説明

医薬用組成物

【課題】 黒麹を用いて醗酵させた茶葉内に産生した、新たに見出した特定構造の化合物を有効に利用する手段を提供する。
【解決手段】 血糖値上昇抑制、中性脂肪低減、肝機能の改善、血圧上昇抑制、コレステロールの代謝改善又は腎機能の改善に用いられる医薬の有効成分として、黒麹を用い、特には茶葉として二番茶を用い、3〜10日間の期間、醗酵させた茶葉内に産生した特定構造の化合物、さらには生合成などにより調製した化合物を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、黒麹を用いた茶葉の発酵により産生され、抽出・精製により取得された特定構造の化合物を含有する医薬用組成物に関するものである。
特に、血糖値上昇抑制、中性脂肪低減、血圧上昇抑制、コレステロールの代謝改善、肝・腎機能の改善、さらには脳機能改善、アルツハイマー病の予防と治療に有効な医薬用組成物に関するもので、医薬調製技術に属するものである。

【背景技術】
【0002】
嗜好品としてのお茶は、非常に古くから全世界的に愛用されているが、その多くは、茶葉に湯を注いで、その浸出液を飲むというものである。
その浸出液には、茶葉から抽出された種々の成分が含まれているため、独特の香と味とを有し、特有の機能を有するものである。
そのため、茶葉の成分に関しての研究が幅広く行われており、その成分に関しても、以下のようなことが知られている。
【0003】
すなわち、茶の特徴的な成分はカフェインとタンニン系の物質のカテキンで、カフェインは人に興奮作用を与え、苦味を呈し、利尿作用も有する。
このカテキンは、茶の成分としては一番量の多いもので、茶の渋味の成分である。
それら以外にも、テアニンに代表されるアミノ酸、ビタミンCに代表されるビタミン類、クロロフィル類、カリウムやカルシウムなどの無機成分、ジメチルスルフィド、青葉アルコール、テルペンアルコールなどの香料成分など幅広く知られている。
【0004】
これらの成分が、茶葉からの製茶の段階で、変化することも知られている。
例えば、釜炒茶、ほうじ茶ではピラジン、ピロール等の含窒素化合物が多くなり、醗酵茶では、花香を持つテルペンアルコールが非常に多くなることが知られている(平凡社発行:世界大百科事典参照)。
【0005】
このように茶葉には、各種の有用な成分が多く含まれているため、その成分を効率よく抽出することや、茶葉を加工して有効成分を多く取得する試みが古くから多くなされている。
特に、発酵茶に関するものでは、例えば、特開2002−370994号公報(特許文献1)には、黒茶、すなわち、黒麹菌等による後発酵法により長期熟成した黒茶から、熱水抽出により血糖値抑制物質が得られたことが報告されている。
【0006】
特開2005−341876号公報(特許文献2)においては、茶葉に麹菌又は麹を加え、発酵させることによって、マルターゼ阻害効果を有すお茶が得られることが報告されている。
【0007】
一方、この出願の発明者らは、先に、酢酸による抽出で、発酵茶葉から肝機能の悪化の防止等が図れる薬効性組成物が得られることを見出して、特許出願を行い、その内容は特開2007−238584号公報(特許文献3)に開示されている。
【0008】
さらに、発明者らは、先の研究に続いて、発酵茶(後発酵茶)の有する各種成分の特性をより深く追求するとともに、発酵茶の調製条件、原料茶葉による含有成分の変化等について検討した。
さらにまた、幅広く利用されている茶葉をより有効活用するために、茶葉における有効成分やその発酵条件による変化についても検討を行い、その結果についても特許出願を行い、その内容は特開2010−220489号公報(特許文献4)に開示されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−370994号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−341876号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2007−238584号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2010−220489号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者らは、先の研究において黒麹を用いた茶葉の発酵により産生することを見出したX成分(没食子酸起因化合物と推測)について、その同定を行うとともに、その有効性について、特に薬理特性についてより深く追求し、茶葉のさらなる活用、特に見出したX成分の有効活用を図るべく検討を行った。
【0011】
その結果、発明者らは、黒麹を用いて醗酵させた茶葉内に産生したX成分を同定し、このX成分が、先の段階では見出し得なかった薬理特性をも有することを見出し、この発明を完成させた。

【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、この発明の請求項1に記載の発明は、
下記式1で示される化合物を含有すること
を特徴とする医薬用組成物である。
【化1】



【0013】
また、この発明の請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の医薬用組成物において、
前記化合物は、
黒麹を用いた茶葉の発酵により産生されたものであること
を特徴とするものである。
【0014】
また、この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項2に記載の医薬用組成物において、
前記発酵は、
好気発酵であって、発酵期間が3〜10日間であること
を特徴とするものである。
【0015】
また、この発明の請求項4に記載の発明は、
請求項2に記載の医薬用組成物において、
前記茶葉は、
二番茶であること
を特徴とするものである。
【0016】
さらに、この発明の請求項5に記載の発明は、
下記式1で示される化合物を含有し、血糖値上昇抑制、中性脂肪低減、肝機能の改善、血圧上昇抑制、コレステロールの代謝改善又は腎機能の改善、脳機能改善、アルツハイマー病の予防と治療に用いられるものであること
を特徴とする医薬用組成物である。
【化2】



【発明の効果】
【0017】
この発明にかかる医薬用組成物は、式1で示される特定構造の化合物を含有させることによって、血糖値上昇抑制、中性脂肪低減、肝機能の改善、血圧上昇抑制、コレステロールの代謝改善又は腎機能の改善、脳機能改善、アルツハイマー病の予防と治療に有効なもので、茶葉の更なる活用が図れるだけでなく、構造の解明により、この化合物の化学的な合成も可能とするもので、製薬業界における、薬剤の幅広い調製を可能とするものである。
【0018】
この発明における化合物は、粉末状態でも、酢酸あるいは水又はエタノール溶液としても使用することができるため、上記のような効果を発現させるために、医薬用として利用する際に、効率的にまた効果的に活用することを可能とするもので、健康食品へも応用され、優れた効果を奏するものである。

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】発酵茶の4.5%酢酸抽出物のHPLC分析の結果を示す図である。
【図2】図1の各ピークの紫外吸収スペクトルである。
【図3】発酵茶の4.5%酢酸抽出物のBio−Gelカラムによる分画図である。
【図4】発酵茶酢酸抽出物からの酢酸エチル抽出物のBio−Gelカラムによる分画図である。
【図5】図4の3画分のHPLCチャートである。
【図6】図4画分5のSephdexLHカラム(2×27cm)による吸着クロマトの図である。
【図7】図4画分5のX成分を含む画分のHPLCチャートである。
【図8】HPLCで精製したX成分のHPLCチャートである。
【図9】HPLCで精製したX成分の紫外吸収スペクトルである。
【図10】X成分の結晶写真である。
【図11】STZマウスを用いたインビボでの随時血糖値の推移を示す図である。
【図12】STZマウスを用いたインビボでのアルカリフォスファターゼの推移を示す図である。
【図13】STZマウスを用いたインビボでの中性脂肪の推移を示す図である。
【図14】STZマウスを用いたインビボでの尿素窒素の推移を示す図である。
【図15】STZマウスを用いたインビボでのカリウムの推移を示す図である。
【図16】STZマウスを用いたインビボでのクロールの推移を示す図である。
【図17】KK−Ayマウスを用いたインビボによる随時血糖値の推移を示す図である。
【図18】SHRマウスを用いたインビボでの随時血圧の推移を示す図である。
【図19】SHRマウスを用いたインビボによるALTの推移を示す図である。
【図20】SHRマウスを用いたインビボでのHDL−cho/T−choの推移を示す図である。
【図21】SHRマウスを用いたインビボでのクロールの推移を示す図である。
【図22】ZDFラットを用いたインビボでの平均体重の変化を示す図である。
【図23】ZDFラットを用いたインビボでの総摂取量に対する体重変化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明において使用される前記式1で表される特定の化合物(以下、特定化合物という。)は、従来公知の黒麹を用いた茶葉の発酵により得られた発酵茶(以下、発酵黒茶という。)中に産生されたものであって、発酵黒茶から抽出・分離することにより得られが、構造を判明させたので、化学合成による調製も可能なものでもある。
【0021】
この特定化合物を発酵黒茶から取得する際に用いられる、原料としての茶葉としては、玉露、一番茶、二番茶、三番茶、秋冬番茶が挙げられる。
これら茶葉の発酵条件としては、原料黒麹、発酵中の温度(通常30〜45℃)、発酵中の水分(通常25〜35%)など、一般に、黒麹を用いて発酵茶を調製する条件に従って行えばよく、それにより、目的とする没食子酸起因化合物を得ることができる。
また、発酵黒茶からの特定化合物の抽出も、抽出媒体として、希酢酸あるいは水、熱水を用いる通常の抽出方法が適用される。
【0022】
前記特定化合物を産生させる、発酵黒茶における茶葉の発酵方法自体には、格別新規な条件は存在しないが、特定化合物を産生させ、産生後の含有状態を維持するためには、以下の手段を採用することが望ましい。
【0023】
発酵黒茶が特定化合物を含有する状態を維持する発酵条件として、一番重要な条件は、発酵期間である。
優れた発酵黒茶の製造には、長い場合には数ヶ月要するとされる。
前記特許文献2においても、好ましくは3週間程度(段落0030)とされているが、上記条件を満たすための期間として、この発明にとり好ましい発酵期間は3〜10日間である。
また、発酵は、好気発酵が採用される。
【0024】
かくして得られた特定化合物は、薬剤的に許容できる担体と配合し、希釈剤に溶解もしくは懸濁した薬剤として、経口的に患者に投与できる。
【0025】
この発明の医薬用組成物は、適当な添加剤、
例えば、乳糖、ショ糖、マンニット、トウモロコシデンプン、合成もしくは天然ガム、結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、セルロース誘導体、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボシキメチルセルーロースカルシウム、カルボシキメチルセルーロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等の滑沢剤、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の充填剤又は希釈剤等と適宜混合して、錠剤、散剤(粉末)、丸剤、および顆粒剤等とすることができる。
また、硬質又は軟質のゼラチンカプセル等を用いてカプセル剤とすることもできる。
【0026】
さらに、この発明の医薬用組成物は、精製水等の一般的に用いられる不活性希釈剤に溶解させ、必要に応じて、この溶液に浸潤剤、乳化剤、分散助剤、界面活性剤、甘味料、フレーバー、芳香物質等を適宜添加することにより、シロップ剤、エリキシル剤等の液状製剤とすることもできる。
なお、これらの製剤化は、従来公知の方法で可能である。
【0027】
この発明の医薬用組成物を、医薬としてヒトに投与する場合における投与量は、有効成分である特定化合物の投与量により定められる。
その投与量は、剤型や患者の年齢等に依存するが、一日当たり1mg〜1,000mgの範囲内であって、体重50kgの成人に対する投与量では、一日当たり10mg〜500mgが好ましい。

【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて、この発明の医薬用組成物をより詳細に説明する。
<発酵黒茶の調製>
原料茶葉(荒茶)80kgをドラム式自動製麹装置に投入し、ドラムの回転により攪拌しながら水80kgを加えて、原料茶葉を膨潤させた後、別途原料茶葉(粉茶)と黒麹により調製した種麹を、黒麹菌の胞子10/gになるよう添加し(種麹の量として23kg)、設定温度35℃で6日間発酵させた。
発酵時の温度上昇は、空冷ファンを用いて抑え、設定温度を維持するように努めた。発酵した茶葉は100℃で蒸煮殺菌、55℃で乾燥して発酵黒茶とした。
【0029】
<特定化合物の抽出・精製>
特定化合物(以下、X成分という。)の抽出・精製を、以下の手順で行なった。
まず、200gの発酵黒茶を用い、抽出媒体として4.5%酢酸を用いて抽出、減圧濃縮・凍結乾燥によって、72.6gの抽出物(収率:36.3%:以下、黒茶抽出物という)を得た。
図1に、この黒茶抽出物のHPLC分析の結果を、図2に、各ピークの紫外吸収スペクトルを示す。
図1中ピークa〜cは、その溶出位置と吸収スペクトルから、それぞれEGC、Caffein、ECであり、ピークdが、X成分である。
【0030】
前記抽出物を、Bio−GelP−10カラム(2×28cm)を用い、1%酢酸水溶液を展開液として分画した結果を、図3および表1に示す。
各画分をHPLCで分析した結果、X成分は画分5に、褐色のカテキン重合体と一緒に含まれることがわかった。
【0031】
【表1】

【0032】
上記分画により得られたX成分を含有する画分5について、酢酸エチルによる抽出を行なったところ、X成分は酢酸エチル層に抽出され、カテキン重合体は水層に残ることが確認された。
前記X成分含有酢酸エチルを濃縮した後、脱イオン水を加えて希釈した溶液を、Bio−GelP−10カラム(3×30cm)に供し、1%酢酸水溶液で展開したときの溶出パターンを図4に示す。
その画分4〜6についてHPLC分析を行った結果、図5に示すように、いずれもX成分を含むことがわかった。
【0033】
凍結乾燥した画分5にメタノールを加えて攪拌、遠心分離して得られた上清を、予めメタノールで平衡化したSephadexLHカラム(2×27cm)に供し、メタノールで展開した。
その溶出パターンを図6に、300nmに吸収を持つ画分のHPLCパターンを図7に示す。
【0034】
この画分をTFA−MeCN系のHPLCで精製したところ、図8に示されるように、精製された結晶としてX成分が得られた。
その紫外吸収スペクトルは、図9に示す通りであった。
また、この画分を減圧乾固し、脱イオン水を加え、暖めて溶解した後、冷却した結果、図10のような結晶の没食子酸起因化合物が得られた。
この化合物は、J.Nat.Med.15Feb 2011に開示されたエピガロカテキンガレート;EGCGや、ガロカテキンガレート;GCGから生合成された化合物と同一であって、式1で示される構造を有していた。
【0035】
得られたX成分の薬理性に関する機能の評価結果は、以下の通りである。
<抗毒性効果の評価(STZ誘発ラットによるインビボ実験)>
X成分の抗毒性効果をインビボ実験で評価するために、7週齢のWisterラットを(株)KBTオリエンタルより入手し、1週間の予備飼育後下記表2のように、5群に群分けした。
予備飼育後、2〜5群にはストレプトゾトシン(STZ:Streptozotocin)を腹腔内投与し、STZ誘発1型糖尿病モデルラットを作製した。
この内3〜5群については、X成分(黒茶抽出物)を含有する固型飼料MF(オリエンタル酵母製)を屠殺(12週齢)までの3週間自由摂食させた。
1,2群には、固型飼料MFのみを自由摂食させた。
各群の投与試料およびその摂取量等については、下記表2に示したとおりである。
なお、この飼料中のX成分の配合量については、ヒト臨床試験での摂取量(66mg/day)の等倍,4倍,7倍となるように設定した。
前記ラットは、予備飼育期間および実験期間を通して室温24±3℃、相対湿度55±15%のコンベンショナル飼育室(照明時間7時〜19時)で飼育し、1週間ごとに摂食量,体重を測定するとともに、試料投与前,試料投与後1週目,2週目の経過血糖値を測定した。
3週間の試料投与後の12週齢時に心臓から採血し、赤血球変形能測定および血液生化学検査(コレステロール、血糖など35項目)を行った。
【0036】
【表2】

【0037】
採血はSTZ・試料投与前(8週齢)、試料投与1週間後、試料投与2週間後に尾静脈から採取した。
全血を、簡易血糖測定器にて測定した。
統計処理は、各週齢の2群と3,4,5群間で実施し、その結果を図11に示した。
図中のマークは、有意差があることを示す
(*;p<0.05、**;p<0.01)。
【0038】
図11の随時血糖値の推移に示されるように、糖尿病対照群(2群)は週齢が上がるにつれ、正常群(1群)と比し有意に血糖値は上昇していく。
これに対し、X成分を投与した3、5群はSTZ投与1週目の時点で、2群と比し有意に低値を示した。
4群についても、試料投与2週目の時点で血糖値の上昇がほぼ頭打ちになっており、2群と比し有意に低値となった。
このことから、試料濃度によって抑制の時期は異なるものの、X成分が血糖値の上昇を抑制することが示唆された。
【0039】
<血液化学検査>
STZ投与3週間後(12週齢)にイソフルレン(大日本製薬)麻酔下で開腹し、心臓から採血した。
絶食は、屠殺の18時間前からとした。
採血した血液でCBC測定(Sysmex)し、得られた血漿(2000rpm、10分、25℃)で生化学検査を行い、その結果を図12(アルカリフォスファターゼ)、図13(中性脂肪)、図14(尿素窒素)、図15(カリウム)、図16(クロール)に示した。
統計処理は、各週齢の2群と3,4,5群間で実施し、図中のマークは有意差・傾向があることを示す(#;p<0.08*;p<0.05、**;p<0.01)。
【0040】
前記図から明らかなように、血液生化学検査においては、アルカリフォスファターゼ、中性脂肪、尿素窒素、カリウム、クロールの5項目について、2群とX成分投与群間で有意差もしくは傾向がみられた。
まず、肝機能の指標となるアルカリフォスファターゼについては、1群と比し、2群は有意に高値となっており、STZ投与により肝機能の働きは低下する。
これに対し、X成分を投与した4群は、2群と比し低値の傾向を示した。
他の3,5群についても有意差・傾向は見られなかったが、どちらも2群よりも低値を示している。
このことから、X成分が、肝機能の低下を抑制又は改善する傾向があることが示唆された。
中性脂肪については、2群と比し、4,5群が有意に低値を示した。
これによって、STZ投与による中性脂肪の上昇を、X成分が抑制する働きが示唆された。
腎機能の指標となる尿素窒素について、2群と比し、3群が低値の傾向を示した。
また、4、5群も有意差・傾向はないものの、2群よりも低い値となっており、試料濃度が高くなるにつれ尿素窒素値は低くなった。
このことから、X成分が、濃度依存的に腎機能を改善する可能性が示唆された。
尿素窒素以外の腎機能の指標となるカリウム、クロールでも濃度依存的に腎機能を改善もしくはその傾向が示唆された。
腎機能の指標の3つ全てで、濃度依存的な結果がみられた。
【0041】
<抗糖尿病効果の評価(KK−Ayマウスによるインビボ実験)>
X成分の抗メタボリックシンドローム効果をインビボ実験で評価するために、KK−Ay/Tajマウス♂ 3週齢(日本クレア株式会社)を九動(株)より入手し、2週間の予備飼育後表3のように、2群に群分けした。
予備飼育1週目までは滅菌水道水を、2週目は0.05%アスコルビン酸添加滅菌水道水を与えた。
試料濃度については、昨年度の同モデルを使用して行ったX成分(黒茶抽出物)投与実験(摂食による投与)の1日の摂取量から算出した。
なお、この試料中のX成分の配合量については、先の治験結果に基づき設定した。
また、投与方法は全て自由摂水とし、飼料には固型飼料MF(オリエンタル酵母製)を自由摂食させた。
前記マウスは、予備飼育期間および実験期間を通して室温24±3℃、相対湿度55±15%のコンベンショナル飼育室(照明時間7時〜19時)で飼育し、1週間ごとに摂食量、体重を測定した。
さらに、試料投与後4週目,5週目,7週目,屠殺時の経過血糖値を測定した。
7週間の試料投与後(12週齢時)心臓から採血し、血液生化学検査(コレステロール、血糖など34項目)を行った。
【0042】
【表3】

【0043】
<随時血糖値の推移>
採血は、試料投与後4週目,5週目,7週目,屠殺時に尾静脈から採取した。
採血前5〜6時間絶食させ、空腹時血糖とした。
全血を簡易血糖測定器にて測定した結果を、図17に示す。
図中のマークは有意差があることを示す(*;p<0.05**;p<0.01、***;p<0.001)。
【0044】
通常、KK−Ayマウスは7、8週齢から高血糖を発症する。
試料投与4週後(9週齢時)では1、2群に有意差は見られないが、試料投与5週後(10週齢時)以降は全て2群の方が有意に低値となった。
これよって、X成分が、糖尿病モデルマウスにおける血糖値上昇を著明に抑制する効果が示唆された。
また、今回は遺伝的に2型糖尿病を発症するモデルでの効果を証明できたことから、X成分による2型糖尿病遺伝子素因を有するヒト(青・少年)での糖尿病発症予防が期待される。
【0045】
<抗高血圧効果の評価(SHRラットによるインビボ実験)>
X成分(黒茶抽出物)の抗高血圧効果をインビボ実験で評価するため、7週齢の高血圧自然発症ラット(SHRラット)を(株)KBTオリエンタルより入手した。
1週間の予備飼育ののち、平均血圧が同等となるように表4に示すように群分けを行った。予備飼育後の9週齢から試料投与を開始した。
1群には固型飼料MF(オリエンタル酵母製)を、2群にはX成分を含有する固型飼料MFを4週間自由摂食させた。
2群の摂取量等については、表3に示したとおりである。
なお、この飼料中のX成分(黒茶抽出物)の配合量については、事前治験の結果に基づき、ヒト臨床試験での摂取量(66mg/day)の7倍となるように設定した。
前記ラットは、予備飼育期間および実験期間を通して室温24±3℃、相対湿度55±15%のコンベンショナル飼育室(照明時間7時〜19時)で飼育し、1週間ごとに摂食量、ラット体重を測定した。
また、試料投与前,試料投与後1週目,2週目,3週目,4週目(屠殺前)の経過血圧を測定した。
4週間の試料投与後の13週齢時に腹大動脈から採血し、血液生化学検査(コレステロール、血糖など34項目)を行った。
【0046】
【表4】

【0047】
<随時血圧の推移>
血圧は、試料投与前,試料投与後1週目,2週目,3週目,4週目(屠殺前)の計5回の収縮期血圧(SBP;systolic blood pressure)を測定した。
測定には、非観血式血圧測定装置((株)ソフトロン)を用いて行った。
測定は最低3回行い、その内の3回の平均値をもって、その個体の血圧とし、その結果を図18に示した。
図中のマークは有意差・傾向があることを示す(#;p<0.08*;p<0.05、**;p<0.01)。
【0048】
図に示されるように、試料非投与群(1群)では、週齢があがるとともに血圧は上昇している。
一方、試料投与群(2群)では上昇はするものの、高血圧の発症スピードは1群と比し緩やかである。
試料投与2週目では、1群と比し2群が低値の傾向を示し、3、4週目は有意に低値となった。
このことから、X成分(黒茶抽出物)が血圧上昇を著明に抑制することが示された。
【0049】
<血液生化学検査>
試料投与4週間後(13週齢)にイソフルレン(大日本製薬)麻酔下で開腹し、腹大動脈より採血した。
絶食は、屠殺の18時間前からとした。
採血した血液でCBC測定(Sysmex)し、得られた血漿(2000rpm、10分、25℃)で生化学検査を行った結果を、図19〜図21に示した。
図中のマークは有意差・傾向があることを示す(#;p<0.08*;p<0.05、**;p<0.01)。
【0050】
血液生化学検査においては、ALT、HDL−cho/T−cho、クロールの3項目について有意差もしくは傾向がみられた。
まず、肝機能の指標となるALTで1群と比し2群が、低値の傾向を示した。
これよって、X成分(黒茶抽出物)が、肝機能の低下を抑制もしくは改善する可能性が示唆された。
つぎに、HDL−cho/T−choの項目で、1群に比して2群が有意に高値を示した。
よって、黒茶抽出物がコレステロールの代謝低下を抑制もしくは改善することが示唆された。
腎機能の指標となるクロール(Cl)についても、2群が有意に高値を示した。
これにより、X成分が、腎機能においても機能低下抑制効果もしくは改善効果があることが言える。
【0051】
<抗加齢効効果の評価(ZDFラットによるインビボ実験)>
X成分(黒茶抽出物)の抗加齢効果をインビボ実験で評価するために、9週齢の肥満2型糖尿病モデルラットZDFに、黒茶抽出物0.65%を含有する固型飼料MF(オリエンタル酵母製)を4週間自由摂食させた。
対照群には、固型飼料MFのみを自由摂食させた。
なお、この飼料による発酵茶抽出物の平均摂取量は、ヒト臨床試験での摂取量(66mg/day)の約10倍量に相当する。
前記ラットは、予備飼育期間および実験期間を通して室温24±3℃、相対湿度55±15%のコンベンショナル飼育室(照明時間7時〜19時)で飼育し、1週間ごとに摂食量、ラット体重を測定した。
【0052】
12週間飼育後の平均体重を図22に、総摂取量に対する体重変化率を図23に示す。
これらの図から明らかなように、X成分(黒茶抽出物)を含む試料の方が、それを含まぬコントロール試料に比較して、同じカロリー相当量を摂取しても、体重が増加しにくい特性を持っていると云え、X成分(黒茶抽出物)がラットの体重増加を抑制し、メタボリックシンドロームの予防に有効であることを強く示唆している。
【0053】
<急性経口毒性試験( 動物安全性試験)>
X成分についてラットによる急性経口毒性試験を(財)日本食品分析センターに依頼した。
試験群には150mg/kgの用量の検体を、対照群には溶媒対照として注射用水を雌雄ラットに単回経口投与し、14日間の観察を行った。
その結果、観察期間中に異常及び死亡例は認められなかった。
このことから、検体のラットにおける単回経口投与によるLD50値は、雌雄ともに150mg/kg以上であるものと考えられた。
【0054】
<復帰突然変異試験>
X成分を含有する黒茶抽出物について、復帰突然変異試験を(財)日本食品分析センターに依頼した。
試験方法は、「医薬品の遺伝毒性試験に関するガイドラインについて」(平成11年11月1日 医薬審第1604号)の別添「遺伝毒性試験ガイドライン」に従い、Escherichiacoli WP2uvrA及びSalmonella typhimurium TA系4菌株を用いて行われた。
検体の用量は、313〜5000μg/プレートのであった。
その結果、復帰変異コロニー数の増加は認められなかった。以上のことから、本試験条件下における検体の復帰突然変異誘起性は、陰性と結論した。
【0055】
前記式1で特定されるこの発明の化合物は、血糖値上昇抑制、中性脂肪低減、肝機能の改善、血圧上昇抑制、コレステロールの代謝改善又は腎機能の改善、脳機能改善、アルツハイマー病の予防と治療に有効なもので、茶葉の更なる活用が図れるだけでなく、構造の解明により、この化合物の化学的な合成も可能とするものである。

【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明にかかる特定の化合物を含有する医薬用組成物は、優れた薬理性を有し、この特定の化合物は、粉末ないし水、酢酸又はエタノールの無毒の溶媒溶液として供給可能なものであるため、この特定の化合物の供給可能な製茶業界や、医薬品製造業界で広く利用される可能性の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で示される化合物を含有すること
を特徴とする医薬用組成物。
【化1】

【請求項2】
前記化合物は、
黒麹を用いた茶葉の発酵により産生されたものであること
を特徴とする請求項1に記載の医薬用組成物。
【請求項3】
前記発酵は、
好気発酵であって、発酵期間が3〜10日間であること
を特徴とする請求項2に記載の医薬用組成物。
【請求項4】
前記茶葉は、
二番茶であること
を特徴とする請求項3に記載の医薬用組成物。
【請求項5】
下記式2で示される化合物を含有し、血糖値上昇抑制、中性脂肪低減、肝機能の改善、血圧上昇抑制、コレステロールの代謝改善又は腎機能の改善、脳機能改善、アルツハイマー病の予防と治療に用いられるものであること
を特徴とする医薬用組成物である。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−219077(P2012−219077A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88448(P2011−88448)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域資源活用型研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599035339)株式会社 レオロジー機能食品研究所 (16)
【出願人】(591027927)福岡県醤油醸造協同組合 (11)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(595123760)一番食品株式会社 (3)
【Fターム(参考)】