説明

医薬組成物

本発明は、6−(プロピル−(2−チオフェン−2−イルエチル)アミノ)テトラリン−1−オール(ロチゴチン)の新規な塩、およびその医薬として、例えば、特に電動投与を介する、CNS障害、例えばパーキンソン病、RLS、線維筋痛および/またはうつ病の治療用の医薬としての使用に関する。本発明は、ロチゴチンが少なくとも1つの標的組織にイオントフォレーゼのデリバリーを強化して提供される、イオントフォレシスに適する医薬製剤に関する。該製剤はさらに該塩の水溶液での溶解度が良好ないし優れていることで特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6−(プロピル−(2−チオフェン−2−イルエチル)アミノ)テトラリン−1−オール(ロチゴチン)の新規な塩、およびその医薬として、例えば、特に電動投与(electromotive administration)を介する、パーキンソン病、RLS、線維筋痛および/またはうつ病の治療用の医薬としての使用に関する。
【0002】
もう一つ別の態様において、本発明は、ロチゴチンおよび/またはその塩の各々の装置、組成物およびエレクトロ輸送デリバリーの改善方法に関する。
【0003】
本発明は、イオントフォレシスに適する医薬製剤であって、ロチゴチンの少なくとも一つの標的となる組織へのイオントフォレーゼのデリバリーを強化する製剤を提供する。該製剤はさらには該塩の水溶液中での良好ないし優れた溶解度により特徴付けられる。本発明はまた、本発明の製剤をイオン導入的にデリバーすることで、ロチゴチンを少なくとも一つの対象の標的組織に投与する、および/または上記した疾患の一つを治療する方法を提供する。
【0004】
本発明は、ロチゴチンの少なくとも一つの酸付加塩を含む医薬組成物、およびその使用、特にイオントフォレーゼのデリバリーシステムに用いるための使用に関する。さらには、パーキンソン病などのCNS障害、および/またはレストレスレッグ症候群を治療するためのロチゴチンのこれら酸付加塩の使用に関する。さらには、新規なロチゴチン酸付加塩、特にリン酸二水素ロチゴチンに関する。
【背景技術】
【0005】
ロチゴチンは、以下の構造式:
【化1】



で示される、化合物(−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノールの国際一般的名称(INN)である。
【0006】
ロチゴチンは、構造的にドーパミンと類似し、同じような受容体特性を有するが、より高い受容体アフィニティを有する非エルゴリン性D1/D2/D3ドーパミンアゴニストである。
【0007】
エルゴリン化合物と異なり、ロチゴチンは5HTB受容体に対するアフィニティがかなり低く、かくして線維症を誘発する危険性が低い。非ドーパミン作動性受容体に対する作用(例えば、5−HTAアゴニズムおよびA2Bアンタゴニズム)は、抗運動障害活性、神経保護活性および抗鬱作用などの他の有益な作用に寄与する可能性がある。
【0008】
ロチゴチンは、パーキンソン病(WO 2002/089777)、パーキンソン病付加の症候群(WO 2005/092331)、うつ病(WO 2005/009424)およびレストレスレッグ症候群(WO 2003/092677)を患っている患者を治療するための、ならびにドーパミン作動性ニューロン喪失(WO 2005/063237)の治療または防止のための活性剤として開示されている。
【0009】
ロチゴチンはその遊離塩基の形態にて、または塩酸ロチゴチンとして試験されてきた。
【0010】
レストレスレッグ症候群(RLS)は、それ自体を擬似感覚として表す、神経学的疾患であり、強い動的な衝動を伴う。RLSの徴候としてチクチク感、突っ張り感、疼き、そう痒、ヒリヒリ感、痙攣または疼痛が挙げられ、その関連する人々において行動に対して抑え難い衝動を惹起する。この障害はその関連する人々が休んでいる時に最も頻繁に生じる。治療実験は、ドーパミンアゴニスト、鎮痛薬、ベンゾジアゼピン、カルバマゼピン、クロニジンまたはレボドーパ(L−DOPA)での単独療法にて、ドーパ脱炭酸酵素阻害剤との組み合わせにて得られる多様な結果を示す。RLSを治療する際のL−DOPAの使用は特に多数の論文の主題である。長期にわたるL−DOPA療法は、睡眠および生活を改善して該障害を明らかに緩和する。最も一般的な単独療法の不利な点は、治療期間に応じて、該治療を成功させるために、活性成分の量を漸次増やさなければならないことである。意外な知見は、ロチゴチン含有の経皮用組成物の単独投与が、特にパッチ形態の時に、活性成分としてのロチゴチンで、RLS徴候の抑制および軽減が得られることを示した。
【0011】
パーキンソン病は黒質でのドーパミン作動性ニューロンの変性により主に惹起されると考えられている。パーキンソン病は主に中年以降の疾患であり、男性および女性の両方が均等に罹患する。パーキンソン病が最も高い発生率は70歳以上の年齢の群にあり、その母集団の1.5ないし2.5%がパーキンソン病に罹っている。罹患する平均年齢は58ないし62歳であり、大部分の患者は50〜79歳にてパーキンソン病を発症する。合衆国にはパーキンソン病のヒトが約800000人いる。パーキンソン病との臨床的診断は特徴的な身体的兆候のあることに基づく。該疾患は発症の際には穏やかであり、ゆっくりと進行し、臨床症状は可変的であることが知られている。線条体ドーパミン含量が症状を発症する前の年齢適合対照にて認められるレベルより20%低下していることが明らかにされた。
【0012】
パーキンソン病の治療は、とりわけ、未だにパーキンソン病の治療における代表的な判断基準である、L−ドーパ(レボドーパ)を用いて試みられている。レボドーパはドーパミンの先駆体として血液脳関門を通過し、ついで脳にてドーパミンに変換される。L−ドーパはパーキンソン病の徴候を改善するが、重篤な副作用を惹起する可能性がある。その上、該薬剤は治療してから2ないし3年後にその効能を失う傾向にある。5ないし6年後に、患者のわずかに25%ないし50%が改善を維持するに過ぎない。その上さらに、パーキンソン病の治療に最近利用されている療法の最大の欠点は、運動障害の運動が「オン」の期間と、運動低下症または無動症の「オフ」の期間とが切り替わることで特徴付けられる、「全か無か」の状態をもたらす、「ゆらぎ症候群」の最終的な徴候にある。
【0013】
経口的抗パーキンソン療法で予想できないまたは一定しない「オン−オフ」の現象を示す患者は、L−ドーパおよび他のドーパミンアゴニストの静脈内投与に対して予測可能な有益な応答を示し、そのことは薬物の血漿中濃度の変動が「オン−オフ」現象に関与していることを示唆する。「オン−オフ」変動の頻度はまた、ドーパミン受容体アゴニストであるアポモルヒネとリスリドの持続注入により改善される。しかしながら、この投与法は不便である。したがって、より安定した血漿中濃度を付与する、局所投与などの別の投与方法が有益であり、過去において示唆されてきた。
【0014】
経皮薬物デリバリーは経口的薬物デリバリーまたは皮下注射に代わるデリバリーである。皮膚を介して薬物のデリバリーを増やす異なるデリバリー方法が何年も研究されている。経皮デリバリーは、それにより肝臓初回通過作用が回避される、十分に確立された薬物を投与する方法である。ロチゴチンの経皮デリバリーに関していくつかの研究が実施された。その結果は経口デリバリーと比べてバイオアベイラビリティにおいて顕著な増加を示し、持続的なデリバリーパターンを提供した。しかしながら、経皮投与を制御する受動拡散でのロチゴチンの単独療法は皮膚浸透性により限定され、個々の治療の必要量に見合った漸増量が必要である。今日まで、ロチゴチンの投与について種々の経皮治療システム(TTS)が記載されている。
【0015】
WO 94/07468は、活性物質として塩酸ロチゴチンを含有し、連続相としての疎水性ポリマー物質、およびその中に含まれ、主に薬物および含水シリカを含有する分散親水性相により形成される、二相マトリックスの経皮治療システムを開示する。シリカはTTSにおける親水性塩の可能な最大充填量を増加させる。
【0016】
その上、WO 94/07468の製剤は、通常、付加的な疎水性溶媒、浸透性を促進する物質、分散剤および、特に活性素の親水性ポリマー相中水溶液を乳化するのに必要な乳化剤を含有する。かかるシステムを用いて調製される、TTSを健康な対象およびパーキンソン患者で試験した。このシステムを用いて得られる平均薬物血漿中濃度は約0.15ng/mLであり、20cmパッチで10mgの塩酸ロチゴチンを含有した。この濃度は、パーキンソン病に関連する徴候を真に効果的に治療または緩和するには少なすぎると考えられる。
【0017】
種々のさらなる経皮治療システム(TTS)が、例えば、WO 99/49852にて記載されている。TTSは、マトリックスの構成物に対して不活性な裏層、有効量のロチゴチンまたは塩酸ロチゴチンを含有する自己接着性マトリックス層、および使用前に取り除かれる保護フィルムを含む。該マトリックスシステムは、アクリル酸またはシリコーンをベースとする、非水性のポリマー接着性システムからなる。
【0018】
WO 94/07468および多くの関連出願に記載の経皮デリバリーシステム(TDS、TTSと同義的に使用される)において、薬物は受動拡散により皮膚を横切っている。これらの型の経皮投与の欠点は、例えば、個々の用量、制限された最大日用量、オンデマンド塗布、持続型またはパルス型投与、投与期間を考慮して、利用可能な用量の幅に大きな制限があることである。
【0019】
しかしながら、皮膚は大部分の薬物の候補体にとって極めて有効な障壁として認められるから、かかる型の膜制御システムは、活性物質(非常に高い皮膚透過性を示す)の経皮投与を実際には大なり小なり限定する。加えて、薬物放出速度に対する要件は、同様に、数日間にわたって定常のデリバリーに適合するものでなければならない。これらの受動経皮治療システムで得られるロチゴチンのフラックスはすべての患者にとって必ずしも十分ではない。
【0020】
皮膚を介する薬物デリバリーを強化するのに、種々のデリバリー方法が長年にわたって研究されてきた。
【0021】
電気エネルギーおよび超音波エネルギーなどの代替エネルギー源を用いることで経皮薬物デリバリーの速度を増加させるいくつかの試みがなされた。電気式経皮デリバリーはエレクトロ輸送とも称される。本願明細書にて用いられる「エレクトロ輸送」または「電動投与」なる語は、一般に、試薬(例えば、薬物)の、皮膚、粘膜または爪などの膜を介するデリバリーをいう。可能性の一つがイオントフォレシスである。わずかな電流を皮膚を横切って流すことで、少し帯電したイオン分子の経皮デリバリーを強化することが可能である。イオントフォレシスは起電力を加え、皮層を通してイオンを標的組織に引き付けさせるか、または反発させることを含む。特に適する標的組織は、局所治療のためのデリバリー部位に隣接する組織を包含する。帯電していない分子は、エレクトロオスモシスと称される工程を介し、イオントフォレシスを用いてデリバリーされ得る。この「エレクトロ輸送」の技術は、例えば、経口および注射または受動経皮薬物デリバリーに比べていくつかの利点を示す。イオントフォレシスによる薬物デリバリーの重要な利点は、注射針の挿入に伴う痛みおよび感染の可能性を回避すること、薬物のデリバリー速度を制御しうること、薬物デリバリープロフィールを計画しうること、および局所的な組織損傷を最小にすることを包含する。この技法の興味のある特性の一つが、皮膚に入り、そこを通る輸送速度を制御しうることである。このことはドーパミンアゴニストなどの治療域の狭い薬物では重要な利点である。
【0022】
イオントフォレーゼの経皮デリバリーは、印加電界の影響下にて、医薬上活性な化合物のイオンまたは可溶化塩を体内組織に導入することに関する。
【0023】
特定のケースにおいて、例えば、受動拡散での制御パッチによる経皮デリバリーが、皮膚を通過する量が小さく、極めて大きなパッチを用いる必要があるとの理由で、効率的でなく、許容できないことが明らかな場合、イオントフォレーゼの経皮デリバリーがその化合物をデリバーする有利な方法を提供するかもしれない。さらには、イオントフォレーゼの経皮デリバリーは投与量が正確に制御され、数週間までの期間にわたって患者にて特定の投与レベルまで容易に漸増させるのに用いることができるとの大きな利点を有する。
【0024】
エレクトロ輸送装置は、皮膚、爪、粘膜または体の他の表面の部分と電気接触する、少なくとも2つの電極を使用する。一般に「ドナー」電極と称される、一の電極は、そこから試薬が体内にデリバーされる電極である。典型的には、「カウンター」電極と称される、他の電極は、体を通る電気回路を閉じるのに供される。例えば、デリバーされる試薬がプラスに帯電している、すなわちカチオンである場合、その場合、アノードがドナー電極であり、その一方でカソードが該回路を完結するのに供されるカウンター電極である。また、試薬がマイナスに帯電している、すなわちアニオンである場合、カソードがドナー電極であり、アノードがカウンター電極である。加えて、アニオンおよびカチオンの両性イオンの試薬が、あるいは帯電していない溶解した試薬がデリバーされる場合、アノードおよびカソードの両方がドナー電極であると考えられてもよい。その上、エレクトロ輸送デリバリーシステムは、一般に、体内にデリバーされる試薬の少なくとも1つの(薬物)リザバーまたは供給源を必要とする。
【0025】
イオントフォレシスは経皮薬物デリバリーにて用いるのに十分に確立されている。この方法の利点は、経皮パッチとは異なり、電場内で活性な輸送に依存することである。該方法は皮膚を通して効果的に吸収されない水可溶性イオン性薬物のデリバリーを可能とする。電場の存在下では、電子移動およびエレクトロオスモシスが物質輸送における優勢的な力である。これらの動きは化学フラックス単位、通常、マイクロモル/cm時間にて測定される。皮膚pH、薬物の濃度および特性、イオン競合、分子の大きさ、電流、電圧、印加時間および皮膚抵抗を含め、イオントフォレーゼの輸送に影響を及ぼす多くの因子がある。
【0026】
この方法(例えば、イオントフォレシス)の利点は、フラックスが正確に制御され、外部にて適用される電流により操作され得ることである。得られる強化レベルは、その大部分が、薬物の帯電、親油性および分子量に依存する。薬物の経皮浸透性を強化する化合物のヒトにおける適用性は、該化合物の惹起しうる皮膚刺激のレベルにより限定されるが、これらの化合物が受動経皮実験にて広く適用された。イオントフォレシスは、低電圧電流により皮膚を横切って誘発される外部印加電位差の下で可溶性の塩イオンが膜を通って移動することを可能とする技術である。電流の適用は皮膚電気抵抗の変化に応じて電圧を調節する電子装置により制御される。帯電した薬物ならびに他のイオンは誘発されるイオン流の成分として皮膚を介して運ばれる。印加電流密度に関するフラックス比例性および薬物以外のイオンの存在を含む、多くの因子がイオントフォレーゼのデリバリーに影響を及ぼす。0.5mA/cmまでの電流は患者にとって許容されうると考えられる。イオントフォレーゼ処置での作用開始は迅速であり、反対に受動経皮デリバリーでは数時間を要する。薬物デリバリーは印加電流に比例するため、イオントフォレシスの顕著な利点は、薬物デリバリーを前もって計画すること、個々の基準に基づいて用量を調整すること、または定常またはパルス方式で時間調整しうることを包含する。
【0027】
受動経皮デリバリーと比較して、イオントフォレシスは、パーキンソン病の治療にて有用ないくつかの利点を提供する:例えば、電流を調節することで必要とする治療的速度でのフラックスを計画することができる。薬物の量が個々の要求に調節され得ることは薬物を必要とする患者にとって有利な点である。もう一つ別の利点は、イオントフォレシスが持続型ならびにパルス型投与を可能とし、必要に応じて、イオントフォレーゼのデリバリーシステムを簡単にオンまたはオフにすることで、医薬の投与が迅速に開始または終了されうることである。
【0028】
薬物デリバリーの速度および期間の制御は、過剰に投与する可能性のある危険性を、および不十分な投与の不快性を回避するのに一の方法にて処理され得る。
【0029】
しかしながら、所定のエレクトロ輸送工程においては、少なくとも「受動」拡散を含む、複数の工程がある程度は同時に生じるかもしれない。したがって、本願明細書にて用いる「エレクトロ輸送」または「電動投与」なる語は、試薬を実際に輸送する具体的な機構(複数も可)が何であっても、少なくとも1つの試薬、例えば、帯電していても、帯電していなくても、またはその混合物であってもよい試薬の電気的に誘発されるまたは強化される輸送を包含するように、可能な限り最も広く解釈されるべきである。例えば、全体のイオントフォレーゼのフラックスは、受動フラックス(Jpass)と、エレクトロオスモティックフラックス(JEO)と、電子移動フラックス(JEM)とからなる。後者の2つはイオントフォレーゼフラックスを示している。
【0030】
パーキンソン病の治療に用いられるもう一つ別のドーパミンアゴニストはR−アポモルヒネである。R−アポモルヒネは、化合物(R)−5,6,6a,7−テトラヒドロ−6−メチル−4H−ジベンゾキノリン−11,12−ジオールの国際一般的名称(INN)である。R−アポモルヒネのイオントフォレーゼ投与のシステムを開発するためのいくつかの方法がこれまでに記載されている(例えば、R. van der Geest, M. Danhof, H.E. Bodde"Iontophoretic Delivery of Apomorphine: In Vitro Optimization and Validation", Pharm. Res. (1997), 14,1797- 1802; M. Danhof, R. van der Geest, T. van Laar, H. E. Bodde, "An integrated pharmacokinetic-pharmacodynamic approach to optimization of R-apomorphine delivery in Parkinson's disease", Advanced Drug Delivery Reviews (1998), 33,253-263を参照のこと)。しかしながら、これらの努力にも拘わらず、1.4ないし10.7ng/mlの範囲の治療濃度の下端での濃度を得ることができたに過ぎない。
【0031】
さらなるドーパミンアンタゴニストは塩酸ロピニロールである。ロピニロール(INN)は4−[(2−ジプロピルアミノ)エチル]−1,3−ジヒドロ−2H−インドール−2オンである。ロピニロールのイオントフォレーゼ投与が適していると考えられたが、治療範囲の下端でのフラックスを得ることが可能であったにすぎない(A.Luzardo-Alvarez、M. B. Delgado-Charro, J. Blanco-Mendez, "Iontophoretic Delivery of Ropinirole Hydrochloride: Effect of Current Density and Vehicle Formulation", Pharmaceutical Research (2001), 18 (12), 1714-1720を参照のこと)。
【0032】
WO2004/050083は、ドーパミン受容体アゴニストのロチゴチンのイオントフォレーゼのデリバリーを用いる、パーキンソン病の徴候を治療または緩和するための方法に関する。イオントフォレーゼのデリバリーシステムに用いられる組成物は、その塩酸塩の形態のロチゴチンと、少なくとも1つの塩化物塩とを、pH4ないし6.5の組成物を1ないし140ナノモル/リットルの濃度にて含む。最適には、欧州特許の実施例1および2より誘導されるように、少なくとも0.5mg/mlの塩酸ロチゴチン濃度が好ましい。
【0033】
しかしながら、塩酸ロチゴチンの経皮イオントフォレーゼのデリバリーの研究において、皮膚を介して電流を適用することで、受動デリバリーと比べて、より安定した状態のフラックスがより短いタイムラグで得ることができ、これらの実験においてドナー相にある塩酸ロチゴチンの最大溶解度が、皮膚を介するそのイオントフォレーゼ輸送の制限因子であることが明らかにされた。ドナー溶液を変えることで、例えば界面活性剤または共溶媒を添加することで、またはClイオンの供給源を変えることでロチゴチンの溶解度を増加させようとした。このイオントフォレーゼのデリバリーシステムの欠点は、例えば、塩化ナトリウム濃度の上昇がロチゴチンのフラックスの減少をもたらすことである。
【0034】
さらなる制限因子が、塩酸ロチゴチンの水性溶媒中での限定された溶解度、ならびに例えば塩化ナトリウムの強い塩析作用である。
【0035】
多くの患者が上記した組成物のイオントフォレーゼデリバリーを用いて実行可能な濃度よりも顕著に高い濃度を必要とし、および/または長期間の投与に対する要求がある。
【0036】
一方で用量についてより大きな順応性(例えば、個々の用量)を提供し、他方で長期間の投与に適するならば、持続型ならびにパルス型投与を可能とする経皮デリバリーシステムを開発することについてさらなる要求がある。
【0037】
本発明の目的は、ロチゴチンを薬物リザバーから皮膚に向かって、そしてそこを横切っての輸送を制御し(すなわち、方向付け/誘導し)、それによりその患者が必要とするロチゴチンの個々の投与量を最適化し、ロチゴチンのTDS/皮膚の界面を介するフラックスを強化することである。
【0038】
本発明のもう一つ別の目的および態様は、少なくとも24時間にわたって、好ましくは24時間以上、ロチゴチンを皮膚に、そして皮膚を通ってデリバーすることを強化する適当な組成物を提供することである。
【0039】
本発明のもう一つ別の目的は、活性化合物の持続型ならびにパルス型デリバリーを提供することである。
【発明の概要】
【0040】
本発明は医薬上許容されるロチゴチン塩のデリバリーを提供する経皮イオントフォレシス法およびヒト皮膚を介するその組成物に関する。
【0041】
本発明はロチゴチンの少なくとも一の標的組織へのイオントフォレーゼデリバリーを強化するイオンとフォレシスに適する医薬製剤を提供する。該製剤はさらには該塩の水性溶液中での良好ないしは優れた溶解性により特徴付けられる。本発明はまた、当該発明の製剤をイオントフォレーゼによりデリバーすることで、患者の少なくとも一の標的組織にロチゴチンを投与する方法、および/または患者の上記した疾患の一を治療する方法を提供する。
【0042】
本発明は、6−(プロピルー2(2−チオフェン−2−イルエチル)アミノ)テトラリン−1−オール(ロチゴチン)の少なくとも一の医薬上許容される酸付加塩と、任意に医薬上許容される電解質とを含み、ここで該ロチゴチン塩は水性溶液中にてpH<6で少なくとも16マイクロモル/mlの、および/またはpH<5.5で少なくとも30マイクロモル/mlの飽和溶解度を有し、ここで上記したすべての飽和溶解度は医薬上許容される酸付加塩のロチゴチンの量に基づいて計算される:ただし、医薬上許容される酸付加塩の少なくとも一は塩酸ロチゴチン以外の塩である。
【0043】
本発明はさらには、ロチゴチン二水素リン酸塩、ロチゴチン二水素クエン酸塩、ロチゴチンオロチン酸塩、ロチゴチン1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩(naphtoate)、ロチゴチン水素硫酸塩、ロチゴチン水素酒石酸、ロチゴチンナトリウムなどのロチゴチンの新規な医薬上許容される塩を提供する。
【0044】
意外にも、医薬上許容されるロチゴチン塩、特にロチゴチン二水素リン酸塩(ロチゴチン HPO)の最大溶解度の増加により、ロチゴチンHClと比べて、少なくとも24時間維持され、その使用を容易にしうる、最大フラックスの実質的な増加が達成され得ることが判明した。ロチゴチン二水素リン酸塩の場合、ロチゴチンHClと比べて、少なくとも24時間維持され、その使用を容易にしうる、ロチゴチンHPOの最大フラックスの増加、最大フラックスの170%増加が達成され得ることが判明した。溶解度とデリバリーの間の効率のバランスは、ドナーのpHを、例えば5と6の間に選択することにより達成され得る。イオントフォレシスでは、治療レベルが迅速な開始時間で達成され、電流密度を調節することにより制御方式にて維持され得る。
【0045】
さらに意外なことに、一の実施態様において、ロチゴチンHClの溶解度と対照的に、NaClの存在は本発明のロチゴチン塩、例えばロチゴチンHPOの溶解度に影響しない。
【0046】
本発明は、例えばパーキンソン病の対症療法としての経皮受動拡散よりも、イオントフォレシスと組み合わせたロチゴチンのイオントフォレーゼデリバリーの極めて重要な2つの利点を提供する。一つは、活性な経皮デリバリーであるため、所望の濃度に達する開始時間が顕著に減少され得ることである。第二に、電流密度を調整することで、血漿中濃度の漸増が可能であり、所望の投与計画に従ってデリバリーを個別に制御して実施することができることである。
【0047】
インビトロでの輸送をモデリングすることで測定されるパラメータを用いることで、インビボでの模倣は、イオントフォレシスでの治療レベルが迅速な開始時間で達成され、電流密度を調節することで制御方式にて維持され得ることを示す。
【0048】
約50μg/cm/時間のフラックスが達成され得る。イオントフォレシス(定常状態のフラックス)と電流密度の間で線状関係が得られ、そのことは患者への個々の用量の漸増を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】イオントフォレシスセルの見本となるデザインを示す。
【図2】薬物濃度に対するロチゴチンのイオントフォレーゼの定常状態のフラックス±s.d.を示す。
【図3】ロチゴチン・HPOをクエン酸緩衝液(pH5)に溶かしたイオントフォレーゼのフラックス時間特性を示す。
【図4】異なるpHでの、ドナー濃度に対する、受動相(電流なし)とイオントフォレーゼ相(電流密度=500μA/cm)との間のFluxssの相関関係を示す。
【図5】ロチゴチンの受動およびイオントフォレシスでの経皮定常状態のフラックスに対するドナー溶液のpHと薬物濃度とを組み合わせた影響を示す。
【図6】電流密度の、ドナー溶液からの経皮定常状態の薬物フラックスに対する影響を示す。
【図7】ロチゴチン・HPOのイオントフォレーゼのデリバリーの模倣の集団予測を示すグラフである。
【図8】リン酸二水素ロチゴチンの粉末X線回折(XRPD)を示す。
【図9】リン酸二水素ロチゴチンのH NMRスペクトルを示す。
【図10】クエン酸二水素ロチゴチンのXRPDを示す。
【図11】クエン酸二水素ロチゴチンのH NMRスペクトルを示す。
【図12】酒石酸水素ロチゴチンのH NMRスペクトルを示す。
【図13】オロチン酸ロチゴチンのH NMRスペクトルを示す。
【図14】オロチン酸ロチゴチンのXRPDを示す。
【図15】1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ロチゴチンのH NMRスペクトルを示す。
【図16】1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ロチゴチンのXRPDを示す。
【図17】1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ロチゴチンのDSCを示す。
【図18】硫酸水素ロチゴチンのXRPDを示す。
【図19】硫酸水素ロチゴチンのH NMRスペクトルを示す。
【図20】ロチゴチンナトリウムのH NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、ロチゴチンなる語と同義語である、6−(プロピル−(2−チオフェン−2−イル)エチル)テトラリン−1−オールの新規な塩に関する。
【0051】
一の態様において、本発明は、イオントフォレシスに適し、ロチゴチンのその治療を必要とする患者への、好ましくはヒト患者へのイオントフォレーゼデリバリーの強化を提供する医薬製剤を提供する。
【0052】
かくして、本発明は、陰極または陽極イオントフォレシスを含む、ロチゴチンのイオントフォレーゼデリバリーに関する。
【0053】
本発明はまた、(a)イオントフォレシスによる経皮投与用の装置にて、または該装置にて用いるための準備が整っている化合物含有のカートリッジを含むキットにて用いるための製剤、(b)イオントフォレシスによる経皮投与に適する装置であって、式Iの化合物またはその組成物を含有し、所望により医薬上許容される電解質を含有してもよいリザバーを有し、一般式Iの医薬化合物およびその組成物のデリバリー特性を制御する方法にて用いることができ、その制御デリバリー特性が疼痛障害、特にCNS障害、特にパーキンソン病およびレストレスレッグ症候群の治療にて有用である、装置、を調製するための一般式Iの化合物の使用に関する。
【0054】
ロチゴチンは塩基であるため、ロチゴチンの塩は、典型的には、酸付加塩、例えばクエン酸塩、リン酸塩等である。本発明の製剤に用いられるロチゴチンの酸付加塩は、典型的には、pH<6で少なくとも約16マイクロモル/mlの水溶解度を、および/またはpH5で少なくとも約30マイクロモル/mlの水溶解度を有し、上記した飽和溶解度はすべてその医薬上許容される酸付加塩中のロチゴチンの合計量に基づいて計算されている。ロチゴチンの酸付加塩である、リン酸二水素ロチゴチンは、典型的には、約4ないし5.5のpH範囲で約83ないし34マイクロモル/mlの水溶解度を有する。該塩が溶液(例えば、水溶液)に置かれると、該塩は溶解し、プロトン化されたロチゴチンのカチオンと、カウンター(例えば、クエン酸イオンまたはリン酸イオン)アニオンを形成する。ロチゴチンのカチオンはエレクトロ輸送デリバリー装置の陽極電極よりデリバーされる。
【0055】
一の実施態様において、製剤中の、ロチゴチンの遊離塩基として計算した、活性剤であるロチゴチンの濃度は、pH<6で、少なくとも約16マイクロモル/mlであり、および/またはpH5で、濃度そのものは、少なくとも約30マイクロモル/mlである。もう一つ別の実施態様において、製剤中の、ロチゴチンの遊離塩基として計算した、活性剤であるロチゴチンの濃度は、pH4で、少なくとも約50マイクロモル/mlである。
【0056】
該明細書および特許請求の範囲において特定の数値が記載されている場合、特記しない限り、「約」なる語は、当業者により決定されるように、特定の数値について許容され得る誤差の範囲内にあることを意味する。一の実施態様において、「約」なる語は±10%、もう一つ別の実施態様において±5%、もう一つ別の実施態様において±2%、もう一つ別の実施態様において±1%、またはもう一つ別の実施態様において±0.5%を意味する。
【0057】
本発明の一の目的は、一般式:
【化2】

[式中、Xn−は医薬上許容される無機または有機酸の酸アニオンである]
で示される化合物、ただし、ロチゴチン・HCl以外の化合物を提供することである。本発明は、Xn−が一価および/または多価のアニオンを含む、一般式Iの化合物に関する。一より多くの塩化され得る酸プロトンを有する特定の酸がある。例えば、クエン酸は3個のカルボキシル基を有し、そのすべてが、または一部がロチゴチン塩基により塩化され得る。かくして、本発明の製剤は、クエン酸二水素一ロチゴチン、クエン酸水素二ロチゴチンまたはクエン酸三ロチゴチンあるいはロチゴチンのクエン酸塩の混合物を含みうる。同じことが、同様に、酒石酸、硫酸、リン酸等の他の酸付加塩にも適合する。
【0058】
式(I)に、または後記する式に存在する個々の原子は、実際に、天然で存在する同位体のいずれの形態で存在してもよく、最も豊富に存在する同位体が好ましい。かくして、一例として、式(I)または後記する式に存在する個々の水素原子は、H、H(重水素)またはH(三重水素)原子として存在してもよい;Hが好ましい。同様に、一例として、式(I)または後記する式に存在する個々の炭素原子は、12C、13Cまたは14C原子として存在してもよい;12Cが好ましい。このことはまた、その遊離塩基の形態のロチゴチンにも当てはまる。
【0059】
当業者にとって、特記しない限り、(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・酒石酸塩(酒石酸ロチゴチン)は酒石酸二ロチゴチンなる語と同義であり、(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・クエン酸塩(クエン酸ロチゴチン)はクエン酸三ロチゴチンなる語と同義であり、および(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・リン酸塩はリン酸三ロチゴチンなる語と同義である。
【0060】
代表的な酸付加塩は、限定されるものではないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、二硫酸塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸粘、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イソチオン酸塩)、1−ヒドロキシ−ナフトエ酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メシル酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、二炭酸塩、p−トルエンスルホン酸塩および硫酸塩を包含し、上記したすべては部分的な塩化から完全な塩化までのすべての変形を含む。
【0061】
一の実施態様において、酸付加塩は、(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・臭化水素酸塩、(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・p−トルエンスルホン酸塩、(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・ヘミナフタレン−1,5−ジスルホン酸塩、(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・酒石酸塩、および(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・リン酸塩ではない。
【0062】
もう一つ別の実施態様において、酸付加塩はさらには、(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・クエン酸塩、(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・硫酸塩および(S)−6−(プロピル−(2−(チオフェン−2−イル)エチル)アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・メタンスルホン酸塩ではない。
【0063】
さらに具体的には、本発明は、リン酸水素二ロチゴチン、リン酸二水素ロチゴチン、クエン酸二水素ロチゴチン、クエン酸水素二ロチゴチン、オロチン酸ロチゴチン、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ロチゴチン、硫酸水素ロチゴチン、硫酸ロチゴチン、酒石酸水素ロチゴチンまたはその混合物より選択される、一般式Iの医薬化合物に関連付けられる。
【0064】
もう一つ別の実施態様において、酸付加塩は、リン酸二水素ロチゴチン、クエン酸二水素ロチゴチン、オロチン酸ロチゴチン、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ロチゴチン、硫酸水素ロチゴチン、酒石酸水素ロチゴチンまたはその混合物より選択される。
【0065】
その上さらに具体的には、本発明は、上記した一般式Iの少なくとも1つの化合物またはその混合物の使用であって、線維筋痛、レストレスレッグ症候群およびCNS障害、特にパーキンソン病の治療ための医薬を製造するための使用に関連付けられる。
【0066】
本発明は、Xn−が一価および/または多価アニオンを含む、一般式Iの医薬化合物の経皮イオントフォレーゼのデリバリーに関する。さらに具体的には、本発明は、その塩がリン酸水素二ロチゴチン、リン酸二水素ロチゴチン、クエン酸二水素ロチゴチン、クエン酸水素二ロチゴチン、オロチン酸ロチゴチン、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ロチゴチン、硫酸水素ロチゴチン、硫酸ロチゴチン、酒石酸水素ロチゴチン、酒石酸ロチゴチンまたはその混合物である、一般式Iの医薬化合物の経皮イオントフォレーゼのデリバリーに関連付けられる。
【0067】
一般式Iの医薬化合物の経皮イオントフォレーゼのデリバリーの一の実施態様において、Xn−は、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、リン酸、酒石酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、安息香酸、アジピン酸、マレイン酸、アスパラギン酸、フマル酸、コハク酸、硫酸、オロチン酸、1−ヒドロキシ−ナフトエ酸の酸アニオンより選択される。もう一つ別の実施態様において、Xn−は、リン酸、硫酸、オロチン酸、1−ヒドロキシ−ナフトエ酸、クエン酸、酒石酸の酸アニオンより選択され、特にリン酸二水素イオンである。
【0068】
上記したように、式Iの化合物は、無機または有機酸から誘導される医薬上許容される塩の形態にて使用され得る。プロドラッグの塩もまた本発明の範囲内にある。「医薬上許容される塩」なる語は、医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等がなく、利益/危険性の割合に相応する、ヒトおよび下等動物の組織と接触して用いるのに適する塩を意味する。医薬上許容される塩は当該分野にて周知である。該塩は本発明の化合物の最終的な単離および精製の間に系内にて調製され得、あるいは遊離塩基の官能基と適当な有機酸とを反応させることで別個に調製され得る。
【0069】
これらの化合物は、特に、パーキンソン病などのCNS障害、線維筋痛、レストレスレッグ症候群、鬱病および/またはパーキンソン随伴症状を治療するための医薬として用いるのに適する。それらは経皮デリバリーシステムでの使用に適している。かかる経皮デリバリーシステムは、例えば、パッチ、エレクトロ輸送装置、イオントフォレーゼデリバリシステムであり得る。
【0070】
本発明の一の目的は、pHが6未満の溶液中で、改善された溶解度を有するロチゴチンの安定した塩を提供することである。遊離塩基としてのロチゴチンは通常の有機溶媒では高い溶解度を有するが、水中での溶解度は低い。
【0071】
本発明の条件下で、さらに塩(イオン)、例えば塩化物塩を添加しなくても、有効量のロチゴチンを高濃度で維持する医薬組成物が可能である。当該分野で公知の該システムの欠点は塩析作用であり、それにより皮膚を通る利用可能なロチゴチンの輸送が減少する。従前の試みにおいて、ロチゴチン・HClのイオントフォレーゼ輸送における主たる制限の一つがその低い溶解度であった。例えば、ロチゴチン・HClの最大溶解度は、(さらに塩化物塩を付加しない場合には)pH5で22.4マイクロモル/mlに過ぎず、0.07モルのNaClの存在下で、ロチゴチン・HClの最大溶解度はpH5で6.3マイクロモル/mlに下がった。該実験で、1.4と3.9マイクロモル/mlの間の可変ロチゴチン・HCl濃度でイオントフォレーゼ輸送は、Fluxssとドナー濃度の間で線形関係を示した。このことは、ロチゴチンの最大イオントフォレーゼのフラックスが未だに達成されていないが、ロチゴチン・HClの低溶解度がイオントフォレーゼのフラックスがさらに増加することを妨げていることを示す。
【0072】
ロチゴチンの溶解度が最大薬物濃度における重要な決定因子である。pHが約6の水溶液中で最大溶解度が16マイクロモル/ml(医薬上許容される酸付加塩中のロチゴチンの合計量に基づいて計算)未満であるか、pHが約5.5の水溶液中で最大溶解度が30マイクロモル/mlであるロチゴチン酸付加塩の問題は、ロチゴチン・HClと同様に、イオントフォレーゼの輸送割合が低いために、そのエレクトロ輸送での使用が制限されることである。もう一つ別の欠点は、塩化物塩の添加がロチゴチン・HClの溶解度に及ぼす、したがって皮膚浸透に利用しうる有効なロチゴチン濃度に及ぼす負の影響である。
【0073】
意外にも、ロチゴチンの特定の酸付加塩がロチゴチン塩酸塩の形態と比べてより可溶性であり、かくして経皮エレクトロ輸送、例えばイオントフォレシスにて用いるための医薬組成物に特に適していることが見出された。経皮エレクトロ輸送に適するロチゴチン塩は、例えば、本願明細書に記載の塩である。一の実施態様において、塩は、ロチゴチンのオロチン酸塩、クエン酸塩(クエン酸水素塩、クエン酸二水素塩を包含する)、酒石酸塩(酒石酸水素塩、酒石酸塩を包含する)、リン酸塩(リン酸二水素塩、リン酸水素塩およびリン酸塩を包含する)より選択される。一の実施態様において、塩はロチゴチンの硫酸水素塩、オロチン酸塩、クエン酸塩、酒石酸水素塩、特にL−酒石酸塩および/またはリン酸二水素塩より選択される。もう一つ別の実施態様において、塩はロチゴチンのオロチン酸塩、酒石酸水素塩、特にL−酒石酸水素塩および/またはリン酸二水素塩より選択される。さらにもう一つ別の実施態様において、医薬上許容される塩は、以下の式:
【化3】

のリン酸二水素ロチゴチンである。
【0074】
一の実施態様は、6−(プロピル−(2−チオフェン−2−イルエチル)アミノ)テトラリン−1−オール(ロチゴチン)の少なくとも1種の医薬上許容される酸付加塩を含み、医薬上許容される電解質を含んでもよい医薬製剤であって、ここで該ロチゴチン塩がpH<6で少なくとも約16マイクロモル/mlの水溶液中飽和溶解度を有し、該飽和溶解度はすべて医薬上許容される酸付加塩中のロチゴチンの合計した量に基づいて計算されている、ただし、ロチゴチンの少なくとも一つの医薬上許容される酸付加塩はロチゴチン・HClではない、医薬製剤を包含する。特に、ロチゴチン酸付加塩として、少なくともリン酸二水素ロチゴチンを含む医薬組成物を包含する。もう一つ別の実施態様において、医薬組成物は、pH5.5で少なくとも約30マイクロモル/mlの水溶液中飽和溶解度を有することを特徴とする、ロチゴチンの少なくとも1つの医薬上許容される酸付加塩を、特に少なくともリン酸二水素ロチゴチンを含む。もう一つ別の実施態様において、医薬組成物は、pH5で少なくとも約40マイクロモル/mlの水溶液中飽和溶解度を有することを特徴とする、ロチゴチンの少なくとも1つの医薬上許容される酸付加塩を、特に少なくともリン酸二水素ロチゴチンを含む。上記の飽和溶解度はすべて医薬上許容される酸付加塩中のロチゴチンの合計した量に基づいて計算される。
【0075】
本発明の医薬組成物に用いることのできる他の塩は、上記にて、および特許請求の範囲にて開示されている。一の実施態様において、医薬組成物は、HCl以外のロチゴチンの酸付加塩、ロチゴチンの酒席酸塩またはリン酸塩を含む。まさにもう一つ別の実施態様において、医薬組成物は、経皮エレクトロ輸送システムにて用いるための、ロチゴチン・HCl塩ではない、ロチゴチン酸付加塩を含む。もう一つ別の実施態様は、イオントフォレーゼ装置の調製におけるロチゴチンの酸付加塩の使用である。本発明のもう一つ別の態様は、上記した医薬組成物を含むイオントフォレーゼ装置である。本発明のもう一つ別の態様は経皮医薬または装置、特にイオントフォレーゼの装置を製造するための、本願明細書に記載の医薬組成物の使用である。
【0076】
温度は飽和溶解度が通常約15−40℃の範囲で提供される範囲にある。一の実施態様において約18−38℃の範囲にあり、他の実施態様において約18−25℃の範囲にある。
【0077】
一の実施態様において、イオントフォレシスに望ましい溶液は、薬物がすべて溶解し、薬物の濃度がその溶解限度に近すぎないものである。薬物濃度がその溶解限度に近いと、温度または組成物のわずかな変化が薬物の沈殿をもたらしうる。
【0078】
一の実施態様において、ロチゴチンの少なくとも1つの医薬上許容される塩の沈殿を回避するために、ロチゴチン塩の配合量は該溶液の飽和を達成するのに要する量よりも少なくする。もう一つ別の実施態様において、本発明の医薬組成物は飽和を達成するのに要する量の少なくとも80%の量のロチゴチンの少なくとも1つの医薬上許容される塩を含む。もう一つ別の実施態様において、該量は飽和を達成するのに要する量の少なくとも90%である。
【0079】
一の実施態様において、医薬組成物のpHは6未満であり、他の実施態様においてはpH5.5であり、さらに別の実施態様においてはpH5である。もう一つ別の実施態様において、pHは3ないし5.9の範囲にあり、もう一つ別の実施態様においては4ないし5.5の範囲にある。一の実施態様において、ロチゴチン塩の飽和溶解度は4ないし5.5のpHの範囲で、少なくとも30マイクロモル/mlである。
【0080】
薬物リザバー中の溶液のpHはある実施態様においては少なくとも約3.0であってもよい。他の実施態様においては、pHは約6以下であってもよい。さらに別の実施態様においては、pHは約4.0ないし約5.9または6の範囲にあってもよい。クエン酸緩衝液またはリン酸緩衝液などの緩衝液によりpHは一定レベルに維持され得る。
【0081】
一の実施態様において、医薬組成物はさらに緩衝溶媒を含む。適当な緩衝溶媒は、少量の酸または塩基が要求されるpHの範囲内で添加される場合に、溶液のpHがほとんど変化しないことを規定するあらゆる緩衝液である。このことはpHの範囲が6であることを包含する。適当な緩衝液は、例えば、HCl、クエン酸ナトリウム、クエン酸/クエン酸ナトリウム、酢酸/酢酸ナトリウム、クエン酸/NaHPOである。
【0082】
一の実施態様において、医薬上許容されるロチゴチン塩は約3と6(好ましくは約4と5.9)の間、あるいは5と6(好ましくは約5と5.9)の間のpHの緩衝液中で製剤化される。
【0083】
「緩衝液」なる語は、製剤中の医薬または獣医薬的使用で安全であることが知られており、製剤の望ましい範囲のpHに製剤のpHを維持し、または調整する効果を有する、化合物の溶液をいう。
【0084】
薬物のリザバーにおいて、ロチゴチンの医薬上許容される塩の濃度は、例えば、pH<6で少なくとも約16マイクロモル/mlであってもよく、ここで該濃度は医薬上許容される酸付加塩中のロチゴチンの合計した量に基づいて計算される、ただし、ロチゴチンの少なくとも1つの医薬上許容される酸付加塩はロチゴチン・HClではない。薬物リザバー中のロチゴチン塩の濃度は、例えば、もう一つ別の実施態様においては、pH5.5で少なくとも約30マイクロモル/mlであり、さらに別の実施態様において、薬物リザバー中のロチゴチン塩の濃度はpH5で約40マイクロモル/mlであってもよい。
【0085】
加えて、イオントフォレーゼシステムの薬物リザバーはさらに添加剤を含んでもよい。かかる添加剤はイオントフォレシスにて周知かつ一般的な添加剤より選択される。かかる添加剤は、例えば、抗菌剤、保存剤、酸化防止剤、浸透促進剤および緩衝剤を包含する。
【0086】
意外にも、一般式(I)の特定の活性な化合物を患者に投与することによりイオントフォレーゼのデリバリー(用量および特性)が、薬物および電解質の初期の濃度および印加電流(定常/可変)をイオントフォレーゼシステムにて適当に組み合わせることで制御され得ることが見出された。例えば、電流密度(定常/可変)と電解質の初期の量を組み合わせることで、薬物デリバリー特性の調節を可能とする、極めて妥当な大きさのイオントフォレーゼの装置が得られることが判明した。
【0087】
イオントフォレシスにおける薬物のデリバリーの調整能は、使用者における薬物の効果の制御を増大させる可能性がる。加えて、イオントフォレシスにおける薬物のデリバリー特性の調整能は式(I)の化合物のイオントフォレーゼのデリバリーをより実践的に効果的な投与方法とする可能性がある。
【0088】
電動投与、特にイオントフォレーゼ投与の目的のために、その水溶液の形態に加えて、医薬上許容されるロチゴチン塩をロチゴチンイオンを動きに対して自由にするいずれの形態に製剤化することもできる。かかる製剤においては、イオントフォレシス法を便利にするために、薬剤はゲル(ゼラチンなど)、ヒドロゲル、ガム、フォームまたは非イオン性クリームに配合され得る。
【0089】
陽極リザバーでのpH安定性を維持するための方法として、経皮エレクトロ輸送デリバリーについて銀陽極電極が提案されてきた。エレクトロ輸送デリバリー装置にて銀陽極電極を用いることの欠点の一つが、すなわち、銀電極を通して電流を加えると、銀は酸化されるようになり(Ag→Ag+e)、それにより銀陽イオンが形成され、エレクトロ輸送により皮膚にデリバリーされる陽イオンの薬物と競合することである。銀イオンの皮膚への移動は皮膚にて一時的な表皮変色(TED)をもたらす。したがって、ある実施態様においては、塩化物塩などの補助的な塩化物イオン供給源が本発明の製剤中に含まれる。これらの塩化物は銀イオンの移動、および銀陽極電極を用いて経皮的にロチゴチンをエレクトロ輸送によってデリバーする場合に付随する皮膚変色を妨げるのに十分な塩化物を提供するのに効果的である。
【0090】
Ag/AgCl電極を用いて陽極側に電気化学反応物を供給するために、電解質としての塩化物塩をドナー溶液に添加することも多い。適当な電解質の例として、HCl、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、塩化トリエチルアンモニウムおよび塩化トリブチルアンモニウムなどの、水可溶性である、Clを付与するすべての化合物が挙げられる。一の実施態様において、適当な電解質は、水可溶性である、Clを付与するすべての化合物が挙げられる:ただし、ロチゴチン・HClではない。一の実施態様において、電解質はNaClを含む。電解質の必要な量は、装置の輸送領域、ビヒクルまたはキャリアの容量、活性化合物の濃度、電流密度、イオントフォレシスの持続期間および輸送効率などの因子に依存しうる。塩化物の適切な濃度は1ないし140ミリモル/l、好ましくは50ないし100ミリモル/l、より好ましくは60ないし80ミリモル/lの範囲内にある。他の実施態様において、電解質は、例えば、少なくとも約0.005ミリモル、少なくとも約0.01ミリモルまたは少なくとも約0.05ミリモルの量で配合されてもよい。電解質は、例えば、多くて約2ミリモル、多くて約1.0ミリモル、または多くて約0.3ミリモルの量にて配合されてもよい。電解質の初期量は、例えば、少なくとも約0.005M、少なくとも約0.01M、または少なくとも約0.03Mの濃度として表現されてもよい。電解質の初期量は、例えば、多くて約2M、多くて約0.2M、または多くて約0.02Mの濃度として表現されてもよい。
【0091】
本明細書に記載の組成物はイオントフォレーゼ装置のドナー相として用いられ得る。通常、ドナー相はドナーリザバーに含まれる。本発明ではいずれの一般的なイオントフォレーゼ装置が使用されてもよい。かかるイオントフォレーゼ装置は、例えば、V. Nair、O. Pillai、R. Poduri、R. Panchagnula、“Transdermal Iontophoresis. PartI: Basic Principles and Considerations” Methods Find. Exp. Clin. Pjarmacol. (1999), 21 (2), 139-151に記載されている。
【0092】
薬物リザバーは、薬物と、ビヒクルまたはキャリアとして、水性溶液または(ヒドロ)ゲルのいずれかと一緒に任意の電解質を含有する。リザバーゲルは水可溶性ポリマーまたはヒドロゲルを含んでもよい。原則として、いずれのゲルも用いることができる。
【0093】
本発明の組成物は主にイオントフォレーゼ装置のドナー相にて使用される。
【0094】
ある実施態様において、イオントフォレーゼシステムは、(a)第一電極および第二電極、および上記した式Iの化合物を含み得るリザバー、および所望により第一および第二電極と電気連絡している医薬上許容される電解質を含む、皮膚に接着可能な経皮デリバリー装置、および(b)電源を第一および第二電極と連結するための手段を含む。
【0095】
イオントフォレーゼ装置は、特に極性の電気的に帯電した薬物の経皮輸送を強化する能力を提供する。薬物輸送の強化に加えて、イオントフォレシスはプログラム方式にて薬物をデリバーする能力を提供する。このことは、パーキンソン病は治療域が狭く、正確な個人に合わせた用量が極めて大事であるため、かかる疾患の治療に重要である。従って、イオントフォレーゼ装置はパルス型または持続型投与を提供する。
【0096】
一の実施態様において、経皮投与に用いられる本発明の医薬組成物は、特にイオントフォレーゼ投与に用いられる場合、パルス型ならびに持続型投与に用いられ得る。
【0097】
一の実施態様において、本発明の医薬組成物は、パーキンソン病、レストレスレッグ症候群、鬱病、線維筋痛および/またはパーキンソン随伴症状の治療に適している。もう一つ別の実施態様において、医薬組成物はパーキンソン病および/またはRLSの治療のためにエレクトロ輸送を介して投与するためのイオントフォレーゼ装置にて用いられる。
【0098】
該製剤はイオントフォレシスを介して投与されるのが好ましい。イオントフォレシスの間に用いられる電流密度は、患者の要求に応じて変化し、イオントフォレーゼ装置および使用される組成物に依存するであろう。適切な電流は顧問医により決定され得る。例えば、電流密度は約0.001ないし約1.0mA/cmの濃度である。一般に、適切な電流密度は好ましくは200ないし500μA/cmの範囲であろう。一の実施態様において、電流密度は250ないし400μA/cmの範囲である。もう一つ別の実施態様において、電流密度は300ないし380μA/cmの範囲である。
【0099】
一の実施態様において、少なくとも150μA/cmの電流密度を適用し、もう一つ別の実施態様においては少なくとも167μA/cmであり、もう一つ別の実施態様においては少なくとも300μA/cmであり、もう一つ別の実施態様においては少なくとも350μA/cmであり、もう一つ別の実施態様においては少なくとも500μA/cmである。
【0100】
一の実施態様において、少なくとも約12μg/cm/時間のフラックス、もう一つ別の実施態様において、少なくとも約20μg/cm/時間のフラックス、少なくとも約30μg/cm/時間のフラックス、少なくとも約40μg/cm/時間のフラックスが達成される。イオントフォレシスは皮膚における有効量の薬物を達成するのに十分な時間適用され得る。
【0101】
デリバリーを持続している間、定常または可変、例えばパルスまたは交流電圧/電流を適用することで電流を起こしてもよい。あるいはまた、式(I)の化合物の濃度を漸増させるために、デリバリーを持続している間に電流を増加させてもよい。
【0102】
電流を適用する工程でチャージされる電圧は、生物の皮膚を損傷せず、活性化合物の経皮吸収速度に悪影響を及ぼさない電圧の範囲から選択される。該電圧は、例えば、少なくとも約0.1V、または少なくとも約0.5V、あるいは少なくとも約1Vであり得る。該電圧はまた、例えば、約40V未満、または約20V未満、あるいは約10V未満であり得る。
【0103】
パルスまたは交流電圧の周波数は、例えば、少なくとも約0.01Hz、または少なくとも約100Hz、あるいは少なくとも約5kHzである。パルスまたは交流電圧の周波数は、例えば、多くて約200kHz、または多くて約100kHz、あるいは多くて約800kHzである。パルスまたは交流電圧は、実質的に、例えば、正弦型、四角型、三角型、鋸歯状、矩形等を含む、いずれの波形型を用いてもよい。加えて、パルスまたは交流電圧は100%未満の負荷サイクルで適用されてもよい。
【0104】
室温で特定の容量に溶解しうるロチゴチンの最大量は、飽和溶解度または最大溶解度を表し、同義的に用いられる。
【0105】
本発明はさらには以下の包括的ではない実施態様に関する:
【0106】
1. 6−(プロピル−(2−チオフェン−2−イルエチル)アミノ)テトラリン−1−オール(ロチゴチン)の少なくとも1種の医薬上許容される酸付加塩を含み、医薬上許容される電解質を含んでもよい医薬製剤であって、ここで該ロチゴチン塩がpH<6で少なくとも16マイクロモル/mlの、および/またはpH5で少なくとも30マイクロモル/mlの水溶液中飽和溶解度を有し、該飽和溶解度はすべて医薬上許容される酸付加塩中のロチゴチンの合計した量に基づいて計算されている、ただし、該塩はロチゴチン・HCl以外の塩である、医薬製剤。
2. 電解質が塩化物塩である、実施態様1の医薬製剤。
3. 電解質がロチゴチン以外である、実施態様2の医薬製剤。
4. 電解質がNaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、塩化トリエチルアンモニウムおよび/または塩化トリブチルアンモニウムから選択される、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
5. 塩化物塩の濃度が少なくとも約1ミリモル/lである、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
6. 塩化物塩の濃度が約1−140ミリモル/lである、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
7. 医薬製剤のpHが<6である、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
8. 医薬製剤のpHが5である、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
9. 約4−6の範囲のpHの溶液を含む、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
10. 水溶液中飽和溶解度が約15−40℃で提供される、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
【0107】
11. 水溶液中飽和溶解度が約18−38℃で提供される、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
12. 水溶液中飽和溶解度が約18−25℃で提供される、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
13. ロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される塩を、飽和を達成するのに必要な量の100%未満の量にて含む、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
14. ロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される塩を、飽和を達成するのに必要な量の80%未満の量にて含む、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
15. ロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される塩を、飽和を達成するのに必要な量の90%未満の量にて含む、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
16. さらに緩衝溶媒を含む、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
17. 緩衝液がクエン酸塩緩衝液である、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
18. ロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される酸付加塩が、リン酸水素二ロチゴチン、リン酸二水素ロチゴチン、クエン酸二水素ロチゴチン、クエン酸水素二ロチゴチン、オロチン酸ロチゴチン、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ロチゴチン、硫酸水素ロチゴチン、および酒石酸水素ロチゴチンより選択される、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
19. ロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される酸付加塩がリン酸二水素ロチゴチンである、上記した実施態様のいずれかの医薬製剤。
20. 経皮デリバリーシステムにて適用するための上記した実施態様のいずれかに記載の医薬製剤の使用。
【0108】
21. 経皮投与用のエレクトロ輸送装置にて適用するための上記した実施態様のいずれかに記載の医薬製剤の使用。
22. 経皮デリバリーシステムにて適用するための使用であって、該システムがイオントフォレーゼシステムである、上記した実施態様のいずれかに記載の医薬製剤の使用。
23. 製剤がドナー相にて使用される、上記した実施態様のいずれかに記載の医薬製剤の使用。
24. 経皮投与にて電流を適用する工程の間に、エレクトロ輸送装置が定常および/または可変電流をデリバーすることができる、実施態様21ないし23の医薬製剤の使用。
25. イオントフォレーゼ装置がパルス型または持続型投与を提供する、実施態様21ないし24の医薬製剤の使用。
26. pH6でロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される酸付加塩の少なくとも13マイクロモル/mlの濃度で、そのフラックスが少なくとも43μg/cm/時間であり、および/またはpH5.5でロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される酸付加塩の少なくとも31マイクロモル/mlの濃度で、そのフラックスが少なくとも47.9μg/cm/時間であり、および/またはpH5でロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される酸付加塩の少なくとも22マイクロモル/mlの濃度で、そのフラックスが少なくとも37μg/cm/時間であり、ここで上記した濃度はすべて医薬上許容される酸付加塩中のロチゴチンの合計した量に基づいて計算されているところの、実施態様20ないし25の医薬製剤の使用。
27. パーキンソン病、レストレスレッグ症候群、パーキンソンプラス症候群、鬱病、線維筋痛および/またはパーキンソン随伴症状などのCNS障害を予防または治療するための上記した実施態様のいずれかに記載の医薬製剤の使用。
28. 一般式I:
【化4】

[式中、Xn−は医薬上許容される無機または有機酸の酸アニオンであり、nは1−5である]
で示される化合物、ただし、ロチゴチン・HCl以外の化合物。
29. さらには、式Iの化合物が、(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・臭化水素酸塩、(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・p−トルエンスルホン酸塩、(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・ヘミナフタレン−1,5−ジスルホン酸塩、(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・酒石酸塩、(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・クエン酸塩、ロチゴチン・メタンスルホン酸塩および(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・リン酸塩以外の化合物である、実施態様28の化合物。
30. Xn−がベンゼンスルホン酸、リン酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、安息香酸、アジピン酸、マレイン酸、アスパラギン酸、フマル酸、コハク酸、硫酸、オロチン酸、1−ヒドロキシナフトエ酸の酸アニオンより選択される、実施態様28または29の化合物。
リン酸、硫酸、オロチン酸、1−ヒドロキシナフトエ酸、クエン酸および/または酒石酸の酸アニオンより選択される、実施態様28ないし30の化合物。
【0109】
31. Xn−がリン酸、硫酸、オロチン酸、1−ヒドロキシナフトエ酸、クエン酸および/または酒石酸の酸アニオンより選択される、実施態様28ないし30の化合物。
32. 式Iの化合物がリン酸二水素ロチゴチンである、実施態様28ないし31の化合物。
33. 一般式II:
【化5】

[式中、Mは、Na、Kおよび/またはアルギナートより選択される]
で示される化合物。
34. MがNaである、実施態様33の化合物。
35. 医薬として使用される、実施態様28ないし34の化合物。
36. CNS障害、パーキンソン病、線維筋痛、レストレスレッグ症候群、鬱病および/またはパーキンソン随伴症状の治療用医薬品を製造するための実施態様28ないし34のいずれかの化合物。
37. 実施態様28ないし34に記載の化合物を含む医薬製剤。
38. 経皮デリバリーシステムにて使用されるための、実施態様28ないし34のいずれかに記載の化合物の使用。
39. 経皮デリバリーシステムがパッチである、実施態様38の使用。
40. 経皮デリバリーシステムがイオントフォレーゼ装置である、実施態様38の使用。
【0110】
41. 実施態様が酒石酸ロチゴチンまたはリン酸ロチゴチンに適用しない、実施態様38の使用。
42. CNS障害、パーキンソン病、線維筋痛、レストレスレッグ症候群、鬱病および/またはパーキンソン随伴症状の予防または治療用イオントフォレーゼの装置を製造するための、実施態様28ないし34のいずれかの一般式Iまたは式IIの少なくとも1の化合物またはその混合物、および任意の医薬上許容される電解質の使用。
43. イオントフォレーゼの装置が式Iの化合物またはその組成物あるいは式IIの化合物またはその組成物、および任意の医薬上許容される電解質を含有する、リザバーを有する、実施態様42の使用。
44. 式Iの化合物および任意の電解質を、水溶液またはゲルからなるビヒクルまたはキャリアに溶かす、実施態様42−43のいずれかの使用。
45. イオントフォレーゼ装置が、イオントフォレシスにより経皮投与に適用される場合に、ビヒクルまたはキャリアを皮膚より分離する膜を付加的に含有する、実施態様43または44の使用。
46. イオントフォレシスによる経皮投与の電流適用工程の間にイオントフォレーゼ装置が一定電流をデリバーすることを特徴とする、実施態様42−45の使用。
47. イオントフォレシスによる経皮投与の電流適用工程の間にイオントフォレーゼ装置が可変電流をデリバーすることを特徴とする、実施態様42−46の使用。
48. イオントフォレシスによる経皮投与の電流適用工程の間にイオントフォレーゼ装置が増加電流をデリバーすることを特徴とする、実施態様46または47の使用。
49. イオントフォレーゼ装置が約0.001ないし約1.0mA/cmの濃度で電流密度をデリバーしうることを特徴とする、実施態様42−48の使用。
50. イオントフォレーゼ装置が約200ないし500μA/cmの濃度で電流密度をデリバーしうることを特徴とする、実施態様49の使用。
【0111】
51. イオントフォレーゼ装置が約50μg/cm/時間のフラックスをデリバーしうることを特徴とする、実施態様42−50の使用。
52. pH5に緩衝させた溶液中の化合物の濃度は4.4mMないし47.5mMであり、および/またはpH5に緩衝させた溶液中の化合物の濃度はロチゴチン遊離塩基の1.4mg/mlないし15mg/mlに相当し、および/またはpH6に緩衝させた溶液中の化合物の濃度は4.4mMないし13.5mMであり、および/またはpH6に緩衝させた溶液中の化合物の濃度はロチゴチン遊離塩基の1.4mg/mlないし4.3mg/mlに相当する、実施態様42−51の使用。
53. 式Iの化合物がリン酸二水素ロチゴチンである、実施態様42−52の使用。
54. 式Iの化合物がオロチン酸ロチゴチンである、実施態様42−52の使用。
55. 式Iの化合物が硫酸水素ロチゴチンである、実施態様42−52の使用。
56. 式IIの化合物がロチゴチンナトリウム塩である、実施態様42−51の使用。
57. イオントフォレシスが陽極で、約6未満のpHで行われる、実施態様42−55の使用。
58. イオントフォレシスが陰極で、少なくとも約7.5のpHで行われる、実施態様42−55または56の使用。
59. 皮膚を通して化合物をデリバリーするためのイオントフォレーゼシステムであって、(a)第一電極および第二電極、および一般式Iの化合物またはその製剤を含有するリザバー、および所望により第一および第二電極と電気連絡している医薬上許容される電解質を含む、皮膚に接着可能な経皮デリバリー装置、(b)電源を第一および第二電極と連結するための手段、および(c)所望によりリザバーを閉じる膜を含む、イオントフォレーゼシステム。
60. 化合物がリン酸二水素ロチゴチンである、実施態様59のイオントフォレーゼシステム。
【0112】
61. 化合物がオロチン酸ロチゴチンである、実施態様59のイオントフォレーゼシステム。
62. 化合物が硫酸水素ロチゴチンである、実施態様59のイオントフォレーゼシステム。
63. イオントフォレーゼ装置をその必要とする患者の皮膚に塗布することで特徴付けられるパーキンソン病、線維筋痛、レストレスレッグ症候群、鬱病および/またはパーキンソン随伴症状などのCNS障害の治療または予防方法であって、該装置が一般式Iの化合物および所望により少なくとも1種の電解質を含む組成物からなり、該組成物が6未満のpHを有する;ただし、一般式Iの化合物は塩酸ロチゴチン以外である、方法。
64. 式Iおよび/または式IIの医薬上許容されるロチゴチン塩を患者に投与する方法であって、その必要とする患者の体表に実施態様1ないし27のいずれか一の製剤をイオントフォレーゼにて投与することを含む、方法。
【0113】
実施例
ロチゴチンの医薬上許容される塩、例えばロチゴチンHPOの最大溶解度を、ロチゴチンHClの溶解度と比較するために、ロチゴチン塩の溶解度の試験を、ロチゴチンHClの溶解度を測定した、Nugrohoら(Pharm. Res. 21 (2004), 844-855)(出典明示により本願明細書の一部とする)に記載されているように実施した。簡単にいえば、ロチゴチン塩をNaClと共にまたはなしで(室温で)pH4.5および6の10mMクエン酸緩衝液に溶かした。その後で、連続振とうの下で少量の1M NaOHを添加して、その後でpHを測定することで、各溶液のpHが最初の緩衝値で安定化されるまで、各試験管のpH調節を変更して行った。各溶液をさらに48時間振とうさせ、その後で各溶液を遠心分離に付して濾過した。各溶液の濃度をHPLCで測定した。本願において使用される室温または外界温度は、18℃から25℃までの範囲、好ましくは約20℃が適用されると認識されるべきである。
【0114】
ヒト角質層(HSC)の調製は以前に記載の方法(Nugrohoら、J.Control Release (2005)103、393−403)(出典明示により本願明細書の一部とする)に従って行われた。簡単にいえば、ヒトの皮膚残渣を外科的に摘出した後の24時間以内に、皮下脂肪を取り除いた。皮膚を約300μmの厚みにデルマトム(dermatom)することで、デルマトムされたヒト皮膚(DHS)を得た。HSCを得るために、DHSを150mMリン酸塩緩衝食塩水(PBS)pH7.4(NaCl:8gL−1,NaHPO:2.86gL−1,KHPO:0.2gL−1,KCl:0.19gL−1)中0.1%トリプシン溶液に浸したホワットマンペーパー上で皮膚サイド(dermal side)と一緒に4℃で一夜、その後で37℃で1時間インキュベートし、その後で下層の生存表皮および真皮よりHSCを剥がした。HSCをその後でミリポール水中0.1%トリプシン阻害剤溶液で一回、水で数回洗浄し、N2雰囲気下のデシケータ−で貯蔵した。
【0115】
イオントフォレシスの間、一定直流を付与するために、9チャンネルのコンピューター制御電力供給装置を用いることでインビトロ輸送実験を行った(Electronics Department, Gorlaeus Laboratories, Leiden University, The Netherlands)。該システムは電流源毎に示差入力チャネルを備えており、各拡散セルにてHSCを横切る電気抵抗をオンラインで測定可能であった。Ag/AgClを駆動電極対として用いた。すべての輸送実験を別途記載のようにセルを3チャンバーの連続フローを用いて行った(Nurgohoら、J Control Release (2005) 103, 393-403)。10mMクエン酸緩衝液で緩衝させた、ドナー製剤をアノード側に適用した。カソードチャンバーをPBS(pH7.4)で満たした。32℃に維持したアクセプター相をPBS pH6.2(NaCl:8gL−1,KCl:0.19gL−1、NaHPO・2HO:0.43gL−1,KHPO:0.97gL−1)で7.0mlh−1の流速で連続してかん流させた。特記されていない場合、イオントフォレシス実験では以下のプロトコルを用いた:受動拡散を6時間、つづいて500μAcm−1の電流密度を用いるイオントフォレシスを9時間、および受動拡散を5時間行う。サンプルを自動フラクション収集装置(ISCO Retriver IV, Beun De Ronda BV, Abcoude, The Netherlands)を用いて1時間毎に集めた。個々の輸送実験の具体的な条件を以下に示す。
【0116】
分析方法
輸送実験の前および最後に、ドナーおよびアクセプターコンパートメントのpHを測定した。イオントフォレーゼ輸送実験のサンプルはすべて、Supersher(登録商標)60 RP-selectB、75mm-4mmカラム(Merck KGaA、Darstadt, Germany)を用いるRP−HPLCで分析した。ロチゴチンをスキャンニング蛍光検出装置(Water(登録商標)474, Millipore, Milford, MA, USA)を276および302nmの励起および発光波長を用いて検出した。アセトアミノフェンをUV検出装置(Dual ramda Absorbance Detector 2487, Waters, Milford, USA)を用いて254nmの波長で検出した。濾過かつ脱気した移動相は60%HO(v/v)、40%ACN(v/v)および0.05%メタンスルホン酸(v/v)を含有した。注入容量は50μLであり、流速を1.0mL/分にセットした。
【0117】
ロチゴチンの濃度を0.005、2および5μg/mLの3つの標準濃度値に従って定量した。保持時間および面積のアッセイ内偏差は2.0%未満であった。アセトアミノフェンでは、較正曲線は0.1と40μg/mLの化合物の濃度を用いた場合に線形応答を示した(r>0.9999)。アセトアミノフェンの検出限界(LOD)および定量限界(LOQ)を、各々、5.8および9.6ng/mLで実験的に測定した。文献によれば、ロチゴチン(塩基)の検出限界は11ng/mLであった。
【0118】
データ分析
受動およびイオントフォレーゼ輸送の間の定常状態フラックスを測定するために、輸送の累積フラックスを時間の関数としてプロットした。定常状態のフラックスを、透過ラグタイム法に従って、このプロットの傾斜の直線部分より推量した。すべてのデータを平均±標準偏差(s.d.)として表した。統計分析を2群だけを比較して行う、スチューデントt−試験を用いて行った。3またはそれ以上の群を比較して行う場合、1−ウェイのANOVA統計分析を遂行した。すべてのp−値は0.05未満であったならば、異なる群と比較するのに、ボンフェロニ(bonferonni)事後試験を適用した。すべての統計分析に、p<0.05の有意レベルを用いた。
【0119】
実施例1:
ロチゴチンリン酸水素塩およびロチゴチン塩酸塩の溶解度
ロチゴチン塩酸塩(Ro・HClと略す)とロチゴチン・リン酸水素塩(ロチゴチン・HPOまたはRo・HPOと略す)の最大溶解度を多くの溶媒でのpHの関数として試験した(表1)。Ro・HPOを所定の緩衝液に溶かし、それに水酸化ナトリウム溶液を添加することで形成された溶液のpHを標的値に調整した。添加する間に、ロチゴチンが沈殿し、それは飽和が達成されたことを示す。濾過溶液をHPLC分析に付すことで薬物をアッセイした。
【0120】
HPLC条件:
カラム:Merck Supersher 60 RP-selectB、長さ:7.5cm、カラム内径:4mm、粒径:5μm
移動相:60%(v/v)水、40%(v/v)アセトニトリル、0.05%(v/v)メタンスルホン酸
流速:1.0ml/分
注入容量:収集フラクション:50μl、希釈ドナー溶液:4μl
カラム温度:外界温度
検出:蛍光、λex=276nm、λem=302nm
【0121】
表1:pH4、5および6の異なる溶媒中、68mMのNaClの存在または不存在下でのロチゴチン・HPOおよびロチゴチン・HClの溶解度
【表1】

【0122】
表1に示されるように、ドナー製剤中にNaClがあると、ロチゴチンの溶解度は、HClがHPOで置き換えられていると、実質的に増加した。
【0123】
選択されたpH値で、NaClの添加は、NugrohoによりロチゴチンHClで得られる結果とは異なり、ロチゴチンHPOの溶解度に顕著に影響しなかった(2−ウェイANOVA;p>0.05)。ロチゴチン・HClでは、溶解度は68mMのNaClを添加すると大いに減少した。pHはロチゴチン・HPOの溶解度に大幅に影響を与えた。ドナー相のpHを6から5に、さらにpH4に減少させると、ロチゴチンの溶解度は顕著な増加をもたらした(2−ウェイANOVA;p<0.05)。ロチゴチン・HClと比較して、ロチゴチン・HPOの溶解度は、pH6、5および4で、各々、2、7、12倍大きい。さらには、HCl塩の溶解度と異なり、NaClの存在はロチゴチン・HPOの溶解度に影響を及ぼさなかった。
【0124】
実施例2
イオントフォレシス実験
実験の多くは以下の試験条件−標準条件(特記しない限り、これらの条件は個々の実施例にて使用される)に従って行った:
ドナー溶媒:クエン酸緩衝液(10mMクエン酸塩、表2を参照)、4g/lのNaClおよび23g/lのマンニトール、実験毎に示されるpH
【0125】
表2:所定のpHのクエン酸緩衝液、上記した他の成分を生成するための濃度
【表2】

【0126】
ドナー液体調製物:一定量のロチゴチン・HPOを所定のドナー溶媒に溶かし、十分な量の選択される濃度のドナー液体を生成する。形成された溶液のpHは水酸化ナトリウム溶液を添加して標的とする値に調整される。ついで、該溶液を膜フィルター(孔径:0.45μm)を通して濾過し、必要に応じて同じドナー溶媒で希釈し、所定の濃度の濃縮した薬物溶液を生成する。
【0127】
アクセプター液:PBS pH=6.2:0.965g/l KHPO4、0.425g/l NaHPO・2HO、8g/l NaCl、0.19g/l KCl
【0128】
カソード液:PBS pH=7.4、0.19g/l KHPO、1.44g/l NaHPO・2HO、8g/l NaCl、0.19g/l KCl
【0129】
アクセプター液の流速:6.5ml/時間
循環水浴の温度:37℃
イオントフォレシスプロトコル:6時間:無電流、9時間:500μA/cm、5時間:無電流
定常状態のフラックスの計算:時間間隔内で記録されたフラックス値からの平均値であり、各フラックスの値は多くて平均から10%しか逸脱しない範囲内にある。
【0130】
該実験にて使用されるイオントフォレシスセルは3つのコンパートメントセルである。AgおよびAgCl電極を、各々、陽極(+電極)および陰極(−電極)コンパートメントに取り付ける。ドナー(陽極)コンパートメントに、正に帯電した薬物のロチゴチンを緩衝溶液に溶かす。陽極と陰極のコンパートメントの間に、第3のコンパートメントを設置する。イオントフォレシス実験の間に、一定流量の緩衝液をこのコンパートメントを通して輸送され、インビボにて血液の流量を刺激する。中央のコンパートメントの両端で(陽極−アクセプターコンパートメントと、陰極−アクセプターコンパートメントの間で)、ヒトの皮膚をクランプする。皮膚または角質層の内側部がアクセプターコンパートメントと対面するように、皮膚をクランプする。このように、インビボの状況がよく模倣されている。
【0131】
これらの条件のいくつかは、薬物フラックスに対するその変数の効果を試験するために、実験にて変えられる。
【0132】
以下に示すように、種々の条件下での一連のイオントフォレーゼ輸送の実験を行い、ロチゴチン・HPOのイオントフォレーゼデリバリーを試験した。イオントフォレシスの前の6時間の間は、電流を加えず、6時間以内に定常状態に達する、ロチゴチンの受動輸送を観察した。累積フラックスに対する時間のプロフィールの線形部分の傾斜から、受動定常状態(Fluxpss)を計算した。ドナー溶液のpHのロチゴチン・HPOの受動輸送に対する影響を試験した。ドナーのpH5および6と比較して、種々のドナー濃度での輸送実験の結果を図4に示す。非線形の双曲線適合は、pH5でFluxpssとドナー濃度(R=0.889)の間で相関性を示した。ドナー相のpHが5から6に増加すると、ロチゴチン・HPOの受動フラックスは本当に大幅に増加した:ロチゴチン・HPOのドナー相での飽和近くで、達成され得る最大フラックスはpH5で10.8±1.9ナノモル/cm/時間であり、pH6で24.9±2.5ナノモル/cm/時間であった。
【0133】
一連のイオントフォレーゼ輸送実験を行い、種々の条件下でロチゴチン・HPOのイオントフォレーゼ輸送を、具体的には(i)フラックスとドナー濃度の間の関係、(ii)pHの影響、(iii)輸送数の決定、(iv)電流密度の影響、(v)塩化物塩の影響、(vi)インビボ模倣に焦点を当てて調べた。
【0134】
(i)これらの輸送実験にて、pH5で緩衝させた、4つの異なる濃度のロチゴチン・HPO(4.4mM,9.5mM,22.2mMおよび47.5mM(ロチゴチン遊離塩基の濃度、1.4mg/ml、3mg/ml、7mg/mlおよび15mg/mlに相当する))を用いた。すべての輸送実験はドナー相中で68mMのNaClの存在下で実施した。
【0135】
表3:ドナー相中の薬物濃度vs.定常状態のフレックス値、条件:pH=5.0、他の条件、テキストを参照のこと。注意点:この表の4種の実験からの平均値、濃度は公称の値であり、実際のアッセイした薬物濃度は実験毎に変化する。
【表3】

【0136】
この図2のグラフの最大の薬物濃度はpH=5.0でロチゴチン・HPOの最大溶解度の80%を示す。
【0137】
ロチゴチン・HClについて初期に観察される、0.5から1.4mg/mlの範囲の薬物濃度と、定常状態のフラックスとの線形の関係は、1.4と15mg/mlの間のより高い濃度範囲ではもはや存在しない。代わりに、薬物濃度が7から15mg/mlに上がっても、フラックスは38から41μg/cm/時間に増えただけである。
【0138】
図3に示されるように、電流の適用は、ロチゴチン・HPOのフラックスにおいて即時の増加をもたらし、4時間以内に定常状態に達する。pH5で4.4mMから47.5mMに、pH6で4.4、13.5mM(ミリモル)に変化する異なる濃度のロチゴチン・HPOの一連のイオントフォレーゼ輸送実験の結果を図2および4に示す。非線形の関係は、FluxssとpH5のドナー濃度(R=0.825)の間で記載され得る。それにより、同じロチゴチン・HPO濃度でのFluxssはドナー溶液のpHの上昇に伴って増加する。
【0139】
(ii)pHの影響
pH5で緩衝させた、4つの異なる濃度のロチゴチン・HPO(4.4mM,9.5mM,22.2mMおよび47.5mM)の(i)に記載の輸送実験と同様に、pH6で緩衝させたロチゴチン・HPO(4.4および13.0mM)の輸送を調べた。すべての輸送実験をドナー相にて68mMのNaClの存在下で行った。
【0140】
しかしながら、ドナー相の飽和に近いpH5および6のFluxssと比較した場合、そのFluxss値は図4に示されるように非常に類似している。
【0141】
実験は、受動およびイオントフォレーゼの薬物のフラックスに対する、pHおよびドナー濃度の効果を試験するのに実施された。アクセプター溶媒のpH(=6.2)はすべての実験で同じである。表4および図5は多くの実験の受動および活性段階の間のロチゴチンの定常状態のフラックスに対するpHおよび薬物の濃度の影響を要約する。
【0142】
表4:受動およびイオントフォレーゼ輸送のロチゴチン(遊離塩基として計算)のフラックスに対するドナー溶液のpH値の影響
【表4】

【0143】
表からわかるように、pH5.0、5.5および6.0で最も高い試験したロチゴチンの濃度は約4、10および15mg/mlであり、それはそのpH値のロチゴチンの酸付加塩、例えばロチゴチン・HPOの最大溶解度の90%(pH=5.0および5.5)または80%(pH=6.0)である。
【0144】
(iii)輸送数の測定
Fluxssと電流密度との間の関係を、単一の実験にて、pH5.5に緩衝させ、31.3mMのロチゴチン・HPOを含有する68mMのNaClの存在下で試験した。以下のプロトコルを用いた:6時間の受動+6時間の166μA/cm+6時間の333μA/cm+6時間の500μA/cm+6時間の受動。ドナー濃度は、これらの条件下で、ロチゴチン・HPOの最大溶解度の90%であった。電流密度の増加はフラックスの顕著な増加をもたらし、電流を加えて6時間以内に定常状態に達した。0μA/cm(受動相)、166μA/cm、333μA/cmおよび500μA/cmは、各々、24.4±1.9ナノモル/cm/時間、65.8±9.3ナノモル/cm/時間、109.7±15.7ナノモル/cm/時間および154.5±27.0ナノモル/cm/時間のFluxssをもたらした。Fluxssおよび電流密度(R=0.999)の間で優れた直線関係が観察され、輸送数を0.7%での相関性の傾斜から計算した。pH5.5で、68mMのNaClの存在下でのロチゴチン・HPOの輸送数をFluxssと0.7%での電流密度との間の関係の傾斜より推定した。その数はpH5でのロチゴチン・HCl(0.4%)の輸送数よりも多く、そのことはロチゴチン・HPOのドナー濃度がより高いことで説明され得る。
【0145】
(iv)電流密度の影響
電流密度を以下に示す実験時間で変化させた:0−6時間:電流なし;6−12時間:167μA/cm;12−18時間:333μA/cm;18−24時間:500μA/cm;24−30時間:電流なし。
【0146】
プロトコルa:イオントフォレーゼ電流密度の薬物の定常状態のフラックスに対する影響を薬物のドナー濃度(遊離塩基として計算)の7mg/mlおよびpH=5.0で試験した。一の実験当たり、3種の電流密度を一の電流値で2つのセルにて試験した。
【0147】
プロトコルb:イオントフォレーゼ電流密度の薬物の定常状態のフラックスに対する影響を薬物のドナー濃度(遊離塩基として計算)の9.9mg/ml(31.3mM)(pH=5.0での最大溶解度の約90%)にて試験した。一の実験当たり、3種の電流密度を一の電流値で2つのセルにて試験した。結果を表5にて要約する。
【0148】
表5:種々の電流密度値、薬物濃度:7mg/ml(プロトコルa)および9.9mg/ml(プロトコルb)でのイオントフォレーゼ定常状態のフラックス
【表5】

【0149】
図6に示されるこれらの結果から、適用される電流密度と経皮ロチゴチンのフラックスの間に両方のpH値および濃度で直線関係があると結論付けられ得る。また、スイッチで電流を切ると、薬物フラックスは受動拡散レベルを示す。電流密度の変更は予測可能な方法にてロチゴチンのフラックスを速やかに変え、したがって該フラックスは個々の患者の要件に調整され得る。
【0150】
電流密度の関係をさらに、クエン酸緩衝液でpH5.5に緩衝させ、68mMのNaClを含有する、31.3mMのロチゴチン・HPO濃度で試験した。以下のプロトコルを道いた:6時間 受動+6時間 166μA/cm+6時間 333μA/cm+6時間 500μA/cm+6時間 受動。
【0151】
(v)塩化ナトリウムの影響
表1に示されるように、塩化ナトリウムはロチゴチンリ遺産塩の溶解度に対して負の影響を与えず、かくしてドナー溶液に添加して陽極側に電気化学反応を供給することができる。
【0152】
(vi)インビボ模倣
この見込みのある化合物のインビトロにおける経皮デリバリーを特徴付けかつ最適化した後、ロチゴチンのイオントフォレーゼのデリバリーのインビボでの可能性を薬動力学モデルを用いて一連の模倣にて評価した。最初の工程は、pH5で緩衝させた、ロチゴチン・HPO(47mM)のヒト角質層を通るインビトロにてイオントフォレーゼのデリバリーを駆動するパラメータを測定することである。Fluxssの値は透過ラグタイム法により推定される値とよく一致する。加えて、データモデリングの診断プロットは、このモデルはロチゴチン・HPOのインビトロでのイオントフォレーゼの輸送をうまく記載することを確認する。次の工程にて、文献に報告されているロチゴチンの見かけの薬物学的パラメータを、Fluxss、Kおよびtの最良適合値と組み合わせてインビボにおける血漿中濃度を推定する。これらの模倣では、2つの異なるプロトコルを用いてロチゴチンのイオントフォレーゼデリバリー(47mM、pH5)を24時間評価し、ロチゴチンの受動デリバリーと比較した。文献に示されるように、ロチゴチンの、24時間で2mgをデリバーすると判断される、10cmのパッチの大きさの受動デリバリーは、16時間で215pg/mlの最大血漿中濃度(Cmax)をもたらした。図7に示されるように、24時間の350μA/cmの電流密度を提供すること(プロトコル1)は、630pg/mlのCmaxをもたらすと考えられる。高いフラックスがイオントフォレシスで確立され得るだけでなく、さらに興味のあることに既に5時間で240pg/mlの血漿中濃度にも達し得る。従って、インビボでのロチゴチンのイオントフォレーゼデリバリーを、まず350μA/cm2の電流密度を5時間加え、その後で電流密度を150μA/cm2にまで下げ、その結果、19時間にわたって定常状態の血漿中濃度を維持する、プロトコル2を用いて模倣した。これらの模倣はパーキンソン病の症候性治療のために経皮受動拡散よりもイオントフォレシスと組み合わせたロチゴチンのイオントフォレーゼデリバリーの2つの極めて重要な利益を明示する。活性な経皮デリバリーのため、所望の濃度を得るための開始時間は顕著に減少させ得る。第二に、電流密度を調整することで、血漿中濃度を漸増することが可能であり、所望の投与計画に従ってデリバリーを個々に調整することも実施可能である。
【0153】
結論
一の利点は、ロチゴチン・HClの溶解度と比べて、ロチゴチン・HPOの溶解度の増加にあり、その結果として、最大イオントフォレーゼ輸送が増加する。pH5で、ロチゴチン・HClは80.2±14.4ナノモル/cm/時間の最大イオントフォレーゼフラックスをもたらし、その一方でロチゴチン・HPOでは135.8±12.5ナノモル/cm/時間の最大イオントフォレーゼフラックスが得られた。このことは、HCl塩をHPOで置換することにより、最大フラックスが170%増加され得ることを意味する。高いフラックスとは別に、もう一つ別の実際の利点は、pH5で高ドナー濃度を用いた場合に確立され得る。計算では、24時間後に、135.8ナノモル/cm/時間の最大フラックスを維持し、ドナー相のロチゴチン・HPOの量が35%減少することが明らかにされた。このドナー濃度の減少は定常状態のフラックスの10%減少だけをもたらし、高ドナー濃度では、高フラックスは長期間維持され得ることを示す。これらの結果を考慮して、ドナー溶液のpHを選択することで、輸送効率とドナー濃度の間のバランスを求めることが好ましい。一方で、pHを上げることで輸送効率を上げることが可能であるが、化合物のpH6での溶解度の制限が高濃度の使用を妨げることとなる。他方で、pH5では輸送効率は低いが、それにもかかわらず、ロチゴチン・HPOの高溶解度のため、高フラックスが長期間確立され得る。
【0154】
6よりも低いpHで、該塩が水溶液中で16マイクロモル/mlよりも高い飽和溶解度を提供し、pH5で水溶液中で少なくとも30マイクロモル/mlの飽和溶解度を提供する、ここですべての上記した飽和溶解度は医薬上許容される酸付加塩のロチゴチンの合計量に基づいて計算される、ロチゴチン酸付加塩、特にロチゴチン二水素リン酸塩を用いるロチゴチンのイオントフォレシスが有望であることは得られたデータから明らかである。
【0155】
約50μg/cm/時間のフラックスが得られ得る。イオントフォレシス(定常状態のフラックス)および電流密度の間で線状の関係が得られ、そのことは患者への個々の用量の漸増を可能とする。
【0156】
実施例3:
ロチゴチン酸付加塩の一般的方法
ロチゴチン遊離塩基(6g)を外界温度(約20℃)でイソプロパノール(IPA)(24ml、4倍用量)に溶かし、800μlをバイアルに詰め、それに蓋をし、外界温度で1.5時間貯蔵した。該溶液を60℃に加熱し、ストック溶液(溶解度に応じて、HOまたはTHF中で1当量)として酸を添加した。反応混合物を高温で10分間撹拌し、ついでゆっくりと外界温度にまで冷却した。外界温度で2時間後に、反応混合物の溶液を4℃で16時間貯蔵した。
【0157】
ロチゴチン二水素リン酸塩(LJC−028−037−1)
ロチゴチン遊離塩基(500mg、1.58x10−3モル)を5mlの丸底フラスコに充填し、IPA(1.5ml、3倍)を外界温度で添加した。該溶液に、HPO(171mg、1.1当量)を固体として充填し、直ちに白色物質の凝集塊が形成された。白色物質の塊を破壊するのに、該反応混合物を外界温度で30分間撹拌し、超音波処理に付した。粉末を1時間撹拌し、固体を濾過して洗浄した。固体が潮解し始め、それを濾液に戻し、水(75μl)を添加した。反応混合物を55℃に加熱し、15分間保持し、外界温度に冷却した。撹拌することなく、外界温度で12日間静置した後、黄色溶液をガム状物よりデカントし、減圧下で濃縮し、白色/灰白色固体を得た。物質を真空下で2時間40℃でオーブン乾燥に付した。525mgの収量で非晶質固体として得、XRPD(図8)により分析した。非晶質であるため、回折図は参考に供され得ない。非結晶性サンプルにおいては、そのサンプル中の分子は配向性がランダムであり、したがってその振幅をより均一に広げ、その強度が大きく減少した、連続的フーリエスペクトルを有し、より重要なことは配向性情報を失うことである。結晶においては、分子は結晶内で同じ配向性を採用し、それに対して液体、粉末または非晶質においては、観察されるシグナルは可能性のある分子の配向性で平均化される。したがって、塩はさらにH NMR(図9)(少量のIPAを含む)および最終分析(元素分析)により特徴化された。炭素および水素含量はDIN51721に従って測定された;リンおよびイオウはDIN EN 1189(光度計)に従って測定された:C51.3%、H6.96%、S6.75%、P8.17%。結果はすべて計算値に対応する。DSCは明快なシグナルを示さなかった。
【0158】
ロチゴチン二水素クエン酸塩(LJC−028−037−2)
クエン酸(1.74ml、1当量、THF中1M)を5mlの丸底フラスコに入れ、ロチゴチン遊離塩基(500mg、1.58mgx10−3モル)を少しずつ加えた。橙色の凝集塊が形成され、それが攪拌の邪魔をした。手で振盪させて、ゼラチン状物質をTHFに溶かしても、攪拌は依然として困難であった。HO(87μl)を加え、反応混合物を50℃に5分間加熱し、ついで40℃にゆっくりと冷却した。この温度で、ヘプタン(5x200μl)を加え、濁点は得られず、そこで該反応混合物を外界温度に冷却した。油状ガムが16時間後に形成され、それをEtOでトリチュレートし、−20℃でさらに16時間貯蔵した。溶媒をデカントし、該ガムを外界温度とし、ついでトリチュレーションをn−ヘプタン、n−ペンタン、MtBEおよびEtOで行った。固体は得られなかった。該ガムを9日間外界温度で静置すると、ゆっくりと非晶質固体として固化し始め、XRPD(図10)で分析した。その塩をH NMR(図11)でさらに特徴付けした。
【0159】
ロチゴチン水素L−酒石酸塩(LJC−028−050−1)
ロチゴチン遊離塩基(100mg、3.17x10−4モル)をバイアルに詰め、IPA(30μl、3倍容量)を外界温度で添加した。ついで、該溶液を60℃に加熱し、L−酒石酸(630μl、THF中1M)を加え、該溶液を高温で10分間保持した。熱を取り除き、該溶液をゆっくりと冷却した。沈殿物は形成されず、それで該溶液を4℃で16時間貯蔵した。10日後に、該溶液を真空下で濃縮して油状物とし、それをEtOでトリチュレートした。該油状物を固化させ、H NMR(図12)により酒石酸塩であることを確認した。
【0160】
ロチゴチンオロチン酸塩(LJC−028−045−2)
ロチゴチン遊離塩基(1.0g、3.170x10−3モル)を25mlの丸底フラスコに入れ、IPA(4ml)を添加した。すべての固体が溶解するまで、反応混合物を攪拌し、オロチン酸(490mg、1当量)を固体として添加した。懸濁液を外界温度で10分間攪拌し、ついで75℃に加熱した。ある程度の物質は溶けたが、完全な溶液ではなかった。75℃で10分後、加熱を止め、該反応混合物をゆっくりと1時間にわたって10℃に冷却した。55℃で、該反応混合物を16時間放置した。ついで、粉末と非常に硬い固体の混合物が存在する、該反応混合物を外界温度に冷却した。粉末を濾過し、硬い物質を手で破壊し、ついで濾過した。該固体をIPAで洗浄し、真空下、40℃で乾燥させた。H NMRはオロチン酸塩を確認した(図13)。
【0161】
このオロチン酸塩(約75mg)をバイアルに入れ、25℃から50℃への複合(double)加熱/冷却サイクルでiPrOAc(10倍容量)中にてスラリーにした。該バイアルを48時間振盪させ、ついで濾過し、乾燥させ、真空下40℃で乾燥させた。XRPDにより結晶物質を確認した(図14)。
【0162】
ロチゴチン1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩(LJC−028−020−1)
ロチゴチン遊離塩基(100mg、3.17x10−4モル)をバイアルに詰め、IPA(300μl、3倍容量)を外界温度で添加した。ついで、該溶液を60℃に加熱し、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(napthoic acid)(THF中1M、630μl)を加え、該溶液を高温で10分間保持した。熱を取り除き、該溶液をゆっくりと冷却した。沈殿物は形成されず、そこで該溶液を4℃で16時間貯蔵した。10日後、該溶液を減圧下で油に濃縮し、それをEtOでトリチュレートした。該油はEtOと極めて混和性であった。溶媒を蒸発させ、該油を4℃で5日間貯蔵すると、それは結晶化した。H NMRにより該塩を1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸であると確認し、XRPDにより結晶である(図15、16)と、DSCで176.37℃にピークがあること(図17)を確認した。
【0163】
ロチゴチン水素硫酸塩(LJC−028−007−2)
ロチゴチン遊離塩基(100mg)をIPA(1ml)中ストック溶液としてバイアルに詰め、硫酸(1当量、THF中1M)を外界温度で添加した。該反応混合物を8時間攪拌すると、その後で沈殿物が形成した。これを濾過し、洗浄し、真空下40℃で乾燥させた。XRPDで該塩が非晶質であることを確認した(図18)。H NMRは顕著なピークシフトが認められるために塩であることを確認した(図19)。
【0164】
実施例4:
ロチゴチンは塩基性と酸性の両方の基を有する。したがって、同様に塩基を用いることで塩形成がなされた。高pKa値に起因して、3種の塩基が適当である:NaOH、KOHおよびL−アルギニン(水酸化物についてはpKa=14、L−アルギニンについては13.2)。実験操作は以下に記載されるとおりである。
【0165】
ロチゴチンナトリウム塩(LJC−028−053−1)
NaOH(IPA/HO(3:1)中0.95M)を丸底フラスコに入れ、外界温度で攪拌した。SPM962(600μl中の200mg)を該NaOH溶液に加え、油状物が直ちに形成した。反応混合物を外界温度で16時間攪拌した。桃色油が存在した。外界温度で合計72時間経過した後、該油を真空下で濃縮し、ついで高真空ライン上で処置した。該油は16時間後に固化し始めた。H NMRはスペクトルにおける顕著なピークシフトにより塩を確認した(図20)。
【0166】
分析方法
核磁気共鳴分光学(NMR)
すべてのスペクトルをDMSOでのBruker AVANCE 400MHzスペクトロメーターに集めた。
【0167】
X−線粉末回折(XRPD)
XYZステージおよび自動式サンプル位置決定のためのレーザビデオ顕微鏡;およびHiStar面積検出装置を備えたBruker C2回折装置で120秒の典型的な収集時間にてX−線粉末回折を行った。密封した銅管(Cu Kα照射;1.5406Å)の電圧およびアンペア数を40kVおよび40mAでセットした。C2上のX−線視覚装置は、0.3mmのピンホールコリメータと連結した単一のGobelミラーからなる。
【0168】
ビーム広がり、すなわち、X−線スポットの有効サイズは、約4mmの値を付与する。シータ−シータの連続的スキャンは、3.2−29.8°の効果的な20の範囲を付与する、20cmのサンプル−検出装置の距離で行われた。コランダム(α−Al2O3)標体(NIST 1976フラットプレート)を月1回で動かし、装置の較正をチェックした。
【0169】
サンプル調製物は、スライドガラスにわずかに押しつけて平坦面とした、1−2mgのサンプルからなる。
【0170】
示差走査熱量測定(DSC)
DSCデータをTA装置Q1000で収集した。エネルギーおよび温度の較正標体はインジウムであった。サンプルは、特記されない限り、開放されたアルミニウムパンにて、窒素雰囲気下(30mL/分のパージ速度)、10℃/分の速度で加熱された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−(プロピル−(2−チオフェン−2−イルエチル)アミノ)テトラリン−1−オール(ロチゴチン)の少なくとも1種の医薬上許容される酸付加塩を含み、医薬上許容される電解質を含んでもよい医薬製剤であって、ここで該ロチゴチン塩がpH<6で少なくとも16マイクロモル/mlの、および/またはpH5で少なくとも30マイクロモル/mlの水溶液中飽和溶解度を有し、該飽和溶解度はすべて医薬上許容される酸付加塩中のロチゴチンの合計した量に基づいて計算されている、ただし、該塩はロチゴチン・HCl以外の塩である、医薬製剤。
【請求項2】
電解質が塩化物塩である、請求項1記載の医薬製剤。
【請求項3】
塩化物塩の濃度が約1−140ミリモル/lである、上記した請求項のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項4】
医薬製剤のpHが5である、上記した請求項のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項5】
水溶液中飽和溶解度が約18−25℃で提供される、上記した請求項のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項6】
ロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される塩を、飽和を達成するのに必要な量の100%未満の量にて含む、上記した請求項のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項7】
ロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される酸付加塩が、リン酸水素二ロチゴチン、リン酸二水素ロチゴチン、クエン酸二水素ロチゴチン、クエン酸水素二ロチゴチン、オロチン酸ロチゴチン、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ロチゴチン、硫酸水素ロチゴチン、および酒石酸水素ロチゴチンより選択される、上記した請求項のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項8】
ロチゴチンの少なくとも1種の医薬上許容される酸付加塩がリン酸二水素ロチゴチンである、上記した請求項のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項9】
経皮デリバリーシステムにて適用するための上記した請求項のいずれかに記載の医薬製剤の使用。
【請求項10】
経皮デリバリーシステムにて適用するための使用であって、該システムがイオントフォレーゼシステムである、上記した請求項のいずれかに記載の医薬製剤の使用。
【請求項11】
パーキンソン病、レストレスレッグ症候群、パーキンソンプラス症候群、鬱病、線維筋痛および/またはパーキンソン随伴症状などのCNS障害を予防または治療するための上記した請求項のいずれかに記載の医薬製剤の使用。
【請求項12】
一般式I:
【化1】

[式中、Xn−は医薬上許容される無機または有機酸の酸アニオンであり、nは1−5である]
で示される化合物、ただし、ロチゴチン・HCl以外の化合物。
【請求項13】
さらには、式Iの化合物が、(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・臭化水素酸塩、(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・p−トルエンスルホン酸塩、(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・ヘミナフタレン−1,5−ジスルホン酸塩、(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・酒石酸塩、(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・クエン酸塩、ロチゴチン・メタンスルホン酸塩および(S)−6−(プロピル(2−チオフェン−2−イル)エチル)アミノ)−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−オール・リン酸塩以外の化合物である、請求項12記載の化合物。
【請求項14】
n−がリン酸、硫酸、オロチン酸、1−ヒドロキシナフトエ酸、クエン酸および/または酒石酸の酸アニオンより選択される、好ましくはリン酸二水素ロチゴチンである、請求項12または13記載の化合物。
【請求項15】
一般式II:
【化2】

[式中、Mは、Na、Kおよび/またはアルギナートより選択される]
で示される化合物。
【請求項16】
医薬として使用される、請求項12ないし15に記載の化合物。
【請求項17】
経皮デリバリーシステムにて使用されるための、請求項12ないし15のいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項18】
経皮デリバリーシステムがイオントフォレーゼ装置である、請求項17記載の使用。
【請求項19】
イオントフォレーゼ装置が約0.001ないし約1.0mA/cmの濃度で電流密度をデリバーしうることを特徴とする、請求項18記載の使用。
【請求項20】
式Iの化合物が、リン酸二水素ロチゴチン、オロチン酸ロチゴチン、硫酸水素ロチゴチン、酒石酸水素ロチゴチン、およびクエン酸二水素ロチゴチンより選択される、請求項17−19に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公表番号】特表2012−530741(P2012−530741A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516573(P2012−516573)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003796
【国際公開番号】WO2010/149363
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(510150167)ユセベ・ファルマ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (3)
【氏名又は名称原語表記】UCB PHARMA GMBH
【Fターム(参考)】