半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法および該ふっ酸溶液の交換時期の管理方法

【課題】測定感度および測定精度が高く、効率の良い、半導体ウェハプロセス用希ふっ酸溶液の不純物分析方法を提供すること。
【解決手段】希ふっ酸溶液を浸漬槽から採取するA工程と、液中のSiの質量数28、Pの質量数31およびPO不純物の質量数47の質量スペクトル強度を計測するB工程と、採取した希ふっ酸溶液を乾燥濃縮して固形化するC−1工程、この固形物中のSi、P、PO元素の真空中でのエネルギー強度を測定するC−2工程と、前記固形物の真空中での質量スペクトル強度を計測するC−3工程、C−3工程で求めた目的の不純物の質量スペクトル強度とマトリックス質量のスペクトル強度とを合わせたスペクトル強度と目的の不純物の質量スペクトル強度との強度比を求め、この強度比によって前記B工程で求めた質量スペクトル強度を補正して、希ふっ酸溶液中のSi、P,POの真の不純物量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体のウェハプロセスで洗浄、前処理溶液として使用されるふっ酸溶液中の不純物の分析方法およびこの分析方法を利用した該溶液の交換時期の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置のウェハプロセスで、ウェハ(半導体基板)表面や製造設備に残存する各種の微小・微量な汚染物質あるいは自然酸化膜など、デバイスにとって好ましくない付着汚染物質は、ウェハ表面に被着される金属電極膜の成膜性、導電接続性に、だけでなく半導体特性、電気特性にも甚大な悪影響を及ぼすことがある。そのような悪影響を避けるために、ウェハプロセスにおけるディスクリートデバイスの半導体領域や金属電極膜の形成工程、ICデバイスの集積回路形成工程などの各形成工程では、事前に純水、酸、有機などの薬液及びそれらの混合溶液などを用いた洗浄によって、前述のような汚染物質を除去する前処理工程が欠かせない。
【0003】
特に、ふっ酸溶液を用いた前処理工程は、例えば、スパッタやイオン注入の際に必要な、ウェハの清浄な非酸化表面を露出させるために行われる。すなわち、ふっ酸溶液はウェハの最表面のSiの自然酸化膜、熱酸化膜などを、下記化1に示す化学反応により溶解除去するように作用する。また、この前処理工程で用いられるふっ酸溶液は、Si酸化膜を溶解して除去する際に、酸化膜に付着する液滴あるいは膜中に取り込まれている微粒子等の汚れをもリフトアップで一挙に取り除くように作用するので、スパッタ蒸着やイオン注入などのような微量な材料源を制御して目的とする処理を施すウェハプロセス工程では、特に必要不可欠な処理液と言える。
【0004】
【化1】

しかし、ふっ酸溶液を用いる前処理工程では、結果的に二次的に以下のような半導体装置の製造にとって好ましくない結果をもたらすことがある。例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などに用いられるMOS(Metal Oxide Semiconductor)構造を構成するゲート酸化膜の形成工程の前処理として、ふっ酸溶液を用いてシリコン面を露出させた後に、ウェハ表面に純水の水滴が残っていると、この水滴へ、シリコンの溶解や、水滴とシリコンとの境界に生じるSiOxの溶解などが生じることがあってゲート酸化膜の膜質を劣化させる。その理由は、このようなシリコンやSiOxが溶解した水滴が蒸発すると、シリコン水和物として、シリコンウェハ表面にクレータ状に残留する。これをウォーターマークと言い、このウォーターマークを残したままゲート酸化膜付け工程を進めると、形成されたゲート酸化膜などに欠陥を誘発しデバイスの特性を劣化させる惧れが高いからである。
【0005】
ウォーターマークは、具体的には、所要の溶液を満たした浸漬槽にシリコンウェハを浸漬する作業を含む工程あるいは純水のような液体を回転する半導体ウェハに滴下してウェハ表面をスピン洗浄する工程などのウエット処理を経たシリコンウェハ表面で、しばしば発生することが知られている。前述の浸漬槽に満たされる液体としては、酸類、純水、過酸化水素水、アルカリ溶液、有機液体などがあるが、特に濃度20%以下の希ふっ酸溶液を用いた浸漬処理でウォーターマークの発生事例が多いことが知られている。
【0006】
また、ウォーターマークは、シリコンウェハ表面に溶液の接触、乾燥、蒸発などの過程における不均一さによってウェハ表面に液滴が生成される際に、この液滴がウェハ表面の自然酸化膜を溶解し、さらにこの液滴が蒸発する時に自然酸化膜のSiOx成分を凝集させることによって発生すると言うこともできる。さらに、前述の液滴に、最初から蒸発時に固形物や残渣となり易いSi酸化物、有機物、金属微粒子などが不純物として混合していると、その濃度の上昇とともに、その不純物が核となってウェハ表面にSiOxを残し易くするので、ウォーターマークの生成が促進・顕在化されることも知られている。
【0007】
ところで、洗浄などの前処理技術には、浸漬槽に洗浄液を満たしてウェハを複数枚一度にバッチ処理するディップ洗浄法や、ウェハを一枚毎スピンさせその上に薬液を滴下して処理するスピン洗浄法や、薬液の蒸気で処理する気相洗浄法などがある。薬液消費、時間効率面からはディップ洗浄法によるバッチ処理が優れている。
【0008】
特に希ふっ酸処理をバッチで行う場合、例えは浸漬槽を20%以下の希ふっ酸溶液で満たして、20枚から100枚のSiウェハを浸すことで一度に多量のウェハを処理できて効率が良い。しかしながら、前記希ふっ酸溶液で満たされた浸漬槽では、前述の化1ではなく、下記の化2に示す化学反応式によりSiとOの組成を有する(SiO2・H2O)などのコロイダル状のシリコン水和物が生成される。このシリコン水和物は浸漬を繰り返すうちに液中に蓄積していくことが問題となる。
【0009】
【化2】

一方、MOS型半導体装置を製造するウェハプロセスでは、希ふっ酸溶液中に、デバイス設計とは逆極性のチャネルに反転させる惧れのある不純物元素を含んでいるシリコンウェハを浸漬させる場合、たとえその不純物元素が微量であっても、MOS型半導体装置のスレッショルド電圧特性を著しく悪化させることがあるので好ましくない。そのようなシリコンウェハとしては、例えば、pチャネルMOS型半導体装置における、n型Siウェハ、イオン注入や拡散により形成されたn型半導体領域を表面に有するシリコンウェハ、あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition)装置などの成膜装置で、P(リン)、Asの生成物を含む膜が全面および局所的に形成されたシリコンウェハが挙げられる。このようなシリコンウェハを希ふっ酸溶液槽に浸漬させると、P(リン)、Asなどのn型不純物は容易に希ふっ酸溶液に混入する。
【0010】
これに加えて、希ふっ酸溶液中に前述のシリコン水和物の蓄積濃度が高くなった場合、希ふっ酸溶液から引き上げ洗浄したシリコンウェハ表面から、水滴が蒸発し前述のウォーターマークが形成される過程で、シリコン水和物とともに、前述のn型不純物もより強固かつ確実にウェハ表面への付着と濃縮が進み固形物として残る。このように、ウェハ表面にデバイス特性を悪化させる惧れのある汚染物質が次第に高濃度に凝縮付着するようになっていくことが半導体デバイスの製造にとって大きな問題となる。この問題を回避するには、希ふっ酸溶液の液交換頻度を高めて、SiOxおよびドナー不純物の液中濃度を下げることが考えられる。しかし、製造ラインのディップ浸漬槽には通常例えば100リットルと多量の薬液が満たされるので、これを頻繁に交換するのは、経済効率から望ましくない。
【0011】
このような点を回避して、ウォーターマーク及び前述のチャネル反転に至らしめるような不純物元素を含む汚染が発生しない前処理であってしかも経済効率も良好にするには、希ふっ酸溶液中の物性や組成を精度よく分析して、溶液に含まれる不純物をきめ細かく管理することが重要になる。特に、液中のSiOx成分及びドナー不純物の濃度を正確に把握することは必要不可欠である。
【0012】
また、また近年の多品種製造においては複数の製品を平行して流すことにより、生産効率を高める生産方式が行われている。この場合、シリコンウェハの処理枚数及び所定処理時間などが複雑になるため、それらに基づいて正確な液交換時期を決めることが著しく困難になる。この場合の液交換の管理には、溶液中の不純物濃度のよりいっそうきめ細かい把握が鍵となる。
【0013】
シリコンのウェハプロセスで使用されるふっ酸溶液中の不純物の分析法に関して、次のような趣旨の記述のある文献が公開されている。シリコンウェハのLSI製造プロセスで生じるシリコンウェハ表面の汚染を取り除くために、ふっ酸溶液およびその他の溶液を用いる方法は一般的に知られている。しかし、ふっ酸溶液にはリンが当初から不純物として微量含まれていることがあるが、リンはシリコンウェハから製造されるLSIのドーパントでもあるので、ウェハプロセスでは不純物リンが極力少ないふっ酸溶液を使用しなければならない。また、半導体の製造装置や治具に含まれるリンも少なくするように管理しなければならない。リンの分析にはふっ酸溶液が用いられるので、このふっ酸溶液中の不純物リンの量を正確に把握して区別しておかないと正確なリンの分析ができない。例えば、ふっ酸溶液に含まれるリンの含有量を0.1μg/リットル以下にする必要がある。そのためには、ふっ酸溶液に含まれる微量のリンの定量が必要である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−89841号公報(段落0003〜0011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来、前述のようなふっ酸溶液中の不純物の分析方法としては、加熱残渣重量測定法や特許文献1の記載にもあるICP(誘導結合プラズマ発光スペクトル)分析法及びICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析法)などの分析法が知られている。
【0016】
しかしながら、加熱残渣重量測定法においては、測定用の固形試料の作成のために必要とする濃縮に多量の溶液を要する。たとえば100mlを乾燥しても、その残分がμgオーダーとかなり悪い。また、前述の溶液のようにふっ酸を含んでいる場合、大量に発生する蒸気は安全に悪影響を及ぼすだけでなく、排気設備を大型にする必要があり効率面からも好ましくない。さらに、漏れたガスが大気中の水分・光・塩基成分と反応するとともに、金属等と化学反応して金属を腐食させ腐食複合物を生成する。この腐食複合物が高い清浄度を要求する半導体製造工程中に発生すると汚染となり、半導体の歩留まり悪化、電気特性の劣化を引き起こすことがあるので、半導体の製造プロセスで用いる分析法としては好ましくない。
【0017】
ICP分析は、分析に必要な溶液の採取量がmlオーダーと少なくてよく、また取り扱いも前述の加熱残渣重量測定法に比べて簡便である。その理由は溶液をArガスで噴霧化しそれを温度6000Kのプラズマ中に導入することで、電子を励起・結合する時の光エネルギーを観測する分析法によるからである。しかしながら、半導体のウェハプロセスにおけるふっ酸溶液の液管理のための分析法に求められる検出感度は少なくともppmオーダーが必要であり、ppbレベルの感度があることが望ましい。さらにICP分析の噴霧化工程及び、液通過工程でガラス(SiO2)を使用しているので、そこにふっ酸溶液を接触させることは、ガラスを溶解・飛散させることなり好ましくない。ウォーターマークの主成分はSi酸化物であることから、溶解したガラス中のSi成分がマトリックスとなって、液中シリコン不純物の計測に際し甚大な悪影響を及ぼすので、目的のシリコン不純物の計測分をマトリックスとしてのSi成分から区別することが重要である。
【0018】
ICP−MS分析では、ICPの測定に、分光よるスペクトル面積処理ではなく、指定の質量に対応したイオンを計数するためノイズ対信号比率が良く、検出下限はppm以下のレベルである。またパーフルオロカーボン製ネブライザを使用するので、Si酸化物汚染の問題も存在しない。このため、前述のICP分析法に比べて、液の交換時期の管理のための分析法としては最適である。しかしながら、このICP−MS分析には、分子マトリックスの問題がある。たとえば質量数31のP(リン)の場合、質量数の近いCF、質量数47のPOでは、SiFおよびTiの影響を受ける。すなわち、質量数31のPでは、質量数の近いCFスペクトル強度値を、質量数47のPOでは、SiFおよびTiなどのスペクトル強度値を、それぞれ区別、分離して計測ができないため、そのままでは検出下限、定量性が著しく悪化することが問題となる。前述のPに対するCF、POに対するSiF、Tiなどを、ここでは分子マトリックス(略して単にマトリックス)と言う。
【0019】
本発明は、以上説明した従来の分析法における問題点を解消するためになされたものである。すなわち本発明は、測定感度、精度が高く、半導体製造に支障がない半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法の提供、およびこの不純物分析方法を用いてふっ酸溶液の交換時期が適正に決定でき、ウォーターマークの形成を抑制し半導体装置の特性を向上させることができる半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法およびふっ酸溶液の交換時期の管理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記発明の目的を達成するために、ふっ酸溶液の浸漬槽から該溶液の一部を採取するA工程と、該溶液中のSi不純物の質量数28、P不純物の質量数31およびPO不純物の質量数47のいずれかの質量スペクトル強度を計測するB工程と、採取した前記ふっ酸溶液の一部をシリコン半導体基板上に滴下し乾燥濃縮して前記Si、P、POのいずれかの不純物を含む固形物を得るC−1工程と、真空中で該固形物の質量スペクトル強度を計測するC−2工程と、真空中で前記固形物の元素エネルギーを計測し前記固形物中のSi、O、P元素のいずれかのエネルギースペクトルを特定するC−3工程とを行い、該C−3工程で求めた前記Si、P、O元素のいずれかのエネルギースペクトル強度と前記C−2工程における質量数28、31、47のいずれかの近傍の質量スペクトルを特定し、このいずれかの質量スペクトル強度とこの質量スペクトルの近傍にそれぞれ存在するマトリックス質量のスペクトル強度とを合わせたスペクトル強度と前記いずれかのSi、P、POの質量のスペクトル強度との強度比をそれぞれ求め、該強度比をB工程で求めたSi、P、POのいずれかの質量スペクトルの強度に掛けることにより、ふっ酸溶液中のいずれかのSi、P、POの真のスペクトル強度を決定し、Si、P、POのいずれかの既知のppm不純物量を含有する標準試薬を用いて調べた該標準溶液の質量スペクトル強度とppm濃度との関係を示す検量線により、前記ふっ酸溶液中のいずれかのSi、P、POのppm濃度を定量する半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法とする。
【0021】
前記ふっ酸溶液が濃度20%以下の希ふっ酸溶液であることが望ましい。前記B工程の定量分析方法が大気圧イオン化質量分析法であることも好ましい。前記C−1工程で得られる固形物が、シリコン半導体基板の加熱により乾燥凝縮され形成される方法とすることができる。前記シリコン半導体基板の加熱が、80℃〜2000℃のホットプレート上で行われることが好ましい。前記シリコン半導体基板上にふっ酸溶液の一部を滴下する前に、該シリコン半導体基板表面の酸化膜の除去が行われることもより望ましい。また、前記C−1工程がISOクラス0からクラス4の範囲のクリーンルーム、クリーンブース、ドラフトのいずれかで行われることが好適である。また、前記ふっ酸溶液およびふっ酸溶液の固形物のSi、P、POのいずれかの成分量を求める分析法が28、31、47の質量数を用いて計測が行われることがより好ましい。前記ふっ酸溶液の固形物中のSi、P、POのいずれかの成分量を求める工程が、真空中でイオン化する質量分析法により行われること好ましい。前記ふっ酸溶液の加熱後に濃縮される不純物の固形物中のSi、P、O元素のいずれかを特定するために分析する工程が、真空中で電子ビームまたはX線を照射するエンルギー分光分析法により行われることがよい。
【0022】
前記本発明の目的を達成するために、半導体ウェハプロセスで繰り返し使用されるふっ酸溶液に蓄積されるSi、P、POのいずれかの不純物濃度を請求項1乃至10のいずれか一項に記載のふっ酸溶液の不純物分析方法で定量し、所定の不純物量を超えた場合にふっ酸溶液を交換する半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の管理方法とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、測定感度および測定精度が高く、効率の良い、半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法を提供すること、およびこの不純物分析方法を用いてふっ酸溶液の交換時期を適正に決定して、半導体装置の特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】半導体製造工程で、本発明にかかるふっ酸溶液およびウォーターマーク中のP(リン)、Si不純物を定量、定性分析するためのフローチャート図である。
【図2】本発明にかかる分析法を示すフローチャートに用いる治具および分析装置名を示す説明図である。
【図3】本発明にかかるふっ酸溶液のICP−MSスペクトル図とスペクトル強度とppm濃度の関係を示す検量線から溶液中のSi、P、POのいずれかの不純物濃度を定量分析をすることを示す図である。
【図4】本発明にかかるふっ酸溶液から採取した液滴の乾燥固形物のTOF−SIMSスペクトル図と、同図の質量28、31,47の各拡大詳細質量スペクトル図である。
【図5】本発明にかかるふっ酸溶液から採取した液滴の乾燥固形物のEDX(エネルギー分散X線分光)分析スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明にかかる半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
(実施の形態)
図1、2は本発明の実施形態に関わる不純物分析方法および管理方法にかかるプロセスフローおよび該フローで使われる治具および分析装置名を示した図である。本発明にかかる不純物分析方法は、A工程にかかるふっ酸溶液の採取工程と、B工程にかかるふっ酸溶液中の不純物量の定量分析およびこの定量分析から目的不純物に対するマトリックス成分を除いて真の定量分析結果を算出するために、C工程にかかるTOF−SIMS分析とSEM/EDX分析の結果を利用するD工程からなる。このC工程は前記B工程における分析が大気圧中での質量分析に対し、真空中での質量分析である。C工程はふっ酸溶液を乾燥凝固させるC−1工程と、真空中イオン化質量分析(TOF−SIMS)装置を用いて前述の乾燥凝固させた不純物の質量分析による定量分析であるC−2工程と、走査顕微鏡/エネルギー分散X線分光分析(SEM/EDX)装置を用いて前述の乾燥凝固させた不純物元素の組成を特定するC−3工程からなる。前述のD工程で求められた真の不純物定量分析結果から、適切なふっ酸溶液交換時期を決めて半導体製造工程にフィードバックする方法が本発明にかかる半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の管理方法である。
【0026】
また、本発明では、前述の不純物分析方法としてはA工程、B工程、D工程は毎回実施し、その分析結果を基に半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の管理を行うことになる。C工程については、本発明にとって必須の工程ではあるが、毎回必ずしも実施する必要はなく、例えば、ふっ酸溶液の交換前後、または所定のバッチ処理回数毎にと言うように、一定間隔をおいて実施することもできる。
【実施例1】
【0027】
図1は本発明の全体のプロセスフローを示す図であり、図2は本発明の半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法にかかる実施例1について使用する治具、分析装置名を入れて、模式的に示した工程フロー図である。
【0028】
A工程として半導体製造ラインのウェハプロセスに使用されている希ふっ酸溶液3が満たされた浸漬槽1から500ml柄杓2を用いて、希ふっ酸溶液3の200mlをすくい上げ、蓋付容器4に移し希ふっ酸溶液試料液を採取する。希ふっ酸溶液試料液の採取量は1ml〜1000ml程度から選ぶことができる。
【0029】
また、前記浸漬槽1からふっ酸溶液を採取する治具としては、前述の柄杓2以外に、希ふっ酸に耐性を持つポリプロン製、フルオロカーボン製、ポリエステル製およびそれらの変性体の柄杓、取っ手付きビーカー、カップ及び蓋つき容器を用いることができる。あるいは、前記柄杓に代えて、同材質のポンプ、シリンジおよびチューブによる吸引による採取としてもよい。また採取は手動、自動のどちらでも行える。
【0030】
次いでB工程として、前記採取試料液をICP−MS装置5(誘導結合プラズマ質量分析装置)に導入して、Si、P(リン)およびPOの質量数に相当する28、31および47のいずれかの質量スペクトルを計測する(図3のICP−MS質量スペクトル図)。ただし、この段階では、質量28、31、47の計測スペクトルのすべてがSi、P、POのスペクトルに対応するかどうかは不明である。従って、この段階ではB工程のICP−MS分析によるスペクトル強度から直ちに、前記不純物を特定し、その不純物量を定量することはできない。なお、前述のICP−MS分析の代わりに、LC−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析)、IC−MS(イオンクロマトグラフィー‐質量分析)などの分析法を用いることもできる。
【0031】
C工程は、C−1工程、C−2工程、C−3工程からなる。まず、C−1工程として、クリーンルーム6中で、6インチ径シリコンウェハから15mm角に切断した矩形状のシリコンウェハ7を用意する。シリコンウェハ7に、ELグレードの濃度50%ふっ酸を比抵抗10MΩ以上の超純水で20%以下の濃度に希釈した希ふっ酸溶液3を用いて、シリコンウェハ7表面のシリコン酸化膜および汚れを除去する。シリコンウェハは少なくとも片面がポリッシュされミラー面が好ましい。全円のシリコンウェハから矩形状のシリコンウェハ7に切り出す。切り出す大きさに特に制限はない。この矩形状シリコンウェハ7を表面処理、たとえばアルコールで油分を除く。乾燥後、ふっ酸溶液3中に浸漬させて、シリコンウェハ7表面の自然酸化膜及びコンタミネーションを除去し、清浄なシリコン表面を露出する。次いで、ホットプレート8を150℃(80℃〜200℃の温度範囲から選択)に加熱しシリコンウェハ7をホットプレート8上に載置する。ホットプレート8に代えて、IR(赤外)加熱炉あるいはバーナーなどの加熱装置を用いることができる。その状態で3分経過させ十分に熱が通ったシリコンウェハ7表面に、マイクロピペット9にて5μl(滴下量は0.1〜1000μlから選択できる)を採取した希ふっ酸溶液3を滴下乾燥し、Si、P(リン)、POなどの不純物を濃縮した残存物を固形化させる。
【0032】
前記マイクロピペット9に代えてスポイト、ピペット、マイクロピペット、シリンジなどを用いることもできる。また、使用され滴下治具9の材質は、治具から不純物が溶け出すおそれの小さいポリプロン製、フルオロカーボン製、ポリエステル製およびそれらの変性体が好適である。ふっ酸溶液3中の不純物を濃縮する作業は、HEPA及びULPAフィルターで微粒子がろ過された空気が供給される作業ゾーン内で行うことが望ましい。例えば、そのような作業ゾーンはクリーンルームおよびクリーンブース、クリーンドラフトなどにより得られる。これらの作業ゾーンは、クリーン度がISOクラス0からクラス4の範囲内であれば、その構造・規模に特に制限はない。
【0033】
C−2工程では、シリコンウェハ表面で濃縮し凝固した固形物10をそのまま、TOF−SIMS(飛行時間二次イオン質量分析)装置11へ導入し質量数28、質量数31、および質量数47のいずれかのイオン数を真空中で計測しスペクトル強度を測定する。
【0034】
C−3工程では、続いて、固形物10をそのまま、SEM/EDX分析(走査電子顕微鏡−エネルギー分散X線分光分析)装置12へ導入して、真空中でSi、PおよびO元素のいずれかのエネルギー分散X線スペクトル強度を計測し不純物元素を特定する。このSEM/EDX分析による元素分析結果(図5)により、Si、PおよびO元素のいずれかのスペクトル強度を特定し、この元素分析結果に対応する前述のC−2工程のTOF−SIMS質量スペクトルを照合して、特定されたSi、P、POのそれぞれの質量スペクトル強度とこの質量スペクトル強度の近傍における他の物質(マトリックス)のスペクトル強度とを合わせたスペクトル強度と目的のSi、P、POのスペクトル強度の比率をそれぞれ求める。
【0035】
前述のC−2工程で用いられる分析法として、前記TOF−SIMSの他に、D−SIMS、TOF−MS、MALDI−MSを利用することができる。装置の構成、性能に特に制限はない。D−SIMSはダイナミック二次イオン質量分析、TOF−MSは飛行時間型質量分析、MALDI−MSはマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法である。
【0036】
前述のC−3工程で用いられる元素分析のための分析法として、前記SEM/EDXの他に、SEM−WDX(走査電子顕微鏡−波長分散X線分光分析)、SAM(操作型オージェ分光分析)、XPS(X線光電子分光分析)などの分析法を用いることができる。
【0037】
前述のC−2工程の質量分析で求められた質量スペクトルに対して、C−3工程で求めた元素分析結果を照合させて、目的の不純物Si、P、POのスペクトルを特定し特定されたSi、P、POのいずれかのスペクトル強度と、マトリックス質量のスペクトル強度とを合わせたスペクトル強度と目的の不純物Si、P、POのスペクトル強度との強度比の求め方を具体的に説明する。
例えば、図4の質量スペクトル(a)および各スペクトル近傍の拡大図(b)、(c)、(d)に示すように、質量31のPにたいしては、Pの正確な質量30.97近傍の質量スペクトルとして、質量31.00のCFと質量31.02のCH3Oが存在する。このように分析対象であるPに干渉する成分であるCFとCH3Oをまとめてマトリックス質量とする。マトリックス質量のスペクトル強度(CFのスペクトル強度7.3×103、CH3Oのスペクトル強度0.9×103)とPのスペクトル強度1.7×103を合わせたものとPのスペクトル強度1.7×103との比を求めると、Pのスペクトル強度比は0.18となる(図4(c))。
【0038】
PO、Siについても同様にして強度比を求めると、それぞれ0.5175(図4(d))、1.0(図4(b))となる。この強度比は、前記B工程で計測した質量28、31、47のスペクトル強度について、Siについては100%Siの強度であり、P、PO(マトリックス質量としてSiF46.98、CFO46.99との強度比)についてはそれぞれ18%、51%が真のPとPOのスペクトル強度分であることを表している。
【0039】
D工程として、B工程で計測したICP−MSによる質量28、31、47のスペクトル強度に前述の100%、18%、51%を掛けることにより、B工程で求めたICP−MSスペクトル強度からマトリックス成分を除いた真のSi、P、POのスペクトル強度が求められる。
【0040】
一方、Si、P、PO標準液を超純水で希釈し、希釈濃度を0ppb、0.1ppb、1ppb、10ppb、100ppb、1000ppbとした液を作成し、ppb濃度とICP−MS質量スペクトル強度との関係を示す検量線(図3の検量線図)を作成するまたは予め前記B工程でICP−MS分析を実施する際に、この検量線を作成しておくことも好ましい。前述の真のSi、P、POのスペクトル強度を検量線に当てはめると、ppb濃度(またはppm濃度)が求められる。
【0041】
比較例として、本発明の分析方法を用いない場合(加熱残渣重量測定法、ICP分析法)の分析を同様のクリーンルーム、半導体製造工程から採取したふっ酸溶液で行った。
従来の分析方法(加熱残渣重量測定法、ICP分析法)と本発明方法の差異を表1に示す。表1に示すように本発明では、検出下限が0.01ppmと最も小さく、検出精度(分析精度)が最も高い。不純物の定量分析でも、本発明では特に不純物P、POについてPが0.82ppb、POが10.73ppbが検出されており、高い検出限界を有することが分かる。さらにコンタミネーション、効率(溶液採取量)についても従来技術にはない優れた点を備えることが確認される。
【0042】
【表1】

以上説明した実施例1に記載の本発明の半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法によれば、高感度な定量分析結果が得られるので、少量のふっ酸溶液採取量で、効率良く不純物量を定量することができる。
【0043】
また、ふっ酸溶液の採取試料液をシリコンウェハ表面で濃縮することで、真空中での質量計測およびエネルギー計測ができるので、高精度な定性分析結果と正確な液中不純物成分量を定量することができる。
【0044】
さらに、加熱濃縮工程の作業をSiO2、P(リン)汚染のないクリーンな容器の使用および環境で行うことで、ノイズの少ない分析ができる。
本発明にかかる高感度な定量分析結果を利用して、半導体製造工程におけるふっ酸溶液中の不純物の管理にフィードバックすることにより、適切な基準でふっ酸溶液の交換時期を管理することが可能になる。
【実施例2】
【0045】
実施例1で説明した分析方法を用いて、ウェハプロセスの前処理における希ふっ酸溶液中の不純物濃度のモニターおよび希ふっ酸溶液の交換管理を実施し、ウォーターマーク数およびゲート酸化膜の欠陥数を調べた。
【0046】
比較例として、実施例1で説明した本発明にかかる不純物分析方法を用いない分析法による場合の不純物濃度のモニターおよび希ふっ酸溶液の交換管理を、同様のクリーンルーム、ウェハプロセスで行って、同様にウォーターマーク数およびゲート特性からゲート酸化膜の欠陥数を調べた。
【0047】
表2にウォーターマーク数及び欠陥数を示す。本発明による希ふっ酸溶液の不純物分析工程を経たウェハのウォーターマークは、サイズ100μm以上で0個にできたのに対して、本工程を経ないウェハでは、120個のウォーターマークが生成していた。本発明の分析方法を持たない工程に比較して、明確にウォーターマークの生成を抑制できることが判る。同じく欠陥数においても、本発明の分析方法を経ない工程に対して、ゲート酸化膜の欠陥数は98%低下して特性が向上することが判明した。
【0048】
【表2】

以上説明した実施例2によれば、半導体製造のためのウェハプロセスに悪影響を及ぼす恐れのあるふっ酸溶液を用いた前処理工程で発生するP(リン)不純物を含むウォーターマークの生成を簡便かつ確実に、抑制するように、ふっ酸溶液の交換時期管理を正確に行うことができる。また、本発明の半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法により、適正な時期に液交換をすることにより、経済的に半導体装置の特性を大幅に向上することができ、製品の歩留まりおよび信頼性が効率的に向上する。
【符号の説明】
【0049】
1 浸漬槽
2 柄杓
3 ふっ酸溶液
4 蓋付き容器
5 ICP−MS装置
6 クリーンルーム
7 シリコンウェハ、シリコン半導体基板
8 加熱装置、ホットプレート
9 滴下治具
10 固形物
11 TOF−SIMS分析装置
12 SEM/EDX分析装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ふっ酸溶液の浸漬槽から該溶液の一部を採取するA工程と、該溶液中のSi不純物の質量数28、P不純物の質量数31およびPO不純物の質量数47のいずれかの質量スペクトル強度を計測するB工程と、採取した前記ふっ酸溶液の一部をシリコン半導体基板上に滴下し乾燥濃縮して前記Si、P、POのいずれかの不純物を含む固形物を得るC−1工程と、真空中で該固形物の質量スペクトル強度を計測するC−2工程と、真空中で前記固形物の元素エネルギーを計測し前記固形物中のSi、O、P元素のいずれかのエネルギースペクトルを特定するC−3工程とを行い、該C−3工程で求めた前記Si、P、O元素のいずれかのエネルギースペクトル強度と前記C−2工程における質量数28、31、47のいずれかの近傍の質量スペクトルを照合してSi、PおよびPOのいずれかのスペクトル強度を特定し、このいずれかの質量スペクトル強度とこの質量スペクトルの近傍にそれぞれ存在するマトリックス質量のスペクトル強度とを合わせたスペクトル強度と前記いずれかのSi、P、POの質量のスペクトル強度との強度比をそれぞれ求め、該強度比をB工程で求めたSi、P、POのいずれかの質量スペクトルの強度に掛けることにより、ふっ酸溶液中のいずれかのSi、P、POの真のスペクトル強度を決定し、Si、P、POのいずれかの既知のppm不純物量を含有する標準試薬を用いて調べた該標準溶液の質量スペクトル強度とppm濃度との関係を示す検量線により、前記ふっ酸溶液中のいずれかのSi、P、POのppm濃度を定量することを特徴とする半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法。
【請求項2】
ふっ酸溶液が濃度20%以下の希ふっ酸溶液であることを特徴とする請求項1記載の半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法。
【請求項3】
前記B工程の定量分析方法が大気圧イオン化質量分析法であることを特徴とする請求項1記載の半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法。
【請求項4】
前記C−1工程で得られる固形物が、シリコン半導体基板の加熱により乾燥凝縮され形成されることを特徴とする請求項1記載の半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法。
【請求項5】
前記シリコン半導体基板の加熱が、80℃〜200℃のホットプレート上で行われることを特徴とする請求項4記載の半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法。
【請求項6】
前記シリコン半導体基板上にふっ酸溶液の一部を滴下する前に、該シリコン半導体基板表面の酸化膜の除去が行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法。
【請求項7】
前記C−1工程がISOクラス0からクラス4の範囲のクリーンルーム、クリーンブース、ドラフトのいずれかで行われることを特徴する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法。
【請求項8】
前記ふっ酸溶液中およびふっ酸溶液の固形物中のSi、P、POのいずれかの成分量を求める分析法が28、31、47の質量数を用いて計測が行われることを特徴とする請求項1記載の半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法。
【請求項9】
前記ふっ酸溶液の固形物中のSi、P、POいずれかの成分量を求める工程が、真空中でイオン化する質量分析法により行われることを特徴とする半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法。
【請求項10】
前記ふっ酸溶液の加熱後に濃縮される不純物の固形物中のSi、P、O元素のいずれかを特定するために分析する工程が、真空中で電子ビームまたはX線を照射するエネルギー分光分析法により行われることを特徴とする半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の不純物分析方法。
【請求項11】
半導体ウェハプロセスで繰り返し使用されるふっ酸溶液に蓄積されるSi、P、POのいずれかの不純物濃度を請求項1乃至10のいずれか一項に記載のふっ酸溶液の不純物分析方法で定量し、所定の不純物濃度を超えた場合にふっ酸溶液を交換することを特徴とする半導体ウェハプロセス用ふっ酸溶液の交換時期の管理方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−108759(P2013−108759A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251683(P2011−251683)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】