説明

医療用粘着シートの包装体

【課題】切開用ドレープを包むための包装紙を必要とせず、切開用ドレープを構成しているフィルムに折り皺がなく、フィルムの端部での剥離がないという品質に優れた医療用粘着シートを提供すること。
【解決手段】粘着剤層を有する樹脂フィルムの当該粘着剤層が形成されている面に剥離ライナーが貼付された医療用粘着シートが収納されてなる医療用粘着シートの包装体であって、前記医療用粘着シートが、剥離ライナーが設けられている面が内面となり、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように折りたたまれ、当該折りたたまれた医療用粘着シートが包装用シート間に挟まれ、当該包装用シートがその端部で封止されていることを特徴とする医療用粘着シートの包装体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用粘着シートの包装体に関する。さらに詳しくは、本発明は、例えば、外科手術の際に用いられる切開用ドレープなどに有用な医療用粘着シートの包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術を行なう際の手術部位における細菌の感染は、皮膚に付着または常在している細菌が原因となることが多いため、手術前には皮膚の消毒が行われている。しかし、皮膚に存在している細菌数は皮膚の消毒によって減少させることができるが、細菌を完全に除去することは困難である。
【0003】
そこで、日本手術医学会では「手術医療の実践ガイドライン」(例えば、非特許文献1参照)を公表している。このガイドラインには、皮膚に貼り付け、その上から切開するようにして皮膚常在菌による創部の汚染を防ぐことを目的として使用される薄い透明または半透明の膜であるインサイズドレープは、心臓外科、脳神経外科、整形外科などの清潔手術の際の手術部位の感染の原因である皮膚常在菌による影響を低減させることが期待される旨が記載されている。
【0004】
この「手術医療の実践ガイドライン」に記載されているように、近年、感染症を防止する観点から、切開用ドレープを用いる手術が一般的となってきている。切開用ドレープは、一般に透明で薄い熱可塑性樹脂フィルムに粘着剤層が形成されており、当該粘着剤層の表面は、剥離剤層が形成された剥離ライナーを積層することによって保護されている。
【0005】
切開用ドレープが用いられる主たる目的は、皮膚常在菌が切開層部に移行することを抑制することにある。したがって、切開用ドレープに皺がある場合には、皮膚と切開用ドレープとの間に隙間が生じ、その隙間から皮膚常在菌が切開層部に移行するおそれがあることから、切開用ドレープを皮膚に貼付したときに皺がない、あるいは皺があったとしても皮膚常在菌が皮膚と切開用ドレープとの隙間から侵入することを抑制することができる程度の皺に留めることができる切開用ドレープの開発が望まれている。
【0006】
従来、切開用ドレープとして、ひとりだけで患者に容易に貼ることができる切開ドレープが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この切開ドレープには、当該特許文献1の図2に示されているように、透明で可撓性を有するフィルム21上に感圧接着剤層からなる接着剤部9が形成され、接着剤部9の上に剥離ライナ16が設けられ、剥離ライナ16にハンドル14,15が設けられている。また、図3〜5には、剥離ライナ16が内面、フィルム21が外面となるように折りたたまれた切開ドレープが示されている。
【0007】
しかし、この切開ドレープが前記のようにして折りたたまれた場合、包装用袋体内に当該切開ドレープを挿入したときに、包装用袋体の開口部の端部に切開ドレープのフィルム21の端部が引っかかり、フィルム21が切開ドレープから剥離するため、切開ドレープの品質の低下を招くおそれがある。そこで、この欠点を解消するために、通常、折りたたまれた切開ドレープを紙、フィルムなどの包装紙(合紙)で包むことが行なわれている。しかしながら、前記包装紙は、包装用袋体から切開ドレープを採り出した後には不要であり、廃棄物となるため、地球資源の保護の観点から包装紙の使用を回避することが望まれる。
【0008】
包装紙を必要としない切開用ドレープとして、剥離ライナが外面、フィルムが内面となるように切開用ドレープを折りたたむことが考えられる。しかし、切開用ドレープをこのように折りたたんだ場合には、フィルムに皺が生じるため、折り目部分で切開用ドレープに形成されている粘着剤層の厚さが不均一になることから、このように折りたたむことは適切な措置であるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4142103号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】手術医療の実践ガイドライン作成委員会「手術医療の実践ガイドライン」、2008年8月、日本手術医学会、[平成23年8月2日検索]、インターネット<URL:http://jaom.umin.ne.jp/new1001020.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、切開用ドレープを包むための包装紙を必要とせず、切開用ドレープを構成しているフィルムに折り皺がなく、フィルムの端部での剥離がないという品質に優れた医療用粘着シートの包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
(1) 粘着剤層を有する樹脂フィルムの当該粘着剤層が形成されている面に剥離ライナーが貼付された医療用粘着シートが収納されてなる医療用粘着シートの包装体であって、前記医療用粘着シートが、剥離ライナーが設けられている面が内面となり、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように折りたたまれ、当該折りたたまれた医療用粘着シートが包装用シート間に挟まれ、当該包装用シートがその端部で封止されていることを特徴とする医療用粘着シートの包装体、
(2) 医療用粘着シートが、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように巻回して折りたたまれてなる前記(1)に記載の医療用粘着シートの包装体、および
(3) 粘着剤層が、アクリル系粘着剤によって形成されてなる前記(1)または(2)に記載の医療用粘着シートの包装体
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の医療用粘着シートの包装体は、切開用ドレープを包むための包装紙を必要とせず、切開用ドレープを構成しているフィルムに折り皺がなく、フィルムの端部での剥離がないという優れた品質を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の医療用粘着シートの包装体は、前記したように、粘着剤層を有する樹脂フィルムの当該粘着剤層が形成されている面に剥離ライナーが貼付された医療用粘着シートが収納されている医療用粘着シートの包装体であり、前記医療用粘着シートが、剥離ライナーが設けられている面が内面となり、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように折りたたまれ、当該折りたたまれた医療用粘着シートが包装用シート間に挟まれ、当該包装用シートがその端部で封止されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の医療用粘着シートの包装体は、前記構成を有するので、切開用ドレープを包むための包装紙を必要とせず、切開用ドレープを構成しているフィルムに折り皺がなく、フィルムの端部での剥離がないという優れた品質を有する。
【0016】
医療用粘着シートは、粘着剤層を有する樹脂フィルムの当該粘着剤層が形成されている面に剥離ライナーが貼付されている。
【0017】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリプチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂フィルム;ポリスチレンなどのポリスチレン系樹脂フィルム;ポリ塩化ビニルなどのポリ塩化ビニル系樹脂フィルム;ポリエーテルレタン、ポリエステルウレタンなどのポリウレタン系樹脂フィルム;ナイロン−6、ナイロン−6,6などのポリアミド系樹脂フィルム;(メタ)アクリル酸ポリマー、(メタ)アクリル酸エステルポリマー、アクリロニトリルポリマー、アクリルアミドポリマーなどの(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの樹脂からなる樹脂フィルムは、単層で構成されていてもよく、2種類の樹脂フィルムが積層されたものであってもよい。
【0018】
樹脂フィルムの厚さは、当該樹脂フィルムを構成する樹脂の種類によって異なるので一概には決定することができないが、通常、機械的強度を高める観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、可撓性を向上させる観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。
【0019】
樹脂フィルムの大きさは、用途によって異なるので一概には決定することができないが、例えば、幅が1000〜1500mmであり、長さが200〜2000m程度、好ましくは1000〜2000m程度である原反を製造し、医療用粘着シートを製造する段階で、その用途に応じた大きさ、例えば、縦100〜1500mm程度、横100〜1000mm程度の大きさとなるように裁断してもよい。
【0020】
粘着剤に用いられる粘着性樹脂としては、例えば、アクリル系粘着性樹脂、シリコーン系粘着性樹脂、ウレタン系粘着性樹脂、ビニルアルキルエーテル系粘着性樹脂、ゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの粘着性樹脂は、本発明の目的が阻害されない範囲内で、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
粘着性樹脂のなかでは、粘着性および耐定荷重剥離性に優れており、さらに種々の被着体に使用することができ、汎用性の幅が広いことから、アクリル系粘着性樹脂が好ましく、アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体成分を重合させることによって得られるアクリル系粘着樹脂がより好ましい。
【0022】
なお、前記「アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体成分」は、単量体成分におけるアクリル酸アルキルエステルの含有率が50質量%以上であることを意味する。単量体成分におけるアクリル酸アルキルエステルの含有率は、粘着性を向上させる観点から、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0023】
アクリル酸アルキルエステルのなかでは、粘着性に優れており、種々の被着体に使用することができ、汎用性の幅が広いアクリル系粘着性樹脂を得る観点から、アルキルエステルの炭素数が1〜18であるアクリル酸アルキルエステルが好ましい。好適なアクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、n−へキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアクリル酸エステルは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのアクリル酸アルキルエステルのなかでは、粘着性を向上させる観点から、n−ブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートが好ましく、n−ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。
【0024】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」または「メタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0025】
単量体成分には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、アクリル酸アルキルエステル以外の単量体が含まれていてもよい。アクリル酸アルキルエステル以外の単量体としては、例えば、カルボキシル基を有する単量体、水酸基を有する単量体、酸性リン酸エステル系単量体、エポキシ基を有する単量体、窒素原子を有する単量体、2個以上の重合性二重結合を有する単量体、芳香族系単量体、ハロゲン原子を有する単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの単量体のなかでは、カルボキシル基を有する単量体および水酸基を有する単量体が好ましい。
【0026】
カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのカルボキシル基を有する単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのカルボキシル基を有する単量体のなかでは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸および無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸がより好ましい。
【0027】
水酸基を有する単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレートなどのヒドロキシアルキル基の炭素数が2〜4のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの水酸基を有する単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
酸性リン酸エステル系単量体としては、例えば、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの酸性リン酸エステル系単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
エポキシ基を有する単量体としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのエポキシ基を有する単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
窒素原子を有する単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N’−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、イミドアクリレート、イミドメタクリレートなどの窒素原子を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの窒素原子を有する単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
2個以上の重合性二重結合を有する単量体としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの2個以上の重合性二重結合を有する単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
芳香族系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの芳香族系単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
ハロゲン原子を有する単量体としては、例えば、塩化ビニルなどのハロゲン化ビニルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。ハロゲン原子を有する単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、酢酸ビニルなどの脂肪酸ビニルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。ビニルエステル系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
ビニルエーテル系単量体としては、例えば、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのビニルエーテル系単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
単量体成分におけるアクリル酸アルキルエステル以外の単量体の含有率は、粘着性を向上させる観点から、50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0037】
単量体成分を重合させる際には、分子量分布の増大やゲル化を抑制する観点から、必要により連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、例えば、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのメルカプトカルボン酸類;メルカプト酢酸メチル、3−メルカプトプロピオン酸メチル、3−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、3−メルカプトプロピオン酸n−オクチル、3−メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、3−メルカプトプロピオン酸ステアリル、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)などのメルカプトカルボン酸エステル類;エチルメルカプタン、tert−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、1,2−ジメルカプトエタンなどのアルキルメルカプタン類;2−メルカプトエタノール、4−メルカプト−1−ブタノールなどのメルカプトアルコール類;ベンゼンチオール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール、2−ナフタレンチオールなどの芳香族メルカプタン類;トリス〔(3−メルカプトプロピオニロキシ)エチル〕イソシアヌレートなどのメルカプトイソシアヌレート類;2−ヒドロキシエチルジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドなどのジスルフィド類;ベンジルジエチルジチオカルバメートなどのジチオカルバメート類;α−メチルスチレンダイマーなどのダイマー類;四臭化炭素などのハロゲン化アルキルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの連鎖移動剤のなかでは、入手が容易であること、架橋防止性に優れていること、重合速度の低下の度合いが小さいことなどから、メルカプトカルボン酸類、メルカプトカルボン酸エステル類、アルキルメルカプタン類、メルカプトアルコール類、芳香族メルカプタン類、メルカプトイソシアヌレート類などのメルカプト基を有する化合物が好ましい。
【0038】
連鎖移動剤の量は、単量体成分の組成、重合温度などの重合条件、目的とする重合体の分子量などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、重量平均分子量が数千〜数万の重合体を得る場合には、単量体成分100質量部あたり、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.5〜15質量部であることがより好ましい。
【0039】
単量体成分を重合させる方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、分散重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0040】
塊状重合は、例えば、紫外線、電子線、放射線などのエネルギー線の照射や加熱などによって行なうことができる。エネルギー線の照射によって単量体成分の塊状重合を行なう場合には、例えば、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中や空気を遮断した雰囲気中でエネルギー線を単量体成分に照射することによって単量体成分を重合させることが好ましい。
【0041】
塊状重合法によって単量体成分を重合させる際には、光重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系重合開始剤、ベンゾインエーテル系重合開始剤、ベンジルケタール系重合開始剤、アシルフォスフィンオキシド系重合開始剤、ベンゾイン系重合開始剤、ベンゾフェノン系重合開始剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。光重合開始剤の量は、得られる重合体の所望する物性などに応じて適宜設定すればよいが、通常、単量体成分100質量部あたり、好ましくは0.01〜50質量部、より好ましくは0.03〜20質量部である。
【0042】
単量体成分を溶液重合法によって重合させる場合、溶媒として、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒;プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブなどのエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコールなどのケトン系溶媒;ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒などの有機溶媒が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。溶媒の量は、重合条件、単量体成分の組成、得られる重合体の濃度などを考慮して適宜決定すればよい。
【0043】
単量体成分を溶液重合法によって重合させる際には、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えば、ジメチル−2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。重合開始剤の量は、得られる重合体の所望する物性などに応じて適宜設定すればよいが、通常、単量体成分100質量部あたり、好ましくは0.001〜20質量部、より好ましくは0.005〜10質量部である。
【0044】
単量体成分を重合させる際の重合条件は、重合方法に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。重合温度は、好ましくは室温〜200℃、より好ましくは40〜140℃である。反応時間は、単量体成分の重合反応が完結するように適宜設定すればよい。以上のようにして単量体成分を重合させることにより、アクリル系粘着性樹脂が得られる。
【0045】
アクリル系粘着性樹脂の重量平均分子量は、医療用粘着シートに形成される粘着剤層が、当該医療用粘着シートに適した粘性を有するようにする観点から、1000000〜2500000程度であることが好ましい。
【0046】
なお、本明細書において、樹脂(ポリマー)の重量平均分子量は、テトラヒドロフランを移動相とし、温度40℃、流速0.3mL/minの条件下で、カラム〔東ソー(株)製、商品名:TSK−gel SuperHM−H2本、TSK−gel SuperH2000 1本〕を用い、ゲル浸透クロマトグラフィー装置〔東ソー(株)製、商品名:HLC−8220GPC〕を用いて測定し、標準ポリスチレン換算した値である。
【0047】
また、粘着性樹脂のなかでは、粘着性および凝集力を高める観点から、鎖状ポリマーを3本以上有するメルカプト基が他のメルカプト基と当該鎖状ポリマーを介して結合している硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂が好ましい。この硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂が有する鎖状ポリマーの原料モノマーは、粘着性を向上させる観点から、炭素数が7〜17の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有するものであることが好ましい。原料モノマーにおける炭素数が7〜17の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有率は、粘着性を向上させる観点から、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%、より一層好ましくは70〜100質量%さらに好ましくは80〜100質量%、特に好ましくは90〜100質量%である。
【0048】
炭素数7〜17の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0049】
炭素数7〜17の(メタ)アクリル酸アルキルエステルのなかでは、粘着性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシルおよび(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく、アクリル酸オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましく、アクリル酸2−エチルヘキシルがさらに好ましい。
【0050】
原料モノマーには、炭素数が7〜17の(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の他のモノマー(以下、他のモノマーという)が含まれていてもよい。原料モノマーにおける他のモノマーの含有率は、粘着性を向上させる観点から、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜40質量%、より一層好ましくは0〜30質量%さらに好ましくは0〜20質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0051】
他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの炭素数6以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類;α−メチルスチレン、ビニルトルエン、スチレンなどのスチレン系単量体;フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル系単量体;フマル酸、フマル酸モノアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステルなどのフマル酸系単量体;マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステルなどのマレイン酸系単量体;イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステルなどのイタコン酸系単量体;N−ビニル−2−ピロリドンなどのビニルピロリドン;メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレートなどのアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ビニルケトン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾ−ルなどのその他のビニル化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他のモノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
他のモノマーのなかでは、粘着性および凝集力を向上させる観点から(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルおよび酢酸ビニルが好ましく、硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂の皮膚刺激性を低減させる観点からN−ビニル−2−ピロリドンなどのビニルピロリドンが好ましく、硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂の透湿性を向上させる観点からアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましい。原料モノマーにおけるアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの含有率は、硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂の透湿性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂の粘着性を向上させる観点から、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0053】
硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂は、例えば、多価メルカプタン化合物の存在下で、原料モノマーを多段階ラジカル重合法によって重合させる際に、当該多段階のうちの少なくとも1つの段階で原料モノマーと多官能モノマーとを併用することによって重合させる方法などが挙げられる。
【0054】
多価メルカプタン化合物としては、例えば、エチレングリコールジチオグリコレート、エチレングリコールジチオプロピオネート、1,4−ブタンジオールジチオグリコレート、1,4−ブタンジオールジチオプロピオネートなどのエチレングリコールや1,4−ブタンジオールなどのジオールとカルボキシル基含有メルカプタンとのジエステル;トリメチロールプロパントリチオグリコレート、トリメチロールプロパントリチオプロピオネートに代表されるトリメチロールプロパンなどのトリオールとカルボキシル基含有メルカプタンとのトリエステル;ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレートおよびペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートに代表されるペンタエリスリトールなどの水酸基4個を有する化合物とカルボキシル基含有メルカプタンとのポリエステル;ジペンタエリスリトールヘキサキスチオグリコレートおよびジペンタエリスリトールヘキサキスチオプロピオネートに代表されるジペンタエリスリトールなどの水酸基6個を有する化合物とカルボキシル基含有メルカプタンとのポリエステル;水酸基3個以上を有する化合物とカルボキシル基含有メルカプタンとのポリエステル;トリチオグリセリンなどのメルカプト基3個以上を有する化合物;2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−S−トリアジン、2,4,6−トリメルカプト−S−トリアジンなどのトリアジン多価チオール;多価エポキシ化合物の複数のエポキシ基に硫化水素を付加させることにより、複数のメルカプト基が導入された化合物;多価カルボン酸の複数のカルボキシル基とメルカプトエタノールとのエステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多価メルカプタン化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
前記カルボキシル基含有メルカプタン類としては、例えば、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸などの1個のメルカプト基と1個のカルボキシル基を有する化合物が挙げられる。
【0056】
多官能モノマーは、1分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する化合物である。1分子中に重合性不飽和基を2個有するモノマーは、2官能モノマーであり、1分子中に重合性不飽和基を3個有するモノマーは、3官能モノマーである。多官能モノマーのなかでは、ポリマーのゲル化を抑制する観点から、2官能モノマーおよび3官能モノマーが好ましい。
【0057】
多官能モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、2−ヒドロキシ−1−アクリロキシ−3−メタクリロキシプロパンなどのジオールと(メタ)アクリル酸のジエステル化合物;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラキス(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサキス(メタ)アクリレートなどの1分子中に水酸基を3個以上有する化合物と(メタ)アクリル酸のポリエステル化合物;アリル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多官能モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
多官能モノマーと多価メルカプタン化合物の質量比(多官能モノマーの質量/多価メルカプタンの質量)は、硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂のゲル化を抑制する観点から、好ましくは2/1以下、より好ましくは0.05/1〜2/1、より一層好ましくは0.05/1〜1.5/1、さらに好ましくは0.05/1〜1/1である。
【0059】
また、多官能モノマーと原料モノマーとの質量比(多官能モノマーの質量/原料モノマーの質量)は、硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂のゲル化を抑制する観点から、好ましく0.05/1以下、より好ましくは0.001/1〜0.05/1、より一層好ましくは0.001/1〜0.03/1、さらに好ましくは0.001/1〜0.01/1である。
【0060】
多価のメルカプタン化合物の存在下で原料モノマーを重合させたとき、多価のメルカプタン化合物が有するメルカプト基には、少なくとも3本の鎖状ポリマーが結合する。その際、多価のメルカプタン化合物が有する一部のメルカプト基が残存する。そこで、この反応系内にさらに原料モノマーを加え、当該原料モノマーをラジカル重合させた場合には、生成したポリマーが多価のメルカプタン化合物に残存しているメルカプト基に結合することにより、硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂が得られる。なお、前記反応系内にさらに原料モノマーを加え、当該原料モノマーをラジカル重合させる際には、重合開始剤を後添加することが好ましい。
【0061】
硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂の好適な製造方法としては、多価のメルカプタン化合物の存在下で原料モノマーの一部を重合させ、得られたポリマー溶液に含まれているポリマーと、原料モノマーの残部および多官能モノマーとを重合させる方法が挙げられる。
【0062】
多価のメルカプタン化合物の存在下で原料モノマーの一部を重合させる際の反応温度は、通常、好ましくは30〜200℃であり、より好ましくは50〜150℃である。なお、原料モノマーを重合させる際には、重合率が好ましくは50〜90%、より好ましくは55〜85%、さらに好ましくは60〜80%となった段階で重合反応を停止することが好ましい。
【0063】
重合反応の停止は、得られるポリマー溶液の温度を下げる方法、重合禁止剤をポリマー溶液に添加する方法などによって行なうことができる。
【0064】
ポリマー溶液の温度を下げることによって重合反応を停止させる場合、ポリマー溶液の温度は、重合反応を十分に停止させる観点から、好ましくは40℃以下、より好ましくは20℃以下である。
【0065】
重合禁止剤をポリマー溶液に添加することによって重合反応を停止させる場合、重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ハイドロキノン、2,5−ビス(1,1−ジメチルブチル)ハイドロキノン、メトキシフェノール、6−ターシャリーブチル−2,4−キシレノール、3,5−ジターシャリーブチルカテコールなどのフェノール類;N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩;フェノチアジンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合禁止剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0066】
重合禁止剤の量は、原料モノマー100質量部あたり、好ましくは0.0001〜1質量部、より好ましくは0.001〜0.1質量部、さらに好ましくは0.002〜0.02質量部である。
【0067】
次に、ポリマー溶液に含まれているポリマーと、原料モノマーの残部および多官能モノマーとを重合させることにより、硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂を得ることができる。
【0068】
なお、ポリマー溶液に含まれているポリマーと、原料モノマーの残部および多官能モノマーとを重合させる方法は、前記アクリル系粘着性樹脂を調製する際に用いられる単量体成分の重合方法に準じて行なうことができる。
【0069】
以上のようにして得られる硫黄結合含有(メタ)アクリル系粘着性樹脂の重量平均分子量は、医療用粘着シートに形成される粘着剤層が、当該医療用粘着シートに適した粘性を有するようにする観点から、200000〜600000程度であることが好ましい。
【0070】
粘着性樹脂は、常温で粘着性を有することが好ましい。粘着性樹脂のガラス転移温度は、粘着性樹脂が医療用粘着シートに適した粘着性を有するようにする観点から、−65〜−30℃であることが好ましい。粘着性樹脂のガラス転移温度は、当該粘着性樹脂を調製する際に原料として用いられるモノマー組成を調整することによって調節することができる。粘着性樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DTA)、示差熱分析装置(DTA)、熱機械測定装置(TMA)などを用いて測定することができる。また、粘着性樹脂のガラス転移温度は、粘着性樹脂を調製する際に原料として用いられるモノマーの単独重合体のガラス転移温度を用いて、式:
1/Tg=Σ(Wm/Tgm)/100
〔式中、Wmは重合体を構成する単量体成分における単量体mの含有率(重量%)、Tgmは単量体mの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度:K)を示す〕
で表されるフォックス(Fox)の式に基づいて求めることもできる。
【0071】
なお、前記粘着性樹脂が架橋性基(官能基)を有する場合、粘着剤には、必要により架橋剤を含有させてもよい。架橋剤は、架橋性基を有する粘着性樹脂を架橋させることによって当該粘着性樹脂を硬化させることができる。
【0072】
架橋剤としては、粘着性樹脂が有する架橋性基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する化合物を用いることができる。架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート系架橋剤、多官能エポキシ系架橋剤、シリコーン系架橋剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0073】
ポリイソシアネート系架橋剤としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、前記芳香族ポリイソシアネートの水素添加物などの脂肪族または脂環族ポリイソシアネート、これらのポリイソシアネートの2量体または3量体、これらのポリイソシアネートとトリメチロールプロパンなどのポリオールとからなるアダクト体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのポリイソシアネート系架橋剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0074】
ポリイソシアネートは、例えば、「コロネートL」、「コロネートL−55E」、「コロネートHX」、「コロネートHL」、「コロネートHL−S」、「コロネート2234」、「アクアネート200」、「アクアネート210」〔以上、日本ポリウレタン工業(株)製、「コロネート」および「アクアネート」は登録商標〕、「デスモジュールN3400」〔住友バイエルウレタン(株)(現バイエルA.G.社)製、「デスモジュール」は登録商標〕、「デュラネートD−201」、「デュラネートTSE−100」、「デュラネートTSS−100」、「デュラネート24A−100」、「デュラネートE−405−80T」〔以上、旭化成ケミカルズ(株)製、「デュラネート」は登録商標〕、「タケネートD−110N」、「タケネートD−120N」、「タケネートM−631N」、「MTERT−オレスターNP1200」〔以上、三井化学ポリウレタン(株)製、「タケネート」および「オレスター」は登録商標〕などとして商業的に容易に入手することができる。これらのポリイソシアネートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0075】
多官能エポキシ系架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多官能エポキシ系架橋剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0076】
シリコーン系架橋剤としては、例えば、信越化学工業(株)製、品番:X−92−122などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。シリコーン系架橋剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0077】
架橋剤のなかでは、ポリイソシアネートの2量体、ポリイソシアネートの3量体、ポリイソシアネートの2官能プレポリマーおよびポリイソシアネートのアダクト体などが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートの2量体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(3量体)、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体などがより好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体がさらに好ましい。ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体としては、例えば、旭化成ケミカルズ(株)製、商品名:デュラネート(登録商標)TSE−100、商品名:デュラネート(登録商標)TSS−100などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0078】
架橋剤の量は、粘着性樹脂が有する架橋性基(官能基)の合計量を1当量としたとき、通常、好ましくは0.1〜2当量、より好ましくは0.3〜1.5当量である。
【0079】
また、本発明においては、架橋促進剤を適量で用いてもよい。架橋促進剤としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、2−エチルヘキサノエート鉛、チタン酸2−エチルヘキシル、2−エチルヘキサノエート鉄、2−エチルヘキサノエートコバルト、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクタン酸錫、オクタン酸ビスマス、テトラn−ブチル錫、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの架橋促進剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0080】
粘着性樹脂は、有機溶媒に溶解させて粘着性樹脂溶液として用いることが好ましい。粘着性樹脂溶液に用いられる有機溶媒は、粘着性樹脂を溶解させるものであればよく、特に限定されない。前記有機溶媒としては、例えば、前記単量体成分を溶液重合法によって重合させる場合に用いられる有機溶媒のほか、ガソリン、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、テレビン酸、ミネラルスピリットなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。粘着性樹脂溶液における不揮発分の濃度は、特に限定されないが、通常、10〜70質量%程度である。
【0081】
粘着剤における粘着性樹脂の含有率は、架橋剤、架橋促進剤、以下に述べる抗菌剤、添加剤などを使用したときに、全量が100質量%となるように調整される。粘着剤における粘着性樹脂の含有率は、粘着性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、塗工性を向上させる観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
【0082】
粘着剤に抗菌性が要求される場合には、粘着剤に抗菌剤が含まれていることが好ましい。好適な抗菌剤としては、例えば、メチルシクロデキストリンヨウ素包接体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。メチルシクロデキストリンヨウ素包接体としては、例えば、メチル−α−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、メチル−γ−シクロデキストリンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのメチルシクロデキストリンヨウ素包接体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのメチルシクロデキストリンヨウ素包接体のなかでは、有機溶媒に対する溶解性に優れていることから、メチル−β−シクロデキストリンが好ましい。
【0083】
抗菌剤の量は、その種類によって抗菌性が異なることから一概には決定することができないが、通常、粘着剤の不揮発分100質量部あたり、抗菌性を付与する観点および経済性を高める観点から、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは1〜18質量部、さらに好ましくは5〜15質量部である。
【0084】
また、粘着剤には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、必要により、例えば、分散剤、粘着付与剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、沈降防止剤、増粘剤、チクソトロピー付与剤、界面活性剤、消泡剤、静電気防止剤、表面処理剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などの添加剤を適量で含有させてもよい。
【0085】
粘着剤は、粘着性樹脂、架橋剤、架橋促進剤、抗菌剤、添加剤などを混合することによって容易に調製することができる。
【0086】
粘着剤における不揮発分量は、生産性を向上させる観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、塗工性を向上させる観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。粘着剤における不揮発分量は、粘着剤に含まれる溶媒の量や添加剤の量などを調整することによって調節することができる。前記溶媒としては、前記粘着性樹脂溶液に用いられる有機溶媒と同様であればよい。
【0087】
粘着剤の粘度〔東機産業(株)製、品番:TVB−10Mを用い、25℃の温度で回転数12rpmにて測定〕は、塗工性を向上させる観点から、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは500mPa・s以上、さらに好ましくは1000mPa・s以上であり、前記と同様に塗工性を向上させる観点から、好ましくは60000mPa・s以下、より好ましくは40000mPa・s以下、さらに好ましくは20000mPa・s以下である。
【0088】
粘着剤層は、粘着剤を樹脂フィルムに塗布することによって形成させてもよく、あるいは剥離ライナーに塗布することによって形成させた後、形成された粘着剤層を樹脂フィルムに転写させてもよい。後者の方法は、粘着剤層を乾燥させる際の熱履歴を樹脂フィルムに与えないという利点を有する。
【0089】
粘着剤の塗布方法としては、例えば、ナイフコーター、スロットダイコーター、リップコーター、ロールコーター、フローコーター、スプレーコーター、バーコーター、コンマコーター、ドクターブレードなどを用いる塗工方法、ディッピングなどの塗工方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0090】
粘着剤を塗布する際には、樹脂フィルムの端部に粘着剤層が形成されないようにしてもよい。粘着剤層が形成されていない部分は、粘着シートを被着体に貼るときに手指で持つための部分、いわゆるドライエッジとして利用することができる。
【0091】
粘着剤の塗布量は、十分な粘着性を発現させる観点から、好ましくは5g/m2以上、より好ましくは10g/m2以上であり、粘着シートの可撓性を高める観点から、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは80g/m2以下である。
【0092】
粘着剤の塗布後は、粘着剤を乾燥させることにより、粘着剤層を形成させることができる。粘着剤の乾燥方法としては、例えば、熱風、遠赤外線照射などが挙げられる。粘着剤を乾燥させた後の粘着剤層の厚さは、特に限定されないが、通常、10〜1000μm程度である。
【0093】
樹脂フィルム上に形成された粘着剤層の表面には、剥離ライナーが貼着される。このように粘着剤層の表面に剥離ライナーを貼着した場合には、粘着剤層を保護することができる。剥離ライナーは、粘着剤を使用するときに粘着剤層の表面から引き剥がされる。
【0094】
剥離ライナーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂フィルム、ポリスチレン系樹脂フィルム、グラシン紙などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、剥離ライナーとして樹脂フィルムを用いる場合には、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などの樹脂加工が施されていてもよい。
【0095】
剥離ライナーの大きさおよび形状は、通常、樹脂フィルムに形成されている粘着剤層に対応した大きさおよび形状となるように調節することが好ましい。
【0096】
以上のようにして、医療用粘着シートが得られる。得られた医療用粘着シートは、長尺を有する場合には、例えば、巻芯に巻きつけることができる。医療用粘着シートには、必要により、例えば、γ線などの放射線または電子線で滅菌処理が施されていてもよい。得られた医療用粘着シートは、必要により、その用途に応じた長さとなるように裁断することができる。
【0097】
次に、剥離ライナーが設けられている面が内面となり、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように医療用粘着シートが折りたたまれる。
【0098】
本発明においては、このように医療用粘着シートが折りたたまれている点に1つの大きな特徴がある。本発明においては、剥離ライナーが設けられている面が内面となり、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように医療用粘着シートが折りたたまれているので、樹脂フィルムが常に山折りとなり、当該樹脂フィルムに張力が働くことから、樹脂フィルムを谷折に折りたたんだときのようなたたみ皺が発生することがない。したがって、樹脂フィルムに形成されている粘着剤層の厚さ方向の均一性が保持されるので、医療用粘着シートの品質を向上させることができる。
【0099】
剥離ライナーが設けられている面が内面となり、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように医療用粘着シートを折りたたむ方法としては、例えば、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように医療用粘着シートを巻回させた後、巻回させた医療用粘着シートをその直径方向に押圧を加えることにより、当該直径方向に平坦にする方法などが挙げられるが、本発明は、かかる方法のみによって限定されるものではない。このように樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように巻回して折りたたまれた医療用粘着シートは、包装用シート間にコンパクトに容易に収容することができるとともに、樹脂フィルムに形成されている粘着剤層の厚さ方向の均一性を保持することができるという利点がある。
【0100】
なお、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように医療用粘着シートを巻回させる際には、巻回の中心部分に空間が形成されるように医療用粘着シートを円筒状に巻回させることが、医療用粘着シートを平坦に折りたたむ観点から好ましい。医療用粘着シートを巻回させることによって形成された円筒の内径は、特に限定されないが、折りたたまれた医療用粘着シートの幅を小さくするとともに平坦にする観点から、通常、30〜100mm程度であることが好ましい。また、医療用粘着シートの巻回数は、当該医療用粘着シートの長さおよび円筒の内径などによって異なるので一概には決定することができないが、折りたたまれた医療用粘着シートの幅を小さくするとともに平坦にする観点から、通常、1〜10回程度であることが好ましい。
【0101】
次に、折りたたまれた医療用粘着シートを包装用シート間に挟み、当該包装用シートをその端部で封止することにより、本発明の医療用粘着シートの包装体が得られる。
【0102】
本発明においては、このように折りたたまれた医療用粘着シートが包装用シート間に挟まれている点にも1つの特徴がある。本発明においては、折りたたまれた医療用粘着シートが包装用シート間に挟まれているので、従来のように包装用袋体内に医療用粘着シートを挿入したときに、包装用袋体の開口部の端部に医療用粘着シートの端部が引っかかり、樹脂フィルムが医療用粘着シートから剥離するという欠点を解消させることができる。
【0103】
包装用シートとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、フッ素樹脂、エチレン−ビリルアルコール共重合体、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン−66などのポリアミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂などの樹脂からなる樹脂シートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの樹脂シートは、無延伸であってもよく、一軸延伸処理または2軸延伸処理が施されていてもよいが、樹脂シートに伸縮性を付与する観点から、無延伸であることが好ましい。樹脂シートのなかでは、包装用シート同士を容易にヒートシールさせる観点から、ポリオレフィン系樹脂シート、ポリスチレン系樹脂シート、ポリエステル系樹脂シートなどが好ましい。
【0104】
包装用シートの厚さは、特に限定されないが、機械的強度を高める観点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、可撓性を向上させる観点から、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。
【0105】
なお、包装用シートには、例えば、アルミニウムなどの金属の金属箔が積層されていてもよく、アルミニウムなどの金属の金属膜が形成されていてもよい。このように包装用シートに金属箔が積層されている場合、および金属膜が形成されている場合には、当該包装用シートに遮光性やガスバリア性を付与することができる。包装用シートに金属箔を積層する場合、例えば、接着剤などを用いて金属箔を包装用シートに接着させることができる。また、包装用シートに金属膜を形成させる場合、例えば、化学蒸着(CVD)などの方法により、包装用シートに金属膜を形成させることができる。金属箔および金属膜は、包装用シートの一方表面にのみ形成されていてもよく、包装用シートの両表面に形成されていてもよく、あるいは2枚の包装用シートの間に挟まれて積層されていてもよい。
【0106】
包装用シートの大きさは、包装体内に収納される折りたたまれた医療用粘着シートの大きさによって異なるので一概には決定することができない。したがって、当該折りたたまれた医療用粘着シートが包装体内に収納されるように包装用シートの大きさを決定することが好ましい。通常、包装用シートの大きさは、包装体内に折りたたまれた医療用粘着シートが収納されるようにするために、折りたたまれた医療用粘着シートよりも大きいことが好ましい。また、包装用シートの端部をヒートシールする場合には、包装用シートは、当該ヒートシールをするためのヒートシール代を有することが好ましい。
【0107】
折りたたまれた医療用粘着シートを包装用シート間に挟む際には、1枚の包装用シートを2つ折りにし、当該2つ折りされたシート間に折りたたまれた医療用粘着シートを挟んでもよく、あるいは2枚の包装用シートを用意し、その2枚の包装用シートの間に当該折りたたまれた医療用粘着シートを挟んでもよい。
【0108】
折りたたまれた医療用粘着シートを包装用シート間に挟み、当該包装用シートをその端部で封止する方法としては、例えば、包装用シート同士が重ねられた部分をヒートシーラーなどの手段を用いて熱融着させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、包装用シートをその端部で封止する際には、形成される包装体の内部に空気が入らないように脱気してもよく、あるいは例えば、窒素ガス、炭酸ガスなどの不活性ガスを包装体内に封入してもよい。
【0109】
以上のようにして、本発明の医療用粘着シートの包装体が得られるが、本発明の医療用粘着シートの包装体には、必要により、滅菌処理が施されていてもよい。医療用粘着シートの包装体に滅菌処理を施す方法としては、例えば、照射滅菌、熱滅菌などの滅菌処理法が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの滅菌処理法のなかでは、照射滅菌、特にγ線などの放射線や電子線を照射することによる滅菌処理は、高温にさらされることがないので好ましい。
【0110】
本発明の医療用粘着シートの包装体は、前記構成を有するので、切開用ドレープを包むための包装紙を必要とせず、切開用ドレープを構成しているフィルムに折り皺がなく、しかもフィルムの端部での剥離がないという優れた品質を有するものである。
【実施例】
【0111】
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0112】
なお、以下の実施例および比較例において、「粘着シート」は「粘着フィルム」を平板上に裁断したものを意味し、「粘着フィルム」は樹脂フィルムに粘着剤層が形成されたものを意味する。また、「粘着フィルムロール」は、「粘着フィルム」の巻物(ロール状のもの)を意味する。
【0113】
製造例1
温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えた4つ口フラスコ内に、メタクリル酸メチル24部(質量部、以下同じ)、ジペンタエリスリトール−β−メルカプトプロピオネート1.2部および溶媒として酢酸エチル24.82部を仕込んだ。窒素気流下で撹拌しながら、フラスコの内温を83±2℃に保って重合開始剤としてジメチル−2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート0.048部および酢酸エチル0.432部をフラスコ内に添加し、重合を開始させた。
【0114】
重合反応開始から30分間経過後に、メタクリル酸メチル56部および酢酸エチル15.25部を120分間かけてフラスコ内に滴下するとともに、ジメチル−2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート0.084部とジペンタエリスリトール−β−メルカプトプロピオネート2.8部と酢酸エチル2.8部との混合物を90分間かけてフラスコ内に滴下し、フラスコの内温を還流下で制御しながら反応を行なった。
【0115】
また、メタクリル酸メチルの滴下終了後に、酢酸エチル2部をフラスコ内に添加し、さらに130分間反応を行なった。次に、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル0.04部と酢酸エチル0.36部との混合物および酢酸エチル38.431部をフラスコ内に添加した後に冷却し、ポリマー溶液Aを得た。得られたポリマー溶液Aの不揮発分含量は34.5%であり、25℃における粘度(B型粘度計で回転数12rpmにて測定。以下同じ)は90mPa・sであった。
った。
【0116】
温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えた4つ口フラスコ内に、ポリマー溶液A60.9部、アクリル酸ブチル34.46部、アクリル酸2−エチルヘキシル136.02部、アクリル酸8.98部、テトラエチレングリコールジアクリレート〔新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルA−200〕0.09部および溶媒として酢酸エチル170部を仕込んだ。窒素気流下でフラスコの内容物を撹拌し、フラスコの内温を86±2℃に保ちながら重合開始剤としてジメチル−2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート0.336部と酢酸エチル10部との混合物)を添加することにより、重合反応を開始させた。
【0117】
重合反応の反応開始から10分間経過後に、前記ポリマー溶液142.1部、アクリル酸ブチル220.8部、アクリル酸2−エチルヘキシル163.23部、アクリル酸20.95部、酢酸ビニル13.77部、テトラエチレングリコールジアクリレート〔新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルA−200〕0.21部および酢酸エチル176部からなるモノマー混合物とジメチル−2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート0.784部と酢酸エチル40部との混合物を80分間かけて滴下し、還流下で反応を行なった。
【0118】
次に、酢酸エチル10部をフラスコ内に添加し、さらに60分間反応を行なった後、ジメチル−2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート13.36部と酢酸エチル40部との混合物を30分間ごとに12分割して滴下し、さらに還流下で120分間反応を続けた。その後、希釈溶剤として酢酸エチル100部を添加した後に冷却し、ポリマー溶液Bを得た。得られたポリマー溶液Bの不揮発分含量は52.2%であり、25℃における粘度は6170mPa・sであり、ポリマーの重量平均分子量は259000であった。
【0119】
次に、ポリマー溶液Bの不揮発分100部あたりテルペンフェノール樹脂〔ヤスハラケミカル(株)製、商品名:YSポリスターT100〕10部の割合でポリマー溶液Bとテルペンフェノール樹脂とを混合し、酢酸エチルを用いて粘度を調整することにより、粘着剤を得た。得られた粘着剤の不揮発分含量は52.2%であり、25℃における粘度は5120mPa・sであった。
【0120】
製造例2
製造例1で得られた粘着剤の不揮発分100部あたりメチル化β−シクロデキストリンヨウ素包接体〔日宝化学(株)製、商品名:MCDI、有効ヨウ素濃度:約13%(質量%、以下同じ)〕15部の割合で、粘着剤と40%メチル化β−シクロデキストリンヨウ素包接体メチルアルコール溶液とを十分に混合することにより、混合液を得た。
【0121】
前記で得られた混合液の不揮発分100部あたりミリスチン酸イソプロピル15部の割合で前記混合液にミリスチン酸イソプロピルをゆっくりと添加し、十分に撹拌することにより、粘着剤溶液を得た。得られた粘着剤溶液は、使用する前にカートリッジ式ファイルター(孔径:25μm)を用いて濾過した。
【0122】
実施例1
乾燥炉5基を備えた大型ライン塗工機に剥離ライナー〔住化加工紙(株)製、商品名:スミリーズ中剥離タイプ〕をセットし、製造例2で得られた粘着剤溶液をこの剥離ライナーの片面に厚さが45μmとなるように塗工し、ライン上で乾燥させた。乾燥炉を出たところでポリエチレンフィルム(低密度ポリエチレン、厚さ:35μm)を粘着面に転写した後、巻き取り、長さが約1000mの粘着フィルムが巻回された粘着フィルムロールを得た。
【0123】
なお、前記で用いられた剥離ライナーの剥離荷重を調べたところ、当該剥離荷重は、70N/mであった。本明細書において、剥離ライナーの剥離荷重は、以下の方法に基づいて調べたときの値である。
【0124】
〔剥離紙の剥離荷重の測定方法〕
剥離紙に粘着剤〔東洋インキ製造(株)製、オリバインBPS−8170〕を厚さが30μmとなるように塗布した後、その塗布面に上質紙(坪量:78g/m2)を貼り付けた後、常温(約23℃)中にて剥離速度5m/分、剥離角度180°で上質紙を剥離したときの剥離荷重を測定した。
【0125】
前記で得られた粘着フィルムロールを室温で1週間養生させた後、スリッター機にセットしたところ、巻き出しの1m程度まで粘着フィルムの浮き(トンネリング現象)が少し見られたが、それ以降に粘着フィルムの浮きが認められなかった。その後、粘着フィルム250mを1巻として巻き取った。
【0126】
次に、粘着フィルムを長さ45cmごとに裁断した後、流れ方向(MD)に対して垂直方向(VD)にポリエチレンフィルムが外側になるように直径が6cmの塩化ビニル樹脂製パイプに巻き付けることにより、粘着シートの筒状体を得た。その後、この筒状体から塩化ビニル樹脂製パイプを抜き取った後、平行に設置されている2枚の樹脂板の間に筒状体を挟み、筒状体が平坦となるように押圧することにより、筒状体に折り目をつけ、折りたたまれた粘着シートを得た。
【0127】
次に、ホットメルト型接着剤が塗布されたアルミニウムラミネート樹脂フィルム製の包装用シート〔ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:12μm)とアルミニウム箔(厚さ:9μm)と無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ:35μm)の積層フィルム〕を2つ折りにし、折り曲げられたアルミニウムラミネート樹脂フィルムからなる包装用シート間に前記折りたたまれた粘着シートを挟み、折り曲げられた包装用シートの端部を重ね合わせ、内部に空気が入らないようにしながら、重ね合わされた端部をヒートシーラーで熱融着させることにより、粘着シートを密封し、粘着シートの包装体を得た。得られた粘着シートの包装体に電子線を照射することにより(照射線量:45kGy)、滅菌を施した。
【0128】
実施例2
温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えた4つ口フラスコ内に、アクリル酸2−エチルヘキシル90部、アクリル酸10部および溶剤として酢酸エチル62部を仕込んだ。窒素気流下でフラスコの内容物を撹拌し、フラスコの内温を60±2℃に保ちながら重合開始剤としてジメチル−2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート0.05部と酢酸エチル4.95部との混合物を添加することにより、重合反応を開始させた。
【0129】
重合反応の開始から4時間経過後に、酢酸エチル233部を数回に分けてフラスコ内に添加し、重合反応を10時間行なうことにより、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の不揮発分含量は21.0%であり、25℃における粘度は13200mPa・sであり、ポリマーの重量平均分子量は1610000であった。
【0130】
次に、このポリマー溶液の不揮発分100部あたりのテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル(株)製、商品名:YSポリスターT100)10部の割合でポリマー溶液とテルペンフェノール樹脂を混合し、酢酸エチルを用いて粘度を調製することにより、粘着剤を得た。得られた粘着剤の不揮発分含量は22.2%であり、25℃における粘度は8190mPa・sであった。
【0131】
前記で得られた粘着剤100部メチル化β−シクロデキストリンヨウ素包接体〔日宝化学(株)製、商品名:MCDI、有効ヨウ素濃度:約13%(質量%、以下同じ)〕15部の割合で、粘着剤と40%メチル化β−シクロデキストリンヨウ素包接体メチルアルコール溶液とを十分に混合することにより、混合液を得た。
【0132】
前記で得られた混合液の不揮発分100部あたりミリスチン酸イソプロピル15部の割合で前記混合液にミリスチン酸イソプロピルをゆっくりと添加し、十分に撹拌することにより、粘着剤溶液を得た。得られた粘着剤溶液は、使用する前にカートリッジ式ファイルター(孔径:25μm)を用いて濾過した。
【0133】
次に、前記で得られた粘着剤溶液を用いて実施例1と同様にして粘着シートの包装体を作製し、得られた粘着シートの包装体に電子線を照射することにより(照射線量:45kGy)、滅菌を施した。
【0134】
比較例1
実施例1と同様にして粘着フィルムを長さ45cmごとに裁断した後、流れ方向(MD)に対して垂直方向(VD)にポリエチレンフィルムが内側になるように直径が4cmの塩化ビニル樹脂製パイプに巻き付けることにより、粘着シートの筒状体を得た。その後、この筒状体から塩化ビニル樹脂製パイプを抜き取った後、平行に設置されている2枚の樹脂板の間に筒状体を挟み、筒状体が平坦となるように押圧することにより、筒状体に折り目をつけ、折りたたまれた粘着シートを得た。
【0135】
次に、ホットメルト型接着剤が塗布されたアルミニウムラミネート樹脂フィルムを2つ折りにして重ね合わせ、重ね合わされた端部3カ所のうち2箇所をヒートシーラーで熱融着させることによって製造された開口部を有する袋体に、前記で得られた折りたたまれた粘着シートを挿入した後、内部に空気が入らないようにしながら袋体の開口部をヒートシーラーで熱融着させることによって袋体を密封し、粘着シートの包装体を得た。その後、得られた粘着シートの包装体に電子線を照射することにより(照射線量:45kGy)、滅菌を施した。
【0136】
比較例2
実施例1と同様にして折りたたまれた粘着シートを得た。この折りたたまれた粘着シートを比較例1と同様にして袋体に入れようとしたが、袋体の入り口で粘着シートの端部がめくれたため、包装体を製造することができなかった。
【0137】
比較例3
実施例1と同様にして折りたたまれた粘着シートを得た。比較例2では袋体の入り口で粘着シートの端部がめくれたため、上質紙(坪量:78g/m2)を2つ折りにし、折り曲げられた上質紙に折りたたまれた粘着シートを挟んだ後、この上質紙で覆われた粘着シートを比較例1と同様にして袋体に入れ、内部に空気が入らないようにしながら袋体の開口部をヒートシーラーで熱融着させることによって袋体を密封し、粘着シートの包装体を得た。その後、得られた粘着シートの包装体に電子線を照射することにより(照射線量:45kGy)、滅菌を施した。
【0138】
次に、各実施例または各比較例で得られた粘着シートの包装体の性能評価を以下の方法に基づいて行なった。その結果を表1に示す。
【0139】
(1)粘着シートの外観
粘着シートの包装体を開封し、粘着シートを取り出し、その折り目を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
〇:粘着シートの折り目に異状なし。
×:粘着シートの折り目に凹凸が存在する(不合格)。
【0140】
(2)包装体の製造容易性
粘着シートの包装体を製造するときに、当該包装体を容易に製造することができたかどうかを調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
〇:特に問題なく包装体を製造することができた。
×:包装体を製造することができなかった(不合格)。
【0141】
(3)端部のめくれ
粘着シートの包装体を製造するときに、当該包装体の端部がめくれやすいかどうかを調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
〇:包装体の端部がめくれがたい。
×:包装体の端部が容易にめくれる(不合格)。
【0142】
(4)廃棄物の有無
粘着シートの包装体に用いられている袋体および剥離ライナー以外に廃棄物がないかどうかを確認し、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
〇:廃棄物がない。
×:廃棄物がある(不合格)。
【0143】
【表1】

【0144】
表1に示された結果から明らかなように、各実施例で得られた粘着シートの包装体は、各比較例で得られた粘着シートの包装体と対比して、その製造が容易であり、粘着シートの端部にめくれがなく、袋体および剥離ライナー以外に廃棄物が発生せず、粘着シートの外観が良好であることから、切開用ドレープを包むための包装紙を必要とせず、切開用ドレープを構成しているフィルムに折り皺がなく、しかもフィルムの端部での剥離がないという優れた品質を有するものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の医療用粘着シートの包装体は、例えば、外科手術の際に用いられる切開用ドレープなどの用途に使用することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層を有する樹脂フィルムの当該粘着剤層が形成されている面に剥離ライナーが貼付された医療用粘着シートが収納されてなる医療用粘着シートの包装体であって、前記医療用粘着シートが、剥離ライナーが設けられている面が内面となり、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように折りたたまれ、当該折りたたまれた医療用粘着シートが包装用シート間に挟まれ、当該包装用シートがその端部で封止されていることを特徴とする医療用粘着シートの包装体。
【請求項2】
医療用粘着シートが、樹脂フィルムが設けられている面が外面となるように巻回して折りたたまれてなる請求項1に記載の医療用粘着シートの包装体。
【請求項3】
粘着剤層が、アクリル系粘着剤によって形成されてなる請求項1または2に記載の医療用粘着シートの包装体。

【公開番号】特開2013−94302(P2013−94302A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238011(P2011−238011)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(000137052)株式会社ホギメディカル (31)
【Fターム(参考)】