説明

医療用ヒル抽出物における望ましくない混入物の不活性化方法

本発明は、電磁放射線手段による、医療用ヒル抽出物におけるウイルスおよび/または細菌の不活性化法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁放射線手段による、ウイルスおよび/または細菌の不活性化の分野に関する。本発明は、医療用ヒル抽出物中のウイルスおよび/または細菌の不活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用ヒルは、医学的療法として古来より用いられていた。早ければ古代ギリシャ時代、とりわけ中世には、体から血液を医学的に除去(瀉血)するために、それらの大きな吸血能力が用いられていた。
【0003】
19世紀初めには、凝固抑制した医療用ヒル抽出物が市販された。1955年に、ヒルジンと称されるポリペプチドが、医療用ヒルから初めて抽出された。ヒルジンは、トロンビンのフィブリノーゲン結合部位に結合し、その伸展、活性部位を阻害し、その作用を阻止する。
【0004】
医療用ヒル抽出物およびヒルジンの歴史的概要は、以下の文献に記載される:Nowak, G. & Schroer, K. (2007): Hirudin − the long and stony way from an anticoagulant peptide in the saliva of medicinal leech to a recombinant drug and beyond. A historical piece; in: Thromb. Haemost. vol. 98, pages 116−119。
【0005】
治療的に活性な医療用ヒル物質を得るために、凍結した医療用ヒル(例えば、吸血性ヒル、Hirudo verbanaおよびそれらの関連する種)またはその成分を、機械的に粉砕し、均質化する。複数工程の抽出および精製法において、活性物質が得られる可能性があり、それは、例えば、静脈不全および急性痔疾患の処置のための軟膏に用いられ得る。
【0006】
医療用ヒル抽出物は、天然源のそのままの物質由来の生成物であるため、細菌またはウイルスのような望ましくない混入物に関する安全性は、非常に重要である。ウイルス安全性計画(viral safety plan)を実行するとき、補完技術、すなわち作用機序の補完技術の使用が、明確に規定されている(例えば、Guideline Q5A of the International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use (ICH)を参照)。これは、広い範囲のウイルスが対象として包含されることを確実にするためである。
【0007】
細菌および広範なウイルスを不活性化するための確立された方法は、酸性処理、有機溶媒での処理、洗浄剤での処理および低温殺菌であり、該方法は、単独で、または好ましくは、組み合わせて行われる。
【0008】
しかしながら、例えばパルボウイルスのような小さな被覆されていないウイルスに対して、これらの方法は効果的ではない。
【0009】
小さな被覆されていないウイルスを除去する1つの方法は、ナノ濾過である。故に、除去は、サイズ排除法で行われる:膜は、サイズが特定の保持率範囲内であるウイルスを確実に保持する。
【0010】
しかしながら、ナノ濾過の問題は、小さな被覆されていないウイルスのサイズが、所望の治療用物質のサイズよりも小さいことである。結果として、タンパク質を同様に濾去することなく、安全に病原体を濾去することは不可能である。結果、生成物の許容されない損失が増し、経済的でない方法となる。
【0011】
医療用ヒル抽出物のナノ濾過の場合、膜の領域当たりの達成可能な流速が非常に遅いことが、いくつかの研究で明らかとなった。同時に、フィルタ表面の障害物が非常に短い処理時間後でさえ生じた。該障害物は可逆的ではなかった。例えば、逆洗浄のような従来の手法によって機能状態にフィルタを戻すことは不可能であった。コストの高いフィルターユニットを組み合わせたこの非常に性能の悪いナノ濾過法は、薬剤製造における実用的応用として医療用ヒル抽出物のウイルス除去のための方法から除外される。
【0012】
ウイルス不活性化のさらなる方法は、紫外線照射(UV照射)である。この方法において、特定の暴露は、処理すべき媒体の均質な照射である。目的は、刺激に敏感な活性物質の広範囲な保護と合わせて、微生物および/またはウイルスの信頼できる広範囲の破壊である。とりわけ、天然源のそのままの物質由来の生成物は、種々の成分の複合体を有する。概して、種々の生成物成分は、UV照射に対して異なる安定性を示す。このことは、ウイルス不活化と生成物品質の保護の妥協点を見出すことを困難にしている。
【0013】
生成物保護の重要な基準は、照射領域での生成物暴露を短くすることである。要される平均処理時間が、照射領域を最も迅速に通過する粒子によって決定されるため、処理時間の短縮は、製造工程内の高度に一定の滞留時間分布を必要とする。液体媒体中に紫外線を放射するために反応器を用いるときの問題は、処理すべき媒体中の放射線強度が、放射線源からの距離が増すとともに指数関数的に減少するために生じる。このため、放射線源からの距離が増すほど、微生物およびウイルスは、よりゆっくりと破壊されるか、または全く破壊されない。
【0014】
例えば、先行技術において、薄膜反応器で見出されるように、媒体の増加する光吸収能を大幅に増強させるこの効果は、非常に大きな照射表面の使用をもたらす。しかしながら、用いた薄膜反応器は、該膜の厚さを大規模で一定に保つことが、処理能力に比例して直径拡大によってのみ実現され得て、工業規模では、これがもはや扱いやすくない大きな反応器へ導くため、工業規模への変換は大きな困難を有する。
【0015】
さらなる負の作用は、液体フィルムの好ましくない滞留時間挙動によりもたらされ、それは、ほとんどが反応媒体中へのUV放射線の侵入の浅さのみによって、必然的に非常に薄く、故に、層流を示し、主要な流れの方向に交わる何らかの変更がそこで起こらないことである。壁の方向へ0まで直線的に減少する速度プロファイルのために、壁に近い層は、実質的に壁から遠い層より長く留まる。壁から遠くに離れ、より速く流れている液体層中での破壊も実現するために必要な最小照射線量を可能にするために、フィルムの平均滞留時間を延ばすことが必要である。しかしながら、これは、放射線暴露を増加させ、故に、生成物がより損傷を受けることとなる。
【0016】
文献(EP 1 339 643A1、EP 1 337 280A1)は、らせん状流路に特に好ましい滞留時間挙動を記載する。生成物は、らせん形の流路を通って流れる。らせん形の流路ガイダンスは、強度が保証されるDean vorticeとして公知のチャネルで、同時に、穏やかに混合され二次流れになる。渦の高い混合効果は、狭い滞留時間挙動および照射量分布を実現する。これにより、生成物に大きく影響することなく、ウイルスを不活性化するのに十分な有効放射線量を具体的に導入することが可能である。このいわゆる線量概念は、モジュールサイズによって変化することなく、従って、実験室規模から工業規模までのスケールアップが可能である。
【0017】
いわゆるスパイラル型モジュールにおけるUV照射は、原則、一度の流水が、該スパイラル型モジュールを介して行われるような方法で提供される。処理すべき液体の混濁によって、スパイラル型モジュールにおける流速は、任意の限定された範囲内で変えることができる。この範囲は、必要とされる二次流れの形成およびモジュール中の圧力の低下によって決定される。可能な限り遅い流速、および最長の滞留時間でさえ、所望のウイルス不活性化を達成するのに十分ではなく、連続して多数のモジュールを操作する原理でのウイルス不活性化が考えられ得る。しかしながら、この場合、適当な数が、連続する多数のモジュールの配置による圧力の低下、およびモジュールの圧力安定性によって制限される。
【0018】
医療用ヒル抽出物の場合には、液体の吸光度は、医療用ヒル抽出物におけるUV放射線の浸透の深さが表面上の領域およびその数マイクロメートル下に制限されるように高い(254nmでの光学密度が50以上である)。生成物品質の維持と共に、単一のスパイラル型モジュールを通過することによる顕著なウイルス不活性化は、保証されない。これは、出願人の研究により示された。次々に接続している多数のモジュールを操作するという可能性のある選択も、実施上の理由で除外された。十分な不活性化については、連続する4つ以上のモジュールが必要とされるだろう。これは、システムの制限のある圧力抵抗と共に、関連する圧力低下のために実施上不可能であり得る。
【0019】
加えて、医療用ヒル抽出物中の活性物質混合物複合体のために、特に、照射領域内にフィルム形成の危険があり、その形成は、照射されるべき媒体への放射線の導入を減少させるか、または完全に阻止し得る。
【0020】
故に、医療用ヒル抽出物のUV照射は、有効なウイルス不活性化法ではないことが懸念されている。別の問題は、照射される媒体が非常に高い光学密度を有するときのみ、フィルム形成が非常に難しいと認識され得ることである。そのような場合、フィルム形成を決定するために、照射される媒体に光検出器を導入すること、および放射線強度を測定することは、不可能である。照射される媒体が不十分な照射を受けるという危険があり、故に、その十分な生成物の安全性が保証されない。
【0021】
先行技術から進歩するために、故に、本発明の目的は、医療用ヒル抽出物中のウイルスおよび/または細菌、より具体的には、小さな被覆されていないウイルスの不活性化法を提供することである。所望の方法は、酸性処理、溶媒処理、洗剤処理、低温殺菌および/またはナノ濾過のような古典的方法を用いて生成物のより高収量をもたらし、同時に、経済的操作および高い生成物品質を保証し得る。さらに、該所望の方法は、十分な生成物の安全性が保証され得るようにフィルム形成を認識することを可能にするものであり得る。
【発明の概要】
【0022】
驚くことに、医療用ヒル抽出物中のウイルスおよび細菌の不活性化は、撹拌槽と照射装置の間を医療用ヒル抽出物を循環させ、そこで医療用ヒル抽出物が紫外線照射されることにより効果的かつ経済的に達成され得ることが見出された。
【0023】
故に、本発明は、液体医療用ヒル抽出物中のウイルスおよび/または細菌を不活性化するための方法であって、撹拌槽と照射装置の間を該抽出物を循環させて、そこで該抽出物を電磁放射線に暴露することを特徴とする方法を提供する。
【0024】
液体の医療用ヒル抽出物は、好ましくは、実施例1に記載の方法により得られた抽出物である。
【0025】
不活性化は、ウイルスおよび/または細菌の望ましくない特性の軽減または除去をもたらす方法を意味すると理解される。不活性化は、電磁放射線の導入により行われた。好ましくは、かかる照射は、ウイルスおよび/または細菌が、もはやヒト、動物、植物および/または環境に損傷を与える作用を有さないような方法でそれらを除去するのに好適であることが知られている、紫外線光を用いて行われる。
【0026】
紫外線光は、100nmないし400nmの波長で電磁放射する手段と理解される。ウイルス不活性化のために、好ましくは100nmないし280nm、特に好ましくは200nmないし280nmのいわゆるUVC放射の使用が好ましい。
【0027】
本発明によれば、医療用ヒル抽出物を撹拌槽と照射装置の間を循環させる。照射装置は、以下にさらに詳細に記載の、1個以上の、好ましくは並列に接続したスパイラル型モジュールからなる。
【0028】
驚くことに、循環モードの操作は、医療用ヒル抽出物中に含まれるタンパク質を傷つけることなく、該医療用ヒル抽出物中のウイルスおよび細菌の十分な不活性化を達成する。撹拌された反応器の使用によってもたらされる広範な滞留時間分布(次々に接続した1個以上のスパイラル型モジュールによる一度だけの通過と比較して)および循環モードの操作の結果の単一モジュール中の増加した照射時間は、驚くことに、医療用ヒル抽出物中に含まれていたタンパク質に損傷を与えない。加えて、単一のスパイラル型モジュール中の相応に長い処理時間にも関わらず、驚くことに、関連するフィルムまたは凝集体の形成もない。
【0029】
驚くことに、70以上の光学密度を有する医療用ヒル抽出物でさえ、紫外線光の照射により、ウイルスおよび細菌の不活性化を可能にすることが見出された。好ましくは、10ないし72、特に好ましくは30ないし65、さらに特に好ましくは40ないし60の範囲の光学密度を有する医療用ヒル抽出物の製造に使用される。
【0030】
光学密度OD(吸光度としても公知)は、培地に入る放射線の強度Iと、培地から出る放射線の強度Iの比の、10を底とする対数を意味すると理解される:
OD=lg(I/I)
光学密度は、使用される放射線の波長によって変わる。本明細書中、254nm波長での光学密度が特記される。
【0031】
本発明によれば、医療用ヒル抽出物は循環される。総容量に対するポンプ循環される容積流速の速度は、0.5ないし80 l/時間、好ましくは1ないし60 l/時間、特に好ましくは3ないし45 l/時間である。
【0032】
本発明の方法を実行するとき、抽出物の温度は、2℃ないし25℃、好ましくは4℃ないし20℃、特に好ましくは8℃ないし15℃の範囲に維持される。
【0033】
好ましい態様において、照射前および/または後に、バッチは、循環モードの操作で照射され、透明媒体が1回以上循環し、照射領域内の透明媒体に導入されたか、または透明媒体を通過した放射線の強度を測定する。
【0034】
これは、医療用ヒル抽出物の光学密度が、抽出物の照射中、照射領域中の医療用ヒル抽出物に入射するか、または医療用ヒル抽出物を通過する放射線強度を測定することを可能にするには高すぎるためである。しかしながら、照射中に、照射モジュールの内壁にフィルム形成が生じるという危険性がある。フィルム形成の結果、抽出物に入射する放射線強度は減少され得る。その結果、ウイルスおよび/または細菌の完全な不活性化はもはや保証され得ない。故に、透明媒体は、医療用ヒル抽出物の照射の前および/または後にシステムに通され、媒体に導入されるか、または媒体を通過する放射線の強度を測定する。医療用ヒル抽出物の照射前および後の放射線強度が、同じか、または同程度であるとき、フィルム形成はあり得ず、医療用ヒル抽出物の次のバッチは、照射され得る。放射線強度の顕著な減少が記録されるとき、フィルムが照射モジュールの内壁に形成したと考えられ、そのフィルムは、次のバッチの前に除去されるべきである。あるいは、減少した放射線強度を補うために、放射線強度を増加させること、および/または循環数を増加させることがさらに考えられ得る。
【0035】
透明媒体とは、用いる放射線の波長範囲で(好ましくは254nmで測定される)、10以下の光学密度を有する培地を意味すると理解される。
【0036】
好ましくは、用いた透明媒体は、水または緩衝水溶液である。好ましい緩衝溶液は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または他の有機/無機緩衝系である。
【0037】
フィルム形成に加えて、液体中の、生成物および二次成分またはその両方に関する、放射線により誘導される凝集形成を回避することも必要である。医療用ヒル抽出物の循環モードの操作にも関わらず、凝集体形成が本発明の態様で全く観察されなかったことは驚くべきことである。
【0038】
本発明の方法は、少なくとも1個の撹拌槽、1つの照射装置および1つの医療用ヒル抽出物用コンベヤーを含む装置で行われる。
【0039】
撹拌槽は、医療用ヒル抽出物を貯蔵し得て、そこに、コンテナ内にある医療用ヒル抽出物を混合する手段を含むコンテナを意味すると理解される。典型的に、混合に用いる手段は、例えば、ブレード撹拌器のような撹拌器である。例えば、該コンテナは、ガラス製、ステンレススチール製またはプラスチック製であり得る。
【0040】
コンベヤーは、撹拌槽から照射装置を通して液体媒体運搬し、撹拌槽に戻すのに用いられる。好適なコンベヤーは、例えばポンプである。
【0041】
本発明の方法を実行するための装置は、医療用ヒル抽出物が、照射装置を通って撹拌槽から運搬され、再び撹拌槽に戻り得るように、撹拌槽、照射装置およびコンベヤーが互いに接続されていることを特徴とする。
【0042】
照射装置は、1個以上の、好ましくは並列に接続したスパイラル型モジュールを含む。
【0043】
スパイラル型モジュールは、少なくとも1個の電磁放射線源および軸の周りにらせん状に巻かれたチャンネル巻線を提供する装置を意味すると理解される。そのようなスパイラル型モジュールの例は、公開された特許出願WO2002/038502A1の図5、6、7、8、9または10に示される。らせん形に巻かれたチャンネルは、好ましくは、それが電磁放射線源の周りを通るように配置される。電磁放射源がさらにチャンネルの周りに配置されることが考えられる。
【0044】
液体媒体が、かかるらせん状に巻かれたチャンネル巻線を介して流れるとき、媒体への影響は、チャネルの全長に渡って強力な一様のクロス混合であり、その混合は、生成物の流れの主方向に対して垂直である。本発明の方法において広まっている層流特性にもかかわらず、クロス混合は、狭くなった滞留時間分布をもたらす。加えて、クロス混合は、特に、強く吸収する媒体の場合に、放射線源から離れている流体層であって、電磁放射をほとんどあるいは全く受容しない層を、放射線源に近い照射された層と激しく交換する。このことおよび狭い滞留時間分布は、結果として、全ての液体成分を照射の時間および強度さえ均一にすることとなり、その時間および強度は、流速および放射線源の強度を特定の必要に合わせて好適にし得る。故に、媒体中の微生物および/またはウイルスの有効な減少を保証することが可能である。過剰な照射が損傷をもたらし得る媒体の場合、結果として過度の放射線暴露となる不利に広範な滞留時間分布の危険、およびそれによるいくつかの場合における損傷が、有効に阻止される。
【0045】
スパイラル型モジュールにおいて、複数のチャネルが、共通の軸に隣接してらせん状に巻かれて配置されることが考慮される。チャンネルは、チャンネルには角度、循環、楕円形もしくは半円形の横断面プロファイルを有し得る。さらなる横断面プロファイルも考慮され得る。好ましくは、チャンネルは、少なくとも片側が平坦な横断面プロファイルを有する。電磁放射線は、この平坦側から、好ましくはチャネルに導入される。かかるチャネルの例は、WO2002/038502A1の図5、6、7、8、9または10に示される。チャネルの横断面プロファイルは、好ましくは、D形(すなわち、半円または半楕円形)、ひし形または長方形である。
【0046】
好適な電磁放射線源は、ウイルスおよび/または細菌を不活性化するのに適する波長で放射線を放出する何れかの源である。好ましくは、例えば、254nm波長で最大放射を有する水銀ランプのようなUVC放射線源を用いる。電磁放射線の複数源を使用することが考慮される。
【0047】
特に好ましい態様では、スパイラル型モジュールは、らせん状の管が、フォースフィット法(force-fitted manner)またはフォームフィット法(form-fitted manner)でマウントされる中空シリンダーを含む。電磁放射線源は、直接生成物と接触することのない中空シリンダー内へ導入される。かかるスパイラル型モジュールは、例えば、WO02/38502A1、WO02/38191A1、WO07/096057A1、EP1464342A1およびDE102009009108.4に記載されている。
【0048】
WO07/096057A2は、例えば、らせん状の管が、内部を支持する管上にフォームフィット法でマウントされることを特徴とするスパイラル型モジュールを記載する。これは、該支持管とらせん状の管の間に、らせん状の管の一端から、らせん状の管の周りを、該らせん状の管のもう一端までらせん状に巻かれたチャネルを生じる。好ましくは、特許出願DE102009009108.4に記載の通り、らせん状の管を、中空シリンダー上にフォースフィット法でマウントする。隣接チャンネルコイル間の直交流は、故に、効果的に回避され得る。そうでなければ、かかる直交流は、滞留時間分布の望ましくない広がりに至り得る。
【0049】
スパイラル型モジュールは、好ましくは、少なくとも照射された成分が使い捨て部分として使用されるように、設計される。撹拌槽と1個以上のスパイラル型モジュールを有する照射装置の容量比は、1ないし1000、好ましくは5ないし500、特に好ましくは、10ないし200である。結果として、操作プロセス、すなわち例えば操作シフトに容易に組み込まれ得る処理時間を観察することが可能である。
【0050】
本発明の方法を実行するための装置は、好ましくは、例えば、照射(例えば、UVセンサー)、圧力、容器の液体レベル、温度および容積流速のための1個以上のセンサーを備えている。加えて、該装置は、好ましくは、スパイラル型モジュールの正確な設置位置をモニターするセンサー、および液漏れの可能性を検出する漏出センサーを備えている。好ましい態様において、安全機能も想定される。これらは、例えば、オペレーター(例えばドア・モニタリングを備える囲い)の望ましくない照射を防ぐ手段、漏出の場合の回収トラフ、機械部品の移動からの保護である。
【0051】
装置全体は、好ましくは、工程管理システムによって制御および調節される。特に、温度、流速、照射時間および処理時間がモニターされる。
装置の構成要素は、医薬適用のために滅菌を保証するのにCIP(CIP=定置洗浄)適合性であるように設計される。
本発明は、以下の実施例に詳細に説明され得るが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、粗医療用ヒル抽出物を得るための方法を示す図である。
【図2】図2は、凍結乾燥した医療用ヒル抽出物を得るための方法を示す図である。
【図3】図3は、本発明の方法を実施するための装置の一態様を示す図である。
【図4】図4は、照射モジュールを示すための図である。
【図5】図5は、照射モジュール・ヘッドを示すための図である。
【図6】図6は、流れが起こる、らせん状に巻かれたチャネル、およびそこでのDean渦形成を示す図である。
【図7】図7は、媒体中のヒルジンおよびウイルスの不活性化を、照射量の関数として示す図である。
【実施例】
【0053】
実施例1:医療用ヒル抽出物を得るための方法
工程1(粗抽出物を得る工程)
医療用ヒル抽出物である粗抽出物を得るための工程1を図1に図示する。
急速凍結された医療用ヒルを解凍し、全部で70−80kgの2つの部分を、切断機中で細分化した。粉砕後、懸濁液加熱した純水で希釈し、抽出物容器に移し、そこで、容量を、純水の添加によって調節した。懸濁液をさらに撹拌および加熱しながら、塩化ナトリウムおよびアセトンを、第一の抽出段階で添加した。第一の抽出段階後、懸濁液を、バイオマス含有相および液体相へ、遠心分離によって分離した。液体相を一時的に貯蔵した。固体相を加熱した純水中に集め、増加した塩化ナトリウムおよびアセトン濃度で再び抽出した(第二の抽出段階)。その後、遠心分離を再び行い、最後に、第三の抽出段階を、増加した塩化ナトリウムおよびアセトン濃度で行った。その後、バイオマス含有固体相を廃棄した。液体相を合わせ、濾過し、トリクロロ酢酸(TCA)を添加してpHを4−5、好ましくは、4.5(±0.1)に合わせ、その後、タンパク質が、冷凍庫に貯蔵されていたアセトン中に沈殿した。タンパク質沈殿は、沈殿相を形成し、上部のアセトン相と分けられた。沈殿を、アセトン−水混合物(80% v/v)で3回洗浄した。沈殿は、洗浄工程間で沈殿相を形成した。上部のアセトン相を、各場合に除去した。洗浄した沈殿を濾過により回収し、アセトンで洗浄した。その後、過剰なアセトンを窒素ガスでフラッシュ除去し、濾過ケーキを集めた。湿式濾過ケーキを、要すれば、一時的に急速冷凍庫に入れてもよい。該濾過ケーキを、残余アセトンを除去するために、真空乾燥キャビネット中で乾燥した。粗医療用ヒル抽出物を含む、乾燥した濾過ケーキを、さらなる処理工程まで一時的に急速冷凍庫に入れた。
【0054】
工程2(医療用ヒル抽出物(凍結乾燥した)を得る工程)
図2は、医療用ヒル抽出物である凍結乾燥した医療用ヒル抽出物を得るための工程2を図示する。
粗医療用ヒル抽出物を含む種々の乾燥した濾過ケーキを合わせ、純水に溶解した。得られたタンパク質溶液を凍結させ、一時的に冷凍庫に入れた。その後、該溶液を解凍し、純水を添加した。希釈したタンパク質溶液を加熱し、一定温度で所定の時間低温殺菌した。その後、タンパク質溶液を室温まで冷却し、希塩酸または炭酸ナトリウムを用いて7−8の中性pH、好ましくは7.5(±0.1)に合わせた。pHを合わせた溶液を遠心し、上清を合わせ、一時的に冷蔵庫に入れた。残りの沈殿を純水を添加して洗浄し、再び遠心した。
【0055】
その後、上清を合わせ、均質化し、濾過した。必要ならば、光学密度OD(254nm)を、純水の添加により好適に合わせ得る。72までの光学密度が、好適であることが見出されている。その後、UV照射を、254nmの波長で、適当な照射量で行った。50ないし1000J/m、好ましくは100−600J/m、特に好ましくは、250−350J/mの用量が好ましいことが見出された。その後、UV放射タンパク質溶液を濾過し、活性を調節するために濃縮した。調節したバルク溶液を、最後にもう一度濾過し、容器に充填し、次いで凍結乾燥させた。凍結乾燥した医療用ヒル抽出物を、さらなる処理工程まで一時的貯蔵庫に入れた。
【0056】
実施例2:50以上の高い光学密度を有する液体媒体中の望ましくない混入物を不活性化する装置
本発明の方法を実施するための装置の図を、図3に示す。
該装置は、本質的に、コンテナ10、例えばスターラー40および1個以上の照射モジュール(20、21)を有する撹拌槽から構成される。媒体15を、チューブおよびチューブ連結部を介して、コンテナ10から照射モジュール20、21へ導入し、その後、再び、コンテナ10に戻す。これは、好ましくはポンプ30によって達成される。照射モジュールは並列に接続され得るか、または直列に接続され得るか、さもなければ、並列および直列を組み合わせて接続され得る。
【0057】
照射モジュールは、好ましくは、放射線を、とりわけ254nmの波長で提供する、棒状の放射線源の周りに誘導されるらせん状の照射スペースを含む、上記に記載の定義の通りスパイラル型モジュールである。
【0058】
放射線源は、好ましくは水銀ランプである。照射スペースは、254nmの波長で放射線が通過し、好ましくは、石英ガラスからなる材料において、少なくとも放射線源に向けられた側で実現される。らせん状に誘導された流れは、Dean vortices 200として公知の二次渦を生じ(図6を参照のこと)、それは、層流レジメンでさえ、液体の効率的かつ有効なクロス混合を生じる。この方法において、該モジュールを通過する流れの間、全ての液体成分は、壁に近い層において照射される。さらに、この流れのガイダンスは、滞留時間分布の幅を狭める。
【0059】
スパイラル型モジュールの好ましい態様を、図4に示す。
【0060】
この好ましい態様において、スパイラル型モジュールは、らせん状ノッチを有し、結果として、らせん形を形成するテフロン製チューブ90を含む。石英製チューブ100を、フォースフィット法で該テフロン製チューブに導入する。この構造を、互いに個々のらせん形95に分け、らせん状パイプラインシステムを構築する。UVランプ80を、石英製チューブ100の内部に導入する。この位置が、反応器内の全経路でらせん形状を介して流れる溶液を最大に照射することを可能にする。
【0061】
液体の導入は、好ましくは、より低い入口かあら達成され、故に、異なる溶液の泡のない導入を可能にする。放射モジュールのより下部および上部端の両方では、液体の供給あるいは液体の除去のために意図される反応器のヘッド部分(図5を参照のこと)がそれぞれ配置されている。作成された開口110は、UVセンサーによる放射線源の性能をモニターするのを可能にする。
【0062】
図4中、
D=らせん形状の平均直径
b=半楕円形流路の幅
L=テフロンチューブの長さ
a=らせん形状の平均の高さ
i=2つのらせん形状間の距離
QR=石英製チューブの外側直径の2分の1
である。
【0063】
実施例3:実施例2の装置で、実施例1の医療用ヒル抽出物を処理する方法
実施例1に記載の方法からの医療用ヒル抽出物を、照射モジュールを有する実施例2に記載の装置を用いて照射した。これを、初めに、少量(>10%)のウイルス貯蔵溶液(マウスの微小ウイルス)と混合された230ml容量の抽出物を充填した。光学密度は53.3であった。該抽出物は、蠕動ポンプにより10 l/時間で24ml照射モジュールによって汲まれ、UV光を254nmでそれに照射して、最初の充填物に戻された(操作の循環モード)。0分、10分、20分および30分後、サンプルを最初の充填から取り出した。これは、照射量0、97、198および303 J/mそれぞれに相当する。各サンプルから、標準アッセイを、抽出物中のウイルス活性およびヒルジン作用物質の活性を決定するために用いた。
【0064】
結果を図7のグラフに示す。
図7は、照射量の関数としてヒルジン、および添加ウイルスの不活性化を示す。結果は、作用物質への制限のある損傷と結びついた、明確なウイルス不活性化効果を説明する。しかしながら、作用物質への損傷が明らかに存在するため、不必要な損失を回避するために選択される非常に正確な照射のための予め定められた最小のウイルス不活化の場合が必要とされる。
【0065】
参照記号
10 撹拌槽
15 培地(医療用ヒル抽出物)
20 スパイラル型モジュール
21 スパイラル型モジュール
30 コンベヤー(例えばポンプ)
40 スターラー
50 冷却ジャケット
80 放射線源
90 テフロン製チューブ
95 らせん形状
100 石英製ガラスチューブ
110 センサーを装着するための開閉可能な開口部
120 入口/出口
150 入口
160 出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用ヒル抽出物を、撹拌槽と電磁放射線を培地に照射する照射装置の間を循環させることを特徴とする、医療用ヒル抽出物におけるウイルスおよび/または細菌の不活性化法。
【請求項2】
照射を、100nmないし280nm、好ましくは200nmないし280nmの範囲の紫外線を用いて行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
医療用ヒル抽出物が、254nmの波長で、72まで、好ましくは30ないし65、特に好ましくは40ないし60の範囲の光学密度を有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
総容量に対するポンプ循環される容積流速の速度が、0.5ないし80 l/時間、好ましくは1ないし60 l/時間、特に好ましくは3ないし45 l/時間の範囲であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
医療用ヒル抽出物の温度が、2℃ないし25℃、好ましくは4℃ないし20℃、特に好ましくは8℃ないし15℃の範囲であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
医療用ヒル抽出物の照射前および/または照射後で、透明媒体がシステムを介して運搬され、媒体に導入されるか、または媒体を通過する放射線強度を測定されることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
撹拌槽と照射装置の容量比が、1:1000、好ましくは5:500、特に好ましくは10:200であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
照射装置が、1個以上の、好ましくは並列に接続したスパイラル型モジュールにより形成され、該スパイラル型モジュールが、少なくとも1個の電磁放射線源および少なくとも1個の軸の周囲をらせん状に巻いたチャネルを有する装置であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
該らせん状巻きチャネルが、電磁放射線源の周りをまわるように配置されていることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該チャネルが、少なくとも片側が平坦である横断面プロファイルを有し、電磁放射が、好ましくはこの平坦側からチャネルに導入されることを特徴とする、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
チャネルの横断面プロファイルが、D形、ひし形または長方形であることを特徴とする、請求項8ないし10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
スパイラル型モジュールが、らせん管がフォースフィット法(force-fitted manner)またはフォームフィット法(form-fitted manner)で取り付けられ、そこに電磁放射線源が導入されている中空シリンダーを含むことを特徴とする、請求項8ないし11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
スパイラル型モジュールが、少なくとも照射した成分が使い捨てで用いられるように設計されることを特徴とする、請求項8ないし12のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−507213(P2013−507213A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533583(P2012−533583)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065109
【国際公開番号】WO2011/045243
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(507113188)バイエル・ファルマ・アクチェンゲゼルシャフト (141)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Pharma Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】