説明

医療用弁体と医療用挿入補助具

【課題】止血性が良好であり、しかも挿入物の挿入時および引き抜き時の抵抗が小さく操作性に優れ、且つ挿入物の先端の潰れなどを効果的に抑制することができる医療用弁体および医療用挿入補助具を提供すること。
【解決手段】弁本体45の入口面41から出口面43に向けて貫通するようにダイレータ本体8を液密性を保持しつつ挿入および抜き出し可能な密着孔46が形成された弾力性を有する弁本体45で構成してあり、ダイレータ本体8を挿入する側の弁本体45の入口面41には、密着孔46を中心として、周方向に複数の案内溝42が放射状に形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用弁体と医療用挿入補助具に係り、さらに詳しくは、止血性が良好であり、しかも挿入物の挿入時および引き抜き時の抵抗が小さい操作性に優れた医療用弁体および医療用挿入補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全等の心機能低下時の治療のために用いる大動脈内バルーンポンピング法(いわゆるIABP法)、心臓の回りの血管を広げるためなどの治療のために用いる経皮的冠動脈形成方法(いわゆるPTCA法)、心臓の血流量を計測するためなどに用いられる熱希釈カテーテル法(いわゆるTDC法)などの治療法または診断法では、患者の動静脈血管内にカテーテル管を挿入する。このようなカテーテル管を患者の血管内に挿入するために、医療用挿入補助具(たとえばイントロデューサ)が用いられる。
【0003】
イントロデューサは、内部に通孔が形成されたシースを有する。このシース内には、必要に応じて針状のダイレータが挿入され、その状態で、患者の血管内にダイレータの先端部が挿入され、血管の挿入口をダイレータにより押し広げる。その後、ダイレータは、シースの基端部から抜き出される。シースの先端は、血管の挿入口に挿入されたままである。その後、シースの内部通孔を通して、カテーテル管が血管内に導入される。
【0004】
このようなイントロデューサでは、シースの基端部側に、医療用弁体が装着してあり、シースからダイレータを抜き取った後、カテーテル管を挿入するまでの間に、患者の血管からシースを通して血液が漏出することを防止している。この医療用弁体は、ダイレータがシース内に挿入されている間と、シースを通してカテーテル管を血管内に挿入する間にも、止血作用を奏することが要求される。
【0005】
シース内に装着される医療用弁体としては、十字形状またはY字形状の切込み状スリットから成る密着孔が形成された弾力性円盤状弁体が知られている。
【0006】
しかし、従来の弁体では、カテーテルやガイドワイヤを弁体に挿入するときの抵抗が高くなり、医療現場においてカテーテル等の挿入が容易でない場合がある。
【0007】
そこで、下記の特許文献1に示すように、ダイレータなどを挿入する側の弁本体の入口面には、ダイレータが挿入される密着孔を中心として、複数の隆起物が、半径方向および円周方向に断続して一体成形してある医療用弁体が提案されている。この医療用弁体によれば、弁体の止血性が良好に保持され、しかもダイレータなどの挿入時および通過時の抵抗が従来に比べて小さくなる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に示す医療用弁体では、ダイレータの先端を医療用弁体の入口面から入れようとする場合に、ダイレータの先端が隆起物に引っかかり易いという課題を有している。
【0009】
近年では、ダイレータの先端による患者への穿刺抵抗を小さくするために、ダイレータの先端を細くすることが望ましい。しかしながら、ダイレータの先端を細くすると、ダイレータの先端が医療用弁体の入口面に形成してある隆起物に引っかかった場合に、ダイレータの先端に潰れが発生するおそれがある。そのためダイレータの先端を細く形成することができないという課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−276595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、止血性が良好であり、しかも挿入物の挿入時および引き抜き時の抵抗が小さく操作性に優れ、且つ挿入物の先端の潰れなどを効果的に抑制することができる医療用弁体および医療用挿入補助具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る医療用弁体は、
弁本体の入口面から出口面に向けて貫通するように長尺挿入物を液密性を保持しつつ挿入および抜き出し可能な密着孔が形成された弾力性を有する弁本体で構成してあり、
前記長尺挿入物を挿入する側の弁本体の入口面には、前記密着孔を中心として、周方向に複数の案内溝が放射状に形成してあることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る医療用弁体では、ダイレータなどの長尺挿入物の先端を弁本体の密着孔に差し込む際に、挿入物の先端が弁本体の入口面に形成してある案内溝に沿って滑り密着孔まで案内される。そのため、ダイレータなどの先端を細くしても潰れることなく案内溝に沿って滑り密着孔まで案内される。このため、ダイレータなどの先端を細くすることが可能になり、ダイレータなどの先端による患者への穿刺抵抗を小さくすることができる。
【0014】
また、ダイレータなどの長尺挿入物が密着孔に案内された後に、さらに、挿入物を密着孔に差し込むと、密着孔の周囲に位置する入口面の一部が挿入物の外周に密着する。しかしながら、密着孔の周囲に位置する入口面には、放射状に案内溝が形成してあるために、挿入物の挿入時および引き抜き時の抵抗が小さく操作性に優れている。しかも挿入物を抜いた後には、密着孔が閉じるために、止血性にも優れている。
【0015】
前記弁本体の入口面には、前記密着孔に向けて傾斜する凹状テーパ面が形成してあり、前記凹状テーパ面に、直線状の案内溝が放射状に形成してもよい。密着孔に向けて傾斜する凹状テーパ面を弁本体の入口面に形成することで、挿入物の先端が弁本体の入口面に形成してある案内溝に沿って滑り易くなり、密着孔までの案内がより容易になる。
【0016】
前記案内溝の溝深さが、外周部で深く内周部で浅く形成してもよい。ダイレータなどの挿入物の先端が弁本体の入口面の外周部に最初に接触した場合に、その先端部を外周部から内周部に向けて案内し易くなる。
【0017】
また、弁体の密着孔には、ガイドワイヤなどの小さい外径の長尺挿入物が挿入されたり、カテーテル管などの大きな外径の長尺挿入物が挿入されたりすることがあり、そのいずれの場合にも、止血性が要求されると共に、挿入時および引き抜き時の低抵抗性が要求される。案内溝の溝深さを、外周部で深く内周部で浅く形成することで、長尺挿入物の外径によらず、止血性を低下させることなく、挿入物の挿入時および引き抜き時の抵抗の低減の効果が大きくなる。
【0018】
前記凹状テーパ面が形成してある入口面に対応する出口面では、前記凹状テーパ面面に対応する凸状テーパ面を形成してもよい。凹状テーパ面に対応する凸状テーパ面を形成することで、これらが形成してある弁本体の肉厚が外周部と内周部とで略均一になり、挿入物の外周に接触する弁本体の当たりムラがなくなり密着力が均一になる。
【0019】
なお、凸状テーパ面の頂部に位置する密着孔に対応する部分に出口側凹部を設けることで、挿入物の外周に接触する弁本体の動きがより柔軟になり、挿入物の挿入持または抜き出し持における挿入物に対する弁本体の接触抵抗が低下する。
【0020】
前記凹状テーパ面の外周部に位置する前記弁本体の入口面には平坦面が形成してあり、前記凸状テーパ面の外周部に位置する前記弁本体の出口面には、前記平坦面とは反対方向に突出する脚部が形成してもよい。脚部は、弁本体の周方向に沿って連続的に設けても良いし、断続的に設けても良い。
【0021】
脚部を形成することで、弁体の密着孔に挿入物を挿入する時または引き抜く時に、弁本体の出口面側に生じる圧縮力または引張力を分散することが可能になる。その結果、挿入物を挿入する時および引き抜く時の抵抗をさらに低減することができる。
【0022】
それぞれの前記案内溝の溝幅が、内周部に比較して外周部で広く、且つ前記密着孔の周囲に位置する前記内周部では、前記案内溝が周方向に近接していてもよい。ダイレータなどの挿入物の先端が弁本体の入口面の外周部に最初に接触した場合に、その先端部を外周部から内周部に向けて案内し易くなる。また、このように構成することで、長尺挿入物の外径によらず、止血性を低下させることなく、挿入物の挿入時および引き抜き時の抵抗の低減の効果が大きくなる。
【0023】
弁体の密着孔は、底部を持つ挿入穴と、この挿入穴の底部に連続する切込み状スリットとを有してもよい。切り込み状スリットは、出口面側に向けてスリット幅を大きく構成してあっても良い。出口面には、スリット幅に対応する前記出口側凹部を設けても良い。底部を持つ挿入穴は、入口面側に形成することが好ましいが、必ずしも挿入穴を形成する必要はない。すなわち、密着孔は、スリットのみで構成されても良い。切り込み状スリットとしては、特に限定されないが、十字形状またはY字形状のスリットが例示される。
【0024】
本発明に係る医療用挿入補助具は、上記に記載の医療用弁体と、前記医療用弁体を保持するシースとを有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1(A)は本発明の一実施形態に係る医療用弁体の平面図、図1(B)は図1(A)に示す案内溝の拡大平面図である。
【図2】図2(A)は図1に示す医療用弁体の斜視図、図2(B)は図1(A)に示すIIB−IIB線に沿う断面図、図2(C)は医療用弁体の背面図である。
【図3】図3(A)は図1(A)に示すIIIB−IIIB線に沿う断面図、図3(B)は図3(A)に示す密着孔近くの案内溝の拡大断面図である。
【図4】図4はイントロデューサにダイレータを差し込む途中を示す概略断面図である。
【図5】図5はイントロデューサにダイレータを差し込む途中を示す概略側面図である。
【図6】図6は図5に示すキャップ部の要部断面図である。
【図7】図7は医療用挿入補助具の使用状態を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1〜図3に示す本実施形態に係る医療用弁体40は、たとえば図4〜図7に示す医療用挿入補助具としてのイントロデューサ6の基端部に装着される。イントロデューサ6は、図3〜5に示すように、ダイレータ4と組み合わされて用いられる。
【0027】
まず、ダイレータ4とイントロデューサ6の概略について説明する。
ダイレータ4は、図4〜図7に示すように、血管の挿入口を押し広げるためのテーパ状先端部8aが形成されたダイレータ本体8と、このダイレータ本体8の基端部に接合してあるキャップ部10とを有する。
【0028】
ダイレータ本体8は、図4および図6に示すように、中空のチューブで構成してあり、その内部に、ガイドワイヤ挿通孔8bが形成してある。図6に示すように、このダイレータ本体8の基端部に、ダイレータハブ部12およびキャップ部10が、接着または融着などの手段で接合してある。ダイレータ本体8は、たとえばフッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン製のチューブで構成され、その内径は、たとえば0.5〜2.0mmであり、その肉厚は、たとえば0.1〜2.0mmである。
【0029】
イントロデューサ6は、図4に示すように、ダイレータ本体8の先端部8aが突き出すように差し込まれるシース14と、このシース14の基端部に接合してあるシースハブ部16とを有する。シース14は、中空のチューブで構成してあり、その内部に、ダイレータ本体8が挿通するようになっている。シース14の長さは、その先端から、ダイレータ本体8のテーパ状先端部8aが突き出すように設計される。
【0030】
シース14は、たとえばフッ素樹脂、ポリウレタン、ポリアミド製のチューブで構成され、その内径は、たとえば1.0〜5.0mmであり、その肉厚は、たとえば0.1〜1.0mmである。
【0031】
このシース14の基端部には、シースハブ部16が、接着または融着などの手段で接合してある。シースハブ部16には、ルアーチューブ20が接続してある。ルアーチューブ20は、シース14とダイレータ本体8との隙間に連通し、このルアーチューブ20を通して、血液の吸引、ヘパリンなどの薬液や生理食塩水などの注入を行うことが可能になっている。
【0032】
シースハブ部16は、図5に示すように、キャップ部10の内部に形成してある嵌合用空間22内に着脱自在に嵌合可能になっている。しかも、本実施形態では、シースハブ部16の外周に、雄ねじ部24が形成してあり、キャップ部10の内周に、雄ねじ部24に係合する雌ねじ部26が形成してある。
【0033】
本実施形態では、キャップ部10は、合成樹脂又はエラストマーで構成してあり、具体的には、ポリウレタンまたはポリ塩化ビニル(PVC)、ナイロン、天然ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン系エラストマーなどで構成してある。また、シースハブ部16は、たとえばABS、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアセタール、ポリアクリルニトリル、ナイロン、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、あるいはポリプロピレン(PP)などで構成してある。
【0034】
本実施形態に係るイントロデューサ6のシースハブ部16には、図4に示すように、その基端側内部に医療用弁体40が装着してある。
【0035】
本実施形態では、医療用弁体40は、図1〜図3に示すように、その中心部に、ダイレータ4などの長尺挿入物を液密性を保持しつつ挿入可能な密着孔46が形成された弁本体45を有する。弁本体45は、挿入物が挿入される側の入口面41と、その軸方向に反対側の出口面43とを有する。
【0036】
入口面41には、密着孔46に向けて傾斜している凹状テーパ面41aと、その外周に位置する平坦面41bとが形成してある。平坦面41bは、密着孔46の軸芯に対して略垂直である。凹状テーパ面41aは、内周側に位置する第1テーパ面41a1と、その外周側に位置し、第1テーパ面41a2の平坦面41bに対する第1傾斜角度θ1よりも第2傾斜角度θ2が小さい第2テーパ面41a2とを有する。
【0037】
このテーパ面41aには、密着孔46を中心として、円周方向に複数の案内溝42が放射状に一体的に形成してある。各案内溝42は、図1に示すように、その溝幅が、内周部42aに比較して外周部42bで広く、且つ密着孔46の周囲に位置する内周部42aでは、外周部42bに比較して案内溝42が円周方向に近接するようになっている。各案内溝42の内周部42aおよび外周部42bでは、溝端が半円形状に丸みを帯びていることが好ましい。
【0038】
図3に示すように、各案内溝42の溝深さは、外周部42bで深く内周部42aで浅くなるように形成してある。特に各案内溝42の内周部42aにおける溝端では、その溝42の底と第1テーパ面41a1とが交差して密着孔46の入口に連結されるようになっている。凹状テーパ面41に対する各案内溝42の溝深さの最大は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜1mmである。各案内溝42の溝幅は、ダイレータ本体8の先端細さなどに応じて決定され、その先端細さの0.2〜0.5倍が、案内溝42の最大幅となるように決定されることが好ましい。
【0039】
弁本体45の出口面43には、入口面41の凹状テーパ面41aに対応する凸状テーパ面43aが形成してある。平坦面41bに対する凸状テーパ面43aの傾斜角度θ3(図3(A))は、前述した傾斜角度θ2±10度であることが好ましい。そして、平坦面41bに対する案内溝42の底部の傾斜角度θ4(図3(B))は、前述した傾斜角度θ2よりも小さく、5度以上であることが好ましい。
【0040】
具体的には、傾斜角度θ1は、15〜25度であることが好ましく、傾斜角度θ2は、傾斜角度θ1に比較して5〜10度小さいことが好ましい。
【0041】
密着孔46は、弁体40の入口面41側に形成された挿入穴48と、この挿入穴48の底部に連続する切込み状スリット50とを有する。切り込み状スリット50は、出口面43側に向けてスリット幅を大きく構成してあり、出口面43には、スリット幅d2に対応する内径を持つ出口側凹部52が設けてある。出口側凹部52は、出口面43に形成してある凸状テーパ面の頂部に位置する。
【0042】
スリット50は、本実施形態では、平面側または背面側から見て十字形状のスリットである。スリット50の上部(入口面側)は、挿入穴48の底部に対して連通可能になっており、スリット50の下部(出口面側)は、出口側凹部52の底部に対して連通可能になっている。スリット50の切込み幅は、挿入穴48側で挿入穴48の内径d1と略同一であり、出口面43側の切り込み幅d2は、挿入穴48の内径d1に対して、約1〜5倍程度の大きさであり、出口面側に向けてテーパ状に切り込み幅が大きくなっている。
【0043】
なお、スリット50の切り込み幅は、テーパ状にすることなく、弁本体45の厚み方向に同じ幅d1であっても良い。ただし、スリット50の切込み断面を、弁本体45の出口面43に向けて末広がりにすることで、漏れようとする血液などの体液の圧力が、スリット50における幅広の切込み断面側から幅狭の切込み断面側に作用し、幅狭の切込み断面側でスリット50と挿入物(たとえばダイレータ4)との隙間を閉じ、止血性が良好に保たれる。
【0044】
図2(B)に示す挿入穴48の内径d1は、挿入穴48に挿入される長尺挿入物の外径(一般には、ガイドワイヤの径、使用されるカテーテル径またはダイレータ径)よりも小さく設計されることが好ましく、具体的には、0.1〜4.0mm程度である。
【0045】
図3(A)に示す弁体40を構成する弁本体45の厚みt0は、特に限定されないが、長尺挿入物の挿入がスムーズに行われ、適切なシール性を有するように決定され、具体的には、0.5〜5.0mm程度である。弁本体45の厚みt0は、外周部と内周部とで、略均一となるように、テーパ面4a1,4a2,43aの傾斜角度θ1〜θ3が決定されるが、厳密に同じ厚さである必要はなく、たとえば±1mmの範囲内で異なっても良い。また、弁本体45の厚みt0は、外周部に比較して内周部において少し薄くしても良い。
【0046】
挿入穴48の軸方向の深さは、本実施形態では、弁本体45の厚みt0の10〜30%であり、出口側凹部52の軸方向の深さは、5〜20%であり、スリット50の軸方向深さは、弁本体45の厚みt0から、それらの深さを引いた値である。
【0047】
図2(B)および図3(A)に示すように、本実施形態では、弁本体45の出口面43の外周部には、出口面43から軸方向に延びる脚部54が一体に成形してある。脚部54は、弁本体45の周方向に沿って連続的に設けても良いし、断続的に設けても良い。
【0048】
出口面43に設けられた脚部54は、入口面41の平坦面41bに対応して設けられ、密着孔46の中心から脚部54の内周面までの距離r3は、本実施形態では、密着孔46の中心から案内溝42の外周端までの距離r1と同等以上になっていることが好ましい。ただし、密着孔46の中心から案内溝42の外周端までの距離r1は、密着孔46の中心から脚部54の内周面までの距離r3よりも大きく形成しても良い。
【0049】
脚部54の軸方向高さh0は、弁本体45の厚みt0の100〜180%であることが好ましい。また、脚部54の半径方向幅w0は、弁本体の外径をd0(2×半径r0)として、0.1×d0〜0.4×d0程度が好ましい。
【0050】
本実施形態では、脚部54および弁本体45から成る医療用弁体40は、射出成形などを用いることにより一体に成形される。医療用弁体40の材質は、特に限定されないが、たとえば天然ゴム、ブチルゴム、エチレン―プロピレンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、シリコーンゴム、ポリウレタン、フッ素ゴムなどの合成ゴム、好ましくはシリコーンゴムで構成される。テーパ面41a,43a、案内溝42、密着孔46および脚部54は、弁体40の成形と同時に成形しても良いし、円盤状の成形体を成形した後に、機械加工により形成しても良い。
【0051】
本実施形態では、テーパ面41aの表面には、摩擦抵抗を低減させる物質がコーティングしてあることが好ましい。摩擦抵抗を低減させる物質は、とくにテーパ面41aの表面にのみコーティングしてあることが好ましい。この場合、弁体の表面全体にコーティングする場合と比較して、弁体を構成する部材の弾力性が低下することがことなく好ましい。
【0052】
摩擦抵抗を低減させるコーティング物質としては、特に限定されないが、四フッ化エチレン重合体、四フッ化エチレン−エチレン共重合体、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−四フッ化プロピレン共重合体等のフッ素樹脂;ビニリデンフルオライド−六フッ化プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素ゴム;ポリウレタン、ポリパラキシリレンなどが例示される。また、医療用弁体40の表面全体には、シリコーンオイルなどを塗布してもよい。弁体40を保護するためである。
【0053】
このようにして形成された医療用弁体40は、前述したように、たとえば図4に示すイントロデューサ6のシースハブ部16の基端部内部に装着される。
【0054】
本実施形態に係る医療用弁体40を持つイントロデューサ6を用いて、カテーテル管を血管内に挿入するには、次のようにして行う。まず、図7に示す患者の皮膚30の上から、図示省略してある外套針(カニューラ)と内套針より構成される穿刺針を突き刺し、その先端を、血管32内に位置させる。次に、外套針(カニューラ)を残したまま内套針を抜き出し、内套針を抜き出した穴から、ガイドワイヤー34を血管32内に挿入する。
【0055】
次に、挿入したガイドワイヤー34に沿って、外套針を抜き出し、その後、ガイドワイヤー34をダイレータ本体8の挿通孔8b(図6参照)内に通し、このガイドワイヤー34に沿って、イントロデューサ6とダイレータ4とを一体化したカテーテル管挿入具の先端部を血管の挿入口36に差し込む。その状態を図7に示す。
【0056】
イントロデューサ6内にダイレータ4を一体化させるために、本実施形態では、イントロデューサ6の基端部側のシースハブ部16からダイレータ4のダイレータ本体8を差し込み、ダイレータ本体8のテーパ状先端部8aを、シース14の先端から突き出させる。そして、ダイレータ4の基端部に形成してあるキャップ部10を、シース8の基端部に形成してあるシースハブ部16の外周に装着する。図6に示すキャップ部10の内周に形成してある雌ねじ部26に、シースハブ部16の外周に形成してある雄ねじ部24がねじ結合することで、イントロデューサ6とダイレータ4とは、軸方向および回転方向に相対移動不能になり、両者は一体化される。
【0057】
一体化されたイントロデューサ6とダイレータ4とから成るカテーテル管挿入具の先端を、図7に示すように、血管の挿入口36に差し込めば、ダイレータ6の先端に形成してあるテーパ状先端部8aが、血管の挿入口36を押し広げる。さらにカテーテル管挿入具の先端を押し込めば、シース14の先端も、血管内に挿入される。その後、カテーテル管挿入具の基端部を操作し、雄ねじ部24と雌ねじ部26との係合を解除し、キャップ部10をシースハブ部16から取り外す。
【0058】
その後、キャップ部10をシースハブ部16に対して基端部側からガイドワイヤー34と共に引き抜けば、ダイレータ本体8とガイドワイヤー34がシース14内から引き抜かれる。その後、基端部側からイントロデューサ6内にカテーテル管を差し込めば、カテーテル管は、血管32内に都合良く挿入される。
【0059】
本実施形態では、医療用弁体40に形成してある密着孔46が挿入穴48とスリット50との組合せであるため、イントロデューサ6内にダイレータ本体8あるいはカテーテル管などの長尺挿入物が挿入されている間でも、イントロデューサ先端側から流入する血液は、医療用弁体40により良好にシールされる。すなわち、挿入穴48は、挿入物が挿入穴48内に挿入されない状態では、止血性がないが、挿入穴48に挿入物が差し込まれる状態で、止血性を保持する。
【0060】
ダイレータ4をイントロデューサ6から抜取り、カテーテル管を挿入する間までのように、医療用弁体40に対して何も挿入されていない状態では、スリット50が閉じているので、良好な止血作用を奏する。
【0061】
したがって、本実施形態に係る医療用弁体40およびそれを持つイントロデューサ6では、カテーテルなどの長尺挿入物を挿入する前の状態および挿入中の状態の双方において止血性が良好である。
【0062】
また、本実施形態に係る医療用弁体40およびそれを持つイントロデューサ6では、ダイレータ本体8の先端部8aを弁本体45の密着孔46に差し込む際に、ダイレータ本体8の先端部8aが弁本体45の入口面41に形成してある案内溝42に沿って滑り密着孔46まで案内される。そのため、ダイレータ本体8の先端部8aを細くしても潰れることなく案内溝42に沿って滑り密着孔46まで案内される。このため、ダイレータ本体部8の先端部8aを細くすることが可能になり、ダイレータ本体8の先端部8aによる患者への穿刺抵抗を小さくすることができる。
【0063】
また、ダイレータ本体8が密着孔46に案内された後に、さらに、ダイレータ本体8を密着孔46に差し込むと、図4に示すように、密着孔46の周囲に位置する入口面41の一部がダイレータ本体8の外周に密着する。しかしながら、密着孔46の周囲に位置する入口面41には、図1〜図3に示すように、放射状に案内溝42が形成してあるために、ダイレータ本体8の挿入時および引き抜き時の抵抗が小さく操作性に優れている。しかもダイレータ本体8を抜いた後には、密着孔46が閉じるために、止血性にも優れている。
【0064】
また本実施形態では、弁本体45の入口面41には、密着孔46に向けて傾斜する凹状テーパ面41aが形成してあり、凹状テーパ面41aに、直線状の案内溝42が放射状に形成してある。このため、密着孔46に向けて傾斜する凹状テーパ面41aを弁本体45の入口面41に形成することで、ダイレータ本体8の先端部8aが弁本体45の入口面に形成してある案内溝42に沿って滑り易くなり、密着孔46までの案内がより容易になる。
【0065】
また本実施形態では、案内溝42の溝深さが、外周部で深く内周部で浅く形成してある。そのため、ダイレータ本体8の先端部8aが弁本体45の入口面41の外周部に最初に接触した場合に、その先端部8aを外周部から内周部に向けて案内し易くなる。
【0066】
また、弁本体45の密着孔46には、ガイドワイヤなどの小さい外径の長尺挿入物が挿入されたり、カテーテル管などの大きな外径の長尺挿入物が挿入されたりすることがあり、そのいずれの場合にも、止血性が要求されると共に、挿入時および引き抜き時の低抵抗性が要求される。案内溝42の溝深さを、外周部で深く内周部で浅く形成することで、長尺挿入物の外径によらず、止血性を低下させることなく、挿入物の挿入時および引き抜き時の抵抗の低減の効果が大きくなる。
【0067】
さらに本実施形態では、凹状テーパ面41aが形成してある入口面41に対応する出口面43では、凹状テーパ面面41aに対応する凸状テーパ面43aが形成してある。凹状テーパ面41aに対応する凸状テーパ面43aを形成することで、これらが形成してある弁本体45の肉厚が外周部と内周部とで略均一になり、挿入物の外周に接触する弁本体45の当たりムラがなくなり密着力が均一になる。
【0068】
さらに本実施形態では、凸状テーパ面43aの頂部に位置する密着孔46に対応する部分に出口側凹部52を設けてある。そのため、挿入物の外周に接触する弁本体45の動きがより柔軟になり、挿入物の挿入持または抜き出し持における挿入物に対する弁本体45の接触抵抗が低下する。
【0069】
また本実施形態では、凹状テーパ面41aの外周部に位置する弁本体45の入口面1には平坦面41bが形成してあり、凸状テーパ面43aの外周部に位置する弁本体45の出口面43には、平坦面41bとは反対方向に突出する脚部54が形成してある。脚部54を形成することで、弁本体45の密着孔46に挿入物を挿入する時または引き抜く時に、弁本体45の出口面43側に生じる圧縮力または引張力を分散することが可能になる。その結果、挿入物を挿入する時および引き抜く時の抵抗をさらに低減することができる。
【0070】
さらに本実施形態では、それぞれの案内溝42の溝幅が、内周部42aに比較して外周部42bで広く、且つ密着孔46の周囲に位置する内周部42aでは、外周部42bに比べて案内溝42が円周方向に近接している。そのため、ダイレータ本体8の先端部8aが弁本体45の入口面41の外周部に最初に接触した場合に、その先端部8aを外周部から内周部に向けて案内し易くなる。また、このように構成することで、ダイレータ本体8などの長尺挿入物の外径によらず、止血性を低下させることなく、挿入物の挿入時および引き抜き時の抵抗の低減の効果が大きくなる。
【0071】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、本発明では、弁体に形成する密着孔46の具体的構成は、挿入穴48とスリット50と出口側凹部52の組合せに限定されず、種々に改変することができる。
【0072】
また、上述した実施形態において、図2および図3に示すように、弁本体45の出口面43において脚部54との境界部には、弁本体45の厚み方向に深さを持ち周方向に連続する抵抗緩和溝60を形成してもよい。抵抗緩和溝60の溝幅は、特に限定されないが、本実施形態では、0.2〜1.0mmである。また、抵抗緩和溝60の溝深さは、特に限定されないが、本実施形態では、0.1〜0.5mmである。抵抗緩和溝60を設けることで、ダイレータ本体8が密着孔46を通過する際に、弁本体45の出口面43に生じる圧縮力が緩和され、ダイレータに接触する弁本体の一部が、より柔軟に動き、ダイレータへの接触抵抗がさらに低減できる。
【0073】
さらに上述した実施形態では、医療用弁体40を単一の材料で構成したが、これに限定されず、複数の材料層で構成しても良い。
【符号の説明】
【0074】
4… ダイレータ
6… イントロデューサ(医療用挿入補助具)
8… ダイレータ本体
10… キャップ部
14… シース
16… シースハブ部
40… 医療用弁体
41… 入口面
41a… 凹状テーパ面
41a1… 第1テーパ面
41a2… 第2テーパ面
41b… 平坦面
42… 案内溝
42a… 内周部
42b… 外周部
43… 出口面
43a… 凸状テーパ面
45… 弁本体
46… 密着孔
48… 挿入穴
50… スリット
52… 出口側凹部
54… 脚部
60… 抵抗緩和溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁本体の入口面から出口面に向けて貫通するように長尺挿入物を液密性を保持しつつ挿入および抜き出し可能な密着孔が形成された弾力性を有する弁本体で構成してあり、
前記長尺挿入物を挿入する側の弁本体の入口面には、前記密着孔を中心として、周方向に複数の案内溝が放射状に形成してあることを特徴とする医療用弁体。
【請求項2】
前記弁本体の入口面には、前記密着孔に向けて傾斜する凹状テーパ面が形成してあり、前記凹状テーパ面に、直線状の案内溝が放射状に形成してあることを特徴とする請求項1に記載の医療用弁体。
【請求項3】
前記案内溝の溝深さが、外周部で深く内周部で浅く形成してある請求項2に記載の医療用弁体。
【請求項4】
前記凹状テーパ面が形成してある入口面に対応する出口面では、前記凹状テーパ面面に対応する凸状テーパ面が形成してある請求項2または3に記載の医療用弁体。
【請求項5】
前記凹状テーパ面の外周部に位置する前記弁本体の入口面には平坦面が形成してあり、
前記凸状テーパ面の外周部に位置する前記弁本体の出口面には、前記平坦面とは反対方向に突出する脚部が形成してある請求項2〜4のいずれかに記載の医療用弁体。
【請求項6】
それぞれの前記案内溝の溝幅が、内周部に比較して外周部で広く、且つ前記密着孔の周囲に位置する前記内周部では、前記案内溝が周方向に近接している請求項1〜5のいずれかに記載の医療用弁体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の医療用弁体と、
前記医療用弁体を保持するシースとを有する医療用挿入補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−48763(P2013−48763A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188791(P2011−188791)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】