説明

医療用粒子および生理活性物質の捕捉方法

【課題】
ビオチン結合タンパク質化合物の固定化能力に優れ、かつ、卓上小型遠心機など汎用の設備で迅速・簡単に回収できる医療用粒子およびその医療用粒子を用いた生理活性物質の捕捉方法を提供すること。
【解決手段】
生理活性物質を捕捉する機能を有する医療用粒子であって、粒子状の基材の表面に、重合体が固定化されており、前記重合体は、側鎖に親水性基を有する第1繰り返しユニットと、側鎖の末端にビオチン誘導体を有する第2繰り返しユニットとを有することを特徴とする医療用粒子。ビオチン結合タンパク質を有する生理活性物質を選択的に捕捉し、それ以外の不要な生理活性物質や蛍光物質の吸着および結合を抑制することできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用粒子および生理活性物質の捕捉方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビオチンはビオチン結合性タンパク質と特異的に結合反応を生じることは古くから知られており、その結合力は抗原−抗体反応の100万倍以上と強く、ほとんど非可逆反応に近い結合性を示す。この特性を活かし、ビオチン−ビオチン結合タンパク質反応は、生化学分野における検出反応によく用いられる。
【0003】
ビオチンは分子量244の分子で分子末端にカルボシキル基を有することからヒドロキシスクシンイミドなどで活性エステル化することで簡便にアミノ残基を有する物質と結合でき、ビオチン標識することが可能となり、これらのことによりアビジン−ビオチン結合を用いた分子認識反応が広く用いられるようになった。
【0004】
一方ビオチン結合タンパク質で最も古くから利用されている物質はアビジンであり、アビジンは生卵白由来のタンパク質である。また、微生物であるStreptomyces avidiniiからストレプトアビジンが精製されるようになってからは、入手もしやすくなり、汎用されるようになった。また、アビジンを脱グリコシル化することでレクチン等、糖鎖との相互作用により発生する非特異吸着を抑えたニュートラアビジンが開発され、元来のアビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンと、ビオチン結合タンパク質群として機能タンパク質のグループを形成している。
【0005】
前記のようなビオチン−ビオチン結合タンパク質群の反応をより簡便に用い、生体物質固定化やそれを用いた免疫分析のための、種々のシステムが開発されているが、その多くはビオチン結合性タンパク質群を基材に結合させる方法が取られている。
【0006】
基材にビオチンを固定化させる系は、ビオチンを固定化して、その上にビオチン結合性タンパク質群を結合させるために使用されることが多い。
これは、ビオチン結合タンパク質が、ビオチンとの結合部位を1分子中に複数持つものもが多く(例えば、ストレプトアビジン1分子中に4箇所のビオチン結合部位)、基材上に固定化したビオチンに、ビオチン結合タンパク質を結合させた後、更に、ビオチンを含む生理活性物質等を捕捉させるためのものである。
例えば、特許文献1には、水不溶性ポリマー粒子にビオチンを固定化する方法が記載されている。これは、水不溶性ポリマー粒子にカゼイン分子を結合させ、該カゼイン分子をバインダーにしてビオチンを固定化する方法である。
【0007】
一方、特許文献2には、スライドグラス上にビオチン分子を固定化し、そのビオチン分子を介して、アビジン、更に、DNAのプローブ分子を固定化したビオチン分子を
基材−ビオチン−アビジン−ビオチン−プローブ
の順に固定化した生体分子マイクロアレイの作製方法が記載されている。
この方法も、特許文献2と同様に非特異吸着に対する対策が講じておられず、対象物が、夾雑物の場合等による、非特異吸着によるブックグランド値の上昇、S/N比の悪化に対応しきれないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−192186
【特許文献2】特開2002−153272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ビオチン化合物の固定化能力に優れ、かつ、卓上小型遠心機など汎用の設備で迅速・簡単に回収できる医療用粒子およびその医療用粒子を用いた生理活性物質の捕捉方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)〜(12)に記載の本発明により達成される。
(1)生理活性物質を捕捉する機能を有する医療用粒子であって、
粒子状の基材の表面に、重合体が固定化されており、
前記重合体は、側鎖に親水性基を有する第1繰り返しユニットと、側鎖の末端にビオチン誘導体を有する第2繰り返しユニットとを有することを特徴とする医療用粒子。
(2)前記第2繰り返しユニットは、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーの重合体の側鎖末端にビオチン誘導体を結合させたものである(1)に記載の医療用粒子。
(3)前記重合体が前記第1繰り返しユニットと前記第2繰り返しユニットとのランダム共重合体である(1)または(2)に記載の医療用粒子。
(4)前記第1繰り返しユニットと、前記第2繰り返しユニットとの共重合比(第1繰り返しユニット/第2繰り返しユニット)が、97/3〜50/50である(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の医療用粒子。
(5)ビオチン誘導体は、ビオチン末端カルボキシル基にアミノ基を導入し末端アミノ基修飾ビオチンである少なくとも一種以上である(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の医療用粒子。
(6)前記第1繰り返しユニットは、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーの重合体である(1)ないし(5)のいずれか1項に記載の医療用粒子。
(7)前記アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーが、下記式(1)で表されるモノマーである(6)に記載の医療用粒子。
【化1】

(8)前記粒子状の基材は、無機材料で構成されている(1)ないし(7)のいずれか1項に記載の医療用粒子。
(9)前記無機材料が、無機酸化物である(8)に記載の医療用粒子。
(10)前記無機酸化物が、酸化ケイ素である(9)に記載の医療用粒子。
(11)前記粒子状の基材表面にシランカップリング剤を介して導入された重合性官能基が、前記重合体合成時に重合体中に取り込まれることにより、前記粒子状の基材と前記重合体とが共有結合で固定化されている(1)ないし(10)のいずれか1項に記載の医療用粒子。
(12)(1)ないし(11)のいずれか1項に記載の医療用粒子を用いることを特徴とする、生理活性物質の捕捉方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ビオチン化合物の固定化能力に優れ、かつ、卓上小型遠心機など汎用の設備で迅速・簡単に回収できる医療用粒子および生理活性物質の捕捉方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の医療用粒子および生理活性物質の捕捉方法について説明する。
本発明の医療用粒子は、生理活性物質を捕捉する機能を有する医療用粒子であって、粒子状の基材の表面に、重合体が固定化されており、前記重合体は、側鎖に親水性基を有する第1繰り返しユニットと、側鎖の末端にビオチン誘導体を有する第2繰り返しユニットと、を有することを特徴とする。
また、本発明の生理活性物質の捕捉方法は、上記に記載の医療用粒子を用いることを特徴とする。
【0013】
本発明の医療用粒子は、生理活性物質を捕捉する機能を有するものである。具体的には、ビオチン結合タンパク質を捕捉する機能を有する医療用粒子に関するものであり、ビオチン−ビオチン結合性タンパク質の結合反応を利用するものである。さらに具体的には、ビオチン誘導体を結合させた基材にビオチン結合タンパク質を含む生理活性物質を捕捉させることにより、該生理活性物質と特異的に結合する生体分子を選択的に回収しうる粒子を得るものである。
ここで、生理活性物質とは、例えばビオチン結合タンパク質を含む生体分子、例えば、ビオチン結合タンパク質と結合した抗原、抗体、ペプチド、DNA、RNA、糖、レクチン等を挙げることができる。
【0014】
また、ビオチン結合タンパク質は、ビオチンとの結合部位を1分子中に複数持つものもが多く(例えば、ストレプトアビジン1分子中に4箇所のビオチン結合部位)、粒子上のビオチン誘導体に、ビオチン結合タンパク質を結合させた後、更に、ビオチン結合性タンパク質を結合させた粒子にビオチンを含む生理活性物質を捕捉させることにより、該生理活性物質と特異的に結合する生体分子を選択的に回収しうる粒子を得るものである。
ここで、生理活性物質とは、例えばビオチンを含む生体分子、例えば、ビオチン化した抗原、抗体、ペプチド、DNA、RNA、糖、レクチン等を挙げることができる。
【0015】
前記粒子状の基材は、特に限定されるものではなく、有機材料、無機材料を問わず用いることができる。有機材料としては、例えばアフィニティクロマトグラフィーの担体として用いられる多孔性のアガロース粒子(商品名:Sepharose)、デキストラン粒子(商品名:Sephadex)の他に、ポリアクリルアミドゲル(商品名:Bio−Gel P、バイオラッド社)、ポリスチレン、エチレン−無水マレイン酸共重合物、ポリメタクリル酸メチル等の粒子が挙げられる。
【0016】
また、無機材料としては、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム、鉄、銅、コバルト、およびこれらの合金や無機酸化物等が挙げられる。これらの中でも無機酸化物が粒子自体の強度が高い点で好ましい。中でも、酸化ケイ素が取り扱いやすく最も好ましい。
【0017】
前記粒子状の基材の平均粒径は、目的および用途に応じて適宜選択される。特に、無機物の場合、粒径の制御が困難な乳化重合や懸濁重合で有機物の粒子を製造する方法に比較して、粒径の制御が容易である。
具体的に、本発明の医療用粒子に用いる基材の粒径としては、用途によっても異なるが、平均粒径が数nm〜100μm程度のものが好ましい。特には、100nm〜50μmが好ましく、最も1μm〜40μmが好ましい。前記基材の平均粒径が前記範囲内であると、特に生理活性物質の捕捉量とハンドリングの良さとのバランスに優れる。
このような平均粒径は、例えば粒度分布計で測定することができる。
【0018】
前記粒子状の基材の表面には、重合体が固定されている。この重合体は、ビオチン誘導体を効率良く、かつ簡易に粒子状基材に結合することを可能とするものである。さらに、このビオチン誘導体と反応する別の物質(検出対象以外のタンパク質等)の非特異吸着を効果的に抑制するものである。
【0019】
前記重合体は、側鎖に親水性基を有する第1繰り返しユニットと、側鎖の末端にビオチン誘導体を有する第2繰り返しユニットと、を有する。すなわち、側鎖に親水性基を有する第1繰り返しユニットが、検出対象以外のタンパク質等の非特異吸着を抑制し、側鎖の末端にビオチン誘導体を有する第2繰り返しユニットがビオチン結合生理活性物質を捕捉することができるものである。
【0020】
前記側鎖に親水性基を有する第1繰り返しユニットは、例えばアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー、ホスホリルコリン基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー等に由来するものである。これらの中でもアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーに由来するものが好ましい。これにより、血清中に含まれるタンパク質の非特異吸着を大きく抑制することができる。
【0021】
具体的にアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーは、下記式(1)で示されるように、(メタ)アクリル基と炭素数1〜10のアルキレングリコール残基Yの連鎖からなる化合物であることが好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
前記式(1)中のアルキレングリコール残基Yの炭素数は1〜10であり、好ましくは1〜6であり、より好ましくは2〜4であり、更に好ましくは2〜3であり、最も好ましくは2である。炭素数が前記範囲内であると、特に非特異吸着の抑制に優れる。
また、アルキレングリコール残基Yの繰り返し数qは、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜100の整数であり、より好ましくは2〜100の整数であり、更に好ましくは2〜95の整数であり、最も好ましくは20〜90の整数である。 前記繰り返し数qが前記範囲内であると、特に非特異吸着の抑制に優れる。
なお、繰り返し数qが、2以上100以下の場合は、繰り返されるアルキレングリコール残基Yの炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。
【0024】
前記アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーとしては、具体的にはメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びその水酸基の一置換エステル、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及びその水酸基の一置換エステル、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールを側鎖とする(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられるが、目的とする生理活性物質以外の成分の非特異的吸着が少ないこと及び入手性からメトキシポリエチレングリコールメタクリレートまたはエトキシポリエチレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0025】
また、側鎖の末端にビオチン誘導体を有する第2繰り返しユニットのビオチン誘導体は、生理活性物質に結合したビオチン結合タンパク質と特異的に反応する分子が好ましい。
また、ビオチン結合タンパク質は、具体的にはアビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンが好ましい。ビオチンと前記アビジン類との相互作用は非常に強く、特異性も高いためである。また、低分子であるビオチンを生理活性物質へ導入する事も容易な為、物質固定化の為の強力なツールとすることができる。
【0026】
前記第2繰り返しユニットは、例えば側鎖にアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーや側鎖にグリシジル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー等に由来し、さらに側鎖の先端に上述したビオチン結合性タンパク質を結合したものが挙げられる。これらの中でも、側鎖にアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーに由来するユニットにビオチン結合性タンパク質を結合したものが好ましい。これにより、非特異吸着をより抑制することができる。
【0027】
また、第2繰り返しユニットは、下記式(2)で示されるモノマーに由来するユニットのWを用いてビオチン結合性タンパク質を固定化したものであっても良い。
【0028】
【化2】

【0029】
式(2)中のWは、活性エステルであり、具体的には例えばp−ニトロフェニル活性エステル基、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基、フタル酸イミド活性エステル基、5−ノルボルネン−2、3−ジカルボキシイミド活性エステル基等が挙げられるが、中でもp−ニトロフェニル活性エステル基又はN−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基が好ましく、p−ニトロフェニル活性エステル基が最も好ましい。これにより、ビオチン誘導体と、活性エステルの反応性を向上することができ、第2繰り返しユニットの側鎖の末端にビオチン誘導体を配置することが容易となる。
【0030】
前記重合体の前述した第1繰り返しユニットと、第2繰り返しユニットとの共重合比(第1繰り返しユニット/第2繰り返しユニット)は、特に限定されないが、97/3〜50/50であることが好ましく、特に95/5〜70/30であることが好ましい。共重合比が前記範囲内であると、特に非特異吸着を効果的に抑制するとともに、ビオチン化合物の捕捉効果に優れる。
前記共重合比は、例えばX線光電子分光分析(XPS)で元素組成を評価することで算出できる。
【0031】
前記重合体は、第1繰り返しユニットと第2繰り返しユニットを含むランダム共重合体であることが好ましい。これにより、第2繰り返しユニットの側鎖の末端に存在するビオチン誘導体が分散するために、有効に作用することができる。
【0032】
前記重合体の重量平均分子量は、特に限定されないが、5000〜1000000であることが好ましく、特に10000〜100000であることが好ましい。重量平均分子量が前記範囲内であると、合成時のハンドリングがよく、また、非特異吸着を効果的に抑制することができる。
【0033】
本発明の医療用粒子では、前記第1繰り返しユニット、前記第2繰り返しユニット、および側鎖にシランカップリング剤を有するユニットからなる重合体が、前記基材にシランカップリング剤を介して結合されていても良い。これにより、ポリマーがビーズから脱離するのを防ぐことができる。
【0034】
前記側鎖にシランカップリング剤を有するユニットとしては、メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシランに由来するものが挙げられる。
【0035】
シランカップリング剤により、粒子に結合した重合体を形成する具体的な方法としては、無機酸化物の場合は、表面に存在する水酸基との間のカップリング反応で容易に結合させることができる。
【0036】
前記シランカップリング剤を用いることで、ポリマーがビーズから脱離することを防ぐことができることから、医療用粒子しての使用において、繰り返される加熱処理や、洗浄工程において、ポリマーの溶解を防ぐことが可能であり、さらに、ポリマーの脱離に伴い発生する、非特異吸着の劣化が抑制され、化学的、物理的安定した医療用粒子を提供することが可能となる。
また、検出対象以外のタンパク質等に対する非特異吸着が少なく、かつ、検出対象は、ビオチン誘導体とビオチン結合タンパク質の高い反応性により、粒子表面に捕捉することが可能であるので、S/N比の高い医療用粒子を提供することができる。
【0037】
(重合体固定ビーズの作製)
前記重合体固定ビーズの作製について述べる。本発明のビーズの合成方法は、特に限定されるものではないが、合成の容易さから、ビーズ粒子表面に、重合性官能基を有するシランカップリング剤を固定化し、前記のビオチン結合タンパク質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー、および該ビーズを含む混合物を、重合開始剤存在下、溶媒中でラジカル重合することが好ましい。
溶媒としてはそれぞれのエチレン系不飽和重合性モノマーが溶解するものであればよく、例えば、2−ブタノン、メタノール、エタノール、t−ブチルアルコール、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルムなどを挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
重合開始剤としては通常のラジカル開始剤ならいずれでもよく、例えば、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル(以下「AIBN」という)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1 −カルボニトリル)などのアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリルなどの有機過酸化物などを挙げることができる。
本発明の高分子化合物の化学構造は、その結合方式がランダム、ブロック、グラフトなどいずれの形態をなしていてもかまわない。
【0038】
(ビオチン誘導体の固定化)
本発明において、基材に固定化するビオチン誘導体は、ビオチン結合タンパク質誘導体と特異的に反応するビオチン分子が好ましく、特に末端アミノ基修飾ビオチンが好ましい。例えば、Biotinyl−3,6,9−trioxaundecanediamine、Amine−PEO−Biotyne、Amine−PEG2−Biotyne、Amine−PEG3−Biotynなどの分子があげられる。これらの分子の特徴は、ビオチンと末端のアミノ基の間にPEOやPEGなどのスペーサーを有していることで、これは、ビオチンを固定化した際に、基材との間にある程度の距離を持たせて、それによりビオチン−ビオチン結合タンパク質の相互作用において立体障害による結合不足を解消する狙いがある。
【0039】
本発明においてビオチン誘導体をビーズ上に固定化する際には、ビオチン誘導体を溶解又は分散させた液体を付着する方法が好ましい。ビオチン誘導体を溶解又は分散した液体は、前記試薬により水溶性溶媒、有機溶媒または両溶媒の混合物を用いることができる。水溶性溶媒の場合、pHは5.0〜11.0であることが好ましく、pH6.0〜10がより好ましい。この範囲外だと、基材、ポリマーおよびビオチン誘導体が変性するおそれがある。
【0040】
また、有機溶媒を用いる場合には、第二繰り返しユニットのビオチン誘導体を結合させる官能基と反応を起さないものであれば特に限定しないが、メタノールやエタノールのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、トルエン、ベンゼンなどの非極性溶媒があげられるが、ビーズやビーズ表面の高分子物質が侵されないことが必要であるので、アルコール類やジメチルスルホキシドを用いることが好ましい。
ビーズへのビオチン誘導体の固定化反応が終了したら、ビーズを洗浄して未反応物を除去する。洗浄剤としては特に限定するものではないが、純水や各種緩衝液、メタノールやエタノールなどのアルコールなどが好ましい。
【0041】
(生理活性物質の捕捉)
ビーズ上に固定化したビオチン誘導体を用いて捕捉する生理活性物質は、ビオチン結合タンパク質と結合している必要がある。
一方、ビオチン結合タンパク質のみをビーズ上に固定化したビオチン誘導体と結合させた後、更にビオチン誘導体と結合させた生理活性物質を捕捉させることも可能である。
【0042】
(ビオチン結合タンパク質の修飾により捕捉する生理活性物質の構造)
捕捉する生理活性物質は、ビオチン結合タンパク質により修飾する必要がある。
この反応は、市販の二官能性の架橋剤を用いることで簡単に作製可能である。
市販の二官能性の架橋剤としては、たとえば、グルタルアルデヒド、ピアースバイオテクノロジー社製のBASED、DSS、N-[κ-Maleimidoundecanoyloxy]-Sulfosuccinimide Ester、N-Succinimidyl Iodoacetate、Succinimidyl-6-[(β-Maleimidopropionamido)Hexanoate]を好適に用いることができる。
【0043】
(ビオチン修飾により捕捉する生理活性物質の構造)
まず、第一段階として、ビーズ表面に固定化されたビオチン誘導体にビオチン誘導体を捕捉させる必要がある。この捕捉反応は、一般的なビオチンーアビジン反応条件で間単に作製可能である。
続いて、捕捉する生理活性物質にビオチン又はビオチン誘導体を、一般的な方法で導入する事で、基材表面に捕捉されたビオチン結合タンパク質によって、効果的に目的の生理活性物質を固定化する事が可能となる。より反応性を高める為に、ビオチン又はビオチン誘導体の導入位置は生理活性物質の末端や外側であることが望ましい。生理活性物質の合成法が進歩してきた事で、任意の位置にビオチン又はビオチン誘導体を導入できるようになってきており、生理活性を発現する為に重要な部位に影響を及ぼさないような位置で生理活性物質を担体表面に固定化することが可能である。
ビオチンまたはビオチン誘導体を導入する一般的な方法としては、市販のビオチン標識キット(例えば、同人化学製、Dojin Labling Kit)を用いて生理活性物質をビオチン標識することが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
(ビオチンビーズの作製)
メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン(Gelest社製SIM6486.5)13gをpH3.0の酢酸水溶液50mLとエタノール50mLとの混合液に添加し、シランカップリング剤を加水分解した後に、シリカビーズ(平均粒径5μm、細孔径70Å、富士シリシア化学株式会社製SMB70−5)10gを投入し70℃で2時間攪拌した後、吸引ろ過により反応溶液からシリカビーズを回収し、100℃で1時間加熱した。その後、エタノールで分散させてよく振盪した後、遠心分離により上澄みを除去し乾燥させた。
【0046】
数平均分子量Mn=約475のポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(別名メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、以下PEGMA475と記載、Aldrich社製)、p−ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングルコールメタクリレート(MEONP)をエタノールに溶解させ、モノマー混合溶液を作製した。総モノマー濃度は0.2mol/L、それぞれのモル比はPEGMA475、MEONPの順に90:10、80:20、70:30である。そこにAIBNを0.004mol/Lになるように添加し、均一になるまで撹拌した。その後、上記のメタクリロキシプロピルジメチルメトキシシランで処理したシリカビーズ10gを投入し、アルゴンガス雰囲気下、70℃で22時間反応させた。次いで、遠心分離により反応溶液からシリカビーズを回収し、ジメチルスルホキシドに分散させ、よく振盪した後、吸引ろ過によりビーズを回収し、乾燥させた。
【0047】
得られたシリカビーズ約100mgを0.5mg/mLのビオチン溶液(PIERCE製EZ-Link Biotin-LC-PEO-AmineをDMSOで希釈)と混合し37℃で4時間処理した後、遠心分離により上澄みを除去し、純水で分散させ、遠心分離により上澄みを除去する操作を3回行い、さらに0.1mol/Lの2−アミノエタノール(溶媒:pH9.5、0.05mol/LのTris−HCl緩衝液)で室温下、1時間処理し、MEONPの不活性化を行った。 遠心分離により上澄みを除去した後、純水で分散させ、遠心分離により上澄みを除去する操作を3回行い乾燥させた。また、ビオチンを固定化せず、ポリマーコートと不活性化のみを上述の方法で行ったビーズを作製した。
【0048】
(ビオチンビーズおよび不活化ビーズの測定)
得られたシリカビーズ(ビオチン固定化ビーズおよび不活化のみ行ったビーズ)各1mgに5μg/mLに調整したHRP標識化ストレプトアビジン(CHEMICON INTERNATIONAL製STREPTAVIDIN,HRP CONJUGATEDをPBSで希釈)270μLを投入し、室温で30分間攪拌した後、遠心分離により上澄みを除去した。次いで、0.05%の濃度でTriton×100を含むPBSを投入し、よく分散させた後、遠心分離により上澄みを除去する操作を5回繰り返し、フィルターユニット(MILLIPORE社製Ultrafree−MC)を用いてシリカビーズを回収した。回収したシリカビーズにTMBZ溶液(住友ベークライト株式会社製ペルオキシダーゼ用発色キットより調製し使用)を加え室温で15分間攪拌することによりTMBZとシリカビーズ表面のHRP標識化ストレプトアビジンとを反応をさせた後、反応停止液(住友ベークライト株式会社製ペルオキシダーゼ発色キットより使用)を加え反応を停止させた。その後、フィルターユニットによりシリカビーズと反応液を分離し、反応液における450nmの吸光度を測定した。この吸光度は、上記操作においてビオチン固定化ビーズを使用した場合には、主としてシリカビーズに特異的に捕捉されたHRP標識化ストレプトアビジンの量が反映され、不活化ビーズを使用した場合には、主としてシリカビーズに非特異的に吸着されたHRP標識化ストレプトアビジンの量が反映される。
【0049】
(比較例1)
前記アビジンビーズの作製と同様の方法で、PEGMA475とMEONPとの比率を、順に99:1、20:80に変更したものを作製した。前記と同様、ビオチン化ビーズと不活化ビーズに対してHRP標識化ストレプトアビジンの特異的捕捉評価および非特異的吸着量評価を行った。
【0050】
(比較例2)
シリカビーズ(平均粒径5μm、細孔径70Å、富士シリシア化学株式会社製SMB70−5)に実施例1の処理の施さずそのまま用い、ビオチン化ビーズと不活化ビーズに対してHRP標識化ストレプトアビジンの特異的捕捉評価および非特異的吸着量評価を行った。
【0051】
表1には実施例1、比較例1及び2のビオチン固定化ビーズおよび不活化ビーズに対する、HRP標識化ストレプトアビジンによる450nmの吸光度を示した。表より明らかなように、本発明の粒子は、比較例1および2のビーズに比較して、ビオチン固定化ビーズに対するHRP標識化ストレプトアビジンによる吸光度(1)と不活性化ビーズに対するHRP標識化ストレプトアビジンによる吸光度(2)との比((1)/(2))が大きく、より選択的に目的とするストレプトアビジンを捕捉できていることがわかる。
【0052】
表1

【0053】
(実施例2)
(アビジン固定化ビーズの作製)
実施例1で作製したビオチン化ビーズ各約37mgを50μg/mLのアビジン溶液(PIERCE製NeutrAvidinTMBiotin−Binding Proteinをリン酸緩衝液(PBS)で希釈)1mLと混合し37℃で4時間処理した。次いで、遠心分離により上澄みを除去した後、0.05%の濃度でTween20を含むリン酸緩衝液(PBST)で分散させ、遠心分離により上澄みを除去する操作を3回行い、さらにPBSで分散させ、遠心分離により上澄みを除去する操作を1回行った。
【0054】
(アビジン固定化ビーズの測定)
得られたシリカビーズ1mgにアビジンと特異的に結合する5μg/mLのビオチン標識化HRP溶液(Zymed Laboratories,Inc.製Biotinylated PeroxidaseをPBSで200倍に希釈)270μL、または5μg/mLのHRP標識化抗体溶液270μLを投入し、室温で30分間攪拌した後、遠心分離により上澄みを除去した。次いで、0.05%の濃度でTriton×100を含むPBSを投入し、よく分散させた後、遠心分離により上澄みを除去する操作を5回繰り返し、フィルターユニット(MILLIPORE社製Ultrafree−MC)を用いてシリカビーズを回収した。回収したシリカビーズにTMBZ溶液(住友ベークライト株式会社製ペルオキシダーゼ用発色キットより調製し使用)を加え室温で15分間攪拌することによりTMBZとシリカビーズ表面に特異的に捕捉されたビオチン標識化HRP、又は非特異的に吸着したHRP標識化抗体とを反応をさせた後、反応停止液(住友ベークライト株式会社製ペルオキシダーゼ発色キットより使用)を加え反応を停止させた。その後、フィルターユニットによりシリカビーズと反応液を分離し、反応液における450nmの吸光度を測定した。この吸光度には上記操作においてビオチン標識化HRP溶液を投入した場合には、主としてシリカビーズに特異的に捕捉されたビオチン標識化HRPの量が反映され、HRP標識化抗体溶液を投入した場合には、主としてシリカビーズに非特異的に吸着されたHRP標識化抗体の量が反映される。
【0055】
(比較例3)
実施例1で作製した不活化ビーズに対して実施例2と同じ操作を行った。
【0056】
表2には実施例2、比較例3のビーズに対する、特異的捕捉評価および非特異的吸着量評価における450nmの吸光度を示した。表より明らかなように、本発明の粒子は比較例3のシリカビーズに比較してビオチン標識化HRPによる吸光度(1)とHRP標識化抗体による吸光度(2)との比((1)/(2))が大きく、より選択的に目的とするタンパク質を捕捉できていることがわかる。
【0057】
表2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質を捕捉する機能を有する医療用粒子であって、
粒子状の基材の表面に、重合体が固定化されており、
前記重合体は、側鎖に親水性基を有する第1繰り返しユニットと、側鎖の末端にビオチン誘導体を有する第2繰り返しユニットとを有することを特徴とする医療用粒子。
【請求項2】
前記第2繰り返しユニットは、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーの重合体の側鎖末端にビオチン誘導体を結合させたものである請求項1に記載の医療用粒子。
【請求項3】
前記重合体が前記第1繰り返しユニットと前記第2繰り返しユニットとのランダム共重合体である請求項1または2に記載の医療用粒子。
【請求項4】
前記第1繰り返しユニットと、前記第2繰り返しユニットとの共重合比(第1繰り返しユニット/第2繰り返しユニット)が、97/3〜50/50である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の医療用粒子。
【請求項5】
ビオチン誘導体は、ビオチン末端カルボキシル基にアミノ基を導入し末端アミノ基修飾ビオチンである少なくとも一種以上である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の医療用粒子。
【請求項6】
前記第1繰り返しユニットは、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーの重合体である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の医療用粒子。
【請求項7】
前記アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーが、下記式(1)で表されるモノマーである請求項6に記載の医療用粒子。
【化1】

【請求項8】
前記粒子状の基材は、無機材料で構成されている請求項1ないし7のいずれか1項に記載の医療用粒子。
【請求項9】
前記無機材料が、無機酸化物である請求項8に記載の医療用粒子。
【請求項10】
前記無機酸化物が、酸化ケイ素である請求項9に記載の医療用粒子。
【請求項11】
前記粒子状の基材表面にシランカップリング剤を介して導入された重合性官能基が、前記重合体合成時に重合体中に取り込まれることにより、前記粒子状の基材と前記重合体とが共有結合で固定化されている請求項1ないし10のいずれか1項に記載の医療用粒子。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の医療用粒子を用いることを特徴とする、生理活性物質の捕捉方法。

【公開番号】特開2012−93290(P2012−93290A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242167(P2010−242167)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】