説明

医薬組成物

【課題】イノシトールヘキサニコチン酸エステルを含有する医薬組成物であって、溶解性が改善され、かつ、打錠性や造粒性に優れる医薬組成物、ならびに、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有医薬組成物(溶解性が改善された医薬組成物、打錠性が改善された錠剤、及び造粒性が改善された造粒物)の製造方法を提供すること。
【解決手段】イノシトールヘキサニコチン酸エステル及びニンニク加工物を含有してなる、医薬組成物、ならびに、イノシトールヘキサニコチン酸エステルに、ニンニク加工物を配合することを特徴とする、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有医薬組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関する。さらに詳しくは、イノシトールヘキサニコチン酸エステル及びニンニク加工物を含有する医薬組成物、ならびに、ニンニク加工物を配合することを特徴とする、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有医薬組成物(溶解性が改善された医薬組成物、打錠性が改善された錠剤、及び造粒性が改善された造粒物)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イノシトールヘキサニコチン酸エステル(イノシトールヘキサニコチネート、以下、IHNと略す場合がある)は、末梢血管拡張薬として知られており、ビュルガー病、閉塞性動脈硬化症、レイノー病及びレイノー症候群、凍瘡・凍傷、間欠性跛行、しもやけなどの疾病に伴う末梢循環障害の改善や肩・首すじのこり、手足のしびれ、冷えなどの症状の改善などに使用されている。
【0003】
IHNはニコチン酸誘導体の一つであり、ビタミン様作用物質と呼ばれるイノシトールに存在する6個の水酸基全てが、ニコチン酸でエステル化された化合物である。
【0004】
ニンニクは、スタミナ増強作用、抗ストレス作用、コレステロール減少作用、肝臓保護作用、疲労回復作用等の作用を有する生薬であり、乾燥粉末や抽出エキスなど、種々の加工物が従来使用されている。
【0005】
ところで、ニコチン酸誘導体と生薬を配合する従来技術としては、以下の報告がある。
【0006】
例えば、特許文献1では、末梢循環改善作用を有するビタミンEとニコチン酸誘導体に、さらに、身体を温める作用が強い生薬や漢方薬を組み合わせることにより、末梢や深部の体温低下を抑制する製剤を開示している。ニコチン酸誘導体の具体例としては、ニコチン酸、ニコチン酸トコフェロール、ヘプロニカート、ニコモールが挙げられているが、IHNは例示されていない。また、生薬の具体例としては、ウイキョウ、オウギ、オウセイ、カンキョウ、カンゾウ、ギョクチク、ケイヒ、ゴカヒ、ゴシュユ、サンショウ、サンヤク、ショウキョウ、チョウコウ、トウガラシ、トウキ、ニンジン、ブシ、リョウキョウ、ロクジョウ、ハンピが挙げられているが、ニンニクは例示されていない。なお、ヘプロニカートは、2-ヒドロキシメチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオールに存在する3個の水酸基全てが、ニコチン酸でエステル化された化合物である。
【0007】
また、ニコチン酸誘導体の一つであるニコチン酸アミドと、ニンニク加工物の一つである加工大蒜とを配合した商品は、多数上市されている。
【0008】
一方、非特許文献1では、末梢血管の血管収縮が生じることにより、手の血流が低下して痛みを感じるようになるレイノー(Raynaud's)現象を改善する食品として、ニンニクやイノシトールヘキサニコチン酸エステルがそれぞれ例示されており、これらは組み合わせて用いてもよいとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−289942号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】CHRIS I. WRIGHT et al., Raynaud's Phenomenon and the Possible Use of Foods, JOURNAL OF FOOD SCINECE, 70, 2005, p67-75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、イノシトールヘキサニコチン酸エステルは、水に難溶性であるために体内での吸収が悪く、溶解性及び吸収性の改善が求められている。また、ニコチン酸アミドと加工大蒜とを配合している商品は、ニコチン酸アミドがそもそも水に可溶性であるために、イノシトールヘキサニコチン酸エステルにみられる溶解性に関する課題はないと考えられる。
【0012】
さらには、イノシトールヘキサニコチン酸エステルを含有する医薬組成物は、従来技術を参酌しただけでは、打錠性や造粒性が悪く、錠剤や造粒物を調製することが困難であった。
【0013】
本発明の課題は、イノシトールヘキサニコチン酸エステルを含有する医薬組成物であって、溶解性が改善され、かつ、打錠性や造粒性に優れる医薬組成物、ならびに、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有医薬組成物(溶解性が改善された医薬組成物、打錠性が改善された錠剤、及び造粒性が改善された造粒物)の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決する為に検討を重ねた結果、イノシトールヘキサニコチン酸エステルに、ニンニク加工物である加工大蒜を配合することにより、イノシトールヘキサニコチン酸エステルの溶解性が向上し、また、良好な打錠性及び造粒性の医薬組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、
〔1〕 イノシトールヘキサニコチン酸エステル及びニンニク加工物を含有してなる、医薬組成物、
〔2〕 イノシトールヘキサニコチン酸エステルに、ニンニク加工物を配合することを特徴とする、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有医薬組成物の製造方法、
〔3〕 イノシトールヘキサニコチン酸エステルに、ニンニク加工物を配合し、打錠することを特徴とする、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有錠剤の製造方法、ならびに
〔4〕 イノシトールヘキサニコチン酸エステルに、ニンニク加工物を配合し、造粒することを特徴とする、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有造粒物の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の医薬組成物は、難溶性のイノシトールヘキサニコチン酸エステルの溶解性を向上して体内での吸収性を改善することができる。また、打錠性、造粒性が向上することにより、得られる組成物の形状が良好となり、製剤設計が簡便となる上、生産性の向上に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1〜2及び比較例1の溶解性(精製水)を示す図である。
【図2】図2は、実施例3及び比較例2〜4の溶解性(pH2試験液)を示す図である。
【図3】図3は、参考例5〜8の溶解性(pH2試験液)を示す図である。
【図4】図4は、実施例4及び比較例5の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の医薬組成物は、イノシトールヘキサニコチン酸エステル(IHN)及びニンニク加工物を含有する。
【0019】
イノシトールヘキサニコチン酸エステルは、公知の方法に従って合成してもよいが、市販品を用いてもよい。組成物におけるIHNの含有量は、特に限定されないが、10〜90重量%が好ましく、15〜80重量%がより好ましく、15〜50重量%がさらに好ましい。なお、本明細書において、組成物における各成分の含有量とは、組成物の総量を100重量%とした場合の重量(重量%)を示す。
【0020】
ニンニク加工物の種類は特に限定されず、ユリ科ネギ属ニンニク(Allium sativum)の鱗茎を加工して得られるものであればいかなるものを用いてもよい。
【0021】
加工とは、生のニンニクに加熱、乾燥、粉砕、又は抽出などの何らかの加工処理を施すことを意味する。具体的な処理方法としては、公知の方法であれば特に限定はなく、例えば、生ニンニクを乾燥する方法又は乾燥後に粉末化する方法、生ニンニクを水蒸気蒸留する方法、生ニンニクを油、水、又は水溶性有機溶媒等で抽出する方法、生ニンニクを加熱する方法が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて行ってもよい。
【0022】
抽出に用いる油としては、例えば、菜種油、オリーブ油、大豆油等の食用植物油が挙げられ、水溶性有機溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上用いてもよく、2種以上用いる場合には、抽出媒体を混合して抽出しても、別々に抽出してもよい。具体的には、例えば、水で抽出した抽出物を、水溶性有機溶媒でさらに抽出することができる。
【0023】
ニンニク加工物の具体例としては、例えば、加工大蒜、ニンニク抽出液、ニンニクエキス、乾燥ニンニク等が挙げられ、加工大蒜が好ましい。加工大蒜は、加熱処理ニンニク抽出液(ニンニク熱水抽出液)を低級アルコール抽出等の工程を経て調製されるニンニク粉末又はエキスを意味しており、例えば、オキソアミヂン(登録商標)(理研化学工業社製)、オキソアミヂン(登録商標)末(理研化学工業社製)、オキソレヂン(登録商標)(理研化学工業社製)、オキソレヂン(登録商標)末(理研化学工業社製)等が市販されている。ニンニクエキスとしては、例えば、ニンニクエキス(アルプス薬品工業社製)、ニンニク粒エキス(日本粉末薬品社製)等が市販されている。乾燥ニンニクとしては、例えば、ガーリックパウダー、ローストガーリックパウダーEX(理研化学工業社製)等が市販されている。これらのニンニク加工物のうち、オキソアミヂン(登録商標)(理研化学工業社製)、オキソアミヂン(登録商標)末(理研化学工業社製)、オキソレヂン(登録商標)(理研化学工業社製)、オキソレヂン(登録商標)末(理研化学工業社製)が好ましい。
【0024】
組成物におけるニンニク加工物の含有量は、特に限定されないが、1〜50重量%が好ましく、3〜30重量%がより好ましい。
【0025】
組成物におけるIHNとニンニク加工物の重量比(IHN/ニンニク加工物)は、溶解性改善の観点から、1/100〜100/1が好ましく、1/10〜30/1がより好ましく、1/10〜10/1がさらに好ましい。また、打錠性もしくは造粒性改善の観点から、1/5〜10/1が好ましい。
【0026】
このようにIHNとニンニク加工物が配合されることにより、IHNの水系での溶解性が改善される。より、具体的には、IHNは、水への溶解性(25℃)が0.05μg/mL以下であったところ、例えば、加工大蒜を精製水100mLに0.1g添加した場合、0.5μg/mL以上を示すものとなる(実施例1)。また、IHNは酸性領域では中性領域に比べて高い溶解性を示すものの、前記の溶解性向上効果は酸性領域でも確認される。一方、IHNを含有するがニンニク加工物を含有しない医薬組成物は、例えば、打錠の際にキャッピングが生じたり、造粒の際に粒子が増大しなかったりして、製剤特性に劣るものであるが、IHNとニンニク加工物を含有する本発明の医薬組成物は、打錠性及び造粒性に優れるものとなる。これらの特性が向上する詳細な理由は不明であるが、IHNとニンニク加工物中の成分との相互作用によるものであると考えられる。
【0027】
本発明の医薬組成物は、上記IHNとニンニク加工物以外に、その他の有効成分(薬効成分)を製剤原料として含有してもよい。有効成分としては、各種ビタミン類(アスコルビン酸、チアミン硝化物、ピリドキシン塩酸塩、リボフラビン、シアノコバラミン、トコフェロールなど)、アスパラギン酸カリウム・マグネシウム等量混合物、ウルソデスオキシコール酸、システイン類、オロチン酸、ガンマ−オリザノール、カルシウム塩類、グルクロン酸類、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム、ポビドンなどが例示され、ニンジン、ヨクイニン等のニンニク加工物以外の生薬であってもよい。また、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、矯味剤、防腐剤、キレート剤、抗酸化剤、清涼化剤、コーティング剤、安定化剤、流動化剤、粘稠剤、溶解補助剤、増粘剤、緩衝剤、香料、着色剤、吸着剤、湿潤剤、防湿剤、帯電防止剤、可塑剤、消泡剤、界面活性剤、乳化剤等の添加剤を製剤原料として含有してもよい。具体的には、これらの添加剤として、白糖、乳糖、コーンスターチ等の糖類;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類;クロスカルメロースナトリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、夕ルク、酸化チタン、ケイ素等が挙げられる。なお、これらの含有量は特に限定されない。
【0028】
本発明の医薬組成物は、IHNとニンニク加工物を含有するものであれば特に限定はなく、当業者に公知の方法に従って、調製することができる。また、医薬組成物の形状や大きさも特に限定はないが、固形製剤が好ましい。固形製剤の具体例としては、混和して粉末状としたもの、錠剤(チュアブル錠を含む)、散剤、顆粒剤、細粒剤等の造粒物などが例示される。なお、錠剤や造粒物は、公知の方法に従って、コーティング処理がされてもよい。また、造粒物は、公知の方法に従って、カプセルに充填し、カプセル剤としてもよい。
【0029】
本発明における医薬組成物が錠剤である場合、例えば、IHN及びニンニク加工物、必要により所望の製剤原料を加えて混合することにより得られた混合物を、そのまま、或いは後述の方法に従って造粒後に、打錠機に投入して成型加工する方法により調製することができる。
【0030】
また、本発明における医薬組成物が造粒物である場合、IHN及びニンニク加工物、必要により、所望の製剤原料を加えて練合し、押し出し造粒法、攪拌造粒法、流動層造粒法などの方法により、造粒することができる。具体的には、ツインドーム(ダルトン社製)で球面ドーム・ダイを通過させることで成型する押出造粒物を、解砕、篩過し、整粒する方法、バーチカルグラニュレーター(パウレック社製)によって攪拌造粒後に、乾燥、解砕、篩過する方法、及びローラーコンパクター(ターボ工業社製)で圧縮した後、ロールグラニュレーター(日本グラニュレーター社製)で解砕し篩過する方法などが挙げられる。
【0031】
また、本発明は、別の態様として、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有医薬組成物の製造方法を提供する。前記方法は、具体的には、イノシトールヘキサニコチン酸エステルにニンニク加工物を配合することを特徴としており、得られる医薬組成物は溶解性が改善されたものとなる。従って、前記方法は、溶解性が改善されたイノシトールヘキサニコチン酸エステル含有医薬組成物の製造方法、又はイノシトールヘキサニコチン酸エステル含有医薬組成物の溶解性改善方法とも言える。なお、本明細書において、「イノシトールヘキサニコチン酸エステルにニンニク加工物を配合する」方法としては、特に限定はなく、イノシトールヘキサニコチン酸エステルにニンニク加工物を添加混合しても、ニンニク加工物にイノシトールヘキサニコチン酸エステルを添加混合してもよい。
【0032】
前記方法で用いるIHNとニンニク加工物の重量比(IHN/ニンニク化合物)は、好ましくは1/100〜100/1が好ましく、1/10〜30/1がより好ましく、1/10〜10/1がさらに好ましい。
【0033】
またさらに、イノシトールヘキサニコチン酸エステルにニンニク加工物を配合することで、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有錠剤の打錠性、及びイノシトールヘキサニコチン酸エステル含有造粒物の造粒性が向上することから、本発明は、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有錠剤の製造方法、及びイノシトールヘキサニコチン酸エステル含有造粒物の製造方法を提供する。これらの方法は、製剤技術の観点からすると、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有錠剤の打錠性の改善方法、及びイノシトールヘキサニコチン酸エステル含有造粒物の造粒性改善方法でもあると言える。
【0034】
前記方法は、具体的には、イノシトールヘキサニコチン酸エステルに、ニンニク加工物を含む成分を配合して、打錠又は造粒するのであれば、特に限定はない。
【0035】
前記方法で用いるIHNとニンニク加工物の重量比(IHN/ニンニク化合物)は、好ましくは1/5〜10/1である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例、比較例、及び参考例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0037】
実施例1〜2及び比較例1(IHNの精製水に対する溶解性)
表1に示す原料粉末を混合して、実施例1〜2及び比較例1の医薬組成物(粉末)を得た。得られた医薬組成物(粉末)を、精製水100mLに添加し、室温(約25℃)で1昼夜攪拌後、各試料をクラボウステラディスク13(孔径0.2μm;ディスク径13mm)にて濾過し、ろ液中のIHN量をHPLC法(検出波長:262nm)にて測定した。結果を表1及び図1に示す。なお、前記HPLC法のIHN検出限界は0.05μg/mLであった。
【0038】
なお、以降の表で示す各成分は以下の通りである。
IHN:イノシトールヘキサニコチン酸エステル、日本薬局方外医薬品規格
HEP:ヘプロニカート、日本薬局方外医薬品規格
加工大蒜:「オキソアミヂン末」、理研化学工業社製
ショウキョウ:「ショウキョウ乾燥エキス」、アルプス薬品工業社製
ニンジン:「人参乾燥エキス」、日本粉末薬品社製
【0039】
【表1】

【0040】
表1より、IHNの溶解性は加工大蒜を配合することにより向上し、加工大蒜の配合量が増加するにつれ、溶解性もより向上することが明らかである。
【0041】
実施例3及び比較例2〜4(IHNのpH2試験液に対する溶解性)
表2に示す原料粉末を混合して、実施例3及び比較例2〜4の医薬組成物(粉末)を得た。得られた医薬組成物(粉末)を、pH2試験液(精製水に1mol/Lの塩酸を加えてpH2に調整)100mLに添加し、実施例1と同様にして溶解性を評価した。結果を表2及び図2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2より、IHNの溶解性は加工大蒜を配合することにより向上した。また、この傾向は表1の結果と同様であることから、加工大蒜によるIHNの溶解性向上効果は液性に関係なく認められることが分かる。一方、比較例3、4の結果より、ショウキョウはIHNの溶解性を悪化し、ニンジンは溶解性にほとんど影響を与えないことが分かる。これより、生薬の中でも、IHNの溶解性改善は、加工大蒜(ニンニク)に特有のものであることが示唆される。
【0044】
参考例1〜8(HEPの溶解性)
表3に示す原料粉末を混合して、参考例1〜8の医薬組成物(粉末)を得た。得られた医薬組成物(粉末)を、表3に示す試験液100mLに添加し、実施例1と同様にして試料を調製し、試料中のHEP量をHPLC法(検出波長:263nm)にて測定した。全結果を表3に、pH2試験液の結果のみを図3に示す。なお、前記HPLC法のHEP検出限界は0.001μg/mLであった。
【0045】
【表3】

【0046】
表3より、IHNと同じ、ニコチン酸誘導体であるHEPの溶解性は、精製水では、加工大蒜の量を増加しても検出限界以下であった。pH2試験液では、加工大蒜の配合によってむしろ溶解性が低下し、加工大蒜の配合による溶解性の向上効果は、IHNに特異的なものであることが示唆される。
【0047】
実施例4及び比較例5(打錠性)
ステアリン酸マグネシウム以外の表4に示す原料粉末を混合後、表4に示す量のステアリン酸マグネシウムを添加して、さらに混合した。この混合粉を以下に示す条件で、1錠300mgとして打錠(直打)し、医薬組成物(錠剤)を得た。
<打錠条件>
使用機器:ロータリー式打錠機(VIRGO18、菊水製作所社製)
使用杵:φ9.0mm 糖衣R杵
本圧:15kN
予圧:1kN
回転盤回転数:30回転/分
攪拌羽根回転数:30回転/分
【0048】
得られた錠剤について、外観を観察し、硬度を錠剤硬度計(PTB311E、ジャパンマシナリー社製)を用いて測定した。また、打錠時の操作性として、打錠障害についても観察した。結果を表4に示す。なお、外観を表わす写真を図4に併せて示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4より、加工大蒜を配合した実施例4は、10分間の連続打錠を実施しても打錠障害が発生せず、図4からも良好な外観を呈し、錠成形に優れることが分かる。一方、加工大蒜を配合しなかった比較例5は、打錠時に杵離れが悪く、錠の割れかけが発生し、錠成形に劣るものであった。
【0051】
実施例5及び比較例6〜7(造粒性)
表5に示す原料粉末を混合後、混合粉を表5に示す造粒条件で水を噴霧して造粒し、表5に示す整粒条件で整粒を行って、医薬組成物(造粒物)を得た。得られた造粒物の平均粒子径を以下の方法に従って、測定した。結果を表5に示す。
【0052】
<粒度1>
試料10gを精密に量り、6種類の篩(篩目の開き:850、500、355、250、150、106μm)及び受器を用い、3分間タッピングを行ってふるい分けし、それぞれにふるいに残る顆粒の重量を測定し、対数正規分布により平均粒子径を算出し、粒度分布を求めた(測定範囲:106μm以上)。
【0053】
<粒度2>
レーザー回折式粒度分布測定装置(LDSA-3400A粒度分布測定装置、東日コンピュータアプリケーションズ社製、測定範囲:0.5〜355μm)を用いて測定した。
【0054】
【表5】

【0055】
表5より、加工大蒜を配合した実施例5は、加工大蒜を配合しなかった比較例6及び比較例7に比べて、平均粒子径が大きく、加工大蒜を添加することにより、IHNの造粒性が改善されることが示された。
【0056】
以下に処方例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。なお、各成分の使用量(単位)は特に断りのない限り、「重量部」を示す。
【0057】
製剤例1
イノシトールヘキサニコチン酸エステル 400
オキソアミヂン末 200
コハク酸トコフェロールカルシウム 180
ピリドキシン塩酸塩 15
乳糖 500
コーンスターチ 200
含水二酸化ケイ素 15
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 230
ポビドン 60
(合計) 1800
上記成分を日本薬局方製剤総則「散剤」に準じて製し、分包する。
【0058】
製剤例2
イノシトールヘキサニコチン酸エステル 300
オキソアミヂン末 200
d-α-トコフェロール 200
ガンマ-オリザノール 10
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 200
コーンスターチ 200
含水二酸化ケイ素 20
ポビドン 70
(合計) 1200
上記成分を日本薬局方製剤総則「細粒剤」に準じて製し、分包する。
【0059】
製剤例3
イノシトールヘキサニコチン酸エステル 200
オキソアミヂン末 20
チアミン硝化物 25
リボフラビン酪酸エステル 12
ピリドキシン塩酸塩 50
乳糖 170
コーンスターチ 40
軽質無水ケイ酸 23
クロスカルメロースナトリウム 90
ヒドロキシプロピルセルロース 30
(合計) 660
上記成分を日本薬局方製剤総則「細粒剤」に準じて製し、分包する。
【0060】
製剤例4
イノシトールヘキサニコチン酸エステル 400
オキソアミヂン末 200
ピリドキシン塩酸塩 15
乳糖 280
コーンスターチ 120
含水二酸化ケイ素 10
ポビドン 45
コハク酸トコフェロールカルシウム 180
結晶セルロース 140
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 100
ステアリン酸マグネシウム 10
(合計) 1500
上記成分を日本薬局方製剤総則「錠剤」に準じて製し、1錠あたり250mgとなるように打錠して錠剤を得る。
【0061】
製剤例5
イノシトールヘキサニコチン酸エステル 300
オキソアミヂン末 200
d-α-トコフェロール 300
ガンマ-オリザノール 10
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 600
コーンスターチ 160
含水二酸化ケイ素 20
ポビドン 60
結晶セルロース 320
ステアリン酸マグネシウム 10
(合計) 1980
上記成分を日本薬局方製剤総則「錠剤」に準じて製し、1錠あたり220mgとなるように打錠して錠剤を得る。
【0062】
製剤例6
イノシトールヘキサニコチン酸エステル 200
オキソアミヂン末 20
チアミン硝化物 25
リボフラビン酪酸エステル 12
ピリドキシン塩酸塩 50
乳糖 100
軽質無水ケイ酸 13
結晶セルロース 100
クロスカルメロースナトリウム 70
ステアリン酸マグネシウム 10
(合計) 600
上記成分を日本薬局方製剤総則「錠剤」に準じて製し、1錠あたり200mgとなるように打錠して錠剤を得る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の医薬組成物は、難溶性のイノシトールヘキサニコチン酸エステルの溶解性を向上したものであるため、生体内での吸収性を向上することが可能となり、ひいては、イノシトールヘキサニコチン酸エステルの効果を増大することができる。また、製剤特性(打錠性、造粒性)の低いイノシトールヘキサニコチン酸エステルを簡便に固形製剤化することができるため、製剤分野に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イノシトールヘキサニコチン酸エステル及びニンニク加工物を含有してなる、医薬組成物。
【請求項2】
ニンニク加工物が加工大蒜である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
医薬組成物が固形剤である、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
イノシトールヘキサニコチン酸エステルに、ニンニク加工物を配合することを特徴とする、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
イノシトールヘキサニコチン酸エステルに、ニンニク加工物を配合し、打錠することを特徴とする、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有錠剤の製造方法。
【請求項6】
イノシトールヘキサニコチン酸エステルに、ニンニク加工物を配合し、造粒することを特徴とする、イノシトールヘキサニコチン酸エステル含有造粒物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−63546(P2011−63546A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215594(P2009−215594)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】