説明

医薬組成物

【課題】低融点油脂状物質を配合した固形製剤の薬物溶出性が改善され、安定性と溶出性に優れた固形医薬組成物の提供。
【解決手段】薬効成分、低融点油脂状物質および低粘度結合剤を含有してなる固形医薬組成物。低粘度結合剤を用いることを特徴とする、薬効成分と低融点油脂状物質とを含有する固形医薬組成物からの薬効成分の溶出を改善する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度結合剤を含有することを特徴とする、安定性と溶出性に優れた固形医薬組成物に関する。
【発明の背景】
【0002】
医薬品には有効性と安全性が求められることは言うまでもないが、医薬品としての有効性と安全性を担保するためには、薬効成分自体の有効性や安全性が重要であるばかりでなく、製剤中における薬効成分の安定性や、製剤からの薬物溶出性等の製剤学的特性も極めて重要である。例えば、製造直後は一定の品質を満たしていても、製剤中で薬効成分が経時的に分解するようであれば、医薬品として有効性と安全性の面で問題となりうる。また、製剤からの薬物溶出性に関しては、製剤からの薬物溶出が遅すぎると、血中の薬物が有効な濃度に達せず期待された薬効が発揮されない可能性があり、逆に、製剤からの薬物溶出が速すぎると、血中の薬物濃度が急激に上昇し副作用の危険性が高まるおそれがある。
【0003】
製剤中における薬効成分の安定性を高めるための手段として、低融点油脂状物質を配合することが知られている。例えば、強力なアンジオテンシンII受容体拮抗作用を有し、高血圧症などの治療薬として有用な、式(I)で表される化合物(例えば、ベンズイミダゾール−7−カルボン酸誘導体など)は、単独で固体状態では、温度、湿度、熱に対して安定な結晶性化合物であるが、製造過程における造粒あるいは加圧成型の際に加えられる圧力、摩擦、熱等により結晶の歪みが生じることがあり、経日的な含量低下が加速される。このような製剤中における経日的分解は、低融点油脂状物質を配合することによって抑制されることが知られている(特許文献1)。
【0004】
一方、医薬品の分野においては、疾患の重篤度に応じて投与量を調節する等の目的で、同一の薬効成分を含有し、薬物含有量の異なる複数の製剤が販売される場合が多い。この場合、含有量に応じた薬効を発揮しつつ安全性を担保するためには、製剤からの薬物溶出速度が薬物含有量によらず一定であることが必要とされる。しかし、錠剤のスケールが増大するに伴い、錠剤重量の増加によって錠剤の崩壊性が低下し、薬物の溶出性が低下することが知られている。固形製剤からの薬物溶出性は、固形製剤の崩壊性と相関することから、固形製剤からの薬物溶出性を改善する方法としては、崩壊剤の種類や添加方法を変更することが一般的には知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−194218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固形製剤中における薬効成分の安定性を高めるために低融点油脂状物質を配合すると、固形製剤の崩壊性が低下し、固形製剤からの薬物溶出性が著しく低下した。とりわけ、薬物溶出性の低下は、固形製剤中の薬効成分含有量が高くなるほど顕著であった。本発明者らは、崩壊剤の種類や添加方法を種々検討したが、溶出速度を改善するには至らなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、低融点油脂状物質を配合した固形製剤の薬物溶出性を改善するために、鋭意研究を行った結果、低粘度結合剤を製剤中に添加することにより、予想外にも固形製剤からの薬物溶出性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)薬効成分、低融点油脂状物質および低粘度結合剤を含有してなる固形医薬組成物;
(2)薬効成分が結晶性の難溶性化合物である前記(1)記載の組成物;
(3)結晶性の難溶性化合物の融点が約75〜約250℃であって、水への溶解度が約1g/L以下である前記(2)記載の組成物;
(4)結晶性の難溶性化合物が式(I):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、環Wは置換されていてもよい含窒素複素環残基を示し、R3は陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基を示し、Xはフェニレン基とフェニル基が直接または原子鎖2以下のスペーサーを介して結合していることを示し、nは1または2の整数を示す)で表される化合物またはその塩(以下、化合物(I)と称する場合がある)である前記(2)記載の組成物;
(5)式(I)で表される化合物またはその塩が2-エトキシ-1-{[2'-(5-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸(以下、化合物Aと称する場合がある)である前記(4)記載の組成物;
(6)低融点油脂状物質の融点が20〜90℃である前記(1)記載の組成物;
(7)低粘度結合剤が低粘度のセルロース誘導体である前記(1)記載の組成物;
(8)セルロース誘導体がヒドロキシプロピルセルロースである前記(7)記載の組成物;
(9)低粘度結合剤が粘度約1〜約4mPa・sのヒドロキシプロピルセルロースである前記(1)記載の組成物;
(10)錠剤である前記(1)記載の組成物;
(11)低粘度結合剤を用いることを特徴とする、薬効成分と低融点油脂状物質とを含有する固形医薬組成物からの薬効成分の溶出を改善する方法;などに関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例および参考例の溶出率を表わすグラフである。
【図2】図2は、実施例および参考例の溶出率を表わすグラフである。
【0012】
本発明における薬効成分としては、固形医薬組成物中での安定性が低融点油脂状物質の添加によって向上する化合物、より具体的には、固形医薬組成物中でその物理化学的性状が経時的に変化し、かつ、その変化が低融点油脂状物質の添加によって抑制される化合物であれば如何なる化合物であってもよい。本発明における薬効成分の性状は、固体状または油脂状の何れであってもよく、好ましくは固体状である。本発明における薬効成分が固体である場合、結晶または無晶系の何れであってもよく、好ましくは結晶である。
【0013】
固形医薬組成物中における薬効成分の物理化学的性状の変化としては、結晶化度の変化、ある結晶系から他の結晶系への変化、無水物から水和物への変化、水和物から無水物への変化、水和数の変化、塩から遊離体への変化、遊離体から塩への変化、塩の交換ならびに分解、酸化、還元、重合、異性化等の化学構造の変化などが挙げられる。
【0014】
本発明における薬効成分としては結晶性の難溶性化合物が好ましく、融点が約75〜約250℃、とりわけ約100〜約200℃である結晶性化合物が好ましい。また、「難溶性」とは、具体的には、20℃の水への溶解度が約1g/L以下であることを意味し、好ましくは20℃の水への溶解度が約0.7g/L以下である結晶性化合物が、より好ましくは20℃の水への溶解度が約0.5g/L以下である結晶性化合物が用いられる。溶解度の下限は特に限定されないが、20℃の水への溶解度が約0.001g/L以上であることが好ましい。
【0015】
本発明において薬効成分として用いられる結晶性の難溶性化合物として、式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0016】
前記一般式(I)において、R3としての陰イオンを形成しうる基(プロトン化しうる水素原子を有する基)またはそれに変じ得る基としては、N、SおよびOのうちの1個または2個以上を含む5〜7員(好ましくは5〜6員)の単環状の置換されていてもよい複素環残基(例えば、テトラゾリル、式:
【0017】
【化2】

【0018】
〔式中、iは−O−または−S−を示し、jは>C=O、>C=Sまたは
>S(O)を示す(式中、mは0、1または2を示す)〕で表される基(例えば、5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1,2,4−オキサジアゾール−3−イル基など)など)、カルボキシル、トリフルオロメタンスルホニルアミノ、ホスホノ、スルホ、シアノ、低級(C1-4)アルコキシ−カルボニルなどや、または生体内でこれらに変じ得る基が挙げられる。これらの基は置換されていてもよい低級アルキル基、アシル基などで保護されていてもよく、生物学的すなわち生理的条件下(例えば、生体内酵素などによる酸化、還元あるいは加水分解などの生体内反応など)で、または化学的に陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基であればいずれでもよい。さらにR3としては、プロトンドナーとしてのアミノ基や水酸基と、プロトンアクセプターとしてのカルボニル基、チオカルボニル基、スルフィニル基などを同時に有する基(例えば、オキサジアゾリル、チアジアゾリルなど)でもよい。
【0019】
なお、5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1,2,4−オキサジアゾール−3−イル基には、式:
【0020】
【化3】

【0021】
で示される3つの互変異性体(a’、b’およびc’)が存在し、5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1,2,4−オキサジアゾール−3−イル基は上記a’、b’およびc’のすべてを含む。
【0022】
3としては、置換されていてもよい低級(C1-4)アルキル基(例、メチル、トリフェニルメチル、メトキシメチル、エトキシメチル、p−メトキシベンジル、p−ニトロベンジルなど)もしくはアシル基(例、低級(C2-5)アルカノイル、ベンゾイルなど)でそれぞれ保護されていてもよい、テトラゾリル基、式:
【0023】
【化4】

【0024】
〔式中、各記号は前記と同義を示す〕で表される基(例えば、5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1,2,4−オキサジアゾール−3−イル基など)、カルボキシル基などが好ましく、5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1,2,4−オキサジアゾール−3−イル基が特に好ましい。
【0025】
3の置換位置としては、オルト、メタ、パラのいずれの位置でもよいが、なかでもオルト位が好ましい。
【0026】
Xは隣接するフェニレン基とフェニル基が直接または原子鎖2以下のスペーサーを介して結合していること(好ましくは直接結合)を示し、原子鎖2以下のスペーサーとしては、直鎖部分を構成する原子数が1または2である2価の鎖であればいずれでもよく、側鎖を有していてもよい。具体的には、原子鎖2以下のスペーサーとしては、低級(C1-2)アルキレン、−CO−、−O−、−S−、−NH−、−CO−NH−、−O−CH2−、−S−CH2−、−CH=CH−などが挙げられる。
nは1または2の整数(好ましくは1)を示す。
【0027】
式:
【0028】
【化5】

【0029】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)
で表される基としては、式:
【0030】
【化6】

【0031】
で表されるものが好ましい。
【0032】
環Wで表される含窒素複素環残基の代表的なものとしては、例えば後述の式(III)又は式(IV)で表される残基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。以下に具体的に示す。なお、以下の式中、R1は水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示し、Yは結合手、−O−、−S(O)−(式中、mは0、1または2を示す)または−N(R4)−(式中、R4は水素原子または置換されていてもよいアルキル基を示す)を示す。なかでも、R1は水酸基、アミノ基、ハロゲンまたは低級(C1-4)アルコキシ基で置換されていてもよい低級(C1-5)アルキル(好ましくは、低級(C2-3)アルキル)が好ましく、Yは結合手、−O−、−S−または−N(R4)−(式中、R4は水素原子または低級(C1-4)アルキルを示す)が好ましい。例えば、式(III):
【0033】
【化7】

【0034】
(式中、複素環残基を構成するaおよびeは互いに独立にそれぞれ置換されていてもよい炭素原子及びヘテロ原子から選ばれる1または2原子を示し、dおよびfは互いに独立にそれぞれ置換されていてもよい炭素原子及びヘテロ原子から選ばれる1原子を示し、bおよびcは互いに独立にそれぞれ置換されていてもよい炭素原子及び窒素原子から選ばれる1原子を示す)で表される残基として、式:
【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
(式中、hは−CH2−、>=O、>=S、>S(O)、−N(R4)−または−O−を示し、mは0、1または2を示し、R4は水素原子または置換されていてもよいアルキル基(好ましくは水素原子または低級(C1-4)アルキル)を示す)などが挙げられる。さらに例えば、式(IV):
【0038】
【化10】

【0039】
(式中、複素環残基を構成するaはそれぞれ置換されていてもよい炭素原子及び窒素原子から選ばれる1または2原子を示し、bはそれぞれ置換されていてもよい炭素原子及びヘテロ原子から選ばれる1または2原子を示し、cはそれぞれ置換されていてもよい炭素原子及びヘテロ原子から選ばれる1原子を示す)で表される残基として、式:
【0040】
【化11】

【0041】
(式中、Aは置換されていてもよく、ヘテロ原子が含まれていてもよい芳香族炭化水素残基または複素環残基(好ましくはフェニルなどの芳香族炭化水素残基)を示し、hおよびh'はそれぞれ−CH2−、>=O、>=S、>S(O)、−N(R4)−または−O−を示し、mおよびR4はそれぞれ前記と同意義を示す)などが挙げられる。上記の式(III)で示される複素環残基は、Y−R1で示される基以外にR2で示される基(例えば、陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基など)で置換されていてもよい。R2の置換位置としては、式(III)においてfの位置が好ましい。
【0042】
2としての陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基としては、例えばエステル化またはアミド化されていてもよいカルボキシル、テトラゾリル、トリフルオロメタンスルホニルアミノ、ホスホノ、スルホなどが挙げられる。これらの基は置換されていてもよい低級アルキル基、アシル基などで保護されていてもよく、生物学的すなわち生理条件下(例えば、生体内酵素などによる酸化、還元あるいは加水分解などの生体内反応など)で、または化学的に陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基であればいずれでもよい。
【0043】
2としてのエステル化またはアミド化されていてもよいカルボキシルとしては、例えば式:−CO−D〔式中、Dは水酸基、置換されていてもよいアミノ(例えば、アミノ、N−低級(C1-4)アルキルアミノ、N,N−ジ低級(C1-4)アルキルアミノなど)または置換されていてもよいアルコキシ{例、アルキル部分が水酸基、置換されていてもよいアミノ(例、アミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ピペリジノ、モルホリノなど)、ハロゲン、低級(C1-6)アルコキシ、低級(C1-6)アルキルチオもしくは置換されていてもよいジオキソレニル(例、5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イルなど)で置換されていてもよい低級(C1-6)アルコキシ基、または式:−O−CH(R6)−OCOR5〔式中、R6は水素原子、直鎖もしくは分枝状の低級(C1-6)アルキル基(例、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルなど)、直鎖もしくは分枝状の低級(C2-6)アルケニル基または(C3-8)シクロアルキル基(例、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなど)を示し、R5は直鎖もしくは分枝状の低級(C1-6)アルキル基(例、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルなど)、直鎖もしくは分枝状の低級(C2-6)アルケニル基、(C3-8)シクロアルキル基(例、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなど)、(C3-8)シクロアルキル(例、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなど)もしくは置換されていてもよいフェニルなどのアリールで置換された低級(C1-3)アルキル基(例、ベンジル、p−クロロベンジル、フェネチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチルなど)、(C3-8)シクロアルキルもしくは置換されていてもよいフェニルなどのアリールで置換されていてもよい低級(C2-3)アルケニル基(例、シンナミル等のビニル、プロペニル、アリル、イソプロペニルなどのアルケニル部を持つものなど)、置換されていてもよいフェニルなどのアリール基(例、フェニル、p−トリル、ナフチルなど)、直鎖もしくは分枝状の低級(C1-6)アルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシなど)、直鎖もしくは分枝状の低級(C2-8)アルケニロキシ基(例、アリロキシ、イソブテニロキシなど)、(C3-8)シクロアルキルオキシ基(例、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロヘプチルオキシなど)、(C3-8)シクロアルキル(例、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなど)もしくは置換されていてもよいフェニルなどのアリールで置換された低級(C1-3)アルコキシ基(例、ベンジロキシ、フェネチロキシ、シクロペンチルメチロキシ、シクロヘキシルメチロキシなどのメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシなどのアルコキシ部を持つものなど)、(C3-8)シクロアルキル(例、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなど)もしくは置換されていてもよいフェニルなどのアリールで置換された低級(C2-3)アルケニロキシ基(例、シンナミロキシ等のビニロキシ、プロペニロキシ、アリロキシ、イソプロペニロキシなどのアルケニロキシ部を持つものなど)、置換されていてもよいフェノキシなどのアリールオキシ基(例、フェノキシ、p−ニトロフェノキシ、ナフトキシなど)などを示す〕で表される基など}を示す〕で表される基などが挙げられる。
【0044】
また、R2としての置換基は、陰イオンを形成しうる基またはそれに変じうる基(例、アルキル(例、低級(C1-4)アルキルなど)もしくはアシル(例、低級(C2-5)アルカノイル、置換されていてもよいベンゾイルなど)でそれぞれ保護されていてもよい、テトラゾリル、カルボキシル、トリフルオロメタンスルホニルアミノ、ホスホノ、スルホなど)であってもよい。
【0045】
陰イオンを形成しうる基またはそれに変じうる基としては、生物学的すなわち生理条件下(例えば、生体内酵素による酸化・還元あるいは加水分解などの生体内反応など)で、または化学的に陰イオン(例、COO-、その誘導体など)を形成しうる基またはそれに変じうる基であればいずれであってもよい。R2はカルボキシル基、またはそのプロドラッグ体であってもよい。R2は生体内などで生物学的または化学的に陰イオンに変換せしめられるものであってもよい。
【0046】
置換基R2の例としては、−COOH及びその塩、−COOMe、−COOEt、−COOtBu、−COOPr、ピバロイロキシメトキシカルボニル、1−(シクロヘキシルオキシカルボニロキシ)エトキシカルボニル、5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イルメトキシカルボニル、アセトキシメチルオキシカルボニル、プロピオニロキシメトキシカルボニル、n−ブチリロキシメトキシカルボニル、イソブチリロキシメトキシカルボニル、1−(エトキシカルボニロキシ)エトキシカルボニル、1−(アセチロキシ)エトキシカルボニル、1−(イソブチリロキシ)エトキシカルボニル、シクロヘキシルカルボニルオキシメトキシカルボニル、ベンゾイロキシメトキシカルボニル、シンナミロキシカルボニル、シクロペンチルカルボニロキシメトキシカルボニルなどが挙げられる。
【0047】
上記R2としては、式: −CO−D[式中、Dは水酸基またはアルキル部分が水酸基、アミノ、ハロゲン、低級(C2-6)アルカノイルオキシ(例、アセチルオキシ、ピバロイルオキシなど)、低級(C1-6)アルコキシ−カルボニルオキシ(例、メトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシなど)または低級(C1-4)アルコキシで置換されていてもよい低級(C1-4)アルコキシを示す]で表わされる基が好ましい。
【0048】
また、式(III)で示される複素環残基は、Y−R1およびR2で表される基以外にさらに置換基を有していてもよく、このような置換基としては、例えば、ハロゲン(例、F、Cl、Brなど)、シアノ、ニトロ、低級(C1-4)アルキル、低級(C1-4)アルコキシ、置換されていてもよいアミノ基(例、アミノ、N−低級(C1-4)アルキルアミノ(例、メチルアミノなど)、N,N−ジ低級(C1-4)アルキルアミノ(例、ジメチルアミノなど)、N−アリールアミノ(例、フェニルアミノなど)、脂環式アミノ(例、モルホリノ、ピベリジノ、ピペラジノ、N−フェニルピペラジノなど)など)、式:−CO−D’[式中、D’は水酸基またはアルキル部分が水酸基、低級(C1-4)アルコキシ、低級(C2-6)アルカノイルオキシ(例、アセチルオキシ、ピバロイルオキシなど)あるいは低級(C1-6)アルコキシ−カルボニルオキシ(例、メトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシなど)で置換されていてもよい低級(C1-4)アルコキシを示す]で表わされる基、または低級(C1-4)アルキルもしくはアシル(例、低級(C2-5)アルカノイル、置換されていてもよいベンゾイルなど)でそれぞれ保護されていてもよい、テトラゾリル、トリフルオロメタンスルホニルアミノ、ホスホノ、スルホなどが挙げられ、好ましくは、低級(C1-4)アルキル、ハロゲンなどである。これらの置換基が複素環残基を構成する環の任意の位置に1〜2個同時に置換されていてもよい。式(III)で表される含窒素縮合複素環残基としては、式:
【0049】
【化12】

【0050】
(式中、Y−R1、R2およびR4は前記と同意義を示す)などが好ましく、ベンズイミダゾリル、チエノイミダゾリルまたはイミダゾピリジニル(とりわけベンズイミダゾリル、チエノイミダゾリル)が好ましい。
【0051】
上記一般式(I)で表される化合物の中でも、式(I’):
【0052】
【化13】

【0053】
[式中、環AはR2で表わされる基以外にさらに置換基を有していてもよいベンゼン環を示し、R1は水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示し、R3は陰イオンを形成しうる基またはそれに変じうる基を示し、Xはフェニレン基とフェニル基が直接または原子鎖2以下のスペーサーを介して結合していることを示し、R2はエステル化されていてもよいカルボキシル基を示し、Yは結合手、−O−、−S(O)−(式中、mは0、1または2を示す)または−N(R4)−(式中、R4は水素原子または置換されていてもよいアルキル基を示す)を示し、nは1または2の整数を示す]で表わされる化合物またはその塩(以下、化合物(I’)と称する場合がある)などが好ましく、より具体的にはEP公開第0425921号公報またはEP公開0459136号公報に記載されたベンズイミダゾール−7−カルボン酸またはその誘導体の中で、結晶性の難溶性化合物であればいずれでもよい。
【0054】
なかでも上記一般式(I’)中、R1は水酸基、アミノ基、ハロゲンまたは低級(C1-4)アルコキシ基で置換されていてもよい低級(C1-5)アルキル(好ましくは、低級(C2-3)アルキル)を示し、R2は式:−CO−D[式中、Dは水酸基またはアルキル部分が水酸基、アミノ、ハロゲン、低級(C2-6)アルカノイルオキシ(例、アセチルオキシ、ピバロイルオキシなど)、低級(C1-6)アルコキシ−カルボニルオキシ(例、メトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシなど)もしくは低級(C1-4)アルコキシで置換されていてもよい低級(C1-4)アルコキシを示す]で表わされる基を示し、環AはR2で表わされる基以外にさらにハロゲン(例、F、Cl、Br など)、低級(C1-4)アルキル、低級(C1-4)アルコキシ、ニトロ、式:−CO−D’[式中、D’は水酸基またはアルキル部分が水酸基、低級(C1-4)アルコキシ、低級(C2-6)アルカノイルオキシ(例、アセチルオキシ、ピバロイルオキシなど)もしくは低級(C1-6)アルコキシ−カルボニルオキシ(例、メトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシなど)で置換されていてもよい低級(C1-4)アルコキシを示す]で表わされる基、または低級(C1-4)アルキルで置換されていてもよいアミノなどの置換基(好ましくは、低級(C1-4)アルキル、ハロゲンなどの置換基)を有していてもよいベンゼン環(さらに好ましくはR2で表わされる基以外に置換基を有していないベンゼン環)を示し、Yは結合手、−O−、−S−または−N(R4)−[式中、R4は水素原子または低級(C1-4)アルキルを示す]を示し、R3は置換されていてもよい低級(C1-4)アルキル(例、メチル、トリフェニルメチル、メトキシメチル、エトキシメチル、p−メトキシベンジル、p−ニトロベンジルなど)あるいはアシル基(例、低級(C2-5)アルカノイル、ベンゾイルなど)でそれぞれ保護されていてもよい、テトラゾリル基、式:
【0055】
【化14】

【0056】
〔式中、iは−O−または−S−を示し、jは>C=O、>C=Sまたは>S(O)を示す(式中、mは0、1または2を示す)〕で表される基(例えば、5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1,2,4−オキサジアゾール−3−イル基など)、またはカルボキシル基を示し、nは1を示し、Xは結合手を示す化合物(I’)が好ましい。
【0057】
式(I)で表される化合物としては、2-エトキシ-1-{[2'-(5-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸、2-エトキシ-1-{[2'-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}ベンズイミダゾール-7-カルボン酸(カンデサルタン)、または1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル 2-エトキシ-1-{[2'-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(カンデサルタン シレキセチル)が好ましく用いられ、なかでも2-エトキシ-1-{[2'-(5-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸が特に好ましく用いられる。
【0058】
式(I)で表される化合物の塩としては、薬学的に許容される塩が挙げられ、例えば、式(I)で表される化合物の、無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えば、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
【0059】
本発明で用いる薬効成分としては、2-エトキシ-1-{[2'-(5-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸(化合物A)が好ましい。
【0060】
本発明で用いる低融点油脂状物質としては、油脂状を呈し、通常その融点が20〜90℃程度のもの、好ましくは20〜60℃のものが用いられるが、薬効成分に対して悪影響を及ぼさないものであればいかなるものでもよい。本発明の医薬組成物を製造するにあたって、低融点油脂状物質は高融点油脂状物質と比べて薬効成分と均一に配合可能なものであり、その結果、薬効成分の分解などが抑えられたより安定な医薬組成物を得ることができる。また、低融点油脂状物質としては、水に可溶性であっても不溶性であってもよい。ここで、水に可溶性の低融点油脂状物質の例としては、後述のアルキレンオキサイドの重合体が挙げられる。本発明に用いる低融点油脂状物質としては、たとえば炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、多価アルコールの脂肪酸エステル、多価アルコールの高級アルコールエーテル、アルキレンオキサイドの重合体もしくは共重合体などがあげられ、なかでも多価アルコールの脂肪酸エステル、多価アルコールの高級アルコールエーテル、アルキレンオキサイドの重合体もしくは共重合体、とりわけアルキレンオキサイドの重合体が好ましく用いられる。
【0061】
炭化水素としては、たとえば、n−ヘプタデカン、n−オクタデカン、n−ノナデカン、n−エイコサン、n−ヘンエイコサン、n−ドコサン、n−トリコサン、n−テトラコサン、n−ペンタコサン、n−トリアコンタン、n−ペンタトリアコンタン、n−テトラコンタン、n−ペンタコンタン等の炭素数17〜50のn−アルカンおよびこれらの混合物(ペトロレイタム、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等)などがあげられる。
【0062】
高級脂肪酸としては、たとえば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸およびそれらの混合物、天然油脂から採取される高級脂肪酸などがあげられる。
【0063】
高級アルコールとしては、たとえば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキルアルコールおよびそれらの混合物、天然油から採取される高級アルコールなどがあげられる。
【0064】
多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、分子内に2個以上の水酸基を有するアルコール(たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールあるいはこれらの共重合物などのポリアルキレングリコール、ソルビトール、蔗糖などの糖類、1,5−ソルビタン、1,4−ソルビタン、3,6−ソルビタンなどのソルビトールの分子内脱水化合物、グリセリン、ジエタノールアミン、ペンタエリスリトールなど)と脂肪酸(たとえば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアロール酸など)とのエステル、具体的には、たとえば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンモノパルミテートなど分子量400〜900のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリパルミテートなど分子量1000〜1500のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビトールヘキサステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールヘキサオレエート、ポリオキシエチレンソルビトールトリステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールテトララウレートなどのポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビトール蜜ロウ誘導体などのポリオキシアルキレンソルビトール蜜ロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン誘導体などのポリオキシアルキレンラノリン誘導体;プロピレングリコールモノパルミテート、プロピレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールジラウレート、プロピレングリコールジミリステート、プロピレングリコールジパルミテート、プロピレングリコールジステアレートなど分子量200〜700のプロピレングリコール脂肪酸エステル;エチレングリコールモノラウレート、エチレングリコールパルミテート、エチレングリコールマーガレート、エチレングリコールステアレート、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールジミリステート、エチレングリコールジパルミテート、エチレングリコールジマーガレートなど分子量500〜1200のエチレングリコール脂肪酸エステルなどのアルキレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体など分子量3500〜4000のポリオキシアルキレンヒマシ油誘導体;ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンパルミテート、ポリオキシエチレンリノレートなど分子量1900〜2200のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル;グリセリンモノアセテート、グリセリンモノプロピオネート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノリノレートなど分子量300〜600のグリセリンモノ脂肪酸エステル;蔗糖モノラウレート、蔗糖モノミリステート、蔗糖モノパルミテート、蔗糖モノステアレート、蔗糖トリミリステート、蔗糖トリパルミテート、蔗糖トリステアレートなど分子量400〜1300の蔗糖脂肪酸エステルなどがあげられる。
【0065】
多価アルコールの高級アルコールエーテルとしては、多価アルコール(上記多価アルコールの脂肪酸エステルのアルコール成分としてあげたもの)と高級脂肪酸アルコール(たとえば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール)とのエーテル、具体的には、例えば、ポリオキシエチレンラウリルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンセチルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンデシルアルコールエーテルなどのポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンセチルアルコールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンステアリルアルコールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンオクチルアルコールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアルコールエーテルなどのポリオキシプロピレンポリオキシエチレン高級アルコールエーテルなどが繁用される。
【0066】
アルキレンオキサイドの重合体としては、分子量1,000〜10,000のもの(例、ポリエチレングリコール6000(マクロゴール6000)など)が好ましく用いられる。アルキレンオキサイドとしては、たとえば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、トリメチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等(好ましくは、エチレンオキサイド)があげられる。アルキレンオキサイドの共重合体としては、上記アルキレンオキサイドの二種以上のものの共重合体であって平均分子量1,000〜10,000のものが好ましく用いられる。これらの低融点油脂状物質は単独で用いてもまたは二種以上を併用してもよい。
【0067】
本発明で用いる低粘度結合剤としては、20℃において2%水溶液B型粘度計(ブルックフィールド型粘度計)を用いて測定した粘度が約6mPa・s未満の結合剤、好ましくは約1〜約6mPa・sの結合剤、より好ましくは約1〜約4mPa・sの結合剤が用いられるが、薬効成分に対して悪影響を及ぼさないものであれば如何なるものであってもよい。結合剤としては、例えばセルロース誘導体、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン、アラビアゴムなどが用いられ、なかでもセルロース誘導体が好ましい。セルロース誘導体としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが用いられ、なかでもヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
【0068】
本発明で用いる低粘度結合剤としては、20℃において2%水溶液B型粘度計を用いて測定した粘度が約1〜約4mPa・sのヒドロキシプロピルセルロース(例えば、市販品として入手可能な日本曹達SSL型、SL型など)が好ましい。
【0069】
本発明の固形医薬組成物としては、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、丸剤などの経口投与に適した固形製剤が挙げられ、なかでも錠剤が好ましい。
【0070】
該固形製剤は、自体公知の方法(例えば、第14改正日本薬局方の製剤総則に記載されている方法)により製造できる。例えば、錠剤の場合は、上記したような低粘度結合剤および低融点油脂状物質を薬効成分に配合した後、成型することにより製造される。これらの配合方法としては一般に製剤において用いられる配合方法、たとえば混合、練合、捏和、篩過、撹拌などにより行なわれる。たとえば低粘度結合剤、薬効成分および低融点油脂状物質を直接混合(粉末添加)してもよく、また溶媒を加えて混和し、常法により練合、造粒、乾燥することもできる。また、低融点油脂状物質および低粘度結合剤を適当な溶媒に溶解した後、薬効成分と均一に混和して常法により練合、造粒、乾燥する(液添加)などにより配合することもできる。さらに、低粘度結合剤と低融点油脂状物質の含有液および薬効成分含有液を別々に賦形剤等の粉末にスプレーして配合してもよい。液添加の場合の適当な溶媒としては、たとえば水、ジメチルホルムアミド、アセトン、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、メチレンクロライド、トリクロルエタンなどの、薬効成分に悪影響を及ぼさない溶媒が用いられる。配合終了後、公知の加圧成型手段を用いることにより薬効成分を含有する錠剤を製造することができる。加圧成型とは、加圧下に圧縮して所望する形態となすことであり、最も一般的にはたとえば打錠などをいう。
【0071】
また、本発明の固形医薬組成物においては、製剤に用いられる種々の添加剤を適当な工程で添加することもできる。たとえば、結晶セルロース(例、アビセルPH 101(旭化成製)) 、カルボキシメチルセルロースカルシウム、コーンスターチ、小麦でんぷん、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、塩化ナトリウムなどの賦形剤、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、HPCと略称することがある。) 、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの結合剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、合成ケイ酸アルミニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ホウ酸、酸化マグネシウム、パラフィンなどの滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤などを添加してもよい。
【0072】
さらに、本発明の固形医薬組成物はコーティング製剤とすることもできる。コーティングは自体公知の方法で行うことができ、コーティング剤としては通常用いられるコーティング剤(例、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど)が用いられ、コーティング助剤としては、ポリエチレングリコール6000、ポリソルベート(例、ツィーン80など)、酸化チタン、ベンガラ等の色素などが用いられる。
【0073】
本発明の固形医薬組成物において、低粘度結合剤は組成物中(コーティング錠の場合は、コーティングを含まない)、0.5〜15重量%、好ましくは1〜10重量%、さらに好ましくは2〜5重量%含有される。低融点油脂状物質は組成物中(コーティング錠の場合は、コーティングを含まない)、0.5〜15重量%、好ましくは1〜10重量%、さらに好ましくは2〜5重量%含有される。また、薬効成分は組成物中(コーティング錠の場合は、コーティングを含まない)、0.1〜40重量%、好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは2〜25重量%含有される。薬効成分の含有量は約1〜約150mg、好ましくは約2〜約100mg、より好ましくは約2〜約80mgである。
【0074】
本発明の固形医薬組成物は、崩壊性の面では、水溶液中で30分以内に崩壊するものが好ましい。このようにして、薬効成分に低融点油脂状物質および低粘度結合剤を配合して得られる本発明の固形医薬組成物は、成型による経日的な分解が抑制されるとともに、溶出性にも優れた、臨床上極めて有用な製剤となる。
【0075】
本発明の固形医薬組成物は、哺乳動物(例えば、ヒト、イヌ、ウサギ、ラット、マウスなど)の医薬として安全に利用することができる。
【0076】
ある特定の患者の投与量は、年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせなどを考慮し、また患者のその時に治療を行っている病状の程度に応じて決められるが、式(I)で表される化合物として、一日投与量約0.05〜500mg、好ましくは0.1〜100mgである。
【0077】
本発明の「低粘度結合剤を用いることを特徴とする、薬効成分と低融点油脂状物質とを含有する固形医薬組成物からの薬効成分の溶出を改善する方法」における、「低粘度結合剤」、「薬効成分」、「低融点油脂状物質」としては、上記したもの等が挙げられる。「固形医薬組成物」としては、上記本発明の固形医薬組成物として例示したもの等が挙げられる。本発明の該方法によれば、例えば、薬効成分と低融点油脂状物質とを含有する固形医薬組成物に、低粘度結合剤を配合することで、固形医薬組成物からの薬効成分の溶出を改善することができる。
【実施例】
【0078】
以下に実施例ならびに参考例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0079】
化合物Aは、2-エトキシ-1-{[2'-(5-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸(融点:191℃、20℃の水への溶解度が約0.006g/L)を表す。 なお、以下の実施例および参考例において、製剤添加剤としては、日本薬局方第14改正あるいは医薬品添加物規格2003適合品を用いた。ただし、製剤添加剤の中で、ステアリン酸マグネシウムも、他の製剤添加剤と同様に、日本薬局方第14改正適合品を用いているが、特に、ステアリン酸含量比が約90%以上のもの(太平化学産業)を用いている。
【0080】
実施例1
流動層造粒機(パウレック、Lab−1)を用いて下記処方(表1)に従い、参考例4で得られた化合物Aと乳糖及びトウモロコシデンプンを混合し、結合液として、低融点油脂状物質としてポリエチレングリコール6000を溶解させたヒドロキシプロピルセルロース(粘度2〜3.4mPa・s)の水溶液をスプレーして造粒後、乾燥整粒し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、錠剤機(島津製作所、AUTOGRAPH AG−1)で8.0mmφ、2段R面の杵を用いて重量200mg、圧力8.5kNで打錠した。
【0081】
実施例2
流動層造粒機(パウレック、Lab−1)を用いて下記処方(表1)に従い、参考例4で得られた化合物Aと乳糖及びトウモロコシデンプンを混合し、結合液として、低融点油脂状物質としてポリエチレングリコール6000を溶解させたヒドロキシプロピルセルロース(粘度2〜3.4mPa・s)の水溶液をスプレーして造粒後、乾燥整粒し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、錠剤機(島津製作所、AUTOGRAPH AG−1)で13mm×8mmオーバル型、1段R面の杵を用いて重量400mg、圧力10.5kNで打錠した。
【0082】
実施例3
流動層造粒機(パウレック、FD−5S)を用いて下記処方(表2)に従い、参考例5で得られた化合物Aと乳糖及びトウモロコシデンプンを混合し、結合液として、低融点油脂状物質としてポリエチレングリコール6000を溶解させたヒドロキシプロピルセルロース(粘度2〜3.4mPa・s)の水溶液をスプレーして造粒後、乾燥整粒し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、錠剤機(菊水製作所、Correct 19K)で7mmφ、2段R面の杵を用いて重量130mg、圧力7kNで打錠した。
【0083】
実施例4
流動層造粒機(パウレック、FD−5S)を用いて下記処方(表2)に従い、参考例5で得られた化合物Aと乳糖及びトウモロコシデンプンを混合し、結合液として、低融点油脂状物質としてポリエチレングリコール6000を溶解させたヒドロキシプロピルセルロース(粘度2〜3.4mPa・s)の水溶液をスプレーして造粒後、乾燥整粒し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、錠剤機(菊水製作所、Correct 19K)で8.5mmφ、2段R面の杵を用いて重量260mg、圧力8kNで打錠した。
【0084】
実施例5
流動層造粒機(パウレック、FD−5S)を用いて下記処方(表2)に従い、参考例5で得られた化合物Aと乳糖、トウモロコシデンプン及び結晶セルロースを混合し、結合液として、低融点油脂状物質としてポリエチレングリコール6000を溶解させたヒドロキシプロピルセルロース(粘度2〜3.4mPa・s)の水溶液をスプレーして造粒後、乾燥整粒し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、錠剤機(菊水製作所、Correct 19K)で7mmφ、2段R面の杵を用いて重量130mg、圧力7kNで打錠した。
【0085】
実施例6
流動層造粒機(パウレック、FD−5S)を用いて下記処方(表2)に従い、参考例5で得られた化合物Aと乳糖トウモロコシデンプン及び結晶セルロースを混合し、結合液として、低融点油脂状物質としてポリエチレングリコール6000を溶解させたヒドロキシプロピルセルロース(粘度2〜3.4mPa・s)の水溶液をスプレーして造粒後、乾燥整粒し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、錠剤機(菊水製作所、Correct 19K)で8.5mmφ、2段R面の杵を用いて重量260mg、圧力7kNで打錠した。
【0086】
参考例1
流動層造粒機(パウレック、FD−5S)を用いて下記処方に従い、参考例4で得られた化合物Aと乳糖及びトウモロコシデンプンを混合し、結合液として、低融点油脂状物質としてポリエチレングリコール6000を溶解させたヒドロキシプロピルセルロース(粘度6〜10mPa・s)の水溶液をスプレーして造粒後、乾燥整粒し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、錠剤機(菊水製作所、Correct 19K)で6.5mmφ、2段R面の杵を用いて重量100mg、圧力7kNで打錠した。
【0087】
参考例2
流動層造粒機(パウレック、Lab−1)を用いて下記処方に従い、参考例4で得られた化合物Aと乳糖及びトウモロコシデンプンを混合し、結合液として、低融点油脂状物質としてポリエチレングリコール6000を溶解させたヒドロキシプロピルセルロース(粘度6〜10mPa・s)の水溶液をスプレーして造粒後、乾燥整粒し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、錠剤機(島津製作所、AUTOGRAPH AG−1)で8.0mmφ、2段R面の杵を用いて重量200mg、圧力8.5kNで打錠した。
【0088】
参考例3
流動層造粒機(パウレック、Lab−1)を用いて下記処方に従い、参考例4で得られた化合物Aと乳糖及びトウモロコシデンプンを混合し、結合液として、低融点油脂状物質としてポリエチレングリコール6000を溶解させたヒドロキシプロピルセルロース(粘度6〜10mPa・s)の水溶液をスプレーして造粒後、乾燥整粒し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、錠剤機(島津製作所、AUTOGRAPH AG−1)で13mm×8mmオーバル型、1段R面の杵を用いて重量400mg、圧力10.5kNで打錠した。
【0089】
参考例4
メチル 2-エトキシ-1-{[2'-(5-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(10g) に0.40N-NaOH(167mL)を加え65-75℃で1〜1.5時間撹拌した。室温にて1N塩酸でpH8に調整した後、活性炭(0.5g)を添加して撹拌した。活性炭をろ過して水(17mL)で洗浄した。0〜5℃で1N塩酸を加えpH3とした。40〜45℃で撹拌し、ついで0-10℃で撹拌した。析出結晶をろ取して、水(17mL×2回)で洗浄し、40℃にて乾燥して化合物Aの白色粉末(9.3g、収率96%)を得た。
【0090】
参考例5
メチル 2-エトキシ-1-{[2'-(5-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボキシラート(10g) に0.36N-NaOH(150mL)を加え65-75℃で1.5時間撹拌した。室温にて1N塩酸でpH8に調整した後、活性炭(0.5g)を添加して撹拌した。活性炭をろ過して水(50mL)で洗浄した。9〜15℃で0.5N塩酸を加えpH3とした。40〜45℃で撹拌し、ついで5-15℃で撹拌した。析出結晶をろ取して、水(20mL)で洗浄し、40℃にて乾燥して化合物Aの白色粉末(9.3g、収率96%)を得た。
【0091】
試験例
実施例1、2及び参考例1、2、3で得られた錠剤について、試験液としてリン酸塩緩衝液、pH6.8/水混液(1:1)900mLを用い、溶出試験法第2法(パドル法、回転数50rpm、37℃)により試験を行った。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
図1および2に示すように、低粘度結合剤を添加した錠剤は通常用いられる粘度の結合剤を添加した錠剤に比較して優れた溶出性を示し、低粘度結合剤を用いることにより容易に薬物溶出性を調節することができた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の固形医薬組成物は、優れた安定性と溶出性を兼ね備えていることから、医薬品の製剤技術として極めて有用である。
【0096】
本出願は、日本で出願された特願2006−218145を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬効成分、低融点油脂状物質および低粘度結合剤を含有してなる固形医薬組成物。
【請求項2】
薬効成分が結晶性の難溶性化合物である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
結晶性の難溶性化合物の融点が約75〜約250℃であって、水への溶解度が約1g/L以下である請求項2記載の組成物。
【請求項4】
結晶性の難溶性化合物が式(I):
【化1】

(式中、環Wは置換されていてもよい含窒素複素環残基を示し、R3は陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基を示し、Xはフェニレン基とフェニル基が直接または原子鎖2以下のスペーサーを介して結合していることを示し、nは1または2の整数を示す)で表される化合物またはその塩である請求項2記載の組成物。
【請求項5】
式(I)で表される化合物またはその塩が2-エトキシ-1-{[2'-(5-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}-1H-ベンズイミダゾール-7-カルボン酸である請求項4記載の組成物。
【請求項6】
低融点油脂状物質の融点が20〜90℃である請求項1記載の組成物。
【請求項7】
低粘度結合剤が低粘度のセルロース誘導体である請求項1記載の組成物。
【請求項8】
セルロース誘導体がヒドロキシプロピルセルロースである請求項7記載の組成物。
【請求項9】
低粘度結合剤が粘度約1〜約4mPa・sのヒドロキシプロピルセルロースである請求項1記載の組成物。
【請求項10】
錠剤である請求項1記載の組成物。
【請求項11】
低粘度結合剤を用いることを特徴とする、薬効成分と低融点油脂状物質とを含有する固形医薬組成物からの薬効成分の溶出を改善する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168622(P2011−168622A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122812(P2011−122812)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【分割の表示】特願2007−541230(P2007−541230)の分割
【原出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】