説明

医薬化合物

本発明は、(S)2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールを含む組成物であって、(R)2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールを実質的に含まないか、または(S)エナンチオマーが大半を占める(S)および(R)エナンチオマーの混合物を含む組成物を提供する。また(S)2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの調製方法、新規な製造中間体、および当該製造中間体の製造方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、プロテインキナーゼB(PKB)、プロテインキナーゼA(PKA)、ROCKキナーゼまたはp70S6Kの活性を阻害または修飾するピラゾール含有アリール−アルキルアミン化合物、これらキナーゼが仲介する病態もしくは症状の治療または予防における当該化合物の使用、ならびに当該化合物を含有する医薬組成物に関する。より具体的には、本発明は2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの一方のエナンチオマー、それを含む医薬組成物、その治療上の使用、その調製方法、および新規な製造中間体に関する。
【0002】
背景技術
プロテインキナーゼは、細胞内における様々なシグナル伝達過程の制御に関与する構造的に関連する酵素の大きなファミリーを形成している(ハーディー(Hardie, G.)およびハンクス(Hanks, S.)、1995年、「ザ・プロテインキナーゼ・ファクトブックI・アンド・II(The Protein Kinase Facts Book, I and II)」アカデミックプレス(Academic Press)、サンディエゴ、カリフォルニア)。上記キナーゼはそれらがリン酸化する基質により各ファミリーに分類され得る(例えば、タンパク質‐チロシン、タンパク質−セリン/スレオニン、脂質など)。これらキナーゼファミリーのそれぞれに通常対応する配列モチーフが特定されてきた(例えば、ハンクス(Hanks, S.K.)、ハンター(Hunter, T.)、「米国実験生物学協会誌(FASEB J.)」、9:576−596、1995年;ナイトン(Knighton)ら、「サイエンス(Science)」、253:407−414、1991年;ハイルズ(Hiles)ら、「セル(Cell)」、70:419−429、1992年;クンツ(Kunz)ら、「セル(Cell)」、73:585−596、1993年;ガルシア−ブストス(Garcia-Bustos)ら、「欧州分子生物学機構誌(EMBO J.)」、13:2352−2361、1994年)。
【0003】
プロテインキナーゼはそれらの調節メカニズムにより特徴付けられ得る。これらのメカニズムには、例えば、自己リン酸化、他のキナーゼによるリン酸基転移、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質−脂質相互作用、およびタンパク質−ポリヌクレオチド相互作用がある。個々のプロテインキナーゼは2つ以上のメカニズムにより調節されることもある。
【0004】
キナーゼは、リン酸基を標的タンパク質へ付加することにより、多くの異なる細胞過程を調節しており、これらの過程としては増殖、分化、アポトーシス、運動、転写、翻訳および他のシグナル伝達作用があるが、これらに限定されない。これらのリン酸化現象は、標的タンパク質の生物学的機能を修飾または調節しうる分子オン/オフスイッチとして作用する。標的タンパク質のリン酸化は、様々な細胞外シグナル(ホルモン、神経伝達物質、増殖、および分化因子など)、細胞周期現象、環境ストレスまたは栄養ストレスなどに反応して生じる。適切なプロテインキナーゼは、例えば、代謝酵素、調節タンパク質、受容体、細胞骨格タンパク質、イオンチャンネルもしくはイオンポンプ、または転写因子を活性化または不活性化(直接的または間接的に)するために、シグナル伝達経路において機能する。タンパク質リン酸化の制御の欠陥に起因する制御されないシグナルは、例えば、炎症、癌、アレルギー/喘息、免疫系の疾患および症状、中枢神経系の疾患および症状、および血管新生を含む、多くの疾患に関与している。
【0005】
アポトーシスすなわちプログラム細胞死は、生物にもはや必要とされない細胞を除去する重要な生理的過程である。この過程は初期胚の成長および発生において重要であり、細胞成分の制御された非壊死的な破壊、除去および回復を可能にする。アポトーシスによる細胞の除去は、増殖細胞集団の染色体およびゲノムの全体性の維持においてもまた重要である。DNA損傷およびゲノムの全体性が注意深くモニタリングされる細胞増殖サイクルにはいくつかの公知のチェックポイントがある。かかるチェックポイントでの異常の検出に対する反応は、かかる細胞の増殖を停止し修復過程を開始することである。損傷または異常を修復できないならば、欠陥およびエラーの伝播を防止するために、損傷を受けた細胞によりアポトーシスが開始される。癌細胞は、染色体DNA中に多数の変異、エラーまたはリアレンジメントを一貫して含んでいる。このようなことが起きる原因の1つは、大多数の腫瘍はアポトーシス過程の開始に関与する過程の1つまたは複数において欠陥を有するということであると広く考えられている。通常の制御機構は癌細胞を殺すことができず、染色体エラーまたはDNAのコードするエラーが伝播され続ける。結果として、これらのプロアポトーシスシグナルを回復させるかまたは無秩序な生存シグナルを抑制することが、癌を治療する好ましい手段である。
【0006】
PKB
酵素のホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)、PDK1およびPKBをとりわけ含んでいるシグナル伝達経路は、多くの細胞におけるアポトーシスに対する耐性の増加または生存のための反応を仲介することが長く知られている。この経路がアポトーシスを抑制する多くの増殖因子によって使用される重要な生存経路であることを示す多大な量のデータが存在する。PI3Kファミリーの酵素は、増殖因子および生存因子の範囲(例えばEGF、PDGF)によっておよびポリホスファチジルイノシトールの生成を介して活性化され、キナーゼPDK1、およびaktとしてもまた公知であるプロテインキナーゼB(PKB)の活性を含む下流のシグナル伝達事象の活性化を開始する。このことは腫瘍だけでなく、宿主組織(例えば、血管内皮細胞)においてもまた当てはまる。PKBは、キナーゼドメインとN端末PHドメインとC端末調節ドメインとを含むプロテインser/thrキナーゼである。酵素PKBアルファ(akt1)自身はPDK1によってThr308上でリン酸化され、ラパマイシン標的(TOR)キナーゼおよびその関連するタンパク質rictorで構成されると現在考えられている「PDK2」によってSer473上でリン酸化される。PIP3とPHドメインとの間での結合が、基質への最適な接近を提供する脂質膜の細胞質表面への酵素のアンカリングのために必要とされるが、完全活性化には両方の部位でのリン酸化が必要とされる。
【0007】
マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ活性化プロテインキナーゼ−2(MK2)、インテグリン結合キナーゼ(ILK)、p38 MAPキナーゼ、プロテインキナーゼCアルファ(PKCアルファ)、PKCベータ、NIMA関連キナーゼ−6(NEK6)、哺乳類のラパマイシン標的タンパク質(mTOR)、二本鎖DNA依存性プロテインキナーゼ(DNK−PK)および血管拡張性失調症変異(ATM)遺伝子産物を含む少なくとも10種類のキナーゼがSer473キナーゼとして機能することが示唆されている。入手可能なデータは、PKBの活性化を調節するために細胞における複数のシステムが使用されている可能性があることを示唆している。PIP3とPHドメインとの間での結合が、基質への最適な接近を提供する脂質膜の細胞質表面への酵素のアンカリングのために必要とされるが、PKBの完全活性化には両方の部位でのリン酸化が必要とされる。PHドメイン変異は最近報告されている。この著者は、構造的、生化学的および生物学的な研究により、ヒト癌におけるAKT1の関与に関する直接的な証拠を提供し、かつAkt1のE17K変異の腫瘍形成の可能性を示している。この変異は、乳癌61例中の5例(8%)、結腸直腸51例中の3例(6%)、および卵巣癌50例中の1例(2%)で同定された。(ネイチャー(Nature)448、439〜444(2007年7月26日)、doi:10.1038/nature05933;2007年3月8日受領;2007年5月11日承認;2007年7月4日オンラインで発表「癌におけるAKT1のプレクストリン相同ドメインでの腫瘍化変異(A transforming mutation in the pleckstrin homology domain of AKT1 in cancer))
PI3K触媒サブユニットであるPIK3CA内の体細胞変異は、結直腸癌、胃癌、乳癌、卵巣癌、および重度の脳腫瘍において一般的に起こる(25〜40%)ことが近年報告されている。PIK3CA変異は、膀胱癌の初期段階で一般的に起こり得る事象である。浸潤性乳癌の場合、PIK3CA変異は、主に小葉腫瘍および乳管腫瘍において見られる。子宮内膜癌の場合、PI3K経路が盛んに活性化され、PIK3CA/PTEN変異のその組合せはこれらの腫瘍の発生に重要な役割を果たしている可能性がある。PI3キナーゼの変異およびPTENの損失によって活性化される腫瘍はPKBの活性化を維持することになり、その結果PKA/PKB阻害剤による阻害に対して不均衡な感受性を有することになる。
【0008】
活性化されたPKBは、今度は、全般的な生存のための反応に寄与する様々な基質をリン酸化する。PKB依存性の生存応答の仲介に関与する因子がすべて理解されているとは確信できないが、いくつかの重要な作用は、プロアポトーシス因子のBADおよびカスパーゼ9のリン酸化および不活性化、フォークヘッド転写因子(例えば、FKHR)の核からの排除をもたらすそれらの転写因子のリン酸化、およびカスケードの上流のキナーゼのリン酸化によるNfカッパB経路の活性化であると考えられる。
【0009】
PKB経路の抗アポトーシス作用および生存支持作用に加えて、上記酵素は細胞増殖の促進においてもまた重要な役割を果たす。この作用もやはりいくつかの作用によって仲介されるようであり、そのいくつかは、p21Cip1/WAF1のサイクリン依存性キナーゼ阻害剤のリン酸化および不活性化、ならびにmTOR(細胞サイズ、増殖およびタンパク質翻訳のいくつかの態様を制御するキナーゼ)のリン酸化および活性化であると考えられる。
【0010】
ポリホスファチジルイノシトールを脱リン酸化し不活性化するホスファターゼPTENは、PI3K/PKB生存経路を調節するように通常は作用する重要な腫瘍抑制タンパク質である。腫瘍形成におけるPI3K/PKB経路の重要性は、PTENがヒト腫瘍における変異の最も一般的な標的の1つであるという観測から判断することができ、このホスファターゼにおける変異は、黒色腫(グルベル(Guldberg)ら、1997年、「キャンサーリサーチ(Cancer Research)」57、3660〜3663)および進行性前立腺癌(ケアンズ(Cairns)ら、1997年、「キャンサーリサーチ(Cancer Research)」57、4997)の〜50%またはそれ以上において見出されている。これらの観測などから、広範囲の腫瘍タイプが増殖および生存のために増強されたPKB活性に依存しており、PKBの適切な阻害剤に治療上反応するだろうことが示唆される。
【0011】
アルファ、ベータおよびガンマ(AKT1、2、および3)と呼ばれるPKBの3つの密接に関連したアイソフォームがあり、遺伝学的研究から、それらは異なるがオーバーラップする機能を有することが示唆されている。それらがすべて癌において独立して役割を果すことができることを示唆する証拠がある。例えば、PKBベータは卵巣および膵臓癌の10〜40%において過剰発現または活性化されていることが見出され(ベラコサ(Bellacosa)ら、1995年、「インターナショナルジャーナルオブキャンサー(Int. J. Cancer)」64、280〜285;チェン(Cheng)ら、1996年、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」93、3636〜3641;ユアン(Yuan)ら、2000年、「オンコジーン(Oncogene)」19、2324〜2330)、PKBアルファはヒト胃癌、前立腺癌および乳癌において増幅され(スタール(Staal)、1987年、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」84、5034〜5037;ソン(Sun)ら、2001年、「米国病理学会誌(Am. J. Pathol.)」159、431−437)、PKBガンマ活性の増加はステロイド非依存性乳腺細胞株および前立腺細胞株において観察された(ナカタニ(Nakatani)ら、1999年、「ジャーナル・オブ・バイオロジカルケミストリー(J. Biol. Chem.)」274、21528〜21532)。
【0012】
PKB経路はまた、正常組織の増殖および生存においても機能し、細胞および組織の機能を制御するために通常の生理機能の間に調節される可能性がある。したがって、正常な細胞および組織の不適当な増殖および生存に関連した疾患もまた、PKB阻害剤による治療から治療上の利益を得る可能性がある。そのような疾患の例は持続的またはアップレギュレートされた免疫反応をもたらす細胞集団の持続的増加および生存に関連した免疫細胞の疾患である。例えば、同種抗原またはインターフェロンガンマのような増殖因子に対するTリンパ球およびBリンパ球の反応は、PI3K/PKB経路を活性化し、免疫反応の間の抗原特異的リンパ球クローンの生存の維持に関与する。リンパ球および他の免疫細胞が不適当な自己抗原または異種抗原に対して反応している条件下または他の異常が持続的活性化をもたらす条件下では、活性化された細胞集団のアポトーシスによって免疫反応が終結される正常なメカニズムを妨害する重要な生存シグナルにPKB経路は寄与する。多発性硬化症および関節炎のような自己免疫の疾患の自己抗原に対して反応するリンパ球集団の増加を実証する、かなりの量の証拠が存在する。異種抗原に対して不適切に反応するリンパ球集団の増加は、アレルギー反応および喘息のような他の症状群の特徴である。要約すると、PKBの阻害により、免疫疾患に有用な治療を提供することができる可能性がある。
【0013】
PKBが役割を果たすであろう正常細胞の不適当な増加、成長、増殖、増生および生存の他の例としては、アテローム性動脈硬化、心筋症および糸球体腎炎が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0014】
細胞の増殖および生存における役割に加えて、PKB経路はインスリンによるグルコース代謝の制御において機能する。PKBアルファアイソフォームおよびPKBベータアイソフォームを欠損するマウスから得ることができる証拠は、この作用は主としてベータアイソフォームによって仲介されることを示唆している。結果として、PKB活性のモジュレーターはまた、糖尿病、代謝疾患および肥満のような、グルコース代謝およびエネルギー貯蔵に機能障害のある疾患において有用である可能性がある。
【0015】
PKA
サイクリックAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)は、広範囲の基質をリン酸化し、細胞増殖、細胞分化、イオンチャネル伝導度、遺伝子転写および神経伝達物質のシナプス放出を含む多くの細胞過程の調節に関与するセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。PKAホロ酵素は、不活性型においては2つの調節サブユニットおよび2つの触媒サブユニットを含む四量体である。
【0016】
PKAは、Gタンパク質に仲介されるシグナル伝達事象、およびそれらが調節する細胞過程との間でリンクとして働く。グルカゴンのようなホルモンリガンドの膜貫通受容体への結合は、受容体共役Gタンパク質(GTPを結合し加水分解するタンパク質)を活性化する。活性化に際して、Gタンパク質のアルファサブユニットは解離し、アデニル酸シクラーゼに結合しそれを活性化し、それは次にATPをサイクリックAMP(cAMP)に変換する。このように産生されたcAMPは次にPKAの調節サブユニットに結合し、結合された触媒サブユニットの解離をもたらす。PKAの触媒サブユニット(調節サブユニットを結合させた場合には不活性である)は、解離に際して活性化され、他の調節タンパク質のリン酸化に関与する。
【0017】
例えば、PKAの触媒サブユニットは、ホスホリラーゼ(グルコースを放出するためのグリコーゲンの破壊に関与する酵素)のリン酸化に関わるキナーゼであるホスホリラーゼキナーゼをリン酸化する。PKAはまた、グリコーゲン合成酵素のリン酸化および非活性化による血糖値の調節にも関わる。したがって、PKA活性のモジュレーター(PKA活性を増加または減少させ得る)は、糖尿病、代謝疾患および肥満のような、グルコース代謝およびエネルギー貯蔵に関する機能疾患が存在する疾患の治療または管理に有用である可能性がある。
【0018】
PKAは、T細胞活性化の急性阻害剤としてもまた確立されている。アンダール(Anndahl)らは、HIV感染患者からのT細胞ではcAMPのレベルが増加しており、正常なT細胞よりもcAMPアナログによる阻害に対してより敏感であるということに基づいて、HIV誘導性T細胞機能疾患におけるPKAタイプIの奏し得る役割を調べた。彼らの研究から、PKAタイプIの活性化の増加がHIV感染における進行性T細胞機能疾患の一因となり、したがってPKAタイプIが免疫賦活療法に関して可能性のある標的になり得ることが結論づけられた。アンダール(Aandahl, E.M.)、アウクルスト(Aukrust, P.)、スカルへグ(Skalhegg, B.S.)、ミュラー(Muller, F.)、フロランド(Froland, S.S.)、ハンション(Hansson, V.)、タスケン(Tasken, K.)、「プロテインキナーゼAタイプIアンタゴニストは、HIV感染患者からのT細胞の免疫反応を回復させる(Protein kinase A type I antagonist restores immune responses of T cells from HIV-infected patients)」、米国実験生物学協会誌(FASEB J.)12、855〜862(1998年))。
PKAの調節サブユニットにおける変異が、内分泌組織における過活性化をもたらし得ることもまた認識されている。
【0019】
細胞調節におけるメッセンジャーとしてのPKAの多様性および重要性のために、cAMPの異常反応は、正常ではない細胞成長および増殖のような、これに由来する様々なヒト疾患をもたらし得る(ストラタキス(Stratakis, C.A.)、チョ−チョン(Cho-Chung, Y.S.);プロテインキナーゼAおよびヒト疾患(Protein Kinase A and human diseases)、「トレンズ・イン・エンドクリノロジー・アンド・メタボリズム(Trends Endrocri. Metab.)」、2002年、13、50〜52)。PKAの過剰発現は、卵巣癌、乳癌および結腸癌患者からの細胞を含む様々なヒト癌細胞において観察されている。したがって、PKAの阻害は癌治療に対するアプローチとなるだろう(リ(Li, Q.)、シュー(Zhu, G-D.)、「カレントトピックス・イン・メディシナルケミストリー(Current Topics in Medicinal Chemistry)」、2002年、2、939〜971)。
【0020】
ヒト疾患におけるPKAの役割の総説については、例えば、「プロテインキナーゼAおよびヒト疾患―ニューヨーク科学アカデミー年報(Protein Kinase A and Human Disease, Annals of the New York Academy of Sciences)」、コンスタンチンストラタキス(Constantine A. Stratakis)編、第968巻、2002年、ISBN1−57331−412−9を参照されたい。
【0021】
ROCKキナーゼ
ROCKキナーゼファミリーは、ROCK1およびROCK2という2つの公知のメンバーを含む。
【0022】
ROCK1.同義語:Rho関連プロテインキナーゼ1;p160ROCK;P160ROK;p160ROCK−1、Rho関連、コイルドコイル構造含有プロテインキナーゼ1;Rhoキナーゼ1;ROKベータ。
【0023】
ROCK2.同義語:Rho関連プロテインキナーゼ2;p164ROCK;p164ROK;p164ROCK−2;Rho関連、コイルドコイル構造含有プロテインキナーゼ2、Rhoキナーゼ2;ROKアルファ。
【0024】
転移の過程では、細胞−細胞および細胞−マトリクス接着に加え細胞骨格の再編成を伴い、これにより細胞の腫瘤からの離脱、局部組織への進入、そして最終的に体全体への広がりを可能にする。細胞形態および接着に対するこれら効果は、RhoGTPアーゼファミリーのメンバーにより調節される。
【0025】
活性化されたRhoAは、ROCKキナーゼROCK1およびROCK2を含むいくつかのエフェクタータンパク質と相互作用することができる。ROCK1およびROCK2は、物理的結合を介してRhoA−GTPコンプレックスにより活性化され得る。活性化されたROCKは、多くの基質をリン酸化し、極めて重要な細胞機能に大切な役割を果たす。ROCKの基質としては、ミオシン軽鎖ホスファターゼ(MBS、MYPT1とも呼ばれる)のミオシン結合サブユニット、アデュシン、モエシン、ミオシン軽鎖(MLC)、LIMキナーゼおよび転写因子FHLが挙げられる。これら基質のリン酸化は、上記タンパク質の生物活動を修飾し、外部刺激に対する細胞の反応を変更させる手段を提供する。
【0026】
Rhoエフェクタータンパク質ROCK1およびROCK2に加え、RhoAおよびRhoCの高度発現も、精巣性胚細胞腫瘍の進行、転移能を有する小乳癌、膀胱癌の浸潤および転移、卵巣癌における腫瘍発達を含むヒト癌において一般的に観察される。
【0027】
侵襲性および転移性形態への腫瘍の進行には、腫瘍細胞が劇的な形態学的変化(RhoGTPアーゼにより調節される過程)を経ることが必要である。アクトミオシン収縮性は、細胞が環境に対して移動する力を及ぼすメカニズムである。低分子量GTPアーゼRho下流でのシグナル伝達は、ミオシンII軽鎖(MLC2)リン酸化のROCKが仲介する調節による収縮性を増加させる。
【0028】
ROCKキナーゼは、接着斑とストレスファイバーの誘発に関与し、ミオシン調節軽鎖のリン酸化の増強により平滑筋収縮のカルシウム増感を仲介すると考えられる。
【0029】
生体内研究はまた、ROCK阻害がいくつかの腫瘍細胞株の侵襲性を減少することを示している。Y−27632またはWF−536などのROCK阻害剤は、これらの特性を実証するためいくつかの研究において使用されている。
【0030】
ROCK阻害剤は、様々な疾病の治療での使用が示唆されている。疾患としては、高血圧、慢性および鬱血性心不全、心臓肥大、再狭窄、慢性腎不全ならびにアテローム性動脈硬化症などの心疾患が挙げられる。また、阻害剤はその筋肉弛緩特性により、喘息、男性勃起障害、女性性機能障害および過活動膀胱I症候群に適し得る。
【0031】
ROCK阻害剤は抗炎症特性を有することが示されている。したがって上記阻害剤は、卒中、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および炎症性疼痛などの神経炎症性疾患ならびに関節リウマチ、過敏性腸症候群および炎症性腸疾患など他の炎症性疾患の治療として使用することができる。上記阻害剤の神経突起伸長誘発効果に基づき、ROCK阻害剤は、CNS内の病変における新規の軸索成長および軸索再構成を誘発する神経再生に対して有用な薬剤と成り得る。したがってROCK阻害剤は、脊髄損傷、急性神経細胞損傷(卒中、外傷性脳損傷)、パーキンソン病、アルツハイマー病および他の神経変性障害などのCNS疾患の再生治療に有用であり得る。ROCK阻害剤が細胞増殖および細胞移動を減少させるので、ROCK阻害剤は癌および腫瘍転移の治療に有用であり得る。最後に、ROCK阻害剤がウイルス侵入による細胞骨格再構成を抑制すると示唆する証拠があり、したがってROCK阻害剤はまた、抗ウイルスおよび抗バクテリア用途で潜在的な治療的価値を有している。ROCK阻害剤はまた、インシュリン抵抗性および糖尿病の治療に有用である。
【0032】
ROCK阻害剤Y−27632
宿主細胞層への腫瘍細胞の接着およびその後の細胞間移動は、癌浸潤および転移の極めて重要なステップである。低分子GTPアーゼRhoは、アクチン細胞骨格の再編成およびアクトミオシン収縮性の調節により細胞の接着および運動性を制御する。培養ラットMM1ヘパトーマ細胞は、生体外で中皮細胞単層を通って血清依存的およびRho仲介的に移動する。Rhoの推定上の標的分子として単離されたいくつかのタンパク質のうち、ROCKキナーゼは、培養細胞における接着斑およびストレスファイバーの誘発に関与し、ミオシン調節軽鎖のリン酸化の増強により平滑筋収縮のカルシウム増感を仲介すると考えられる。ROCKのドミナントアクティブ変異体をコードするcDNAを有するMM1細胞のトランスフェクションは、血清およびRhoとは無関係に侵入活性をもたらした。対照的に、ドミナントネガティブなキナーゼ欠損ROCK変異体の発現は実質的に侵襲性表現型を減少させた。
【0033】
特異的ROCK阻害剤(Y−27632)は、アクトミオシンのRho仲介的活性化およびこれらの細胞の侵入活性の両方を阻止した。さらに、浸透圧ポンプを用いてこの阻害剤を連続的に供給することにより、同系ラットの腹膜腔へ移植されるMM1細胞の広まりを大幅に減少した。これらの結果は、ROCKが腫瘍細胞浸潤において主要な役割を果たすことを示すとともに、癌浸潤と転移の予防のための治療標的としてのROCKの潜在能力を実証している。
【0034】
VEGFは、RhoA活性化を誘発し、ヒトECの細胞膜へRhoAを動員した。RhoA活性のこの増加は、ドミナントネガティブRhoAのアデノウイルストランスフェクションにより示されるように、VEGFに誘発されるF−アクチン細胞骨格再編成に必要である。Rhoキナーゼの特異的阻害剤であるY−27632の使用により示されたように、Rhoキナーゼは、RhoAのこの効果を仲介した。Rhoキナーゼの阻害は、機械的損傷に応答した、VEGFに増強されたEC移動を防いだが、定常的なEC移動には影響を与えなかった。さらに、血管新生の生体外モデルにおいて、RhoAまたはRhoキナーゼのいずれかの阻害は、3次元フィブリンマトリックス中のVEGFが仲介するEC内部成長を減少させた。結論:VEGFに誘発されるECの細胞骨格の変化にはRhoAおよびRhoキナーゼが必要であり、RhoA/Rhoキナーゼシグナル伝達の活性化は、VEGFに誘発される生体外EC移動および血管新生に関与する。
【0035】
Y−27632は平滑筋を弛緩させ、血管血流を高めることができる。Y−27632は、細胞に進入することができる小分子であり、ラットにおける10日間30mg/kgの経口投与では毒性を示さない。この化合物の使用有効量は約30uMである。これは高血圧ラットでの血圧を下げるが、正常なラットでの血圧には影響しない。これは、高血圧治療におけるRhoシグナル伝達アンタゴニストの同定に結びついた(ソムリオ(Somlyo)、1997年、「ネイチャー(Nature)」389:908;ウエハタ(Uehata)ら、1997年、「ネイチャー(Nature)」389:990)。
【0036】
ROCKの特異的阻害剤であるY−27632(ウエハタら、「ネイチャー(Nature)」389、990 994、1997年;デービース(Davies)ら、「バイオケミカルジャーナル(Biochemical Journal)」、351、95〜105、2000年;およびイシザキ(Ishizaki)ら、「モレキュラーファーマコロジー(Molecular Pharmacology)」、57、976〜983、2000年)の使用は、血管(ウエハタ(Uehata)ら、「ネイチャー(Nature)」、389、990〜994、1997年)、気道(イリクカ(Ilikuka)ら、「ヨーロピアンジャーナル・オブ・ファーマコロジー(European Journal of Pharmacology)」、406、273〜279、2000年)および生殖器(チタレー(Chitaley)ら、「ネイチャーメディシン(Nature Medicine)」、7(1)、119〜122、2001年)の平滑筋を含む多くの組織におけるCa2+に無関係な収縮の調節におけるこの酵素の役割を示した。さらに、ジャジア(Jezior)ら、「ブリティッシュジャーナル・オブ・ファーマコロジー(British Journal of Pharmacology)」、134、78〜87、2001年は、Y−27632が単離されたウサギ泌尿器35膀胱平滑筋においてベタネコールで誘発された収縮を減少させることを示した。
【0037】
Rhoキナーゼ阻害剤Y−27632は、次の疾患用途に関して試験されている。
【0038】
・高血圧(ウエハタ(Uehata)ら、1997年、同上;チタレー(Chitaley)ら、2001a、同上;クリスソボリス(Chrissobolis)および15ソビー(Sobey)、2001 C.「サーキュレーションリサーチ(Circ. Res)」88:774)
・喘息(イイヅカ(Iizuka)ら、2000年「ヨーロピアンジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Eur. J. Pharmacol)」406:273;ナカハラ(Nakahara)ら、「ヨーロピアンジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Eur. J. Pharmacol)」389:103、2000年)
・肺血管収縮(タカムラ(Takamura)、2001年「へパトロジー(Hepatology)」33、577)
・血管疾患(ミヤタ(Miyata)ら、2000年「トロンボシス・アンド・バスキュラーバイオロジー(Thromb Vasc Biol)」20、2351;ロバートソン(Robertson)ら、2000年「ブリティッシュジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Br. J. Pharmacol)」131:5)
・陰茎勃起障害(チタレー(Chitaley)ら、2001b、「ネイチャーメディシン(Nature Medicine)」7:119;ミルズ(Mills)ら、2001年「ジャーナル・オブ・アプライドフィジオロジー(J. Appl. Physiol.)」91:1269;リーズ(Rees)ら、「ブリティッシュジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Br. J. Pharmacol)」133:455、2001年)
・緑内障(ホンジョウ(Honjo)ら、2001年「メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods Enzymol)」42:137;ラオ(Rao)ら、2001年「インベスティガティブオフサルモロジー・アンド・ビジュアルサイエンス(Invest. Opthalmol. Urs. Sci.)42:1029)
・細胞形質転換(サハイ(Sahai)ら、1999年「カレントバイオロジー(Curr. Biol.)」9:136〜5)
・前立腺癌転移(ソムリオ(Somlyo)ら、2000年「BBRC」269:652)
・肝細胞癌および転移(イマムラ(Imamura)ら、2000年;タカムラ(Takamura)ら、2001)
・肝臓線維症(タダ(Tada)ら、2001年「ジャーナル・オブ・へパトロジー(J. Hepatol)34:529」;ワン(Wang)ら、2001年「アメリカンジャーナル・オブ・レスピラトリーセル・アンド・モレキュラーバイオロジー(Am. J. Respir. Cell Mol Biol.)」25:628)
・腎臓線維症(オールシ(Ohlci)ら、「ジャーナル・オブ・ハートラングトランスプランテーション(J. Heart Lung Transplant)」20:956、2001年)
・心保護および同種移植生着(オールシ(Ohlci)ら、2001年、同上)
・脳血管痙攣(サトウ(Sato)ら、2000年「サーキュレーションリサーチ(Circ. Res)」87:195)
ROCKキナーゼと心疾患
低分子グアノシン三リン酸結合タンパク質Rhoのすぐ下流の標的であるROCKが心疾患の一因である可能性があるという証拠が増えている。ROCKは、平滑筋収縮、ストレスファイバー形成ならびに細胞移動および増殖などの種々の細胞機能に中心的な役割を果たす。ROCKの過剰活性は、脳虚血、冠攣縮性狭心症、高血圧、血管炎症、動脈硬化症およびアテローム性動脈硬化症において観察される。ROCKはしたがって、心疾患において重要かつなお比較的未調査の治療標的であり得る。Y−27632およびファスジルなどのROCK阻害剤を用いる最近の実験および臨床研究は、胚発生、炎症および腫瘍形成におけるROCKの重大な役割を示した。この総説は、細胞機能におけるROCKの潜能的役割に注目し、心疾患の新たな治療法としてのROCK阻害剤の可能性について検討することとなる。
【0039】
異常な平滑筋収縮性は高血圧などの病状の主要な要因である可能性があり、このプロセスを修飾する平滑筋弛緩物質は治療上有用であろう。平滑筋収縮は、細胞質のCa2+濃縮および筋フィラメントのCa2+感受性により調節され、前者はミオシン軽鎖キナーゼを活性化し、後者はミオシンホスファターゼの阻害により部分的に達成される。
【0040】
血管平滑筋細胞におけるRhoシグナル伝達経路は、再狭窄傷害およびアテローム性動脈硬化症を含む様々な血管疾患に関連する症状である高血圧において高度に活性化されている。
【0041】
高血圧は、増加した末梢血管抵抗および/または血管構造再構築に特徴付けられる心臓血管疾患である。低分子量GTPアーゼRhoおよびその下流のエフェクターであるRhoキナーゼが高血圧の病因に重要な役割を果たすことを示唆する、高血圧の動物モデルからの証拠が近年急速に増加している。Rho/Rhoキナーゼ経路の活性化は、高血圧における平滑筋収縮性にとって不可欠である。より多いRhoA発現および増強したRhoA活性が、遺伝的自然発症高血圧ラットおよびN(オメガ)−ニトロ−L−アルギニンメチルエステル誘発性高血圧などの高血圧ラットの大動脈で観察されている。
【0042】
ROCKキナーゼと神経疾患
Rho/ROCK経路の異常活性化は中枢神経系の様々な疾患で観察されている。成人脊椎動物の脳および脊髄の損傷はROCKを活性化し、これにより神経突起成長および発芽が阻害される。ROCKの阻害は、哺乳類の脊髄損傷後の再生を早め、機能回復を増強し、Rho/ROCK経路の阻害はまた、卒中、炎症性および脱髄性疾患、アルツハイマー病および神経障害性疼痛の動物モデルにおいて有効であることが証明された。ROCK阻害剤はしたがって、様々な神経疾患における神経変性を防ぎ、神経再生を刺激する潜在的な能力を有する。
【0043】
神経細胞の発達は、発生した場所からの移動そして突起伸長に始まる一連の工程を必要とし、最終的に、分化、および神経細胞が適切な標的と連絡することを可能にする結合部の形成をもたらす。過去数年にわたり、GTPアーゼのRhoファミリーおよび関連する分子が、神経突起伸長および分化、軸索経路探索、ならびに樹状突起棘形成および維持を含む神経発達の様々な側面で重要な役割を果たすことが明らかになった。
【0044】
神経突起伸長阻害および神経突起反卒中用の両方に関する共通要素の1つとしては、成長円錐内のアクチン再構成が挙げられる。神経細胞および非神経細胞の両方におけるアクチン細胞骨格の調節の中心となるのは、低分子GTPアーゼのRhoファミリーである。Rhoファミリーのメンバーは、不活性なGDP結合形態と活性のあるGTP結合形態を繰り返す。一連のいくつかの証拠は、RhoGTPアーゼの活性状態の操作が成長円錐崩壊および神経突起伸長阻害を修飾し得ることを示唆している。
【0045】
より最近では、行動学的には、Rho経路の不活性化は、移動力の迅速な回復および前肢後肢調和の漸進的な回復をもたらすことができる。これらの所見は、Rhoシグナル伝達経路が脊髄損傷後の治療的介入の潜在的な標的であるという証拠を提供する。
【0046】
p70S6Kキナーゼ
70kDaリボソームプロテインキナーゼp70S6K(SK6、p70/p85S6キナーゼ、p70/p85リボソームS6キナーゼおよびpp70s6kとしても知られる)はプロテインキナーゼのAGCサブファミリーのメンバーである。p70S6Kはセリンスレオニンキナーゼであり、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)/AKT経路の構成要素である。p70S6KはPI3Kの下流にあり、多数のマイトジェン、ホルモンおよび増殖因子に応答して多くの部位でリン酸化によって活性化が起こる。ラパマイシンはp70S6K活性を阻害する作用があり、タンパク質合成を阻止する(特に、リボソームタンパク質をコードするこれらのmRNAの翻訳のダウンレギュレーションの結果として)ので、この応答はmTORに制御されている可能性がある。p70S6KはまたPI3Kおよびその下流標的であるAKTにより調節される。ウォルトマンニンおよびラパマイシンは、PI3K経路に依存する部位でp70S6Kリン酸化の低下を引き起こす。変異p70S6Kは、ラパマイシンではなくウォルトマンニンにより阻害され、これはPI3K経路がmTOR活性の調節と無関係にp70S6Kに対して効果を呈し得ることを示唆している。
【0047】
酵素p70S6Kは、S6リボソームタンパク質のリン酸化によりタンパク質合成を修飾する。S6のリン酸化は、リボソームタンパク質および翻訳伸長因子(その発現増加が細胞成長および増殖にとって不可欠である)を含む翻訳装置の構成要素をコードするmRNAの増加した翻訳と相関する。これらmRNAは、翻訳レベルでこれらmRNAの調節にとって不可欠なことが示されている5’転写開始(5’TOPと呼ばれる)においてオリゴピリミジン経路を含んでいる。
【0048】
翻訳への関与に加え、p70S6K活性化はまた、細胞周期制御、神経細胞分化、細胞運動の調節、ならびに腫瘍転移、免疫反応および組織修復において重要である細胞応答に関与すると考えられている。p70S6Kに対する抗体は、細胞分裂誘起反応により引き起こされるラット繊維芽細胞のS期への進入を阻止し、これは、p70S6K機能が細胞周期におけるG1期からS期への進行にとって不可欠であることを示している。さらに、ラパマイシンによる細胞周期のG1期からS期での細胞周期増殖の阻害は、高リン酸化活性型p70S6Kの産生の阻害の結果であると確認されている。
【0049】
腫瘍抑制因子LKB1は、mTOR/p70S6K経路のTSC1/2コンプレックスをリン酸化するAMPKを活性化し、したがってPKBに依存しない経路を通ってp70S6Kに入る。LKB1における変異は、ポイツイエーガー症候群(PJS)を引き起し、PJSの患者は、一般集団より癌になる可能性が15倍高い。加えて、肺腺癌の1/3では不活性化LKB1変異を有する。
【0050】
腫瘍細胞増殖および細胞死からの細胞の保護におけるp70S6Kの役割は、腫瘍組織における増殖因子受容体シグナル伝達、過剰発現および活性化へのp70S6Kの関与に基づいて認識される。例えば、ノーザンおよびウェスタン分析は、PS6K遺伝子の増幅は対応するmRNAおよびタンパク質発現の増加を伴うことをそれぞれ示した(「キャンサーリサーチ(Cancer Res.)」(1999年)59:1408〜11−染色体領域17q23に対するPS6Kの局在および乳癌におけるその増幅の測定(Localization of PS6K to Chromosomal Region 17q23 and Determination of Its Amplification in Breast Cancer))。
【0051】
膵臓癌、膀胱癌および神経芽細胞腫などの他の癌型に加え、原発性乳房腫瘍の20%まで、BRCA2変異を含む乳房腫瘍の87%で、そしてBRCA1変異を含む腫瘍の50%で染色体17q23が増幅される(バールルンド(M Barlund)、モンニ(O Monni)、コノネン(J Kononen)、コーネリソン(R Cornelison)、トーホースト(J Torhorst)、サウター(G Sauter)、カリオニエミ(O-P Kallioniemi)およびカリオニエミ(Kallioniemi A)、「キャンサーリサーチ(Cancer Res.)」、2000年、60:5340〜5346参照)。乳癌における17q23の増幅はPAT1、RAD51C、PS6KおよびSIGMA1B遺伝子と関連することが示されている「キャンサーリサーチ(Cancer Res.)」、2000年、60:5371〜5375ページ)。
【0052】
p70S6K遺伝子は、この領域における増幅および過剰発現の標的として認識されており、増幅と予後不良の間に統計的に有意な関連性が観察されている。
【0053】
p70S6K活性化の臨床上の阻害は、上流キナーゼmTORの阻害剤であるCCI−779(ラパマイシンエステル)で治療された腎癌患者において観察された。疾患進行とp70S6K活性の阻害との間で著しい線形関連が報告された。
【0054】
p70S6Kは、代謝病および代謝疾患に関与しているとみなされている。p70S6の欠如は、インスリン感受性を増強する一方、加齢性および食餌性肥満に対して効果があることが報告された。肥満、糖尿病、メタボリック症候群、インシュリン抵抗性、高血糖、高アミノ酸血症および高脂血症などの代謝病および疾患におけるp70S6Kの役割は、当該知見に基づいて認識されている。
【0055】
PKBおよびPKA阻害活性を有するピラゾール化合物
いくつかの類(classes)の化合物がPKAおよびPKB阻害活性を有するとして開示されている。例えば、WO2005/061463(アステックス社(Astex))は、PKBおよびPKA阻害活性を有するピラゾール化合物を開示しており、例示された1種の特定の化合物は2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールである。この化合物(構造を下記に示す)は、アスタリスクで印をつけた炭素原子にキラル中心を有する。
【化1】

【0056】
WO2005/061463の実施例84に記載の化合物は、考えられる2種のエナンチオマーのラセミ混合物である。実施例106および107によると、実施例84の化合物は、生体外のPKAおよびPKBアッセイにおいてそれぞれの場合1マイクロモル未満のIC50値を有している。
【0057】
WO2005/061463はまた、以下のように多くの個別のエナンチオマーを開示および例示している。
【化2】

【0058】
異性体Aおよび異性体Bは1組のエナンチオマーをなし、異性体Cおよび異性体Dは別の組のエナンチオマーをなす。
【0059】
本出願人が行なった試験では、異性体Aは結合アッセイにおいてPKBに対しての活性がその鏡像異体性Bよりも10倍あることが実証された。同様に、異体性Cは結合アッセイにおいてその鏡像異体性Dよりも活性が約10倍ある。しかしながら、メカニスティック(mechanistic)な細胞ELISAアッセイでは異体性CおよびDは本質的には効力が等しい。
【発明の概要】
【0060】
上記の異体性A、B、CおよびDの活性に基づくと、WO2005/061463の実施例84の化合物の個々のエナンチオマーの活性の差も比較的小さいことが示されることが予想され得る。
【0061】
しかしながら今や2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールのSエナンチオマーは、PKBに対して、対応するRエナンチオマーよりも100倍活性がある(放射測定(radiometric)結合アッセイにより測定)ことが最も予想外にも見出された。さらに、上記異体性CおよびDはメカニスティックな細胞アッセイにおいては本質的には効力が等しく、2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールのSエナンチオマーはこのアッセイにおいて優れた活性を有するが、Rエナンチオマーは測定可能な活性を有さない。上記公知の個々のエナンチオマーA、B、CおよびDの特性と比較した場合、2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールのSエナンチオマーとRエナンチオマーとの活性の差は非常に驚くべきものであり予測することができなかった。
【0062】
上記のことから判断すると2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールのSエナンチオマーは、その鏡像異性体であるR異体性よりもはるかに利点を有する。
【0063】
したがって第1の態様では、本発明は(S)2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールを含む組成物を提供し、ここでこの組成物は(R)2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールを実質的に含まないか、またはこの組成物は(S)エナンチオマーが大半を占める(S)および(R)エナンチオマーの混合物を含むかのいずれかである。
【0064】
本発明はまた、少なくとも75%がSエナンチオマー形態の2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールまたはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを含む組成物を提供する。
【0065】
「組成物」なる語は、本明細書では組成物(composition of matter)を指し、2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールのみから成る組成物と追加成分を含む組成物とを包含する。本発明によれば、組成物中に存在する全ての2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの少なくとも75%がSエナンチオマー形態でなければならない。この組成物は、本明細書では便宜上「本発明の組成物」または「本明細書で定義される組成物」または「上記組成物」と言及される場合がある。
【0066】
所与の組成物中に存在する両方のエナンチオマー形態の2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの合計量に対するこの組成物中に存在する(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの量は「鏡像異性体純度」として表現される場合がある。例えば、組成物中に存在する2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノール全体の75%がSエナンチオマー形態であれば、鏡像異性体純度は75%である。
【0067】
好ましくは、(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または99.5%の鏡像異性体純度を有する。
【0068】
好ましい実施形態では2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの98%より多くがSエナンチオマーの形態である。
【0069】
別の実施形態では2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの少なくとも99.9%がSエナンチオマーの形態である。
【0070】
好ましくは(R)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは実質的に組成物中に存在しない。本願で用いられる「(R)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは実質的に組成物中に存在しない」なる語は、Rエナンチオマーが本明細書に記載の分析方法を使用しても検出することができないことを意味する。
【0071】
一実施形態では、上記組成物は(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールまたはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物である。
【0072】
別の実施形態では、上記組成物は実質的に純粋な形態(すなわち不純物は0.5%未満、より好ましくは0.1%未満、最も好ましくは0.01%未満で含まれる)の(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールまたはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを含む。
【0073】
好ましい実施形態では、上記組成物中には0.2重量%を超える量に対応する量の不純物は1種も存在せず、好ましくは0.1重量%以下である。
【0074】
別の実施形態では、不純物が特定されている場合、この不純物は0.5%を超える、または0.4%を超える、または0.3%を超える、または0.2%を超える、または0.1%を超える、または0.05%を超える、または0.01%を超える量では組成物中に存在しないことが好ましい。
【0075】
(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは下記式(I)により表わされ、本明細書では「式(I)の化合物」または「Sエナンチオマー」と呼ばれ得る。
【化3】

【0076】
(R)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは、便宜上本明細書では「Rエナンチオマー」と呼ばれ得る。
【0077】
本明細書では「R」および「S」なる語は、カーン(Cahn)、インゴールド(Ingold)およびプレログ(Prelog)により開発された「RおよびS」命名法を指す。「アドバンスドオーガニックケミストリー(Advanced Organic Chemistry)」、ジェリーマーチ(Jerry March)、第4版、ジョンワイリー&サンズ、ニューヨーク、1992年、109〜114ページ、およびカーン、インゴールド&プレログ(Cahn、 Ingold & Prelog)、「アンゲヴァンテケミーインターナショナルエディション・イン・イングリッシュ(Angew. Chem. Int. Ed. Engl.)」、1966年、5、385〜415を参照されたい。
【0078】
本発明の組成物は、例えば下記のキラルクロマトグラフィーを用いて2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの(S)および(R)エナンチオマーの混合物を部分的にまたは完全に分割することにより調製することができる。
【0079】
(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノール(すなわち、式(I)の化合物)は、プロテインキナーゼB(PKB)および/またはプロテインキナーゼA(PKA)の阻害または修飾活性を有し、したがってPKBおよび/またはPKAにより仲介される病態または症状の予防あるいは治療において有用である。
【0080】
別の態様では、本発明は、式(I)の化合物(すなわち(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノール)またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを実質的に純粋な形態(すなわち、不純物を0.5%未満、好ましくは0.1%未満、最も好ましくは0.01%未満含む)で提供する。
【0081】
一実施形態では、上記化合物はN−オキシド以外であり、遊離塩基またはその塩、溶媒和物もしくは互変異性体から選ばれる。
【0082】
別の実施形態では、式(I)の化合物またはその互変異性体は遊離塩基の形態である。
【0083】
さらなる実施形態では、式(I)の化合物またはその互変異性体は塩の形態である。本発明によって調製される一種の特定の塩は、塩酸で形成される塩である。
【0084】
さらなる態様では、発明は以下のものを提供する。
【0085】
・プロテインキナーゼBにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療で用いるための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0086】
・プロテインキナーゼBにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0087】
・プロテインキナーゼBにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを投与することを含む方法。
【0088】
・哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療に用いる、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0089】
・哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0090】
・哺乳類における異常な細胞増殖からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療方法であって、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを、異常な細胞増殖または細胞死の異常な停止を阻害するのに有効な量で上記哺乳類に投与することを含む方法。
【0091】
・哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは減少方法であって、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを、異常な細胞増殖を阻害するのに有効な量で上記哺乳類に投与することを含む方法。
【0092】
・哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療方法であって、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを、プロテインキナーゼBの活性を阻害するのに有効な量で上記哺乳類に投与することを含む方法。
【0093】
・プロテインキナーゼBの阻害に用いるための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0094】
・プロテインキナーゼBの阻害方法であって、当該キナーゼを本明細書で定義されるキナーゼ阻害性の組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドに接触させることを含む方法。
【0095】
・プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAの活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾に用いるための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0096】
・プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAの活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0097】
・本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを用いてプロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAの活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾方法。
【0098】
・プロテインキナーゼAにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療で用いるための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0099】
・プロテインキナーゼAにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0100】
・プロテインキナーゼAにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを投与することを含む方法。
【0101】
・哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療方法であって、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを、プロテインキナーゼAの活性を阻害するのに有効な量で上記哺乳類に投与することを含む方法。
【0102】
・プロテインキナーゼAの阻害のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0103】
・プロテインキナーゼAの阻害方法であって、当該キナーゼを本明細書で定義されるキナーゼ阻害性の組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドに接触させることを含む方法。
【0104】
・本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを用いてプロテインキナーゼAの活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾方法。
【0105】
・異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる病態または症状の予防あるいは治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0106】
・本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドと薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【0107】
・医薬に用いるための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0108】
・本明細書で開示される病態もしくは症状のいずれか1種の予防または治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0109】
・本明細書で開示される病態もしくは症状のいずれか1種の治療または予防方法であって、患者(例えば、その必要のある患者)に本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを(例えば、治療上有効な量で)投与することを含む方法。
【0110】
・本明細書に開示される病態または症状の罹患率の緩和あるいは減少方法であって、患者(例えば、その必要のある患者)に本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを(例えば、治療上有効な量で)投与することを含む方法。
【0111】
・(i)患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある疾病または症状がプロテインキナーゼB対して活性を有する化合物による治療に感受性があるものかどうかを判定すべく患者をスクリーニングすること、および(ii)患者の疾病または症状がそのような感受性を有することが示された場合に、その後、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを上記患者に投与することを含む、プロテインキナーゼBにより仲介される病態または症状の診断あるいは治療方法。
【0112】
・スクリーニングされ、プロテインキナーゼBに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0113】
・スクリーニングされ、プロテインキナーゼBに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防で用いるための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0114】
・(i)患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある疾病または症状がプロテインキナーゼA対して活性を有する化合物による治療に感受性があるものかどうかを判定すべく患者をスクリーニングすること、および(ii)患者の疾病または症状がそのような感受性を有することが示された場合に、その後、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを上記患者に投与することを含む、プロテインキナーゼAにより仲介される病態または症状の診断あるいは治療方法。
【0115】
・スクリーニングされ、プロテインキナーゼAに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防で用いるための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0116】
・スクリーニングされ、プロテインキナーゼAに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0117】
・プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAのモジュレーター(例えば、阻害剤)として用いるための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0118】
・プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAの修飾(例えば、阻害)用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0119】
・プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAの修飾(例えば、阻害)方法であって、当該プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAを(例えば、細胞環境で、例えば、インビボで)本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドに接触させることを含む方法。
【0120】
・(a)ROCKキナーゼの修飾(例えば、阻害)が示される疾病または症状の治療または予防;ならびに/あるいは(b)ROCKキナーゼの修飾(例えば、阻害)が示される被験者または患者集団の治療に用いる、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0121】
・(a)ROCKキナーゼの修飾(例えば、阻害)が示される疾病または症状の治療または予防;ならびに/あるいは(b)ROCKキナーゼの修飾(例えば、阻害)が示される被験者または患者集団の治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0122】
・ROCKキナーゼにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを投与することを含む方法。
【0123】
・哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療方法であって、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを、ROCKキナーゼの活性を阻害するのに有効な量で上記哺乳類に投与することを含む方法。
【0124】
・ROCKキナーゼに本明細書で定義されるキナーゼ阻害性の組成物または化合物を接触させることを含む、ROCKキナーゼの阻害方法。
【0125】
・本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを用いてROCKキナーゼの活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾方法。
【0126】
・ROCKキナーゼにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療で用いるための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0127】
・ROCKキナーゼにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0128】
・ROCKキナーゼにより仲介される異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる病態または症状の予防あるいは治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0129】
・ROCKキナーゼにより仲介される哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは減少方法であって、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを、異常な細胞増殖を阻害するのに有効な量で上記哺乳類に投与することを含む方法。
【0130】
・本明細書で開示される病態もしくは症状のいずれか1種の予防または治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0131】
・本明細書で開示される病態もしくは症状のいずれか1種の治療または予防方法であって、患者(例えば、その必要のある患者)に本明細書で定義される組成物または式(I)の化合物を(例えば、治療上有効な量で)投与することを含む方法。
【0132】
・本明細書で開示される病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減方法であって、患者(例えば、その必要のある患者)に本明細書で定義される組成物または式(I)の化合物を(例えば、治療上有効な量で)投与することを含む方法。
【0133】
・(i)患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある疾病または症状がROCKキナーゼ対して活性を有する化合物による治療に感受性があるものかどうかを判定すべく患者をスクリーニングすること、および(ii)患者の疾病または症状がそのような感受性を有することが示された場合に、その後、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを上記患者に投与することを含む、ROCKキナーゼにより仲介される病態または症状の診断あるいは治療方法。
【0134】
・スクリーニングされ、ROCKキナーゼに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0135】
・(a)プロテインキナーゼp70S6Kの修飾(例えば、阻害)が示される疾病または症状の治療または予防;ならびに/あるいは(b)プロテインキナーゼp70S6Kの修飾(例えば、阻害)が示される被験者または患者集団の治療に用いる、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0136】
・(a)プロテインキナーゼp70S6Kの修飾(例えば、阻害)が示される疾病または症状の治療または予防;ならびに/あるいは(b)プロテインキナーゼp70S6Kの修飾(例えば、阻害)が示される被験者または患者集団の治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0137】
・プロテインキナーゼp70S6Kにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを投与することを含む方法。
【0138】
・哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療方法であって、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを、プロテインキナーゼp70S6Kの活性を阻害するのに有効な量で上記哺乳類に投与することを含む方法。
【0139】
・プロテインキナーゼp70S6Kの阻害方法であって、当該キナーゼを本明細書で定義されるキナーゼ阻害性の組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドに接触させることを含む方法。
【0140】
・本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを用いてプロテインキナーゼp70S6Kの活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾方法。
【0141】
・プロテインキナーゼp70S6Kにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療で用いるための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【0142】
・プロテインキナーゼp70S6Kにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0143】
・プロテインキナーゼp70S6Kにより仲介される異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる病態または症状の予防あるいは治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0144】
・プロテインキナーゼp70S6Kにより仲介される哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは減少方法であって、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを、異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止を阻害するのに有効な量で上記哺乳類に投与することを含む方法。
【0145】
・本明細書で開示される病態もしくは症状のいずれか1種の予防または治療用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0146】
・本明細書で開示される病態または症状のいずれか1種の治療または予防方法であって、患者(例えば、その必要のある患者)に本明細書で定義される組成物または式(I)の化合物を(例えば、治療上有効な量で)投与することを含む方法。
【0147】
・本明細書で開示される病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減方法であって、患者(例えば、その必要のある患者)に本明細書で定義される組成物または式(I)の化合物を(例えば、治療上有効な量で)投与することを含む方法。
【0148】
・(i)患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある疾病または症状がプロテインキナーゼp70S6K対して活性を有する化合物による治療に感受性があるものかどうかを判定すべく患者をスクリーニングすること、および(ii)患者の疾病または症状がそのような感受性を有することが示された場合に、その後、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを上記患者に投与することを含む、プロテインキナーゼp70S6Kにより仲介される病態または症状の診断あるいは治療方法。
【0149】
・スクリーニングされ、プロテインキナーゼp70S6Kに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防用薬剤の製造のための、本明細書で定義される組成物あるいは式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドの使用。
【0150】
本発明はまた、下記請求項に開示されるさらなる組合せ、使用、方法、化合物、および工程を提供する。
【発明の具体的説明】
【0151】
本明細書では、「修飾」なる語は、キナーゼの活性に対して適用される場合、プロテインキナーゼの生物学的活性のレベルの変化を明確にすることを意図している。したがって、修飾は、関連するプロテインキナーゼ活性の増加または減少をもたらす生理学的変化を包含する。後者の場合では、修飾は「阻害」として記載されてもよい。修飾は、直接的または間接的に生じてもよく、任意のメカニズムによりならびに任意の生理的なレベルで仲介されてもよい。例えば、遺伝子発現のレベル(例えば、転写、翻訳および/または翻訳後修飾を含む)、キナーゼ活性のレベルに直接的または間接的に作用する調節要素をコードする遺伝子発現のレベルが挙げられる。したがって、修飾は、転写効果による遺伝子増幅(すなわち複数の遺伝子コピー)および/または増加した発現もしくは減少した発現を含むキナーゼの増加した発現/抑制された発現または過剰発現もしくは低発現に加えて、変異による((脱)活性化を含む)プロテインキナーゼの過剰活性(または低活性)および(脱)活性化を意味し得る。「修飾された」、「修飾している」および「修飾する」なる語は適宜解釈されるべきである。
【0152】
本明細書では、例えば、本明細書で記載される(および、例えば、様々な生理的な過程、疾病、状態、症状、処置、治療あるいは介入に対して適用される)ような、キナーゼと共に使用される、「仲介される」なる語は、この用語が適用される様々な過程、疾病、状態、症状、治療および介入はキナーゼが生物学的役割を果たすものであるように、制限的に働くことを意図するものである。この用語が、疾病、状態または症状に対して適用される場合において、キナーゼにより果たされる生物学的役割は、直接的または間接的であってもよく、疾病、状態または症状の病徴の発現(またはその病因または進行)のために、必要および/または十分であってもよい。したがって、キナーゼ活性(特に異常なレベルのキナーゼ活性、例えば、キナーゼ過剰発現)は、必ずしも疾病、状態または症状の近因である必要がなく、むしろ上記キナーゼに仲介される疾病、状態または症状は、問題となるキナーゼが部分的にのみ関わる、多元的な病因および複雑な進行を有するものを含んでいると理解される。この用語が、治療、予防または介入に対して適用される場合において、上記キナーゼにより果たされる役割は直接的または間接的であってもよく、あるいは、治療、予防または介入の転帰の操作のために必要および/または十分であってもよい。したがって、キナーゼが仲介する病態または症状は、ある特定の抗癌剤あるいは治療に対する耐性の発生を含む。
【0153】
本明細書では、「ROCKキナーゼ」および「ROCK」なる語は、ROCKキナーゼファミリーの全メンバーを包含する同意語的な総称であり、したがって属内の種としてROCK1およびROCK2の両方を含む。とりわけ、ROCKキナーゼ阻害剤、ROCKキナーゼ調節およびROCKキナーゼ活性への言及はしたがって適宜解釈されるべきである。
【0154】
「Rhoタンパク質」なる語は、RhoAとRhoCを含む、アクチン構築の調節に関与するGTP結合タンパク質の大きなファミリーの定義に使用される専門用語である。
【0155】
本明細書では、「Rhoシグナル伝達経路」なる語は、Rhoタンパク質の1種以上のメンバーが関与するあらゆる細胞シグナル経路を規定する。本発明に特に関連するのは、ROCKキナーゼ(例えば、ROCK1および/またはROCK2)が1種以上のRhoタンパク質に対して近接のエフェクター(例えば、結合パートナー)であるRhoシグナル経路であり、そのようなRhoシグナル経路は、とりわけRhoシグナル経路を引用して規定された本発明の実施形態において好ましい。
【0156】
本明細書では、「修飾」なる語は、本明細書に記載されるROCKに対して適用される場合、ROCKの生物学的活性のレベルの変化を明確にすることを意図している。したがって、修飾はROCK活性の増加または減少をもたらす生理学的変化を包含する。後者の場合では、修飾は「阻害」として記載されてもよい。修飾は、直接的または間接的に生じてもよく、任意のメカニズムによりならびに任意の生理的なレベルで仲介されてもよい。例えば、遺伝子発現のレベル(例えば、転写、翻訳および/または翻訳後修飾を含む)、ROCK活性のレベルに直接的または間接的に作用する調節要素をコードする遺伝子発現のレベル、酵素(例えば、ROCK)活性(例えば、アロステリック機構、競争阻害、活性部位不活性化、フィードバック抑制経路の摂動など)のレベルが挙げられる。したがって、修飾は、転写効果による遺伝子増幅(すなわち複数の遺伝子コピー)および/または増加した発現もしくは減少した発現を含むROCKの増加した発現/抑制された発現または過剰発現もしくは低発現に加えて、変異による((脱)活性化を含む)ROCKの過剰活性(または低活性)および(脱)活性化を意味し得る。「修飾された」および「修飾する」なる語は適宜解釈されるべきである。
【0157】
本明細書では、本明細書で記載される(および、例えば、様々な生理的な過程、疾病、状態、症状、処置、治療あるいは介入に対して適用される)ような、ROCKと共に使用される、「仲介される」なる語は、この用語が適用される様々な過程、疾病、状態、症状、治療および介入はROCKが生物学的役割を果たすものであるように、制限的に働くことを意図するものである。この用語が、疾病、状態または症状に対して適用される場合において、ROCKにより果たされる役割は、直接的または間接的であってもよく、疾病、状態または症状の病徴の発現(またはその病因または進行)に、必要および/または十分であってもよい。したがって、ROCK活性(特に異常なレベルのROCK活性、例えば、ROCK過剰発現)は、必ずしも疾病、状態または症状の近因である必要がなく、むしろキナーゼに仲介される疾病、状態または症状は、ROCKが部分的にのみ関わる、多元的な病因および複雑な進行を有するものを含んでいると理解される。この用語が、治療、予防または介入(例えば、本発明の「ROCKが仲介する治療」および「ROCKが仲介する予防」において)に対して適用される場合において、ROCKにより果たされる役割は直接的または間接的であってもよく、あるいは、治療、予防または介入の転帰の操作に必要および/または十分であってもよい。本発明のROCKが仲介する多くの生理的プロセス、疾病、状態、症状、治癒、治療または介入には、(本明細書に定義される)Rhoシグナル経路が関与しており、したがって、拡大解釈すれば「Rhoが仲介する」生理的プロセス、疾病、状態、症状、治癒、治療または介入と呼ばれ得る。
【0158】
「示された」なる語は、疾病、症状、被験者または患者集団に関して本明細書で使用される専門用語であり、その疾病、症状、被験者または患者集団に関して特定の介入の臨床的な望ましさまたは必要性を意味する。したがって、本明細書での「ROCKキナーゼの修飾(例えば、阻害)が示される」疾病、症状、被験者または患者集団に対する言及は、ROCKキナーゼの修飾が臨床的に望ましいかまたは必要である疾病などを明確にすることを意図している。これは、例えば、ROCKキナーゼの修飾が、緩和的、予防的、または(少なくとも部分的に)治療的である場合である可能性がある。
【0159】
本明細書では、「修飾」なる語は、本明細書に記載されるプロテインキナーゼP70S6Kに対して適用される場合、P70S6Kの生物学的活性のレベルの変化を明確にすることを意図している。したがって、修飾は、P70S6K活性の増加または減少をもたらす生理学的変化を包含する。後者の場合では、修飾は「阻害」として記載されてもよい。修飾は、直接的または間接的に生じてもよく、任意のメカニズムによりならびに任意の生理的なレベルで仲介されてもよい。例えば、遺伝子発現のレベル(例えば、転写、翻訳および/または翻訳後修飾を含む)、P70S6K活性のレベルに直接的または間接的に作用する調節要素をコードする遺伝子発現のレベル、酵素(例えば、P70S6K)活性(例えば、アロステリック機構、競争阻害、活性部位不活性化、フィードバック抑制経路の摂動など)のレベルが挙げられる。したがって、修飾は、転写効果による遺伝子増幅(すなわち複数の遺伝子コピー)および/または増加した発現もしくは減少した発現を含むP70S6Kの増加した発現/抑制された発現または過剰発現もしくは低発現に加えて、変異による((脱)活性化を含む)P70S6Kの過剰活性(または低活性)および(脱)活性化を意味し得る。「修飾された」および「修飾する」なる語は適宜解釈されるべきである。
【0160】
本明細書では、本明細書に記載される(および、例えば、様々な生理的な過程、疾病、状態、症状、処置、治療あるいは介入に対して適用される)ような、P70S6Kと共に使用される、「仲介される」なる語は、この用語が適用される様々な過程、疾病、状態、症状、治療および介入はP70S6Kが生物学的役割を果たすものであるように、制限的に働くことを意図するものである。この用語が、疾病、状態または症状に対して適用される場合において、P70S6Kにより果たされる役割は、直接的または間接的であってもよく、疾病、状態または症状の病徴の発現(またはその病因または進行)に、必要および/または十分であってもよい。したがって、P70S6K活性(特に異常なレベルのP70S6K活性、例えば、P70S6K過剰発現)は、必ずしも疾病、状態または症状の近因である必要がなく、むしろキナーゼに仲介される疾病、状態または症状は、P70S6Kが部分的にのみ関わる、多元的な病因および複雑な進行を有するものを含んでいると理解される。この用語が、治療、予防または介入(例えば、本発明の「P70S6Kが仲介する治療」および「P70S6Kが仲介する予防」において)に対して適用される場合において、P70S6Kにより果たされる役割は直接的または間接的であってもよく、あるいは、治療、予防または介入の転帰の操作のために必要および/または十分であってもよい。
【0161】
「介入」なる語は、任意のレベルで生理学的変化をもたらす任意の作用を規定するために本明細書において使用される専門用語である。したがって介入は、任意の生理的な過程、事象、生化学的経路または細胞の事象/生化学的事象の誘導または抑制を含み得る。本発明の介入は、典型的には、疾病または症状の療法、治療または予防をもたらす(またはそれらに寄与する)。
【0162】
文脈上他の意味に解す場合を除き、本明細書における(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノール、または式(I)の化合物またはSエナンチオマーに対する言及は、例えば下記に検討されているような、その遊離塩基に加え、イオン、塩、溶媒和物、N−オキシド、互変体異性体および保護形態を包含する。
【0163】
上記化合物はN−オキシド以外であってもよい。例えば、一実施形態では、式(I)の化合物はN−オキシド以外であり、かつ遊離塩基の形態である。
【0164】
別の実施形態では、式(I)の化合物はN−オキシド以外であり、かつ塩の形態である。
【0165】
塩の形態は、「医薬用塩:特性、選択および使用(Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use)」、ハインリヒスタール(P. Heinrich Stahl)(編者)、カミールワーマス(Camille G. Wermuth)(編者)、ISBN:3−90639−026−8、ハードカバー、388ページ、2002年8月に記載の方法に従って選択および製造されてもよい。例えば、所与の塩形態が不溶性または難溶性である有機溶媒に遊離塩基を溶解し、次いで必要な酸を適切な溶媒に添加して溶液から塩を析出させることで、酸付加塩を調製してもよい。
【0166】
酸付加塩は、無機および有機双方の様々な酸と形成されてもよい。酸付加塩の例としては、酢酸、2,2−ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸(例えば、L−アスコルビン酸)、L−アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4−アセトアミド安息香酸、ブタン酸、(+)ショウノウ酸、ショウノウ−スルホン酸、(+)−(1S)−ショウノウ−10−スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン−1,2−ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチシン酸、グルコヘプトン酸、D−グルコン酸、グルクロン酸(例えば、D−グルクロン酸)、グルタミン酸(例えば、L−グルタミン酸)、α−オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、イセチオン酸、乳酸(例えば、(+)−L−乳酸および(±)−DL−乳酸)、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、(−)−L−リンゴ酸、マロン酸、(±)−DL−マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸(例えば、ナフタレン−2−スルホン酸)、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロチン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、L−ピログルタミン酸、サリチル酸、4−アミノ−サリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、(+)−L−酒石酸、チオシアン酸、トルエンスルホン酸(例えば、p−トルエンスルホン酸)、ウンデシレン酸、および吉草酸からなる群から選ばれる酸で形成された塩、ならびにアシル化アミノ酸および陽イオン交換樹脂で形成された塩が挙げられる。
【0167】
酸付加塩の具体的な1グループは、塩酸、ヨウ化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、イセチオン酸、フマル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、吉草酸、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、マロン酸、グルクロン酸、およびラクトビオン酸で形成された塩を含む。このグループの塩の範囲内では、塩のサブセットは、塩酸または酢酸で形成された塩を含む。
【0168】
酸付加塩の別のグループは、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、クエン酸、DL−乳酸、フマル酸、グルコン酸、グルクロン酸、馬尿酸、塩酸、グルタミン酸、DL−リンゴ酸、メタンスルホン酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、および酒石酸から形成された塩を含む。
【0169】
式(I)の化合物は、塩が形成される酸のpKaに応じてモノ塩またはジ塩として存在し得る。より強い酸において、アミノ基中の窒素原子だけでなく塩基性であるピラゾールの窒素も塩生成に関与してもよい。例えば、酸のpKaが約3未満である場合(例えば、塩酸、硫酸、またはトリフルオロ酢酸などの酸の場合)、式(I)の化合物は、典型的には2モル当量の酸と塩を形成する。
【0170】
式(I)の化合物の塩形態は、典型的には薬学上許容される塩であり、薬学上許容される塩の例は、ベルジュ(Berge)ら、1977年、「薬学的許容塩(Pharmaceutically Acceptable Salts)」、ジャーナル・オブ・ファーマシューティカルサイエンス(J. Pharm. Sci.)、第66巻、1〜19ページで検討されている。しかしながら、薬学上許容されない塩も中間体として調製してから、薬学上許容される塩へ変換してもよい。このような薬学上許容されない塩形態も、例えば、式(I)の化合物の精製または分離に際して有用なことがあり、本発明の一部分を形成する。
【0171】
式(I)の化合物はまたN−オキシドを形成してもよく、このようなN−オキシドは式(I)の化合物の定義の範囲内である。
【0172】
ある一般的な実施形態では、式(I)の化合物はN−オキシドではない。
【0173】
N−オキシドは過酸化水素または過酸(例えば、ペルオキシカルボン酸)などの酸化剤で親アミンを処理することにより形成できる、例えば、「アドバンスドオーガニックケミストリー(Advanced Organic Chemistry)」、ジェリーマーチ(Jerry March)、第4版、ワイリーインターサイエンス(Wiley Interscience)、ページを参照されたい。より具体的にはN−オキシドは、デディー(L.W. Deady)(「シンセティックコミュニケーションズ(Syn. Comm.)」、1977年、7、509〜514)の方法により調製することができ、この方法ではアミン化合物を、例えば、ジクロロメタンなどの不活性溶媒中でm−クロロペルオキシ安息香酸(MCPBA)と反応させる。
【0174】
式(I)の化合物は、キラルクロマトグラフィー(キラル担体上のクロマトグラフィー)などの適切な分離技術を用いてSエナンチオマーおよびRエナンチオマーのラセミ混合物から調製することができる。このような技術は当業者に周知である。
【0175】
キラルクロマトグラフィーの代わりに、(+)−酒石酸、(−)−ピログルタミン酸、(−)−ジ−トルオイル−L−酒石酸、(+)−マンデル酸、(−)−リンゴ酸、および(−)−ショウノウスルホン酸などのキラル酸でジアステレオアイソマー塩を形成し、優先的結晶化によりジアステレオアイソマーを分離し、次いで塩を解離させて、遊離塩基の個々のエナンチオマーを得ることによって、上記エナンチオマーを分離することができる。
【0176】
式(I)の化合物は、1個以上の同位体置換を有するバリアント(variants)を包含し、特定の元素に対する言及はその範囲内にその元素の全ての同位体を含む。例えば、水素に対する言及はその範囲内にH、H(D)およびH(T)を含む。同様に、炭素および酸素に対する言及はそれらの範囲内にそれぞれ12C、13Cおよび14Cならびに16Oおよび18Oを含む。
【0177】
これらの同位体は放射性であっても非放射性であってもよい。本発明の一実施態様では上記化合物は放射性同位体を含まない。このような化合物は治療用として好ましい。しかしながら、別の実施態様では、化合物は1個以上の放射性同位体を含んでもよい。このような放射性同位体を含む化合物は診断の場合に有用であり得る。
【0178】
また、式(I)には、化合物の任意の多形相、溶媒和物(例えば、水和物)、化合物の錯体(例えば、シクロデキストリンなどの化合物との包接錯体または包接化合物、あるいは金属との錯体)、および化合物のプロドラッグが含まれる。「プロドラッグ」とは、例えば、生物活性を有する本明細書で定義される組成物に生体内で変換される任意の化合物を意味する。
【0179】
例えば、いくつかのプロドラッグは、活性化合物のエステル(例えば、生理学的に許容される代謝上不安定なエステル)である。代謝の際、エステル基(−C(=O)OR)は開裂して活性薬物となる。このようなエステルは、例えば、親化合物におけるいずれかの水酸基(−C(=O)OH)のエステル化により形成でき、適宜、親化合物中に存在する他のいずれの反応基を予め保護し、その後、必要に応じて脱保護する。
【0180】
このような代謝上不安定なエステルの例としては、式−C(=O)ORのものが挙げられ、ここで、Rは:
1−7アルキル
(例えば、−Me、−Et、−nPr、−iPr、−nBu、−sBu、−iBu、−tBu);
1−7アミノアルキル
(例えば、アミノエチル、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル、2−(4−モルホリノ)エチル);および
アシルオキシ−C1−7アルキル
(例えば、アシルオキシメチル;
アシルオキシエチル;
ピバロイルオキシメチル;
アセトキシメチル;
1−アセトキシエチル;
1−(1−メトキシ−1−メチル)エチル−カルボニルオキシエチル;
1−(ベンゾイルオキシ)エチル;イソプロポキシ−カルボニルオキシメチル;
1−イソプロポキシ−カルボニルオキシエチル;シクロヘキシル−カルボニルオキシメチル;
1−シクロヘキシル−カルボニルオキシエチル;
シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシメチル;
1−シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシエチル;
(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシメチル;
1−(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシエチル;
(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシメチル;および
1−(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシエチル)である。
【0181】
また、一部のプロドラッグは酵素的に活性化されて活性化合物を生じ、またある化合物はさらなる化学反応により活性化合物を生じる(例えば、抗体指向性酵素プロドラッグ療法(ADEPT)、遺伝子指向性酵素プロドラッグ療法(GDEPT)、ポリマー指向性酵素プロドラッグ療法(PDEPT)、リガンド指向性酵素プロドラッグ療法(LIDEPT)などの場合)。例えば、プロドラッグは糖誘導体または他のグリコシド複合体でもよく、またはアミノ酸エステル誘導体でもよい。
【0182】
合成方法
式(I)の化合物およびそのRエナンチオマーおよびその混合物は、スキーム1に示される方法により調製することができる。
【0183】
スキーム1では、置換ベンゾフェノン(10)は、ジメチルスルホキシド中で塩基(例えば、水素化ナトリウムなどの水素化物塩基)の存在下でヨウ化トリメチルスルホニウムとの反応によりエポキシド(11)に変換される。次いでこのエポキシド(11)をメタノールなどのアルコール溶媒中でアンモニアと反応させて(典型的には加熱して)、RエナンチオマーおよびSエナンチオマーのラセミ混合物としてアミン(12)が得られる。このアミン(12)をパラジウム触媒(例えば、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0))の存在下でスズキカップリング条件下でボロン酸ピラゾール(例えば、4−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−1H−ピラゾール)と直接反応させて、ラセミ化合物(15)を得ることができる。しかしながら、保護されていないアミンをスズキカップリング条件下で反応させると生成物の収率が比較的低く、またこの生成物はその低溶解性のため精製が比較的難しいことがわかっている。この問題は、まずアミノ基を(例えば、Boc基で、したがってPG=Boc)保護し、保護中間体(13)を得、次いで中間体(13)をスズキカップリングに供して、保護化合物(14)を得ることで克服される。次いでこの保護化合物(14)を周知の方法(例えば、PG=Bocの場合エーテル/メタノール中でHClを用いて)により脱保護し、ラセミ混合物として生成物(15)が得られる。
【化4】

スキーム1
【0184】
このラセミ混合物(15)は、当業者に周知の方法(例えば、キラルクロマトグラフィー法および本明細書に記載の他の方法を用いて)により分割することができる。
【0185】
別の態様では、本発明は式(15)の化合物の調製方法を提供し、この方法は化合物(14)の化合物から保護基PGを除去すること、その後必要に応じて化合物(15)の光学異性体を分離することおよびそのSエナンチオマーを単離することを含む。本発明はまた、上記の方法により調製可能な化合物と、この方法により調製される式(15)の化合物とを提供する。
【0186】
さらなる態様では、本発明は式(15)の化合物の調製方法を提供し、この方法は(i)式(13)の化合物をパラジウム触媒(例えば、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0))の存在下でスズキカップリング条件下で式(16)のピラゾール誘導体と反応させ:
【化5】

(式中、XはB(OH)またはボロン酸エステル基(例えば、4−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル基である。)式(14)の化合物を得ること;(ii)化合物(14)の化合物から保護基PGを除去すること;ならびに(iii)その後必要に応じて化合物(15)の光学異性体を分離することおよびそのSエナンチオマーを単離することを含む。
【0187】
式(13)の中間体(特に、式中PGがBoc基である)は本発明のさらなる態様を成す。
【0188】
PGが2−カルボキシ−ベンゾイル基以外である式(14)の新規な中間体もまた本発明のさらなる態様を形成する。好ましい中間体(14)はPGがBoc基である化合物である。
【0189】
上述されそしてスキーム1に示された方法に代えて、式(I)の化合物は、WO2005/061463(アステックス社)の実施例84に記載の方法に従い、次いで上記および本明細書の他の個所に記載の分離方法を用いてSエナンチオマーを単離することにより調製することができる。
【0190】
中間体化合物(12)を調製するための改良された方法をスキーム2に示す。
【化6】

スキーム2
【0191】
スキーム2では、置換ベンゾフェノン(10)は、水素化ナトリウム塩基をカリウムtert−ブトキシドに代えた以外は上記スキーム1に記載のようにジメチルスルホキシド中で塩基の存在下でヨウ化トリメチルスルホニウムとの反応によりエポキシド(11)に変換される。カリウムtert−ブトキシドは、急速に撹拌されたベンゾフェノン(10)とヨウ化トリメチルスルホニウムとの混合物に典型的には室温で加えられる。水素化ナトリウムではなくカリウムtert−ブトキシドを塩基として使用することには著しい利点がある。第1に、塩基として水素化ナトリウムが用いられる場合のように、DMSOとの塩基の反応によりdimsylアニオンを形成しその後にその他の反応物を加えるのではなく、tert−ブトキシドをベンゾフェノン(10)とヨウ化トリメチルスルホニウムとジメチルスルホキシドとの前もって形成された混合物に加えることができる。これは、dimsylアニオンは形成された後に非常に迅速に消費され、よって任意の時点において反応混合物中にはdimsylアニオンは小量しか存在しないことを意味する。したがってカリウムtert−ブトキシドの使用は、比較的粘性でやや有害な高濃度のdimsylナトリウムの形成を回避する。方法の安全性を改善することに加え、高濃度の粘性のdimsylナトリウムが存在しないということは、反応混合物を撹拌するのがはるかに容易であり、これは反応物のより効率的な混合を可能にし、未反応または反応が不完全な物質による局所領域(localised pockets)を回避することができることを意味し、これは反応時に形成されるtert−ブタノールが反応物および生成物に対する良溶媒であるという事実により裏付けられた利点である。これらの利点は反応を大規模(例えば、50グラム以上の量のエポキシド(11)を調製すること)で行なった場合は特に顕著であり、その場合カリウムtert−ブトキシドの使用がエポキシド(11)の収率および純度を実質的にに向上させることが分かっている(塩基として水素化ナトリウムを用いた反応と比較して)。
【0192】
スキーム1に示される一連の反応では、エポキシド(11)をメタノールなどのアルコール溶媒中で加熱しながらアンモニアと反応させてアミン(12)を得る。この種の反応はマイクロ波反応器中で典型的には加圧下で行なわれてもよく、比較的小規模反応時にの高収率および高純度になる。
【0193】
しかしながら、より大規模反応(例えば、50グラム以上の量のアミン(12)を製造するための)に関しては、エポキシド(11)をアジ化ナトリウムと反応させ、その後アジド中間体(17)をアミン(12)に還元させるとより高収率およびより高純度になることが分かった。アジ化ナトリウムとのエポキシド(11)の反応は、典型的には極性溶媒(例えば、水とアセトンなどの水混和性溶媒とを含む水性溶媒)中で行なわれる。この反応は通常、例えば、溶剤系の還流温度まで加熱して行なわれる。
【0194】
アジドアルコール(17)のアミノアルコール(12)への変換は、トリフェニルホスフィンとの反応に続き、酸性水溶液および特に置換スルホン酸、好ましくは、アルキルスルホン酸またはアリールスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、またはカンフルスルホン酸)の水溶液で処理することにより達成されてもよい。4−トルエンスルホン酸の使用が特に好ましい。いずれの理論にも拘束されることを望まないが、この反応は、まずアジリジンへ環化し、続いて上記酸の存在下で開環して進行し、アミノアルコールが得られると考えられる。酸(特に4−トルエンスルホン酸)の使用によりアミノアルコールは安定した扱いやすい塩として単離でき容易に精製できる。カンフルスルホン酸(例えば、d−カンフルスルホン酸)の光学活性形態が使用される場合、塩の分別結晶化を行ない、アミノアルコール(12)の2種類のエナンチオマーの個々の塩を分離することができる。次いで塩基で塩を処理してアミノアルコール(12)の個々のエナンチオマーが得られる。
【0195】
アジド化合物(17)、アミノアルコール(12)およびその個々のエナンチオマー、ならびにアミノアルコール(12)の酸付加塩およびそのエナンチオマーは、新規なものと考えられ、よって本発明のさらなる態様を成す。
【0196】
したがって一実施形態では、本発明は本明細書で定義される2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−ヨード−フェニル]−エタノールおよびその酸付加塩を提供する。
【0197】
別の実施形態では、本発明は本明細書で定義される(R)2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−ヨード−フェニル]−エタノールおよびその酸付加塩を提供する。
【0198】
さらなる実施形態では、本発明は本明細書で定義される(S)2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−ヨード−フェニル]−エタノールおよびその酸付加塩を提供する。
【0199】
上記3つの実施形態のそれぞれにおいて、好ましい酸付加塩は、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、またはカンフルスルホン酸(例えば、d−カンフルスルホン酸)で形成された塩である。特に好ましい塩は4−トルエンスルホン酸で形成された塩である。
【0200】
合成中間体として有用であることに加え、式(12)の化合物およびその酸付加塩はキナーゼPKBに対する活性を有し、よって治療および特に式(I)の化合物に関して本明細書で記載された使用(例えば、癌に対する使用)に有用であるはずである。本明細書で定義される式(12)の化合物またはその酸付加塩と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物、ならびに式(12)の化合物またはその酸付加塩の治療上の使用は、本発明のさらなる態様を成す。
【0201】
別の態様では、本発明は、式(12)の化合物の光学活性形態の調製方法を提供し、この方法は式(12)の化合物の酸付加塩を分別結晶化することを含み、ここでこの塩は光学活性酸(例えばd−カンフルスルホン酸)に由来する。
【0202】
別の態様では、本発明は、本明細書で定義される式(12)の化合物の調製方法を提供し、この方法は式(17)の化合物をテトラヒドロフランなどの極性非プロトン性溶媒中で室温より高い温度(例えば、溶媒の還流温度)でトリフェニルホスフィンなどの第三級ホスフィンと反応させ、続いて酸性水溶液(例えば、4−トルエンスルホン酸などの置換スルホン酸)で処理することを含む。
【0203】
トリフェニルホスフィンに代わるものとして他の第三級ホスフィンが使用されてもよく、これにはトリトリルホスフィンなどの他のトリアリールホスフィン、トリブチルホスフィンなどのトリアルキルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどのトリシクロアルキルホスフィン、ならびにアリールおよび/またはアルキルおよび/またはシクロアルキル基の混合物を含む第三級ホスフィンが挙げられる。しかしながら、トリフェニルホスフィンが好ましい。
【0204】
4−トルエンスルホン酸に代わるものとして他の置換スルホン酸が使用されてもよい。例えば、上記のメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびカンフルスルホン酸などのアルキルおよびアリールスルホン酸が挙げられる。
【0205】
別の態様では、本発明は式(17)の化合物の調製方法を提供し、この方法は式(11)のエポキシド化合物を、極性溶媒(例えば、アセトン水溶液などの水性有機溶媒)中で、好ましくは加熱して(例えば、溶媒の還流温度まで)アルカリ金属アジ化物(例えば、アジ化ナトリウム)またはアジ化トリメチルシリル(TMS−アジド)と反応させることを含む。
【0206】
さらなる態様では、本発明は式(12)の化合物の調製方法を提供し、この方法は次の工程を含む。
(a)本明細書で定義される式(11)の化合物をアルカリ金属アジ化物(例えば、アジ化ナトリウム)またはアジ化トリメチルシリルと反応させて、式(17)の化合物を形成する工程、および
(b)式(17)の化合物を(i)トリフェニルホスフィンなどの第三級ホスフィンと反応させ、続いて(ii)置換スルホン酸、好ましくはアルキルまたはアリールスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸またはトルエンスルホン酸、そして最も好ましくは4−トルエンスルホン酸)などの酸と反応させる工程。
【0207】
アジ化物の使用を伴う上記各方法において、アルカリ金属アジ化物(例えば、アジ化リチウム、アジ化カリウムおよびアジ化ナトリウム)が好ましく、アジ化ナトリウムが最も好ましい。
【0208】
別の態様では、本発明は式(15)の化合物、すなわち2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの調製方法を提供し、この方法は以下を含む。
(1)本明細書で規定される方法により式(12)の化合物を調製すること、
(2)本明細書で規定される方法により式(12)の化合物のアミノ基を保護して式(13)の化合物を得ること、
(3)式(13)の化合物をパラジウム触媒(例えば、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0))の存在下でスズキカップリング条件下で本明細書で定義される式(16)のピラゾール誘導体と反応させて式(14)の化合物を得ること、
(4)式(14)の化合物から保護基PGを除去すること、およびその後必要に応じて
(5)化合物(15)の光学異性体を分離しそのSエナンチオマーを単離すること。
【0209】
医薬製剤
式(I)の化合物は単独で投与することもできるが、本発明の組成物は、式(I)の化合物と、1種以上の薬学上許容される担体、アジュバント、賦形剤、希釈剤、フィラー、緩衝剤、安定剤、保存剤、滑沢剤、または当業者に周知の他の物質と、場合により他の治療剤または予防剤とを含有する医薬組成物(例えば、製剤)であるのが好ましい。
【0210】
したがって本発明はさらに、上記で定義される医薬組成物ならびに、本明細書で定義される1種以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、緩衝剤、アジュバント、安定剤、または他の物質と共に式(I)の化合物を混合することを含む医薬組成物の製造方法を提供する。
【0211】
本明細書において「薬学上許容される」なる語は、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なく、被験体(例えば、ヒト)の組織との接触に用いるのに好適であり、妥当な利益/リスク比で釣り合いがとれた化合物、物質、組成物および/または投与形態を意味する。担体、賦形剤などの各々はまた、その製剤の他の成分と適合するという点で「許容される」ものでなければならない。
【0212】
本明細書で定義する組成物を含有する医薬組成物は、公知の技術にしたがって処方することができる。例えば、「レミントンの薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、マック(Mack)出版社、イーストン、ペンシルベニア州、米国を参照されたい。
【0213】
したがってさらなる態様では、本発明は本明細書で定義される組成物を医薬組成物の形態で提供する。
【0214】
上記医薬組成物は、経口投与、非経口投与、局所投与、鼻腔内投与、点眼投与、点耳投与、直腸投与、膣内投与または経皮投与に好適ないずれの形態であってもよい。上記組成物が非経口投与を意図したものである場合、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与用に処方することもできるし、あるいは注射、点滴または他の送達手段により標的臓器または組織に直接送達するために処方することもできる。送達はボーラス注射、短時間点滴または長時間点滴によるものとすることもでき、また、受動的送達であっても、または好適な点滴ポンプの利用を介したものでもよい。
【0215】
非経口投与に適した医薬製剤としては、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、共溶媒、有機溶媒混合物、シクロデキストリン複合体形成剤、乳化剤(エマルジョン製剤を形成および安定化するため)、リポソーム形成のためのリポソーム成分、高分子ゲルを形成するためのゲル化可能なポリマー、凍結乾燥保護剤、ならびにとりわけ有効成分を可溶形態で安定化させるためおよび製剤を意図するレシピエントの血液と等張にするための薬剤の組合せを含有していてもよい水性および非水性無菌注射液が挙げられる。非経口投与用医薬製剤はまた、懸濁化剤および増粘剤を含み得る水性および非水性無菌懸濁剤の形態をとってもよい(ストライクリー(R.G. Strickly)、「経口および注射製剤における賦形剤の溶解(Solubilizing Excipients in oral and injectable formulations)」、ファーマシューティカルリサーチ(Pharmaceutical Research)、第21巻2号、2004年、201〜230ページ)。
【0216】
リポソームは外側の脂質二重膜および内側の水性核からなる、閉じられた球状小胞であり、全体の直径が100μm未満である。疎水性の程度に応じて、中程度の疎水性薬剤であれば薬剤をリポソーム内に封入またはインターカレーションした場合にリポソームにより可溶化させることができる。疎水性薬剤はまた薬剤分子を脂質二重膜の一体部分とした場合にもリポソームにより可溶化させることができ、この場合、この疎水性薬剤は脂質二重膜の脂質部分に溶解される。
【0217】
上記製剤は単回用量容器または複数用量容器、例えば、密閉アンプルおよびバイアルで提供することもできるし、使用直前に無菌液体担体、例えば、注射水を加えるだけのフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することもできる。
【0218】
上記医薬製剤は式(I)の化合物を凍結乾燥させることにより製造することができる。凍結乾燥とは、組成物をフリーズドライする手順をさす。よって、本明細書においてフリーズドライと凍結乾燥は同義語として用いられる。
【0219】
即時調合注射溶液および懸濁液は無菌粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。
【0220】
非経口注射剤用の本発明の医薬組成物はまた、薬学的に許容される無菌の水性または非水性溶液、分散液、懸濁液または乳液、加えて使用直前に無菌注射溶液または分散液へ再構成される無菌粉末を含む。適切な水性および非水性の担体、希釈剤、溶媒あるいは賦形剤の例としては、水、エタノール、多価アルコール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの適当な混合物、植物油(オリーブオイルなど)、ならびにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどの被覆剤の使用、分散液の場合は必要とされる粒径の維持、および界面活性剤の使用により維持することができる。
【0221】
本発明の組成物はまた、防腐剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などのアジュバントを含んでいてもよい。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗黴剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含有することにより確保されてもよい。糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を含有することも望ましい可能性がある。注射可能な剤型での持続的吸収は、吸収を遅らせる薬剤(モノステアリン酸アルミニウムやゼラチンなどの)の含有によりもたらされてもよい。
【0222】
本発明の好ましい一実施形態では上記医薬組成物は、例えば、注射または点滴による静注投与に適切な形態である。静脈内投与には、上記溶液はそのまま投与でき、また投与前に(0.9%生理食塩水または5%デキストロースのような薬学的に許容される賦形剤を含む)輸液バッグに注入することもできる。
【0223】
別の好ましい実施形態では、上記医薬組成物は皮下(s.c.)投与に好適な形態である。
【0224】
経口投与に好適な医薬投与形としては、錠剤、カプセル剤、カプレット剤、丸剤、トローチ剤、シロップ剤、液剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤および懸濁剤、舌下錠、ウエハー剤またはパッチ剤ならびにバッカルパッチ剤が挙げられる。
【0225】
したがって、錠剤組成物は、単位用量の活性化合物を、不活性希釈剤または担体、例えば、糖または糖アルコール(ラクトース、スクロース、ソルビトールまたはマンニトールなど)、および/または非糖由来希釈剤(炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムまたはセルロースもしくはその誘導体、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびデンプン(コーンスターチなど)など)とともに含有することができる。錠剤はまた、標準的な成分、例えば、結合剤および造粒剤、例えば、ポリビニルピロリドン、崩壊剤(例えば、架橋カルボキシメチルセルロースなどの膨潤性架橋ポリマー)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸塩)、保存剤(例えば、パラベン)、酸化防止剤(例えば、BHT)、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液)、および発泡剤(例えば、クエン酸塩/重炭酸塩混合物)を含有してもよい。このような賦形剤は公知であり、ここでは詳細に記載する必要はない。
【0226】
カプセル製剤は、硬質ゼラチン種であっても軟質ゼラチン種であってもよく、固体、半固体または液体状の有効成分を含有することができる。ゼラチンカプセルは、動物ゼラチンまたはその合成もしくは植物由来の均等物から形成することができる。
【0227】
固形投与形態(例えば、錠剤、カプセル剤など)はコーティングを施しても施さなくともよいが、典型的には、例えば、保護フィルムコーティング(例えば、ワックスまたはワニス)または放出制御コーティングを有する。当該コーティング(例えば、オイドラギット(Eudragit)(登録商標)型ポリマー)は、胃腸管内の所望の位置で有効成分が放出されるように設計することができる。したがって、コーティングは胃腸管内の特定のpH条件下で分解するように選択することができ、これにより選択的に胃または回腸もしくは十二指腸で化合物を放出する。
【0228】
コーティングの代わりにまたはコーティングに加えて、放出制御剤、例えば、胃腸管において酸性度またはアルカリ性度が変化する条件下で化合物を選択的に放出するようにすることができる放出遅延剤を含んでなる固体マトリックス中に薬剤を提供してもよい。あるいは、マトリックス材料または放出遅延コーティングは、投与形態が胃腸管を通過するにつれて実質的に連続的に崩壊する崩壊性ポリマー(例えば、無水マレイン酸ポリマー)の形態をとることができる。さらなる別法としては、活性化合物を、化合物の放出の浸透圧制御をもたらす送達系に処方することもできる。浸透圧放出性および他の遅延放出性または徐放性製剤は当業者に周知の方法にしたがって製造することができる。
【0229】
上記医薬組成物は、活性成分を約1%から約95%まで、好ましくは約20%から約90%含む。本発明による医薬組成物は、例えば、アンプル、バイアル、坐剤、糖衣錠、錠剤またはカプセル形態などの単位用量形態であってもよい。
【0230】
経口投与用医薬組成物は、有効成分と固体担体とを組み合わせ、所望であれば得られた混合物を粒状にし、所望または必要であれば適当な賦形剤の添加後、混合物を錠剤、糖衣錠コアまたはカプセルへ加工することにより得られる。また、当該経口投与用医薬組成物を、一定量の有効成分を拡散させたり放出させたりする可塑性の担体に組み入れることも可能である。
【0231】
本発明の組成物は固形分散物としてもまた製剤化することができる。固形分散物は2種以上の固形物の均質な非常に細かい分散相である。固体分散体の1種である固溶体(分子的分散システム)は製剤工学における使用のために周知であり(チオウ(Chiou)およびリーゲルマン(Riegelman)、「ジャーナル・オブ・ファーマシューティカルサイエンス(J. Pharm. Sci.)」、60、1281〜1300(1971年)を参照)、溶解速度の増加および低水溶性薬剤の生体利用率の増加において有用である。
【0232】
本発明は、上記の固溶体を含む固形投薬形態もまた提供する。固形投薬形態は、錠剤、カプセル剤およびチュアブルタイプの錠剤を包含する。公知の賦形剤は、所望される投薬形態を提供するために固溶体に混ぜ合わせることができる。例えば、カプセル剤は、(a)崩壊剤および潤滑剤、または(b)崩壊剤、潤滑剤および界面活性剤に混合された固溶体を含有することができる。錠剤は、少なくとも1つの崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤および流動促進剤に混合された固溶体を含有することができる。チュアブルタイプの錠剤は、充填剤、潤滑剤、および所望であれば追加の甘味剤(人工甘味剤のような)、ならびに適切な香料と混合された固溶体を含有することができる。
【0233】
上記医薬製剤は単一のパッケージ、通常はブリスターパック中に全治療過程用の薬剤を含んだ「患者パック」として患者に提供することができる。患者パックは、調剤師がバルク供給から患者分の医薬を分配する従来の処方箋調剤に優る利点があり、患者は患者パックに入っている、通常患者の処方箋調剤には見ることがない添付文書をいつでも見ることができる。添付文書を包含しておけば、患者が医師の指示をよりよく遵守することが分かっている。
【0234】
局所使用のための組成物としては、軟膏、クリーム、スプレー、パッチ、ゲル、液滴および挿入物(例えば、眼内挿入物)が挙げられる。このような組成物は、公知の方法に従って処方することができる。
【0235】
直腸投与または膣内投与用の製剤の例としては、ペッサリーおよび坐剤が挙げられ、これらは、例えば、活性化合物を含有する付形成形材またはワックス材から形成することができる。
【0236】
吸入投与用組成物は、吸入可能な粉末組成物または液状もしくは粉末スプレーの形態をとってもよく、粉末吸入装置またはエアゾールディスペンシング装置を用いた標準的な形態で投与することができる。このような装置は公知のものである。吸入投与用の粉末製剤は、典型的には活性化合物をラクトースなどの不活性固体粉末希釈剤とともに含む。
【0237】
上記組成物は一般的には単位投与形態で提供され、それ自体、所望の生物学的活性レベルを付与するのに十分な化合物を典型的に含んでいる。例えば、製剤は1ナノグラム〜2グラムの活性成分、例えば、1ナノグラム〜2ミリグラムの活性成分を含んでいてもよい。この範囲内での化合物の特定の部分範囲としては、0.1ミリグラム〜2グラムの活性成分(より通常は、10ミリグラム〜1グラム、例えば、50ミリグラム〜500ミリグラム)、または1マイクログラム〜20ミリグラム(例えば、1マイクログラム〜10ミリグラム、例えば、0.1ミリグラム〜2ミリグラムの活性成分)である。
【0238】
経口投与に関しては、単位投与形態は1ミリグラム〜2グラム、より典型的には10ミリグラム〜1グラム、例えば、50ミリグラム〜1グラム、例えば、100ミリグラム〜1グラムの活性化合物を含んでいてもよい。
【0239】
活性化合物は、投与を必要とする患者(例えば、ヒトまたは動物患者)に、所望の治療効果を達成するのに十分な量で投与されることとなる。
【0240】
プロテインキナーゼ阻害活性
プロテインキナーゼAおよびプロテインキナーゼBの阻害剤としての式(I)の化合物の活性は、下記実施例において説明されるアッセイを使用して測定することができ、ある化合物によって示される活性レベルはIC50値によって規定することができる。
【0241】
治療上の使用
増殖障害の予防または治療
式(I)の化合物は、プロテインキナーゼAおよびプロテインキナーゼBの阻害剤である。よって上記化合物は新生物の増殖を防ぐまたは新生物に細胞死を招く手段の提供において有用となる。したがって上記化合物は、癌などの増殖性疾患の治療または阻害において有用であることがわかるであろう。特に、PTENにおける欠失もしくは不活性化変異、またはPTEN発現の喪失、または(T細胞リンパ球)TCL−1遺伝子中のリアレンジメントをともなう腫瘍は、PKB阻害剤に対して特に感受性がある可能性がある。アップレギュレートされたPKB経路のシグナルをもたらす他の異常を有する腫瘍もまた、PKBの阻害剤に対して特に感受性がある可能性がある。このような異常の具体例としては、1種以上のPI3Kサブユニットの過剰発現、1種以上のPKBアイソフォームの過剰発現、または問題になっている酵素の基礎活性の増加をもたらすPI3K、PDK1もしくはPKBにおける変異、あるいは表皮増殖因子受容体(EGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF−1R)および血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)ファミリーから選ばれる増殖因子などの増殖因子受容体のアップレギュレーションまたは過剰発現または変異による活性化が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0242】
本発明の化合物はまた、例えば、ウイルス感染などの増殖または生存における異常に起因する他の症状ならびに神経変性疾患の治療においてもまた有用となる。PKBは、免疫反応の間の免疫細胞の生存の維持において重要な役割を果たし、したがってPKB阻害剤は自己免疫の症状を含む免疫疾患において特に有用でありえる。
【0243】
したがってPKB阻害剤は、増殖、細胞死または分化に障害がある疾病の治療において有用でありえる。
【0244】
PKB阻害剤はまた、インシュリン抵抗性および非感受性に起因する疾病、ならびに代謝疾患および肥満のようなグルコース、エネルギーおよび脂肪貯蔵の混乱に起因する疾病において有用である可能性がある。
【0245】
阻害される可能性のある癌の例としては、癌腫、例えば、膀胱癌、乳癌、結腸癌(例えば、結腸腺癌および結腸腺腫などの結腸直腸癌)、腎癌、表皮癌、肝癌、肺癌、例えば、腺癌、小細胞肺癌および非小細胞肺癌、食道癌、胆嚢癌、卵巣癌、膵臓癌、例えば、膵外分泌癌、胃癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、甲状腺癌、前立腺癌、または皮膚癌、例えば、扁平上皮癌;リンパ系の造血系腫瘍、例えば、白血病、急性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、毛様細胞性リンパ腫またはバーケットリンパ腫;骨髄系の造血系腫瘍、例えば、急性および慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群または前骨髄球性白血病;脊髄増殖性症候群;甲状腺瀘胞癌;間葉由来の腫瘍、例えば、線維肉腫または横紋筋肉腫;中枢神経系または末梢神経系の腫瘍、例えば、星状細胞腫、神経芽細胞腫、グリオーマまたは神経鞘腫;メラノーマ;精上皮腫;奇形腫;骨肉腫;色素性乾皮症、角化棘細胞腫、甲状腺瀘胞癌;またはカポジ肉腫が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0246】
したがって異常な細胞増殖を含む疾病または症状の治療のための本発明の医薬組成物、使用または方法において、一実施形態における異常な細胞増殖を含む疾病または症状は癌である。
【0247】
癌の特定のサブセットは、乳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、食道癌、扁平上皮癌および非小細胞肺癌を含む。
【0248】
癌のさらなるサブセットは、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、子宮内膜癌およびグリオーマを含む。
【0249】
本発明の組成物はまた他の抗癌剤と併用可能である。このような組み合わせの具体例は以下に記載される。
【0250】
免疫障害
本発明の組成物が有益である可能性のある免疫障害としては、自己免疫症状および慢性炎症性疾患、例えば、全身性紅斑性狼瘡、自己免疫性糸球体腎炎、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、自己免疫性糖尿病、湿疹過敏性反応、喘息、COPD、鼻炎および上気道疾患が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0251】
他の治療上の使用
PKBは細胞死、増殖、分化において役割を果たし、したがって式(I)の化合物は、癌以外の下記の疾病および免疫機能不全に関連するものの治療にも有用になり得る;ウイルス感染、例えば、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、エプスタイン−バーウイルス、シンドビスウイルス、アデノウイルス、HIV、HPV、HCVおよびHCMV;HIVに感染した個体におけるAIDS発症の予防;心疾患、例えば、心臓肥大、再狭窄、アテローム性動脈硬化;神経変性障害、例えば、アルツハイマー病、エイズ関連認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、色素性網膜炎、脊髄性筋萎縮症、小脳変性症;糸球体腎炎;骨髄異形成症候群、虚血性障害に関連する心筋梗塞、卒中および再潅流障害、筋骨格系の変成疾患、例えば、骨粗鬆症および関節炎、アスピリン感受性副鼻腔炎、嚢胞性繊維症、多発性硬化症、腎臓病。
【0252】
ROCKキナーゼ阻害活性に関連するかまたは起因する使用
式(I)の化合物はROCKキナーゼの活性を修飾(例えば、阻害)する。したがって当該化合物は下記のものに適用される。(a)ROCKキナーゼの修飾(例えば、阻害)が示される疾病または症状の治療または予防、および/または(b)ROCKキナーゼの修飾(例えば、阻害)が示される被験者または患者集団の治療、および/または(c)Rhoシグナル伝達経路の修飾(例えば、阻害)が示される疾病または症状の治療または予防、および/または(d)Rhoシグナル伝達経路の修飾(例えば、阻害)が示される被験者または患者集団の治療。
【0253】
したがって本発明は下記のものから選ばれる疾病および症状に関して適用される。(a)腫瘍転移、(b)腫瘍浸潤、(c)腫瘍進展、(d)腫瘍接着(例えば、腫瘍細胞接着)、(e)アクチノマイシン収縮依存性腫瘍転移、浸潤または進展、(f)細胞形質転換、(g)ROCKが仲介する腫瘍転移、浸潤、進展または接着、(h)ROCKが仲介するアクチノマイシン収縮依存性腫瘍転移、浸潤または進展、(i)ROCKが仲介する細胞形質転換。
【0254】
本発明はまた、特に癌(例えば、ROCKが仲介する癌である)が(a)精巣性胚細胞腫瘍、(b)転移能を有する小乳癌、(c)膀胱癌、(d)卵巣癌、(e)前立腺癌および(f)肝細胞癌から選ばれる癌に関して適用される。
【0255】
他の適用症および症状としては、本明細書に定義されるいずれの癌の浸潤、転移および腫瘍進展が挙げられる。
【0256】
本発明はまた、心疾患または心血管病態、特に(a)高血圧、(b)心臓機能障害(例えば、慢性および鬱血性心不全)、(c)心臓肥大、(d)再狭窄、(e)腎機能障害(例えば、慢性腎不全)、(f)アテローム性動脈硬化症(動脈硬化症)、(g)心保護、(h)同種移植片生着、(i)脳虚血、(j)冠攣縮性狭心症、および(k)血管炎症から選ばれるものに関して適用される。
【0257】
他の適用症および症状としては、例えば、(a)喘息、(b)陰茎勃起障害、(c)女性性機能障害、(d)過活動膀胱I症候群、および(e)異常平滑筋(例えば、高血圧と関連する)から選ばれる筋肉(例えば、平滑筋)機能障害が挙げられる。
【0258】
他の適用症および症状としては、例えば、炎症が(a)関節リウマチ、(b)過敏性腸症候群、(c)炎症性腸疾患、(d)血管炎症、および(e)神経炎症性疾病または症状を含むかその兆候を示す炎症が挙げられる。
【0259】
神経炎症性疾患または症状に関連する実施形態において、これらは(a)脳卒中、(b)多発性硬化症、(c)アルツハイマー病、(d)パーキンソン病、(e)筋萎縮性側索硬化症、および(f)炎症性疼痛から選択されてもよい。
【0260】
他の適用症および症状としては、(a)脊髄損傷または傷害、(b)脳外傷または傷害、(c)急性ニューロン損傷(例えば、卒中または外傷性脳損傷)、(d)パーキンソン病、(e)アルツハイマー病、(f)神経組織変成状態または神経組織変成病、(g)卒中(例えば、高血圧に関連する)、(h)脳血管痙攣、(i)神経突起成長および発芽の阻害、(j)軸索再生阻害、(k)傷害後の機能回復不全、(l)脱髄症または異常、(m)炎症性CNS疾患または障害、(n)神経障害性疼痛、および(o)神経変性から選ばれるものを含むCNS疾患または症状が挙げられる。
【0261】
他の適用されるCNS疾患または症状としては、ダウン症候群及びβアミロイド血管症、例えば、これらに限定されないが、脳アミロイド血管症、遺伝性脳出血、認知機能不全に関連する障害、例えば、これらに限定されないが、MCI(「軽度認知機能不全」)、アルツハイマー病、記憶喪失、アルツハイマー病に関連する注意欠陥症状、アルツハイマー病もしくは血管性と変性性起源の混合型の痴呆、初老期痴呆、老年痴呆及びパーキンソン病関連痴呆を含む痴呆のような疾患に関連する神経変性、進行性核上麻痺または皮質基底核変性、パーキンソン病、前頭側頭型痴呆パーキンソン型、グアムパーキンソン痴呆複合症、HIV痴呆、神経原線維変化病理を伴う疾患、ボクサー痴呆、筋萎縮性側索硬化症、大脳皮質基底核変性症、ダウン症候群、ハンチントン病、脳炎後パーキンソニズム、進行性核上麻痺、ピック病、ニーマン−ピック病、卒中、頭部外傷及び他の慢性神経変性疾患、双極性障害、情動障害、うつ病、不安、統合失調症、認知障害、脱毛症、避妊薬服用、前痴呆状態、加齢関連記憶障害、加齢関連認知低下、痴呆ではない認知機能不全、軽度認知低下、軽度神経認知低下、老年期健忘症、記憶障害および認知機能不全、血管性痴呆、レヴィー小体型痴呆、前頭側頭型痴呆ならびに男性型脱毛症から選ばれるものがあげられる。
【0262】
さらに他の適用症および症状としては、(a)インシュリン抵抗性、(b)グラフト保護(例えば、心臓血管または炎症性グラフト保護)、(c)糖尿病、(d)喘息、(e)肺血管収縮、(f)緑内障、および(g)繊維症(例えば、肝臓線維症および腎臓線維症)が挙げられる。
【0263】
他の適用症および症状としては、後生動物、原生動物、菌類、プリオン、ウイルスまたはバクテリア性の侵入、疾病あるいは感染を含む感染症または症状が挙げられる。
【0264】
そのような実施形態において、感染症または感染状態は病原体が仲介する細胞骨格再構成を含んでもよい。
【0265】
増殖性疾患(癌を含む):本発明はまた、新生物の増殖を防ぐまたは新生物に細胞死を招く手段として適用される。したがって、本発明は、癌など増殖性疾患の治療または予防に有用であることがわかるであろうことが予想される。そのような異常の例としては、これらに限定されるものではないが、1種以上のRhoシグナル伝達経路メンバーの過剰発現、またはROCKキナーゼまたはRhoシグナル伝達経路の定常活性の増加をもたらす当該メンバーにおける変異(これは、例えば、表皮増殖因子受容体(EGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF−1R)および血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)ファミリーから選ばれる増殖因子などの増殖因子受容体のアップレギュレーション、過剰発現または変異性活性化に関連する可能性がある)が挙げられる。
【0266】
本発明は、例えば、ウイルス感染などの増殖または生存における異常に起因する他の症状ならびに神経変性疾患の治療において有用となることが予想される。
【0267】
本発明はしたがって、増殖、細胞死または分化に障害がある疾病の治療に広く適用される。
【0268】
阻害される可能性のある癌の例としては、これら限定されるものではないが、癌腫、例えば、膀胱癌、乳癌、結腸癌(例えば、結腸腺癌および結腸腺腫のような結腸直腸癌)、腎癌、表皮癌、肝癌、肺癌、例えば、腺癌、小細胞肺癌および非小細胞肺癌、食道癌、胆嚢癌、卵巣癌、膵臓癌、例えば、膵外分泌癌、胃癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、甲状腺癌、前立腺癌、または皮膚癌、例えば、扁平上皮癌;リンパ系の造血系腫瘍、例えば、白血病、急性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、毛様細胞性リンパ腫またはバーケットリンパ腫;骨髄系の造血系腫瘍、例えば、急性および慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群または前骨髄球性白血病;甲状腺瀘胞癌;間葉由来の腫瘍、例えば、線維肉腫または横紋筋肉種;中枢または末梢神経系の腫瘍、例えば、星状細胞腫、神経芽細胞腫、グリオーマまたは神経鞘腫;メラノーマ;精上皮腫;奇形腫;骨肉腫;色素性乾皮症;角化棘細胞腫;甲状腺瀘胞癌;またはカポジ肉腫が挙げられる。
【0269】
リンパ球系列の造血系腫瘍のさらなる例としては多発性骨髄腫がある。
【0270】
癌の具体的なサブセットとしては、乳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、食道癌、扁平上皮癌、および非小細胞肺癌腫が挙げられる。癌の別のサブセットとしては、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、子宮内膜癌、および神経膠腫がある。
【0271】
増殖性疾患の別の例としては脊髄増殖性症候群がある。
【0272】
免疫障害:本発明が有益となり可能性のある免疫障害としては、これらに限定されるものではないが、自己免疫症状および慢性炎症疾患、例えば、全身性エリテマトーデス、自己免疫性糸球体腎炎、リウマチ様関節炎、乾癬、炎症性腸疾患および自己免疫性真性糖尿病、湿疹過敏性反応、喘息、COPD、鼻炎、および上部気道疾患が挙げられる。
【0273】
他の治療用途:ROCKが仲介する生理的プロセスは、アポトーシス、増殖、分化において役割を果たし、したがって本発明は癌以外の下記の疾病および免疫機能不全に関連するものの治療にも有用になり得る;ウイルス感染、例えば、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、エプスタイン−バールウイルス、シンドビスウイルス、アデノウイルス、HIV、HPV、HCV、およびHCMV;HIV感染個体におけるエイズ発症の予防;心疾患、例えば、心肥大、再狭窄、アテローム性動脈硬化症;神経変性障害、例えば、アルツハイマー病、エイズ関連痴呆、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、色素性網膜炎、棘筋萎縮および小脳変性;糸球体腎炎;骨髄異形成症候群、虚血性損傷関連心筋梗塞、卒中および再灌流損傷、筋骨格系の変性疾患、例えば、骨粗鬆症および関節炎、アスピリン感受性副鼻腔炎、嚢胞性線維症、多発性硬化症、腎臓疾患。
【0274】
本発明はまた、インシュリン抵抗性および不感受性、ならびにグルコース、エネルギーおよび脂肪蓄積の崩壊(代謝病および肥満など)に由来する疾病に有用である可能性がある。
【0275】
本発明はROCKが仲介するいかなる種類の介入、治療または予防も包含する。本発明はしたがって、(a)ROCKキナーゼの修飾(例えば、阻害)、または(b)ROCKキナーゼの活性レベルでの介入、または(c)Rhoシグナル伝達経路レベルでの(例えば、RhoAおよび/またはRhoCレベルでの)介入を含む治療または予防に関連して適用される。
【0276】
他の適用可能な方法としては、(a)筋肉(例えば、平滑筋)弛緩、(b)血管筋弛緩(例えば、血管の血流を高めるため)、(c)神経細胞調節、(d)細胞増殖の減少、(e)細胞移動の減少、(f)病原浸潤または感染時の細胞骨格再構成の抑制、(g)組織再生の加速、および(h)傷害後の機能回復の増強をもたらす介入が挙げられる。
【0277】
このような実施形態において、神経細胞修飾は、(a)神経再生、(b)新規軸索成長誘導、(c)CNS内の病変にわたる軸索の再構成、(d)神経突起伸長、(e)神経突起分化、(f)軸索経路探索、(g)樹状突起棘形成、(h)樹状突起棘維持、(i)神経突起成長円錐崩壊の修飾、および(j)神経突起伸長阻害の修飾を含む可能性がある。
【0278】
他の適用可能な治療としては、移植療法(例えば、グラフト保護を含む)が挙げられる。
【0279】
さらに他の適用可能な方法としては、病態または症状の診断および治療方法が挙げられ、この方法は、(i)患者が罹患している、または罹患している可能性のある疾病または症状がROCKキナーゼに対して活性を有する化合物による治療に感受性があるものかどうかを判定すべく患者をスクリーニングすること、および(ii)患者の疾病または症状が感受性を有することが示された場合に、その後、患者に本発明の化合物を投与することを含む。
【0280】
被験者または患者集団は、(a)ROCKキナーゼが機能不全(例えば、過活性)のもの、および(b)ROCK機能不全(例えば、ROCK活性亢進)の診断テストの対象になったもの、(c)Rhoシグナル伝達経路が機能不全のもの、および(d)Rhoシグナル伝達経路機能不全の診断テストの対象になったものから選ばれてもよい。
【0281】
p70S6Kキナーゼ阻害活性に関連するかまたは起因する使用
式(I)の化合物は、プロテインキナーゼp70S6Kの活性を修飾(例えば、阻害)する。当該化合物はしたがって(a)プロテインキナーゼp70S6Kの修飾(例えば、阻害)が示される疾病または症状の治療または予防、ならびに/あるいは(b)プロテインキナーゼp70S6Kの修飾(例えば、阻害)が示される被験者または患者集団の治療に適用される。
【0282】
本発明はしたがって、(a)癌(例えば、p70S6Kが仲介する癌)、(b)腫瘍転移、(c)免疫機能不全、(d)組織損傷(例えば、炎症から生じる)、(e)染色体17q23増幅(またはこれから生じるかまたはこれに関連する症状)、(f)ポイツイエーガー症候群(またはこれから生じるかまたはこれに関連する症状)、(g)LKB1変異(またはこれから生じるかまたはこれに関連する症状)、(h)BRCA1変異(またはこれから生じるかまたはこれに関連する症状)、(i)BRCA2変異(またはこれから生じるかまたはこれに関連する症状)、(j)機能不全性アポトーシス性プログラム、(k)腫瘍組織における増殖因子受容体のシグナル伝達、過剰発現および活性化、(l)代謝病または代謝異常、(m)異常細胞増殖および/または代謝に関連したもの、ならびに(n)神経細胞疾患から選ばれる症状に関連して適用される。
【0283】
このような実施形態において、染色体17q23増幅から生じるかまたはこれに関連する疾病または症状は、(a)原発性乳房腫瘍、(b)BRCA2変異を含む腫瘍(例えば、乳房腫瘍)、(c)BRCA1変異を含む腫瘍(例えば、乳房腫瘍)、(d)膵臓腫瘍、(e)膀胱腫瘍、および(f)神経芽細胞腫から選ばれてもよい。
【0284】
LKB1変異から生じるかまたはこれに関連する疾病または症状は、LKB1変異(例えば、不活性化LKB1変異)を含む肺腺癌であり得る。
【0285】
BRCA1/2変異からから生じるかまたはこれに関連する疾病または症状は乳癌であり得る。
【0286】
代謝病または代謝異常は、(a)肥満(例えば、加齢性肥満または食餌性肥満)、(b)糖尿病、(c)メタボリック症候群、(d)インシュリン抵抗性、(e)高血糖、(f)高アミノ酸血症、および(g)高脂血症から選ばれ得る。
【0287】
増殖性疾患(癌を含む):本発明はまた、新生物の増殖を防ぐまたは新生物に細胞死を招く手段として適用される。したがって、本発明は、癌など増殖性疾患の治療または予防に有用であることが証明されることが予想される。このような異常の例としては、これらに限定されるものではないが、p70S6Kの過剰発現(または、本明細書に記載の他の症候群)。
【0288】
本発明は、例えば、ウイルス感染などの増殖または生存における異常に起因する他の症状ならびに神経変性疾患の治療においてもまた有用となることも予想される。
【0289】
本発明はしたがって、増殖、細胞死または分化の異常がある疾病の治療に広く適用される。
【0290】
阻害される可能性のある癌の例としては、これらに限定されるものではないが、癌腫、例えば、膀胱癌、乳癌、結腸癌(例えば、結腸腺癌および結腸腺腫などの結腸直腸癌)、腎癌、表皮癌、肝癌、肺癌、例えば、腺癌、小細胞肺癌および非小細胞肺癌、食道癌、胆嚢癌、卵巣癌、膵臓癌、例えば、膵外分泌癌、胃癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、甲状腺癌、前立腺癌、または皮膚癌、例えば、扁平上皮癌;リンパ系の造血系腫瘍、例えば、白血病、急性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、毛様細胞性リンパ腫またはバーケットリンパ腫;骨髄系の造血系腫瘍、例えば、急性および慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群または前骨髄球性白血病;甲状腺瀘胞癌;間充織起源の腫瘍、例えば、繊維肉腫または横紋筋肉腫;中枢神経系または末梢神経系の腫瘍、例えば、星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫または神経鞘腫;メラノーマ;精上皮腫;奇形腫;骨肉腫;色素性乾皮症;角化棘細胞腫;甲状腺瀘胞癌;またはカポジ肉腫が挙げられる。
【0291】
リンパ球系列の造血系腫瘍のさらなる例としては多発性骨髄腫がある。
【0292】
癌の具体的なサブセットとしては、乳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、食道癌、扁平上皮癌、および非小細胞肺癌腫が挙げられる。癌の別のサブセットとしては、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、子宮内膜癌、および神経膠腫がある。
【0293】
増殖性疾患の別の例としては脊髄増殖性症候群がある。
【0294】
免疫障害:本発明が有益である可能性のある免疫障害としては、これらに限定されるものではないが、自己免疫症状および慢性炎症疾患、例えば、全身性エリテマトーデス、自己免疫性糸球体腎炎、リウマチ様関節炎、乾癬、炎症性腸疾患および自己免疫性真性糖尿病、湿疹過敏性反応、喘息、COPD、鼻炎、および上部気道疾患が挙げられる。
【0295】
他の治療用途:p70S6Kが仲介する生理的プロセスは、アポトーシス、増殖、分化において役割を果たし、したがって本発明は癌以外の下記の疾病および免疫機能不全に関連するものの治療にも有用になり得る。ウイルス感染、例えば、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、エプスタイン−バールウイルス、シンドビスウイルス、アデノウイルス、HIV、HPV、HCV、およびHCMVの治療;HIV感染個体におけるエイズ発症の予防;心疾患、例えば、心肥大、再狭窄、アテローム性動脈硬化症;神経変性障害、例えば、アルツハイマー病、エイズ関連痴呆、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、色素性網膜炎、棘筋萎縮および小脳変性;糸球体腎炎;骨髄異形成症候群、虚血性損傷関連心筋梗塞、卒中および再灌流損傷、筋骨格系の変性疾患、例えば、骨粗鬆症および関節炎、アスピリン感受性副鼻腔炎、嚢胞性線維症、多発性硬化症、腎臓疾患。
【0296】
本発明はまた、インシュリン耐性および不感受性、ならびにグルコース、エネルギーおよび脂肪蓄積の崩壊(代謝病および肥満など)に由来する疾病に有用であり得る。
【0297】
本発明はp70S6Kが仲介するいかなるの種類の介入、治療または予防も包含する。本発明はしたがって(a)プロテインキナーゼp70S6Kの修飾(例えば、阻害)、(b)プロテインキナーゼp70S6Kの活性レベルでの介入、(b)生体内での細胞周期におけるG1期からS期への進行の阻害、(c)細胞周期のG1期からS期での細胞周期増殖の阻害、(d)ラパマイシン代用薬としての式(I)の化合物の使用、(e)ウォルトマンニン代用薬としての式(I)の化合物の使用、(f)適切なアポトーシス性プログラムの再構築、(g)腫瘍組織中での増殖因子受容体シグナル伝達、過剰発現および活性化の阻害、(h)神経細胞分化の修飾、(i)細胞運動の修飾、(j)細胞応答の修飾、および(k)インスリン感受性の増強を含む治療または予防に関して適用される。
【0298】
上記治療および予防はまた、病態または症状の診断および治療方法を含んでもよく、この方法は、(i)患者が罹患している、または罹患している可能性のある疾患または症状がプロテインキナーゼp70S6Kに対して活性を有する化合物による治療に感受性があるものかどうかを判定すべく患者をスクリーニングすること、および(ii)患者の疾患または症状が感受性を有することが示された場合に、その後、患者に本発明の化合物を投与することを含む。
【0299】
被験者または患者集団は、(a)プロテインキナーゼp70S6Kが機能不全(例えば、過活性)のもの、(b)p70S6K機能不全(例えば、p70S6K活性亢進)の診断テストの対象になったもの、(c)染色体17q23が増幅されているもの、そして(d)染色体17q23の増幅の診断テストの対象になったもの、(e)BRCA1変異を有するもの、(f)BRCA1変異の診断テストの対象になったもの、(g)BRCA2変異を有するもの、(h)BRCA2変異の診断テストの対象になったもの、(i)LKB1変異を有するもの、(j)LKB1変異の診断テストの対象になったもの、および(k)本明細書で規定されるようにスクリーニングされたものから選ばれ得る。
【0300】
発明の組成物の利点
本発明の組成物は経口投与に適した生理化学的特性を有する可能性がある。
【0301】
本明細書で定義される組成物は、従来の化合物と比較して向上した経口の生物学的利用能を示すはずである。経口の生物学的利用能は、静脈内(i.v.)経路で投与される場合の化合物の血漿暴露に対する、経口経路で投与される場合の化合物の血漿暴露の比(F)をパーセントで示したものとして規定することができる。
【0302】
経口での生物学的利用能(F値)が30%より大きい、より好ましくは40%より大きい組成物は非経口投与よりもむしろ(または非経口投与に加えて)経口投与されてもよいという点において特に有利である。
【0303】
さらに、式(I)の化合物は、様々なキナーゼに対する活性において、より優れた効力およびより広い選択性の両方を備え、特にPKBに対して増強された選択性および効力を示す。
【0304】
式(I)の化合物は、生体外および細胞内におけるPKB阻害ではそのRエナンチオマーよりも著しく強力である。生体外の放射測定アッセイにおける単離されたPKB酵素に対する式(I)の化合物のIC50は0.01μMであり、これに比べてRエナンチオマーは0.96μMである。この100倍近い効力の差もまたGSK3β(PKBの直接の下流の基質)のリン酸化を測定する細胞に基づく(cell-based)メカニスティックアッセイ(mechanistic assay)中で観察される。式(I)の化合物は1.1μMのIC50を示し、これに比べてRエナンチオマーの値は>50μMである。
【0305】
上記2種のエナンチオマー間でのさらなる違いは、密接に関連するキナーゼPKAに対するこれらの有効性にあり、ここで式(I)の化合物は0.03μMで単離された酵素を44%阻害するのに比べてRエナンチオマーは0.25μMでPKAを阻害する。
【0306】
式(I)の化合物は、P450酵素に対して異なる感受性を有すること、ならびに薬物代謝および薬物速度論的特性に関して向上した点を示すことにおいて従来の化合物に対して有利である。例えば、式(I)の化合物は、シトクロムP450酵素1A2、2C9、2C19、3A4および2D6のそれぞれに対して10μMではIC50値より大きい値を有する。
【0307】
さらに、式(I)の化合物では必要となる投与量が低減されるはずである。
【0308】
式(I)の化合物は従来の化合物よりも毒性が低い。
【0309】
hERG
1990年代末頃米国FDAによって認可された多くの医薬品が心機能不全による死亡に関係していることが見つかったため米国市場からの撤退を余儀なくされた。後に、これらの医薬品の副作用は、心臓細胞におけるhERGチャネルの遮断による不整脈の発生であることが分かった。hERGチャネルは、カリウムイオンチャネルファミリーの1つであり、その最初のメンバーは、1980年代末頃に、ショウジョウバエの一種であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の変異体で同定された(ジャン(Jan,L.Y.)およびジャン(Jan,Y.N.)(1990年)「イオンチャネルのスーパーファミリー(A Superfamily of Ion Channels)」、ネイチャー(Nature)、345(6277):672を参照されたい)。hERGカリウムイオンチャネルの生物物理特性は、サンギネッチ(Sanguinetti,M.C.)、ジャン(Jiang、C.)、クラン(Curran,M.E.)およびキーティング(Keating,M.T.)(1995年)「遺伝性心不整脈と後天性心不整脈との機構的関連:HERGはIkrカリウムチャネルをコードする(A Mechanistic Link Between an Inherited and an Acquired Cardiac Arrhythmia:HERG encodes the Ikr potassium channel)」、セル(Cell)、81:299〜307、ならびにトルードー(Trudeau,M.C.)、ウォームク(Warmke,J.W.)、ゲネツキー(Ganetzky,B.)、およびロバートソン(Robertson,G.A.)(1995年)「HERG、電位依存性カリウムチャネルファミリーにおけるヒトの内向き整流(HERG,a Human Inward Rectifier in the Voltage-Gated Potassium Channel Family)」、サイエンス(Science)、269:92〜95に記載されている。
【0310】
hERG遮断活性の除去は依然としてあらゆる新規な医薬品の開発における重要な懸案事項である。
【0311】
式(I)の化合物は無視できる程度のhERGイオンチャネル遮断活性を有する。
【0312】
治療方法
本明細書で定義される組成物は、プロテインキナーゼAおよび/もしくはプロテインキナーゼBおよび/もしくはROCKキナーゼおよび/もしくはp70S6Kキナーゼにより仲介される様々な病態または症状の予防あるいは治療において有用となる。このような病態および症状の例は上記の通りである。
【0313】
上記組成物は、一般的にそのような投与を必要とする被験者(例えば、ヒトまたは動物の患者、好ましくはヒト)に対して投与される。
【0314】
上記組成物は、治療上または予防上有用であり一般的に毒性のない量で典型的に投与されることになる。しかしながら、特定の状況において(例えば、生命を脅かす疾病の場合には)、本明細書で定義される組成物を投与する利点は、いかなる毒性効果または副作用の不利益に勝ることがあり、この場合には化合物を毒性を伴う量で投与することが望ましいと考えられる可能性がある。
【0315】
上記組成物は、有用な治療上の効果を維持するために長期間にわたって投与されてもよいし、または短期間のみ投与されてもよい。あるいは上記化合物はパルス的または連続的方法で投与されてもよい。
【0316】
典型的な式(I)の化合物の1日量は、体重1キログラムあたり100ピコグラム〜100ミリグラム、より典型的には体重1キログラムあたり5ナノグラム〜25ミリグラム、そしてより通常には体重1キログラムあたり10ナノグラム〜15ミリグラム(例えば、10ナノグラム〜10ミリグラム、およびより典型的には1キログラムあたり1マイクログラム〜1キログラムあたり20ミリグラム、例えば、1キログラムあたり1マイクログラム〜10ミリグラム)の範囲であり得るが、必要であればより高用量またはより低用量で投与されてもよい。本明細書で定義される組成物は、毎日、または、例えば、2日もしくは3日もしくは4日もしくは5日もしくは6日もしくは7日もしくは10日もしくは14日もしくは21日もしくは28日ごとに繰り返し投与することができる。
【0317】
式(I)の化合物は、広範囲にわたる用量(例えば、1〜1500mg、2〜800mg、または5〜500mg、例えば、2〜200mg、または10〜1000mg、用量の具体例としては10、20、50および80mgが挙げられる)で経口投与されてもよい。化合物は、毎日1回または1回以上投与されてもよい。化合物は、連続的に投与することができる(すなわち、治療レジメンの期間中、途切れずに毎日服用する)。あるいは、化合物は間欠的に投与することができる(すなわち治療レジメンの期間中、ある期間(例えば、1週間)連続的に服用し、次いである期間(例えば、1週間)中止し、次いで別の期間(例えば、1週間)連続的に服用するなど)。間欠投与を含む治療レジメンの例としては、1週間投与、1週間中止;または2週間投与、1週間中止;または3週間投与、1週間中止;または2週間投与、2週間中止;または4週間投与、2週間中止;または1週間投与、3週間中止のサイクルで、1回または複数回のサイクル(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9または10以上のサイクル)で投与が行われるレジメンが挙げられる。
【0318】
ある具体的な投薬スケジュールでは、患者は毎日1時間10日間までの期間(特に1週間で5日まで)で本明細書で定義される組成物を点滴されることになり、この治療は2〜4週間のような所望の間隔(特に3週間毎)で繰り返される。
【0319】
より具体的には、患者は毎日1時間5日間の期間で本明細書で定義される組成物を点滴されてもよく、この治療は3週間毎に繰り返される。
【0320】
別の具体的な投薬スケジュールでは、患者は30分〜1時間にわたって点滴され、可変的な期間(例えば、1〜5時間、例えば、3時間)の維持点滴が後続する。
【0321】
さらなる具体的な投薬スケジュールでは、患者は12時間〜5日の期間の継続的な点滴、特に24時間〜72時間の継続的な点滴が行なわれる。
【0322】
しかしながら最終的には、投与される化合物の量および使用される組成物のタイプは、その疾病の性質または治療されている生理的な症状に相応し、医師の裁量によることとなる。
【0323】
式(I)の化合物は、単一の治療剤として投与可能であるし、特定の病態(例えば、上記で定義された癌などの新生物疾患)の治療のための1種以上の他の化合物との併用療法において投与可能である。式(I)の化合物とともに用いられてもよい(同時にまたは異なる時間間隔であるかどうかにかかわらず)、他の治療剤または治療の例としては、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる。
・トポイソメラーゼI阻害剤
・代謝拮抗剤
・チューブリン標的化薬剤
・DNA結合剤およびトポイソメラーゼII阻害剤
・アルキル化剤
・モノクローナル抗体
・抗ホルモン
・シグナル伝達阻害剤
・プロテアソーム阻害剤
・DNAメチルトランスフェラーゼ
・サイトカインおよびレチノイド
・クロマチン標的化療法
・放射線療法、および、
・他の治療剤または予防薬、例えば、化学療法に伴う副作用のいくつかを減少または緩和する薬剤。そのような薬剤の具体的な例としては、制吐剤、および化学療法に伴う好中球減少の持続性を防止または減少させる薬剤、および赤血球レベルまたは白血球レベルの減少から生じる合併症を予防する薬剤、例えば、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)および顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)が挙げられる。また、ビスホスホネート剤(例えば、ゾレドネート、パミドロネートおよびイバンドロネート)などの骨吸収を阻害する薬剤、炎症反応を抑制する薬剤(デキサメタゾン、プレドニゾンおよびプレドニゾロンなど)、および天然ホルモンのソマトスタチンの薬理学的特性を模倣する薬理学的特性を備えた長時間作用性のオクタペプチドである酢酸オクトレオチドを含む、脳ホルモンソマトスタチンの合成型のような、先端肥大症患者において成長ホルモンおよびIGF−Iの血中濃度を減少させるために使用される薬剤が挙げられる。さらには、ロイコボリン(葉酸レベルを減少させる薬剤に対する解毒剤として使用される)またはフォリン酸それ自体などの薬剤、および浮腫および血栓塞栓症発作を含む副作用の治療のために使用することができる酢酸メゲストロールのような薬剤が挙げられる。
【0324】
本発明の組合せ中に存在する化合物の各々は、個別に違った用量スケジュールで、かつ異なる経路を通じて投与されてもよい。
【0325】
式(I)の化合物が、1、2、3、4種またはそれ以上の他の治療剤(好ましくは1または2種、より好ましくは1種)との併用療法で投与される場合は、化合物は同時にまたは順次投与できる。順次投与される場合、それらは短い間隔で(例えば、5〜10分の期間にわたって)、またはより長い間隔(例えば、1、2、3、4時間またはそれ以上離れて、または必要とされる場合にはさらにより長い期間離れて)で投与することができるが、正確な投与レジメンは治療剤の特性に対応する。
【0326】
式(I)の化合物はまた、放射線療法、光力学療法、遺伝子療法などの非化学療法的治療;手術および栄養制限食と併用して投与されてもよい。
【0327】
別の化学療法剤との併用療法における使用に関して、本明細書で定義される組成物と1、2、3、4種またはそれ以上の他の治療剤とは、例えば、2、3、4種またはそれ以上の治療剤を含む投薬形態にまとめて製剤化することができる。あるいは個々の治療剤は個別に製剤化されキットの形態でまとめて提供されてもよく、任意でそれらの使用説明書が添付される。
【0328】
当業者は、通常の知識により、用いる投与レジメンおよび併用療法が分かるであろう。
【0329】
診断方法
本明細書で定義される組成物の投与前に、患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある疾病または症状が、特定の標的キナーゼ(例えば、プロテインキナーゼAおよび/もしくはプロテインキナーゼBおよび/もしくはROCKキナーゼおよび/もしくはP70S6Kキナーゼ)に対する活性を有する化合物による治療に対して感受性のある疾病または症状であるかどうかを決定するために患者をスクリーニングしてもよい。
【0330】
例えば、患者から採取した生体サンプルを分析し、その患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある癌などの症状または疾病がPKAおよび/またはPKBアップレギュレーションまたは正常なPKAおよび/またはPKB活性への経路の感作、あるいはPKBの場合では、P13K、GF受容体、PDK1およびPDK2などのPKAおよび/またはPKBの上流のシグナル伝達構成要素のアップレギュレーションをもたらす遺伝的異常または異常なタンパク質発現を特徴とするものかどうかを決定するために分析されてもよい。
【0331】
あるいは、患者から採取された生体サンプルは、PTENなどのPKB経路の負の調節因子またはサプレッサーの欠損に関して分析されてもよい。本文脈において、「欠損」なる語は、調節因子またはサプレッサーをコードする遺伝子の欠失、遺伝子の切断(例えば、変異による)、遺伝子の転写産物の切断、または転写産物の不活性化(例えば、点変異による)もしくは別の遺伝子産物による隔離を包含する。
【0332】
あるいは、またはそれに加えて、患者はROCK活性の機能不全(例えば、上昇したまたはアップレギュレートされたROCK発現、ROCK遺伝子における変異、またはROCK遺伝子調節要素)またはRhoシグナル伝達の機能不全に関してスクリーニングされてもよい。
【0333】
アップレギュレーションなる語には、遺伝子増幅(すなわち複数の遺伝子コピー)および転写効果による発現増加を含む高発現または過剰発現、ならびに変異による活性化を含む過活性および活性化が包含される。したがって、キナーゼ(例えば、PKAおよび/またはPKBおよび/またはROCKキナーゼおよび/またはP70S6Kキナーゼ)のアップレギュレーションに特有のマーカーを検出するために、患者を診断検査に供してもよい。診断なる語はスクリーニングを含む。本発明者らはマーカーに、例えば、キナーゼ(例えば、PKAおよび/またはPKBおよび/またはROCKキナーゼおよび/またはP70S6Kキナーゼ)の変異を同定するためのDNA組成の指標をはじめとする遺伝マーカーも含める。マーカーなる語はまた、前述のタンパク質の酵素活性、酵素量、酵素状態(例えば、リン酸化の有無)およびmRNAレベルを含む、キナーゼ(例えば、PKAおよび/またはPKBおよび/またはROCKキナーゼおよび/またはP70S6Kキナーゼ)のアップレギュレーションならびに/あるいは関連経路のアップレギュレーションに繋がる他の因子に特徴的なマーカーを含む。
【0334】
上記の診断試験およびスクリーニングは、典型的には、腫瘍生検標本、血液サンプル(脱落した腫瘍細胞の単離および濃縮)、便生検、喀痰、染色体分析、胸水、腹水、骨髄または尿から選ばれる生体サンプルに対して行なわれる。
【0335】
PKAおよび/またはPKBに変異、TCL−1のリアレンジメント、またはPTEN発現の欠損を有する個体の同定は、この患者がPKAおよび/またはPKB阻害剤による治療に特に適することを意味する可能性がある。腫瘍は治療の前にPKAおよび/またはPKBの変異の存在に関して優先的にスクリーニングされてもよい。このスクリーニング方法は典型的には、直接配列決定、オリゴヌクレオチドマイクロアレイ分析、または変異体特異的抗体を含む。
【0336】
タンパク質の変異およびアップレギュレーションの同定および分析方法は、当業者に公知である。スクリーニング方法としては、限定されるものではないが、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)またはin situハイブリダイゼーションなどの標準的な方法が挙げられる。
【0337】
RT−PCRによるスクリーニングでは、腫瘍におけるmRNAのレベルは、このmRNAのcDNAコピーを作成した後、このcDNAをPCRにより増幅することにより評価する。PCR増幅の方法、プライマーの選択、および増幅条件は当業者に公知である。核酸の操作およびPCRは、例えば、オースベル(Ausubel, F. M.)ら(編者)、「分子生物学における現在のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、2004年、ジョンワイリー&サンズ、またはイニス(Innis, M. A.)ら(編者)、「PCRプロトコル:方法および応用の手引き(PCR Protocols:a guide to methods and applications)」、1990年、アカデミックプレス(Academic Press)、サンディエゴ、に記載のような標準的な方法により行う。核酸技術に関する反応および操作はまた、サムブルック(Sambrook)ら、2001年、第3版、モレキュラークローニング:レボラトリーマニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)、コールドスプリングハーバーラボラトリー出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載されている。あるいは、RT−PCR用の市販キット(例えば、ロシュモレキュラーバイオケミカルズ社(Roche Molecular Biochemicals))、または米国特許第4,666,828号;第4,683,202号;第4,801,531号;第5,192,659号;第5,272,057号;第5,882,864号および第6,218,529号に開示の方法が使用でき、これらは参照により本書に援用される。
【0338】
mRNAの発現を評価するためのin situハイブリダイゼーション技術の例として、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)がある(アンゲラー(Angerer)、1987年、「メソッズ・イン・エンザイモロジー(Meth. Enzymol)」、152:649参照)。
【0339】
一般に、in situハイブリダイゼーションは以下の主要な工程を含む:(1)分析する組織の固定;(2)標的核酸の接近性を高めるためそして非特異的結合を軽減するためのサンプルのプレハイブリダイゼーション処理;(3)核酸混合物と生物学的構造または組織中の核酸とのハイブリダイゼーション;(4)ハイブリダイゼーションにおいて結合しなかった核酸断片を除去するためのハイブリダイゼーション後の洗浄;および(5)ハイブリダイズした核酸断片の検出。このような用途に用いるプローブは典型的には、例えば、放射性同位体または蛍光リポーターで標識される。好ましいプローブは、ストリンジェントな条件下で標的核酸との特異的ハイブリダイゼーションを可能とするのに十分な長さ、例えば、約50、100または200ヌクレオチド〜約1000以上のヌクレオチドである。FISHを行うための標準的な方法は、オースベル(Ausubel, F. M.)ら(編者)、「カレントプロトコルズ・イン・モレキュラーバイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)」、2004年、ジョンワイリー&サンズ、ならびにバートレット(John M. S. Bartlett)による「フルオレセンスin situハイブリダイゼーション:テクニカルオーバービュー(Fluorescence In Situ Hybridization: Technical Overview)」、モレキュラーダイアグノシス・オブ・キャンサー、メソッズおよびプロトコルズ(Molecular Diagnosis of Cancer,Methods and Protocols)、第2版;ISBN:1−59259−760−2;2004年3月、077〜088ページ;分子医学における手法シリーズ(Series: Methods in Molecular Medicine)に記載されている。
【0340】
あるいは、mRNAから発現されたタンパク質産物を、腫瘍サンプルの免疫組織化学、マイクロタイタープレートを用いる固相イムノアッセイ、ウエスタンブロット、二次元SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、ELISA、フローサイトメトリーおよび特定のタンパク質を検出するための当技術分野で公知の他の方法により分析してもよい。検出方法は部位特異的抗体の使用を含むこととなる。当業者ならば、キナーゼ(例えば、PKAおよび/もしくはPKBおよび/もしくはROCKキナーゼおよび/もしくはP70S6Kキナーゼ)のアップレギュレーションの検出またはキナーゼの変異体の検出のためにこのような周知の技術は全て本件に適用可能であることを認識しているであろう。
【0341】
したがって、これらの技術はいずれも、PKBおよび/またはPKAおよび/またはROCKキナーゼおよび/またはP70S6Kキナーゼ阻害剤による治療に特に適した腫瘍を同定するために使用することができる。
【0342】
例えば、上述のように、PKBベータは、卵巣および膵臓癌の10〜40%においてアップレギュレートされることが分かっている(ベラコサ(Bellacosa)ら、1995年、「インターナショナルジャーナル・オブ・キャンサー(Int. J. Cancer)」64、280〜285;チェン(Cheng)ら、1996年、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」93、3636〜3641;ユアン(Yuan)ら、2000年、「オンコジーン(Oncogene)」19、2324〜2330)。したがってPKB阻害剤、および特に、PKBベータの阻害剤は、卵巣および膵臓癌を治療するために使用され得ることが予想される。
【0343】
PKBアルファはヒト胃癌、前立腺癌および乳癌において増幅される(スタール(Staal)1987年、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」84、5034〜5037;ソン(Sun)ら、2001年、「米国病理学会誌(Am. J. Pathol.)」159、431〜437)。したがってPKB阻害剤、および特にPKBアルファの阻害剤は、ヒト胃癌、前立腺癌および乳癌を治療するために使用され得ることが予想される。
【0344】
PKBガンマ活性の増加は、ステロイド非依存性の乳腺細胞株および前立腺細胞株において観察されている(ナカタニ(Nakatani)ら、1999年、「ジャーナル・オブ・バイオロジカルケミストリー(J. Biol. Chem.)」274、21528〜21532)。したがってPKB阻害剤、および特に、PKBガンマの阻害剤はステロイド非依存性の乳癌および前立腺癌を治療するために使用され得ることが予想される。
【0345】
ROCKの検出はmRNAレベルまたはタンパク質レベルのいずれかで行なわれてもよい。臨床サンプルにおいてRhoおよびROCKのレベルが測定された方法の具体例としては次のものが挙げられる。
【0346】
・「米国病理学会誌(American Journal of Pathology)」、2002年、160:579〜584。この文献は、ヒト乳房組織におけるRhoC発現を明らかにするためにホルマリンで固定された組織に対して行なわれた免疫組織化学的手法を記載している。
【0347】
・「クリニカルキャンサーリサーチ(Clinical Cancer Research)」第9巻、2632〜2641、2003年7月。この文献は、連続的に107人の日本人膀胱癌患者から得られたペアになった腫瘍および非腫瘍外科試料中のRhoおよびROCKタンパク質発現を定量するためのウエスタンブロットの使用を記載している。
【0348】
・「パンクリアス(Pancreas)」24(3):251〜257、2002年4月。この文献は、免疫ブロット法と免疫組織化学的手法によりヒト膵臓組織におけるROCK−1の発現を記載している。
【0349】
・「ワールドジャーナル・オブ・ガストロエンテロロジー(World J.Gastroenterol)」2003年9月、9(9):1950〜1953。この文献は、肝細胞癌(HCC)における逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)によるRhoC遺伝子のmRNA発現レベルの試験を記載している。
【0350】
前述の出版物に含まれるRhoおよび/またはROCK活性または発現レベルの定量に関する方法の開示は参照により本書に援用される。
【0351】
p70S6Kの検出はmRNAレベルまたはタンパク質レベルのいずれかで行なわれてもよい。例示となる方法は、「ジャーナル・オブ・ザ・ナショナルキャンサーインスティテュート(J Naltl Cancer Inst)」(2000年):92、1252〜9ページに記載されている(これは、相補DNAおよび組織マイクロアレイ分析によるリボソーム蛋白質S6キナーゼの活性化の検出は比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)を使用し、cDNAおよび組織マイクロアレイ分析で増幅および過剰発現遺伝子を同定することを記載している)。
【0352】
過剰発現p70S6Kの検出は「インターナショナルジャーナル・オブ・オンコロジー(Int J Oncol)」(2004年):24(4)、893〜900ページに記載されている。この論文は、腫瘍感受性と高いp70S6KおよびAKTの発現とを比較するために免疫組織化学的手法を使用して、一般的なヒト腫瘍におけるPI3K/PTEN−Akt−mTOR経路の薬理ゲノム学的プロファイリングを記載している。
【実施例】
【0353】
本発明を、以下の手法および実施例に記載の具体的実施形態を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0354】
下記の各手法の出発物質は特に断りのない限り市販のものである。
【0355】
プロトン磁気共鳴(H NMR)スペクトルは特に断らない限り、400.13MHzで、Me−d−OD中、27℃で作動するBruker AV400機器に記録され、次のように報告される:化学シフトδ/ppm(陽子数、多重度:s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、q=カルテット、m=マルチプレット、br=ブロード)。残存するプロトン性溶媒MeOH(δ=3.31ppm)を内部標準として使用した。
【0356】
実施例において、調製した化合物を下記のシステムと動作条件を用いて液体クロマトグラフィーおよび質量分光法で特性解析した。塩素が存在する場合、化合物に対する質量は35Clに関するものである。用いた動作条件を下記に記載する。
【0357】
プラットフォームシステム
HPLCシステム:Waters2795
質量分析検出器:Micromass Platform LC
PDA検出器:Waters2996 PDA
酸性分析条件2
溶離剤A:HO(0.1%ギ酸)
溶離剤B:CHCN(0.1%ギ酸)
勾配:3.5分で溶離剤Bを5〜95%
流速:0.8ml/分
カラム:Phenomenex Synergi 4μ Max−RP80A、50×2.0mm
塩基性分析条件5
溶離剤A:HO(10mM NHHCO緩衝液、NHOHでpH9.2に調整)
溶離剤B:CHCN
勾配:3.5分で溶離剤Bを05〜95%
流速:0.8ml/分
カラム:Phenomenex Gemini 5μ 2.0×50mm
MS条件
キャピラリー電圧:3.5kVまたは3.6kV
コーン電圧:30V
ソース温度:120℃
走査範囲:165〜700amu
イオン化モード:エレクトロスプレーネガティブ、ポジティブ、またはポジティブ&ネガティブ
【0358】
下記の実施例において、用いたLCMS条件を識別するため次のキーが用いられている。
PS−A2 プラットフォームシステム−酸性分析条件2
PS−B5 プラットフォームシステム−塩基性分析条件5
【0359】
実施例1
(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの調製
1A.2−(4−クロロ−フェニル)−2−(4−ヨード−フェニル)−オキシラン
【化7】

水素化ナトリウム(油状物中の60%分散液、128mg、3.2mmol)をN下で配置し、次いでDMSO(5ml)を加えた。15分後にヨウ化トリメチルスルホニウム(0.66g、3.2mmol)を固形物として加え、続いてさらに30分後に(4−クロロ−フェニル)−(4−ヨード−フェニル)−メタノン(1g、2.9mmol)を加えた。この混合物を室温で24時間撹拌し次いで酢酸エチルで希釈し、1:2水/塩水、水、および塩水で洗浄した(×2)。有機相を乾燥(MgSO)、ろ過、および濃縮して、標題化合物(1.01g、97%)を得、これをさらなる精製を行わないで使用した。LCMS(PS−A2)、R4.07分、[M−H]355.
【0360】
1B.2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−ヨード−フェニル]−エタノール(エポキシド開環反応)
【化8】

2−(4−クロロ−フェニル)−2−(4−ヨード−フェニル)−オキシラン(500mg、1.40mmol)をメタノール(5ml、10.0mmol)中の2M NHに溶解し、この溶液を130℃で60分間マイクロ波反応器中で加熱した。冷却し、溶媒を減圧下で除去して所望の生成物を得た。同様の反応を3度行い1.55g(98%)の2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−ヨード−フェニル]−エタノール生成物を得た。この粗生成物は純粋であり、精製を行わないで次の工程で使用した。
【0361】
1C.[2−(4−クロロ−フェニル)−2−ヒドロキシ−2−(4−ヨード−フェニル)−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(BOC保護)
【化9】

工程1Bのアミノアルコール生成物(9.55g、25.56mmol)を1,4−ジオキサン(220ml)に懸濁し2M NaOHを加えた(16.6ml、33.24mmol)。均質になるまでこの混合物を激しく撹拌した。重炭酸ジtert−ブチル(6.14g、28.11mmol)を加え、この反応混合物を45℃で20時間撹拌した。冷却し、反応混合物を濃縮し、EtOAc(150ml)および水(150ml)に分液した。有機層を分離し、塩水(150ml)で洗浄し乾燥させ(MgSO)、濃縮して黄色の油状物(14.08g)を得た。この粗生成物をバイオタージSP4(65iカラム)を用いて、酢酸エチル−石油(5%〜40%のEtOAc勾配)で溶出するフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、標題化合物を白色固形物として得た(10.0g、83%)。R3.73分、[M+H]473.96
【0362】
1D.[2−(4−クロロ−フェニル)−2−ヒドロキシ−2−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(スズキカップリング反応)
【化10】

[2−(4−クロロ−フェニル)−2−ヒドロキシ−2−(4−ヨード−フェニル)−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(5g、10.6mmol)を丸底フラスコ中で4−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−1H−ピラゾール(4.1g、21.11mmol)およびリン酸カリウム(三塩基性、7.88g、37.10mmol)と混合した。次いでこの固形物をエタノールとメタノールとトルエンと水との1:1:1:1溶剤混合物(各溶媒33ml)に溶解した。この溶液を窒素で脱気し、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(0.612g、0.53mmol)を加えた。この混合物を窒素で脱気し、次いで85℃および窒素下で2時間加熱した。次いでこの反応混合物を室温まで冷ました。次いでさらなる試薬:リン酸カリウム(7.88g、37.10mmol)およびボロン酸ピラゾール(4.1g、21.11mmol)のバッチを加えた。この反応混合物を窒素で脱気し、さらなるテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(0.101g、0.087mmol)のバッチを加えた。この混合物を脱気し、次いで85℃および窒素下で17時間加熱した。追加の試薬のバッチを再び加え(上記の量を参照)、85℃および窒素下でさらに6.5時間加熱を続けた。この反応混合物を次いで室温まで冷却し、減圧下で蒸発させて有機溶媒を除去した。残存する水層を2N NaOH水溶液(150ml)で希釈し、次いで酢酸エチル(150ml)で抽出した。有機層を分離し、2N NaOH水溶液(150ml)続いて塩水(150ml)で洗浄した。この有機層を分離し、乾燥(MgSO)させ、減圧下で濃縮した。残渣をジエチルエーテルでトリチュレーション(triturated)した。固形物を減圧下でろ過し次いで乾燥させて、標題化合物を白色固形物として得た(2.55g、58%)。LC/MS:(PS−B5)R3.05[M+H]414.18。H NMR(Me−d−OD)7.95(2H、br s)、7.55(2H、d)、7.48−7.41(4H、m)、7.31(2H、d)、3.87(2H、q)、1.35(9H、s).
【0363】
1E.2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノール(BOC脱保護工程)
【化11】

飽和HCl(EtO中、50ml)およびメタノール(50ml)中のBOCアミン(2.55g、6.16mmol)の懸濁液を室温で20時間撹拌した。この反応混合物を減圧下で濃縮し、2M NaOH(150ml)で希釈し、EtOAc(200ml)で抽出した(注:固形物を完全に溶解するため長時間の振とうが必要であった)。有機層を1N HCl(100ml)で洗浄した。次いで水層を分離し、2M NaOHでpH12まで塩基性化した。溶液からの所望の生成物が析出し、次いで真空ろ過により採取され、数日間乾燥される(1.89g、98%)。H NMR(Me−d−OD)δ3.29−3.38(2H、m)、7.32(2H、d)、7.41−7.46(4H、m)、7.55(2H、d)、7.94(2H、s).
【0364】
1F.個々のエナンチオマーのキラル分離
下記のキラルLC法を用いて、化合物(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールをRエナンチオマーから分離した。
【0365】
キラル分析条件
溶離剤:室温でMeOH+0.1%DEA
流速:0.7ml/分
合計時間:25分
注入量:5uL
試料濃度:1mg/ml(移動相中)
カラム:ダイセルキラルパックAD−H、250×4.6mm
波長:230または257nm
キラル分取条件
溶離剤:室温でMeOH+0.1%DEA
流速:13ml/分
合計時間:29分
注入量:250uL
試料濃度:100mg/ml(移動相中)
カラム: ダイセルキラルパックAD−H、250×20mm
波長:230または257nm
得られた(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは、旋光分析、キラルクロマトグラフィー、および結晶学的方法により特性解析された。
【0366】
旋光分析
SエナンチオマーおよびRエナンチオマーの光学活性はいずれもAA−10自動旋光計(オプティカルアクティビティーリミテッド社(Optical Activity Limited))を用いて測定した。
【0367】
S−エナンチオマー
22.42mgの化合物を2mlのMeOHに溶解した。細胞長:20cm、測定値:+0.31、[α]20:+13.8°
R−エナンチオマー
20.14mgを10mlのMeOHに溶解した(旋光計セル中の気泡問題のためより多量の希釈物)。測定値:−0.03、細胞長:10cm、[α]20:−14.8°
キラルクロマトグラフィー
上記のキラル分析条件および5μlの注入量を用いると、Sエナンチオマーの保持時間は15.283分であった。
【0368】
結晶学的方法
bPKA−PKBにおけるSエナンチオマーの結晶学的解析は、デービース(Thomas G. Davies)ら、「PKB、PKAおよびPKA−PKBキメラに対する阻害剤結合の構造比較(A Structural Comparison of Inhibitor Binding to PKB, PKA and PKA-PKB Chimera)」、ジャーナル・オブ・モレキュラーバイオロジー(J. Mol. Biol.)、2007年1月9日:17275837に記載の方法を用いて行なわれた。この分析はタンパク質に結合したSエナンチオマーの存在を示した。
【0369】
実施例2
2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−ヨード−フェニル]−エタノールの代替合成法
この実施例では、実施例1における中間体化合物1Bである2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−ヨード−フェニル]−エタノールの調製を記載する。
【化12】

【0370】
2A.(RS)−2−(4−クロロフェニル)−2−(4−ヨードフェニル)オキシラン
カリウムtert−ブトキシド(18.48g、165.0mmol)を、ジメチルスルホキシド(200ml)中の4−クロロ−4’−ヨードベンゾフェノン(51.38g、150.0mmol)とヨウ化トリメチルスルホニウム(33.66g、165.0mmol)との急速に撹拌された懸濁液に加え、得られた混合物を室温で3時間撹拌した。この混合物を酢酸エチル(500ml)で希釈し、水(3×500ml)次いで塩水(500ml)で洗浄した。有機層を分離し溶媒を減圧下で除去して、(RS)−2−(4−クロロフェニル)−2−(4−ヨードフェニル)オキシラン(53.48g、100%)を淡黄色の油状物として得、これは放置すると凝固してオフホワイト色の固形物になった。H NMR(DMSO−d)7.76(2H、d)、7.45(2H、d)、7.34(2H、d)、7.12(2H、d)、3.32(2H、m).MS:[M−H]355.
【0371】
2B.(RS)−2−アジド−1−(4−クロロフェニル)−1−(4−ヨードフェニル)エタノール
アジ化ナトリウム(13.86g、213.2mmol)を、アセトン(400ml)および水(40ml)中の(RS)−2−(4−クロロフェニル)−2−(4−ヨードフェニル)オキシラン(50.66g、142.1mmol)の混合物に加え、この混合物を撹拌し還流状態で4日間保持した。室温まで冷却し、アセトンを減圧下で除去し、残渣を酢酸エチル(500ml)に溶解し、水(250ml)次いで塩水(250ml)で洗浄し、有機層を分離し、溶媒を減圧下で除去して(RS)−2−アジド−1−(4−クロロフェニル)−1−(4−ヨードフェニル)エタノール(56.77g、100%)を淡黄色の油状物として得、これは放置するとゆっくりと凝固してオフホワイト色の固形物になった。H NMR(DMSO−d)7.68(2H、d)、7.44(2H、d)、7.38(2H、d)、7.24(2H、d)、6.38(1H、br s)、3.99(2H、s).MS:[M−H]398.
【0372】
2C.トルエン−4−スルホン酸(RS)−2−アンモニオ−1−(4−クロロフェニル)−1−(4−ヨードフェニル)エタノール
トリフェニルホスフィン(31.44g、120.0mmol)を、テトラヒドロフラン(400ml)中の(RS)−2−アジド−1−(4−クロロフェニル)−1−(4−ヨードフェニル)エタノール(47.94g、120.0mmol)の溶液に加え、この混合物を撹拌し還流状態で5時間保持し、ここでトルエン−4−スルホン酸一水和物(22.8g、120.0mmol)および水(40ml)を加え、この混合物を撹拌し還流状態でさらに16時間保持した。室温まで冷却しこの混合物を減圧下で蒸発乾固した。酢酸エチル(600ml)を加え、この混合物を室温で30分間急速に撹拌して固形分を再懸濁させた。この固形物を吸引ろ過により採取し、酢酸エチル(3×250ml)ですすぎ、減圧下で吸引乾燥させ、真空オーブン中の50℃で一晩乾燥させて、トルエン−4−スルホン酸(RS)−2−アンモニオ−1−(4−クロロフェニル)−1−(4−ヨードフェニル)エタノール(51.37g、78%)を無色の固形物として得た。H NMR(DMSO−d)7.73(2H、d)、7.68(3H、br s)、7.47(4H、m)、7.43(2H、d)、7.28(2H、d)、7.12(2H、d)、6.60(1H、br s)、3.67(2H、s)、2.30(3H、s).MS:[M+H]374.
【0373】
実施例2Cの生成物は、実施例1Cの方法によりN−Boc誘導体に変換することができ(ただしトルエンスルホン酸塩を考慮して追加の当量の水酸化ナトリウムを用いる)、次いで実施例1Dおよび1Eに記載のようにスズキカップリング反応に供し続いてBoc保護基を除去し、得られたエナンチオマーの混合物は実施例1Fの方法により分割されて、(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールが得られる。
【0374】
生物学的活性
式(I)の化合物の生物学的活性は以下の実施例に記載されている。さらに、式(I)の化合物の生物学的特性はライオンズ(John F. Lyons)らによるポスター(3512sページ、ポスターセッションB、アブストラクトB251、AACR−NCI−EORTCインターナショナルカンファレンス:「分子標的および癌治療法(Molecular Targets and Cancer Therapeutics)」、2007年10月22〜26日、サンフランシスコ、カリフォルニア州(アステックスセラピューティクス社(Astex Therapeutics)のウェブサイトからコピーが入手可能:www.astex-therapeutics.comまたはwww.astex-therapeutics.com/investorsandmedia/publications))に記載されている。
【0375】
実施例3
PKAキナーゼ阻害活性(IC50)の測定
式(I)の化合物のPK阻害活性は、アップステートバイオテクノロジー社(Upstate Biotechnology)製のPKA触媒ドメイン(#14−440)および基質としてアップステートバイオテクノロジー社製の9残基PKA特異的ペプチド(GRTGRRNSI)(#12−257)を用いて試験可能である。最終濃度が1nMの酵素を、20mM MOPS(pH7.2)、40μM ATP/γ33P−ATPおよび50mMの基質を含む緩衝液中で用いる。最終メチルスルホキシド(DMSO)濃度が2.5%になるまで化合物をDMSO溶液に加える。反応を20分間進行させた後、過剰量のオルトリン酸を加えて活性を停止させる。次いで未反応のγ33P−ATPをミリポアMAPHフィルタープレート上でリン酸化タンパク質から分離する。このプレートを洗浄し、シンチラントを加え、パッカードトップカウント(Packard Topcount)上でプレートのカウントを行なう。
【0376】
PKA活性の阻害率(%)を算出し、プロットすることで、PKA活性を50%阻害するのに必要な試験化合物の濃度(IC50)を求める。
【0377】
上記のプロトコルに従って、(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは0.03μMの濃度でPKAを44%阻害し、一方で(R)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールのIC50値は0.25μMであることがわかった。この結果はSエナンチオマーがPKAアッセイにおいてRエナンチオマーよりも著しく強力であることを示す。
【0378】
実施例4
PKBキナーゼ阻害活性(IC50)の測定
化合物によるプロテインキナーゼB(PKB)活性の阻害は、基本的にはアンジェルコビッチ(Andjelkovic)ら(「モレキュラー・アンド・セルラーバイオロジー(Mol. Cell. Biol.)」19、5061〜5072、1999年)の記載のようにそしてPKB−PIFとして記載されヤン(Yang)ら(「ネイチャー・ストラクチュアルバイオロジー(Nature Structural Biology)」9、940〜944、2002年)により詳細に記載された融合タンパク質を用いて求めることができる。ヤンらにより記載されるようにタンパク質は精製されPDK1で活性化される。カルビオケム(Calbiochem)社から入手のペプチドAKTide−2T(H−A−R−K−R−E−R−T−Y−S−F−G−H−H−A−OH)(#123900)を基質として用いる。最終濃度が0.6nMの酵素を、20mM MOPS(pH7.2)、30μM ATP/γ33P−ATPおよび25μMの基質を含む緩衝剤中で用いる。最終DMSO濃度が2.5%になるまで化合物をDMSO溶液に加える。反応を20分間進行させた後、過剰量のオルトリン酸を加えて活性を停止させる。反応混合物をリン酸セルロースフィルタープレートに移す。このプレート上でペプチドが結合し、用いられなかったATPは洗浄されて除去される。洗浄後、シンチラントを加え、取り込まれている活性をシンチレーションカウントにより測定する。
【0379】
PKB活性の阻害率(%)を算出し、プロットすることで、PKB活性を50%阻害するのに必要な試験化合物の濃度(IC50)を求める。
【0380】
上記のプロトコルに従って、(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールのIC50値は0.01μMである一方で、(R)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールのIC50値は0.96μMであることが分かった。この結果はSエナンチオマーがPKBアッセイにおいてRエナンチオマーよりもほぼ100倍強力であることを示す。
【0381】
実施例5
hERG活性
hERG Kイオンチャネルに対する式(I)の化合物の活性は、ブリッジランド・テーラー(M.H. Bridgland-Taylor)らによる論文「ジャーナル・オブ・ファーマコロジカル・アンド・トキシコロジカルメソッズ(Journal of Pharmcaological and Toxicological Methods)」、54(2006年)、189〜199に記載のアッセイを用いて測定できる。
【0382】
実施例6
シトクロムP450に対する有効性の測定
シトクロムP450(CYP450)酵素1A2、2C9、2Cl9、3A4および2D6に対する実施例1の化合物の有効性は、インビトロゲン社(Invitrogen)(ペイズリー、英国)から入手可能なPan Vera Vivid Cyp450スクリーニングキットを使用して測定した。このCYP450は、CYP450およびNADPHレダクターゼを含むバキュロソーム(baculosome)の形態で供給され、用いた基質は蛍光Vivid基質であった。最終反応混合液は以下のとおりであった。
【0383】
1A2
100mMリン酸カリウム、pH8、1%アセトニトリル、2μM 1A2 Blue vivid基質、100μM NADP、4nM CYP450 1A2、2.66mMグルコース−6−リン酸、0.32U/mlグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ。
【0384】
2C9
50mMリン酸カリウム、pH8、1%アセトニトリル、2μM Green vivid基質、100μM NADP、8nM CYP450 2C9、2.66mMグルコース−6−リン酸、0.32U/mlグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ。
【0385】
2C19
50mMリン酸カリウム、pH8、1%アセトニトリル、8μM Blue vivid基質、100μM NADP、4nM CYP450 2C19、2.66mMグルコース−6−リン酸、0.32U/mlグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ。
【0386】
3A4
100mMリン酸カリウム、pH8、1%アセトニトリル、10μM 3A4 Blue vivid基質、100μM NADP、2.5nM CYP450 3A4、2.66mMグルコース−6−リン酸、0.32U/mlグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ。
【0387】
2D6
100mMリン酸カリウム、pH8、1%アセトニトリル、5μM 2D6 Blue vivid基質、100μM NADP、16nM CYP450 2D6、2.66mMグルコース−6−リン酸、0.32U/mlグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ。
【0388】
蛍光をフルオロスキャン(Fluoroskan)蛍光プレートリーダー上で30秒間隔で20分間モニタリングした。励起波長および発光波長は、1A2、2C19および3A4の場合390nmおよび460nm、2D6の場合390nmおよび485nm、2C9の場合485nmおよび530nmであった。初速度をプログレス曲線から求めた。
【0389】
試験化合物にアセトニトリルを加え、10μMの濃度でCYP450に対して試験した。
【0390】
1A2、2C9、2C19、3A4および2D6に対して10μMでは実施例1の化合物はIC50よりも大きかった。
【0391】
実施例7
pSer9 GSK3βに対する細胞に基づくホスホ−Ser9 Gsk3βELISAアッセイ
U87MG細胞におけるPKB阻害効果は、セリン9上の直接の下流の基質GSK3βのリン酸化を阻害する化合物の能力により判定される。細胞を96のウェルプレート中で平板培養し一晩回復させた後、阻害化合物を1時間加える。1時間後、細胞をTBS−Tで3%パラホルムアルデヒド、0.25%グルテルアルデヒド、0.25%Triton X100および5%マーヴェルで固定およびブロックする。これに続いて、細胞をGSK3βのリン酸化体に対する一次抗体(セルシグナリング社(Cell Signaling))と4℃で一晩培養する。洗浄後、細胞をDELFIA試薬(Eu−N1抗ウサギIgG抗体)を用いた二次抗体で1時間培養し、続いて増強プレート(enhancement plates)を340nmの励起および640nmの発光で時間分解蛍光リーダー上で読み取る。細胞は全てECACC(ヨーロピアンコレクション・オブ・セルカルチャーズ(European Collection of Cell Cultures))から入手する。
【0392】
プロトコル
1.96ウェルプレート中160ul媒体/ウェルおよび細胞12500個/ウェルでU87MG細胞を平板培養する
2.37℃で24時間培養する
3.阻害剤およびDMSOコントロールで細胞を処理する
4.37℃で1時間培養する
5.媒体をプレートからはたいて紙の上にブロッティングする
6.各ウェルに100μl固定液を加える(3%パラホルムアルデヒド、0.25%グルテルアルデヒド、0.25%Triton X100)
7.37℃で30分間培養する
8.水/0.1%Tween20で一回洗浄する
9.100μlの5%ミルク/TBS−Tでブロッキングする
10.37℃で30分間培養する
11.5%ミルク/TBS−T中で希釈された100μlの一次抗体を各ウェルに加える(CST#9336ホスホ−Ser9 GSK3β抗体を1:250で使用)
・一次抗体を含まない5%ミルク/TBS−Tのみのカラムコントロールを含む
・必要であればまた5%ミルク/TBS−T中でホスホ−Ser9 GSK3βと同様の濃度まで希釈されたザイムド(Zymed)社のウサギIgG(02−6102、5mg/ml)のカラムを含んでもよい
12.4℃で一晩培養する
13.水/0.1%Tween20で3回洗浄する
14.Delfiaアッセイ緩衝液で希釈された100μlの二次抗体を各ウェルに加える(Delfia Eu−N1抗ウサギIgG抗体を0.30μg/mlの最終濃度で使用)
15.37℃で1時間培養
16.水/0.1%Tween20で3回洗浄する
17.各ウェルに100μlの増強液(Delfia Enhancement Solution)を加える
18.15分間プレートシェーカー上で振とうする
19.Delfiaプログラム上で読み取る(励起340nm、発光640nm):ユーロピウム量
20.水/0.1%Tween20で一回洗浄する
21.1ウェル当たり200μlのBCA溶液を加える(1:50硫酸銅(II)を含むBCA)
22.37℃で30分間培養する
23.562nmの吸光度で読み取る:タンパク質濃度
化合物(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは、上記のメカニスティックアッセイ(mechanistic assay)において1.1μMのIC50を有する一方で、(R)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールのIC50値は50μMより大きく、つまりRエナンチオマーは本質的には不活性であることがわかった。
【0393】
実施例8
ROCK−II(h)アッセイプロトコル
化合物(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは下記に示すROCK−IIアッセイで試験された。
【0394】
25μlの最終反応体積で、ROCK−II(h)(5〜10mU)を、50mM Tris、pH7.5、0.1mM EGTA、30μM KEAKEKRQEQIAKRRRLSSLRASTSKSGGSQK、10mM酢酸マグネシウムおよび[γ−33P−ATP](比活性:約500cpm/pmol、必要に応じて濃縮)で培養する。反応をMgATPミックスの添加により開始する。室温で40分間培養した後、反応を5μlの3%リン酸溶液を加えて停止する。次いで10μlの反応物でP30フィルターマット上に斑点を付け、75mMのリン酸中で5分間3回そしてメタノール中で1回洗浄した後、乾燥およびシンチレーションカウントを行う。
【0395】
このアッセイにおいて、(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールのIC50は上記アッセイにおいて10nM未満(すなわちアッセイの限界以下)であることが分かった。
【0396】
実施例9
P70S6放射測定アッセイ
化合物(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは下記のp70S6K放射測定アッセイ中で試験された。
【0397】
概説
P70S6酵素をアップステート社(Upstate)から購入し、アッセイ中2nMで使用する。
【0398】
基質S6カクテル(AKRRRLSSLRA)を25μM(Kmは測定されていない)で使用する。ホスホリル転移反応において、ATPからの33P−γリン酸塩はセリン残基に転移する。反応混合物をホスホセルロースフィルタープレートに転移し、このプレート上ではペプチドが結合し用いられなかったATPが洗い流される。洗浄後、シンチラントを加え、組み込まれている活性をシンチレーションカウントにより測定する。
【0399】
試薬
アップステート社からのP70S6キナーゼ(T412E)、活性、(#14−486)
アップステート社からのS6キナーゼ基質カクテル(#20−122)
アッセイ緩衝液
10mM MOPS pH7.0
0.1mg/ml BSA
0.001% Brij−35
0.5% グリセロール
0.2mM EDTA
10mM MgCl
0.01% β−メルカプトエタノール(10倍原液として作成、2mlアリコート中20℃で保存)
15μM ATP(ATP(10mM原液)を濃縮原液から新たに添加する。ATPは時間とともに分解するのでできるだけ氷上で維持し原液が新しいことを確実にするため小さなアリコートを使用する。)
γ33P−ATP APバイオテック社(APBiotech)(BF−1000)
12.5%オルトリン酸
0.5%オルトリン酸
マイクロシント20(パッカード社)
アッセイ調製
酵素ミックス(1ml毎−100アッセイポイント):
743.75μl H20
250μl 10倍アッセイ緩衝液
3.75μl 10mM ATP
2.5μl酵素
基質ミックス(1ml毎−100アッセイポイント):
250μl S6カクテル基質
750μl H20
3.5μl 33P−ATP(APバイオテック社からのBF1000)
添加した33P−ATPの量を参照日とする。正確な量は経時的に調整する必要がある。
【0400】
化合物−40倍の最終アッセイ濃度までのポリプロピレン96ウェルプレート中のDMSOにおける希釈曲線を作成する(最終DMSO2.5%)。
【0401】
水中で1:8に希釈する(水35μlに対して化合物5μlの添加で十分)。
【0402】
アッセイの構成
ポリプロピレン96ウェルプレートに次の順番で加える。
5μl化合物
10μl基質ミックス
10μl酵素ミックス
最終ATP濃度は約15μMである。ATPのKMは放射測定により47uMであると計算される。コントロールは「化合物なし」(DMSOのみ)および「酵素なし」(酵素添加前に酵素ミックスを10μl使用)。プレートシール(トップシールA、パッカード)またはプラスチック蓋でフィルタープレートからカバー(適度な放射障壁)する。軽く振とうして混合する。室温で50分間培養する。20μlの2%オルトリン酸を加えて反応を停止する。
【0403】
ろ過工程
50μlの0.5%オルトリン酸洗浄緩衝液でミリポアMAPH NOBプレートのウェルをあらかじめ湿らせる。ミリポア真空ろ過ユニットに液体を通しろ過する。停止した反応物を全てウェルに移す。ろ過する。200μlの0.5%オルトリン酸洗浄緩衝液で2度洗浄する。ほぼ乾固するまで脱気する。プレート支持体を取り除き、ティッシュペーパー上でさらにフィルターを乾燥する。パッカードトップカウント用アダプターへプレートを折り入れる。20μlのマイクロシント20シンチラントを加え、トップシールAで封をし、トップカウント上で30秒間カウントする。
【0404】
このアッセイにおいて、(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールは12nMのIC50を有することが分かった。
【0405】
医薬製剤
実施例10
(i)錠剤製剤
本明細書で定義される組成物を含有する錠剤組成物は、上記の化合物50mgと、希釈剤としてのラクトース(BP)197mgと、滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム3mgとを混合し、公知の方法で打錠することにより製造される。
【0406】
(ii)カプセル製剤
カプセル製剤は、本明細書で定義される組成物100mgとラクトース100mgとを混合し、得られた混合物を標準的な不透明硬ゼラチンカプセルに充填することにより製造される。
【0407】
(iii)注射用製剤I
注射投与用の非経口組成物は、本明細書で定義される組成物(例えば、塩形態で)を、10%プロピレングリコールを含有する水に溶解し、活性化合物濃度1.5重量%とすることにより製造することができる。次いでこの溶液をろ過除菌し、アンプルに充填し密閉する。
【0408】
(iv)注射用製剤II
注射用の非経口組成物は、本明細書で定義される組成物(例えば、塩形態で)(2mg/ml)およびマンニトール(50mg/ml)を水に溶解し、溶液をろ過滅菌し、密封可能な1mlバイアルまたはアンプルへ充填することにより製造される。
【0409】
(v)注射用製剤III
注射または点滴によるiv送達用の製剤は、水に式(I)の化合物(例えば、塩形態で)を20mg/mlで溶解することにより製造できる。次いで、バイアルを密封し、オートクレーブ処理により滅菌する。
【0410】
(vi)注射用製剤IV
注射または点滴によるiv送達用の製剤は、緩衝剤(例えば、0.2M酢酸、pH4.6)を含有する水に式(I)の化合物(例えば、塩形態で)を20mg/mlで溶解することにより製造できる。次いで、バイアルを密封し、オートクレーブ処理により滅菌する。
【0411】
(vii)皮下注射用製剤
皮下投与用組成物は、本明細書で定義される組成物と医薬用コーン油とを混合し濃度を5mg/mlとすることによりを調製される。この組成物を殺菌し適切な容器に充填する。
【0412】
(viii)凍結乾燥製剤
製剤化された式(I)の化合物のアリコートを50mlバイアルへ入れ凍結乾燥する。凍結乾燥の間、−45℃でワンステップ凍結プロトコルを用いて組成物を凍結する。温度をアニーリングのために−10℃に上げ、次いで低下させて−45℃で凍結し、次いで約3400分かけて+25℃で一次乾燥させ、徐々に50℃まで昇温して二次乾燥を行う。一次乾燥および二次乾燥中の圧力は80ミリトルに設定する。
【0413】
均等
上記の実施例は、本発明を説明する目的で記載したものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。上記に記載し、また、実施例で示す本発明の特定の実施形態に対して、本発明の原理から逸脱することなく、多くの改変および変更をなし得ることは容易に明らかである。このような改変および変更は総て本願に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S)2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールを含む組成物であって、(R)2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールを実質的に含まないか、または(S)エナンチオマーが大半を占める(S)および(R)エナンチオマーの混合物を含む組成物。
【請求項2】
少なくとも75%がSエナンチオマー形態である2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールまたはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシドを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールが少なくとも80%の鏡像異性体純度を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールが少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または99.5%の鏡像異性体純度を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールが98%より高い鏡像異性体純度を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの少なくとも99.9%がSエナンチオマーの形態である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
(R)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールが実質的に組成物中に存在しない、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールと薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物である、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
実質的に純粋な形態(すなわち0.5%未満、より好ましくは0.1%未満、最も好ましくは0.01%未満の不純物を含む)の(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールからなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
0.2%を超える、より好ましくは0.1%を超える量の不純物が1種も存在しない、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
不純物が分かっている場合、0.5%を超える、または0.4%を超える、または0.3%を超える、または0.2%を超える、または0.1%を超える、または0.05%を超える、または0.01%を超える量の不純物は1種も存在しない、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールが遊離塩基の形態である、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記(S)−2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールが酸付加塩の形態である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
実質的に純粋な形態の式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物、互変異性体もしくはN−オキシド。
【化1】

【請求項15】
遊離塩基の形態である請求項14に記載の式(I)の化合物またはその塩、溶媒和物もしくは互変異性体。
【請求項16】
医薬に用いるための、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物または化合物。
【請求項17】
プロテインキナーゼBにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療で用いる請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物。
【請求項18】
プロテインキナーゼBにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療用薬剤の製造のための請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物の使用。
【請求項19】
プロテインキナーゼBにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療方法であって、その必要のある被験体に請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物を投与することを含む方法。
【請求項20】
哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療に用いる、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物。
【請求項21】
哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療用薬剤の製造のための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物の使用。
【請求項22】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療方法であって、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物を、異常な細胞増殖または細胞死の異常な停止を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
【請求項23】
哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減方法であって、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物を、異常な細胞増殖を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
【請求項24】
哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療方法であって、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物を、プロテインキナーゼBの活性を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
【請求項25】
プロテインキナーゼBの阻害に用いるための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
プロテインキナーゼBに請求項1〜15のいずれか1項に記載のキナーゼ阻害性組成物または化合物を接触させることを含む、プロテインキナーゼBの阻害方法。
【請求項27】
プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAの活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾に用いるための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物。
【請求項28】
プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAの活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾用薬剤の製造のための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物の使用。
【請求項29】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物を用いてプロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAの活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾方法。
【請求項30】
プロテインキナーゼAにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療で用いる請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物。
【請求項31】
プロテインキナーゼAにより仲介される病態もしくは症状の予防または治療用薬剤の製造のための請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物の使用。
【請求項32】
プロテインキナーゼAにより仲介される病態または症状の予防または治療方法であって、その必要のある被験体に請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物を投与することを含む方法。
【請求項33】
哺乳類における異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる疾病あるいは症状の治療方法であって、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物を、プロテインキナーゼAの活性を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
【請求項34】
プロテインキナーゼAを阻害するための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物。
【請求項35】
プロテインキナーゼAに請求項1〜15のいずれか1項に記載のキナーゼ阻害性の組成物または化合物を接触させることを含む、プロテインキナーゼAの阻害方法。
【請求項36】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物を用いてプロテインキナーゼAの活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾方法。
【請求項37】
異常な細胞増殖もしくは細胞死の異常な停止からなる、またはそれから生じる病態または症状の予防あるいは治療用薬剤の製造のための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物の使用。
【請求項38】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項39】
医薬に用いるための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物。
【請求項40】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の病態もしくは症状のいずれか1種の予防または治療用薬剤の製造のための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物の使用。
【請求項41】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の病態もしくは症状のいずれか1種の治療または予防方法であって、患者(例えば、その必要のある患者)に請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物を(例えば、治療上有効な量で)投与することを含む方法。
【請求項42】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減方法であって、患者(例えば、その必要のある患者)に請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物を(例えば、治療上有効な量で)投与することを含む方法。
【請求項43】
(i)患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある疾病または症状がプロテインキナーゼB対して活性を有する化合物による治療に感受性があるものかどうかを判定すべく患者をスクリーニングすること、および(ii)患者の疾病または症状がそのような感受性を有することが示された場合に、その後、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物を前記患者に投与することを含む、プロテインキナーゼBにより仲介される病態または症状の診断あるいは治療方法。
【請求項44】
スクリーニングされ、プロテインキナーゼBに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防用薬剤の製造のための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物の使用。
【請求項45】
スクリーニングされ、プロテインキナーゼBに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防で用いるための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物。
【請求項46】
(i)患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある疾病または症状がプロテインキナーゼA対して活性を有する化合物による治療に感受性があるものかどうかを判定すべく患者をスクリーニングすること、および(ii)患者の疾病または症状がそのような感受性を有することが示された場合に、その後、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物を前記患者に投与することを含む、プロテインキナーゼAにより仲介される病態または症状の診断あるいは治療方法。
【請求項47】
スクリーニングされ、プロテインキナーゼAに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防で用いるための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物。
【請求項48】
スクリーニングされ、プロテインキナーゼAに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防用薬剤の製造のための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物あるいは化合物の使用。
【請求項49】
プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAのモジュレーター(例えば、阻害剤)として用いるための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物。
【請求項50】
プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAの修飾(例えば、阻害)用薬剤の製造のための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物の使用。
【請求項51】
プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAの修飾(例えば、阻害)方法であって、前記プロテインキナーゼBおよび/またはプロテインキナーゼAを(例えば、細胞環境で、例えば、インビボで)請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物に接触させることを含む方法。
【請求項52】
2−アミノ−1−(4−クロロ−フェニル)−1−[4−(1H−ピラゾール−4−イル)−フェニル]−エタノールの(S)および(R)エナンチオマーの混合物を部分的にまたは完全に分割することを含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物または化合物の調製方法。
【請求項53】
前記(S)および(R)エナンチオマーがキラルクロマトグラフィーを用いて分割される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
式(12)の化合物またはその酸付加塩。
【化2】

【請求項55】
4−トルエンスルホン酸塩である、請求項54に記載の酸付加塩。
【請求項56】
式(17)の化合物。
【化3】

【請求項57】
請求項54に記載の式(12)の化合物の調製方法であって、請求項56に記載の式(17)の化合物を極性非プロトン性溶媒中でトリフェニルホスフィンなどの第三級ホスフィンと反応させること、続いて酸性水溶液で処理することを含む方法。
【請求項58】
前記酸性水溶液がメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸およびカンフルスルホン酸から選ばれるアルキルスルホン酸またはアリールスルホン酸(最も好ましくは4−トルエンスルホン酸)を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
請求項56に記載の式(17)の化合物の調製方法であって、式(11)のエポキシド化合物を極性溶媒中で、好ましくは加熱して、アルカリ金属アジ化物およびアジ化トリメチルシリルから選ばれるアジ化物と反応させることを含む方法。
【化4】

【請求項60】
前記アジ化物がアルカリ金属アジ化物である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記アルカリ金属アジ化物がアジ化ナトリウムである請求項60に記載の方法。
【請求項62】
請求項54に記載の式(12)の化合物の調製方法であって、請求項59〜61のいずれか1項の方法を行うこと、続いて請求項57または58の方法を行うこと含む方法。

【公表番号】特表2010−521446(P2010−521446A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553222(P2009−553222)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国際出願番号】PCT/GB2008/050180
【国際公開番号】WO2008/110846
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(504162110)アステックス、セラピューティックス、リミテッド (45)
【氏名又は名称原語表記】ASTEX THERAPEUTICS LIMITED
【出願人】(504132021)ジ・インスティチュート・オブ・キャンサー・リサーチ:ロイヤル・キャンサー・ホスピタル (16)
【出願人】(598176569)キャンサー・リサーチ・テクノロジー・リミテッド (57)
【氏名又は名称原語表記】CANCER RESEARCH TECHNOLOGY LIMITED
【Fターム(参考)】