説明

医療用画像処理システム

【課題】放射線治療の効果のより正確な診断に貢献することができる医療用画像処理システムを提供する。
【解決手段】医療用画像処理システムの演算処理装置は、以下の処理を実行する。放射線治療開始前のPET画像情報及びX線CT画像情報、及び放射線治療終了後のPET画像情報及びX線CT画像情報を入力する。次に、各画像情報における各注目領域が三次元の注目領域の画像情報に変換される。注目領域の情報は入力装置から演算処理装置に入力される。放射線治療前及びその終了後の各X線CT画像情報における各注目領域毎の重量が算出される。各X線CT画像情報間での注目領域の重量の変化量が求められる。放射線治療前及びその終了後の各PET画像情報における各注目領域毎の代謝量を算出する。各PET画像情報間での注目領域の代謝量の変化量を求める。そして、代謝量の変化量に対する重量の変化量の比が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用画像処理システムに係り、特に、形態画像情報及び機能画像情報を用いる医療用画像処理に適用するのに好適な医療用画像処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放出断層撮影(Positron Emission Tomography)(以下、PETという)装置が悪性腫瘍(以下、単に腫瘍という)の診断に用いられている。腫瘍が存在している箇所を腫瘍部という。腫瘍は、治療のため放射線を照射されると、解剖学的な形態変化に先立ち、糖代謝、アミノ酸代謝などの代謝機能に変化が現れる。PET装置を用いた検査(PET検査という)は、以下のようにして行われる。まず、崩壊により陽電子を放出する放射性核種(例えば、18F)を標識したブドウ糖を被検体に投与する。放射性核種を標識したブドウ糖を放射性薬剤という。ブドウ糖は代謝が活発ながん細胞により多く取り込まれるため、放射性薬剤は腫瘍部に集積する。この放射性薬剤に含まれる放射性核種に起因して発生した陽電子は消滅する際に511KeVの一対のγ線を発生する。これらのγ線は放射線検出器(シンチレータまたは半導体放射線検出器)によって検出され、得られたγ線検出信号を用いて腫瘍部を含む断層画像情報(PET画像情報という)を作成する。このPET画像情報を用いることによって腫瘍部の位置が特定される。PET画像情報は細胞機能の活性度を映し出した機能画像情報であり、PET画像情報だけでは腫瘍部の位置を特定することはできない。
【0003】
このため、X線CT装置またはMRIによる撮影で得られた情報を用いて作成された断層画像情報、すなわち形態画像情報と、機能画像情報であるPET画像情報を重ね合わせることが行われている(特許文献1及び2参照)。なお、単光子放出断層撮影(Single Photon Emission Tomography)(SPECTという)装置で撮影された機能画像情報であるSPECT画像情報と形態画像情報を重ね合わせることが特許文献3及び特許文献4に記載されている。PET装置及びSPECT装置は核医学診断装置である。
【0004】
特許文献1は、PET画像情報及びSPECT画像情報のうちSPECT画像情報を例にとって、前に撮影されたSPECT画像情報と後に撮影されたSPECTが間での変化量(または変化率)を求めることを記載している。これら2つのSPECT画像情報は脳内の血流量を示す画像である。
【0005】
【特許文献1】特開2006−53102号公報
【特許文献2】特開2005−106507号公報
【特許文献3】特開2000−105279号公報
【特許文献4】特開平9−133771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射線治療の前後等における複数のPET画像情報(またはSPECT画像情報)を用い、腫瘍部の代謝量の変化を観察することは、放射線治療による腫瘍の治療効果を早期に判断する上で有効である。発明者らは、腫瘍の治療効果をより正確に把握できる手法について種々の検討を行った。この検討の結果、発明者らは、腫瘍部の形態変化の情報、特に、腫瘍部の代謝量の変化及び腫瘍部の重量の変化(または腫瘍部の体積の変化)に着目することによって、より詳細に腫瘍部の状態変化を捉えることを可能であることを新たに見出した。このような腫瘍部の形態変化の情報に着目することによって、腫瘍の診断及び治療の判断をより正確に行うことができる。
【0007】
本発明の目的は、放射線治療の効果のより正確な診断に貢献することができる医療用画像処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、放射線治療前の状態を反映した第1形態画像情報及び第1機能画像情報、及び放射線治療後の状態を反映した第2形態画像情報及び第2機能画像情報のそれぞれの画像情報に互いに対応する注目領域をそれぞれ設定し、第1及び前記第2形態画像情報の各注目領域のそれぞれに対する重量を求め、これらの重量に基づいて、第1形態画像情報の注目領域と第2形態画像情報の注目領域における重量の変化量を求め、第1及び第2機能画像情報の各注目領域のそれぞれの代謝量を求め、これらの代謝量に基づいて、第1機能画像情報の注目領域と第2機能画像情報の注目領域における代謝量の変化量を求め、代謝量の変化量と重量の変化量の比を求めることにある。
【0009】
本発明は代謝量の変化量と重量の変化量の比を求めているので、医師はこの比に基づいて腫瘍に対する放射線治療の効果をより正確に診断することができる。代謝量の変化量と重量の変化量の比を用いることによって、患者及び腫瘍が存在する部位が異なっても、放射線治療の効果をより正確に診断することができる。
【0010】
上記した目的は、放射線治療前の状態を反映した第1形態画像情報及び第1機能画像情報、及び放射線治療後の状態を反映した第2形態画像情報及び第2機能画像情報のそれぞれの画像情報に互いに対応する注目領域をそれぞれ設定し、第1形態画像情報の注目領域内の複数の第1局所領域、及び第2形態画像情報の注目領域内の複数の第2局所領域のそれぞれに対する重量を求め、これらの重量に基づいて、各々の第1局所領域とそれぞれの第1の局所領域毎に対応する各々の第2局所領域に対するそれぞれの重量の変化量を求め、第1機能画像情報の注目領域内の複数の第3局所領域、及び第2機能画像情報の注目領域内の複数の第4局所領域のそれぞれに対する代謝量を求め、これらの代謝量に基づいて、各々の第3局所領域とそれぞれの第3局所領域毎に対応する各々の第4局所領域に対するそれぞれの代謝量の変化量を求め、各代謝量の変化量及び各重量の変化量のうち該当する代謝量の変化量及び重量の変化量に基づいて、該当する局所領域毎に代謝量の変化量と重量の変化量の比を求めることによっても達成することができる。
【0011】
この特徴によれば、上記した本発明の作用効果と共に、放射線治療後における腫瘍部内の局所領域毎のその治療の効果をより正確に判断することができる。もし、放射線治療を再度行う必要がある場合には、放射線を照射すべき腫瘍の領域をより正確に把握することができる。
【0012】
PET画像情報及びSPECT画像情報は機能画像情報であり、X線CT画像情報及びMRI画像情報は形態画像情報である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放射線治療の効果のより正確な診断が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明者らが見出した前述の新たな知見に基づいて成された本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の好適な一実施例である医療用画像処理システム(医療用画像処理装置)を、図1及び図2を用いて説明する。本実施例の医療用画像処理システム1は、演算処理装置2、メモリ3、通信部4、キーボード6及びマウス7の入力装置、及び表示装置8を有する。演算処理装置2は、メモリ3、通信部4及び入出力部5に接続されている。キーボード6、マウス7及び表示装置8は、入出力部5に接続される。演算処理装置2は、CPU(Central Processing Unit)を含んでおり、本実施例における画像処理に関する各種の演算処理を実行する。マウス7の代りにその他の入力装置、例えばペンタブレットなどを用いてもよい。医療用画像処理システム1、すなわち通信部4は、ローカルエリアネットワーク等の病院内ネットワーク9を介して画像サーバ10、PET装置11及びX線CT装置12に接続されている。画像サーバ10は、X線CT装置12に設けられた各放射線検出器から出力されたX線検出信号を基に作成されたX線CT画像情報、及びPET装置11に設けられた各放射線検出器から出力されたγ線検出信号を基に作成されたPET画像情報をそれぞれ記憶している。
【0016】
腫瘍部に対する放射線治療の開始前及びその終了後のそれぞれにおいて、被検体である患者に対して、PET装置11を用いたPET検査及びX線CT装置12を用いたX線CT検査がそれぞれ行われる。放射線治療としては、X線治療、及び陽子線治療及び重粒子線治療等の粒子線治療がある。放射線治療開始前のPET検査は、腫瘍部の位置を確認するために行われる。腫瘍部の位置は、放射線治療前のPET検査で得られたPET画像情報及びX線CT検査で得られたX線CT画像を重ね合わせることによって、精度良く確認できる。その被検体に対して行った各検査において、PET装置11で作成された、放射線治療の開始前及びその終了後のそれぞれPET画像情報、及びX線CT装置12で作成された、放射線治療の開始前及びその終了後のそれぞれX線CT画像情報は、各装置から画像サーバ10内に送られ、画像サーバ10内に記憶される。
【0017】
医療用画像処理システム1を用いた本実施例の画像処理を、図2に示す処理手順を用いて説明する。この処理手順のプログラムはメモリ3に記憶されている。演算処理装置2は画像処理を行うとき、メモリ3から上記の処理手順を読み出してその処理手順の基づいて演算処理を実行する。本実施例は、形態画像情報であるX線CT画像情報及び機能画像情報であるPET画像情報のそれぞれに設定された注目領域を用いて画像処理を実行する例である。
【0018】
まず、放射線治療開始前の状態を反映しているPET画像情報及びX線CT画像情報、及び放射線治療終了後の状態を反映しているPET画像情報及びX線CT画像情報を入力する(ステップ21)。オペレータがキーボード6から画像処理開始指令を入力したとき、演算処理装置2は、画像サーバ10から病院内ネットワーク9を介して、放射線治療開始前及びその終了後のそれぞれのPET画像情報及びX線CT画像情報を入力する。これらの画像情報は、演算処理装置2によってメモリ3に記憶される(ステップ22)。各画像情報は画像サーバ10にスライス(断層)ごとに保存されているが、メモリ3に記憶された各画像情報は、いずれも、患者に対する三次元画像情報になっている。これらの三次元画像情報は、演算処理装置2によって該当する断層ごとの画像情報に基づいて作成される。演算処理装置2は、メモリ3に記憶されている各PET画像情報及び各X線CT画像情報を入出力部5を介して表示装置8に出力し、表示装置8に表示する。この際、X線CT画像情報はCT値(Hounsfield Unit)に基づき表示され、PET画像情報はSUV(Standard Uptake Value)に基づき表示される。これらの画像情報の表示に必要な患者の体重及び放射性薬剤の投与量などのパラメータ情報が表示される画像情報に含まれていない場合は、演算処理装置2がその旨のメッセージ情報を表示装置8に表示させ、そのパラメータ情報の入力をオペレータに促す。
【0019】
次に、各画像情報における各注目領域を三次元の注目領域の画像情報に変換する(ステップ23)。オペレータが、マウス7(またはキーボード6)を用いて表示装置8に表示されている各画像情報のスライスに対して注目領域、すなわち腫瘍部を指定する。ステップ21で入力した4つの画像情報に対してそれぞれ指定された各注目領域は、お互いに対応した領域である。指定された注目領域の情報は演算処理装置2に取り込まれる。演算処理装置2は、入力した注目領域情報を三次元の注目領域画像情報に変換し、メモリ3に記憶する。三次元の注目領域画像情報は、演算処理装置2から表示装置8に出力され、表示装置8に表示される。X線CT画像情報を基に作成されて表示装置8に表示された、被検体の三次元画像情報及び三次元の注目領域画像情報の一例を、図3(A)に示す。注目領域の指定は、オペレータがステップ22で表示装置8に表示された各画像情報の画素値に対して範囲指定を行い、演算処理装置2が設定された範囲内の画素値を有する画素を注目領域として設定してもよい。または、オペレータによるキーボード6からの指令情報に従い、演算処理装置2が予め作成された注目領域の情報を画像サーバ10より読み込み、メモリ3に保存してもよい。放射線治療前及びその終了後の各X線CT画像情報における各注目領域毎の重量を算出する(ステップ24)。演算処理装置2は、各X線CT画像情報に対して指定された各注目領域毎の重量をこれらの注目領域の画素値及び画素の体積から算出する。すなわち、演算処理装置2が、メモリ3に記憶されている各注目領域の情報を参照しつつ、各注目領域内の画素の数及びCT値の和を算出する。演算処理装置2は、注目領域内の得られた画素数に画素一つの体積を掛け、注目領域全体の体積を求める。一つの画素は三次元的には立方体で示される。さらに、演算処理装置2は、CT値の和V[HU]を用いて次式により各注目領域内の全画素に対する重量W[g]を求める。
【0020】
W[g]=(V[HU]+1000)×(1画素の体積)/1000
この式を用いずに、メモリ3に予め記憶されたCT値から重量への変換テーブルを用いて、CT値に対応する重量を求めてもよい。演算処理装置2は、求めた体積及び重量を表示装置8に出力する。得られた体積及び重量の各情報が表示装置8に表示される。
【0021】
各X線CT画像情報間での注目領域の重量の変化量を求める(ステップ25)。演算処理装置2は、ステップ24で求めた、各X線CT画像情報に対するそれぞれの注目領域の重量に基づいて、重量の変化量である、放射線治療開始前のX線CT画像情報の注目領域と放射線治療終了後のX線CT画像情報の注目領域の間での重量の差を求める。得られた重量の変化量は、メモリ3に記憶される。放射線治療前及びその終了後の各PET画像情報における各注目領域毎の代謝量を算出する(ステップ26)。演算処理装置2は、各PET画像情報に対して指定された各注目領域毎の代謝量を算出する。代謝量は、注目領域内での画素毎の体積とSUV(Standardized Uptake Value)に正規化された画素値の積の総和で表される。代謝量の単位はSUV・mlである。代謝量として、SUVに規格化した数値ではなく、患者の体内の放射性薬剤に起因してその体内から放出されるγ線のカウント数を用いてもよい。各PET画像情報間での注目領域の代謝量の変化量を求める(ステップ27)。演算処理装置2は、ステップ26で算出した、各PET画像情報に対するそれぞれの注目領域の代謝量に基づいて、代謝量の変化量である、放射線治療開始前のPET画像情報の注目領域と放射線治療終了後のPET画像情報の注目領域の間での代謝量の差を求める。得られた代謝量の変化量は、メモリ3に記憶される。代謝量の変化量に対する重量の変化量の比を求める(ステップ28)。演算処理装置2は、例えば、代謝量の変化量に対する重量の変化量の比Rを算出する。その比の単位はSUV・ml/gである。治療開始前における腫瘍部の代謝量がM1、腫瘍部の重量がW1、及び治療終了後における腫瘍部の代謝量がM2、腫瘍部の重量がW2であるとき、比Rは(W1−W2)/(M1−M2)で求められる。算出されたそれぞれの比の情報は、演算処理装置2から表示装置8に出力される(ステップ29)。これらの比の情報は表示装置8に表示される。その比の情報の表示例を図3(B)に示す。
【0022】
表示装置8に表示された比Rは、医師が腫瘍に対する放射線治療効果を診断するのに非常に役立つ。腫瘍部に対して放射線治療を行うことによって、腫瘍部の体積が縮小し、腫瘍部の代謝量も減少する。しかしながら、代謝量は放射線照射に伴い直ちに縮小を開始するが、腫瘍部の体積の時間当たりの減少割合、すなわち腫瘍部の重量の時間当たりの減少割合は代謝量の時間当たりの縮小割合よりも非常に小さい。比Rの値が大きいほど、腫瘍部に対する放射線治療の効果が大きいことを意味している。
【0023】
医師は、表示装置8に表示された、放射線治療開始前及び治療終了後における、それぞれの、腫瘍部の代謝量の変化量に対する腫瘍部の重量の変化量の比Rの値を見ることによって、患者の腫瘍部に対する放射線治療の効果をより精度良く把握することができる。医師は、比Rの情報に基づいて、例えば、患者の退院日及び再度の放射線治療の実施等の判断をより正確に行うことができる。
【0024】
本実施例において、腫瘍部の代謝量の変化量に対する腫瘍部の重量の変化量の比を求める理由を、以下に説明する。放射線治療終了後のPET画像情報に基づいて求めた腫瘍部の代謝量は放射線治療開始前における腫瘍部の代謝量よりも小さくなっている。しかしながら、代謝量の変化量は、患者毎に、また腫瘍部が存在する部位毎に異なるので、一律に代謝量の変化量だけで放射線治療の効果を判断した場合には、その治療効果を正確に判断することができない。形態画像情報である各X線CT画像情報に基づいて得られた腫瘍部の重量の変化量の情報を加味して比Rを求めることによって、患者個人個人、及び腫瘍部が存在する部位(例えば、脳、肝臓、肺等)の影響を排除することができる。したがって、比Rを用いることによって、医師は、患者及び腫瘍部の部位が異なっても、腫瘍部に対する放射線治療の効果をより正確に判断することができ、腫瘍部の消滅時期及び腫瘍の再発性をより正確に判断することができる。本実施例が提供する一つの指標である比Rの情報は、例えば、医師が数値的に放射線治療結果の判断時期を決定するのに有効に利用することができる。すなわち、その比Rの数値は、医師が腫瘍部の治療で入院していた患者の退院日を決定する判断材料となる。
【0025】
本実施例は、後述の実施例2に比べて注目領域の指定の自由度が高くなり、また、後述の実施例3に比べて一つの評価指標(比R)を提供することにより腫瘍部の状態変化の把握を容易にする。
【0026】
腫瘍部の重量の変化量の代りに、放射線治療開始前及びその治療終了後における各腫瘍部の体積(ステップ24で算出)を用いて求めた、腫瘍部の体積の変化量を用いてもよい。この場合には、比Rは、腫瘍部の代謝量の変化量に対する腫瘍部の体積の変化量の比となる。後述の実施例2及び3においても、腫瘍部の重量の変化量の代りに腫瘍部の体積の変化量を用いることが可能である。腫瘍部の代謝量の変化量に対する腫瘍部の体積の変化量の比を用いても、腫瘍部の代謝量の変化量に対する腫瘍部の重量の変化量の比を用いた場合と同様な効果を得ることができる。
【0027】
本実施例の医療用画像処理システム1を治療計画装置に組み込むことも可能である。これによって、以下の効果を得ることができる。すなわち、腫瘍部の代謝量の変化量に対する腫瘍部の重量の変化量の比が予め設定された値以上になったとき、治療計画装置が表示装置にその旨の情報を表示することによって、オペレータ(医師等)に対して放射線治療前に治療計画装置で得られた放射線治療に対する治療計画の修正を促すことができる。
【0028】
PET装置11の代りにSPECT装置を用い、この装置による撮影で得られた情報を用いて作成された機能画像情報であるSPECT画像情報を実施例1においてPET画像情報の代りに用いることができる。PET画像情報及びSPECT画像情報は、共に、機能画像情報である。
【0029】
本実施例では、形態画像情報としてX線CT画像情報を用いたが、MRIによる撮影で得られた情報を用いて作成された形態画像情報であるMRI画像情報を用いてもよい。この場合、重量の変化の代わりに体積の変化を用い、比を求める。
【実施例2】
【0030】
本発明の他の一実施例である医療用画像処理システムを、図4を用いて説明する。本実施例の医療用画像処理システムのハード構成は、実施例1と同じであり、図1に示すハード構成を有する。本実施例の医療用画像処理システム1は、図4に示された処理手順のプログラムをメモリ3に記憶している。本実施例の医療用画像処理システム1で実行される画像処理を、図4を用いて以下に説明する。図3に示す処理手順と異なる部分について詳細に説明する。実施例2は、X線CT画像情報とPET画像情報の重ね合わせを行って位置合わせ情報を算出し、この位置合わせ情報、及び一つの画像情報に対して作成した注目領域画像情報を用いて各画像情報に対する注目領域の設定を行う例である。
【0031】
本実施例においても、実施例1で実行されたステップ21,22,24〜29の各処理が実行される。本実施例では、ステップ31〜33の処理がステップ22の処理とステップ24の処理の間で実行される。ステップ21の処理が終了した後に、PET画像情報とX線CT画像情報を重ね合わせる(ステップ31)。演算処理装置2は、放射線治療前のPET画像情報とX線CT画像情報を重ねあわせ、さらに、放射線治療終了後のPET画像情報とX線CT画像情報を重ね合わせる。PET画像情報とX線CT画像情報を重ね合わせは、特許文献2〜4に記載のいずれかの方法にて行われる。これらの画像情報の重ね合わせとは、両画像情報における画素毎の対応付けを行うことであり、一般的に1つの画像情報を基準となる画像情報に対して平行移動、回転などの変換を行うことにより対応付けることである。演算処理装置2は、両画像情報の重ね合わせによって両画像情報の位置合わせ情報を、放射線治療開始前及びその治療終了後のそれぞれの画像情報に対して算出する。それらの重ね合わせには、相互情報量最大化法を用いても良い。PET画像情報及びX線CT画像情報のいずれか一つ(または重ね合わせで得られた画像情報)に注目領域を設定する(ステップ32)。オペレータが、マウス7(またはキーボード6)を用いて表示装置8に表示されている各画像情報のスライスに対して注目領域を指定する。演算処理装置2は、入力した注目領域情報を三次元の注目領域画像情報に変換し、該当する画像情報(PET画像情報及びX線CT画像情報のいずれか一つ(または重ね合わせで得られた画像情報))と共に注目領域画像情報をメモリ3に記憶する。注目領域画像情報を各画像情報に転記する(ステップ33)。画像処理装置2は、1つの画像情報(例えば、放射線治療開始前のX線CT画像情報)に設定された注目領域の画像情報を、ステップ31で求めた位置合わせ情報を用いて他の画像情報(例えば、放射線治療開始前のPET画像情報)に転記する。その注目領域画像情報は、放射線治療終了後のX線画像情報及びPET画像情報にも同様に転記される。ステップ32で重ね合わせで得られた画像情報に注目領域を設定した場合には、作成した注目領域画像情報を、ステップ33で、上記した他の4つの画像情報にそれぞれ転記する。その後、ステップ24以降の処理が実行される。
【0032】
本実施例は、実施例1で生じる効果を得ることができる。さらに、本実施例は、放射線治療開始前及びその治療終了後の各画像情報への注目領域の設定を、前述の2つの画像情報の重ね合わせによって得られた位置合わせ情報、及び一つの画像情報に対して作成した注目領域画像情報を用いて行うので、注目領域設定の再現性が向上する。このため、代謝量の変化量に対する形態変化量(腫瘍部の重量の変化量または腫瘍部の体積の変化量)の比の再現性が向上する。PET装置とX線Tが一体となったPET/CT装置で画像を撮像し、画像の重ね合わせは、撮像装置によって与えられる位置情報を用いて行っても良い。
本実施例は、実施例1に比べて注目領域情報の入力が1度で済むため、注目領域入力の精度及び再現性が向上する。また、本実施例は、実施例3に比べて一つの評価指標を提供することにより、腫瘍部の状態変化の把握を容易にする。なお、ステップ31〜33の処理を実施例1における実施例23の処理に置き換えることも可能である。これは、後述の実施例3においても同様行うことができる。その場合には、実施例2で生じる注目領域入力の精度及び再現性の向上という効果は得られない。
【実施例3】
【0033】
本発明の他の一実施例である医療用画像処理システムを、図5を用いて説明する。本実施例の医療用画像処理システムのハード構成は、実施例1と同じであり、図1に示すハード構成を有する。本実施例の医療用画像処理システム1は、図5に示された処理手順のプログラムをメモリ3に記憶している。本実施例の医療用画像処理システム1で実行される画像処理を、図5を用いて以下に説明する。図3に示す処理手順と異なる部分について詳細に説明する。実施例3は、注目領域内の局所領域毎に代謝量の変化量に対する形態変化量(腫瘍部の重量の変化量または腫瘍部の体積の変化量)の比を求める例である。
【0034】
本実施例においても、実施例2で実行されたステップ21,22,31〜33の各処理が実行される。本実施例では、ステップ33の処理が終了した後、ステップ34、24A〜28A,35及び29Aの各処理が順次実行される。ステップ33の処理が終了した後に、基準画像情報の注目領域内の画素の画素値、及び他の画像情報の注目領域内の対応する画素の画素値を取得する(ステップ34)。演算処理装置2は、基準画像情報(例えば、放射線治療前のX線CT画像情報)の注目領域内のある1つの画素の画素値、及びこの基準画像情報と重ね合わせを行った他の画像情報(例えば、放射線治療前のPET画像情報)の注目領域内の、前述の画素と重ね合わせにより対応付けられた他の画像の画素値を取得する。これらの画素値は対応付けられて、メモリ3に記憶される。基準画像情報、及びこの基準画像情報と重ね合わせを行った他の画像情報のそれぞれにおける注目領域は、複数の画素(局所領域)を含んでいる。他の画像情報の注目領域内で対応付けられた他の画素は、1画素でなく、複数の画素を対応付けてもよい。複数の画素が対応付けられる場合には、画素値として、それらの画素の画素値の平均値を用いてもよい。ステップ34の処理が終了した後、ステップ24A以降の各処理が順次実行される。なお、本実施例のステップ24Aでは、放射線治療開始前及びその治療終了後の各X線CT画像情報の各注目領域毎に、対応する各画素の重量を、該当するそれぞれの画素の画素値を用いて実施例1と同様に算出する。ただし、本実施例では画素値は1で固定されており、重量は実質的に画素値のみによって求められる。ステップ25Aでの重量の変化量の算出は、ステップ25でのその変化量の算出を上記の対応する各画素間で行うものである。ステップ26Aでの代謝量の算出は、ステップ26でのその算出を対応する画素毎に行うものである。すなわち、放射線治療開始前及びその治療終了後の各PET画像情報の各注目領域毎に、対応する各画素の重量を、該当するそれぞれの画素の画素値を用いて実施例1と同様に算出する。ステップ27Aでの代謝量の変化量の算出は、ステップ27でのその変化量の算出を上記の対応する画素間で行うものである。ステップ28Aでは、ステップ27Aで求めた画素の代謝量の変化量に対するステップ25Aで求めた画素の重量の変化量の比R1を算出する。得られた比R1は、該当する画素に対応する値である。注目領域内の全画素(全局所領域)に対して比R1が算出されたかを判定する(ステップ35)。この判定が「Yes」の場合、すなわち、注目領域内の全画素に対して比R1が算出された場合には、各画素に対して算出された各比R1の情報を表示装置に出力する(ステップ29A)。それらの比R1の情報は表示装置8に表示される。表示装置8に表示される画像情報は、X線CT画像情報及びPET画像情報のいずれかの画像情報またはそれらの画像情報を重ね合わせて得られた画像情報に、代謝量の変化量に対する重量の変化量の比R1に対応して色分けされた各画素の画像情報を合成して作成されている。ステップ29Aで表示装置8に出力される画像情報は、ステップ29Aで出力される前に演算処理装置2で作成される。本実施例において表示装置8に表示される画像情報が色分けされた各画素の画像情報を含んでいるので、その情報を見た医師は腫瘍部内での比R1の分布を知ることができる。ステップ35の判定が「No」の場合には、その判定が「Yes」になるまで、注目領域内の残りの画素に対してステップ24A〜28Aの処理が繰り返される。
【0035】
本実施例は、実施例2で生じる効果を得ることができる。本実施例は、画素の代謝量の変化量に対する画素の重量の変化量の比R1を求めているので、医師は画素レベル、すなわち局所領域レベルでの比R1を知ることができる。このため、実施例1及び2に比べて、医師は、腫瘍部内の局所領域(画素に対応した領域)毎に指標である比R1に基づいて放射線治療効果を診断することができる。このような本実施例は、より精度の良い放射線治療効果の判断指標を医師に対して提供することができる。本実施例は、放射線治療により腫瘍部の体積が減少していない場合でも、比R1が設定値以下に低下した、腫瘍部内で代謝機能が低下している領域(がん細胞が死滅した領域)を明瞭にすることができる。比R1に基づいて医師が残っている腫瘍(腫瘍部内で比R1が大きく代謝機能が活発な領域)に対して再度放射線治療が必要であると判断した場合には、本実施例で作成した各画素毎の比R1の情報を治療計画装置に入力し、治療計画装置によって再度実施する放射線治療に対する治療計画を作成する。この際、医師が各R1の情報に基づいて元の腫瘍部からがん細胞が死滅した領域を除外する指令を治療計画装置に入力することが可能になり、治療計画装置は元の腫瘍部において残った腫瘍の領域を対象にして治療計画を再度作成することができる。この治療計画の作成においては、元の腫瘍部において局所的な放射線照射領域を設定する必要がある。本実施例は、元の腫瘍部内の局所領域での比R1の情報を提供することができるので、がん細胞が死滅した領域を精度良く除外することができ、前述の局所的な放射線照射領域の再設定を容易に行うことができる。
【0036】
実施例1,2及び3において、各実施例とは逆の、重量の変化量(または体積の変化量)に対する代謝量の変化量の比を求めてもよい。これによっても、該当する前述の実施例で生じる効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の医療用画像処理システムの構成図である。
【図2】実施例1の演算処理装置で実行される画像処理手順のフローチャートである。
【図3】図1に示された表示装置に表示される情報の一例を示し、(A)は被検体の三次元画像情報及び三次元の注目領域画像情報の一例を示す説明図、(B)は代謝量の変化量に対する重量の変化量の比の情報の一例を示す説明図である。
【図4】実施例2で実行される画像処理手順のフローチャートである。
【図5】実施例3で実行される画像処理手順のフローチャートである。
【符号の説明】
【0038】
1…医療用画像処理システム、2…演算処理装置、3…メモリ、4…通信部、5…入出力部、6…キーボード、7…マウス、8…表示装置、10…画像サーバ、11…PET装置、12…X線CT装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療前の状態を反映した第1形態画像情報及び第1機能画像情報、及び放射線治療後の状態を反映した第2形態画像情報及び第2機能画像情報のそれぞれの画像情報に互いに対応する注目領域をそれぞれ設定し、前記第1及び前記第2形態画像情報の各注目領域のそれぞれに対する重量を求め、これらの重量に基づいて、前記第1形態画像情報の前記注目領域と前記第2形態画像情報の前記注目領域における重量の変化量を求め、前記第1及び前記第2機能画像情報の各注目領域のそれぞれの代謝量を求め、これらの代謝量に基づいて、前記第1機能画像情報の前記注目領域と前記第2機能画像情報の前記注目領域における代謝量の変化量を求め、前記代謝量の変化量と前記重量の変化量の比を求める演算処理装置と、
前記比の情報を表示する表示装置とを備えたことを特徴とする医療用画像処理システム。
【請求項2】
放射線治療前の状態を反映した第1形態画像情報及び第1機能画像情報、及び放射線治療後の状態を反映した第2形態画像情報及び第2機能画像情報のそれぞれの画像情報に互いに対応する注目領域をそれぞれ設定し、前記第1形態画像情報の前記注目領域内の複数の第1局所領域、及び前記第2形態画像情報の前記注目領域内の複数の第2局所領域のそれぞれに対する重量を求め、これらの重量に基づいて、各々の前記第1局所領域と前記第1の局所領域毎に対応する各々の前記第2局所領域に対するそれぞれの重量の変化量を求め、前記第1機能画像情報の前記注目領域内の複数の第3局所領域、及び前記第2機能画像情報の前記注目領域内の複数の第4局所領域のそれぞれに対する代謝量を求め、これらの代謝量に基づいて、各々の前記第3局所領域と前記第3局所領域毎に対応する各々の前記第4局所領域に対するそれぞれの代謝量の変化量を求め、各前記代謝量の変化量及び各前記重量の変化量のうち該当する前記代謝量の変化量及び前記重量の変化量に基づいて、該当する前記局所領域毎に前記代謝量の変化量と前記重量の変化量の比を求める演算処理装置と、
それぞれの前記比の情報を表示する表示装置とを備えたことを特徴とする医療用画像処理システム。
【請求項3】
放射線治療前の状態を反映した第1形態画像情報及び第1機能画像情報、及び放射線治療後の状態を反映した第2形態画像情報及び第2機能画像情報のそれぞれの画像情報に互いに対応する注目領域をそれぞれ設定し、前記第1及び前記第2形態画像情報の各注目領域のそれぞれに対する体積を求め、これらの体積に基づいて、前記第1形態画像情報の前記注目領域と前記第2形態画像情報の前記注目領域における体積の変化量を求め、前記第1及び前記第2機能画像情報の各注目領域のそれぞれの代謝量を求め、これらの代謝量に基づいて、前記第1機能画像情報の前記注目領域と前記第2機能画像情報の前記注目領域における代謝量の変化量を求め、前記代謝量の変化量と前記体積の変化量の比を求める演算処理装置と、
前記比の情報を表示する表示装置とを備えたことを特徴とする医療用画像処理システム。
【請求項4】
前記第1及び前記第2形態画像情報及び前記第1及び前記第2機能画像情報をそれぞれ記憶する記憶装置を備えた請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の医療用画像処理システム。
【請求項5】
前記演算処理装置は、第1形態画像情報及び第1機能画像情報への前記注目領域の設定を、前記第1形態画像情報及び前記第1機能画像情報を重ね合わせることによって得られた第1位置合わせ情報に基づいて行い、第2形態画像情報及び第21機能画像情報への前記注目領域の設定を、前記第2形態画像情報及び前記第2機能画像情報を重ね合わせることによって得られた第2位置合わせ情報に基づいて行う請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の医療用画像処理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−206556(P2008−206556A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43613(P2007−43613)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】