説明

半導体ウェーハの洗浄方法

【課題】シリコーンゴム製の粘着シートから取り外した半導体ウェーハに移行物が移行して汚染が生じ、後の工程に不具合が生じるのを有効に防ぐことのできる半導体ウェーハの洗浄方法を提供する。
【解決手段】シリコーンゴム製の粘着シートの平坦な表面に半導体ウェーハWを着脱自在に粘着保持させ、この半導体ウェーハWに所定の処理を施した後、粘着シートから半導体ウェーハWを剥離してその少なくとも粘着シートに粘着していた裏面をプラズマ洗浄装置10でプラズマ洗浄する。例え粘着シートから半導体ウェーハWにシリコーンゴムのシロキサンが移行して付着しても、シロキサンを酸素プラズマで分解洗浄するので、半導体ウェーハWの汚染により、後の製造工程に支障を来たすおそれを排除できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム製の粘着シートに粘着保持される半導体ウェーハの洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハWは、前工程の終了後、後工程で裏面のバックグラインドにより薄化が図られるが、強度や剛性が低く、撓みやすい特質を有するので、各種の加工や処理、搬送の際に破損するおそれがある。そこで、従来においては、図3に示すように、固定治具に半導体ウェーハWを保持させてその強度や剛性を確保するようにしている(特許文献1、2参照)。
【0003】
固定治具としては、同図に示すように、可撓性を有するシリコーンゴム製の粘着シート1が使用され、この粘着シート1の微粘着性を有する表面2に半導体ウェーハWが着脱自在に粘着保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009‐194183号公報
【特許文献2】特開2001‐60559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来における固定治具は、以上のようにシリコーンゴム製の粘着シート1が使用されるので、優れた耐熱性や難燃性等が得られるものの、粘着シート1から半導体ウェーハWを取り外す際、半導体ウェーハWにシリコーンゴムの移行物、具体的には重合時の副生成物である低分子のシロキサンが移行し、その結果、半導体ウェーハWが汚染して後の製造工程に支障を来たすおそれがある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、シリコーンゴム製の粘着シートから取り外した半導体ウェーハに移行物が移行して汚染が生じ、後の工程に不具合が生じるのを有効に防ぐことのできる半導体ウェーハの洗浄方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、シリコーンゴム製の粘着シートに着脱自在に粘着保持させた半導体ウェーハの洗浄方法であって、
粘着シートから半導体ウェーハを取り外してその少なくとも被粘着保持部をプラズマ洗浄することを特徴としている。
【0008】
なお、半導体ウェーハの少なくとも被粘着保持部を酸素プラズマで洗浄することが好ましい。
また、酸素プラズマ洗浄を、出力600W、処理時間5分以下、酸素濃度18%の条件下で実施した場合に、半導体ウェーハの被粘着保持部の水接触角が34.5°以下であることが好ましい。
【0009】
ここで、特許請求の範囲における粘着シートは、必要に応じ、平面円形、楕円形、矩形、多角形等に適宜形成することができる。また、半導体ウェーハには、少なくともφ100mm、150mm、200mm、300mm、450mmの半導体ウェーハが含まれる。この半導体ウェーハの被粘着保持部には、粘着シートに触れていた半導体ウェーハの表面あるいは裏面が該当する。
【0010】
本発明によれば、シリコーンゴム製の粘着シートから半導体ウェーハを分離すると、分離した半導体ウェーハの被粘着保持部にシリコーンゴムの移行物が付着していることがあるので、半導体ウェーハの少なくとも被粘着保持部をプラズマ洗浄する。このプラズマ洗浄により、移行物が分解するので、半導体ウェーハを清浄化することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリコーンゴム製の粘着シートから取り外した半導体ウェーハに移行物が移行して汚染が生じ、後の工程に不具合が生じるのを有効に抑制防止することができるという効果がある。
また、半導体ウェーハの少なくとも被粘着保持部を酸素プラズマで洗浄すれば、真空引きする真空プラズマ洗浄に比べ、迅速にプラズマ洗浄することができ、設備やコスト等の削減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る半導体ウェーハの洗浄方法の実施形態における粘着シートと半導体ウェーハとの関係を模式的に示す斜視説明図である。
【図2】本発明に係る半導体ウェーハの洗浄方法の実施形態における半導体ウェーハとプラズマ洗浄装置とを模式的に示す斜視説明図である。
【図3】従来の固定治具と半導体ウェーハとの粘着状態を模式的に示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における半導体ウェーハの洗浄方法は、図1や図2に示すように、薄い粘着シート1に半導体ウェーハWを粘着保持させ、この半導体ウェーハWに所定の処理を施した後、粘着シート1から半導体ウェーハWを分離してその少なくとも被粘着保持面である裏面をプラズマ洗浄装置10で洗浄するようにしている。
【0014】
粘着シート1は、図1に示すように、耐熱性、耐候性、難燃性等を有する単層のシリコーンゴムを使用して半導体ウェーハWよりも大きな可撓性の平面円形に形成され、表面2が平坦に形成されて微粘着性が付与されており、この表面2に半導体ウェーハWの裏面が着脱自在に粘着保持される。
【0015】
半導体ウェーハWは、φ200mmや300mmのシリコンウェーハからなり、前工程の終了後、薄い半導体パッケージに適合させる観点から裏面のバックグラインドにより薄化され、その後、ハンダペーストが塗布されたり、あるいはフラックスの印刷後に複数のハンダボールが実装される。薄化された半導体ウェーハWは、100μm以下の厚さ、例えば75μmや50μm程度の厚さとされる。
【0016】
プラズマ洗浄装置10は、図2に示すように、チャンバーにセットされた半導体ウェーハWの粘着シート1に粘着していた裏面をプラズマ洗浄するよう機能する。具体的には、半導体ウェーハWの裏面に付着した低分子のシロキサンを酸素プラズマ(大気圧プラズマとも、常圧プラズマともいう)で分解洗浄するよう機能する。このプラズマ洗浄に際しては、アルゴンガスを使用しても良いし、不使用でも良い。
【0017】
上記において、粘着シート1に半導体ウェーハWを粘着保持させたい場合には、半導体ウェーハWの裏面に粘着シート1の表面2を周縁部から徐々に隙間なく粘着すれば、粘着シート1に半導体ウェーハWを保持させてその強度や剛性を確保することができる。このような半導体ウェーハWに所定の処理を施し、半導体ウェーハWを外したい場合には、半導体ウェーハWを破損しないよう粘着シート1を周縁部から徐々に引き剥がして剥離すれば良い。
【0018】
この際、完全に剥離した半導体ウェーハWの裏面にシリコーンゴムのシロキサンが付着していることがあり、このままでは後の工程(例えば、ハンダペーストの塗布、フラックスの印刷、テープの貼着等)に支障を来たすことがある。そこで、後の製造工程に供する前に半導体ウェーハWを図2に示すプラズマ洗浄装置10のチャンバーにセットし、半導体ウェーハWの裏面を酸素プラズマで洗浄する。こうすれば、プラズマ洗浄によりシロキサンが分解するので、半導体ウェーハWの裏面を清浄化して後の製造工程に供することができる。
【0019】
半導体ウェーハWの裏面の清浄度については、水接触角に換算して測定評価することができる。例えば、半導体ウェーハWの裏面における初期の水接触角が34°以下であるのを測定し、その後、プラズマ洗浄装置10の出力600W、処理時間5分以下、酸素濃度18%の条件下で半導体ウェーハWの裏面を酸素プラズマ洗浄したとき、後の製造工程の円滑化を図るため、裏面の水接触角が34.5°以下であることが好ましい。
【0020】
上記によれば、例え粘着シート1から半導体ウェーハWにシロキサンが移行して付着しても、付着したシロキサンを酸素プラズマで分解して洗浄するので、半導体ウェーハWの汚染により後の製造工程に支障を来たすおそれを有効に排除することができる。また、酸素プラズマで洗浄するので、真空引きする真空プラズマ洗浄に比べ、迅速にプラズマ洗浄することができ、設備やコストを大いに削減することができる。
【0021】
また、半導体ウェーハWの裏面を洗浄液で洗浄するのではないので、洗浄液による汚染やウォーターマークを確実に回避することができる。さらに、洗浄液の排水設備や乾燥工程を省略して洗浄工程を単純化することも可能となる。
【0022】
なお、上記実施形態では半導体ウェーハWの裏面を被粘着保持面としたが、何らこれに限定されるものではない。例えば、半導体ウェーハWの表面を被粘着保持面としても良い。また、粘着シート1の表裏両面に微粘着性をそれぞれ付与しても良い。
【0023】
以下、本発明に係る半導体ウェーハの洗浄方法の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
粘着シートと半導体ウェーハの裏面とを粘着後に剥離してその裏面をプラズマ洗浄装置で洗浄し、洗浄後の半導体ウェーハの裏面における清浄度を水接触角により評価することとした。
【0024】
先ず、半導体ウェーハとしてφ200mmのシリコンウェーハを用意し、この半導体ウェーハの被粘着保持面である裏面にシリコーンゴム(信越化学工業社製のシリコーンゴムコンパウンドKE951を使用)製の粘着シートをローラを用いて粘着し、これら粘着した半導体ウェーハと粘着シートとを熱風オーブンにセットして260℃、5分間の条件で加熱した。半導体ウェーハの裏面における初期の水接触角は、周知の方法(例えば、接触角度計の使用等)で測定したところ、33.8°であるのを確認した。
【0025】
熱風オーブンにセットして加熱したら、粘着した半導体ウェーハと粘着シートとを取り出して30分間室温放置し、半導体ウェーハの裏面から粘着シートを剥離し、半導体ウェーハをプラズマ洗浄装置にセットして酸素プラズマ洗浄した。プラズマ洗浄装置は、容積が320lのチャンバーを備え、このチャンバーに上下三段の複数の棚板が並設されており、中段の棚板に半導体ウェーハを水平にセットしてその裏面を上方に向けた。また、酸素プラズマ洗浄は、出力600W、処理時間1分、酸素濃度18%、アルゴン濃度23%の条件下で実施した。
【0026】
酸素プラズマ洗浄の終了後、プラズマ洗浄装置から半導体ウェーハを取り出してその裏面の水接触角を周知の方法で測定した。すると、水接触角は33.9°であり、経時変化が少なく、半導体ウェーハの裏面が清浄であるのを確認した。
【0027】
〔実施例2〕
基本的には実施例1と同様だが、酸素プラズマ洗浄は、処理時間を3分に変更して実施した。酸素プラズマ洗浄の終了後、プラズマ洗浄装置から半導体ウェーハを取り出してその裏面の水接触角を測定したところ、34.5°であり、経時変化が少なく、半導体ウェーハの裏面が清浄であるのを確認した。
【0028】
〔実施例3〕
基本的には実施例1と同様だが、酸素プラズマ洗浄は、処理時間を5分に変更して実施した。酸素プラズマ洗浄の終了後、プラズマ洗浄装置から半導体ウェーハを取り出してその裏面の水接触角を測定したところ、32.5°であり、経時変化が少なく、半導体ウェーハの裏面が清浄であるのを確認した。
【0029】
〔実施例4〕
基本的には実施例1と同様だが、酸素プラズマ洗浄は、出力600W、処理時間3分、酸素濃度18%、アルゴン濃度0%の条件下で実施した。酸素プラズマ洗浄の終了後、プラズマ洗浄装置から半導体ウェーハを取り出してその裏面の水接触角を測定したところ、31.0°であり、経時変化が少なく、半導体ウェーハの裏面が清浄であるのを確認した。
【0030】
〔比較例〕
先ず、半導体ウェーハとしてφ200mmのシリコンウェーハを用意し、この半導体ウェーハの被粘着保持面である裏面にシリコーンゴム(信越化学工業社製のシリコーンゴムコンパウンドKE951を使用)製の粘着シートをローラを用いて粘着し、これら粘着した半導体ウェーハと粘着シートとを熱風オーブンにセットして260℃、5分間の条件で加熱した。半導体ウェーハの裏面における初期の水接触角は、実施例同様、33.8°であるのを確認した。
【0031】
こうして熱風オーブンにセットして加熱したら、粘着した半導体ウェーハと粘着シートとを取り出して30分間室温放置し、半導体ウェーハの裏面から粘着シートを剥離し、半導体ウェーハをプラズマ洗浄装置にセットすることなく、裏面の水接触角を測定した。半導体ウェーハの裏面の水接触角は、113.9°であり、半導体ウェーハの裏面が清浄でないことが判明した。
【符号の説明】
【0032】
1 粘着シート
2 表面
10 プラズマ洗浄装置
W 半導体ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴム製の粘着シートに着脱自在に粘着保持させた半導体ウェーハの洗浄方法であって、
粘着シートから半導体ウェーハを取り外してその少なくとも被粘着保持部をプラズマ洗浄することを特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項2】
半導体ウェーハの少なくとも被粘着保持部を酸素プラズマで洗浄する請求項1記載の半導体ウェーハの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−216542(P2011−216542A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80834(P2010−80834)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】