説明

医療用固形製剤

【課題】
(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムの保存安定性が向上した医療用固形製剤を提供すること。
【解決手段】
本発明は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムにステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、カルナウバロウ、タルクなどの安定化剤を配合してなる医療用固形製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムを有効成分として含有する医療用固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム(以下、化合物Aと略すこともある。)はカテプシン阻害作用を有し、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症等の治療薬として有用であることが知られている。(特許文献1)
ところで、非晶質状態の化合物Aは吸湿性で、熱安定性が悪いことが知られている。
そこで、これを改良して、原薬として保存した場合、長期保存に耐え、熱安定性が向上した結晶質の化合物Aに関する特許が出願されている(特許文献2)。
しかしながら、本発明者らの研究により、結晶質の化合物Aを使用して製剤化した場合でも、水分や打錠圧により化合物Aがごく僅かであるが分解することが判明した。
そこで、化合物Aを有効成分とする安定性の向上した医療用固形製剤の提供が望まれている。
【0003】
【特許文献1】WO 99/11640
【特許文献2】WO 2004/96785
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム製剤に関し、安定性の向上した医療用固形製剤に関する研究を行い、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムを有効成分とし、油類を安定化剤として含有する医療用固形製剤に関する。
また本発明は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムと油類を混合し、得られた混合物をアルコール類を用いて造粒することにより製造される医療用固形製剤に関する。
また本発明は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムと油類を混合し、得られた混合物を水を用いて造粒することにより製造される医療用固形製剤に関する。
また本発明は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムと油類を混合し、得られた混合物を乾式造粒することにより製造される医療用固形製剤に関する。
また本発明は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合した後、得られた混合物をエタノールを用いて造粒し、乾燥後、打錠して製造される錠剤に関する。
また本発明は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合した後、得られた混合物を水を用いて造粒し、乾燥後、打錠して製造される錠剤に関する。
また本発明は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合した後、得られた混合物を乾式造粒した後、打錠して製造される錠剤に関する。
【0006】
また本発明は、水分に不安定な有効成分を含有する医療用固形製剤において、油類を安定化剤として含有することを特徴とする水分に不安定な有効成分の安定化方法に関する。
また本発明は、打錠時の圧力によって製錠後の安定性が著しく低下する有効成分を含有する錠剤において、油類を安定化剤として含有することを特徴とする打錠圧により分解する有効成分の安定化方法に関する。
さらにまた、本発明は、乾式造粒のプレス圧により分解する有効成分を含有する顆粒剤又は錠剤において、油類を安定化剤として含有することを特徴とするプレス圧により分解する有効成分の安定化方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明を更に詳細に説明する。
本発明の有効成分である(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムは、WO 99/11640(特許文献1)、WO2004/024672、WO 2004/96785(特許文献2)等に記載の製造方法で得られたものを使用することができ、そして原薬としては結晶質であることが好ましい。
本発明の医療用固形製剤において、油類としては、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、カルナウバロウ、グリセリン脂肪酸エステル、タルク、ポリエチレングリコール類(ポリエチレングリコール等)及び安息香酸エステル類(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル等)が挙げられ、好ましくはステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、カルナウバロウ、グリセリン脂肪酸エステル及びタルクが挙げられ、さらに好ましくはステアリン酸が挙げられる。
油類は2種以上を用いても良い。
また本発明においては、安定化を目的として、上記の油類1又は2以上と他の公知の安定化剤を併用しても良い。
油類の量は、好ましくは固形製剤の2〜35%で、更に好ましくは固形製剤の5〜25%である。
本発明の医療用固形製剤の剤型は、錠剤、顆粒、散剤、カプセル剤等が挙げられる。
本発明の医療用固形製剤において、有効成分である(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムは、例えば錠剤の場合、1錠中、1〜300mg、好ましくは30〜150mg含有する。
【0008】
次に本発明の医療用固形製剤の製造方法について述べる。
本発明の医療用固形製剤のうち、散剤については、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムと油類に必要に応じて賦形剤、崩壊剤、結合剤を添加し、混合することにより製造することができる。
【0009】
本発明の医療用固形製剤のうち、顆粒剤については、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合し、得られた混合物をアルコール類を用いて造粒した後、乾燥することで得ることができる。
ここで、アルコール類としては、エタノールまたはイソプロピルアルコールが好ましい。
また(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合し、得られた混合物を水を用いて造粒した後、乾燥することにより得ることもできる。
さらにまた(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合し、得られた混合物を乾式造粒することで得ることもできる。
【0010】
本発明の医療用固形製剤のうち、錠剤については、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合した後、得られた混合物をエタノールを用いて造粒し、乾燥後、打錠して製造することで得ることができる。
また(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合した後、得られた混合物を水を用いて造粒し、乾燥後、打錠して製造することで得ることもできる。
さらにまた(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合した後、得られた混合物を乾式造粒した後、打錠して製造することで得ることもできる。
【0011】
ここで、賦形剤としては、リン酸水素カルシウム、リン酸水素ナトリウム、乳糖、結晶セルロース、アルファー化でんぷん、炭酸カルシウム、トウモロコシでんぷん、白糖、馬鈴薯でんぷん又はD−マンニトール等が挙げられ、好ましくはリン酸水素カルシウム、乳糖が挙げられる。
崩壊剤としては、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポピドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ又はコーンスターチ等が挙げられ、好ましくはカルボキシメチルスターチナトリウムが挙げられる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルファー化でんぷん、プルラン又はゼラチン等が挙げられ、好ましくはヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
さらに本発明の固形製剤が錠剤の場合、通常使用する滑沢剤、色素などを含有していても良い。
滑沢剤としては、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が挙げられる。
また顆粒剤、錠剤はコーティングを施こしてもよい。
錠剤については、口腔内崩壊錠であっても良い。
本発明の医療用固形製剤が硬カプセル剤の場合、カプセル内に上記の散剤、顆粒剤に記載のものを含有したものが挙げられる。
【0012】
(i) 本発明の医療用製剤である散剤において、(2R,3S)−2,3−ジヒドロキシ−N−[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]スクシンアミド酸モノナトリウム(ジオール体と略すこともある)の含有量は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムに対して、0.5%以下が好ましく、さらに好ましくは0.02%以下である。
(ii) また、本発明の医療用製剤である顆粒剤において、(2R,3S)−2,3−ジヒドロキシ−N−[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]スクシンアミド酸モノナトリウムの含有量は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムに対して、0.8%以下が好ましく、さらに好ましくは0.5%以下である。
(iii) また、本発明の医療用製剤がカプセル剤の場合は、内容物が粉末状の場合は、(i)に、顆粒状の場合は(ii)に記載のものが適用される。
(iv) また、本発明の医療用製剤である錠剤において、(2R,3S)−2,3−ジヒドロキシ−N−[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]スクシンアミド酸モノナトリウムの含有量は、(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムに対して、1.0%以下が好ましく、更に好ましくは0.5%以下である。
【0013】
次に本発明の医療用固形製剤の安定性試験の結果を示す。
後記の表1から明らかなように、油類(ステアリン酸)を含有する実施例1の混合末は、含有しない比較例1の混合末と比較してジオール体の生成量(即ち、含有量。以下同じ。)が少なかった。
同じく、油類(ステアリン酸)を含有する実施例2の調剤末は、含有しない比較例2の調剤末と比較してジオール体の生成量が少なかった。
また後記表3から明らかなように、油類(ステアリン酸)を含有する実施例3,4の錠剤は、油類を含有しない比較例10,11の錠剤と比較して、ジオール体の生成量が少なかった。
従って、油類を含有する本発明の医療用固形製剤は、油類を含有しない固形製剤に比べ化合物Aの分解が抑えられた有用な製剤である。
また、ジオール体の生成量に関し、表1,3から次の結果が得られた。
比較例1/実施例1=0.020/0.003=6.7
比較例11/実施例4=0.289/0.023=12.6
即ち、油類(ステアリン酸)の有無による混合末段階での比較例と実施例とのジオール体の生成量の比に対し、水を用いた造粒した錠剤での比を比較するとその比は拡大しており、水造粒工程で油類を添加することで、水を用いて造粒することによる化合物Aの分解が抑制されることを確認できた。
【0014】
水分に不安定な有効成分を含有する医療用固形製剤において、製剤の混合工程で、油類を配合することで、活性成分に被膜を設けることで、水分による分解が抑えられた安定な医療用固形製剤を得ることができる。
また打錠圧により分解する有効成分を含有する錠剤において、製剤の混合工程で、油類を配合することで、調剤末の製錠において、油類が緩衝材となり有効成分の分解を防ぐことができ、安定な医療用固形製剤を得ることができる。
【0015】
本発明の化合物Aを有効成分として含有する医療用固形製剤は、他の公知の関節リウマチの治療剤や骨粗鬆症治療剤等と配合することにより配合剤とすることも可能である。
次に、参考例、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例に記載の混合末は、散剤として使用やカプセル剤の内容物としての使用の他、引き続き造粒することで調剤末として使用することもできる。同じく、調剤末は、顆粒剤としての使用やカプセル剤の内容物としての使用の他、引き続き打錠することにより錠剤として使用することもできる。
【実施例】
【0016】
(化合物Aの安定性の評価)
化合物Aの安定性の評価は、次の測定機器、評価方法を用いて化合物Aの類縁物質であるジオール体((2R,3S)−2,3−ジヒドロキシ−N−[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]スクシンアミド酸モノナトリウム)の生成量を測定することで行った。
なお、以下の参考例、実施例記載の化合物Aは、WO 2004/96785(特許文献2)に記載の製造方法で得られた結晶質のものを使用した。
【0017】
HPLC条件
測定機器:HPLC(10Avp)(島津製作所製)
カラム:ODS 5μm×4.6mm×150mm
流速:1.1〜1.3mL/分
カラム温度:40℃
注入量:15μL
移動相:pH3.0 0.1%リン酸二水素ナトリウム:アセトニトリル=5:2
検出:UV210nm
(化合物A及びジオール体のリテンションタイムはそれぞれ約13分、約10分)
試験溶液:
(1)原薬、混合末、調剤末
主薬の20mgに相当する量を正確にはかり移動相20mlを加え攪拌する。
こ の溶液を0.45μmのメンブランフィルターでろ過する。
初めのろ液15mlを除き、残りを試料溶液とする。
(2)錠剤
錠剤1錠に移動相50mlを加え崩壊させる。この溶液を0.45μmのメンブランフィルターでろ過する。
初めのろ液15mlを除き、残りを試料溶液とする。

錠剤の硬度測定
測定機器:木屋式デジタル硬度計(藤原製作所)

評価方法
加速試験(40℃、75%RH、アルミピロ包装(乾燥剤入り))12週間後の化合物Aに対するジオール体の生成量(%)で評価した。
【0018】
R,3S)−2,3−ジヒドロキシ−N−[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]スクシンアミド酸モノナトリウム
【0019】
【化1】

【0020】
H NMR(D2O,400MHz)δ: 0.78(6H,d,J=7Hz),0.79(3H,d,J=6Hz),0.82(3H,d,J=7Hz),1.24(1H,ddd, J=14,9,5Hz),1.34(1H,ddd, J=14,10,5Hz),1.59(1H,m),1.74(1H,m),3.19(1H,dd,J=10,7Hz),3.24(1H,dd,J=10,7Hz),3.39(1H,dd,J=11,7Hz),3.42(1H,dd,J=11,5Hz),4.03(1H,m),4.16(1H,d,J=3Hz),4.28(1H,d,J=3Hz)
IR(cm−1,KBr): 3406,2956,2871,2802,1653,1618,1535,1470,1385,1367,1286,1120,949,781,679.
【0021】
比較例1
化合物A150.0gに乳糖150.0g、リン酸水素カルシウム63.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム12.0g、ヒドロキシプロピルセルロース9.0g、フマル酸ステアリルナトリウム6.0gを均一に混合し、混合末を得た。
【0022】
比較例2
化合物A150.0gに乳糖150.0g、リン酸水素カルシウム63.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム12.0g、ヒドロキシプロピルセルロース9.0g、フマル酸ステアリルナトリウム6.0gを均一に混合し、乾式造粒機を用いて造粒し、調剤末を得た。
【0023】
実施例1
化合物A150.0gに乳糖60.0g、リン酸水素カルシウム63.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム12.0g、ヒドロキシプロピルセルロース9.0g、ステアリン酸90g、フマル酸ステアリルナトリウム6.0gを均一に混合し、混合末を得た。
【0024】
実施例2
化合物A150.0gに乳糖60.0g、リン酸水素カルシウム63.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム12.0g、ヒドロキシプロピルセルロース9.0g、ステアリン酸90g、フマル酸ステアリルナトリウム6.0gを均一に混合し、乾式造粒機を用いて造粒し、調剤末を得た。
【0025】
安定性試験1
比較例1,2及び実施例1,2で得られた混合末及び調剤末について、加速試験12週間後のジオール体の生成量を表1に示す。

試験結果1
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、油類(ステアリン酸)を含有する実施例1の混合末は、含有しない比較例1の混合末と比較してジオール体の生成量が少なかった。
同じく、油類(ステアリン酸)を含有する実施例2の調剤末は、含有しない比較例2の調剤末と比較してジオール体の生成量が少なかった。
造粒工程の前後に関し、比較例1と2を比較することで化合物Aが造粒することで分解することが判明したが、実施例1,2においては、造粒による化合物Aの分解が効果的に押さえられた。
【0028】
比較例3
化合物A150.0gに乳糖114.0g、リン酸水素カルシウム90.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム15.0g、ヒドロキシプロピルセルロース18.0gを均一に混合し、エタノールを用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、調剤末を得た。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0029】
比較例4
化合物A150.0gに乳糖114.0g、リン酸水素カルシウム90.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム15.0g、ヒドロキシプロピルセルロース18.0gを均一に混合し、エタノールを用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、打錠した。これにより1錠重量130.0mgの素錠を得た。この錠剤の硬度は、1〜2kgとなるように設定した。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0030】
比較例5
化合物A150.0gに乳糖114.0g、リン酸水素カルシウム90.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム15.0g、ヒドロキシプロピルセルロース18.0gを均一に混合し、エタノールを用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、打錠した。これにより1錠重量130.0mgの素錠を得た。この錠剤の硬度は、4〜5kgとなるように設定した。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0031】
比較例6
化合物A150.0gに乳糖114.0g、リン酸水素カルシウム90.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム15.0g、ヒドロキシプロピルセルロース18.0gを均一に混合し、エタノールを用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、打錠した。これにより1錠重量130.0mgの素錠を得た。この錠剤の硬度は、7〜8kgとなるように設定した。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0032】
比較例7
化合物A150.0gに乳糖114.0g、リン酸水素カルシウム90.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム15.0g、ヒドロキシプロピルセルロース18.0gを均一に混合し、エタノールを用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、打錠した。これにより1錠重量130.0mgの素錠を得た。この錠剤の硬度は、11kg以上となるように設定した。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0033】
安定性試験2
比較例3〜7で得られた調剤末及び錠剤について、加速試験12週間後のジオール体の生成量を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2から明らかなように、比較例3の調剤末は、比較例4〜7の錠剤と比較して、類縁物質であるジオール体の量が少なかった。また、比較例4〜7から、化合物Aを含有する錠剤は、硬度が大きいほどジオール体が多く、不安定であることが判明した。
【0036】
比較例8
化合物A5.0gに乳糖5.3g、リン酸水素カルシウム1.5g、カルボキシメチルスターチナトリウム0.4g、ヒドロキシプロピルセルロース0.3gを均一に混合し、エタノールを用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、調剤末を得た。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0037】
比較例9
化合物A5.0gに乳糖5.3g、リン酸水素カルシウム1.5g、カルボキシメチルスターチナトリウム0.4g、ヒドロキシプロピルセルロース0.3gを均一に混合し、精製水を用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、調剤末を得た。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0038】
比較例10
化合物A5.0gに乳糖5.3g、リン酸水素カルシウム1.5g、カルボキシメチルスターチナトリウム0.4g、ヒドロキシプロピルセルロース0.3gを均一に混合し、エタノールを用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、打錠した。これにより1錠重量130.0mgの素錠を得た。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0039】
比較例11
化合物A5.0gに乳糖5.3g、リン酸水素カルシウム1.5g、カルボキシメチルスターチナトリウム0.4g、ヒドロキシプロピルセルロース0.3gを均一に混合し、精製水を用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、打錠した。これにより1錠重量130.0mgの素錠を得た。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0040】
実施例3
化合物A5.0gに乳糖2.3g、リン酸水素カルシウム1.5g、カルボキシメチルスターチナトリウム0.4g、ヒドロキシプロピルセルロース0.3g、ステアリン酸3.0gを均一に混合し、エタノールを用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、打錠した。これにより1錠重量130.0mgの素錠を得た。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0041】
実施例4
化合物A5.0gに乳糖2.3g、リン酸水素カルシウム1.5g、カルボキシメチルスターチナトリウム0.4g、ヒドロキシプロピルセルロース0.3g、ステアリン酸3.0gを均一に混合し、精製水を用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、打錠した。これにより1錠重量130.0mgの素錠を得た。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0042】
実施例5
化合物A5.0gに乳糖2.3g、リン酸水素カルシウム1.5g、カルボキシメチルスターチナトリウム0.4g、ヒドロキシプロピルセルロース0.3g、ステアリン酸3.0gを均一に混合し、精製水を用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、調剤末を得た。
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0043】
実施例6
化合物A100.0gに乳糖66.0g、リン酸水素カルシウム40.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム8.0g、ヒドロキシプロピルセルロース6.0g、ステアリン酸30g、フマル酸ステアリルナトリウム10.0gを均一に混合し、乾式造粒機を用いて造粒し、調剤末を得た。得られた調剤末を16Mの篩で篩過した後、再度、フマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、打錠した。これにより1錠重量130.0mgの素錠を得た
(フマル酸ステアリルナトリウムの量は、化合物Aの1/10を使用した。)
【0044】
安定性試験3
比較例8〜11及び実施例3〜6で得られた調剤末及び錠剤について、加速試験12週間後のジオール体の生成量を表3に示す。

試験結果3
【0045】
【表3】

【0046】
表3から明らかなように、油類(ステアリン酸)を含有する実施例3,4の錠剤は、油類を含有しない比較例10,11の錠剤と比較して、類縁物質であるジオール体の量が少なかった。
このことから、処方中に油類(ステアリン酸)を配合させることで、製錠後の安定性が向上することが判明した。
また、造粒溶媒の精製水及びエタノールの効果に関し、比較例8と9,比較例10と11及び実施例3,4のジオール体の生成量から、エタノールを用いることによりジオール体の生成を効果的に抑えられることが判明した。
さらに比較例9と油類を含有する実施例5から、油類の添加によって、調剤末(顆粒剤)であっても精製水造粒による分解を効果的に防ぐことが判明した。
【0047】
実施例7
化合物Aに乳糖、リン酸水素カルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロースを均一に混合し、エタノールを用いて造粒した。次いで、得られた調剤末を乾燥した。乾燥後、16Mの篩で篩過した後、油類及びフマル酸ステアリルナトリウムを加え、混合し、打錠した。これにより1錠重量130.0mgの素錠(表4〜7記載の製剤1〜13)を得た。

これらの製剤に関し、加速試験を行い、12週間後のジオール体の生成量を表8に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
表8から明らかなように製剤1〜12は、ジオール体の生成が抑えられた有用な製剤であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムを有効成分とし、油類を安定化剤として含有する医療用固形製剤。
【請求項2】
(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムが結晶質である請求項1記載の医療用固形製剤。
【請求項3】
油類がステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、カルナウバロウ、グリセリン脂肪酸エステル、タルク、ポリエチレングリコール類及び安息香酸エステル類から選択されたものである請求項1又は2記載の医療用固形製剤。
【請求項4】
油類がステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、カルナウバロウ、グリセリン脂肪酸エステル及びタルクから選択されたものである請求項1又は2記載の医療用固形製剤。
【請求項5】
油類がステアリン酸である請求項1又は2記載の医療用固形製剤。
【請求項6】
油類を固形製剤の2〜35%含有する請求項1〜5記載の医療用固形製剤。
【請求項7】
油類を固形製剤の5〜25%含有する請求項1〜5記載の医療用固形製剤。
【請求項8】
(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムと油類を混合し、得られた混合物をアルコール類を用いて造粒することにより製造される医療用固形製剤。
【請求項9】
アルコール類がエタノールまたはイソプロピルアルコールである請求項8記載の医療用固形製剤。
【請求項10】
(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムと油類を混合し、得られた混合物を水を用いて造粒することにより製造される医療用固形製剤。
【請求項11】
(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムと油類を混合し、得られた混合物を乾式造粒することにより製造される医療用固形製剤。
【請求項12】
(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合した後、得られた混合物をエタノールを用いて造粒し、乾燥後、打錠して製造される錠剤。
【請求項13】
(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合した後、得られた混合物を水を用いて造粒し、乾燥後、打錠して製造される錠剤。
【請求項14】
(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウム、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び油類を混合した後、得られた混合物を乾式造粒した後、打錠して製造される錠剤。
【請求項15】
(2R,3S)−2,3−ジヒドロキシ−N−[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]スクシンアミド酸モノナトリウムの含有量が0.02%以下である(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムを有効成分として含有する散剤。
【請求項16】
(2R,3S)−2,3−ジヒドロキシ−N−[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]スクシンアミド酸モノナトリウムの含有量が0.5%以下である(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムを有効成分として含有する顆粒剤。
【請求項17】
(2R,3S)−2,3−ジヒドロキシ−N−[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]スクシンアミド酸モノナトリウムの含有量が0.5%以下である(2S,3S)−3−[[(1S)−1−イソブトキシメチル−3−メチルブチル]カルバモイル]オキシラン−2−カルボン酸モノナトリウムを有効成分として含有する錠剤。
【請求項18】
水分に不安定な有効成分を含有する医療用固形製剤において、油類を安定化剤として含有することを特徴とする水分に不安定な有効成分の安定化方法。
【請求項19】
打錠圧により分解する有効成分を含有する錠剤において、油類を安定化剤として含有することを特徴とする打錠圧により分解する有効成分の安定化方法。
【請求項20】
乾式造粒のプレス圧により分解する有効成分を含有する顆粒剤又は錠剤において、油類を安定化剤として含有することを特徴とするプレス圧により分解する有効成分の安定化方法。

【公開番号】特開2011−241148(P2011−241148A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230144(P2008−230144)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000228590)日本ケミファ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】