説明

医療用装置の被検者固定装置

【課題】 被検者を苦痛や不快感を与えることなく寝台天板に固定すること。
【解決手段】 被検者Pを載置する寝台天板1に被検者を囲む袋体3を設けたもので、この袋体は硬い丈夫な材料で形成された表皮と、その内側に伸縮性のある柔らかい材料で形成された拡張室から構成されており、この拡張室にコンブレッサ6によって気体または液体を注入することにより、被検者を袋体で囲んだ状態で寝台天板に固定する。
これにより、被検者には均一な力が作用して局部的に締め付けるようなことはないので、被検者に苦痛や不快感を与えることがなく、確実に寝台天板に固定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばX線診断装置、X線CT装置、放射線治療装置などの医療用装置で、X線撮影や治療を受ける被検者を当該医療用装置に固定するために用いられる医療用装置の被検者固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用装置で被検者のX線撮影や治療を行う場合に、被検者が寝台から落下しないようにその安全を確保したり、X線撮影または治療の位置がずれるのを防いだりするために、被検者固定装置が用いられている。この種の従来の被検者固定装置は、被検者を載置する寝台に、布あるいは皮などで造られた帯状のベルトによって被検者を緊縛するものであった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−122115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記のような従来の被検者固定装置は、固定強度の微調整が難しいという問題があった。特に、被検者と寝台およびベルトの間に必ず隙間ができるため、ベルトの締め付けが緩いと被検者の体が動いてしまうこととなり、体動が生じないように強く締め付けると被検者に苦痛や不快感を与えることになっていた。また、隙間に緩衝材を詰めたり、被検者の体表に緩衝材を巻き付けたりして固定することも行われていたが、準備に時間がかかるという問題があった。さらに、ベルトで固定するものでは、X線撮影や治療部位を変更する度に、ベルトを緩めて体位を変えた後再度固定する作業が必要となり、撮影や治療の時間が長くなり、被検者や医療スタッフの負担を増加させるという問題もあった。
【0004】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、被検者を載置する寝台天板に取り付けられ、前記被検者を囲む袋体と、この袋体に気体または液体を注入し、および注入した前記気体または液体を排出させる給排手段とを具備することを特徴とする医療用装置の被検者固定装置である。
【0006】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の医療用装置の被検者固定装置において、前記袋体は、前記寝台天板の長手方向に沿って1または複数設けられることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1および請求項2のいずれか1項に記載の医療用装置の被検者固定装置において、前記袋体は、前記寝台天板の長手方向の両端部に、長手方向に沿って移動可能に係合されていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の医療用装置の被検者固定装置において、前記袋体は、前記寝台天板の長手方向に沿って伸縮可能に蛇腹状に形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の医療用装置の被検者固定装置において、前記袋体は前記被検者のほぼ全身を包み込むことの可能な形状に形成され、その背面が前記寝台天板の表面に固着されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項6に記載の発明は、被検者を載置する寝台天板の長手方向両端部から、当該寝台天板の上方へアーチ状に突出するように設けた枠体と、この枠体の前記寝台天板に向かう側に設けた袋体と、この袋体に気体または液体を注入し、および注入した前記気体または液体を排出させる給排手段とを具備することを特徴とする医療用装置の被検者固定装置である。
【0011】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の医療用装置の被検者固定装置において、前記袋体は、気体または液体の注入される部分が複数の部屋に分割されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の医療用装置の被検者固定装置において、前記袋体と前記被検者との接触部に圧力を検知する圧力センサを設け、この圧力センサが所定の圧力を検知したときは、前記給排手段による気体または液体の注入を停止させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の医療用装置の被検者固定装置において、前記給排手段によって前記袋体に注入される前記気体または液体の温度を所望の温度に調整する温度調整手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記課題を解決するための手段の項にも示したとおり、本発明の特許請求の範囲に記載する各請求項の発明によれば、次のような効果を奏する。
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、寝台天板に設けた袋体で被検者を袋体で包み込むようにし、この袋体に空気や水のような気体または液体を注入するようにしたので、被検者には均一な力が作用し、局部的に締め付けるようなことはない。よって、苦痛や不快感を与えることなく、確実に被検者を寝台天板に固定することができる。また、袋体への空気や水などの供給/排出の遠隔操作が可能であり、X線撮影や放射線治療に際して被検者の体位変更が必要になった場合には、袋体から空気や水を若干排出して固定を少々緩めることによって、被検者に体位変更を促し、その後空気や水を供給して再度固定状態にし、撮影や治療を続けることができる。よって、医療スタッフが被検者の傍へ行ってベルトを緩めたり締め直したりする手間が省け、撮影や治療に要する時間を短縮することができて、被検者や医療スタッフの負担が軽減される。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、撮影や治療部位を避けながら被検者を確実に寝台天板に固定することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、使用前には袋体を寝台天板の端へ寄せておくことができるので、被検者が寝台天板に載る際の動作がし易くなる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、非使用時に形状を縮小できるとともに、重症者や幼児などを広い範囲で固定することができるので安全性を向上できる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、重症者や幼児などを広い範囲で固定することができるので安全性が向上する。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、被検者は袋体と天板とによって挟まれるようにして包み込まれるので安定感が高く、被検者が寝台天板に載る際の動作もし易くなる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、袋体の気体または液体の注入される部分を複数の部屋にしたことにより、被検者の体の凹凸に合わせて袋体を膨らませることができるので、被検者の固定をより確実にすることができる。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、常に加圧状態を監視することにより、過剰加圧による袋体の破裂のような不測の事態の発生を防ぐことができ、安全性を向上することができる。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、注入する気体や液体を季節に応じて暖めたり、冷やしたりするなど適度な温度を保つようにすることにより、被検者の快適性を維持することができる。また、温熱療法や低温治療としても応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る医療用装置の被検者固定装置の実施例について、図1ないし図12を参照して詳細に説明する。なお、これらの図において、同一部分には同一符号を付して示してある。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明に係る医療用装置の被検者固定装置の、実施例1の使用状態を説明するために示した平面図である。この図で符号1を付して示したものは、例えばX線診断装置、X線CT装置、放射線治療装置などの医療用装置の寝台天板であり、これら医療用装置でX線撮影や治療を受ける被検者Pが寝台天板1に寝た状態で載せられている。そして被検者Pの頭部は、寝台天板1上に置かれたヘッドレスト2に保持されている。なお寝台天板1は船底形に湾曲したものであっても、フラット形のものであっても構わない。
【0026】
寝台天板1には、幅方向に帯状の袋体3が取り付けられており、その数は長手方向に1または複数設けられている。なお、図1には寝台天板1に2つの袋体3が設けられているので、これを便宜的に符号3a、3bを付して区別して表示するが、その構造や機能は同じである。よって通常は袋体3として説明する。さらにヘッドレスト2にもその内側に袋体4が設けられている。これら袋体3、4は、外皮が伸縮性の少ない布、樹脂、金属のような丈夫な材料で形成され、その内側に伸縮性に富んだ柔らかい樹脂などで形成された拡張室を備えた二重構造となっている。
【0027】
袋体3、4の拡張室には空気または水が供給されるので、そのための管路5が個々に接続されており、その管路5の他端はコンプレッサ6に接続されている。なお、管路5には図示しないが、袋体3、4の拡張室に供給された空気または水を排出するためのバルブが設けられている。また、拡張室に供給する空気または水は、他の気体または液体であっても良い。
【0028】
次に、袋体3、4の機能について、図2ないし図4を参照して説明する。
【0029】
図2は図1のA−A線に沿う断面図、図3は同じく図1のB−B線に沿う断面図、図4は図1のC−C線に沿う断面図を、夫々動作説明のために模式的に示したものである。これら図2、図3に示すように、袋体3は輪形に形成されており、寝台天板1に接する外皮部分が接着などの手段によって寝台天板1の表面に固着されている。また、図4に示すように、ヘッドレスト2の形状に合わせて略U字状に形成された袋体4の外皮部分が、接着などの手段によってヘッドレスト2の内側表面に固着されている。
【0030】
そして寝台天板1上に寝るに当って被検者Pは、身体を袋体3の輪に通すとともに頭をヘッドレスト2の袋体4に載せることになる。図2(a)、図3(a)、図4(a)は、このときの初期状態を示したものであり、被検者Pの体表と袋体3、4の拡張室との間には十分な隙間が形成されている。そして、医療スタッフによってX線撮影や治療に適するように被検者Pの位置合わせが行われた後、医療スタッフはコンプレッサ6を起動して、袋体3、4の拡張室へ例えば空気を送り込む。
【0031】
これによって拡張室が膨らみ始めるが、袋体3、4の外皮は伸縮性の少ない丈夫な材料で形成されているので、拡張室が被検者P側へ膨らむこととなり、拡張室に空気が十分送り込まれることによって、図2(b)、図3(b)に示すように、被検者Pは袋体3によって包み込まれる形となる。同様に頭部も、図4(b)に示すように袋体4に埋まる形となる。よって、被検者Pはこれら袋体3、4によって動きを制限されるように保持されることとなり、かつ、各袋体3、4は寝台天板1やヘッドレスト2に固定されているので、結果的に被検者Pは寝台天板1に固定されることとなる。
【0032】
なお、袋体3、4の拡張室を複数に分割して形成しておけば、拡張時に被検者Pの体型の凹凸に適合させることが可能となり、被検者Pを寝台天板1やヘッドレスト2により確実に固定することができる。
【0033】
上記の実施例1において、袋体3は輪形に形成されるものと説明したが、必ずしも輪形に限定されるものではない。例えば、図5(a)に模式的に示すように、帯状に形成した袋体3を被検者Pの周りに回して、その両端をベルクロファスナー31のような止め具で接着するように結合させても良いし、図5(b)に示すように、帯状に形成した袋体3の一端を、寝台天板1の端部にフック32などで固定するようにしても良い。これらの場合でも、寝台天板1に接する袋体3の外皮部分が寝台天板1の表面に固着されることは言うまでもない。このようにすれば、被検者Pの身体を輪にくぐらせることなく袋体3の装着が可能となる。
【0034】
また、図5(b)に示した帯状に形成した袋体3の一端を、寝台天板1の端部にフック32などで固定するものにあっては、自動車のシートベルトのように、非使用時には袋体3を巻き込んで収納できるような収納部を寝台天板1に設けておいても良い。この場合、急激なテンション変化が起こったときに、帯状の袋体3の引き出しをロックできるようにするのが良い。このようにすると、非使用時には袋体3が邪魔にならず、また、袋体3の使用時には、被検者Pが突然起き上がろうとしたり、何かのはずみで寝台天板1から落下しそうになったりしても、袋体3の引き出しがロックされるので安全性が向上する。
【0035】
次に、実施例1の種々の応用例について、図6ないし図9を参照して説明する。
【0036】
図1には、寝台天板1の長手方向に複数の袋体3が設けられたものを示したが、図6に平面図で示すように、袋体3は、被検者Pのかなりの部分を覆うことができる幅の広いものとしても良い。この袋体3も、輪形で被検者Pをくぐらせる形式のものである。
【0037】
また図7(a)に平面図、その下方側面図を図7(b)に示すように、図5(b)に示した帯状に形成した袋体3の一端を、寝台天板1の端部にフック32などで固定するようにしたものの応用として、袋体3を寝台天板1の表面積の2倍ほどの大きさに形成したものとしても良い。この場合は、その袋体3を寝台天板1の表面に敷き詰めるように固着して、その上に被検者Pを寝かせることになる。そして、袋体3の寝台天板1からはみ出す部分を、被検者Pを覆うように折り返して、その先端部を寝台天板1の端部にフック32などを用いて固定すれば、図7(c)に示す平面図のごとくなる。図7(d)はその下方側面図であり、この状態で袋体3に空気や水などを供給すれば、袋体3が膨らみ被検者Pの身体全体を寝台天板1に固定することができ、例えば重症患者や幼児などを安全に固定するのに効果的である。
【0038】
また、袋体3の外皮部分を寝台天板1の表面に接着することなく、寝台天板1に沿って自由に移動できるようにしても良い。すなわち、例えば図8(a)に示すように、寝台天板1の長手方向の両端部にガイド溝1aを設けるとともに、このガイド溝1aに係合されるフック33を袋体3に設けておけば、袋体3を寝台天板1に移動可能に保持することができる。従って、図8(b)に示すように、被検者Pが寝台天板1に載る前は、袋体3を寝台天板1の後方端に寄せておき、必要に応じて袋体3を前方へ引き出して使用するようにする。図8(c)は、被検者の表示を省略したものの、袋体3の使用状態を示したものである。なおこの場合は、袋体3とコンプレッサ6とを結ぶ管路5は、袋体3の移動に追従できるように、フレキシブルに構成しておくものとする。
【0039】
さらに袋体3は、例えば図8に示した移動可能な複数の袋体3を、列方向に多数連結して蛇腹形に形成しても良い。図9はその概略を示したものである。すなわちこの場合、個々の袋体3は図8で説明したように、ガイド溝1aにフック33で係合されており、隣接する袋体3同士は柔らかい布や樹脂で結合しておく。従って、多数の袋体3があたかも蛇腹形の1つの袋体として構成される。よって、被検者Pが寝台天板1に載る前は、図9(a)に示すように、袋体3を後方端に寄せておき、必要に応じて袋体3を前方へ引き出すと、図9(b)に示すように、1つの袋体のようにして使用することができる。これは、図6に示したものと同様となる。
【0040】
なお、図7に示した袋体3を寝台天板1からはみ出すように大きく形成し、はみ出した部分を、被検者Pを覆うように折り返して、その先端部を寝台天板1の端部にフック32などを用いて固定するようにしたものにおいて、袋体3の寝台天板1からはみ出す部分を蛇腹状に形成しても良い。この場合の袋体3の非使用状態を図9(c)に示してあり、使用時には図9(b)に示すようになる。
【実施例2】
【0041】
次に、本発明に係る医療用装置の被検者固定装置の、実施例2について図10を参照して説明する。
【0042】
図10は、寝台天板1の下方側面図であり、図2、図3、図5と同様の方向から見た図である。この実施例2では、寝台天板1の長手方向に対してスライド可能となるように、樹脂などの硬い材料で形成した枠体35を寝台天板1の上方へアーチ状に突出するように設け、この枠体35の内側、すなわち寝台天板1を向く側に伸縮性に富んだ柔らかい樹脂などの材料で形成した拡張室36を設けたものである。すなわち、枠体35と拡張室36とによって袋体3を構成しており、枠体35が実施例1における袋体3の外皮に相当している。この拡張室36は実施例1と同様に管路5を介してコンプレッサ6に接続されて、空気または水或いは他の気体または液体が供給されるものである。
【0043】
従って、被検者Pは寝台天板1上に直接寝ることとなり、技師などの医療スタッフによってX線撮影や治療に適するように被検者Pの体位などを調整し、枠体35を移動して所望の位置にセットした上でコンプレッサ6を駆動すれば、拡張室36に空気または水などが供給されて拡張し、被検者Pを寝台天板1上に固定することができる。よって被検者Pは、枠体35と拡張室36とから成る袋体3と寝台天板1とによって挟まれるようにして包み込まれるので安定感が高く、被検者Pが寝台天板1に載る際の動作もし易くなる。
【0044】
なお、この枠体35と拡張室36とから成る袋体3は、幅の広いものを1個設けたり、幅の狭いものを複数個設けたり、適宜選択すればよい。
【実施例3】
【0045】
次に、本発明に係る医療用装置の被検者固定装置の、実施例3について図11および図12を参照して説明する。
【0046】
実施例3は、袋体3をマットレス形または寝袋形に形成したものである。先ず図11にマットレス形のものを示してあるが、これは、袋体3を寝台天板1の表面積ほどの大きさの二重構造とし、その周囲を封じてあり、上面には被検者Pが入り込むための開口部35を形成してある。そして、袋体3は寝台天板1の表面に敷き詰められて背面側を寝台天板1に固着してあり、袋体3の中に被検者Pを寝かせることになる。
【0047】
なお袋体3は実施例1と同様に、外皮は伸縮性の少ない丈夫な材料で形成され、その内側に伸縮性に富んだ材料で形成された拡張室を備えた二重構造となっている。そして、拡張室は図示しないが実施例1、実施例2と同様に管路5を介してコンプレッサ6に接続されており、空気または水などが供給されることによって内側へ膨らむものである。ここで、図11(a)、(b)は被検者Pが袋体3に入り込んだところで、まだコンプレッサ6を駆動していない状態を示しており、袋体3の拡張室は膨らんでいない。なお図11(a)は平面図、図11(b)は下方側面図である。
【0048】
そこで、コンプレッサ6を駆動すれば管路5を通して袋体3の拡張室に空気または水などが供給されるので、拡張室が袋体3の内側に膨らみはじめ、被検者Pの周りを包み込むこととなる。その結果は図11(c)、(d)に示すように、膨らんだ袋体3の中に被検者3は閉じ込められて、姿勢を保ったまま寝台天板1に固定される。また、開口部35は、拡張室が膨らむことによって開口が狭くなるので、ここから被検者Pが外へ出されることはない。
【0049】
図12は、袋体3を寝袋形に形成した場合の実施例を示したものである。これは、外観が寝袋形になっている他は、図11に示したマットレス形のものとほぼ同様の構造であり、開口部35はファスナー36で閉じられるようになっている。そして、袋体3の背面側は寝台天板1に固着されており、被検者Pは丁度寝袋に入り込むように袋体3の中に入り、横になる。ここで、図12(a)、(b)は、まだコンプレッサ6を駆動していないため袋体3の拡張室が膨らんでいない状態を示しており、(a)は平面図、(b)は下方側面図である。なお、ファスナー36は正面中央に位置しているが、側面側に設けても良い。
【0050】
そこで、コンプレッサ6を駆動すれば管路5を通して袋体3の拡張室に空気または水などが供給されるので、拡張室が袋体3の内側に膨らみ、被検者Pの周りを包み込むこととなる。その結果は図12(c)、(d)に示すように、膨らんだ袋体3の中に被検者3は閉じ込められて、姿勢を保ったまま寝台天板1に固定される。よって、被検者Pの身体全体を寝台天板1に安定に固定することができ、例えば重症患者や幼児などを安全に固定するのに効果的である。
【0051】
以上詳述したように、本発明は空気や水のような気体または液体を袋体に注入することによって、被検者を袋体で包み込むようにして寝台天板に固定するものである。従って被検者には均一な力が作用し、局部的に締め付けるようなことはないので、苦痛や不快感を与えることがなく、確実に被検者を寝台天板に固定することができる。また、X線撮影や放射線治療に際して被検者の体位変更が必要になった場合には、従来は医療スタッフが被検者の傍へ行ってベルトを緩めたり締め直したりしなければならなかったが、本発明では、袋体への空気や水などの供給/排出を遠隔操作することが可能であり、撮影や治療に要する時間を短縮することができて、被検者や医療スタッフの負担が軽減される。
【0052】
なお本発明は、上述の実施例に限定されることなく、種々の態様での実施が可能である。
【0053】
例えば、胃部のX線撮影における胃部圧迫のように、被検者の特定部位に圧力をかけたい場合には、別系統の拡張室を必要な部位に接するように設けることによって目的が達成できる。また、安全面での配慮として、拡張室の圧力が上昇し過ぎないように、被検者との接触面に圧力を検知する圧力センサを設け、この圧力センサが所定の圧力を検知したときに、コンプレッサの動作を停止させて圧力の上昇を阻止したり、あるいはバルブを開いて気体または液体を排出させたりするようにしても良い。さらに、管路に圧力安全弁を設けて、系内が規定圧力以上に達したとき、その圧力を徐々にまたは一気に低下させるようにしても良い。
【0054】
さらに、袋体の拡張室へ供給する気体や液体の温度を必要に応じて暖めたり、冷やしたりできるような温度調整装置を設ければ、被検者の快適性をより向上することができる。また、拡張室に微細な孔を形成しておきこの孔から拡張室へ供給する気体の極く一部を放出させるようにすれば、換気性が向上し快適性をより向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る医療用装置の被検者固定装置の、実施例1の使用状態を説明するために示した平面図である。
【図2】動作説明用として模式的に示した、図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】同じく図1のB−B線に沿う断面図である。
【図4】同じく図1のC−C線に沿う断面図である。
【図5】実施例1の応用例を示した模式的な断面図である。
【図6】実施例1の他の応用例を示した説明図である。
【図7】実施例1の他の応用例を示した説明図である。
【図8】実施例1の他の応用例を示した説明図である。
【図9】実施例1の他の応用例を示した説明図である。
【図10】本発明に係る医療用装置の被検者固定装置の、実施例2の説明図である。
【図11】本発明に係る医療用装置の被検者固定装置の、実施例3の説明図である。
【図12】実施例3の変形例を示した説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 寝台天板
2 ヘッドレスト
3 袋体
5 管路
6 コンプレッサ
P 被検者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者を載置する寝台天板に取り付けられ、前記被検者を囲む袋体と、
この袋体に気体または液体を注入し、および注入した前記気体または液体を排出させる給排手段と
を具備することを特徴とする医療用装置の被検者固定装置。
【請求項2】
前記袋体は、前記寝台天板の長手方向に沿って1または複数設けられることを特徴とする請求項1に記載の医療用装置の被検者固定装置。
【請求項3】
前記袋体は、前記寝台天板の長手方向の両端部に、長手方向に沿って移動可能に係合されていることを特徴とする請求項1および請求項2のいずれか1項に記載の医療用装置の被検者固定装置。
【請求項4】
前記袋体は、前記寝台天板の長手方向に沿って伸縮可能に蛇腹状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の医療用装置の被検者固定装置。
【請求項5】
前記袋体は前記被検者のほぼ全身を包み込むことの可能な形状に形成され、その背面が前記寝台天板の表面に固着されていることを特徴とする請求項1に記載の医療用装置の被検者固定装置。
【請求項6】
被検者を載置する寝台天板の長手方向両端部に係合され、当該寝台天板の上方へアーチ状に突出するように設けた枠体と、
この枠体の前記寝台天板に向かう側に設けた袋体と、
この袋体に気体または液体を注入し、および注入した前記気体または液体を排出させる給排手段と
を具備することを特徴とする医療用装置の被検者固定装置。
【請求項7】
前記袋体は、気体または液体の注入される部分が複数の部屋に分割されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の医療用装置の被検者固定装置。
【請求項8】
前記袋体と前記被検者との接触部に圧力を検知する圧力センサを設け、この圧力センサが所定の圧力を検知したときは、前記給排手段による気体または液体の注入を停止させることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の医療用装置の被検者固定装置。
【請求項9】
前記給排手段によって前記袋体に注入される前記気体または液体の温度を所望の温度に調整する温度調整手段を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の医療用装置の被検者固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−301217(P2007−301217A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133818(P2006−133818)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】