説明

医療用レーザ装置

【課題】治療に適した多波長の可視レーザ光を安価に得る装置を提供する。
【解決手段】所定の赤外域のレーザ光を出射するファイバレーザ光源1であって、励起光源2からの励起光の伝送経路を切換える光スイッチ12と,光スイッチ12の切換え経路にそれぞれ接続されて所定の異なる波長の基本波レーザ光をそれぞれ発振する複数のファイバレーザ10とを持つファイバレーザ光源1と、ファイバレーザ光源1から異なる波長で出射される基本波レーザ光に対応して、それぞれの基本波レーザ光をその第2高調波に変換する複数の波長変換素子31a1〜nと、レーザ光の波長の選択信号を入力する波長選択手段と、選択信号に応じた基本波レーザ光がファイバレーザ光源から出射されるように光スイッチの切換え動作を制御する制御手段と、波長変換された可視レーザ光を患部に導光する導光光学系とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる波長の可視治療用レーザ光を選択的に患者眼等に照射して治療を行う医療用レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科分野の光凝固治療においては、多波長クリプトンレーザや、Nd:YAG固体レーザからの赤外光を異なる波長変換素子により多波長の可視光に波長変換したものが使用されてきた。しかし、多波長クリプトンレーザはレーザチューブが短寿命であり、装置が大型化する欠点がある。Nd:YAG固体レーザでは、波長変換できる波長が限られており、光凝固に好ましいオレンジレーザ光は得られない。そこで、光通信分野で研究がなされているラマンファイバレーザを応用して、治療に適した多波長の可視レーザ光を高出力で得ようとするものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004-321507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ラマンシフトを使用したラマンファイバレーザは、得ようとする波長に応じて適切な特性を有するファイバ・ブラッグ・グレーティングを幾つも組み合わせて製作する必要があり、構成が複雑で高価なものになる。多波長のレーザ光を得るためには、波長に応じたラマンファイバを複数使用する必要があり、高価なラマンファイバを複数使用することはコスト的に不利である。また、ラマンファイバレーザでは、ラマンシフトされたレーザ光のスペクトル幅が広くなりやすいために、入力レーザ光の全体強度に対して波長変換素子の変換効率が低くなる問題がある。このため、治療に必要な1W以上の可視レーザ光を得ようとすると、大きな入力の励起光源が必要になり、装置が高価になる。
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、治療に適した多波長の可視レーザ光を安価に得ることができる医療用レーザ装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は次のような構成を備えることを特徴とする。
【0006】
(1) 複数の波長の可視レーザ光を選択的に患部に照射する医療用レーザ装置において、所定の赤外域のレーザ光を出射するファイバレーザ光源であって、励起光源と,該励起光源からの励起光の伝送経路を切換える光スイッチと,該光スイッチの切換え経路にそれぞれ接続されて所定の異なる波長の基本波レーザ光をそれぞれ発振する複数のファイバレーザとを持つファイバレーザ光源と、前記ファイバレーザ光源から異なる波長で出射される基本波レーザ光に対応して、それぞれの基本波レーザ光をその第2高調波に変換する複数の波長変換素子と、レーザ光の波長の選択信号を入力する波長選択手段と、前記選択信号に応じた基本波レーザ光が前記ファイバレーザ光源から出射されるように前記光スイッチの切換え動作を制御する制御手段と、前記波長変換素子により波長変換された可視レーザ光を患部に導光する導光光学系と、を備えることを特徴とする。
(2) (1)の医療用レーザ装置は、前記複数のファイバレーザからそれぞれ発振される異なる波長の基本波レーザ光を合波する波長合波器と、該波長合波器を介して伝送される基本波レーザ光の強度を増幅するファイバアンプと、該ファイバアンプから出力された基本波レーザ光を、その基本波レーザ光の波長に応じて前記複数の波長変換素子に選択的に入射させて波長変換させる波長変換素子切換手段と、を備えることを特徴とする。
(3) (2)の医療用レーザ装置において、前記波長変換素子切換手段は前記ファイバアンプを経て伝送される基本波レーザ光をその波長に応じて空間的に分散する波長分散光学系と、前記波長変換素子で変換された各第2高調波を合波する波長合波光学系とを備え、前記複数の波長変換素子は前記波長分散光学系により分散されたレーザ光の各波長の光路位置に対応して配置されていることを特徴とする。
(4) (1)の医療用レーザ装置において、前記ファイバレーザ光源から異なる波長で出射される基本波レーザ光に対応させた前記複数の波長変換素子を前記複数のファイバレーザのそれぞれに接続すると共に、各波長変換素子で波長変換された可視レーザ光を合波する波長合波器を設け、該波長合波器で合波された可視レーザ光を前記導光光学系により患部に導光する構成としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、治療に適した多波長の可視レーザ光を安価に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、第1実施形態の眼科用レーザ装置の概略構成図である。
【0009】
2は励起光源としてのLD(半導体レーザ)である。LD2は複数個用意しても良い。LD2から出力された波長λp(例えば、波長980nm)の励起光は、カプラ4を介してファイバレーザ10に入力される。ファイバレーザ10は、LD2からの励起光が入力される1つの第1ファイバレーザ10aと、N個の第2ファイバレーザ10b1,10b2,…,10bnを備える。第1ファイバレーザ10a,第2ファイバレーザ10b1〜10bnは、Yb(イットリウム)がコア部分にドープされたYbガラスファイバからなる。このYbガラスファイバの吸収スペクトル特性と放射スペクトル特性を、図2に示す。Ybガラスファイバによるレーザ発振は、後述する波長変換素子で第2高調波に変換したときの緑色レーザ光の基本波となる波長1040nm付近から、少なくともオレンジレーザ光の基本波となる波長1160nmが発振できることは確認されており、波長1200nmまでの波長域で発振可能である。
【0010】
図1において、第1ファイバレーザ10aの後端には伝送経路選択器としての光スイッチ12に接続されている。光スイッチ12は、入力1個×出力N個の構造を持つ。光スイッチ12のN個の各出力端には、N個の第2ファイバレーザ10b1〜10bnが接続されている。第1ファイバレーザ10aの入力端側には、全反射ミラーとして機能するFBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)11aが形成されている。一方、第2ファイバレーザ10b1〜10bnの出力端側には、それぞれ波長λ1、λ2、…、λnのレーザ光を発生させるための出力ミラーとして機能するFBG11b1、FBG11b2、…、FBG11bnが形成されている。FBG11aは、LD1からの波長λpの励起光を透過し、第2ファイバレーザ10b1〜10bnから出力させる波長λ1、λ2、…、λnの光をほぼ全反射する特性を有する。FBG11b1、FBG11b2、…、FBG11bnは、波長λpの励起光をほぼ全反射すると共に、それぞれに対応した波長λ1、λ2、…、λnの出力光に対して一部透過の特性を有する。第1ファイバレーザ10aのFBG11aと第2ファイバレーザ側のFBG11b1〜FBG11bnとにより、各レーザ波長λ1〜λnについての共振器が規定される。そして、第1ファイバレーザ10aと、光スイッチ12によって選択的に伝送経路が切換えられる第2ファイバレーザ10b1〜10bnの何れかより、その切換えに対応した波長のレーザ光が発振される。
【0011】
ファーバレーザ光源1は、以上の励起光源2、カプラ4、FBG11aが形成された第1ファイバレーザ10a、光スイッチ12、FBG11b1〜FBG11bnがそれぞれ形成された複数の第2ファイバレーザ10b1〜10bnから構成されている。ファーバレーザ光源1から発振する波長λ1〜λnは、眼科用の光凝固用として、波長1060〜1200nmの波長域で選択できるように構成される。好ましくは、波長520〜540nmの緑色レーザ光の基本波となる波長1020〜1080nmの内の1つと、波長580〜600nmのオレンジ色レーザの基本波となる波長1160〜1200nmの内の1つが発振できるように構成される。
【0012】
なお、ファーバレーザ10の構成としては、光スイッチ12の前に配置した第1ファイバレーザ10aを使用しない構成でも良い。すなわち、LD2から励起光を光スイッチ12に直接入力すると共に、第2ファイバレーザ10b1〜10bnのそれぞれの入力側にFBG11aを形成し、光スイッチ12により選択的に経路を切換えて第2ファイバレーザ10b1〜10bnのみで基本波レーザ光を発振させる。この構成の場合、各第2ファイバレーザ10b1〜10bnにFBG11aを形成する必要があると共に、各選択波長を発振させるための長さを持つファイバが必要でる。これに対して、図1の構成においては、各発振波長に共通の第1ファイバレーザ10aを使用することにより、FBG11aの形成の数を減らすことができると共に、各第2ファイバレーザ10b1〜10bnを構成するファイバの長さを短くできるので、コスト的に有利である。また、光スイッチ12の負荷を小さくできる。
【0013】
第2ファイバレーザ10b1〜10bnの出力端には、波長合成器としての光スイッチ14が接続されている。光スイッチ14は、入力N個×出力1個の構造を持つ。光スイッチ14の出力ポートには伝送ファイバ16が接続されている。伝送ファイバ16の先にはファイバアンプ20が接続されている。ファイバアンプ20は、ファイバレーザ10と同じYbドープのガラスファイバからなる増幅用ファイバ21と、増幅用ファイバ21の両端に配置された波長カプラ22a,22bと、波長カプラ22a,22bに接続される複数個のLD24(半導体レーザ)とを含む。増幅用ファイバ21には伝送ファイバ16からの信号光と同一方向の励起光と逆方向の励起光とがLD24から入力され、励起光によって伝送ファイバ16からのレーザ光の強度が増幅される。なお、ファイバアンプ20の入力側には励起光の戻りを防ぐためのアイソレータ(図示を略す)が配置され、ファイバアンプ20の出力側には増幅されたレーザ光を通過させる波長フィルタ(図示を略す)が配置される。
【0014】
この第1実施形態では、複数のファイバレーザ11b1〜11bnが光スイッチ14で合波された後の光路に、基本波レーザ光を増幅するファイバアンプ20を設けているため、ファイバレーザ光源1で発振させるレーザ光の出力(強度)を小さくでき、光スイッチ12,14に掛かる負荷を小さくできる。このため、光スイッチ12,14として高出力に対応できるものを使用する必要が無く、安価なものを使用できる。また、光スイッチ12,14の寿命を縮めずに済む。眼科用の光凝固治療では、通信分野と異なり、可視の治療レーザ光として1W以上の出力を必要とする。後述する波長変化素子の変換効率を20%とし、波長変換後の1Wの出力を得ようとした場合、そのための基本波レーザ光は5Wの出力が必要となる。5W以上の基本波レーザ光をファイバレーザ光源1で得る場合は、光スイッチも高出力に対応できるものを使用することが必要となる。これに対して、第1実施形態ではファイバレーザ光源1の後の光路にファイバアンプ20を設ける構成としたことにより、ファイバレーザ光源1で発振させるレーザ光の出力を1W以下にすることができ、安価な光スイッチを使用することができる。
【0015】
また、ラマンファイバレーザでは、ラマンシフトされた赤外の基本波レーザ光のスペクトル幅が広くなりやすい問題があったが、オレンジ色レーザ光に波長変換する基本波レーザ光の波長(波長1200nmまで)もファイバレーザで得るようにしたので、基本波レーザ光のスペクトル幅が広がらず、後述する波長変換素子の変換効率を高くすることができる。このため、波長変換素子に入射させる基本波レーザ光の強度をラマンファイバレーザの場合に比べて低くでき、高価なLD2やLD24の使用個数を少なくできる。
【0016】
ファイバアンプ20を経たレーザ光は、伝送ファイバ26により波長変換素子ユニット30側に伝送される。伝送ファイバ26の出射端の光路には集光レンズ28、波長変換素子ユニット30が配置されている。波長変換素子ユニット30には、ファイバレーザ10で出力される基本波の波長λ1、λ2、…、λnに対応して、赤外域の各基本波をそれぞれ可視の第2高調波に変換するための複数の波長変換素子31a1,31a2,…,31anが配置されている。波長変換素子ユニット30は、駆動ユニット32により移動され、波長変換素子31a1,31a2,…,31anが選択的に集光レンズ28のレーザ光路に挿入される。
【0017】
波長変換素子ユニット30を経て波長変換された可視のレーザ光は、集光レンズ34a,34bにより導光ファイバ38に入射される。集光レンズ34aと34bとの間には、可視の治療レーザ光の一部を分離するビームスプリッタ36が配置され、ビームスプリッタ36の反射光路には出力センサ37が配置されている。導光ファイバ38により導光されたレーザ光は、デリバリ光学系50に入射する。なお、波長変換素子ユニット30で波長変換されなかった基本波レーザ光は、ビームスプリッタ36までの間に配置されたダンパ光学系(図示を略す)により吸収される。
【0018】
デリバリ光学系50は、リレーレンズ53、レーザ光のスポットサイズを変えるズームレンズ54、対物レンズ55、レーザ光を患者眼に向けて反射するミラー56を備える。デリバリ光学系50は、患者眼を観察するためのスリットランプ60が持つ顕微鏡部61に取り付けられている。また、患者眼はスリットランプ60の照明部62により照明される。光凝固治療では、デリバリ光学系50により導光されたレーザ光は、コンタクトレンズ65を介して患者眼の眼底に照射される。
【0019】
上記の光学系のLD2、光スイッチ12、光スイッチ14、LD24、駆動ユニット32、出力センサ37は制御ユニット70に接続されている。また、制御ユニット70には、光凝固治療に際して必要な手術条件を入力する操作ユニット72が接続されている。操作ユニット72は、治療レーザ光の波長を選択するスイッチ、治療光の出力を調整するスイッチ、レーザ光の照射時間を設定するスイッチ等を備える。
【0020】
次に、上記の構成を持つ装置の動作を説明する。光凝固治療に好ましい波長としては、凝固効率の良いオレンジ色レーザ光を少なくとも選択できるようにファイバレーザ光源1を構成する。その他の波長としては、高出力が得やすく、従来から光凝固に使用されきた実績の多い緑色レーザ光と、クリプトンレーザで使用されてきた黄色レーザ光を選択できるようにファイバレーザ光源1を構成する。以下では、次のように波長選択可能に構成されているものとする。例えば、第1の選択波長として、ファイバレーザ10b1にて中心波長1060nmの基本波レーザ光を発振させ、これに対応する波長変換素子31a1にて波長530nmの緑色レーザ光に変換させる。第2の選択波長として、ファイバレーザ10b2にて中心波長1120nmの基本波レーザ光を発振させ、これに対応する波長変換素子31a2にて波長560nmの黄色レーザ光に変換させる。第3の選択波長として、ファイバレーザ10b3にて中心波長1160nmの基本波レーザ光を発振させ、これに対応する波長変換素子31a3にて波長580nmのオレンジ色レーザ光に変換させる。
【0021】
光凝固治療に際して、操作ユニット72の波長選択スイッチによりオレンジ色レーザ光が選択されると、制御ユニット70は波長選択信号に応じて光スイッチ12の出力側をファイバレーザ10b3に接続すると共に、光スイッチ14の入力側をファイバレーザ10b3に接続する。これにより、光スイッチ14からファイバ16、ファイバアンプ20及びファイバ26を経て出力される基本波レーザ光は、中心波長1160nmのレーザ光とされる。なお、光スイッチ14として接続切換えが不要な合波光学素子のカプラを使用する場合は、波長選択信号による制御を不要とすることも可能である。
【0022】
また、制御ユニット70は波長選択信号に応じて駆動ユニット32の駆動を制御し、中心波長1160nmを波長580nmに変換するための波長変換素子31a3を、集光レンズ28の光軸上の所定位置に挿入させる。波長変換素子31a3の挿入により、中心波長1160nmが波長580nmのオレンジ色レーザ光に変換されて出力される。
【0023】
ここで、オレンジ色レーザ光を得るための波長1160nmをファイバレーザ10で発振させる場合、波長1160nmの強度は小さいため、制御ユニット70はLD24からの励起光を予め設定された高めの値まで増大させ、ファイバアンプ20にて低強度の信号光を増幅させる。波長変換素子31a3により波長変換された波長580nmのレーザ光の出力は、センサ37にて検出される。センサ37の検出信号は制御ユニット70に入力される。制御ユニット70は、LD24の駆動を制御し、出力センサ37にて検出され出力が操作ユニット72にて設定された出力で安定するようにLD24の出力をさらに微調整する。波長変換素子31a3を経たレーザ光は、ファイバ38、デリバリ光学系50を経て患者眼に照射される。
【0024】
操作ユニット72の波長選択スイッチにより緑色レーザ光が選択されると、制御ユニット70は光スイッチ12の出力側をファイバレーザ10b1に接続すると共に、光スイッチ14の入力側をファイバレーザ10b1に接続する。また、制御ユニット70は波長選択信号に応じて駆動ユニット32の駆動を制御し、波長変換素子31a1を集光レンズ28の光軸上の所定位置に挿入させる。波長変換素子31a1の挿入により、ファイバレーザ光源1により出力された中心波長1060nmが波長530nmの緑色レーザ光に変換されて出力される。なお、ファイバレーザ光源1から発振される波長1060nmは、他の波長よりも比較的大きな強度で得られるため、制御ユニット70はLD24からの励起光を予め設定された低めの値とし、レーザ光をファイバアンプ20にて増幅させる。そして、出力センサ37の検出信号に基づいて波長530nmの緑色レーザ光が設定値で安定するようにLD24の駆動を微調整する。
【0025】
波長選択スイッチにより黄色レーザ光が選択された場合は、光スイッチ12の出力側及び光スイッチ14の入力側がファイバレーザ10b2に接続され、ファイバレーザ光源1からは波長1120が発振される。同時に、波長選択信号に応じて波長変換素子31a2がレーザ光路に挿入され、波長1120が波長560nmのレーザ光に変換される。また、ファイバレーザ光源1から発振される波長1120の強度は波長1160nmより大きいが、波長1060nmよりは小さいため、波長毎に予め設定された値でファイバアンプ10のLD24の駆動が制御される。LD24の駆動の微調整は、出力センサ37の信号により行われる。
【0026】
なお、基本波レーザ光の波長に応じて波長変換素子を切換える手段として、次のように構成しても良い。図3は、波長変換素子の切換え手段の別の例を説明する概略構成図である。伝送ファイバ26から出射したレーザ光は、レンズ102により平行ビームとされ、波長分散光学系としての分散プリズム104により波長に応じて空間的に分散される。すなわち、波長λ1,λ2,…,λnのレーザ光は、分散プリズム104により異なる方向に曲げられる。偏向プリスム106は空間的に分散されたレーザ光が平行な光路となるように、レーザ光の向きを変える。偏向プリスム106で偏向される光路上には波長変換素子ユニット110が配置されている。波長変換素子ユニット110は、基本波の波長λ1、λ2、…、λnをそれぞれ可視の第2高調波に変換するための複数の波長変換素子111a1,111a2,…,111anで構成されている。各波長変換素子111a1,111a2,…,111anは、波長分散光学系を構成する分散プリズム104及び偏向プリスム106により異なる光路に分散された位置に対応して配置さている。波長変換素子111a1〜111anにより波長変換されたレーザ光は、その空間的な分散が波長合波光学系を構成する偏向プリズム114及び合波プリズム116により再び1つの光路に合波される。なお、波長変換素子111a1〜111anで波長変換されなかった基本波レーザ光は、偏向プリズム114により波長変換後のレーザ光と大きく異なった方向に曲げられ、ダンパー118で吸収される。合波プリズム116で合波されたレーザ光は、集光レンズ120により実施形態1と同じ導光ファイバ38に入射される。この変容例の場合、波長変換素子を機械的に移動させる機構が不要となり、長期の使用に有利である。
【0027】
図4は、第2実施形態の眼科用レーザ装置の概略構成図である。図1と同一要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0028】
ファイバレーザ光源201は、第1実施形態のファイバレーザ光源1と基本構成を同じである。202は励起光源としてLDであり、入力強度を大きく変化可能に複数個設けられている。LD202からの励起光(波長λp=980nm)は、カプラ204を経てファイバレーザ210に入力される。ファイバレーザ210の構成は、図1のファイバレーザ10と同じである。すなわち、ファイバレーザ210は、LD202からの励起光が入力される1つの第1ファイバレーザ210aと、N個の第2ファイバレーザ210b1,210b2,…,210bnと、第1ファイバレーザ210aからの光経路をN個の第2ファイバレーザ210b1〜210bnに選択的に切換えるための光スイッチ212を備える。第1ファイバレーザ210aの入力端側に全反射ミラーとして機能するFBG211aが形成され、第2ファイバレーザ210b1〜210bnの出力端側には、それぞれ波長λ1,λ2,…,λnのレーザ光を発生させるための出力ミラーとして機能するFBG211b1,FBG211b2,…,FBG211bnが形成されている。以上によりファイバレーザ光源201が構成される。
【0029】
この第2実施形態では、第2ファイバレーザ210b1〜210bnから選択的に出力される基本波レーザ光に対応してそれぞれ第2高調波に変換させる複数の波長変換素子231a1,231a2,…,231anを、各第2ファイバレーザ210b1,210b2,…,210bnの出射端に接続している。波長変換素子231a1,231a2,…,231anは、それぞれに接続された伝送ファイバ233a1,233a2,…,233anを介して光合成器としての光スイッチ234に接続されている。光スイッチ234は、図1の光スイッチ14と同じく、入力N個×出力1個の構造を持つ。光スイッチ234の出力ポートには伝送ファイバ236が接続され、伝送ファイバ236の出射端には集光レンズ238a,238bが配置されている。伝送ファイバ236から出射したレーザ光は、集光レンズ238a,238bにより図1と同じ導光ファイバ38に入射される。そして、ファイバ38に導光されるレーザ光は、図1の場合と同じくデリバリ光学系50によって患者眼に照射される。
【0030】
集光レンズ238a,238bの間には、波長変換素子231a1〜231anにより波長変換された可視の治療レーザ光の一部を分離するビームスプリッタ240が配置され、ビームスプリッタ240の反射光路には出力センサ242が配置されている。なお、波長変換されずに残った赤外の基本波レーザ光は、ビームスプリッタ240に至る前に配置された図示を略すダンパー光学系により吸収される。また、制御ユニット70には、LD101,光スイッチ212,光スイッチ234,出力センサ242,手術条件を入力する操作ユニット72が接続されている。
【0031】
第1実施形態と同じく、ファイバレーザ210は次のように構成されているものとする。第1の選択波長として、ファイバレーザ210b1にて中心波長1060nmの基本波レーザ光を発振させ、これに対応する波長変換素子231a1にて波長530nmの緑色レーザ光に変換させる。第2の選択波長として、ファイバレーザ210b2にて中心波長1120nmの基本波レーザ光を発振させ、これに対応する波長変換素子231a2にて波長560nmの黄色レーザ光に変換させる。第3の選択波長として、ファイバレーザ210b3にて中心波長1160nmの基本波レーザ光を発振させ、これに対応する波長変換素子231a3にて波長580nmのオレンジ色レーザ光に変換させる。
【0032】
治療に際して、操作ユニット72が持つ選択スイッチにより治療レーザ光の波長を選択されると、制御ユニット70はその選択信号に応じて光スイッチ212の出力側を切換えると共に、光スイッチ234の入力側を切換える。例えば、オレンジ色レーザ光が選択されたときは、ファイバレーザ210b3にて波長1160nmのレーザ光が発振され、そのレーザ光が波長変換素子233a3に入射することにより、波長580nmのレーザ光に変換される。また、制御ユニット70は、センサ242で検出される出力が操作ユニット72の出力調整スイッチで設定された出力となるように、LD201の出力を制御する。光スイッチ234から出射した可視の治療レーザ光は、ファイバ236,38,デリバリ光学系50を介して患者眼に照射される。
【0033】
第2実施形態の装置においては、第1実施形態に対してファイバアンプ、波長変換素子の移動機構が不要となるので、装置構成が簡単となり、安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態の眼科用レーザ装置の概略構成図である。
【図2】Ybガラスファイバの吸収スペクトル特性と放射スペクトル特性の図である。
【図3】波長変換素子の切換え手段の別の例を説明する概略構成図である。
【図4】第2実施形態の眼科用レーザ装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ファーバレーザ光源1
2 LD
10b1,10b2,…,10bn 第2ファイバレーザ
12,14 光スイッチ
20 ファイバアンプ
31a1,31a2,…,31an 波長変換素子
38 導光ファイバ
50 デリバリ光学系
70 制御ユニット
72 操作ユニット
104 分散プリズム
106 偏向プリスム
111a1,111a2,…,111an 波長変換素子
114 偏向プリズム
116 合波プリズム
231a1,231a2,…,231an 波長変換素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長の可視レーザ光を選択的に患部に照射する医療用レーザ装置において、所定の赤外域のレーザ光を出射するファイバレーザ光源であって、励起光源と,該励起光源からの励起光の伝送経路を切換える光スイッチと,該光スイッチの切換え経路にそれぞれ接続されて所定の異なる波長の基本波レーザ光をそれぞれ発振する複数のファイバレーザとを持つファイバレーザ光源と、前記ファイバレーザ光源から異なる波長で出射される基本波レーザ光に対応して、それぞれの基本波レーザ光をその第2高調波に変換する複数の波長変換素子と、レーザ光の波長の選択信号を入力する波長選択手段と、前記選択信号に応じた基本波レーザ光が前記ファイバレーザ光源から出射されるように前記光スイッチの切換え動作を制御する制御手段と、前記波長変換素子により波長変換された可視レーザ光を患部に導光する導光光学系と、を備えることを特徴とする医療用レーザ装置。
【請求項2】
請求項1の医療用レーザ装置は、前記複数のファイバレーザからそれぞれ発振される異なる波長の基本波レーザ光を合波する波長合波器と、該波長合波器を介して伝送される基本波レーザ光の強度を増幅するファイバアンプと、該ファイバアンプから出力された基本波レーザ光を、その基本波レーザ光の波長に応じて前記複数の波長変換素子に選択的に入射させて波長変換させる波長変換素子切換手段と、を備えることを特徴とする医療用レーザ装置。
【請求項3】
請求項2の医療用レーザ装置において、前記波長変換素子切換手段は前記ファイバアンプを経て伝送される基本波レーザ光をその波長に応じて空間的に分散する波長分散光学系と、前記波長変換素子で変換された各第2高調波を合波する波長合波光学系とを備え、前記複数の波長変換素子は前記波長分散光学系により分散されたレーザ光の各波長の光路位置に対応して配置されていることを特徴とする医療用レーザ装置。
【請求項4】
請求項1の医療用レーザ装置において、前記ファイバレーザ光源から異なる波長で出射される基本波レーザ光に対応させた前記複数の波長変換素子を前記複数のファイバレーザのそれぞれに接続すると共に、各波長変換素子で波長変換された可視レーザ光を合波する波長合波器を設け、該波長合波器で合波された可視レーザ光を前記導光光学系により患部に導光する構成としたことを特徴とする医療用レーザ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−97629(P2007−97629A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287947(P2005−287947)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】