも高い方が好ましい。内部壁12よりも低いと、薬剤容器の口部に医療用キャップ10を取り付ける際に、内部壁12がその取付けを阻害する場合があるからである。前記外部壁11の高さは、具体的には4mm〜20mmの範囲内が好ましく、5mm〜18mmの範囲内がより好ましい。また、外部壁11の厚さは特に限定されないが、内栓3が圧入された場合にも支持体1の形状を保持させるという観点からは、内部壁12よりも厚い方が好ましい。前記外部壁11の厚さは、具体的には0.3mm〜3mmの範囲内が好ましく、0.4mm〜2mmの範囲内がより好ましい。
【0030】
前記外部壁11と内部壁12の間隙の距離は、後述する内栓3の環状壁31の形状等に応じて適宜設定することができる。具体的には、0.3mm〜5mmの範囲内が好ましく、0.5mm〜2mmの範囲内であることがより好ましい。また、間隙の距離は、前記数値範囲内に於いて、外部壁11及び内部壁12の底部に向かうに従い狭くしてもよい。これにより、環状壁31の圧入の容易化が図れる。
【0031】
前記支持体1を構成する材料としては、合成樹脂のうち、医療用途としての安全性が確立されたものであれば足りる。中でも熱可塑性樹脂を用いるのが一般的である。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等の従来医療用途に用いられている樹脂が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0032】
弾性栓体2は、接液面21を上側にし、針刺面22を下側にして支持体1に於ける内部壁12の内部に収容されるのが好ましい。尚、前記接液面21とは、薬液等が接する面を意味する。また、針刺面22とは、本実施の形態に係る医療用キャップ10が薬剤容器に装着され、薬液等を取り出す際に、注射針により針刺しが行われる面を意味する。
【0033】
また、前記弾性栓体2の全体形状は特に限定されないが、例えば図1(b)に示す円柱状のものが好ましい。また、弾性栓体2の針刺面22側には、前記環状の突条部15との嵌合が可能な環状溝24が設けられていることが好ましい。弾性栓体2の直径は特に限定されず、前記支持体1に於ける内部壁12の内部に収容できる程度であればよい。但し、弾性栓体2の直径が小さ過ぎると、内栓3の環状壁31を外部壁11と内部壁12の間隙に圧入し、当該内部壁12をその直径が縮小する方向に変形させても弾性栓体2の側周面23と密着させることが困難になるので好ましくない。尚、弾性栓体2の形状は図1(b)に示すような形態に限定されるもではなく、例えば、針刺面及び接液面の両方ともフラットな形状の弾性栓体であってもよい。また、針刺面側に、脱落防止のために、少なくとも一段の階段状の段差部を備えた弾性栓体であってもよい。
【0034】
弾性栓体2の特性については特に限定されず、医療用注入針等が貫通できる程度の硬度を有していればよい。また、通常の保管の際に容易に変形したり、破損したりしない程度の形状保持性を有するものが好ましい。弾性栓体2の硬度は、JIS K6253法による測定に於いて、A5〜A50であることが好ましく、A10〜A45であることがより好ましい。
【0035】
前記弾性栓体2に用いる材料としては、例えば、ゴムや熱可塑性エラストマーが挙げられる。前記ゴムとしては特に限定されず、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレン−イソブチレンゴム等が例示できる。また、熱可塑性エラストマーとしては特に限定されず、例えば、オレフィン系、スチレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系、ポリブタジエン系等が例示できる。中でも共役ジエン系の熱可塑性エラストマーに水素添加した熱可塑性エラストマー(SEBS、SEPS、HSBR、SEBR、CEBC)が好適である。
【0036】
また、弾性栓体2の直径は特に限定されず、通常は10mm〜30mmの範囲内で設定される。更に、弾性栓体2の直径は、支持体1の内部壁12の内径に対し、0.03mm〜1mmの範囲で小さめに設定されていることが好ましい。これにより、内部壁12の内側への弾性栓体2の挿入の容易性を確保している。更に、弾性栓体2の厚みは内部壁12と同一又は小さければ特に限定されないが、好ましくは2.5mm〜12mm、より好ましくは3mm〜9mmの範囲内である。また、針刺面22側に設けられている環状溝24の深さは特に限定されないが、好ましくは0.2mm〜2mm、より好ましくは0.3mm〜1.5mmの範囲内である。
【0037】
弾性栓体2の製造方法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性エラストマーを圧潰しながら行うコンプレッション成形や射出成形により製造可能である。
【0038】
前記内栓3は、支持体1に於ける外部壁11と内部壁12の間隙に圧入するための環状壁31を少なくとも備える構成であればよい。また、支持体1の内部に収納可能な形状及び大きさであることが好ましい。更に、前記環状壁31の高さは、外部壁11と内部壁12の間隙の深さと同一又は小さいことが好ましい。環状壁31の高さが外部壁11と内部壁12の間隙の深さよりも大きいと、外部壁11と内部壁12の間隙に圧入する際に、内栓3を支持体1の内部に収容させるのが困難になる。環状壁31の高さは、具体的には、2.5mm〜14mmの範囲内が好ましく、3mm〜11mmの範囲内がより好ましい。尚、環状壁31の高さは、後述する支持部34からの高さを意味する。
【0039】
また、内栓3は、弾性栓体2が支持体1から落下したり、外れたりするのを防止するための支持部34が設けられていることが好ましい。これにより、内栓3の圧入によって、弾性栓体2が接液面21側に押し出されるのを防止することができる。支持部34の厚さや内径は、弾性栓体2を十分に支持し得る程度であれば特に限定されない。但し、内径が小さすぎると、弾性栓体2に対して針刺しを行う際の針刺し面積が小さくなり過ぎるので好ましくない。前記支持部34は、環状壁31の内側面に環状に設けられていることが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、所定の間隔で複数の支持部が設けられた構造であってもよい。この場合、隣接する支持部の離間距離は、内栓3の環状壁を圧入する際に、支持体1から押し出されない程度に、弾性栓体2を支持できる態様であれば、特に限定されない。尚、支持部34には、弾性栓体2との嵌合を可能にする環状の突条部が設けられていてもよい。これにより、弾性栓体2の位置ズレや脱落を一層防止することができる。
【0040】
更に、環状壁31の厚さは特に限定されないが、外部壁11と内部壁12の間隙の大きさや、弾性栓体2の圧縮特性等に応じて適宜設定される。具体的には、環状壁31の厚さは、0.3mm〜6mmの範囲内が好ましく、0.5mm〜3mmの範囲内がより好ましい。
【0041】
前記環状壁31の形状は特に限定されるものではない。例えば、図1(c)に示すように、環状壁31の断面形状が頂部に向かうに従い先細りとなる形状であってもよい。これにより、外部壁11と内部壁12の間隙への環状壁31の圧入を容易にすることができる。また、頂部から底部に於いて厚さが均一のものであってもよい。何れの場合に於いても、環状壁31の厚さは、前記数値範囲内で設定される。
【0042】
また、前記内栓3は、環状壁31の底部の周縁部に、前記支持体1に於ける係止部16との係止を可能にするための環状の段差部33が設けられているのが好ましい。これにより、内栓3を支持体1内部に装着した際に、当該内栓3が支持体1の外部に押し出されるのを防止することできる。
【0043】
内栓3に用いられる構成材料は特に限定されない。例えば、前記支持体1に用いられる構成材料と同様のものを採用することができる。
【0044】
尚、本実施の形態に於いては、図2に示すように、内栓3に隔膜部32を備えた構成の医療用キャップ10’であってもよい。隔膜部32は、弾性栓体2の接液面21を被覆するためのものである。弾性栓体2を構成する熱可塑性エラストマー材料は、ゴム材料に比べて極めて衛生的な材料であるが、使用する薬液によっては、弾性栓体2との接触が好ましくないものもある。従って、前記隔膜部32を設けることにより、薬液が接触する箇所を容器と同一又は類似した性質の材料とすることができる。
【0045】
前記隔膜部32としては、弾性栓体2に融着させたラミネートフィルム、内栓3に接合させたフィルム、内栓3と一体成形された膜部等が挙げられる。前記ラミネートフィルムとしては特に限定されず、前記合成樹脂からなる内栓3と融着可能なものが使用される。具体的には、例えば フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル樹脂又はこれらの混合物等を主成分とするプラスチツクフイルムが挙げられる。隔膜部32の厚さは特に限定されないが、0.01mm〜1mmの範囲内が好ましく、0.03mm〜0.5mmの範囲内がより好ましい。隔膜部32の厚さを1mm以下にすることにより、針刺しの際の貫通を可能にする。その一方、隔膜部32の厚さを0.01mm以上にすることにより、当該隔膜部32が破断等するのを防止することができる。
【0046】
内栓3を支持体1に於ける外部壁11と内部壁12の間隙に圧入することにより、当該内部壁12をその直径が縮小する方向に変形させることができる。その結果、内部壁12の内側に収容されている弾性栓体2は内部壁12から圧力を受ける。弾性栓体2に加えられる圧力は、内部壁12に設けられる切り欠き部14の形状や厚さにもよるが、通常は、弾性栓体2の中心軸に於ける針刺面方向に向かって作用する(図1(c)の矢印方向)。また、弾性栓体2に加えられる圧力は針刺面22側に向かうに従い小さくなる。この作用により、弾性栓体2自身が有する復元力が弾性栓体2の側周面の方向に働き拡張しようとする結果、内部壁12との密着性が向上する。これにより、弾性栓体2の針刺面22に針刺し行った際には、液漏れの発生を防止し、かつ、針抜けに対する保持力及び復元力も向上させることができる。更に、針抜け後の再シール性にも優れたものにできる。尚、弾性栓体2の接液面21側及び針刺面22側は、それぞれ中央部が凸状に僅かに膨出した形状になる場合がある。
【0047】
また、内栓3の環状壁31の圧入は、外部壁11と内部壁12の間隙に対して行われる。外部壁11と弾性栓体2の間隙に対して行われるのではない。そのため、内栓3の圧入時に環状壁31が弾性栓体2に対し摩擦に起因した変形を生じさせることがない。これにより、内栓3の圧入時における弾性栓体2の変形を防止し、当該弾性栓体2の位置ズレを防ぐことができる。
【0048】
(医療用キャップの製造方法)
本実施の形態に係る医療用キャップの製造方法は、外部壁11及び内部壁12を備えた支持体1を作製する工程と、環状壁31を備えた内栓3を作製する工程と、支持体1に於ける内部壁12の内側に弾性栓体2を収容する工程と、内部壁12と外部壁11の間隙に、内栓3に於ける環状壁31を圧入させる工程とを少なくとも有する。
【0049】
前記支持体1及び内栓3の作製工程は、例えば、従来公知の射出成形により行うことができる。即ち、型閉じの際に、支持体1又は内栓3の成形を可能にするキャビティが形成され得る金型を用意する。次に、支持体1又は内栓3の構成材料となる樹脂を溶融し、この溶融樹脂を前記キャビティ内に注入する。このときの溶融樹脂の射出圧力としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。射出された溶融樹脂は所定時間冷却される。型開き後、支持体1又は内栓3が得られる。
【0050】
次に、支持体1に於ける内部壁12の内側に、弾性栓体2を収容する。このとき、弾性栓体2の針刺面22側が下側になる様に配置する。また、針刺面22側に設けられている環状溝24は、内部壁12の底部に設けられた載置部13の突条部15に嵌合された状態とする。これにより、内栓3の環状壁31が外部壁11と内部壁12の間隙に圧入される際に、支持体1から押し出されるのを防止することができる。
【0051】
続いて、内部壁12と外部壁11の間隙に、内栓3に於ける環状壁31を圧入させる。圧入は、外部壁11に於ける係止部16と、内栓3の段差部33とが係止状態となるまで行う。この圧入により、内栓3の環状壁31は支持体1の外部壁11及び内部壁12に圧力を加えることができ、内部壁12の内部に収容されている弾性栓体2に対し、当該内部壁12を介して圧力を加えることができる。このとき、内栓3の環状壁31は弾性栓体2に接触することはないので、環状壁31の圧入時に弾性栓体2に対し不要な摩擦や抵抗を生じさせることがない。その結果、弾性栓体2の位置ズレを防止し、製造効率の向上が図れる。また、弾性栓体2と内部壁12の密着性が優れているので、針刺しを行った際に、液漏れが発生するのを防止することができる。また、針抜けに対する保持力及び復元力にも優れ、更に針抜き後の再シール性も向上させることができる。
【0052】
(他の実施の形態)
尚、本発明は、前記医療用キャップ10の態様に限定されるものではない。例えば、図3に示すように輸液用等のバックに用いられるポート41の先端部が内栓42である場合の医療用キャップ20や、図4に示すようにボトル50における口部51の先端に内栓52が設けられた場合の医療用キャップ30であってもよい。前記ポート41と内栓42は相互に独立した部材を結合したものでもよく、あるいは一体的に成形されたものでもよい。また、前記ボトル50における口部51と内栓52も、相互に独立した部材を結合したものでもよく、あるいは一体的に成形されたものでもよい。
【0053】
これらの態様であっても、弾性栓体2と内部壁12の密着性を向上させることができ、例えば、針刺しの際にも液漏れの発生を防止することができる。また、針抜けに対する保持力及び復元力に優れ、針抜き後の再シール性も向上させることができる。更に、内栓42、52の環状壁43、53は、弾性栓体2に接触することなく圧入されたものであるので、圧入時の摩擦により当該弾性栓体2に対し変形が加えられることがない。その結果、弾性栓体2の位置ズレも防止できる。
【0054】
また、本発明に係る医療用キャップは、図5に示す態様の医療用キャップ40であってもよい。同図は、本発明の他の実施の形態に係る医療用キャップ40を説明するための断面模式図である。
【0055】
同図に示す医療用キャップ40は、前記医療用キャップ10と比較して、内栓71の環状壁72が、弾性栓体2の針刺面22側から、支持体60における外部壁61と内部壁62の間隙に圧入された形態である点が最も異なる。
【0056】
前記支持体60は、弾性栓体2を内部で保持することが可能であり、具体的には、当該弾性栓体2を取り囲んで収容する内部壁62と、内部壁62を取り囲む外部壁61とを少なくとも一体的に備えている。
【0057】
前記内部壁62には、図示されていないが、前述の様な切り欠き部が設けられていることが好ましい。但し、切り欠き部を設けない環状の内部壁であってもよく、この場合は、内部壁の厚さが外部壁61と比較して薄いものが好ましい。内部壁62の構成材料や寸法及び形状が特に限定されないことは、前述の場合と同様である。
【0058】
前記内部壁62の底部には、弾性栓体2を載置可能にする載置部68が設けられている。載置部68は、内部壁62から中心方向に環状に張り出す様にして設けられている。これにより、弾性栓体2の接液面21の周縁部を支持することができる。その結果、外部壁61と内部壁62の間隙に内栓71の環状壁72が圧入される際には、弾性栓体2が支持体60から外部に押し出されるのを防止することができる。更に、載置部68には、弾性栓体2の接液面21側における環状溝24との嵌合を可能にする環状の突条部67が設けられていてもよい。これにより、弾性栓体2の位置ズレや脱落を一層防止することができる。尚、載置部は、所定の間隔で複数設けられた態様であってもよい。この場合、隣接する載置部の離間距離は、内栓71の環状壁を圧入する際に、支持体1から押し出されない程度に、弾性栓体2を支持できる態様であれば、特に限定されない。
【0059】
前記外部壁61の内面における頂部には、圧入後の内栓71を、その状態に維持するための環状溝63が設けられていることが好ましい。環状溝63は、内栓71に於ける環状壁72の突条部73(詳細は後述する)と嵌合可能な形状及び大きさであればよい。これにより、内栓71が支持体60の外部に押し出されるのを防止することできる。
【0060】
更に、外部壁61の底部には、図5に示すように、輸液容器や採血管、バイアル瓶等の薬剤容器の口部との溶着等による接合を容易にするため、外部壁61の外側に張り出したフランジ部64を設けてもよい。外部壁61の構成材料や寸法及び形状については、前述の場合と同様である。また、外部壁61と内部壁62の間隙の距離についても、前述の場合と同様である。
【0061】
前記内栓71は、平板状で、かつ、円環状の基部74上に、支持体60に於ける外部壁61と内部壁62の間隙に圧入するための環状壁72を備えた構成である。但し、基部74は凹状又は凸状等の任意の曲面であってもよい。また、前記基部74における環状壁72の形成位置の外側は、内栓71の環状壁72を外部壁61と内部壁62の間隙に圧入させた際に、外部壁61の上面66を覆うためのフランジ部75として機能する。その一方、前記基部74における環状壁72の形成位置の内側には、弾性栓体2を、針刺面22側から支持するための支持部76が設けられている。尚、基部74の厚さは、少なくとも形状保持が可能な程度であれば特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。また、基部74の外径は、内栓71の環状壁72を外部壁61と内部壁62の間隙に圧入させた際に、フランジ部75が外部壁61の上面66を覆う程度であれば特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。その一方、基部74の内径は、支持部76が弾性栓体2を針刺面22側から支持可能な程度であれば特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。前記環状壁72の高さや厚さ及び形状については、前述の場合と同様である。
【0062】
また、前記内栓71の環状壁72に於ける底部の周縁部には、前記支持体60に於ける環状溝63と嵌合可能であり、内栓71を係止するための環状の突条部73が設けられているのが好ましい。これにより、内栓71を支持体60に装着した際に、当該内栓71が支持体60の外部に押し出されるのを防止することできる。
【0063】
更に、内栓71の支持部76には、当該弾性栓体2の針刺面22側の環状溝24との嵌合を可能にする環状の突条部77が設けられていてもよい。これにより、弾性栓体2の位置ズレや脱落を一層防止することができる。
【0064】
内栓71の構成材料については、前述の場合と同様である。尚、内栓71には、弾性栓体2の針刺面22に対する針刺しを容易に行うとの観点から、開口しているのが好ましい。
【0065】
また、本発明は、図6に示すように、支持体60’の内部壁62の底部に、隔膜部65が設けられた態様の医療用キャップ40’であってもよい。隔膜部65は、弾性栓体2の接液面21を被覆するものである。前記隔膜部65としては特に限定されず、例えば、弾性栓体2に融着させたラミネートフィルム、支持体60’に接合させたフィルム、支持体60’と一体成形された膜部等が挙げられる。また、ラミネートフィルムとしては、前述の場合と同様である。更に、隔膜部65の厚さに関しても、前記隔膜部32の場合と同様である。尚、図6に示す医療用キャップ40’に於いては、突条部67を備えない支持体60’、突条部77を備えない内栓71’及び環状溝24を備えない弾性栓体2を用いた場合を示している。
【符号の説明】
【0066】
1、60 支持体
2 弾性栓体
3、42、52、71、71’ 内栓
10、10’、20、30、40 医療用キャップ
11、61 外部壁
12、62 内部壁
13 載置部
15 突条部
16 係止部
17、64、75 フランジ部
21 接液面
22 針刺面
23 側周面
24 環状溝
31、43、72 環状壁
32、65 隔膜部
33 段差部
34、76 支持部
41 ポート
50 ボトル
51 口部
63 環状溝
66 上面
73 突条部
74 基部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性栓体と、前記弾性栓体を内部で保持する支持体とを有する医療用キャップであって、
前記支持体は、前記弾性栓体を取り囲んで収容する内部壁と、前記内部壁を取り囲む外部壁とを備え、
前記内部壁と外部壁の間隙には、環状壁を備えた内栓が、当該環状壁を圧入させることにより設けられており、
前記弾性栓体には、前記環状壁の圧入により、前記内部壁から圧力が加えられている医療用キャップ。
【請求項2】
前記支持体に於ける内部壁には、少なくとも1つの切り欠き部が設けられている請求項1に記載の医療用キャップ。
【請求項3】
前記支持体の内部壁の底部には、前記弾性栓体を載置するための載置部が設けられている請求項1又は2に記載の医療用キャップ。
【請求項4】
弾性栓体と、前記弾性栓体を内部で保持する支持体とを有する医療用キャップの製造方法であって、
前記弾性栓体を取り囲んで収容するための内部壁と、前記内部壁を取り囲む外部壁とを備えた前記支持体を作製する工程と、
前記支持体に於ける内部壁と外部壁の間隙に圧入させることが可能な環状壁を備えた内栓を作製する工程と、
前記支持体に於ける内部壁の内側に前記弾性栓体を収容する工程と、
前記支持体に於ける内部壁と外部壁の間隙に、前記内栓に於ける環状壁を圧入させる工程とを有する医療用キャップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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