説明

医薬品

感染因子の感染、並びにアレルゲン及び/又は環境刺激に対する曝露の少なくともいずれかの結果として過剰な炎症反応が生じやすい及び/又は過剰な炎症反応が生じている対象において、炎症の治療に使用する医薬品であって、(a)1以上のサイトカインの産生、活性、及び/又は作用、(b)サイトカインの標的である1以上の細胞の機能、並びに(c)サイトカインを産生する細胞及び/又はサイトカインによって活性化される細胞により引き起こされる病理学的作用の少なくともいずれかを阻止する、遅延させる、調節する、又は低減する剤を含む医薬品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症を治療するための医薬品、特に、(例えば、インフルエンザ等の)感染因子、アレルゲン、及び/又は環境刺激によって引き起こされる肺組織の炎症を治療するための医薬品に関する。また、本発明は、対応する医薬組成物に関する。本発明は、特に、任意の原因による過剰な炎症反応を起こしている患者の治療に関するが、特に、疾患の進行によって生命が脅かされる恐れのある作用が引き起こされる季節性/汎発流行性インフルエンザに罹患している患者の治療に関する。かかる患者は、重篤であり且つ時に生命を脅かすこともある症状を導く不均衡な免疫反応を有する傾向がある。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは、絶えず突然変異を繰り返していることが、長年知られている。結果として、毎年季節性インフルエンザの時期になると新たなインフルエンザウイルス株が出現するので、毎年新たなインフルエンザワクチンを開発する必要が求められている。インフルエンザワクチンは、全てのワクチンと同様に、疾患が引き起こされる前に、対象が感染と戦うことができるようにするために免疫系がインフルエンザウイルスに対する防御、この場合は中和抗体反応、を発現するのを促進する。
【0003】
新たなインフルエンザウイルス株各々についてワクチンが必要であるにもかかわらず、季節性インフルエンザに罹患している大部分の個体は、ワクチンを接種していなくても、新たなウイルスに対してある程度の免疫保護を有している。これは、新たなウイルスを生みだす突然変異の程度が比較的小さいので、個体の既存抗体の反応でも新たなウイルスに対してある程度の保護を提供することができるためである。
【0004】
より最近では、この既存抗体の反応は、インフルエンザに罹患した結果対象が重篤な疾患又は死に至る可能性を低減するために重要な役割を果たしていることが見出されている。個体の既存抗体の反応が新たなインフルエンザウイルス株を中和する能力が非常に低いか又は全くない場合、個体がこの新たな株に対して発現する本来の細胞性免疫反応が抗体反応よりも優勢になり、重篤な肺病態及び更には死に至る制御不能な炎症反応を起こす。これは、細胞及びそれに関連するサイトカインの免疫反応の調節において抗体が果たす役割に起因するものである。サイトカインは、一部は免疫細胞であり、一部は非免疫細胞である多くの様々な種類の細胞によって産生され、ウイルス感染との戦いに関与する免疫細胞の種類及び増殖速度を決定する。中和抗体反応が存在しない場合、細胞免疫反応の種類及びレベル、並びに結果として生じるサイトカイン環境の両方が変化し、著しく増加する。感染肺における細胞及びサイトカインの反応の高まりは、特徴的に炎症として定義され、これによってウイルスを完全に取り除くことができるが、最も重篤な場合は死に至る重篤な肺機能障害(例えば、浮腫、気管支収縮等)が個体において引き起こされる場合もある。
【0005】
幾つかのサイトカインが、この問題の発生に関与していることが長年知られている。TNF−α、IL−12、及びIFN−γは、上記問題に関して作用する最も重要なサイトカインのうちの3つである。サイトカインIFN−γが特に注目を集めている。非特許文献1では、IFN−γの中和が、感染後の肺組織における細胞の浸潤の規模を著しく低減させることができると認められた。3つの独立な実験において、インフルエンザウイルスに感染する前に、抗IFN−γモノクローナル抗体又はラット免疫グロブリンのいずれかでマウスを静脈内処理した。どちらの群のマウスも臨床的疾患の徴候を発現したが、同程度の速度で感染から回復したことが見出された。
【0006】
この研究及び同様の研究から、本発明者らは、IFN−γ、TNF−α、IL−12、及び他のサイトカインの抑制が、インフルエンザ及び他の病原体により生じる炎症にとって有用な治療法となり得るかどうかについて検討した。汎発流行性インフルエンザは、その性質上、それまで個体群で見出されていない特別な種類のインフルエンザウイルスである。汎発流行性インフルエンザは、既存のウイルス株の突然変異(抗原連続変異)によって生じるのではなく、季節性インフルエンザの場合と同様に、インフルエンザウイルスの遺伝的構造が著しく変化した結果(抗原不連続変異)として生じて、ヒトの間で流行したことのない新たなインフルエンザ株を生み出す。これは、トリインフルエンザ又はブタインフルエンザ等のインフルエンザウイルスが種を超えてヒト集団に感染したときに生じる場合がある。或いは、新規汎発流行性株は、遺伝子再集合と呼ばれるプロセスを通してトリ又はブタインフルエンザがヒトインフルエンザと遺伝物質を交換した結果として生じる場合がある。定義を容易にするために本明細書においては汎発流行性インフルエンザと呼ぶが、この新たな汎発流行性株は、ウイルスが重篤な疾患を引き起しながらヒトで容易に蔓延することができる場合のみ汎発流行する。
【0007】
汎発流行性ウイルスは、集団内で未だ流行したことのない完全に新規なインフルエンザ株であるので、ヒトは、それに対する既存の抗体保護を全く有していないことを特に強調したい。したがって、感染肺における細胞反応の増加に関連する上述の病理学的問題は、インフルエンザの爆発的流行中に頻発しやすい及び/又は重大である。これは、強力な反応性免疫系が容易に過剰反応する健常個体(例えば、青少年)に特に関連があり、特に急性症状を引き起こす。また、このような症状は、他の病原体、アレルゲン、及び環境刺激に対しても見出されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Baumgarth and Kelso(Journal of Virology,1996,70(7):4411−4418)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
炎症性サイトカインの果たしている主な役割に基づいて、本発明の目的は、インフルエンザ感染の進行における非常に限られた期間に生じるか、又は他の病原体による感染の進行若しくはアレルゲン及び環境刺激に対する曝露によって生じるサイトカインプロファイルを調節するための治療法を開発することにある。この治療によって、罹患組織(例えば、肺組織)における特定の免疫細胞集団の増殖及び反応の程度が低減され、延いては、汎発流行性ウイルスによる感染、又はアレルゲン及び環境刺激に対する曝露に関連する危険な臨床的合併症が最小化される。驚くべきことに、本発明者らは、感染後又は曝露後の特定の時点における特定のサイトカイン(可溶性サイトカイン受容体、並びに抗TNF−α、抗IL−12、及び抗IFN−γ抗体等を含む抗サイトカイン抗体)の産生を調節する、阻止する、遅延させる、又は低減するための剤の使用が、生存率及び罹患スコアを著しく改善することができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、感染因子の感染、並びにアレルゲン及び/又は環境刺激に対する曝露の少なくともいずれかの結果として過剰な炎症反応が生じやすい及び/又は過剰な炎症反応が生じている対象において、炎症の治療に使用する医薬品であって、(a)1以上のサイトカインの産生、活性、及び/又は作用、(b)サイトカインの標的である1以上の細胞の機能、並びに(c)サイトカインを産生する細胞及び/又はサイトカインによって活性化される細胞により引き起こされる病理学的作用の少なくともいずれかを阻止する、遅延させる、調節する、又は低減する剤を含む医薬品を提供する。
【0011】
典型的に、本発明では、サイトカインは、炎症性サイトカイン(又は炎症促進性サイトカイン)であり、炎症反応は、炎症性(又は炎症促進性)サイトカイン反応である。
【0012】
感染後又は曝露後のウイルス、細菌、真菌、アレルゲン、又は環境刺激に対する免疫反応の初期相(即ち、先天相)におけるサイトカイン反応の調節に注目した研究が多数実施されている。しかし、プラセボ処理に対して有意な効果は全く示されていない。本発明者らは、これら知見について認識していた。しかし、本発明者らは、インフルエンザウイルスの場合、典型的に感染の48時間〜96時間後(又は、ヒトでは症状発現の48時間〜96時間後)に始まる病原体に対する免疫反応の中間段階(即ち、適応応答の初期段階)においてサイトカイン反応を調節すると、プラセボ処理された動物と比べて、感染又は罹患動物の死亡率及び罹患率が有意に低減されることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下の図面を参照することにより、本発明の一例を詳細に説明する。
【図1】図1は、インフルエンザ抗原投与されたマウスと、インフルエンザ抗原投与の2日間後に本発明の剤で処理されたマウスとの生存率を示す。
【図2】図2は、各群のマウスにおける日毎の体重変化を(生存マウスの平均出発体重に対する割合として)示す。注記:マウスは、所定の体重減少及び疾患の指標に達したとき、Scientific Procedures Act 1986に従って屠殺した。
【図3】図3は、4群(A:対照、B:抗IFN−γ、C:抗TNF−α、及びD:抗IL−12)の体重減少(%)を示す。体重減少は、研究開始時(1日目)における同一群の平均体重と比較した、その群の動物の毎日の平均体重の割合として表される。
【図4】図4は、4群(A:対照、B:抗IFN−γ、C:抗TNF−α、及びD:抗IL−12)の合計罹患率を示す。合計罹患率は、各日の終わりに生存している群内の全ての動物についての全ての発病スコアの合計として表される。
【図5】図5は、4群(A:対照、B:抗IFN−γ、C:抗TNF−α、及びD:抗IL−12)の生存率(%)を示す。生存率は、研究開始時(1日目)の動物数と比較した、各日の終わりに生存している群内の全ての動物の割合として表される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述の通り、本発明は、感染因子の感染、並びにアレルゲン及び/又は環境刺激に対する曝露の少なくともいずれかの結果として過剰な炎症反応が生じやすい及び/又は過剰な炎症反応が生じている対象に関する。炎症の種類は、感染因子又はアレルゲン/刺激に依存するが、急性、亜急性、又は慢性であってもよい。炎症は、急性(例えば、好酸性)炎症であるか、又は慢性(例えば、遅延型過敏症−DTH)炎症であることが好ましい。
【0015】
感染因子、アレルゲン、及び環境刺激は、特に限定されず、過剰な炎症反応を引き起こす任意の感染因子、アレルゲン、又は刺激であってよい。したがって、感染因子は、急性及び/又は慢性炎症を誘導することができる任意の病原体であってよい。同様に、アレルゲン又は環境刺激(既知の環境刺激及び未知の環境刺激の両方を含む)は、急性及び/又は慢性炎症を誘導することができる任意のアレルゲン又は刺激であってよい。本発明の状況では、アレルゲンは、それに曝露された対象において過剰な炎症反応を引き起こす任意の物質であってもよい。同様に、環境刺激は、それに曝露された対象において過剰な炎症反応を引き起こす任意の環境条件又は環境物質であってもよい(条件は、温度、湿度、日光等の物質以外のものを全て含んでいてもよいが、一方、環境物質は、毒、化学廃棄物、放射性廃棄物等のアレルゲンになり得ると通常考えられている任意の物質を含んでいてもよい)。好ましい実施形態では、感染因子は、ウイルス、細菌、又は真菌である。より好ましくは、感染因子は、以下のうちの任意の1以上であってもよい:インフルエンザウイルス、ヘモフィルスインフルエンザ、SARSウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、連鎖球菌属、ブドウ球菌属、レジオネラ属、シュードモナス属、クレブシエラ属、バークホルデリア属、肺炎球菌属、ミコバクテリウム属、クラミジア属、ブラストミセス属、クリプトコックス属、及びアスペルギルス属。
【0016】
好ましくは、アレルゲンは、喘息を引き起こし得るアレルゲンであり、環境刺激は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を引き起こし得る刺激である。より好ましい実施形態では、感染因子、アレルゲン、又は刺激は、呼吸器において病原性炎症促進反応を誘導し得る。
【0017】
上述の通り、前記剤は、以下のうちの少なくともいずれかを阻止する、遅延させる、調節する、又は低減することによって機能することができる:(a)1以上のサイトカインの産生、活性、及び/又は作用、(b)サイトカインの標的である1以上の細胞の機能、並びに(c)サイトカインを産生する細胞及び/又はサイトカインによって活性化される細胞により引き起こされる病理学的作用。前記剤がこれら方法で効果を発揮する能力が損なわれない限り、前記剤の性質は特に限定されない。
【0018】
本発明の状況では、炎症性サイトカイン(又は炎症促進性サイトカイン)は、炎症を促進するサイトカインである。本発明は、任意のインターロイキン、任意のケモカイン、任意のTNF、及び任意のインターフェロンを含む任意の炎症性サイトカインの産生又は活性に(直接又は間接的に)影響を及ぼす剤にも及ぶ。したがって、関与しているサイトカインは、以下のうちのいずれか1以上であってもよい:
・インターロイキン
・IL−1スーパーファミリー: 1(1Ra)18 33
・IL−6様/gp130: 6、11、27、30、31(+非IL
オンコスタチンM、白血病阻止因子、毛
様体神経栄養因子、カルジオトロフィン
1)を用いる
・インターロイキンIII型: 28、29
・一般的なγ鎖ファミリー: 2/15、3、4、7、9、13、21
・IL−12ファミリー: 12、23、27、35
・その他: 5、8、14、16、17/25、(A)、
32
・ケモカイン
・CCL 1、2、3、4、5、6、7、8、9、
10、11、12、13、14、15、
16、17、18、19、20、21、
22、23、24、25、26、27、
28
・CXCL 1、2、3、4、5、6、7、8、9、
10、11、12、13、14、15、
16、17
・CX3CL 1
・XCL 1、2
・TNF
・主に TNF−α
・TNF(リガンド)スーパーファミリー 4−1BBリガンド、B細胞
活性化因子、FASリガンド
・リンホトキシン OX40L、RANKL、TRAIL
・表面抗原分類 CD70、CD153、CD154
・インターフェロン
・I α(ペグ化2a、ペグ化2b)、
β(1a、1b)
・II γ
・III 28、29
・その他
モノカイン、リンホカイン(リンホトキシン、転写因子)、成長因子、造血性(幹細胞因子、コロニー刺激因子)自己分泌型細胞運動刺激因子オステオポンチン
【0019】
本発明の特に好ましい実施形態では、関与しているサイトカインは、IFN−γ、TNF−α、及び/又はIL−12が含まれる。サイトカインは、IFN−γが特に好ましい。
【0020】
上述の通り、上記方法で効果を発揮する剤の能力が損なわれない限り、剤の性質は特に限定されない。しかし、前記剤は、抗サイトカイン(抗炎症性サイトカイン)抗体又は可溶型のサイトカイン受容体であることが特に好ましい。前記剤は、上記サイトカインのうちのいずれの標的であってもよい。したがって、前記医薬品が抗サイトカイン抗体である場合、それは上記サイトカインのいずれに対する抗体であってもよく、前記医薬品が可溶型の受容体である場合、それは上記サイトカインのいずれに対する可溶型の受容体であってもよい。しかし、前記医薬品は、抗IFN−γ抗体、抗TNF−α抗体、又は抗IL−12抗体であるか、或いは可溶型のIFN−γ受容体、TNF−α受容体、又はIL−12受容体であることが好ましい。
【0021】
抗サイトカイン抗体又は可溶性サイトカイン受容体は、(a)1以上のサイトカインの産生、活性、及び/又は作用、(b)サイトカインの標的である1以上の細胞の機能、並びに(c)サイトカインを産生する細胞及び/又はサイトカインによって活性化される細胞により引き起こされる病理学的作用の少なくともいずれかを(直接又は間接的に)阻止する、遅延させる、調節する、又は低減する効果を有することができる。しかし、典型的には、抗サイトカイン抗体又は可溶性受容体は、炎症性(炎症促進性)サイトカインの産生又は活性を直接阻止する、遅延させる、調節する、又は低減する効果を有する。抗サイトカイン抗体の場合、この効果は、サイトカインに直接結合する抗体によって媒介され、サイトカインが通常通り作用するのを阻止するが、前記抗体が、標的サイトカインと直接相互作用する免疫細胞のアポトーシスを誘導することができることは除外しない。同様に、可溶性サイトカイン受容体は、循環サイトカインが本来の標的細胞に達する前に前記循環サイトカインに結合し、中和して、サイトカインが通常通り作用するのを阻止する。これら活性のいずれかが他方よりも優れていたり、効果が高かったりする必要はないので、これらは全て、(a)炎症性サイトカインを産生する細胞又はサイトカインによって活性化される細胞によって引き起こされる病理的作用、及び(b)炎症促進性サイトカインの標的である細胞の機能の少なくともいずれかを阻止する、遅延させる、調節する、又は低減する効果を有する。サイトカインが細胞に結合することによってカスケードにおいて更により多くのサイトカインが産生されることが多く、前記結合を阻止することによってサイトカインの産生も阻止することができる。
【0022】
本発明で用いられる抗サイトカイン抗体は、特に限定されず、必要な1以上の効果を有する限り、任意の抗サイトカイン抗体であってよい。したがって、前記抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよく、必要な効果を保持している抗体断片であってもよい。前記抗体は、Remicade(登録商標)(インフリキシマブ)、Humira(登録商標)(アダリムマブ)、Cimzia(登録商標)(セルトリズマブ)又はSimponi(登録商標)(ゴリムマブ)等の認可され、市販されている抗体が好ましい。
【0023】
本発明で用いられるサイトカイン受容体は、特に限定されず、可溶性であり且つ必要な1以上の効果を有する限り、任意のサイトカイン受容体であってよい。したがって、前記受容体は、必要な効果を保持している限り、改変(可溶化)受容体であってもよく、受容体の断片であってもよく、遊離していても別の生成物又は化合物にコンジュゲートしていてもよい。これら可溶性受容体は、典型的に、自然界に存在する膜結合型の受容体の機能(即ち、サイトカイン結合能)を保持しているが、典型的に、膜結合分子の膜貫通ドメイン及び/又はシグナル伝達ドメインが欠損している。これらは、標準的な公知の組換え手段によって生成することができる。前記可溶性受容体は、Enbrel(登録商標)(エタネルセプト)等の認可され、市販されている製品であることが好ましい。
【0024】
感染に対して過剰な炎症反応が生じる対象は、特に限定されず、かかる反応が生じやすい任意の対象であってよい。同様に、炎症反応を示す対象の組織の種類は、特に限定されず、対象が曝露される感染因子、アレルゲン、又は環境刺激に依存する。好ましくは、前記組織は、肺、肝臓、腸管上皮、並びに代謝機能が変化している及び/又は感染、アレルゲン、若しくは環境因子によって誘発される炎症反応の作用によって生存力が低下している任意の組織である。最も好ましい実施形態では、前記組織は、肺組織である。例えば、インフルエンザ及び/又は喘息に罹患している対象は、典型的に、肺組織に影響が及ぼされている可能性がある。この患者分類に属する典型的な対象については、以下でより詳細に説明する。
【0025】
汎発流行性インフルエンザの場合、対象は、典型的に、健常個体であるとみなされるヒトである。一般的に、汎発流行している状況における対象は、「老人」でもなく「子供」でもない(例えば、13歳から65歳の個体、好ましくは(より一般的には)20歳から50歳の個体)。
【0026】
或いは、インフルエンザが汎発流行性インフルエンザであろうとなかろうと、対象は、呼吸困難の症状が生じている対象及び/又は呼吸困難の症状の発症時にサイトカイン量(上記サイトカインのいずれかであるが、典型的には、IFN−γ、TNF−α、及び/又はIL−12)が増加している対象である。より好ましくは、対象は、呼吸困難の症状が生じている対象及び/又はインフルエンザの症状の発症の36時間以上後(より好ましくは48時間以上後、60時間以上後、又は72時間以上後、最も好ましくは36時間後〜96時間後、48時間後〜96時間後、又は60時間後〜96時間後、又は72時間後〜96時間後)にサイトカイン量が増加している対象である。或いは、病原体が汎発流行性インフルエンザであろうとなかろうと、対象は、呼吸困難の症状が生じている対象及び/又は肺等の感染組織に適応免疫系がリクルートされ始めたとき(即ち、初期段階)にサイトカイン量が増加している対象である。
【0027】
したがって、医薬品は、上記対象に投与するのに好適な剤であることが好ましく、インフルエンザ症状の発症後における前述の時点で投与するのに好適であることが好ましい。
【0028】
したがって、本発明は、本発明の医薬品を患者に投与することを含むインフルエンザの治療方法を提供する。好ましくは、前記患者は、上記患者群のうちの1つに属する患者である。
【0029】
また、本発明は、更に、インフルエンザ症状の発症後における前述の時点のうちの任意の1以上において患者に本発明の医薬品を投与することを含むインフルエンザの治療方法を提供する。
【0030】
本発明において言及されるインフルエンザの種類は、特に限定されない。炎症促進性サイトカインの過剰発現に関連する病理学的症状を導き得る任意のインフルエンザ(例えば、A型インフルエンザ又はB型インフルエンザ)を含んでいてもよい。しかし、好ましくは、汎発流行性インフルエンザ又は病原型の季節性インフルエンザである。より好ましくは、インフルエンザは、トリインフルエンザ又はブタインフルエンザである。
【0031】
本発明は、更に、上に定義された医薬品と、更なる添加剤とを含む医薬組成物を提供する。更なる添加剤は、医薬品に一般的に添加されている任意の添加剤であってもよい。好ましくは、更なる添加剤は、賦形剤である。
【0032】
医薬組成物は、任意の投与経路用にすることができるが、好ましい実施形態では、非経口投与又は経口投与用とする。最も好ましい実施形態では、静脈内投与用とする。
【0033】
治療される対象は、特に限定されず、任意の脊椎動物であってよい。対象は、哺乳類又は鳥類が好ましく、ヒトがより好ましい。
【実施例】
【0034】
実施例1
本発明の医薬品の効果を判定するために、インビボにおけるマウスの試験を実施した。試験のために市販のウサギ抗マウスIFN−γ抗体を入手した(AbD Serotec)。マウスをA群、B群、C群、及びD群の4群に分けた。各群マウスを10匹ずつ含み、5匹が雄、5匹が雌であった。各マウスにインフルエンザウイルスA/PR/8/34を鼻腔内抗原投与し、抗原投与の2日間後に医薬品を注射した。A群には、アイソタイプ対照(ウサギIgG)0.9μgを投与した。B群には、0.9μgの投与レベルでウサギ抗マウスIFN−γを投与した。C群には、0.3μgの用量でウサギ抗マウスIFN−γを投与した。D群には、0.1μgの用量でウサギ抗マウスIFN−γを投与した。
【0035】
開始時の体重及び屠殺時の体重を含む試験結果を表1に示す。各群の生存率を図1に示し、一方、日毎の平均体重変化を(生存マウスのみについて開始時体重の割合として)図2に示す。
【表1】

【0036】
結果は、医薬品、特に高用量の医薬品を投与されたマウスの生存率が上昇したことを明らかに示す。対照群では、生存していたマウスはいなかったが、高用量の2群では、10匹のうち2匹及び3匹のマウスが生存していた。
【0037】
実施例2−抗サイトカイン抗体で処理した後にインフルエンザA/PR/8/34を致死的に抗原投与されたマウスにおける死亡率及び罹患率の低下
プロトコール
48匹のC57BL/6雌マウス(6週齢〜7週齢)を、各々12匹のマウスを含む4つの実験群に分けた。
【0038】
1日目、致死量(合計50μL、各鼻孔25μLずつ)のインフルエンザA/PR/8/34を動物に鼻腔内投与した。
【0039】
3日目、以下の試験薬を動物に単回腹腔内注入(100μL)投与した:
・A群:ネガティブコントロールのモノクローナル抗体(61μg)
・B群:抗IFN−γモノクローナル抗体(2.4μg)
・C群:抗TNF−αモノクローナル抗体(58μg)
・D群:抗IL−12モノクローナル抗体(9μg)
【0040】
試験した全ての用量は、サイトカイン反応をなくすのではなく低減する、即ち、ウイルスに対する免疫反応を完全にブロックするのではなく調節することを意図していた。
【0041】
6日目まで、死亡率、体重減少、及び生存率について全てのマウスを毎日評価した。以下の重篤度スケール:正常(0)、軽度(1)、重症(2)、及び重篤/屠殺点(3)に従って、発病変数(即ち、体調、体位、運動、立毛、呼吸、啼鳴、歩行失調、眼脂/鼻汁)を記録した。
【0042】
それぞれ、マンホイットニーのノンパラメトリック分析及びフィッシャーの直接検定を用いて、体重及び生存率の統計的な差を立証した。
【0043】
結果
図3は、A群、B群、C群、及びD群の4群の体重減少(%)を示す。体重減少は、研究開始時(1日目)における同一群の平均体重と比較した、その群の動物の毎日の平均体重の割合として表される。
【0044】
図4は、A群、B群、C群、及びD群の4群の合計罹患率を示す。合計罹患率は、各日の終わりに生存している群内の全ての動物についての全ての発病スコアの合計として表される。
【0045】
図5は、A群、B群、C群、及びD群の4群の生存率(%)を示す。生存率は、研究開始時(1日目)の動物数と比較した、各日の終わりに生存している群内の全ての動物の割合として表される。
【0046】
結果は、致死量の抗原投与後3日目に抗TNF−α及び抗IL−12で処理したところ、有意に(p<0.05)感染動物の生存率が改善され、且つ体重減少が低減され、それに加えて、動物の臨床スコア及び全身健康状態も改善されたことを示す。また、4日目には感染のために対照動物の80%超が死亡したという事実によって明らかに示されているように、処理することによって、感染動物が24時間以内の死亡から文字通り救われたことも指摘すべき重要な点である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染因子の感染、アレルゲンに対する曝露、及び環境刺激に対する曝露の少なくともいずれかの結果として過剰な炎症反応が生じやすいか、過剰な炎症反応が生じているか、又は過剰な炎症反応が生じやすく且つ過剰な炎症反応が生じている対象において炎症の治療に使用する医薬品であって、(a)1以上のサイトカインの産生、活性、及び作用の少なくともいずれか、(b)サイトカインの標的である1以上の細胞の機能、並びに(c)サイトカインを産生する細胞及びサイトカインによって活性化される細胞の少なくともいずれかによって引き起こされる病理学的作用の少なくともいずれかを阻止する、遅延させる、調節する、又は低減する剤を含むことを特徴とする医薬品。
【請求項2】
炎症が、急性炎症、亜急性炎症、又は慢性炎症である請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
炎症が、好酸性炎症であるか、又は遅延型過敏症(DTH)炎症である請求項2に記載の医薬品。
【請求項4】
サイトカインが産生及び活性化の少なくともいずれかを行う細胞によって引き起こされる病理学的作用が、急性呼吸不全症候群(ARDS)、呼吸不全症候群(RDS)、又は急性肺傷害(ALI)である請求項1から3のいずれかに記載の医薬品。
【請求項5】
感染因子が、インフルエンザウイルス、ヘモフィルスインフルエンザ、SARSウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、連鎖球菌属、ブドウ球菌属、レジオネラ属、シュードモナス属、クレブシエラ属、バークホルデリア属、肺炎球菌属、ミコバクテリウム属、クラミジア属、ブラストミセス属、クリプトコックス属、及びアスペルギルス属から選択される請求項1から4のいずれかに記載の医薬品。
【請求項6】
アレルゲンが、喘息を引き起こし得るアレルゲンである請求項1から4のいずれかに記載の医薬品。
【請求項7】
環境刺激が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を引き起こし得る刺激である請求項1から4のいずれかに記載の医薬品。
【請求項8】
サイトカインの産生、活性、及び作用の少なくともいずれかを阻止する、遅延させる、調節する、又は低減するための剤が、抗サイトカイン抗体及びこれら抗体のサイトカイン中和部分から選択される請求項1から7のいずれかに記載の医薬品。
【請求項9】
抗体のサイトカイン中和部分が、Fab断片である請求項8に記載の医薬品。
【請求項10】
抗サイトカイン抗体及びこれら抗体のサイトカイン中和部分の少なくともいずれかが、ポリペプチド又は組換えDNAコンストラクトとして送達され得る請求項8又は9に記載の医薬品。
【請求項11】
サイトカインの産生、活性、及び作用の少なくともいずれかを阻止する、遅延させる、調節する、又は低減するための剤が、可溶型のサイトカイン受容体である請求項1から7のいずれかに記載の医薬品。
【請求項12】
サイトカインの産生、活性、及び作用の少なくともいずれかを阻止する、遅延させる、調節する、又は低減するための剤が、ポリペプチド又は組換えDNAコンストラクトとして送達され得る請求項11に記載の医薬品。
【請求項13】
サイトカインが、IL−1スーパーファミリーのメンバー;IL−2;IL−6;IL−8;IL−12;IL−23;インターフェロン、好ましくは、αインターフェロン、βインターフェロン、及びγインターフェロンの少なくともいずれか;TNF、好ましくはαTNF及びβTNFの少なくともいずれか;GM−CSF;CCL;CXCL;CX3CL;XCL;並びにリンホトキシンの少なくともいずれかから選択される請求項1から12のいずれかに記載の医薬品。
【請求項14】
サイトカインが、IFN−γ、TNF−α、又はIL−12である請求項1から13のいずれかに記載の医薬品。
【請求項15】
感染、アレルゲン、又は環境刺激に対する過剰な炎症反応が生じやすいか、過剰な炎症反応が生じているか、又は過剰な炎症反応が生じやすく且つ生じている対象が、感染又は曝露の48時間後から感染又は曝露組織における炎症促進性サイトカイン及び炎症性細胞の少なくともいずれかの量の著しい増加を示す請求項1から14のいずれかに記載の医薬品。
【請求項16】
組織が、肺組織を含む請求項15に記載の医薬品。
【請求項17】
過剰な炎症反応が生じやすい対象が、13歳〜65歳のヒト対象である請求項1から16のいずれかに記載の医薬品。
【請求項18】
剤が、感染又は曝露の48時間以上後に対象に投与するのに適しているか、又は病理学的症状の発症後、好ましくは重篤な病理学的症状の発症後の任意の段階で対象に投与するのに適している請求項1から17のいずれかに記載の医薬品。
【請求項19】
感染因子が、汎発流行性インフルエンザである請求項1から18のいずれかに記載の医薬品。
【請求項20】
インフルエンザが、トリインフルエンザ又はブタインフルエンザである請求項19に記載の医薬品。
【請求項21】
(a)請求項1から20のいずれかに記載の医薬品と、
(b)更なる添加剤と
を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項22】
更なる添加剤が、賦形剤である請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
非経口投与、鼻腔内投与、又は経口投与用にされた請求項20又は21に記載の医薬組成物。
【請求項24】
静脈内投与用にされた請求項21又は22に記載の医薬組成物。
【請求項25】
請求項1から24のいずれかに記載の医薬品又は医薬組成物を対象に投与することを含むことを特徴とするインフルエンザの治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−530755(P2012−530755A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516692(P2012−516692)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058788
【国際公開番号】WO2010/149641
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(508240111)ペプトセル リミテッド (6)
【Fターム(参考)】