説明

医薬組成物

【課題】 優れたPDE4阻害作用を有し、喘息等の予防または治療薬として有用な新規ナフタレン化合物を有効成分としてなる医薬組成物を提供する。
【解決手段】 一般式[I]:
【化1】




(式中、RおよびRは同一または異なって水酸基または低級アルコキシ基、RおよびRは同一または異なって水素原子またはアシル基、nは1〜6の整数を表す。)
で示されるナフタレン化合物またはその薬理的に許容しうる塩を有効成分としてなる医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れたPDE4阻害作用を有する新規ナフタレン化合物を有効成分としてなる医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内セカンドメッセンジャーであるcAMPやcGMPは、ホスホジエステラーゼ(PDE)により分解され不活性化する。PDEを阻害すると細胞内のcAMPやcGMPの濃度が上昇する。PDEはいくつかのアイソザイムに分類され、基質(cAMP、cGMP)特異性、体内分布等がアイソザイム毎に相違し、PDEアイソザイムのうち4型のPDE(PDE4)は、cAMPを特異的に分解することが知られている。
【0003】
また、PDE4活性を阻害することにより、炎症性メディエーターの放出が阻害され得ること(例えば、非特許文献1参照)、PDE4阻害剤が、免疫刺激に対する応答として単核食細胞により放出されるサイトカインであるTNF−αの産生を抑制し、TNF−αが関与する各種炎症性疾患の治療に有用であることが知られている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【0004】
代表的なPDE阻害剤であるテオフィリンは、従来から喘息の治療に用いられてきたが、そのPDE阻害作用が非特異的なため、気管支平滑筋弛緩作用以外に強心作用や中枢作用を有し、それ故常に副作用に留意せねばならない。このため、各種PDEアイソザイムの中でも、特に気管支平滑筋及び炎症細胞に多く存在するPDE4に対して特異的阻害作用を有する新規薬剤の開発が求められている。このような薬剤は優れた喘息の予防・治療剤(又は炎症性疾患の予防・治療剤等)になり得ると考えられる。
【0005】
一方、本発明の目的化合物と構造類似のナフタレン化合物に関しては、ナフタレン骨格1位上のピリジン環にさらに窒素原子が直結した構造の化合物が知られている(例えば、特許文献7参照)。しかしながら、本発明の目的化合物のような、ナフタレン骨格1位のピリジン環に炭素原子が直結した構造の化合物は、開示されていない。
【0006】
【特許文献1】特表2000−503678号公報(第9〜25頁)
【特許文献2】特表2000−502724号公報(第15〜23頁)
【特許文献3】特表2000−510105号公報(第5〜9頁)
【特許文献4】特表2000−514804号公報(第32〜33頁)
【特許文献5】特表2000−502350号公報(第6〜15頁)
【特許文献6】特表2000−501741号公報(第12〜21頁)
【特許文献7】特開平9−59255号公報(第20〜39頁)
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・モレキュラー・アンド・セルラー・カーディオロジー(Journal of Molecular and Cellular Cardiology),第12巻(Suppl.II),S61頁,1989年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、PDE4阻害剤として有用な新規ナフタレン化合物を有効成分としてなる医薬組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一般式[I]:
【0009】
【化1】



【0010】
(式中、RおよびRは同一または異なって水酸基または低級アルコキシ基、RおよびRは同一または異なって水素原子またはアシル基、nは1〜6の整数を表す。)
で示されるナフタレン化合物またはその薬理的に許容しうる塩を有効成分としてなる医薬組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容しうる塩は、PDE4に対して優れた阻害作用を有しており、PDE4が関与する各種の疾患の予防・治療に有用である。
【0012】
また、本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容しうる塩は、PDE4を選択的に阻害することから、副作用も少ない。
【0013】
さらに、本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容しうる塩は低毒性であり、医薬として安全性が高いという特長をも有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の有効成分である化合物[I]において、RおよびRにおけるアシル基としては、低級アルカノイル基が挙げられ、このうちアセチル基が好ましい。nは1〜6の整数であるが、なかでも2〜4、とりわけ3であることが好ましい。RおよびRにおける低級アルコキシ基としては、とりわけメトキシ基またはエトキシ基が好ましい。
【0015】
本発明の有効成分である化合物[I]のうち、好ましい化合物としては、RおよびRが同一または異なって低級アルコキシ基、RおよびRがアセチル基または水素原子、nが3である化合物が挙げられる。さらに好ましい化合物としては、RおよびRが同一または異なって低級アルコキシ基、RおよびRが水素原子、nが3である化合物が挙げられる。この内、とりわけ好ましい化合物としては、6,7−ジメトキシ−1−[2−(1,3−ジオキソシクロヘキサン−2−イル)ピリジン−4−イル]−2,3ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレンがあげられる。
【0016】
本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容しうる塩は、PDE4に対して優れた阻害作用を有しており、PDE4が関与する各種の疾患の予防・治療に有用である。かかる疾患としては、各種の炎症性疾患、アレルギー疾患が挙げられ、より具体的には、例えば、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、春季カタル、好酸球増多症、乾癬、慢性関節リウマチ、敗血性ショック、潰瘍性大腸炎、クローン病、再灌流障害、慢性糸球体腎炎、エンドトキシンショック、成人呼吸窮迫症候群、骨関節炎などが挙げられる。
【0017】
また本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容しうる塩は、優れた気管支収縮抑制作用を有していることから、気管支収縮抑制剤として有用である。
【0018】
なお、本件出願人は、PDE4阻害作用を有する化合物が、骨折治癒の促進や軟骨疾患(例えば変形性関節症)の修復治療にも有用であることを見出して別途特許出願(特願2001−154064および特願2001−154048)している。当該知見から、本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容しうる塩は骨折治癒の促進や軟骨疾患(例えば変形性関節症)の修復治療にも有用である。
【0019】
本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容しうる塩は、PDE4を選択的に阻害することから、副作用も少ない。さらに、本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容しうる塩は低毒性であり、医薬として安全性が高いという特長をも有する。
【0020】
本発明の有効成分である化合物[I]は、遊離の形でも、それらの薬理的に許容し得る塩の形でも医薬用途に使用することができる。薬理的に許容しうる塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩または臭化水素酸塩の如き無機酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩またはトシル酸塩の如き有機酸塩等が挙げられる。
【0021】
本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容しうる塩は、その分子内塩や付加物、それらの溶媒和物あるいは水和物等をいずれも含むものである。
【0022】
本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容しうる塩は経口的にも非経口的にも投与することができ、また、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、注射剤、吸入剤等の慣用の医薬製剤として用いることができる。
【0023】
本発明の有効成分である化合物[I]またはその薬理的に許容し得る塩の投与量は、投与方法、患者の年令、体重、状態によっても異なるが、注射剤とすれば、通常、1日当り約0.01〜10mg/kg、とりわけ約0.03〜3mg/kg程度、経口剤とすれば、通常、1日当り約0.1〜30mg/kg、とりわけ約0.3〜10mg/kg程度とするのが好ましい。
【0024】
<ナフタレン化合物の製法>
本発明の有効成分であるナフタレン化合物[I]は、下記により製造することができるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
【化2】



【0026】
(式中、R31及びR42は同一または異なってアシル基を表し、ほかの記号は前記と同一意味を有する。)
本願の有効成分である化合物のうち、式[I]においてR及びRがアシル基である化合物(すなわち化合物[I−a])は、原料化合物[II]を原料化合物[III]と反応させることにより製造することができる。この反応は、脱水剤(例えば、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸等)の存在下、加温〜加熱下で実施することができる。
【0027】
また、本願の有効成分である化合物のうち、式[I]においてR及びRが水素原子である化合物(すなわち化合物[I−b])は、化合物[I−a]を通常の脱アシル反応に付すことにより製造することができる。例えば、当該脱アシル反応は、適当な求核剤(例えば、ナトリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等)の存在下で実施することができる。求核剤の使用量は、化合物[I−a]に対して1当量〜4当量、好ましくは1.2当量〜2当量とすることができる。本反応は、氷冷下〜室温で実施することができ、とりわけ5℃〜20℃で好適に進行する。
【0028】
上述の製法で得られる本発明の有効成分である化合物[I]は、所望により、薬理的に許容しうる塩に変換することもできる。薬理的に許容しうる塩への変換は、当業者に知られている方法に従って行なえばよい。
【0029】
なお、上記反応で用いる原料化合物[II]は、特開平5−229987号記載の方法に準じて製造することができる。
【0030】
本明細書において、「アシル基」としては、低級アルカノイル基が挙げられ、低級アルカノイル基としては、炭素数1〜6、とりわけ炭素数2〜4の直鎖または分岐のものが挙げられる。「低級アルコキシ基」としては、炭素数1〜6、とりわけ炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のものが挙げられる。
【実験例】
【0031】
実験例1〔PDE4阻害作用〕
(PDE4部分精製標品の調製)
ハートレイ(Hartley)系雄性モルモットより摘出した肺のホモジネートを遠心分離して得られた上清を陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにて分画し、以下1.〜4.の条件を満たす画分を混合して、ホスホジエステラーゼ4の部分精製標品とした。
1.cAMPを選択的に水解すること。
2.そのcAMP水解活性がcGMPによる影響を受けないこと。
3.PDE3選択的阻害薬であるCI−930で阻害されないこと。
4.PDE4選択的阻害薬であるロリプラム(Rolipram)により強く阻害されること。
(PDE4活性の測定)
トンプソンらの方法(アドバンス・イン・サイクリック・ヌクレオチド・リサーチ〔Advances in Cyclic Nucleotide Research〕、10巻、ラベン・プレス、ニューヨーク、69〜92頁、1979年)を一部改変して行った。すなわち、50mM Tris−HCl、pH8.0で全基質の約10%を水解するように希釈したPDE4部分精製標品100μlをガラス製試験管に加えた。反応用緩衝溶液(50mMTris−HCl、pH 8.0、12.5mM MgCl、10mM 2−メルカプトエタノール)を200μl加えた後、ジメチルスルフォキサイドに溶解した検体化合物(後記化合物)(100倍濃度)を5μl加えた。30℃で5分間プレインキュベートした後、2.5μM[3H]cAMP(3.7kBq/200μl)を200μl加え、反応を開始した(終濃度50mM Tris−HCl、pH 8.0、5mM MgCl、4mM 2−メルカプトエタノール、1μM cAMP)。30℃で30分間の反応後、試験管を沸騰水浴中に移し、反応を停止した。90秒後、試験管を氷水浴中に移し、反応液の温度を下げた。30℃、5分間のプレインキュベートの後、1mg/mlヘビ毒水溶液100μlを添加し、30℃で30分間反応させた。メタノール500μlを添加することにより反応を停止させた後、ダウエックス樹脂(商品名:Dowex 1x8、シグマ社製)200μlを予め加えておいたカラムに反応液1mlを供した。続いてメタノール1mlを加えることにより、ダウエックス樹脂を洗浄した。反応液のカラム通過液と洗浄液とを合し、その放射活性を測定した。酵素標品を加えずに緩衝溶液のみを加えたものをブランク、酵素標品を加えるが検体溶液の代わりにジメチルスルフォキシドのみを加えたものをコントロールとし、各検体のコントロールに対する阻害率を計算した。各検体のIC50値の計算は、3点以上の濃度における阻害率を求め、4−パラメータロジスティックエクエイション(4−parameter logistic equation)法を用いて回帰することにより行った。
(検体)
(検体化合物):6,7−ジメトキシ−1−[2−(1,3−ジオキソシクロヘキサン−2−イル)ピリジン−4−イル]−2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン。
(結果)
検体化合物のPDE4阻害活性(IC50)は0.009μMであった。
【製造例】
【0032】
上記例示の各方法で合成される本発明の有効成分である化合物[I]の具体例(製造例)を下記に示すが、これにより本発明が限定されるものではない。
【0033】
製造例1
6,7−ジメトキシ−1−(1−オキシピリジン−4−イル)−2,3−ビス(アセトキシメチル)ナフタレン2.23gを無水酢酸5mlに懸濁し、氷冷下、1,3−シクロヘキサンジオン0.71gを加え、室温で終夜撹拌後、90℃で6時間反応する。茶褐色反応液を室温に戻し、減圧下濃縮する。残渣に炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出する。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルム:アセトン=10:1)で精製し、粗成生物1.0gを得る。さらに、クロマトロン(展開溶媒;クロロホルム:アセトン=10:1)で精製し、ジエチルエーテルで結晶化することにより、6,7−ジメトキシ−1−[2−(1,3−ジオキソシクロヘキサン−2−イル)ピリジン−4−イル]−2,3−ビス(アセトキシメチル)ナフタレン580mgを得る。
融点:210−213℃。
【0034】
製造例2
製造例1で得られる化合物440mgをメタノール3mlに懸濁し、氷冷下、ナトリウムメトキシド(28%メタノール溶液)0.495mlを加える。室温で30分撹拌した後(一度溶液になった後、結晶が析出する)、反応液を氷冷し、1M塩酸を加えpH4に調整する。析出した結晶をろ取し、水洗することにより、6,7−ジメトキシ−1−[2−(1,3−ジオキソシクロヘキサン−2−イル)ピリジン−4−イル]−2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン320mgを得る。
融点:>220℃。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]:
【化1】



(式中、RおよびRは同一または異なって水酸基または低級アルコキシ基、RおよびRは同一または異なって水素原子またはアシル基、nは1〜6の整数を表す。)
で示されるナフタレン化合物またはその薬理的に許容しうる塩を有効成分としてなる医薬組成物。
【請求項2】
およびRが同一または異なって低級アルコキシ基、RおよびRが水素原子またはアセチル基、nが3である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
およびRが水素原子である請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
6,7−ジメトキシ−1−[2−(1,3−ジオキソシクロヘキサン−2−イル)ピリジン−4−イル]−2,3ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレンもしくは6,7−ジメトキシ−1−[2−(1,3−ジオキソシクロヘキサン−2−イル)ピリジン−4−イル]−2,3ビス(アセトキシメチル)ナフタレンまたはその薬理的に許容し得る塩を有効成分としてなる医薬組成物。
【請求項5】
PDE4阻害剤である請求項1〜4記載の医薬組成物。
【請求項6】
炎症性疾患又はアレルギー疾患の予防・治療剤である請求項1〜4記載の医薬組成物。
【請求項7】
喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、春季カタル、好酸球増多症、乾癬、慢性関節リウマチ、敗血性ショック、潰瘍性大腸炎、クローン病、再灌流障害、慢性糸球体腎炎、エンドトキシンショック、成人呼吸窮迫症候群又は骨関節炎の予防治療剤である請求項1〜4記載の医薬組成物。
【請求項8】
気管支収縮抑制剤である請求項1〜4記載の医薬組成物。
【請求項9】
骨折治癒促進剤又は軟骨疾患治療剤である請求項1〜4記載の医薬組成物。
【請求項10】
軟骨疾患が変形性関節症である請求項9記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2004−256528(P2004−256528A)
【公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−28960(P2004−28960)
【出願日】平成16年2月5日(2004.2.5)
【出願人】(000002956)田辺製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】