説明

医療用履物

【課題】 優れた通気性を有し、ムレない快適な履き心地を有し、かつ、着用者が汚染されるのを回避し得る医療用履物を提供すること。
【解決手段】 本発明の医療用履物は、表地と裏地とを有するアッパーを備える。裏地は、透湿性および防水性を有するフィルムと不織布との積層構造を有し、裏地のフィルムと不織布との間、ならびに、裏地のフィルムと表地との間に空気層が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用履物に関する。より詳細には、本発明は、優れた通気性を有し、ムレない快適な履き心地を有し、かつ、着用者が汚染されるのを回避し得る医療用履物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療機関等における観血的操作を行う場所(例えば、手術室、カテーテル室、放射線造影室)で医師や看護師が着用する履物は、実質的には、医師や看護師の判断に委ねられている。具体的には、B型肝炎、C型肝炎、梅毒等の感染が判明している患者の処置を行う場合にのみ足カバーを装着するというのが一般的である。言い換えれば、上記以外の感染症の患者を処置する場合には、何ら予防手段を講じていないことが多い。実際、患者の血液等が医師等の足に付着した場合には、処置後に流水で足を洗うだけで終わっているのが現状である。
【0003】
上記のような現状は、医療用(観血的操作を伴う処置用)の履物の履き心地がきわめて劣悪であることに起因すると考えられる。より詳細には、当該履物の通気性が非常に悪く、ムレやすいので、医師や看護師は、そのようなムレを嫌って履かないことが多い。
【0004】
通気性に優れ、ムレない履物として、特定のアッパー材を用いたシューズが提案されている(特許文献1参照)。しかし、このシューズは、アッパー材として特定量以下の通気量およびカサ比重を有する積層編地を用いているにすぎない。言い換えれば、このシューズは、織り密度が疎である編地を用いてムレを防止しているだけなので、医療用途(具体的には、着用者が血液やウィルスの汚染から守られること)という観点からは、きわめて不適切である。すなわち、血液やウィルスが容易にシューズを通過し、着用者が汚染および/または感染する可能性があるからである。
【0005】
【特許文献1】特開平10−103号公報
【0006】
以上のように、優れた通気性を有し、ムレない快適な履き心地を有し、かつ、着用者が汚染されるのを回避し得る医療用履物が強く望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、優れた通気性を有し、ムレない快適な履き心地を有し、かつ、着用者が汚染されるのを回避し得る医療用履物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の医療用履物は、表地と裏地とを有するアッパーを備え、該裏地が、透湿性および防水性を有するフィルムと不織布との積層構造を有し、該裏地のフィルムと不織布との間、ならびに、該裏地のフィルムと該表地との間に空気層が形成されている。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記裏地のフィルムは、親水性であり、かつ、実質的に無孔質である。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記裏地のフィルムは、消臭効果を有する機能粉体を含有する。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記裏地のフィルムは、抗菌効果を有する機能粉体を含有する。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記裏地の不織布は、抗菌繊維および/または消臭繊維を含む。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記表地は撥水加工されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アッパーの裏地に透湿性と防水性とを同時に有するフィルムを用いることにより、かつ、当該フィルムと表地との間に空気層を形成することにより、きわめて良好にムレを防止し、かつ、履物内部への血液等の侵入を実質的に完全に防止することができる。その結果、ムレない快適な履き心地を有し、かつ、着用者が汚染されるのを回避し得る医療用履物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0016】
本発明の医療用履物は、表地と裏地とを有するアッパーを備える。図1は、本発明の好ましい実施形態におけるアッパーを説明する概略断面図である。なお、この図面は、理解を容易にするために実際の各層の厚みの比率とは異なる比率で記載されていることに留意されたい。図1に示すように、アッパー100は、表地10と裏地20とを有する。表地10としては、任意の適切な生地が採用され得る。好ましい生地の代表例としては、平織りのキャンバス地が挙げられる。変形時の縦・横の伸度が同じで、かつ、追従性に優れるので、履物を成形する際に好ましいからである。加えて、生地が丈夫であるので、着用時の運動性に優れ、かつ、本発明の目的(5回程度の手術に使用可能であること)に応じた十分な耐久性を有しているからである。キャンバス地の素材としては、代表的には、コットンが挙げられる。好ましくは、表地10は撥水加工されている。撥水加工としては、任意の適切な加工方法が採用され得る。例えば、撥水加工は、フッ素樹脂、シリコーン系樹脂またはワックス系樹脂を、スプレー法、プリント法または浸漬法などにより生地に付着させて表面張力を低下させることにより行われる。撥水加工を施すことにより、血液やウィルス含有液体の履物内部への浸入が顕著に防止され、着用者の汚染および/または感染の確率を大幅に低下させることが可能となる。
【0017】
裏地20は、フィルム21と不織布22との積層構造を有する。フィルム21は、透湿性および防水性を有する。透湿性と防水性とを同時に有するフィルムを裏地に採用したことが、本発明の特徴の1つである。透湿性と防水性との両立は、親水性無孔質フィルムの透湿気化という現象を利用して達成される。透湿気化の具体的なメカニズムを図2に概念図で示す。フィルムは親水性であるので、水蒸気(例えば、履物内部で発生した水蒸気)は不織布22を通ってフィルム21表面から吸収されてフィルム内部に浸透する。水蒸気はフィルム21の内部で拡散し、フィルムの外(湿度の低い側)に次々と放出される。したがって、ムレない快適な履き心地が実現され得る。一方、フィルム21は無孔質であるので、外側からの水滴はフィルム21で遮断されて、内部には浸入できない。言うまでもなく、固体はフィルム21から侵入できない。したがって、仮に表地から血液・ウィルス等が浸入したとしても、フィルム21への浸入は実質的に完全に防止され得る。
【0018】
上記フィルム21を構成する親水性材料の代表例としては、熱可塑性エラストマーが挙げられる。例えば、結晶性芳香族ポリエステル(代表的には、ポリブチレンテレフタレート:PBT)からなるハードセグメントとポリエーテルからなるソフトセグメントとを有する熱可塑性エラストマーが使用され得る。このようなエラストマーは、デュポン社から商品名ハイトレル(登録商標)として市販されている。また例えば、ポリウレタンエラストマーが使用され得る。ポリウレタンエラストマーは、例えば、倉敷紡績(株)から商品名クランベター(登録商標)として市販されている。
【0019】
上記フィルム21の透湿度は、JIS L 1099 A−1法に準拠すると、好ましくは1000〜10000g/m・24h、さらに好ましくは3000〜6000g/m・24hである。通気度は、JIS L 1096に準拠すると、好ましくは1.0cc/cm/秒以下である。当該フィルムを用いたアッパー材全体の通気度は、好ましくは30cc/cm/秒以下、さらに好ましくは15cc/cm/秒以下、最も好ましくは1.0cc/cm/秒以下である。当該フィルムを用いたアッパー材全体の防水性は、JIS L 1092(耐水圧)に準拠すると、好ましくは100〜40000mmである。
【0020】
上記フィルム21の厚みは、好ましくは20〜40μm、さらに好ましくは25〜35μm、最も好ましくは約30μmである。フィルムが厚すぎると、ムレが十分に解消しない場合がある。フィルムが薄すぎると破れ等が生じやすくなるので、血液等が浸入する可能性が生じる場合がある。
【0021】
好ましくは、上記フィルム21は、消臭効果を有する機能粉体を含有する。このような機能粉体の代表例としては、活性炭、備長炭、トルマリンが挙げられる。このような粉体は、フィルム21を構成する樹脂(エラストマー)100重量部に対して、好ましくは5〜30重量部、さらに好ましくは10〜20重量部の割合で含有される。このような消臭機能を有する粉体を含有することにより、さらに快適な履き心地が実現され得る。あるいは、上記フィルム21は、抗菌効果を有する機能粉体を含有する。このような機能粉体の代表例としては、銀系無機抗菌剤が挙げられる。このような粉体は、フィルム21を構成する樹脂(エラストマー)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部の割合で含有される。このような抗菌機能を有する粉体を含有することにより、着用者のバクテリア等による感染の可能性をさらに低減することができる。これらの粉体は、単独で、または目的に応じて適宜組み合わせて用いられ得る。これらの粉体を組み合わせて用いる場合には、粉体混合物の合計が、フィルム21を構成する樹脂(エラストマー)100重量部に対して、好ましくは5〜30重量部、さらに好ましくは10〜20重量部の割合となるようにして使用され得る。粉体混合物中のそれぞれの粉体の比率は、目的に応じて適宜調整され得る。これらの粉体の平均粒径は、好ましくは10μmメッシュを透過し得るサイズであり、さらに好ましくは5μmメッシュを透過し得るサイズである。粉体の平均粒径が大きすぎると、フィルム21の成形に支障をきたす場合がある。
【0022】
上記不織布22は、任意の適切な材料で構成される。不織布22を構成する代表的な材料としては、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート:PET)、PETとレーヨンの混合繊維が挙げられる。好ましくは、不織布22は、抗菌繊維および/または消臭繊維を含む。ここで、抗菌繊維とは、繊維上での菌の増殖を抑制し得る繊維をいう。代表的には、抗菌繊維は、任意の適切な繊維を薬剤(例えば、有機シリコン第4級アンモニウム塩、アルキルアミン系薬剤、無機系薬剤)で処理することにより得られる。消臭繊維とは、消臭加工が施された繊維をいう。代表的な消臭加工としては、各種芳香剤によるマスキング、活性炭による吸着、天然の植物から抽出した消臭成分への浸漬、錯体を利用する方法、グラフト重合法が挙げられる。好ましくは、抗菌繊維および/または消臭繊維は、不織布全体の重量の30〜90%、さらに好ましくは30〜60%の割合で用いられ得る。
【0023】
好ましくは、不織布22は、機械結合法(代表的には、ニードルパンチ法)によって作製される。不織布22の厚みは、好ましくは1〜5mm、さらに好ましくは1.5〜3.0mmである。このような厚みを有することにより、成形性、機械的強度、および本発明の目的に応じた耐久性(5回程度の手術に使用可能であること)を同時に満足する医療用履物が得られる。
【0024】
本発明の医療用履物に用いられるアッパー100においては、上記フィルム21と上記不織布22との間に空気層31が実質的に形成され、ならびに、上記フィルム21と上記表地10との間に空気層32が実質的に形成されている。実質的な空気層31および32を設けることにより、先に説明した水蒸気の透湿気化が促進され得る。同時に、実質的な空気層32が表地10とフィルム21との間の緩衝領域として作用するので、仮に血液等が上記表地10から浸入したとしても、フィルム21まで一気に到達しない。したがって、上記のような防水性を有するフィルム21を用いれば、フィルム21への血液等の浸入が実質的に完全に防止され得る。結果として、きわめて快適な履き心地が実現され得、かつ、着用者の汚染/感染の可能性がさらに顕著に低減され得る。このような空気層を形成したことが、本発明の特徴の1つである。
【0025】
図1に示すように、上記実質的な空気層31は、フィルム21と不織布22とをドット状に塗布したホットメルト接着剤を介して接着することにより形成される。同様に、上記実質的な空気層32は、フィルム21と表地10とをドット状に塗布したホットメルト接着剤を介して接着することにより形成される。空気層31および32の厚みは、ホットメルト接着剤のドット密度およびドットの高さ(ドット付着量)を調整することにより制御され得る。なお、空気層の機能(透湿気化の促進および緩衝作用)の多くは、空気層32が担っているので、空気層32は空気層31よりも分厚く形成される。実質的には、空気層32の厚みは、フィルム21と表地10との非接着面積の割合で規定され得る(非接着面積の割合が大きいほど、空気層の実質的な厚みが大きい)。非接着面積の割合は、好ましくは50〜90%、さらに好ましくは60〜70%である。非接着面積の割合が90%を超えると、表地10と裏地20の接着強度が不十分となる場合がある。非接着面積の割合が50%より小さいと、空気層が十分に機能しない場合がある。このような厚み(非接着面積の割合)を形成し得るドット密度は、好ましくは25〜150個/cm、さらに好ましくは60〜80個/cmである。ドットの付着量は、好ましくは5〜100g/m、さらに好ましくは8〜30g/mである。空気層31は、フィルム21と不織布22とを良好に積層した結果として実質的に形成される。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の医療用履物は、医療機関等において観血的操作を伴う処置(例えば、手術、カテーテル処置、放射線造影処置)を行う際に好適に用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の好ましい実施形態による医療用履物のアッパーを説明する概略断面図である。
【図2】本発明に用いられるフィルムについての透湿気化のメカニズムを説明する概念図である。
【符号の説明】
【0028】
100 アッパー
10 表地
20 裏地
21 フィルム
22 不織布
31 空気層
32 空気層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地と裏地とを有するアッパーを備える医療用履物であって、
該裏地が、透湿性および防水性を有するフィルムと不織布との積層構造を有し、
該裏地のフィルムと不織布との間、ならびに、該裏地のフィルムと該表地との間に空気層が形成されている
医療用履物。
【請求項2】
前記裏地のフィルムが、親水性であり、かつ、実質的に無孔質である、請求項1に記載の医療用履物。
【請求項3】
前記裏地のフィルムが、消臭効果を有する機能粉体を含有する、請求項1または2に記載の医療用履物。
【請求項4】
前記裏地のフィルムが、抗菌効果を有する機能粉体を含有する、請求項1から3のいずれかに記載の医療用履物。
【請求項5】
前記裏地の不織布が、抗菌繊維および/または消臭繊維を含む、請求項1から4のいずれかに記載の医療用履物。
【請求項6】
前記表地が撥水加工されている、請求項1から5のいずれかに記載の医療用履物。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−25889(P2006−25889A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205363(P2004−205363)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(500378166)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】