説明

医療用織編物

【課題】バクテリアバリア性、血液バリア性などに優れるといった特性、洗濯・耐熱滅菌処理を繰り返えしても耐久性や風合いが損なわれず、さらに蒸れ感を大きく軽減することのできる、着衣快適性に優れる医療用織編物を提供すること。
【解決手段】ポリエステル短繊維よりなる芯層をセルロース繊維よりなる鞘層で被覆してなる複重層糸を構成糸とし、コーティング層並びにラミネート層を備えていない織編物であって、洗濯・耐熱滅菌処理100回後の物性として、通気度が15cm/cm・sec以下、透湿度が300g/cm・hr以上、引張強力が300N以上及び引裂強力が5N以上を満足する医療用織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種医療用資材に好適な織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、医師、看護師が着用する手術衣としてサージカルガウンが知られている。サージカルガウンは、バクテリアバリア性や血液バリア性などに優れる他、防塵性にも優れるが、通気性に乏しいため、着用時、蒸れ感を強く感じるという欠点がある。そのため、サージカルガウンの下にスクラブスーツと呼ばれる手術下着を着用することにより、かかる蒸れ感の軽減が図られている。
【0003】
スクラブスーツの多くは綿糸から構成されており、吸汗・吸湿性の点で優れている。しかし、洗濯・耐熱滅菌処理を繰り返すと、耐久性や風合いが損なわれるという欠点がある。そこで、綿とポリエステルとの混紡糸を使用したものが提案されているが、チクチクした肌触りが災いし普及には至っていない。
【0004】
サージカルガウンは、このように着用時に蒸れ感を感じるものであるから、医師・看護師は、普段、待機のときはスクラブスーツを着用し、必要時にサージカルガウンを着用するようにしている。
【0005】
このように、待機時はスクラブスーツを着用し、手術などにあたる際はその上からサージカルガウンを着用するが一般的である。しかし、一刻を争う救急医療の現場などでは、ガウンを着用する時間の確保が難しく、時にはサージカルガウンを着用せずそのまま手術にあたらねばならないことがある。そのため、このような現場から、スクラブスーツ、サージカルガウン両者の特性を併せ持つ医療用織編物の要望がある。
【0006】
そこで、芯層に配されたポリエステル短繊維の周囲を綿で覆った複重層糸を用いて所定の医療用織編物を得る技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−78464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の織編物は、吸汗性、吸水性、肌触りの良さを実現できるもので、医療用織編物として一応完成に近い形にある。しかし、同織編物には、菌やウイルスの透過を抑止するために耐熱性フィルムが積層接着されている。そのため、軽量性や柔軟性に欠け、さらにフィルムにより空気の流れが大きく遮られてしまうために、蒸れ感を十分には軽減できない点でなお問題が残されている。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解消するものであり、バクテリアバリア性、血液バリア性などに優れるといった特性、洗濯・耐熱滅菌処理を繰り返えしても耐久性や風合いが損なわれず、さらに蒸れ感を大きく軽減することのできる、着衣快適性に優れる新規な医療用織編物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究の結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
(1)ポリエステル短繊維よりなる芯層をセルロース繊維よりなる鞘層で被覆してなる複重層糸を構成糸とし、コーティング層並びにラミネート層を備えていない織編物であって、洗濯・耐熱滅菌処理100回後の物性として、通気度が15cm/cm・sec以下、透湿度が300g/cm・hr以上、引張強力が300N以上及び引裂強力が5N以上を満足することを特徴とする医療用織編物。
(2)表面に撥水層を有し、洗濯・耐熱滅菌処理100回後の物性として、撥水度が2級以上及び耐水圧が50mmHO以上を満足することを特徴とする上記1記載の医療用織編物。
(3)導電糸を含んでなり、帯電電荷密度の絶対値が7.0μC/m未満を満足することを特徴とする上記1又は2記載の医療用織編物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の織編物は、スクラブスーツ、サージカルガウン両者の特性を併せ持つものである。すなわち、優れたバクテリアバリア性、血液バリア性の他、洗濯・耐熱滅菌処理を繰り返しても耐久性と良好な風合いを維持でき、さらに蒸れ感をも大きく軽減することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の織編物は、ポリエステル短繊維よりなる芯層をセルロース繊維よりなる鞘層で被覆してなる複重層糸を構成糸とする。本発明では、可紡性、抱合性の観点から複重層糸は芯鞘層共に短繊維から構成される。そして、複重層糸の鞘層にセルロース繊維を配することで、織編物の風合いを良好なものとでき、さらに水分を糸外側へ容易に移動させることができるので織編物の乾燥効率を大幅に向上させることができる。また、複重層糸の芯層にポリエステル短繊維を配することで、織編物を繰り返し洗濯・耐熱滅菌処理しても一定以上の耐久性を維持できる。
【0014】
複重層糸の芯層に配されるポリエステル短繊維としては、従来公知のものが使用できる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどからなる短繊維が使用できる。中でも、織編物を洗濯・耐熱滅菌処理しても耐熱性や色相を維持し易いポリエチレンテレフタレートが好適である。また、これらのポリエステルは、末端封鎖剤などによって分子の末端が封鎖されていてもよく、これにより織編物の耐アルカリ加水分解性を向上させることができる。
【0015】
一方、鞘層に配されるセルロース繊維としては、例えば、綿、キュプラ、リヨセルなどからなる繊維が使用でき、中でも洗濯・耐熱滅菌処理を繰り返すことによる織編物の耐久性低下を抑制する観点から綿が好ましい。
【0016】
複重層糸における芯鞘質量比(芯:鞘)としては、20:80〜60:40が好ましく、30:70〜40:60がより好ましい。芯層の比率が20を下回ると、織編物の速乾性が低下する傾向にあるばかりか、洗濯を繰り返す度に織編物の風合いが低下する傾向にあり、好ましくない。一方、芯層の比率が60を上回ると、複重層糸表面にポリエステル短繊維が露出することがあり、結果、織編物に染色斑が発生し易くなるばかりか、チクチクした肌触りが強まって着衣快適性を低減させる傾向にあり、好ましくない。
【0017】
本発明の織編物は、以上の糸を用いてなるものであるが、その際の織編組織としては、基本的にどのようなものでも採用できる。中でも、組織点の多いものを採用すると耐久性が向上する傾向にあるので、本発明では、平組織、綾組織が好ましい。
【0018】
さらに、本発明の織編物は、コーティング層並びにラミネート層を備えていないことを必須の要件とする。コーティング層やラミネート層を備えていると、菌、ウイルスの他、血液、体液の透過・浸透を抑止する、すなわち、良好なバクテリアバリア性や血液バリア性を向上できる点で好ましいが、反面、風合いが大きく低下すると同時に蒸れ感を強く感じるため、着衣快適性が低下する。
【0019】
これに対し、本発明の織編物は、バクテリアバリア性、血液バリア性を備えているだけでなく、風合いに優れ、蒸れ感を効果的に抑えることができる。これは、本発明の織編物が特定の物性を満足するからである。
【0020】
織編物の物性について説明すると、まず、本発明では、通気度として15cm/cm・sec以下を満足する必要があり、10cm/cm・sec以下を満足することが好ましい。通気度が15cm/cm・secを超えると、織編物に隙間ができる結果、バクテリアバリア性、血液バリア性が低下する。なお、通気度を所望の範囲となすには、織編組織や織編密度を調整すればよい。
【0021】
さらに、本発明では、透湿度として300g/cm・hr以上を満足する必要がある。これにより、着用時の蒸れ感を大きく軽減することができる。
【0022】
本発明の織編物は、医療用途を対象とするものである。医療用織編物は、通常、洗濯・耐熱滅菌処理して使用される。この点を鑑みると、上記通気度、透湿度は、洗濯・耐熱滅菌処理した後のものであることが好ましい。さらに、実際の医療現場では、織編物の使用、洗濯・耐熱滅菌処理というサイクルが繰り返されるから、洗濯・耐熱滅菌処理を相当回数繰り返した後の通気度、透湿度が、上記範囲を満たすことがより好ましい。このような点から、通気度15cm/cm・sec以下、透湿度300g/cm・hr以上という要件は、洗濯・耐熱滅菌処理を複数回行った後、具体的には、100回行った後のものであることが必要である。
【0023】
ここで、洗濯・耐熱滅菌処理について述べておく。洗濯・耐熱滅菌処理とは、織編物を洗濯した後、耐熱滅菌処理することをいう。
【0024】
洗濯には、一般にワッシャー型洗濯機が用いられる。条件としては、温度70℃前後、pH9前後、浴比1:30前後、洗剤濃度1g/L前後で20分間程度とするのが一般的である。洗濯後は、織編物をすすぎ、脱水、タンブル乾燥し、次なる耐熱滅菌処理に導入する。
【0025】
耐熱滅菌処理には、一般にオートクレープが用いられる。条件としては、温度120℃前後で15分間程度とするのが一般的である。
【0026】
織編物の汚れを落とすには、洗濯、耐熱滅菌処理の一方だけでは足りず、このように、織編物を洗濯した後、これを耐熱滅菌処理するのが一般的である。なせなら、医療現場において織編物に付着する汚れには、通常の汚れの中に菌・ウイルスなどが含まれているからである。
【0027】
洗濯・耐熱滅菌処理の条件は、上記から明らかなように、一般家庭洗濯とは比べものにならない程厳しいものである。しかるに、織編物には、相応の耐久性が必要である。この点から、本発明の織編物には、洗濯・耐熱滅菌処理100回後においてもなお、相当程度の引張強力及び引裂強力を保持している必要がある。具体的には、引張強力300N以上及び引裂強力5N以上を維持している必要がある。
【0028】
本発明の織編物は、前述のように医療用途を対象とするものである。しかるに、織編物が、バクテリアバリア性、血液バリア性により優れているのが当然好ましい。バクテリアバリア性、血液バリア性を効率よく向上させるには、織編物を撥水加工すると共に、織編物の耐水圧を所定範囲に設定することが効果的である。具体的には、撥水度2級以上及び耐水圧50mmHO以上を満足することが好ましい。この場合の撥水度、耐水圧も、洗濯・耐熱滅菌処理100回後のものであることが好ましい。
【0029】
撥水加工に用いる撥水剤としては、フッ素系撥水剤やシリコーン系撥水剤が好適である。また、織編物の耐水圧を上げるには、カレンダー加工が効果的である。
【0030】
さらに、医療現場では、多くの電子医療機器が用いられる。この点から、織編物は、静電気を溜め込み難いものであることが好ましい。具体的には、織編物の帯電電荷密度は、絶対値で7.0μC/m未満であることが好ましく、同4.0μC/m未満であることがより好ましい。帯電電荷密度を所望の範囲とすることは、織編物内に導電糸を1〜2本/インチ程度の割合で含ませることにより可能である。
【実施例】
【0031】
ポリエステル短繊維よりなる芯層が30質量%で綿繊維よりなる鞘層が70質量%の複重層糸30番手と、同複重層糸とポリエステル系導電糸28dtex2fとの合撚糸とを用意した。続いて、複重層糸と導電糸とを用いて経糸ビームを準備し、これをエアージェットルームに仕掛けた後、緯糸に上記複重層糸を用いて製織し、平組織の生機を得た。得られた生機の経方向には、上記合撚糸が2本/インチの割合で均等に配列されていた。
【0032】
次に、得られた生機を一連の染色加工に投入し、経糸密度122本/インチ、緯糸密度65本/インチの織物として仕上げた後、カレンダー加工し、さらにフッ素系撥水剤を用いて撥水加工し、経糸密度122本/インチ、緯糸密度65本/インチの織物となした。
【0033】
ここで、JIS L1094帯電電荷量測定(生地評価)に基づき、織物の帯電電荷密度を測定したところ、アクリル摩擦布で(経×緯、単位:μC/m)+5.6×+4.9、ナイロン摩擦布で(同)−4.6×−3.3であった。
【0034】
その後、得られた織物を100回洗濯・耐熱滅菌処理した。すなわち、ワッシャー型洗濯機を用いて、得られた織物を温度70℃、pH9、浴比1:30、洗剤濃度1g/Lで20分間洗濯し、常温による4分間のすすぎを5回行った後、遠心脱水、タンブル乾燥した。次いで、オートクレープを用いて、織物を温度121℃で15分間耐熱滅菌処理した。この一連の操作を洗濯・耐熱滅菌処理1回とし、これを100回繰り返した。
【0035】
そして、洗濯・耐熱滅菌処理前の織物(以下、「未洗の織物」という)と、洗濯・耐熱滅菌処理100回後の織物(以下、「100洗の織物」という)とについて、以下の項目を以下の基準で評価した。結果も併せて記載する。
【0036】
(1)通気度
JIS L1096フラジール法に基づき、織物の通気度を測定した。結果は、未洗の織物で2.4cm/cm・sec、100洗の織物で7.8cm/cm・secであった。
【0037】
(2)透湿度
JIS L1099A−1法(塩化カルシウム法)に基づき、織物の透湿度を測定した。結果は、未洗の織物で332g/cm・hr、100洗の織物で357g/cm・hrであった。
【0038】
(3)引張強力
JIS L1096ストリップ法に基づき、織物の引張強力を測定した。結果は、未洗の織物で(経×緯、単位:N)864×373、100洗の織物で(同)633×415であった。
【0039】
(4)引裂強力
JIS L1096ペンジュラム法に基づき、織物の引裂強力を測定した。結果は、未洗の織物で(経×緯、単位:N)15.0×10.6、100洗の織物で(同)7.8×5.5であった。
【0040】
(5)撥水度
JIS L1018スプレー法に基づき、織物の耐水圧を測定した。結果は、未洗の織物で5級、100洗の織物で2級であった。
【0041】
(6)耐水圧
JIS L1092低水圧法に基づき、織物の撥水度を測定した。結果は、未洗の織物で256mmHO、100洗の織物で69mmHOであった。
【0042】
(7)着衣快適性
未洗の織物、100洗の織物それぞれを用いてスクラブスーツを作製した。それぞれのスクラブスーツを実際に着用したところ、共に風合いがよく、蒸れ感をほとんど感じることがなかった。この結果から、本発明により、洗濯・耐熱滅菌処理を繰り返しても良好な着衣快適性を維持できる医療用織編物が提供できることが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル短繊維よりなる芯層をセルロース繊維よりなる鞘層で被覆してなる複重層糸を構成糸とし、コーティング層並びにラミネート層を備えていない織編物であって、洗濯・耐熱滅菌処理100回後の物性として、通気度が15cm/cm・sec以下、透湿度が300g/cm・hr以上、引張強力が300N以上及び引裂強力が5N以上を満足することを特徴とする医療用織編物。
【請求項2】
表面に撥水層を有し、洗濯・耐熱滅菌処理100回後の物性として、撥水度が2級以上及び耐水圧が50mmHO以上を満足することを特徴とする請求項1記載の医療用織編物。
【請求項3】
導電糸を含んでなり、帯電電荷密度の絶対値が7.0μC/m未満を満足することを特徴とする請求項1又は2記載の医療用織編物。


【公開番号】特開2011−184807(P2011−184807A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48036(P2010−48036)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】