説明

医療用ゲル化剤製剤、医療用ゲルとその製造方法

【課題】 柔軟性が高く、生体に対する異物感が抑制され、且つ、透明性の向上した医療用ゲルとすることのできるゲル化剤製剤と、これを用いてなる医療用ゲル並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】 全体量の0.5乃至10.7質量%の増粘多糖類、0.1乃至2.0質量%のリン酸塩、0乃至5.0質量%の香料、78.0乃至95.4質量%の糖類を含むゲル化剤製剤とし、これを熱水に投入して溶解し、成形して医療用ゲルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性が高く、且つ、放射線治療の際に生体に対する異物感を抑制することができ、且つ、透明性の向上した医療用ゲルのためのゲル化剤製剤と、これを用いてなる医療用ゲル並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、手術、抗ガン化学療法と並ぶガン治療のための主要手段の一つである。通常、この放射線治療では患部と正常組織への放射線の到達を制御するために医療用ゲルが使用されている。
【0003】
治療現場においては、1)放射線の制御を適切に行うためには、(i)医療用ゲルは間隙ができないように患部に密着することができ、(ii)柔軟性があり、(iii)変形性が高いことが望まれている。また、2)看護士が自ら簡便に造ることができる条件として、(i)ゲル化剤が熱水溶解時にままことならないこと、(ii)撹拌時に気泡が入らないことが求められる。さらに、3)それを装着する患者の不安感を減少させるために、透明感を向上させることが重要なポイントになっている。
【0004】
従来の技術として提案されている医療用ゲルとしては、例を挙げると、(1)マンナンゲル、特に食用マンナンゲルによりアプリケータを構成する技術(特許文献1参照)や、(2)カラギーナン、ローカストビーンガム、グルコマンナン、デンプン、カードラン、グアーガム、寒天、カシアガム、デキストラン、アミロース、ゼラチン、ペクチン、キサンタンガム、タラガム、ジェランガムから選択される2種以上の天然有機高分子の組み合わせからなるゲル化剤製剤を、水に対して10%以下量添加して作製される天然有機高分子含水ゲルからなる放射線医療用ボーラスに関する技術(特許文献2参照)が知られている。
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の発明では、食用マンナンゲルを多量に使用した場合には、透明性が少なくなり、また柔軟性に欠けるという不具合があった。一方、特許文献2記載の発明ではゲル化剤の配合比率が水に対して10%以下量の高濃度が必要であるため、柔軟性と透明性が低く、且つ、ゲル化剤の加熱溶解時には”ままこ”となり、気泡が入らないように注意することが必要になる。
【0006】
実際、本発明者においても、特許文献2記載の発明ではゲル化剤の配合量(最低2%以上)が多いことから、加熱溶解時には、”ままこ”になることや、撹拌時に気泡が入るという問題点が避けられないことが確認されている。
【特許文献1】特開2000−79174号公報
【特許文献2】特許第2999184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のとおりの背景から、従来の問題点を解決し、柔軟性が高く、生体に対する異物感が抑制され、且つ、透明性の向上した医療用ゲルのためのゲル化剤製剤を提供し、これによって、放射線の制御が適切にでき、看護士が自ら簡便に造ることができ、且つ、装着する患者の不安感を減少させることのできる医療用ゲルを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、増粘多糖類と糖類と香料とpH調整剤をあらかじめ混合してから熱水に少しずつ投入することで、1)水に対して1%程度と低い濃度で治療ゲルを製造でき2)”ままこ”になることを抑制することができることを見出した。さらに、3)増粘多糖類の種類とその最良の配合比率を限定することにより、透明性が非常に高く従来に比較して物性の良好な医療用ゲルの製造に成功した。また、4)ゲル化剤以外の成分として、配合する糖類とその量を限定することで離水の抑制された医療用ゲルの製造が出来ることや、5)特別に加熱する必要がなくポット等の熱水に混入するだけで室温下あるいは冷蔵で放冷するだけで製造できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、第1には、医療用ゲル化剤製剤として、全体量の0.5乃至10.0質量%の増粘多糖類、0.1乃至2.0質量%のリン酸塩、0乃至5.0質量%の香料、78.0乃至95.4質量%の糖類を含むことを特徴とする。
【0010】
第2には、前記ゲル化剤製剤として、増粘多糖類はカロブビーンガムおよびカラギナンのうちの1種または2種以上であることを特徴とし、第3には、カロブビーンガムおよびカラギナンの総量が全体量の2.0質量%未満であることを、第4には、カロブビーンガムとカラギナンの配合比率が重量比で1:1乃至3:1の比率であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、第5には、医療用ゲルとして、前記いずれかのゲル化剤製剤が水和ゲル化成形されてなることを特徴としており、第6には、その製造方法として、前記いずれかのゲル化剤製剤を熱水に少しずつ攪拌しながら投入し、成型器で室温あるいは冷蔵温度で成形することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記のとおりの本発明のゲル化剤製剤によれば、熱水溶解時にままこにならず、攪拌時に気泡混入を抑えて、柔軟性が高く、生体に対する異物感が抑制され、且つ、透明性の向上した医療用ゲルを実現することができる。そして、この医療用ゲルは、放射線の制御を適切なものとし、看護士自らが簡便に造ることができる。また、装着する患者の不安感を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下に詳しく説明する。
【0014】
本発明に用いられる増粘多糖類は糖類に分散させるため、ゲル化剤における総量は少量でよい。すなわち、0.5乃至10.0質量%以下、特に好ましくは0.7乃至3.0質量%が好ましい。さらに、0.8乃至2.0質量%であれば透明性の上で好ましい医療用ゲルが実現される。
【0015】
本発明に用いられる増粘多糖類はカロブビーンガム、カラギナン等の1種または2種以上から選択することが好ましい。特にカロブビーンガム、カラギナンを組み合わせた配合が治療ゲルのゲル強度と透明性を調整するのに最適であり、さらにはカロブビーンガムとカラギナンの総量は、ゲル化剤製剤全体量の2.0質量%未満であることや、重量比での両者の配合比率が1:1乃至3:1であることがより好ましい。
【0016】
本発明に用いられる糖類はスクロース、マルトース、マルチトール、トレハロース、ソルビトール、ブドウ糖等の1種または2種以上から選択することが好ましい。特にブドウ糖にゲル化剤を分散させた場合、医療用ゲルの製造工程上で”ままこ”になるのを効果的に抑制することができる。
【0017】
糖類の配合割合は、全体量の79.0乃至95.4質量%の範囲とする。
本発明に用いられる糖類の効果は、水に対して1%程度と低い濃度で医療用ゲルを製造できるようにし、また、分散剤として”ままこ”になることを抑制するためのものである。すなわち、本発明の医療用ゲルは、充分なポットなどのお湯に溶かして数分間撹拌するだけで作ることが出来るという効果があり、現場の看護士等が簡便に造ることができる。
【0018】
本発明に用いられる増粘多糖類と糖類の配合比率は、一般的には、重量比で1:8.3〜196.8の範囲であればよく、好ましくは1:10.0〜50.0の範囲、特には1:15.0〜25.0の範囲である。
【0019】
本発明においてゲル化剤製剤全体量の0.1乃至2.0質量%の範囲で配合されるpH調整剤としてのリン酸塩は、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等の1種または2種以上から選択することが好ましい。特にリン酸水素二カリウムを使用した場合、医療用ゲルのゲル強度を安定化する作用が高いことから好ましい。
【0020】
本発明に用いられる増粘多糖類とpH調整剤の配合比率は、一般的には、重量比で100:1〜1:4の範囲であることが考慮されるが、好ましくは20:1〜1:2の範囲、特には15:1〜1:1の範囲である。
【0021】
さらに、本願発明においては、香料を適当量添加すると、医療用ゲルとして患者に安心感を与えられる効果を期待できる。香料は、ゲル化剤製剤全体量の0乃至5.0質量%の範囲において用いられる。
【0022】
本発明に用いられる香料としてはマスカット、イチゴ、メロン等から選択することが好ましい。これらの香料の中でも、特にマスカットの香料を用いることが好ましい。これらの香料を加えることにより、安全であるとともに患者に不快感を与えることがない医療用ゲルの製造が可能となる。
【0023】
本発明に用いられる増粘多糖類と香料の配合比率は、一般的には、重量比で10:0〜1:10の範囲であればよく、好ましくは5:1〜1:5の範囲、特には3:1〜1:1の範囲である。
【0024】
そして、本発明の医療用ゲルは、上述のゲル化剤製剤を熱水に溶解させて製造することができる。その配合比率は150:350〜50:450の範囲であることが一般的には考慮されるが、透明性が高く、製造工程上、”ままこ”にならない医療用ゲルを製造するためには、70:430〜60:440の範囲であることが好ましい。
【0025】
熱水の温度としては、通常、80〜100℃の範囲であればよく、より好ましくは90〜99℃の範囲であればよく、また、熱水に少しずつ攪拌しながら投入することで溶解させる。投入の総時間としては、攪拌速度が100〜200rpmの範囲においては、5〜10分であることが好ましい。ただし、手でかき混ぜることが出来るため投入時間は特にこの条件に限らなくてもよい。投入後においては、成型器で室温あるいは、それ以下の冷蔵温度で成形して医療用のゲルとする。
【0026】
そこで、以下に実施例を示し、さらに詳しく本発明について説明する。
【実施例】
【0027】
<実施例1>
カロブビーンガム2.55g、カラギナン0.525g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖71.4gを前もってよく混合した製剤を、熱水425gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して実施例1の医療用ゲルを製造した。
【0028】
また、比較のために、特許文献2に記載された作成例に従って製造した。すなわち、カロブビーンガム3.75g、カラギナン5.0g、キサンタンガム3.75gを前もって良く混合した製剤を、水487.5gに少しずつ撹拌しながら投入し、徐々に温度を上げて80℃で10分間加熱溶解した。このものを、気泡を含まないように注意しながら成型器で板状に成形した後、室温にて放置して比較例1の医療用ゲルを製造した。
【0029】
実施例1と比較例1の医療用ゲルについて、レオメーター(ゲル強度測定器、(株)山電社製)により、ゲルの堅さ(破断強度)と変形率により物性を評価した。また、医療用ゲルの透過度は分光光度計U-3210((株)日立製作所社製)を用いて算出した。医療用ゲルは石英セル(セル長1cm)に入れ波長610nmで透過度を測定した。また、医療用ゲルの装着感の評価はモニター10名による10点評価の平均として算出した。具体的には、プラスチックトレーに流し込んでシート状に成形した医療用ゲルを、眼球等に直接装着したときのモニターによる評価により判断した。その結果を表1に示した。
【0030】
【表1】

実施例1でのゲル化剤の配合量は100gあたり0.615%と低く、一方、比較例1でのゲル化剤の配合比は2.5%と高い。
【0031】
なお、表中の「医療用ゲルの装着感」に示した数字の意味は以下の通りである。
【0032】
10:柔軟性および透明性が非常に高い医療用ゲル
7〜9:柔軟性および透明性の高い医療用ゲル
4〜6:柔軟性および透明性の低い医療用ゲル
0〜3:柔軟性および透明性が非常に低い医療用ゲル
表1に示したように、実施例1の医療用ゲルでは、その破断強度が92.73であったのに対して比較例1の医療用ゲルの破断強度は255.0と実施例1の約3倍程度になり、一方、変形率は26.28から46.78と約1/2になった。実施例1の医療用ゲルは比較例1に対して柔軟性が高く、且つ、変形率の高い医療用ゲルであることがわかる。
【0033】
また表1に示したように、比較例1の医療用ゲルの透過度は49.38であった。一方、実施例1の治療ゲルは、同じ材料を使用しているにもかかわらず、透過度が97.95と透過度が大きく向上していた。
【0034】
表2には、本発明および従来技術の医療用ゲルの作業工程・ゲルの比較結果を示した。
【0035】
【表2】

以上の結果から、本発明の実施例1の医療用ゲルは、従来技術の比較例1の医療用ゲルに比べて、柔軟性が高く、且つ、変形性が高いゲルであることが確認された。
<実施例2>
ゲル化剤成分の増粘多糖類部分を変更して医療用ゲルとした。カロブビーンガム2.55g、カラギナン0.525g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖71.4gを前もってよく混合した製剤を、熱水425gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間攪拌した。成型器で板状に成形した後、室温にて放置して実施例2の医療用ゲルを製造した。
【0036】
また、カロブビーンガム2.55g、カラギナン0.525g、キサンタンガム0.15g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖71.25gを前もってよく混合した製剤を、熱水425gに少しずつ撹拌しながら投入し、実施例2と同様の工程で比較例2の医療用ゲルを製造した。
【0037】
さらに、カロブビーンガム2.55g、カラギナン0.525g、グルコマンナン0.525g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖70.875gを前もってよく混合した製剤を、熱水425gに少しずつ撹拌しながら投入し、実施例2と同様の工程で比較例3の医療用ゲルを製造した。
【0038】
上記の医療用ゲルにおいても、できる限り、破断強度と変形率が統一されるように増粘多糖類の量を調整した。
【0039】
製造した医療用ゲルについて、レオメーター(ゲル強度測定器、(株)山電社製)により、ゲルの堅さ(破断強度)と変形率により物性を評価した。また、医療用ゲルの透過度は分光光度計U-3210((株)日立製作所社製)を用いて算出した。医療用ゲルは石英セル(セル長1cm)に入れ波長610nmで透過度を測定した。また、医療用ゲルの装着感の評価はモニター10名による10点評価の平均として算出した。具体的には、プラスチックトレーに流し込んでシート状に成形した医療用ゲルを、眼球等に直接装着したときのモニターによる評価により判断した。表3にはその結果を示した。
【0040】
【表3】

実施例2の場合のゲル化剤の配合量は100gあたり0.615%と低い。
【0041】
なお、表中の「装着評価」における数字の意味は以下の通りである。
【0042】
10:柔軟性および透明性が非常に高い医療用ゲル
7〜9:柔軟性および透明性の高い医療用ゲル
4〜6:柔軟性および透明性の低い医療用ゲル
0〜3:柔軟性および透明性が非常に低い医療用ゲル
表3に示したように、医療用ゲルは破断強度がそれぞれ85.0,60.8,37.2で、変形率が59.78,66.37,42.93であった。これらのデータから実施例2(本願発明)は柔軟性が高くて、変形率が高く、且つ、弾力性が高い医療用ゲルであることがわかる。
【0043】
表3に示したように、実施例2、比較例3はそれぞれ97.98,96.61と透明度は高く、キサンタンガムを配合した比較例2では92.05と低かった。
【0044】
また、表3に示したように、医療用ゲルの装着は実施例2(本願発明)のものが最も好ましく、比較例2、3では装着感が低い結果であった。
【0045】
表3の結果から、カロブビーンガムとカラギナンを組み合わせた実施例2(本願発明)の医療用ゲルが最も透過度が高く、モニターによる装着感についても好ましい評価を得た。また、キサンタンガムを省いた医療用ゲルは、ゲルの透過率の向上のみならず、粘度・泡抜けなどの作業性も向上した。
<実施例3>
ゲル化剤の成分配合比を変更して医療用ゲルとした。
【0046】
前記の比較例1(従来技術)からキサンタンガムを省いた医療用ゲルの一例として、カロブビーンガム5.0g、カラギナン3.75g、ブドウ糖66.25gを前もってよく混合した製剤を、熱水425gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌し、このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して比較例の医療用ゲルを製造した。
【0047】
上記比較例4の増粘多糖類の配合量を約半分にした医療用ゲルとして、カロブビーンガム2.5g、カラギナン1.625g、ブドウ糖70.825gを前もってよく混合した製剤を、熱水425gに少しずつ撹拌しながら投入し、比較例4と同様の工程で比較例5の医療用ゲルを製造した。
【0048】
また、カロブビーンガム1.875g、カラギナン1.625g、ブドウ糖71.50gを前もってよく混合した製剤を、熱水425gに少しずつ撹拌しながら投入し、比較例4と同様の工程で比較例6の医療用ゲルを製造した。
【0049】
一方、リン酸塩を含む本発明の実施例として、カロブビーンガム1.875g、カラギナン1.625g、リン酸二水素カリウム0.5g、ブドウ糖71.00gを前もってよく混合した製剤を、熱水425gに少しずつ撹拌しながら投入し、比較例4と同様の工程で実施例3の医療用ゲルを製造した。
【0050】
製造した医療用ゲルについて、レオメーター(ゲル強度測定器、(株)山電社製)により、ゲルの堅さ(破断強度)と変形率により物性を評価した。また、医療用ゲルの透過度は分光光度計U-3210((株)日立製作所社製)を用いて算出した。医療用ゲルは石英セル(セル長1cm)に入れ波長610nmで透過度を測定した。また、医療用ゲルの装着感の評価はモニター10名による10点評価の平均として算出した。具体的には、プラスチックトレーに流し込んでシート状に成形した医療用ゲルを、眼球等に直接装着したときのモニターによる評価により判断した。表4にはその結果を示した。
【0051】
【表4】

実施例3でゲル化剤の配合量は100gあたり0.700%と低い。
【0052】
なお、表中の「装着評価」での数字の意味は以下の通りである。
【0053】
10:柔軟性および透明性が非常に高い医療用ゲル
7〜9:柔軟性および透明性の高い医療用ゲル
4〜6:柔軟性および透明性の低い医療用ゲル
0〜3:柔軟性および透明性が非常に低い医療用ゲル
表4に示したように、比較例6と実施例3の医療用ゲルは、比較例4、5と比較して破断強度が低く、変形率が大きく、柔軟性が高いゲルであることがわかる。医療用ゲルの透過率および装着感は実施例3(本願発明)が最も良い結果であった。
【0054】
比較例4の医療用ゲルは、前記の比較例1の医療用ゲルからキサンタンガムを省き、分散剤としてブドウ糖を加えた内容のゲルの一例である。ブドウ糖で増粘多糖類を分散させたことにより、破断強度と変形率は大きな変化はなかったが、透過度が向上した(49.38→87.50)ことがわかる。
【0055】
また、比較例5の医療用ゲルは、比較例4の医療用ゲルの増粘多糖類の配合量を約半分にした内容のゲルである。この結果、破断強度は減少し(203.0→154.9)、変形率は上昇し(25.3→35.84)、透過度も向上した(87.5→90.0)。
【0056】
比較例6の医療用ゲルは、比較例5の医療用ゲルの増粘多糖類の配合比率を本発明に近づけた内容のゲルである。この結果、破断強度は減少し(154.9→111.5)、変形率は上昇し(35.84→48.31)、透過度も向上した(90.00→94.00)。
【0057】
一方、実施例3(本願発明)の医療用ゲルは、比較例6の医療用ゲルにリン酸塩を添加した内容のゲルである。この結果、破断強度は若干上昇し、変形率は若干減少したが、透過度は向上した(94.00→97.00)ことがわかる。
【0058】
以上のことから、本願発明の医療用ゲルは、糖類(ブドウ糖)に増粘多糖類(カロブビーンガム、カラギナン)を分散させて、カロブビーンガムの方がカラギナンの量よりも多く配合すると(実験例は記載せず)、柔軟性が高く、透明性の高い医療用ゲルができることが確認された。
<実施例4>
カロブビーンガム2.55g、カラギナン1.575g、リン酸二水素カリウム0.525g、香料2.55g、ブドウ糖67.8gを前もってよく混合した製剤を、熱水425gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して実施例4の医療用ゲルを製造した。
【0059】
医療用ゲルの市販品(カロブビーンガム、カラギナン、グルコマンナンを含み、その他リン酸塩、液糖、澱粉を含む)を比較例7として用いた。
【0060】
実施例4(本願発明)と比較例7(市販品)について、レオメーター(ゲル強度測定器、(株)山電社製)により、ゲルの堅さ(破断強度)と変形率により物性を評価した。透過度は分光光度計U-3210((株)日立製作所社製)を用いて算出した。医療用ゲルは石英セル(セル長1cm)に入れ波長610nmで透過度を測定した。
【0061】
その結果を次の表5に示した。
【0062】
【表5】

実施例4のゲル化剤の配合量は100gあたり0.825%と低い。
【0063】
表5に示したように、実施例4(本願発明)の医療用ゲルの変形率は46.73,42.93とほぼ同一であったが、破断強度は実施例4(本願発明)が92.73に対して市販品の比較例7では37.2であった。これは、ゲルの変形率が同じでゲルの堅さが強くなったことから、ゲルの弾性が高まったことがわかる。
【0064】
表5に示したように、実施例4(本願発明)の医療用ゲルの透過度は97.95で、市販品の透過度96.61に比べて透過度が上昇していた。
【0065】
表5の結果から実施例4(本願発明)の医療用ゲルは、従来品と同じ変形率で、弾性が高まり、且つ、透過度が上昇していることが確認された。
<実施例5>
ゲル化剤の最適な成分配合比を中心として各種医療用ゲルを作成した。それらの医療用ゲルの実施例を以下に示す。
試験区1:カロブビーンガム1.25g、カラギナン0.75g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖50.00gを前もってよく混合した製剤を、熱水447.475gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して試験区1の医療用ゲルを製造した。
試験区2:カロブビーンガム1.25g、カラギナン1.575g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖50.00gを前もってよく混合した製剤を、熱水446.65gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して試験区2の医療用ゲルを製造した。
試験区3:カロブビーンガム1.25g、カラギナン2.25g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖50.00gを前もってよく混合した製剤を、熱水445.975gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して試験区3の医療用ゲルを製造した。
試験区4:カロブビーンガム2.55g、カラギナン0.75g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖50.00gを前もってよく混合した製剤を、熱水446.175gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して試験区4の医療用ゲルを製造した。
試験区5:カロブビーンガム2.55g、カラギナン1.575g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖50.00gを前もってよく混合した製剤を、熱水445.35gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して試験区5の医療用ゲルを製造した。
試験区6:カロブビーンガム2.55g、カラギナン2.25g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖50.00gを前もってよく混合した製剤を、熱水444.675gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して試験区6の医療用ゲルを製造した。
試験区7:カロブビーンガム3.75g、カラギナン0.75g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖50.00gを前もってよく混合した製剤を、熱水444.975gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して試験区7の医療用ゲルを製造した。
試験区8:カロブビーンガム3.75g、カラギナン1.575g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖50.00gを前もってよく混合した製剤を、熱水444.15gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して試験区8の医療用ゲルを製造した。
試験区9:カロブビーンガム3.75g、カラギナン2.25g、リン酸二水素カリウム0.525g、ブドウ糖50.00gを前もってよく混合した製剤を、熱水443.475gに少しずつ撹拌しながら投入し、さらに10分間撹拌した。このものを成型器で板状に成形した後、室温にて放置して試験区9の医療用ゲルを製造した。
【0066】
以上の試験区1〜9について、カロブビーンガムとカラギナンの配合量との関係で示したものが次の表6である。
【0067】
【表6】

各試験区は、ブドウ糖(分散剤として、50.0g)、リン酸二水素カリウム(0.525g)を含み、水にて補正し、全量を500gとした。
【0068】
製造した試験区1〜試験区9までの医療用ゲルについて、レオメーター(ゲル強度測定器、(株)山電社製)により、ゲルの堅さ(破断強度)と変形率により物性を評価した。また、医療用ゲルの透過度は分光光度計U-3210((株)日立製作所社製)を用いて算出した。医療用ゲルは石英セル(セル長1cm)に入れ波長610nmで透過度を測定した。その結果を表7に示した。
【0069】
【表7】

表中の数字の意味は以下の通りである。
[柔軟性]
10:柔軟性が非常に高い医療用ゲル
7〜9:柔軟性が高い医療用ゲル
4〜6:柔軟性が低い医療用ゲル
0〜3:柔軟性が非常に低い医療用ゲル
[離水]
−:離水が非常に少ない医療用ゲル
+:離水が少ない医療用ゲル
++:離水が多い医療用ゲル
+++:離水が非常に多い医療用ゲル
表7に基づいて、ゲル化剤の最適な成分配合比を中心とした各種医療用ゲルの物性および離水の評価結果をまとめると次の表8のとおりとなる。
【0070】
【表8】

なお、試験区1−9の医療用ゲルはいずれも本願発明の医療用ゲルに含まれ、良い透過度(97.03-98.94)であった。医療用ゲルに含まれる増粘多糖類の量が最も少ない試験区1が最も透過度が高く(98.94)、最も多い試験区9が最も透過度が低い(97.03)傾向を示した。
【0071】
また、表7に示した試験区の中で、試験区5、6、8、9が評価が良かったが、その中でも、試験区5の配合(カロブビーンガムがカラギナンよりも多い処方)が最も柔軟性が高く、且つ、変形性が高いゲルであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の医療用ゲルは、その物理的性質から超音波診断用あるいは電磁波温熱療法用、眼球診断用や食道等の内臓器、そして肋骨領域での画像診断用などの医療用ゲルとしても応用が可能である。さらに、この医療用ゲルを球形、円筒状、板状あるいは棒状に形状を変えることで種々の医療用ゲルの用途を拡げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体量の0.5乃至10.0質量%の増粘多糖類と、0.1乃至2.0質量%のリン酸塩、0乃至5.0質量%の香料、79.0乃至95.4質量%の糖類を含むことを特徴とする医療用ゲル化剤製剤。
【請求項2】
増粘多糖類はカロブビーンガムおよび、カラギナンのうちの1種または2種以上からなることを特徴とする請求項1記載のゲル化剤製剤。
【請求項3】
カロブビーンガムおよびカラギナンの総量が全体量の2.0質量%未満であることを特徴とする請求項2記載のゲル化剤製剤。
【請求項4】
カロブビーンガムとカラギナンの配合比率が重量比で1:1乃至3:1の比率であることを特徴とする請求項2または3記載のゲル化剤製剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のゲル化剤製剤が水和ゲル化成形されてなることを特徴とする医療用ゲル。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のゲル化剤製剤を熱水に少しずつ撹拌しながら投入し、成型器で室温あるいは冷蔵温度で成形することを特徴とする医療用ゲルの製造方法。


【公開番号】特開2006−36856(P2006−36856A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216209(P2004−216209)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(591219566)青葉化成株式会社 (21)
【Fターム(参考)】