説明

医療用処置材

【課題】優れた水膨潤性を有しかつ視認性にも優れる医療用処置材を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)由来の構成単位および不飽和カルボン酸(a2)由来の構成単位を含む共重合体を架橋することによって得られる架橋共重合体(A)中のカルボキシル基の少なくとも一部に、色素化合物(B)を結合させてなる水膨潤性架橋高分子を含む、医療用処置材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水膨潤性に優れかつ視認性に優れる医療用処置材に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓ガン、子宮筋腫等の動脈塞栓療法に粒子形状のハイドロゲルが利用されている。動脈塞栓療法とは、ハイドロゲル粒子と造影剤とをシリンジ内で混合分散させた後、カテーテルを通して血管内に注入する手段である。
【0003】
例えば、特許文献1には、アクリルアミドおよびアクリル酸ナトリウムから形成される共重合体をN、N’−メチレンビスアクリルアミドで架橋した網目構造を有する、生物医学用多孔質ハイドロゲル粒子が開示されている。
【特許文献1】特開2004−528880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のハイドロゲル粒子は、膨張性かつ変性能に優れているが、無色透明であるため、シリンジ内で分散していることを確認することが困難であり、適正な容量のジェル粒子を血管内に投与することが困難であった。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は優れた水膨潤性を有し、かつ視認性にも優れる医療用処置材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた。その結果、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)と不飽和カルボン酸(a2)とから形成される共重合体を架橋した架橋共重合体(A)中のカルボキシル基の少なくとも一部に、色素化合物(B)を結合させてなる水膨潤性架橋高分子を含む医療用処置材が、水膨潤性および視認性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)由来の構成単位および不飽和カルボン酸(a2)由来の構成単位を含む共重合体を架橋することによって得られる架橋共重合体(A)中のカルボキシル基の少なくとも一部に、色素化合物(B)を結合させてなる水膨潤性架橋高分子を含む、医療用処置材である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水膨潤性に優れかつ視認性に優れた医療用処置材が提供されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
(構成)
[架橋共重合体(A)]
本発明の医療用処置材を構成する架橋共重合体(A)は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)に由来する構成単位および不飽和カルボン酸(a2)に由来する構成単位を含む共重合体を、架橋剤により架橋した構造を有する。以下、これらの単量体について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0011】
<(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)>
架橋共重合体(A)の単量体成分である(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)は、特に制限されない。具体的な例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、N−s−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド 、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−イソプロピル(メタ)クリルアミド、N−エチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これら(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド等の記載は、アクリル酸およびメタクリル酸またはそれらの各誘導体を意味する。
【0012】
なかでも、整形外科領域等で使用実績があり、生体内において安全性が高い(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0013】
(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)に由来する構成単位の含有量は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)に由来する構成単位および不飽和カルボン酸(a2)に由来する構成単位の総量を100mol%として、65〜80mol%であることが好ましく、70〜75mol%であることがより好ましい。(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)に由来する構成単位の含有量が65mol%未満であると、架橋共重合体(A)が過度に膨張する場合がある。一方、80mol%を超えると、架橋共重合体(A)が過度に硬くかつ脆くなり生体内での使用に適さない場合がある。
【0014】
<不飽和カルボン酸(a2)>
本発明で用いられる不飽和カルボン酸(a2)は、特に制限されず、具体的な例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、グルタコン酸、イタコン酸、クロトン酸、ソルビン酸などが挙げられる。また、前記不飽和カルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの塩も、架橋共重合体(A)の製造の際に用いることができる。不飽和カルボン酸の塩を共重合に用いた場合は、後述する架橋共重合体(A)と色素化合物(B)との反応後に酸処理を行うことにより、不飽和カルボン酸(a2)の構成単位が架橋共重合体(A)に導入されうる。これら不飽和カルボン酸(a2)(またはその塩)は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0015】
なかでも、中性領域において膨張性を示すという観点から、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0016】
不飽和カルボン酸(a2)に由来する構成単位の含有量は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)に由来する構成単位および不飽和カルボン酸(a2)に由来する構成単位の総量を100mol%として、20〜35mol%であることが好ましく、25〜30mol%であることがより好ましい。不飽和カルボン酸(a2)に由来する構成単位の含有量が20mol%未満であると、架橋共重合体の膨張性が不十分である場合がある。一方、35mol%を超えると、架橋共重合体(A)が過度に膨張する場合がある。
【0017】
<架橋剤>
架橋共重合体(A)は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)に由来する構成単位および不飽和カルボン酸(a2)に由来する構成単位を含む共重合体が架橋された構造を有する。この場合、用いられる架橋剤としては、特に制限されず、例えば、重合性不飽和基を2個以上有する架橋剤(イ)、重合性不飽和基と重合性不飽和基以外の反応性官能基とをそれぞれ1つずつ有する架橋剤(ロ)、重合性不飽和基以外の反応性官能基を2個以上有する架橋剤(ハ)などが挙げられる。これら架橋剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記架橋剤(イ)のみを用いる場合は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)と不飽和カルボン酸(a2)(またはその塩)との共重合を行う際に、重合系内に架橋剤(イ)を添加して共重合させればよい。前記架橋剤(ハ)のみを用いる場合は、(a1)と(a2)との共重合を行ったあとに架橋剤(ハ)を添加して、例えば加熱による後架橋を行えばよい。前記架橋剤(ロ)のみを用いる場合ならびに前記架橋剤(イ)、(ロ)、および(ハ)の2種以上を用いる場合は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)と不飽和カルボン酸(a2)との共重合を行う際に重合系内に架橋剤を添加して共重合させ、さらに、例えば加熱による後架橋を行えばよい。
【0019】
重合性不飽和基を2個以上有する架橋剤(イ)の具体例としては、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、N,N’−エチレンビスメタクリルアミド、N,N’−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N’−ヘキサメチレンビスメタクリルアミド、N,N’−ベンジリデンビスアクリルアミド、N,N’−ビス(アクリルアミドメチレン)尿素、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(n=2〜30)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリン(ジ又はトリ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルアミン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリロキシエタン、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチルロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0020】
重合性不飽和基と重合性不飽和基以外の反応性官能基とをそれぞれ1つずつ有する架橋剤(ロ)の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
重合性不飽和基以外の反応性官能基を2個以上有する架橋剤(ハ)の具体例としては、例えば、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン等)、アルカノールアミン(例えば、ジエタノールアミン等)、およびポリアミン(例えば、ポリエチレンイミン等)等が挙げられる。
【0022】
これらのうち、重合性不飽和基を2個以上有する架橋剤(イ)が好ましく、N,N’−メチレンビスアクリルアミドがより好ましい。
【0023】
架橋剤の使用量は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)および不飽和カルボン酸(a2)の総量100質量部に対して0.15〜0.25質量部であることが好ましく、0.20〜0.23質量部であることがより好ましい。前記架橋剤の使用量が0.15質量部未満の場合、架橋共重合体(A)が過度に柔軟になり生体内での使用に適さない場合がある。一方、0.25質量部を超えると、架橋共重合体(A)が過度に硬くかつ脆くなり生体内での使用に適さない場合がある。
【0024】
[色素化合物(B)]
本発明で用いられる色素化合物(B)は、前記架橋共重合体(A)中のカルボキシル基と反応して結合しうる官能基を有することが好ましい。この官能基と前記架橋共重合体(A)中のカルボキシル基とが反応して結合が生成することにより、本発明の医療用処置材に視認性が付与される。
【0025】
前記色素化合物(B)は、カルボキシル基と反応して結合しうる官能基を有していれば、有機染料であっても有機顔料であってもよい。具体的な例としては、例えば、インドインブルー、ナイルブルーA、ビクトリアブルーB、アストラブルーなどのアミノ基を有する有機染料;ベンジジンオレンジGG、ベンザミンブリリアントスカーレットBB、ベンザミンレッド7B、ベンジジンイエローG、ベンザミンインジゴブルーBRLS、ベンザミンファストグリーンGFL、ベンザミンブラックOBS、ベンザミンブリリアントオレンジR4GS、ベンザミンブリリアントグリーン3GS、アリザリンブルーブラックB、アリザリンライトグレー2BLW、アリザリンライトブルーB、アリザリンライトブルーSE、アリザリンルビノールR、アリザリンサファイアAR、アリザリンサフィロールA、アリザリンシアニングリーンG、アリザリンスカイブルーB、アリザリンスカイブルーNA、アリザリンファストブルーGなどのアミノ基を有する有機顔料;アリザリンシアニンR、アリザリンブルー、アリザリン、アリザリンエロー、アリザリンエローRなどのヒドロキシ基を有する有機顔料などが挙げられ、これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0026】
なかでも、カルボキシル基と結合した際の強度の観点から、インドインブルー、ナイルブルーA、ビクトリアブルーB、アストラブルーなどのアミノ基を有する有機染料が好ましく、インドインブルーがより好ましい。
【0027】
色素化合物(B)の架橋共重合体(A)に対する結合量は、特に制限されない。しかしながら、水膨潤性および視認性のバランスに優れるという観点から、架橋共重合体(A)の全カルボキシル基数を100mol%として、0.1〜15mol%であることが好ましく、0.1〜0.5mol%であることがより好ましく、0.2〜0.5mol%であることがさらに好ましい。前記結合量が0.1mol%未満では、視認性が不十分である場合がある。一方、前記結合量が15mol%を超えると、水膨潤性が不十分である場合がある。色素化合物(B)の架橋共重合体(A)に対する結合量は、架橋共重合体(A)と色素化合物(B)との反応の際の、色素化合物(B)の使用量により制御されうる。なお、色素化合物(B)の架橋共重合体(A)に対する結合量は、後述の実施例に記載の吸光度差を用いて算出する方法により決定することができる。
【0028】
(製造方法)
本発明の医療用処置材の製造方法については特に制限されず、例えば、架橋共重合体(A)を製造した後、架橋共重合体(A)中のカルボキシル基と色素化合物(B)中の官能基とを、例えば縮合剤の存在下で反応させることにより製造されうる。以下、本発明の医療用処置材の製造方法について詳細に説明するが、以下の形態のみに制限されるものではない。
【0029】
[架橋共重合体(A)の製造]
架橋共重合体(A)は、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)、不飽和カルボン酸(a2)(またはその塩)、および必要に応じて架橋剤を共重合させ、さらに必要に応じて後架橋を行うことにより得られる。
【0030】
共重合の方法は、特に制限されず、例えば、重合開始剤を使用する溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、逆相懸濁重合法、薄膜重合法、噴霧重合法など従来公知の方法を用いることができる。重合制御の方法としては、断熱重合法、温度制御重合法、等温重合法などが挙げられる。また、重合開始剤により重合を開始させる方法の他に、放射線、電子線、紫外線等を照射して重合を開始させる方法を採用することもできる。好ましくは、重合開始剤を使用する溶液重合法であり、特に、有機溶媒等を使用する必要がなく生産コスト面で有利なことから水溶液重合法が好ましい。
【0031】
水溶液重合を行う場合の単量体成分の濃度は、従来公知の範囲であれば特に限定されず、例えば、17〜25質量%が好ましく、20〜23質量%がより好ましい。
【0032】
本発明で用いられる重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレート、過酸化水素等の過酸化物、2,2’−アゾビス〔2−(N−フェニルアミジノ)プロパン〕2塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(N−アリルアミジノ)プロパン〕2塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−〔1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}2塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ化合物等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、入手が容易で取り扱いやすいという観点から、過硫酸塩が好ましく、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム及び過硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0033】
なお、上記重合開始剤は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第一鉄、L−アスコルビン酸、N,N,N’、N’−テトラメチルエチレンジアミン等の還元剤と併用して、レドックス重合開始剤として用いることもできる。
【0034】
重合開始剤の使用量は、単量体の総量100質量部に対して、0.1〜0.3質量部が好ましく、0.1〜0.25質量部がより好ましい。重合開始剤の使用量が0.1質量部未満の場合、重合反応自体が起こらない可能性がある。一方、0.3質量部を超えると、重合反応が過度に速くなるため、単量体溶液を後述(実施例1参照)のポリテトラフルオロエチレン製チューブに注入できない場合がある。
【0035】
前記過硫酸塩は、各種溶媒、好ましくは水に溶解して、過硫酸塩の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加してもよい。該過硫酸塩溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度は、好ましくは15〜25質量%、より好ましくは17〜22質量%である。
【0036】
重合条件は特に制限されず、例えば、重合温度は使用する触媒の種類によって適宜変設定することができるが、好ましくは20〜30℃である。重合時間は、好ましくは2時間以上である。
【0037】
本工程において、重合系内の圧力は、特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれであってもよい。また、反応系内の雰囲気も、空気雰囲気であってもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下であってもよい。
【0038】
上述のように、重合方法は水溶液重合が好ましいが、必要であれば水と水溶性有機溶媒との共存下で重合を行ってもよい。水溶性有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン等)、アミド系溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等)、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシド等)、およびこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。
【0039】
架橋剤として、上記の重合性不飽和基以外の反応性官能基を2個以上有する架橋剤(ハ)を用いる場合、架橋剤(ハ)を添加する時期は単量体の重合反応終了後であればよく、特に限定されない。
【0040】
後架橋反応を行う際の反応温度は、使用する架橋剤(ロ)または(ハ)の種類等によっても異なるため、一概には決定できないが、通常50〜150℃である。また、反応時間は、通常1〜48時間である。
【0041】
また、共重合を行う際、単量体溶液中に造孔剤を過飽和懸濁させることによって架橋共重合体(A)を多孔質とすることもできる。この際、単量体溶液には不溶であるが洗浄溶液には可溶である造孔剤を用いることが好ましい。造孔剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、氷、スクロース、または炭酸水素ナトリウムなどが好ましく挙げられ、より好ましくは塩化ナトリウムである。造孔剤の好ましい濃度は、単量体溶液中、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%の範囲である。
【0042】
共重合が水溶液重合により行われた場合、得られる架橋共重合体(A)はハイドロゲル状となるが、次工程の色素化合物(B)との反応を効率よく進行させるために、色素化合物(B)との反応を行う前に架橋共重合体(A)を裁断しておくことが好ましい。
【0043】
[架橋共重合体(A)と色素化合物(B)との反応]
本工程では、架橋共重合体(A)のカルボキシル基と色素化合物(B)中の官能基とを、例えば溶媒中、縮合剤の存在下または非存在下で反応させ、色素化合物(B)が結合した水膨潤性架橋高分子を得る。
【0044】
本工程で用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトニトリル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、DMF、トルエン、もしくはジクロロメタンなどの有機溶媒、またはリン酸緩衝液などが挙げられる。リン酸緩衝液中で反応を行う場合、リン酸緩衝液は、pHの範囲が好ましくは7.0〜8.5となるように調製する。
【0045】
本工程における色素化合物(B)の使用量は、反応溶液中の濃度が好ましくは0.5〜1500μg/ml、より好ましくは1〜1000μg/mlとなるようにすればよい。
【0046】
前記縮合剤の具体的な例としては、例えば、N−エチル−N’−(3−ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−メチル−2−ブロモピリジニウムヨージド、N,N’−カルボニルジイミダゾール、ジフェニルホスホリルアジド、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)、4−(4,6−ジメトキシ[1.3.5]トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM)、フルオロ−N,N,N’,N’−テトラメチルホルムアミジニウムヘキサフルオロホスフェート(TFFH)等が挙げられる。これら縮合剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0047】
前記縮合剤の使用量は、通常、色素化合物(B)1モルに対して1モルであるが、1〜20モルの範囲で適宜設定することができる。
【0048】
本工程における反応温度は、好ましくは0〜60℃であり、より好ましくは10〜30℃である。反応温度が0℃未満の場合には、反応自体が起こらない可能性がある。一方、反応温度が60℃を超える場合には、架橋共重合体(A)自体が不安定になる可能性がある。反応時間は、好ましくは5〜48時間、より好ましくは12〜24時間である。
【0049】
共重合の際に不飽和カルボン酸(a2)の塩を用いた場合、色素化合物(B)との反応終了後に酸処理を行い、色素化合物が結合していないカルボン酸塩の部分をカルボキシル基に変換しておくことが好ましい。かような処理を行うことにより、本発明の医療用処置材が、pH選択的に膨潤・収縮する、pH応答性を有するようになる。酸処理の条件は特に限定されず、例えば、塩酸水溶液などの低pH水溶液中で、好ましくは15〜25℃の温度範囲で、好ましくは40〜60時間処理すればよい。
【0050】
色素化合物(B)との反応終了後または酸処理の終了後に、得られる生成物を必要により裁断してブロック状または粒子状にした後、乾燥する工程を行う。乾燥工程における温度は、通常40〜60℃、好ましくは45℃〜55℃の範囲であり、乾燥時間は通常6〜24時間、好ましくは12〜20時間の範囲である。
【0051】
乾燥装置は通常用いられる装置でよく、例えば、オーブン、熱風乾燥機、減圧乾燥機等が挙げられる。これらの乾燥装置は、複数個を組み合わせて使用することもできる。
【0052】
このようにして得られた本発明の医療用処置材の形状は、球状、破砕状、不定形状等特に限定されるものではないが、例えば、血管塞栓材として用いる場合は、球状または不定形状であることが好ましい。
【0053】
本発明の医療用処置材は、各種用途に好適に用いることができる。具体的には、例えば、血管塞栓材、粘膜下補綴材、組織マーカーなどが挙げられる。これらの用途であれば、本発明の効果が一層発揮できるので好ましい。
【実施例】
【0054】
本発明の効果を、下記の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が、下記の実施例のみに制限されるわけではない。
【0055】
(実施例1)
(1)架橋共重合体(A)の製造
褐色サンプル管に、アクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)3.8g、アクリル酸ナトリウム(合成品)2.13g、N,N−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)0.013gを秤量し、蒸留水19.9gを同じ褐色サンプル管に添加し、マグネスチックスターラーで溶解した。塩化ナトリウム(ナイガイ株式会社製)5.4gを、同じサンプル管に加えマグネスチックスターラーで攪拌し、単量体溶液を調製した。ポンプを用いて減圧した真空デシケーター中で、5分以上脱気を行った。別途、過硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)0.2gを試験管に秤量し、全体の質量が1.0gとなるように蒸留水を添加し溶解させ、20質量%過硫酸アンモニウム水溶液を調製した。マグネティックスターラーで攪拌しながら、調製した単量体水溶液にN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)0.127mlを添加した。さらに20質量%過硫酸アンモニウム水溶液100μlを添加し、ポリテトラフルオロエチレン製チューブに注入した。23℃で2時間重合後、55℃のオーブン内で0Paの条件で、5時間減圧乾燥した。乾燥した重合物を蒸留水中に静置し、未反応単量体および塩化ナトリウムを除去した。得られた糸状のハイドロゲルを一定間隔に切断し、水で膨潤した架橋共重合体(A)を得た。
【0056】
(2)架橋共重合体(A)への色素化合物(B)の結合
色素化合物(B)としてインドインブルー(Indoine Blue、シグマアルドリッチジャパン株式会社製)を、濃度が1μg/mlとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.5、タカラバイオ株式会社製)に添加し調製した。ガラス製サンプル瓶にDMT−MM(4−(4,6−ジメトキシ[1.3.5]トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド、国産化学株式会社製)196mgを秤量し、上記で調製したインドインブルー含有リン酸緩衝液5mlを添加し、DMT−MMを溶解した。DMT−MM溶解後すぐに、上記(1)で作製した長さ3cmの架橋共重合体(A)を添加した。23℃で20時間、ミックスローターで攪拌した。ハイドロゲル粒子をべつのガラス製サンプル瓶に移し、エタノールを添加し2時間洗浄した。その後、エタノールを廃棄し、RO水で2時間洗浄し、インドインブルーが結合したハイドロゲル粒子を得た。
【0057】
(3)色素が結合した架橋共重合体(A)中に残留しているナトリウム塩部分のプロトン化(酸処理)
2.5Nの塩酸(関東化学株式会社製)を調製し、上記(2)で得られたインドインブルーが結合したハイドロゲル粒子を2.5N塩酸中に加え、55℃に加温したオーブン内に48時間置いた。塩酸を廃棄し、RO水を加え、RO水のpHが変化しなくなるまでRO水の交換を行った。その後、55℃、0Paの条件で15時間減圧乾燥を行い、残留していたナトリウム塩部分がすべてプロトン化されカルボキシル基となった水膨潤性架橋高分子のサンプルを得た。
【0058】
(実施例2〜8)
インドインブルーの濃度が5、10、20、200、500、800、および1000μg/mlであるインドインブルー含有リン酸緩衝液をそれぞれ調製し、上記(2)と同様の方法で色素化合物を架橋共重合体(A)粒子に結合させた。これ以外は、実施例1と同様の方法で水膨潤性架橋高分子のサンプルを得た。
【0059】
(比較例)
上記(2)の操作を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、水膨潤性架橋高分子のサンプルを得た。
【0060】
(評価1:視認性の評価(反射吸光度測定))
上記で作製した実施例1〜8の各サンプルを、二波長クロマトスキャナー CS−930(株式会社島津製作所製)の測定部に置き、インドインブルーの最大吸収波長である560nmにおける反射吸光度を測定した。測定は4回行い、その平均値に対して、サンプルがない時の反射吸光度の平均値を減算し補正した(白補正)。結果を表1および図1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
目視で、濃度が1μg/mlであるインドインブルーリン酸緩衝液を用いて製造したサンプル(実施例1)の視認性は十分ではなかった。濃度が5μg/ml以上のインドインブルーリン酸緩衝液を用いて製造したサンプル(実施例2〜8)は十分な視認性があった。図2は、比較例、実施例3、および実施例4で得られたサンプルの写真である。図2からわかるように、比較例のサンプルは無色透明で視認することが困難であるが、実施例3、4のサンプルは十分な視認性を有する。
【0063】
(評価2:膨潤性の評価)
実施例1〜8で得られたサンプルを、5mlの10mMリン酸緩衝液(pH7.5)に添加し、37℃に加温したオーブン内に4時間置いた。その後、各サンプルを高精細デジタルマイクロスコープ VH−6300(株式会社キーエンス製)で撮影し、各サンプルの膨潤直径を測定した。比較例のサンプルの膨潤直径100.0%とした場合の、膨潤直径の比率(膨潤比率)を算出した。結果を表2および図3に示す。濃度が800μg/ml以下のインドインブルーリン酸緩衝液を用いて製造したサンプル(実施例1〜7)は、十分な水膨潤性が得られた。濃度が1000μg/mlであるインドインブルーリン酸緩衝液を用いて製造したサンプル(実施例8)は、水膨潤性が若干劣る結果となった。
【0064】
【表2】

【0065】
さらに、水膨潤のpH応答性を調べるため、実施例3のサンプル(膨潤前の粒径:400μm)を用いて実験を行った。純水(pH5.5)およびリン酸緩衝液(pH7.5)に、それぞれ実施例3のサンプルを添加し、37℃に加温したオーブン内に4時間置いた。その後、上記の評価2に記載の方法によりサンプルの膨潤直径を測定した。結果を図4に示す。図4から明らかなように、実施例3のサンプルは、純水中では膨潤しなかったがリン酸緩衝液中では膨潤することがわかり、pH応答性を有することがわかった。
【0066】
(評価3:着色ジェルの結合カルボキシル基量測定)
1、5、10、20、200、500、800、1000μg/mlの濃度でインドインブルーを含むリン酸緩衝液を10ml調製した。この8種のリン酸緩衝液5mlをそれぞれ用いて560nmにおける吸光度を、分光光度計(株式会社日立製作所製、U−3010)を用いて測定した。その測定結果より、リン酸緩衝液中のインドインブルーの濃度xと吸光度yとの関係式を求めたところ、下記数式1のように算出された(図5参照)。
【0067】
【数1】

【0068】
上記8種のインドインブルー含有リン酸緩衝液5mlをそれぞれ用いて、上記(2)と同様の方法で、色素化合物を架橋共重合体に結合させた。反応後のインドインブルー含有リン酸緩衝液を回収し、560nmにおける吸光度を、分光光度計(株式会社日立製作所製、U−3010)を用いて測定した(図6参照)。反応前後のインドインブルーリン酸緩衝液の吸光度の差を算出した。吸光度差の算出結果を下記表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
上記表3の吸光度差の値を用い、上記数式1から、反応後のリン酸緩衝液中に残存しているインドインブルーのモル数を算出した。反応前のリン酸緩衝液中に含まれるインドインブルーのモル数と、反応後のリン酸緩衝液中に残存しているインドインブルーのモル数との差から、架橋共重合体(A)に結合しているインドインブルーのモル数を算出した。その算出結果より、リン酸緩衝液中のインドインブルーの濃度xと架橋共重合体(A)に結合しているインドインブルーのモル数yとの関係式を求めたところ、下記数式2のように算出された(図7参照)。
【0071】
【数2】

【0072】
また、架橋共重合体(A)に結合しているインドインブルーのモル数から、インドインブルーが結合している架橋共重合体(A)中のカルボキシル基の割合を算出した。上記の視認性の評価結果および膨潤性の評価結果を数値化した値と共に、インドインブルーの結合モル数およびインドインブルーが結合している架橋共重合体(A)中のカルボキシル基の割合の算出結果を表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
表4に示すように、架橋共重合体中に存在するカルボキシル基の0.1mol%以上がインドインブルーと結合していれば視認性が良好であることがわかった。また、インドインブルーと結合した架橋共重合体に存在するカルボキシル基の量が15.0mol%以下の場合は、10mMリン酸緩衝液中で十分な水膨潤性が得られたが、インドインブルーと結合した架橋共重合体(A)中のカルボキシル基の量が15.0mol%を超えると、水膨潤性が低下することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】リン酸緩衝液中のインドインブルーの濃度と反射吸光度との関係を示すグラフである。
【図2】比較例、実施例3、および実施例4で得られたサンプルの写真である。
【図3】比較例および実施例で得られたサンプルの膨潤比率を示すグラフである。
【図4】実施例3のサンプルにおいて、水溶液のpHと膨潤直径との関係を示すグラフである。
【図5】インドインブルー含有リン酸緩衝液の濃度と吸光度との関係を示すグラフである。
【図6】色素化合物(B)との反応前および反応後に測定したリン酸緩衝液の吸光度を示すグラフである。
【図7】リン酸緩衝液中のインドインブルーの濃度と架橋共重合体(A)に結合しているインドインブルーのモル数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)由来の構成単位および不飽和カルボン酸(a2)由来の構成単位を含む共重合体を架橋することによって得られる架橋共重合体(A)中のカルボキシル基の少なくとも一部に、色素化合物(B)を結合させてなる水膨潤性架橋高分子を含む、医療用処置材。
【請求項2】
前記色素化合物(B)が結合しているカルボキシル基の割合が、前記架橋共重合体(A)中の全カルボキシル基数に対して0.1〜15mol%である、請求項1に記載の医療用処置材。
【請求項3】
前記不飽和カルボン酸(a2)が(メタ)アクリル酸である、請求項1または2に記載の医療用処置材。
【請求項4】
前記色素化合物(B)がアミノ基を有する有機染料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用処置材。
【請求項5】
前記アミノ基を有する有機染料が、インドインブルー、ナイルブルーA、ビクトリアブルーB、およびアストラブルーからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の医療用処置材
【請求項6】
血管塞栓材、粘膜下補綴材、または組織マーカーである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療用処置材。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−82143(P2010−82143A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253864(P2008−253864)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】