説明

半固形状の油脂組成物

【課題】 高温安定性に優れ、常温から高温まで物性変化の小さい半固形状の油脂組成物を提供する事。
【解決手段】 常温で固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルと常温で液状のポリグリセリン脂肪酸エステルを混合することにより、高温安定性に優れ、常温から高温まで物性変化の小さい半固形状の油脂組成物を提供出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温安定性に優れた半固形状の油脂組成物に関する。さらに詳しくは、固体状と液状のポリグリセリン脂肪酸エステルを併用することで高温安定性に優れ、常温から高温まで物性変化の小さい半固形状の油脂組成物、及びこれを用いた化粧料、医薬品、工業用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半固形状とは、保型性と流動性の2つの性質を併せ持つことを指す。すなわち、一定以上の力を加えることで流動することを指す。その半固形状の性状を示す化粧料、医薬品、工業用材料としては、口紅、軟膏、潤滑剤などがある。しかし、夏場では倉庫内の温度が50℃に達するため、低融点の固体を用いた組成物は粘度が低下し、温度によっては液状化する問題がある。また、気温の変化により、組成物の物性が変化し、使用感が大きく異なるという点に問題がある。
【0003】
例えば、半固形状の化粧料の一つである口紅、リップクリームは、植物性・動物性の天然ワックスなどの固形油をベースに顔料等の補助成分が分散されたものである。中でも、植物性の天然ワックスとしてキャンデリラワックスは、固化能に優れ、ツヤや顔料分散性及び肌付着性に優れており、油性化粧料に汎用されている。しかし、キャンデリラワックスは融点が比較的低く、高温時では硬度保持力に劣るという欠点がある。
【0004】
そのため、口紅の高温安定性を向上させる方法として、精製したコメヌカロウと飽和炭化水素ワックスなどの高融点ワックスを併用する方法(特許文献1)が提案されている。しかし、高融点ワックスを加えたことによる使用感の硬さ、成形性の悪化が問題となる。そのため、良好な使用感、成形性を保持したまま、高温安定性に優れた口紅の開発が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開2008−143800号公報
【0006】
また、半固形状の医薬品である軟膏は、半固形状の油脂であるワセリンまたはラノリン等に各種薬剤を混合することで得られる。しかし、従来の軟膏は、高温時では非常に不安定となり、各成分が使用前に溶解・固化を繰り返し、不均一化するという欠点を有している。
【0007】
そのため、軟膏の高温安定性を向上させる方法として、ワセリンにマイクロクリスタリンワックスを併用する方法(特許文献2)が提案されている。しかし、夏場などの高温状態では、軟膏自体の粘度、硬度が大幅に低下し、使用感が大きく異なるという点で問題となる。そのため、常温から高温まで粘度、硬度の変化が小さい軟膏が求められている。
【0008】
【特許文献2】特開2006−282559号公報
【0009】
さらに、半固形物の工業用材料である潤滑用グリースは、流動パラフィンなどの鉱物油に、ステアリン酸リチウム等の脂肪酸セッケンやウレア誘導体を増ちょう剤として加えることで製造される。しかし、高温時では油分の染み出しや、経時的に固化する問題等が起こるという欠点を有している。
【0010】
そのため、近年では増ちょう剤として、複合体リチウム石鹸系の増ちょう剤を用いる方法(特許文献3)や、ポリグリコールエーテル及びポリウレア化合物を併用する方法(特許文献4)により、グリースの高温安定性を図っている。
【0011】
【特許文献3】特開2006−131721号公報
【特許文献4】特開2007−002152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、上記の問題点を解決し、高温安定性が良好で、かつ、常温から高温まで物性変化の小さい油脂組成物、及びこれを用いて製造された高温安定性が良好な化粧料、医薬品、工業用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、液状のポリグリセリン脂肪酸エステルに高融点の固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルを併用することで解決できると考え、鋭意研究を重ねた結果、固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルと液状のポリグリセリン脂肪酸エステルを1:99〜50:50(重量比)で混合することにより、目的が達成される事を見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高温安定性が良好で、かつ、常温から高温まで物性変化の小さい半固形状の油脂組成物を提供できるため、該油脂組成物を用いて高温安定性が良好な化粧料、医薬品、工業用材料を製造する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を実施するための形態をより詳細に説明するが、本発明の範囲はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、変更などが加えられた形態も本発明に属する。
【0016】
本発明で使用される油脂組成物は固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルと液状のポリグリセリン脂肪酸エステルを1:99〜50:50(重量比)で混合したものであることを特徴とし(請求項1)、より好ましくは20:80〜40:60(重量比)である。固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルと液状のポリグリセリン脂肪酸エステルの重量比が1:99未満であると得られる油脂組成物は液状となり、また、50:50を超えると得られる油脂組成物は固体状となる。
【0017】
本発明で使用される固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸としてミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸等があり、好ましくは、炭素数18〜22の飽和脂肪酸であることを特徴とする(請求項2)。炭素数18〜22の飽和脂肪酸としては、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸などが挙げられる。構成脂肪酸の炭素数が18〜22であると、固体状ポリグリセリン脂肪酸エステルの融点が高く、高温安定性が良好な半固形状の油脂組成物が得られる。ここで、固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸は1種ないし2種類以上存在しても良い。また、1種ないし2種以上の固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いても良い。
【0018】
本発明で使用される液状のポリグリセリン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸としての不飽和脂肪酸からなる事を特徴とする(請求項3)。構成脂肪酸として使用できる脂肪酸としては、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、リシノール酸等が挙げられる。ここで、液状のポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸は1種ないし2種以上存在しても良い。また、1種ないし2種以上の液状のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いても良い。
【0019】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、特に限定されないが、水酸基価から算出した平均重合度(n)が2〜20、好ましくは2〜10のものである。ここで平均重合度(n)とは、末端分析法によって得られる水酸基価から算出される値であり、詳しくは、次式(式1)及び(式2)から平均重合度(n)が算出される。
【0020】
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0021】
前記(式2)中の水酸基価とは、エステル化合物に含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1g中のエステル化物に含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を、中和するために要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0022】
本発明の固体状のポリグリセリン脂肪酸エステル及び液状のポリグリセリン脂肪酸エステルは、例えば、前記の脂肪酸とポリグリセリンと水酸化ナトリウムとの混合液を、加熱してエステル化させることにより合成することができる。また、公知の方法によりエステル合成をしても得ることができる。
【0023】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、そのエステル化率が10%以上のものが好ましく、より好ましくは50%以上である。ここでエステル化率とは、水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、ポリグリセリンに付加する脂肪酸のモル数(M)としたとき、(M/(n+2))×100=エステル化率(%)で算出される値である。
【0024】
本発明の化粧料組成物としては、口紅、アイメイク、ポマード、クリームの基剤、油性成分などに使用できる。その際、必要に応じて公知の各種添加剤、例えば、粉体成分を加えることができる。粉体成分は、球状、板状、針状等の形状、煙霧状、微粒子、顔料級等の粒子径、多孔質、無孔質等の粒子構造等により限定されるものではない。粉体成分には、例えば、無機粉体類、光輝性粉体類、有機粉体類、色素粉体類、金属粉体類、複合粉体類等が挙げられる。無機粉体類としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、硫酸バリウム等の白色無機顔料、酸化鉄、カーボンブラック、チタン・酸化チタン焼結物、酸化クロム、水酸化クロム、紺青、群青等の有色無機顔料、タルク、白雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、合成雲母、絹雲母(セリサイト)、合成セリサイト、カオリン、炭化珪素、ベントナイト、スメクタイト、無水ケイ酸、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、珪ソウ土、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、窒化ホウ素等の白色体質粉体が挙げられる。光輝性粉体類としては、二酸化チタン被覆雲母、二酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化鉄雲母チタン、紺青処理雲母チタン、カルミン処理雲母チタン、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔等が例示される。有機粉体類としては、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン系樹脂、スチレン−アクリル共重合樹脂等のコポリマー樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の有機高分子樹脂粉体、ステアリン酸亜鉛、N−アシルリジン等の有機低分子性粉体、澱粉、シルク粉末、セルロース粉末等の天然有機粉体が例示される。色素粉体類には、赤色201号、赤色202号、赤色205号、赤色226号、赤色228号、橙色203号、橙色204号、青色404号、黄色401号等の有機顔料粉体、赤色3号、赤色104号、赤色106号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号等のジルコニウム、バリウム又はアルミニウムレーキ等の有機顔料粉体あるいは更にアルミニウム粉、金粉、銀粉等の金属粉体が例示される。そして、複合粉体類には、微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、酸化チタン含有二酸化珪素、酸化亜鉛含有二酸化珪素等の複合粉体が例示され、これらの粉体はその1種又は2種以上を用いることができ、更に複合化したものを用いても良い。
【0025】
本発明の医薬品組成物としては、クリーム、軟膏の基剤などに使用できる。その際、必要に応じて公知の各種添加剤、例えば抗真菌剤、消炎剤、抗炎症剤、抗しわ剤、抗老化剤、ひきしめ剤、冷感剤、温感剤、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤収れん剤などを適宜配合することができる。例えば、抗真菌剤としては、テルビナフィンもしくはナフチフィンのようなアリルアミン、ブテナフィンのようなベンジルアミンならびに/または、チオコナゾール、エコナゾール、オキシコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾールおよびクロトリマゾールのようなアゾールをベースとする抗真菌剤である。消炎剤・抗炎症剤としては、グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒノキチオール、グアイアズレン、アラントイン、インドメタシン、酸化亜鉛、酢酸ヒドロコーチゾン、プレドニゾン、塩酸ジフェドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン;桃葉エキス、蓬葉エキス等の植物エキスが好ましいものとして挙げられる。育毛用薬剤・血行促進剤・刺激剤としては、センブリエキス、トウガラシチンキ、ショウキョウチンキ、ショウキョウエキス、カンタリスチンキ等の植物エキス・チンキ類;カプサイシン、ノニル酸ワレニルアミド、ジンゲロン、イクタモール、タンニン酸、ボルネオール、シクランデレート、シンナリジン、トラゾリン、アセチルコリン、ベラパミル、セファランチン、γ−オリザノール、セファランチン、ビタミンE及びニコチン酸トコフェロール・酢酸トコフェロール等の誘導体、γ−オリザノール、ニコチン酸及びニコチン酸アミド・ニコチン酸ベンジルエステル・イノシトールヘキサニコチネート、ニコチンアルコール等の誘導体、アラントイン、感光素301、感光素401、塩化カプロニウム、ペンタデカン酸モノグリセリド、フラバノノール誘導体、スチグマステロール又はスチグマスタノール及びその配糖体、ミノキシジルが好ましいものとして挙げられる。ホルモン類としては、エストラジオール、エストロン、エチニルエストラジオール、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン等が好ましいものとして挙げられる。抗しわ剤、抗老化剤、ひきしめ剤、冷感剤、温感剤、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤等のその他の薬効剤としては、レチノール類、レチノイン酸類、レチノイン酸トコフェリル;乳酸、グリコール酸、グルコン酸、フルーツ酸、サリチル酸及びその配糖体・エステル化物等の誘導体、ヒドロキシカプリン酸、長鎖α−ヒドロキシ脂肪酸、長鎖α−ヒドロキシ脂肪酸コレステリル等のα−又はβ−ヒドロキシ酸類及びその誘導体類;γ−アミノ酪酸、γ−アミノ−β−ヒドロキシ酪酸;カルニチン;カルノシン;クレアチン;セラミド類、スフィンゴシン類;カフェイン、キサンチン等及びその誘導体;コエンザイムQ10、カロチン、リコピン、アスタキサンチン、ルテイン、α−リポ酸、白金ナノコロイド、フラーレン類等の抗酸化・活性酸素消去剤;カテキン類;ケルセチン等のフラボン類;イソフラボン類;没食子酸及びエステル糖誘導体;タンニン、セサミン、プロトアントシアニジン、クロロゲン酸、リンゴポリフェノール等のポリフェノール類;ルチン及び配糖体等の誘導体;ヘスペリジン及び配糖体等の誘導体;リグナン配糖体;グラブリジン、グラブレン、リクイリチン、イソリクイリチン等のカンゾウエキス関連物質;ラクトフェリン;ショウガオール、ジンゲロール;メントール、カンファー、セドロール等の香料物質及びその誘導体;カプサイシン、バニリン等及び誘導体;ジエチルトルアミド等の昆虫忌避剤;生理活性物質とシクロデキストリン類との複合体が好ましいものとして挙げられる。また、鎮痒剤としては、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、カンファー、サブスタンス−P阻害剤等を例示することができる。角質剥離・溶解剤としては、サリチル酸、イオウ、レゾルシン、硫化セレン、ピリドキシン等を例示することができる。制汗剤としては、クロルヒドロキシアルミニウム、塩化アルミニウム、酸化亜鉛、パラフェノールスルホン酸亜鉛等を例示することができる。清涼剤としては、メントール、サリチル酸メチル等を例示することができる。収れん剤としては、クエン酸、酒石酸、乳酸、硫酸アルミニウム・カリウム、タンニン酸等を例示することができる。酵素類としては、スーパーオキサイドディスムターゼ、カタラーゼ、塩化リゾチーム、リパーゼ、パパイン、パンクレアチン、プロテアーゼ等を例示することができる。核酸類としては、リボ核酸及びその塩、デオキシリボ核酸及びその塩、アデノシン三リン酸二ナトリウムが好ましいものとして挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明の工業用材料としては、接着剤、潤滑剤、はんだペースト、筆記具用インク追従体の基剤などに使用できる。その際、必要に応じて公知の各種添加剤、例えば固形潤滑剤、腐食防止剤、酸化防止剤、防錆剤、消泡剤、極圧剤、はんだ合金などを適宜添加することができる。例えば、固体潤滑剤としては、ポリイミド、PTFE、黒鉛 、金属酸化物、窒化硼素、メラミンシアヌレート(MCA)、二硫化モリブデン等が挙げられる。腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、チアゾール系などが、防錆剤としては、金属スルホネート系、コハク酸エステル系などが、消泡剤としては、例えばシリコーン系、フッ素化シリコーン系などが挙げられる。また、酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤を使用することができるが、これらの中でアミン系酸化防止剤が好適である。アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系化合物、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン、などのジアルキルジフェニルアミン系化合物、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系化合物、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系化合物が挙げられる。極圧剤としては亜鉛メチレンビスジエチルジチオカーバメート、亜鉛メチレンビスジブチルジチオカーバメート、亜鉛メチレンビスジアミルジチオカーバメート、亜鉛メチレンビスジアリールジチオカーバメートなどのチオカーバメート誘導体、並びにアリールホスフェート、アルキルホスフェート、アルキルアリールホスフェート、アラルキルホスフェート、アルケニルホスフェート等があり、例えば、トリフェニルホスフェート、アルキル化トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスホロチオエート等のリン酸エステル誘導体が挙げられる。はんだ合金としては、例えば錫−鉛系、錫−銀系、錫−銅系、錫−銀−銅系等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0027】
以下に合成例、実施例、試験例を示し、本発明を説明するが、その要旨を超えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。なお、以下において、部及び%は重量基準である。
【0028】
固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルの合成
【0029】
<合成例1>
ベヘン酸及びデカグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)の6:1(モル比)の混合物を調製した。この混合物に水酸化ナトリウムを0.1%(混合物に対する重量%)添加し、その後、240℃〜250℃に昇温してエステル化反応を行い、実施例で使用されるデカグリセリンヘキサベヘネートを調製した。なお、エステル化反応は、窒素気流下において撹拌しながら、酸価が1以下となるまで行った。また、前記モル比が6:1であるので、エステル化率は、約50%({6/(10+2)}×100%)となる。
【0030】
<合成例2>
ベヘン酸及びデカグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)の12:1(モル比)の混合物を調製した以外は、合成例1と同様にして、デカグリセリンドデカベヘネートを調製した。(エステル化率:約100%)
【0031】
<合成例3>
パルミチン酸及びデカグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)の12:1(モル比)の混合物を調製した以外は、合成例1と同様にして、デカグリセリンドデカパルミテートを調製した。(エステル化率:約83%)
【0032】
液状のポリグリセリン脂肪酸エステルの合成
【0033】
<合成例4>
オレイン酸及びデカグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)の10:1(モル比)の混合物を調製した以外は、合成例1と同様にして、デカグリセリンデカオレートを調製した。(エステル化率:約83%)
【0034】
<合成例5>
オレイン酸及びテトラグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)の1:1(モル比)の混合物を調製した以外は、合成例1と同様にして、テトラグリセリンモノオレートを調製した。(エステル化率:約17%)
【0035】
<合成例6>
オレイン酸及びデカグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)の12:1(モル比)の混合物を調製した以外は、合成例1と同様にして、デカグリセリンドデカオレートを調製した。(エステル化率:約100%)
【0036】
<実施例1>
合成例1で得られたデカグリセリンヘキサベヘネート30部と合成例4で得られたデカグリセリンデカオレート70部計り取り、80℃のウォーターバス中で均一に溶解させた後、室温まで冷却し、油脂組成物1を得た。
【0037】
<実施例2>
実施例1のデカグリセリンヘキサベヘネートの代わりに、合成例2で得られたデカグリセリンドデカベヘネート30部とデカグリセリンデカオレートの代わりに合成例5で得られたテトラグリセリンモノオレート70部計り取った以外は、実施例1と同様にして、油脂組成物2を得た。
【0038】
<実施例3>
実施例1のデカグリセリンヘキサベヘネートの代わりに、合成例3で得られたデカグリセリンドデカパルミテート20部とデカグリセリンデカオレートの代わりに、合成例6で得られたデカグリセリンドデカオレート80部計り取った以外は、実施例1と同様にして、油脂組成物4を得た。
【0039】
<実施例4>
実施例1のデカグリセリンヘキサベヘネート10部とデカグリセリンデカオレート90部計り取った以外は、実施例1と同様にして、油脂組成物5を得た。
【0040】
<実施例5>
実施例1のデカグリセリンヘキサベヘネート50部とデカグリセリンデカオレート50部計り取った以外は、実施例1と同様にして、油脂組成物5を得た。
【0041】
<比較例1>
実施例1のデカグリセリンヘキサベヘネートの代わりに、合成例2で得られたデカグリセリンドデカベヘネート60部とデカグリセリンデカオレートの代わりに、合成例6で得られたデカグリセリンドデカオレート40部計り取った以外は、実施例1と同様にして、油脂組成物6を得た。
【0042】
<比較例2>
実施例1のデカグリセリンヘキサベヘネートの代わりに、合成例2で得られたデカグリセリンドデカベヘネート30部とデカグリセリンデカオレートの代わりに、エステル油であるイソノナン酸イソトリデシル70部計り取った以外は、実施例1と同様にして、油脂組成物7を得た。
【0043】
<比較例3>
実施例1のデカグリセリンヘキサベヘネートの代わりに、カルナウバワックス30部とデカグリセリンデカオレートの代わりに、合成例6で得られたデカグリセリンドデカオレート70部計り取った以外は、実施例1と同様にして、油脂組成物8を得た。
【0044】
<比較例4>
実施例1のデカグリセリンヘキサベヘネートの代わりに、カルナウバワックス30部とデカグリセリンデカオレートの代わりに、エステル油であるイソノナン酸イソトリデシル70部計り取った以外は、実施例1と同様にして、油脂組成物9を得た。
【0045】
<比較例5>
実施例1のデカグリセリンヘキサベヘネートの代わりに、カルナウバワックス30部とデカグリセリンデカオレートの代わりに、鉱物油である流動パラフィン70部計り取った以外は、実施例1と同様にして、油脂組成物10を得た。
【0046】
<比較例6>
実施例1のデカグリセリンヘキサベヘネートの代わりに、ステアリン酸リチウム30部とデカグリセリンデカオレートの代わりに、鉱物油である流動パラフィン70部計り取った以外は、実施例1と同様にして、油脂組成物11を得た。
【0047】
実施例1〜5及び比較例1〜6で調製した油脂組成物1〜11の一覧を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1〜5及び比較例1〜6で調製した油脂組成物1〜11の物性及び高温安定性を以下の方法で評価した。
(1)油脂組成物の粘度
BH型粘度計(東機産業株式会社製、商品名「RB−80H」)を用いて、20℃及び50℃における粘度を測定した。
【0050】
(2)油脂組成物の硬度
圧縮試験機(カトーテック株式会社製、商品名「KES−5G」)を用いて、20℃及び50℃における硬度を測定した。
【0051】
(3)性状
油脂組成物30gを50mLスクリュー管に取り、油脂組成物の流動性の有無により性状を評価した。性状の評価基準として、「半」:傾けるだけでは流動性は生じないが、力を加えることで流動性を生ずる半固形状の油脂組成物、「液」:傾けることで、流動性が生じる液状の油脂組成物、「固」:力を加えても、流動性を生じない固体状の油脂組成物とし、記号を表に表示した。
【0052】
(4)高温安定性試験
油脂組成物1gをガラス製シャーレに取り、50℃の恒温室で24時間保管した後の状態と保管前の状態と比較し、評価した。高温安定性の評価基準として、○:保管後の外観に変化が見られない、△:わずかな油分のブリードが見られる、×:液状に変化するとし、記号を表に表示した。以下、結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示した結果から見ると、実施例1から5では高温でも半固形状を維持することが分かった。特に、実施例1は実施例2及び5と比較して、常温から高温まで物性変化が小さく、実施例3及び4と比較して高温安定性も良好であることが分かった。また、比較例1、2、4〜6は半固形状の油脂組成物が得られず、また比較例3は常温では半固形状の油脂組成物が得られるものの、高温では、粘度及び硬度が大きく低下し、液状となることを確認した。
【0055】
<試験例1>
本発明の医薬品組成物のひとつの典型的な具体例を示す。合成例1で得られたデカグリセリンヘキサベヘネート30部、合成例4で得られたデカグリセリンデカオレート70部、酸化亜鉛6部、酢酸ブレトニゾン0.04部、リドカイン2.4部、L−メントール0.3部、塩酸エフェドリン0.8部の混合物を調製し、80℃で溶解撹拌後、常温に冷却し、軟膏を得た。得られた軟膏は、伸び、硬さなど使用感が良好であり、50℃で24時間放置しても、油分の分離などは見られなかった。
【0056】
<試験例2>
本発明の化粧料組成物のひとつの典型的な例を示す。合成例1で得られたデカグリセリンヘキサベヘネート30部、合成例4で得られたデカグリセリンデカオレート70部計り取り、80℃で溶解、混合後、赤色202号1部、黄色4号アルミニウムレーキ2部、雲母チタン0.5部を加えて、ローラーミルにて分散処理を十分に行う。その後、スティック成型機を用いて、スティック状の口紅を得た。得られたスティック状の口紅は、伸び、成型品の外観光沢が良好であり、50℃で24時間放置しても、油分の分離などは見られなかった。
【0057】
<試験例3>
本発明の工業用材料のひとつの例を示す。合成例1で得られたデカグリセリンヘキサベヘネート30部、合成例4で得られたデカグリセリンデカオレート70部計り取り、80℃で溶解後、アルミニウム粉末を1部、酸化防止剤として4,4’−ジブチルジフェニルアミン1部それぞれ加え、混合し、室温まで冷却した。その後三本ロールで均質化し、潤滑剤を得た。得られた潤滑剤を、電装補機の一例であるオルタネータを模擬し、転がり軸受に上記潤滑剤を封入し、急加減速試験を行なったところ、急加減速試験は全て500時間以上(剥離発生寿命時間)の優れた結果を示した。また、50℃で24時間放置しても、油分の分離などは見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
実施例、試験例で具体的に述べたように、本発明により高温安定性に優れ、常温から高温まで物性変化の小さい半固形状の油脂組成物の製造が可能となるため、半固形状の医薬品、化粧料、工業用材料の高温安定性の改善に寄与するところが大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上のポリグリセリン脂肪酸エステルからなり、常温で固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルと常温で液状のポリグリセリン脂肪酸エステルを1:99〜50:50(重量比)混合することで得られる半固形状の油脂組成物。
【請求項2】
常温で固体状のポリグリセリン脂肪酸エステルが炭素数18〜22の脂肪酸を主構成脂肪酸とすることを特徴とした請求項1記載の半固形状の油脂組成物。
【請求項3】
常温で液状のポリグリセリン脂肪酸エステルが不飽和脂肪酸を主構成脂肪酸とすることを特徴とした請求項1又は2に記載の半固形状の油脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載の半固形状の油脂組成物を含有した化粧料、医薬品、工業用材料。

【公開番号】特開2010−77027(P2010−77027A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243446(P2008−243446)
【出願日】平成20年9月23日(2008.9.23)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】