説明

医療用容器

【課題】それぞれ独立して収容した薬剤の混和作業を簡単に行うことができる医療用容器を提供する。
【解決手段】バイアル1の第1の収容部2は、口部16と上端部(底部)15bを有する筐体からなり、第1の流出口21及び第1の通気口(排気口)22を有する。第2の収容部3は、第1の収容部2に対して相対的に移動可能に設けられた筐体からなり、上端部15bと対向する面に設けられた第2の流出口41及び第2の通気口(吸気口)42を有する。第1の薬剤Pは第1の収容部2に収容され、第2の薬剤Lは第2の収容部3に収容される。シール部は、収容部2,3との間に設けられ、初期状態で両者をシールすると共に、流出口21,41と、通気口22,42とを非連通状態とする。また、第2の収容部3が第1の収容部2に対して相対的に移動した状態において、流出口21,41と、通気口22,42とをそれぞれ連通状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの薬剤を独立して収容し、使用前に2つの薬剤を混和させる医療用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を保存するための医療用容器としては、例えば、バイアルが用いられている。一般的なバイアルは、ガラス製の瓶と、この瓶の開口部を封止するゴムキャップから構成されている。
【0003】
このようなバイアルは、例えば、特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示されたバイアルは、瓶の口部天面を口焼き処理することにより、粘性相違による皺状の筋が口部に生じることを防止している。
ところで、医療機関では、特許文献1に開示されたようなバイアルに粉体状の薬剤を収容して保存し、使用する際に溶解液を注入してバイアル内で薬剤と溶解液を混和することがある。
【0004】
この粉体状の薬剤と溶解液の混和作業について説明する。
まず、注射器を用いて粉体状の薬剤を収容したバイアルから空気を抜く。これにより、バイアルに溶解液を注入したときにバイアル内の空気圧が高くならないようにする。
次に、注射器を用いて溶解液が収容されている容器から溶解液を吸引する。
続いて、溶解液を吸引した注射器によってバイアルに溶解液を注入する。
その後、バイアルを振って溶解液と薬剤を混和する。
【0005】
上述したように、特許文献1に開示されたようなバイアルでは、粉体状の薬剤と溶解液とを混和させるために複数の作業が必要になり、混和作業が煩雑になってしまう。そこで、1個のパッケージ内に独立した2つの収容室を有するバイアル(医療用容器)が開発されている。
【0006】
このような2つの収容室を有するバイアルは、例えば、特許文献2に開示されている。この特許文献2に開示されたバイアルは、破裂可能な弁(隔壁)によって隔たれた第1室及び第2室を備えており、第1室が第2室に対して入れ子式に構成されている。この特許文献2に開示されたバイアルでは、第2室に対して第1室を挿入し、第2室内に収容された流体状の薬剤の流体圧で弁が破裂し、両室に収容されていた薬剤が第1室内で混合されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−246368号公報
【特許文献2】特表平6−502335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示されたバイアルでは、第2室に収容された流体全てを第1室に注入するまで、第1室を形成するシリンダに対して第2室を形成する容器を押圧し続けなければならなかった。そのため、混和作業が煩雑になるという問題があった。また、複数のバイアルに対してそれぞれ混和作業を行う場合には、作業時間が長時間になるという問題があった。
【0009】
本発明は、上述の点に鑑み、それぞれ独立して収容した薬剤の混和作業を簡単に行うことができる医療用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の医療用容器は、第1の収容部と、第1の薬剤と、第2の収容部と、液体状の第2の薬剤と、シール部とを備えている。
第1の収容部は、口部と底部とを有する筐体からなり、底部の面に設けられた第1の流出口及び第1の通気口とを有する。
第2の収容部は、第1の収容部に対して相対的に移動可能に設けられた筐体からなり、第1の流出口及び第1の通気口が設けられた底部と対向する面に設けられた第2の流出口及び第2の通気口を有する。
第1の薬剤は第1の収容部に収容され、第2の薬剤は第2の収容部に収容される。
シール部は、第1の収容部及び第2の収容部との間に設けられ、初期状態において両者をシールすると共に、第1及び第2の流出口と第1及び第2の通気口とを非連通状態とする。また、第2の収容部が第1の収容部に対して相対的に移動した状態において、第1及び第2の流出口と第1及び第2の通気口をそれぞれ連通状態とする。
【0011】
上記構成の医療用容器では、第1の収容部に第1の薬剤を収容し、第2の収容部に液体状の第2の薬剤を収容した状態で保管される。
第1の薬剤と第2の薬剤とを混和させる場合は、第1の収容部と第2の収容部を相対的に移動させ、第1の流出口を第2の流出口に対向させると共に第1の通気口を第2の通気口に対向させる。これにより、第1の収容部と第2の収容部が連通し、第2の収容部に収容された液体状の第2の薬剤が第1及び第2の流出口を通って第1の収容部内に流れる。一方、第1の収容部内の空気は、第1及び第2の通気口を通って第2の収容部内に流れる。したがって、第1の収容部内の空気圧によって第2の薬剤の注入が阻害されることは無く、第2の薬剤を第1の収容部に円滑に注入することができる。
【0012】
また、第1の収容部と第2の収容部を相対的に移動させるだけで、第2の薬剤を第1の収容部に注入して第1の薬剤と混和させることができるため、混和作業を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
上記構成の医療用容器によれば、第1の収容部と第2の収容部にそれぞれ収容した第1の薬剤と第2の薬剤との混和作業を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の医療用容器の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の医療用容器の一実施形態を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の医療用容器の一実施形態を示す縦断面図である。
【図4】本発明の医療用容器の一実施形態に係る第2の収容部を下方から見た斜視図である。
【図5】図5Aは本発明の医療用容器の一実施形態に係る第1収容室及び第2収容室にそれぞれ第1の薬剤及び第2の薬剤を収容した状態の説明図、図5Bは第1の収容部と第2の収容部を相対的に移動させている途中の状態の説明図、図5Cは第1の収容部と第2の収容部の相対的な移動が終了し、第2の薬剤が第1収容室に注入された状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の医療用容器の実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0016】
[医療用容器の構成例]
まず、本発明の医療用容器の一実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
図1は、医療用容器の一実施形態を示すバイアルの斜視図である。図2は、バイアルの分解斜視図である。図3は、バイアルの縦断面図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、医療用容器の一実施形態を示すバイアル1は、第1の収容部2と、第2の収容部3と、第1のシール部材4と、第2のシール部材5と、第3のシール部材6とを備えている。第1のシール部材4、第2のシール部材5及び第3のシール部材6は、本発明に係るシール部を構成する。
【0018】
図3に示すように、第1の収容部2は、筐体11と、この筐体11の後述する口部16を封止する封体12と、口部16に固定されるキャップ13から構成されている。
【0019】
筐体11は、異物の混入や、複数の薬剤を混和する際の反応等を確認するために、透明又は半透明なものを用いることが好ましい。この筐体11の材料としては、例えば、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)等の各種樹脂材料や、各種ガラス材を挙げることができる。
【0020】
筐体11は、中空の略円柱状に形成された本体15と、この本体15の軸方向の一端部である下端部15aに設けられた口部16を有している(図3参照)。口部16は、本体15よりも小さい径の円筒体に形成されている。本体15及び口部16からなる筐体11の内部空間は、第1収容室51になっている。
【0021】
図2に示すように、本体15の軸方向の他端部である上端部(底部)15bには、第1の流出口21及び第1の通気口である排気口22と、軸受け部23と、ガイド溝24と、シール固定用溝25が設けられている。
【0022】
第1の流出口21及び排気口22は、本体15における上端部15bの中心を挟んで配置されており、それぞれ円形に形成されている。上端部15bの中心から第1の流出口21の中心までの距離は、上端部15bの中心から排気口22の中心までの距離と等しくなっている。つまり、第1の流出口21及び排気口22は、上端部15bの中心に中心点のある円の円周上に配置されている。
これら第1の流出口21及び排気口22は、それぞれ本体15の上端部15bを貫通しており、第1収容室51を開口する。
【0023】
軸受け部23は、本体15における上端部15bの中心に設けられており、第1の流出口21と排気口22との間に配置されている。この軸受け部23は、円形の凹部に形成されており、上端部15bを貫通していない。軸受け部23には、第2の収容部3の後述する回転軸43(図3参照)が回転可能に嵌合される。
【0024】
ガイド溝24は、本体15における上端部15bの周方向に沿って円弧状に形成されている。このガイド溝24は、第1の流出口21及び排気口22よりも外周側に設けられている。ガイド溝24には、第2の収容部3の後述する係合突起44(図4参照)が摺動可能に係合される。本実施の形態では、ガイド溝24の中心角を約90度に設定している。
【0025】
ガイド溝24を設ける位置は、特に限定されないが、第1の収容部2と第2の収容部3を相対的に移動(回転)させたときに、第2の収容部3の後述する流出口41及び吸気口42に対向しない位置であればよい。
【0026】
シール固定用溝25は、上端部15bの周方向に連続する環状に形成されている。このシール固定用溝25には、第1のシール部材4が嵌合されて固定される。第1のシール部材4は、環状に形成されており、シール固定用溝25に対応した径になっている。そして、第1のシール部材4は、第1の収容部2の上端部15bと第2の収容部3の後述する下端部31aに液密に接触する。これにより、第1の収容部2の上端部15bと第2の収容部3の下端部31aとの間に生じる僅かな間隙がバイアル1の外部に対して密閉される。
【0027】
また、第1のシール部材4は、第1の収容部2と第2の収容部3との間に生じる僅かな間隙と共に第1収容室51を密閉する。そのため、シール固定用溝25は、少なくとも第1の流出口21及び排気口22よりも外周に設けられている。
第1収容室51は、第1のシール部材4によってバイアル1の外部とは遮断されており、無菌状態が維持される。
【0028】
本体15の外周面における上部には、係止部27が設けられている。この係止部27は、本体15の半径外方向に突出する環状に形成されている。係止部27は、第2の収容部3の後述する係合爪47に係合し、第2の収容部3が第1の収容部2の軸方向の上方へ移動することを制限する。
【0029】
図3に示すように、封体12は、口部16の筒孔に液密に嵌合しており、口部16の開口を封止する。この封体12は、注射器等の針管が穿刺可能なものである。この封体12に針管を刺し通すことで、第1の収容部2の内部空間と注射器等の医療機器が連通する。これにより、第1収容室51内の後述する混和済み薬剤を吸引することができる。
【0030】
なお、本例では、封体12として針管が穿刺されるものを適用したが、これに限定されるものではない。封体12としては、例えば、各種医療機器や輸液容器等の管体を接続可能な弁体であってもよい。この弁体は、例えば、スリットを有しており、管体の挿入により変形してスリットが開口するものや、管体自体をスリットに挿入することで第1の収容部2の内部空間に連通させるものなどがある。
【0031】
封体12の材料としては、特に限定されないが、口部16との液密性を良好にするために弾性材料で形成することが好ましい。このような弾性材料としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム、イソブチレンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマ、あるいはそれらの混合物を挙げることができる。
【0032】
キャップ13は、口部16の外周部に嵌合または螺合しており、封体12が口部16から外れることを防止している。なお、キャップ13の固定方法は、嵌合または螺合に限定されるものではない。キャップ13の固定方法としては、カシメ、融着、接着剤を用いた接着等その他各種の固定方法を用いることができる。
また、キャップ13の材料としては、熱可塑性樹脂等の合成樹脂を挙げることができる。
【0033】
次に、第2の収容部3について図3及び図4を参照して説明する。
図4は、第2の収容部3を下方から見た斜視図である。
【0034】
第2の収容部3は、中空の円柱状に形成された筐体31と、この筐体31の内部空間を2つに仕切る仕切り部32からなっている。
仕切り部32は、筐体31の内部空間を第2収容室52と、連通路53に仕切っている。この仕切り部32には、第2収容室52と連通路53を連通させる貫通孔32aが設けられている。
【0035】
仕切り部32の貫通孔32aは、気体は通すが液体は通さないフィルタ34で覆われている。したがって、第2収容室52と連通路53との間は、気体のみが自由に移動可能であり、液体が移動できないようになっている。
気体は通すが液体は通さないフィルタ34としては、例えば、疎水性フィルタを挙げることができる。また、疎水性フィルタの材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(RTFE)が用いられる。
【0036】
筐体31は、異物の混入や、複数の薬剤を混和する際の反応等を確認するために、透明又は半透明なものを用いることが好ましい。この筐体31の材料としては、上述した筐体11と同じものを用いることができる。
【0037】
筐体31の外径は、第1の収容部2における筐体11の外径よりも大きくなっている。この筐体31の下端部31aは、第1の収容部2における筐体11の上端部15bに対向する。
図4に示すように、筐体31の下端部31aには、第2の流出口41及び第2の通気口である吸気口42と、回転軸43と、係合突起44と、シール固定用溝45,46と、係合爪47が設けられている。
【0038】
第2の流出口41及び吸気口42は、下端部31aの中心を挟んで配置されており、それぞれ円形に形成されている。第2の流出口41は、下端部31aを貫通し、第2収容室52を開口する。吸気口42は、下端部31aを貫通し、連通路53を開口する。つまり、吸気口42は、連通路53を介して第2収容室52を開口している。
【0039】
下端部31aの中心から第2の流出口41の中心までの距離は、下端部31aの中心から吸気口42の中心までの距離と等しくなっている。つまり、第2の流出口41及び吸気口42は、下端部31aの中心に中心点のある円の円周上に配置されている。
【0040】
さらに、下端部31aの中心から第2の流出口41の中心及び吸気口42の中心までの距離は、第1の収容部2における上端部15bの中心から第1の流出口21の中心及び排気口22の中心までの距離と等しくなっている。そのため、第1の収容部2と第2の収容部3とを相対的に回転させると、第2の流出口41が第1の流出口21に対向し、吸気口42が排気口22に対向する。
【0041】
なお、第1の収容部2における上端部15bの中心から第1の流出口21の中心までの距離は、上端部15bの中心から排気口22の中心までの距離と異なっていてもよい。また、筐体31における下端部31aの中心から第2の流出口41の中心までの距離は、下端部31aの中心から吸気口42の中心までの距離と異なっていてもよい。
【0042】
ただし、第2の流出口41を第1の流出口21に対向させるためには、第1の収容部2における上端部15bの中心から第1の流出口21の中心までの距離と、第2の収容部3における下端部31aの中心から第2の流出口41の中心までの距離とを等しくする必要がある。
また、吸気口42を排気口22に対向させるためには、第1の収容部2における上端部15bの中心から排気口22の中心までの距離と、第2の収容部3における下端部31aの中心から吸気口42の中心までの距離とを等しくする必要がある。
【0043】
上述の「第1の収容部2における上端部15bの中心」及び「第2の収容部3における下端部31aの中心」は、「第1の収容部2及び第2の収容部3の回転中心」という表現に置き換えることができる。
【0044】
回転軸43は、下端部31aの中心に設けられており、第2の流出口41と吸気口42との間に配置されている。この回転軸43は、下端部31aから略垂直に突出する円柱状に形成されている。回転軸43は、第1の収容部2の軸受け部23に回転可能に嵌合される。
【0045】
係合突起44は、下端部31aの外周側に設けられており、第2の流出口41と吸気口42を結ぶ直線に略直交し、且つ、下端部31aの中心を通る直線上に配置されている。この係合突起44は、下端部31aから略垂直に突出する円柱状に形成されている。係合突起44は、第1の収容部2のガイド溝24に摺動可能に係合する。
【0046】
シール固定用溝45は、第2の流出口41の周囲に設けられており、環状に形成されている。このシール固定用溝45には、第2のシール部材5が嵌合されて固定される。第2のシール部材5は、シール固定用溝45に対応した環状に形成されている。そして、第2のシール部材5は、下端部31aと第1の収容部2の上端部15bに液密に接触する。したがって、第2の流出口41は、第2のシール部材5と第1の収容部2の上端部15bによって液密に閉塞される。
【0047】
シール固定用溝46は、吸気口42の周囲に設けられており、環状に形成されている。このシール固定用溝46には、第3のシール部材6が嵌合されて固定される。第3のシール部材6は、シール固定用溝46に対応した環状に形成されている。そして、第3のシール部材6は、下端部31aと第1の収容部2の上端部15bに液密に接触する。したがって、吸気口42は、第3のシール部材6と第1の収容部2の上端部15bによって液密に閉塞される。
【0048】
シール固定用溝46及び第3のシール部材6は、省くこともできる。シール固定用溝46及び第3のシール部材6を省いた場合は、第1の収容部2の上端部15bと第2の収容部3の下端部31aとの間に生じる僅かな間隙によって、排気口22と吸気口42が連通する。つまり、第1収容室51と連通路53が常に連通した状態になる。
上述したように、第1の収容部2の上端部15bと第2の収容部3の下端部31aとの間に生じる僅かな間隙は、第1のシール部材4によって液密に密閉される。そのため、第1収容室51と連通路53は、外部とは遮断されており、無菌状態を維持することができる。
【0049】
第1のシール部材4、第2のシール部材5及び第3のシール部材6は、第1の収容部2及び第2の収容部3との液密性を良好にするために弾性材料で形成することが好ましい。このような弾性材料としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム、イソブチレンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマ、あるいはそれらの混合物を挙げることができる。
【0050】
また、シール部材4,5,6は、嵌合のみでシール固定用溝25,45,46に固定してもよいが、例えば、接着剤などを用いてより強固に固定してもよい。
【0051】
係合爪47は、筐体31の下端部31aから略垂直に突出している。この係合爪47は、第1の収容部2の係止部27に係合する。これにより、第1の収容部2と第2の収容部3は、軸方向へ相対的に離反する移動ができなくなる。そして、第1の収容部2と第2の収容部3の相対的な移動は、回転軸43を中心とした回転のみとなる。
【0052】
図3に示すように、本実施の形態では、第1の収容部2の第1収容室51に粉体状の薬剤Pを収容し、第2の収容部3の第2収容室52に液体状の薬剤Lを収容する。つまり、薬剤Pは本発明に係る第1の薬剤を示し、薬剤Lは本発明に係る第2の薬剤を示す。
【0053】
なお、第1収容室51に収容する第1の薬剤は、粉体状に限定されるものではない。本発明に係る第1の薬剤としては、1つの固まりとされた固体であってもよく、また、液体状であってもよい。
第2収容室52に収容する第2の薬剤は、液体状であることが好ましい。第1の収容部2と第2の収容部3を相対的に移動させて、第1の流出口21と第2の流出口41が対向すると、第2の薬剤は、第2収容室52から第2の流出口41及び第1の流出口21を通って第1収容室51へ流入する。そのため、第2の薬剤は、流体状であることが好ましい。
【0054】
[医療用容器の組立方法]
次に、バイアル1の組立方法の例について、図3を参照して説明する。
バイアル1の組み立ては、例えば、無菌状態が保たれたクリーンルーム内で行う。
【0055】
バイアル1を組み立てるには、まず、第2の収容部3のシール固定用溝45,46に第2のシール部材5及び第3のシール部材6を嵌合させて固定する。
続いて、第2の収容部3の第2収容室52内に薬剤Lを収容する。薬剤Lの充填は、例えば、第2の流出口41から行うことができる。
【0056】
次に、第1の収容部2のシール固定用溝25に第1のシール部材4を嵌合させて固定する。この工程は、第2の収容部3に第2のシール部材5及び第3のシール部材6を固定する工程の前後に行ってもよい。
【0057】
次に、第1の収容部2の第1収容室51に薬剤Pを投入する。薬剤Pの投入は、口部16から行うことができる。また、薬剤Pを第1収容室51へ収容後、薬剤Pを凍結乾燥させる必要がある場合は、凍結乾燥器を用いて薬剤Pを凍結乾燥する。
続いて、封体12を口部16の筒孔に液密に嵌合させて、口部16の開口を封止する。その後、キャップ13を口部16の外周部に嵌合または螺合させる。これにより。薬剤Pを収容した第1収容室51が密閉される。
【0058】
次に、第2の収容部3に第1の収容部2を取り付ける。具体的には、第2の収容部3の下端部31aを上方に向けた状態にする。そして、下端部31aに設けた回転軸43を第1の収容部2の軸受け部23に挿入すると共に、下端部31aに設けた係合突起44を第1の収容部2のガイド溝24に係合させる。
【0059】
このとき、第2の収容部3の係合爪47は、第1の収容部2の係止部27に係合し、第1の収容部2と第2の収容部3の相対的な軸方向への移動を係止する。
また、係合突起44は、ガイド溝24のうちの排気口22側の端部(図2参照)に係合する。これにより、第2の収容部3の第2の流出口41及び吸気口42は、第1の収容部2の第1の流出口21及び排気口22に対して約90度ずれた状態になり、第1の収容部2の上端部15bに対向する。
【0060】
その結果、第2の収容部3の第2の流出口41は、第2のシール部材5と第1の収容部2の上端部15bによって液密に閉塞される。また、吸気口42は、第3のシール部材6と第1の収容部2の上端部15bによって液密に閉塞される。
また、第1の収容部2の上端部15bと第2の収容部3の下端部31aとの間に生じる僅かな間隙は、第1のシール部材4によって密閉される。
【0061】
第2の収容部3に第1の収容部2を取り付けると、バイアル1の組み立てが完了する。組み立てられたバイアル1は、第1収容室51と第2収容室52が液密に仕切られた仕切り状態になっており、冷蔵室などの保管場所に保管される。
【0062】
[医療用容器による薬剤の混和方法]
次に、バイアル1による薬剤Lと薬剤Pの混和方法について、図5を参照して説明する。
図5Aは、バイアル1の仕切り状態を示す説明図である。図5Bは、第1の収容部2と第2の収容部3を相対的に移動させている途中の状態の説明図である。図5Cは、バイアル1の連通状態を示す説明図である。
【0063】
図5Aに示すように、バイアル1が仕切り状態の場合は、第1収容室51と第2収容室52が液密に仕切られており、薬剤Lと薬剤Pは独立した状態でバイアル1内に収容されている。
このとき、第2の収容部3の係合突起44が第1の収容部2におけるガイド溝24の一方(排気口22側)の端部に当接している。そのため、第1の収容部2は第2の収容部3に対して矢印R方向(図5B参照)にのみ回転可能になっている。
【0064】
バイアル1によって薬剤Lと薬剤Pを混和させるには、図5Bに示すように、回転軸43を中心に第1の収容部2と第2の収容部3を相対的に回転させる。
このとき、第2の収容部3の係合突起44が第1の収容部2のガイド溝24内を摺動し、第1の収容部2と第2の収容部3の相対的な回転を案内する。
なお、図5Bでは、第2の収容部3を固定した状態で第1の収容部2を矢印R方向に回転させた状態を示している。
【0065】
図5Aに示すバイアル1の仕切り状態から第1の収容部2と第2の収容部3を約90度相対的に回転させると、図5Cに示すように、係合突起44がガイド溝24の他方の端部に当接する。これにより、第2の収容部3に対する第1の収容部2の矢印R方向への回転が係止される。
【0066】
このとき、第1の収容部2の第1の流出口21が第2の収容部3の第2の流出口41に対向し、且つ、第1の収容部2の排気口22が第2の収容部3の吸気口42に対向する。
その結果、第1収容室51と第2収容室52が第1の流出口21及び第2の流出口41によって連通されると共に、排気口22及び吸気口42によって連通され、バイアル1は連通状態になる。
【0067】
バイアル1が連通状態になると、第2収容室52に収容されている薬剤Lが第2の流出口41及び第1の流出口21を通って第1収容室51に注入される。
このとき、第1収容室51内の空気が排気口22及び吸気口42を通って連通路53に流れ込む。これにより、連通路53内の空気は、フィルタ34を通って第2収容室52に流れ込む。その結果、第1収容室51内の空気圧によって薬剤Lの注入が阻害されることは無く、薬剤Lを第1収容室51に円滑に注入することができる。
【0068】
バイアル1を連通状態にして所定の時間が経過すると、第2収容室52に収容されていた薬剤Lが全て第1収容室51に注入される(図5C参照)。その後、バイアル1を把持して振ることにより、薬剤Lと薬剤Pを混和させる。なお、薬剤Lを第1収容室51に注入するだけで薬剤Lと薬剤Pが混和する場合は、バイアル1を振る作業を省略することができる。
【0069】
また、本実施の形態では、バイアル1を仕切り状態から連通状態にしても、第1収容室51の体積が変化しない。そのため、第1収容室51内の空気圧が変化することはなく、空気圧を高めた状態で混和することが好ましくない薬剤にも適用できる。
【0070】
バイアル1は、連通状態で薬剤Lと薬剤Pを混和した後に、仕切り状態に戻すことができる。バイアル1を連通状態から仕切り状態に戻すには、第1の収容部2と第2の収容部3を相対的に回転させ、係合突起44をガイド溝24の一方(排気口22側)の端部に当接させる。これにより、バイアル1は仕切り状態に戻る。
このとき、バイアル1の第1収容室51には、薬剤Pと薬剤Lとを混和したものが収容されている。
【0071】
本実施の形態のバイアル1によれば、第1の収容部2と第2の収容部3を相対的に回転(移動)させるだけで薬剤Lを第1収容室51に注入することができ、薬剤Lと薬剤Pの混和作業を簡単に行うことができる。例えば、連通状態にしたバイアル1を作業台に載置しておけば、薬剤Lが第1収容室51に自然に流れるため、薬剤Lの注入作業に要する時間を従来よりも大幅に短縮できる。
【0072】
本実施の形態では、第1のシール部材4を第1の収容部2に固定したが、第1のシール部材4は、第2の収容部3に固定してもよい。その場合は、第1のシール部材4を固定するためのシール固定用溝を第2の収容部3に設ける。
また、本実施の形態では、第3のシール部材6を第2の収容部3における吸気口42の周囲に固定したが、第3のシール部材6は、第1の収容部2における排気口22の周囲に固定してもよい。その場合は、第3のシール部材6を固定するためのシール固定用溝を第3の収容部材に設ける。
【0073】
また、本実施の形態では、第1の収容部2と第2の収容部3の相対的な回転移動の範囲を約90度に設定した。しかしながら、本発明にかかる第1の収容部と第2の収容部の相対的な回転移動の範囲は、任意に設定することができる。
【0074】
また、本実施の形態では、第1の収容部2に係止部27を設け、第2の収容部3に係止部27に係合する係合爪47を設ける構成とした。しかしながら、本発明のバイアルとしては、第2の収容部に係止部を設け、その係止部に係合する係合爪を第1の収容部に設ける構成であってもよい。
【0075】
また、本実施の形態では、第1の収容部2及び第2の収容部3の筐体11,31を中空の略円柱体にした。しかしながら、本発明に係る第1の収容部及び第2の収容部としては、第1収容室又は第2収容室を有する筐体であればよく、例えば中空の角柱体にしてもよい。
【0076】
本発明は、上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
例えば、上述した実施の形態では、第1の収容部2と第2の収容部3を相対的に一方向へ移動させることにより、バイアル1を仕切り状態から連通状態にする構成とした。しかしながら、本発明の医療用容器としては、第1の収容部と第2の収容部を段階的に移動させることで仕切り状態から連通状態になる構成であってもよい。
このような構成としては、例えば、第1の収容部と第2の収容部を相対的に第1の方向に沿って移動させた後に、第1の方向とは異なる第2の方向に沿って相対的に移動させることで仕切り状態から連通状態になる構成を挙げることができる。
【符号の説明】
【0077】
1…バイアル(医療用容器)、 2…第1の収容部、 3…第2の収容部、 4…第1のシール部材、 5…第2のシール部材、 6…第3のシール部材、 11…筐体、 12…封体、 13…キャップ、 15…本体、 16…口部、 21…第1の流出口、 22…排気口(第1の通気口)、 23…軸受け部、 24…ガイド溝、 25…シール固定用溝、 27…係止部、 31…筐体、 32…仕切り部、 32a…貫通孔、 34…フィルタ、 41…第2の流出口、 42…吸気口(第2の通気口)、 43…回転軸、 44…係合突起、 45…シール固定用溝、 46…シール固定用溝、 47…係合爪、 51…第1収容室、 52…第2収容室、 53…連通路、 89…係止片

7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の収容部を有する医療用機器であって、
口部と底部とを有する筐体からなり、前記底部の面に設けられた第1の流出口及び第1の通気口とを有する第1の収容部と、
前記第1の収容部に収容される第1の薬剤と、
前記第1の流出口及び前記第1の通気口が設けられた前記底部と対向する面に設けられた第2の流出口及び第2の通気口を有し、前記第1の収容部に対して相対的に移動可能に設けられた筐体からなる第2の収容部と、
前記第2の収容部に収容される液体状の第2の薬剤と、
前記第1の収容部及び前記第2の収容部との間に設けられ、初期状態において両者をシールすると共に、前記第1及び第2の流出口と、前記第1及び第2の通気口を非連通状態とし、前記第2の収容部が前記第1の収容部に対して相対的に移動した状態において、前記第1及び第2の流出口と、前記第1及び第2の通気口をそれぞれ連通状態とするシール部と、
を備えることを特徴とする医療用容器。
【請求項2】
前記シール部は、前記第1の収容部と前記第2の収容部との間に生じる間隙を密閉する第1のシール部材と、前記第1及び第2の流出口の周囲に液密に固定された第2のシール部材と、前記第1及び第2の通気口の周囲に液密に固定された第3のシール部材と、からなることを特徴とする請求項1に記載の医療用容器。
【請求項3】
前記第2の収容部は、内部空間を前記第2の薬剤を収容する収容室と、前記第2の通気口により開口された連通路とに仕切る仕切り部を有し、
前記収容室と前記連通路は、気体は通すが液体は通さないフィルタを介して連通される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用容器。
【請求項4】
前記第1の収容部と前記第2の収容部の相対的な移動を案内するガイド部を備える
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の医療用容器。
【請求項5】
前記ガイド部は、前記第1の流出口が前記第2の流出口に連通すると共に前記第1の通気口が前記第2の通気口に連通した連通状態で前記第1の収容部と前記第2の収容部の相対的な移動を制限する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の医療用容器。
【請求項6】
前記第1の収容部は、前記口部を液密に封止すると共に医療機器を挿入可能な封体とを備える
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の医療用容器。
【請求項7】
前記第1の薬剤は、粉体状である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の医療用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−94475(P2013−94475A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240986(P2011−240986)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】