説明

医薬化合物

一般式Z−(L)−Vの医薬品。式中、Vは、アミノ酸配列X−X−Val−Tyr−Ile−His−Pro−X−X−X10を表し、Lは、結合又はリンカーを表し、Zは、適宜イメージング部分Mを担持することができる基を表し、Xはアミノ酸を表し、XはArg又はN−アルキル化Arg又はArg類似体を表し、XとXとX10とが一緒にACE切断部位をなし、Zは適宜リンカーLを介してアミノ酸X1と結合を形成し、Mは、画像診断法で直接又は間接的に検出し得る造影性基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心不全、心不整脈その他繊維化の顕著な疾患の治療、並びに心不全その他線維化の顕著な疾患の診断での使用に適した新規医薬品に関する。具体的には、本発明は、アンジオテンシンII受容体ATの上方制御及びアンジオテンシン変換酵素ACEに関連する疾患の治療及び診断に有用な医薬品に関する。本発明の医薬品は、インビボでのACEによる切断によって活性型(すなわちATターゲティング型)に変換される。
【0002】
AT1受容体をターゲティングする造影剤の使用によって検出し得る疾患は、鬱血性心不全(CHF)、動脈硬化症その他線維形成過程の顕著な疾患及び病態である。
【0003】
本医薬品は、ACE切断部位を有するアンジオテンシンI(AngI)類似ペプチドを含んでおり、さらに、診断用造影性基を担持し得る基及び任意要素としてのリンカーを含む。ACEでの切断後、アンジオテンシンII(AngII)類似体と診断用造影性基を担持し得る基と適宜リンカーを含む活性医薬品が形成される。本造影剤は、アンジオテンシン受容体、特にアンジオテンシンIIタイプ1(AT)受容体に親和性を有する。
【背景技術】
【0004】
オクタペプチド(Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe)であるアンジオテンシンII(AngII)は、2種類の異なる受容体:AngIIタイプ1(AT)及びタイプ2(AT)受容体に結合する多面的な血管作用性ペプチドである。レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS)の活性化は、血管肥厚、血管収縮、塩分・水分の保持及び高血圧を生じる。これらの作用は主にAT受容体によって媒介される。細胞死、血管拡張及びナトリウム利尿を始めとするその他のAngII媒介作用はAT受容体の活性化によって媒介される。AngII情報伝達メカニズムは未だ充分に解明されていない。AT受容体の活性化は、チロシンキナーゼ誘導タンパク質リン酸化、アラキドン酸代謝物の産生、反応性酸化性種の活性変化及び細胞内Ca2+濃度の流動など様々な細胞内系を引き起こす。AT受容体の活性化はブラジキニンの刺激、一酸化窒素産生及びプロスタグランジン代謝を促進するが、これらの大部分はAT受容体の作用とは逆である(Berry C, Touyz R, Dominiczak AF, Webb RC, Johns DG.: Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2001 Dec;281(6):H2337−65. Angiotensin receptors: signalling, vascular pathophysiology, and interactions with ceramide参照)。
【0005】
AngIIはレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS)の活性成分であり、血圧、血漿量、交感神経系及び口渇反応の調節に重要な生理学的役割を果たす。AngIIは、心肥大、心筋梗塞、高血圧、慢性閉塞性肺疾患、肝線維症及びアテローム性動脈硬化症における病態生理学的役割も有する。AngIIは、体系的には古典的RAASを介して産生され、局所的には組織RAASを介して産生される。古典的RAASでは、循環系中の腎由来のレニンが肝由来のアンジオテンシノーゲンを切断してデカペプチドのAngIを生じ、AngIは肺でACEによって活性型AngIIへと変換される。AngIは組織エンドペプチダーゼによってヘプタペプチドAng−(1−7)へと分解されることもある。
【0006】
RAAS系を本明細書の図1に図解するが、この図はFoote他の報文Ann. Pharmacother. 27: 1495−1503 (1993)の図1に基づくものである。
【0007】
RAASが正常な心血管ホメオスタシスに重要な役割を果たすことに加えて、RAASの過剰活性は高血圧、鬱血性心不全、冠動脈虚血及び腎不全などの様々な循環器疾患の発症に関与している。心筋梗塞(MI)後、RAASは活性化される。具体的には、MI後及び左心室機能障害においてAT受容体の発現が増大するので、AT受容体は心筋梗塞後のリモデリングに重要な役割を果たしているらしい。したがって、ACE阻害剤やAT受容体拮抗剤のようなRAASを阻害する薬剤は、かかる循環器疾患の処置に多大な治療効果をもつことが示されている。
【0008】
ACE及びAT受容体の発現とコラーゲン形成の正常及び病的発現とが解剖学的に同時に認められる。高密度のACE及びAngII受容体の結合は活性コラーゲン代謝回転の指標である。弁尖、外膜及び様々な線維組織形成部位にみられるα−SMA含有線維芽細胞様細胞は、ACE、AT受容体及び線維性コラーゲンをコードする遺伝子を発現する。したがって、筋線維芽細胞(MyoFb)を、それ自体のコラーゲン代謝回転を調節する「代謝体」とみなすことができる。
【0009】
ACE結合密度は主にMyoFbの存在に関係する。ACE陽性細胞の消失又はその絶対数の減少は線維化部位でのACE結合密度を減少させる。陳旧性サルコイド肉芽腫の場合がそうである。ラットの梗塞心臓におけるACE及びAngII受容体の結合密度はいずれもMI後何カ月も高いままであり、ACE活性についても同様である。各々、梗塞部位でのMyoFbの持続と一致する(Weber, K.T.: Extracellular Matrix Remodeling in Heart Failure: A Role for De Novo Angiotensin II Generation. Circulation, Volume 96(11), December 2, 1997, 4065−4082)。
【0010】
心臓、腎臓、肺及び肝臓などでは、線維症がそれらの臓器不全に共通した経路である。そこで、臓器の線維症に関与する病態生理学的機序を理解することは、特に予防薬理学的戦略の可能性を前提とすると、極めて重要である。組織修復には、組織修復の開始に不可欠な単球/マクロファージ系の細胞、コラーゲン代謝及び線維組織形成を担う筋線維芽細胞、表現型形質転換間質性線維芽細胞を始めとする炎症細胞が関与する。修復のミクロ環境下におけるこれらの細胞での各事象は、AngIIの新規産生を促す分子事象を伴う。このペプチドは、自己分泌/傍分泌により、アンジオテンシン(AT)受容体−リガンド結合を介してトランスフォーミング増殖因子β1(TGF−β1)の発現を調節する。線維芽細胞から筋線維芽細胞(myoFb)への表現型の変化に寄与し、筋線維芽細胞でのコラーゲン代謝回転を調節するのはこのサイトカインである。ACE阻害又はAT受容体拮抗作用は各々、線維症を生ずるこれらの分子及び細胞応答の多くを阻害し、予防処置となることが判明している(Weber KT. Fibrosis, a common pathway to organ failure: angiotensin II and tissue repair. Semin Nephrol. 1997 Sep;17(5):467−91及びその引用文献参照)。
【0011】
AngIIは、間葉細胞の活性化により組織線維症を制御し得る。例えば、AngIIは、インビトロでATの活性化を介して心線維芽細胞の増殖を刺激する。AT受容体の存在はインビトロで心線維芽細胞でも示されている。AngIIの線維化促進作用の多くはこの受容体で媒介されると思われるが、心線維芽細胞でのATの発現増大がヒトの肥大心臓で検出されており、これらの2つのサブタイプの発現のバランスがAngIIに対する応答を決定する上で重要となろう(Am. J. Respir. Crit. Care Med., Volume 161, Number 6, June 2000, 1999−2004: Angiotensin II Is Mitogenic for Human Lung Fibroblasts via Activation of the Type 1 Receptor Richard P. Marshall, Robin J. McAnulty, and Geoffrey J. Laurent及びその引用文献参照)。
【0012】
AngII受容体は、特異的拮抗剤による阻害によって識別することができる。AT受容体は、ロサルタンのようなビフェニルイミダゾールによる選択的な拮抗作用を受けるのに対して、テトラヒドロイミダゾピリジンはAT受容体を特異的に阻害する。また、AT受容体はCGP−42112Aによって選択的に活性化し得る。これはAngIIのヘキサペプチドアナログであり、濃度に応じてAT受容体を阻害し得る。その他AT及びATサブタイプという2種類のアンジオテンシン受容体が報告されている。
【0013】
齧歯類では、AT受容体には機能的に異なる2つのサブタイプAT1A及びAT1Bがあり、これらは95%を超えるアミノ酸配列相同性を有する。
【0014】
アンジオテンシン受容体の第二の主要なアイソフォームはAT受容体である。これはAT1A及びAT1B受容体とのアミノ酸配列相同性が低い(約34%)。AT受容体の正確な情報伝達経路及び機能的役割は不明であるが、これらの受容体は生理的条件下で、細胞増殖を阻害し、アポトーシス及び血管拡張を誘発することによってAT媒介作用と拮抗し得る。循環器疾患におけるAT受容体の正確な役割は未だ解明されていない。
【0015】
AT及びAT以外にも、AngIIの受容体が知られており、一般にATatypicalと呼ばれる(Kang et al., Am. Heart J. 127: 1388−1401 (1994)参照)。
【0016】
AngIIの作用の抑制は、例えば高血圧及び心不全の管理などの治療に利用されている。これは、アンジオテンシノーゲンからAngI(AngIIの前駆体)への変換を遮断するレニン阻害剤の使用、AngIからAngIIへの変換を遮断するアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE−I)(これはブラジキニン及びプロスタグランジンの生物変換も遮断する)の使用、抗AngII抗体の使用、並びにAngII受容体拮抗剤の使用などの幾つかの方法で達成されている。
【0017】
不整脈の治療にはβ遮断薬が最も一般的に用いられている。抗不整脈薬は全体として限られた成功しか得られておらず、カルシウムチャネル遮断薬は不整脈を誘発することがある。卓越した薬剤は一つとしてなく、唯一例外があるとすればアミオダロンであろう。抗不整脈薬の短期的効果は、薬剤の種類にもよるが、死亡率に対する中立的又は負の効果によって相殺されることが判明している(Sanguinetti MC and Bennett, PB: Anti−arrhythmic drug target choices and screening. Circulation 2003, 93(6): 491−9257−263)。優れた抗不整脈薬が必要とされていることは明らかである。
【0018】
Lancetの報文(Lindholm, LH et al. Effect of Losartan on sudden cardiac death in people with diabetes: data from the LIFE study. The Lancet, 2003, 362: 619−620)では、AT受容体拮抗剤が、CHF罹患者に概して有効であるだけでなく、心臓突然死の発生率も低減することが明らかにされている。心筋梗塞に起因する不整脈又はLAD結紮後の再潅流における不整脈に関してAT拮抗剤が抗不整脈作用をもつことを示す研究が幾つか存在する(Harada K et al. Angiotensin II Type 1a Receptor is involved in the occurrence of reperfusion arrhythmias. Circulation. 1998,97: 315−317、Ozer MK et al. Effects of Captopril and Losartan on myocardial ischemia−reperfusion induced arrhythmias and necrosis in rats. Pharmacological research, 2002, 45 (4), 257−263、Lynch JJ et al. EXP3174, the All antagonist human metabolite of Losartan, but not Losartan nor the Angiotensin−converting enzyme inhibitor captopril, prevents the development of lethal ischemic arrhythmias in a canine model of recent myocardial infarction. JACC, 1999, 34 876−884)。
【0019】
AngIIをそのアミノ酸組成の変更によって強力な拮抗薬又は部分拮抗薬に変えることができる。例えば8位のフェニルアラニンをイソロイシンで置換し、1位のアスパラギン酸をサルコシンで置換すると、ペプチドは強力な拮抗剤に変化する。
【0020】
4位及び6位のアミノ酸の環化又は架橋によって、AT受容体に対する特異性を高めることができる。同様に、1位にサルコシンを導入し、8位にグリシンを導入すると、ペプチドはAT選択的拮抗剤になる(RC Speth. Sarcosine11, glycine8 angiotensin II is an AT angiotensin II receptor subtype selective anatagonist). Regulatory peptides 115 (2003) 203−209参照)。
【0021】
前述の通り、AT受容体の本来のリガンドは、オクタペプチドAngII(Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe)であり、ナノモル範囲でAT受容体に結合する
ある受容体の本来の結合リガンドを、ある基、特に比較的に大きく比較的嵩高い基の結合によって修飾すると、ペプチドベクターの親和性が損なわれることが多い。
【0022】
関連する従来技術
国際公開第98/18496号(Nycomed Imaging AS)には、ベクター−リンカー−リポーター構造を含む造影剤が開示されており、該ベクターはアンジオテンシン又はペプチド系アンジオテンシン誘導体を含む。
【0023】
米国特許第4411881号(New England Nuclear Corporation)には、放射性標識化合物の安定化について記載されている。放射性標識化合物の例として、例えばアンジオテンシンII(5−L−イソロイシン)[チロシル−125I]−(モノヨウ化物)が挙げられている。
【特許文献1】国際公開第98/18496号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4411881号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、心不全、心不整脈その他の繊維化の顕著な疾患、例えばCOPD、肝線維症及びアテローム性動脈硬化症の治療に有用な医薬品であって、ACEによって、AT受容体に対して天然オクタペプチドAngIIよりも高い結合親和性を示すターゲティング造影剤及び治療用ターゲティング医薬品へと変換される、AngI又はその誘導体からなるペプチド部分を含む医薬品を提供する。この医薬品は拮抗活性を示すべきである。
【0025】
本発明は、さらに、心不全その他の繊維化の顕著な疾患(例えばCOPD、肝線維症及び動脈硬化症)の診断に有用な医薬品であって、ターゲティング部分に造影性基が導入された医薬品を提供する。造影性基は、患者に投与したときに患者の少なくともその造影剤が分布した部分の画像を、例えば放射線イメージング、SPECT、PET、MRI、X線、光学イメージング(OI)、超音波(US)、電気インピーダンス又は磁気的イメージングモダリティで生成することができる造影性基であればよい。本発明の医薬品のペプチド部分はAngI又はその誘導体であり、インビボでACEによってAngII又はその誘導体へと変換される。ACEで切断されると、医薬品はターゲティング造影剤及び/又は疾患治療用のターゲティング医薬品になる。造影性基が導入されたターゲティング部分は、AT受容体に対してAngIIよりも高い結合親和性を示すべきであり、好ましくは拮抗剤として作用すべきであるが、作用活性の弱いものでも許容し得る。
【0026】
本新規医薬品は、画像診断用に適した造影性基を有しているときには、当該医薬品を治療薬として逐次又は同時に使用できる。
【0027】
本発明のその他の実施形態として、高血圧、線維症、COPD及び関連疾患の治療法、心不全及び線維症のイメージング法、かかる疾患及び障害並びに関連血管疾患及び障害の治療経過のモニタリング法の提供が挙げられる。本発明はさらに、新規医薬組成物及び診断薬調製用の前駆体を提供する。診断薬のキット、特に放射性診断薬の調製用キットも提供される。
【0028】
本発明の医薬品はペプチドVと任意要素たるリンカーLとZ基とを含んでおり、次の式(I)で表すことができる。
【0029】
Z−L−V (I)
式中、
Vは、結合配列−X−X−Val−Tyr−Ile−His−Pro−X−X−X10を有するペプチドを表し、
Lは結合又はリンカーを表し、
Zは、造影基Mを適宜担持し得る基を表し、
はアミノ酸を表し、
はArg又はN−アルキル化Arg又はArg類似体を表し、
はGly又はPhe又は芳香族もしくは脂肪族側鎖を有するアミノ酸を表し、
及びX10は各々独立に、Pro、Arg、His、Ala、Phe、Glu、Leu、Val、Ile、Met、Trp、Asp又はLysを表し、XとXとX10は一緒にACE切断部位をなし、
それぞれ3位及び5位のVal残基及びIle残基は架橋形成し得るアミノ酸で適宜置き換えられていてもよく、
Zは適宜リンカーLを介してアミノ酸Xと結合を形成し、
Mが存在する場合は画像診断法で直接又は間接的に検出し得る造影性基を表す。
【0030】
コラーゲン形成領域では、正常及び病的コラーゲン形成のいずれにおいても、ACE及びAT受容体の発現が増大する。本発明の医薬品は、ACE切断部位を有するAngI又はその誘導体のペプチド部分を有する。このAngIは、インビボでACEによって切断され、AngIIへと変換される。今回、本発明者らは、このようなAngIのACEによる切断で得られるAngIIで、そのペプチドの特定の位置が置換されたものが、その結合能力を保持したまま、AngII受容体、特にAT受容体に対する親和性が驚異的に増大するという予想外の知見を得た。
【0031】
本発明の医薬品は、AT受容体の密度が上昇した部位でACEによって、その活性型(そのペプチド部分がAngII類似体であるもの)に変換される。
繊維組織形成部位において増大した密度のACE及びAT受容体が同時に局在化することから、本発明の医薬品は、AT受容体密度の高い部位で活性ターゲティング型が形成されるという利点をもたらす。こうして、活性AngII類似体はその形成部位においてAT受容体に結合し、循環しないので、身体の他の部分での望ましくない全身作用が防止される。
【0032】
本発明の医薬品は、イメージングにおける信号対雑音比つまり心肝比に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明は特許請求の範囲に記載されている。本発明の具体的な特徴については、以下の詳細な説明及び実施例で概説する。
【0034】
式(I)のターゲティング部分において、Vはペプチド配列−X−X−Val−Tyr−Ile−His−Pro−X−X−X10を表す。
【0035】
式(I)のペプチドVにおいて、特記しない限り、アミノ酸は天然AngIIと同様にL−アミノ酸である。
【0036】
アミノ酸について用いる3文字略号は以下の意味を有する。
Arg=アルギニン
Asp=アスパラギン酸
Cys=システイン
Hcy=ホモシステイン
Gly=グリシン
Sar=サルコシン
Val=バリン
Tyr=チロシン
Ile=イソロイシン
Glu=グルタミン酸
Lys=リジン
His=ヒスチジン
Ala=アラニン
Leu=ロイシン
Ile=イソロイシン
Met=メチオニン
Trp=トリプトファン
Pro=プロリン
Phe=フェニルアラニン
Abu=2−アミノ酪酸
Nva=2−アミノペンタン酸
Nle=2−アミノヘキサン酸
Phg=2−アミノ−2−フェニル酢酸
Hph=2−アミノ−4−フェニルブタン酸
Bip=2−アミノ−3−ビフェニルプロピオン酸
Nal=2−アミノ−3−ナフチルプロピオン酸
Cha=2−アミノ−3−シクロヘキシルプロピオン酸。
【0037】
Vのアミノ酸は好ましくは以下の通り独立に選択される。
は−NY−(CH−CO−(式中、mは1〜10の整数であり、YはH又はアルキルもしくはアリール含有置換基である。)を表し、最も好ましくはGlyであり、
はArg又はN−メチル−Arg或いはArg類似体のPhe[4−グアニジノ]及びGly−4−ピペリジル[N−アミジノ]を表し、
は芳香族又は脂肪族側鎖を有するアミノ酸、好ましくはPhe、Phg、Hph、Bip、Ala、Gly、Tyr、His、Trp又はNal、最も好ましくはPheを表し、
及びX10は各々独立にPro、Arg、His、Ala、Phe、Glu、Leu、Val、Ile、Met、Trp、Asp又はLysを表す。
【0038】
さらに好ましいのは、XがGlyを表し、XがArgを表し、XがPheを表し、XがPhe、Leu又はAlaを表し、X10が、Phe、Ala又はHisを表す医薬品である。
【0039】
3位及び5位のアミノ酸が架橋単位を形成するように選択される場合、架橋は好ましくは−CH−CH−、−S−CH−、−S−CH−S−、ラクタム又は−S−S−単位を含む。さらに好ましくは、共有結合は2つのシステイン又はホモシステイン対の酸化によって形成されるジスルフィド結合である。
【0040】
適当なリンカーLの例は、国際公開第98/18496号及び国際公開第01/77145号(23〜27頁)に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。Lは、好ましくは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)のようなポリアルキレングリコール単位、炭水化物、デキストラン又は1〜10個のアミノ酸又は1〜5個のアミノ酸を表すものでもよい。リンカーは、例えば国際公開第03/006491号に記載されているようなバイオモディファイヤーとして作用するものでもよい。
【0041】
リンカーLはアルキルアミン又はアリールアミン、好ましくは式NH−(CH−の化合物(適宜−CO−(CH−CO−と結合したものでもよい。)から誘導されるものでもよい。式中、mは1〜10の正の整数を表す。
【0042】
リンカーは、後記の式IVで定義される1以上のPEG単位を含んでもよい。式中、nは1〜10の整数である。
【0043】
最も好ましいのは、式(X)及び(VI)で定義されるリンカーである。
【0044】
【化1】

部分Zは、分子量50D(ダルトン)超、さらに好ましくは100〜1000D、さらに一段と好ましくは300〜700Dの非ペプチド部分を含む。ACEによる切断後に得られる式(I)のターゲティング部分がAT受容体に対して天然リガンドAngIIよりも高い結合親和性を示すものであれば、部分Zは薬学的に許容されるどんな化学種でもよい。具体的には、Zは、リンカーLと反応又は直接ペプチドVと反応して安定な共有結合を形成し得る適当な官能基を有する有機基を表す。
【0045】
Zは直鎖又は枝分れヒドロカルビル基であってもよく、適宜1以上の二重結合又は三重結合を含んでいてもよいし、適宜ハロゲン、酸素、硫黄又はリン原子で置換されていてもよいし、適宜酸素、窒素又は硫黄のようなヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、ヒドロカルビル基は、分子量50D以上の置換又は非置換アルキル、アルケニル、アルキニル基であってもよい。
【0046】
Zは、単環式、二環式又は三環式環系を含む1以上の結合炭素環基であってもよく、かかる環系は飽和、部分不飽和又は芳香環のいずれでもよいし、置換又は非置換のいずれでもよく、分子量は50D以上である。かかる環系の例は、アリール、アラルキル、シクロヘキシル、アダマンチル及びナフチルである。
【0047】
Zは五、六、七、八、九、十員環系のような1以上の結合複素環化合物であってもよく、かかる環系は単環式、二環式又は三環式環系のいずれでもよいし、1以上のN、O、S及びPをヘテロ原子として含んでいてもよい。かかる環系はさらに、前記のヒドロカルビル基及び炭素環基と結合していてもよいし、炭素環基と縮合していてもよい。かかる基の例は、アクリジニル、ベンゾフラニル、インドリル、ピリジル、ピペリジニル、モルホリジニル及びチエニルである。
【0048】
Zはさらに、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリプロピレングリコール(PPG)のようなポリアルキレングリコール、単糖、多糖のような炭水化物であってもよく、これらはすべて50D超の分子量を有する。ポリアルキレングリコールはバイオモディファイヤーとして作用するものでもよい。
【0049】
具体的には、Zは、例えば米国特許第4647447号(Schering AG)及び国際公開第86/02841号(Nycomed Salutar,Inc.)に記載の非環式又は環式ポリアミノカルボキシレート(例えばDTPA、DTPA−BMA、DOTA及びDO3A)のようなキレート剤を表し、これらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。その他のキレート剤として、国際公開第01/77145号(この文献の表I参照)に記載のジアミンジチオールのようなアミンチオール、アミンオキシム、ヒドラジン及び関連試薬を含んでいてもよく、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。以下に示す式VIIIのキレート剤cPN216が特に好ましい。
【0050】
治療に有用な医薬品では、Zは上述のいずれであってもよい。
【0051】
診断、特にインビボ診断に有用な医薬については、部分Zは、Mで表す造影性基を担持できるものでなければならない。担持とは、化学結合(例えば共有結合、電気原子価結合又はイオン結合)又は吸着その他の種類の会合など、成分ZとMとのあらゆる形態の結合を意味する。
【0052】
好ましい一実施形態では、Z基はXと直接共有結合してN−アルキルグリシン単位を形成する。
【0053】
後記の式(VII)及び(VIII)のキレート剤も特に好ましい。
【0054】
Mはどのような造影性基であってもよい。Mの性状は、診断に利用されるイメージングモダリティに依存する。Mはインビボ画像診断で直接又は間接的に検出できるものでなければならず、例えば、検出可能な放射線を(放射性崩壊、蛍光励起、スピン共鳴励起などによって)放射する成分もしくは放射を誘起する成分、局所的電磁場に影響を与える成分(例えば、常磁性、超常磁性、フェリ磁性もしくは強磁性種)、放射線エネルギーを吸収又は散乱する成分(例えば、発色団、粒子(気体又は液体含有ベシクルを含む)、重元素及びその化合物など)、並びに検出可能な物質を生成する成分(例えば、気体マイクロバブル発生剤)などである。
【0055】
多種多様な適当な造影性基が知られており、例えば国際公開第98/18496号に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0056】
以下、イメージングモダリティ及び造影性基Mに関してさらに詳しく説明する。
【0057】
第一の実施形態では、式(I)の医薬品は、放射線及びSPECTイメージングモダリティに有用な1以上の造影性基Mを担持する部分Zを含む。好ましくは、Mはα線及びβ線をほとんど或いは全く放射しない半減期1時間以上のγ放射体である。好ましいM基は、放射性核種67Ga、111In、123I、125I、131I、81mKr、99Mo、99mTc、201Tl及び133Xeである。最も好ましいのは99mTcである。
【0058】
Mが金属放射性核種を表す場合、Zは、Mとの安定キレートの形成に適したキレート剤を表す。かかるキレート剤は当技術分野で周知であり、かかるキレート剤の典型例は国際公開第01/77145号の表Iに記載されている。
【0059】
特に好ましいのは、次の式(VII)のキレート剤である。
【0060】
【化2】

式中、R、R、R及びRは各々独立にH又はC1〜10アルキル、C3〜10アルキルアリール、C2〜10アルコキシアルキル、C1〜10ヒドロキシアルキル、C1〜10アルキルアミン、C1〜10フルオロアルキルであるか、或いは2以上のR基がそれらに結合した原子と共に炭素環、複素環、飽和又は不飽和環を形成するものである。
【0061】
特に好ましいのは、R、R及びRが水素又はメチル基であり、Rがアルキルアミン基である式(VII)のキレート剤であり、特に次の式(VIII)の化合物(本明細書ではcPN216という。)である。
【0062】
【化3】

Zについは最も好ましいのは、キレートがcPN216であって、造影性基Mが99mTcであるものである。
【0063】
123I、125I及び131Iのような非金属放射性核種は、当技術分野で周知の置換又は付加反応によって、成分Zに共有結合させることができる。
【0064】
第二の実施形態では、式(I)の医薬品は、PETイメージングモダリティに有用な1以上の造影性基Mを担持する成分Zを含む。この場合、Mは陽電子放出性をもつ放射体を表す。好ましい基Mは、放射性核種11C、18F、68Ga、13N、15O及び82Rbである。18Fが特に好ましい。
【0065】
Mが金属放射性核種を表すとき、ZはMとの安定キレートの形成に適したキレート剤を表す。かかるキレート剤は当技術分野で周知であり、かかるキレート剤の代表例は国際公開第01/77145号の表I、さらに上述の放射線及びSPECTイメージングに関する説明に記載されている。
【0066】
別の好ましい実施形態では、ZはDOTAキレート剤であり、Mは68Gaであってマイクロ波化学で容易にキレート剤に導入し得る。
【0067】
13Fのような非金属放射性核種は、当技術分野で周知で例えば国際公開第03/080544(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)にも記載されている置換又は付加反応によって成分Zに共有結合させることができる。
【0068】
第三の実施形態では、式(I)の医薬品は、MRイメージングモダリティに有用な1以上の造影性基Mを担持した部分Zを含む。この場合、Mは米国特許第4647447号に記載されているような常磁性金属を表し、Gd3+、Dy3+、Fe3+及びMn2+が特に好ましく、Zはキレート剤、特に米国特許第4647447号及び国際公開第86/02841号に記載されているような非環式又は環式ポリアミノカルボキシレートのようなキレート剤(例えばDTPA、DTPA−BMA、DOTA及びDO3A)を表す。また、Mは、超常磁性種、フェリ磁性種又は強磁性種のような金属酸化物であってもよく、これらは例えばZが金属酸化物のコーティングとして機能するようにZに吸着される。MR造影剤として用いられる金属酸化物は、例えば米国特許第6230777号に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0069】
第四の実施形態では、式(I)の医薬品は、X線イメージングモダリティに有用な1以上の造影性基Mを担持する部分Zを含む。この場合、MはW、Au及びBiのような重金属であり、好ましくは酸化物の形態であってZに吸着し得るものである。特に、ヨウ素化アリール誘導体が、例えばIopamiron(商標)及びOmnipaque(商標)のようにX線造影剤として周知である。これらの造影剤は、それらのアミド又はアミン官能基を介してペプチドVに結合させることができる。
【0070】
ガス充填マイクロベシクルの形態の超音波造影剤は、例えば国際公開第98/18500号のような従来技術に記載のように官能化してペプチドに結合させれば、受容体のイメージングに利用することができる。
【0071】
生体ターゲットに親和性を有する光学イメージング用の造影剤の使用は、例えば国際公開第96/17628号(Schering AG、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)のような当技術分野で公知の方法に従って行うことができる。
【0072】
式(I)の医薬品は、ポリアルキレングリコール単位、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)などの1以上のバイオモディファイヤー基の結合によってさらに修飾し得る。バイオモディファイヤー基の具体例は、国際公開第03/006491号に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。ACEによる切断又はターゲットとする受容体に対する切断化合物の結合能力に悪影響を与えない限り、バイオモディファイヤー基は、式(I)のV基及びL基の任意の位置に結合させることができる。
【0073】
バイオモディファイヤーは、好ましくは単分散PEG構成ブロックを1〜10単位含むもので、医薬品の薬物動態及び血液クリアランス速度を変化させる機能をもつ。本発明の好ましい一実施形態では、以下の式IVの化合物は、単分散PEG様構造の重合で得られるバイオモディファイヤー単位17−アミノ−5−オキソ−6−アザ−3,9,12,15−テトラオキサヘプタデカン酸を表す。
【0074】
【化4】

式中、nは1〜10の整数に等しく、C末端の単位はアミド結合を形成する。
【0075】
式(I)の医薬品の具体例としては以下のものが挙げられる。
【0076】
次の式(II)及び(III)の化合物:
Z−CO−NH−(CH−X−X−Val−Tyr−Ile−His−Pro−X−X−X10 (II)
Z−CO−(CHCO−NH−(CH−X−X−Val−Tyr−Ile−His−Pro−X−X−X10 (III)
式中、mは、1〜5の整数であり、Z、X、X、X、X及びX10は上記で定義した通りである。
【0077】
以下の式Xa及びVIaで定義される化合物:
【0078】
【化5】

式中、Z及びVは上記で定義した通りである。
【0079】
次の式(IX)の化合物:
【0080】
【化6】

式中、Yはアルキル、アリール又は短鎖PEG含有基であり、Yは好ましくは−CH−CH−CH−であり、X、X及びX10は上記で定義した通りである。
【0081】
前述の通り、インビボ診断用には、これらの化合物と99mTc又は18Fとのキレートが特に好ましい。
【0082】
式(I)の医薬品は、好ましくは、式(I)の医薬品を、ヒトのような哺乳類への投与に適した形態で含む医薬組成物として投与される。投与は、好適には水溶液の製剤の注射又は点滴によって実施される。製剤は、薬学的に許容される1種以上の添加剤及び/又は賦形剤、例えば緩衝液、可溶化剤(例えば、シクロデキストリン、又はPluronic、Tween、リン脂質などの界面活性剤)を含んでいてもよい。さらに、安定剤又は酸化防止剤(アスコルビン酸、ゲンチシン酸、パラアミノ安息香酸など)、又は凍結乾燥用構造形成剤(塩化ナトリウムやマンニトールなど)を添加してもよい。
【0083】
式(I)の医薬品は、心不全、心不整脈その他の繊維化の顕著な疾患、例えばCOPD、肝線維症及びアテローム性動脈硬化症の治療及び診断に有用である。これらの医薬品は治療のモニタリングにも有用である。
【0084】
本発明の別の態様は、心不全、心不整脈その他の繊維化の顕著な疾患、例えばCOPD、肝線維症及びアテローム性動脈硬化症の治療法並びにインビボ診断法である。
【0085】
患者の心不全その他の繊維化の顕著な疾患、例えばCOPD、肝線維症及びアテローム性動脈硬化症の治療法は、患者に式(I)の医薬品を投与することを含む。
【0086】
患者の心不全その他の繊維化の顕著な疾患、例えばCOPD、肝線維症及びアテローム性動脈硬化症のインビボ診断法は、患者に式(I)の医薬品を投与し、次いで患者の一部又は全体の画像を生成することを含む。
【0087】
患者の心不全その他の繊維化の顕著な疾患、例えばCOPD、肝線維症及びアテローム性動脈硬化症の治療経過をモニタリングする方法は、患者に式(I)の医薬品を投与し、次いで患者の一部又は全体の画像を生成することを含む。
【0088】
さらに別の態様では、ペプチド−キレートコンジュゲート及び還元剤を含む式(I)の放射性医薬組成物の調製用キットが提供される。好ましくは、キットの還元剤は第一スズ塩である。キットはさらに、1種以上の安定剤、酸化防止剤、凍結乾燥用構造形成剤及び可溶化剤を含んでいてもよい。
【0089】
医薬品及びその前駆体の調製のための一般手順
用いる略号は以下の意味を有する。
Fmoc:9−フルオレニルメトキシカルボニル
Boc:t−ブチルオキシカルボニル
tBu:t−ブチル
Trt:トリチル
Pmc:2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル
TFA:トリフルオロ酢酸
HBTU:O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N′,N′−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート
DMF:ジメチルホルムアミド
NMP:N−メチルピロリドン
TIS:トリイソプロピルシラン
NHS:N−ヒドロキシスクシンイミジル
NMM:N−メチルモルホリン
RP−HPLC:逆相高速液体クロマトグラフィー
Wang樹脂:p−ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂。
【0090】
Vの合成:
本発明のペプチドVは、あらゆる公知の化学合成法で合成できるが、特に有用な方法は自動ペプチド合成装置を用いたMerrifieldの固相法である(J.Am.Chem.Soc.85:2149(1964))。典型的には、所望の配列を固相ペプチド合成で構築する。本発明の実施例で用いた合成法の標準的手順は、E.Atherton & R.C.Sheppard, “Solid phase peptide synthesis: a practical approach, 1989, IRL Press, Oxfordに記載されている。
【0091】
例えば、酸不安定リンカー基を有する樹脂を用いて、これに、所望のアミノ保護C末端アミノ酸残基をエステル化させる。次いでアミノ保護基を除き、適当な縮合試薬を用いて配列の第2のアミノ酸をカップリングさせる。一時的なアミノ保護基と官能性側鎖のための永続的な保護基をもつアミノ酸を使用する。次にアミノ脱保護とカップリングのサイクルを目的配列が構築されるまで交互に繰り返す。
【0092】
別法として、ペプチドVは、全体的な又は最小限の保護策を用いて、当技術分野で公知の溶液ペプチド合成法によって、カルボキシル末端から段階的に及び/又はセグメント縮合もしくはライゲーション法を用いて合成することもできる。溶液−固相セグメント縮合法の組合せを利用することもできる。
【0093】
一般に、反応性側鎖基(例えばアミノ、ヒドロキシル、グアニジノ及びカルボキシル基)は、上述の通り合成の全期間にわたって保護される。アミノ酸に対する保護基については幅広い選択肢が知られている(例えばGreene, T.W. & Wuts, P.G.M. (1991) Protective groups in organic synthesis, John Wiley & Sons, New York参照)。使用し得るアミノ保護基としては、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)及びt−ブチルオキシカルボニル(Boc)が挙げられる。使用し得る側鎖保護基としては、t−ブチル(tBu)、トリチル(Trt)、Boc及び2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル(Pmc)が挙げられる。かかる保護基としては、その他多種多様なものが当技術分野で公知である。
【0094】
最後に、永続的な側鎖保護基を除去し、ペプチドを樹脂から切断するが、これらは、例えばトリフルオロ酢酸(TFA)のような適当な酸性試薬での処理によって同時に行われるのが一般的である。
【0095】
LとVのカップリング
Lは公知の化学合成法を用いてVに結合させることができる。特に有用なものは、ペプチドN末端の脱離基をLの求核基で置換する求核置換反応である。かかる脱離基は、カルボニル基にα位で結合した臭素とすることができ、求核基は窒素とすることができる。
【0096】
ZとV又はLとのカップリング
Zは、LとVとの結合法と同様の方法を用いてVに直接に結合させることができる。ZがLを介してVに連結する場合、ZとLの結合にはあらゆる化学合成法を使用できる。特に有用なものはアミド結合の形成である。
【0097】
実施例1 99mTc標識用AngI類似体[配列番号2]
【0098】
【化7】

Fmoc−Leu−SASRIN樹脂0.1mmolから出発して、Applied Biosystems 433Aペプチド合成装置で、AngIのペプチド類似体を合成した。アルギニンまでのカップリング段階には、(HBTU:O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N′,N′−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートを用いて)予め活性化したアミノ酸を過剰の1mmol用いた。N末端を、DMF中の0.5mmol無水ブロモ酢酸を用いて60分間ブロモアセチル化した。このブロモアセチル化した樹脂を、ジメチルホルムアミドに溶解したcPn216(0.1mmol)及びN−メチルモルホリン(0.2)溶液で60分間処理した。
【0099】
トリイソプロピルシラン2.5%及び水2.5%を含むトリフルオロ酢酸(TFA)5mL中で、側鎖保護基の除去と樹脂からのペプチドの切断を同時に60分間行った。TFAを減圧下で除去し、残留物にジエチルエーテルを加え、沈澱生成物をジエチルエーテルで洗浄し、風乾した。
【0100】
生成物の分取RP−HPLC(20〜35%B(40分)、A=HO/0.1%TFA、B=CHCN/0.1%TFA、流速10mL/分、Vydac C18 250×21.20mmカラム)での精製によって、純粋なキレート−ペプチドコンジュゲート3mgが得られた。生成物を分析HPLCで分析した(条件:勾配20〜35%B(20分)、A=HO/0.1%TFA、B=CHCN/0.1%TFA、流速1mL/分、カラムVydac C18 25×4.6mm、検出UV214nm、生成物保持時間14.9分)。エレクトロスプレー質量分析を用いてさらに生成物のキャラクタリゼーションを行った(計算値:MH 1564.9、実測値:MH 1564.9)。
【0101】
実施例1a ACE切断
ACE保存液の調製は次の通り行った。ACE(Sigma A−6778)0.34mgを、KOHでpH7.8に調節した200mM HEPES1mLに溶解した。
【0102】
AngIペプチド類似体0.1mgをACE保存液100μLに溶解し、溶液を室温でインキュベートした。溶液からサンプル(10μL)を採取して、HO/0.1%TFA(400μL)で希釈し、LC−MSで分析した。
【0103】
【表1】

実施例2 [配列番号3]
【0104】
【化8】

合成
Fmoc法を用いてFmoc−Leu−SASRIN樹脂0.25mmolから出発して、Applied Biosystems 433Aペプチド合成装置で、ペプチジル樹脂H−Arg(Pmc)−Val−Tyr(tBu)−Ile−His(Trt)−Pro−Ile−His(Trt)−Leu−Rを構築した。カップリング段階では、(HBTUで)予め活性化したアミノ酸を過剰の1mmol用いた。次いで、樹脂を窒素バブラーに移した。
【0105】
ブロモ酢酸(2mmol、278mg)とDCC(1mmol、206mg)をDCM(5mL)に溶解した。混合物を15分間撹拌し、沈澱したDCCUを濾過し、濾液を減圧下で蒸発乾固して、無水ブロモ酢酸を白色固体として得た。この無水物をDMFに溶解して、上方から樹脂に添加した。30分後に無水物溶液を濾過によって除去し、樹脂をDMFで洗浄した。ブロモアセチル化樹脂(0.05mmol)を次いでcPn216(NC−100676、アミンフリー)(0.1mmol、34mg)のDMF溶液で2時間処理した。最後に樹脂をDMF及びDCMで洗浄し、窒素気流下で乾燥させた。
【0106】
TIS2.5%及び水2.5%を含むTFA10mL中で、側鎖保護基の除去と樹脂からのペプチドの切断を同時に90分間行った。TFAを減圧下で除去し、残留物にジエチルエーテルを加えた。沈殿をジエチルエーテルで洗浄し、風乾し、粗製AH−111232(70mg)を得た。
【0107】
精製及びキャラクタリゼーション
粗製材料70mgを、分取HPLC(勾配:5〜50%B(40分)、A=HO/0.1%TFA、B=ACN/0.1%TFA、流速:10mL/分、カラム:Phenomenex Luna 5μ C18(2)250×21.20mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:27.2分)で精製して略純粋なAH−111232(7.4mg)を得た。TFAをHCOOHで置き換えた第2精製段階(勾配:B0%〜30%、他の条件は上記と同一)で純粋なAH−111232(5.4mg)を得た。
【0108】
純生成物を分析HPLCで分析した(勾配:0〜30%B(10分)、A=HO/0.1%HCOOH、B=ACN/0.1%HCOOH、流速:0.3mL/分、カラム:Phenomenex Luna 3μ C18(2)50×2mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:7.03分)。エレクトロスプレー質量分析を用いて、さらに生成物のキャラクタリゼーションを行った(計算値:MH 1531.0、実測値:MH 1530.8)。
【0109】
実施例3 AngI類似体[配列番号4]
【0110】
【化9】

合成
Fmoc法を用いてFmoc−Leu−SASRIN樹脂0.25mmolから出発して、Applied Biosystems 433Aペプチド合成装置で、ペプチジル樹脂H−Arg(Pmc)−Val−Tyr(tBu)−Ile−His(Trt)−Pro−Bip−His(Trt)−Leu−Rを構築した。カップリング段階では、(HBTUで)予め活性化したアミノ酸を過剰の1mmol用いた。次いで、樹脂を窒素バブラーに移した。
【0111】
TIS2.5%及び水2.5%を含むTFA5mL中で、側鎖保護基の除去と樹脂からのペプチドの切断を同時に60分間行った。TFAを減圧下で除去し、残留物にジエチルエーテルを加えた。沈殿をジエチルエーテルで洗浄し、風乾し、粗製AH−111415を得た。
【0112】
キャラクタリゼーション
粗生成物を分析HPLCで分析した(勾配:10〜60%B(20分)、A=HO/0.1%TFA、B=ACN/0.1%TFA、流速:1mL/分、カラム:Phenomenex Luna 3μ C18(2)250×2mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:14.43分)。質量分析を用いて、さらに生成物のキャラクタリゼーションを行った(計算値:(MH2+ 629.3、実測値:(MH2+ 629.4)。
【0113】
実施例4 [配列番号5]
【0114】
【化10】

合成
上記の樹脂H−Arg(Pmc)−Val−Tyr(tBu)−Ile−His(Trt)−Pro−Bip−His(Trt)−Leu−R(0.25mmol)を、DMFに溶解した無水ブロモ酢酸溶液(上述の通り調製)で30分間処理した。ブロモアセチル化樹脂(0.05mmol)を、次いでcPn216(NC−100676、アミンフリー)(0.25mmol、86mg)のTHF溶液で60分間処理した。最後に樹脂をTHFで洗浄し、窒素気流下で乾燥させた。
【0115】
TIS2.5%及び水2.5%を含むTFA10mL中で、側鎖保護基の除去と樹脂からのペプチドの切断を同時に90分間行った。TFAを減圧下で除去し、残留物にジエチルエーテルを加えた。沈殿をジエチルエーテルで洗浄し、風乾して、粗製AH−111453(90mg)を得た。
【0116】
精製及びキャラクタリゼーション
粗製材料90mgを、分取HPLC(勾配:5〜50%B(40分)、A=HO/0.1%TFA、B=ACN/0.1%TFA、流速:10mL/分、カラム:Phenomenex Luna 5μ C18(2)250×21.20mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:32分)で精製して略純粋なAH−111453(34mg)を得た。TFAをHCOOHで置き換えた第2精製段階(勾配:B0%〜30%、他は上記と同じ条件)で純粋なAH−111453(18mg)を得た。
【0117】
純生成物を分析HPLCで分析した(勾配:0〜30%B(10分)、A=HO/0.1%HCOOH、B=ACN/0.1%HCOOH、流速:0.3mL/分、カラム:Phenomenex Luna 3μ C18(2)50×2mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:7.40分)。エレクトロスプレー質量分析を用いて、さらに生成物のキャラクタリゼーションを行った(計算値:MH 1641.0、実測値:MH 1640.7)。
【0118】
実施例5 [配列番号6]
【0119】
【化11】

合成
Fmoc法を用いてTenta Gel Sac Leu−Fmoc樹脂0.1mmolから出発して、Applied Biosystems 433Aペプチド合成装置で、ペプチジル樹脂H−Arg(Pmc)−Val−Tyr(tBu)−Ile−His(Trt)−Pro−Hph−His(Trt)−Leu−Rを構築した。カップリング段階では、(HBTUで)予め活性化したアミノ酸を過剰の1mmol用いた。次いで、樹脂を窒素バブラーに移した。
【0120】
ブロム酢酸(1mmol、139mg)とDCC(0.5mmol、103mg)をDCM(5mL)に溶解した。混合物を15分間撹拌し、沈澱したDCCUを濾過し、濾液を減圧下で蒸発乾固して、無水ブロモ酢酸を白色固体として得た。この無水物をDMFに溶解して、上方から樹脂に添加した。30分後に無水物溶液を濾過によって除去し、樹脂をDMFで洗浄した。ブロモアセチル化樹脂(0.05mmol)を次いでcPn216(NC−100676)(0.25mmol、86mg)のDMF溶液で2時間処理した。最後に樹脂をDMF及びDCMで洗浄した。
【0121】
TIS2.5%及び水2.5%を含むTFA10mL中で、側鎖保護基の除去と樹脂からのペプチドの切断を同時に90分間行った。TFAを減圧下で除去し、残留物にジエチルエーテルを加えた。沈殿をジエチルエーテルで洗浄し、風乾して、粗製AH−111454(24mg)を得た。
【0122】
精製及びキャラクタリゼーション
粗製材料24mgを、分取HPLC(勾配:5〜50%B(40分)、A=HO/0.1%TFA、B=ACN/0.1%TFA、流速:10mL/分、カラム:Phenomenex Luna 5μ C18(2)250×21.20mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:15分)で精製して略純粋なAH−111454(4.7mg)を得た。略純粋なペプチド2.6mgの第2精製段階(上記と同じ条件)で純粋なAH−111454(0.5mg)を得た。
【0123】
純生成物を分析HPLCで分析した(勾配:10〜60%B(20分)、A=HO/0.1%TFA、B=ACN/0.1%TFA、流速:1mL/分、カラム:Phenomenex Luna 3μ C18(2)250×2mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:12.57分)。質量分析を用いて、さらに生成物のキャラクタリゼーションを行った(計算値:(MH2+ 790.0、実測値:(MH2+ 790.0)。
【0124】
実施例6 [配列番号7]
【0125】
【化12】

合成
Fmoc法を用いてTenta Gel Sac Leu−Fmoc樹脂0.1mmolから出発して、Applied Biosystems 433Aペプチド合成装置で、ペプチジル樹脂H−Arg(Pmc)−Val−Tyr(tBu)−Ile−His(Trt)−Pro−Phg−His(Trt)−Leu−Rを構築した。カップリング段階では、(HBTUで)予め活性化したアミノ酸を過剰の1mmol用いた。次いで、樹脂を窒素バブラーに移した。
【0126】
ブロム酢酸(1mmol、139mg)とDCC(0.5mmol、103mg)をDCM(5mL)に溶解した。混合物を15分間撹拌し、沈澱したDCCUを濾過し、濾液を減圧下で蒸発乾固して、無水ブロモ酢酸を白色固体として得た。この無水物をDMFに溶解して、上方から樹脂に添加した。30分後に無水物溶液を濾過によって除去し、樹脂をDMFで洗浄した。次いで、ブロモアセチル化された樹脂(0.05mmol)を、cPn216(NC−100676)(0.25mmol、86mg)のTHF(4ml)溶液で60分間処理した。最後に樹脂をDMF及びDCMで洗浄した。
【0127】
TIS2.5%及び水2.5%を含むTFA10mL中で、側鎖保護基の除去と樹脂からのペプチドの切断を同時に90分間行った。TFAを減圧下で除去し、残留物にジエチルエーテルを加えた。沈殿をジエチルエーテルで洗浄し、風乾して、粗製AH−111519(55mg)を得た。
【0128】
精製及びキャラクタリゼーション
粗製材料30mgから分取HPLC(勾配:15〜35%B(40分)、A=HO/0.1%TFA、B=ACN/0.1%TFA、流速:10mL/分、カラム:Phenomenex Luna 5μ C18(2)250×21.20mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:26.7分)で精製して純粋なAH−111519(7.4mg)を得た。
【0129】
純生成物を分析HPLCで分析した(勾配:15〜35%B(20分)、A=HO/0.1%TFA、B=ACN/0.1%TFA、流速:1mL/分、カラム:Phenomenex Luna 3μ C18(2)250×2mm、検出:UV214nm、生成物保持時間:15.1分)。質量分析を用いて、さらに生成物のキャラクタリゼーションを行った(計算値:(MH2+ 776.0、実測値:(MH2+ 775.9)。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS)を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I)で特徴付けられる医薬品。
Z−L−V (I)
式中、
Vは、結合配列−X−X−Val−Tyr−Ile−His−Pro−X−X−X10を有するペプチドを表し、
Lは結合又はリンカーを表し、
Zは、造影基Mを適宜担持し得る基を表し、
nは0又は1であり、
はアミノ酸を表し、
はArg又はN−アルキル化Arg又はArg類似体を表し、
はGly又はPhe又は芳香族もしくは脂肪族側鎖を有するアミノ酸を表し、
及びX10は各々独立に、Pro、Arg、His、Ala、Phe、Glu、Leu、Val、Ile、Met、Trp、Asp又はLysを表し、XとXとX10は一緒にACE切断部位をなし、
それぞれ3位及び5位のVal残基及びIle残基は架橋形成し得るアミノ酸で適宜置き換えられていてもよく、
Zは適宜リンカーLを介してアミノ酸Xと結合を形成し、
Mが存在する場合は画像診断法で直接又は間接的に検出し得る造影性基を表す。
【請求項2】
、X、X、X、X10のアミノ酸が各々独立に
Glyを表すX
Arg又はN−メチル−Argを表すX
Pheを表すX
Pro、Arg、His、Ala、Phe、Glu、Leu、Val、Ile、Met、Trp、Asp又はLysを表すX、及び
Pro、Arg、His、Ala、Phe、Glu、Leu、Val、Ile、Met、Trp、Asp又はLysを表すX10
から選択される、請求項1記載の医薬品。
【請求項3】
式(I)のV基及びL基のいずれかの位置に結合した1以上のバイオモディファイヤー基をさらに有する、請求項1又は請求項2記載の医薬品。
【請求項4】
Zがキレート剤を表す、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の医薬品。
【請求項5】
Zが次の式(VII)のキレート剤を表す、請求項4記載の医薬品。
【化1】

式中、R、R、R及びRは各々独立にH又はC1〜10アルキル、C3〜10アルキルアリール、C2〜10アルコキシアルキル、C1〜10ヒドロキシアルキル、C1〜10アルキルアミン、C1〜10フルオロアルキルであるか、或いは2以上のR基がそれらに結合した原子と共に炭素環、複素環、飽和又は不飽和環を形成するものである。
【請求項6】
Mが、検出可能な放射線を放射する成分もしくは放射を誘起する成分、局所電磁場に影響を与える成分、放射エネルギーを吸収又は散乱する成分、重金属及びその化合物、及び検出可能な物質を生成する成分を含む、診断、特にインビボ診断用の造影性基を表す、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の医薬品。
【請求項7】
Mが、67Ga、111In、123I、125I、131I、81mKr、99Mo、99mTc、201Tl及び133Xeを含む、放射線又はSPECTイメージング用のγ放射性成分を表す、請求項6記載の医薬品。
【請求項8】
Mが、11C、18F、68Ga、13N、15O及び82Rbを含む、PETイメージング用の陽電子放出性をもつ放射体を表す、請求項6記載の医薬品。
【請求項9】
請求項1記載の式(I)の医薬品を、薬学的に許容される1種以上の添加剤及び/又は賦形剤と共に含んでなる医薬組成物。
【請求項10】
ペプチド−キレートコンジュゲート及び還元剤を含む、式(I)の放射性医薬組成物の調製用キット。

【図1】
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【公表番号】特表2007−526300(P2007−526300A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501740(P2007−501740)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【国際出願番号】PCT/NO2005/000078
【国際公開番号】WO2005/084715
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(396019387)ジーイー・ヘルスケア・アクスイェ・セルスカプ (82)
【Fターム(参考)】