説明

医療用粒子線照射装置

【課題】ガントリ胴体の小型化と同時に、ガントリ胴体内の回転照射室スペース及び照射室よりさらに奥行き側のII管装置周囲のスペースを確保し、広範囲は回転角度おいて回転照射室を構成する水平な床を安定に形成する構造を提案する。
【解決手段】筒状の一部に粒子線を出射する粒子線照射部が設置された回転ガントリと、回転ガントリの内部に、粒子線照射部9の通過領域より奥側に設置された後面パネル16と、回転ガントリの外部より筒状内部側に挿入され、粒子線照射部9の通過領域までは達しない固定床17と、後面パネル16と固定床16との間に配置された移動床機構20とを備え、移動床機構20と固定床17により下側を実質的に水平に維持する床を形成し、回転ガントリ内部において後面パネル16により奥行きを指定した粒子線治療用の粒子線治療室18を形成する医療用粒子線照射装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用粒子線照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、放射線による癌治療においては、正常細胞に比較的障害を与えずに治療することができる粒子線(例えば、陽子線)が注目されている(以下の説明では、これら陽子線などの粒子線や放射線などを含め、粒子線として説明する)。
【0003】
かかる粒子線を用いた粒子線治療用回転照射室の一例が、例えば以下の特許文献1に記載されている。
この特許文献1に記載された粒子線治療用回転照射室では粒子線照射部を挟んで、それぞれ下側が水平な蒲鉾型(半円形状)の通路を形成した固定側リングレールと移動側リングレールを対向させて配置している。これら固定側リングレールと移動側リングレールの間にある蒲鉾型(半円形状)通路内にその両端を挿入して、屈曲自在な構造の移動床を渡し、もって断面蒲鉾(半円)状の室を形成している。そして、蒲鉾型(半円形状)通路内に挿入して配置された屈曲自在な構造の移動床を、粒子線照射部の回転と同期して移動させるようになっている(クローラ型)。
【0004】
照射室の奥行きは、移動側リングレールを設置する後面パネルにより指定している。更に粒子線照射部を回転する場合、回転ガントリに設けた駆動モータによって粒子線照射部の回転方向と逆方向にその回転量と同じ量だけ移動側リングレールを回転させる。これにより、固定側リングレールと移動側リングレールとの対向位置関係を維持しながら回転ガントリが回転しても、治療台及び粒子線照射部にアクセスするための床(移動床)を常に水平に保つことことが可能となっている。
【0005】
また、前述の特許文献1の従来技術として、他の回転照射室を形成する方法についても記載されている。
即ち、この粒子線治療用回転照射室では治療台が固定されている建屋側から見て粒子線照射部よりも奥側の回転カプセル内に設置された後面パネルにより室の奥行き空間が形成されている。この空間内に建屋側に固定された治療台であるベッド駆動装置の台の下に位置する床下側の壁面からデッキ駆動装置及び駆動装置により回転軸方向に重ね合わせられた床面の一部を引き出して、床面を広げるタイプの張り出しデッキと称される開閉式床を挿入できるような室が形成されている。また、張り出しデッキは照射装置の通過を避けるために開動作するとベッド駆動装置が設置された建屋側へ床が移動し、固定されている床板と移動してきた床板が重ねられる状態となり、閉動作すると重ねられていた床板が照射室側へ移動するようになっている。
【0006】
また、他の粒子線治療用回転照射室の一例としては、例えば特許文献2に記載されている。
特許文献2に記載の粒子線治療用回転照射室では、開閉式床を駆動する駆動機構を有する開閉機構が回転照射部の通過領域よりもさらに奥行き側(II管装置の周囲)のフレーム内部に配置され、開閉機構のベースに取り付けられたローラにより回転ガントリが回転してもローラの転動と開閉機構の自重によりフレーム内部の最下部に位置するようになっている。また、開閉式床は開閉機構上で回転ガントリの回転軸方向にスライドする構造となり、開動作時には回転照射部の通過領域よりもさらに奥行き側に収納され、閉動作時には先端に設けられた位置決めピンにより建屋側の治療台ベースに接続される構造となっている。さらに、開閉式床は細分化されており、少なくとも一つが治療台ベースと接続される。回転照射室としては、奥行きを決定する回転ガントリと共に回転する回転パネル及び開閉機構に固定された固定壁,回転ガントリと共に回転するフレーム内壁に固定された回転壁、さらには開閉式床によって断面蒲鉾型(半円形状)の室が形成されている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−47287号公報
【特許文献2】特開2001−259058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した従来技術、特に上記の特許文献1のクローラ型によれば、回転ガントリの回転にもかかわらず、治療台や粒子線照射部にアクセスするための床(移動床)を常に水平に維持することが可能である。しかしながら、対向配置された固定側リングレールと移動側リングレール区間において回転ガントリの内側のほぼ全周面に移動床を配置し回転照射室を形成するため、回転照射室とガントリ胴体との間に隙間が生じてしまう。その結果、一定の広さの回転照射室を確保する場合、ガントリ胴体が大型化するという問題があった。また、移動側リングレールを回転ガントリの回転と同期して回転させる必要があり、構造が複雑となりメンテナンス性が悪くなるという問題があった。
【0009】
一方、上記の特許文献1の張り出しデッキタイプによれば、ガントリ胴体内部に水平床形成機構を設けないためガントリ胴体を大型化しないでも、一定のガントリ胴体内部の照射室スペースが確保される。しかしながら、張り出しデッキ及びその駆動装置を建屋側に固定された治療台であるベッド駆動装置の台の下に位置する床下側の壁面に設置し、動作干渉性よりベッド駆動装置内に張り出しデッキの一部を挿入することは出来ないため、デッキ奥行き方向(後面パネル側)への張り出し量が制限されてしまうことになる。その結果、すべての回転角度において照射室を形成する床面積が不足し、治療室内で作業する場合のメンテナンス性及び安全性が悪くなるという問題があった。
【0010】
さらに、上記特許文献2の開閉式床機構に関しては、開閉式床を回転ガントリの回転によらず下側のみに配置するため、フレーム内壁に固定された回転壁があるにしても、床部以外の回転照射室とガントリ胴体との隙間は小さくなってしまう。その結果、一定の広さの回転照射室を確保する場合にガントリ胴体は大型化しない。しかしながら、開閉機構が回転照射部の通過領域よりもさらに奥行き側(II管装置の周囲)のフレーム内部に配置されることになる。したがって、II管装置の周囲のスペースが狭くなってしまうことから、照射室より奥側のガントリ胴体内部の装置同士が密集しメンテナンス性が悪くなり、最悪の場合にはガントリ胴体が大型化するという問題があった。
【0011】
また、閉動作時には開閉式床の先端に設けられた位置決めピンが建屋側の治療台ベースに設けられた位置決め穴に接続されて床が形成されるが、開閉式床のスライド量が大きく、さらに開閉機構のラジアル位置制御がローラの転動と開閉機構の自重のみであるため、位置決めピンの挿入安定性が悪いという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、ガントリ胴体の小型化と同時に、ガントリ胴体内の回転照射室スペース及び照射室よりさらに奥行き側のII管装置周囲のスペースを確保し、広範囲な回転角度(±150度程度)において回転照射室を構成する水平な床を安定に形成することが可能な医療用粒子線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、筒状の一部に粒子線を出射する粒子線照射部が設置された回転ガントリと、この回転ガントリの内部に前記粒子線照射部の通過領域より奥側に設置された後面パネルと、前記回転ガントリの外部より筒状内部側に挿入されて前記粒子線照射部の通過領域までは達しない固定床と、前記後面パネルと前記固定床との間に配置された移動床機構とを備えてなり、前記移動床機構と前記固定床により下側を実質的に水平に維持する床を形成し、前記回転ガントリ内部において前記後面パネルにより奥行きを指定した粒子線治療用の空間を形成することにより達成される。
【0014】
また上記目的は、前記移動床機構は、水平な床を形成するための床板と、前記床板を支持するフレームと、前記フレーム上における複数のガイドローラとを備え、前記回転ガントリの内周面上において前記粒子線照射部の回転方向に自在に転動することにより達成される。
【0015】
また上記目的は、前記移動床機構は、前記フレーム上に駆動ローラと、前記駆動ローラを駆動する駆動装置とを備え、さらに、前記ガイドローラ及び前記駆動ローラが通過するための、前記粒子線照射室内の前記回転ガントリの内壁円周上と、前記後面パネルの外周上にガイド溝を備えていることにより達成される。
【0016】
また上記目的は、前記移動床機構の床板は、床面上で回転軸に垂直な方向にスライドする構造とし、前記フレームとの結合部分で旋回可能な構造とすることにより達成される。
【0017】
また上記目的は、前記移動床機構は、前記固定床と面している前記フレーム上にテーパ穴を備え、さらに、前記固定床は、前記フレームに面した側にテーパピンと、前記テーパピンを駆動する手段とを備え、前記テーパ穴に前記テーパピンを出し入れ出来る構造を備えることにより達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガントリ胴体の小型化と同時に、ガントリ胴体内の回転照射室スペース及び照射室よりさらに奥行き側のII管装置周囲のスペースを確保し、広範囲な回転角度(±150度程度)において回転照射室を構成する水平な床を安定に形成することが可能な医療用粒子線照射装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施例を添付した図にしたがって説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の第1の実施例(実施例1)になる医療用粒子線照射装置の構造について、添付の図1〜図6を参照しながら説明する。
【0021】
図1(a)は本発明の第1の実施例を備えた医療用粒子線照射装置あり、特に回転ガントリの回転軸に沿った側面図である。
図1(b)は(a)の回転軸に垂直な方向から見た側面図である。
図1(a)(b)において、回転ガントリはリアリング2及びフロントリング3を有する略筒状のガントリ胴体1(回転体)と、このガントリ胴体1を回転させるガントリ回転モータ7(回転装置)とを備えている。なお、このガントリ胴体1は、その一端部に設けられた上記リアリング2とフロントリング3において、回転可能に設けられた複数のサポートロールからなる建屋5に固定されたラジアル支持装置6によって支持されている。
【0022】
また、このガントリ胴体1の外部には360度回転する回転ガントリ内へ配線,配管を供給するケーブルベア4,偏向電磁石等の電磁石を搭載したビーム輸送装置8,回転に伴う回転ガントリ全体の重心位置を補正するためのバランスウエイト10が設けられている。更に、照射ビームを患部形状に合わせて調節する粒子線照射部9がその内部に延長して設けられている。これらは回転ガントリ(ガントリ胴体1)の回転に伴って回転する。また、粒子線照射部9にはその両端部に衝撃吸収体11が設けられており、回転ガントリの回転中に移動床板機構20との接触に備えている。
【0023】
一方、ガントリ胴体1の内部には、粒子線治療を行うための粒子線治療用照射室18が構成されている。即ち、この粒子線治療用照射室18は例えば医療技師が作業するための閉空間を与えるものであり、作業員の足場を確保するため回転ガントリ(ガントリ胴体1)の回転にかかわらず、その下面を水平に保っている。また、照射室18の奥行き側を閉止する後面パネル16よりさらに奥にII管装置15が設置され、回転ガントリ(ガントリ胴体1)の回転に伴って回転する。このII管装置15は患部の位置決めの際に照射室18内に突き出る構造となっている。
【0024】
照射室18には治療台12が建屋5側より挿入され、治療台12に乗せられた患者の患部に粒子線照射部9より粒子線が照射される。この治療台12は建屋5に設置された治療台駆動装置14及び治療台位置制御装置13により、位置(変位・角度など)が制御される。
【0025】
さらに、治療台位置制御装置13側から照射室18へのアクセスには、後にも詳細に説明するが、治療台駆動装置14の壁面に設置された固定床17を使用する。
【0026】
次に、上記粒子線治療用照射室18の詳細を図2〜図6にしたがって説明する。
図2は照射室18全体の回転軸に沿う側面図である。
図3は移動床機構20の斜視図である。
図4は移動床機構20を下側より見た平面図である。
図5及び図6は移動床機構20のロック機構を示す概略図である。
各図において、図2からも明らかなように、粒子線治療用照射室18は移動床機構20及び固定床17で水平なアクセス床を構成し、粒子線照射部9を含む後面パネル16で仕切られたガントリ胴体1内の空間である。移動床機構20は照射室18内に配置され、後述の如く粒子線照射部9の回転運動方向に独立駆動可能な構造となっている。
【0027】
移動床機構20は図3及び図4に示すように、移動床板21a,21b,21c、ベース台22,側板フレーム23,天板フレーム24で主な骨格をなしている。“コの字”型のベース台22及び天板フレーム24のそれぞれ両端部を2枚の側板フレーム23で結合し、更に側板フレーム23と結合していない天板フレーム24の両端部と筒状の多数の移動床板21aを蝶番34により結合する。
【0028】
天板フレーム24を介さず隣合う多数の移動床板21aは実質同一平面をなすように、連結スロッド31で結合される。移動床板21aには更に、連結スロッド31で結合された、移動床板21aの寸法よりも一回り小さい筒状の多数の移動床板21bが挿入されている。挿入された移動床板21bは移動床板21a内でスライド可能な状態となり、そのスライド量を移動床板21a及び移動床板21bの一部に設置したリニアガイド28及びボールねじ29、更にはそれらを制御するアクチュエータ30を用いて制御される。
【0029】
同様にして、移動床板21cを移動床板21bに挿入してリニアガイド28,ボールねじ29、更にはアクチュエータ30でスライド量が制御される。また、移動床板21c群の両側先端部(天板フレーム24から離れた箇所)には、ガイドローラ25bが設けられている。また、側板フレーム23の外側面(ベース台22と結合した面の反対側の面)には、駆動ローラ25a及び複数のガイドローラ25bが取り付けられている。このうち、側板フレーム23の両側の駆動ローラ25aは駆動シャフト32により連結され、また駆動シャフト32途中には駆動ギア33が設けられる。この駆動ギア33にベース台22上に設置された制御可能な駆動装置26により発生した駆動力を伝達し、もって駆動ローラ25aの回転量が制御される。この移動床機構20は図2に示されているように、駆動シャフト32が回転軸と平行となるように、フロントリング3及び後面パネル16で区切られたガントリ胴体1の最下部周辺に配置されている。
【0030】
さらに図2に示すように、照射室18内における後面パネル16付近及びフロントリング3付近のガントリ胴体1の全周にガントリ胴体側ガイド溝27aが設けられている。更に、後面パネル16の全周には後面パネル側ガイド溝27bが設けられている。これらのガイド溝に移動床機構20の各ローラ(駆動ローラ25a,ガイドローラ25b)が挿入される。これにより、移動床機構20の運動方向を粒子線照射部9の回転運動方向と同一にすることを可能とする。
【0031】
一方、治療台駆動装置14の壁面にはフロントリング3に向かって、移動床機構20の移動床板21及び側板フレーム23付近まで固定床17を設置し、治療台位置制御装置13側より照射室18(移動床機構20)へのアクセスを可能としている。また、その形状は断面を半円を潰したような形状(上部が直線、下部が円弧)とし、円弧状の部分は移動床機構20の各ローラ25が通るガイドの役割も果たしている。
【0032】
固定床17にはテーパピン42及びアクチュエータ43が備えられ、アクチュエータ43によりテーパピン42がガントリ軸方向に伸縮可能な構造となっている。さらに、移動床機構20の側板フレーム23の外側面(ベース台22と結合した面の反対側の面)には、このテーパピン42に対応するテーパピン穴41が設けられ、これらの出し入れにより移動床機構20の位置を保持したり、若干の移動床板21の水平位置(移動床機構20の円周方向の位置)誤差を修正することが可能となる。
【0033】
図5(a)(b)にロック機構の詳細構造を示す。
図5(a)において、ロック時には移動床機構20が多少の円周方向に対して位置誤差があったとしても、前記テーパピン42とテーパピン穴41をテーパ構造としているため修正が可能である。またテーパピン42がテーパピン穴41に挿入されると、移動床機構20の運動が制限され、位置を保持可能となる。
【0034】
一方、図5(b)で示すアンロック時には、テーパピン42がテーパピン穴41より抜き出され、移動床機構20の駆動ローラ25aの駆動による運動が可能となる。なお、固定床17に設置するテーパピン42及びアクチュエータ43の配置を数箇所に設けることによって、移動床機構20をロック出来る範囲(回転角度)も増加できる。ロック機構としてはLSやエンコーダ情報を元にして圧空シリンダ駆動や電動とすることも可能である。
【0035】
さらに、図6(a)(b)で示すように、アクチュエータ43の代わりに圧縮ばね45を用い、機械的なピン引抜ドグ44をガントリ内周上に配置してリンクさせることも可能である。この場合、ノズル近傍のみリンクが外れる機構となる。
【0036】
図7(a)〜(c)は回転ガントリの回転に伴う照射室18の形成状況を示す図である。
図7(a)が回転角度0度、(b)が回転角度100度、(c)が回転角度130度、(d)が回転角度180度の場合である。
【0037】
図7において、回転角度が0゜から100゜まで(a⇒b)は、粒子線照射部9と移動床板21が干渉しないため、全ての移動床板21を用いて水平な床が形成される。ついで、回転角度100゜から130゜まで(b⇒c)は、片側の移動床板21をリニアガイド28,ボールねじ29更にはアクチュエータ30によりスライドさせ、折り畳むことにより、粒子線照射部9との干渉を回避する。この場合、折り畳まない方の移動床板21は水平な床が形成される。さらに、回転角度130゜から180゜まで(c⇒d)は、粒子線照射部9との干渉を避けるために、駆動ローラ25aにより側板フレーム23を移動させる必要がある。この時、粒子線照射部9から遠い方の移動床板21も折り畳み、スライド量を制御することにより、固定床17と鉛直方向に段差が生じるが水平な床を形成することが可能である。
【0038】
先にも記述したが、固定床17に設置するテーパピン42及びアクチュエータ43の配置を数箇所に設けることによって、回転角度130゜を超えた場合でも移動床機構20をロックすることが可能となり、安定な水平な床を形成することが出来る。また、テーパピン穴41が固定床17よりも上部に来る場合ではロック機構を使用することは出来ない。しかしながら移動床機構20のガイドローラ25bの全てがガイド溝27にはまっており、かつ駆動ローラ25a及び粒子線照射部9に取り付けられた衝撃吸収体11により移動床20の位置を固定し支持され、安定した水平な床部を形成することが可能である。
【0039】
上述したように本発明になる医療用粒子線照射装置によれば、回転ガントリの内部において図2に示すように粒子線照射部9の通過領域より奥側に設置された後面パネル16と、建屋5に設置された治療台駆動装置14の壁面からフロントリング3に向かって設置された固定床17と、後面パネル16と固定床17との間に配置された移動床機構20によって粒子線治療用照射室18が形成されている。
【0040】
移動床機構20は照射室18内に設けられた各種ガイド溝に沿って、回転ガントリの内周面上において粒子線照射部9の回転方向に転動可能な機構となっており、実質的に回転ガントリの下側のみ配置される。
【0041】
これにより、回転ガントリを大型化せずに、回転ガントリ内部の照射室18スペース及び照射室より奥行き側のII管装置15周囲のスペースを同時に確保することが可能となる。また、移動床機構20の移動床部21と、固定床17及び後面パネル16との隙間を小さくすることで床面積が確保され、照射室18内で作業する場合のメンテナンス性及び安全性を確保することが可能となる。
【0042】
また、移動床機構20の移動床板21を複数に分割し、リニアガイド28とボールねじ29を利用し床面上で回転軸に垂直な方向にスライドする構造としている。また移動床板21の一端部を天板フレーム24と図4に示す蝶番34で結合し旋回可能とし、他端部にガイドローラ25bを備え、照射室18内に設けられた各種ガイド溝27上を転がるようになっているため粒子線照射部9の回転方向に折り畳み可能な構造となっている。
【0043】
また、移動床機構20には駆動ローラ25a及び駆動装置26が備えられており、回転ガントリの内周面上を自在に転動することが可能となっている。これにより、粒子線照射部9と干渉する場合に移動床板21のみ若しくは移動床機構20全体を逃がすことできる。さらには選択的に水平な床面を形成することが可能となり、回転ガントリの回転にもかかわらず移動床機構20と固定床17により下側を実質的に水平に維持する床を形成することが可能となる。
【0044】
更に、移動床機構20と固定床17との隙間を狭くし、この間にテーパピン穴41及びテーパピン42によるロック機構を設けることで、移動床機構20の位置保持と若干の円周方向における位置誤差の修正を可能とすることができるばかりでなく、位置決めピンの挿入安定性の向上を図ることができる。
【0045】
以上のように、本発明の第1の実施例によれば、ガントリ胴体の小型化と同時に、ガントリ胴体内の回転照射室スペース及び照射室よりさらに奥行き側のII管装置周囲のスペースを確保し、回転によらず回転照射室を構成する水平な床を安定に形成することができる。よって、作業性をも含め、優れた医療用粒子線照射装置を実現することが出来る。
【実施例2】
【0046】
続いて、本発明の第2の実施例となる医療用粒子線照射装置を図8〜図12を参照しながら詳細に説明する。
なお、第2の実施例では移動床機構20以外の部分については、上記第1の実施の例と同一の構造を採用しているためその説明は省略する。
【0047】
図8は本発明の第2の実施例になる医療用粒子線照射装置であって、特に移動床機構20の全体構造を示す斜視図である。
図9は移動床機構20の揺り篭部分を示す斜視図である。
図10は移動床機構20の旋回部分を示す斜視図である。
図11は移動床板21を示した図である。
図12は、回転ガントリの回転に伴う照射室18の形成状況を示した図である。
なお、以下の説明においては第1の実施の例と同等の部分には同一の符号を付しているので、適宜その説明は省略する。
【0048】
図8において、移動床機構20は揺り篭部分と旋回部分と、さらには移動床板21の3つの部分より構成される。揺り篭部分では側板フレーム23に設けた複数のガイドローラ25bが照射室18内に設けられた各種ガイド溝27に沿って動くため、回転ガントリの内周面上において粒子線照射部9の回転方向に転動可能な機構となっているため、実質的に回転ガントリの下側に配置される。駆動ローラ25a及び駆動装置26は設置されておらず、代わりにノズル追突部50が設けられ、粒子線照射部9に備えられた衝撃吸収体11と接触する。この時、移動床機構20は粒子線照射部9と運動をともにする。旋回部分では、揺り篭部分の側板フレーム23に結合されており、揺り篭部分に設けられた駆動手段により揺り篭部分外周側を中心に中央付近で旋回する構造となっている。移動床板部は複数に分割されており、通常は重力方向である旋回部フレーム58に支えられる。粒子線照射部9と干渉する位置では、スライド及び旋回して退避する構造となっている。以下、各部分の詳細を説明する。
【0049】
はじめに、揺り篭部分に関しては図9で示すように、ベース台22と天板フレーム24及びノズル追突部50の両端部を2枚の側板フレーム23で結合して骨格をなしている。ベース台22には旋回部分の駆動を行うためにドラム54とブレーキ付モータ55と減速機56とロープ車57とを搭載しており、ワイヤロープ53の巻き取り量を制御している。旋回部分は重力方向に自然に縮退する形となるため、このワイヤロープ53の巻き取りにより旋回部分の伸展(持ち上げる)する方向のみの駆動力を与える。
【0050】
次に、旋回部分に関しては図10で示すように、旋回部フレーム58と旋回部フレーム連結部59と旋回部フレーム側結合部60とが設けられている。旋回部フレーム58は向き合う2枚の側板フレーム23の外周端にある旋回部結合部51と旋回部誘導溝52にはめ込まれており、旋回部結合部51を中心に旋回する。また、左右の旋回部フレーム58は中央で旋回部フレーム連結部59により連結され、回転運動が直線運動に変換されており、揺り篭部分で示したワイヤロープ53で旋回位置が制御される。ここでは、左右の旋回部フレーム58が同期して旋回運動する構造となっているが、旋回部フレーム連結部59を外すことで、それぞれ独立に制御することも可能である。また、旋回部フレーム58に設けた旋回部フレーム側結合部60には、後述の移動床板21aに設けた移動床側結合部61が挿入される。
【0051】
ついで、移動床板21に関しては図11で示すように、複数の板21a,21b,21cで構成され、旋回部フレーム58により支持される。移動床板21同士はリンク結合されており、板面上をスライドする機構とする。粒子線照射部9に押されることにより移動床板21は縮退し、例えばトルクリールとワイヤにより伸展する構造とする。
【0052】
最後に、図12(a)〜(d)に回転ガントリの回転に伴う照射室18の形成状況を示す。
図12(a)が回転角度0度、図12(b)が回転角度100度、図12(c)が回転角度155度、図12(d)(e)が回転角度180度の場合である。回転角度が0゜から100度まで(a⇒b)は、粒子線照射部9と移動床板21が干渉しないため、全ての移動床板21を用いて水平な床が形成される。ついで、回転角度100度から155度まで(b⇒c)は、片側の移動床板21がスライドし折り畳むことにより、粒子線照射部9との干渉を回避する。
【0053】
この場合、折り畳まない方の移動床板21は水平な床が形成される。回転角度155度の時に、揺り篭部分のノズル追突部50と粒子線照射部9に備えられた衝撃吸収体11とが接触する。さらに、回転角度155度から180度まで(c⇒d)は粒子線照射部9の回転とともに移動床機構20も回転するため、水平部が全てなくなる。また、この回転角度の領域では、突き上げられた移動床機構20がノンコプラナ照射時に治療台12と干渉してしまう可能性がある。そこで図12(e)で示すように、ワイヤロープ53の巻き取り量を制御し、旋回部分を縮退させて干渉領域を狭くすることが可能である。
【0054】
まとめると、回転角度±155度の範囲において、水平な床部を形成することが可能であり、第1の実施例と同様に、側板フレーム23に設けたテーパピン穴41と固定床17に設置したテーパピン42とのロック機構を用いることで、安定した水平床を形成可能である。また、これ以外の回転角度の範囲においては、水平な床部は形成することが出来ないが、旋回部分を縮退させて治療台12との干渉領域を狭くすることで、第1の実施例と同程度の広さの照射室18が得られ、結果ごく特殊な治療を除けば第1の実施例と同じ回転ガントリの大きさで治療可能となる。
【0055】
このように本発明の第2の実施例によれば、ガントリ胴体の小型化と同時にガントリ胴体内の回転照射室スペース及び照射室よりさらに奥行き側のII管装置周囲のスペースを確保し、広範囲は回転角度(±150度程度)において回転照射室を構成する水平な床を安定に形成することができる。もって、作業性をも含め、優れた医療用粒子線照射装置を実現することが出来る。
【0056】
以上のごとく、本発明によれば、筒状の一部に粒子線を出射する粒子線照射部が設置された回転ガントリにおいて、前記回転ガントリの内部に、前記粒子線照射部の通過領域より奥側に設置された後面パネルと、前記回転ガントリの外部より筒状内部側に挿入され、前記粒子線照射部の通過領域までは達しない固定床と、前記後面パネルと前記固定床との間に配置された移動床機構とを備え、前記移動床機構と前記固定床により下側を実質的に水平に維持する床を形成し、前記回転ガントリ内部において前記後面パネルにより奥行きを指定した粒子線治療用の空間(粒子線治療室)を形成する医療用粒子線照射装置を提供する。これにより、回転ガントリを大型化せずに、回転ガントリ内部の照射室スペース及び照射室より奥行き側のII管装置周囲のスペースを同時に確保することが可能となる。また、移動床機構の移動床部と、固定床及び後面パネルとの隙間を小さくすることで床面積を確保し、治療室内で作業する場合のメンテナンス性及び安全性を確保する。
【0057】
なお、本発明によれば、前記に記載した医療用粒子線照射装置において、前記移動床機構は、水平な床を形成するための床板と、前記床板を支持するフレームと、前記フレーム上に複数のガイドローラと駆動ローラと、前記駆動ローラを駆動する駆動装置とを備えていることが好ましい。さらに、当該ガイドローラ及び駆動ローラが通過するための、前記粒子線照射室内のガントリ胴体の内壁円周上と、前記後面パネルの外周上にガイド溝を備えることが好ましい。これにより、前記移動床機構が前記回転ガントリの内周面上において前記放射線照射部の回転方向に自在に転動することを可能とする。
【0058】
また、本発明によれば、前記に記載した医療用粒子線照射装置において、前記移動床機構の床板は、複数に分割され、床面上で回転軸に垂直な方向にスライドする構造とし、前記フレームとの結合部分で旋回可能な構造とすることが好ましい。例えば、スライド機構に関してはリニアガイドとボールねじを利用し、旋回構造に関しては床板とフレームの結合部分に蝶番を使用し、結合部と反対側の移動床部の端部にガイドローラを備えることで可能となる。これらにより、前記回転ガントリの回転にもかかわらず、前記移動床機構と前記固定床により下側を実質的に水平に維持する床を形成することが可能となる。
【0059】
更に、本発明によれば、前記に記載した医療用粒子線照射装置において、前記移動床機構は前記固定床と面している前記フレーム上にテーパ穴を備えることが好ましい。さらに、前記固定床は、前記フレームに面した側にテーパピンと、前記テーパピンを駆動するアクチュエータとを備え、前記テーパ穴に前記テーパピンを出し入れ出来る構造を備えることが好ましい。これにより、前記移動床機構の位置を保持し、若干の前記移動床機構の円周方向の位置誤差を修正することが可能となる。また、前記固定床と前記移動床機構の前記フレームとの間隔が狭く、かつ、穴及びピン形状をテーパ型とするため、位置決めピンの挿入安定性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の例による医療用粒子線照射装置を、特に、その回転ガントリを中心に示す側面図である。
【図2】上記図1に示す回転ガントリの粒子線治療用照射室の要部詳細構造を示す側面図である。
【図3】上記図2において移動床機構の斜視図である。
【図4】上記図2において移動床機構を下側より見た平面図である。
【図5】上記図2における移動床機構のロック機構を示した図である。
【図6】上記図2における移動床機構の他のロック機構を示した図である。
【図7】上記図2における回転ガントリの回転に伴う照射室の形成状況を示した図である。
【図8】本発明の第2の実施の例になる医療用粒子線照射装置、特に、移動床機構の全体構造を示す斜視図である。
【図9】上記図8において移動床機構の揺り篭部分を示す斜視図である。
【図10】上記図8において移動床機構の旋回部分を示す斜視図である。
【図11】上記図8において移動床機構の移動床板を示す斜視図である。
【図12】上記図2における回転ガントリの回転に伴う照射室の形成状況を示した図である。
【符号の説明】
【0061】
1 ガントリ胴体
2 リアリング
3 フロントリング
4 ケーブルベア
5 建屋
6 ラジアル支持装置
7 ガントリ回転モータ
8 ビーム輸送装置
9 粒子線照射部
10 バランスウエイト
11 衝撃吸収体
12 治療台
13 治療台位置制御装置
14 治療台駆動装置
15 II管装置
16 後面パネル
17 固定床
18 照射室
20 移動床
21 移動床板
22 ベース台
23 側板フレーム
24 天板フレーム
25a 駆動ローラ
25b ガイドローラ
26 駆動装置
27a ガントリ胴体側ガイド溝
27b 後面パネル側ガイド溝
28 リニアガイド
29 ボールねじ
30,43 アクチュエータ
31 連結スロッド
32 駆動シャフト
33 駆動ギア
34 蝶番
41 テーパピン穴
42 テーパピン
44 ピン引抜ドグ
45 圧縮ばね
50 ノズル追突部
51 旋回部結合部
52 旋回部誘導溝
53 ワイヤロープ
54 ドラム
55 ブレーキ付モータ
56 減速機
57 ロープ車
58 旋回部フレーム
59 旋回部フレーム連結部
60 旋回部フレーム側結合部
61 移動床側結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の一部に粒子線を出射する粒子線照射部が設置された回転ガントリと、この回転ガントリの内部に前記粒子線照射部の通過領域より奥側に設置された後面パネルと、前記回転ガントリの外部より筒状内部側に挿入されて前記粒子線照射部の通過領域までは達しない固定床と、前記後面パネルと前記固定床との間に配置された移動床機構とを備えてなり、
前記移動床機構と前記固定床により下側を実質的に水平に維持する床を形成し、前記回転ガントリ内部において前記後面パネルにより奥行きを指定した粒子線治療用の空間を形成することを特徴とする医療用粒子線照射装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載の医療用粒子線照射装置において、
前記移動床機構は、水平な床を形成するための床板と、前記床板を支持するフレームと、前記フレーム上における複数のガイドローラとを備え、前記回転ガントリの内周面上において前記粒子線照射部の回転方向に自在に転動することを特徴とする医療用粒子線照射装置。
【請求項3】
前記請求項2に記載した医療用粒子線照射装置において、
前記移動床機構は、前記フレーム上に駆動ローラと、前記駆動ローラを駆動する駆動装置とを備え、さらに、前記ガイドローラ及び前記駆動ローラが通過するための、前記粒子線照射室内の前記回転ガントリの内壁円周上と、前記後面パネルの外周上にガイド溝を備えていることを特徴とする医療用粒子線照射装置。
【請求項4】
前記請求項3に記載した医療用粒子線照射装置において、
前記移動床機構の床板は、床面上で回転軸に垂直な方向にスライドする構造とし、前記フレームとの結合部分で旋回可能な構造とすることを特徴とする医療用粒子線照射装置。
【請求項5】
前記請求項4に記載した医療用粒子線照射装置において、
前記移動床機構は、前記固定床と面している前記フレーム上にテーパ穴を備え、さらに、前記固定床は、前記フレームに面した側にテーパピンと、前記テーパピンを駆動する手段とを備え、前記テーパ穴に前記テーパピンを出し入れ出来る構造を備えることを特徴とする医療用粒子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−148325(P2009−148325A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326657(P2007−326657)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケーブルベア
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】