説明

医療用接着剤および止血剤

本発明は、(a)少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマー、(b)単環式オルトジヒドロキシ芳香族化合物、単環式パラジヒドロキシ芳香族化合物、二環式モノヒドロキシ芳香族化合物、多環式モノヒドロキシ芳香族化合物、二環式ジヒドロキシ芳香族化合物、多環式ジヒドロキシ芳香族化合物、二環式トリヒドロキシ芳香族化合物、多環式トリヒドロキシ芳香族化合物およびこれらの混合物で構成されるグループから選択された架橋分子、および(c)ポリフェノールオキシダーゼ、それも特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼの各個別成分を擁し、且つその場合に個別成分のb)とc)が接触していないというキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用接着剤および止血剤に関する。本発明は、特に、硬質組織と軟質組織を互いに接着させて傷口を塞ぐのに適した接着剤の製造キット、および接着剤自体のほか、さらには医療領域におけるそれの使用にも関する。キットまたはそれに属する接着剤は、個別成分としてポリフェノールオキシダーゼの基質およびポリフェノールオキシダーゼそれ自体を擁している。本発明はそのほか、新型止血剤および傷口を塞ぐための止血剤/接着剤の組み合わせ使用にも照準している。
【背景技術】
【0002】
特に問題症例に使用できる新しい組織用接着剤の開発は、近年著しく重要性を増してきた。従来から使用されているアクリレートベースの組織用接着剤は表面の傷口にしか使用できない。アクリレートは生物学的には分解し得ないことから、毒性危険に到る可能性が存するからである。したがって、着眼点は、とりわけ、使用材料の生物学的分解性である。この理由から、接着剤の製造では、例えば植物起源または動物起源のポリマーが重要な役割を果たしている。例えば、貝は、水中では様々な担体物質と非常に堅固な結合をすることができる。その要因はMAPs(貝の粘着性タンパク質)の生成/分泌にある。MAPsは、貝の種属によって、その種類を異にすることがあるが、多数のタンパク質で構成されている。貝から単離された極めて特殊なデカペプチドが重要成分として利用されている組織用接着剤が、US5015677Aで権利保護されている。このデカペプチドは、非常に特殊なアミノ酸の置換基として、ペプチド鎖の本質的構成成分と見なし得るジヒドロキシ芳香族化合物を含んでいる。この場合、ペプチド鎖は、チロシナーゼの影響下で相互に結合する。そのほか、骨とインプラント材との接着剤による固定に関しては、満足な解決策は知られていない。
【0003】
EP0947142には、タンパク質の分子量を増大させることについて、マルチ銅酵素を通じての架橋結合により実現できることが開示されている。その記述によれば、基質タンパク質の分子量の増大は17時間の潜伏後に発現した。EP0947142記載の方法を利用して架橋結合させたタンパク質は、特に食品での使用、例えばソーセージの粘稠度を変更させるのに適している。置換されたジヒドロキシ芳香族化合物によるタンパク質の交叉結合についてはEP0947142には開示されていない。
【0004】
多量出血の負傷に傷口接着剤を使用した場合、接着剤成分が血流と共に流し去られて願わしくない場所で接着が起きるという危険がある。それによって血栓生成の危険が大きく高まる。多量出血創傷の応急手当は、今日でもなお満足に解決されていない問題である。止血は、現状技術では下記の方法によって、すなわち、
a) 例えば金属塩によるタンパク質の変性処理、
b) 微孔性バイオポリマーまたは大きな内表面を持つバイオポリマーの使用。(これらは水を吸収するので、血液細胞および凝固因子の濃度が上昇する。ポリ−N−アセチル−グルコサミンまたはチトサンから成るポリサッカリドが非常に有利であると実証された。これらは、例えば昆虫の骨や藻類に含まれている。ゼラチン、コラーゲン、海綿状フィブリンなどのバイオポリマーまたは酸化セルロースは大きな内表面を有している。この大きな面に吸収されるので、凝固因子の濃度が上昇する。)
c) 酵素、特に、カルシウムの添加、無添加に関わりなく、トロンビンまたはトロンビン類似作用を持つタンパク質分解酵素、
d) 高濃度化した凝固因子、
e) c)とd)の組み合わせ、
f) カルシウムアルギネート、
g) 微孔構造を持つアルミノ珪酸塩合成製品
によって達成することができる。
【0005】
これ迄止血に用いられてきたアルミノ珪酸塩合成製品は、様々な組成を持つアルカリ珪酸アルミニウムおよびアルカリ土類珪酸アルミニウムである。
【0006】
合成後400℃超の温度で完全脱水処理したアルカリ土類珪酸アルミニウムをベースとする合成製品が、Z−Medica社(アメリカ)により、戦争負傷者の応急処置および救急手当て用として開発された。これによれば、強発熱反応により血液から水が取り除かれて止血に到る。当合成製品は顆粒状のまま直接傷口に適用される。これは、“Quikclot”の品名で販売されている。専門誌によれば、この製品の場合、発熱反応(60℃までの温度)によって隣接組織に損傷が現われるのが欠点であると記述されている(Journal of Trauma 54(2003)第6巻、1077〜1082ページ)。
【0007】
傷口手当て専用に合成リチウム珪酸アルミニウム(EP1176991A1、WO00/69480)が開発され、商品名CERDACで販売されている。CERDACの場合、傷口手当てに最大限の効果を達成するために、高温(>1000℃)の適用下で微孔セラミック製品として製造されている。
【0008】
毛管引力の作用では、一部高コストの製造は別にして、すべての要求をかなえるにはあまりにも微力である。
【0009】
さらに、大きな問題として、特に危険な状態にある患者の場合傷が慢性化する可能性がある。慢性化の問題は、これ迄のところ確かに回避できておらず、そのような傷の治療は依然として非常に困難である。慢性化に伴って傷口に病原菌が繁殖することもしばしば起きる。
【0010】
ドイツだけで400万人の患者が慢性開口創傷に罹っている。その年間治療コストは17〜32億ユーロである。これ迄、慢性創傷の手当てについて満足な解決策は得られなかった。
【0011】
総体的に見て、硬質組織および軟質組織の接着問題や、多量に出血する傷口の迅速な封鎖および手当て、特に慢性創傷の手当てに関しても、どの点を取ってもこれ迄満足な解決には到らなかったと言うことができる。
【0012】
上記より、ここでの課題は、現状技術に見られる問題を、硬質組織および軟質組織に対して高効率の接着特性を示す製品によって解決することにある。それは特に、多量に出血する創傷の止血および/または個々の骨部分の相互間または骨部分とインプラント材間の堅固な結合を可能にする、接着剤などの組成物を提供することである。インプラント軟骨の場合のように、軟質組織を骨と結合させることができる接着剤も望まれよう。見出された傷口封鎖の可能性は、好ましくは、慢性傷および感染傷に転用できるものでなければならない。
【0013】
少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマーは、(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼ使用下での架橋分子により、相互に、および/または肉体固有組織との間で共有結合を形成しながら架橋することから、硬質組織および軟質組織の接着剤として使用可能であるというのが本発明の認識するところである。
【0014】
そのほか、特殊加工した天然沸石には迅速な止血作用があるというのが本発明のまた別な認識である。
【0015】
上記認識から、本発明の第1実施形態では下記の個別成分、すなわち、
a)少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマー、
b)単環式オルトジヒドロキシ芳香族化合物、単環式パラジヒドロキシ芳香族化合物、二環式モノヒドロキシ芳香族化合物、多環式モノヒドロキシ芳香族化合物、二環式ジヒドロキシ芳香族化合物、多環式ジヒドロキシ芳香族化合物、二環式トリヒドロキシ芳香族化合物、多環式トリヒドロキシ芳香族化合物およびこれらの混合物で構成されるグループから選択された架橋分子、および
c)ポリフェノールオキシダーゼ、それも特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼ
を擁していて、且つその場合に両個別成分(成分b)とc))、すなわち、架橋分子とポリフェノールオキシダーゼ、特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼとが接触していないキットを設定目標に置いている。
【0016】
本発明におけるキットの意味は、特に、個別成分が接触しないように並べて保管し得るパックのことである。本例では、少なくとも架橋分子(コンポーネントb))は、早過ぎて望ましくない反応を避けるために、(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼ(コンポーネントc))から離しておかねばならない。その結果として混合可能なのは、成分a)とb)および/またはa)とc)である。
【0017】
架橋分子と(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼとの接触を避けるために、両個別成分は別々の容器またはキャビネットに保管することができ、またそれが好ましい。これは、個別成分b)およびc)の一方または両方がポリマーa)と混合されている場合にも当てはまる。両個別成分、すなわち、架橋分子と(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼを2つのカニューレを通じて別々に放出させることのできる注入器の使用が考えられる。その場合、両個別成分、すなわち、架橋分子と(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼは、注入器内では別々の収容部に入れておくのが好ましい。
【0018】
キットに少なくとも2つの注入器を持たせ、一方に架橋分子を、もう一方に(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼを入れることも、当然考えられる。
【0019】
実施形態の1つでは、2構成部の注入器を持つキットもあるが、その場合、接続式混合押出し機が既に装備されているのが好ましい。これによれば、非常に正確な配量および簡易な操作が可能になる。2構成部注入器としては、例えばMixpacタイプ(Mixpac Systems(株)、スイス/ロートクロイツ)が好ましい。
【0020】
本発明の枠内では、単一または複数の異種個別成分a)、b)およびc)は互いに独立した使用が可能なのは自明のことである。したがって、すべての成分について単数構成でも複数構成でも差異はない。
【0021】
キットが個別成分として、少なくとも1つの遊離アミノ基を含むa)ポリマーを有していることが必要条件である。本発明で言うアミノ基とは、ポリマーチェーンの構成部ではなくて、ポリマーチェーンの残基となるアミノ基の意味である。このポリマーは、それがキット内にある以上、人間の身体の構成部ではない。このポリマーとして好ましいのは、アミノ基を複数持つポリマー、すなわち、ペプチドなどアミノ基の豊富なポリマーである。
【0022】
当ペプチド(すなわち、オリゴペプチドおよびタンパク質)では、当然、アミノ酸の間にアミド結合が存在する。ペプチドはリジン含有のものが好ましい。本発明の好ましい実施形態の1つでは、リジン含有オリゴペプチドが使用されている。当ペプチドがコラーゲンであることも考えられる。
【0023】
ポリマーがペプチドであれば、成分の反応によって生じる化合物は、非常に有利なことに、生物学的に分解可能であることが明らかになっている。接着作用に関与するアミノ酸を含むペプチド連鎖の結合により、非常に堅固な接着が得られるが、しかしそれは、治療過程の経過と共に吸収させることができる。高い接着特性を伴う初期の硬化段階および後続治療過程における緩やかな経時的体内吸収が非常に有利である。それは、接着位置に身体固有の組織が蓄積するからである。
【0024】
本発明の枠内では、ペプチドとは、オリゴペプチド(2〜約100のアミノ酸の長さ、好ましくは、約4〜約20のアミノ酸の長さまたは約6〜約10のアミノ酸の長さ)だけでなくプロテイン(タンパク質、約100〜約5000のアミノ酸の長さ、好ましくは、100〜1000または100〜200のアミノ酸の長さ)も含めた概念のことである。ペプチドは、長さが10〜1000のアミノ酸に相当するものが好ましい。ペプチドは約1〜約100または約200kDaまでの分子量、特に約2〜約50kDa、または約5〜約20kDaの分子量を持つことができる。これは改質または置換、例えばグリコシル化することができる。オリゴペプチド内には、通常のタンパク性アミノ酸のほか、改質された、あるいはヒドロキシリジンなど非典型的なアミノ酸を含ませることもできる。Lアミノ酸の代わりに、またはそれに追加してDアミノ酸の使用が可能であり、それによりペプチドの分解が緩慢になる。
【0025】
アミノ基としては、好ましくは、一次アミノ基または二次アミノ基が可能であるとする。しかし、一次アミノ基は非常に反応性が高い。ペプチドの反応基の少なくとも1つは、好ましくは、ジアミノ酸、例えばリジンの構成成分とする。したがって、ペプチドは、好ましくは、少なくとも1つのジアミノ酸、より好ましくは、少なくとも2、3、4、5またはそれ以上のジアミノ酸を含んでいる。上記のように、リジン含有ペプチド(オリゴペプチドまたはタンパク質)が優先的に使用される。
【0026】
アルギニン、アスパラギン、グルタミンまたはヒスチジンなどのその他アミノ酸も、ジヒドロキシ芳香族化合物と反応可能な反応性アミノ基を有している。
【0027】
アミノ基、それも特にジアミン酸によって提供されるアミノ基は、ペプチドと架橋分子との間の架橋反応に特に適している。しかしまた、ペプチド内のヒドロキシ基またはメルカプト基も架橋反応に寄与することができる。それ故、ペプチドはヒドロキシ基を持つアミノ酸、特にセリン、トレオニンまたはチロシンを、あるいはメルカプト基を持つアミノ酸、例えばシステインを持つアミノ酸を少なくとも1つ有しているのが好ましい。MAPs内に存在するようなヒドロキシリジンまたはポリフェノール系のアミノ酸構成要素も、本発明に基づき使用されるペプチドに含ませることができる。しかし、本発明の長所は、この特殊なアミノ酸構成要素の存在、つまりMAPsの使用が必ずしも必要でないというところにある。したがって、好ましい実施形態の1つでは、ポリマーはポリフェノール系のアミノ酸構成要素、つまりMAPsを含んでいない。そのため、使用ペプチドは組換技術により難なく作製することができる。
【0028】
架橋分子とペプチドとの反応によって生じる架橋結合の如何は、提供される反応基のペプチド内に占める割合がどの程度なのかにも依存する。良好な接着特性は、反応性アミノ基を持つペプチドのアミノ酸(例えば、リジンなどのジアミノ酸)成分が少なくとも10%のレベルから達成可能になる。ポリマーがペプチドでなければ、アミノ基を持つポリマー構成要素の割合は、好ましくは、少なくとも約10%とする。しかし、このアミノ酸または構成要素の成分は、より高ければ、すなわち、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%であれば、あるいはそれにも増して、少なくとも80〜100%であればなおさら好ましい。自然界に存在するペプチドおよび例えば、アルブミンまたはカゼインなどのタンパク質を使用することができ、例えばMAPsが特に適している。
【0029】
しかし、もっと短くて、人工的に簡単に製造することができるペプチドを使用することもできる。本発明の特に好ましい実施形態の1つでは、ペプチドのアミノ酸の約50%はリジンである。リジンともう1つ別なアミノ酸が、例えば、繰返し模様のジペプチドユニットとして配置されている。しかし、別な順序または別なアミノ酸、特にアルギニン、アスパラギン、グルタミンまたはヒスチジン(リジンの代わり、またはそれに追加)、セリンまたはトレオニン(チロシンの代わり、またはそれに追加)、システインまたはその他アミノ酸の取り込みも可能である。約10〜20のアミノ酸の長さを持つペプチド、または様々な鎖長を持つペプチドの混合が好ましい。
【0030】
特に好ましい実施形態の1つでは、専ら2種類のアミノ酸から成るポリマー、例えば(リジン/チロシン)nが使用の対象である。但し、nは5、10または20など5〜40の値を取ることができる。
【0031】
本発明におけるもう1つの必要条件は、ずっと上段で定義付けしたとおり、キットが、少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマー(例、ジアミノ酸)の架橋結合を惹起する架橋分子を有していることである。
【0032】
架橋分子としては、原則的には、置換されたジヒドロキシ芳香族化合物および/またはラッカーゼなどの(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼの基質が適している。
【0033】
上記結果から、単環式オルトジヒドロキシ芳香族化合物、単環式パラジヒドロキシ芳香族化合物、二環式モノヒドロキシ芳香族化合物、多環式モノヒドロキシ芳香族化合物、二環式ジヒドロキシ芳香族化合物、多環式ジヒドロキシ芳香族化合物、二環式トリヒドロキシ芳香族化合物、多環式トリヒドロキシ芳香族化合物およびこれらの混合物が使用される。本発明に基づくヒドロキシ芳香族化合物は、公知の貝成分接着剤とは異なり、ポリマー鎖の構成成分ではない。
【0034】
これらの芳香族化合物をさらに置換することも考えられる。好ましい官能基は、ハロゲン、スルフォ、スルフォン、スルファミンド、スルファニル、アミノ、アミド、アゾ、イミノおよびヒドロキシで構成されるグループから選択された置換基である。その場合特に注目されるのは、置換された芳香族化合物、特に置換されたジヒドロキシ芳香族化合物が驚異的な極めて好ましい重合特性を示すことであり、特に、迅速な重合、低調な自己連結および良好な接着強度が達成される。その上、芳香族化合物の然るべき置換により、モノヒドロキシ芳香族化合物の場合でも、架橋分子として架橋結合に適するようにすることが可能である。置換された、とは、本発明の枠内では、特に、芳香族化合物においてヒドロキシ基のほかに1、2、3および4つの別な残基が結合していることを意味している。他方、モノヒドロキシル化されたビアリル化合物も適している。
【0035】
オルトまたはパラの位置にヒドロキシ基またはメトキシ基を有するフェノール誘導体が特に好ましい。したがって、式3および4で表わされる下記の化合物が好ましい。
【0036】
【化1】

なお、式中の符号は下記の意味である。
【0037】
n=0〜10の数字、好ましくは0または1、特に好ましくは0、
=OHまたはNHまたはハロゲン、好ましくはOH、ClまたはBr、特に好ましくはOH、
=H、CH、CHO、COCH、CONH、CON−アルキル、CON−アルキル−OH、COOH、COO−アルキル、アルキル、置換された芳香族化合物、特に好ましくはCON−アルキルまたはCOO−アルキルおよび
=H、CH、アルキル、置換された芳香族化合物、特に好ましくはHまたはCH
【0038】
アルキルは、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜6の炭素を持つ分枝または非分枝の脂肪族炭化水素鎖、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルを意味している。
【0039】
式3の化合物およびそれより誘導されたハイドロキノンが使用可能であり、後者はさらに置換することができる。できる限り迅速な接着反応という観点下では、自己連結性の弱い置換されたジヒドロキシ芳香族化合物が、本発明に従えば非常に適している。2,5−ジヒドロキシベンザミドの使用が好ましく、2,5−ジヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンザミドが特に好ましい。
【0040】
トリヒドロキシ芳香族化合物の場合、ベンゾール単位につき2超のヒドロキシ基が存在しないことが好ましい。特に好ましいのは次式5で表わされるポリフェニル、例えばビフェニルまたはトリフェニルである。
【0041】
【化2】

なお、式中の符号は下記の意味である。
【0042】
n=0〜10の数字、好ましくは0または1、
=HおよびR=OH、またはR=OHおよびR=H。
【0043】
その場合式5のフェニルは置換することができる。例えば、オルト位置で、CH、CHO、COCH、CONH、CON−アルキル、CON−アルキル−OH、COOH、COO−アルキル、アルキルを持つOH基へと置換された芳香族化合物、特にCON−アルキルまたはCOO−アルキル、および/またはメタ位置で、CH、アルキルを持つOH基へと置換された芳香族化合物、特にCHが挙げられる。
【0044】
さらに、キットはまた別な個別成分として、リグノリティックポリフェノールオキシダーゼのようなポリフェノールオキシダーゼ、特にラッカーゼ(EC 1.10.3.2)を有していることが必要である。ラッカーゼは現状技術では公知である。それは、植物、糸状菌、細菌または昆虫から取り出すことができるし、あるいは天然酵素から誘導することもできる。本発明の枠内で使用されるラッカーゼは、組換技術によって製造または精製することができる。その場合ラッカーゼには一般に特別な純度は要求されない。必要な場合には、リグノリティック糸状菌の上澄液を使用することもできる。しかし医療目的には、リポポリサッカリドなどの微生物系物質またはその他細胞壁構成部からの実質的分離がしばしば望まれる。ラッカーゼの例としては、アスペルギルス、ニューロスポラ、ポドスポラ、ボトリチス、コリビア、フォームス、レンチヌス、プロイロトゥス、ピクノポルス、ピリクラリア、トラメテス、リゾクトニア、コプリヌス、プサチレラ、ミセリオフトーラ、シュタリジウム、ポリポルス、フレビアまたはコリオルスの各種属からのものがある。ラッカーゼの製造は、例えばEP0947142に開示されている。
【0045】
キットにリグノリティックポリフェノールオキシダーゼのようなポリフェノールオキシダーゼ、好ましくはラッカーゼ(EC 1.10.3.2)を投入することにより、その幅広く特殊な基質スペクトルを接着反応に対して十二分に利用することができる。このように、当キットは、特に、接着反応が、架橋分子として機能する、自然界に見出された特殊ペプチドに限定されることなく、1つには架橋分子の、また1つにはオリゴペプチドのようなペプチドまたはタンパク質の幅広いスペクトルをも利用できることで優れている。
【0046】
量比のバリエーションは個別成分a)、特にペプチドの場合でも架橋分子の場合でも約1〜50mMの間で可能である。それぞれの適用ごとに最適量比を予備試験で求めなければならない。
【0047】
その場合、選択された架橋分子によっては、架橋生成物の形成を低下させる架橋分子の自己反応も起きることに注意しなければならない。架橋分子の濃度が低過ぎると反応が緩慢になり、濃度が高過ぎると自己連結により強い副作用が現われる。ペプチドの成分が少なければ、被接着基質における反応性のアミノ基、メルカプト基および/またはヒドロキシル基が架橋結合により強く関わってくる。ポリフェノールオキシダーゼの量は反応速度に影響を与える。その適用の如何に応じて、ゲル点への迅速な到達、完全な硬化または組み合わせの長時間加工性が実現可能である。したがって、予備試験を通しての量比の最適化により、キットをその時々の具体的な課題設定に適合させることができる。
【0048】
キットの構成成分が、それぞれの使用に適合した、最適化された量比にあることは、キットの持つ特別な長所である。軟質組織の接着に好ましい量比は、例えば[チロシン/リジン]n、n=4〜35、8.5mM、2,5−ジヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンザミド12.5mM、ポリフェノールオキシダーゼ:0.32U(156nmol ml−1、min−1)である。この量比はキットでプレセットすることができ、添加剤の煩わしい個別配量が省けることになる。
【0049】
キットで使用する組み合わせには、さらに添加剤および補助剤を、例えばコラーゲン、アルブミン、ヒアルロン酸などの填料を含ませることができる。ペプチドなどの個別成分a)と架橋分子との総成分が約50〜90%であるのが好ましい。
【0050】
キットの主要構成成分は、好ましくは、1種類または数種類の水性溶剤で溶解させる。溶剤は医療用として毒性のない、生体に相容するものとする。生体へ適用される溶剤としては、燐酸カルシウム系、燐酸ナトリウム系またはPBSなどの燐酸塩緩衝剤が好ましい。しかし、別な適用目的には、DMSOなどの有機溶剤または水性溶剤と有機溶剤との混合物も使用可能である。他の選択肢として、組み合わせまたはその構成成分を溶剤への添加直前に決定して、キットに導入することもできる。
【0051】
しかし、キット内で使用する成分の粘稠度は流動性に富む必要はなく、パスタ状であっても差し支えない。使用する個別成分の粘度および流動性は、例えば、固定処置対象の傷の長さ、傷口の深さまたは接着対象の基質に依存して適合させることができる。これらのパラメータには、使用するペプチド/ポリマーの長さのほか、溶剤の量も影響する。粘度および流動性の適合化にはチキソトロピー誘起剤などの添加剤も使用することができる。硬質組織の接着には、典型例では、軟質組織の接着に対するより高い粘度の組み合わせを使用する。
【0052】
PH値は、好ましくは2〜10、特に好ましくは5〜7とする。反応は約2〜80℃で進めることができるが、しかし約20〜37℃または25〜30℃の温度が好ましい。このように、キットによる接着反応は室温/体温で行うことができる。
【0053】
貯蔵に関しては、冷凍フィブリン接着剤に対するような特別な要求事項は存在しない。ラッカーゼなどの(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼは溶解した状態で使用することができる。その貯蔵は冷蔵庫の温度で十分である。ラッカーゼなどの(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼは、粉末状で供給して、適用前に見計らって溶解する方法も可能である。
【0054】
キットおよびその個別成分の滅菌は、有利なことに、構造変更なく達成することができる。例えば、溶液の滅菌濾過が可能である。しかし、これはガンマ線による滅菌のほうが好ましい。それによればパック状態のまま作業できるので、滅菌のための詰替えが必要ないからである。50%にまでなることがある、ガンマ線照射滅菌によるラッカーゼなどの(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼの活性損失は、初期濃度を然るべきレベルに引き上げることによって簡単に補うことができる。
【0055】
上記定義付けしたキットは、好ましくは、医薬品として使用する。製薬調剤か医薬製品かの分類は、国内法に依存しており、いずれも可能である。これらの概念は、本発明の説明目的に応じて入れ替えることができる。
【0056】
もう1つの観点から、本発明は上記個別成分を持つ接着剤も対象にしている。
【0057】
上記より、接着剤は下記の個別成分、すなわち、
a)少なくとも1つの遊離アミノ基を持つ、人間の身体の構成部分に該当しないポリマー、
b)単環式オルトジヒドロキシ芳香族化合物、単環式パラジヒドロキシ芳香族化合物、二環式モノヒドロキシ芳香族化合物、多環式モノヒドロキシ芳香族化合物、二環式ジヒドロキシ芳香族化合物、多環式ジヒドロキシ芳香族化合物、二環式トリヒドロキシ芳香族化合物、多環式トリヒドロキシ芳香族化合物およびこれらの混合物で構成されるグループから選択された架橋分子、および
c)ポリフェノールオキシダーゼ、それも特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼ
を擁していて、その場合に両個別成分(成分b)とc))、すなわち、架橋分子とポリフェノールオキシダーゼ、特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼとが接触した状態にある、つまり混合している。
【0058】
個別成分に関しては、キットの説明が参考になる。
【0059】
上記より、本発明の枠内では、単一または複数の異種個別成分a)、b)およびc)は互いに独立した使用が可能なのは自明のことである。したがって、すべての成分について単数構成でも複数構成でも差異はない。
【0060】
接着剤が個別成分として、少なくとも1つの遊離アミノ基を含むa)ポリマーを有していることが必要条件である。本発明で言うアミノ基とは、ポリマーチェーンの構成部ではなくて、ポリマーチェーンの残基となるアミノ基の意味である。接着剤のポリマーは、人間の身体を構成する部分に該当しないポリマーである。このポリマーとして好ましいのは、アミノ基を複数持つポリマー、すなわち、ペプチドなどアミノ基の豊富なポリマーである。
【0061】
当ペプチド(すなわち、オリゴペプチドおよびタンパク質)では、当然、アミノ酸の間にアミド結合が存在する。ペプチドはリジン含有のものが好ましい。本発明の好ましい実施形態の1つでは、リジン含有オリゴペプチドが使用されている。当ペプチドがコラーゲンであることも考えられる。
【0062】
ポリマーがペプチドであれば、成分の反応によって生じる化合物は、非常に有利なことに、生物学的に分解可能であることが明らかになっている。接着作用に関与するアミノ酸を含むペプチド連鎖の結合により、非常に堅固な接着が得られるが、しかしそれは、治療過程の経過と共に吸収させることができる。高い接着特性を伴う初期の硬化段階および後続治療過程における緩やかな経時的体内吸収が非常に有利である。それは、接着位置に身体固有の組織が蓄積するからである。
【0063】
本発明の枠内では、ペプチドとは、オリゴペプチド(2〜約100のアミノ酸の長さ、好ましくは、約4〜約20のアミノ酸の長さまたは約6〜約10のアミノ酸の長さ)だけでなくプロテイン(タンパク質、約100〜約5000のアミノ酸の長さ、好ましくは、100〜1000または100〜200のアミノ酸の長さ)も含めた概念のことである。ペプチドは、長さが10〜1000のアミノ酸に相当するものが好ましい。ペプチドは約1〜約100または約200kDaまでの分子量、特に約2〜約50kDa、または約5〜約20kDaの分子量を持つことができる。これは改質または置換、例えばグリコシル化することができる。オリゴペプチド内には、通常のタンパク性アミノ酸のほか、改質された、あるいはヒドロキシリジンなど非典型的なアミノ酸を含ませることもできる。Lアミノ酸の代わりに、またはそれに追加してDアミノ酸の使用が可能であり、それによりペプチドの分解が緩慢になる。
【0064】
アミノ基としては、好ましくは、一次アミノ基または二次アミノ基が可能であるとする。しかし、一次アミノ基は非常に反応性が高い。ペプチドの反応基の少なくとも1つは、好ましくは、ジアミノ酸、例えばリジンの構成成分とする。したがって、ペプチドは、好ましくは、少なくとも1つのジアミノ酸、より好ましくは、少なくとも2、3、4、5またはそれ以上のジアミノ酸を含んでいる。上記のように、リジン含有ペプチド(オリゴペプチドまたはタンパク質)が優先的に使用される。
【0065】
アルギニン、アスパラギン、グルタミンまたはヒスチジンなどのその他アミノ酸も、ジヒドロキシ芳香族化合物と反応可能な反応性アミノ基を有している。
【0066】
アミノ基、それも特にジアミン酸によって提供されるアミノ基は、ペプチドと架橋分子との間の架橋反応に特に適している。しかしまた、ペプチド内のヒドロキシ基またはメルカプト基も架橋反応に寄与することができる。それ故、ペプチドはヒドロキシ基を持つアミノ酸、特にセリン、トレオニンまたはチロシンを、あるいはメルカプト基を持つアミノ酸、例えばシステインを持つアミノ酸を少なくとも1つ有しているのが好ましい。MAPs内に存在するようなヒドロキシリジンまたはポリフェノール系のアミノ酸構成要素も、本発明に基づき使用されるペプチドに含ませることができる。しかし、本発明の長所は、この特殊なアミノ酸構成要素の存在、つまりMAPsの使用が必ずしも必要でないというところにある。したがって、好ましい実施形態の1つでは、ポリマーはポリフェノール系のアミノ酸構成要素、つまりMAPsを含んでいない。そのため、使用ペプチドは組換技術により難なく作製することができる。
【0067】
架橋分子とペプチドとの反応によって生じる架橋結合の如何は、提供される反応基のペプチド内に占める割合がどの程度なのかにも依存する。良好な接着特性は、反応性アミノ基を持つペプチドのアミノ酸(例えば、リジンなどのジアミノ酸)成分が少なくとも10%のレベルから達成可能になる。ポリマーがペプチドでなければ、アミノ基を持つポリマー構成要素の割合は、好ましくは、少なくとも約10%とする。しかし、このアミノ酸または構成要素の成分は、より高ければ、すなわち、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%であれば、あるいはそれにも増して、少なくとも80〜100%であればなおさら好ましい。自然界に存在するペプチドおよび例えば、アルブミンまたはカゼインなどのタンパク質を使用することができ、例えばMAPsが特に適している。
【0068】
しかし、もっと短くて、人工的に簡単に製造することができるペプチドを使用することもできる。本発明の特に好ましい実施形態の1つでは、ペプチドのアミノ酸の約50%はリジンである。リジンともう1つ別なアミノ酸が、例えば、繰返し模様のジペプチドユニットとして配置されている。しかし、別な順序または別なアミノ酸、特にアルギニン、アスパラギン、グルタミンまたはヒスチジン(リジンの代わり、またはそれに追加)、セリンまたはトレオニン(チロシンの代わり、またはそれに追加)、システインまたはその他アミノ酸の取り込みも可能である。約10〜20のアミノ酸の長さを持つペプチド、または様々な鎖長を持つペプチドの混合が好ましい。
【0069】
特に好ましい実施形態の1つでは、専ら2種類のアミノ酸から成るポリマー、例えば(リジン/チロシン)nが使用の対象である。但し、nは5、10または20など5〜40の値を取ることができる。
【0070】
本発明におけるもう1つの必要条件は、ずっと上段で定義付けしたとおり、接着剤が、少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマー(例、ジアミノ酸)の架橋結合を惹起する架橋分子を有していることである。
【0071】
架橋分子としては、原則的には、置換されたジヒドロキシ芳香族化合物および/またはラッカーゼなどの(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼの基質が適している。
【0072】
上記結果から、単環式オルトジヒドロキシ芳香族化合物、単環式パラジヒドロキシ芳香族化合物、二環式モノヒドロキシ芳香族化合物、多環式モノヒドロキシ芳香族化合物、二環式ジヒドロキシ芳香族化合物、多環式ジヒドロキシ芳香族化合物、二環式トリヒドロキシ芳香族化合物、多環式トリヒドロキシ芳香族化合物およびこれらの混合物が使用される。本発明に基づくヒドロキシ芳香族化合物は、公知の貝成分接着剤とは異なり、ポリマー鎖の構成成分ではない。
【0073】
これらの芳香族化合物をさらに置換することも考えられる。好ましい官能基は、ハロゲン、スルフォ、スルフォン、スルファミンド、スルファニル、アミノ、アミド、アゾ、イミノおよびヒドロキシで構成されるグループから選択された置換基である。その場合特に注目されるのは、置換された芳香族化合物、特に置換されたジヒドロキシ芳香族化合物が驚異的な極めて好ましい重合特性を示すことであり、特に、迅速な重合、低調な自己連結および良好な接着強度が達成される。その上、芳香族化合物の然るべき置換により、モノヒドロキシ芳香族化合物の場合でも、架橋分子として架橋結合に適するようにすることが可能である。置換された、とは、本発明の枠内では、特に、芳香族化合物においてヒドロキシ基のほかに1、2、3および4つの別な残基が結合していることを意味している。他方、モノヒドロキシル化されたビアリル化合物も適している。
【0074】
オルトまたはパラの位置にヒドロキシ基またはメトキシ基を有するフェノール誘導体が特に好ましい。したがって、式3および4で表わされる下記の化合物が好ましい。
【0075】
【化3】

なお、式中の符号は下記の意味である。
【0076】
n=0〜10の数字、好ましくは0または1、特に好ましくは0、
=OHまたはNHまたはハロゲン、好ましくはOH、ClまたはBr、特に好ましくはOH、
=H、CH、CHO、COCH、CONH、CON−アルキル、CON−アルキル−OH、COOH、COO−アルキル、アルキル、置換された芳香族化合物、特に好ましくはCON−アルキルまたはCOO−アルキルおよび
=H、CH、アルキル、置換された芳香族化合物、特に好ましくはHまたはCH
【0077】
アルキルは、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜6の炭素を持つ分枝または非分枝の脂肪族炭化水素鎖、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルを意味している。
【0078】
式3の化合物およびそれより誘導されたハイドロキノンが使用可能であり、後者はさらに置換することができる。できる限り迅速な接着反応という観点下では、自己連結性の弱い置換されたジヒドロキシ芳香族化合物が、本発明に従えば非常に適している。2,5−ジヒドロキシベンザミドの使用が好ましく、2,5−ジヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンザミドが特に好ましい。
【0079】
トリヒドロキシ芳香族化合物の場合、ベンゾール単位につき2超のヒドロキシ基が存在しないことが好ましい。特に好ましいのは次式5で表わされるポリフェニル、例えばビフェニルまたはトリフェニルである。
【0080】
【化4】

なお、式中の符号は下記の意味である。
【0081】
n=0〜10の数字、好ましくは0または1、
=HおよびR=OH、またはR=OHおよびR=H。
【0082】
その場合式5のフェニルは置換することができる。例えば、オルト位置で、CH、CHO、COCH、CONH、CON−アルキル、CON−アルキル−OH、COOH、COO−アルキル、アルキルを持つOH基へと置換された芳香族化合物、特にCON−アルキルまたはCOO−アルキル、および/またはメタ位置で、CH、アルキルを持つOH基へと置換された芳香族化合物、特にCHが挙げられる。
【0083】
さらに、接着剤はまた別な個別成分として、リグノリティックポリフェノールオキシダーゼのようなポリフェノールオキシダーゼ、特にラッカーゼ(EC1.10.3.2)を有していることが必要である。ラッカーゼは現状技術では公知である。それは、植物、糸状菌、細菌または昆虫から取り出すことができるし、あるいは天然酵素から誘導することもできる。本発明の枠内で使用されるラッカーゼは、組換技術によって製造または精製することができる。その場合ラッカーゼには一般に特別な純度は要求されない。必要な場合には、リグノリティック糸状菌の上澄液を使用することもできる。しかし医療目的には、リポポリサッカリドなどの微生物系物質またはその他細胞壁構成部からの実質的分離がしばしば望まれる。ラッカーゼの例としては、アスペルギルス、ニューロスポラ、ポドスポラ、ボトリチス、コリビア、フォームス、レンチヌス、プロイロトゥス、ピクノポルス、ピリクラリア、トラメテス、リゾクトニア、コプリヌス、プサチレラ、ミセリオフトーラ、シュタリジウム、ポリポルス、フレビアまたはコリオルスの各種属からのものがある。ラッカーゼの製造は、例えばEP0947142に開示されている。
【0084】
接着剤にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼのようなポリフェノールオキシダーゼ、好ましくはラッカーゼ(EC1.10.3.2)を投入することにより、その幅広く特殊な基質スペクトルを接着反応に対して十二分に利用することができる。このように、当キットは、特に、接着反応が、架橋分子として機能する、自然界に見出された特殊ペプチドに限定されることなく、1つには架橋分子の、また1つにはオリゴペプチドのようなペプチドまたはタンパク質の幅広いスペクトルをも利用できることで優れている。
【0085】
量比のバリエーションは個別成分a)、特にペプチドの場合でも架橋分子の場合でも約1〜50mMの間で可能である。それぞれの適用ごとに最適量比を予備試験で求めなければならない。
【0086】
その場合、選択された架橋分子によっては、架橋生成物の形成を低下させる架橋分子の自己反応も起きることに注意しなければならない。架橋分子の濃度が低過ぎると反応が緩慢になり、濃度が高過ぎると自己連結により強い副作用が現われる。ペプチドの成分が少なければ、被接着基質における反応性のアミノ基、メルカプト基および/またはヒドロキシル基が架橋結合により強く関わってくる。ポリフェノールオキシダーゼの量は反応速度に影響を与える。その適用の如何に応じて、ゲル点への迅速な到達、完全な硬化または組み合わせの長時間加工性が実現可能である。したがって、予備試験を通しての量比の最適化により、接着剤をその時々の具体的な課題設定に適合させることができる。
【0087】
接着剤の構成成分が、それぞれの使用に適合した、最適化された量比にあることは、接着剤の持つ特別な長所である。軟質組織の接着に好ましい量比は、例えば[チロシン/リジン]n、n=4〜35、8.5mM、2,5−ジヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンザミド12.5mM、ポリフェノールオキシダーゼ:0.32U(156nmol ml−1、min−1)である。この量比はキットでプレセットすることができ、添加剤の煩わしい個別配量が省けることになる。
【0088】
接着剤で使用する組み合わせには、さらに添加剤および補助剤を、例えばコラーゲン、アルブミン、ヒアルロン酸などの填料を含ませることができる。ペプチドなどの個別成分a)と架橋分子との総成分が約50〜90%であるのが好ましい。
【0089】
接着剤の主要構成成分は、好ましくは、1種類または数種類の水性溶剤で溶解させる。溶剤は医療用として毒性のない、生体に相容するものとする。生体へ適用される溶剤としては、燐酸カルシウム系、燐酸ナトリウム系またはPBSなどの燐酸塩緩衝剤が好ましい。しかし、別な適用目的には、DMSOなどの有機溶剤または水性溶剤と有機溶剤との混合物も使用可能である。他の選択肢として、組み合わせまたはその構成成分を溶剤への添加直前に決定することもできる。
【0090】
しかし、使用する接着剤個別成分の粘稠度は流動性に富む必要はなく、パスタ状であっても差し支えない。使用する個別成分および/または接着剤の粘度および流動性は、例えば、固定処置対象の傷の長さ、傷口の深さまたは接着対象の基質に依存して適合させることができる。これらのパラメータには、使用するペプチド/ポリマーの長さのほか、溶剤の量も影響する。粘度および流動性の適合化にはチキソトロピー誘起剤などの添加剤も使用することができる。硬質組織の接着には、典型例では、軟質組織の接着に対するより高い粘度の組み合わせを使用する。
【0091】
PH値は、好ましくは2〜10、特に好ましくは5〜7とする。反応は約2〜80℃で進めることができるが、しかし約20〜37℃または25〜30℃の温度が好ましい。このように、キットによる接着反応は室温/体温で行うことができる。
【0092】
貯蔵に関しては、冷凍フィブリン接着剤に対するような特別な要求事項は存在しない。ラッカーゼなどの(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼは溶解した状態で使用することができる。その貯蔵は冷蔵庫の温度で十分である。ラッカーゼなどの(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼは、粉末状で供給して、適用前に見計らって溶解する方法も可能である。
【0093】
キットおよびその個別成分の滅菌は、有利なことに、構造変更なく達成することができる。例えば、溶液の滅菌濾過が可能である。しかし、これはガンマ線による滅菌のほうが好ましい。それによればパック状態のまま作業できるので、滅菌のための詰替えが必要ないからである。50%にまでなることがある、ガンマ線照射滅菌によるラッカーゼなどの(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼの活性損失は、初期濃度を然るべきレベルに引き上げることによって簡単に補うことができる。
【0094】
上記定義付けしたキットは、好ましくは、医薬品として使用する。製薬調剤か医薬製品かの分類は、国内法に依存しており、いずれも可能である。これらの概念は、本発明の説明目的に応じて入れ替えることができる。
【0095】
以下では、本発明に基づくキットおよび接着剤の使用についてより詳しく説明する。
【0096】
架橋分子によれば、ラッカーゼなどの(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼの使用のもと、少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマーとの共有結合の形成下で架橋結合を達成し得るというのが本発明の認識するところである。それ故、本発明では1つは、傷口封鎖のため、上記定義付けによるキットまたは接着剤の使用に照準している。下段で説明するように、傷などの接着には、キットまたは接着剤は個別成分b)とc)だけを有しているだけで十分である。それより、本発明は下記の個別成分、すなわち、
a)単環式オルトジヒドロキシ芳香族化合物、単環式パラジヒドロキシ芳香族化合物、二環式モノヒドロキシ芳香族化合物、多環式モノヒドロキシ芳香族化合物、二環式ジヒドロキシ芳香族化合物、多環式ジヒドロキシ芳香族化合物、二環式トリヒドロキシ芳香族化合物、多環式トリヒドロキシ芳香族化合物およびこれらの混合物で構成されるグループから選択された架橋分子、および
b) ポリフェノールオキシダーゼ、それも特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼ
を擁していて、且つその場合に両個別成分(成分a)とb))、すなわち、架橋分子とポリフェノールオキシダーゼ、特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼとが接触していないキットの使用に照準している。傷口、特に硬質組織および軟質組織の接着のための接着剤の製造に関しては、ずっと後段で仔細に説明する。
【0097】
したがって、以下では、キットまたは接着剤は、2つの個別成分「架橋分子」と「ポリフェノールオキシダーゼ」を擁する、あるいは3つの個別成分「少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマー」、「架橋分子」および「ポリフェノールオキシダーゼ」を擁するキットまたは接着剤を意味するが、但し、キットまたは接着剤は今挙げた3つの個別成分を持つものが好ましい。
【0098】
個別成分および好ましいその実施形態に関しては、上で定義付けされたキットまたは接着剤が参考になる。
【0099】
キットおよび/または接着剤は硬質組織または軟質組織の接着に使用することができる。例えば、結合組織、皮膚、腱、器官、血管および/または神経(軟質組織)および/または骨(硬質組織)の接着が可能である。自明のとおり、異なった組織間、例えば腱と骨との接着も可能である。特に好ましい適用例は、創傷縁の接着あるいは肝臓、腎臓または脾臓など様々な器官の裂傷の接着において見られる。また、例えば腫瘍摘出後のケアなど外科処置された創傷の手当ても本発明に基づくキットおよび/または接着剤によって可能である。その他の使用領域としては、
− 特に、傷口の縫合時に誘起される瘢痕形成の防止のための形成外科、再生外科および/または美容外科での処置、
− 例えば、血管外科処置、動脈バイパス手術での出血穿刺部の密封、あるいは胸部外科処置での肺空隙部の密封など、液体/空気漏洩部の封鎖および密封
がある。
【0100】
キットおよび/または接着剤の上記以外で有利な適用例として、吻合部での一定期間に亘る吸収性のあるフレキシブルな密着および血管または空洞器官への当接がある。
【0101】
キットおよび/または接着剤は薬剤供給装置、多孔構造担体あるいは再生医学(組織工学)において潜在需要のある対応膜の固定にも適している。この場合、非生物起源の表面が遊離アミノ基を保持できる限り、それとも接着できることが非常な利点である。遊離アミノ基は、現状技術から公知の方法、例えばプラズマ法により、非生物起源のそのような表面上に保持させることができる(Schroder他、Improved low−pressure microwave plasma assisted amino functionalization of polymers,Plasma processes and polymers、ドイツ、ヴァインハイム、Wiley−VCH編(ヴァインハイム)、2005年刊;Schroder他の寄稿、Plasma−Induced Surface Functionalization of Polymeric Biomaterials in Ammonia Plasma,Contrib.Plasma Phys.第41巻、2001年刊、562〜572ページ;Meyer−Plath他、Current trends in biomaterial surface functionalization−nitrogen−containing plasma assisted processes with enhanced selectivity、“Vacuum”第71巻、2003年刊、391〜406ページ)。
【0102】
キットおよび/または接着剤により周辺組織と結合させねばならない、例えばインプラント材または薬剤供給装置の表面は、少なくとも約2%の遊離アミノ基を有していなければならない。なお、表面の概念は平坦な面だけでなく、あらゆる形態を持つ固形基質の境界層をも含んでいる。したがって、基質は、例えば小球(ビーズ)であったり、または複雑な形態をした表面を持つ場合もあり得る。
【0103】
堅固に架橋した吸収性のある結合をもたらす上記キットおよび/または接着剤の使用のもと、水性環境で適用できる接着方法も同様に本発明の対象である。その場合、上記定義付けのとおり、特に、ラッカーゼなど(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼによって誘起され、遊離アミノ酸を担うポリマーと架橋分子を通じて推進される架橋により堅固な結合が行われる。
【0104】
本発明は、特に、上記のとおり定義付けされたキットおよび/または接着剤による軟質組織および硬質組織の接着のための方法に関する。軟質組織および硬質組織の接着では、なかでも、骨と骨の接着ということがあり得る。その場合、特に、その大きさからボルトでは全く、あるいは満足には固定できない骨片を、本発明に基づくキットおよび/または接着剤で固定させる。本発明に基づくキットおよび/または接着剤による接着の場合では、金属製インプラント材に比較して、骨折治癒後に第2の手術を行う必要がない。しかも、本発明に基づくキットおよび/または接着剤によれば、軟質組織に対しても固定させることができる。例えば、関節症の治療のための、特に移植軟骨(例えば組織培養からの移植体)は、本発明に基づくキットおよび/または接着剤によれば、関節面に生え付くまで十分に固定させることができる。この関係では、キットおよび/または接着剤が漸次吸収される点が非常に有利である。その上、本発明に基づくキットおよび/または接着剤によれば、骨をインプラント材に固定させることもできる。特に骨粗鬆症の骨の場合、ボルトの保持力は大幅に低下する。本発明に基づくキットおよび/または接着剤の使用下で、骨の外面とインプラント材(例えばプレート)とを広い面積で接着させることにより、ボルトの保持力を補助すること、あるいはそれにも増してボルトを完全に省くことが可能である。細胞活性度試験から、架橋製品に良好な生体適合性のあることが明らかになった。
【0105】
したがって、本発明は、特に、2つの個別成分「架橋分子」と「ポリフェノールオキシダーゼ」または、特に好ましくは、個別成分「少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマー」、「架橋分子」および「ポリフェノールオキシダーゼ」を持つ本発明に基づくキットの使用、すなわち、上記定義付けどおり、創傷封鎖のための本発明に基づく接着剤の製造目的での使用をも含んでいる。創傷とは、例えば切傷および骨折における身体の表面と内面間の連続性の遮断を言う。上記結果より、本発明は、既述のとおり、特に、軟質組織および硬質組織の接着に、さらには骨とインプラント材(例えばプレート)との接着に用いる接着剤の製造のために、本発明に基づくキットを使用することも包含する。
【0106】
本発明に基づく組み合わせでの架橋により、特に、ラッカーゼなど(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼのような酵素系の補助のもとで、接着作用に関与するアミノ酸を含むペプチド配列を結合させれば、様々な使用領域で非常に堅固な接着が得られ、しかもそれは治癒過程の経過と共に吸収させることができる。高い接着特性を伴う初期硬化過程および後続治癒過程における体内での経時的で緩やかな吸収が大きな利点である。
【0107】
当接着剤またはキットは、骨折の際に、人工血管、生物学的分解性インプラント材、カテーテル、ステントおよびその他材料の固定に利用することができる。
【0108】
したがって、本発明は、2つの個別成分「架橋分子」と「ポリフェノールオキシダーゼ」または、特に好ましくは、3つの個別成分「少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマー」、「架橋分子」および「ポリフェノールオキシダーゼ」を持つ本発明に基づくキットの使用、すなわち、上記定義付けどおり、骨折箇所の接着および/または人口血管、生物学的分解性インプラント材、カテーテル、ステントおよびその他材料の固定のための接着剤の製造目的での使用をも含んでいる。
【0109】
骨の接着および特に骨の領域でのインプラント材の迅速な融合には、骨細胞のインプラント材受容能が基本的に重要である。これは、もちろん、使用接着剤に対しても当てはまる。骨芽細胞の発生および続いての成熟を伴う迅速な定着化を通して骨の新生が促進され、治癒過程が短縮される。それ故、インプラント材は微小構造化表面に仕上げられている。本発明に基づくキットおよび接着剤はこの構造を維持させ、骨の新生を補助する。骨の治癒に不可欠なコラーゲンの生産には、アミノ酸リジンとプロリンが必要である。
【0110】
したがって、この使用領域にはポリマーとして、好ましくは、(リジン/チロシン)nが使用される。ポリマーとして(リジン/チロシン)nを使用した場合、リジンは接着位置に高濃度で存在する。その結果として、骨の形成に好影響が現われる。形成された細胞外マトリックスは、RDG配列(Arg−Gly−Asp)を手掛かりに、例えばα1β1またはα3β1などのインテグリンを通じて認識される。それにより、細胞内での細胞骨格の変化を惹起し、繁殖段階と分化段階の間でその切換を行う信号カスケードが始動する。形成されたタンパク質マトリックスは、その上、カルシウム塩の沈積にも用いられる。
【0111】
このことから、複雑骨折への適用および骨細片の接合が可能になる。複雑骨折の手術でこそ、本発明に基づく止血および高接着力の組み合わせによる利点が大きな威力になる。
【0112】
本発明は、さらに別な観点で、単独でも本発明に基づくキットの補助としても使用することができる止血に適した新型の沸石顆粒にも照準している。
【0113】
新型の沸石顆粒によって、特に傷縁部の迅速な接着が達成される。
【0114】
新型の沸石顆粒は、少なくとも70重量%の沸石を含む、特に、斜プチロライト、斜方沸石およびモルデン沸石を成分とし、平均孔径0.3〜0.5nmの微孔空隙を持つ沸石顆粒である。好ましくは、これは、水化物不含の沸石顆粒とするが、その状態は、好ましくは、乾燥および予備粉砕後温度200℃未満の穏やかな脱水によって達成される。200℃未満の穏やかな条件下の脱水では、特に温度インターバルは様々に設定される。沸石顆粒は、粒径0.8〜0.2mmの範囲に属する部類からのものを使用するのが特に好ましい。
【0115】
当沸石顆粒の純度については、米国薬局方またはヨーロッパ薬局方の要求が満たされねばならない。
【0116】
この沸石顆粒の微孔空隙では、血液凝固に関与する特定のファクタが選択的に増大することが明らかになった。それにより、生理的血液凝固が活性化され、従来の止血剤を明かに上回る止血効果がもたらされる。その場合、傷口に毒性物質を全く放出しないことが非常な利点である。本発明に基づく既述の精製によれば、沸石顆粒は強静電電界により、それ自体重症出血を1分内で止めることができる結晶格子状に維持される。本発明に基づく沸石顆粒は、驚いたことに、微孔化合成珪酸リチウムベース(EP1176991A1、WO00/69480、US6833486B1)の市販製品、例えばCERDACに比べて5〜10倍の毛管引力作用を有していることが明らかになった。部分的脱水であるため、燃焼により組織損傷を惹き起こしかねない発熱反応は現れない。
【0117】
本発明に基づく既述の精製によって初めて、天然沸石がコスト的に有利な方法で止血剤および傷口処理剤として提供可能になった。したがって、本発明は、薬剤または医薬としての本発明に基づく沸石顆粒、および止血用の薬剤および/または医薬の製造のための、本発明に基づく沸石顆粒の使用をも包含する。キットの場合と同様、国内法に依存して、薬品製剤として、または薬剤としての分類が可能である。これらの概念は、本発明の明細書の目的に応じて取り換え可能である。
【0118】
既に上で述べたとおり、本発明に基づく沸石顆粒により止血だけでなく、傷縁部の迅速な接着が達成されることが明らかになった。傷縁部の接着後、鉱物分は、例えば痂皮類似の傷被覆膜を剥がし、残留分を吸引することによって完全に除去することができる。本発明の当実施形態では、沸石を、例えばセルロースベースまたはテキスタイルベースまたはコラーゲン不織布ベースの包囲材に適用することが可能である。それにより、続いての完全除去が特別な問題なく達成可能である。
【0119】
フィブリン系の活性化により、傷縁部が互いに接着される。したがって、本発明は、傷口の接着、吻合部の密着および血管または空洞器官への当接のための、本発明に基づく接着剤の製造のための、本発明に基づく沸石顆粒の使用をも包含する。
【0120】
しかし、封鎖傷口の耐引裂性は従来のフィブリン接着剤の場合より劣っている。
【0121】
耐引裂性を高めるためには、上記のキットまたは接着剤の中に本発明に基づく沸石顆粒を組込むのが目的に適っている。この組み合わせにより、傷口処理、傷口封鎖および止血において特に高い作用を持つ止血性創傷接着剤を提供することができる。
【0122】
この点から、本発明はまた別な実施形態において、下記の個別成分、すなわち、
a) 少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマー、
b) 単環式オルトジヒドロキシ芳香族化合物、単環式パラジヒドロキシ芳香族化合物、二環式モノヒドロキシ芳香族化合物、多環式モノヒドロキシ芳香族化合物、二環式ジヒドロキシ芳香族化合物、多環式ジヒドロキシ芳香族化合物、二環式トリヒドロキシ芳香族化合物、多環式トリヒドロキシ芳香族化合物およびこれらの混合物で構成されるグループから選択された架橋分子、
c) ポリフェノールオキシダーゼ、それも特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼ、および
d) 止血性鉱物、特に上記の沸石顆粒
を擁していて、且つその場合に両個別成分b)、c)とd)とが、すなわち、架橋分子およびポリフェノールオキシダーゼ、特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼが個別成分d)とは互いに接触していないキットに照準されている。
【0123】
これら個別成分およびその好ましい実施形態については、前記の実施形態が参考になる。それによれば、キットは、ポリペプチドまたはオリゴペプチドの架橋結合を可能にする、特に、天然沸石の微小顆粒およびポリフェノールオキシダーゼ(特にラッカーゼ)をベースにしている。
【0124】
その場合、天然沸石の微小顆粒はキットの他の個別成分とは接触しないのが好ましい。すなわち、沸石は別途パックして別途使用するのが好ましい。天然沸石の微小顆粒は高い毛管引力を示すので、凝固因子を濃化させて傷口の迅速封鎖に有効に作用する。その後沸石は問題なく元どおりに取り除くことができる。手術領域に血液の流出がなく、手術部分の見通しが確保される。さらに、(望む場合は)例えば非架橋ポリマーの添加前になお修正の可能性があって、それが有利に作用する。
【0125】
当初応急的に封鎖されたこの創傷にキットの個別成分a)〜c)を投入すれば、共有結合の形成下で、一方では持続的耐久性のある、また一方では吸収性のある傷口封鎖が達成される。
【0126】
出血を強力に抑制し、それにより(リグノリティック)ポリフェノールオキシダーゼ、特にラッカーゼの投入位置での逆流出を阻止し得る止血剤としては、本発明に基づく沸石顆粒意外のものも当然考えられる。天然沸石の微小顆粒による止血後に、別な薬剤として組織接着剤を使用することも可能である。しかし、記述の処置方法(最初に止血、天然沸石の微小顆粒による傷口封鎖、続いてラッカーゼなどポリフェノールオキシダーゼの作用下での持続性接着)は多くの利点を有しており、コストの観点からも競合の方法より優位にある。傷口処理、傷口封鎖および硬質組織、軟質組織、インプラント材の接着のための本発明に基づく止血キットは、その上、取り扱いが遥かに簡単である。止血性接着剤は
下記の領域、すなわち、
− 特に、傷口の縫合時に誘起される瘢痕形成の防止のための形成外科、再生外科および/または美容外科での処置、
− 例えば、血管外科処置、動脈バイパス手術での出血穿刺部の密封、あるいは胸部外科処置での肺空隙部の密封など、液体/空気漏洩部の封鎖および密封
で有利に使用することができる。
【0127】
本発明に基づくキットは、電気凝固に対する代替手段であるだけでなく、針と糸による傷口封鎖に対する代替手段でもある。
【0128】
その結果として、本発明は、個別成分b)〜d)またはそれ以上の成分、好ましくはa)〜d)を含む、傷口封鎖用接着剤の製造のための、本発明に基づくキットの使用をも包含する。本発明は、そのほか特に、個別成分b)〜d)またはそれ以上の成分、好ましくはa)〜d)を含む、軟質組織、硬質組織の接着用および骨とインプラント(例えばプレート)の接着用の接着剤の製造のための、本発明に基づく上記キットの使用をも包含する。
【0129】
本発明は、さらに上記に加えて、個別成分b)〜d)またはそれ以上の成分、好ましくはa)〜d)を含む、但しその場合少なくとも成分b)〜c)またはa)〜c)、好ましくはすべての個別成分b)〜d)またはa)〜d)が互いに接触している接着剤にも照準している。
【0130】
天然沸石の微小顆粒が持つ高い毛管引力は、これを傷の手当て、特に治り難い傷および既に慢性化した傷の手当てに使用する上で非常に重要である。滲出を伴う創傷には、すなわち、炎症傷口に血液構成成分が漏出している場合には、天然沸石の微小顆粒を使用するのが的を得ている。滲出が負傷部位の感染徴候になることがしばしばある。本発明に従って得られる、沸石顆粒の微孔構造が、「湿潤」創傷の場合に過剰に放出される傷口滲出物を吸収することができる。過剰滲出物の吸収が、同時に傷の上方位置にある湿った雰囲気を作り出す。それが傷の回復には重要である。
【0131】
本発明に基づくまた別な使用形態として次のものがある。
【0132】
− 事故後の応急処置のための手段、
− 感染性創傷の衛生処理
全く驚いたことに、孔径0.3〜0.5mmの沸石は、ずっと下段で定義付けしている水棲生物からのバイオマスと、特に1:10〜10:1の比率で混合しても、止血作用または毛管引力を失わないことが分かった。
【0133】
それに基づき、新型沸石顆粒の用途は、この素材をバイオマスで補充することにより拡大することができる。その結果、本発明は、沸石とバイオマスの比率が特に1:10〜10:1になるようにバイオマスを追加成分として含む、本発明に基づく沸石顆粒も包含する。本発明によれば、好ましくは、抗菌活性を有する微小藻類が選択される。そのバイオマスは親液化および粉砕され、および/またはLukowski他の技術的教示“Pharmaceutically or cosmetically active agents obtained from liqid−containing marine organisms”US 10/507,061に従って精製される。
【0134】
沸石微小顆粒と、抗菌作用物質を含むこのような精製バイオマスとの混合によって、傷口からの過剰滲出物の吸収を保証し、傷を湿潤保持し、創傷部の病原菌繁殖を防止し、炎症抑制および免疫増進の作用を示し、細胞増殖を促進する組み合わせの提供が可能になっている。US10/507,061に基づく精製の場合、微小藻類としては、好ましくは、脂質成分>20%、多くの不飽和脂肪酸および/または高成分比率のポリ−N−アセチル−グルコサミンを含むものを選択する。そうすることで、脂肪酸の抗菌活性を上記設定課題に対して有効に利用することができる。ポリサッカリドに関しては、ポリ−N−アセチル−グルコサミン系またはチトサン系のものが、有利なことに、大きな内表面を有している。この大きな面への吸収により、凝固因子の濃化の場合でも、傷からの分泌物および細菌毒素の吸収の場合と全く同様に相乗効果が得られる。このポリサッカリドは、それに加えて、免疫増進作用も有している。本発明の好ましい実施形態の1つでは、緑藻類、クラミドモナスおよび/または微小藻類スピルリナおよび/またはアナベナの凍結乾燥バイオマスが使用される。沸石を、バイオマスの添加または無添加のもとで出血性創傷に適用すれば、フィブリン系の活性化により、傷を細菌感染から確実に護る痂皮様の堅固な被複層が生成される。この被覆層は傷の治癒過程で剥がされる。
【0135】
天然沸石の微小顆粒と微小藻類バイオマスとで然るべき適用形態にすれば、強感染性の湿潤創傷の治療にも使用することができる。
【0136】
本発明に基づく沸石顆粒/バイオマスの組み合わせは、キットおよび/または接着剤に含ませることができる。それは、様々な使用領域向けに既に詳細記述済みであるすべての実施形態について当てはまる。
【0137】
本発明の特徴は、請求項のほか明細書からも明らかである。個々の特徴はそれぞれ単独で、あるいは幾つか組み合わされて、保護の対象になり得る有利な形態を呈しており、それらについて本書で保護を申請している。その発明的行為はそれぞれ有用である。
【0138】
本発明を、実施例に基づき説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0139】
天然沸石からの微小顆粒の製造
好ましくは斜プチロライト、斜方沸石およびモルデン沸石から成る≧70%の沸石成分を含む、選択的に採掘された鉱物を、乾燥および予備粉砕後分別して粒径0.8〜0.2mmのものを得る。純度については、米国薬局方またはヨーロッパ薬局方の要求が満たされねばならない。<200℃を条件に選択した温度インターバルでの穏やかな熱処理により、結晶構造の維持下で部分脱水を行う。
【実施例2】
【0140】
微孔体積および粒径分布の試験
実施例1に従って製造された生成物は、25〜50%の微孔空間(総体積を基準として)および平均0.3〜0.5nmのナノレベル孔径を有している。
【0141】
ナノレベルの孔径および微小顆粒構造が、最大限の血液吸収および微小顆粒吸収体への迅速浸透を可能にする。
【0142】
毛管引力は比較試験した市販製剤CERDACの5〜10倍の高さである。
【実施例3】
【0143】
微小顆粒の止血適性試験
方法
実施例1に従って製造した2種類の微小顆粒を試験した。
【0144】
試験は、血液強灌流器官の典型であるラットの肝臓に対して行った。この目的のためラットに麻酔をかけた。開腹後外科用メスにより長さ約1cmの切傷を入れた。出血をフィルム撮影した。止血までの時間を測定した。
【0145】
結果
本発明に基づく顆粒を適用した場合、1分内で止血に到る(対照試料の場合加療なしでは8分までもかかる)。痂皮様の表皮が形成され、それが傷を保護している。
【実施例4】
【0146】
微小顆粒の止血適性に関する試験管内での試験
異なった血漿に対する試験より以下の結果を得た。

【0147】
【表1】

【0148】
【表2】

【0149】
【表3】

結果が証明しているように、内因性の凝固システムが活性化していて、欠陥因子F−VIIおよび組織因子がトロンビンおよびフィブリンの生成増大化を誘発している。実施例1に基づく傷口での鉱物堆積によりフィブリン濃度が相対的に上昇する。
【実施例5】
【0150】
微小藻類からの抽出物の抗菌作用試験
方法
様々なブドウ球菌菌株をホイットレイ自動スパイラルプレーターにより、寒天プレート(Becton Dickinson社のミュラー・ヒントンII寒天既製プレート)上に直線モードで均一に分布させた。
【0151】
傷口堆積層の形成に使用するアセテート織物に、2mgエキスに相当する量のエキス溶液を滴下して乾燥させる。
【0152】
エキスの調製には、緑藻類、クラミドモナス、微小藻類スピルリナ(Blue Biotech社/ビズム)およびアナベナ(エルンスト・モリツ・アムト大学/グライスヴァルトの薬学研究所の菌株収集室)の凍結乾燥バイオマスを使用した。N−ヘキサンによる抽出には抽出機DIONEX ASE 200を利用した。抽出溶液を回転蒸発器にかけて溶剤を取り除いた。
【0153】
結果
対照試料では病原菌の数は70〜120/cmに上った。傷口に塗布した堆積層の下方では、創傷感染の病原体としての恐れのあるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌菌株(MRSA)は検出されなかった。その他のブドウ球菌に関しては、病原菌の数が当初の10〜20%に減少した。
【実施例6】
【0154】
天然沸石および微小藻類バイオマスからの微小顆粒の製造
実施例1に従って製造した微小鉱物顆粒に、脂質成分>20%の微小藻類バイオマスを1:10〜10:1の比率で混合することができる。それによって、傷口での病原菌の繁殖が阻止される。
【実施例7】
【0155】
微小顆粒の止血および傷口封鎖についての適性試験
a)方法
実施例1に従って製造した2種類の微小顆粒を試験した。
【0156】
試験は、血液強灌流器官の典型であるラットの肝臓に対して行った。この目的のためラットに麻酔をかけた。開腹後外科用メスにより長さ約1cmの切傷を入れた。出血をフィルム撮影した。止血までの時間を測定した。傷口の封鎖状態を肉眼で判定した。
【0157】
結果
本発明に基づく顆粒を適用した場合、1分内で止血に到る(対照試料の場合8分までもかかる)。痂皮様の表皮が形成され、それが傷を保護している。
【0158】
b)別な試験では、1分後表皮を外科用メスで取り除いた。
【0159】
結果
傷口はもはや出血がなく、表面が閉じていて、視覚的には傷口の封鎖状態は良好である。傷口封鎖状態は、鉱物/藻類バイオマスベースの微小顆粒によるほうが、鉱物単独ベースで調製された製剤を使用する場合より良好である。
【0160】
c)別な試験では、セルロース布の介在により微小顆粒を傷口から離した。
【0161】
結果
この条件下でも止血は1分内で達成される。手術領域の見通しが非常に良くなるので、本発明に基づく組織接着剤による傷の堅固な接着が問題なく行える。
【実施例8】
【0162】
接着剤プレポリマーの製造および軟質組織、硬質組織の接着のための接着反応の実施
開発した接着剤は、個別成分、オリゴペプチド1(n=5またはn=10で反覆するチロシンおよびリジンのジペプチドユニットから成るアミノ酸配列)、架橋分子(2,5−ジヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンザミド)および酵素ラッカーゼ(式5)の混合物をベースにしている。試験は燐酸塩緩衝剤中で行った。
式5:
【0163】
【化5】

接着作用は、オリゴペプチドと結合している架橋分子とのラッカーゼの酵素反応によって進行する。
【0164】
混合比として次の値を適用した。
【0165】
[チロシン/リジン]n、n=4〜35、8.5mM、2,5−ジヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンザミド12.5mM、酵素:0.32U(156nmol ml−1、min−1)。溶剤のメタノール成分は10%(体積比)とした。
【実施例9】
【0166】
接着接合部の強度試験
引張試験による接着接合部の強度検査では、検査対象の組織部分を予め固定させねばならなかった。ブタの軟質組織を、ポリメチルメタクリレート(PMMA)製の試料ホルダにアクリル酸シアン系接着剤により固定させた。あるいは、牛の骨から成るプレート状骨材を固定機械に引張固定した。続いて、検査対象の接着剤混合物(実施例6参照)を組織上に塗布した。軟質組織の接着では、10分後に接着接合部の強度を試験機Zwick BZ2.5/TNIS(検査速度:10mm/分)により引張負荷のもとで測定した。硬質組織接着後の接着接合部の機械的検査は、引張剪断負荷のもと検査速度5mm/分で行った。
【0167】
結果:比較試験した市販のフィブリン接着剤に比べて2倍の強度が達成される。
【実施例10】
【0168】
本発明に基づきドープされたコラーゲン不織布と従来型抗菌剤のドープされた不織布との拡散抑制比較テスト
方法
Burkhardt式寒天培地拡散試験(Burkhardt,F.(編)“Mikrobiologische Diagnostik”(微生物診断術)、Georg−Thieme社刊/シュトゥットガルト、ニューヨーク、1992年、724ページ)を実施した。15のテスト実施のため、スタッカーペトリシャーレ(ベクトン・ディッキンソン マイクロバイオロジーシステム/アメリカCockeysville)にミュラー・ヒントンII寒天を使用した。テスト菌株として黄色ブドウ球菌菌株ATCC6538を選択した。このテスト菌株の播種は、1620時間後には種培養が密に広がるように、その反面、合流単独集団が形成されることがないように行った。接種された培養基の乾燥後には、ドープされたコラーゲン不織布を寒天表面にあてがった。360℃での18+2時間の培養後、抑制領域を測定した。
【0169】
【表4】

本発明に基づく不織布は次の長所を有している。
【0170】
・多種耐性病原菌に対しても見られる改良された抗菌作用
・非常に良好な止血作用
・簡便な適用性に加え傷口への良好な接着性
【実施例11】
【0171】
本発明に基づきポリフェノールがドープされた表面の抗菌作用試験
方法
様々なブドウ球菌菌株をホイットレイ自動スパイラルプレーターにより、寒天プレート(Becton Dickinson社のミュラー・ヒントンII寒天既製プレート)上に直線モードで均一に分布させた。
【0172】
ポリマー・バイオマテリアル(それぞれ1cm)は、“Plasma Phys.”第41巻の寄稿(2001年、562〜572ページ)に従い、アンモニア/プラズマ条件で機能化させる。その後ラッカーゼの影響下で2,5−ジヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンザミド(12,5mM)により置換を行った(0.32U(156nmol ml−1、min−1))。溶剤のメタノール成分は10%(体積比)とした。
【0173】
乾燥後プレートを寒天の上に置いた。
【0174】
結果
対照試料では病原菌の数は120/cmである。塗布表面の下方では、病原菌は検出されない。
【実施例12】
【0175】
出血性創傷の手当てにおける本発明に基づく組み合わせの適用
方法
実施例7と同様ラットに麻酔をかけ、開腹して肝臓に切傷を入れる。実施例7cと同様に止血する。形成された痂皮を除去する。続いて、切傷を創傷接着剤で接着する。
【0176】
そのため、実施例6で記述したオリゴペプチドをPBS(燐酸塩緩衝塩、2.7M NaCl、54mM KCl、87mM NaHPO、30mM KHPO、pH7.4)に入れ、ラッカーゼを添加する(成分1)。2,5−ジヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンザミドをPBS中に溶かす(成分2)。オリゴペプチド/2,5−ジヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンザミド/ラッカーゼを様々な比率(例えば、1/1/0.1、1/2/0.5、1/10/1)でテストする。成分溶液をできる限り濃縮されたものにするため、溶剤量は最小限に選定する。成分はMixpac(ミックスパック・システム/スイス、ロートクロイツ)タイプの混合押出し機付き2成分型噴射器に投入し、創傷裂け目に適用する。
【0177】
結果:止血剤によって既に良好な傷口封鎖が行われる。接着剤は狭くなった裂け目に直接投入することができる。創傷縁が非常に堅固に接着する。
【実施例13】
【0178】
コラーゲンの接着
方法
コラーゲン箔(DOT(有))を平坦な基材上に固着させた。
【0179】
コラーゲン箔を8つのセグメント(4つずつ2列)に区分し、その箔の上に接着剤を直接置き(表面張力の利用下で)混ぜ合わせた。接着剤は燐酸塩/クエン酸塩緩衝液に溶かして使用した。
【0180】
架橋分子(ラッカーゼ基質)は様々な濃度でテストした。接着剤タンパク質は約4000D(ダルトン)の分子量を有していた。
【0181】
続いて、小さなコラーゲン箔片を載せ、軽く押し付けてから乾燥させた。
【0182】
結果
コラーゲンの接着の際堅固な結合が達成された。
【0183】
接着は接着剤タンパク質の添加無しでも行われる。しかし、接着剤タンパク質によって結合力が強化される。
【実施例14】
【0184】
コラーゲン溶液と接着剤との混合
コラーゲン溶液と接着剤との混合後には、顕微鏡観察によれば顕著な構造化が認められる。溶解後任意の位置取りにあるコラーゲン分子は、繊維の形成下で平行に並んでいる。
【実施例15】
【0185】
コラーゲンとポリスチレンの接着
方法
1滴(20μl)のクエン酸塩/燐酸塩緩衝液(対照試料)と接着剤溶液(緩衝剤、ラッカーゼ、ラッカーゼ基質)を60mmのTCPS細胞培養シャーレの表面に付着させ、それぞれ1小片のコラーゲン箔(8×4mm)を載せ、軽く押し付けた後に乾燥させる。
【0186】
結果
完全に平滑で不活性の表面であるにも拘わらず接着が達成された。
【0187】
コラーゲンは基材と持続的に結合した。
【実施例16】
【0188】
コラーゲンの被覆された表面における細胞接着
方法
細胞の接着は線維芽細胞の細胞線(FL細胞)で検査した。
【0189】
細胞の接着は、実施例15に従いコラーゲンの被覆された60mmのTCPS細胞培養シャーレに対して行った。クリスタルバイオレットによる細胞の着色後に細胞探査機により評価を行った。
【0190】
結果
FL細胞はより強く結合している(図1参照)。
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】図1は細胞接着を示す表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の個別成分、すなわち、
a)少なくとも1つの遊離アミノ基を持つポリマー、
b)単環式オルトジヒドロキシ芳香族化合物、単環式パラジヒドロキシ芳香族化合物、二環式モノヒドロキシ芳香族化合物、多環式モノヒドロキシ芳香族化合物、二環式ジヒドロキシ芳香族化合物、多環式ジヒドロキシ芳香族化合物、二環式トリヒドロキシ芳香族化合物、多環式トリヒドロキシ芳香族化合物およびこれらの混合物で構成されるグループから選択された架橋分子、および
c)ポリフェノールオキシダーゼ、それも特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼ
を擁していて、且つその場合に個別成分b)とc)とが接触していないキット。
【請求項2】
前記遊離アミノ基がジアミノ酸によって得られる、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記ポリマーが前記ジヒドロキシ芳香族化合物および/または前記リグノリティックポリフェノールオキシダーゼと接触している、請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
該キットが、前記ジヒドロキシ芳香族化合物および前記リグノリティックポリフェノールオキシダーゼを別々に放出させることができる2つのカニューレを持つ噴射器である、請求項1〜3のうちの一項に記載のキット。
【請求項5】
下記の個別成分、すなわち、
a)少なくとも1つの遊離アミノ基を持つ、但し人体の構成要素でないポリマー、
b)単環式オルトジヒドロキシ芳香族化合物、単環式パラジヒドロキシ芳香族化合物、二環式モノヒドロキシ芳香族化合物、多環式モノヒドロキシ芳香族化合物、二環式ジヒドロキシ芳香族化合物、多環式ジヒドロキシ芳香族化合物、二環式トリヒドロキシ芳香族化合物、多環式トリヒドロキシ芳香族化合物およびこれらの混合物で構成されるグループから選択された架橋分子、および
c)ポリフェノールオキシダーゼ、それも特にリグノリティックポリフェノールオキシダーゼ
を擁していて、且つその場合に個別成分b)とc)とが接触している接着剤。
【請求項6】
前記個別成分a)〜c)が接触している、請求項5に記載の接着剤。
【請求項7】
粉砕、分別および200℃未満の温度における脱水の過程を経て得られる、少なくとも70重量%の沸石成分を含む、平均孔径0.3〜0.5nmの沸石顆粒。
【請求項8】
前記沸石顆粒の平均粒径が0.2〜0.8mmである、請求項7に記載の沸石顆粒。
【請求項9】
前記沸石顆粒が水棲生物からのバイオマスを含んでいる、請求項7〜8のうちの一項に記載の沸石顆粒。
【請求項10】
前記バイオマスの脂質成分が>20%である、請求項7〜9のうちの一項に記載の沸石顆粒。
【請求項11】
前記水棲生物が抗菌活性を有している、および/またはポリ−N−アセチル−グルコサミンを含んでいる、請求項7〜10のうちの一項に記載の沸石顆粒。
【請求項12】
緑藻類、クラミドモナスおよび/または微小藻類スピルリナおよび/またはアナベナの凍結乾燥バイオマスが使用される、請求項7〜11のうちの一項に記載の沸石顆粒。
【請求項13】
前記バイオマスと前記沸石顆粒が1:10〜10:1の比率で混合されている、請求項7〜12のうちの一項に記載の沸石顆粒。
【請求項14】
前記沸石顆粒および選択的に前記バイオマスが、好ましくは、セルロースベースまたはテキスタイルベースまたはコラーゲン不織布ベースの包囲材に適用される、請求項7〜13のうちの一項に記載の沸石顆粒。
【請求項15】
前記キットまたは前記接着剤が、また別な個別成分としてd)請求項7〜14のうちの一項に記載の沸石顆粒を含んでいる、請求項1〜6のうちの一項に記載のキットまたは接着剤。
【請求項16】
前記沸石顆粒が前記その他の個別成分a)〜c)と接触していない、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記沸石顆粒が前記その他の個別成分と接触している、請求項15に記載の接着剤。
【請求項18】
前記芳香族化合物が置換されている、請求項1〜6および15〜17の一項に記載のキットまたは接着剤。
【請求項19】
前記ジヒドロキシ芳香族化合物が2,5−ジヒドロキシベンザミドである、請求項1〜6および15〜18の一項に記載のキットまたは接着剤。
【請求項20】
前記ジヒドロキシ芳香族化合物が2,5−ジヒドロキシ−N−(2−ヒドロキシエチル)−ベンザミドである、請求項1〜6および15〜19の一項に記載のキットまたは接着剤。
【請求項21】
前記リグノリティックポリフェノールオキシダーゼがラッカーゼである、請求項1〜6および15〜20の一項に記載のキットまたは接着剤。
【請求項22】
前記ポリマーがオリゴペプチド、ペプチドおよびタンパク質で構成されるグループから選択されたものである、請求項1〜6および15〜21の一項に記載のキットまたは接着剤。
【請求項23】
前記ポリマーがリジンを含有している、請求項1〜6および15〜22の一項に記載のキットまたは接着剤。
【請求項24】
前記ポリマーがリジンを含有するオリゴペプチドまたはコラーゲンである、請求項1〜6および15〜23の一項に記載のキットまたは接着剤。
【請求項25】
前記請求項の一項に記載の医薬品としてのキット、接着剤または沸石顆粒。
【請求項26】
請求項5、6、15、17〜24のうちの一項に記載された接着剤の使用下で、堅固に架橋する、吸収性のある結合が行われることを特徴とする、水性環境中で適用できる接着方法。
【請求項27】
下記の個別成分、すなわち、
a)少なくとも1つの遊離アミノ基を持つ、任意選択成分としてのポリマー、
b)単環式オルトジヒドロキシ芳香族化合物、単環式パラジヒドロキシ芳香族化合物、二環式モノヒドロキシ芳香族化合物、多環式モノヒドロキシ芳香族化合物、二環式ジヒドロキシ芳香族化合物、多環式ジヒドロキシ芳香族化合物、二環式トリヒドロキシ芳香族化合物、多環式トリヒドロキシ芳香族化合物およびこれらの混合物で構成されるグループから選択された架橋分子、および
c)ポリフェノールオキシダーゼ
を擁していて、且つその場合に個別成分b)とc)とが接触していないキットの、傷口封鎖用接着剤の製造のための使用。
【請求項28】
前記キットが、当該使用において、請求項2〜4、15、16および18〜24のうちの一項に従って補足的に定義付けされている、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
請求項7〜14のうちの一項に記載の沸石顆粒を含むキットの、傷口封鎖用接着剤の製造のための使用。
【請求項30】
請求項27〜29のうちの一項に記載の、コラーゲン架橋結合のための使用。
【請求項31】
請求項27〜30のうちの一項に記載の、無血手術領域形成のための使用。
【請求項32】
請求項27〜30のうちの一項に記載の、吻合部の密封および血管または空洞器官への当接のための使用。
【請求項33】
当該使用において、前記密封部がその何らかの空間により吸収性を持つ、請求項27〜32のうちの一項に記載の使用。
【請求項34】
当該使用において、前記密封部がフレキシブルである、請求項27〜33のうちの一項に記載の使用。
【請求項35】
請求項27〜34のうちの一項に記載の、慢性創傷の治療のための使用。
【請求項36】
請求項27〜35のうちの一項に記載の、感染傷の衛生処理のための使用。
【請求項37】
請求項27〜36に記載の、器官、組織または骨、およびインプラント材付き骨の接着のための使用。
【請求項38】
請求項7〜14のいずれか一項に記載の沸石顆粒の、創傷封鎖用止血剤の製造のための使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−525795(P2009−525795A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553686(P2008−553686)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001131
【国際公開番号】WO2007/090673
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(507015952)ストライカー トラウマ ゲーエムベーハー (13)
【Fターム(参考)】