説明

医薬調製物

膵機能不全の治療のための医薬調製物は、酵素の液体投与形態を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵機能不全、例えばムコビシドーシスまたは他の膵臓疾患の治療のための医薬調製物に関する。特に、本発明は、コーティングを有さず、胃および十二指腸の攻撃的な環境において活性である消化酵素の液体医薬調製物に関する。さらに、これらの液体医薬調製物は安定であり、高温で貯蔵することができる。
【背景技術】
【0002】
有効な酵素の過剰発現または欠乏は、代謝または胃腸疾患をもたらすことが多い。例えば、リパーゼレベルの不均衡は、脂肪の吸収不良を含む多数の消化疾患を引き起こし得る。ムコビシドーシス、慢性膵炎および他の膵臓疾患を患っている患者の場合、脂肪吸収不良が起こる。一般に観察される脂肪吸収不良の結果は、腹痛、脂肪便(脂肪下痢)、必須脂肪酸の欠乏、脂溶性ビタミン(例えば、A、D、EおよびK)の欠乏、および全身の発達障害である。
【0003】
リパーゼ不足による疾患を治療するための通常の手順はリパーゼ酵素の経口投与であり、ほとんどの製品は、脱脂、乾燥および粉砕されたブタ膵臓に基づいている。対応する製品は、リパーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、エステラーゼなどのいくつかの酵素からなる。
【0004】
一般に入手可能な投与形態は、通常、胃液に耐性のある膜で被覆された錠剤、ミクロ錠剤、ミクロ糖衣錠、カプセル、粉末および顆粒である。これらの投与形態の不都合は、患者が大きい錠剤やカプセルを嚥下しなければならないという患者への投与の不快感にある。特に、小さい子供や人工栄養を必要とする患者など、錠剤を嚥下することができない患者の場合、これらの投与形態は、困難を伴わずに適用することができない。錠剤の粉砕は酵素の糜汁(chymus)への均一な分配を保証することができず、生成物の低溶解度は栄養管の閉塞をもたらし得る。
【0005】
消化酵素の液体製剤は、例えば、欧州特許第0826375号明細書または米国特許出願公開第2006/0128587号明細書に記載されている。これらの特許出願では、酵素は、添加剤の使用または修飾の変性のいずれかによって安定化される。しかしながら、いずれの場合も、酵素溶液は投与する前に新しく調製されなければならず、既製の液体調製物よりも不便である。さらに、活性物質、有効性および安全性に対する添加剤の効果が考慮されなければならない。
【0006】
入手し易いパンクレアチン調製物に基づく治療は種々の不都合を有する。リパーゼは主要酵素であると考えられる。リパーゼ比活性が低いために、1日あたり5〜10gまでの量が患者に摂取されなければならない。さらに、ブタリパーゼは5〜9のpH範囲で活性であり、従って、胃を通過する間は不活性である。
【0007】
さらに、リパーゼ活性は、低pH値に対するその感受性のために、例えば胃液に耐性のある錠剤のコーティングによって、胃の中の酸性pH条件から保護されなければならない。少数の医療用途では、付随的なタンパク質分解性またはデンプン分解性の酵素活性は所望されない。ムコビシドーシスのある子供にとってアミラーゼ含量は所望されないが、リパーゼは治療的に必要である。プロテアーゼは、急性膵炎または慢性膵炎の活動期の患者には禁忌となる(米国特許第5645832号明細書を参照)。従って、リパーゼを単一のタンパク質として利用できることが有利である。米国特許第5645832号明細書または米国特許第5489530号明細書には、細菌から得られるリパーゼが既に詳細に記載されている。精製した単一のタンパク質を利用できるようにすることを除けば、細菌リパーゼのリパーゼ濃度は非常に高いので、少量(約0.2g)の調製物を投与するだけでよい。細菌リパーゼの活性のpH値は3〜9の間にあり、従って、ブタリパーゼ/パンクレアチンの安定性および活性の制限を克服する。これは、市場で一般に販売されている消化障害の治療のための製品よりも効果的に、胃腸管において、細菌リパーゼの脂肪分解効果を適用できることを意味する。さらに、細菌リパーゼは非動物性製品であり、動物源に由来するウィルス感染の可能性のリスクを回避する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、消化酵素を含有する液体医薬調製物を提供する。本調製物は、膵機能不全、例えばムコビシドーシスまたは他の膵臓疾患のある患者の治療に役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
驚くことに、コーティングのないリパーゼが胃および十二指腸の攻撃的な環境において活性であり、酵素が周囲温度において数カ月にわたって水溶液中で安定であることを示すことができた。さらに、細菌リパーゼは、ムコビシドーシス患者の脂肪便を低減できることが示された。
【0010】
本発明は細菌で産生されるリパーゼに関し、その産生は、米国特許第5645832号明細書に明確に記載されている。
【0011】
リパーゼの適用は、膵炎またはムコビシドーシスを患っている患者の有効な治療法であると証明されている。脂肪便の低減は、リパーゼの排他的な適用の間に観察された。プロテアーゼ、アミラーゼまたはエステラーゼなどのその他の酵素は存在しなかった(実施例1)。
【0012】
純粋な細菌リパーゼは、35億(3.5 milliards)U/gよりも大きい比活性を有することができる。脂肪分解活性が高いので、より少ない量の投与形態(すなわち、錠剤の数または溶液の容積)が患者に投与されるべきである。
【0013】
本発明は、治療的な消化酵素の通常の処方(錠剤)の制限を克服するために、リパーゼを液体医薬調製物として提供する。特に、小さい子供や人工栄養を必要とする患者など、錠剤を嚥下することができない患者の場合、通常の投与形態を使用することができない、あるいは限られた範囲でしか使用することができない。
【0014】
液体の医薬品は、薬剤の都合のよい投薬量、食物中の酵素の均一な分配、および人工栄養と一緒の使用の可能性を提供する。
【0015】
コーティングのないリパーゼは、摂取の際の胃の攻撃的な環境を模倣するpH条件下で活性であることが示され得る(実施例2)。さらに、細菌リパーゼは、高温でも少なくとも3か月間、水溶液中で安定であることが示された(実施例3)。米国特許出願公開第2006/0128587号明細書に記載されているような化学修飾は必要とされない。
【0016】
本発明は、
− 塩
− 有機酸
− アミノ酸
− 界面活性剤
− 糖
− 油
− 粘度調節剤
などの安定剤も使用する処方を含む。
【0017】
物質は、液体処方のために、溶液、溶液/液滴、懸濁液、懸濁液滴であることが可能である。本発明は、特に(排他的ではないが)子供のための液体投与形態の利点に基づく。
【0018】
液体投与形態は、リパーゼが液体溶液として直接製造されるか、あるいは活性成分リパーゼを水系または非水系溶媒中に溶解することによって、あるいは薬剤を適切な媒体に懸濁させることによって、あるいは油/水系の2つの相の一方に薬剤を添加することによって、調製することができる。
【0019】
溶液、懸濁液およびエマルジョンなどのリパーゼの投与形態は、多数の理由で有用である。これらは、種々の投与方法:経口薬、体腔内への挿入、または外用として処方することができる。投薬量は希釈によって調整することができ、例えば滴下装置を用いて1滴ずつ投与することができる。液体経口投与形態は、錠剤、カプセルまたは他の任意の固体投与形態を嚥下することができない子供または患者に容易に投与することができる。
【0020】
リパーゼ溶液は、水、芳香水、酸水溶液、溶液として示される医薬品形態を含む均一な混合物である。
【0021】
リパーゼ懸濁液は、液体中に分散された固体リパーゼからなる2相系を指す。
【実施例】
【0022】
実施例1:偽薬(placebo)または真薬(verum)による治療の間の患者の便中の蓄積脂肪量−図1−
ムコビシドーシス患者による臨床研究の間に細菌リパーゼを試験した。図1および以下の表(偽薬および真薬を受けている患者の脂肪吸収係数を表す)に示されるように、真薬を受けた患者の便中の脂肪量および脂肪吸収係数(CFA)にかなりの違いが見られるはずである。細菌リパーゼは、消化の間の脂肪の再吸収を著しく改善する。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2:低pH値の条件(胃の中のpH値の模倣)下でのリパーゼの活性−図2−
細菌リパーゼを溶解し、1.0、2.0、3.0、4.0および5.0のpH値に調整した。15分、30分、1時間、2時間、4時間および18時間後に、試験pH値(8.0)でトリブチリン試験を適用することによって、リパーゼ活性を測定した。
【0025】
嚥下の際、ムコビシドーシスを患っている患者の胃の中で、pH値はpH4まで上昇することがわかっている。細菌リパーゼは、これらの環境下で十分な活性を示すが(図2)、ブタリパーゼ(パンクレアチンから作られる)の活性は、pH4において2時間後に85%低下し、そして4時間後には96%低下される(表示せず)。
【0026】
実施例3:水溶液中での細菌リパーゼの安定性−図3−
細菌リパーゼを水中に溶解し、4℃、周囲温度および40℃においてインキュベートした。1、2、3、4、5、10および14週間後に活性を測定した。この間に、活性の損失はあまり示されなかった。
【0027】
本発明は、実施例、特許請求の範囲および図についての記載を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化障害の治療のための酵素の液体投与形態を含む医薬調製物。
【請求項2】
前記消化障害が、膵臓疾患の
− ムコビシドーシス
− 膵炎
である、請求項1に記載の医薬調製物。
【請求項3】
前記液体投与形態が溶液、懸濁液またはエマルジョンである、請求項1に記載の医薬調製物。
【請求項4】
前記酵素が、
− バークホルデリア(Burkholderia)型
− シュードモナス(Pseudomonas)型
− バークホルデリア・プランタリ(Burkholderia plantarii)型
の細菌リパーゼである、請求項1に記載の医薬調製物。
【請求項5】
安定な溶液としてのリパーゼの適用による既述の疾患の治療は、塩、有機酸、アミノ酸、界面活性剤、糖などの安定剤を含む溶液としてのリパーゼの適用であり、
前記細菌リパーゼは化学修飾されておらず、
前記経口投与形態のリパーゼは、溶液である、安定な溶液としてのリパーゼの適用による既述の疾患の治療。


【公表番号】特表2012−516289(P2012−516289A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546599(P2011−546599)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000566
【国際公開番号】WO2010/085975
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(501335003)ノルドマルク・アルツナイミッテル・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシヤフト (4)
【Fターム(参考)】