説明

医療用基材

【課題】吸液性、保液性、かつ生分解性や生物代謝性に優れた、加工が容易である医療用基材を提供する。
【解決手段】セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布であって、該セルロース誘導体の官能基の置換度が0.01〜0.5であり、かつ該不織布の吸液倍率が4〜60倍であることを特徴とする医療用基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸液性、保液性、かつ生分解性や生物代謝性に優れた加工が容易である医療用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、創傷被覆材を初めとする医療用基材として、ガーゼ、脱脂綿等が用いられてきたが、これらは水分を透過させて創傷面に材料が食い込んだまま乾燥してしまうため、取り外す際に、痛み、出血等を伴った。また、これらの創傷面の乾燥や材料の創傷部への食い込みにより、表皮再生は妨害されて治癒が遅延することが多かった。
【0003】
近年、創傷は湿潤環境下の方が早く治癒するという概念から、創傷部に湿潤環境を保つことを目的としたアルギン酸ナトリウム等の高分子を主成分とした医療用基材が開発され、合成材料適用による閉鎖療法が臨床の場で行われるようになった。また、補填修復効果があり、かつ生体吸収性であるキチン、キトサン、コラーゲン等の生分解性材料も注目されている。キチン、キトサン、コラーゲン等はその優れた生体適合性から医療分野で多岐にわたって利用されている(特許文献1・2参照)。
【0004】
しかしながら、上記の医療用基材の使用形態は、スポンジシート状として使用するため、創傷、特に褥瘡等の創傷面が平滑でない皮膚潰瘍に対して操作性の点においてなお改善の余地があり、また、長時間使用すると剥がれやすいなどの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−85318号公報
【特許文献2】特開2007−236657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題点を解決し、吸液性、保液性かつ生分解性や生物代謝性に優れた加工が容易である医療用基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布であって、該セルロース誘導体の官能基の置換度が0.01〜0.5であり、かつ該不織布の吸液倍率が4〜60倍であることを特徴とする医療用基材を得ることができ、また、前記の医療用基材は不織布の形状を維持しているため、加工が容易となり、更に傷への付着性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、以下の構成を有している。
(1)セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布からなる医療用基材であって、該セルロース誘導体の官能基の置換度が0.01〜0.5であり、かつ該不織布の吸液倍率が4〜60倍であることを特徴とする医療用基材。
(2)前記セルロース誘導体が、カルボキシルアニオン基、カルボキシル基、カルバモイル基、エステル基、アルデヒド基、イミノ基、又はアミノ基を官能基として有する、上記(1)に記載の医療用基材。
(3)前記セルロース系繊維の繊維径が3〜14μmであり、また前記不織布の厚みが50〜900μmであり、目付が5〜150g/mである、上記(1)又は(2)に記載の医療用基材。
(4)前記セルロース系繊維の不織布が、高い保液性を有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の医療用基材。
(5)前記セルロース系繊維の不織布が、生分解性を有する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の医療用基材。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、吸液性、保液性かつ生分解性や生物代謝性に優れ、傷への付着性に優れた加工が容易である医療用基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明の医療用基材は、セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布である。該セルロース誘導体の官能基の置換度は0.01〜0.5であり、好ましくは0.04〜0.45である。
【0011】
また、前記誘導体化されたセルロース系繊維の不織布の吸液倍率は4〜60倍であり、好ましくは7〜60倍である。更に好ましくは10〜50倍の範囲である。吸液倍率が4倍未満の場合、セルロース誘導体の置換度が低く、医療用基材としての機能が低下してしまう。一方、吸液倍率が60倍を超える場合、不織布の形状を維持することができなくなる。
【0012】
本発明で用いるセルロース系繊維の不織布とは、麻、綿等の天然セルロース繊維不織布、キュプラ、ビスコースレーヨン、ポリノジックレーヨン等の再生セルロース繊維不織布、リヨセル(テンセル)(登録商標)等の精製セルロース繊維不織布などであるが、好ましくは繊維内の不純物が少ない再生セルロース繊維不織布、精製セルロース繊維不織布であり、更に好ましくは再生セルロース繊維不織布である。また、繊維の形態は短繊維、長繊維のいずれも用いることが出来るが、好ましくは長繊維、更に好ましくは連続長繊維である。繊維の形態が連続長繊維の場合、脱落繊維等の不純物が出難く、医療用基材として機能が高い。また、連続長繊維の場合、不織布としての形態を維持することが容易となる。
【0013】
本発明で用いるセルロース系繊維の不織布は、主としてセルロース系繊維からなるが、セルロース系繊維100%の不織布であっても良く、製品に組み込まれた際、本発明の要件を満たす範囲で、ポリエステルなどの合成繊維または合成繊維不織布を混用したものでも良い。この場合には、本発明における不織布中において、セルロース系繊維又はセルロース系繊維不織布の含有量は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは75質量%以上である。
【0014】
本発明の誘導体化されたセルロース系繊維の不織布のセルロース誘導体の官能基は、カルボキシルアニオン基、カルボキシル基、カルバモイル基、エステル基、アルデヒド基等のカルボニルを有する置換基、またはイミノ基、アミノ基が好ましい。上記官能基を置換基としない場合、保液性や生分解性が低下する場合がある。
【0015】
本発明の誘導体化されたセルロース系繊維の不織布の好ましい例としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、酸化セルロース等の酸性基を有するセルロース誘導体、アルデヒド基を有するセルロース誘導体、イミノ化やアミノ化されたセルロース誘導体、およびこれらのナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩の誘導体化されたセルロース系繊維の不織布が挙げられる。
【0016】
これらの誘導体化されたセルロース系繊維の不織布のセルロース誘導体に導入される官能基の置換度は0.01〜0.5であり、好ましくは0.04〜0.45である。更に好ましくは0.05〜0.3である。セルロース誘導体の官能基の置換度が0.5を超える場合、不織布の形状を維持することができなくなる。セルロース誘導体の官能基の置換度が0.01未満の場合、吸液性や保液性が低下し医療用基材としての機能が低下する。
【0017】
本発明における繊維径とは、不織布の繊維集合体の表面を、走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−6380)を用いて10000倍の倍率で観察し、任意の50本を選び、1本につき任意の1箇所を選んで測定し、その平均値を繊維径と言う。本発明においては、繊維径が3〜14μmであることが好ましい。繊維径が3μm未満の場合、強度が低下する場合がある。一方、繊維径が14μmを超える場合、非表面積が小さくなることから、吸液性や保液性が低くなり医療用基材の機能が低下する場合がある。
【0018】
本発明における不織布の厚みとは、JIS−L1096準拠の厚み試験にて荷重を1.96kPaとして測定した際の厚みを言う。本発明において、医療用基材の厚みは50〜900μmであることが好ましいが、より好ましくは70〜800μmであり、更に好ましくは、100〜600μmである。厚みが900μmを超えると、通気性が悪くなったり、加工し難くなったりする場合がある。厚みが50μmより薄いと強度が極端に低くなり、取り扱い性が悪く、容易に破れが発生してしまう場合がある。
【0019】
本発明における不織布の目付とは、0.05m以上の面積の不織布を105℃で一定質量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置してその質量を測定した不織布のm当たりの質量(g)を目付と言う。本発明において、医療用基材の目付は5〜150g/mであることが好ましいが、より好ましくは10〜140g/mである。更に好ましくは20〜130g/mである。目付が150g/mを超えると、通気性が悪くなったり、加工し難くなったりする場合がある。目付が5g/m未満の場合、強度が低くなり、容易に破れが発生してしまう場合がある。
【0020】
本発明における不織布の平均孔径とは、JIS−K3832(バブルポイント法)における平均孔径を言う。本発明においては、平均孔径が1μm以上であることが好ましい。上限としては30μm以下が好ましい。平均孔径が1μm未満の場合、通気性が悪くなり、本発明の医療用基材の機能が低下する場合がある。
【0021】
本発明における不織布の通気抵抗値は、カトーテック製通気性試験機KES−F8における通気抵抗値を言う。本発明においては、通気抵抗値が30〜350Pa・s/mの範囲であることが好ましい。通気抵抗値が30Pa・s/m未満の場合、保水性が悪くなり、医療用基材としての機能が低下する場合がある。通気抵抗値が350Pa・s/mを超える場合、通気性が悪くなり、皮膚などに貼り付けた際に不快に感じる場合がある。
【0022】
本発明における引張強度とは、JIS−L1096における引張強度を言う。本発明においては、繊維の長手方向における引張強度が10N/50mm以上であることが好ましく、また400N/50mm以下であることが好ましい。引張強度が10N/50mm未満の場合、酸化セルロースに刺激を与えた場合、容易に破れが発生し易くなる。
【0023】
本発明の医療用基材の製造方法は特に限定されないが、例えば以下の製造方法によって製造することができる。
【0024】
セルロース系繊維の不織布1gを酸化触媒として0.001〜0.2mmol/gのN−オキシル化合物を用いて、誘導体化されたセルロース系繊維の不織布とする。N−オキシル化合物としては特に限定されるものではないが、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルが好ましい。N−オキシル化合物の使用量は、セルロース系繊維の不織布1gに対して、0.001〜0.2mmol/gであることが好ましく、更には0.01〜0.1mmol/gであることがより好ましい。N−オキシル化合物が0.001mmol/g未満の場合、反応が進行しにくくなり、また、0.2mmol/gを超える場合、不織布の形状を維持することができなくなる。
【0025】
前記工程において、セルロース系繊維の不織布1gを水中で0.5〜10mmol/gのハロゲン化物存在下、0.1〜5mmol/gの反応開始剤を用いて、誘導体化されたセルロース系繊維の不織布とする。ハロゲン化物としては、臭化物又はヨウ化物が好ましく、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属を挙げることができる。より好ましくは、臭化ナトリウムである。ハロゲン化物の使用量は、セルロース系繊維の不織布1gに対して、0.5〜10mmol/gであることが好ましい。ハロゲン化物が0.5mmol/g未満の場合、反応が進行しにくくなり、また、10mmol/gを超える場合、不織布の形状を維持することが困難となる。反応開始剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸,亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物等が挙げられる。好ましくは、次亜塩素酸ナトリウムである。充分な反応速度を得るため、および反応中に溶解等の影響で誘導体化されたセルロース系繊維の不織布が崩壊、流出しないこと考えれば、反応開始剤の使用量は、セルロース系繊維の不織布1gに対して、0.1〜5mmol/gであることが好ましく、更には1〜3mmol/gであることがより好ましい。反応開始剤が0.1mmol/g未満の場合、反応が進行しにくくなり、また、5mmol/gを超える場合、反応が過剰に進行し、不織布の形状を維持することができなくなる。
【0026】
また、以下の製造方法によっても製造することができる。
第一の工程では、セルロース系繊維の不織布を1〜15質量%のアルカリ性溶液を用いてアルカリセルロース系繊維不織布とする。アルカリ性物質としては、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。
【0027】
第二の工程として、前記アルカリセルロース系繊維の不織布のセルロース系繊維を構成するセルロースに官能基を導入する。該セルロースに官能基を導入するには、アルカリセルロース系繊維のセルロース1当量のグルコースに対して0.1〜3当量、より好ましくは0.5〜2当量の反応剤を付与する。反応剤が0.1当量未満の場合、反応が進行しにくくなり、また、3当量を超える場合、反応が過剰に進行し、医療用基材が膨潤したり、溶出したりする場合がある。
【0028】
前記反応剤としては、好ましくはモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、アクリロニトリル等が挙げられる。これらの反応剤を用いた上記の反応および必要に応じてそれに続く加水分解等の処理の結果、アルカリセルロースがエステル化またはエーテル化されることによって官能基が導入されたセルロース誘導体が得られる。
【0029】
前記のアルカリセルロース系繊維不織布のセルロース系繊維を構成するセルロースに官能基を導入する際、反応系中に有機溶剤を反応系の全体を基準にして5質量%以上添加する。有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、プロパノール、ブタノール等のアルコールが好ましい。更に好ましくは、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、2−ブタノール等の嵩高いアルコールが好ましい。反応系中に有機溶剤が5質量%未満の場合、不織布が溶け出したり、反応に斑ができたりする場合がある。
【0030】
誘導体化されたセルロース系繊維不織布のセルロース誘導体の官能基の置換度は主に反応に用いられる反応剤の当量で制御することができる。また、反応系中のアルカリ濃度、有機溶剤の添加量、反応温度や反応時間によっても制御可能である。反応に用いられる反応剤の当量、反応系中のアルカリ濃度、反応温度、反応時間は置換度とほぼ比例の関係にあり、反応剤の当量、反応系中のアルカリ濃度、反応温度、反応時間が大きくなれば置換度は高くなる。一方、有機溶剤の添加量は置換度とほぼ反比例の関係にあり、有機溶剤の添加量が多くなれば置換度は低くなる。
【0031】
また誘導体化されたセルロース系繊維不織布の吸液倍率は置換基の種類と置換度により制御される。
【0032】
次に、本発明である医療用基材の1つの態様では、セルロース系繊維の不織布が水分を含むときに、高い保液性を持ち、また、生分解性や生物代謝性を有することを特徴とする。
本発明おいて高い保液性とは、下記の式で定義される保液率が大きいことを表し、特に風乾4時間後の保液率が10%以上であることが好ましく、また20%以上であることがより好ましく、35%以上であることが更に好ましい。
保液率={(G−E)/(F−E)}×100
ここで、上式において、E(g)はセルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布3cm×3cmの質量であり、またF(g)は、これに霧吹きを用いて各試料に自重の3倍程度、好ましくは3倍の水を付与した質量である。またG(g)は、次いで吸水した不織布をトレイの上に置き、20℃、65%RHの恒温室で風乾させ、所定時間経過毎に測定した不織布の質量である。
また、本発明の医療用基材とは、特に限定はされないが、創傷被覆剤、再生医療用足場、細胞培養用基材、組織イメージング用基材、生体成分分離膜、血液浄化分離膜などが挙げられる。前記医療用基材は傷への付着性に優れ、吸液したとき透明度が高く、傷の治りを見ることができるため、特に創傷被覆剤として有効である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例などにより更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例などにより何ら限定されるものではない。本発明における測定方法を以下に示す。
【0034】
(1)置換度
セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布100mgを9質量%のアルカリ性重水溶液2mLに溶かし、その溶液の13Cを核磁気共鳴BRUKER NMR AVANCE 400にて測定した。セルロースの1位炭素の積分値Aに対するカルボニルの炭素の積分値Bから置換度を次式により算出した。
置換度=B/A
【0035】
(2)吸液倍率
セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布3cm×3cmの質量C(g)測定し、前記不織布を純水中に浸漬し、1時間放置した。吸液後、網上に10分間置き水切りをした。水切り後、不織布の質量D(g)を測定し、次式によって吸液倍率を算出した。
吸液倍率=(D−C)/C
【0036】
(3)繊維径(μm)
セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布を、走査型電子顕微鏡、日本電子製JSM−6380を用いて10000倍の倍率で観察し測定した。
【0037】
(4)厚み(μm)
セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布を、JIS−L1096準拠の厚み試験にて荷重を1.96kPaとして測定した。
【0038】
(5)目付(g/m
0.05m以上の面積のセルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布を、105℃で一定質量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置してその質量を測定し、不織布のm当たりの質量(g)を求めた。
【0039】
(6)平均孔径(μm)
セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布を、JIS−K3832(バブルポイント法)にて測定した。
【0040】
(7)通気抵抗値(Pa・s/m)
セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布を、カトーテック製通気性試験機KES−F8にて測定した。
【0041】
(8)引張強度(N/50mm)
セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布の幅を50mmとして、JIS−L1096における引張強度を測定した。
【0042】
(9)保液性
セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布3cm×3cmの質量E(g)を測定し、霧吹きを用いて各試料に自重の3倍程度の水を付与し、その質量F(g)を測定する。次に吸水した不織布をトレイの上に置き、20℃、65%RHの恒温室で風乾させ、所定時間経過毎の不織布の質量G(g)を測定し、次式により所定時間経過毎の保液率(%)を算出した。
保液率={(G−E)/(F−E)}×100
【0043】
(10)生分解性
セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布3cm×3cmを微生物活性な土壌に埋没し、所定時間経過毎の不織布の面積H(cm)を測定し、次式により所定時間経過毎の生分解率(%)を算出した。
生分解率={(9−H)/9}×100
【0044】
(11)傷への付着性
凹凸表面状の生肉の上にサンプルを載せ1分後、シートの密着状態(フィット性)を目視により評価し、同時に剥がしやすさ(離脱性)、傷の見えやすさ(透明性)を評価した。判定内容は以下の通りである。
i)フィット性
〇:良好 △:少し隙間あり ×:隙間あり
ii)離脱性
〇:良好 △:剥がしやすいが基材が少し残る ×:繊維が絡み剥がしにくく基材が残る。
iii)透明性
〇:透明 △:少し濁りがある ×:不透明
【0045】
[実施例1]
TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)0.3842g、臭化ナトリウム7.2gを500mLの水に溶解しておく。平均目付100g/mの再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)24gを500mLの水中に分散させ、前記TEMPO溶液と混合する。次に次亜塩素酸ナトリウム溶液(Cl=5%)94mLを添加し酸化反応を開始する。反応温度は室温で、反応中は系内のpHが低下するが、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10付近に調整した。10分後、メタノールを添加して反応を停止させ、水・アルコール洗浄した後、80℃で乾燥させた。得られた再生セルロース連続長繊維の不織布である医療用基材の置換度は0.20、吸液倍率は23.4倍であった。
【0046】
[実施例2]
実施例1において、次亜塩素酸ナトリウム溶液(Cl=5%)を150mLに変更した以外は、実施例1と同様にして、医療用基材を得た。
【0047】
[実施例3]
水酸化ナトリウム36gを水120mLと2−プロパノール600mLの混合液に溶解させた。平均目付100g/mの再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)24gを前記水酸化ナトリウム溶液に分散させ、室温で攪拌しアルカリセルロース化させた。その後、モノクロロ酢酸ナトリウム35gを添加して、得られたカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩不織布を中和し、水・アルコール洗浄した後、80℃で乾燥させた。得られた再生セルロース連続長繊維の不織布である医療用基材の置換度は0.21、吸液倍率は9.5倍であった。
【0048】
[実施例4]
水酸化ナトリウム9.6gを水182mLに溶解させた。平均目付100g/mの再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)24gを前記水酸化ナトリウム溶液に浸し、室温でアルカリセルロース化した。その後、前記水酸化ナトリウム溶液100mLを絞り出し、アルカリセルロース化した前記再生セルロース連続長繊維不織布にアクリロニトリル溶液(アクリロニトリル/2−プロパノール=20.3/60(mL/mL))を添加し室温で攪拌した。その後、得られたシアノエチルセルロースに水480mLを加えて加水分解を行った。加水分解後、得られたカルボキシエチルセルロースのナトリウム塩不織布を中和し、水・アルコール洗浄した後、80℃で乾燥させた。得られた誘導体化された再生セルロース連続長繊維の不織布である医療用基材の置換度は0.17、吸液倍率は14.1倍であった。
【0049】
[実施例5]
実施例1において、再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)を溶剤紡糸セルロース繊維不織布(リヨセル製不織布)平均目付30g/mを4枚積層したものに変更した以外は、実施例1と同様にして、医療用基材を得た。
【0050】
[実施例6]
実施例3において、再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)を溶剤紡糸セルロース繊維不織布(リヨセル製不織布)平均目付30g/mを4枚積層したものに変更した以外は、実施例1と同様にして、医療用基材を得た。
【0051】
[実施例7]
実施例4において、再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)を溶剤紡糸セルロース繊維不織布(リヨセル製不織布)平均目付30g/mを4枚積層したものに変更した以外は、実施例1と同様にして、医療用基材を得た。
【0052】
[比較例1]
平均目付100g/mの再生セルロース連続長繊維不織布を水・アルコール洗浄した後80℃で乾燥させ、医療用基材を得た。
【0053】
[比較例2]
溶剤紡糸セルロース繊維不織布(リヨセル製不織布)平均目付30g/mを4枚積層したものを水・アルコール洗浄した後80℃で乾燥させ、医療用基材を得た。
【0054】
[比較例3]
再生セルロース繊維不織布(レーヨン製不織布)とポリエステル繊維不織布の複合不織布(レーヨン製不織布80%)平均目付30g/mを4枚積層したものを水・アルコール洗浄した後80℃で乾燥させ、医療用基材を得た。
【0055】
[比較例4]
実施例1において、次亜塩素酸ナトリウムを250mL、再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)を溶剤紡糸セルロース繊維不織布(リヨセル製不織布)平均目付30g/mを4枚積層したものに変更した以外は実施例1と同様にして医療用基材を得たが、不織布としての形状を維持していなかった。
【0056】
[比較例5]
実施例3において、モノクロロ酢酸ナトリウムを15g、再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)を再生セルロース繊維不織布(レーヨン製不織布)とポリエステル繊維不織布の複合不織布(レーヨン製不織布80%)平均目付30g/mを4枚積層したものに変更した以外は実施例3と同様にして医療用基材を得た。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1〜7、比較例1〜3及び5で得られた医療用基材の保液性を下記表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示したとおり、本発明の医療用基材は優れた保液性を示している。
実施例1〜7、比較例1〜3及び5で得られた医療用基材の生分解性を下記表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3に示したとおり、本発明の医療用基材は優れた生分解性を示している。
実施例1〜7、比較例1〜3及び5で得られた医療用基材の傷への付着性を下記表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
表4に示したとおり、本発明の医療用基材は傷への優れた付着性を示している。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の医療用基材は、吸液性、保液性、かつ生分解性や生物代謝性に優れており、加工が容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース誘導体から構成されたセルロース系繊維の不織布からなる医療用基材であって、該セルロース誘導体の官能基の置換度が0.01〜0.5であり、かつ該不織布の吸液倍率が4〜60倍であることを特徴とする医療用基材。
【請求項2】
前記セルロース誘導体が、カルボキシルアニオン基、カルボキシル基、カルバモイル基、エステル基、アルデヒド基、イミノ基、又はアミノ基を官能基として有する、請求項1に記載の医療用基材。
【請求項3】
前記セルロース系繊維の繊維径が3〜14μmであり、また前記不織布の厚みが50〜900μmであり、かつ目付が5〜150g/mである、請求項1又は2に記載の医療用基材。
【請求項4】
前記セルロース系繊維の不織布が、高い保液性を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用基材。
【請求項5】
前記セルロース系繊維の不織布が、生分解性を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用基材。