説明

医薬用放射性イットリウム並びにその製造方法及び装置

【課題】生体内分布の情報を得るための薬剤の投与と治療目的のための薬剤の投与を2回に分けて行うような治療を1種類の医薬を利用するだけで可能とし、その診断と治療にかかる放射性医薬の価格を安価とし、さらに生体内分布の情報を正確に得ることができる医薬の製造に寄与できる医薬用放射性イットリウムを提供する。
【解決手段】基底状態に加え682keVの励起エネルギーを有する90Yもしくは556keVの励起エネルギーを有する91Yからなり、診断及び治療の両方の目的のために又は診断目的のために投与できる医薬に用いられることを特徴とする医薬用放射性イットリウム。
上記医薬用放射性イットリウムは、濃縮あるいは非濃縮の90Zr、91Zr、92Zr又は93Nbを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、特定の反応を起させることにより生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性医薬の製造に使用される医薬用放射性イットリウム並びにその製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核医学に利用される放射性同位元素90Yは90Sr/90Yジェネレータと称される90Srのベータ崩壊生成物が利用される。90Srは原子炉内における235Uの核分裂反応で大量に生成され、しかもその半減期は28.8年と長い。図1(非特許文献1)に原子炉内で235Uの核分裂反応で生成される核種の生成量分布を示す。90Srは左側のピークの近傍となっている。90Srは半減期が長いため、この核特性を生かしたミルキング法により長期にわたり90Yが作られ、利用されている。
【0003】
ところで、90Srは100%が90Yの基底状態にベータ崩壊し、90Yは半減期64時間で100%が90Zrの基底状態にベータ崩壊する。90Yは最大エネルギー2280keVのベータ線を放出することが知られている。
【0004】
90Yの放出するベータ線を利用して癌治療を行うべく90Yを含む放射性標識治療薬イブリツモマブチウキセタン(商品名ゼバリン)が創製され、これを用いた治療が世界中で行われている。
【0005】
ゼバリンによる治療は、(1)生体内分布の事前の確認を行う治療薬の投与と、(2)ベータ線照射による治療目的での治療薬の投与によって行われ、2回の投与は約1週間ほど間をおいて行われる。
【0006】
ところが、90Sr/90Yジェネレータで生成される90Yはベータ線のみしか放出せずガンマ線を放出しないため、90Yのみの標識化合物を生体に注射しても生体内分布の情報を得るための画像撮影ができない。そのため、1回目の投与には111Inを含むゼバリンインジウムが使用され、2回目の投与には90Yを含むゼバリンイットリウムが使用される。111Inは半減期2.8日で111Cdにベータ崩壊し、その際に171keV及び245keVのエネルギーを有するガンマ線が放出される。このガンマ線を検出して画像撮影が行われる。111Inはサイクロトロンで作られる。因みにこれら医薬品は受注生産され、わが国では現在、1セット約430万円と極めて高価である。
【0007】
また、90Y医薬品が投与されたときの生体内における生物学的挙動と、111In医薬品が投与されたときの生体内における生物学的挙動が異なり、結果として90Yと111Inとの間に分布濃度の位置的不一致があるとする研究結果が報告されている(非特許文献2)。両者の間に分布濃度の位置的不一致があれば、111In医薬品を用い生体内分布をガンマカメラで撮像する意義を失わせるものであり、深刻な問題である。
【0008】
そのため、90Y医薬品のみで画像を撮るために、90Yからベータ線が放出される際の制動輻射を利用する試みがなされている(非特許文献3)。しかし、不連続ガンマ線とは異なり制動輻射は連続エネルギー分布を持つため病巣部以外の健康な箇所に吸収された90Yによる(バックグラウンドとなる)制動輻射との識別が困難である。更にベータ線が放出する制動輻射の割合は低く、そのため精度の良い画像を得るためには、使用する90Yの量を多くしなければならない。これは生体の正常組織への被爆の観点から好ましくない。
【0009】
一方、ゼバリンイットリウムに使用される90Yの親核種である90Srは、上述したように、原子炉で235Uの核分裂反応により生成される。すなわち、この放射性同位元素(RI)は、現在、235Uを36%〜93%程度濃縮した高濃縮ウランを原料として、それを原子炉で中性子照射して核分裂反応させ、その核分裂生成物の中のRIを抽出することにより製造されている。この濃縮ウランを用いる方法は、特に核不拡散の観点から好ましいもので無いので国際原子力機関(IAEA)等はそのウラン235U濃縮度が20%以下の低濃縮ウランを用いる技術に切替えるための働きかけを世界各国に行っており、その技術開発が世界中で進められている。しかし、30年に及ぶ働きかけにもかかわらず世界のほとんどのRIは未だ高濃縮ウランを使用して生成されている。一方、ウラン濃縮度を20%以下にした低濃縮ウランをRI製造用の原料に用いると、プルトニウムの生成量が約25倍に増えてしまうという問題が新たに生じる。
【0010】
また、わが国では治療薬に用いる90Srは製造されておらず、海外からの輸入に頼っているのが実情である。このように90Sr/90Yジェネレータに用いる90Srを他国からの輸入に頼っていると、他国の国内事情や原子炉の老朽化、メンテナンス、トラブル等により、安定した供給体制が維持できないことも予想され、その安定供給は重要かつ緊急な課題となってきている。とりわけ、わが国が大半のRIの輸入先として頼っているカナダにおいては、その供給のための原子炉が2011年に運転許可期限に達することが決まっている。それ以降については、世界的視点・長期的視点に立った現実的計画はどこにも全く存在していない。米国や欧州においてもRIの安定供給が切望されているが、それに対応できる現実的体制はまだとられておらず、早急にその体制確立が必要となってきている。また、RIの大半を海外からの輸入に依存すると、医療等で使用されるRIの価格が高騰し、ひいては医療費全体の高騰の一因となってしまう。
【0011】
また、原子炉で235Uを核分裂させた場合、図1に示したように所望のRI以外に様々な核種が生成され、必要でない生成核廃棄物の保存、管理、処理等が膨大になり且つ非常に煩わしいものとなっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Nuclear Physics A462 (1987) 85-108 North-Holland, Amsterdam
【非特許文献2】Y. Naruki et al., Nucl. Med. Biol, 17, 201 (1990)
【非特許文献3】S. Ito et al., Ann Nucl Med (2009) 23, 257-267
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上のような従来技術の問題を解消し、生体内分布の情報を得るための薬剤の投与と治療目的のための薬剤の投与を2種類のRIを用い行ってきた診断・治療を1種類のRIを含む治療薬を利用するだけで可能とし、治療部位の特定を格段に正確に行うと共にその治療にかかる放射性医薬の価格を安価とする医薬の製造に寄与できる医薬用放射性イットリウムを提供することを課題とする。更に、診断と治療を行うに足る医薬用放射性イットリウムを提供する場合のみでなく、90Sr/90Yジェネレータで生成される90Yが多量にあり容易に入手できる場合には診断用のみに特化した医薬用放射性イットリウムを提供することを課題とする。
【0014】
また、本発明は、そのような医薬用放射性イットリウムを、濃縮ウランを使用せず、原子炉施設を利用せず、放射性廃棄物を多量に発生させることなく、効率よく廉価にかつ簡便に安定供給できる方法及び装置を提供することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明は、以下の技術的手法ないし手段を提供する。
【0016】
先ず診断と治療を行うに足る医薬用放射性イットリウムを提供する場合について述べる。
【0017】
〔1〕90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなり、診断及び治療の両方の目的のために投与できる医薬に用いられることを特徴とする医薬用放射性イットリウム。
【0018】
〔2〕濃縮90Zrあるいは90Zrを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応を起させ、90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造方法。
【0019】
〔3]濃縮91Zrあるいは91Zrを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する(n,np)反応を起させ、90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造方法。
【0020】
〔4〕93Nbを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個のHeを放出する(n,He)反応を起させ、90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造方法。
【0021】
次いで90Sr/90Yジェネレータで生成される90Yが既に多量にある場合診断用のみに特化した医薬用放射性イットリウムを提供する場合について述べる。
【0022】
〔5〕682keVの励起エネルギーを有する90Yからなり、診断の目的のために投与できる医薬に用いられることを特徴とする医薬用放射性イットリウム。
【0023】
〔6〕濃縮90Zrあるいは90Zrを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応を起させ、682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造方法。
【0024】
〔7〕濃縮91Zrあるいは91Zrを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する(n,np)反応を起させ、682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造方法。
【0025】
〔8〕93Nbを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個のHeを放出する(n,He)反応を起させ、682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造方法。
【0026】
〔9〕556keVの励起エネルギーを有する91Yからなり、診断目的のために投与できる医薬に用いられることを特徴とする医薬用放射性イットリウム。
【0027】
〔10〕濃縮91Zrあるいは91Zrを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応を起させ、556keVの励起エネルギーを有する91Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造方法。
【0028】
〔11〕濃縮92Zrあるいは92Zrを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する(n,np)反応を起させ、556keVの励起エネルギーを有する91Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造方法。
【0029】
〔12〕上記のいずれかの製造方法の発明において、原料ターゲットを加速器の高速中性子出射部に密着させた状態で又は離間させた状態で中性子を原料ターゲットに照射することを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造方法。
【0030】
〔13〕高速中性子を発生させる加速器と、濃縮90Zrあるいは90Zrを含む原料ターゲットを支持するターゲット支持手段を備え、加速器からの高速中性子を原料ターゲットに照射し、1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応を起させ、90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造装置。
【0031】
〔14〕高速中性子を発生させる加速器と、濃縮91Zrあるいは91Zrを含む原料ターゲットを支持するターゲット支持手段を備え、加速器からの高速中性子を原料ターゲットに照射し、1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する(n,np)反応を起させ、90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造装置。
【0032】
〔15〕高速中性子を発生させる加速器と、93Nbを含む原料ターゲットを支持するターゲット支持手段を備え、加速器からの高速中性子をターゲットに照射し、1個の中性子の照射により1個のHeを放出する(n,He)反応を起させ、90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造装置。
【0033】
〔16〕高速中性子を発生させる加速器と、濃縮91Zrあるいは91Zrを含む原料ターゲットを支持するターゲット支持手段を備え、加速器からの高速中性子を原料ターゲットに照射し、1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応を起させ、556keVの励起エネルギーを有する91Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造装置。
【0034】
〔17〕高速中性子を発生させる加速器と、濃縮92Zrあるいは92Zrを含む原料ターゲットを支持するターゲット支持手段を備え、加速器からの高速中性子を原料ターゲットに照射し、1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する(n,np)反応を起させ、556keVの励起エネルギーを有する91Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造装置。
【0035】
〔18〕上記いずれかの製造装置の発明において、原料ターゲットが、加速器の高速中性子出射部に密着させた状態又は離間させた状態にセットされていることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造装置。
【0036】
〔19〕上記いずれかの製造装置の発明において、加速器の高速中性子出射部が冷却手段を備え、かつ該高速中性子照射部が真空室と大気側の隔壁機能を有し、かつ該高速中性子照射部に原料ターゲットが密着させた状態でセットされていることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造装置。
【発明の効果】
【0037】
本発明の医薬用放射性イットリウムの1つである680keVの励起エネルギーを有する90Yは、半減期が3.2時間であり、励起状態から基底状態となる際に480keV及び202keVの不連続エネルギーのガンマ線を夫々91%及び97%の分岐強度で放出し、又本発明の別の医薬用放射性イットリウムの1つである556keVの励起エネルギーを有する91Yは、半減期が0.83時間であり、励起状態から基底状態となる際に556keVの不連続エネルギーのガンマ線を95%の分岐強度で放出するため、この不連続ガンマ線を利用して薬剤の生体内分布の撮像を制動輻射を利用する場合に比べ、バックグランドとの識別を高感度でしかも生体に放射線被爆の低い低線量の90Yを用い行うことができる。更に治療薬に使用される90Yの基底状態のものも製造される。一方、90Sr/90Yジェネレータで生成される治療用の90Yが既に多量にある場合には診断用に特化した医薬用放射性イットリウムを提供することが可能となる。したがって、従来のように生体内分布の情報を得るための薬剤と治療目的のための薬剤という2種類のRIを含む治療薬を投与する必要がなく、1種類のRIを含む医薬で診断と治療を行うことが可能となり、生体内分布の情報を格段に正確に求めることができる医薬の製造に寄与することが可能となる上、診断・治療にかかる医薬の価格を安価にできる有利性がある。
【0038】
また、本発明の医薬用放射性イットリウムの製造方法及び装置は、加速器からの高速中性子を使用しているので、濃縮ウランを使用せず、原子炉施設を利用せず、効率良く廉価に医薬用放射性イットリウムの安定供給が可能となる。さらに、核燃料物質の規制を受ける必要がなく、小型化できる利点がある。さらにまた、1種類の医薬での診断・治療を可能にすることから、RIの製造に従来のように2種の装置を用いることなく、1種の装置の使用で医薬用放射性イットリウムの製造が可能となる。また原料ターゲットは、それが大気中にセットできるため、RI製造後に行われる化学精製を容易とする多様な形状(固体、液体、気体を問わず)のターゲットが利用できる大きな利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】原子炉で235Uの核分裂で生成される核種の生成強度分布を示す図である。
【図2】(a)は90Zrを含む天然Zrに64時間にわたり高速中性子を照射したときに種々の反応が起こり、特に(n,p)反応により90Yの基底状態90gYに加えて682keVの励起エネルギーを有する90mYが生成されるときの高速中性子エネルギーと90gY及び90mYの生成量との関係を示すグラフ、(b)は93Nbに64時間にわたり高速中性子を照射したときに種々の反応が起こり、特に(n,He)反応により90Yの基底状態90gYに加えて682keVの励起エネルギーを有する90mYが生成されるときの高速中性子エネルギーと90gY及び90mYの生成量との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態による医薬用放射性イットリウム製造装置を模式的に示す図である。
【図4】本発明の別の実施形態による医薬用放射性イットリウム製造装置の要部を模式的に示す図である。
【図5】本発明による医薬用放射性イットリウムの製造手順を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0041】
本発明の医薬用放射性イットリウムは、90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなり、診断及び治療の両方の目的のため、あるいは診断目的に特化した医薬に用いられることを特徴とするものである。
【0042】
また、本発明の別の医薬用放射性イットリウムは、556keVの励起エネルギーを有する91Yからなり、診断目的に特化した医薬に用いられることを特徴とするものである。
【0043】
本発明の医薬用放射性イットリウム90Yには、半減期が3.2時間の、励起状態から基底状態となる際に202keVと480keVのエネルギーのガンマ線を放出するものがある。また、基底状態の90Yは半減期64時間で100%が90Zrの基底状態にベータ崩壊し、その際、最大2280keVのベータ線を放出する。したがって、本発明の医薬用放射性イットリウム90Yを医薬の製造に使用することにより、この90Yが励起状態から基底状態となる際に放出するガンマ線をガンマカメラで測定しこの医薬品の生体内分布の情報を正確に得ることができ、また、基底状態の90Yが基底状態の90Zrにベータ崩壊する際に放出するベータ線を治療目的のため使用することができ、2種類のRIを含む薬剤投与による診断と治療を1種類のRIを含む薬剤投与で行うことが可能となる。本発明の医薬用放射性イットリウムは、90Sr/90Yジェネレータで生成される治療用の90Yが既に多量にあり容易に入手できる場合には、診断用のみに特化させたものとして使用することができる。また、91Yも同様である。
【0044】
本発明の医薬用放射性イットリウム90Yは、診断及び治療のために、又は診断のみのために、また91Yは診断のみのために、タンパク質、例えば抗体に放射ラベル化することで有効に使用される。即ち、励起状態にある90Yないし91Yは腫瘍を可視化するためのガンマエミッターとして、そして基底状態にある90Yは細胞殺傷効果を果たすベータエミッターとして放射ラベル化される。
【0045】
90Yないし91Yによる放射ラベル化は従来公知の各種の方法に従って行うことができる。例えば抗体やベプチドの放射ラベル化においては、二官能基のキレーターとタンパク質や抗体との結合体を作製した後に、二官能基キレーターを介してこの結合体と放射ラベルの本発明90Yないし91Yとを結合することができる。例えば特表2002−538164号公報、特表2006−511532号公報にも記載されているように、二官能基キレーターとしてのジエチレントリアミンペンタアセチック酸キレーター(DTPA)、MX−DTPA、フェニル−DTPA、ベンジル−DTPA、NOTA、TETA、DOTA等を利用することができる。
【0046】
もちろん、放射ラベル化のための手法についてもよく知られている方法を参照することができる。
【0047】
本発明の医薬用放射性イットリウム90Yないし91Yは、濃縮ウランを使用せず、原子炉施設を利用せず、加速器からの高速中性子を利用して、次の方法で製造することができる。
【0048】
(A)濃縮90Zrあるいは90Zrを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応を起させ、90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させる。
【0049】
(B)濃縮91Zrあるいは91Zrを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する(n,np)反応を起させ、90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させる。
【0050】
(C)93Nbを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個のHeを放出する(n,He)反応を起させ、90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させる。
【0051】
(D)濃縮91Zrあるいは91Zrを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応を起させ、556keVの励起エネルギーを有する91Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させる。
【0052】
(E)濃縮92Zrあるいは92Zrを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する(n,np)反応を起させ、556keVの励起エネルギーを有する91Yからなる医薬用放射性イットリウムを生成させる。
【0053】
本発明において、高速中性子とは、0.1MeV以上のエネルギーを有する中性子のことを意味するが、Zrターゲットの場合は6MeV以上のエネルギーで、またNbターゲットの場合は3MeV以上のエネルギーで90Yと91Yを含むイットリウム同位体が生成される。しかし、長半減期である91Yの基底状態生成量が90Yの基底状態生成量に比べ少ないほうが良いので、濃縮Zrターゲットで64時間照射する場合は3.5MeVから20MeV程度が、非濃縮Zrターゲットの場合は3.5MeVから15MeV程度が、またNbターゲットで64時間照射する場合は3MeVから17MeV程度のエネルギーであることが好ましい。
【0054】
また、本発明で用いる原料ターゲットは、例えば、Zrターゲットは酸化ジルコニウム(ZrO)あるいは四塩化ジルコニウム(ZrCl)が、そしてNbターゲットは一酸化ニオブ(NbO)、五酸化ニオブ(Nb)あるいは五塩化ニオブ(NbCl)が好ましい。
【0055】
本発明が対象とする90Zr、91Zr、92Zr及び93Nbを含む原料ターゲットでは(n,p)反応、(n,He)反応、(n,np)反応における反応断面積が大きく、効率よく放射性同位元素が得られる。また、本発明によれば、所望の放射性同位元素を、原子炉を使用する場合のように多量の放射性廃棄物を生成させることなく、低放射能化を図って製造可能とすることができる。
【0056】
図2(a)、(b)に、例示として、それぞれ天然Zrと93Nbをターゲット核とする原料ターゲットに高速中性子を照射したときの中性子エネルギーと90gY及び90mYの生成量の評価値をグラフで示す。図2より、本発明の対象とする原料ターゲットに高速中性子を照射した場合、中性子エネルギーの値によって(n,p)反応、(n,He)反応等が優位となり、90gY及び90mYについて大きな生成量を有することが分かる。
【0057】
本発明では、放射性同位元素を製造するために、原子炉を利用しないで、高速中性子を、小型加速器を用いて発生し、原料ターゲットに照射する。このようにすると、原子炉を使用する場合に比べ、多量の放射性廃棄物を生成させることなく、低放射能化を図ることができる。
【0058】
高速中性子を発生させる小型加速器は、例えば市販の小型加速器を用いてもよいし、本出願人の設備である日本原子力研究開発機構核融合中性子工学用中性子源施設(FNS)のようなD−T中性子源等の施設を使用してもよい。
【0059】
中性子発生用加速器では、例えば重水素(H)ビームを3重水素(H)に照射して、次の反応で高速中性子をヘリウム(He)とともに生成することができる。
【0060】
H+H→He+n
この反応で生成される中性子エネルギー(En)は次の関係式で与えられる。
【0061】
4En=Ed+2{2×Ed×En}1/2×cosθ+3Q
ここでEdは重水素エネルギー、Qは反応の閾値でQ=17.6MeVである。θは生成される中性子が入射重水素となす角度である。この式より、例えば0.35MeVの低エネルギー重水素を用いると14MeVの高速中性子が得られることが分かる。また、現在六ヶ所村に建設中の国際核融合材料照射施設(IFMIF)では金属リチウムに重水素を照射して高強度の高速中性子を生成する。その他、大強度陽子加速器では核破砕反応で発生する高速中性子を利用することも考えられる。さらに、金属Beに陽子や重水素を照射して高速中性子を発生させることもできる。
【0062】
また、金属Li(リチウム)に陽子を照射して中性子を発生させる場合、この反応で生成される中性子エネルギー(En)は次の関係式で与えられる。
【0063】
En=Ep×(7/8)−Q(MeV)
ここでEpは陽子エネルギー、Qは反応の閾値でQ=1.88MeVである。この式より、例えば25MeVの高エネルギーの陽子を用いると20MeVの高速中性子が得られることが分かる。なお、上記のように生成される中性子はほとんどが陽子ビーム方向に放出されるので、ターゲットはビーム軸方向にセットすることが大切である。
【0064】
図3に、本発明の一実施形態に係る放射性同位元素の製造装置を模式的に示す。
【0065】
図において、1は高電圧電源、2は電源ケーブル、3は加速器頭部(中性子源)、4は冷却系、5は例えばCu等からなる冷却部材、6は原料ターゲット、7はターゲット支持枠あるいは試料容器、8はターゲット支持台、9は放射線遮蔽が施された医薬用放射性イットリウム(以下、RIとも称する)収容容器である。
【0066】
RIの生成効率は図3(a)のように、原料ターゲット6を加速器頭部3の高速中性子出射部に密着された場合が大きくなる。この場合、加速器頭部3の高速中性子出射部に冷却部材5を介して原料ターゲット6あるいはそれを収容する試料容器7を密着させる。この場合、高速中性子出射部に設けられた冷却部材5は、加速器頭部3の真空室と原料ターゲット6のある大気側の隔壁機能を有することとなる。また、ケースによっては、図3(b)に示すように、原料ターゲット6を加速器頭部3の高速中性子出射部から10mm程度までの距離離間させてもよく、この距離は限定的なものではない。
【0067】
高電圧電源1は、上記中性子生成反応で多量の中性子を生成するために、例えば重水素ビームを0.35MeV程度のエネルギーとするための高電圧を出力する。電源ケーブル2は、高電圧電源1の高電圧を加速器頭部3に印加するためのものである。加速器頭部3にはCu等の熱伝導性に優れた金属板上に、3重水素を吸蔵させたチタン等の板状体が設けられたものがセットされ、加速器頭部3は、上記中性子生成反応を起し、多量の中性子を生成する役割をする。冷却系4は、重水素ビームで照射される金属板中の3重水素が熱拡散するのを防ぐべく冷却配管5により金属板を冷却する役割をする。冷却は水冷等により行う。金属板は固定式のものでもよく、回転式のものでもよい。
【0068】
元素ターゲット6としては、90Zrをターゲット核種とする場合には天然のターゲット元素(存在比51.5%)あるいはターゲット元素の天然存在比以上に濃縮したものを酸化物粉末等としたもの、あるいはこの粉末としたものを高密度に圧縮成型し、ペレット化したもの(かさ密度60%以上)を用いることができる。また、93Nbをターゲット核種とする場合、その天然存在比は100%であるため、濃縮せずそのまま使用することができる。濃縮したターゲット元素を用いる場合、その前処理として電磁分離回収法等を施す必要がある。ターゲット元素酸化物等の粉末としたものを用いる場合には石英管に密封し、さらにアルミニウム系の金属製照射容器に密封封入する必要がある。ターゲット元素酸化物等の粉末をペレットにしたものを用いる場合には直接金属製照射容器に密封封入する。この金属製照射容器が試料容器8である。さらに、ターゲット元素金属もターゲットとして使用できる。ただし、この場合、ターゲット元素金属抽出に硝酸等による溶解が必要となる。
【0069】
原料ターゲット6としてペレット化したものを用いる場合、その寸法としては例えば直径10mm、厚み0.5mmのものを用いることができるが、もちろん、これは一例であってこれに限定されるものではなく、高速中性子の照射エネルギーや収率等を考慮して適宜の形状、寸法とすることができる。その場合、あまり原料ターゲット6の厚みが厚すぎると、中性子散乱の問題が生じ、生成効率が低下するため、その点を考慮する必要がある。加速器頭部3から中性子は全方位方向に放射され、中性子束(個/cm・秒)は1/rで低下する。このため、加速器頭部3の中性子出射部に原料ターゲット6を密着させた構成の場合にRIの生成効率が最大となる。ケースによっては、原料ターゲット6を加速器頭部3の中性子出射部から離間させてもよく、その場合、通常10mm程度までの距離離間させるが、これに限らない。
【0070】
ターゲット支持枠あるいは試料容器7には、原料ターゲット6が固定されるか、収容されるようになっている。ターゲット支持台8は、ターゲット支持枠あるいは試料容器7を固定する役割をする。RI収容容器9は、放射線遮蔽体を備え、生成されたRIはこの中に入れて、実験室から取出し、所要の場所に運搬、移動させる。なお、RI収容容器9以外の各部材も、必要に応じて放射線遮蔽を行う。
【0071】
上記のような構成の装置によりターゲットに中性子を照射するが、その照射時間は生成する核種の半減期を考慮して設定する。本発明では、加速器からの高速中性子を用いるため、核分裂を利用しないことから多量の放射性廃棄物が発生せず、また反応断面積の比較的大きな(n,p)反応、(n,He)反応、(n,np)反応を利用しているため、高効率で所望のRIを安定供給することが可能となる。さらに、装置構成も市販の加速器を利用し非常に小型化できるため、簡便にかつ安定して医薬用放射性イットリウムを製造、利用することが可能となる。
【0072】
次に、本発明の別の実施形態について述べる。
【0073】
図4は、本発明の別の実施形態に係る医薬用放射性イットリウム製造装置の要部を模式的に示す図で、(a)は重水素ビーム進行方向に垂直な方向から見た模式図で中性子出射部と原料ターゲットが密着している場合、(b)は中性子出射部と原料ターゲットが離間している場合、(c)は重水素ビーム進行方向から見た模式図である。
【0074】
図中11は重水素ビーム、12は直方体状の真空ビーム管、13は3重水素(トリチウム)を吸着したチタン膜を有する銅板、14はターゲット試料、15は冷却部材である。冷却部材15は銅板13と一体になっていてもよく、この場合、銅板13は内壁と外壁を有し、内壁(真空室側)の銅板13の表面には、3重水素を吸着したチタン膜が設けられ、外壁(大気側)の銅板の表面には、ターゲット試料14が密着配置されるか、離間配置され、内壁と外壁の間の空間を水等の冷却媒体が通過するようになっている。
【0075】
重水素()ビーム11を3重水素(H)に照射して生成される高速中性子は、大量の中性子が重水素ビーム11の入射方向に関係なくほぼ全空間に等方的に放出される特性を持つ。このため限られた中性子利用時間で生成された中性子を最大限に利用するため以下のようにターゲット試料14を配置する。ターゲット試料14としては、90Zrの場合は天然のターゲット元素あるいは濃縮したターゲット元素の酸化物等のパウダーを圧縮して固化・焼結させたペレット状のものを使用してもよい。93Nbの場合は天然のターゲット元素あるいはその酸化物等のパウダーを圧縮して固化・焼結させたペレット状のものを使用してもよい。
【0076】
3重水素含有チタン膜が設けられた銅板13に照射される高強度の重水素ビーム11がチタンの温度を上げて3重水素が熱拡散することを防ぐため、3重水素含有チタン膜を有する銅板13は冷却部材15により冷却する。与えられた冷却能力の範囲でより高強度の重水素ビーム11を使用するためにはこの重水素ビーム11により与えられる単位面積当りの熱負荷を減少させることが考えられる。そのため、重水素ビーム11の大きさは通常の5mm直径から加速器のビーム輸送の方式を変えて例えば10mm直径にする。この結果、単位面積当りの熱負荷は1/4に減じ従来の重水素ビームの4倍の強度までにすることができ、その結果生成される中性子も4倍の量利用できる。また、高速中性子は全空間に等方的に放出されることから、ターゲット試料14は、重水素ビーム11の前方だけでなく、図4(c)のようにセットする。
【0077】
重水素ビーム11は、直方体である真空ビーム管12により真空が保たれているビーム輸送系を経て、3重水素含有チタン膜を有する銅板13に照射される。そしてH→He+n反応で生成された高速中性子は、冷却部材15(銅板13)の大気側に配置された(最近接距離)ターゲット試料14に照射される。一方、3重水素含有チタン膜を有する銅板13に直角に入射する重水素ビーム11に対し後方に放出される高速中性子を効率的に利用すべく、高速中性子生成箇所に近接する真空ビーム管(直方体)12の4面を加工し、ターゲット試料14を図示のように埋め込む。このような構成とすると、高速中性子は全空間に等方的に放出されるので医薬用放射性イットリウム生成がより高効率で行われることになる。
【0078】
また、より高速の中性子を使用する場合は、前述のように、陽子等をLiやBeに照射する。この場合、ほとんどの中性子束は陽子ビームの方向にそって出射する。したがって、ターゲット試料14の配置は図4(d)や(e)に示すように中性子出射部の前方となる。図4(d)はターゲット試料14を中性子出射部と密着させた場合、図4(e)はターゲット試料14を中性子出射部と離間配置させた場合である。以上のように、本発明によれば、ターゲット試料14を真空中ではなく、大気側に配置させることができるため、ターゲット試料の形状、配置の自由度が大きくなる利点がある。
【0079】
次に、本発明によるRIの製造方法をさらに詳細に述べる。
【0080】
本発明によるRIの製造方法は、前記したように、ターゲット核あるいはそれを含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応、1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する(n,np)反応、または1個の中性子の照射により1個のHeを放出する(n,He)反応を起させ、RIを生成させるものである。
【0081】
以下、図5の製造手順のブロック図を参照しながら本発明によるRIの製造方法の一例を説明する。
【0082】
先ず、例えば天然ターゲット元素を用い、その酸化物等の粉末を圧縮し、成型・焼結してペレット状の原料ターゲットを作成する(ステップS1)。
【0083】
次に、原料ターゲットを試料容器に入れ、中性子照射位置にセットする(ステップS2)。
【0084】
次に、冷却用銅板上に設けた3重水素が吸蔵されたチタン膜に対し、加速器から、例えば0.35MeVの重水素ビームを照射する。これにより14MeVの高速中性子が発生する(ステップS3)
本発明の対象とする原料ターゲットでは、この高速中性子の照射により(n,p)反応、(n,He)反応、(n,np)反応が優位に起り、RIが生成される(ステップS4)。
【0085】
適当な時間の中性子照射を行った後に、照射を停止し、RIが入った試料容器を取出し、所望のRIが得られる(ステップS5)。
【0086】
以上、製造方法の一例を述べたが、もちろん、本発明の製造方法はこの例に限定されるものではなく、各ステップにおいて、前述した種々の手法を用いて行うことができる。
【0087】
このように、本発明の原料ターゲットに対しては、陽子ビーム、重水素ビームを金属Li(リチウム)あるいは金属Be(ベリリウム)に照射して発生する高速中性子を用いても、同様な手法を適用することにより、所望の放射性同位元素を効率良く、多量の放射性廃棄物を生成することなく製造することが可能となる。
【0088】
また、本発明による生成核とターゲット核の元素が異なる場合、照射されたターゲット(ターゲットと反応生成物が共存)を水溶液(又は酸、アルカリ)にて溶解し、例えばイオン交換法により生成核を分離し利用に供する。
【0089】
さらに、本発明の90Y及び91Yの夫々の基底状態及び励起状態を含むRIは、カウ・ミルキングシステムあるいはジェネレータシステムと呼ばれるシステムでミルキングと併用して利用することができる。
【0090】
本発明の原料ターゲットに対しても、陽子ビーム、重水素ビームあるいは3重水素ビームを金属Li(リチウム)あるいは金属Be(ベリリウム)に照射して発生する高速中性子を用い、同様な手法を適用することにより、所望の放射性同位元素を効率良く、多量の放射性廃棄物を生成することなく製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0091】
1 高電圧電源
2 電源ケーブル
3 加速器頭部
4 冷却系
5 冷却管
6 原料ターゲット
7 ターゲット支持枠あるいは試料容器
8 ターゲット支持台
9 放射性同位元素収容容器
11 重水素ビーム
12 真空ビーム管
13 3重水素含有チタン膜を有する銅板
14 ターゲット試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のいずれかのイットリウム放射性同位体からなり、診断及び治療の両方の目的のために又は診断目的のために投与できる医薬に用いられることを特徴とする医薬用放射性イットリウム。
(1)90Yの基底状態に加えて682keVの励起エネルギーを有する90
(2)556keVの励起エネルギーを有する91
【請求項2】
下記のいずれかのターゲット核を含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、下記の反応を起させ、下記イットリウム放射性同位体からなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造方法。
(1)ターゲット核:濃縮90Zrあるいは90Zrを含むターゲット
反応:1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応
イットリウム放射性同位体:90Yの基底状態に加えて682keVの励起エ ネルギーを有する90
(2)ターゲット核:濃縮91Zrあるいは91Zrを含むターゲット
反応:1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する
(n,np)反応
イットリウム放射性同位体:90Yの基底状態に加えて682keVの励起エ ネルギーを有する90
(3)ターゲット核:93Nbを含むターゲット
反応:1個の中性子の照射により1個のHeを放出する(n,He)反応
イットリウム放射性同位体:90Yの基底状態に加えて682keVの励起エ ネルギーを有する90
(4)ターゲット核:濃縮91Zrあるいは91Zrを含むターゲット
反応:1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応
イットリウム放射性同位体:556keVの励起エネルギーを有する91
(5)ターゲット核:濃縮92Zrあるいは92Zrを含むターゲット
反応:1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する
(n,np)反応
イットリウム放射性同位体:556keVの励起エネルギーを有する91
【請求項3】
原料ターゲットを加速器の高速中性子出射部に密着させた状態又は離間させた状態で中性子を原料ターゲットに照射することを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬用放射性イットリウムの製造方法。
【請求項4】
高速中性子を発生させる加速器と、記のいずれかのターゲット核を含む原料ターゲットを支持するターゲット支持手段を備え、加速器からの高速中性子を原料ターゲットに照射し、下記の反応を起させ、下記イットリウム放射性同位体からなる医薬用放射性イットリウムを生成させることを特徴とする医薬用放射性イットリウムの製造装置。
(1)ターゲット核:濃縮90Zrあるいは90Zr
反応:1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応
イットリウム放射性同位体:90Yの基底状態に加えて682keVの励起エ ネルギーを有する90
(2)ターゲット核:濃縮91Zrあるいは91Zr
反応:1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する
(n,np)反応
イットリウム放射性同位体:90Yの基底状態に加えて682keVの励起エ ネルギーを有する90
(3)ターゲット核:93Nb
反応:1個の中性子の照射により1個のHeを放出する(n,He)反応
イットリウム放射性同位体:90Yの基底状態に加えて682keVの励起エ ネルギーを有する90
(4)ターゲット核:濃縮91Zrあるいは91Zr
反応:1個の中性子の照射により1個の陽子を放出する(n,p)反応
イットリウム放射性同位体:556keVの励起エネルギーを有する91
(5)ターゲット核:濃縮92Zrあるいは92Zr
反応:1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する
(n,np)反応
イットリウム放射性同位体:556keVの励起エネルギーを有する91
【請求項5】
原料ターゲットが、加速器の高速中性子出射部に密着させた状態又は離間させた状態にセットされていることを特徴とする請求項4に記載の医薬用放射性イットリウムの製造装置。
【請求項6】
加速器の高速中性子出射部が冷却手段を備え、かつ該高速中性子照射部が真空室と大気側の隔壁機能を有し、かつ該高速中性子照射部に原料ターゲットが密着させた状態でセットされていることを特徴とする請求項5又は6に記載の医薬用放射性イットリウムの製造装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−58935(P2011−58935A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208399(P2009−208399)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】