説明

医療用具

【課題】使用時に優れた表面潤滑性または抗血栓性を発現する医療用具の提供。
【解決手段】高分子材料よりなる基材層と、該基材層の表面を被覆する被覆層と、を備える医療用具であって、前記被覆層が、親水性高分子よりなり、前記基材層をなす高分子材料は、分子内に、第1の高次構造と、該第1の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられた第1の官能基と、を有し、前記親水性高分子が、分子内に、前記第1の高次構造と相互作用し得る第2の高次構造と、該第2の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられ前記第1の官能基と水素結合可能な第2の官能基と、を有することを特徴とする医療用具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた表面潤滑性または抗血栓性を有する医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、湿潤時に潤滑性を発現させるために親水性高分子で基材表面を被覆した医療用具や、抗血栓性を発現させるために血液適合性もしくは生体適合性を有する機能性高分子で基材表面を被覆した医療用具が開発され実用化されている。このような医療用具において、基材表面を被覆する親水性高分子や機能性高分子が剥離したり、溶出することは、安全面や潤滑性等の効果の持続性という点で問題である。このような問題を防止するため、特許文献1には、反応性官能基を分子内に有する親水性高分子と該反応性官能基と反応可能な官能基を有する高分子との混合物を含む高分子溶液を基材表面に含浸させた後、高分子同士を反応させて架橋構造を形成させて不溶化させることによって、基材表面に表面潤滑層を形成した医療用具が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の医療用具でも、潤滑層をある程度強固に基材表面に固定することができるが、潤滑層をより多量かつ強固に基材表面に固定することができる被覆材料や被覆方法が求められている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−24327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決し、使用時に優れた表面潤滑性または抗血栓性を発現する医療用具を提供することである。
また、本発明の目的は、親水性高分子または生体適合性もしくは血液適合性を有する機能性高分子が、基材表面に多量かつ強固に固定された医療用具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、高分子材料よりなる基材層と、該基材層の表面を被覆する被覆層と、を備える医療用具であって、
前記被覆層が、親水性高分子よりなり、
前記基材層をなす高分子材料は、分子内に、第1の高次構造と、該第1の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられた第1の官能基と、を有し、
前記親水性高分子が、分子内に、前記第1の高次構造と相互作用し得る第2の高次構造と、該第2の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられ前記第1の官能基と水素結合可能な第2の官能基と、を有することを特徴とする医療用具を提供する。
【0007】
また、本発明は、高分子材料よりなる基材層と、該基材層の表面を被覆する被覆層と、を備える医療用具であって、
前記被覆層が、血液適合性または生体適合性に優れる機能性高分子よりなり、
前記基材層をなす高分子材料は、分子内に、第1の高次構造と、該第1の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられた第1の官能基と、を有し、
前記機能性高分子は、分子内に、前記第1の高次構造と相互作用し得る第2の高次構造と、該第2の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられ、前記第1の官能基と水素結合可能な第2の官能基と、を有することを特徴とする医療用具を提供する。
【0008】
本発明の医療用具において、前記第2の高次構造が、炭素数4以上の直鎖のアルキル基であり、前記第1の高次構造が、該第2の高次構造をなすアルキル基と炭素数が同じ若しくはそれ以上の直鎖のアルキル基であることが好ましい。
前記第2の高次構造が、炭素数8以上の直鎖のアルキル基であることがより好ましい。
【0009】
本発明の医療用具において、前記第1の官能基が前記第1の高次構造の両末端に設けられており、前記第2の官能基が前記第2の高次構造の両末端に設けられていることが好ましい。
【0010】
本発明の医療用具において、前記第1の官能基および前記第2の官能基は、一方がアミド結合であり、他方がエステル結合であることが好ましい。
【0011】
本発明の医療用具において、前記基材層をなす高分子材料が、ナイロンまたはナイロンエラストマーであることが好ましい。
【0012】
本発明の医療用具において、前記被覆層が抗血栓剤を含有してもよい。
【0013】
なお、本発明の医療用具は、特許文献1に記載の医療用具のような互いに反応可能な官能基を有する2種の高分子同士を反応させて架橋構造を形成することによって基材表面に表面潤滑層を形成するものを否定するものではなく、そのような従来の反応機序に加えて、基材層を形成する高分子材料および被覆層を形成する高分子材料が有する高次構造同士の相互作用、ならびに官能基同士の水素結合によって、基材層表面に被覆層をより多量かつ強固に固定するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医療用具は、湿潤時に表面潤滑性または抗血栓性を発現する被覆層が基材層表面に強固に固定されているため、医療用具の使用時に被覆層が剥離したり、被覆層の成分(親水性高分子や、血液適合性もしくは生体適合性に優れる親水性高分子)が溶出するおそれがない。このため、医療用具が安全性に優れており、所望の効果、すなわち、表面潤滑性や抗血栓性が長期にわたって持続する。
本発明の医療用具では、基材層と、被覆層と、がそれらを形成する高分子材料の高次構造同士の相互作用と、該高分子材料が有する官能基同士の水素結合と、によって固定されているため、被覆層を形成する親水性高分子、または血液適合性もしくは生体適合性に優れる機能性高分子を基材層表面により多量かつ強固に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明についてさらに説明する。
本発明の医療用具は、高分子材料よりなる基材層と、該基材層の表面を被覆する被覆層と、を備える。該被覆層は、親水性高分子、または血液適合性もしくは生体適合性を有する機能性高分子よりなる。以下、本明細書において、被覆層をなす親水性高分子、血液適合性もしくは生体適合性を有する機能性高分子のことを、総称して「被覆層をなす機能性高分子材料」という場合もある。
本発明の医療用具において、基材層をなす高分子材料と、被覆層をなす機能性高分子材料と、は、互いに相互作用し得る高次構造、および互いに水素結合可能な官能基を有している。該高次構造および官能基については、後で詳述する。
【0016】
本発明における医療用具は、使用時に表面潤滑性や抗血栓性を有することが要求される医療用具であり、気管、消化管、尿道、血管、その他の体腔、あるいは組織内に挿入または留置して使用されるものである。このような医療用具の具体例としては、例えば、血管内若しくは上記した他の体腔内に挿入または留置されるカテーテル類(カテーテル、バルーンカテーテルのバルーン、カテーテルのガイドワイヤなども含む);創傷被覆材;人工血管、人工心臓、人工肺、人工腎臓、人工肝臓などの人工臓器類やそれらの回路類;血液や体液の保存容器、各種器官挿入用の検査器具や治療器具、コンタクトレンズ等が挙げられる。
これらの医療用具(の基材)は、単一の高分子材料を用いて形成されている場合もあるし、2以上の高分子材料が積層されている場合もある。
本発明の医療用具において、基材層は、前者のように単一の高分子材料を用いて形成された基材自体であってもよいし、後者のように他の高分子材料の層上に形成された高分子材料層であってもよい。
【0017】
本発明の医療用具において、基材層を形成する高分子材料は、医療用具の基材層として要求される特性を有し、後述する高次構造および官能基を有するものである限り特に限定されない。但し、後述する高次構造および官能基を有するものを得ることができ、引張強度、伸びおよびヒートシール性に優れることから、ナイロンまたはナイロンエラストマーであることが好ましい。
【0018】
医療用具の種類、使用形態、使用される生体部位等によって、当該医療用具に要求される特性が異なり、基材層を構成する高分子材料とは特性が異なる高分子材料、例えば、基材層を形成する高分子材料とは剛性や柔軟性が異なる高分子材料を併用する場合がある。また、医療用具に特定の機能を有する材料、例えば、レーザ光反射能を有する高分子材料を含める場合もある。このような場合、上記した他の高分子材料の層として、基材層を構成する高分子材料とは特性が異なる高分子材料や、特定の機能を有する高分子材料を用いることができる。
【0019】
ナイロンとしては、後述する高次構造および官能基を有する限り特に限定されず、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46のような脂肪族ナイロンや、これらの脂肪族ナイロン同士の共重合体が挙げられる。
ナイロンエラストマーとは、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12のようなナイロンをハードセグメントとし、ポリエーテル、ポリエステル等のポリマーをソフトセグメントとするブロック共重合体が代表的であるが、その他、上記したナイロンと柔軟性に富む樹脂とのポリマーアロイ(ポリマーブレンド、グラフト重合、ランダム重合等)や、上記したナイロンを可塑剤等で軟質化したもの、さらには、これらの混合物をも含む概念である。
【0020】
本明細書において、親水性高分子とは、生理食塩水に浸漬した際の吸水率が1%以上の高分子化合物である。
表面潤滑性の発現は、親水性高分子が生理食塩水、緩衝液、血液などの水系溶媒を吸水することによって起こる。すなわち、材料表面に存在する水が、血管壁と接触した界面で流体潤滑による潤滑機能を発現することによって起こると考えられる。従って、本発明における親水性高分子は、医療用具を使用する温度(通常30〜40℃)領域における吸水率が100wt%以上であることが、表面潤滑性を発現するうえで好ましい。
【0021】
このような親水性高分子としては、アクリルアミドおよびその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体といった水溶性の単量体を構成成分として含む重合体が挙げられる。水溶性の単量体の具体例としては、例えば、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、ビニルピロリドン、2−メタクロイルオキシエチルフォスフォリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチル−D−グリコシド、2−メタクリロイルオキシエチル−D−マンノシド、ビニルメチルエーテルなどが挙げられる。
上記した水溶性の単量体を構成成分として含む重合体において、該水溶性の単量体に由来する部位が、湿潤時に表面潤滑性を発現する。
【0022】
本明細書において、血液適合性もしくは生体適合性を有する機能性高分子とは、血液や生体組織と接触しても医療用具としての機能を損なうことのない高分子を広く含む。
このような血液適合性もしくは生体適合性を有する機能性高分子としては、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、およびこれらの第四級アンモニウム塩のような誘導体といった単量体を構成成分として含む重合体が挙げられる。
上記したアルコキシアルキル(メタ)アクリレート等の単量体を構成成分として含む重合体において、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート等に由来する部位が血液適合性または生体適合性を発現する。
【0023】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、プロポキシメチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシプロピル(メタ)アクリレート、プロポキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。中でも、経済性および操作性の点から、メトキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、特に、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0024】
アミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、例えば、アミノメチル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノイソプロピル(メタ)アクリレート、アミノノルマルブチル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−エチルアミノイソブチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアミノメチル (メタ) アクリレート、N−イソプロピルアミノエチル (メタ) アクリレート、N−ノルマルブチルアミノエチル (メタ) アクリレート、N−ターシャリブチルアミノエチル (メタ) アクリレート、N, N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N, N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N, N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N, N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N−メチル−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチル−N−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N, N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N, N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N, N−ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N, N−ジアミノブチルプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0025】
アミノアルキル(メタ)アクリルアミドとしては、具体的には、例えば、アミノメチル(メタ)アクリルアミド、アミノエチル(メタ)アクリルアミド、アミノイソプロピル(メタ)アクリルアミド、アミノノルマルブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチルアミノイソブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ノルマルブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ターシャリブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−ブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジアミノブチルプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0026】
本発明の医療用具において、基材層をなす高分子材料および被覆層をなす機能性高分子材料は、それらの分子内に、互いに相互作用し得る高次構造を有している。以下、本明細書において、基材層をなす高分子材料が有する高次構造のことを「第1の高次構造」といい、被覆層をなす機能性高分子材料が有する高次構造のことを「第2の高次構造」という。
【0027】
被覆層を形成する機能性高分子材料において、第2の高次構造は、該機能性高分子材料が有する特定の機能、具体的には、表面潤滑性、血液適合性または生体適合性、を発現する部位とは異なる。したがって、被覆層をなす機能性高分子材料は、第2の高次構造と、上記した特定の機能を発現する部位と、を有する。該機能性高分子材料が親水性高分子である場合、第2の高次構造と、湿潤時に表面潤滑性を発現する部位と、を有する。該機能性高分子材料が血液適合性もしくは生体適合性を有する機能性高分子材料である場合、第2の高次構造と、血液適合性もしくは生体適合性を発現する部位と、を有する。
【0028】
基材層をなす高分子材料の分子内に存在する第1の高次構造の数は特に限定されない。したがって、分子内に第1の高次構造が1つ存在してもよいし、2以上存在してもよい。但し、基材層表面に被覆層を強固に固定するためには、分子内に2以上存在することが好ましく、10以上存在することがより好ましく、100以上存在することがさらに好ましく、1000以上存在することが特に好ましい。
被覆層をなす高分子材料の分子内に存在する第2の高次構造の数も特に限定されない。したがって、分子内に第2の高次構造が1つ存在してもよいし、2以上存在してもよい。但し、上記の作用により基材層表面に被覆層を強固に固定するためには、分子内に2以上存在することが好ましく、10以上存在することがより好ましく、50以上存在することがさらに好ましく、100以上存在することが特に好ましい。
【0029】
本発明の医療用具において、第1の高次構造および第2の高次構造は、互いに相互作用し得るものである限り特に限定されないが、直鎖のアルキル基が好ましく例示される。第1の高次構造および第2の高次構造が直鎖のアルキル基である場合、直鎖のアルキル基がなすジグザグ構造が互いにはまり込むことによって、基材層表面に被覆層が強固に固定されると考えられる。
【0030】
但し、上記の作用により基材層表面に被覆層を強固に固定するためには、第1の高次構造をなすアルキル基は第2の高次構造をなすアルキル基と長さが同一であるか、第2の高次構造をなすアルキル基よりも長鎖であることが必要となる。第1の高次構造をなすアルキル基が第2の高次構造をなすアルキル基よりも短い場合、第2の構造構造をなすアルキル基のジグザグ構造が第1の高次構造をなすアルキル基からはみ出してしまうため、基材層表面に被覆層を強固に固定することが困難となる。
したがって、第1の高次構造をなすアルキル基の炭素数は、第2の高次構造をなすアルキル基の炭素数と同じであるか、もしくはそれ以上である。
なお、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612のように高分子材料が、その分子内に高次構造として、炭素数が異なる2以上のアルキル基を有する場合、2以上のアルキル基のうち、炭素数が最も大きいアルキル基について、第1の高次構造をなすアルキル基の炭素数と第2の高次構造をなすアルキル基の炭素数と、を比較する。
【0031】
上記の作用により基材層表面に被覆層を強固に固定するうえで、第2の高次構造をなすアルキル基の炭素数は4以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。
第2の高次構造をなすアルキル基の炭素数の上限は特に限定されないが、被覆層をなす高分子材料の分子の自由度を比較的高くして、第2の高次構造をなすアルキル基のジグザグ構造が第1の高次構造をなすアルキル基のジグザグ構造にはまり込みやすくすることを考慮すると、第2の高次構造をなすアルキル基の炭素数は15以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明の医療用具において、基材層をなす高分子材料および被覆層をなす機能性高分子材料は、それらの分子内に、高次構造の少なくとも一方の末端に設けられ、互いに水素結合可能な官能基を有している。以下、本明細書において、基材層をなす高分子材料において、第1の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられる官能基のことを「第1の官能基」といい、被覆層をなす機能性高分子材料において、第2の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられる官能基のことを「第2の官能基」という。
基材層をなす高分子材料がその分子内に2以上の第1の高次構造を有している場合、第1の高次構造各々について、少なくとも一方の末端に第1の官能基が設けられる。同様に、被覆層をなす機能性高分子材料が、その分子内に2以上の第2の高次構造を有している場合、第2の高次構造各々について、少なくとも一方の末端に第1の官能基が設けられる。
【0033】
上記したように、本発明の医療用具では、第1の高次構造と第2の高次構造との相互作用によって、基材層表面に被覆層が強固に固定される。第1の高次構造の少なくとも一方の末端に形成された第1の官能基、および第2の構造の少なくとも一方の末端に形成された第2の官能基は、それらが互いに水素結合することによって、基材層表面に被覆層がより強固に固定される。
したがって、第1の官能基は第1の高次構造の両末端に形成されることが好ましく、第2の官能基は第2の高次構造の両末端に形成されることが好ましい。
【0034】
基材層をなす高分子材料がその分子内に2以上の第1の高次構造を有している場合、分子内に存在する第1の高次構造同士が第1官能基によって連結されていてもよい。したがって、第1の官能基は、一般的に官能基と呼ばれるものに限定されず、アミド結合やエステル結合のようなものであってもよい。これらの点については、第2の官能基も同様である。
【0035】
本発明の医療用具において、第1の官能基および第2の官能基は、互いに水素結合可能なものである限り特に限定されないが、具体的にはアミド結合またはエステル結合であることが好ましい。但し、第1の官能基および第2の官能基は互いに水素結合可能であるので、第1の官能基がアミド結合である場合は第2の官能基はエステル結合であり、第1の官能基がエステル結合である場合第2の官能基はアミド結合である。
【0036】
本発明の医療用具における基材層をなす高分子材料と、被覆層をなす機能性高分子材料との組み合わせについて、具体例を挙げて説明する。
基材層をなす高分子材料がナイロン12である場合、第1の高次構造は炭素数11の直鎖のアルキル基であり、第1の官能基はアミド結合である。この場合、被覆層をなす機能性高分子材料として、上記した特定の機能(表面潤滑性、または血液適合性もしくは生体適合性)を発現する部位以外に、第2の高次構造として炭素数11以下の直鎖のアルキル基を有し、該直鎖のアルキル基の少なくとも一方の末端に、第2の官能基としてエステル結合を有するものを使用すればよい。
【0037】
被覆層をなす機能性高分子材料が親水性高分子である場合、湿潤時に表面潤滑性を発現する部位以外に、第2の高次構造として炭素数11以下の直鎖のアルキル基を有し、該直鎖のアルキル基の少なくとも一方の末端に、第2の官能基としてエステル結合を有するものを使用すればよい。このような構造の親水性高分子の製造方法としては、アクリルアミドおよびその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体といった水溶性の単量体と、第2の高次構造および第2の官能基を有する単量体、具体的には例えば、分子内に、炭素数11以下の直鎖のアルキル基と、該アルキル基の両末端に結合するパーオキサイド基と、を有するポリ酸化物と、を共重合させればよい。
【0038】
一方、被覆層をなす機能性高分子材料が血液適合性もしくは生体適合性を有する機能性高分子である場合、血液適合性もしくは生体適合性を発現する部位以外に、第2の高次構造として炭素数11以下の直鎖のアルキル基を有し、該直鎖のアルキル基の少なくとも一方の末端に、第2の官能基としてエステル結合を有するものを使用すればよい。このような構造の機能性高分子の製造方法としては、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、およびこれらの第四級アンモニウム塩のような誘導体といった単量体と、第2の高次構造および第2の官能基を有する単量体、具体的には例えば、分子内に、炭素数11以下の直鎖のアルキル基と、該アルキル基の両末端に結合するパーオキサイド基と、を有するポリ酸化物と、を共重合させればよい。
【0039】
同様の考えにしたがって、基材層をなす高分子材料がナイロン11である場合、第1の高次構造が炭素数10の直鎖のアルキル基であり、第1の官能基がアミド結合であるので、被覆層をなす機能性高分子材料には、上記した特定の機能(表面潤滑性、または血液適合性もしくは生体適合性)を発現する部位以外に、第2の高次構造として炭素数10以下の直鎖のアルキル基を有し、該直鎖のアルキル基の少なくとも一方の末端に、第2の官能基としてエステル結合を有するものを使用すればよい。
【0040】
基材層をなす高分子材料がナイロン610である場合、第1の高次構造が炭素数8の直鎖のアルキル基であり、第1の官能基がアミド結合であるので、被覆層をなす機能性高分子材料には、上記した特定の機能(表面潤滑性、または血液適合性もしくは生体適合性)を発現する部位以外に、第2の高次構造として炭素数8以下の直鎖のアルキル基を有し、該直鎖のアルキル基の少なくとも一方の末端に、第2の官能基としてエステル結合を有するものを使用すればよい。
【0041】
基材層をなす高分子材料がナイロン6である場合、第1の高次構造が炭素数5の直鎖のアルキル基であり、第1の官能基がアミド結合であるので、被覆層をなす機能性高分子材料には、上記した特定の機能(表面潤滑性、または血液適合性もしくは生体適合性)を発現する部位以外に、第2の高次構造として炭素数5以下の直鎖のアルキル基を有し、該直鎖のアルキル基の少なくとも一方の末端に、第2の官能基としてエステル結合を有するものを使用すればよい。
【0042】
基材層をなす高分子材料が、ナイロンエラストマー、例えば、ナイロン12をハードセグメントとし、ポリテトラメチレンオキシドグリコール(PTMG)をソフトセグメントとするブロック共重合体である場合、第1の高次構造は炭素数11の直鎖のアルキル基であり、第1の官能基はアミド結合である。この場合、被覆層をなす機能性高分子材料として、上記した特定の機能(表面潤滑性、または血液適合性もしくは生体適合性)を発現する部位以外に、第2の高次構造として炭素数11以下の直鎖のアルキル基を有し、該直鎖のアルキル基の少なくとも一方の末端に、第2の官能基としてエステル結合を有するものを使用すればよい。
なお、ハードセグメントとソフトセグメントを有するナイロンエラストマーの場合、第1の高次構造および第1の官能基は、ハードセグメントまたはソフトセグメントのいずれに存在してもよく、あるいは両方に存在してもよい。
【0043】
被覆層をなす親水性高分子は、その分子内における第2の高次構造と、湿潤時に表面潤滑性を発現する部位と、の割合が、当該構造および部位の個数で1:1〜1:50であることが、被覆層を基材層表面に強固に固定することができ、かつ湿潤時に優れた表面潤滑性を発現できることから好ましい。上記割合よりも第2の高次構造が過剰であると、湿潤時に発現される表面潤滑性が不足するおそれがある。一方、上記割合よりも第2の高次構造が少ない場合、基材層表面への被覆層の固定が不十分となるおそれがある。第2の高次構造と、湿潤時に表面潤滑性を発現する部位と、の割合は、1:10〜1:40であることがより好ましく、1:20〜1:30であることがさらに好ましい。
【0044】
被覆層をなす血液適合性もしくは生体適合性を有する機能性高分子は、その分子内における第2の高次構造の個数と、血液適合性もしくは生体適合性を発現する部位の個数と、の割合が、1:1〜1:50であることが、被覆層を基材層表面に強固に固定することができ、かつ優れた血液適合性もしくは生体適合性を発現できることから好ましい。上記割合よりも第2の高次構造が過剰であると、血液適合性もしくは生体適合性が不足するおそれがある。一方、上記割合よりも第2の高次構造が少ない場合、基材層表面への被覆層の固定が不十分となるおそれがある。第2の高次構造と、血液適合性もしくは生体適合性を発現する部位と、の割合は、1:10〜1:40であることがより好ましく、1:20〜1:30であることがさらに好ましい。
【0045】
被覆層をなす機能性高分子材料は、その分子内に第2の高次構造、第2の官能基、および特定の機能(表面潤滑性、血液適合性もしくは生体適合性)を発現する部位以外の構造を有していてもよい。このような構造の具体例としては、該被覆層に、抗血栓剤、免疫抑制剤、抗がん剤、インシュリン等の生理活性物質を含有させた場合に、これら生理活性物質のアクセプターとして機能する反応性官能基が挙げられる。アクセプターとして機能する反応性官能基の具体例としては、エポキシ基、酸クロリド基、アルデヒド基等が挙げられる。
【0046】
このような反応性官能基を有する親水性高分子の製造方法としては、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、およびこれらの第四級アンモニウム塩のような誘導体といった単量体と、第2の高次構造および第2の官能基を有する単量体、具体的には例えば、分子内に、炭素数11以下の直鎖のアルキル基と、該アルキル基の両末端に結合するパーオキサイド基と、を有するポリ酸化物と、反応性官能基を有する単量体、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、と、を共重合させればよい。
【0047】
このような反応性官能基を有する血液適合性もしくは生体適合性を有する機能性高分子の製造方法としては、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、およびこれらの第四級アンモニウム塩のような誘導体といった単量体と、第2の高次構造および第2の官能基を有する単量体、具体的には例えば、分子内に、炭素数11以下の直鎖のアルキル基と、該アルキル基の両末端に結合するパーオキサイド基と、を有するポリ酸化物と、反応性官能基を有する単量体、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、と、を共重合させればよい。
【0048】
被覆層をなす機能性高分子材料が、その分子内にアクセプターとして機能する反応性官能基を有している場合、分子内における反応性官能基の個数が、第2の高次構造、特定の機能を発現する部位および反応性官能基の個数の合計に対して、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
被覆層に抗血栓剤を含有される場合、抗血栓剤としては特に限定されず、血栓生成を抑制する薬剤や生成した血栓を溶解する物質から広く選択することができ、抗凝固剤、抗血小板剤、線溶促進剤などに代表される天然及び合成の物質を例示できる。このような物質の具体例としては、ヘパリン、低分子ヘパリン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、活性化プロテインC、ヒルディン、トロンボモジュリン、DHG、プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、アプロチニン、メシル酸ナファモスタット(FUT)、メシル酸ガベキサート(FOY)のような各種凝固系プロテアーゼの阻害剤などを例示できる。
【0050】
基材層をなす高分子材料は、その分子内に、第1の高次構造および第1の官能基以外の構造を有していてもよい。このような構造の具体例としては、例えば、被覆層をなす機能性高分子材料について記載した生理活性物質のアクセプターとして機能する反応性官能基等が挙げられる。
【0051】
基材層および被覆層は、上記した高分子材料、すなわち、第1の高次構造および第1の官能基を有する高分子材料、第2の高次構造および第2の官能基を有する機能性高分子材料を主成分とすればよく、医療用具として要求される特性や被覆層の形成に影響を及ぼさない程度に、他の材料、例えば、顔料、造影性物質、を含有してもよく、さらには他の高分子材料を含有してもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
(実施例1)
<被覆層として使用する親水性高分子の調製>
セバシン酸2塩化物72.3gに50℃でトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間塩酸を減圧除去して得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え水酸化ナトリウム5g、31%過酸化水素6.93g、界面活性剤ジオクチルフォスフェート0.44g、水120gよりなる溶液に滴下し、−5℃で20分間反応させた。反応生成物を水洗、メタノール洗浄を繰り返した後、乾燥させて、分子内に炭素数8の直鎖アルキル基と、該アルキル基の両末端に結合するパーオキサイド基と、を有するポリ過酸化物を得た。このポリ過酸化物を開始剤として0.5g、グリシジルメタクリレート(GMA)9.5gを、ベンゼン30gを溶媒として、80℃、2時間減圧下で撹拌しながら重合させた。反応生成物は貧溶媒をジエチルエーテル、良溶媒をテトラヒドロフランとして精製し、分子内に炭素数8の直鎖アルキル基と、該アルキル基の両末端に結合するパーオキサイド基と、を有するポリグリシジルメタアクリレート(PPO−GMA)を得た。続いてPPO−GMA1.0gをジメチルアクリルアミド9.0g、溶媒としてジメチルスルフォキシド90gを仕込み、減圧で密閉にした後、80℃に加熱して18時間重合反応を行なった。反応後、貧溶媒をジエチルエーテル、良溶媒をテトラヒドロフランとして精製し、親水性高分子(ジメチルアクリルアミド(DMAA)−グリシジルメタクリレート(GMA)のブロック共重合体)を得た。NMRおよびIR測定により、得られた親水性高分子が下記式に示す構造であることが特定された。
【化1】


上記式に示す構造において、DMAAが表面湿潤性を発現する部位であり、炭素数8の直鎖のアルキル基が第2の高次構造であり、該アルキル基の両末端に形成されたエステル結合が第2の官能基である。GMAのエポキシ基は、アクセプターとして機能する反応性官能基である。
【0053】
<各種基材表面へ被覆層を形成した際の表面潤滑性と耐剥離性の評価>
下記表1に示す高分子材料を用いて、シート状の基材(寸法:30mm×30mm、厚さ0.2mm)を作成した。
【表1】

表1に記載のナイロンエラストマーは、ナイロン12をハードセグメントとし、ポリテトラメチレンオキシドグリコール(PTMG)をソフトセグメントとするブロック共重合体である。
シート状の基材を上記手順で調製した親水性高分子2.5質量部をテトラヒドロフラン97.5質量部に溶解したコーティング溶液中に1分間浸漬し、乾燥させることにより該基材表面に親水性高分子の被覆層を形成した。
【0054】
上記の手順で被覆層を形成したシート、および比較として被覆層を形成していないシートを用いて以下の評価を実施した。
表面潤滑性
表面潤滑性評価では、上記の手順で被覆層を形成したシート、および比較として被覆層を形成していないシートを、被覆層が外側に露出するようにプラスチック板上に接着したものを使用した。このプラスチック板に接着したシート(3)を、図1に示すように、水中(1)に角度30°をなすように傾斜させて設置した。シート(3)の被覆層上(被覆層を形成していない場合、シートの露出面)に、質量1kgの真鍮製円柱状の重り(2)を静かにのせた。この状態で重り(2)を100cm/minの速さで、1cmの幅を100回繰り返して上下に移動させた。
表面潤滑性の指標として、100回繰り返し後の最終摩擦抵抗値、表面潤滑性の持続性指標として下式によって求められる摩擦抵抗値の変化(Δ摩擦抵抗値)により評価した。
Δ摩擦抵抗値 = (最終摩擦抵抗値)−(初期摩擦抵抗値)
【0055】
耐剥離性
シート上に形成した被覆層の耐剥離性を触感による剥がれ状態により評価した。
【0056】
膨潤性
シート上に形成した被覆層の膨潤性を以下の手順で被覆層の膨潤率を求めることで評価した。
(1)被覆層形成後のシートから20mm×30mm×0.2mmのシート片を切断して(この時点の質量をW0とする。)、溶媒(テトラヒドロフラン)25mlに浸漬させた。
(2)浸漬後、即座に表面に存在する溶媒を拭き取り、浸漬前後の質量変化(ΔW)を算出した。
(3)下記数1に基づいて膨潤率を算出した。
【数1】

【0057】
評価の結果を表2に示した。
【表2】

【0058】
表2の結果から明らかなように、基材層を形成する高分子材料として、第1の高次構造および第1の官能基を有するナイロン12、ナイロン11を使用した場合、表面潤滑性および耐剥離性が良好であった。
一方、第1の高次構造を持たないナイロン6、ポリプロピレン、ポリエチレンおよび変性ポリエチレン(PE)の場合、表面潤滑性および耐剥離性が劣っている。
また、ナイロンエラストマーは、ナイロン12と同じ第1の高次構造を有しているが、ソフトセグメントが存在する分、分子内に占める第1の高次構造の割合がナイロン単体(ナイロン12ホモポリマー)に比べて少ない。このため、基材層をなす高分子材料に占める第1の高次構造の割合がナイロン12およびナイロン11に比べて少ないので、ナイロン12およびナイロン11に比べると表面潤滑性および耐剥離性に劣る。しかしながら、第1の高次構造を持たないナイロン6等に比べると、表面潤滑性および耐剥離性は優れている。
また、ナイロン610は、第1の高次構造を持たないナイロン6のセグメントが存在する分、分子内に占める第1の高次構造(ナイロン10のセグメント)の割合がナイロン12やナイロン11に比べて少ない。このため、基材層をなす高分子材料に占める第1の高次構造の割合がナイロン12およびナイロン11に比べて少ないので、ナイロン12やナイロン11に比べると表面潤滑性および耐剥離性に劣る。しかしながら、第1の高次構造を持たないナイロン6等に比べると、表面潤滑性および耐剥離性は優れている。
【0059】
(実施例2)
<被覆層として使用する血液適合性を有する機能性高分子の調製>
セバシン酸2塩化物72.3gに50℃でトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間塩酸を減圧除去して得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え水酸化ナトリウム5g、31%過酸化水素6.93g、界面活性剤ジオクチルフォスフェート0.44g、水120gよりなる溶液に滴下し、−5℃で20分間反応させた。反応生成物を水洗、メタノール洗浄を繰り返した後、乾燥させて分子内に炭素数8の直鎖アルキル基と、該アルキル基の両末端に結合するパーオキサイド基と、を有するポリ過酸化物を得た。このポリ過酸化物を開始剤として0.5g、グリシジルメタクリレート(GMA)9.5gを、ベンゼン30gを溶媒として、80℃、2時間減圧下で撹拌しながら重合させた。反応生成物は貧溶媒をジエチルエーテル、良溶媒をテトラヒドロフランとして精製し、分子内に炭素数8の直鎖アルキル基と、該アルキル基の両末端に結合するパーオキサイド基と、を有するポリグリシジルメタアクリレート(PPO−GMA)を得た。続いてPPO−GMA1.0gを2−メトキシエチルアクリレート9.0g、溶媒としてジメチルスルフォキシド90gを仕込み、減圧で密閉にした後、80℃に加熱して18時間重合反応を行なった。反応後、貧溶媒をジエチルエーテル、良溶媒をテトラヒドロフランとして精製し、血液適合性を有する機能性高分子(2−メトキシエチルアクリレート(MEA)−グリシジルメタクリレート(GMA)のブロック共重合体(P(MEA−b−GMA)))を得た。NMRおよびIR測定により、得られた機能性高分子が下記式に示す構造であることが特定された。
【化2】


上記式に示す構造において、MEAが血液適合性を発現する部位であり、炭素数8の直鎖のアルキル基が第2の高次構造であり、該アルキル基の両末端に形成されたエステル結合が第2の官能基である。GMAのエポキシ基は、アクセプターとして機能する反応性官能基である。
【0060】
<各種基材表面に形成した被覆層の耐性と血小板粘着抑制能の評価>
表1に示した高分子材料を用いて、シート状の基材(寸法:30mm×30mm、厚さ0.2mm)を作成した。
シート状の基材を上記手順で調製した血液適合性を有する機能性高分子2.5質量部をテトラヒドロフラン97.5質量部に溶解したコーティング溶液中に1分間浸漬し、乾燥させることにより該基材表面に血液適合性を有する機能性高分子の被覆層を形成した。
上記の手順で被覆層を形成したシート、および比較として、第2の高次構造および第2の官能基を持たない2−メトキシエチルアクリレートホモポリマー(Homo−PMEA)で被覆層を形成したシートを用いて以下の評価を実施した。
【0061】
図1に示す方法で重り(2)の上下動を50回繰り返した後の各シートを用いて、血小板粘着抑制能の試験を実施した。
血小板粘着試験方法
上記手順で形成した被覆層表面に、クエン酸ナトリウムで抗凝固したヒト新鮮多血小板血漿を30分間接触させ、生理食塩水でリンスし、グルタルアルデヒドで固定した後、0.5mm2の範囲に粘着した血小板数を電子顕微鏡で観察した。結果を表3に示す。
【表3】

【0062】
第2の高次構造および第2の官能基を持たないHomo−PMEAで被覆層を形成したシートの場合、基材層を形成する高分子材料として、第1の高次構造および第1の官能基を有するナイロン12、ナイロン11、ナイロン610およびナイロンエラストマーを使用した場合であっても、重り(2)の上下動により基材から被覆層が剥がれてしまうため、血小板粘着数がポジティブコントロールと変わらない値となった。
第2の高次構造および第2の官能基を有するP(MEA−b−GMA)で被覆層を形成したシートについては、基材層を形成する高分子材料として、第1の高次構造および第1の官能基を有するナイロン12、ナイロン11、ナイロン610およびナイロンエラストマーを使用した場合、血小板粘着数が著しく低くなっており、血液適合性に優れることが確認された。但し、ナイロン610およびナイロンエラストマーは、高分子中に第1の高次構造を持たないセグメントが存在するので、基材層をなす高分子材料に占める第1の高次構造の割合がナイロン12およびナイロン11に比べて少ない。このため、ナイロン12、ナイロン11に比べると血小板粘着数が若干高くなっている。
一方、第1の高次構造を持たないナイロン6、ポリプロピレン、ポリエチレンおよび変性ポリエチレン(PE)の場合、血小板粘着数があまり低くなっておらず、血液適合性に劣ることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、実施例における表面潤滑性評価方法の説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1:水
2:真鍮円柱状の重り
3:評価用シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料よりなる基材層と、該基材層の表面を被覆する被覆層と、を備える医療用具であって、
前記被覆層が、親水性高分子よりなり、
前記基材層をなす高分子材料は、分子内に、第1の高次構造と、該第1の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられた第1の官能基と、を有し、
前記親水性高分子が、分子内に、前記第1の高次構造と相互作用し得る第2の高次構造と、該第2の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられ前記第1の官能基と水素結合可能な第2の官能基と、を有することを特徴とする医療用具。
【請求項2】
高分子材料よりなる基材層と、該基材層の表面を被覆する被覆層と、を備える医療用具であって、
前記被覆層が、血液適合性または生体適合性に優れる機能性高分子よりなり、
前記基材層をなす高分子材料は、分子内に、第1の高次構造と、該第1の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられた第1の官能基と、を有し、
前記機能性高分子は、分子内に、前記第1の高次構造と相互作用し得る第2の高次構造と、該第2の高次構造の少なくとも一方の末端に設けられ、前記第1の官能基と水素結合可能な第2の官能基と、を有することを特徴とする医療用具。
【請求項3】
前記第2の高次構造が、炭素数4以上の直鎖のアルキル基であり、前記第1の高次構造が、該第2の高次構造をなすアルキル基と炭素数が同じ若しくはそれ以上の直鎖のアルキル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項4】
前記第2の高次構造が炭素数8以上の直鎖のアルキル基である請求項3に記載の医療用具。
【請求項5】
前記第1の官能基が前記第1の高次構造の両末端に設けられており、前記第2の官能基が前記第2の高次構造の両末端に設けられている請求項1〜4のいずれかに記載の医療用具。
【請求項6】
前記第1の官能基および前記第2の官能基は、一方がアミド結合であり、他方がエステル結合である請求項1〜5のいずれかに記載の医療用具。
【請求項7】
前記基材層をなす高分子材料が、ナイロンまたはナイロンエラストマーである請求項1〜6のいずれかに記載の医療用具。
【請求項8】
前記被覆層が抗血栓剤を含有する請求項1ないし7のいずれかに記載の医療用具。

【図1】
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【公開番号】特開2007−289299(P2007−289299A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118665(P2006−118665)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】