説明

半導体ウェーハの保持治具

【課題】例え半導体ウェーハが直径450mm以上のサイズの場合でも保持フレームから保持層が剥がれるのを防ぎ、保持フレームの大型化や重量増大、周辺装置の重厚長大化を抑制できる半導体ウェーハの保持治具を提供する。
【解決手段】φ450mmの半導体ウェーハWを包囲する保持フレーム1の中空部2を自己粘着性の保持層10により被覆し、保持層10の表面に半導体ウェーハWを着脱自在に粘着保持させる保持治具で、保持フレーム1の裏面周方向に被嵌入溝11を凹み形成し、被嵌入溝11に弾性の線条体20を着脱自在に密嵌し、被嵌入溝11と線条体20とに、保持層10の周縁部を挟持させる。被嵌入溝11と線条体20に保持層10の周縁部を挟持させるので、例え保持フレーム1裏面の貼着領域4の面積が不十分でも、保持層10の剥がれ落ちることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直径450mm以上の重い半導体ウェーハを保持する半導体ウェーハの保持治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハは周知のように、5〜8インチ、φ300mm等のサイズに分類されるが、この半導体ウェーハをダイシング工程で半導体チップに個片化する場合には、図示しない平面リング形の保持フレームに、半導体ウェーハが粘着したダイシングテープを貼着して保持フレームの中空部に半導体ウェーハを位置させ、この半導体ウェーハの表面XY方向に高速回転するブレードで複数の溝を形成し、この複数の溝を利用して個々の半導体チップに分離するようにしている(特許文献1、2、3参照)。
【0003】
保持フレームは、ステンレスや樹脂を使用して形成されるが、ステンレスを用いる場合には、1.2mmあるいは1.5mmの厚さのステンレス板により平板に加工され、裏面の内周縁部付近にダイシングテープ用の貼着領域が区画形成されており、この貼着領域にダイシングテープの周縁部が貼着される。
【0004】
ところで近年、半導体ウェーハは、チップサイズの大型化や生産性を向上させる観点から、φ300mmや450mmの大口径のサイズが開発されているが、この大口径化に伴い重量が増大するので、半導体加工装置等からなる周辺装置の重厚長大化が生じて来ている。
【0005】
今後、φ450mmの大口径の半導体ウェーハが主流になると予測され、注目されているが、この大口径の半導体ウェーハをダイシングするに当たり、保持フレームの重量はステンレス製の場合には概ね850g程度、樹脂製の場合には約400g程度になると想定されている。但し、保持フレームの貼着領域の面積によっては、保持フレームの大型化を図る必要があるので、さらなる重量増大が懸念される。
【0006】
一方、半導体ウェーハの重量は、表1に示すように、6インチサイズの場合には25g、8インチサイズの場合には53g、そしてφ300mmサイズの場合には128gであるが、φ450mmサイズの場合には343gにも及び、φ300mmサイズのときの2.5倍以上になる。
【0007】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009‐123942号公報
【特許文献2】特開2009‐130315号公報
【特許文献3】特開2008‐270530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体ウェーハは、以上のように大口径化が進められているが、この大口径化に伴い重量が増大すると、ダイシングテープの確実な貼着の観点から、保持フレームの貼着領域の面積が不十分になるおそれがある。また、半導体ウェーハがφ450mmサイズの場合、その保持フレームのサイズは装置のフットプリント(設置面積)に対する影響が大きく、しかも、半導体ウェーハが6インチや8インチサイズの場合に比べ、ダイシングテープの単位貼着面積で約2倍の半導体ウェーハの重量を保持しなければならないこととなる。
【0010】
このようにダイシングテープにφ450mmの重い半導体ウェーハを粘着すると、半導体ウェーハの保管・移動の環境や条件により、保持フレームからダイシングテープが剥がれ落ち、半導体ウェーハの欠けや割れを招くおそれがある。係る問題を解消する手段としては、保持フレームの貼着領域を拡大する方法が考えられるが、そうすると、保持フレームが大型化して重量が増加し、周辺装置が重厚長大化してしまうという問題が新たに生じる。
【0011】
本発明は上記に鑑みなされたもので、例え半導体ウェーハが直径450mm以上のサイズの場合でも保持フレームから保持層が剥がれるのを防ぎ、しかも、保持フレームの大型化や重量増大、周辺装置の重厚長大化を抑制することのできる半導体ウェーハの保持治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては上記課題を解決するため、保持フレームの中空部を保持層により被覆し、この保持層に直径が450mm以上の半導体ウェーハを着脱自在に保持させるものであって、
保持フレームの裏面に被嵌入溝を形成し、この被嵌入溝に嵌入体を嵌め入れ、これら被嵌入溝と嵌入体とに、保持層の周縁部を挟み持たせるようにしたことを特徴としている。
【0013】
なお、嵌入体を細長い線条体としてその少なくとも周面には弾性を付与することができる。
また、保持治具に半導体ウェーハを保持する場合には、半導体ウェーハを表面下向きに配置し、半導体ウェーハを隙間を介して包囲するよう保持フレームを表面下向きに配置し、半導体ウェーハの裏面に保持層を貼り付け、保持フレームの裏面の貼着領域と被嵌入溝とに保持層を嵌入体を介して貼り付けるとともに、保持フレームの貼着領域あるいは被嵌入溝から食み出た保持層の余剰部を除去すれば良い。
【0014】
ここで、特許請求の範囲における保持フレームは、平面視でリング形や枠形等とすることができる。この保持フレームの裏面には、保持層を貼り着けるための貼着領域を形成することができる。半導体ウェーハは、直径が450mm以上のサイズであれば良く、直径600mmのサイズ等でも良い。さらに、嵌入体は、細長い中空あるいは中実の線条体の他、保持層に積層する板体等でも良い。線条体は、エンドレスでも良いし、そうでなくても良く、又自己粘着性を有していても良い。
【0015】
本発明によれば、保持フレームの被嵌入溝と嵌入体とに保持層の周縁部を支持させるので、例え保持フレームの保持層を貼るための貼着領域の面積が不十分でも、保持層が剥がれ落ち難い。また、貼着領域の面積を拡大するため、保持フレームの大型化を敢えて図る必要がない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例え半導体ウェーハが直径450mm以上のサイズの場合でも、保持フレームから保持層が剥がれ、半導体ウェーハが損傷するのを防ぐことができるという効果がある。また、保持フレームの大型化や重量増大、周辺装置の重厚長大化を有効に抑制することができる。
【0017】
また、嵌入体を細長い線条体としてその少なくとも周面に弾性を付与すれば、保持層に線条体が隙間なく密着するので、保持フレームに保持層を強固に支持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る半導体ウェーハの保持治具の実施形態を模式的に示す斜視説明図である。
【図2】本発明に係る半導体ウェーハの保持治具の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図3】本発明に係る半導体ウェーハの保持治具の実施形態における線条体を模式的に示す平面説明図である。
【図4】本発明に係る半導体ウェーハの保持治具の実施形態における両端部が接合した他の線条体を模式的に示す平面説明図である。
【図5】本発明に係る半導体ウェーハの保持治具の実施形態における線条体の断面形状を模式的に示す断面説明図である。
【図6】本発明に係る半導体ウェーハの保持治具の実施形態における線条体の他の断面形状を模式的に示す断面説明図である。
【図7】本発明に係る半導体ウェーハの保持治具の実施形態における線条体の他の断面形状を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における半導体ウェーハの保持治具は、図1ないし図7に示すように、φ450mmの重い半導体ウェーハWを包囲する保持フレーム1の中空部2を自己粘着性の保持層10により被覆し、この保持層10に半導体ウェーハWを保持させる治具で、保持フレーム1の裏面にエンドレスの被嵌入溝11を凹み形成し、この被嵌入溝11に嵌入体である変形可能な弾性の線条体20を密嵌し、これら被嵌入溝11と線条体20とに、保持層10を挟持させるようにしている。
【0020】
保持フレーム1は、図1や図2に示すように、所定の材料を使用して基本的には半導体ウェーハWよりも拡径の平面略リング形の平板に形成され、前後左右の外周縁部がそれぞれ直線的に切り欠かれるとともに、前部両側には平面視で略三角形の位置決め部3がそれぞれ切り欠かれており、裏面の内周縁部付近には、保持層10と粘着する貼着領域4が平面略リング形に形成される。
【0021】
保持フレーム1は、各種の金属材料や樹脂を含む成形材料で形成されるが、金属材料で形成される場合には、ステンレスや表面にメッキが施されて錆の発生を防止可能な材料で形成されることが好ましい。これに対し、保持フレーム1が樹脂を含む成形材料で形成される場合には、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリカーボネート等を含有する成形材料で成形されると良い。この成形材料には、剛性を高めるガラス繊維等の充填材が選択的に添加される。
【0022】
保持フレーム1の内周面5は、垂直に起立した立面でも良いが、ダイシング工程で使用される半導体ウェーハW用の洗浄水を中空部2から外部に案内して保持フレーム1から保持層10が剥離するのを防止するため、傾斜面に形成されることが好ましい(図2参照)。
【0023】
保持層10は、所定の材料を使用して基本的には屈曲可能な平面円形の膜に形成され、保持フレーム1の貼着領域4に線条体20を介し粘着されて保持フレーム1の丸い中空部2を下方から被覆しており、表面に半導体ウェーハWを着脱自在に保持するよう機能する。この保持層10は、特に限定されるものではないが、例えば微弱の自己粘着性を有するシリコーン系やフッ素系のゴム、ポリオレフィン系やポリエステル系、ウレタン系のエラストマーフィルム、ポリエステル製のフィルムに再剥離可能なアクリル系やシリコーン系の粘着層が積層された積層フィルムの加工により形成される。
【0024】
被嵌入溝11は、保持フレーム1の貼着領域4の周方向に平面リング形に凹み形成され、断面矩形に区画される。この被嵌入溝11は、貼着領域4の内周側でも良いが、保持フレーム1の貼着領域4に保持層10を十分に粘着させる観点から、図2に示すように貼着領域4の外周側に形成されることが好ましい。
【0025】
線条体20は、図2等に示すように、所定の材料を使用して屈曲可能な細長い紐条に成形され、少なくとも周面には弾性が付与されており、保持フレーム1の被嵌入溝11内に着脱自在に圧接密嵌されることにより、被嵌入溝11との間に保持層10の周縁部を挟持するよう機能する。この線条体20の所定の材料としては、特に限定されるものではないが、例えばゴム製のチューブや棒等があげられる。また、剛性を有する針金等の芯材の周面に各種のエラストマー(例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等)を覆着して形成することもできる。
【0026】
線条体20は、図3や図4に示すように、保持フレーム1の被嵌入溝11内に圧接変形して密嵌される際、必要に応じて平面略C字形に湾曲されたり、両端部の接合により平面リング形とされる。また、図5、図6、図7に示すように、必要に応じ、断面が円形、矩形、平板形等に適宜形成される。
【0027】
上記において、保持治具を使用して半導体ウェーハWを保持する場合には、先ず、図示しないウェーハマウンタの吸着テーブルに半導体ウェーハWを表面下向きに配置し、吸着テーブルに、半導体ウェーハWを隙間を介して包囲するよう保持フレーム1を表面下向きに配置する。
【0028】
こうして吸着テーブルに半導体ウェーハWと保持フレーム1とをそれぞれ配置したら、大きくカットしておいた保持層10を用意し、半導体ウェーハWの裏面に保持層10の表面を粘着し、その後、保持フレーム1の貼着領域4と被嵌入溝11とに保持層10を線条体20を介して粘着するとともに、保持フレーム1の貼着領域4あるいは被嵌入溝11から食み出た保持層10の余剰部を除去すれば、保持治具に半導体ウェーハWを確実に保持することができる。
【0029】
保持層10の粘着に際しては、保持フレーム1の貼着領域4に保持層10の周縁部を粘着しながらその周端を被嵌入溝11に屈曲嵌入し、この被嵌入溝11に線条体20を保持層10の周縁部周端を介し変形させつつ圧入すれば良い。
【0030】
次いで、半導体ウェーハWをダイシング工程で半導体チップに個片化する場合には、図示しないチャックテーブル上に保持治具を搬送してセットし、半導体ウェーハWに洗浄水を供給するとともに、この半導体ウェーハWの表面XY方向に高速回転するブレードで複数の溝を形成し、この複数の溝を利用して個々の半導体チップに分離すれば良い。この際、保持層10の周縁部は、保持フレーム1の貼着領域4に粘着し、しかも、被嵌入溝11と線条体20との間に介在されるので、保持フレーム1からの剥離や脱落が有効に抑制される。
【0031】
上記構成によれば、保持フレーム1の貼着領域4に保持層10の周縁部を粘着し、かつ被嵌入溝11と線条体20とに保持層10の周縁部を断面U字形に屈曲して挟持させるので、φ450mmの重い半導体ウェーハWを保管、搬送、輸送する際、例え保持フレーム1の貼着領域4の面積が不十分でも保持層10の剥がれ落ちることがない。したがって、保持層10の剥離に伴う半導体ウェーハWの欠けや割れを防止することができる。
【0032】
また、保持フレーム1の大型化を図る必要がないので、保持フレーム1の寸法や重量の増大を防ぎ、周辺装置の重厚長大化を抑制することができる。さらに、線条体20の少なくとも周面に弾性を付与し、保持層10の周縁部に線条体20を隙間なく変形密着させるので、保持フレーム1に保持層10を強固に支持させることが可能になる。
【0033】
なお、上記実施形態では保持フレーム1の貼着領域4あるいは被嵌入溝11から食み出た保持層10の余剰部を除去して平面円形の保持層10を形成したが、保持フレーム1の貼着領域4に予め平面円形にカットしておいた保持層10の周縁部を粘着しても良い。また、上記実施形態では保持フレーム1の被嵌入溝11に線条体20を単に密嵌したが、建築技術を応用し、保持フレーム1の被嵌入溝11を断面略蟻溝形に形成し、この被嵌入溝11に断面略蟻かけ形の線条体20を密嵌して抜けにくくしても良い。
【0034】
また、被嵌入溝11と線条体20とをそれぞれ略台形に形成して抜けにくくしても良い。また、保持層10や線条体20は、透明、不透明、半透明のいずれでも良い。また、被嵌入溝11の内面を粗して抜けにくくすることもできる。また、線条体20は複数に分割することもできる。さらに、嵌入体を保持層10と略同径の円板に形成してその片面や周縁部に凸部を形成し、この凸部を被嵌入溝11に嵌入して嵌入体を保持層10の裏面に重ねることもできる。
【符号の説明】
【0035】
1 保持フレーム
2 中空部
4 貼着領域
10 保持層
11 被嵌入溝
20 線条体(嵌入体)
W 半導体ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持フレームの中空部を保持層により被覆し、この保持層に直径が450mm以上の半導体ウェーハを着脱自在に保持させる半導体ウェーハの保持治具であって、
保持フレームの裏面に被嵌入溝を形成し、この被嵌入溝に嵌入体を嵌め入れ、これら被嵌入溝と嵌入体とに、保持層の周縁部を挟み持たせるようにしたことを特徴とする半導体ウェーハの保持治具。
【請求項2】
嵌入体を細長い線条体としてその少なくとも周面には弾性を付与した請求項1記載の半導体ウェーハの保持治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−71432(P2011−71432A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223049(P2009−223049)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】