説明

医薬組成物

【課題】抗癌剤又は抗炎症剤として有用なpro−PHBPの活性化を特異的に抑制する化合物の提供。
【解決手段】既知化合物ライブラリーサンプルおよび市販化合物を探索源とし、Pro−PHBP活性化阻害物質の新規スクリーニングを行った結果得られた、下記式で示される化合物、タンニン酸やシアニジンなどのポリフェノール構造を有する化合物、オキシテトラサイクリンなどから選択される化合物を有効成分として含む、医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物および前駆体型血漿ヒアルロナン結合タンパク質の活性化阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞はその悪性化に伴って、周囲の組織へと浸潤し、さらには他の臓器へと転移して二次腫瘍を形成する。この浸潤・転移の過程は非常に複雑であり様々な因子がその制御に関わるが、このうち基底膜や血管壁の分解は浸潤・転移の過程の中でも重要なステップである。このステップにおいて中心的な役割を果たすのが、血漿中に存在する一連のセリンプロテアーゼやそのインヒビターであり、中でも組織線溶にはウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(u−PA)が重要な役割を担っている。
【0003】
u−PAによって生じたプラスミンは細胞外マトリックスを直接の基質とするマトリックスメタロプロテアーゼ前駆体(pro−MMPs)を活性化し、このことによって組織線溶が生じる[非特許文献1]。これら一連のプロテアーゼ活性と癌の浸潤・転移能との関わりについてはこれまで多くの報告がなされており[非特許文献2]、これらの酵素活性、あるいはそのレセプターとの相互作用を阻害することによる転移阻害剤の研究が行われている。u−PAは多くのセリンプロテアーゼがそうであるように、血中では酵素活性を持たない前駆体型として存在し、何らかの要因によって活性化し線溶反応を引き起こす。近年、u−PAの活性化の引き金となる酵素として、血漿中からプロウロキナーゼ活性化能を有する新規セリンプロテアーゼが発見された。
【0004】
PHBP(plasma hyaluronan binding protein)は、1994年に三浦らによって、ヒアルロン酸に特異的に結合するタンパク質として血漿中から発見された[非特許文献3]。PHBPは主として肝臓で翻訳されたのち、N末端のシグナルペプチドが切断され、酵素活性を持たない前駆体型pro−PHBPとして血中に分泌される[非特許文献4]。Pro−PHBPは、3つのEGF様ドメインと、1つのクリングルドメイン、さらにセリンプロテアーゼ様ドメインを有する、537アミノ酸残基からなる分子量70kDaの一本鎖型の前駆体である[非特許文献5]。正常血中ではこの前駆体型のみが存在し、活性型PHBPはマウスの肝障害時、あるいは肝切除の場合にのみ検出されている[非特許文献6]。
【0005】
PHBPの生理的な役割は未だ不明な点が多いが、in vitroにおいてフィブリン、フィブロネクチンの切断[非特許文献6]やpro−u−PAをu−PAへと変換するプロウロキナーゼ活性化能を有することが報告されており[非特許文献7]、さらに、PHBPの細胞表面の局在に伴い、線溶が促進されることも明らかにされている。
【0006】
また、PHBPには、Marburg症と名付けられた511番目のアミノ酸がGからEに置換された遺伝子多型が報告されており、このアミノ酸置換をもつ患者では、PHBP依存性のu−PA活性が正常と比較して50−80%減少しており、u−PA依存性のプラスミン生成量の減少も見られる[非特許文献8]。さらにMarburg症が動脈硬化の進行に関与していること、Marburg症患者の頚動脈血管壁にPHBPが高発現していることも報告されている[非特許文献9]。これらの知見はPHBPが線溶系の最上流に位置し、血栓の溶解反応や炎症反応、癌の浸潤・転移の際に生じる一連の組織線溶にも関わる重要なタンパク質の一つであることを示している。
【0007】
Pro−PHBPからPHBPへの変換を触媒する酵素の存在は、現在までに報告されておらず、自己活性化によって変換されると考えられている[非特許文献10,11]。自己触媒作用によりArg290−Ile291の間が切断され、活性型2本鎖分子(3つのEGFドメインとクリングルドメインを含む50kDaの重鎖:Phe1−Arg290およびセリンプロテアーゼドメインを含む27kDaの軽鎖:Ile291−Phe537)が生じ、さらなる自己開裂によって、失活型4本鎖分子となる。その後もさらなる自己開裂によって断片化が進行する[非特許文献5]。
【0008】
PHBPの活性化機構は、凝固系因子 Factor XIIに類似しており、その自己開裂は、ポリ−L−リジンやヘパリン、デキストラン硫酸といった電荷物質によって促進される[非特許文献5,10]。また生体内ポリアミンの一つであるスペルミジンによっても、活性化が促進されることが明らかとされた。
【0009】
しかし、これらの活性化促進因子がどのようなメカニズムで(pro−)PHBPに結合し作用を及ぼしているのかは不明であり、前述したようにpro−PHBPの活性化機構、およびその生理的役割は不明な点が多い。また活性型二本鎖PHBPの阻害剤としては、内因性阻害因子としてC−1インヒビターやa2−アンチプラスミンが報告されており、また一般的なセリンプロテアーゼ阻害剤によって阻害されるが[非特許文献11]、これらはいずれもPHBP特異的なものではなく、また前駆体型pro−PHBPに対する特異性も有していない。
【0010】
【化1】

【0011】
図中、uPAは、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーターであり、uPARは、uPAレセプターであり、PLGは、プラスミノーゲンであり、PMは、プラスミンである。
【0012】
従来、pro−PHBP活性化阻害剤としては、サーファクチンを始めとした環状リポペプチドなど十数種の化合物が知られている。[特許文献1]しかしこれらの化合物はその阻害活性が低いこと、阻害作用の特異性が低いなど問題点があり、pro−PHBPの活性化を特異的に抑制する、より優れた活性をもつ化合物の開発が望まれていた。
【非特許文献1】Werb,Z.(1997).ECM and cell surface proteolysis:regulating cellular ecology.Cell 91,439−42
【非特許文献2】Pepper,M.S.(2001).Role of matrix metalloproteinase and plasminogen activator−plasmin systems in angiogenesis.Arterioscler thromb vasc biol.21,1104−1117
【非特許文献3】Choi−Miura,N.H.Tobe,T.Sumiya,J.Nakano,Y.Sano,Y.Mazda,T. and Tomita,M.(1996).Purification and characterization of a novel hyaluronan−binding protein(PHBP)from human plasma:it has three EGF,a kringle and a serine protease domain,similar to hepatocyte growth factor activator.J.Biochem.119,1157−1165
【非特許文献4】Choi−Miura,N.H.Yoda,M.Saito,K.Takahashi,K.and Tomita,M.(2001).Identification of the substrates for plasma hyaluronan binding protein.Biol.Pharm.Bull.24,140−143
【非特許文献5】Choi−Miura,N.H.Takahashi,K.Yoda,M.Saito,K.Mazda,T.and Tomita,M.(2001).Proteolytic activation and inactivation of the serine protease activity of plasma hyaluronan binding protein.Biol.Pharm.Bull.24,448−452
【非特許文献6】Choi−Miura,N.H.Otsuyama,K.Sano,K.Takahashi,K.and Tomita,M.(2001).Hepatic injury−specific conversion of mouse plasma hyaluronan binding protein to the active hetero−dimer form.Biol.Pharm.Bull.24,892−896
【非特許文献7】Romish,J.Vermohlen,S.Feussner,A.Stohr,H.A.(1999),The FVII activating protease cleaves single−chain plasminogen activators.Haemostasis.29,292−299
【非特許文献8】Romish,J.Feussner,A.Nerlich,C.Stoehr,H.A.and Weimer,T.(2002).The frequent Marburg I polymorphism impairs the pro−urokinase activating potency of the factor VII activating protease(FSAP).Blood Coag.Fibl.13,433−441
【非特許文献9】Ireland,H.Miller,G.J.Webb,K.E.Cooper,J.A.and Humphies,S.E.(2004).The factor VII activating protease G511E(Murburg)variant and cardiovascular risk
【非特許文献10】Etscheid,M.Hunfeld,A.Konig,H.Seitz,R.and Dodt,J.(2000).Activation of proPHBSP,the zymogen of a plasma hyaluronan binding serine protease,by an intermolecular autocatalytic mechanism.Biol.Chem.381,1223−1231
【非特許文献11】Choi−Miura,N.H.Saito,K.Takahashi,K.Yoda,M.and Tomita,M.(2001).Regulation mechanism of the serine protease activity of plasma.Biol.Pharm.Bull.24,221−225
【特許文献1】特開2008−201699 医薬組成物
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意努力した結果、本発明の化合物が、前駆体型pro−PHBPの活性化を従来知られていた化合物よりも強く阻害し、かつ活性型PHBPには影響しないことを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
したがって、本発明は、下記:
下記式:
【化2】






で示される化合物を有効成分として含む、医薬組成物、
抗癌剤又は抗炎症剤である、上記(1)〜(24)に記載の医薬組成物、
前駆体型の血漿ヒアルロナン結合タンパク質の活性化に関連する疾患の治療剤である、上記(1)〜(24)に記載の医薬組成物、及び
下記式:
【化3】






で示される化合物を含む、前駆体型血漿ヒアルロナン結合タンパク質の活性化阻害剤に関する。
【0015】
式(1)〜式(24)の化合物は、いずれも既知化合物であり、合成あるいは天然物から精製することで入手可能である。
【0016】
本発明で前駆体型血漿ヒアルロナン結合タンパク質の活性化に関連する疾患とは、活性型血漿ヒアルロナン結合タンパク質の存在に起因して生じる病態をいい、たとえば、癌や炎症を挙げることができる。本発明の医薬は、癌や炎症の予防剤又は治療剤として用いることができる。
【0017】
本発明の結晶の投与形態は、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤又はシロップ剤等による経口投与、或いは、注射剤又は座剤等による非経口投与であり得る。更に、本発明の結晶は、粉末、溶液又は懸濁液の形態として経肺投与することもできる。これらのための製剤は賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤などの添加剤を用いて周知の方法で製造される。
【0018】
本発明の医薬組成物の使用量は症状、年齢、投与方法等によって異なるが、例えば経口投与の場合には、成人に対して1日あたり、下限として0.1mg(好ましくは、1mg、更に好ましくは、5mg)、上限として、1000mg(好ましくは、100mg、更に好ましくは、50mg)を1回または数回に分けて、症状に応じて投与することが望ましい。静脈内投与の場合には、成人に対して1日当たり、下限として0.01mg(好ましくは0.1mg)、上限として、100mg(好ましくは10mg)を1回または数回に分けて、症状に応じて投与することが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の医薬組成物は、Pro−PHBPの活性化を抑制することにより、副作用が少なく、炎症反応や癌の浸潤・転移の際の組織線溶を抑制する効果という効果を奏する。
【0020】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
Pro−PHBPの精製およびPHBPの調製
Pro−PHBPは、Etscheidらの方法[Biol.Chem.381,1223−1231(2000)]にしたがい、6Mウレア存在下において、二段階の陰イオンカラムクロマトグラフィーに付した。ビシコニン酸(BCA)法によりタンパク定量を行った後、使用時まで−80℃で保存し、凍結融解後は4℃で保存し一週間以内に使用した。活性型二本鎖PHBPは、0.2mMpro−PHBPをprocessing buffer(50mMTris−HCl,pH6.0(25℃),0.15MNaCl,10mMCaCl、0.1%Tween−20)中で37℃,20分間インキュベーションすることにより調製した。
【0022】
Pro−PHBP活性化
Pro−PHBP活性化は、以下のいずれかの方法によって測定した。いずれも丸底96ウェルプレートを用いて50mlのSubstrate buffer(50mMTris−HCl,pH7.4(25℃),75mMNaCl,5mMCaCl,0.05%Tween−20)中、37℃で測定した。405nmの吸収波長を60分、または20分間連続的に測定し、遊離するp−ニトロアニリンを定量した。酵素(前駆体)、合成発色基質および評価系に添加するpro−PHBP活性化促進因子の濃度は以下に示すとおりである。
【0023】
(1) pro−PHBP活性化(1段階アッセイ):
Pro−PHBP 5nM,スペクトロザイムTH 0.1mM,活性化促進因子としてスペルミジントリヒドロクロリド5mMを添加。
(2) pro−PHBP活性化(2段階アッセイ):
Pro−PHBP 5nM,活性化促進因子としてスペルミジントリヒドロクロリド5mMを添加し、37℃、20分間インキュベーションを行った。プレインキュベーション後、スペクトロザイムTHを終濃度0.1mMとなるように添加した。
(3)PHBPのアミド分解活性:
PHBP 2 nM,スペクトロザイムTH 0.1mM;
それぞれの測定はいずれもトリプリケートで行った。
【0024】
スクリーニング方法
本発明者が所有する既知化合物ライブラリーサンプルおよび市販化合物を探索源とした。上述の方法を用いて、pro−PHBP活性化阻害活性を測定した。
【0025】
結果
Pro−PHBP活性化阻害物質の新規スクリーニングを行った結果、以下に示す化合物がpro−PHBP活性化阻害活性を示した。
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
【化4】





で示される化合物を有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項2】
抗癌剤又は抗炎症剤である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前駆体型血漿ヒアルロナン結合タンパク質の活性化に関連する疾患の治療剤である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
下記式:
【化5】






で示される化合物を含む、前駆体型血漿ヒアルロナン結合タンパク質の活性化阻害剤。

【公開番号】特開2010−209055(P2010−209055A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91543(P2009−91543)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(507051732)株式会社ティムス (5)
【Fターム(参考)】