説明

医療用核種含有溶液製造方法および医療用核種含有溶液製造装置

【課題】 大規模な設備を用いることなく医療用放射性核種を製造することができる医療用核種製造方法を提供する。
【解決手段】 医療用核種を含む生理食塩水71を製造する医療用核種含有溶液製造方法であって、核種変換を施す物質を接触させた凝集系構造物に対して重水素を流すことによって核種変換物質を施す物質に核反応を生じさせた核種変換後の物質を備えた凝集系構造物を一方の電極である試料極76として生理食塩水に浸漬し、電極74,76間に所定電圧を印可することによって核種変換後の物質を生理食塩水内に抽出し、抽出後の生理食塩水を医療用核種含有溶液とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を含有する薬剤を被検者に投与して診断を行う診断方法(PET等)に用いられて好適な医療用核種含有溶液製造方法および医療用核種含有溶液製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガン細胞等の病巣を発見するための医療診断方法として、PET(Positron Emission Tomography;陽電子放出断層撮影)検査が知られている(下記特許文献1参照)。
PET検査は、被検者に放射性薬剤を投与し、被検者から放出される放射線を検出して病巣の大きさや形状を測定するものである。このPET検査に用いる薬剤には、放射性核種を含有させることが必要とされる。この放射性核種は、大型の加速器を用いて得ているのが現状である。
【0003】
【特許文献1】特開2006−87540号公報(段落[0002])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、大型の加速器を収容する大型施設を保有することができる病院は少数であるため、多数の病院に設置することは困難である。
また、医療用に用いられる放射性核種の半減期は比較的短い。例えば、その半減期は、11Cで20.39分、13Nで9.965分、15Oで2.037分、18Fで109.8分といった程度である。したがって、放射性核種を製造した後に即座に被検者に投与する必要があるが、放射性核種を製造することができる施設を備えた病院は上述の通り多くは存在しないので、極めて不便である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、大規模な設備を用いることなく医療用放射性核種を製造することができる医療用核種製造方法および医療用核種製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の医療用核種含有溶液製造方法および医療用核種含有溶液製造装置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる医療用核種含有溶液製造方法は、医療用核種を含む医療用核種含有溶液を製造する医療用核種含有溶液製造方法であって、核種変換を施す物質を接触させた凝集系構造物に対して重水素を流すことによって該核種変換物質を施す物質に核反応を生じさせた核種変換後の物質を備えた凝集系構造物を一方の電極として電解液に浸漬し、電極間に所定電圧を印可することによって前記核種変換後の物質を前記電解液内に抽出し、抽出後の前記電解液を医療用核種含有溶液とすることを特徴とする。
【0007】
凝集系核反応によって生じた核種変換後の物質を一方の電極として用い、電解液中で電解抽出することによって、核種変換後の物質を含有する電解液を医療用核種含有溶液とする。このように、簡便な装置によって医療用核種含有溶液を製造することができるので、装置の大型化を招くことがない。
なお、凝集系構造物としては、パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこれらの合金が挙げられる。
【0008】
さらに、本発明の医療用核種含有溶液製造方法では、前記電解液は、生理食塩水とされていることを特徴とする。
【0009】
電解液を生理食塩水とすることにより、電解抽出後の溶液をそのままPET等の薬剤の原料として用いることができる。これにより、被検者に対して迅速に投与することができるので、半減期が短い核種であっても診断に用いることができる。
【0010】
また、本発明の医療用核種含有溶液製造装置は、医療用核種を含む医療用核種含有溶液を製造する医療用核種含有溶液製造装置であって、電解液を収容する容器と、前記電解液内に浸漬される一対の電極と、これら電極間に所定電圧を印可する電源とを備え、核種変換を施す物質を接触させた凝集系構造物に対して重水素を流すことによって該核種変換物質を施す物質に核反応を生じさせた核種変換後の物質を備えた凝集系構造物を一方の前記電極とし、前記電極間に所定電圧を印可することによって前記核種変換後の物質を前記電解液内に抽出し、抽出後の前記電解液を医療用核種含有溶液とすることを特徴とする。
【0011】
凝集系核反応によって生じた核種変換後の物質を一方の電極として用い、電解液中で電解抽出することによって、核種変換後の物質を含有する電解液を医療用核種含有溶液とする。このように、簡便な装置によって医療用核種含有溶液を製造することができるので、装置の大型化を招くことがない。
なお、凝集系構造物としては、パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこれらの合金が挙げられる。
【0012】
さらに、本発明の医療用核種含有溶液製造装置では、前記電解液は、生理食塩水とされていることを特徴とする。
【0013】
電解液を生理食塩水とすることにより、電解抽出後の溶液をそのままPET等の薬剤の原料として用いることができる。これにより、被検者に対して迅速に投与することができるので、半減期が短い核種であっても診断に用いることができる。
【0014】
さらに、本発明の医療用核種含有溶液製造装置では、前記容器から放射される放射線量を計測する第1放射線計測部と、前記溶液を吸引する注射器から放射される放射線量を計測する第2放射線計測部と、前記第1放射線計測部および前記第2放射線計測部からの検出結果に基づいて、前記注射器に吸引された前記電解液が所望の放射線量を有するか否かを判断する判断部とを備えていることを特徴とする。
【0015】
第1放射線計測部によって容器から放射される放射線量を計測し、第2放射線計測部によって注射器から放射される放射線量を計測する。そして、注射器で電解液を吸引すると、第1放射線計測部によって計測される放射線量が減少し、第2放射線計測部によって計測される放射線量が増大する。この検出結果に基づいて、所望量の放射線を含有する電解液が注射器に吸引されたか否かを判断する。これにより、PET等の診断に要求される放射線量を含有する薬剤を再現性良く得ることができる。
【0016】
また、本発明の注射器は、医療用核種を含む医療用核種含有溶液を収容する注射器であって、核種変換を施す物質を接触させた凝集系構造物に対して重水素を流すことによって該核種変換物質を施す物質に核反応を生じさせた核種変換後の物質を備えた凝集系構造物を一方の電極として電解液に浸漬し、電極間に所定電圧を印可することによって前記核種変換後の物質を前記電解液内に抽出し、抽出後の前記電解液を医療用核種含有溶液として収容していることを特徴とする。
【0017】
凝集系核反応によって生じた核種変換後の物質を一方の電極として用い、電解液中で電解抽出することによって、核種変換後の物質を含有する電解液を医療用核種含有溶液とする。この医療用核種含有溶液を吸引することにより、注射器に医療用核種含有溶液を収容する。このように、医療用核種を製造した後に迅速に医療用核種含有溶液を注射器に収容することができ、しかも注射器として容易に可搬することができるので、被検者への投与が簡便かつ迅速に行われることとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、核種変換後の物質を電解抽出によって電解液(生理食塩水)中に含有させることができるので、大規模な設備を用いることなく医療用放射性核種を製造することができる。したがって、大型設備の導入が困難な病院にも設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図面を用いて説明する。
先ず、凝集系核反応によって医療用核種を備えた凝集系構造物の製造方法を説明した後に、本発明に関連する医療用核種含有溶液製造方法およびその装置について説明する。
【0020】
パラジウム等の固体からなる凝集系構造体に対して、核種反応を施す物質を接触させ、凝集系構造体に対して重水素を流し、凝集系反応を生じさせて核種変換を行う方法は、以下の文献に示すように、種々報告されている。
(1)特開2002−202392号公報
(2)Y. Iwamura, T. Itoh
et al., Observation of Nuclear Transmutation Reactions Induced by D2 Gas Permeation
Through Pd Complexes, Proc. 11th Int. Conf. Cold Fusion, 31 October - 5
November 2004(Marseilles, France), pp. 339-350
(3)岩村康弘、伊藤岳彦、坂野充、栗林志頭真:重水素透過によるPd多層膜上での元素変換の観測,「固体物理」,vol,. 39, No. 4, (2004), pp. 203-210
(4)Y. Iwamura, T. Itoh
and M. Sakano, Proc 8th Int. Conf. Cold
fusion(Italian Physical Society, Bologna, Italy, 2000), pp. 141-146
(5)Y. Iwamura, M. Sakano
and T. Itoh, Elemental Anarysis
of Pd Complexes: Effects of D2 Gas Permeation, Jpn.
J. Appl. Phys. 41, 4642-4648(2002)
【0021】
このような凝集系核反応を実現する装置10の概略が、図1に示されている。
この装置10は、パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこれらの合金等からなる、例えば略板状の構造体(凝集系構造体)11を備えている。この構造体11の一方の表面11A上には、核種変換を施す物質14が接触させられている。この一方の表面11A側は、例えば加圧あるいは電気分解等によって、重水素の圧力が高い領域12とされている。構造体11の他方の表面11B側は、例えば真空排気等により重水素の圧力が低い領域13とされている。これにより、構造体11内に重水素の流れ15が生成され、重水素と核種変換を施す物質14とが反応することによって核種変換が行われる。
ここで、構造体11は、図2に示すように、好ましくはPd基板23の表面上に、相対的に仕事関数が低い物質つまり電子を放出し易い物質(例えば、仕事関数が3eV未満の物質)とPdとの混合層22が形成され、この混合層22の表面上にPd層21が積層されて形成されている。
【0022】
図3には、図1に示した装置10をさらに具体化した核種変換装置30が示されている。核種変換装置30は、内部が気密保持可能とされた吸蔵室31と、この吸蔵室31の内部にて多層構造体32を介して気密保持可能に設けられた放出室34と、バリアブルリークバルブ33を介して吸蔵室31内に重水素を供給する重水素ボンベ35と、放出室34内の真空度を検出する放出室真空計36と、例えば多層構造体(凝集系構造体)32から生成されるガス状の反応生成物を検出すると共に放出室34内の重水素量を計測することにより多層構造体32を透過する重水素の透過量を評価する質量分析器37と、放出室34内を常に真空状態に保つターボ分子ポンプ38と、放出室34及びターボ分子ポンプ38内を荒引きするためのロータリーポンプ39とを備えて構成されている。
【0023】
さらに、核種変換装置30は、例えばX線や電子線、粒子線等の照射により励起された多層構造体32の表面上の原子から放出される光電子やイオン等を検出する静電アナライザー40と、多層構造体32の両面のうち吸蔵室31内の重水素に曝される表面上にX線を照射するXPS(X-ray Photo-electron Spectrometry:X線照射光電子スペクトル分析)用のX線銃41と、内部に重水素が導入された吸蔵室31内の圧力を検出する圧力計42と、例えばベリリウム窓43を有する高純度ゲルマニウム検出器44からなるX線検出器と、吸蔵室31内の真空度を検出する吸蔵室真空計45と、例えば重水素の導入以前等に吸蔵室31内を真空状態に保持する真空バルブ46と、吸蔵室31を真空状態にするターボ分子ポンプ47と、吸蔵室31及びターボ分子ポンプ47内を荒引きするためのロータリーポンプ48とを備えて構成されている。
【0024】
そして、多層構造体32の吸蔵室31側を相対的に重水素の圧力が高い状態とし、多層構造体32の放出室34側を相対的に重水素の圧力が低い状態として、多層構造体32の両面において重水素の圧力差を形成することで、吸蔵室31側から放出室34側へ重水素の流れを作り出す。ここで、例えば図4に示すように、多層構造体32は、Pd基板23の表面上に相対的に仕事関数が低い物質(例えば、仕事関数が3eV未満の物質)とPdとの混合層22が形成され、この混合層22の表面上にPd層21が積層され、さらに、Pd層21の表面上に核種変換を施す物質52が添加(接触)されて構成されている。
【0025】
本実施の形態による核種変換装置30は上記構成を備えており、次に、この核種変換装置30を用いて核種変換を行う方法について添付図面を参照しながら説明する。
【0026】
先ず、例えば図2に示すPd基板23(例えば、縦25mm×横25mm×厚さ0.1mm、純度99.5%以上)をアセトン中で所定時間に亘って超音波洗浄することにより脱脂する。そして、真空中(例えば、1.33×10-5Pa以下)において、例えば900℃の温度で所定時間(例えば、10時間)に亘ってアニールつまり加熱処理を行う(ステップS01)。次に、例えば室温でアニール後のPd基板23を重王水により所定時間(例えば、100秒間)に亘ってエッチング処理を施して表面の不純物を除去する(ステップS02)。
【0027】
次に、アルゴンイオンビームによるスパッター法を用いて、エッチング処理後のPd基板23上に成膜処理を施して構造体11を作成する。ここで、例えば図2に示すPd層21の厚さは400・10-10mとし、仕事関数の低い物質とPdとの混合層22は、例えば図5(a)に示すように、例えば厚さ100・10-10mのCaO層57と、例えば厚さ100・10-10mのPd層56とを交互に積層して形成し、この混合層22の厚さを1000・10-10mとした。そして、混合層22の表面上にPd層21を400・10-10mで成膜することにより、構造体11を形成した(ステップS03)。
【0028】
次に、核種変換を施す物質を含む希薄溶液の電気分解により、核種変換を施す物質を構造体11の成膜処理表面に添加する。例えば、図6に示す電着装置60のように、上述の希薄溶液を電解液62として、電源61の陽極に白金陽極63を接続し、陰極に構造体11を接続して、例えば1Vの電圧で10秒間に亘って電気分解を行い、構造体11の表面上で反応を発生させて核種変換を施す物質52を添加して、多層構造体32を形成する(ステップS04)。
【0029】
そして、多層構造体32の核種変換を施す物質52を吸蔵室31側に向けて、多層構造体32を介在させて吸蔵室31と放出室34とをそれぞれ気密状態に閉塞して、先ず、放出室34をロータリーポンプ39およびターボ分子ポンプ38により真空排気する。そして、バリアブルリークバルブ33を閉じ、真空バルブ46を開いて吸蔵室31をロータリーポンプ48およびターボ分子ポンプ47により真空排気する(ステップS05)。次に、吸蔵室31の真空度が充分安定した後(例えば、1×10-5Pa以下の状態)に、XPSにより吸蔵室31側の多層構造体32の表面上に存在する元素を分析する(ステップS06)。すなわち、X線銃41からのX線を多層構造体32の表面に照射して、このX線の照射により励起された多層構造体32の表面上の原子から放出される光電子のエネルギーを静電アナライザー40により検出する。これにより、多層構造体32の吸蔵室31側の表面上に存在する元素を同定する。
【0030】
次に、多層構造体32を、加熱装置(図示略)により例えば70℃の温度で加熱した後、真空バルブ46を閉じて吸蔵室31の真空排気を停止して、バリアブルリークバルブ33を開いて吸蔵室31内に所定のガス圧力で重水素ガスを導入して、核種変換を開始する。ここで、重水素ガスを導入する際の所定のガス圧力は例えば1.01325×105Pa(いわゆる1気圧)とした。そして、放出室34の質量分析器37でガス状の反応生成物(例えば、質量数A=1〜140)の測定を行い、多層構造体32を透過して放出室34内に放出された重水素の拡散挙動の評価を行う。また、多層構造体32の吸蔵室31側の高純度ゲルマニウム検出器44によりX線の測定を行う(ステップS07)。なお、多層構造体32を透過して放出室34内に放出された重水素量は、例えば放出室真空計36により検出される放出室34内の真空度と、ターボ分子ポンプ38の排気速度とに基づいて算出する。
【0031】
吸蔵室31内に重水素ガスの導入を開始してから所定時間、例えば数十時間後に、多層構造体32の温度を常温に戻す。そして、バリアブルリークバルブ33を閉じて吸蔵室31内への重水素ガスの導入を停止して、さらに、真空バルブ46を開いて吸蔵室31を真空排気して核種変換を終了する。そして、吸蔵室31内の真空度が充分安定した後(例えば、1×10-5Pa以下の状態)に、XPSにより吸蔵室31側の多層構造体32の表面上に存在する元素を分析して生成物の測定を行う(ステップS08)。
【0032】
そして、上述したステップS06〜ステップS07の処理を繰り返して、核種変換反応の時間変化を測定する(ステップS09)。そして、多層構造体32を核種変換装置30から取り出して、核種変換を終了する(ステップS10)。
【0033】
以上の核種変換方法により得られる医療用核種として、例えば、以下の核反応が挙げられる。
3He+2α→11C
3He+3α→15O
10B+2α→18F
14N+2α→18F
ここで、αはHe原子核(原子番号2,質量数4)である。つまり、αは反応に必要な重水素Dの2個分に相当する。
【0034】
次に、本発明である医療用核種含有溶液の製造方法および製造装置について説明する。
図7には、医療用核種含有溶液を製造する装置の概略図が示されている。
医療用核種含有溶液製造装置70は、生理食塩水(電解液)71を収容する容器72と、陰極とされた白金電極74と、陽極とされた試料極76と、電極74,76間に所定の電圧を印可する直流電源78とを備えている。
試料極76には、上述の核種変換方法によって核種変換後の物質を備えた多層構造体32(図4参照)が用いられる。
なお、核種変換後の物質がハロゲン元素の場合には、白金電極が陽極となり、試料極が陰極となる。このように、核種変換後の物質を考慮して、試料極が陰極か陽極かを決定する。
【0035】
直流電源78によって電極74,76間に所定電圧を印可すると、試料極76である多層構造体32の表面(表面から100Å程度の深さ)に接触された核種変換後の物質が生理食塩水71内に電解抽出される。図8には、核種変換後の物質80が試料極76から生理食塩水71中に抽出される状態が示されている。
このようにして電解抽出した核種変換後の物質を含む生理食塩水(医療用核種含有溶液)を、薬剤として被検者に投与し、PET検査に用いる。
【0036】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
簡便な装置によって医療用核種含有溶液を製造することができるので、装置の大型化を招くことがない。したがって、大型設備の導入が困難な病院にも設置することができる。
また、電解液を生理食塩水とすることにより、電解抽出後の溶液をそのままPET等の薬剤の原料として用いることができる。これにより、被検者に対して迅速に投与することができるので、半減期が短い核種であっても診断に用いることができる。これに対して、多層構造体32を強酸で溶かすことによって核種変換後の物質を得る方法も考えられるが、薬剤とするためには精製プロセスが必要となるので迅速な投与が困難となる。
【0037】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図9を用いて説明する。
図9には、本実施形態にかかる医療用核種含有溶液製造装置90が示されている。
医療用核種溶液製造装置90は、一側が陰極とされる白金電極94とされ、他側が陽極とされる試料極96とされた容器92を備えている。
容器92内には生理食塩水(電解液)91が収容されている。容器92の内容積は1cc以下とされている。容器92には、図示しないが、上方に注射器97を取り付けて固定することができるようになっている。
また、電極94,96間には、図示しない直流電源が接続されている。なお、電極94,96間の間隔は、1mm以下とするのが好ましい。
核種変換後の物質に応じて試料極96を陽極とするか陰極とするかは上記第1実施形態と同様であるので、省略する。
また、電極94,96間に所定電圧を印可して、試料極96から核種変換後の物質を電解抽出する点も第1実施形態と同様なので、省略する。
【0038】
本実施形態では、電解抽出後の生理食塩水71を注射器97によって直接吸引し、この注射器97を用いて被検者に投与することとしている。
【0039】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
容器92に設けた電極94,96間の間隔を1mm以下に近づけて、容器92の内容積を1cc以下とすることにより、高濃度の核種変換後の物質を含む溶液を得ることができる。
また、核種変換後の物質を電解抽出して医療用核種含有溶液を得た後に迅速に医療用核種含有溶液を注射器97に収容することができる。しかも、注射器97として容易に可搬することができるので、被検者への投与が簡便かつ迅速に行うことができる。
【0040】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について、図10を用いて説明する。
本実施形態は、第2実施形態のように注射器によって医療用核種含有溶液を吸引する際に、所望の放射線量を含有する溶液が吸引されているか否かを判断するものである。
図10に示された医療用核種含有溶液計測装置100は、第2実施形態の医療用核種含有溶液製造装置90に備え付けることができるものである。この医療用核種含有溶液計測装置100は、鉛(Pb)製の基台102上に設置された第1放射線計測部104と、該第1放射線計測部104上に鉛板106を介して設置された第2放射線計測部108と、第2放射線計測部108上に設けられた鉛板110とを備えている。
第1放射線計測部104および第2放射線計測部108としては、NaIシンチレータやゲルマニウムディテクタ等を用いることができる。これらは、511keVを検出できるように感度調整をしておくことが好ましい。
第1放射線計測部104は、容器90から放射される放射線量を計測する。第2放射線計測部108は、注射器97から放射される放射線量を計測する。
鉛製の基台102及び鉛板106,110によって放射線を遮蔽することにより、第1放射線計測部104および第2放射線計測部108で検出される放射線が干渉することがなく、検出精度を上げることができるようになっている。
第1放射線計測部104および第2放射線計測部108の検出結果は、図示しない判断部に伝送されるようになっている。この判断部では、第1放射線計測部104および第2放射線計測部108からの検出結果に基づいて、注射器97に吸引された生理食塩水91が所望の放射線量を有するか否かを判断する。
【0041】
本実施形態の医療用核種含有溶液計測装置100は、以下のように用いられる。
注射器97で生理食塩水91を吸引すると、第1放射線計測部104によって計測される放射線量が減少し、第2放射線計測部108によって計測される放射線量が増大する。判断部は、この検出結果に基づいて、所望量の放射線を含有する生理食塩水91が注射器に吸引されたか否かを判断する。
このように、本実施形態によれば、判断部によって注射器97に吸引された生理食塩水91に含有される放射線量が適切であるかを判断することができるので、PET等の診断に要求される放射線量を含有する薬剤を再現性良く得ることができる。
【0042】
なお、上述した各実施形態では、核種変換後の物質を備えた多層構造体32を別途製造し、この多層構造体32を試料極として設置し、核種変換後の物質を電解抽出する方法(いわゆるバッチ式)について説明したが、次のような連続方法を採用することもできる。
一方の電極に多層構造体を設置し、電気分解により核種変換を施す物質の核種変換を行う。そして、電気分解に用いた溶液を排出して洗浄した後に、生理食塩水を収容し、電極の正負を入れ替える。そして、電極間に所定電圧を印可することによって上述の電解抽出を行う。このように、同一の容器を用いて核種変換および電解抽出を連続的に行うこととしても良い。なお、電気分解による核種変換方法は、特開2002−202392号公報の段落[0071]以降の第2実施形態に開示された方法を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の前提として用いられる核種変換方法の原理を説明する概略図である。
【図2】図1の核種変換方法にて使用される構造体を示す断面図である。
【図3】核種変換方法を実現する核種変換装置の構成図である。
【図4】図3に示す核種変換装置で使用する多層構造体を示す断面図である。
【図5】(a)は混合層の断面構成図であり、(b)は混合層を含む構造体の断面図である。
【図6】構造体に核種変換を施す物質を添加する装置の概略構成図である。
【図7】本発明の第1実施形態にかかる医療用核種含有溶液製造装置を示した概略図である。
【図8】核種変換後の物質が試料極から生理食塩水中に抽出される状態を示した模式図である。
【図9】本発明の第2実施形態にかかる医療用核種含有溶液製造装置を示した概略図である。
【図10】本発明の第3実施形態を示し、医療用核種含有溶液計測装置を備えた医療用核種含有溶液製造装置を示した概略図である。
【符号の説明】
【0044】
70,90 医療用核種含有溶液製造装置
71,91 生理食塩水(電解液)
72,92 容器
76,96 試料極(一方の電極)
78 直流電源(電源)
97 注射器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用核種を含む医療用核種含有溶液を製造する医療用核種含有溶液製造方法であって、
核種変換を施す物質を接触させた凝集系構造物に対して重水素を流すことによって該核種変換物質を施す物質に核反応を生じさせた核種変換後の物質を備えた凝集系構造物を一方の電極として電解液に浸漬し、
電極間に所定電圧を印可することによって前記核種変換後の物質を前記電解液内に抽出し、
抽出後の前記電解液を医療用核種含有溶液とすることを特徴とする医療用核種含有溶液製造方法。
【請求項2】
前記電解液は、生理食塩水とされていることを特徴とする請求項1記載の医療用核種含有溶液製造方法。
【請求項3】
医療用核種を含む医療用核種含有溶液を製造する医療用核種含有溶液製造装置であって、
電解液を収容する容器と、
前記電解液内に浸漬される一対の電極と、
これら電極間に所定電圧を印可する電源とを備え、
核種変換を施す物質を接触させた凝集系構造物に対して重水素を流すことによって該核種変換物質を施す物質に核反応を生じさせた核種変換後の物質を備えた凝集系構造物を一方の前記電極とし、
前記電極間に所定電圧を印可することによって前記核種変換後の物質を前記電解液内に抽出し、
抽出後の前記電解液を医療用核種含有溶液とすることを特徴とする医療用核種含有溶液製造装置。
【請求項4】
前記電解液は、生理食塩水とされていることを特徴とする請求項3記載の医療用核種含有溶液製造装置。
【請求項5】
前記容器から放射される放射線量を計測する第1放射線計測部と、
前記溶液を吸引する注射器から放射される放射線量を計測する第2放射線計測部と、
前記第1放射線計測部および前記第2放射線計測部からの検出結果に基づいて、前記注射器に吸引された前記電解液が所望の放射線量を有するか否かを判断する判断部と、
を備えていることを特徴とする請求項3又は4に記載の医療用核種含有溶液製造装置。
【請求項6】
医療用核種を含む医療用核種含有溶液を収容する注射器であって、
核種変換を施す物質を接触させた凝集系構造物に対して重水素を流すことによって該核種変換物質を施す物質に核反応を生じさせた核種変換後の物質を備えた凝集系構造物を一方の電極として電解液に浸漬し、
電極間に所定電圧を印可することによって前記核種変換後の物質を前記電解液内に抽出し、
抽出後の前記電解液を医療用核種含有溶液として収容していることを特徴とする注射器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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