説明

医療用呼吸マスク

使用者の鼻及び口の周囲に装着する、開口部を有する主要空気チャンバーを含む医療用呼吸マスクであり、このチャンバーの表面には、幾つかの半透膜が取り付けられており、並びに可撓性空気チャンバーが接続されている。使用に際して、本発明は、吸気中の二酸化炭素分圧を上昇させ、並びに/又は使用者の呼吸の深さ及び速度に影響を及ぼすことができる。本発明の目的の1つは、使用者の血液ガスパラメータ(特に、pH値、二酸化炭素分圧、及び重炭酸イオン濃度)を正常化すること、及び/又は慢性的過換気患者に見られる代償性代謝性酸血症を消滅させることにより、正常呼吸パターンを回復させることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用呼吸マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
一連の様々な一般的医学的障害(それらの中でも、パニック不安、喘息、呼吸困難、及びある心臓状態)では、多くの場合、患者は、体内の二酸化炭素分圧の低下を示すことが見出されている。この状態は、低炭酸症と呼ばれ、ほとんどすべての場合、患者が平均して代謝要求を超えて呼吸していることを意味し、初期には感情的又は物理的ストレスにより刺激される場合がある反応である過換気により引き起こされる。
【0003】
過換気呼吸パターンは、わずかな慢性過呼吸、過呼吸及び呼吸低下の周期的な繰り返し、又は一般的に正常な呼吸速度の間に間隔を置いて起こる頻繁なため息及び/若しくは深呼吸のいずれかを特徴とする場合がある。
【0004】
換気の流れが突然増加する場合、最も重要な結果の1つは、動脈の二酸化炭素分圧がほとんど瞬時に低下し、その後血液のpH値が急速に上昇し(アルカローシス)、ひいては脳への血流、細胞への酸素送達、神経系の興奮性、平滑筋の緊張、並びに他の生理的パラメータに影響を及ぼすことである。更に、体内の二酸化炭素分圧の変化は、それ自体が体内の化学的緩衝能力を変化させることになる。
【0005】
低炭酸症が数日間又は数週間にわたって続くと、腎臓が、pH値の上昇を徐々に償うことになる。このプロセスは、代償性代謝性アシドーシスと呼ばれ、正常な血液pH値を部分的に回復させるだろう(しかし、完全に回復することはほとんどない)。しかしながら、多数の他のパラメータ、それらの中でも、動脈CO分圧、重炭酸イオン濃度、及び他のイオン濃度は、依然として異常レベルのままだろう。
【0006】
長期的な過換気は、自律継続的効果を示す場合もある。正常な状況下では、過換気により誘導されるアルカローシスは、化学受容体出力シグナルを減少させ、それにより換気が低下し、つまり過換気を抑制する。しかしながら、この生理学的な「ブレーキ」は、長期的(数日間又は数週間の)過換気で発生する代償性代謝性酸血症により弱められる。これにより過換気の自律的継続がもたらされ得ると考えることができる。更に、過換気及び低炭酸症は、恐らくは体内恒常性の変化を誘導する長期的過換気の結果として、化学受容体及び/又は脳の呼吸中枢の二酸化炭素感受性の増大によるものであり得るという理論が提案されている。
【0007】
従来技術を参照すると、通気を通さない材料で作られている袋が取り付けられているリム区画を含む再呼吸マスクが、特許文献1に開示されている。
特許文献2には、大気からマウスピースへの細長い空気経路を経て使用者が呼吸し、二酸化炭素の蓄積を達成する、再呼吸装置が開示されている。特許文献3には、袋を使用者の呼吸能力に合わせるために容易に可変なサイズの膨張可能な袋に接続された鼻−口マスクで構成され、前記袋が、調節可能な両方向呼吸弁及び一方向排気弁を有する、吸息中の二酸化炭素レベルを制御するための呼吸デバイスが開示されている。
【0008】
特許文献4には、マウスピースと、空気に流れを指図するためのマウスピース及びチャンバー間の弁デバイスとが設置されており、調節可能な機構を使用して、再呼吸される周囲空気と混合される呼気の量を変化させる呼吸装置が開示されている。
【0009】
特許文献5には、呼吸ポート及び少なくとも1つのベントポートを有する混合チャンバーを備える呼吸装置が開示されている。
特許文献6には、水分を通さない閉鎖型袋を備え、袋が、使用者の唇間に保持されるように構成されているマウスピースに取り付けられており、マウスピースが、袋の内部と液体連通しており、前記マウスピースと前記袋との間にフィルターが挿入されており、前記マウスピースと前記フィルターとの間に外気入口が設置されている呼吸装置が開示されている。
【0010】
特許文献7には、鼻/口マスクに取り付けられている使い捨ての可撓性ポリマー袋と、マスク及び使い捨て袋間に位置する、外気入口を通る外気に対する再呼吸空気の比率を調節する空気制御弁とを含む呼吸装置が開示されている。外気入口は、それを通る空気の吐出しを防止するチェック弁を有し、圧抜き弁は、ポリマー袋がいっぱいになった際に、再呼吸空気の放出するために設置することができる。
【0011】
特許文献8には、膨張可能な袋と、外気がマスク容積に流れ込むことを可能にするための2つの調節可能な弁とが取り付けられている呼吸マスクが開示されている。
特許文献9には、マスクを膨張可能な袋に接続するチューブが取り付けられており、チューブ及びマスク間の接続部分に調節可能なサイズの開口部が取り付けられている呼吸マスクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第97/28837号
【特許文献2】米国特許第4508116号明細書
【特許文献3】米国特許第3513843号明細書
【特許文献4】米国特許第4275722号明細書
【特許文献5】米国特許第5647345号明細書
【特許文献6】英国特許第2378904号明細書
【特許文献7】米国特許第4192301号明細書
【特許文献8】ウクライナ国特許第74957C2号明細書
【特許文献9】独国特許第19912337号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、吸気中の二酸化炭素分圧を上昇させることにより、及び/又は呼吸の深さ及び速度に影響を及ぼすことにより、患者の健康な生理的パラメータ(特に、pH値、二酸化炭素分圧、重炭酸イオン濃度、及び他のイオン濃度)の回復を支援することである。
【0014】
そのような処置の効果は、代償性代謝性酸血症を徐々に相殺し(それにより、過換気に対する正常な「COブレーキ」を回復する)、並びに恐らくは体内の二酸化炭素感受性を低下させるだろう。
【0015】
本発明は、何らかの理由でそれが所望の場合、体内の二酸化炭素分圧を、正常レベルを超えて上昇させるために使用することもできる。また、本発明は、それが所望の場合、血液のpH値を正常レベル未満に低下させるために使用することもできる。加えて、本発明は、それが所望の場合、呼吸の深さ及び/又は速度を、その通常レベルから変化させるために使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
1つの実施形態では、本発明は、使用者の鼻及び口の周囲に緊密に装着されるように配置することができ、マスクの鼻/口囲い込み部分(主要空気チャンバー)の表面にある幾つかの半透膜を通して装着者が呼吸可能である呼吸マスクの形態を有し、ここで、半透膜とは、それを通るガスの流れに抵抗をもたらす材料若しくは膜、及び/又は1つのガス成分(例えば、酸素、二酸化炭素、水、窒素等)が、それを通って別のガス成分よりも速く移動する材料を意味する。
【0017】
この実施形態では、主要空気チャンバーは、膨張可能な袋(可撓性空気チャンバー)に更に接続されており、同膨張可能な袋は、内部の圧力レベルにより膨張及び収縮することができることを意味する。この袋は、弾性材料又は非弾性材料のいずれで作られていてもよい。
【0018】
本発明の1つの実施形態では、主要空気チャンバーの表面には、主要空気チャンバーと周囲大気間との間の追加的ガス輸送方法を提供する追加開口部(外気弁)が取り付けられている。
【0019】
本発明の1つの実施形態では、マスクの開口部の1つ又は複数には、任意のタイプであってもよい調節可能な弁(例えば、ボール弁又はバタフライ弁)が取り付けられており、それによりマスクの使用者又は他の者が、主要空気チャンバーと大気との間の空気の流速、並びに主要空気チャンバーと可撓性空気チャンバーとの間の空気の流速を変更することが可能になる。
【0020】
主要空気チャンバーと周囲大気との間の弁(外気弁)の流動直径を調節することにより、マスク(「マスク」は、可撓性空気チャンバー及び主要空気チャンバーの両方を含む装置全体を指す)への外気の流れ並びにマスクから大気への呼気の流れを制御することができる。この開口部の流動直径を減少させることは、吸気の組成が、以前の呼気よりも豊かになり、外気よりも不良になることを意味し、それにより、吸気の二酸化炭素含有量はより高くなるが、酸素の含有量はより低くなるだろう。
【0021】
主要空気チャンバーと可撓性空気チャンバーとの間の弁(つまり、袋の弁)の流動直径を調節することにより、主要空気チャンバー内部の圧力変動(呼吸行為により引き起される圧力変動)の振幅は、袋の弁の流動直径が小さい場合に、袋の弁の流動直径がより大きい場合に生成される圧力変動よりも大きな圧力変動が主要空気チャンバーに生成されることになるような影響を受ける。言い換えれば、袋の弁の流動直径が大きければ、主要空気チャンバーの圧力緩衝作用はより良好になるだろう(及び空気圧はより安定するだろう)。
【0022】
マスクのこの実施形態を用いた実験では、袋の弁の流動直径を減少させることにより、各呼吸の1回呼吸量は増加するが(つまり、より深い呼吸)、呼吸間の時間はより長くなる(つまり、呼吸頻度はより低くなる)ことになることが示された。
【0023】
更に、袋の弁の流動直径を制御することにより、再呼吸される呼気二酸化炭素の量を調節することができる。
本発明のこの実施形態を用いた実験では、吸気中の平均二酸化炭素濃度がおよそ2%、吸気中の平均酸素濃度がおよそ17%であるように、弁を調節することが可能であったことが判明した。これらの二酸化炭素及び酸素濃度値では、使用者は、有害作用又は不快感を経験しなかった(詳細な試験データに関しては、下記の「実施例」を参照)。
【0024】
本発明の1つの実施形態では、記載の弁は自動制御性であり、(例えば)それらを通る流れの速度及び/又は弁の一方の側に対する圧力レベルに応じて、それらを通る流動直径を自動的に調節する。1つのそのような考え得るタイプの弁は、一方向フラップ弁又はチェック弁である。
【0025】
本発明の1つの実施形態では、可撓性空気チャンバーは、主要チャンバーに直接取り付けられており、2つのチャンバー間にパイプ又は他の狭窄部はない。
本発明の1つの実施形態では、半透膜は、性質が多孔性であってもよいが、別の実施形態では、半透膜は、性質が非多孔性であってもよい。幾つかの多孔性の膜及び材料の場合、膜を通る二酸化炭素の拡散速度は、同じ膜を通る酸素の拡散速度よりも遅く(グレアムの拡散法則によるように)、そのため、二酸化炭素は、酸素の場合よりもマスク容積外に拡散することがより困難になって、マスク容積内に拡散し、それによりマスク容積中の所与の二酸化炭素濃度における酸素濃度を比較的より大きくすることが可能になるだろう。
【0026】
本発明の1つの実施形態では、半透膜の1つ又は複数は、疎水性の性質があり、液体の水が、その材料内に吸収又は輸送されないことを意味する。このようにして、膜の透過性は、マスク容積中のガス状の水又は凝縮した水の存在による影響を比較的受けずにいることになる。
【0027】
本発明の1つの実施形態では、マスク容積と周囲大気との間の空気の流速は、マスク表面の開口膜の区域を変化させるにより調節することができる。これは、例えば、空気の流れがその区域を通過することができないように、膜の可変区域を閉鎖することができるように膜に取り付けられた小さな調節可能なシャッターを使用することにより達成することができる。
【0028】
本発明の1つの実施形態では、マスクと周囲大気との間の接続部分(膜及び/又は弁)は、使用者が接続部分を閉じることができる程度が制限され、その結果、酸素含有量は、指定された最小値未満に低下し得ない。この最小値は、0〜21%の酸素濃度に設定することができる。
【0029】
本発明の1つの実施形態では、マスクは、頚部及び/又は頭部の後部周囲に固定することができる調節可能なストラップ(それらは弾性素材であってもよい)を備えており、その結果、マスクは、使用者の鼻及び口の周囲に緊密に装着される。
【0030】
本発明の1つの実施形態では、マスクには、マスクが使用者の鼻及び口の周囲に緊密に装着され、それにより空気の流れ全体が、マスクの正面側(使用者の顔からから最も遠い側)の表面にある開口部に導かれるように、鼻/口を囲い込む穴(主要開口部)の縁部周囲に柔軟性及び/又は可撓性リム又はカラーが取り付けられている。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、マスクの可撓性空気チャンバーは取り外すことができ、それにより主要空気チャンバー及び/又は可撓性空気チャンバーの洗浄が容易になり、同様に様々なサイズの可撓性空気チャンバーを主要空気チャンバーに取り付けることが可能になる。
【0032】
本発明の1つの実施形態では、圧力緩衝作用のレベル及び再呼吸空気の質量は、様々なサイズ及び/又は様々な材料の可撓性空気チャンバーに交換することにより調節することができる。
【0033】
本発明の1つの実施形態では、主要空気チャンバー及び/又は可撓性空気チャンバーには、追加的な調節可能な又は調節不能な弁が取り付けられており、その主な目的は、凝縮した水の、マスクからの排水を可能にすることである。
【0034】
本発明の1つの実施形態では、吸水性材料を、主要空気チャンバー又は可撓性空気チャンバーのいずれか又は両方の内部に固定並びに内部から取り外すことができ、それにより液体の水又はガス状の水をマスク容積から除去することが可能である。この実施形態では、吸水性材料は、例えば、材料が水で完全に飽和状態になれば、交換することが可能だろう。
【0035】
本発明を拡張すると、主要空気チャンバー又は可撓性空気チャンバーにガスセンサ又はガス採取管を設置することが可能であり、例えば画面上又は映写幕上でマスク中のガス濃度及び圧力レベルをモニターすることが可能になるだろう。このガスセンサを、個別に又はマスクの一体的部分のいずれかとして警報器に接続することもでき、警報器は、マスク中のガス濃度がある最小値又は最大値に達すると、使用者に警告を出すことができる。そのようなガスセンサは、登録された値を収集及び/又はマスクの使用者若しくは他の者へのフィードバックを提供するために、コンピュータに接続することもできる。更に、ソフトウェアプログラム並びに/又は主要空気チャンバー及び/若しくは可撓性空気チャンバーのガスセンサにより提供される信号に従って、コンピュータによる弁の調節の制御を可能にする制御システムをインストールすることも可能だろう。そのようなセンサは、マスクの弁又はポートに接続され、使用者の呼吸及び/又はマスク中のガス濃度が、任意の異常な又は危険なパターンを示す場合に、この弁又はポートが開放され、それにより外気がより大量にマスク容積に流入することを可能にするように製作することもできる。更に、パルス酸素濃度計が、使用者の血液の酸素飽和度を経皮的に(例えば、耳たぶで)モニターして、飽和度が指定値未満に低下する場合に、警報を鳴らすことができるように、パルス酸素濃度計及び/又は警報器をマスクに装備することが可能だろう。
【0036】
本発明の別の拡張は、半透膜の取り外し及び交換手段を含むことができ、(例えば)破れた又は汚れた膜の交換を可能にするか、又は様々な流動特徴を有する様々なタイプの膜と交換することができる。
【0037】
本発明は、多くのサイズ及び設計で生産され、様々な形状及びサイズの頭部、並びに呼吸パターン、健康状態、及び特定の身体的障害の違いに合わせることができる。
本発明の実施形態の使用は、非常に短時間(数秒)から数日間又は数週間までであってもよい。使用者は、マスクを着用したまま、休息、仕事、運動、睡眠、又は他の活動を行うことができる。マスクは、使用者が一人ででも又は医師若しくは他の治療専門家と協力してでも、いずれでも使用することができる。
【0038】
前述の従来技術とは対照的に、本発明は、主要空気チャンバーの表面に半透膜が取り付けられており、マスク容積と周囲大気との間のガス輸送の別の手段を提供し、個々のガス成分の輸送速度は、半透膜の性質に依存する。
【0039】
更に、マスクの実施形態の幾つかは、使用者に対する外気の流れの制御とは別に、可撓性空気チャンバーにより提供される圧力緩衝作用を制御するための手段を提供し、外気弁及び袋の弁が両方とも主要空気チャンバーに直接接続されており、そのため、使用者が他の活動を行いつつ着用することのできるマスクに好適であるより小型の設計をもたらし、同様にマスクが使用者の生理学的死腔(生理学では、死腔とは、呼吸時に体内に吸息されるが、ガス交換に寄与しない空気の容積である)に付加する死腔容積を最小限に抑える。
【0040】
本発明の1つの実施形態が、図を参照して下記に記述されている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の1つの実施形態の透視図であり、2つの調節可能な弁:外気弁及び膨張可能な袋に通じる弁が、主要空気チャンバーに接続されている。
【図2】図1に示されている本発明の実施形態による空気の流れの図式的概観である。
【図3】3つのマスクの30分間試験の開始時、試験中間時点、及び試験後の呼吸終期CO測定のグラフであり、マスク3が本発明に対応する。
【図4】本発明に対応するマスクの1時間試験中の酸素飽和度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1及び図2に示されている本発明の実施形態は、マスクを使用者の鼻及び口周囲の適所に固定することができるように、それぞれ頭部及び頸部の後部の周囲に装着するための2つの調節可能なストラップ4及び6が取り付けられている主要空気チャンバー2を有する。使用者の顔とマスクとの間に緊密な装着が存在することを保証するために、主要空気チャンバーの縁部に沿って、柔軟性及び/又は可撓性リム8が取り付けられている。このリムは、例えばプラスチック又はゴムで作られていてもよい。
【0043】
マスクの正面側(使用者の顔から最も遠い側)では、2つの半透膜(3)が、主要空気チャンバーの表面の一部を構成しており、2本の短いパイプ10及び12が取り付けられており、その各々には、調節可能な弁14及び16が取り付けられている(図2に図式的に示されている)。これら弁は、弁を通る流れの段階的な又は漸進的な制御を可能にするいかなる構造であってもよい。この実施形態では、弁の制御は、それぞれ外部つまみ18及び20を調節することにより実施することができる。上部パイプ10は、主要空気チャンバーと周囲大気との間の通気を提供し、下部パイプ12は、主要空気チャンバーと膨張可能な袋22との間の通気を提供する。袋22は、パイプ12に、この2つの間に緊密な嵌合が存在するが、袋を洗浄するか又は同じ若しくは異なるサイズ及び/若しくは材料の別の袋と交換するために袋を取り外すことができるように、取り付けられている。
【0044】
図2には、空気の流れが、図1に示されている本発明の実施形態を参照して、図式的様式で示されている。この図の符号番号30は患者を指し、符号番号32は、発明本体の外部の周囲大気を指す。
【実施例】
【0045】
一連の実験では、一連の異なる呼吸マスク設計の使用試験をして、低酸素症を誘導せずに体内のCO濃度を上昇させるそれらの能力を比較した。図3には、30分間試験の開始時、試験中間時点、試験後の、3つのマスクの使用者の呼吸終期CO測定が示されている。
【0046】
図3のマスク1は、特許文献5(米国特許第5647345号明細書)(上述)の1つの実施形態におおよそ対応しており、膜はないが、マスク容積と大気との間に小さなポートを備える密接に装着されるマスクである。
【0047】
図3のマスク2は、1つのポートを有しており膜を有していない点においてマスク1と類似しているが、再呼吸用袋につながる短いパイプが取り付けられている点でマスク1と異なる。この設計は、特許文献7(米国特許第4192301号明細書)、特許文献6(英国特許2378904号明細書)、及び特許文献9(独国特許第19912337号明細書)の原理と類似している。
【0048】
マスク3は、図1に示されている本発明の実施形態に対応し、マスク表面に調節可能なポートベント(実験では閉じられていた)、再呼吸用袋、及び2つの疎水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜を有する。
【0049】
この図から、膜付マスク3は、体内のCO濃度を上昇させる最も大きく最も明白な能力を示したことが理解できる。
どのマスクも、低酸素症、アシドーシス、又はいかなる他のガス関連の不快感をもたらさなかったが、マスク1では、マスク内の圧力変動のため、緊密な装着を保証するためにマスクのストラップをきつく締める必要があり、その結果生じた顔に対するマスク縁部の圧力は、ある程度の不快感及び痛みをもたらした。
【0050】
マスク3は、再呼吸用袋内で生じた凝縮が、マスク2と比較してはるかに少なく(2滴対およそ25滴)、膜が、ガス状の水をマスク容積から排気する良好な能力を有することを示した。
【0051】
別の実験では、図1に対応するマスクの実施形態を、1時間(15分間マスクなしで呼吸する初期基線試験の後)使用試験した。血液パラメータに対する処置の効果を評価するために、試験の前後に、使用者から動脈血試料を採取した。血液の酸素飽和度は、パルス酸素濃度計で連続的にモニターした。
【0052】
下記の表1は、得られたデータを示す。
【0053】
【表1】

実験中、血液の酸素飽和度は、パルス酸素濃度計で測定したところ、基線からわずかに低下したが、依然として高いレベルを継続的に維持し、97〜99%の間で変動した(図4を参照)。したがって、このマスクは、低酸素症をもたらさないことが明確に示された。
【0054】
これらデータから、このマスクは、低酸素症のリスクを招かずに、体内のCO濃度(溶解したガスとして物理的に又は重炭酸イオンの形態で化学的に、の両方で貯えられる)を上昇させることができることが判明したことを理解することができる。誘導された呼吸性アシドーシスは、程度が比較的低いことが判明した。
【0055】
本実験では、被験者は低炭酸性ではなく、そのため実際、実験中に過炭酸症を経験した。しかしながら、慢性的低炭酸性患者の場合、体内CO濃度の上昇が測定されれば、炭酸正常状態(体内の生理学的に正常なCO濃度)が誘導されるだろう。この炭酸正常状態をより長期間維持することにより、慢性的低炭酸症患者の代償性代謝性酸血症は徐々に逆転し、したがって正常な血液ガス値を回復することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として吸気中の二酸化炭素濃度、並びに呼吸の深さ及び速度を制御するための顔用呼吸マスクであって、前記顔用呼吸マスクは、
・任意の材料で作られている主要空気チャンバー、及び使用者がそれを通して呼吸することができる前記チャンバーにある主要開口部、
・前記主要空気チャンバーと周囲大気とを隔てる少なくとも1つの半透膜であって前記主要空気チャンバーの表面にある前記半透膜、
・前記主要空気チャンバーと液体連通している少なくとも1つの可撓性空気チャンバーを組み合わせて備えており、
前記可撓性空気チャンバーが、同可撓性空気チャンバー内の空気の質量により膨張及び収縮することができる容積を有し、かつ前記可撓性空気チャンバーが任意の材料で作られている顔用呼吸マスク。
【請求項2】
前記主要空気チャンバーと前記周囲大気との間に少なくとも1つの追加開口部を備えており、前記開口部が、任意のタイプの1つ又は複数の調節可能な弁を備え、前記弁が、前記開口部を通るガス流の速度を変化させることが可能である、請求項1に記載の顔用マスク。
【請求項3】
前記主要空気チャンバーと前記可撓性空気チャンバーとの間の流れ接続のサイズが、好ましくは調節可能な弁を使用することにより調節可能である、請求項1又は2に記載の顔用マスク。
【請求項4】
前記弁の1つ又は複数が、前記弁を通る空気の流れを完全に阻止するように調節することができないように作られている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項5】
前記半透膜の1つ又は複数が、疎水性の材料で作られている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項6】
前記膜の可変部分を非透過性遮蔽物で覆うことにより、空気透過性である前記膜の表面積の割合を変化させることができ、前記遮蔽物が、前記マスクの一体的部分である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項7】
前記可撓性空気チャンバーが袋を備えており、前記袋が、弾性材料であってもよく又は非弾性材料であってもよい、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項8】
前記可撓性空気チャンバーが、前記主要空気チャンバーから取り外し可能である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項9】
前記可撓性空気チャンバーの表面が、半透過性材料を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項10】
主要空気チャンバーを備え、前記チャンバー内部の空気の質量により前記チャンバーの容積が変化することができるように、前記主要空気チャンバーが可撓性の材料で作られている、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項11】
前記主要開口部の縁部に可撓性リムが取り付けられており、前記リムが、前記主要開口部の縁部と前記使用者の顔との間の完全な又は部分的な気密性装着を容易にする、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項12】
前記主要開口部のリムと前記使用者の顔と間の緊密な装着を達成し、前記リムにより鼻及び顔を囲い込むことができるように、前記使用者の頭部の周囲に前記マスクを固定するための1つ又は複数のストラップを備える、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項13】
前記主要空気チャンバー及び前記可撓性空気チャンバーのうちの少なくとも一方が、凝縮した水を排水するための弁を備える、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項14】
可撓性空気チャンバーを備え、前記可撓性空気チャンバーの容積が、前記主要空気チャンバーの容積の5%〜3000%である、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の顔用マスク。
【請求項15】
前記主要空気チャンバー又は前記可撓性空気チャンバーに吸水性材料を含み、前記材料が、前記マスクから取り外し可能であり、かつ交換可能である、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の顔用マスク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−507205(P2013−507205A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533484(P2012−533484)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際出願番号】PCT/DK2010/050270
【国際公開番号】WO2011/044914
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(512098278)
【氏名又は名称原語表記】BALANCAIR APS
【Fターム(参考)】