説明

十字軸式自在継手

【課題】過大なトルクが加えられた場合にも、ヨーク12cの結合腕部15c、15cが歪み難く、トルク伝達機能を喪失し難くすると共に、過大なトルクが加えられた事実を後からでも容易に判定できる構造を実現する。
【解決手段】前記ヨーク12cの基部14cの周面に凹溝20を形成する事により、この基部14cの捻り方向の剛性を、前記両結合腕部15c、15cの同方向の剛性よりも低くする。過大なトルクが加わった場合に、前記基部14cが捻り方向に塑性変形して、前記両結合腕部15c、15cの変形を抑える為、前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用操舵装置を構成する回転軸同士を、トルク伝達可能に接続する為の十字軸式自在継手(カルダンジョイント)の改良に関する。具体的には、衝突事故等によりこの十字軸式自在継手に過大なトルクが加えられた場合にも、ヨークと十字軸とが分離し難く、更に、過大なトルクが加えられた事実を後からでも容易に判定できる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用操舵装置は、図12に示す様に構成して、ステアリングホイール1の回転をステアリングギヤユニット2の入力軸3に伝達し、この入力軸3の回転に伴って左右1対のタイロッド4、4を押し引きして、前車輪に舵角を付与する様にしている。前記ステアリングホイール1は、ステアリングシャフト5の後端部に支持固定されており、このステアリングシャフト5は、円筒状のステアリングコラム6を軸方向に挿通した状態で、このステアリングコラム6に回転自在に支持されている。又、前記ステアリングシャフト5の前端部は、自在継手7を介して中間シャフト8の後端部に接続し、この中間シャフト8の前端部を、別の自在継手9を介して、前記入力軸3に接続している。尚、図示の例は、電動モータ10を補助動力源として前記ステアリングホイール1を操作する為に要する力の低減を図る、電動式パワーステアリング装置を組み込んでいる。従って、前記ステアリングシャフト5の前端部を、この電動式パワーステアリング装置の入力側に接続し、この電動式パワーステアリング装置の出力軸と前記中間シャフト8の後端部とを、前記自在継手7により、トルクの伝達を自在に接続している。
【0003】
上述の様な自動車用操舵装置に組み込まれた、互いに同一直線上に存在しない回転軸である、前記ステアリングシャフト5と前記中間シャフト8と前記入力軸3とを接続する、前記両自在継手7、9は、何れも本発明の対象となる十字軸式自在継手である。この様な自在継手は、例えば特許文献1〜4に記載される等により、従来から各種構造のものが知られている。図13は、このうちの特許文献2に記載された、従来構造の1例を示している。
【0004】
この図13に示した自在継手11は、1対のヨーク12a、12bを1個の十字軸13を介して、トルク伝達自在に結合して成る。これら両ヨーク12a、12bはそれぞれ、金属材にプレス加工又は鍛造加工を施す事により造られており、それぞれが基部14a、14bと、前記両ヨーク12a、12b毎に1対ずつの結合腕部15a、15bとを備える。これら各結合腕部15a、15bの先端にそれぞれ円孔16a、16bを、前記両ヨーク12a、12b毎に互いに同心に形成している。又、前記十字軸13は、4本の軸部17、17を、隣り合う軸部17、17の中心軸同士が互いに直交する状態で設けて成る。そして、これら各軸部17、17を前記各円孔16a、16bの内側に、それぞれカップシェル型のラジアルニードル軸受18、18を介して、回転自在に支持して、前記自在継手11としている。
【0005】
上述の様な自在継手7、9、11を組み込んだステアリング装置を搭載した車両が衝突事故を起こしたり、運転操作の誤りにより操舵輪を縁石に乗り上げたりした場合、前記ステアリングギヤユニット2の側から、前記自在継手7、9、11に、衝撃的な(過大な)トルクが加わる場合がある。そして、この様な衝撃的トルクに基づいて、この構成部材の全部又は一部が損傷し、継続的な安全運行に支障をきたす可能性がある。例えば、前記各結合腕部15a、15bが歪んで、これら各結合腕部15a、15bの先端部に形成した前記各円孔16a、16bの同心性が損なわれる。この同心性が損なわれた場合、前記各ラジアルニードル軸受18、18の機能が損なわれ、各部の摩耗が進行し易くなる等の問題を生じる。この様な場合に、使用者が当該車両を修理工場に持ち込んで、直ちに検査、修理を受ければ良いが、一部の使用者は、特に異常を感じないで、そのまま車両の使用を継続する可能性がある。更には、前記各結合腕部15a、15bの歪みが著しい場合には、前記各円孔16a、16bの内側から前記各ラジアルニードル軸受18、18が脱落し、前記自在継手7、9、11のトルク伝達機能が完全に喪失し、前記ステアリング装置が機能しなくなる可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−280889号公報
【特許文献2】特開平8−270669号公報
【特許文献3】特開平11−325098号公報
【特許文献4】特開2009−299706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、過大なトルクが加えられた場合にも、ヨークの結合腕部が歪み難く、トルク伝達機能を喪失し難くすると共に、過大なトルクが加えられた事実を後からでも容易に判定できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の十字軸式自在継手は、1対のヨークと、これら両ヨーク同士を揺動変位自在に結合する1個の十字軸とを備える。
このうち、前記両ヨークはそれぞれ、回転軸の端部を結合固定する為の基部と、この基部の軸方向一端縁のうちで、この回転軸に関する直径方向反対側2箇所位置から軸方向に延出した1対の結合腕部と、これら両結合腕部の先端部に互いに同心に形成された1対の円孔とを備える。
又、前記十字軸は、隣り合う軸部の中心軸同士が互いに直交する状態で設けられた4本の軸部を備える。
更に、前記十字軸の軸部の先端部はそれぞれ、前記両ヨークに設けた前記各円孔の内側に、軸受を介して回転自在に支持されている。
【0009】
特に、本発明の十字軸式自在継手に於いては、前記両ヨークのうちの少なくとも一方のヨークの基部の周面に凹溝を形成する事により、当該基部の捻り方向の剛性を、この基部から延出した1対の結合腕部の同方向の剛性よりも低くしている。
この様な本発明の自在継手を実施する場合、具体的には、請求項2に記載した発明の様に、前記凹溝を、周方向両端部が塞がれた、周方向に長い長溝とする。そして、この凹溝を、前記基部の周面のうち、周方向に関する位相が前記両結合腕部に一致する、この基部の円周方向2箇所部分に形成する。
又、好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記両ヨークのうち、少なくとも前記凹溝を形成したヨークを、金属材料に冷間鍛造による塑性加工を施して成るものとする。
【発明の効果】
【0010】
上述の様に構成する本発明の十字軸式自在継手によれば、過大なトルクが加えられた場合にも、ヨークの結合腕部が歪み難く、トルク伝達機能を喪失し難くできる。即ち、このヨークの基部の捻り方向の剛性を、この基部から延出した1対の結合腕部の同方向の剛性よりも低くしている為、過大なトルクが加えられた場合に、これら両結合腕部が歪む前に、前記基部が捻り方向に塑性変形する。この為、前記トルク伝達機能が損なわれたり、更には喪失するに至るトルクの大きさを、従来構造に比べて大きくできる。
【0011】
又、過大なトルクが加えられた事実を後からでも容易に判定できる。即ち、前記基部が捻り方向に塑性変形する事で、前記ヨークに結合固定された回転軸と、前記両結合腕部との、回転方向に関する位相がずれる。この結果、車両を直進状態とする為の、ステアリングホイールの中立状態の姿勢が変化する。この変化は、運転者にとって容易且つ確実に認識できる。この為、運転者に、修理を促す事ができて、損傷した車両の運行を継続する事に伴う危険を回避できる。又、前記基部の塑性変形は、修理工場で容易に確認できる為、運転者が車両を修理工場に持ち込みさえすれば、前記ステアリングホイールの中立状態での姿勢変化が、過大トルクの付加によるものである事を、容易に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、端面図(A)と、一部を切断乃至透視して(A)の下方から見た図(B)と、(B)の側方から見た図(C)。
【図2】本例の特徴となる断面形状を説明する為の、図1の(B)と同様の図(A)と、(A)のa−a部の断面図(B)と、同じくb−b部の断面図(C)。
【図3】過大トルクが加わってヨークが塑性変形した状態を示す、図1の(C)と同様の図。
【図4】ヨーク基部の凹溝の形状の別の2例を示す図。
【図5】本発明の効果を説明する為の、図1の(B)と同様の図(A)と、トルク伝達時の挙動を説明する為の、十字軸を組み込んだ状態で示す、(A)のc−c断面に相当する図(B)と、従来構造の場合に発生する1対の結合腕部の変形状態を示す図(C)と、本発明の場合の同様の図(D)。
【図6】ヨークが伝達するトルクと、このヨークを構成する基部と1対の結合腕部との捻れ角との関係を示す線図。
【図7】ステアリングホイールの中立位置を、衝撃的なトルクが加わる前の状態(A)と加わった後の状態(B)とで示す正面図。
【図8】本発明の実施の形態の第2例を、ヨークと一体のアウタチューブを含んで構成した中間シャフト及び他の十字軸式自在継手と組み合わせた状態で示す、一部を透視乃至切断した状態で示す側面図(A)及び(A)のX矢視図(B)。
【図9】同じく、アウタチューブと一体のヨークの製造方法の第1例を、工程順に示す端面及び断面図。
【図10】同第2例を工程順に示す、端面図及び断面図。
【図11】本発明の実施の形態の第3例を示す、部分切断側面図(A)及び(A)のY矢視図(B)。
【図12】十字軸式自在継手を組み込んだ自動車用操舵装置の1例を示す、部分切断側面図。
【図13】十字軸式自在継手の従来構造の1例を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態の第1例]
図1〜7により、本発明の実施の形態の第1例に就いて説明する。尚、本例を含めて本発明の特徴は、十字軸式自在継手を構成する1対のヨークのうちの少なくとも一方のヨークの基部の捻り方向の剛性を、当該基部の軸方向一端縁から軸方向に延出した状態で設けられた1対の結合腕部の同方向の剛性よりも低くする点にある。その他の部分の構成及び作用は、前述の図13に記載した構造を含めて、従来から知られている十字軸式自在継手と同様であるから、重複する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0014】
本例の十字軸式自在継手を構成するヨーク12cは、金属材料に冷間鍛造加工を施して成るもので、基部14cと、1対の結合腕部15c、15cとを備える。このうちの基部14cは、ステアリングシャフト5や中間シャフト8(図12参照)の端部を結合固定する為のもので、円筒状に造られており、内周面にスプライン溝19を形成している。又、前記両結合腕部15c、15cは、前記基部14cの軸方向一端縁のうちで直径方向反対側2箇所位置から、それぞれ軸方向に延出している。本例の場合、前記両結合腕部15c、15cの形状が平板状であり、それぞれの先端部に、互いに同心の円孔16c、16cを形成している。
【0015】
更に、本例の十字軸式自在継手を構成するヨーク12cの場合には、前記基部14cの周面のうち、円周方向に関する位相が前記両結合腕部15c、15cに一致する部分に、それぞれ凹溝20、20を形成している。これら両凹溝20、20は、それぞれ周方向両端部が塞がれた、周方向に長い長溝である。これら両凹溝20、20の形状は、図1の(C)に示す様な長矩形でも、或いは、図4の(A)に示す様な、中間部に円形部を有する形状でも、更には、図4の(B)に示す様な楕円形であっても良い。何れにしても、前記両凹溝20、20を形成する事により、前記基部14cの捻り方向の剛性を、前記両結合腕部15c、15cの同方向の剛性よりも低くしている。前記両凹溝20、20の寸法(深さ、周方向長さ、幅)及び形状(開口形状、断面形状)、更には数(図示の例では2個)は、通常時に於ける(過大なトルクが加わる以前の状態での)剛性を十分に(前記基部14cが変形する事なくトルクを伝達可能な状態に)確保し、且つ、上述した条件(「基部14cの捻り剛性」<「両結合腕部15c、15cの捻り剛性」)を満たす様に、実験又はコンピュータ解析により設計的に定める。
【0016】
上述の様なヨーク12cを組み込んだ本例の十字軸式自在継手によれば、過大なトルクが加えられた場合にも、このヨーク12cを構成する、前記両結合腕部15c、15cが歪み難く、トルク伝達機能を喪失し難くできる。即ち、前記両凹溝20、20の存在に基づき、前記基部14cの捻り方向の剛性を、この基部14cから延出した前記両結合腕部15c、15cの同方向の剛性よりも低くしている為、前記ヨーク12cに過大なトルクが加えられた場合に、前記両結合腕部15c、15cが歪む前に、前記基部14cが捻り方向に塑性変形する。この場合に、これら両結合腕部15c、15cは塑性変形せず、ほぼそのままの形状に保たれる。
【0017】
即ち、衝突事故や操舵輪の縁石乗り上げに伴って、前記ヨーク12c及び十字軸13を組み込んだ十字軸式自在継手に衝撃的な過大トルクが加わる場合がある。この様な場合、前記十字軸13を構成する何れかの軸部17の両端部から、前記ヨーク12cを構成する1対の結合腕部15c、15cに対し、図5の(B)に示した4箇所のα部分に大きな荷重が加わる。これら両結合腕部15c、15cの捻り剛性が低い(「基部14cの捻り剛性」>「両結合腕部15c、15cの捻り剛性」である)場合には、前記過大トルクに基づいて、図5の(C)に示す様に、前記両結合腕部15c、15cの先端部に形成した円孔16c、16cの同心性が損なわれ、これら両円孔16c、16cの内側に、ラジアルニードル軸受18、18により支持された前記軸部17の揺動変位が円滑に行われなくなったり、著しい場合には、これら両ラジアルニードル軸受18、18が前記両円孔16c、16cから抜け出る可能性がある。この結果、前記十字軸式自在継手を組み込んだ自動車用操舵装置の機能が、低下乃至は喪失する。
【0018】
これに対して本例の構造の場合には、前述した様に、前記両結合腕部15c、15cの捻り剛性に比べて前記基部14cの捻り剛性が低い為、前記過大トルクにより、先ず、この基部14cが、図3に示す様に、捻り方向に塑性変形する。この過大トルクに基づく、前記両結合腕部15c、15cの塑性変形は、生じないか、生じた場合でも僅少に止まる。従って、図5の(D)に示す様に、前記両結合腕部15c、15cの形状は、ほぼそのままの状態に維持されて、これら両結合腕部15c、15cの先端部に形成した円孔16c、16cの同心性が保たれる。この為、前記軸部17の揺動変位が円滑に行われる状態が保たれる。勿論、前記両ラジアルニードル軸受18、18が前記両円孔16c、16cから抜け出る事はない。この結果、前記十字軸式自在継手を組み込んだ自動車用操舵装置の機能は、ほぼそのままに維持される。
【0019】
要するに、本例の構造によれば、前記十字軸式自在継手によるトルク伝達機能が損なわれたり、更には喪失するに至るトルクの大きさを、従来構造に比べて大きくできる。この点に就いて、図6を参照しつつ説明する。この図6は、横軸に、ヨークに結合固定した回転軸と十字軸との間に存在する、中立位置に対する捻れ角を、縦軸に、これら回転軸と十字軸との間に存在するヨークに加わるトルクの大きさを、それぞれ表している。このトルクが大きくなると、イ点でこのヨークが塑性変形し始めるが、ロ線からハ線までの間は、主として前記基部14cが捻り方向に塑性変形し、前記両結合腕部15c、15cは殆ど塑性変形しない。そして、ニ点で、前述の図5の(C)に示す様に、前記両ラジアルニードル軸受18、18が前記両円孔16c、16cから抜け出し、前記十字軸式自在継手が破壊されて、トルク伝達機能が喪失する。
【0020】
本例の構造の場合、前記ロ線からハ線までの間は、前記基部14cが塑性変形する事で、前記十字軸式自在継手に衝撃的に加わった過大トルクのエネルギ(衝撃エネルギ)を吸収する。前記基部14cが塑性変形する事によるエネルギ吸収量は、図6に斜格子で示した、前記トルクと捻れ角との関係を示した曲線の下側部分の面積に比例する。従って、前記図6から明らかな通り、本発明の構造によれば、前記衝撃エネルギの吸収性能を大きくできて、前記過大トルクに基づき、前記ヨーク12cを組み込んだ十字軸式自在継手以外の部品の損傷を防止し易い。尚、前記衝撃エネルギの吸収性能を大きくする為には、前記十字軸式自在継手を構成する1対のヨークの何れに関しても、基部に凹溝を形成する。更に、例えば中間シャフトの両端部に設ける1対の十字軸式自在継手を構成する1対ずつ、合計4個のヨークの何れに関しても、基部に凹溝を形成すれば、前記衝撃エネルギの吸収性能を大きくできる。
【0021】
又、過大なトルクが加えられた事実を後からでも容易に判定できる。即ち、前記基部14cが捻り方向に塑性変形する事で、前記ヨーク12cに結合固定された回転軸と、前記両結合腕部15c、15cとの、回転方向に関する位相がずれる。この結果、車両を直進状態とする為の、ステアリングホイール1の中立状態の姿勢が変化する。即ち、前記ヨーク12cが塑性変形する以前の状態では、車両が直進状態にある場合に、前記ステアリングホイール1の姿勢は、図7の(A)に示した、初期状態の姿勢に維持される。これに対し、前記衝撃エネルギにより前記ヨーク12cに衝撃的なトルクが加わって、このヨーク12cの基部14cが捻り方向に塑性変形し、この基部14cと前記両結合腕部15c、15cとの回転方向の位相がずれると、車両を直進状態とする為の、前記ステアリングホイール1の中立状態の姿勢が、例えば図7の(A)→(B)の順に示す様に変化する。この変化は、運転者にとって容易且つ確実に認識できる。この為、運転者に修理を促す事ができて、損傷した車両の運行を継続する事に伴う危険を回避できる。又、前記基部14cの塑性変形は、修理工場で容易に確認できる為、運転者が車両を修理工場に持ち込みさえすれば、前記ステアリングホイール1の中立状態での姿勢変化が、過大トルクの付加によるものである事を、容易に確認できる。
【0022】
[実施の形態の第2例]
図8〜10は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本発明は、中間シャフト8aを構成するアウタシャフト21と、自在継手9aを構成するヨーク12dとを一体とした、所謂チューブヨークに関して、本発明を適用した場合に就いて示している。この様なチューブヨークは、従来から知られている様に、S10C〜S45C等の炭素鋼製で、図9の(A)に示す様な円柱状の素材22に、前方押し出し加工、後方押し出し加工等の冷間鍛造加工を順次施し、図9の(B)に示す様な第一中間素材23、同じく(C)に示す様な第二中間素材24を経て、同じく(D)に示した、前記アウタシャフト21を一体としたヨーク12dとする。そして、このヨーク12dの基部14dの外周面に、押型25の突部26を押し付けて、当該部分を塑性変形させ、凹溝20a、20aとする。尚、前記両凹溝20a、20aの形成作業は、図10の(A)に示す様に、中間素材の先端部で1対の結合腕部15d、15dとなるべき部分を、アウタシャフト21となるべき部分に対して、径方向外方に向け直角に折り曲げた状態で行う事もできる。前記両結合腕部15d、15dは、前記両凹溝20a、20aの形成後に、前記アウタシャフト21の中心軸に対し平行になるまで折り曲げる。
【0023】
何れの場合でも、前記両凹溝20a、20aを形成した後、軟窒化処理等の熱処理を施して、表面を硬く、心部を軟らかくする事が好ましい。この理由は、表面を硬くして耐久性を確保すると共に、過大なトルクが加わった場合に、前記基部14dのうちで前記両凹溝20a、20aを形成した部分が、捻り方向に確実に塑性変形する様にする為である。又、前記アウタシャフト21とインナシャフト27とをボールスプライン28を介して伸縮自在に組み合わせ、前記中間シャフト8aとする。又、前記インナシャフト27の端部に、別の自在継手7aを組み付ける。この中間シャフト8aの構造及び作用は従来から広く知られており、又、前記別の自在継手7aに関しても、従来から広く知られている構造である。更に、何れも、本発明の要旨とは関係しないので、詳しい説明は省略する。
又、本発明を適用した、前記自在継手9aの構造及び作用に就いても、本発明の特徴部分である、前記両凹溝20a、20aに関しては、前述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0024】
[実施の形態の第3例]
図11は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の自在継手7bの場合には、冷間鍛造により造ったヨーク12eと中間シャフト8bの端部とを、溶接により接合固定している。本発明の特徴部分である、1対の凹溝20a、20aに関しては、前述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明を実施する場合に、凹溝の形成方法は特に問わない。図示の様に、押型の突部を突き当てて塑性変形させる事により形成する方法の他、切削加工等により形成する事もできる。
又、凹溝を形成する位置は、1対の結合腕部から外れた部分で、過大なトルクにより捻り方向に塑性変形可能で、且つ、裂断等の機能を喪失する程の大きな損傷の発生を抑えられる部分であれば良く、例えば、図2の(A)のL範囲に設定できる。
【符号の説明】
【0026】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングギヤユニット
3 入力軸
4 タイロッド
5 ステアリングシャフト
6 ステアリングコラム
7、7a、7b 自在継手
8、8a、8b 中間シャフト
9、9a 自在継手
10 電動モータ
11 自在継手
12a、12b、12c、12d、12e ヨーク
13 十字軸
14a、14b、14c、14d 基部
15a、15b、15c、15d 結合腕部
16a、16b、16c 円孔
17 軸部
18 ラジアルニードル軸受
19 スプライン溝
20、20a 凹溝
21 アウタシャフト
22 素材
23 第一中間素材
24 第二中間素材
25 押型
26 突部
27 インナシャフト
28 ボールスプライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対のヨークと、これら両ヨーク同士を揺動変位自在に結合する1個の十字軸とを備え、
これら両ヨークはそれぞれ、回転軸の端部を結合固定する為の基部と、この基部の軸方向一端縁のうちで、この回転軸に関する直径方向反対側2箇所位置から軸方向に延出した1対の結合腕部と、これら両結合腕部の先端部に互いに同心に形成された1対の円孔とを備えたものであり、
前記十字軸は、隣り合う軸部の中心軸同士が互いに直交する状態で設けられた4本の軸部を備えたものであり、
前記十字軸の軸部の先端部がそれぞれ、前記両ヨークに設けた前記各円孔の内側に、軸受を介して回転自在に支持されている十字軸式自在継手に於いて、
前記両ヨークのうちの少なくとも一方のヨークの基部の周面に凹溝を形成する事により、当該基部の捻り方向の剛性を、この基部から延出した1対の結合腕部の同方向の剛性よりも低くしている事を特徴とする十字軸式自在継手。
【請求項2】
前記凹溝は周方向両端部が塞がれた、周方向に長い長溝であって、前記基部の周面のうち、周方向に関する位相が前記両結合腕部に一致する、この基部の円周方向2箇所部分に形成されている、請求項1に記載した十字軸式自在継手。
【請求項3】
前記両ヨークのうち、少なくとも前記両凹溝を形成したヨークは、金属材料に冷間鍛造による塑性加工を施して成るものである、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した十字軸式自在継手。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate